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特許7525164掻破動作検出爪及び掻破動作定量評価装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】掻破動作検出爪及び掻破動作定量評価装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20240723BHJP
【FI】
A61B5/11 230
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021028556
(22)【出願日】2021-02-25
(65)【公開番号】P2021137570
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-12-04
(31)【優先権主張番号】P 2020033148
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(74)【代理人】
【識別番号】110001209
【氏名又は名称】特許業務法人山口国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小関 弘展
【審査官】外山 未琴
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第9711060(US,B1)
【文献】特開2015-112127(JP,A)
【文献】特開2005-152053(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
爪部材と、前記爪部材を指に取り付ける環状部材を備え、
前記爪部材は、指頭及び爪に相当する爪部を有した平板と、前記平板に設けられ、前記爪部に力が掛かることにより生じる前記平板の反力を検出する検出素子を備える
掻破動作検出爪。
【請求項2】
前記検出素子はひずみゲージであり、
前記平板は、前記ひずみゲージが貼付される部位が非曲面で構成される
請求項1に記載の掻破動作検出爪。
【請求項3】
前記爪部材は、前記環状部材により指腹側に装着される
請求項1または請求項2に記載の掻破動作検出爪。
【請求項4】
掻破動作検出爪と、信号検出回路と、信号処理装置を備え、
前記掻破動作検出爪は、
爪部材と、前記爪部材を指に取り付ける環状部材を備え、
前記爪部材は、指頭及び爪に相当する爪部を有した平板と、前記平板に設けられ、前記爪部に力が掛かることにより生じる前記平板の反力を検出する検出素子を備え、
前記信号検出回路は、前記検出素子の出力が入力され、
前記信号処理装置は、前記信号検出回路で検出された信号を処理する
掻破動作定量評価装置。
【請求項5】
前記掻破動作検出爪の位置を検出する掻破動作検出爪位置測定装置を更に備えた
請求項4に記載の掻破動作定量評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アトピー性皮膚炎等の患者の掻破動作を検出する掻破動作検出爪に関し、更にはそれを適用して患者の感じる掻痒感の度合いを客観評価する掻破動作定量評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
湿疹・皮膚炎、アトピー性皮膚炎、皮膚掻痒症等の掻痒性疾患の「掻痒度」は患者の主観的評価に限定されており、就寝中の掻痒感や小児、高齢者など自覚症状を訴えにくい患者での評価は困難である。
【0003】
特許文献1には、動物や人が特定の体動をするときに発生する音をマイクロホンで取得し、予め取得して記憶した特定体動音と比較することによって、掻破動作の回数を計測することが開示されている。
【0004】
特許文献2には、センサ素子として圧電素子、加速度センサ、歪ゲージ、コンデンサマイクロホンの何れか1つを、腕または指にバンドで装着して、人の掻破行動を検知することが開示されている。
【0005】
非特許文献1には、人の爪に歪ゲージを貼り付け、爪のひずみを利用して指が物体に触れた際の接触力の大きさと方向を検出することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4162620号
【文献】特許第6334907号
【非特許文献】
【0007】
【文献】日本機械学会[No.00-2]ロボティクス・メカトロニクス講演会‘00講演論文集:[A]-69-097(1)(2) 2000.5.12~13
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
マイクロホンや圧電素子などによる体動の検出では、掻破動作と掻破以外の動作との識別が難しい。また、仮に掻破動作のみを抽出できたとしても掻破回数は計測できるが、掻破動作の強度を評価することが困難である。
【0009】
患者の爪に歪ゲージを貼り付ける方法では、爪にかかる反力によって掻破動作の強度を計測することも可能ではあるが、爪自体の強度が健康状態や爪の伸びによって変化するため、普遍的・長期的な評価に向いていないという問題がある。また、爪自体が3次元的に不規則に湾曲しているため、強度を荷重へ正確に校正することが困難であり、掻痒感や掻破強度が同一であっても、体型や爪の形状の影響を受けるため、検出される計測値の個体間変動が大きく、科学的信頼性に乏しいという問題もある。
【0010】
そこで、本発明は、人の掻破動作の回数及び強度を安定して正確に計測し、掻痒感の度合いを客観評価する装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するため、本発明に係る掻破動作検出爪は、爪部材と、爪部材を指に取り付ける環状部材を備え、爪部材は、指頭及び爪に相当する爪部を有した平板と、平板に設けられ、爪部に力が掛かることにより生じる平板の反力を検出する検出素子を備える。
【0012】
また、本発明に係る掻破動作定量評価装置は、掻破動作検出爪と、信号検出回路と、信号処理装置を備え、掻破動作検出爪は、爪部材と、爪部材を指に取り付ける環状部材を備え、爪部材は、指頭及び爪に相当する爪部を有した平板と、平板に設けられ、爪部に力が掛かることにより生じる平板の反力を検出する検出素子を備え、信号検出回路は、検出素子の出力が入力され、信号処理装置は、信号検出回路で検出された信号を処理する。
【0013】
更に、本発明に掛かる掻破動作定量評価装置は、掻破動作検出爪の位置を検出する掻破動作検出爪位置測定装置を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、人の掻破動作の回数及び強度を安定して正確に計測することができ、掻痒性疾患の重症度や病態を客観的に評価することができることで、適用する内服薬や外用剤等を適切に選定することができる。また、日内および季節間の掻痒感の変動を客観的に評価することができることで、適用した内服薬や外用剤等の効果を判定することができる。更に、掻痒性疾患の新薬開発への貢献も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】本実施の形態の掻破動作検出爪の一例を示す平面図である。
図1B】本実施の形態の掻破動作検出爪の一例を示す側面図である。
図1C】本実施の形態の掻破動作検出爪の一例を示す正面図である。
図2】本実施の形態の掻破動作検出爪の使用例を示す説明図である。
図3】本実施の形態の掻破動作定量評価装置の一例を示すブロック図である。
図4】他の実施の形態の掻破動作定量評価装置の一例を示すブロック図である。
図5】掻破動作検出爪で得られた荷重値の波形の一例を示すグラフである。
図6A】4指別毎の振動数の計測結果を示すグラフである。
図6B】4指別毎の全振幅の計測結果を示すグラフである。
図6C】4指別毎の振幅の計測結果を示すグラフである。
図6D】4指別毎の積分値の計測結果を示すグラフである。
図7A】強度毎の振動数の計測結果を示すグラフである。
図7B】強度毎の全振幅の計測結果を示すグラフである。
図7C】強度毎の振幅の計測結果を示すグラフである。
図7D】強度毎の積分値の計測結果を示すグラフである。
図8A】部位毎の振動数の計測結果を示すグラフである。
図8B】部位毎の全振幅の計測結果を示すグラフである。
図8C】部位毎の振幅の計測結果を示すグラフである。
図8D】部位毎の積分値の計測結果を示すグラフである。
図9A】着衣の有無毎の振動数の計測結果を示すグラフである。
図9B】着衣の有無毎の全振幅の計測結果を示すグラフである。
図9C】着衣の有無毎の振幅の計測結果を示すグラフである。
図9D】着衣の有無毎の積分値の計測結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の掻破動作検出爪及び掻破動作定量評価装置の実施の形態について説明する。
【0017】
<本実施の形態の掻破動作検出爪の構成例>
図1Aは、本実施の形態の掻破動作検出爪の一例を示す平面図、図1Bは、本実施の形態の掻破動作検出爪の一例を示す側面図、図1Cは、本実施の形態の掻破動作検出爪の一例を示す正面図である。また、図2は、本実施の形態の掻破動作検出爪の使用例を示す説明図である。
【0018】
掻破動作検出爪1は、爪部材11と、爪部材11を指に取り付ける環状部材12を備える。掻破動作検出爪1は、環状部材12により爪部材11が手の指の指腹側に装着される。
【0019】
爪部材11は、指頭及び爪に相当する爪部111aを有した平板111と、爪部111aに力が掛かることにより生じる平板111の反力を検出する検出素子として、平板111のひずみを検出するひずみゲージ112と、ひずみゲージ112で検出された平板111のひずみ量に応じた電気信号が出力される信号線路113を備える。
【0020】
平板111は、先端側が爪部111aとなり、爪部111aの先端が円弧状で、人の爪に近い形状をしている。爪部111aは、指の形状に倣うような曲面で構成されていても良いし、平板状の非球面で構成されていても良い。
【0021】
また、平板111は、中央部が非曲面で構成され、この中央部の表面にひずみゲージ112が貼付されている。更に、平板111は、根本側の表面に、ひずみゲージ112の電気信号を電線2に接続するための電気回路となる信号線路113が形成されている。信号線路113の末端には、電線2と電気接続するための接続パッド114が形成されている。
【0022】
環状部材12は、平板111と接続される部位である平坦部121と、指に装着する部分である環状部122を備える。
【0023】
環状部材12は、平坦部121に平板111の根本部が固着されている。また、環状部材12は、平坦部121と環状部122とが、一体で成形されている。環状部材12は、掻破動作検出爪1を指に装着した際に、平板111の先端の爪部111aに力がかかることにより生じる平板111の反力を受けとめる剛性を有する。すなわち図1Bにおいて、平坦部121を支点としたときの平板111の曲げ剛性(図中のa矢印方向)よりも、平坦部121を支点としたときの環状部122の曲げ剛性(図中のb矢印方向)のほうが大きい。
【0024】
環状部122は、平板111の爪部111aに掻破動作による反力が作用しても、指との間にすき間ができてぐらつかないようにするために、環状本体1221の先端に、例えばラチェット式の締結部1222を有しており、指の太さに合わせて、環状部122の内径が調整可能に構成される。
【0025】
電線2は、爪部材11の接続パッド114と電気的に接続され、ひずみ信号検出回路3に電気的に接続される。
【0026】
ひずみ信号検出回路3は信号検出回路の一例で、例えばホイートストーンブリッジ回路であり、ひずみゲージ112から入力した信号より抵抗値の変化等を検出する。
【0027】
<本実施の形態の掻破動作検出爪の作用効果例>
掻破動作検出爪1は、表面にひずみゲージ112を貼付した平板111を備えた爪部材11が、指に装着した際に平板111の先端にかかる反力を受けとめる剛性を有した環状部材12に固着され、この環状部材12により指に着脱可能に構成される。
【0028】
掻破動作検出爪1は、爪部材11が人工物で構成され、爪部材11の形状、強度を一定にできるため、長期的な観察においても安定した計測が可能となる。また、爪部材11は、ひずみゲージ112が貼付される部位である平板111が、非曲面で構成されるので、掻破動作が爪表面方向及びその反対方向であっても掻破強度の計測値が同一となり、正確な計測が可能となる。
【0029】
なお、掻破動作検出爪1は、環状部材12により爪部材11が手の指の指腹側に装着されることで、掻破動作による力が爪部材11に掛かったときに、この力が逃げることを指腹で抑制することができる。平板111の先端の爪部111aに力がかかることにより生じる平板111の反力は、平板111のひずみ量に比例する。これにより、平板111のひずみ量を、掻破動作による力に比例したものとすることができる。
【0030】
<本実施の形態の掻破動作定量評価装置の構成例>
図3は、本実施の形態の掻破動作定量評価装置の一例を示すブロック図である。図3は、図2に示すように、掻破動作検出爪1を4本の指に装着した例である。
【0031】
掻破動作定量評価装置5Aは、ひずみ信号検出回路3の信号を処理する信号処理装置4を備える。信号処理装置4は、例えばパーソナルコンピュータで構成される。各ひずみ信号検出回路3の信号が信号処理装置4に取り込まれ、信号処理装置4では、以下の(1a)~(1d)に示す計数、判定等の処理が行われる。
【0032】
(1a)掻破する指の種類と本数
(1b)掻破強度の判定
(1c)一定時間内の掻破回数
(1d)掻破全体の仕事量
【0033】
<本実施の形態の掻破動作定量評価装置の作用効果例>
上述したように、掻破動作検出爪1は、長期的な観察においても安定した計測が可能で、また、掻破強度の正確な計測が可能である。この掻破動作検出爪1が所定の指に装着され、掻破動作定量評価装置5Aでは、各指に装着された掻破動作検出爪1のひずみゲージ112の信号が、ひずみ信号検出回路3を介して信号処理装置4に入力される。
【0034】
各指に装着された掻破動作検出爪1において、患者の掻破動作に伴い爪部材11の平板111がひずみ、平板111のひずみ量が、ひずみゲージ112の信号から信号検出回路3により抵抗値等として検出される。信号処理装置4では、平板111のひずみ量に応じた信号から、上述した(1a)~(1d)に示す計数、判定等の処理が行われる。
【0035】
これにより、掻破動作定量評価装置5Aでは、かゆみが特定の箇所にある場合に、その箇所での掻痒感の度合いである掻痒度を客観評価することができる。また、就寝中や読書中など、患者が無意識に掻破行動を行っても掻痒度を定量化することができる。更に、小児、高齢者など自覚症状を言葉にして伝えづらい患者でも、掻痒度を定量化することができる。
【0036】
<他の実施の形態の掻破動作定量評価装置の構成例>
図4は、他の実施の形態の掻破動作定量評価装置の一例を示すブロック図である。他の実施の形態の掻破動作定量評価装置5Bは、掻破動作検出爪1と掻破動作検出爪位置測定装置6を併用したときの例である。
【0037】
掻破動作検出爪1は、図1A図1Cで説明した構成に加え、位置検出用のアンテナ16を備える。
【0038】
掻破動作検出爪位置測定装置6は、例えばマイクロ波帯の送受信回路を有し、アンテナ16からの反射信号によって、掻破動作検出爪1の位置を検出する。
【0039】
各掻破動作検出爪1のひずみゲージ112の出力であるひずみ信号検出回路3の信号は、信号処理装置4に取り込まれる。掻破動作検出爪位置測定装置6の出力である位置情報信号も、信号処理装置4に取り込まれる。
【0040】
信号処理装置4は、例えばパーソナルコンピュータで構成され、信号処理装置4では、以下の(2a)~(2c)に示す計数、判定等の処理が行われる。
【0041】
(2a)掻破動作の位置すなわち身体の部位別の掻破強度の判定
(2b)一定時間内の掻破回数
(2c)掻破全体の仕事量
【0042】
<他の実施の形態の掻破動作定量評価装置の作用効果例>
掻破動作定量評価装置5Bでは、掻破動作検出爪1と、掻破動作検出爪1の位置を検出する掻破動作検出爪位置測定装置6を併用することで、身体のどの部位で、掻破動作検出爪1による掻破動作が行われたのか検出することができる。
【0043】
これにより、かゆみが身体の複数個所にある場合、それぞれの箇所での掻痒度を客観評価することができる。
【0044】
平板111の反力を検出する検出素子としては、ひずみゲージではなく、圧電素子、誘電体素子のような検出素子であってもよい。
【実施例
【0045】
以下、掻破動作検出爪1を用いて人の掻破行動を計測、分析し、掻痒感の客観的かつ定量的評価への応用を検証した。
【0046】
1.検証方法
被験者は上肢の運動器疾患や神経疾患の既往がない健常成人4名(男性3名,女性1名)(平均年齢22.8歳)である。掻破動作検出爪1を被検者の右手の示指~小指の指先に環状部材12で固定する。掻破動作検出爪1を指に装着する際、環状部材12の環状部122の内径を、締結部1222により指の太さに合わせて調整して、掻破動作検出爪1と指との間にすき間ができてぐらつかないように固定する。
【0047】
掻破箇所は、大腿部・上腕部・頭部・前腕部の4か所とし、掻破の強度は弱から強までの3段階とした。更に、それぞれの掻破箇所及び強度で、着衣なしと着衣ありで掻破した。被験者の筋疲労を考え,掻破する部位の順番はランダムとし,それぞれの運動課題の合間には約5分間の休憩を設けた。
【0048】
掻破動作検出爪1とインターフェイスを介して連結した掻破動作定量評価装置を構成するひずみ信号検出回路3である計測機器(PCD-400A(登録商標);共和電業)で、掻破動作検出爪1の爪部材11のひずみ度をデータ化し、パーソナルコンピュータで構成される信号処理装置4内に取り込んだ。
【0049】
一方、あらかじめ規定の荷重でひずみ値を測定しておき,掻破動作で得られたひずみ度を荷重値に換算した(荷重校正)。
【0050】
図5は、掻破動作検出爪で得られた荷重値の波形の一例を示すグラフである。図5では、示指、中指、環指及び小指に装着した各掻破動作検出爪1で、所定の掻破箇所での掻破動作により得られた荷重値の波形を示す。得られた荷重値の波形から安定した10秒間を抽出し、ノイズ成分を除去して平滑化処理を施した。示指から小指のそれぞれで、振動数(掻破回数/10秒)、全振幅(指の屈曲、伸展による正負の振幅の和)、指の屈曲方向、伸展方向の各振幅、整流化後の積分値(≒総仕事量)を算出した。なお、掻破動作検出爪1では、掻破動作による力が爪部材11に掛かったときに、指を屈曲する動作で生じる平板111の反力は、平板111のひずみ量に比例するので、指の屈曲方向及び伸展方向の振幅を計測可能である。
【0051】
これらの項目について4指別、強度別、部位別、着衣の有無によって統計学的に比較・検討した。
【0052】
統計学的解析にはStatcel3(登録商標)を使用した。4指別、強度別、部位別の比較は、一元配置分散分析:ANOVAとBonferroni/Dunn法にて多重比較検定を行った。また、着衣の有無ではMann-Whitney U 検定を行い、有意水準はいずれも5%未満とした。
【0053】
2.検証結果
(1)4指別比較
図6Aは、4指別毎の振動数の計測結果を示すグラフ、図6Bは、4指別毎の全振幅の計測結果を示すグラフ、図6Cは、4指別毎の振幅の計測結果を示すグラフ、図6Dは、4指別毎の積分値(≒総仕事量)の計測結果を示すグラフである。図6A図6Dに示すグラフは、4指別毎の計測結果の一例である。
【0054】
4指別で比較すると、振動数については、図6Aに示すように、示指~小指間で有意差はなく、全振幅については、図6Bに示すように、示指-小指間、中指-環指間、中指-小指間、環指-小指間に有意差が認められ、全振幅の大きさは中指、示指、環指、小指の順となった。
【0055】
振幅については、図6Cに示すように、屈曲方向では示指-環指間、示指-小指間、中指-小指間で、伸展方向では示指-中指間、中指-環指間、中指-小指間、環指-小指間で有意差が認められた。総仕事量を示す積分値については、図6Dに示すように、中指が約39%,示指が約29%,環指が約23%,小指が約9%であり,中指が最も高かった。
【0056】
上述したように、指毎の比較では、振動数は4指で差がなく、全振幅は比較的示指と中指が高く、小指が低いという計測結果が得られた。指毎の計測結果から考察すると、一定時間内において、4指はほぼ同じ周期で連動して動くが、示指と中指は強く押し当てていることがわかった。
【0057】
また、指を屈曲しながら掻く「引っ張り方向」と 伸展しながら掻く「押し出し方向」に分けた場合、示指は屈曲、中指は伸展させながら掻く傾向が認められた。更に、掻破全体における動作負担は中指が最も多く、示指と環指が同程度で、小指は動作負担の割合が最も小さいことがわかった。
【0058】
(2)強度別比較
図7Aは、強度毎の振動数の計測結果を示すグラフ、図7Bは、強度毎の全振幅の計測結果を示すグラフ、図7Cは、強度毎の振幅の計測結果を示すグラフ、図7Dは、強度毎の積分値(≒総仕事量)の計測結果を示すグラフである。図7A図7Dに示すグラフは、強度毎の計測結果の一例である。
【0059】
弱・中・強の3群で比較したところ、振動数については、図7Aに示すように、有意な差はなく、全振幅については、図7Bに示すように、弱-中間、中-強間、弱-強間に有意差が認められ、強度が強くなる程全振幅も増加した。振幅については、図7Cに示すように、屈曲方向では弱-強間、伸展方向では弱-強間、中-強間で有意差があり、積分値については、図7Dに示すように、弱-強間、中-強間で有意差が認められた。
【0060】
上述したように、強度毎の比較では、掻破の強度の強弱で掻破の回数は変化しないが、全振幅は強度が強くなるにつれて段階的に上昇していることがわかった。また、強度が強くなるにつれて屈曲、伸展方向の振幅と積分値も徐々増加していくことがわかった。以上の強度毎の計測結果から考察すると、振幅は加速度と面圧の和であるため、掻破行動の強弱は、指を速く動かして掻くのではなく、面圧で調整することが示唆される。
【0061】
(3)部位別比較
図8Aは、部位毎の振動数の計測結果を示すグラフ、図8Bは、部位毎の全振幅の計測結果を示すグラフ、図8Cは、部位毎の振幅の計測結果を示すグラフ、図8Dは、部位毎の積分値(≒総仕事量)の計測結果を示すグラフである。図8A図8Dに示すグラフは、部位毎の計測結果の一例である。
【0062】
大腿・上腕・頭部・前腕の4群で比較したところ、振動数については、図8Aに示すように、大腿よりも頭部で多く、全振幅については、図8Bに示すように、前腕よりも頭部が有意に低かった。振幅については、図8Cに示すように、屈曲方向、伸展方向とも有意差は無く、積分値については、図8Dに示すように、頭部で低い傾向はみられたものの統計学的有意差は認められなかった。
【0063】
上述したように、部位毎の比較では、大腿、上腕、前腕に比べて、頭部は比較的「頻回」に、「軽く」掻破する傾向が見られた。一方、振幅と積分値には有意差が認められなかった。以上の部位毎の計測結果から考察すると、頭部は毛髪があり、皮膚が敏感であることから、頭部は弱い面圧で頻回に掻破すると考えられる。
【0064】
(4)着衣の有無比較
図9Aは、着衣の有無毎の振動数の計測結果を示すグラフ、図9Bは、着衣の有無毎の全振幅の計測結果を示すグラフ、図9Cは、着衣の有無毎の振幅の計測結果を示すグラフ、図9Dは、着衣の有無毎の積分値(≒総仕事量)の計測結果を示すグラフである。図9A図9Dに示すグラフは、着衣の有無毎の計測結果の一例である。
【0065】
直接肌を掻破するか、衣服の上から掻破するかで比較すると、振動数については、図9Aに示すように、着衣の有無で有意差が認められ、全振幅についても、図9Bに示すように、着衣の有無で有意差が認められた。これに対し、振幅については、図9Cに示すように、屈曲方向の振幅には有意差が認められなかったが、伸展方向の振幅には有意差が認められた。また、積分値については、図9Dに示すように、着衣の有無で有意差が認められた。
【0066】
上述したように、着衣の有無毎の比較では、屈曲方向の振幅のみ有意差は認められなかったが、着衣有りが振動数、全振幅、振幅(伸展方向)、積分値とも有意に高い結果であり、衣服の上から掻く方が回数も全振幅も高くなっていることが判った。以上の着衣の有無毎の計測結果から考察すると、着衣の有無で積分値にも差が見られたことから、服の上からでは掻破の力が伝わりにくいため、無意識に回数、強度、仕事量を増やした可能性があると考えられる。
【0067】
以上説明したように、本実施の形態の掻破動作検出爪及び掻破動作定量評価装置により、掻痒感を客観的かつ定量的に評価でき、診断に必要なデータを定量的に得ることができると判った。
【符号の説明】
【0068】
1・・・掻破動作検出爪、11・・・爪部材、111・・・平板、111a・・・爪部、112・・・ひずみゲージ、113・・・信号線路、114・・・接続パッド、12・・・環状部材、121・・・平坦部、122・・・環状部、1221・・・環状本体、1222・・・締結部、2・・・電線、3・・・ひずみ信号検出回路、4・・・信号処理装置、5A、5B・・・掻破動作定量評価装置、6・・・掻破動作検出爪位置測定装置、16・・・アンテナ
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C
図8D
図9A
図9B
図9C
図9D