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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】棘突起縦割ガイド装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/15 20060101AFI20240723BHJP
【FI】
A61B17/15
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020184289
(22)【出願日】2020-11-04
(65)【公開番号】P2022074336
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 護
(72)【発明者】
【氏名】宮腰 尚久
(72)【発明者】
【氏名】神谷 修
【審査官】宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/170021(WO,A1)
【文献】特開2003-24337(JP,A)
【文献】特表2018-532498(JP,A)
【文献】国際公開第2018/144611(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/15
A61B 17/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的な角度を変化できる2つのハンドルと、
前記ハンドルの回動により縦割すべき棘突起を挟むように配置可能なピンと、
前記ハンドルの前記回動の大きさに基づいて傾倒するスリットを備えるガイド部材と、を有し、
前記ピンが前記棘突起を挟む姿勢において、前記スリットの貫通方向が前記棘突起の突出方向となる、
棘突起縦割ガイド装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、脊椎等の棘突起を縦割するためのガイド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
腰部脊柱管狭窄症に対する除圧術をはじめとする多くの脊椎脊髄手術で脊椎にアプローチする場合、通常は棘突起から筋肉を剥がさなければならない。しかし、一度骨から剥がされた筋肉は変性・萎縮してしまうため、できるだけ筋肉を骨から剥がさない術式が望まれる。そのため、棘突起をマイクロサジタルソー(骨切りに用いる専用の薄刃の鋸)などで縦割(背骨から突出した棘突起をその突出方向に切断して2つに分割)し、筋肉を棘突起から剥がさずに棘突起を筋肉ごと左右に分けて深部に到達する術式がある。例えば、非特許文献1及び非特許文献2は、腰部脊柱管狭窄症に対する棘突起縦割による椎弓切除術について開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Watanabe K, Hosoya T, Shiraishi T, Matsumoto M, Chiba K, Toyama Y. Lumbar spinous process-splitting laminectomy for lumbar canal stenosis. Technical note. J Neurosurg Spine 3(5):405-8, 2005.
【文献】Kanbara S, Yukawa Y, Ito K, Machino M, Kato F. Surgical outcomes of modified lumbar spinous process-splitting laminectomy for lumbar spinal stenosis. J Neurosurg Spine 22(4):353-7, 2015.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、棘突起を縦割することについてみると、棘突起の形態や矢状面からの傾きは個人差が大きいため、マイクロサジタルソーの先端を棘突起の中央に導くことができず、思うように縦割できないことがある。また、棘突起の縦割は術者の経験や主観で行われるため、すべての術者が同一の縦割を行えるわけではない。
高齢化の進行とともに腰部脊柱管狭窄症の患者は増加し、現在、わが国で最も多く行われている脊椎脊髄手術は本症に対する手術である。手術成績を安定させるためにも、棘突起の縦割を患者の骨形態や術者の経験に依存することなく正確に行うことが望ましい。
【0005】
本開示は、かかる点に鑑み、棘突起の縦割をより簡易に行うことを可能とする棘突起縦割ガイド装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の1つの態様は、相対的な角度を変化できる2つのハンドルと、ハンドルの回動により縦割すべき棘突起を挟むように配置可能なピンと、ハンドルの回動の大きさに基づいて傾倒するスリットを備えるガイド部材と、を有し、ピンが棘突起を挟む姿勢において、スリットの貫通方向が棘突起の突出方向となる、棘突起縦割ガイド装置である。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、棘突起縦割ガイドによりマイクロサジタルソーが縦割に適切な位置及び向きとなるようにガイドされ、棘突起の縦割を従来に比べて正確で容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は棘突起から筋肉を剥がす場合を説明する図である。
図2図2は棘突起の縦割の場合を説明する図である。
図3図3は傾斜した棘突起が不適切に縦割された場合を説明する図である。
図4図4は棘突起縦割ガイド装置10の斜視図である。
図5図5は棘突起縦割ガイド装置10の平面図である。
図6図6は棘突起縦割ガイド装置10の断面(一部)である。
図7図7は基板11を説明する図である。
図8図8はガイド部材20を説明する図である。
図9図9はハンドル25を説明する図である。
図10図10は連結部材35を説明する図である。
図11図11は棘突起縦割ガイド装置10の斜視図である。
図12図12は棘突起縦割ガイド装置10の断面(一部)である。
図13図13は棘突起縦割ガイド装置10の斜視図である。
図14図14は棘突起縦割ガイド装置10の断面(一部)である。
図15図15は棘突起縦割ガイド装置10による棘突起縦割を説明する図である。
図16図16は棘突起縦割ガイド装置10による棘突起縦割を説明する図である。
図17図17は棘突起縦割ガイド装置10による棘突起縦割を説明する図である。
図18図18は棘突起モデル50の形状を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.棘突起縦割について
棘突起縦割ガイド装置について説明する前に、棘突起縦割について説明する。図1図2に説明のための断面図を示した。図1図2の上側に示した図は施術前の状態、図1図2の下側に示した図は施術中の状態をそれぞれ表す。図1図2において、符号Aは背骨の一部である椎弓(以下、「背骨A」と記載する。)、符号Bは棘突起(以下、「棘突起B」と記載する。)、符号Cは筋肉(以下、「筋肉C」と記載する。)、符号Dは皮膚(以下、「皮膚D」と記載する。)を表している。
【0010】
腰部脊柱管狭窄症に対する除圧術をはじめとする多くの脊椎脊髄手術で背骨Aを削る等する時、棘突起Bが存在する側から施術される。このとき、1つの方法として図1の下側の図からわかるように、皮膚Dを切開して棘突起Bから筋肉Cを剥がして進行することが行われてきた。ところが一度棘突起から剥がされた筋肉は変性や萎縮してしまうため、できるだけ筋肉を棘突起から剥がさないことが望まれる。
【0011】
これに対して、棘突起Bから筋肉Cを剥がさないで背骨Aを削る方法として、棘突起Bを縦割する方法がある。これは図2の上側の図に点線で示したように棘突起Bをその突出する方向に沿って切断(縦割)し、筋肉Cを棘突起Bから剥がすことなく、切断した棘突起Bの間から背骨Aに対して施術をするものである。これによれば筋肉を棘突起から剥がさないので上記の問題の発生を抑制することができる。
【0012】
一方、棘突起Bはその形態や矢状面からの傾きは個人差が大きい。そのため、棘突起Bが傾斜していると、図3に示したように、マイクロサジタルソーの先端を棘突起の中央に導くことができず、棘突起Bの中央で適切に切断されないことがある。
【0013】
そして本開示は、棘突起が傾斜していない場合だけでなく、棘突起が傾斜している場合であっても、これを縦割することを容易とするガイド装置である。
【0014】
2.棘突起縦割ガイド装置
2.1.棘突起縦割ガイド装置の構造
図4から図6には棘突起縦割ガイド装置10(以下「ガイド装置10」と記載することがある。)を説明する図を示した。図4から図6はある1つの姿勢におけるガイド装置10を説明する図で、図4が斜視図、図5が平面図、及び、図6はI-I矢視断面図である。ただし、これらの図及び以降に示す図では見易さのため一部の部材を省略したり、一部を変形して表したりすることがある。
【0015】
図4から図6よりわかるように、本形態のガイド装置10は、基板11、ガイド部材20、ハンドル25、ピン30、及び、連結部材35を有して構成されている。
【0016】
[基板]
基板11はガイド装置10の基部となる板状の部材である。図7には基板11の形状を表した。図7の上側の図は図5と同じ視点の図(平面図)、図7の下側の図はI-I矢視断面図である。
本形態で基板11は、本体12、ガイド部材配置用長穴13、ハンドル保持部14、及び溝15を有している。
【0017】
本体12は板状の部材であり、後述するように本体12を筋肉Cに押し付けてハンドル25を操作して施術を進める。本形態で本体12の平面視形状は円形であるが特に限定されることはなく、他の形態であってもよい。ただし、人に対する施術という観点から角が無い形状であることが好ましい。また、本体12の厚さも特に限定されることはなく、必要な強度と操作性の観点で適宜設定することができる。
【0018】
ガイド部材配置用長穴13は、後述するガイド部材20が配置されるための長穴(スリット)であり、本体12の厚さ方向に貫通している。ガイド部材配置用長穴13の大きさはガイド部材20の大きさ及び形状により適宜設定することができる。またガイド部材配置用長穴13の位置も特に限定されることはないが、操作性の観点から平面視で中央に設けられていることが好ましい。
【0019】
ハンドル保持部14は、後で説明するハンドル25を回動可能(回転運動することが可能)に保持する部位であり、本形態ではガイド部材配置用長穴13の長手方向(後述するガイド部材20のガイドスリット20aが延びる方向)の両端のそれぞれに立設された板状の部材である。本形態で2つのハンドル保持部14はガイド部材配置用長穴13を挟んでその板面が向かい合うように本体12から立つよう(立設するよう)に配置されている。
ここでハンドル保持部14には、立設方向に長い長穴14aを有している。後述するようにこの長穴14aの中にハンドル25の軸28が配置される。
【0020】
溝15は、後述するようにハンドル25や連結部材35が本体12に近づいて配置される姿勢となったときに、これらハンドル25や連結部材35の一部が配置される溝である。
本形態で溝15はガイド部材配置用長穴13とハンドル保持部14との間に設けられ、ガイド部材配置用長穴13の長手方向(後述するガイド部材20のガイドスリット20aが延びる方向)に対して直交する方向に延びている。
溝15の形態は特に限定されることはなく、適宜設けることができる。また、本形態では溝15はハンドル25の回動範囲を広げるために設けられており、必要な可動範囲が確保される場合には設ける必要はない。
【0021】
[ガイド部材]
ガイド部材20は、棘突起Bを縦割するためのマイクロサジタルソーをガイドする部材である。図8にはガイド部材20の形状を表した。図8の上側の図は図5と同じ視点の図(平面図)、図8の下側の図はI-I矢視断面図である。
本形態でガイド部材20は、第一ガイド片21、第二ガイド片22、及びガイド部材保持部23を有している。
【0022】
第一ガイド片21及び第二ガイド片22は板状の部材であり、板面が面一となり並ぶように(板の1つの端面が対向するように)所定の間隙を有して配置されている。この第一ガイド片21と第二ガイド片22と間の間隙がガイドスリット20aとなり、ここにマイクロサジタルソーを通すことで棘突起Bが縦割される。
第一ガイド片21、第二ガイド片22、及び、ガイドスリット20aの大きさは、棘突起Bを縦割するためにマイクロサジタルソーを適切にガイドすることができれば特に限定されることはない。従って、ガイドスリット20aの幅(図8のW)はマイクロサジタルソーの厚さより若干厚い程度であることが好ましい。
【0023】
ガイド部材保持部23は、後述する連結部材35を介して基板11にガイド部材20を回動可能に保持する部位であり、本形態でガイド部材保持部23は第一ガイド片21、第二ガイド片22、及び、ガイドスリット20aが延びる方向の両端のそれぞれに立設された板状の部材である。本形態で2つのガイド部材保持部23は、第一ガイド片21、第二ガイド片22、及び、ガイドスリット20aを挟んでその板面が向かい合うように第一ガイド片21、第二ガイド片22の両端のそれぞれに立設されている。
ここでガイド部材保持部23は、立設方向に長い長穴23aを有している。後述するようにこの長穴23aの中に連結部材35の軸38が配置される。
【0024】
[ハンドル]
ハンドル25は、施術者が操作する部材であり、本形態では2つのハンドル25が備えられている。図9にハンドル25の斜視図を表した。
ハンドル25は図4から図6及び図9からわかるように棒状の操作部26を有し、操作部26の両端のそれぞれから操作部26が延びる方向に直交する方向に延びるアーム27が配置されている。
2つのアーム27は同じ方向に延びるように設けられており、操作部26を挟んで向かい合うように配置されている。アーム27の形態は特に限定されることはなく、棒状であっても板状であってもよい。本形態では板状であり、2つのアーム27で板面が向かい合うように配置されている。
【0025】
また、2つのアーム27のうち一方のアーム27には、操作部26が配置された端部とは反対側の端部で、2つのアーム27が向かい合う側とは反対側に円柱状の軸28が設けられている。一方、2つのアーム27のうち軸28が設けられていない側のアーム27は、2つ設けられたハンドル25の他方側のハンドル25のアーム27の端部に軸28と同軸となるように回動可能に接続されている。
【0026】
[ピン]
ピン30は後述するように、その一端が筋肉Cを貫通して棘突起Bに達することでガイド部材20の位置を決める位置決め手段として機能する棒状部材である。
本形態でピン30は細長い針金からなり、円弧状に湾曲している。ピン30はその一端がハンドル25の操作部26に固定され、他端側は本体12を貫通して本体12のうちのハンドル25が配置された側(以下「表側」と記載することがある。)とは反対側(以下「裏側」と記載することがある。)に配置される。
本形態でピン30は1つのハンドル25につき2本平行に延びるように配置されており、合計4本である。
ピン30は筋肉Cを貫通させるため細くて強度を有するものであることが好ましく、かかる観点から金属であることが好ましい。
ピン30の本数は特に限定されることはないが、精度良い位置決めの観点からは本数が多いことが好ましく、かかる観点から1つのハンドル25に対して2本以上であることが好ましい。ただし、本数が多すぎるとハンドル25の操作に抵抗が大きくなり操作性が低下するため、2本又は3本であることが好ましい。
【0027】
[連結部材]
連結部材35は、ガイド部材20とハンドル25とを連結し、ハンドル25の操作に連動してガイド部材20を傾倒させる(傾ける)部材である。図10に連結部材35を説明する図を示した。
本形態で連結部材35は第一部材36及び第二部材37を有しており、その一端が互いに回動可能となるように連結されている。第一部材36、第二部材37の形態は特に限定されることはなく、棒状であっても板状であってもよい。本形態では板状であり、第一部材36及び第二部材37でその端部で板面が向かい合うように回動可能に連結されている。
なお、第一部材36、第二部材37のうち、互いが連結されていない側の端部は後述するようにハンドル25のアーム27に回動可能に連結される。
【0028】
また、連結部材35の第一部材36には第二部材37との連結軸と同軸で、第二部材37が配置された側とは反対側に円柱状の軸38が設けられている。
【0029】
[各部材の組み合わせ]
以上説明した各部材が、例えば次のように組み合わされてガイド装置10とされている。この説明により、ガイド装置10の各部材が具備する構成がさらに理解される。
【0030】
基板11のハンドル保持部14の長穴14aの内側にハンドル25のアーム27に設けられた軸28が挿入されている。ハンドル保持部14及びハンドル25は2つずつ設けられているので、一方のハンドル保持部14に一方のハンドル25の軸28、他方のハンドル保持部14に他方のハンドル25の軸28がそれぞれ配置されている。2つのハンドル25において軸28を有しない側のアーム27は上記のように他方のハンドル25のアーム27に軸28と同軸に回動可能に連結されている。これにより、2つのハンドル25は基板11の一方の面側で軸28を中心に回動可能とされ、相対的に成す角を変更することができる。
【0031】
また、ピン30は、その一端側が2つのハンドル25の操作部26のうち2つの操作部26が対向しない面に配置されており、基板11の本体12を貫通してピン30の他端側は基板11の裏側に突出可能となるように配置されている。
【0032】
ガイド部材20は、第一ガイド片21及び第二ガイド片22が基板11のガイド部材配置用長穴13の内側に配置されている。このときガイド部材20のガイド部材保持部23と基板11のハンドル保持部14とが対向する。
【0033】
連結部材35は、ガイド部材20のガイド部材保持部23と基板11のハンドル保持部14との間のそれぞれに配置されている。このとき、第一部材36と第二部材37とが連結した側の端部は軸38がガイド部材20のガイド部材保持部の長穴23aの内側に配置されている。そして第一部材36のうち第二部材37に連結されていない側の端部が一方のハンドル25のアーム27に回動可能に連結され、第二部材37のうち第一部材36に連結されていない側の端部が他方のハンドル25のアーム27に回動可能に連結されている。
【0034】
本形態によれば、ハンドル保持部14、ガイド部材保持部23、及び、連結部材35により、ハンドル25の操作量に応じてガイドスリット20aを傾倒させる機構が構成されている。
【0035】
[ガイド装置の変形]
以上のようなガイド装置10は、ハンドル25を操作することにより変形させることができる。ここでは図4図6を基準の姿勢として、これと対比するように変形させた他の姿勢を図11から図14に示した。図11図13図4と同様の視点による斜視図、図12図14図6と同様の視点による断面図である。
なお、図6及び以下の図で表した点線P、Q(図6の例では2つの点線P、Qが重なっているため1つに見える。)は、基板11のハンドル保持部14に設けられた長穴14aが延びる方向の中心線(中心線P)、ガイド部材20のガイド部材保持部23に設けられた長穴23aが延びる方向の中心線(中心線Q)を表している。
【0036】
図4図6の姿勢では、図6の視点で中心線Pと中心線Qとが一致しているため、2つのハンドル25の操作部26とガイドスリット20aの成す角は、中心線P及び中心線Qに対して同じ角度(θ)となる。そしてこの場合には、ピン30が裏側に突出する長さが、全てのピンで同じとなるとともに、ガイドスリット20aの貫通方向(矢印R)が中心線P及び中心線Qと一致する。ここでガイドスリット20aの貫通方向は、マイクロサジタルソーを挿入する方向である。
【0037】
図11図12は、図4図6の基準の姿勢に対して、2つのハンドル25の操作部26を近づけるように(基板11の本体12から離隔する方向に)回動させた姿勢である。この姿勢では2つのハンドル25の操作部26とガイドスリット20aの成す角は、中心線P及び中心線Qとに対して上記θよりも小さい角度(θ)となる。そして、ピン30が裏側に突出する長さが、図6の姿勢に対して短くなる。
ただし、この姿勢でも、中心線Pと中心線Qとは一致しているため、ピン30の裏側への突出量は全てのピン30で同じであり、ガイドスリット20aの貫通方向(矢印R)が中心線P及び中心線Qに一致する。
【0038】
図13図14は、図4図6の基準の姿勢に対して、2つの操作部26において、中心線Pに対するガイドスリット20aとの成す角が異なる姿勢である。具体的には図14に表したように一方の操作部26については当該角度がθ、他方の操作部26については当該角度がθである。ここではθはθより大きくなるように傾けられている(θ>θ)。
この姿勢によれば、図14からもわかるように、ピン30が裏側に突出する長さを比べると、θで傾けた方のピン30がθで傾けた方のピン30よりも長く突出している。なお、この両者の突出量の差は傾けた角度の差(θ-θ)に基づいてその量が決まるものであり、裏側において対向する2つのピン30の端部間の間隙の位置も傾けた角度の差(θ-θ)に基づいて決まる。
なお、本形態ではピン30はハンドル25の操作部26に直接設けられているが、ハンドル25の操作によりハンドルの回転量や移動量に基づいてピン30の突出量が決まればよく、他の部材(他の機構)を介してピン30とハンドル25とが連動してもよい。
【0039】
一方、ガイド部材20に注目すると、ガイド部材20は、ガイド部材保持部23、連結部材35、及び、ハンドル保持部材14により構成される機構により、2つのハンドル25が異なる角度で傾けられたときにはその差(θ-θ)に基づいて中心線Qが中心線Pに対して傾く。一方で、中心線Qに対してハンドル25の操作部26とガイドスリット20aの成す角は2つの操作部26で同じ(θ)である。
これにより、ガイド部材20が傾くため、ガイドスリット20aの貫通方向(矢印R)は中心線Qと一致し、中心線Pに対しては2つのハンドルが傾けられた差に応じた角度θ(=θ-θ)で傾く。
【0040】
2.2.棘突起縦割ガイド装置の適用
以上説明したガイド装置10を脊椎棘突起縦割に適用する場面について説明する。図15から図17に説明のための図を示した。なお、ここで表すガイド装置10は図6と同様の視点による図(断面図)である。
【0041】
初めに例えば図15に示したように、2つのハンドル25の操作部26同士を近づける(基板11の本体12から離隔する)ように操作し、ピン30が裏側からあまり大きく突出しない姿勢、又は、ピン30が裏側から全く突出しない姿勢として、基板11の本体12の裏側の面を、棘突起Bが存在する付近の筋肉Cに押し当てる。その際、棘突起Bの先端は触知できるため、ガイドスリット20aの位置が棘突起B先端の直上で、かつ、棘突起Bの先端の長軸方向と合致するように押し当てる。なお、皮膚Dは予め切開しておき筋肉Cが露出した状態にしておく。
【0042】
次に、図15で示したガイド装置10の姿勢から、図16に矢印Iで示したようにハンドル25の操作部26を基板11の本体12に近づけるように押圧してハンドル25を回転させる。これによりピン30が裏側に大きく突出して筋肉Cを貫くように進行する。ここでピン30は円弧状に湾曲しているため、2つのピン30の先端は互いに近づき、最終的には図16に示したように棘突起Bを両側から挟むようにして接触する。これにより2つのピン30の先端の間に必ず棘突起Bが存在するようにガイド装置10の位置決めが行われる。
【0043】
一方、ガイド部材20についてみると、図16の例では棘突起Bが延びる方向は中心線Pに概ね一致する方向であり、2つのハンドル25の回転量が概ね同じであることからガイド部材20は傾かずに中心線Qが中心線Pに一致し、スリットガイド20aの貫通方向Rもこれらに一致する。従って施術者はガイドスリット20aにマイクロサジタルソーを差し込むようにしてガイドされながら棘突起Bを切断すれば、適切な縦割を容易に行うことができる。
【0044】
これに対して図17は、棘突起Bが傾いて延びる場合の例である。
上記と同様に初めに、2つのハンドル25の操作部26同士を近づける(基板11の本体12から離隔する)ように操作し、ピン30が裏側からあまり大きく突出しない姿勢、又は、ピン30が裏側から全く突出しない姿勢として、基板11の本体12の裏側の面を棘突起Bが存在する付近の筋肉Cに押し当てる。その後、図17に矢印Iで示したようにハンドル25の操作部26を基板11の本体12に近づけるように押圧してハンドル25を回転させる。これによりピン30が裏側に大きく突出して筋肉Cを貫くように進行する。ピン30は円弧状に湾曲しているため、2つのピン30の先端は互いに近づき、最終的には図17に示したように棘突起Bを両側から挟むようにして接触する。これにより2つのピン30の先端の間に必ず棘突起Bが存在するようにガイド装置10の位置決めが行われる。
【0045】
図17の例では、棘突起Bが傾斜しているため、一方のハンドル25(紙面右側)を他方のハンドル25(紙面左側)よりも大きく回動させることで棘突起Bがピン30で挟まれるようになる。
このような場合についてガイド部材20についてみると、図14で説明したように、ガイド部材20が傾斜した状態となる。ガイド部材20の傾斜はハンドル25の操作の量に基づいて行われることから、傾斜したガイド部材20の傾斜角は棘突起Bの傾斜に対応したものとなり、棘突起Bが延びる方向と中心線Qが一致するようになる。スリットガイド20aの貫通方向Rは中心線Qに一致するので、施術者はガイドスリット20aにマイクロサジタルソーを差し込むようにしてガイドされながら棘突起を切断すれば、傾斜した棘突起Bであっても適切な縦割を容易に行うことができる。
【0046】
以上のように、ガイド装置10によれば、ハンドル25を操作することで、ガイドスリット20aの貫通方向Rの位置及び方向を、棘突起Bの概ね中央を縦割することができるように自動に配置することができ、棘突起Bの適切な縦割を容易に行うことができる。
その際、ガイド部材20が傾斜していることを目視しながら施術することが可能であることから、施術者は視覚的にもマイクロサジタルソーにより切り進むべき位置と方向を知った上で施術することができ、かかる観点からも確実な縦割の助けとなる。
【0047】
3.モデルを用いた試験
棘突起B及び筋肉Cを模したモデルを作製し、このモデルに対して上記したガイド装置10を適用して棘突起縦割の試験を行った。
【0048】
3.1.棘突起縦割モデルの準備
[棘突起モデル]
図18に、用いた棘突起モデル50を表した。図18からわかるように、棘突起モデル50は、3つの棘突起部51が間隔を有して配置され、その根本側で連結されている。棘突起モデル50の寸法は図18に示した通りであるが、これはヒトの平均的な棘突起の形状に基づいている。なお、後述のように棘突起モデル50は容器の内側で筋肉モデル内に配置されるが、このとき棘突起モデル50の傾きが表面から類推できないように、棘突起モデル50の先端部分に図18にRで示したように丸みを付けてある。
また、当該棘突起モデル50の材質はポリスチレンである。棘突起モデル50には、その中でも硬質のもので、一般的にスチレンボードと呼ばれているものを用いた。
【0049】
[筋肉モデル]
筋肉Cを模したモデルには油粘土を用いた。油粘土の硬さは実際の手術中の腰部筋肉の硬さに近いものとした。
【0050】
[棘突起縦割モデル]
上部が開口した樹脂製の角形容器を準備し、該容器の底面に上記の棘突起モデル50の底面52を接触させるように立て、容器内の他の部分を満たすように油粘土を配置した。その際、粘土表面からは棘突起モデル50の先端のみが触知できる状態とし、これを、棘突起縦割モデルとした。
ここで、棘突起モデル50の傾斜角を変更した複数の棘突起縦割モデルを準備し、棘突起が傾斜していた場合であっても適切に縦割をすることができるかについて試験した。具体的には、棘突起部51が鉛直に延びている場合を0度の棘突起縦割モデルとし、鉛直に対して棘突起部51が10度傾いた方向に延びる棘突起縦割モデル、棘突起部51が20度傾いた方向に延びる棘突起縦割モデル、及び、棘突起部51が30度傾いた方向に延びる棘突起縦割モデルをそれぞれ準備した。
【0051】
3.2.試験の進行
準備した各棘突起縦割モデルに対して、ガイド装置10を用いて上記した棘突起Bの縦割の手順に倣って棘突起モデル50の全ての棘突起部51の縦割を行った。縦割が完了した後、棘突起縦割モデルから棘突起モデル50を取り出して縦割の状態を確認した。
【0052】
3.3.結果
各棘突起縦割モデルにおける棘突起部51の縦割状態を確認したところ、全ての棘突起モデル50の棘突起部51で根元まで適切に縦割されていた。以上より本開示の棘突起縦割ガイド装置によりマイクロサジタルソーが棘突起の傾きの程度に左右されず、縦割に適切な位置及び向きとなるようにガイドされ、棘突起の縦割を従来に比べて正確で容易に行うことができることがわかる。
【符号の説明】
【0053】
10 棘突起縦割ガイド装置
11 基板
12 本体
13 ガイド部材配置用長穴
14 ハンドル保持部
20 ガイド部材
21 第一ガイド片
22 第二ガイド片
23 ガイド部材保持部
25 ハンドル
26 操作部
27 アーム
28 軸
30 ピン
35 連結部材
36 第一部材
37 第二部材
38 軸
図1
図2
図3
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