(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】ラミネートフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 37/04 20060101AFI20240723BHJP
【FI】
B32B37/04
(21)【出願番号】P 2020195917
(22)【出願日】2020-11-26
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000211156
【氏名又は名称】中興化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】二木 圭吾
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-039901(JP,A)
【文献】特開2016-052733(JP,A)
【文献】特開昭56-024115(JP,A)
【文献】特開平08-000973(JP,A)
【文献】特開2010-046998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08J 9/00-9/42
B29C 44/00-44/60,55/00-55/30,67/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱ロールと、
前記熱ロールとニップしている弾性ロールと、
前記弾性ロールとニップしているニップロールと
を備えるラミネート装置を用いるラミネートフィルムの製造方法であって、
キャリアフィルム、及び、前記キャリアフィルム上に重ねられた多孔質膜を備える二重フィルムを、前記キャリアフィルムが前記ニップロールに接触するようにして、前記弾性ロールと前記ニップロールとの間に供給することと、
前記キャリアフィルム上に重ねられた前記多孔質膜と前記弾性ロールとの間に、溶融性樹脂シートを供給することと、
前記二重フィルム及び前記溶融性樹脂シートが、前記弾性ロールと前記ニップロールとの間を通過した後に、前記多孔質膜から前記キャリアフィルムを剥がすと共に、前記弾性ロールと前記ニップロールとの間から、前記多孔質膜及び前記溶融性樹脂シートが積層されてなるラミネート対象品を排出することと、
前記溶融性樹脂シートが前記弾性ロールの外周面と接するようにして前記ラミネート対象品を搬送して、前記ラミネート対象品を前記弾性ロールと前記熱ロールとの間に供給することと、
前記弾性ロールと前記熱ロールとの間に供給された前記ラミネート対象品に対して熱ラミネートを施して、ラミネートフィルムを得ることと
を含むラミネートフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記弾性ロールは非加熱ロールである請求項1に記載のラミネートフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記多孔質膜の厚さは3μm~100μmの範囲内にある請求項1又は2に記載のラミネートフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記多孔質膜はポリテトラフルオロエチレンからなる請求項1~3の何れか1項に記載のラミネートフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記熱ロールの表面温度は140℃~220℃の範囲内にある請求項1~4の何れか1項に記載のラミネートフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記溶融性樹脂シートは、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーからなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項1~5の何れか1項に記載のラミネートフィルムの製造方法。
【請求項7】
熱ロールと、
前記熱ロールとニップしている弾性ロールと、
前記弾性ロールとニップしているニップロールと
を備えるラミネート装置を用いるラミネートフィルムの製造方法であって、
キャリアフィルム、及び、前記キャリアフィルム上に重ねられた多孔質膜を、前記キャリアフィルムが前記ニップロールに接触するようにして、前記弾性ロールと前記ニップロールとの間に供給することと、
前記キャリアフィルム上に重ねられた前記多孔質膜と前記弾性ロールとの間に、溶融性樹脂シートを供給することと、
前記キャリアフィルム、前記多孔質膜及び前記溶融性樹脂シートがこの順で積層されてなるラミネート対象品を、前記弾性ロールと前記ニップロールとの間から排出することと、
前記溶融性樹脂シートが前記弾性ロールの外周面と接するようにして前記ラミネート対象品を搬送して、前記ラミネート対象品を前記弾性ロールと前記熱ロールとの間に供給することと、
前記弾性ロールと前記熱ロールとの間に供給された前記ラミネート対象品に対して熱ラミネートを施して、ラミネートフィルムを得ることと
を含むラミネートフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラミネートフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる多孔質膜は、例えば、未焼成のPTFE生テープを二軸延伸した後、焼成に供して製造される。二軸延伸により製造された帯状の多孔質膜を熱ラミネートする場合、例えば、当該多孔質膜及びラミネート相手材をその長手方向に沿って搬送しながら、熱ロール及び弾性ロールで挟んで加熱及び加圧に供して連続的に熱ラミネートを行う。
【0003】
二軸延伸を経て製造された多孔質膜は、残留応力を有している。具体的には、延伸された方向に沿って収縮を生じさせるような残留応力を有している。つまり、長手方向と、当該長手方向に直交する短手方向との二軸方向に延伸して製造された多孔質膜の場合は、これら二軸方向の双方に対して収縮を生じさせるような残留応力を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2019-523152号公報
【文献】特開2017-052266号公報
【文献】特開平6-218899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
二軸延伸を経て製造された多孔質膜は、長手方向のみについて一軸延伸を経て製造された多孔質膜と比較して、長手方向の張力による短手方向の収縮が著しい。このため、残留応力を含む多孔質膜を熱ラミネートに供すると、加工時の温度により残留応力が解放され、また、多孔質膜にかかる張力により、多孔質膜が短手方向に収縮して、シワの発生、並びに、製造効率及び製造能力が低下するという問題がある。
【0006】
熱ラミネートの際、帯状の多孔質膜の長手方向には、搬送に伴うラインテンションが掛かっているため、加熱されても長手方向に沿った多孔質膜の収縮は生じにくい。一方、長手方向と直交する短手方向(幅方向)に対しては搬送に伴う張力は掛からない。しかしながら、長手方向の張力により、短手方向に対しては幅が収縮する力が作用する。更に、熱ラミネート時の加熱により、幅方向の収縮が促進されるという問題がある。
【0007】
本発明は、多孔質膜の幅方向への収縮を抑制可能なラミネートフィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1側面によると、
熱ロールと、
熱ロールとニップしている弾性ロールと、
弾性ロールとニップしているニップロールと
を備えるラミネート装置を用いるラミネートフィルムの製造方法であって、
キャリアフィルム、及び、キャリアフィルム上に重ねられた多孔質膜を備える二重フィルムを、キャリアフィルムがニップロールに接触するようにして、弾性ロールとニップロールとの間に供給することと、
キャリアフィルム上に重ねられた多孔質膜と弾性ロールとの間に溶融性樹脂シートを供給することと、
二重フィルム及び溶融性樹脂シートが、弾性ロールとニップロールとの間を通過した後に、二重フィルムからキャリアフィルムを剥がすと共に、弾性ロールとニップロールとの間から、溶融性樹脂シート及び多孔質膜が積層されてなるラミネート対象品を排出することと、
溶融性樹脂シートが弾性ロールの外周面と接するようにしてラミネート対象品を搬送して、ラミネート対象品を弾性ロールと熱ロールとの間に供給することと、
弾性ロールと熱ロールとの間に供給されたラミネート対象品に対して熱ラミネートを施して、ラミネートフィルムを得ることと
を含むラミネートフィルムの製造方法が提供される。
【0009】
本発明の第2側面によると、
熱ロールと、
熱ロールとニップしている弾性ロールと、
弾性ロールとニップしているニップロールと
を備えるラミネート装置を用いるラミネートフィルムの製造方法であって、
キャリアフィルム、及び、キャリアフィルム上に重ねられた多孔質膜を、キャリアフィルムがニップロールに接触するようにして、弾性ロールとニップロールとの間に供給することと、
キャリアフィルム上に重ねられた多孔質膜と弾性ロールとの間に、溶融性樹脂シートを供給することと、
キャリアフィルム、多孔質膜及び溶融性樹脂シートがこの順で積層されてなるラミネート対象品を、弾性ロールとニップロールとの間から排出することと、
溶融性樹脂シートが弾性ロールの外周面と接するようにしてラミネート対象品を搬送して、ラミネート対象品を弾性ロールと熱ロールとの間に供給することと、
弾性ロールと熱ロールとの間に供給されたラミネート対象品に対して熱ラミネートを施して、ラミネートフィルムを得ることと
を含むラミネートフィルムの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、多孔質膜の幅方向への収縮を抑制可能なラミネートフィルムの製造方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係るラミネートフィルムの製造方法の一例を概略的に示す断面図。
【
図2】実施形態に係るラミネートフィルムの製造方法の他の例を概略的に示す断面図。
【
図3】溶融性樹脂シートを構成する繊維の一例を概略的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者は、多孔質膜の幅方向への収縮は、多孔質膜を熱ロールに接触させている時間を可能な限り短くすることにより抑制できることを見出した。具体的には、多孔質膜が熱ロールと弾性ロールとのニップ部に到達するまでの間、多孔質膜を熱ロールに沿わせること無く搬送することで、多孔質膜の幅方向への収縮を抑制することができる。
【0013】
加えて、多孔質膜を長手方向に沿って搬送する際に、多孔質膜自体にラインテンションを掛けて搬送するのではなく、多孔質膜をキャリアフィルム上に乗せて搬送することで、多孔質膜の幅方向への収縮をより抑制することができる。多孔質膜は、熱ロールに接触していなくても熱ロールからの雰囲気熱(輻射熱)の影響を受ける。そのため、仮に、多孔質膜に対して搬送に係る張力が掛かっている場合、その張力に加えて雰囲気熱の影響で、多孔質膜の搬送方向と直交する幅方向に対しては収縮が生じる。しかしながら、実施形態に係るラミネートフィルムの製造方法では、上記の通り多孔質膜がキャリアフィルムに乗せられて搬送されるため、多孔質膜に対してはラインテンションが掛かり難い状態にある。その結果、多孔質膜の幅方向への収縮をより抑制することができる。
【0014】
以下、実施形態に係るラミネートフィルムの製造方法について図面を参照しながら具体的に説明する。
【0015】
図1は、実施形態に係るラミネートフィルムの製造方法の一例を概略的に示す側面図である。実施形態におけるラミネートフィルムの製造は、熱ロール8と、弾性ロール7と、ニップロール6とを少なくとも備えるラミネート装置20を用いて行われる。
図1では、ラミネート装置20の一部を概略的に示している。ラミネート装置20の操業時には、熱ロール8の外周面と弾性ロール7の外周面とは互いにニップしており、また、弾性ロール7の外周面とニップロール6の外周面とは互いにニップしている。弾性ロール7は、ニップロール6及び熱ロール8の双方とニップしている。本願明細書及び特許請求の範囲において、2つのロールが「ニップ」している場合、これらロールは、互いに直接接していてもよく、ラミネート対象の多孔質膜等を介して接していてもよい。ラミネート対象の多孔質膜等とは、多孔質膜4、ラミネート相手材としての溶融性樹脂シート2及びキャリアフィルム5からなる群より選択される少なくとも1つを指す。多孔質膜4、溶融性樹脂シート2及びキャリアフィルム5については後述する。
【0016】
ラミネート装置20は、第1巻出しロール1、第2巻出しロール3及び巻取ロール9を更に備えることができる。また、ラミネート装置20は、任意の位置に1つ以上のガイドロールを備えることができる。
【0017】
熱ロール8は加熱ロールである。熱ロール8は、表面温度を制御可能な円柱部を備える。ラミネート対象の多孔質膜等は、少なくとも当該円柱部の外周面と接触しながら搬送される。従って、例えば、当該円柱部の長手方向の寸法は、ラミネート対象の多孔質膜等の幅方向と比較して大きい。熱ロール8が備える円柱部の表面温度は、例えば100℃~380℃の範囲内で制御可能である。後述する通り、実施形態に係るラミネートフィルム10を製造する際に使用する溶融性樹脂シート2は、融点が120℃~200℃の範囲内にある熱可塑性樹脂を含むことが望ましい。従って、熱ロール8の表面温度は140℃~220℃の範囲内に設定することが望ましい。
【0018】
熱ロール8は、動力源に接続された駆動ロールであり得る。熱ロール8は、
図1に示す回転方向Dに沿って回転可能である。熱ロール8の回転軸は、ラミネート対象の多孔質膜等の搬送方向と直交している。熱ロール8の回転速度は特に制限されないが、熱ラミネートを実施する際に、ラミネート相手材としての溶融性樹脂シート2が十分に溶融可能な速度で回転されるのが望ましい。
【0019】
図1では、熱ロール8と弾性ロール7とがニップしている状態を示しているが、熱ロール8の位置を上下させて、これらがニップするか否かを制御することが可能である。また、熱ロール8の軸及び/又は弾性ロール7の軸の両端は、図示しないスペーサ(軸間調整器)を備えることができる。これにより、熱ロール8と弾性ロール7との軸間距離を調整することも可能である。ラミネート装置20が非操業状態である場合には、例えば、熱ロール8の位置を下降させて、熱ロール8と弾性ロール7とのニップが解除され得る。
【0020】
弾性ロール7及びニップロール6は、いずれも非加熱ロールである。弾性ロール7及びニップロール6は、いずれも、ラミネート対象の多孔質膜等が接触する円柱部を備える。ラミネート対象の多孔質膜等は、少なくとも当該円柱部の外周面と接触しながら搬送される。従って、例えば、弾性ロール7の円柱部の長手方向の寸法、及び、ニップロール6の円柱部の長手方向の寸法は、いずれも、ラミネート対象の多孔質膜等の幅方向と比較して大きい。弾性ロール7は、冷却水を流通させることができる流路(図示しない)を備えている。ラミネート装置20の操業時には、例えば、当該流路に冷却水を流通させる。
【0021】
第1巻出しロール1は、ロール軸1aと、当該ロール軸1aに巻き付けられた溶融性樹脂シート2とを備えている。ロール軸1aは、その軸方向を回転軸として回転することができる。溶融性樹脂シート2は、ロール軸1aの回転に伴って第1巻出しロール1から巻き出される。巻き出された溶融性樹脂シート2は、弾性ロール7とニップロール6との間に供給される。
図1に示しているように、溶融性樹脂シート2が弾性ロール7とニップロール6との間へ供給される経路において、当該溶融性樹脂シート2は、任意の位置に設けられたガイドロールに沿って進むことができる。
【0022】
溶融性樹脂シート2は、帯状のシート形状を有したシートである。溶融性樹脂シート2は、例えば、幅方向(短手方向)の寸法に対して長さ方向(長手方向)の寸法が大きい矩形のシートである。溶融性樹脂シート2は、後述する多孔質膜4との熱ラミネートにおける相手材であるため、熱ラミネートの際には所定の温度で溶融される必要がある。
【0023】
溶融性樹脂シートは、例えば、熱可塑性樹脂を含むシートである。溶融性樹脂シートは、通気性を有するシートであってもよく、通気性を有さないシートであってもよい。通気性を有する溶融性樹脂シートを使用した場合、得られるラミネートフィルムに通気性を持たせるのが容易となる。通気性を有する溶融性樹脂シートとしては、例えば、不織布又はメッシュを挙げることができる。溶融性樹脂シートが通気性を有する場合、
図3に示す構造を有する繊維100を含むことが好ましい。溶融性樹脂シートは、例えば、複数の繊維100を用いて形成された不織布又はメッシュである。溶融性樹脂シート2の単位面積当たりの重量は、例えば15g/m
2~50g/m
2の範囲内にある。
【0024】
なお、通気性を有するシートとは、例えば、ガーレ式デンソメーターによる測定で10sec/100ml未満の通気度を有するシートを指す。ガーレ式デンソメーターによる測定では、100mlの空気が測定対象のシートを通過するのに要する時間を測定する。
【0025】
得られるラミネートフィルムに通気性を持たせる目的においては、溶融性樹脂シートの通気度は10sec/100ml未満であることが好ましい。溶融性樹脂シートの通気性が10sec/100ml以上200sec/100ml未満の範囲内にある場合、通気しにくいラミネートフィルムを得ることができる。溶融性樹脂シートの通気性が200sec/100ml以上である場合には、通気性を有さない(或いはほぼ有さない)ラミネートフィルムを得ることができる。
【0026】
図3は、通気性を有する溶融性樹脂シートを構成する繊維の一例を概略的に示す断面図である。繊維100は、形状維持用の芯材101と鞘材102とを備えた樹脂製の糸である。繊維100は、例えば、円柱形状を有している。形状維持用の芯材101は、例えば円柱形状を有している。鞘材102は、芯材101の周囲を同心円状に取り囲む環状の円柱形状を有する溶融樹脂層である。形状維持用の芯材101は、鞘材102と比較してより高い融点を持つ樹脂からなる。繊維100を含む溶融性樹脂シートを熱ラミネートに使用した場合、ラミネート時の温度を適切に制御することで、鞘材のみを溶融させて、溶融性樹脂シートと多孔質膜とをアンカー効果により貼り合わせることができる。この場合、多孔質膜の全面が溶融性樹脂によって覆われにくいため、ラミネートフィルムの通気性を確保するのが容易である。
【0027】
芯材の融点及び鞘材の融点は、熱ラミネート時の温度との関係で調節することが可能である。熱ラミネート時の熱ロールの表面温度は、例えば、芯材の融点よりも低く且つ鞘材の融点よりも高くする。芯材を構成する樹脂の例として、ポリプロピレン(PP)及びポリエチレンテレフタレート(PET)を挙げることができる。芯材の融点は、例えば150℃~280℃の範囲内にある。芯材としてPPを採用した場合には、その融点は約160℃である。芯材にPETを採用した場合には、その融点は約260℃である。
【0028】
鞘材は、熱可塑性樹脂を含むか、又は、熱可塑性樹脂からなる。熱可塑性樹脂としては、ラミネート後に得られるラミネートフィルムの耐久性を考慮すると融点の高いものが好ましい。熱可塑性樹脂の融点は例えば90℃~200℃の範囲内にある。熱可塑性樹脂は、PET、変性PET、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)及びポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。溶融性樹脂シートは熱可塑性樹脂のみからなっていてもよい。即ち、溶融性樹脂シートは、上述の芯材を含まなくてもよい。
【0029】
芯材としてPPを採用した場合には、鞘材としては、例えば融点が90℃~120℃のものを採用する。そのような鞘材の例に、PEが含まれる。芯材としてPETを採用した場合には、鞘材としては、例えば融点が150℃~180℃のものを採用する。そのような鞘材の例に、変性PETが含まれる。
【0030】
第2巻出しロール3は、ロール軸3aと、当該ロール軸3aに巻き付けられたキャリアフィルム5及び多孔質膜4を備えている。ロール軸3aは、その軸方向を回転軸として回転することができる。キャリアフィルム5及び多孔質膜4はこの順に重ねられており、多孔質膜4のタック性と静電作用とにより互いに密着した1枚の二重フィルム11として扱うことができる。二重フィルム11は、多孔質膜4が最外層となるようにロール軸3aに巻き付けられている。
【0031】
多孔質膜4は、帯状のシート形状を有したシートである。多孔質膜4は、例えば、幅方向(短手方向)の寸法に対して長さ方向(長手方向)の寸法が大きい矩形のシートである。多孔質膜4は、例えば、多孔質構造を有し且つポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含む膜である。多孔質膜4はPTFEのみからなっていてもよい。多孔質膜4は、PTFEに限られず、幅方向への収縮に係る残留応力を有しているものであればどのような膜であってもよい。例えば、多孔質膜4は、ポリウレタンフィルムであってもよい。
【0032】
多孔質膜4の厚さは、例えば1μm~300μmの範囲内にあり、好ましくは3μm~100μmの範囲内にある。二軸延伸により製造された多孔質膜4は、その厚さが薄いほど、大きな残留応力を有している傾向がある。つまり、多孔質膜4の厚さが薄いほど、加熱による幅方向への収縮が生じやすい膜であると言える。実施形態に係るラミネートフィルムの製造方法では、多孔質膜が加熱される時間が短時間であるため、厚さが薄い多孔質膜であっても幅方向への収縮を生じさせること無しに熱ラミネートを実施することができる。例えば、1μm~10μmの厚さを有する薄い多孔質膜を使用した場合であっても、幅方向への収縮を抑制しながら熱ラミネートを実施することができる。
【0033】
キャリアフィルム5は、帯状のシート形状を有したシートである。キャリアフィルムとしては、例えば、搬送に係る張力を掛けても熱収縮が生じにくい樹脂製フィルムを使用することができる。キャリアフィルム5の一例としてPETフィルムを挙げることができるが、PETフィルムに限られず、PPフィルム、アルミニウム箔、ポリイミド(PI)フィルムなどを使用してもよい。キャリアフィルム5の厚さは特に限定されないが、例えば12.5μm~100μmの範囲内にある。
【0034】
キャリアフィルム5及び多孔質膜4からなる二重フィルム11は、ロール軸3aの回転に伴って第2巻出しロール3から巻き出される。巻き出された二重フィルム11は、弾性ロール7とニップロール6との間に供給される。
図1に示しているように、二重フィルム11が弾性ロール7とニップロール6との間へ供給される経路において、当該二重フィルム11は、任意の位置に設けられたガイドロールに沿って進むことができる。弾性ロール7とニップロール6との間には、上述の溶融性樹脂シート2も供給される。従って、弾性ロール7とニップロール6との間には、溶融性樹脂シート2、多孔質膜4及びキャリアフィルム5の3枚のシートが同時に供給される。
【0035】
このとき、二重フィルム11は、キャリアフィルム5がニップロール6の外周面に接触するように供給される。一方、溶融性樹脂シート2は、弾性ロール7の外周面に接触するように供給される。キャリアフィルム5上には多孔質膜4が重ねられているため、溶融性樹脂シート2は、弾性ロール7の外周面に接触するように、且つ、多孔質膜4及び弾性ロール7の間に供給される。
【0036】
弾性ロール7とニップロール6との間を通過した二重フィルム11のうち、キャリアフィルム5は多孔質膜4から剥がされて、キャリアフィルム5のみがニップロール6の外周面に沿って進む。その結果、弾性ロール7とニップロール6との間からは、多孔質膜4及び溶融性樹脂シート2が積層されてなるラミネート対象品12が排出される。排出された二層構造のラミネート対象品12は、溶融性樹脂シート2が弾性ロール7の外周面に接触するようにして搬送される。そのため、溶融性樹脂シート2上に重ねられている多孔質膜4も、弾性ロール7の外周面に沿って搬送される。なお、キャリアフィルム5が剥がれた後の多孔質膜4は、溶融性樹脂シート2を介して弾性ロールに接している状態である。この状態において、多孔質膜4に対しては、その幅が収縮する力と逆方向に(幅が保持されるように)摩擦力が作用するため、多孔質膜の幅収縮をより低減することができる。この効果は、後述する
図2に示す態様においても得られる。
【0037】
図1では、ラミネート対象品12が、多孔質膜4及び溶融性樹脂シート2が積層されてなる二層構造を有する場合を示しているが、多孔質膜4と溶融性樹脂シート2との間には、これらの接着性を高めるためのホットメルト樹脂シート(図示せず)が介在していてもよい。つまり、多孔質膜4、ホットメルト樹脂シート及び溶融性樹脂シート2の3枚のシートが、ラミネート対象品として熱ラミネートに供されてもよい。ホットメルト樹脂シートとしては、例えば、溶融性樹脂シート2と比較してより融点の低いホットメルト樹脂を含むものを使用する。その結果、ラミネート対象品が熱ラミネートに供される時間が短くても、多孔質膜4と溶融性樹脂シート2との接着性を高めることができる。言い換えると、単位時間当たりに、より多くのラミネートフィルムを製造することができる。例えば、熱ロール8の回転速度を高めた場合であっても、適切な熱ラミネートを実施できる可能性がある。
【0038】
ホットメルト樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、オレフィン系樹脂が挙げられる。
【0039】
多孔質膜4から剥がされたキャリアフィルム5は、巻取ロール9により巻き取られる。巻取ロール9は、ロール軸9aを備える。ロール軸9aはその軸方向を回転軸として回転することができる。多孔質膜4から剥がされたキャリアフィルム5は、ロール軸9aの回転に伴って巻き取られる。巻取ロール9は、巻き取られたキャリアフィルム5を更に備えることができる。
図1に示しているように、キャリアフィルム5は、巻取ロール9に到達するまでの経路において、任意の位置に設けられたガイドロールに沿って進むことができる。
【0040】
弾性ロール7の外周面と接するようにして搬送されたラミネート対象品12は、弾性ロール7と熱ロール8との間に供給される。そして、ラミネート対象品12は、弾性ロール7と熱ロール8とのニップ部において熱ラミネートに供される。つまり、ラミネート対象品12は、弾性ロール7と熱ロール8とのニップ部において加熱及び加圧される。
【0041】
加圧は、例えば熱ロール8を上昇させることにより行われる。熱ロール8が有するロール軸の両端のそれぞれは、例えば、エアシリンダで支えられている。熱ロール8による加圧力は、2つのエアシリンダのエア圧で調整することができる。一例として、当該エア圧を調整することにより、熱ラミネート時の線圧を10N/cm~50N/cmの範囲内とすることができる。また、上述したスペーサを使用して、熱ロール8を弾性ロール7に僅かに接触する程度に軸間を調整した場合には、非常に弱い線圧で熱ラミネートを実施することも可能である。
【0042】
溶融性樹脂シート2及び多孔質膜4が熱ラミネートに供されることにより、溶融性樹脂シート2が溶融する。溶融した樹脂は、多孔質膜4が有する無数の気孔内に流入し、その後、多孔質膜4が弾性ロール7と熱ロール8とのニップ部から排出されることにより、溶融した樹脂が冷やされ、アンカー効果により溶着される。こうして、溶融性樹脂シート2が多孔質膜4上に溶着されてラミネートフィルム10が得られる。弾性ロール7と熱ロール8とのニップ部から排出されたラミネートフィルム10は、図示しない巻取ロールにより巻き取られ得る。ラミネートフィルム10は、所望の表面処理が施されてもよく、任意の寸法に裁断されてもよい。
【0043】
続いて、実施形態に係るラミネートフィルムの製造方法の他の例について、
図2を参照しながら説明する。
【0044】
図2に示すラミネートフィルムの製造方法は、弾性ロール7とニップロール6との間から排出される多孔質膜4及びキャリアフィルム5が、互いに積層されたまま熱ラミネートに供されることを除いて、
図1を参照しながら説明したラミネートフィルムの製造方法と同様である。
【0045】
弾性ロール7とニップロール6との間から排出されたラミネート対象品12は、溶融性樹脂シート2が弾性ロール7の外周面と接するようにして搬送される。その後、ラミネート対象品12は、弾性ロール7と熱ロール8との間に供給されて熱ラミネートに供される。なお、
図2におけるラミネート対象品12は、キャリアフィルム5、多孔質膜4及び溶融性樹脂シート2がこの順で積層されて構成されている。多孔質膜4と溶融性樹脂シート2との間には、上述したホットメルト樹脂シートが介在していてもよい。
【0046】
図2に示す製造方法により得られるラミネートフィルム10において、溶融性樹脂シート2は多孔質膜4上に溶着されており、且つ、これらがキャリアフィルム5上に積層されている。ラミネートフィルム10は、図示しない巻き取りロールによりこのまま巻き取られてもよいし、巻き取られる直前でキャリアフィルム5のみが剥がされて巻き取られてもよい。
【0047】
図2に示す製造方法は、多孔質膜4として、例えばポリウレタンフィルムを使用する場合に有用である。仮に、ポリウレタンフィルムと熱ロールとが直接接触する場合には、ポリウレタンフィルムが熱ロールに溶着してしまい、熱ラミネートの実施が困難となる場合がある。一方で、
図2に示す製造方法を採用した場合には、ポリウレタンフィルムがキャリアフィルムを介して熱ロールと接するため、ポリウレタンフィルムが熱ロールに溶着するのを防ぐことができる。
【0048】
以上に説明したラミネートフィルムの製造方法によれば、多孔質膜がキャリアフィルムに乗せられて搬送されることに加えて、多孔質膜が熱ロールの外周面に接している時間を僅かにすることができる。また、多孔質膜は溶融性樹脂シートを介して弾性ロールと接触しているため、多孔質膜に対しては幅収縮する力とは逆方向に摩擦力が作用する。そのため、多孔質膜の幅方向への収縮を抑制することができる。その結果、得られるラミネートフィルムにおける折れ皺の抑制、歩留まり向上の効果が得られ、また、使用するラミネート装置の幅を最大限に活用することができる。即ち、当該ラミネート装置で製造可能な最大幅を有するラミネートフィルムを得ることができる。
【0049】
なお、本願発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は可能な限り適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適当な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0050】
1…第1巻出しロール、2…溶融性樹脂シート、3…第2巻出しロール、4…多孔質膜、5…キャリアフィルム、6…ニップロール、7…弾性ロール、8…熱ロール、9…巻取ロール、10…ラミネートフィルム、11…二重フィルム、12…ラミネート対象品、20…ラミネート装置、100…繊維、101…芯材、102…鞘材。