(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】終末糖化産物に対する抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/18 20060101AFI20240723BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240723BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240723BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240723BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240723BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240723BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240723BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240723BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20240723BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240723BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240723BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20240723BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240723BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240723BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240723BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20240723BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240723BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240723BHJP
A61P 11/04 20060101ALI20240723BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240723BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20240723BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240723BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20240723BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20240723BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240723BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240723BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240723BHJP
A61P 19/10 20060101ALI20240723BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240723BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
C07K16/18
C12N15/63 Z
C12N15/13 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 N
A61K39/395 M
A61P3/04
A61P3/10
A61P27/02
A61P27/06
A61P25/00
A61P9/00
A61P13/12
A61P1/02
A61P11/00
A61P35/00
A61P11/04
A61P17/00
A61P15/00
A61P9/10
A61P9/04
A61P9/12
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P25/28
A61P19/10
A61P21/00
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2020539638
(86)(22)【出願日】2019-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2019034195
(87)【国際公開番号】W WO2020045646
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-07-22
(31)【優先権主張番号】P 2018163668
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018248166
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】516309040
【氏名又は名称】Bloom Technology 株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【氏名又は名称】寺地 拓己
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】土田 翔太
(72)【発明者】
【氏名】重田 友明
(72)【発明者】
【氏名】佐々本 一美
(72)【発明者】
【氏名】池鯉鮒 麻美
【審査官】松村 真里
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0298087(US,A1)
【文献】特開2019-041668(JP,A)
【文献】Food and Function,2013年,Vol.4, No.12,p.1835-1842
【文献】MATSUI, Takanori et al.,Development of a monoclonal antibody-based ELISA system for glyceraldehyde-derived advanced glycation end products,Immunology Letters,2015年,vol.167,p.141-146
【文献】逆井(坂井)亜紀子ほか,不妊治療バイオマーカーとしてのToxic AGEs (TAGE) の有用性,日本未病システム学会雑誌,2015年,vol.21, no.1,p.93-96
【文献】TAKEUCHI, Masayoshi et al.,Immunological Evidence that Non-carboxymethyllysine Advanced Glycation End-products Are Produced from Short Chain Sugars and Dicarbonyl Compounds in vivo,Molecular Medicine,2000年,vol.6, no.2,p.114-125
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(XI)または(XII):
【化1】
[式中、R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子、および保護基から選択され、
Q
1は、水素原子、または基-CH
2-X
1-Y
1を表し;
Q
2は、水素原子、または基-CH
2-X
2-Y
2を表し;
X
1およびX
2は、-O-、または-NH-を表し;
Y
1およびY
2は、水素原子、保護基、または基:
【化2】
を表し;
R
5およびR
6は、それぞれ独立に、水素原子、および保護基から選択される]
の化合物、そのカチオンラジカル、またはそのジカチオンと結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
式(I)または(II):
【化3】
[式中、R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子、および保護基から選択され、
X
1およびX
2は、-O-、または-NH-を表し;
Y
1およびY
2は、水素原子、保護基、または基:
【化4】
を表し;
R
5およびR
6は、それぞれ独立に、水素原子、および保護基から選択される]
の化合物、そのカチオンラジカル、またはそのジカチオンと結合する、請求項1に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項3】
重鎖可変領域の相補性決定領域(VH CDR1、VH CDR2、およびVH CDR3)および軽鎖可変領域の相補性決定領域(VL CDR1、VL CDR2、およびVL CDR3)のアミノ酸配列が、
(1-1)
(a)VH CDR1:配列番号:1に示すアミノ酸配列;
(b)VH CDR2:配列番号:2に示すアミノ酸配列;
(c)VH CDR3:配列番号:3に示すアミノ酸配列;
(d)VL CDR1:配列番号:5に示すアミノ酸配列;
(e)VL CDR2:配列番号:6に示すアミノ酸配列;および
(f)VL CDR3:配列番号:7に示すアミノ酸配列;もしくは
(1-2)
(g)VH CDR1:配列番号:15に示すアミノ酸配列;
(h)VH CDR2:配列番号:16に示すアミノ酸配列;
(i)VH CDR3:配列番号:17に示すアミノ酸配列;
(j)VL CDR1:配列番号:19に示すアミノ酸配列;
(k)VL CDR2:配列番号:20に示すアミノ酸配列;
(l)VL CDR3:配列番号:21に示すアミノ酸配列;
を含む、
請求項1または2に記載の、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列が、
配列番号:4のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、および/または配列番号:8のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列;もしくは
配列番号:18のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、および/または配列番号:22のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列である;
請求項3に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項5】
完全長抗体、Fab、Fab’、F(ab’)
2、Fv、scFv、dsFv、ダイアボディ、またはsc(Fv)
2である、請求項1~4のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項6】
マウス抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、またはその抗原結合断片である、請求項3~5のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項7】
マウス抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、またはその抗原結合断片である、請求項1または2に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項8】
1×10
-5M以下の解離定数(K
d値)で抗原と結合する、請求項1~7のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を含む医薬組成物。
【請求項10】
肥満、糖尿病、糖尿病網膜症、糖尿病白内障、糖尿病神経障害、糖尿病心筋症、糖尿病血管合併症、糖尿病性腎症、糖尿病性腎臓疾患、糖尿病足病変、糖尿病ケトアシドーシス、歯周病、加齢黄斑変性症、肺線維症、特発性肺線維症、細気管支周囲線維症、間質性肺疾患、肺がん、がん線維性肺疾患、慢性閉塞性肺疾患、急性下肢動脈塞栓症、末梢動脈疾患、末梢気道疾患、肺気腫、腎盂腎炎、糸球体硬化症、糸球体腎炎、メサンギウム増殖糸球体腎炎、糖尿病性ネフロパシー、腎性全身性線維症、慢性腎臓病、特発性後腹膜線維症、腎疾患、強皮症、腎間質線維症、女性不妊症、多嚢胞性卵巣症候群、卵巣機能不全、早期卵巣機能不全、卵巣がん、乳がん、子宮体がん、前立腺がん、男性不妊症、肝疾患、肝硬変、非アルコール性脂肪肝炎、肝がん、アテローム血栓性脳梗塞、アテローム性動脈硬化症、内頸動脈狭窄症、大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、心血管疾患、狭心症、うっ血性心不全、急性心不全、慢性心不全、虚血性心疾患、拡張型心筋症、心サルコイドー
シス、高血圧、肺動脈性肺高血圧症、肺性心、心筋炎、血管狭窄心線維症、心筋梗塞後心線維症、心筋梗塞後左心室肥大、関節リウマチ、生活習慣病、脂質異常症、アルツハイマー病、血管性認知症、脳梗塞、脳腫瘍、脳血管障害、ぶどう膜炎、内分泌疾患、骨粗しょう症、舌がん、口腔がん、咽頭がん、食道がん、胃がん、大腸がん、直腸がん、膵臓がん、網膜色素変性症、糖尿病黄斑浮腫、レーバー先天性黒内障、シュタルガルト症、アッシャー症候群、コロイデレミア、桿体錐体ジストロフィー、錐体ジストロフィー、進行性網膜萎縮、黄斑ジストロフィー症、脈絡膜硬化症、全脈絡膜萎縮症、類嚢胞黄斑浮腫、ブドウ膜炎、網膜剥離、黄斑円孔、黄斑部毛細血管拡張症、緑内障、視神経症、虚血性網膜疾患、未熟児網膜症、網膜血管閉塞症、および網膜細動脈瘤から選択される疾患の診断、治療、または予防に用いるための、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
糖尿病、耐糖能異常、網膜症、腎症、糖尿病に伴う合併症、末梢神経障害、下肢壊疽、動脈硬化、血栓症、非アルコール性脂肪性肝疾患、非アルコール性脂肪肝炎、がん、不妊症、多嚢胞性卵巣症候群、卵巣機能障害、中枢神経障害、およびアルツハイマー病を含む神経変性疾患から選択される疾患の診断、治療、または予防に用いるための、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項12】
疾患が、メラノーマ、肺がん、および肝臓がんから選択されるがんである、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
眼疾患の診断、治療、または予防に用いるための、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項14】
眼疾患が、糖尿病網膜症、糖尿病白内障、網膜色素変性症、糖尿病黄斑浮腫、レーバー先天性黒内障、シュタルガルト症、アッシャー症候群、コロイデレミア、桿体錐体ジストロフィー、錐体ジストロフィー、進行性網膜萎縮、加齢黄斑変性症、黄斑ジストロフィー症、脈絡膜硬化症、全脈絡膜萎縮症、類嚢胞黄斑浮腫、ブドウ膜炎、網膜剥離、黄斑円孔、黄斑部毛細血管拡張症、緑内障、視神経症、虚血性網膜疾患、未熟児網膜症、網膜血管閉塞症、および網膜細動脈瘤から選択される、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
請求項1~8のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片をコードする、核酸。
【請求項16】
請求項15に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項17】
請求項16の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項18】
式(I)または(II):
【化5】
[式中、R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子、および保護基から選択され、
X
1およびX
2は、-O-、または-NH-を表し;
Y
1およびY
2は、水素原子、保護基、または基:
【化6】
を表し;
R
5およびR
6は、それぞれ独立に、水素原子、および保護基から選択される]
の化合物、そのカチオンラジカル、またはそのジカチオン、またはその塩。
【請求項19】
1)α位のアミノ基が保護されたリシンおよびグリセルアルデヒドを反応させて、反応混合物を得ること;
2)反応混合物を分画し、式(Ia)、(Ib)、(IIa)、または(IIb):
【化7】
[式中、R
1、R
3、およびR
6は、保護基である]
で表される化合物を含む画分を得ること
3)当該画分を用いて動物への免疫を行い、当該画分を抗原とする抗体を得ること
を含む、抗体の製造方法
(ただし、動物はヒトを除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、終末糖化産物(AGEs)、特にグリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsのエピトープと結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合断片に関する。
【背景技術】
【0002】
終末糖化産物(AGEs)は、生体内でアミノ酸、主にリシンのアミノ基が還元糖によって非酵素的に修飾された後、酸化・脱水・縮合などの複雑な反応を経て生成する物質の総称である。加齢や高血糖状態で生成するAGEsは糖尿病合併症や動脈硬化などの生活習慣病と関連していると考えられている。特に、糖代謝中間体のグリセルアルデヒドに由来するAGEs(グリセルAGEs;Glycer-AGEs)は、診断、予防において有用なバイオマーカーとして注目されている(非特許文献1~3)。
【0003】
AGEsに含まれる構造はいくつか特定されており、その一つであるカルボキシメチルリシン(Nε-(カルボキシメチル)リシン、CML)は、グルコースとリシンの反応で生成するアマドリ化合物の糖部分が遷移金属の存在下で酸化的に解裂してエリスロン酸とともに生成される物質として同定されている。AGEs研究の歴史から、AGEsの定量は構造が明らかになっているCMLの定量で代替されてきた。In vitroにおけるCMLの主な生成経路は、シッフ塩基あるいはアマドリ化合物の酸化的開裂によると考えられている。また、CMLはグリオキサール(GO)およびグリコールアルデヒドを前駆体とする分子内カニッツァロ反応やグルコースの自動酸化によっても生成することが知られている。タンパク質中のCMLは酸加水分解に安定なこともあり、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法やガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS)法で定量することが可能である(非特許文献1)。AGEsに含まれる構造についていくつかの報告がされている(特許文献1~3)。
【0004】
エンザイムイムノアッセイ(EIA)法によるAGEsの定量として、ウシ血清アルブミン(BSA)を用いて作製したAGEs(AGEs含有ウシ血清アルブミン、AGEs-BSA)を抗原とする、抗AGEs-BSA抗体を用いた競合enzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)法に始まるが、後にこれらの抗体はCML構造をエピトープとする抗CML抗体であることが判明した(非特許文献1)。一方で、ウサギ血清アルブミン(RSA)にグリセルアルデヒド、グリコールアルデヒド、メチルグリオキサール、またはグリオキサールを添加してそれぞれ作製したAGEsを抗原として抗血清を調製し、得られた抗血清を精製してCML非結合性の画分を得たとの報告がされている(非特許文献4)。当該画分として得られたポリクローナル抗体を用いたELISAアッセイが行われており、CML以外のAGEsの定量方法として利用されている(非特許文献5および6)。
【0005】
例えば、不妊治療の成否とグリセルアルデヒド由来AGEs(Glycer-AGEs)との相関についての研究がされており、血中のGlycer-AGEs量が高いと継続妊娠率が不良であるとの報告がされている(非特許文献1~3、5および6)。また、AGEsが内皮間葉転換(endothelial-to-mesenchymal transition)を誘導すること、および内皮間葉転換が心血管疾患や線維性疾患の発生に関与することが報告されている(非特許文献13および14)。そういった研究においては、上述のポリクローナル抗体のうちの抗グリセルアルデヒド由来AGEs抗体を用いたELISAアッセイが利用されている(非特許文献5および6)。AGEsに結合活性を有する抗体についていくつかの報告がされている(特許文献4~6)。
【0006】
各種AGEsの具体的な化学構造について多くの報告がされている(例えば、非特許文献8~12および15)。また、グリセルアルデヒド由来のAGEsを抗原としたモノクローナル抗体の作製について報告がされている(非特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-316389号公報;
【文献】特開2003-300961号公報;
【文献】特開2004-250404号公報;
【文献】特開2006-312621号公報;
【文献】特開2017-043595号公報;
【文献】特開2019-041668号公報;
【非特許文献】
【0008】
【文献】金沢医科大学雑誌、37(4):141-161、2012;
【文献】金沢医科大学雑誌、40(2/3):95-103、2015;
【文献】Diagnostics 6(2), 23, 2016; doi:10.3390;
【文献】Molecular Medicine, 6(2): 114-125, 2000;
【文献】Human Reproduction, 26(3), 604-610, 2011;
【文献】日本未病システム学会雑誌、21(1):93-96、2015;
【文献】Immunology Letters 167(2), 141-146, 2015;
【文献】Biosci. Biotechnol. Biochem. 67(4), 930-932, 2003;
【文献】J. Agric. Food Chem. 47(2), 379-390, 1999;
【文献】J. Agric. Food Chem. 25(6),1282-1287, 1977;
【文献】Agric. Biol. Chem.49(11),3131-3137;
【文献】Biochem. J. 369(3), 705-719, 2003;
【文献】Biomed. Res. Int. 684242,2015;
【文献】Int. J. Mol. Sci. 18(10), 2017。
【文献】Free Radic. Biol. Med. 29(6), 557-567, 2000。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、AGEs、特にグリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsに対して高い選択性および親和性を有するモノクローナル抗体、およびそれを利用した分析方法を提供することである。本発明のさらなる目的は、生体に障害を与えるか疾患の原因となるAGEsに含まれる化学構造をエピトープとするモノクローナル抗体、およびそれを利用した分析方法を提供することである。さらに本発明の目的は、前記モノクローナル抗体を用いた疾患の診断方法、治療方法および予防方法、特に不妊症または眼疾患の診断方法、治療方法、および予防方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、研究の結果、特定のモノクローナル抗体が、良好な選択性および抗原への高い結合性を有し、分析方法や診断方法、治療方法および予防方法に利用可能であることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明により、以下の発明が提供される。
【0012】
[A1]1)重鎖可変領域の相補性決定領域(VH CDR1、VH CDR2、およびVH CDR3)および軽鎖可変領域の相補性決定領域(VL CDR1、VL CDR2、およびVL CDR3)のアミノ酸配列が、
(a)VH CDR1:配列番号:1に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(b)VH CDR2:配列番号:2に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(c)VH CDR3:配列番号:3に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(d)VL CDR1:配列番号:5に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(e)VL CDR2:配列番号:6に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(f)VL CDR3:配列番号:7に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列
を含む、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
または
2)グリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsのエピトープとの結合について、前記抗体またはその抗原結合断片と交差競合する抗体またはその抗原結合断片である、
グリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsのエピトープと結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【0013】
[A2]式(I)または(II):
【化1】
[式中、R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子、保護基、およびアミノ酸残基数1~1000のペプチド基から選択され、
X
1およびX
2は、-O-、または-NH-を表し;
Y
1およびY
2は、水素原子、保護基、または基:
【0014】
【化2】
を表し;
R
5およびR
6は、それぞれ独立に、水素原子、保護基、およびアミノ酸残基数1~1000のペプチド基から選択される]
の化合物、そのカチオンラジカル、またはそのジカチオンと結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【0015】
[A3]1)重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列が、
配列番号:4のアミノ酸配列またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列、および配列番号:8のアミノ酸配列またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;または
2)グリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsのエピトープとの結合について、前記抗体またはその抗原結合断片と交差競合する抗体またはその抗原結合断片である、[A1]に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【0016】
[A4]前記エピトープがグリセルアルデヒド由来AGEsのエピトープである、[A1]~[A3]のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【0017】
[A5]完全長抗体、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、scFv、dsFv、ダイアボディ、またはsc(Fv)2である、[A1]~[A4]のいずれかに記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【0018】
[A6]マウス抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、またはその抗原結合断片である、[A1]~[A5]のいずれかに記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【0019】
[A7]1×10-5M以下の解離定数(Kd値)でグリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsのエピトープと結合する、[A1]~[A6]のいずれかに記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【0020】
[A8][A1]~[A7]のいずれかに記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を含む医薬組成物。
【0021】
[A9]肥満、糖尿病、糖尿病網膜症、糖尿病白内障、糖尿病神経障害、糖尿病心筋症、糖尿病血管合併症、糖尿病性腎症、糖尿病性腎臓疾患、糖尿病足病変、糖尿病ケトアシドーシス、歯周病、加齢黄斑変性症、肺線維症、特発性肺線維症、細気管支周囲線維症、間質性肺疾患、肺がん、がん線維性肺疾患、慢性閉塞性肺疾患、急性下肢動脈塞栓症、末梢動脈疾患、末梢気道疾患、肺気腫、腎盂腎炎、糸球体硬化症、糸球体腎炎、メサンギウム増殖糸球体腎炎、糖尿病性ネフロパシー、腎性全身性線維症、慢性腎臓病、特発性後腹膜線維症、腎疾患、強皮症、腎間質線維症、女性不妊症、多嚢胞性卵巣症候群、卵巣機能不全、早期卵巣機能不全、卵巣がん、乳がん、子宮体がん、前立腺がん、男性不妊症、肝疾患、肝硬変、非アルコール性脂肪肝炎、肝がん、アテローム血栓性脳梗塞、アテローム性動脈硬化症、内頸動脈狭窄症、大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、心血管疾患、狭心症、うっ血性心不全、急性心不全、慢性心不全、虚血性心疾患、拡張型心筋症、心サルコイドーシス、高血圧、肺動脈性肺高血圧症、肺性心、心筋炎、血管狭窄心線維症、心筋梗塞後心線維症、心筋梗塞後左心室肥大、関節リウマチ、生活習慣病、脂質異常症、アルツハイマー病、血管性認知症、脳梗塞、脳腫瘍、脳血管障害、ぶどう膜炎、内分泌疾患、骨粗しょう症、舌がん、口腔がん、咽頭がん、食道がん、胃がん、大腸がん、直腸がん、膵臓がんから選択される疾患の診断、治療、または予防に用いるための、[A8]に記載の医薬組成物。
【0022】
[A10]糖尿病、耐糖能異常、網膜症、腎症、糖尿病に伴う合併症、末梢神経障害、下肢壊疽、動脈硬化、血栓症、非アルコール性脂肪性肝疾患、非アルコール性脂肪肝炎、がん、不妊症、多嚢胞性卵巣症候群、卵巣機能障害、中枢神経障害、およびアルツハイマー病
を含む神経変性疾患から選択される疾患の診断、治療、または予防に用いるための、[A8]に記載の医薬組成物。
【0023】
[A11]疾患が、メラノーマ、肺がん、および肝臓がんから選択されるがんである、[A8]に記載の医薬組成物。
【0024】
[A12][A1]~[A7]のいずれかに記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片をコードする、核酸。
【0025】
[A13][A12]に記載の核酸を含む発現ベクター。
【0026】
[A14][A13]の発現ベクターを含む宿主細胞。
【0027】
[A15]式(I)または(II):
【0028】
【化3】
[式中、R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子、保護基、およびアミノ酸残基数1~1000のペプチド基から選択され、
X
1およびX
2は、-O-、または-NH-を表し;
Y
1およびY
2は、水素原子、保護基、または基:
【0029】
【化4】
を表し;
R
5およびR
6は、それぞれ独立に、水素原子、保護基、およびアミノ酸残基数1~1000のペプチド基から選択される]
の化合物、そのカチオンラジカル、またはそのジカチオン、またはその塩。
【0030】
[A16]1)α位のアミノ基が保護されたリシンおよびグリセルアルデヒドを反応させて、反応混合物を得ること;
2)反応混合物を分画し、式(Ia)、(Ib)、(IIa)、または(IIb):
【0031】
【化5】
[式中、R
1、R
3、およびR
6は、保護基である]
で表される化合物を含む画分を得ること
3)当該画分を用いて動物への免疫を行い、当該画分を抗原とする抗体を得ること
を含む、抗体の製造方法。
【0032】
[B1]式(XI)または(XII):
【化6】
[式中、R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子、保護基、およびアミノ酸残基数1~1000のペプチド基から選択され、
Q
1は、水素原子、または基-CH
2-X
1-Y
1を表し;
Q
2は、水素原子、または基-CH
2-X
2-Y
2を表し;
X
1およびX
2は、-O-、または-NH-を表し;
Y
1およびY
2は、水素原子、保護基、または基:
【0033】
【化7】
を表し;
R
5およびR
6は、それぞれ独立に、水素原子、保護基、およびアミノ酸残基数1~1000のペプチド基から選択される]
の化合物、そのカチオンラジカル、またはそのジカチオンと結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【0034】
[B2]式(I)または(II):
【0035】
【化8】
[式中、R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子、保護基、およびアミノ酸残基数1~1000のペプチド基から選択され、
X
1およびX
2は、-O-、または-NH-を表し;
Y
1およびY
2は、水素原子、保護基、または基:
【0036】
【化9】
を表し;
R
5およびR
6は、それぞれ独立に、水素原子、保護基、およびアミノ酸残基数1~1000のペプチド基から選択される]
の化合物、そのカチオンラジカル、またはそのジカチオンと結合する、[B1]に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【0037】
[B3](1)重鎖可変領域の相補性決定領域(VH CDR1、VH CDR2、およびVH CDR3)または軽鎖可変領域の相補性決定領域(VL CDR1、VL CDR2、およびVL CDR3)のアミノ酸配列が、
(1-1H)
(a)VH CDR1:配列番号:1に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(b)VH CDR2:配列番号:2に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;および
(c)VH CDR3:配列番号:3に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(1-1L)
(d)VL CDR1:配列番号:5に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(e)VL CDR2:配列番号:6に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;および
(f)VL CDR3:配列番号:7に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(1-2H)
(g)VH CDR1:配列番号:15に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(h)VH CDR2:配列番号:16に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;および
(i)VH CDR3:配列番号:17に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;または
(1-2L)
(j)VL CDR1:配列番号:19に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(k)VL CDR2:配列番号:20に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(l)VL CDR3:配列番号:21に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
を含む、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片;
または
(2)グリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsのエピトープとの結合について、前記(1)のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片と交差競合するモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であり、
グリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsに含まれるエピトープと結合する、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【0038】
[B4](1)重鎖可変領域の相補性決定領域(VH CDR1、VH CDR2、およびVH CDR3)および軽鎖可変領域の相補性決定領域(VL CDR1、VL CDR2、およびVL CDR3)のアミノ酸配列が、
(1-1)
(a)VH CDR1:配列番号:1に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(b)VH CDR2:配列番号:2に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(c)VH CDR3:配列番号:3に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(d)VL CDR1:配列番号:5に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(e)VL CDR2:配列番号:6に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;および
(f)VL CDR3:配列番号:7に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;もしくは
(1-2)
(g)VH CDR1:配列番号:15に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(h)VH CDR2:配列番号:16に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(i)VH CDR3:配列番号:17に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(j)VL CDR1:配列番号:19に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(k)VL CDR2:配列番号:20に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(l)VL CDR3:配列番号:21に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
を含む、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片;
または
(2)グリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsのエピトープとの結合について、前記(1)のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片と交差競合するモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であり、
グリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsに含まれるエピトープと結合する、[B1]~[B3]のいずれかに記載の、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【0039】
[B5](1)重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列が、
配列番号:4のアミノ酸配列またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列、および/または配列番号:8のアミノ酸配列またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;もしくは
配列番号:18のアミノ酸配列またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列、および/または配列番号:22のアミノ酸配列またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
または
(2)グリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsのエピトープとの結合について、前記(1)に記載の抗体またはその抗原結合断片と交差競合する抗体またはその抗原結合断片であり、
グリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsに含まれるエピトープと結合する、[B1]~[B4]のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【0040】
[B6]グリセルアルデヒド由来AGEsに含まれるエピトープと結合する、[B1]~[B5]のいずれかに記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【0041】
[B7]完全長抗体、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、scFv、dsFv、ダイアボディ、またはsc(Fv)2である、[B1]~[B6]のいずれかに記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【0042】
[B8]マウス抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、またはその抗原結合断片である、[B1]~[B7]のいずれかに記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【0043】
[B9]1×10-5M以下の解離定数(Kd値)でグリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsのエピトープと結合する、[B1]~[B8]のいずれかに記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【0044】
[B10][B1]~[B9]のいずれかに記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を含む医薬組成物。
【0045】
[B11]肥満、糖尿病、糖尿病網膜症、糖尿病白内障、糖尿病神経障害、糖尿病心筋症、糖尿病血管合併症、糖尿病性腎症、糖尿病性腎臓疾患、糖尿病足病変、糖尿病ケトアシドーシス、歯周病、加齢黄斑変性症、肺線維症、特発性肺線維症、細気管支周囲線維症、間質性肺疾患、肺がん、がん線維性肺疾患、慢性閉塞性肺疾患、急性下肢動脈塞栓症、末梢動脈疾患、末梢気道疾患、肺気腫、腎盂腎炎、糸球体硬化症、糸球体腎炎、メサンギウム増殖糸球体腎炎、糖尿病性ネフロパシー、腎性全身性線維症、慢性腎臓病、特発性後腹膜線維症、腎疾患、強皮症、腎間質線維症、女性不妊症、多嚢胞性卵巣症候群、卵巣機能不全、早期卵巣機能不全、卵巣がん、乳がん、子宮体がん、前立腺がん、男性不妊症、肝疾患、肝硬変、非アルコール性脂肪肝炎、肝がん、アテローム血栓性脳梗塞、アテローム性動脈硬化症、内頸動脈狭窄症、大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、心血管疾患、狭心症、うっ血性心不全、急性心不全、慢性心不全、虚血性心疾患、拡張型心筋症、心サルコイドーシス、高血圧、肺動脈性肺高血圧症、肺性心、心筋炎、血管狭窄心線維症、心筋梗塞後心線維症、心筋梗塞後左心室肥大、関節リウマチ、生活習慣病、脂質異常症、アルツハイマー病、血管性認知症、脳梗塞、脳腫瘍、脳血管障害、ぶどう膜炎、内分泌疾患、骨粗しょう症、舌がん、口腔がん、咽頭がん、食道がん、胃がん、大腸がん、直腸がん、膵臓がん、網膜色素変性症、レーバー先天性黒内障、シュタルガルト症、アッシャー症候群、コロイデレミア、桿体錐体ジストロフィー、錐体ジストロフィー、進行性網膜萎縮、黄斑ジストロフィー症、脈絡膜硬化症、全脈絡膜萎縮症、類嚢胞黄斑浮腫、ブドウ膜炎、網膜剥離、黄斑円孔、黄斑部毛細血管拡張症、緑内障、視神経症、虚血性網膜疾患、未熟児網膜症、網膜血管閉塞症、および網膜細動脈瘤から選択される疾患の診断、治療、または予防に用いるための、[B10]に記載の医薬組成物。
【0046】
[B12]糖尿病、耐糖能異常、網膜症、腎症、糖尿病に伴う合併症、末梢神経障害、下肢壊疽、動脈硬化、血栓症、非アルコール性脂肪性肝疾患、非アルコール性脂肪肝炎、がん、不妊症、多嚢胞性卵巣症候群、卵巣機能障害、中枢神経障害、およびアルツハイマー病を含む神経変性疾患から選択される疾患の診断、治療、または予防に用いるための、[B10]に記載の医薬組成物。
【0047】
[B13]疾患が、メラノーマ、肺がん、および肝臓がんから選択されるがんである、[B12]に記載の医薬組成物。
【0048】
[B14]眼疾患の診断、治療、または予防に用いるための、[B10]に記載の医薬組成物。
【0049】
[B15]眼疾患が、糖尿病網膜症、糖尿病白内障、網膜色素変性症、糖尿病黄斑浮腫、レーバー先天性黒内障、シュタルガルト症、アッシャー症候群、コロイデレミア、桿体錐体ジストロフィー、錐体ジストロフィー、進行性網膜萎縮、加齢黄斑変性症、黄斑ジストロフィー症、脈絡膜硬化症、全脈絡膜萎縮症、類嚢胞黄斑浮腫、ブドウ膜炎、網膜剥離、黄斑円孔、黄斑部毛細血管拡張症、緑内障、視神経症、虚血性網膜疾患、未熟児網膜症、網膜血管閉塞症、および網膜細動脈瘤から選択される、[B14]に記載の医薬組成物。
【0050】
[B16][B1]~[B9]のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片をコードする、核酸。
【0051】
[B17][B16]に記載の核酸を含む発現ベクター。
【0052】
[B18][B17]の発現ベクターを含む宿主細胞。
【0053】
[B19]式(I)または(II):
【化10】
[式中、R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子、保護基、および
アミノ酸残基数1~1000のペプチド基から選択され、
X
1およびX
2は、-O-、または-NH-を表し;
Y
1およびY
2は、水素原子、保護基、または基:
【0054】
【化11】
を表し;
R
5およびR
6は、それぞれ独立に、水素原子、保護基、およびアミノ酸残基数1~1000のペプチド基から選択される]
の化合物、そのカチオンラジカル、またはそのジカチオン、またはその塩。
【0055】
[B20]1)α位のアミノ基が保護されたリシンおよびグリセルアルデヒドを反応させて、反応混合物を得ること;
2)反応混合物を分画し、式(Ia)、(Ib)、(IIa)、または(IIb):
【0056】
【化12】
[式中、R
1、R
3、およびR
6は、保護基である]
で表される化合物を含む画分を得ること
3)当該画分を用いて動物への免疫を行い、当該画分を抗原とする抗体を得ること
を含む、抗体の製造方法。
【発明の効果】
【0057】
AGEsの中でも、グリセルアルデヒド由来のAGEs(Glycer-AGEs)は、糖尿病、特に糖尿病血管合併症、糖尿病網膜症、糖尿病性腎症、および糖尿病大血管症などに関わることが報告されている。さらに、Glycer-AGEsは高血圧症、アルツハイマー病などの認知症、がん(例えば肝臓がん、膵臓がん、子宮がん、結腸がん、直腸がん、乳がん、膀胱がん、悪性黒色腫、および肺がん)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、不妊症などに慣用することが報告されている。したがって、Glycer-AGEsはこれらの疾患の診断のためのバイオマーカーとして使用することができ、本発明の抗体はバイオマーカーの検出において使用することができる。
【0058】
さらに本発明にかかる抗体は、生体におけるGlycer-AGEsの効果を中和するために使用することができ、疾患の治療などにおいても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【
図1】
図1は、ELISA直接法による、新規モノクローナル抗体(SJ-5)と抗グリセルアルデヒド由来AGEsポリクローナル抗体の反応性比較試験の結果を示すグラフである。
【
図2】
図2は、ELISA直接法による、抗Glycer-AGEsポリクローナル抗体の反応性確認試験の結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、ELISA直接法による、POD標識化SJ-5抗体の反応性確認試験の結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、ELISA競合法によるSJ-5の特異性の確認試験において、固相化抗原としてGAL13-BSAを用いたときの結果を示す図である。
【
図5】
図5は、ELISA競合法によるSJ-5抗体の特異性の確認試験において、固相化抗原としてGlycer-AGEs-BSAを用いたときの結果を示す図である。
【
図6】
図6は、Glycer-AGEs-Z-LysのHPLCによる分析結果を示す図である(ダイオードアレイ検出(260nm))。
【
図7】
図7は、Glycer-AGEs-Z-LysのHPLCによる分析結果を示す図である(蛍光検出(Ex350nm、Em450nm))。
【
図8】
図8は、GAL13の質量分析の結果を示すチャートである。
【
図9】
図9は、GAL13について電子スピン共鳴(ESR)を測定した結果を示す図である。
【
図10】
図10は、GAL13を含むサンプルの3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)を用いた酸化活性の確認試験の結果を示すグラフである。
【
図11】
図11は、競合ELISAによるSJ-5抗体とGLAPの反応性評価試験の結果を示すグラフである。
【
図12】
図12は、新規なモノクローナル抗体であるSJ-5の重鎖可変領域と軽鎖可変領域のアミノ酸配列を示す図である。下線を付した箇所はCDRに該当する。
【
図13】
図13は実施例14の内皮細胞管腔形成抑制試験において8時間培養したHUVECの形態を示す写真である。
【
図14】
図14は実施例15のSJ-5を用いたGlycer-AGEs-BSAによる内皮間葉転換阻害試験におけるα-SMAの発現量を示すグラフである。
【
図15】
図15は実施例15のSJ-5を用いたGlycer-AGEs-BSAによる内皮間葉転換阻害試験におけるCD31の発現量を示すグラフである。
【
図16】
図16は実施例16で調製したGlycer-AGEs-Z-Lysの反応液のLC/MSの分析結果を示す(ダイオードアレイ検出(260nm))。
【
図17】
図17は実施例16で調製したHPLC分取時のGlycer-AGEs-Z-LysのUVスペクトルを示す。
【
図18】
図18は実施例16で調製したHPLC分取時のGlycer-AGEs-Z-LysのMSスペクトルを示す。
【
図19】
図19は、実施例18の競合ELISAによる新規モノクローナル抗体とGAL691、Lys-ヒドロキシ-トリオシジンの反応性評価の結果を示すグラフである。
【
図20A】
図20Aは、実施例19で行ったGAL691のESRスペクトルの測定結果を示す図である。
【
図20B】
図20Bは、亜硫酸ナトリウムを添加したGAL691のESRスペクトルの測定結果を示す図である。
【
図20D】
図20Dは、Lys-ヒドロキシ-トリオシジンのESRスペクトルの測定結果を示す図である。
【
図21】
図21は、GAL691のDABに対する酸化活性に関して、白色光照射の影響を確認するための試験結果を示すグラフである。
【
図22】
図22は、実施例21で行ったGAL691の光増感作用による一重項酸素の生成を確認するための試験の結果を示すグラフである。
【
図23】
図23は、実施例22で行ったGAL691の光増感作用による一重項酸素の生成を確認するための試験の結果を示すグラフである。
【
図24】
図24は、実施例23で行ったGAL691の光増感作用によるスーパーオキシドアニオンの生成を確認するための試験の結果を示すグラフである。
【
図25】
図25は、モノクローナル抗体PB-1の可変領域のアミノ酸配列を示す図である。下線を付した箇所はCDR配列を示す。
【
図26A】
図26Aは、固相化抗原としてA-peak-BSAを用いたときのPB-1抗体の特異性を確認する試験の結果を示すグラフである。
【
図26B】
図26Bは、固相化抗原としてGlycer-AGEs-BSAを用いたときのPB-1抗体の特異性を確認する試験の結果を示すグラフである。
【
図27】
図27は、競合ELISAによる新規モノクローナル抗体PB-1の公知のAGEsとの反応性評価試験の結果を示すグラフである。
【
図28】
図28は、A-peak-BSAによるDAB酸化活性のPB-1抗体による抑制効果を確認するための試験の結果を示すグラフである。
【
図29】
図29は、SJ-5抗体と抗GA-ピリジンモノクローナル抗体のPB-1抗体に対する交差競合を確認する試験の結果を示すグラフである。
【
図30】
図30は、網膜色素上皮細胞(ARPE-19細胞)のタイトジャンクション崩壊抑制試験の結果を示すグラフであり、細胞間タイトジャンクションの形成を確認するためにウェル底面のインピーダンスの測定を行った結果を示すグラフである。
【
図31】
図31は、実施例35の内皮細胞管腔形成抑制試験において8時間培養したHUVECの形態を示す写真である。
【
図32】
図32は、PB-1抗体を用いて染色したマウスの網膜組織を共焦点レーザー顕微鏡にて観察した結果を示す写真である。
【
図33】
図33は、実施例37において作製したPB-1抗体カラムを用いてサンプル精製を行い、各画分を電気泳動(SDS-PAGE)にて解析した結果を示す図である。
【
図34】
図34は、実施例37において作製したPB-1抗体カラムにて精製したタンパク質を、電気泳動し(SDS-PAGE)、PVDF膜に電気転写してウェスタンブロッティングを行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
本発明の1つの側面において、本発明の抗体は単離された抗体である。単離された抗体は、天然に存在して何ら外的操作(人為的操作)が施されていない抗体、即ちある個体の体内で産生され、そこに留まっている状態の抗体は含まれない。本発明の抗体は典型的にはモノクローナル抗体、またはその抗原結合断片である。
【0061】
本発明の1つの態様において、式(XI)または(XII)で示される化合物、そのカチオンラジカル、そのジカチオン、またはその塩に結合する抗体が提供される:
【0062】
【化13】
[式中、R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子、保護基、およびアミノ酸残基数1~1000のペプチド基から選択され、
Q
1は、水素原子、または基-CH
2-X
1-Y
1を表し;
Q
2は、水素原子、または基-CH
2-X
2-Y
2を表し;
X
1およびX
2は、-O-、または-NH-を表し;
Y
1およびY
2は、水素原子、保護基、または基:
【0063】
【化14】
を表し;
R
5およびR
6は、それぞれ独立に、水素原子、保護基、およびアミノ酸残基数1~1000のペプチド基から選択される]。
【0064】
本発明の別の態様において、式(I)または(II)で示される化合物、そのカチオンラジカル、そのジカチオン、またはその塩に結合する抗体が提供される。
【0065】
【化15】
[式中、R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子、保護基、およびアミノ酸残基数1~1000のペプチド基から選択され、
X
1およびX
2は、-O-、または-NH-を表し;
Y
1およびY
2は、水素原子、保護基、または基:
【0066】
【化16】
を表し;
R
5およびR
6は、それぞれ独立に、水素原子、保護基、およびアミノ酸残基数1~1000のペプチド基から選択される]
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5およびR
6が保護基の場合、R
1、R
3およびR
6はアミノ基の保護基であり、R
2、R
4およびR
5はヒドロキシ基の保護基である。X
1またはX
2が-O-の場合、Y
1またはY
2はヒドロキシ基の保護基であってもよく、X
1またはX
2が-NH-の場合、Y
1またはY
2はアミノ基の保護基であってもよい。
【0067】
ヒドロキシの保護基の例としては、C1-6アルキル、C1-6アルコキシC1-6アルキル、アリールC1-6アルキル、ヘテロアリールC1-6アルキル、((アミノC1-6アルキル)カルボニルオキシ)C1-6アルキル、不飽和ヘテロ環カルボニルオキシC1-6アルキル、アリールジ(C1-6アルキル)シリル、トリ(C1-6アルキル)シリルなどが挙げられる。好ましいヒドロキシの保護基としては、C1-6アルキルなどが挙げられる。
【0068】
アミノの保護基の例には、C1-6アルキルカルボニル、アリールC1-6アルキルカルボニル、アリールカルボニル、ヘテロアリールカルボニル、C1-6アルコキシカルボニル、C1-6アルキルアミノカルボニル、ジ(C1-6アルキル)アミノカルボニル、アリールC1-6アルキル、ヘテロアリールC1-6アルキル、(アリールC1-6アルキル)アミノカルボニルなどが含まれる。好ましいアミノの保護基としては、ベンジルオキシカルボニル、t-ブトキシカルボニル、9-フルオレニルメトキシカルボニルなどが挙げられる。また、アミノは保護されることにより、フタル酸イミド、コハク酸イミド、グルタル酸イミド、1-ピロリルなどの飽和または不飽和へテロ環基を形成していてもよい。
【0069】
本明細書におけるペプチド基は、特に限定はされないが、例えばアミノ酸残基数1~10000、1~5000、1~3000、1~2000、1~1000、1~500、1~100のペプチド基を意味する。アミノ酸残基としては、天然アミノ酸から選択される。
【0070】
式(I)または(II)で表される化合物は、側鎖のアミノ基が保護されたリシンを用いて調製することができる。式(I)または(II)の構造式で表される範囲は以下の式で表される化合物を包含する。
【0071】
【0072】
【化18】
式中、R
1、R
3、およびR
6はアミノ基の保護基である。例えば、上記式において、R
1、R
3、およびR
6はベンジルオキシカルボニルである。
【0073】
式(I)および式(II)で表される化合物のカチオンラジカルは、以下の式(III)および式(IV)で表される。
【0074】
【化19】
式中、R
1、R
2、R
3、R
4、X
1、X
2、Y
1、およびY
2は、式(I)および式(II)において定義されるとおりである。式(III)および式(IV)は、以下の式で表されるカチオンラジカルを包含する。
【0075】
【化20】
式(I)および式(II)で表される化合物のジカチオンは、以下の式(V)および式(VI)で表される。
【0076】
【化21】
式中、R
1、R
2、R
3、R
4、X
1、X
2、Y
1、およびY
2は、式(I)および式(II)において定義されるとおりである。式(V)および式(VI)は、以下の式で表されるジカチオンを包含する。
【0077】
【化22】
式(I)または(II)で表される化合物の塩は、具体的には、当該化合物のカルボキシ基において形成される塩、およびペプチド基において形成される塩を包含する。
【0078】
式(XI)および式(XII)で表される化合物のカチオンラジカルは、以下の式(XIII)および式(XIV)で表される。
【0079】
【化23】
式中、R
1、R
2、R
3、R
4、Q
1、およびQ
2は、式(XI)および式(XII)において定義されるとおりである。
【0080】
式(XI)および式(XII)で表される化合物のジカチオンは、以下の式(XV)および式(XVI)で表される。
【0081】
【化24】
式中、R
1、R
2、R
3、R
4、Q
1、およびQ
2は、式(XI)および式(XII)において定義されるとおりである。
【0082】
式(XI)、または(XII)で表される化合物の塩は、具体的には、当該化合物のカルボキシ基において形成される塩、およびペプチド基において形成される塩を包含する。本明細書に記載のカチオンラジカル、およびジカチオンは、適切なアニオンを含んでいてもよい。
【0083】
アミノ酸配列に関して使用する用語「実質的に同一」とは、比較される二つのアミノ酸配列間で配列上の相違が比較的小さく且つ配列上の相違が抗原に対する特異的結合性に関して実質的な影響を与えないことを意味する。実質的に同一なアミノ酸配列はアミノ酸配列の一部の改変を含んでいてもよく、例えば、アミノ酸配列を構成する1~数個(例えば、1~3個)のアミノ酸の欠失、置換、若しくは1~数個(例えば、1~3個)のアミノ酸の付加、挿入、又はこれらの組合せによりアミノ酸配列が改変されていてもよい。アミノ酸配列の変異の位置は特に限定されず、複数の位置で変異を生じていてもよい。アミノ酸配列において改変されるアミノ酸の数は示された全アミノ酸の例えば10%以内に相当する数であり、好ましくは全アミノ酸の5%以内に相当する数である。さらに好ましくは全アミノ酸の1%以内に相当する数である。
【0084】
アミノ酸を置換する場合には、置換するアミノ酸の側鎖と類似の生化学的特性を持った側鎖を有するアミノ酸と置換することができる(保存的アミノ酸置換)。1つの態様において、実質的に同一なアミノ酸配列は、例えば、1つもしくは複数の保存的置換を含んでいてもよい。保存的アミノ酸置換は当業者に知られており、例えば以下の表に示す例が挙げられる(例えば、WO2010/146550など)。
【0085】
【0086】
1つの態様において、80%以上、85%以上、90%以上または95%以上の同一性を有する2つのアミノ酸配列は、実質的に同一である。別の態様において、80%以上、85%以上、90%以上または95%以上の同一性を有する2つのアミノ酸配列は、置換が上記表に示す保存的置換か例示的置換に示されるアミノ酸を用いて置換されている場合は、実質的に同一である。さらに別の態様において、80%以上、85%以上、90%以上または95%以上の同一性を有する2つのアミノ酸配列は、置換が上記表の保存的置換に示されるアミノ酸を用いて置換されている場合は、実質的に同一である。
【0087】
また、天然に存在するアミノ酸は、共通の側鎖特性に基づいて以下の群に分類される:
(1)非極性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile、
(2)極性、荷電なし:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln、
(3)酸性(負荷電):Asp、Glu、
(4)塩基性(正荷電):Lys、Arg、His、
(5)鎖の配向に影響を与える残基:Gly、Pro、および
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。
【0088】
1つの態様として、置換するアミノ酸と同じ群に属するアミノ酸を用いて置換してもよい。
【0089】
1つの態様において、80%以上、85%以上、90%以上または95%以上の同一性を有する2つのアミノ酸配列は、実質的に同一である。別の態様において、80%以上、85%以上、90%以上または95%以上の同一性を有する2つのアミノ酸配列は、置換がアミノ酸と上記の群と同じ群に属するアミノ酸を用いて置換されている場合は、実質的に同一である。
【0090】
二つのアミノ酸配列が実質的に同一であるか否かは、各アミノ酸配列を含む抗体(他の領域の配列は同一)の抗原に対する結合特異性を比較することによって判定できる。例えば、基準となる抗体の生理食塩水環境下での抗原に関する解離定数(Kd値)をAとしたとき、比較対象の抗体のKd値がA×10-1~A×10の範囲であれば実質的な同一性を認定できる。
【0091】
本発明に係る核酸は、典型的には、単離された核酸であり、例えばcDNA分子など遺伝子組み換え技術によって生産される核酸の場合の「単離された核酸」は好ましくは、細胞成分や培養液などを実質的に含まない状態の核酸をいう。同様に、化学合成によって生産される核酸の場合の「単離された核酸」は好ましくは、dNTPなどの前駆体(原材料)や合成過程で使用される化学物質等を実質的に含まない状態の核酸をいう。
【0092】
本明細書における用語「核酸」はDNA(cDNAおよびゲノムDNAを含む)、RNA(mRNAを含む)、DNA類似体、およびRNA類似体を含む。本発明の核酸の形態は限定されず、即ち1本鎖および2本鎖のいずれであってもよい。好ましくは2本鎖DNAである。またコドンの縮重も考慮される。即ちタンパク質をコードする核酸の場合には、その発現産物として当該タンパク質が得られる限り任意の塩基配列を有していてよい。
【0093】
AGEsはタンパク質の糖化反応により形成される。グルコースやフルクトースなどの還元糖とタンパク質の遊離のアミノ基が非酵素的に反応してシッフ塩基からアマドリ化合物を生成し、その後不可逆的な脱水や縮合、酸化、還元などの反応を繰り返し、特有の蛍光を持つ黄褐色の複雑な物質AGEsが生成するに至る。一方で、リシンなどのアミノ酸残基が糖と反応して得られる化合物がAGEsの構造として特定されており、蛍光を有さないピラリン、Nε-カルボキシメチルリシン(CML)、Nε-カルボキシエチルリシン(CEL)、およびNω-カルボキシメチルアルギニン(CMA)などもAGEsとして知られている。その他、芳香環を有するアルグピリミジン、ペントシジン、クロスリン、GA-ピリジン、ベスペルリシン、ピロピリジンなどの化合物がAGEsとして特定されている。これらの化合物をアミノ酸残基として含有するペプチドやタンパク質もAGEsに含まれる。
【0094】
AGEsを形成するタンパク質糖化反応の基質としては、グルコース、フルクトースなどの還元糖の他に、生体内の糖代謝などにより生成する、グリセルアルデヒド、グリコールアルデヒド、メチルグリオキサール、グリオキサール、および3-デオキシグルコソンなどが想定されている。こうした還元糖およびアルデヒドを使用し、BSAなどのタンパク質と反応させてAGEsを形成する試みがされている。このようにして調製されるグリセルアルデヒド由来AGEs(Glycer-AGEs)、グルコース由来AGEs(Glu-AGEs)、グリコールアルデヒド由来AGEs(Glycol-AGEs)、フルクトース由来AGEs(Fru-AGEs)、メチルグリオキサール由来AGEs(MGO-AGEs)、グリオキサール由来AGEs(GO-AGEs)、および3-デオキシグルコソン由来AGEs(3-DG-AGEs)などの各種AGEsのうち、グリセルアルデヒド由来AGEsは、糖尿病などの各種疾患に関与するとの報告がされており、グリセルアルデヒド由来AGEsを抗原とするポリクローナル抗体を用いた分析方法により、Glycer-AGEsの血中濃度を測定する手法が知られている。
【0095】
本発明のモノクローナル抗体は、α位のアミノ基が保護基(Z基)で保護されたリシンとグリセルアルデヒドを反応させて得られるAGEs(Glycer-AGEs-Z-Lys)を分画し、得られる特定の画分を抗原として作製することができる。また本発明のモノクローナル抗体は、グリセルアルデヒド由来AGEs(Glycer-AGEs)およびグリコールアルデヒド由来AGEs(Glycol-AGEs)に対して特異的に結合する特性を有している。
【0096】
本発明の1つの側面において、グリセルアルデヒド由来AGEs(Glycer-AGEs)および/またはグリコールアルデヒド由来AGEs(Glycol-AGEs)のエピトープと結合し、グルコース由来AGEs(Glu-AGEs)、フルクトース由来AGEs(Fru-AGEs)、メチルグリオキサール由来AGEs(MGO-AGEs)、グリオキサール由来AGEs(GO-AGEs)、および3-デオキシグルコソン由来AGEs(3-DG-AGEs)から選択される、1以上のAGEsとは結合しない、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片が提供される。より具体的には、グリセルアルデヒド由来AGEs(Glycer-AGEs)およびグリコールアルデヒド由来AGEs(Glycol-AGEs)のエピトープと結合し、グルコース由来AGEs(Glu-AGEs)、フルクトース由来AGEs(Fru-AGEs)、メチルグリオキサール由来AGEs(MGO-AGEs)、グリオキサール由来AGEs(GO-AGEs)、および3-デオキシグルコソン由来AGEs(3-DG-AGEs)とは結合しない、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片が提供される。さらに具体的には、グリセルアルデヒド由来AGEsおよびグリコールアルデヒド由来AGEsのエピトープと結合し、グルコース由来AGEs(Glu-AGEs)、フルクトース由来AGEs(Fru-AGEs)、メチルグリオキサール由来AGEs(MGO-AGEs)、グリオキサール由来AGEs(GO-AGEs)、3-デオキシグルコソン由来AGEs(3-DG-AGEs)、Nε-カルボキシメチルリシン(CML)、およびNε-カルボキシエチルリシン(CEL)とは結合しない、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片が提供される。
【0097】
本発明の1つの側面において、グリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsのエピトープと結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合断片が提供される。ここで、グリセルアルデヒド由来AGEsおよびグリコールアルデヒド由来AGEsは、グリセルアルデヒドまたはグリコールアルデヒドの存在下でBSA、マウス血清アルブミン(MSA)などのタンパク質糖化反応により生じるAGEsであり、AGEsを含むタンパク質である。本発明のモノクローナル抗体およびその抗原結合断片は、タンパク質糖化反応で生じた化学構造をエピトープとするという特徴を有している。好ましい態様において、本発明の抗体およびその抗原結合断片は、還元糖および糖代謝などで生じるアルデヒド、特にグルコース由来AGEs、フルクトース由来AGEs、メチルグリオキサール由来AGEs、グリオキサール由来AGEs、および3-デオキシグルコソン由来AGEsとは結合しない。これらのAGEsも各還元糖またはアルデヒドをBSAなどのタンパク質に添加してタンパク質糖化反応により調製される。抗体の結合特異性については、公知の手法、例えば競合ELISA法などにより特定することができる。
【0098】
本発明は、グリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsのエピトープと結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を提供し、該抗体または断片は、AGEsが関与する疾患の治療、予防および/または診断に使用することができる。本発明で使用できる抗体は、本明細書に記載のとおり、複数の形態をとることができ、本発明は、本明細書で定義するとおり6個のCDRのセット(それと実質的に同一のアミノ酸配列、例えば、1~3個のアミノ酸残基の欠失、置換、付加を含む配列を含む)を含む抗体構造を提供する。
【0099】
従来の抗体構造ユニットは、典型的には4量体を含む。各4量体は、典型的には、2つの同一のポリペプチチド鎖対からなり、各対は、1つの「軽」鎖(典型的には約25kDaの分子量を有する)と1つの「重」鎖(典型的には、約50~70kDaの分子量を有する)を有する。ヒト軽鎖は、κ軽鎖とλ軽鎖に分類される。重鎖は、μ、δ、γ、αまたはεに分類され、それぞれ、IgM、IgD、IgG、IgAおよびIgEとして抗体アイソタイプを定義する。IgGは複数のサブクラスを有し、サブクラスとしては、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4が挙げられるがこれらに限定されない。IgMは、IgM1およびIgM2を含むサブクラスを有するが、これらに限定されない。従って、本明細書で使用される場合、「アイソタイプ」は、その定常領域の化学的および抗原的特徴により定義される免疫グロブリンの任意のサブクラスを意味する。既知のヒト免疫グロブリンアイソタイプは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgM1、IgM2、IgDおよびIgEである。治療用抗体には、アイソタイプおよび/またはサブクラスのハイブリッドも含まれ得る。一つの態様において、本発明の抗体は、IgG、IgA、IgM、IgDまたはIgEであり、好ましくはIgGである。
【0100】
各鎖には、抗原認識に主に関与する約100~110以上のアミノ酸の可変領域が含まれる。可変領域では3つのループが重鎖および軽鎖の各Vドメインについて集合しており、抗原結合部位を形成する。各ループは、相補性決定領域とも称され(以下、「CDR」とも称する)、この部分におけるアミノ酸配列の変異(variation)が最も顕著である。「可変」とは、可変領域の特定のセグメントが、抗体の配列において広範囲に異なるという事実を意味する。可変領域内の可変性は、均一に分布していない。代わりに、V領域は、それぞれ9~15アミノ酸長以上の「超可変領域」と称される極度に可変性の短い領域により分離される15~30アミノ酸のフレームワーク領域(FR)と称される比較的不変のストレッチからなる。
【0101】
各VHおよびVLは、3つの超可変領域(「相補性決定領域」、「CDR」)と4つのFRからなり、以下の順序でアミノ末端からカルボキシ末端へ配置される:FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4。
【0102】
超可変領域は、一般に、軽鎖可変領域における、アミノ酸残基24~34付近(VL CDR1;「VL」は軽鎖の可変領域を意味する)、50~56付近(VL CDR2)および89~97付近(VL CDR3)と重鎖可変領域における、31~35付近(VH CDR1;「VH」は重鎖の可変領域を意味する)、50~65付近(VH CDR2)および95~102付近(VH CDR3)のアミノ酸残基;Kabat et al., SEQUENCES OF PROTEINS OF IMMUNOLOGICAL INTEREST,5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md.(1991)、および/または超可変性ループを形成するそれらの残基(例えば、軽鎖可変領域における残基26~32(VL CDR1)、50~52(VL CDR2)および91~96(VL CDR3)と、重鎖可変領域における26~32(VH CDR1)、53~55(VH CDR2)および96~101(VH CDR3);Chothia and Lesk (1987) J. Mol. Biol. 196:901-917)を包含する。
【0103】
本明細書にわたり、可変ドメインの残基(およそ、軽鎖可変領域の残基1~107および重鎖可変領域の残基1~113)について言及する場合には、Fc領域で使用されるEUナンバーシステムとともに、Kabatナンバリングシステムを通常用いる(例えば、Kabat et al., 上記(1991))。KabatナンバリングによるCDRの特定は、一般に利用可能なソフト(例えば、abYsis (http://www.abysis.org/)を用いて特定することができる。
【0104】
CDRは、抗原結合の形成に寄与し、より詳細には、抗体のエピトープ結合部位の形成に寄与する。「エピトープ」とは、抗体分子の可変領域における特異的な抗原結合部位(パラトープ)と相互作用する決定基を意味する。エピトープは、アミノ酸や糖側鎖などの分子にグループ分けされ、通常、特異的な構造特性および特異的な電荷特性を有する。本明細書で示すとおり、本発明に係る「SJ-5」または「PB-1」と本明細書で称する抗体は、上記式(XI)もしくは(XII)、または上記式(I)もしくは(II)で示される構造の一部または全部をエピトープとして抗原に結合すると考えられている。
【0105】
各種AGEsは、タンパク質(例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)、マウス血清アルブミン(MSA),ウサギ血清アルブミン(RSA)など)とアルデヒドまたは還元糖を混合し、反応をさせることにより調製することができる。例えば、グリセルアルデヒドをBSAと反応させることにより、グリセルアルデヒド由来AGEs含有BSAを調製することができ、これをAGEsの標品として使用することができる。グリセルアルデヒド由来AGEsにおいて、本発明の抗体は、例えば、グリセルアルデヒド由来AGEs含有BSAに対して結合性を有し、BSAに対して結合性を有さない抗体を選抜することにより、調製することができる。本発明の1つの側面において、本発明の抗体が結合するエピトープは、グリセルアルデヒドとタンパク質から非酵素的反応により生成する構造を含む。
【0106】
本発明の1つの側面において、以下の(1-1)および(1-2)で特定されるアミノ酸配列を重鎖可変領域および軽鎖可変領域の相補性決定領域に含む抗体、またはその抗原結合断片が提供される:
(1-1)
(a)VH CDR1:配列番号:1に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(b)VH CDR2:配列番号:2に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(c)VH CDR3:配列番号:3に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(d)VL CDR1:配列番号:5に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(e)VL CDR2:配列番号:6に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;および
(f)VL CDR3:配列番号:7に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;もしくは
(1-2)
(g)VH CDR1:配列番号:15に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(h)VH CDR2:配列番号:16に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(i)VH CDR3:配列番号:17に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(j)VL CDR1:配列番号:19に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(k)VL CDR2:配列番号:20に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(l)VL CDR3:配列番号:21に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列。
【0107】
本発明の1つの側面によれば、重鎖可変領域のアミノ酸配列が、配列番号:4のアミノ酸配列またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列であり、軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号:8のアミノ酸配列またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列であるモノクローナル抗体またはその抗原結合断片が提供される。その具体的な態様として、本発明は本明細書記載のモノクローナル抗体であるSJ-5を含む。本発明の別の側面によれば、重鎖可変領域のアミノ酸配列が、配列番号:18のアミノ酸配列またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列であり、軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号:22のアミノ酸配列またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列であるモノクローナル抗体またはその抗原結合断片が提供される。その具体的な態様として、本発明は本明細書記載のモノクローナル抗体であるPB-1を含む。
【0108】
本発明の1つの側面によれば、これらの抗体はマウス由来の抗体であり、上記の配列番号で示される重鎖可変領域と軽鎖可変領域に加えて、マウス抗体の定常領域を有している。なお、上記の配列番号で示される重鎖可変領域または軽鎖可変領域と実質的に同一のアミノ酸配列の例として、N末端またはC末端に1つまたは2つのアミノ酸が付加された配列が挙げられる。例えば、上記の配列番号で示される重鎖可変領域と実質的に同一のアミノ酸配列として、N末端またはC末端に1または2のアミノ酸(例えば、天然型アミノ酸から選択されるアミノ酸)、より具体的にはGluおよびGlnから選択される1つのアミノ酸が付加した配列が挙げられる。
【0109】
本発明の1つの側面によれば、上記の重鎖可変領域および軽鎖可変領域またはそれらのCDRで特定される抗体またはその抗原結合断片を参照抗体として、グリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsのエピトープとの結合について、参照抗体と交差競合する抗体またはその抗原結合断片が提供される。本発明の1つの態様において、モノクローナル抗体であるSJ-5を参照抗体として、グリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsのエピトープとの結合について、参照抗体と交差競合する抗体またはその抗原結合断片が提供される。
【0110】
本発明の抗体は、例えばモノクローナル抗体であるSJ-5を参照抗体として、Glycer-AGEsまたはGlycol-AGEsとの標準的な結合アッセイを行うことにより交差競合に関する特性を確認することができる。交差競合の確認は、例えば、フローサイトメトリーや交差競合ELISAアッセイにより確認することができる。
【0111】
本発明の1つの側面において、上記の抗体またはその抗原結合断片を含む、疾患の治療、予防または診断のための医薬組成物が提供される。対象疾患としては、Glycer-AGEsまたはGlycol-AGEsが関与する疾患であれば特に限定されず、例えば、糖尿病、糖尿病最小血管合併症(糖尿病網膜症、糖尿病性腎症、および糖尿病神経障害)、および糖尿病大血管症、高血圧症、アルツハイマー病などの認知症、がん(例えば肝臓がん、膵臓がん、子宮がん、結腸がん、直腸がん、乳がん、膀胱がん、悪性黒色腫、および肺がん)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、不妊症などが挙げられる。本発明の別の態様によれば、疾患は、糖尿病、耐糖能異常、網膜症、腎症、末梢神経障害、下肢壊疽、動脈硬化、血栓症、非アルコール性脂肪性肝疾患、非アルコール性脂肪肝炎、がん(例えば、メラノーマ、肺がん、および肝臓がんなど)、多嚢胞性卵巣症候群、卵巣機能障害、中枢神経障害、およびアルツハイマー病が挙げられる。
【0112】
本発明の1つの側面において、本発明の医薬組成物はAGEsにより促進される内皮間葉転換に起因する疾患の治療、予防または診断のために用いることができる。対象疾患としては、がん(例えば、卵巣がん、乳がん、子宮体がん、前立腺がん、舌がん、口腔がん、咽頭がん、食道がん、胃がん、大腸がん、直腸がん、膵臓がん、肺がん、肝がん、脳腫瘍など)、肥満、糖尿病、糖尿病性疾患(例えば、糖尿病網膜症、糖尿病白内障、糖尿病神経障害、糖尿病心筋症、糖尿病血管合併症、糖尿病性腎症、糖尿病性腎臓疾患、糖尿病足病変、糖尿病ケトアシドーシス、糖尿病性ネフロパシーなど)、歯周病、加齢黄斑変性症、肺疾患または呼吸器系疾患(例えば、肺線維症、特発性肺線維症、細気管支周囲線維症、間質性肺疾患、がん線維性肺疾患、慢性閉塞性肺疾患、末梢気道疾患、肺気腫など)、腎疾患(腎盂腎炎、糸球体硬化症、糸球体腎炎、メサンギウム増殖糸球体腎炎、腎性全身性線維症、腎間質線維症、慢性腎臓病など)、特発性後腹膜線維症、強皮症、女性不妊症、多嚢胞性卵巣症候群、卵巣機能不全、早期卵巣機能不全、男性不妊症、肝疾患(例えば、肝硬変、非アルコール性脂肪肝炎など)、心血管疾患(例えば、急性下肢動脈塞栓症、末梢動脈疾患、アテローム血栓性脳梗塞、アテローム性動脈硬化症、内頸動脈狭窄症、大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、狭心症、うっ血性心不全、急性心不全、慢性心不全、虚血性心疾患、拡張型心筋症、心サルコイドーシス、高血圧、肺動脈性肺高血圧症、肺性心、心筋炎、血管狭窄心線維症、心筋梗塞後心線維症、心筋梗塞後左心室肥大、脳梗塞、脳血管障害など)、関節リウマチ、生活習慣病、脂質異常症、アルツハイマー病、血管性認知症、ぶどう膜炎、内分泌疾患、骨粗しょう症が挙げられる。より具体的には、糖尿病網膜症、糖尿病性腎症、アテローム血栓性脳梗塞、アテローム性動脈硬化症、慢性腎臓病、慢性心不全、および虚血性心疾患が例示される。
【0113】
本発明の医薬組成物は眼疾患の診断、治療、および/または予防に使用することができる。一つの態様において、当該医薬組成物は、眼疾患の進行度の確認、または眼疾患発症リスクの推定のために用いることができる。別の態様において、当該医薬組成物は、発症した眼疾患の進行の防止する、または遅延させるための治療において用いることができ、例えば長期にわたり定期的に投与することができる。さらに別の態様において、当該医薬組成物は、疾患の発症リスクが高い対象に予防的に投与することができる。さらに別の態様において、当該医薬組成物は、発症した眼疾患において、疾患の発症部位を回復させるための治療に用いることができる。
【0114】
本発明の医薬組成物の使用に適した眼疾患としては、例えば、糖尿病網膜症、糖尿病白内障、網膜色素変性症、糖尿病黄斑浮腫、レーバー先天性黒内障、シュタルガルト症、アッシャー症候群、コロイデレミア、桿体錐体ジストロフィー、錐体ジストロフィー、進行性網膜萎縮、加齢黄斑変性症、黄斑ジストロフィー症、脈絡膜硬化症、全脈絡膜萎縮症、類嚢胞黄斑浮腫、ブドウ膜炎、網膜剥離、黄斑円孔、黄斑部毛細血管拡張症、緑内障、視神経症、虚血性網膜疾患、未熟児網膜症、網膜血管閉塞症、および網膜細動脈瘤が挙げられる。余地適した眼疾患としては、例えば、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜色素変性症および加齢黄斑変性症が挙げられる。
【0115】
本発明の医薬組成物は、血管内皮細胞の管腔形成におけるAGEsによる抑制効果を低減または消失させ、さらにAGEsにより誘導される血管内皮細胞の内皮間葉転換を抑制または阻害する効果を有する。このような効果により管腔形成阻害による血管透過性上昇が低減または消失し、がんの転移が抑制される。したがって、一つの態様において、本発明の医薬組成物はがんの転移の予防または抑制のために使用することができる。
【0116】
本発明の1つに態様において、対象の組織(例えば血液)中に存在するGlycer-AGEsおよびGlycol-AGEsの量を本発明の抗体またはその抗原結合断片を用いて測定する工程を含む、疾患の診断方法が提供される。ここでの診断とは既に記載した通りである。本発明の別の態様において、試料(例えば、採血により得られた血液試料)中に存在するGlycer-AGEsおよびGlycol-AGEsの量を本発明の抗体またはその抗原結合断片を用いて測定する工程を含む、試料の分析方法が提供される。
【0117】
本発明の抗体の抗原結合断片は、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、scFv、dsFv、ダイアボディ、またはsc(Fv)2である。本発明の抗体は、例えば、マウス抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、またはキメラ抗体である。これらの抗体またはその抗原結合断片は、当業者に公知の方法により調製することができる。
【0118】
本発明の抗体の抗原結合断片は、例えば、1×10-4M以下、具体的には1×10-5M以下、より具体的には1×10-6M以下、さらに具体的には1×10-7M以下、好ましくは1×10-8M以下の平衡解離定数Kdでグリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsのエピトープと結合する。抗体のKd値は、当技術分野において十分に確立された方法を用いて決定することができる。抗体のKd値を決定するための好ましい方法は、表面プラズモン共鳴を用いること、好ましくはBiacore(登録商標)システムのようなバイオセンサーシステムを用いることによる。
【0119】
本発明の1つの側面において、グリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsのエピトープと結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合断片の製造方法が提供される。該方法は、本発明の抗体をコードする核酸がトランスフェクトされた宿主細胞を培養する工程を含み、周知技術に基づいて様々な方法で実施され得る。
【0120】
本発明の1つの側面において、本発明の抗体をコードする核酸が提供される。このようなポリヌクレオチドは、例えば、重鎖および軽鎖それぞれの可変領域および定常領域の両方をコードする。ポリヌクレオチドはRNAの形態であってもDNAの形態であってもよい。ポリペプチドをコードするコーディング配列は、遺伝コードの冗長性または縮重を含んでいてもよい。
【0121】
いくつかの実施態様において、本発明の抗体をコードする1つ以上の核酸は、発現ベクターに組み込まれ、当該発現ベクターは、導入される宿主細胞の染色体外であるか、またはそのゲノム中にインテグレートされるよう設計され得る。発現ベクターは、任意数の適切な制御配列(転写および翻訳調節配列、プロモーター、リボソーム結合部位、エンハンサー、複製起点などが挙げられるが、これらに限定されない)または他の要素(選択遺伝子など)を含むことができ、これらは全て、当分野でよく知られるように操作可能に連結される。いくつかの場合、2つの核酸を用いて、それぞれを異なる発現ベクターに入れるか(例えば、第一の発現ベクターに重鎖をコードする核酸、第二の発現ベクターに軽鎖をコードする核酸)、あるいはそれらを同一の発現ベクターにいれることができる。制御配列の選択を含む、1つ以上の発現ベクターの設計は、宿主細胞の選択、所望するタンパク質の発現レベルなどの因子によって決まり得る。
【0122】
一般に、選択される宿主細胞に適した任意の方法(例えば、トランスフォーメーション、トランスフェクション、エレクトロポレーション、インフェクションなど)を用いて、1つ以上の核酸が1つ以上の発現調節要素に操作可能に連結されるように(例えば、ベクターにおいて、細胞でのプロセスにより作出される構築物において、宿主細胞のゲノムにインテグレートされて)、核酸および/または発現が適した宿主細胞に導入され、組換え宿主細胞が作出される。得られた組換え宿主細胞は、発現に適した条件下(例えば、インデューサーの存在下、適した非ヒト動物中、適した塩、増殖因子、抗生物質、栄養補助剤などを添加した培地など)で維持でき、それによりコードされた1つ以上のポリペプチドが製造される。いくつかの場合において、重鎖が1つの細胞で製造され、軽鎖が別の細胞で製造される。
【0123】
発現のための宿主として利用可能な哺乳動物細胞株は当分野で既知であり、American Type Culture Collection(ATCC),Manassas,VAから入手可能な多くの不死化細胞株が含まれ、これには、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HEK 293細胞、NSO細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、サル腎臓細胞(COS)、ヒト肝臓がん細胞(例えば、Hep G2)、および多数の他の細胞株が挙げられるが、これらに限定されない。細菌、酵母、昆虫および植物を含む(これらに限定されない)非哺乳動物細胞を用いて、組換え抗体を発現させることもできる。いくつかの実施態様において、抗体は、ウシやニワトリなどのトランスジェニック動物において製造することができる。
【0124】
本発明の一つの側面において、式(XI)もしくは式(XII)、または式(I)もしくは式(II)の化合物を抗原として動物に対して免疫を行って抗体を作製する方法が提供される。式(XI)もしくは式(XII)、または式(I)もしくは式(II)の化合物の製造方法は特に限定はされないが、例えば、α位のアミノ基が保護されたリシンおよびグリセルアルデヒドを反応させて得られる反応混合物を精製して調製することができる。免疫に使用する抗原として、例えば、上記の反応混合物を分画して得られる画分のうち、式(Ia)または式(Ib)で表される化合物を含む画分を使用することができる。分画は通常の方法で行うことができ、例えばHPLC分取により特定のピークを含む画分を使用することができる。
【0125】
免疫は抗体の作製において通常行われる方法を使用することができる。動物はヒト以外の哺乳類、例えばマウス、ラット、ウサギ、イヌ、ブタ、ハムスターなどを使用することができる。
【実施例】
【0126】
[実施例1]AGEsの調製
AGEsは公知の方法により調製することができる(非特許文献5および非特許文献6など)。具体的には以下の方法により各種AGEsを調製した。
【0127】
(1)グリセルアルデヒド由来AGEs含有ウシ血清アルブミン(Glycer-AGEs-BSA)
ウシ血清アルブミン(BSA、Sigma-Aldrich)、DL-グリセルアルデヒド(DL-GLA、ナカライテスク)、ジエチレントリアミン-N,N,N’,N”,N”-ペンタ酢酸(DTPA、同仁化学研究所)は購入により入手した。
【0128】
DL-GLA(180mg)とDTPA(39mg)を秤量し、50mLの培養用チューブに移した。チューブにリン酸緩衝液(0.2M、pH7.4、20mL)を加えてボルテックスミキサーにてDL-GLAが溶解するまで攪拌した。その後、BSA(500mg)を加えて溶解するまで攪拌した(溶液中のBSAの濃度:25mg/mL)。
【0129】
得られた混合物をクリーンベンチ内で0.2μmフィルターに通して無菌溶液とした。チューブ内の液体が蒸発しないように、パラフィルム(商標)などのフィルムにてチューブの蓋を密閉して37℃で1週間インキュベートした。
【0130】
得られた反応溶液(2.5mLずつ)をPD-10カラム(GEヘルスケア、8本)にアプライし、PD-10カラムのプロトコールにしたがって、リン酸緩衝液生理食塩水(PBS)(pH7.4、3.5mLずつ)で溶出させた。
【0131】
カラム4本分の溶出液(計14mL)を集めて分画分子量6~8kDaの透析チューブ(Spectra/Por Dialysis Membrane、幅:23mm)に入れ、14mLのチューブ2本を予め冷やしておいた2LのPBS中に入れて攪拌して透析した。透析は低温室内(5℃)で行い、24時間ごとに透析液(PBS)を交換し、3日間透析した。
【0132】
透析終了後、2本の透析チューブ内の液を合わせて50mLの培養用チューブに入れて、グリセルアルデヒド由来AGEs含有BSA(Glycer-AGEs-BSA)としてタンパク質量を測定し、培養用PBSにて必要なタンパク質濃度に調整した。
【0133】
DL-GLAを添加しなかったことを除いて実施例1と同じ手法で、対照BSAを調製した。
【0134】
(2)グリセルアルデヒド由来AGEs含有マウス血清アルブミン(Glycer-AGEs-MSA)およびグリセルアルデヒド由来AGEs含有ウサギ血清アルブミン(Glycer-AGEs-RSA)
0.2Mリン酸緩衝液(pH7.4)中に、25mg/mLのマウス血清アルブミン(MSA、Sigma-Aldrich)あるいはウサギ血清アルブミン(RSA、Sigma-Aldrich)、DL-グリセルアルデヒド(0.1M,ナカライテスク)、およびジエチレントリアミン5酢酸(5mM、DTPA、同仁化学研究所)を含有する溶液を調製した。該溶液を0.2μmのフィルター滅菌により無菌的な状態にし、37℃で1週間インキュベートした。低分子量の未反応物などは、PD-10ゲルろ過カラム(GEヘルスケア)を用いて除き、さらに、低温室内(5℃)でPBS(リン酸緩衝生理食塩水)にて3日間透析(この間、毎日PBSを交換)を行った。
【0135】
(3)グルコース由来AGEs含有BSA(Glu-AGEs-BSA)およびフルクトース由来AGEs含有BSA(Fru-AGEs-BSA)
0.2Mリン酸緩衝液(pH7.4)中に、25mg/mLウシ血清アルブミン(BSA、Sigma-Aldrich)、D-グルコース(0.5M、和光純薬)またはD-フルクトース(0.5M、和光純薬)、およびDTPA(5mM、同仁化学研究所)を含む溶液を調製し、該溶液を0.2μmのフィルター滅菌により無菌的な状態にし、37℃で8週間インキュベートした。低分子量の未反応物などはPD-10ゲルろ過カラムを用いて除き、さらに、低温室内(5℃)でPBSにて3日間透析(この間、毎日PBSを交換)を行った。
【0136】
(4)グリコールアルデヒド由来AGEs含有BSA(Glycol-AGEs-BSA)、メチルグリオキサール由来AGEs含有BSA(MGO-AGEs-BSA)、およびグリオキサール由来AGEs含有BSA(GO-AGEs-BSA)
0.2Mリン酸緩衝液(pH7.4)中に、0.1Mのグリコールアルデヒド(Sigma-Aldrich)、メチルグリオキサール(Sigma-Aldrich)、あるいはグリオキサール(Sigma-Aldrich)と、BSA(25mg/mL)およびDTPA(5mM)を含む溶液を調製した。該溶液を0.2μmのフィルター滅菌により無菌的な状態にし、37℃で1週間インキュベートした。無菌条件下、37℃で1週間インキュベートし、その後、低分子量の未反応物などはPD-10ゲルろ過カラムを用いて除き、さらに、低温室内(5℃)でPBSにて3日間透析(この間、毎日PBSを交換)を行った。
【0137】
(5)3-デオキシグルコソン由来AGEs含有BSA(3-DG-AGEs-BSA)
0.2Mリン酸緩衝液(pH7.4)中にBSA(25mg/mL、Sigma-Aldrich)、3-デオキシグルコソン(0.2M、同仁化学研究所)およびDTPA(5mM)を含む溶液を調製した。該溶液を0.2μmのフィルター滅菌により無菌的な状態にし、37℃で2週間インキュベートした。その後、低分子量の未反応物などはPD-10ゲルろ過カラムを用いて除き、さらに、低温室内(5℃)でPBSにて3日間透析(この間、毎日PBSを交換)を行った。
【0138】
(6)Nε-カルボキシメチルリシン含有BSA(CML-BSA)
0.2 Mリン酸緩衝液(pH7.4)中に、BSA(50mg/mL、Sigma-Aldrich)、グリオキシル酸(45mM、和光純薬)およびシアノ水素化ホウ素ナトリウム(150mM、Sigma-Aldrich)を含む溶液を調製した。該溶液を0.2μmのフィルター滅菌により無菌的な状態にし、37℃で24時間インキュベートした。その後、低分子量の未反応物などはPD-10ゲルろ過カラムを用いて除き、さらに、低温室内(5℃)でPBSにて3日間透析(この間、毎日PBSを交換)を行った。
【0139】
[実施例2]抗原の調製
(1)グリセルアルデヒド由来AGEs化リシン(Glycer-AGEs-Z-Lys)の調製
Nα-カルボベンゾキシ-L-リシン(Z-Lys-OH、東京化成工業)、DL-グリセルアルデヒド(DL-GLA、ナカライテスク)は購入により入手した。DL-GLA(675.6mg)を秤量し、50mL容の遠沈管に移した。遠沈管にリン酸緩衝液(0.2M、pH7.4、25mL)を加えてボルテックスミキサーにてDL-GLAが溶解するまで攪拌した。その後、Z-Lys-OH(700.8mg)を加えて溶解するまで攪拌した(溶液中のDL-GLA濃度:300mM、Z-Lys-OH濃度:100mM)。その後、遠沈管内の液体が蒸発しないように、パラフィルム(商標)などのフィルムにてチューブの蓋を密閉して37℃で1週間以上静置した。
【0140】
得られた反応溶液5mLに対して、10%トリフルオロ酢酸(TFA、富士フイルム和光純薬)水溶液1mLを加え、転倒混和した。その後、室温にて10分間遠心分離(12,000×g)し、上清を除去した。得られた沈殿物を含む遠沈管に超純水(5mL)を加え、再度遠心分離を行い、上清を除去した。この操作を計3回実施することで、沈殿を洗浄した。洗浄後の沈殿は風乾後、乾燥重を測定(200mg)し、冷蔵保存した。
【0141】
(2)Glycer-AGEs-Z-Lysの分取精製
Glycer-AGEs-Z-Lysの沈殿物をリン酸緩衝液(0.2M、pH7.4)に溶解させ、0.5mg/mL(分析用)もしくは50mg/mL(分取用)の試料溶液を調製した。その後、孔径0.2μmのシリンジフィルター(Millex-LG、メルク)でろ過し、ろ液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の試料とした。HPLC装置は1260 Infinity IIシステム(アジレント・テクノロジー)を使用し、以下のモジュールで構成した;クォーターナリポンプ(G7111B)、マルチサンプラ(G7167A)、マルチカラムサーモスタット(G7116A)、ダイオードアレイ検出器(G7115A)、蛍光検出器(G7121B)、フラクションコレクタ(G1364F)、OpenLAB CDS ChemStationソフトウェア。移動相は富士フイルム和光純薬のHPLC溶媒より調製した。移動相Aは1M酢酸アンモニウム溶液10mLと蒸留水990mLを混合した10mM酢酸アンモニウム水溶液、移動相Bはアセトニトリルとした。分析時間0-10分は移動相A:B=75:25で流下し、10.1-20分は移動相A:B=65:35で流下し、20.1-25分は移動相A:B=10:90で流下した。分析カラムはYMC-Triart C18(150×4.6mm、ワイエムシィ)を使用し、流速を0.8mL/分に設定した。ろ過後の分析用試料溶液(0.5mg/mL)をHPLC装置に5μL注入し、ダイオードアレイ検出器(260nm)及び蛍光検出器(励起波長350nm、蛍光波長450nm)でGlycer-AGEs-Z-Lysのピークを検出した。HPLCの結果を
図6(ダイオードアレイ検出(260nm))および
図7(蛍光検出(Ex350nm、Em450nm))に示す。
【0142】
その結果、分析時間13.5分にて顕著なピークが認められた。以後、このピークをGAL13と呼称する。続いて、YMC-Triart C18(150×10mm、ワイエムシィ)をHPLC装置に取り付け、流速を2.5mL/分に設定した。ろ過後の分取用試料溶液(50mg/mL)をHPLC装置に50μL注入し、ダイオードアレイ検出器(260nm)でGAL13を検出した。そして、UVのピークをトリガーに設定したフラクションコレクタにて、GAL13を分取した。
【0143】
分取溶液に含まれるアセトニトリルはロータリーエバポレーター(東京理化器械)で除去した。残渣の溶液5mLに対して、10%TFA水溶液1mLを加え、転倒混和した。その後、室温にて10分間遠心分離(12,000×g)し、上清を除去した。得られた沈殿物に超純水(5mL)を加え、再度遠心分離を行い、上清を除去した。この操作を計3回実施することで、沈殿を洗浄した。洗浄後の沈殿は風乾後、乾燥重を測定し(1mg)、冷蔵保存した。
【0144】
(3)GAL13のキャリアタンパク質への結合
分取精製後のGAL13の乾燥粉末をリン酸緩衝液(0.2M、pH7.4)に溶解させ、終濃度を40mg/mLとした。さらに、この溶液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)にて10倍希釈し、終濃度を4mg/mLとした。キャリアタンパク質の溶液は以下のように調製した。マウス血清アルブミン(MSA、Sigma-Aldrich)の凍結乾燥粉末をPBSに溶解させ、終濃度を10mg/mLとした。1.5mL容のEppendorf Safe-Lock Tubes(エッペンドルフ)内で、4mg/mLのGAL13溶液(500μL)と10mg/mLのMSA溶液(200μL)を混合した。続いて、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC、Thermo Scientific)を超純水に溶解させ、10mg/mL水溶液を作製した。GAL13とMSAの混合溶液(700μL)に、10mg/mLEDC水溶液(100μL)を素早く添加し、転倒混和した後、室温にて一晩インキュベートした。
【0145】
反応終了後、直ちにZeba Spin Desalting Columns(7K MWCO、Thermo Scientific)で反応溶液をゲルろ過した。さらに、Slide-A-Lyzer MINI Dialysis Device(3.5K MWCO、Thermo Scientific)を使用し、低温下(4℃)で透析した。透析外液はPBSとした。透析を開始して3時間後に外液を交換し、さらに一晩の透析を行った。透析終了後、透析デバイス内の溶液を回収し、アミコンウルトラ-0.5(30K MWCO、メルク)で濃縮した。Pierce BCA Protein Assay Kit(Thermo Scientific)でGAL13を架橋させたMSA(GAL13-MSA)のタンパク質濃度を求め、PBSにて任意のタンパク質濃度に調整した。GAL13-MSAはマウスモノクローナル抗体作製における免疫抗原として使用した。
【0146】
Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay(ELISA)においては、GAL13をウシ血清アルブミン(BSA、Sigma-Aldrich)に架橋させ、GAL13-BSAとして試験に使用した。また、陰性の対照区として、Nα,Nε-ジカルボベンゾキシ-L-リシン(Z-Lys(Z)-OH、渡辺化学工業)をBSAに架橋させ、Z-Lys-BSAを調製した。これらの試料は、必要に応じて、クリーンベンチ内でフィルターろ過滅菌(孔径0.22μm)を行った。
【0147】
[実施例3]モノクローナル抗体の作製
(1)マウスへの免疫
免疫抗原として、Glycer-AGEs由来新規構造体修飾―マウス血清アルブミン(GAL13-MSA、1mg/mL)を同じ容量のFreund’s Adjuvant, Complete(Sigma-Aldrich)と混合してエマルジョンを調製し(抗原の濃度:0.5mg/mL)、BALB/cマウス5匹の背部皮下に初回免疫をした(抗原の量:200μg/匹)。GAL13-MSA(1mg/mL)を同じ容量のFreund’s Adjuvant, Incomplete(Sigma-Aldrich)と混合して調製したエマルジョン(抗原の濃度:0.5mg/mL)を用いて1週間おきに追加免疫(抗原の量:50μg/匹)を行った。初回免疫から6回免疫した後に尾静脈より採血を行い、抗体価の確認を行った。抗体価の高かったものに対して、追加免疫用のエマルジョン(抗原の量:50μg)をマウスの腹腔内に最終投与し、その3日後に細胞融合用に脾臓を摘出した。
【0148】
(2)抗体価の測定
抗血清の力価をELISAで評価した。96穴マイクロタイタープレート(NUNC)に、免疫抗原であるGAL13-MSAにおいて、キャリアタンパクをBSAに変更したGlycer-AGEs由来新規構造体修飾―ウシ血清アルブミン(GAL13-BSA)を1μg/mLの濃度で50μL/ウェルずつ加え、一晩4℃で固相化した。0.05%(v/v)Tween20を含むPBS(PBS-T)で3回洗浄後、0.5%(w/v)ゼラチンを含む炭酸緩衝液(pH9.5)で1時間ブロッキングした。抗血清は1000倍から3倍ずつ段階希釈し、729000倍までの希釈系列を調製後、抗原固相化プレートに50μL/ウェルずつ入れて1時間静置した。洗浄後、PBS-Tで2500倍に希釈した2次抗体(西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識化抗マウスIgG(ZYMED)を50μL/ウェルずつ入れて1時間静置した。洗浄後、各ウェルに0.02%(w/v)の過酸化水素を含む0.1Mクエン酸リン酸緩衝液(pH5.0)で0.5mg/mLに調製した
o-フェニレンジアミン溶液(100μL)を添加し、25℃で10分間静置した後に、1M硫酸溶液(100μL)を各ウェルに添加し、呈色反応を停止した。その後490nmの吸光度をマイクロプレートリーダーによって測定した。その結果、抗血清の9000倍以上の希釈溶液において、抗原と有意な反応性を示したマウスを細胞融合に使用した。
【0149】
(3)脾臓細胞の調製と細胞融合
マウスから摘出した脾臓をすりつぶし、1匹あたり約1×108個の脾臓細胞を調製した。ミエローマ細胞であるP3U1を培養し、細胞融合当日に生細胞率が95%以上のP3U1を調製した。前記脾臓細胞とP3U1を5:1(細胞数の比)で混ぜ、50%(w/v)濃度の分子量1,450のポリエチレングリコールにより細胞融合を行った。融合後、細胞を培地で洗浄し、HAT培地に懸濁させ、96穴培養プレートの各ウェルに1×105個/ウェルとなるように細胞を播きこみ、ハイブリドーマの選択培養を行った。細胞融合10日目にハイブリドーマ培養上清を回収し、培養上清中の抗体価の測定を行った。
【0150】
(4)抗体産生陽性ウェルのスクリーニング
細胞融合後、10日目の培養上清を回収し、抗体産生陽性ウェルのスクリーニングを上記の抗体価測定方法で行った。GAL13-BSA、グリセルアルデヒド由来AGEs含有BSA(Glycer-AGEs-BSA)に陽性、Z-リシン修飾ウシ血清アルブミン(Z-Lys-BSA)に陰性であるクローンについて選択した。
【0151】
(5)クローニング
GAL13-BSAに対する特異性の高かったクローンを限界希釈法でクローニングを行った。すなわち、細胞を10%のFCSを含むRPMI培地で5個/mLに調製し、96穴培養プレート2枚分の各ウェルに200μLずつ添加した。10日後、培養上清中のGAL13-BSA、Glycer-AGEs-BSAに陽性、およびZ-Lys-BSAに陰性であることを確認し、それぞれのウェルに由来するクローンを得た。特異性を十分に備えた本発明の抗体として、新規モノクローナル抗体SJ-5産生細胞を得た。
【0152】
(6)抗体の精製
新規モノクローナル抗体SJ-5産生細胞を、10%のFCS を含むRPMI培地で培養後、PBSにて洗浄し、無血清培地(SMF培地、Thermo Scientific)にて4日~6日間培養し培養上清を得た。培養上清をProteinGカラム(GEヘルスケア社製)にて、IgG画分を精製し、特異性を十分に備えた本発明の抗体として、新規モノクローナル抗体SJ-5を得た。
【0153】
[実施例4]モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体のペルオキシダーゼ(POD)標識方法
得られた新規モノクローナル抗体SJ-5(PBS溶液、200μg)または、抗グリセルアルデヒド由来AGEsポリクローナル抗体(Molecular Medicine 6(2): 114-125, 2000に記載の竹内らの方法による、PBS溶液、200μg)は、Peroxidase Labeling Kit-SH(同仁化学研究所)を用いて、POD標識を行った。標識方法は取扱説明書の手順に従った。得られたPOD標識化抗体溶液はグリセロール(Sigma-Aldrich)と1:1で混合し、-20℃で保存した。
【0154】
[実施例5]ELISA直接法による新規モノクローナル抗体の反応性の確認
Glycer-AGEs由来新規構造体修飾―BSA(GAL13-BSA)、を1μg/mLの濃度で100μL/ウェルずつ加え、一晩4℃で固相化した。0.05%(v/v)Tween20を含むPBS(PBS-T)で3回洗浄後、0.5%(w/v)ゼラチンを含むPBS-Tで1時間ブロッキングした。実施例4で調製したPOD標識化新規モノクローナル抗体SJ-5並びにコントロールとして抗グリセルアルデヒド由来AGEsポリクローナル抗体は4μg/mLから、4倍ずつ段階希釈し、0.06254μg/mLまでの希釈系列を調製後、抗原固相化プレートに100μL/ウェルずつ入れて1時間静置した。洗浄後、各ウェルに0.02%(w/v)の過酸化水素を含む0.1Mクエン酸リン酸緩衝液(pH5.0)で0.5mg/mLに調製したo-フェニレンジアミン溶液(100μL)を添加し、25℃で10分間静置した後に、1M硫酸溶液(50μL)を各ウェルに添加し、呈色反応を停止した。その後490nmの吸光度をマイクロプレートリーダーによって測定した。
【0155】
その結果、
図1に示すように、POD標識化SJ-5抗体はGAL13-BSAに良好に反応することが示された。
【0156】
[実施例6]ELISA競合法による新規モノクローナル抗体の反応性の確認
GAL13-BSAを1μg/mLの濃度で100μL/ウェルずつ加え、一晩4℃で固相化した。0.05%(v/v)Tween20を含むPBS(PBS-T)で3回洗浄後、0.5%(w/v)ゼラチンを含む炭酸緩衝液(pH9.5)で1時間ブロッキングした。POD標識化SJ-5抗体(0.4μg/mL)並びにコントロールとして抗グリセルアルデヒド由来AGEsポリクローナル抗体(6μg/mL)を調製後、抗原固相化プレートに、GAL13-BSAと対照のBSAの10倍希釈系列溶液(各50μL)およびPOD標識化SJ-5抗体または、コントロールとして抗グリセルアルデヒド由来AGEsポリクローナル抗体(50μL)を加え、プレートミキサーで撹拌後、室温で1時間静置した。洗浄後、各ウェルに0.02%(w/v)の過酸化水素を含む0.1Mクエン酸リン酸緩衝液(pH5.0)で0.5mg/mLに調製したo-フェニレンジアミン溶液100μLを添加し、25℃で10分間静置した後に、1M硫酸溶液50μLを各ウェルに添加し、呈色反応を停止した。その後490nmの吸光度をマイクロプレートリーダーによって測定した。
図2に抗グリセルアルデヒド由来AGEsポリクローナル抗体の結果、
図3にPOD標識化SJ-5抗体の結果を示す。
【0157】
POD標識化SJ-5抗体並び抗グリセルアルデヒド由来AGEsポリクローナル抗体ともに、競合法においても、GAL13-BSAに良好に反応することが示され、POD標識化SJ-5抗体の使用抗体濃度は、抗グリセルアルデヒド由来AGEsポリクローナル抗体の15倍低い濃度にて、同様の結果が得られることが示された。
【0158】
[実施例7]ELISA競合法による新規モノクローナル抗体の特異性の確認
96穴マイクロタイタープレート(NUNC)の各ウェルに、固相化抗原としてPBS(pH7.4)で1μg/mLに調製したGAL13-BSAまたはGlycer-AGEs-BSAを100μLずつ添加し、25℃で1時間放置した。一晩4℃で固相化した。0.05%(v/v)Tween20を含むPBS(PBS-T)で3回洗浄後、0.5%(w/v)ゼラチンを含む炭酸緩衝液(pH9.5)で1時間ブロッキングした。実施例6と同じ条件でPOD標識化SJ-5抗体(0.4μg/mL)を調製し、抗原固相化プレートに、特異性確認のためグルコース由来AGEs含有BSA(Glu-AGEs-BSA)、グリコールアルデヒド由来AGEs含有BSA(Glycol-AGEs-BSA)、メチルグリオキサール由来AGEs含有BSA(MGO-AGEs-BSA)、グリオキサール由来AGEs含有BSA(GO-AGEs-BSA)、Nε-カルボキシメチルリシン含有BSA(CML-BSA)、Nε-カルボキシエチルリシン含有BSA(CEL-BSA)、およびウシ血清アルブミン(BSA)を同様に50μLずつ添加し、さらにPOD標識化SJ-5抗体(50μL)を添加し、プレートミキサーで撹拌後、室温で1時間静置した。洗浄後、各ウェルに0.02%(w/v)の過酸化水素を含む0.1Mクエン酸リン酸緩衝液(pH5.0)で0.5mg/mLに調製したo-フェニレンジアミン溶液(100μL)を添加し、25℃で10分間静置した後に、1M硫酸溶液50μLを各ウェルに添加し、呈色反応を停止した。その後490nmの吸光度をマイクロプレートリーダーによって測定した。
【0159】
図4に固相化抗原として、GAL13-BSAを用いたときのPOD標識化SJ-5抗体の特異性の結果、
図5に固相化抗原としてGlycer-AGEs-BSAを用いたときのPOD標識新規モノクローナル抗体SJ-5の特異性の結果として、対照のBSAを1とした場合の吸光度を示す。
【0160】
GAL13-BSA並びにGlycer-AGEs-BSAを固相化した場合においても、新規モノクローナル抗体SJ-5の特異性として、Glycer-AGEs-BSAおよびGlycol-AGEs-BSAに陽性、Glu-AGEs-BSA、Fru-AGEs-BSA、MGO-AGEs-BSA、GO-AGEs-BSA、CML-BSA、及びCEL-BSAに陰性であった。
【0161】
[実施例8]モノクローナル抗体の解離定数測定
モノクローナル抗体SJ-5について、以下の手法で解離定数(Kd値)を測定した。グリセルアルデヒド由来AGEs含有BSA(Glycer-AGEs-BSA)を10mM 酢酸ナトリウム溶液(pH4.0)で希釈し、終濃度100μg/mLのリガンド溶液を調製した。リガンドの固定化およびKD値の算出について、Biacore T200(GEヘルスケア)を使用した。アミンカップリングキット(GEヘルスケア)を用いて、センサーチップCM5(GEヘルスケア)上にリガンド溶液を固定化した。続いて、モノクローナル抗体を0~400nMの濃度に希釈した抗体希釈液を作成し、Kd値を算出した。
【0162】
その結果、モノクローナル抗体のKd値は57.4nMであった。また、HPLCで分取したピークを化学結合させたBSA(GAL13-BSA)を10mM 酢酸ナトリウム溶液(pH5.0)で希釈し、終濃度25μg/mLのリガンド溶液を調製した。上記と同様にモノクローナル抗体のKd値を算出した結果、87.5nMであった。
【0163】
[実施例9]GAL13の質量分析
質量分析で使用した溶媒は、富士フイルム和光純薬のHPLCグレードのものを使用した。実施例2にて調製したGAL13の乾燥粉末を50%アセトニトリル含有0.1%TFA溶液で溶解させ、終濃度0.25mg/mLとした。マトリクスはα-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸(CHCA)を島津ジーエルシーより購入し、50%アセトニトリル含有0.1%TFA溶液で10mg/mL溶液を調製した。試料溶液とマトリクス溶液を0.6mL容のEppendorf Safe-Lock Tubes(エッペンドルフ)内で等量混合した後、測定用プレートのウェルに1μL滴下し、風乾させた。質量校正用ペプチドとして、des-Arg
1-Bradykinin、Angiotensin I、Glu
1-Fibrinopeptide(AB SCIEX)とマトリクスの混合溶液を調製し、同様にプレートに滴下した。風乾後のプレートは、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析装置(MALDI-TOF-MS)であるAXIMA Performance(島津製作所)に挿入し、リフレクトロンモードによる陽イオン測定を行った。質量分析の結果を
図8に示す。
【0164】
その結果、m/z=650-750及び953に試料由来のピークが観察された。特に、m/z=691.2926は、C34H44N4O10のNa付加体である[M+Na]+イオン(モノアイソトピック質量の理論値691.2957、実測値との誤差4.5ppm)であると考えられた。これはZ-Lys-OH2分子がDL-GLA2分子によって架橋された構造体のモノアイソトピック質量とほぼ一致する。また、m/z=953.3945は、C48H62N6O13のNa付加体である[M+Na]+イオン(モノアイソトピック質量の理論値953.4276、実測値との誤差34.7ppm)であると考えられた。これはZ-Lys-OH3分子がDL-GLA2分子によって架橋された構造体のモノアイソトピック質量とほぼ一致する。以上の結果から、GAL13には、少なくとも以下の2種類の化合物が含まれていることが示された。
【0165】
【0166】
[実施例10]HPLCで分取したピークのラジカル測定
実施例2にて調製したGAL13の乾燥粉末を0.2Mリン酸緩衝液(pH7.4)で溶解させ、終濃度50mg/mLとした。この溶液を目盛り付きガラス毛細管マイクロピペット(Drummond Scientific Company)で50μL採取し、EMマイスター ヘマトクリット毛細管 シーリングワックスプレート(アズワン)で毛細管の下端をシールした。その後、毛細管を電子スピン共鳴(ESR)装置用標準試料管(外径4mm、株式会社シゲミ)に移し、ESRの共振器に挿入した。ESR装置はELEXSYS-II E580(Bruker)を使用し、Continuous Wave法にて室温測定を行った。測定条件は以下の通りである:
Field center 3350G;
Field width 150G;
Averaged scan 20;
Sampling time 0.03s;
Field modulation amplitude 0.4mT;
Field modulation Frequency 100kHz;
Microwave power 3mW;
Receiver gain 60。
【0167】
結果を
図9に示す。g値(2.0043)とスペクトルの線形より、HPLCで分取したピークはラジカルを発生させる炭素中心を含むグリセルアルデヒド由来AGEsであることが分かった。
【0168】
[実施例11]GAL13の酸化活性評価
(1)3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)の調製
DABは同仁化学研究所より購入した。DABを秤量し、終濃度5mg/mLとなるように、Tris緩衝液(50mM、pH7.4)に溶解させた。
【0169】
(2)試料溶液の調製
実施例2に従って調製したGAL13の乾燥粉末をリン酸緩衝液(0.2M、pH7.4)に溶解させ、2mg/mL溶液を調製した。陰性の対照区として、2mg/mLのZ-Lys-OH溶液も調製した。
【0170】
(3)酸化活性の評価方法
96穴プレート(ビオラモ)に5mg/mLのDAB溶液もしくはTris緩衝液(50mM、pH7.4)を10μLずつ添加した。そして、試料溶液を90μLずつ添加し、プレートミキサーで撹拌した。プレートを遮光下で37℃、3時間インキュベートした後、Cytation5プレートリーダー(BioTek)にて、460nmの吸光度を測定した。DAB添加区の460nmの吸光度からTris緩衝液添加区の460nmの吸光度を差し引くことで、DABに対する酸化活性を求めた。結果を
図10のグラフに示す。3回の測定値の平均値と標準偏差を示した。統計解析はJMP14.0(SAS)によりスチューデントのt検定を行い、GAL13のDABに対する酸化活性はZ-Lys-OHに比べ、有意に高いことが分かった(P<0.01)。
【0171】
[実施例12]グリセルアルデヒド由来ピリジニウム化合物(GLAP)の調製
GLAPは公知の方法により調製することができる(Usui et al., Biosci. Biotechnol. Biochem., 2003, 67(4), 930-932)。具体的には以下の方法によりGLAPを調製した。
【0172】
(1)GLAP反応溶液の調製
Nα-アセチル-L-リシン(Ac-Lys-OH、東京化成工業)、DL-グリセルアルデヒド(DL-GLA、ナカライテスク)は購入により入手した。
【0173】
DL-GLA(360.3mg)を秤量し、50mLの遠沈管に移した。チューブにリン酸緩衝液(0.2M、pH7.4、20mL)を加えてボルテックスミキサーにてDL-GLAが溶解するまで攪拌した。その後、Ac-Lys-OH(376.5mg)を加えて溶解するまで攪拌した(溶液中のDL-GLAの濃度:200mM、Ac-Lys-OHの濃度:100mM)。チューブ内の液体が蒸発しないように、パラフィルム(商標)などのフィルムにてチューブの蓋を密閉して37℃で1週間インキュベートした。得られた反応溶液は4℃にて保存した。
【0174】
(2)GLAPの分離精製
GLAP反応溶液は、孔径0.2μmのシリンジフィルター(Millex-LG、メルク)でろ過し、ろ液を液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS)の試料とした。LC/MSのLC部は1260 Infinity IIシステム(アジレント・テクノロジー)、MS部は四重極型質量分析計(InfinityLab LC/MSD、G6125B、アジレント・テクノロジー)で構成した。なお、LC部は以下のモジュールで構成される;クォーターナリポンプ(G7111B)、アイソクラティックポンプ(G7110B)、マルチサンプラ(G7167A)、マルチカラムサーモスタット(G7116A)、ダイオードアレイ検出器(G7115A)、フラクションコレクタ(G1364F)、MSフローモジュレータ(G7170B)、OpenLAB CDS ChemStationソフトウェア。移動相は富士フイルム和光純薬のHPLCグレードのものを購入した。移動相Aは1M酢酸アンモニウム溶液10mLと蒸留水990mLを混合した10mM酢酸アンモニウム水溶液、移動相Bはアセトニトリルとした。分析時間0-7分は移動相A:B=99:1で流下し、7.1-12分は移動相A:B=10:90で流下した。カラムはZORBAX SB-C18(150×9.4mm、アジレント・テクノロジー)を使用し、流速を4mL/分に設定した。ろ過後の試料溶液をLC-MS装置に80μL注入し、ダイオードアレイ検出器(215nm及び254nm)とMS(陽イオン検出)でGLAPのピークを検出した。分析時間5分において、UV吸収性を持つピークが観察され、そのピークはm/z=297.1の陽イオンを含んでいた。そこで、m/z=297をトリガーとしたMS分取を行うことで、保持時間5分のピークを回収した。分取後の溶液はロータリーエバポレーター(東京理化器械)で濃縮乾固させた。得られた沈殿は4℃で保存した。
【0175】
(3)GLAPの構造確認
得られた沈殿(8mg)は、重水(0.6mL、富士フイルム和光純薬)に溶解させ、外径5mmの核磁気共鳴(NMR)用サンプル管(シゲミ)に移した。その後、NMR装置(AVANCE III HD、500MHz、CryoProbe搭載型、Bruker)でGLAPの構造を確認した。1H-NMR及び13C-NMRのスペクトルデータにて、全水素及び炭素の帰属を決定した。また、1H-1H COSY、1H-13C HSQC、1H-13C HMBC、1H-15N HSQC、1H-15N HMBCスペクトルを解析することで、帰属の妥当性を確認した。GLAPの構造を以下に示す。
【0176】
【0177】
[実施例13]競合ELISAによる新規モノクローナル抗体とGLAPの反応性評価
(1)試薬調製
下記試薬をRO水に溶解させて1Lとし、コーティング溶液として使用した。
炭酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬) 1.59g
炭酸水素ナトリウム(富士フイルム和光純薬) 2.93g
【0178】
BSA(5g、Sigma-Aldrich)をPBS(500mL)に溶かし、ブロッキング溶液として使用した。
【0179】
50mMトリス(6.1g、富士フイルム和光純薬)をRO水(約900mL)に溶解させて、6N塩酸(富士フイルム和光純薬)でpH7.4に調整した。得られた溶液にグリセロール(1mL、Sigma-Aldrich)、Tween20(1mL、ナカライテスク)を加え、RO水にて1Lにメスアップした。得られた溶液を希釈溶液として使用した。
【0180】
下記試薬をRO水に溶解させて1Lとし、さらにRO水を9L加えた後で、Tween20(5mL)を加えた。得られた溶液を洗浄溶液として使用した。
塩化ナトリウム(富士フイルム和光純薬) 80g
リン酸2水素カリウム(富士フイルム和光純薬) 2g
リン酸水素2ナトリウム12水和物(富士フイルム和光純薬) 29g
【0181】
(3)抗原の固相化
コーティング溶液中で1μg/mLに調製したグリセルアルデヒド由来AGEs含有BSA(原液:10mg/mLPBS溶液)の溶液を、100μLずつ96穴マイクロタイタープレート(COSTAR)に加え、4℃で一晩インキュベートした。
【0182】
(4)ブロッキング
固相化の処理を行った各ウェルを洗浄溶液(300μL)で3回洗浄し、ブロッキング溶液(200μL)を加え、室温で1時間放置した。
【0183】
(5)競合実験
GAL13(実施例2にて調製)、GLAP(実施例12にて調製)、Z-Lys-OH(東京化成工業)をそれぞれリン酸緩衝液(0.2M、pH7.4)に溶解させ、20mg/mL溶液を調製した。さらに、希釈溶液にて希釈することで、0.0063~2mg/mLの2倍希釈系列(6点)の試料溶液を作製した。POD標識化新規モノクローナル抗体(SJ-5)溶液をBSA(1mg/mL、富士フイルム和光純薬)含有希釈溶液にて16,000倍に希釈し、POD標識化SJ-5抗体希釈溶液とした。
【0184】
ブロッキング溶液で処理した各ウェルを洗浄溶液(300μL)で3回洗浄し、2倍希釈系列の試料溶液(各50μL)およびPOD標識化SJ-5抗体希釈溶液(50μL)を加え、プレートミキサーで2分間撹拌後、25℃で1時間インキュベートした。
【0185】
(6)発色
洗浄溶液(300μL)で3回洗浄後、100μLの基質溶液(ELISA POD基質TMBキット(Popular)、ナカライテスク)を加え、室温、遮光下で10分間インキュベートした。その後、2N硫酸(50μL)を加え発色を停止した。
【0186】
(7)吸光度測定およびデータ解析
マイクロプレートリーダー(Cytation5、BioTek)で主波長450nmと副波長650nmの吸光度を測定し、主波長の吸光度から副波長の吸光度を差し引いた。その結果を
図11に示す。GAL13では濃度依存的に吸光度が低下していたが、GLAPとZ-Lys-OHは吸光度の低下が観察されなかった。したがって、新規モノクローナル抗体SJ-5は公知のグリセルアルデヒド由来AGEsであるGLAPを認識しない抗体であることが明らかとなった。
【0187】
[実施例14]SJ-5を用いたGlycer-AGEs-BSAによる血管内皮細胞管腔形成抑制中和試験
(1)マトリゲルマトリックスの調製
マトリゲルマトリックス(コーニング)を冷蔵庫に入れ、一晩かけて融解した。融解したマトリゲルマトリックスは12ウェルプレート(コーニング)に300μL/ウェルで添加し、37℃、CO2インキュベータ(エスペック)で1時間静置することで硬化した。
【0188】
(2)Glycer-AGEs-BSAまたは対照BSAと抗体反応液の調製
実施例1で調製したGlycer-AGEs-BSA(10mg/mL)10μLまたは対照BSA(10mg/mL)10μLとリン酸緩衝生理食塩水(PBS、和光)、SJ-5(10mg/mL)または対照抗体(10mg/mL)90μLを1.5mLチューブ(ワトソン)に加え、室温で10分間静置した。その後、遠心分離機(Thermo Fisher Scientific)を用いて14000rpm、15分間遠心分離し、上清を回収した。
【0189】
(3)管腔形成試験
HUVEC(ヒト臍帯静脈血管内皮細胞、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所JCRB細胞バンク)は10cmディッシュ(コーニング)でHUVEC用培地(ケー・エー・シー)10mLを用いて培養した。
【0190】
培養したHUVECはPBS10mLで洗浄した後、トリプシン-EDTA(和光)1mLで添加し、室温で3分間静置した。静置後、HUVECがディッシュから剥がれた事を確認し、HUVEC用培地10mLを添加する事でトリプシン-EDTAを中和した。中和後、全量を50mLチューブ(コーニング)に移し、遠心分離機(久保田)を用いて1500rpm、3分間遠心分離を行った。
【0191】
遠心分離後、上清を捨て、沈殿している細胞にHUVEC用培地1mLを加え、再懸濁させた。懸濁液を10μL取り、トリパンブルー(NanoEnTek)10μLと混和し、血球計算盤(NanoEnTek)に10μLを添加した。その後、オートセルカウンターEVE(NanoEnTek)で生細胞数をカウントした。細胞懸濁液を2.5x105cells/mLになるようにHUVEC用培地で希釈し、(1)で調製したマトリゲルに400μL/ウェルで播種した。播種後、(2)で調製したそれぞれの反応液をPBSで100μg/mLに調整した溶液を100μL/ウェルで添加し、CO2インキュベータで8時間培養した。
【0192】
8時間培養後にBZ-X710(キーエンス)の対物レンズ20倍を用いて明視野観察した際のHUVECの形態を
図13に示す。当該図に示されるとおり、HUVECは対照BSA添加した群においてはSJ-5抗体及び対照抗体反応液マトリゲルマトリックス中での管腔形成が確認された。しかし、Glycer-AGEs-BSAは管腔形成を阻害した。また、この管腔形成の阻害はSJ-5抗体との反応液では中和されるが、対照抗体ではその中和が確認できなかった。この結果から、Glycer-AGEs-BSAがHUVECに及ぼす影響をSJ-5が中和可能である事が明らかになった。
【0193】
[実施例15]SJ-5抗体を用いたGlycer-AGEs-BSAによる内皮間葉転換阻害試験
(1)マトリゲルマトリックスの調製は実施例14と同様に操作を行った。
【0194】
(2)Glycer-AGEs-BSAまたは対照BSAと抗体反応液の調製
実施例1で調製したGlycer-AGEs-BSA(10mg/mL)10μLとPBS、SJ-5(10mg/mL)または対照抗体(10mg/mL)90μLを1.5mLチューブ(ワトソン)に加えた。また、対照BSA(10mg/mL)のPBS溶液90μLを加えた。これらの溶液を室温で10分間静置した。その後、遠心分離機(Thermo Fisher Scientific)を用いて14000rpm、15分間遠心分離し、上清を回収した。
【0195】
(3)管腔形成阻害試験
HUVECは10cmディッシュでHUVEC用培地10mLを用いて培養した。
【0196】
培養したHUVECはPBS10mLで洗浄した後、トリプシン-EDTA1mLを添加し、室温で3分間静置した。静置後、HUVECがディッシュから剥がれた事を確認し、HUVEC用培地10mLを添加することでトリプシン-EDTAを中和した。中和後、全量を50mLチューブに移し、遠心分離機を用いて1500rpm、3分間遠心分離を行った。
【0197】
遠心分離後、上清を捨て、沈殿している細胞にHUVEC用培地1mLを加え、再懸濁させた。懸濁液10μLを取り、トリパンブルー10μLと混和させ、血球計算盤に10μLを添加した。その後、オートセルカウンターEVEで生細胞数をカウントした。細胞懸濁液を2.5x105cells/mLになるようにHUVEC用培地で希釈し、(1)で調製したマトリゲルに400μL/ウェルで播種した。播種後、(2)で調製したそれぞれの反応液を100μL/ウェルで添加し、CO2インキュベータで8時間培養した。
【0198】
(4)細胞の回収
それぞれのウェルを1mLのPBSで三回洗浄し、セルリカバリーソリューション(コーニング)を500μL/ウェルで添加した。
【0199】
細胞とマトリゲルマトリックスをブルーチップ(ワトソン)を用いてかき取り、1.5mLチューブに回収し、500μLのセルリカバリーソリューションでウェルを再度リンスし、1.5mLチューブに移した。1.5mLチューブを5回転倒混和した後、1時間氷上で静置し、マトリゲルマトリックスが完全に分解する事を確認した。マトリゲルマトリックス分解後、4℃、800rpmで遠心分離を行い、上清を捨てた。沈殿した細胞を氷冷した1mLでPBSに静かに懸濁し、4℃、800rpmで遠心分離を行い、上清を捨て、再度沈殿した細胞を氷冷した1mLでPBSに静かに懸濁させ、4℃、800rpmで遠心分離を行った。
【0200】
(5)mRNA回収
mRNA回収はCellAmpTM Direct RNA Prep Kit for RT-PCR(Takara)を用いて行った。実際の操作を下記に示す。
【0201】
遠心分離し、沈殿した細胞にKit付属のCellAmp Washing Buffer125μL添加し、混和させた。300xg、5分間遠心分離を行い、上清を除去し、Kit付属のCellAmp Processing Buffer 49μLとDNase I for Direct RNA Prep 1μLを各チューブに添加した。室温で5分間静置後、PCRチューブ(日本ジェネティクス)に移し、サーマルサイクラー(日本ジェネティクス)を用いて75℃、5分間静置することでmRNAを得た。
【0202】
(6)逆転写反応
逆転写反応はPrimeScriptTM RT Master Mix (Takara)を用いて行った。実際の操作を下記に示す。(5)で得たmRNA1μL、5 × PrimeScript RT Master Mix2μLとMaster Mixに付属のRNase Free dH2O7μLをPCRチューブで混和させ、サーマルサイクラーを用いて37℃15分、85℃5秒で反応させた。
【0203】
(7)リアルタイムPCR
リアルタイムPCRはLuna Universal qPCR Master Mix(BioLabs)を用いて行った。(6)で得た逆転写反応産物を90μLの超純水(Thermo Fisher Scientific)で希釈した。希釈後、下表の組成で反応液を調製し、384ウェルプレート(日本ジェネティクス)に添加した。
【0204】
【0205】
Primerは下記の配列を株式会社ファスマックに合成委託して入手したものを使用した。
ヒトα-SMAα-SMA
フォワード:CGGCTTTGCTGGGGACGAT
リバーズ:CAGGGGCAACACGAAGCTCAT
ヒトCD31
フォワード:ATTGCAGTGGTTATCATCGGAGTG
リバーズ:CTCGTTGTTGGAGTTCAGAAGTGG
ヒトβ-アクチン
フォワード:CTGGAACGGTGAAGGTGACA
リバーズ:AAGGGACTTCCTGTAACAATGCA
【0206】
添加後、QuantStudioTM 12K Flex リアルタイム PCR システム(Thermo Fisher Scientific)でリアルタイムPCRを行い、遺伝子発現量を定量した。
【0207】
CD31は内皮細胞のマーカーとして、α-平滑筋アクチン(α-SMA)は間葉細胞のマーカーとしてそれぞれ知られている(非特許文献14、Figure 2など)。α-SMA及びCD31の発現量をβ―アクチンの発現量を内部標準として計算することで評価したグラフを
図14および
図15に示す。
図14より、Glycer-AGEs-BSA添加によってα-SMAの発現量が増加することが明らかになった。また、この作用はSJ-5で抑制可能であるが、対照抗体では抑制が認められなかった。また
図15より、CD31に関してはGlycer-AGEs-BSA添加によってCD31の発現量が低下することが明らかになった。また、この作用はSJ-5で抑制可能であるが、対照抗体では抑制が認められなかった。α-SMAの発現量増加とCD31の発現量低下は血管内皮細胞が間葉系の細胞へと形質転換を起こす内皮間葉転換で認められる作用である。これらの結果からGlycer-AGEs-BSAが内皮間葉転換を引き起こす作用を有しており、SJ-5はこの作用を抑制可能であることが確認された。
【0208】
[実施例16]Glycer-AGEs-Z-Lysの分取精製(高純度化)
実施例2で沈殿物として得たGlycer-AGEs-Z-Lysを0.2Mリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解させ、50mg/mLの試料溶液を調製した。その後、孔径0.2μmのシリンジフィルター(Millex-LG、メルク)でろ過し、ろ液を液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)の試料とした。LC/MSのLC部及びMS部は実施例12と同様に構成した。移動相は富士フイルム和光純薬のHPLCグレードのものを購入した。移動相Aは1M酢酸アンモニウム溶液10mLと蒸留水990mLを混合した10mM酢酸アンモニウム水溶液、移動相Bはアセトニトリルとした。分析時間0-2分において、移動相A:B=100:0-85:15の濃度勾配で流下した。分析時間2-15分において、移動相A:B=85:15-70:30の濃度勾配で、15-17分において移動相A:B=70:30-10:90で流下した。カラムはZORBAX SB-C18(150×9.4mm、アジレント・テクノロジー)を使用し、流速を4mL/分に設定した。ろ過後の試料溶液をLC/MS装置に50μL注入し、ダイオードアレイ検出器(260nm)とMS(陽イオン検出)でGlycer-AGEs-Z-Lysのピークを検出した。分析時間12.3分において、UV吸収性を持つピークが観察され、そのピークはm/z=691.3の[M+Na]
+を含んでいた。そこで、m/z=691をトリガーとしたMS分取を行うことで、保持時間12.3分のピークを回収した。以後、このピークをGAL691と呼称する。LC/MSの分析結果を
図16(ダイオードアレイ検出(260nm))、
図17(UVスペクトル)、および
図18(MSスペクトル)に示す。
【0209】
分取溶液に含まれるアセトニトリルをロータリーエバポレーター(東京理化器械)で除去した。残渣の溶液5mLに対して、10%TFA水溶液1mLを加え、転倒混和した。その後、室温にて10分間遠心分離(12,000×g)し、上清を除去した。得られた沈殿物に超純水(5mL)を加え、再度遠心分離を行い、上清を除去した。この操作を計3回実施することで、沈殿を洗浄した。洗浄後の沈殿は風乾後、乾燥重を測定し(1mg)、冷蔵保存した。
【0210】
[実施例17]グリセルアルデヒド由来ピリジニウム化合物(Lys-ヒドロキシ-トリオシジン)の調製
Lys-ヒドロキシ-トリオシジンは公知の方法により調製することができる(非特許文献12)。具体的には以下の方法によりLys-ヒドロキシ-トリオシジンを調製した。
【0211】
(1)Lys-ヒドロキシ-トリオシジン反応溶液の調製
メタノール(富士フイルム和光純薬)、ジエチレントリアミン-N,N,N’,N”,N”-ペンタ酢酸(DTPA、同仁化学研究所)、Nα-アセチル-L-リシン(Ac-Lys-OH、東京化成工業)、DL-グリセルアルデヒド(DL-GLA、ナカライテスク)は購入により入手した。
【0212】
50mLの遠沈管でリン酸緩衝液(0.267M、pH10.5、30mL)、メタノール(10mL)を混合した(25%メタノール含有0.2Mリン酸緩衝液)。上記の溶液36mLに対して、DTPA(15.7mg)とDL-GLA(356.7mg)を加え、ボルテックスミキサーにて溶解させた。その後、Ac-Lys-OH(799.6mg)を加えて溶解するまで攪拌した(溶液中のDTPAの濃度:1mM、DL-GLAの濃度:110mM、Ac-Lys-OHの濃度:118mM)。さらに、チューブ内の液体が蒸発しないように、パラフィルム(商標)などのフィルムにてチューブの蓋を密閉して37℃で9日間インキュベートした。なお、反応3日目と6日目の反応液にDL-GLAを260mg、196mg追加し、溶解させた。得られた反応溶液は4℃にて保存した。
【0213】
(2)Lys-ヒドロキシ-トリオシジンの分離精製
Lys-ヒドロキシ-トリオシジン反応溶液は、孔径0.2μmのシリンジフィルター(Millex-LG、メルク)でろ過し、ろ液を液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)の試料とした。LC/MSのLC部及びMS部は実施例12と同様に構成した。移動相は富士フイルム和光純薬のHPLCグレードのものを購入した。移動相Aは1M酢酸アンモニウム溶液10mLと蒸留水990mLを混合した10mM酢酸アンモニウム水溶液、移動相Bはアセトニトリルとした。分析時間0-8分において、移動相A:B=97:3-95:5の濃度勾配で流下した。分析時間8-10分において、移動相A:B=95:5-10:90の濃度勾配で、10-13分において移動相A:B=10:90で流下した。カラムはZORBAX SB-C18(150×9.4mm、アジレント・テクノロジー)を使用し、流速を4mL/分に設定した。ろ過後の試料溶液をLC/MS装置に50μL注入し、ダイオードアレイ検出器(269nm)とMS(陽イオン検出)でLys-ヒドロキシ-トリオシジンのピークを検出した。分析時間5.7分において、UV吸収性を持つピークが観察され、そのピークはm/z=467.3の陽イオンを含んでいた。そこで、m/z=467をトリガーとしたMS分取を行うことで、保持時間5.7分のピークを回収した。分取後の溶液はロータリーエバポレーター(東京理化器械)で濃縮乾固させた。得られた沈殿は-20℃で保存した。
【0214】
(3)Lys-ヒドロキシ-トリオシジンの構造確認
得られた沈殿(10mg)は、重水(0.6mL、富士フイルム和光純薬)に溶解させ、外径5mmの核磁気共鳴(NMR)用サンプル管(シゲミ)に移した。その後、NMR装置(AVANCE III HD、500MHz、CryoProbe搭載型、Bruker)でLys-ヒドロキシ-トリオシジンの構造を確認した。1H-NMR及び13C-NMRのスペクトルデータにて、全水素及び炭素の帰属を決定した。また、1H-1H COSY、1H-13C HSQC、1H-13C HMBCスペクトルを解析することで、帰属の妥当性を確認した。Lys-ヒドロキシ-トリオシジンの構造を以下に示す。
【0215】
【0216】
[実施例18]競合ELISAによる新規モノクローナル抗体とGAL691、Lys-ヒドロキシ-トリオシジンの反応性評価
(1)試薬調製
下記試薬をRO水に溶解させて1Lとし、コーティング溶液として使用した。
炭酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬) 1.59g
炭酸水素ナトリウム(富士フイルム和光純薬) 2.93g
【0217】
BSA(5g、Sigma-Aldrich)をPBS(500mL)に溶かし、ブロッキング溶液として使用した。
【0218】
50mMトリス(6.1g、富士フイルム和光純薬)をRO水(約900mL)に溶解させて、6N塩酸(富士フイルム和光純薬)でpH7.4に調整した。得られた溶液にグリセロール(1mL、Sigma-Aldrich)、Tween20 (1mL、ナカライテスク)を加え、RO水にて1Lにメスアップした。得られた溶液を希釈溶液として使用した。
【0219】
下記試薬をRO水に溶解させて1Lとし、さらにRO水を9L加えた後で、Tween20(5mL)を加えた。得られた溶液を洗浄溶液として使用した。
塩化ナトリウム(富士フイルム和光純薬) 80g
リン酸2水素カリウム(富士フイルム和光純薬) 2g
リン酸水素2ナトリウム12水和物(富士フイルム和光純薬) 29g
【0220】
(2)抗原の固相化
コーティング溶液中で1μg/mLに調製したグリセルアルデヒド由来AGEs含有BSA(原液:10mg/mLPBS溶液)の溶液を、100μLずつ96穴マイクロタイタープレート(COSTAR)に加え、4℃で一晩インキュベートした。
【0221】
(3)ブロッキング
固相化の処理を行った各ウェルを洗浄溶液(300μL)で3回洗浄し、ブロッキング溶液(200μL)を加え、室温で1時間放置した。
【0222】
(4)競合実験
GAL691(実施例16にて調製)、Lys-ヒドロキシ-トリオシジン(実施例17にて調製)をそれぞれリン酸緩衝液(0.2M、pH7.4)に溶解させ、10mg/mL溶液を調製した。そして、希釈溶液にて希釈することで、0.625~10mg/mLの2倍希釈系列(5点)の試料溶液を作製した。試料を含まないブランク溶液も同様に希釈溶液を調製した。POD標識化新規モノクローナル抗体(SJ-5)溶液をBSA(1mg/mL、富士フイルム和光純薬)含有希釈溶液にて12,000倍に希釈し、POD標識化SJ-5抗体希釈溶液とした。
【0223】
ブロッキング溶液で処理した各ウェルを洗浄溶液(300μL)で3回洗浄し、2倍希釈系列の試料溶液(各50μL)およびPOD標識化SJ-5抗体希釈溶液(50μL)を加え、プレートミキサーで2分間撹拌後、25℃で1時間インキュベートした。
【0224】
(5)発色
洗浄溶液(300μL)で3回洗浄後、100μLの基質溶液(ELISA POD基質TMBキット(Popular)、ナカライテスク)を加え、室温、遮光下で10分間インキュベートした。その後、2N硫酸(50μL)を加え発色を停止した。
【0225】
(6)吸光度測定およびデータ解析
マイクロプレートリーダー(Cytation5、BioTek)で主波長450nmと副波長650nmの吸光度を測定し、主波長の吸光度から副波長の吸光度を差し引いた。ブランク溶液の吸光度に対するGAL691とLys-ヒドロキシ-トリオシジンの吸光度変化を相対値として表記した。その結果を
図19に示す。GAL691では濃度依存的に吸光度が低下していたが、Lys-ヒドロキシ-トリオシジンは吸光度の低下が観察されなかった。したがって、新規モノクローナル抗体SJ-5は新規構造体のグリセルアルデヒド由来AGEsと結合し、公知のグリセルアルデヒド由来AGEsであるLys-ヒドロキシ-トリオシジンを認識しない抗体であることが明らかとなった。
【0226】
[実施例19]GAL691及び公知のGlycer-AGEsのラジカル測定
実施例16で調製したGAL691(10mg/mLのPBS溶液)について、ESRによるラジカルの解析を行った。ESRの測定条件は以下のパラメータを除いて実施例10と同様である:
Sampling time: 0.06s;
Field modulation Amplitude: 0.2mT;および
Microwave power: 15mW。
【0227】
磁場はα,γ-ビスジフェニレン-β-フェニルアリル(BDPA)のg値(2.00264)で補正した。
【0228】
図20AのESRスペクトルより、GAL691はg=2.00328の有機ラジカルを示すシグナルが検出された。このシグナルは10%(w/v)の亜硫酸ナトリウム(Na
2SO
3、富士フイルム和光純薬工業)の添加により大きく減衰した(
図20B)。また、GLAP(実施例12)、Lys-ヒドロキシ-トリオシジン(実施例17)(各10mg/mLのPBS溶液)も同様にESR測定に供試したところ、ラジカルに由来するシグナルを検出できなかった(
図20C、
図20D)。以上の結果より、GAL691は公知のGlycer-AGEsでは認められないラジカル性を有することが確認された。
【0229】
[実施例20]GAL691の酸化活性に対する光照射の影響
AGEsは眼の硝子体、ブルッフ膜、水晶体などの組織に蓄積しており、糖尿病性網膜症や加齢黄斑変性症を含む様々な疾患に関与することが指摘されている(Yokoi et al., Br. J. Ophthalmol., 2005, 89, 673-675; Glenn et al., Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 2009, 50(1), 441-451; Nagaraj et al., Amino Acids, 201242, 1205-1220; Katagiri et al., Int. Ophthalmol., 2017, 38(2), 1-9; Kanda et al., Sci. Rep., 2017, 7, 16168)。また、眼は光を電気信号に変換することで脳へ情報を伝達する重要な器官である。そこで、AGEsと光の関係に注目し、GAL691の酸化活性に対する光の影響を検討した。
【0230】
実施例16で調製したGAL691およびZ-Lys(各2mg/mLのPBS溶液)について、実施例11と同様にDABに対する酸化活性を検討した。このとき、白色LEDの照射下(3000lux)で一晩反応させた。
【0231】
図21に示すように、DABの酸化による生成物はGAL691単独処理(遮光下)に比べ、GAL691と光照射下での処理で2.6倍増加していた。したがって、GAL691の酸化活性は光照射下でより強力になることが明らかとなった。
【0232】
[実施例21]GAL691の光増感作用による一重項酸素の生成
実施例16で調製したGAL691について、光増感作用による一重項酸素の生成能を検証した。GAL691の対照区として用いたN-α,N-ε-ジ(カルボベンゾキシ)-L-リシン(Z-Lys(Z)-OH)について、渡辺化学工業より購入した。
0.6mL容マイクロチューブ(ワトソン)にて、25μLのGAL691もしくはZ-Lys(Z)-OH(10mM、PBS溶液)、12.5μLの4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(4-OH-TEMP;東京化成工業、400mM、PBS溶液)、12.5μLのPBSを混合し、反応溶液を調製した。4-OH-TEMPは一重項酸素を捕捉してニトロキシドラジカルに変化するため、ESRを用いた一重項酸素の検出によく利用されている(Nakamura et al., J. Clin. Biochem. Nutr., 2011, 49(2), 87-95)。携帯型LED光源(美舘イメージング)を用いて、反応溶液にUV365nm、青色470nm、緑色530nm、または赤色630nmの光を1時間照射した。その後、各反応溶液の一部(50μL)を用いてESRの測定を行った。ESRの測定は一部のパラメータを除いて実施例10と同様の条件で実施した。変更した測定パラメータについて、以下の通りである:
Field center: 3354.47G; Field width: 70G; Sampling time: 0.06s; Field modulation amplitude: 0.1mT; Microwave power: 15mW。
【0233】
生成したニトロキシドラジカルの濃度を定量するため、以下の解析を行った。まず、観察されたニトロキシドラジカルのスペクトルをXeprソフトウェア(Bruker)内のSpinFitモジュールでシミュレーションし、ラジカル種を同定した(g=2.0058、I=1、AN=17.05G)。その後、SpinCountモジュールにて、シミュレーションしたニトロキシドラジカルのスピン濃度(μM)を求めた。
【0234】
図22に示すように、GAL691は特に青色光照射によって、ニトロキシドラジカルを顕著に生成させることが分かった。したがって、GAL691は光増感作用により一重項酸素を生成するグリセルアルデヒド由来AGEsであることが示された。
【0235】
[実施例22]GAL691と既知のグリセルアルデヒド由来AGEsにおける光増感作用を介した一重項酸素生成量の比較
GAL691(実施例16)、GLAP(実施例12)、Lys-ヒドロキシ-トリオシジン(実施例17)について、青色光照射下における一重項酸素の生成量を比較した。試料の調製方法、光源、ESR分析条件、ESRスペクトルの解析条件は実施例21に準じた。測定試料の調製において、一重項酸素の捕捉剤であるアスタキサンチン(富士フイルム和光純薬)は10mMのジメチルスルホキシド(DMSO、富士フイルム和光純薬)溶液を調製し、PBSの替わりに12.5μL加えた(終濃度2.5mM)。アスタキサンチン未処理の試料については、PBSではなく、DMSOを12.5μL加えた。
【0236】
その結果を
図23に示す。青色光照射による一重項酸素の生成量はGLAPやLys-ヒドロキシ-トリオシジンに比べ、GAL691は9倍多かった。また、GAL691と光照射により発生した一重項酸素はアスタキサンチンにより捕捉されていた。これらのことから、公知のグリセルアルデヒド由来AGEsに比べ、GAL691は強力な光増感作用を示す新規グリセルアルデヒド由来AGEであることが示された。
【0237】
[実施例23]GAL691のスーパーオキシドアニオン生成能の検討
GAL691(実施例16)、GLAP(実施例12)、Lys-ヒドロキシ-トリオシジン(実施例17)について、青色光照射下におけるスーパーオキシドアニオンの生成量を比較した。スーパーオキシドアニオンの生成は1-ヒドロキシ-4-ホスホノオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(PPH)を用いてESRを測定することにより確認した。すなわち、スーパーオキシドアニオンを捕捉したPPHは安定な窒素酸化物に変化するため、そのラジカル濃度をESRで測定し、スーパーオキシドアニオン量として評価した(Dikalov et al., Biochemical and Biophysical Research Communications, 1998, 248, 211-215)。PPH-HCl(Enzo Life Sciences)について10mMのPBS溶液(pH7.4)を調製した。各25μLのGAL691、Z-Lys(Z)、GLAP、Lys-ヒドロキシ-トリオシジン(10mMのPBS溶液)を0.6mL容マイクロチューブに加えた。そして、12.5μLのPPH溶液、12.5μLのDTPA(0.4mM)含有PBSを加え、計50μLの反応溶液を調製した。その後、青色光照射を1時間行い、ESRを測定した。なお、光源、ESR分析条件、ESRスペクトルの解析条件は実施例21と同様であるが、Microwave powerのみ5mWに変更した。
【0238】
結果を
図24に示す。光を照射しない場合(遮光下)、GAL691は他のグリセルアルデヒド由来AGEsに比べ、4倍量以上のスーパーオキシドアニオンを生成していた。さらに、その生成量は青色光照射により約3倍増加した。したがって、GAL691は光に依存せずスーパーオキシドアニオンを生成するグリセルアルデヒド由来AGEであり、その生成量は光によって増強されることが示された。
【0239】
[実施例24]免疫抗原の調製
実施例2で沈殿物として得たGlycer-AGEs-Z-Lysを0.2Mリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解させ、50mg/mLの試料溶液を調製した。その後、孔径0.2μmのシリンジフィルター(Millex-LG、メルク)でろ過し、ろ液をLC/MSの試料とした。LC/MSの分析条件は実施例16と同様である。新規構造体であるGAL691を含む保持時間10-16分の画分を分取した。分取溶液に含まれるアセトニトリルはロータリーエバポレーター(東京理化器械)で除去した。残渣の溶液(5mL)に対して、10%TFA水溶液(1mL)を加え、転倒混和した。その後、室温にて10分間遠心分離(12,000×g)し、上清を除去した。得られた沈殿物に超純水(5mL)を加え、再度遠心分離を行い、上清を除去した。この操作を計3回実施することで、沈殿を洗浄した。洗浄後の沈殿は風乾後、乾燥重を測定し、冷蔵保存した。50mg/mLの試料溶液1mLあたり20mgの沈殿を得た。
【0240】
乾燥後の沈殿を0.2Mリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解させ、終濃度を40mg/mLとした(A-peak溶液)。さらに、この溶液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)にて10倍希釈し、終濃度を4mg/mLとした。キャリアタンパク質の溶液は以下のように調製した。ウシ血清アルブミン(BSA、Sigma-Aldrich)の凍結乾燥粉末をPBSに溶解させ、終濃度を10mg/mLとした。1.5mL容のEppendorf Safe-Lock Tubes(エッペンドルフ)内で、4mg/mLのA-peak溶液(500μL)と10mg/mLのBSA溶液(200μL)を混合した。続いて、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC、Thermo Scientific)を超純水に溶解させ、10mg/mL水溶液を作製した。A-peakとBSAの混合溶液(700μL)に、10mg/mL EDC水溶液(100μL)を素早く添加し、転倒混和した後、室温にて一晩インキュベートした。
【0241】
反応終了後、直ちにZeba Spin Desalting Columns(7K MWCO、Thermo Scientific)で反応溶液をゲルろ過した。さらに、Slide-A-Lyzer MINI Dialysis Device(3.5K MWCO、Thermo Scientific)を使用し、低温下(4℃)で透析した。透析外液はPBSとした。透析を開始して3時間後に外液を交換し、さらに一晩の透析を行った。
【0242】
透析終了後、透析デバイス内の溶液を回収し、アミコンウルトラ-0.5(30K MWCO、メルク)で濃縮した。Pierce BCA Protein Assay Kit(Thermo Scientific)でA-peakを架橋させたBSA(A-peak-BSA)のタンパク質濃度を求め、PBSにて任意のタンパク質濃度に調整した。A-peak-BSAはマウスモノクローナル抗体作製における免疫抗原として使用した。
【0243】
[実施例25]モノクローナル抗体の作製(PB-1)
(1)マウスへの免疫
免疫抗原として、A-peak-BSA(4mg/mL)を同じ容量のAdjuvant Complete Freund(BD)と混合してエマルジョンを調製し(抗原の濃度:2mg/mL)、BALB/cマウス10匹の背部皮下に初回免疫をした(抗原の量:200μg/匹)。A-peak-BSA(1mg/mL)を同じ容量のAdjuvant Complete Freund(BD)と混合して調製したエマルジョン(抗原の濃度:0.5mg/mL)を用いて1週間おきに追加免疫(抗原の量:50μg/匹)を行った。初回免疫から6回免疫した後に尾静脈より採血を行い、抗体価の確認を行った。抗体価の高かったものに対して、追加免疫用の抗原(抗原の量:50μg/匹)をマウスの腹腔内に最終投与し、その3日後に細胞融合用に脾臓を摘出した。
【0244】
(2)抗体価の測定
抗血清の力価をELISAで評価した。96穴マイクロタイタープレート(NUNC)に、免疫抗原であるA-peak-BSAを5μg/mLの濃度で50μL/ウェルずつ加え、一晩4℃で固相化した。0.05%(v/v)Tween20を含むPBS(PBS-T)で3回洗浄後、0.5%(w/v)ゼラチンを含むPBS-Tで1時間ブロッキングした。抗血清は500倍から5倍ずつ段階希釈し、1562500倍までの希釈系列を調製後、抗原固相化プレートに50μL/ウェルずつ入れて1時間静置した。洗浄後、0.1%ゼラチンPBS-Tで10000倍に希釈した2次抗体(西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識化抗マウスIgG(KPL)を50μL/ウェルずつ入れて1時間静置した。洗浄後、各ウェルに0.02%(w/v)の過酸化水素を含む0.1Mクエン酸リン酸緩衝液(pH5.0)で0.5mg/mLに調整したo-フェニレンジアミン溶液(100μL)を添加し、25℃で20分間静置した後に、2N硫酸溶液(50μL)を各ウェルに添加し、呈色反応を停止した。その後490nmの吸光度をマイクロプレートリーダーによって測定した。その結果、抗血清の12500倍以上の希釈溶液において、抗原と有意な反応性を示したマウスを細胞融合に使用した。
【0245】
(3)脾臓細胞の調製と細胞融合
マウスから摘出した脾臓をすりつぶし、1匹あたり約1×108個の脾臓細胞を調製した。ミエローマ細胞であるP3U1を培養し、細胞融合当日に生細胞率が95%以上のP3U1を調製した。前記脾臓細胞とP3U1を5:1(細胞数の比)で混ぜ、50%(w/v)濃度の分子量4000のポリエチレングリコールにより細胞融合を行った。融合後、細胞を培地で洗浄し、HAT培地に懸濁させ、96穴培養プレートの各ウェルに1×105個/ウェルとなるように細胞を播きこみ、ハイブリドーマの選択培養を行った。細胞融合10日目にハイブリドーマ培養上清を回収し、培養上清中の抗体価の測定を行った。
【0246】
(4)抗体産生陽性ウェルのスクリーニング
細胞融合後、10日目の培養上清を回収し、抗体産生陽性ウェルのスクリーニングを上記の抗体価測定方法で行った。A-peak-BSA、グリセルアルデヒド由来AGEs含有KLH(Glycer-AGEs-KLH)に陽性、BSAに陰性であるクローンについて選択した。なお、Glycer-AGEs-KLHの調製方法は実施例27に示した。
【0247】
(5)クローニング
A-peak-BSAに対する特異性の高かったクローンを限界希釈法でクローニングを行った。すなわち、細胞を10%のFBSを含むRPMI培地で10個/mLに調製し、96穴培養プレート2枚分の各ウェルに200μLずつ添加した。10日後、培養上清中のA-peak-BSA、Glycer-AGEs-KLHに陽性、およびBSAに陰性であることを確認し、それぞれのウェルに由来するクローンを得た。特異性を十分に備えた本発明の抗体として、新規モノクローナル抗体PB-1産生細胞を得た。
【0248】
(6)抗体の精製
新規モノクローナル抗体PB-1産生細胞を、10%のFBSを含むRPMI培地で培養後、PBSにて洗浄し、無血清培地(SFM培地、GIBCO)にて5日~7日間培養し培養上清を得た。培養上清をプロテインGカラム(GEヘルスケア)にて、IgG画分を精製し、特異性を十分に備えた本発明の抗体として、新規モノクローナル抗体PB-1を得た。
【0249】
[実施例26]モノクローナル抗体PB-1の解離定数測定
モノクローナル抗体PB-1について、以下の手法で解離定数(Kd値)を測定した。A-peak-BSAを10mM酢酸ナトリウム溶液(pH5.0)で希釈し、終濃度50μg/mLのリガンド溶液を調製した。リガンドの固定化およびKd値の算出について、Biacore T200(GEヘルスケア)を使用した。アミンカップリングキット(GEヘルスケア)を用いて、センサーチップCM5(GEヘルスケア)上にリガンド溶液を固定化した(最終固定化量72RU)。続いて、ランニング緩衝液のHBS-P+(GEヘルスケア)にて0.1953~50nMのPB-1抗体希釈溶液を作製し、センサーグラムを取得した。
【0250】
フィッティングモデルとして1:1 bindingを採用し、センサーグラムを解析した結果、PB-1モノクローナル抗体のKd値は4.15nMであった。
【0251】
常法により決定した可変領域のアミノ酸配列を
図25に示す。下線部分はCDR配列を表す。
【0252】
[実施例27]グリセルアルデヒド由来AGEs含有スカシガイヘモシアニン(Glycer-AGEs-KLH)の調製
Glycer-AGEs-KLHの調製方法は、実施例1に記載したGlycer-AGEs-BSAの調製方法に準じた。ただし、500mgのBSAではなく、167mgのヘモシアニン、スカシガイ製(KLH、富士フイルム和光純薬)をDL-グリセルアルデヒドと反応させた(溶液中のKLHの濃度:8.3mg/mL)。
【0253】
[実施例28]グリコールアルデヒド由来ピリジニウム化合物(GA-ピリジン)の調製
GA-ピリジンは公知の方法により調製することができる(Murakami et al. Bioscience Biotechnology and Biochemistry, 2018, 82(2), 312-319)。具体的には以下の方法によりGA-ピリジンを調製した。
【0254】
(1)GA-ピリジン反応溶液の調製
Nα-アセチル-L-リシン(Ac-Lys-OH、東京化成工業)、グリコールアルデヒドダイマー(GA、Sigma-Aldrich)は購入により入手した。50mLの遠沈管に0.96gのGA(0.2M)を加え、40mLのリン酸緩衝液(0.2M、pH7.4)で完全に溶解させた。その後、0.75gのAc-Lys-OH(0.1M)を加えて溶解するまで攪拌した。チューブ内の液体が蒸発しないように、パラフィルム(商標)などのフィルムにてチューブの蓋を密閉し、50℃で3日間インキュベートした。得られた反応溶液は4℃にて保存した。
【0255】
(2)GA-ピリジンの分離精製
GA-ピリジン反応溶液は、孔径0.2μmのシリンジフィルター(Millex-LG、メルク)でろ過し、ろ液を液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)の試料とした。LC/MSのLC部及びMS部は実施例12と同様に構成した。移動相は富士フイルム和光純薬のHPLCグレードのものを購入した。移動相Aはギ酸1mLと蒸留水1000mLを混合した0.1%ギ酸水溶液、移動相Bはアセトニトリル500mL、蒸留水500mL、ギ酸1mLと混合した50%アセトニトリル/0.1%ギ酸溶液とした。分析時間0-10分において、移動相A:B=100:0-90:10の濃度勾配で流下した。分析時間10-12分において、移動相A:B=90:10-0:100の濃度勾配で、12-15分において移動相A:B=0:100で流下した。カラムは35℃にてZORBAX SB-C18(150×9.4mm、アジレント・テクノロジー)を使用し、流速を4mL/分に設定した。ろ過後の試料溶液をLC/MS装置に80μL注入し、ダイオードアレイ検出器(290nm)とMS(陽イオン検出)でGA-ピリジンのピークを検出した。分析時間6分において、UV吸収性を持つピークが観察され、そのピークはm/z=297.1の陽イオンを含んでいた。そこで、m/z=297をトリガーとしたMS分取を行うことで、保持時間6分のピークを回収した。分取後の溶液はロータリーエバポレーター(東京理化器械)で濃縮乾固させた。得られた沈殿は-20℃で保存した。
【0256】
(3)GA-ピリジンの構造確認
得られた沈殿(4.7mg)は、重水(0.6mL、富士フイルム和光純薬)に溶解させ、外径5mmの核磁気共鳴(NMR)用サンプル管(シゲミ)に移した。その後、NMR装置(AVANCE III HD、500MHz、CryoProbe搭載型、Bruker)でGA-ピリジンの構造を確認した。得られた1H-NMRのスペクトルデータを非特許文献(Nagai et al., Journal of Biological chemistry, 2002, 277(50), 48905-48912)と比較し、全水素の帰属を決定した。また、1H-13C HSQCスペクトルを解析することで、帰属の妥当性を確認した。GA-ピリジンの構造を以下に示す。
【0257】
【0258】
[実施例29]グリオキサール由来リシンダイマー(GOLD)の調製
GOLD(Wells-Knecht et al., J. Org. Chem. 1995, 60, 6264-6247)は以下の方法により調製した。
【0259】
(1)反応溶液の調製
Nα-アセチル-L-リシン(Ac-Lys-OH、東京化成工業)、40%グリオキサール溶液(Sigma-Aldrich)は購入により入手した。リン酸緩衝液(0.5M、pH7.4、1mL)に188mgのAc-Lys-OHを溶解させ、1M溶液を調製した。マイクロチューブ内にて、1M Ac-Lys-OH溶液(500μL)、40%グリオキサール溶液(73μL)、0.5Mリン酸緩衝液(427μL)を混合し、ボルテックスミキサーで攪拌した。その後、チューブを密閉して95℃で5分間加熱した。得られた反応溶液は4℃にて保存した。
【0260】
(2)GOLDの分離精製
GOLD反応溶液は、孔径0.2μmのシリンジフィルター(Millex-LG、メルク)でろ過し、ろ液を液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)の試料とした。LC/MSのLC部及びMS部は実施例12と同様に構成した。移動相は富士フイルム和光純薬のHPLCグレードのものを購入した。移動相Aはギ酸1mLと蒸留水1000mLを混合した0.1%ギ酸水溶液、移動相Bはアセトニトリル500mL、蒸留水500mL、ギ酸1mLと混合した50%アセトニトリル/0.1%ギ酸溶液とした。分析時間0-10分において、移動相A:B=95:5-70:30の濃度勾配で流下した。分析時間10-12分において、移動相A:B=70:30-0:100の濃度勾配で、12-15分において移動相A:B=0:100で流下した。カラムは35℃にてZORBAX SB-C18(150×9.4mm、アジレント・テクノロジー)を使用し、流速を4mL/分に設定した。ろ過後の試料溶液をLC/MS装置に20μL注入し、ダイオードアレイ検出器(215nm)とMS(陽イオン検出)でGOLDのピークを検出した。分析時間4.2分において、UV吸収性を持つピークが観察され、そのピークはm/z=411.2の陽イオンを含んでいた。そこで、m/z=411をトリガーとしたMS分取を行うことで、保持時間4.2分のピークを回収した。分取後の溶液はロータリーエバポレーター(東京理化器械)で濃縮乾固させた。得られた沈殿は-20℃で保存した。
【0261】
(3)GOLDの構造確認
得られた沈殿(6.7mg)は、重水(0.6mL、富士フイルム和光純薬)に溶解させ、外径5mmの核磁気共鳴(NMR)用サンプル管(シゲミ)に移した。その後、NMR装置(AVANCE III HD、500MHz、CryoProbe搭載型、Bruker)でGOLDの構造を確認した。1H-NMR及び13C-NMRのスペクトルデータについて、上記文献を参照し、全水素及び炭素の帰属を決定した。また、1H-1H COSY、1H-13C HSQC、1H-13C HMBCスペクトルを解析することで、帰属の妥当性を確認した。GOLDの構造を以下に示す。
【0262】
【0263】
[実施例30]ELISA競合法による新規モノクローナル抗体PB-1の特異性の確認
(1)抗原の固相化
96穴マイクロタイタープレート(Coster)の各ウェルに、コーティング溶液(実施例13)で1μg/mLの濃度に調製したA-peak-BSAもしくはGlycer-AGEs-BSAを100μL加え、一晩4℃で固相化した。
【0264】
(2)ブロッキング
0.05%(v/v)Tween20を含むPBS(PBS-T)で3回洗浄後、0.5%(w/v)ゼラチンを含むPBS-Tで1時間ブロッキングした。
【0265】
(3)競合反応
0.1%(w/v)ゼラチン含有PBS-Tで10μg/mLに希釈したウシ血清アルブミン(BSA)、グルコース由来AGEs含有BSA(Glu-AGEs-BSA)、フルクトース由来AGEs含有BSA(Fru-AGEs-BSA)、グリコールアルデヒド由来AGEs含有BSA(Glycol-AGEs-BSA)、グリセルアルデヒド由来AGEs含有BSA(Glycer-AGEs-BSA)、Nε-カルボキシエチルリシン含有BSA(CEL-AGEs-BSA)、Nε-カルボキシメチルリシン含有BSA(CML-AGEs-BSA)、グリオキサール由来AGEs含有BSA(GO-AGEs-BSA)、メチルグリオキサール由来AGEs含有BSA(MGO-AGEs-BSA)、A-peak-BSAを抗原固相化プレートに各50μLずつ添加し、さらに0.1%(w/v)ゼラチン含有PBS-Tで0.05μg/mLに希釈したPB-1抗体を50μL加え、プレートミキサーで撹拌後、室温で1時間静置した。
【0266】
(4)検出用抗体との反応
洗浄後、0.1%(w/v)ゼラチン含有PBS-Tで0.05μg/mLに希釈したペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG(H+L)ポリクローナル抗体、F(ab’)2フラグメント(KPL)を100μLずつウェルに加え、室温で1時間静置した。
【0267】
(5)発色および吸光度測定
洗浄後、ELISA POD基質TMBキット(ナカライテスク)を各ウェル100μL加え、暗所、室温下で静置した。10分後に2N硫酸を50μLずつ加え、発色を停止させた。マイクロプレートリーダー(Cytation5、BioTek)で主波長450nmと副波長650nmの吸光度を測定し、主波長の吸光度から副波長の吸光度を差し引いた。
【0268】
図26Aに固相化抗原としてA-peak-BSAを用いたときのPB-1抗体の特異性の結果、
図26Bに固相化抗原としてGlycer-AGEs-BSAを用いたときのPB-1抗体の特異性の結果を示す。グラフの縦軸は対照のBSAを1とした場合の吸光度変化で表した。A-peak-BSA並びにGlycer-AGEs-BSAを固相化した場合においても、新規モノクローナル抗体PB-1の特異性として、Glycol-AGEs-BSA、Glycer-AGEs-BSA、A-peak-BSAに陽性、Glu-AGEs-BSA、Fru-AGEs-BSA、CEL-AGEs-BSA、CML-AGEs-BSA、GO-AGEs-BSA、MGO-AGEs-BSAに陰性であった。
【0269】
[実施例31]競合ELISAによる新規モノクローナル抗体PB-1の反応性評価
(1)抗原の固相化
実施例13に記載した試薬を用いて競合ELISAを行った。コーティング溶液中で1μg/mLに調製したA-peak-BSAの溶液を、100μLずつ96穴マイクロタイタープレート(Costar)に加え、4℃で一晩インキュベートした。
【0270】
(2)ブロッキング
固相化の処理を行った各ウェルを洗浄溶液(300μL)で3回洗浄し、ブロッキング溶液(200μL)を加え、室温で1時間放置した。
【0271】
(3)競合実験
GAL691(実施例16にて調製)、GLAP(実施例12にて調製)、Lys-ヒドロキシ-トリオシジン(実施例17にて調製)、GA-ピリジン(実施例28にて調製)、GOLD(実施例29にて調製)、Z-Lysをそれぞれリン酸緩衝液(0.2M、pH7.4)に溶解させ、100mM溶液を調製した。その後、BSA(1mg/mL、富士フイルム和光純薬)含有希釈溶液にて10倍希釈し、10mM溶液を作製した。さらに、10%(v/v)リン酸緩衝液及び1mg/mL BSA含有希釈液にて、0.04、0.16、0.63、2.5mMの4倍希釈系列の試料溶液を作製した。試料を含まないブランク溶液として、リン酸緩衝液を同様に1mg/mL BSA含有希釈溶液で10倍希釈したものを調製した。PB-1抗体については、1mg/mL BSA含有希釈液にて、0.1μg/mL溶液を調製した。
【0272】
ブロッキング溶液で処理した各ウェルを洗浄溶液(300μL)で3回洗浄し、4倍希釈系列の試料溶液(各50μL)およびPB-1抗体希釈溶液(50μL)を加え、プレートミキサーで2分間撹拌後、室温で1時間インキュベートした。
【0273】
(4)検出用抗体との反応
競合反応後の各ウェルを洗浄溶液(300μL)で3回洗浄し、1mg/mL BSA含有希釈溶液で0.05μg/mLに希釈したペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG(H+L)ポリクローナル抗体、F(ab’)2フラグメント(KPL)を100μLずつウェルに加え、室温で1時間静置した。
【0274】
(5)発色
洗浄溶液(300μL)で3回洗浄後、100μLの基質溶液(ELISA POD基質TMBキット(Popular)、ナカライテスク)を加え、室温、遮光下で10分間インキュベートした。その後、2N硫酸(50μL)を加え発色を停止した。
【0275】
(6)吸光度測定およびデータ解析
マイクロプレートリーダー(Cytation5、BioTek)で主波長450nmと副波長650nmの吸光度を測定し、主波長の吸光度から副波長の吸光度を差し引いた。ブランク溶液の吸光度に対するGAL691、GLAP、Lys-ヒドロキシ-トリオシジン、GA-ピリジン、GOLD、Z-Lysの吸光度変化を相対値として表記した。その結果を
図27に示す。GAL691では濃度依存的に吸光度が低下していたが、その他の化合物では吸光度の低下が観察されなかった。したがって、新規モノクローナル抗体PB-1は新規構造体のグリセルアルデヒド由来AGEsと結合し、公知のグリセルアルデヒド由来AGEsであるGLAPやLys-ヒドロキシ-トリオシジン、公知のグリコールアルデヒド由来AGEsであるGA-ピリジンやグリオキサール由来AGEsであるGOLDを認識しない抗体であることが明らかとなった。
ポリクローナル
【0276】
[実施例32]PB-1抗体を用いたA-peak-BSAによるDAB酸化の抑制試験
(1)反応溶液の調製
ジアミノベンシジン(DAB、同仁化学)は5mg/mLのPBS溶液を調製した。A-peak-BSA(2mg/mL、PBS溶液)の調製は実施例24と同様である。0.6mL容のマイクロチューブ(ワトソン)にDAB溶液を10μL加え、さらにPBS、PB-1抗体(1.8mg/mL)、またはマウスIgGアイソタイプコントロール(Ctrl-mIgG、Thermo Fisher Scientific)を100μL加えた。ボルテックスミキサーで撹拌後、A-peak-BSA溶液を10μL加えた。これらの溶液をボルテックスミキサーで撹拌後、白色LED(3000lux)を一晩照射した。光照射後の溶液について、ボルテックスミキサーで撹拌後、スピンダウンし、100μLをビオラモ96ウェルプレート(アズワン)に回収した。
【0277】
(2)吸光度測定およびデータ解析
マイクロプレートリーダー(Cytation5、BioTek)で波長460nmの吸光度を測定し、酸化されたDABを検出した。その結果を
図28に示す。グラフの縦軸は抗体未処理区(PBS添加区)において検出された酸化型DABに対する相対値として表記した。PBS処理区やCtrl-mIgG処理区に比べ、PB-1抗体処理区において、酸化型DABが大きく減少していた。この結果より、PB-1抗体は新規構造体のグリセルアルデヒド由来AGEsと結合することで、新規構造体によるDABの酸化作用を抑制できることが示された。
【0278】
[実施例33]SJ-5抗体と抗GA-ピリジンモノクローナル抗体の交差競合
グリコールアルデヒド由来AGEsであるGA-ピリジンは、Nagaiらによって報告されており(Nagai et al., Journal of Biological chemistry, 2002, 277(50), 48905-48912)、GA-ピリジンに対するモノクローナル抗体(クローン名2A2)も樹立されている。そこで、新しく樹立したSJ-5抗体、PB-1抗体、および抗GA-ピリジン抗体2A2の交差性について、競合ELISAにて検討した。競合ELISAに用いた一部の試薬について、実施例13と同様に調製した。
【0279】
(1)抗原の固相化
コーティング溶液中で1μg/mLに調製したA-peak-BSAの溶液を、100μLずつ96穴マイクロタイタープレート(Costar)に加え、4℃で一晩インキュベートした。
【0280】
(2)ブロッキング
固相化の処理を行った各ウェルを洗浄溶液(300μL)で3回洗浄し、0.5%ゼラチンを溶解させた0.05%Tween20含有PBS(PBS-T)(200μL)を加え、室温で1時間静置した。
【0281】
(3)競合実験
PB-1抗体、マウスIgGアイソタイプコントロール(Ctrl-mIgG、Thermo Fisher Scientific)、抗GA-ピリジン抗体2A2(コスモ・バイオ)を0.1%ゼラチン含有PBS-Tにて希釈し、4倍希釈系列を作製した(0.049~50μg/mL)。また、HRP標識SJ-5抗体(実施例4)について、0.1%ゼラチン含有PBS-Tで10000倍希釈した。
【0282】
ブロッキング溶液で処理した各ウェルを洗浄溶液(300μL)で3回洗浄し、4倍希釈系列の試料溶液(各50μL)およびHRP標識SJ-5抗体希釈溶液(50μL)を加え、プレートミキサーで2分間撹拌後、室温で1時間インキュベートした。
【0283】
(4)発色
洗浄溶液(300μL)で3回洗浄後、100μLの基質溶液(ELISA POD基質TMBキット(Popular)、ナカライテスク)を加え、室温、遮光下で10分間インキュベートした。その後、2N硫酸(50μL)を加え発色を停止した。
【0284】
(5)吸光度測定およびデータ解析
マイクロプレートリーダー(Cytation5、BioTek)で主波長450nmと副波長650nmの吸光度を測定し、主波長の吸光度から副波長の吸光度を差し引いた。その結果を
図29に示す。A-peak-BSAとSJ-5抗体の反応において、PB-1の添加により、PB-1濃度依存的に吸光度が減少した。一方、Ctrl-mIgGや抗GA-ピリジン抗体2A2では吸光度の減少が観察されず、交差競合しなかった。したがって、SJ-5抗体とPB-1抗体は同一のエピトープを認識する抗体であるが、抗GA-ピリジン抗体はSJ-5抗体のエピトープを認識しない抗体であることが示された。
【0285】
[実施例34]網膜色素上皮細胞(ARPE-19細胞)のタイトジャンクション崩壊抑制試験
網膜色素上皮細胞は細胞間タイトジャンクションによる血液網膜関門を形成することで脈絡膜血管からの物質の移動を制限し、網膜の機能を維持している。血液網膜関門の崩壊は糖尿病網膜症などの疾患の原因であると考えられており、網膜色素上皮細胞のタイトジャンクションは網膜の機能保持において極めて重要である(Willermain et al., Int. J. Mol. Sci., 2018, 19(4), pii: E1056.)。xCELLigence RTCA DPシステムは、ウェル底面に電極が設置された機器である。この機器は、ウェル底面に微弱な電流を流すことにより、細胞の機能に影響を与えず、ウェル底面のインピーダンスを測定することが可能である。インピーダンスは細胞間タイトジャンクションの形成により増加し、タイトジャンクションの崩壊によって低下することが明らかになっている(Wittchen et al., Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 2011, 52(10), 7455-63)。本実施例ではxCELLigence RTCA DP システムを用いて、網膜色素上皮細胞(ARPE-19)のA-Peak-BSAによるタイトジャンクションへの影響を確認し、SJ―5抗体及びPB-1抗体でのその抑制効果を評価した。
【0286】
(1)細胞培養
D-MEM(富士フイルム和光純薬)にFBS(富士フイルム和光純薬)を10%添加、ペニシリン―ストレプトマイシン(ナカライテスク)を1%添加し、DMEM培地を調製し、ARPE-19細胞(ATCC)はDMEM培地で10cmディッシュ(コーニング)を用いて培養した。
【0287】
(2)測定プレート
CO2インキュベータ内にxCELLigence RTCA DP システム(ACEA Biosciences)を設置し、安定化させるために、設置後一晩以上セットした状態で使用した。細胞調製直前にE-plate(ACEA Biosciences)にDMEM培地を50μL/wellで添加し、バックグラウンドを測定した。
【0288】
(3)細胞調製
上記(1)で培養したARPE-19細胞の培地を除去し、10mLのPBS(-)(富士フイルム和光純薬)の添加・除去を2回繰り返すことで洗浄した。トリプシン-EDTA(富士フイルム和光純薬)を1mL添加し、CO2インキュベータ(タイテック)で37℃、3分間インキュベートすることで細胞を分散させた。その後、10mLのDMEM培地を添加し、トリプシンの活性を中和した。中和した細胞分散液は50mLのチューブ(ファルコン)に移し、遠心分離機(久保田)を用いて、1500rpm、5分間遠心分離した。その後、上清を捨て、沈殿を1mLのDMEM培地に再懸濁させた。再懸濁させた細胞分散液を10μL取り、トリパンブルー(NanoEnTek)10μLと混和し、血球計算盤(NanoEnTek)に10μLを添加した。その後、オートセルカウンターEVE(NanoEnTek)で生細胞数をカウントした。細胞懸濁液を4.0x105cells/mLになるようにDMEM培地で希釈し、E-plate(ACEA Biosciences)に80μL/ウェルで播種した。
【0289】
(4)抗体及びA-peak-BSAの添加
xCELLigence RTCA DPシステムを用いて15分毎のプレートのインピーダンスを測定し、細胞のプレートへの接着を確認した。細胞播種後、20~24時間後に9μLのPB-1抗体(10mg/mL)、PB-1抗体(3mg/mL)、PB-1抗体(1mg/mL)、PB-1抗体(0.3mg/mL)、SJ-5抗体(10mg/mL)、もしくはPBSと1μLのA-peak-BSA(10mg/mL)を添加した。Controlは20~24時間後にPBS10μLを添加した。添加後も15分間隔でインピーダンスを測定した。
【0290】
A-peak-BSA添加10~12時間後のインピーダンスを測定し、A-peak-BSA添加群を0に標準化した結果を
図30に示す。当該図に示すようにA-Peak-BSAの添加によってインピーダンスの有意に低下することが確認された。このインピーダンスの低下はPB-1抗体の添加によって有意に抑制された。また、SJ-5抗体添加群では終濃度1mg/mLにおいて定価の抑制が認められたが、PB-1抗体の添加ではより低濃度域においてもSJ-5抗体よりも強い抑制が認められた。以上の結果から、A-peak-BSAが網膜色素上皮細胞のタイトジャンクションの崩壊を誘導すること、それをPB-1抗体及びSJ-5抗体の添加により抑制可能であることが示唆された。
【0291】
[実施例35]PB-1抗体を用いたGlycer-AGEs-BSAによる血管内皮細胞管腔形成抑制中和試験
(1)マトリゲルマトリックスの調製
マトリゲルマトリックスの調製は実施例14と同様に操作を行った。
【0292】
(2)Glycer-AGEs-BSAと抗体反応液の調製
実施例1で調製したGlycer-AGEs-BSA(10mg/mL)10μLと10μLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS、富士フイルム和光純薬)、PB-1抗体(10mg/mL)または対照抗体(10mg/mL)90μLを1.5mLチューブ(ワトソン)に加え、室温で10分間静置した。その後、遠心分離機(Thermo Fisher Scientific)を用いて14000rpm、15分間遠心分離し、上清を回収した。
【0293】
(3)管腔形成阻害試験は実施例14と同様に操作を行った。8時間培養後のHUVECの形態を
図31に示す。当該図に示されるとおり、HUVECは対照BSA添加した群においてはマトリゲルマトリックス中での管腔形成が確認された。しかし、Glycer-AGEs-BSAは管腔形成を阻害した。また、この管腔形成の阻害はPB-1との反応液では中和された。この結果から、Glycer-AGEs-BSAがHUVECに及ぼす影響をPB-1抗体が中和可能であることが明らかになった。
【0294】
[実施例36]糖尿病マウス及び対照マウスのPB-1抗体による網膜組織染色
(1)マウスの飼育
妊娠13日のC57BL6/Jマウス(日本クレア)を購入し、仔マウスを得た。糖尿病マウスには生理食塩水(大塚製薬)でストレプトゾトシン(富士フィルム和光純薬)を5mg/mLになるように溶解させ、生後2日後に雄性の仔マウスに300μL皮下投与した。対照マウスには生理食塩水を生後2日後に雄性の仔マウスに300μL皮下投与した。4週間母親マウスと同居させた後に離乳し、糖尿病マウスはHFD32(日本クレア)で8週間飼育した。対照マウスはCE-2(日本クレア)で8週間飼育した。
【0295】
(2)解剖
1.875mLのドミトール(日本全薬工業)、2mLのミダゾラム(サンド)、2.5mLのベトルファール(Meiji Seikaファルマ)と18.625mLの生理食塩水を混和し、三種混合麻酔を調製した。マウスの体重を体重計(タニタ)で計測し、三種混合麻酔を0.1mL/gで腹腔内投与した。麻酔の効果を後肢引き込み反射の消失で確認し、ピンセット(夏目製作所)及び剪刀(夏目製作所)で開腹、開胸し、下大静脈を切断した。生理食塩水を左室から10mL投与することにより潅流し、潅流後眼球を摘出した。摘出した眼球は、OCTコンパウンド(サクラファインテックジャパン)を満たしたクリオモルド(サクラファインテックジャパン)内に沈め、液体窒素で凍結させることで新鮮凍結ブロックを作製した。作製後、-80℃に設定したディープフリーザー(Thermo Fisher Scientific)で保存した。
【0296】
(3)薄切・染色
-30℃に設定したフリーザー(福島工業)でアセトン(富士フィルム和光純薬)を16時間以上インキュベートし、冷アセトンを調製した。PBSにTriton X-100(ナカライテスク)を0.1%添加し、PBS-Tを調製した。新鮮凍結ブロックをクリオスタットCM1950(ライカ)で薄切厚10μmで薄切した。薄切した組織はMASコートスライドガラス(松波硝子工業)に貼り付け、乾燥させた。乾燥後、冷アセトンで10分間インキュベートすることで組織を固定した。固定後、PBS-Tで10分間、2回洗浄した。洗浄後、Fc block(バイオレジェンド)を5%のBSA(Sigma-Aldrich)が溶解したTBS-Tで50倍希釈することでブロッキング液を調製し、室温30分インキュベートすることでブロッキングを行った。ブロッキング後、PB-1抗体(1mg/mL)または対照抗体(1mg/mL)を1%のBSAが溶解したTBS-Tで500倍希釈した一次抗体反応液を調製し、4℃に設定した冷蔵庫(福島工業)で一晩インキュベートした。一次抗体反応後、PBS-Tで10分間、2回洗浄した。Alexa594標識Goat Anti-Mouse IgG H&L(Abcam)を1%のBSAが溶解したTBS-Tで100倍希釈した二次抗体反応液を調製し、遮光下で室温1時間反応させた。二次抗体反応後、PBS-Tで10分間、2回洗浄した。包埋剤としてベクターシールド(Vector Laboratories)を染色組織に添加し、カバーガラス(松波硝子工業)で封入した。その後、共焦点レーザー顕微鏡(オリンパス)で網膜のAlexa594の蛍光を観察した。
【0297】
(4)結果
結果を
図32に示す。PB-1抗体は対照マウスに比べ、糖尿病マウスの網膜神経節細胞層、内顆粒層、外顆粒層、網膜色素上皮細胞層に強く結合するこが明らかになった。また、対照抗体で糖尿病マウスの染色性を確認した所、同様の染色結果が得られない事から、この染色性はPB-1抗体の可変領域による特異的な結合に起因することが明らかになった。これらの結果から、PB-1抗体のエピトープ構造を有するAGEが生体内に存在し、糖尿病マウスの網膜においては網膜神経節細胞層、内顆粒層、外顆粒層、網膜色素上皮細胞層に存在することが明らかになった。また、PB-1抗体は新規構造体の存在を免疫染色学的に確認するために有用なツールであることが明らかになった。
【0298】
[実施例37]PB-1抗体カラムを用いたヒト血清タンパク質の精製及びウェスタンブロッティングによる検出
(1)PB-1抗体カラムの作製
PB-1抗体の溶媒をPD10カラム(GEヘルスケア)にて、カップリング緩衝液(0.2M炭酸ナトリウム,0.5M NaCl,pH8.3)に置換し、10mg/mL PB-1抗体溶液を1mL調製した。カップリング担体としてはNHS-activated Sepharose 4 Fast Flow(GEヘルスケア)を使用した。NHS-activated Sepharose 4 Fast Flow 1mLに氷浴で冷やした1mM HClを10mL流し、その後すぐに、先に調製した10mg/mL PB-1抗体溶液と混合し、ローテーター(TAITEC)を用いて転倒混和(4℃、終夜)することで、PB-1抗体をカップリング担体に固定した。その後、ブロッキング用緩衝液(0.1M Tris-HCl、pH8.0)、洗浄用緩衝液(0.1M酢酸ナトリウム,0.5M NaCl,pH5.0)の順に各3mLずつ流し、この操作を3回繰り返した。最後にPBS 10mL流して溶媒を置換した後、4℃で保存した。
【0299】
(2)PB-1抗体カラムを用いたヒト血清タンパク質の精製
精製試料として、ヒト血清(プール)(コスモ・バイオ株式会社)を用いた。最初に10mLのヒト血清(プール)を結合緩衝液(0.02M Tris-HCl、0.03mM NaCl、pH7.4)で7倍に希釈し、SP Sepharose Fast Flow(GEヘルスケア)30mLを用いて、製品マニュアルにしたがい精製した。得られた溶出画分を結合緩衝液を用いて透析した後、Protein G Sepharose 4 Fast Flow(GEヘルスケア)3mLを用いて、製品マニュアルにしたがい精製し、IgGを取り除いた。得られた素通り画分をサンプルとしてPB-1抗体カラム1mLを用いて精製した。精製により得られた各画分は常法に従い電気泳動(SDS-PAGE)にて解析した。
【0300】
SDS-PAGEの結果を
図33に示す。PB-1抗体カラムにサンプル(図中、Sample)を通した後(図中、Flow Through)、結合緩衝液25mLを2回繰り返し流した(図中、Wash1、Wash2)。その後、溶出緩衝液(0.1Mグリシン,pH3.0)10mLでPB-1抗体カラムに結合したタンパク質を溶出した(図中、Elute)。溶出液は直ちに0.4mLの中和緩衝液(1M Tris-HCl、pH9.0)を加えて中和したSDS-PAGEの結果、大半の夾雑タンパク質が除去され、精製試料の純度が上がることが示された。
【0301】
(3)PB-1抗体を用いたウェスタンブロッティング
PB-1抗体カラムにて精製したタンパク質を、常法に従い電気泳動し(SDS-PAGE),PVDF膜に電気転写してウェスタンブロッティングを行った。抗体反応は、一次抗体としてPB-1抗体、二次抗体としてPeroxidase-conjugated AffiniPure Goast Anti-Mouse IgG (H+L)(Jackson ImmunoResearch) を用いて行った。また、二次抗体の結合による非特異的なシグナルを区別するため、二次抗体のみを用いた抗体反応も行った。次に、ECL Western Blotting Detection Reagents(GEヘルスケア)を用いて発色させ、タンパク質のバンドを検出した。
【0302】
二次抗体のみを反応させたPVDF膜ではバンドは全く検出されなかった。一方、PB-1抗体を反応させたPVDF膜でのみ、バンドが検出された(
図34)。この結果より、PB-1抗体を用いたウェスタンブロット法はヒト血清中に存在する新規構造体修飾タンパク質を検出可能であることが示された。
【配列表】