(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】アルカリ性の製造業廃棄物又は副産物からカルシウムを抽出及び炭酸化する方法
(51)【国際特許分類】
C01F 11/18 20060101AFI20240723BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20240723BHJP
C22B 3/12 20060101ALI20240723BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20240723BHJP
C22B 7/04 20060101ALI20240723BHJP
C22B 26/20 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
C01F11/18 C
B09B3/70 ZAB
C22B3/12
C22B3/44 101Z
C22B7/04 B
C22B26/20
(21)【出願番号】P 2021531838
(86)(22)【出願日】2019-12-04
(86)【国際出願番号】 FI2019050871
(87)【国際公開番号】W WO2020115369
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-11-25
(32)【優先日】2018-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】510063878
【氏名又は名称】アールト・ユニバーシティ・ファウンデイション・エスアール
【氏名又は名称原語表記】Aalto University Foundation sr
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【氏名又は名称】山本 宗雄
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100188802
【氏名又は名称】澤内 千絵
(72)【発明者】
【氏名】ヤルヴィネン,ミカ
(72)【発明者】
【氏名】オネヴァ,サンニ
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0064752(US,A1)
【文献】特表2015-506413(JP,A)
【文献】特表2017-513806(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0240432(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107311111(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0078168(US,A1)
【文献】特表2011-523615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 11/18
B09B 3/70
C22B 3/12
C22B 3/44
C22B 7/04
C22B 26/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシ
ウム含有アルカリ性スラグ原料から炭酸カルシウムを製造する方法であって、
前記アルカリ性スラグ原料を、少なくとも2回の抽出工程を含む連続抽出工程において、水溶液中に塩を含む抽出溶媒を用いて抽出する工程であって、これによりカルシウム含有ろ液及び残留スラグが各抽出工程において形成される、工程、
第1の抽出工程と同時に抽出粉砕を実施する工程、
各抽出工程後、前記ろ液から前記残留スラグを分離する工程、
各残留スラグを、連続抽出における次の抽出に移送して、該次の抽出における原料として用い、及び、最後の抽出にて分離された残留スラグを廃棄する工程、
各ろ液を、連続抽出における前の抽出に移送して、該前の抽出における抽出溶媒として用い、及び、第1の抽出工程から分離された第1のろ液を炭
酸化工程に移送する工程、
前記第1のろ液からのカルシウムを炭酸カルシウムとして炭酸化する工程であって、該第1のろ液が炭酸化溶媒としても使用され、炭酸化ガスを用いることで、炭酸カルシ
ウムを析出させる、工程、
残りの炭酸化溶媒から炭酸カルシウムを分離及び回収する工程、並びに
残りの炭酸化溶媒を、連続抽出工程における最後の抽出工程にリサイクルして、抽出溶媒として使用する工程
を含む方法。
【請求項2】
未使用の抽出溶媒が、
前記抽出工程
のいずれか1つに加えられ、他方、残りの抽出工程は、後続の抽出工程から、又は、炭酸化工程から、向流で供給されるろ液を使用して操作される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
未使用の抽出溶媒が、
前記抽出工程
のいずれか1つに加えられ、未使用の抽出溶媒は
、アンモニウム塩の水溶
液である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
未使用の抽出溶媒が、
前記抽出工程
のいずれか1つに加えられ、未使用の抽出溶媒は
、塩化アンモニウム(NH
4Cl)の水溶液である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
未使用の抽出溶媒が、5~
7のpH値を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
アルカリ性スラグ原料が、製鉄及び製鋼スラグで
ある、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
炭酸化ガスが、CO
2又はCO
2含有ガスで
ある、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
炭酸化が、炭酸化されるろ液に炭酸化ガスをバブリングすることによって、又は、煙道ガススクラバーへろ液を噴霧することによって行われる、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
蒸発した第1の抽出溶媒を含む、炭酸化に使用されたCO
2リーンガスのストリー
ムが炭酸化工程から離され、該溶媒が、
凝縮され、前記残りの炭
酸化溶媒と一緒に最後の抽出工程にリサイクルされる、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
抽出工程が、10~90
℃の温度で行われる、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
2~30の連続抽出工
程が用いられる、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ性の製造業廃棄物又は副産物、例えば、製鋼スラグ、又は、高収率の燃焼フライアッシュ及びボトムアッシュから、カルシウムを抽出し、続いて、抽出されたカルシウムを炭酸カルシウムとして炭酸化し、残存するスラグ及びアッシュに含まれる残留カルシウムの収率を低くする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
以下では、いくつかの既存の問題に対するいくつかの既存の解決方法を参照することにより、発明の背景について述べる。しかしながら、当該技術への参照は、この技術が、いかなる国においても一般的な知識の一部を形成することを、承認又は示唆するものではなく、承認又は示唆するとみなされるべきではない。
【0003】
製鉄及び製鋼製造は、世界において最も大きな産業の1つであり、年間10億メートルトン以上のスチールを生産する。スラグは、製鉄及び製鋼プロセスから副産物として大量に生じる。現在の用途は、セメント骨材、道路建設、及びライミング原料へ処理することに、主に限定される。製鉄製造業は、さらに、大気に対して、合計で、人為的なCO2排出量として約6~7%を排出する。
【0004】
スラグは、しかしながら、多くの成分、例えば、カルシウム(Ca)、ケイ素(Si)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、及びクロム(Cr)等、を含み、これらは、スラグの残部から分離されると価値が生じ得る。
【0005】
合成炭酸カルシム、又は沈降炭酸カルシウム(PCC)は、現在、3つの異なるプロセスである石灰ソーダプロセス、塩化カルシウムプロセス、及び焼成/炭酸化プロセスにより製造される。
【0006】
これらの一般的なPCC製造プロセスは、原料としてカルシウムの酸化物又は水酸化物を必要とし、これは、通常、石灰石を焼成することにより製造され、著しいCO2排出を生じさせる。使用されるバージンの石灰石には、高品質のPCCを提供するために、不純物を低レベルで含むことがさらに求められる。
【0007】
アルカリ性の廃棄物又は副産物、例えば、製鉄及び製鋼スラグ、から、所望の成分、例えば、前記カルシム、を分離することは、従来から実施されてきており、例えば、水中で二酸化炭素(CO2)ガスを用いて、スラグ中のアルカリ金属を炭酸塩に変質させている。
【0008】
FI122348に記載された方法では、カルシウムは、弱酸及び弱塩基から形成される塩を用いてスラグから抽出され、その後、析出(又は沈降若しくは沈殿)工程が行われる。しかしながら、1回の抽出工程の限界により、工程の収率は低く、効率的な追加処理を許可するには高すぎるカルシウム含有量を未だに含む、残留スラグが残り得る。
【0009】
US 2013064752 A1及びWO 2015168159 A1は、ともに同一の工程を開示し、スラグからCaが抽出され、その後、抽出溶媒の炭酸化が行われ、沈降炭酸塩が使用済の溶媒から分離され、溶媒は場合により、抽出工程又は抽出工程に続く分離工程へとリサイクルされる。炭酸塩の収率は、前述の工程で得られた低い収率と同程度である。さらに、これらの文献では、連続して抽出を行うことを記載していない。
【0010】
US 2017240432 A1は、2段階の抽出を記載しているが、第2工程は、精製を主に目的としており、これは、より一般的に使用される弱い塩の溶液の代わりに、厳しい抽出溶液、即ち、塩酸、を用いることを必要とする。
【0011】
したがって、依然として、より効率的なカルシウム抽出が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】FI122348
【文献】US 2013064752 A1
【文献】WO 2015/168159 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、独立請求項の特徴によって定義される。いくつかの特定の実施形態は、従属請求項に定義される。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の態様によれば、アルカリ性の廃棄物の有効な利用手段が提供される。
【0015】
本発明の第2の態様によれば、温和な条件を用いて、前記アルカリ性の廃棄物から、高収率のカルシウムを効率的に抽出する方法が提供される。
【0016】
本発明の第3の態様によれば、連続して実施される2以上の抽出工程を含む方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
したがって、本発明では、炭酸カルシムを製造する新しい方法が提供され、この方法では、高収率の炭酸カルシウムを提供し、一方で、使用済の廃棄物又はスラグを、効率的な更なる処理を可能とするために、充分に低いカルシム含有量で残す。
【0018】
本発明の方法は、さらに、アルカリ性の産業廃棄物又は副産物、例えば、製鉄及び製鋼スラグ(高炉スラグ、転炉鋼スラグ、脱硫スラグ、レイドルスラグ(ladle slag)、及びアルゴン酸素脱炭スラグを含む)及びアッシュ(燃焼フライアッシュ及びボトムアッシュ等を含む)の適切な使用を提供する。
【0019】
上記方法は、さらに、そのような製造業の煙道ガス(flue gas)から、相当な量のCO2を消費する可能性を有する。最も重要なことは、石灰窯(lime kiln)処理の間に放出されるCO2の大部分と結合し得ることであり、ここでは、炭酸カルシウム(CaCO3)が酸化カルシウム(CaO)に変換され、その結果、二酸化炭素(CO2)が放出される。さらに、スラグからカルシウムを除去することにより、通常の精製工程として機能させ、残りの残留物中の他の有用な成分の濃度を上昇させる。
【0020】
上記方法の実現可能性は、主に、化学組成のコストによって決定される。(抽出+炭酸化)Caの抽出に基づくサイクル及びPCCの収率が高くなるほど、製造されるPCCの1トン当たりの溶媒の損失は小さくなる。
【0021】
さらに、本方法では、非常に重要なことに、残留スラグのCaO含有量を大幅に低減できる。これにより、残留スラグの物理的量を減少でき、次に、例えば、さらなる処理又は埋め立てのコストを低減し得る。さらに、残留スラグ中のCaOは、溶融温度を上昇させ、その結果、CaO含有量が低くなるほど、必要な温度及びエネルギーが低くなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の好ましい実施形態に従ったプロセス工程の概略図であり、4つの抽出工程が記載されている。
【
図2】
図2は、本方法のPCC収率の効率のグラフであり、最初の10サイクルにおける沈降炭酸カルシウム(PCC)の収率に関し、それぞれが、2回の抽出工程及び1回の炭素化工程から組み合わされる。PCC収率は、得られるPCCの実際の測定質量を、PCCの理論質量で割った割合、即ち、m
PCC/(m
0
CaO M
CaCO3/M
CaO)で得られる値である。
図2の数値は、溶媒の化学分析から得られたCa抽出効率を表す。
【
図3】
図3は、沈降炭酸カルシウム(PCC)のPCC収率の、留分に関するグラフである。これに加え、図の数値は、溶媒中のバナジウム(V)濃度(mg/L)を示し、Vの蓄積は生じていない、したがって、溶媒のリサイクル性は維持されていることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
定義
本文脈において、用語「アルカリ性スラグ原料」は、産業廃棄物又は副産物の原料、例えば、製鉄及び製鋼製造業の製鉄及び製鋼スラグ、好ましくは、高炉スラグ、転炉鋼スラグ、電気アーク炉スラグ(EAFスラグ)、クロム転炉スラグ、クロム鉄スラグ、脱硫スラグ、レイドルスラグ及びアルゴン酸素脱炭スラグ(AODスラグ)、及び、セメント又は製紙産業のカルシウム含有原料、及び廃コンクリート又は一般廃棄物から選択されるものを含むことを意図する。これは、さらに、種々のアッシュに関連する製品、例えば、発電所からのアッシュ、都市の固形廃棄物の焼却炉からのアッシュ、紙のリサイクルからの脱墨アッシュ、適切な例としては、燃焼フライアッシュ、燃焼ボトムアッシュ及び下水管のスラッジアッシュを意味する。
【0024】
本発明は、カルシウム含有アルカリ性スラグ原料から炭酸カルシウムを製造する方法に関し、この方法は以下の工程を含む(
図1参照):
前記アルカリ性スラグ原料を、少なくとも2回の抽出工程を含む連続抽出工程において、水溶液中に塩を含む抽出溶媒を用いて抽出する工程であって、これによりカルシウム含有ろ液及び残留スラグが各抽出工程において形成される、工程、
各抽出工程後、前記ろ液から前記残留スラグを分離する工程、
各残留スラグを、連続抽出における次の抽出に移送して、該次の抽出における原料として用い、及び、最後の抽出にて分離された残留スラグを廃棄する工程、
各ろ液を、連続抽出における前の抽出に移送して、該前の抽出における抽出溶媒として用い、及び、第1の抽出工程から分離された第1のろ液を炭素化工程に移送する工程、
前記第1のろ液からのカルシウムを炭酸カルシウムとして炭酸化する工程であって、該第1のろ液が炭酸化溶媒としても使用され、炭酸化ガスを用いることで、炭酸カルシムを析出(又は沈降若しくは沈殿)させる、工程、
残りの炭酸化溶媒から炭酸カルシウムを分離及び回収する工程、並びに
残りの炭酸化溶媒を、連続抽出工程における最後の抽出工程にリサイクルして、抽出溶媒として使用する工程。
【0025】
このように、本方法の抽出工程は、連続して行われ、全ての抽出工程は、通常、向流式で行われる。
【0026】
未使用の(フレッシュな)抽出溶媒は、いずれであってもよい任意の抽出工程に加えられる。したがって、未使用のメイクアップ溶媒を、1以上の抽出工程に加えることができる。1つの工程に対してのみ加える場合、未使用の溶媒は、最後の抽出工程に加えられることが好ましく、残りの(又は他の)抽出工程は、次の抽出工程から又は炭酸化工程から向流式で供給されるろ液を使用して行われる。
【0027】
典型的には、未使用の抽出溶媒は、弱塩基を含む塩から形成された水溶液であり、好ましくは、例えば酢酸アンモニウム(CH3COONH4)、塩化アンモニウム(NH4Cl)、硝酸アンモニウム(NH4NO3)、又は、これらの塩の2以上の混合物などであるアンモニウム塩の水溶液である。しかしながら、弱酸及び弱塩基から形成される塩の水溶液、例えば、塩化アンモニウム(NH4Cl)の水溶液、を使用することがさらに好ましい。
【0028】
第1(最初)の抽出溶媒の塩の濃度は、好ましくは、0.2~5Mであり、より好ましくは、0.5~2Mである。
【0029】
典型的には、第1の抽出溶媒は、弱酸性であり、例えば、5~7、好ましくは約6のpH値を有する。
【0030】
塩化アンモニウムを用いた抽出は、以下の式1に示される:
2NH4Cl(aq)+CaO・SiO2(s)+H2O(l)→
Ca2++2Cl-+2NH4OH(aq)+SiO2(s) (式1)
ここで、アルカリ性スラグ生成物の化学式は、CaO・SiO2と簡略化されているが、カルシウム(及び多くの他の化合物)は、これらのスラグ生成物において、異なる形態として存在し得る。
【0031】
第1の抽出工程では、通常、スラグからカルシムを20~40%抽出できる。
【0032】
追加の抽出工程は、Ca収率を増加させるために必要とされる。
【0033】
炭酸化工程から分離された溶媒は、未使用の抽出溶媒と比べて、わずかに高いpHを有し、例えば7~8、又は約7.5のpHを有する。
【0034】
本発明の一実施形態によれば、第1の抽出工程の前に、原料を、好ましくは未使用の抽出溶媒の存在下で、効果的に混合する又は湿式粉砕する工程を行う。1つのオプションは、第1の抽出工程と同時に湿式粉砕を実施することである。これは、後述するように抽出粉砕と呼ばれる。
【0035】
本発明の好ましい実施形態によれば、本方法において、連続した2から30、好ましくは、2から3の向流抽出工程が使用され、各抽出工程から分離される残留スラグは、次の抽出工程に移送され、一方で、各抽出工程から分離されるろ液は、前の抽出工程に移送されるように配置される。
【0036】
ろ液のpHは、最後の抽出から第1(最初)の抽出まで、7.5から9.5に増加する。
【0037】
さらに重要なことに、ろ液は、残留スラグから、うまく抽出されたカルシウムをすべて含み得る。これらのカルシウムの更なる部分は、廃棄されるのではなく、前の抽出工程にリサイクルされ得る。したがって、本方法を用いることにより、抽出されたカルシウムの収率は増加する。
【0038】
抽出工程は、技術分野の公知の技術で実施されるが、好ましくは、10~90℃、より好ましくは20~70℃、最も適切には20~25℃の温度で行われる。温度が高くなると、蒸気圧が高くなるため、NH3の損失が高くなる。
【0039】
本発明の好ましい実施形態では、上記方法に、1つの炭素化工程が含まれる。
【0040】
炭酸化工程は、第1の抽出工程から分離されたろ液に対して行われる。
【0041】
炭酸化において使用されるガスは、典型的には、CO2又はCO2含有ガスであり、好ましくは、製鉄及び製鋼製造業のCO2含有煙道ガスであり、好ましくは、石灰窯処理からの製品ガスであり、ここで、CO2は、CaOが生成されるときにCaCO3から放出される。
【0042】
炭酸化は、好ましくは、炭酸化されるろ液に、炭酸化ガスをバブリングすることにより、又は、煙道ガススクラバーへろ液を噴霧することにより、行われる。
【0043】
炭酸化は、好ましくは、0~100℃、好ましくは、10~70℃、より好ましくは10~30℃の温度で行われる。通常、炭酸化は、以下の式2:
Ca2++2Cl-+2NH4OH(aq)+CO2(g)→CaCO3(s)+2NH4Cl(aq) (式2)
に基づいて行われる。
【0044】
更なるリサイクル工程が本方法に含まれ得、これは、炭酸化に使用されたCO2リーン(または低濃度の)ガスのストリームを、凝縮及びリサイクルするために、炭酸化工程から離すことによって行われる。このCO2リーンガスのストリームは、蒸発した溶媒を少量含むことから、その凝縮物を、残りの炭酸化溶媒と一緒に、最後の抽出工程にリサイクルしてよい。
【0045】
したがって、より好ましい実施形態において、該方法は、以下の装置を用いて行われる(
図1参照)。
・第1の抽出ユニットE
1:これに原料が供給ラインS
oを介して供給される。第1の抽出ユニットE
1にて行われる抽出の後、固形分とろ液とに分離され、その後、固形分は、第1のスペント(使用済)スラグライン(spent slag line)S
1を経て第2の抽出ユニットE
2に更に移送され、ろ液は、炭酸塩溶媒ラインL
carbを経て炭酸化ユニットCに移送される。
・第2の抽出ユニットE
2:これに第1のスペントスラグが第1の抽出ユニットE
1からスペントスラグラインS
1を経て供給される。第2の抽出ユニットE
2にて行われる抽出の後、同様に、固形分とろ液とに分離され、その後、固形分、即ち、スペントスラグは、第2のスペントスラグラインS
2を経てオプションのさらなる抽出ユニットE
3~E
nに、又は、オプションのさらなる処理に更に移送され、ろ液は、最後のろ液ラインL
nを経て第1の抽出ユニットE
1に移送される。
・オプションの更なる抽出ユニットE
3~E
n:これらは第1及び第2の抽出ユニットE
1及びE
2と直列に(連続して)配置される。
・炭酸化ユニットC:これに第1の抽出ユニットE
1からろ液が炭酸化溶媒ラインL
carbを経て移送される。炭酸化ユニットCにおいて用いられる二酸化炭素は、CO
2ラインを経てこのユニットに移送される。炭酸化の後、液体から固形分を分離する工程が行われ、固形分(ここでは、析出(沈降若しくは沈殿)した炭酸カルシウム、PCC)がPCC製品ラインを経て回収され、分離された液体の少なくとも一部は、リサイクル溶媒ラインL
recを経て最後の抽出ユニットE
nへと移送され、リサイクル溶媒ラインL
recは最後の抽出ユニットE
nに第1のろ液ラインL
1として接続されている。
【0046】
上記のように、装置は、いくつかの抽出ユニットE1~En、同数のスペントスラグラインS1~Sn、及び同数のろ液ラインL1~Lnを含み得る。スペントスラグラインS1~Sn-1は、スペントスラグを、各抽出ユニットE1~Enから次のユニットに、下流方向に(downstream)移送するために用いられ、一方で、ろ液ラインL2~Lnは、ろ液を、各抽出ユニットEから前のユニットに、上流方向に(upstream)移送するために用いられる。したがって、装置は、向流式で操作される。
【0047】
最終のスペントスラグラインSnは、さらに下流の抽出ユニットには接続されていないが、代わりに、装置から最終のスペントスラグを分離するために用いられる。
【0048】
第1のろ液ラインL1は、さらに上流の抽出ユニットには接続されていないが、代わりに、溶媒を抽出システムに供給するために同様に用いられ、該溶媒は炭酸化ユニットCから得られる。
【0049】
上述したように、装置は、上記スペントスラグラインS1~Snに加えて、原料供給ラインS0を含み、該ラインは原料スラグを装置に供給する。
【0050】
同様に、装置は、抽出ユニットE1~Enの1つ以上に未使用の追加溶媒を供給するための1以上の供給ラインL0と、炭酸化ユニットCに炭酸化ガスを供給するためのCO2ラインとを含む。
【0051】
これらのユニット及びラインは、全て
図1に示されており、本発明の装置の一実施形態を示し、4つの抽出ユニットE、及び、全ての抽出ユニットEに対して接続される、未使用の溶媒用の分離された供給ラインL
0を含む。本発明の上記装置では、しかしながら、複数の抽出ユニットEは必要ではなく、同様に、複数の溶媒供給ラインL
0は必要でない。
【0052】
開示される本発明の実施形態は、本明細書に開示される特定の構造、プロセスステップ、又は材料に限定されず、関連技術における当業者によって認識される上記と同意義の内容に拡張されることを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明する目的でのみ使用され、限定することを意図するものではないことも理解されたい。
【0053】
1つの実施形態又はある実施形態に対する本明細書に亘った参照は、該実施形態に関連して説明される特定の特性、構造、又は特徴が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書中の様々な箇所における「1つの実施形態において」又は「実施形態において」という表現は、必ずしもすべてが同じ実施形態を指すとは限らない。参照が、例えば、約又は実質的に等の用語を用いて、数値に関して行われる場合、正確な数値も開示される。
【0054】
本明細書で用いる場合、複数の品目、構造要素、構成要素、及び/又は材料は、便宜上、共通のリストとして表示され得る。ただし、これらのリストは、リストの各構成が、個別、かつ、固有の構成として、個別に認識されているかのように、解釈されるべきである。さらに、本発明の様々な実施形態及び実施例は、様々な構成要素の代替案と共に参照され得る。このような実施形態、実施例、及び代替案は、相互に事実上同等であると解釈されるべきでなく、本発明の別個の自立した表現とみなされるべきと理解される。
【0055】
さらに、記載された特性、構造又は特性は、1以上の実施形態において、任意の適切な方法で組み合わせることができる。この明細書において、本発明の実施形態を十分に理解するために、多数の具体的な詳細が提供される。当業者は、しかしながら、本発明が1以上の特定の詳細を含まずに実施できることを認識するであろう。
【0056】
上述した例は、1以上の特定の用途における本発明の原理を説明するが、実施の形態、使用及び詳細における多くの変更は、発明の能力を行使することなく、及び、本発明の原理及び原則から逸脱することなく、行われ得ることが、当業者には明らかであろう。したがって、以下に記載の特許請求の範囲による場合を除いて、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0057】
以下の限定されない例は、本発明の実施形態で得られる利点を単に説明することを意図している。
【0058】
(実施例1)
カルシウム含有スラグの抽出と炭酸化
炭酸カルシウム(CaO)を47%まで含むアルカリ性の工業スラグを第1の抽出ユニットへと移送した。
【0059】
また、第1の抽出ユニットに、pH値が約6の未使用の溶媒を供給した。
【0060】
抽出した混合物を、溶解したCaOを含むろ液と、抽出し得るCaOをまだ含む残留スラグとに分離した。この未洗浄の残留スラグを別に分け、ろ液を炭酸化にさらに移送した。
【0061】
残留スラグから分離したろ液は、溶解したCaOを含み、約9.1のpH値を有していた。このろ液を炭酸化段階に移送し、二酸化炭素(CO2)と混合して、沈降炭酸カルシウムを得た。
【0062】
炭酸化段階で得られたろ液は、約7.5のpH値を有し、次に、第2の抽出段階における抽出溶媒として用いられた。
【0063】
別に分けた未洗浄の残留スラグを第2の抽出段階に移送し、炭酸化段階から得られたpH値約7.5の再生溶媒を用いて抽出した。この第2の抽出ユニットからの残留スラグは、2回抽出されており、さらなる処理工程に使用できることがわかった。
【0064】
第2の抽出段階からろ液(約8のpH値を有していた)を分離し、第1の抽出段階に供給した。この第1の抽出工程には、未使用のスラグの新しいバッチも供給した。
【0065】
このプロセスを継続するために、第1の抽出工程からスラグを再び別に分けて、ろ液を炭酸化工程に移送した。
【0066】
第1の残留スラグから分離したろ液は、溶解したCaOを含み、約9.1のpH値を有していた。このろ液を炭酸化段階に移送し、二酸化炭素(CO2)と混合して、沈降炭酸カルシウムを得た。
【0067】
再度、ろ液からPCCを分離した後、炭酸化で使用した溶媒を、第2の抽出工程に供給し、第1の抽出工程で別に分けた未洗浄の残留スラグからカルシウムを抽出するために使用した。
【0068】
2回の抽出工程及び1回の炭酸化工程を含むシングルサイクルを、実験的に10回繰り返したところ、
図2及び3から理解されるように、溶媒の有効性が残っていることを示した。
【0069】
このプロセスの結果を、
図2及び3に、各サイクル後の沈降炭酸カルシウム(PCC)の収率によって示す。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、製鉄及び製鋼スラグ、セメント又は製紙産業のカルシウム含有スラグ、及び、廃コンクリート又は一般廃棄物の処理に用いることができる。さらに、種々の灰関連製品、例えば、燃焼フライアッシュ、燃焼ボトムアッシュ、又は下水管のスラッジ燃焼アッシュの処理に使用し得る。
【0071】
特に、本発明は、製鉄及び製鋼方法に関連して実施される場合に有用である。
【符号の説明】
【0072】
E1~En 第1の抽出ユニットE1から最後の抽出ユニットEnまでの連続した抽出ユニット
C 炭酸化ユニット
S0~Sn アルカリ性のスラッジ原料ラインS0から最後のスラッジラインSnまでの連続したスラッジライン
L1~Ln 第1のろ液ラインL1から最後のろ液ラインLnまでの連続したろ液ライン
L0.1~L0.n 1以上の未使用溶媒ライン
Lcarb 炭素化溶媒を移送するろ過ライン
Lrec 使用済の炭酸化溶媒を移送する(第1のろ過ラインL1を通じて最後の抽出ユニットEnにリサイクルされる)ろ過ライン
CO2ライン 炭酸化ガス用の供給ライン
PCCライン 沈降炭酸カルシウム製品の回収用の製品ライン