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特許7525228シリコーンゲルを含む積層体に穿孔を導入するための工程
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】シリコーンゲルを含む積層体に穿孔を導入するための工程
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/56 20060101AFI20240723BHJP
   C08J 9/00 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
B29C65/56
C08J9/00 Z CES
C08J9/00 CFD
C08J9/00 CFF
C08J9/00 CFG
C08J9/00 CFH
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021531430
(86)(22)【出願日】2020-02-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-19
(86)【国際出願番号】 EP2020054735
(87)【国際公開番号】W WO2020173856
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-02-08
(31)【優先権主張番号】19159465.4
(32)【優先日】2019-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515126536
【氏名又は名称】メンリッケ ヘルス ケア アーベー
【氏名又は名称原語表記】MOELNLYCKE HEALTH CARE AB
【住所又は居所原語表記】Gamlestadsvaegen 3c S-40252 Goeteborg Sweden
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(72)【発明者】
【氏名】ヨハニソン, ウルフ
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0229688(US,A1)
【文献】特表2006-516003(JP,A)
【文献】特表2009-519140(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 63/00 - 63/48
B29C 65/00 - 65/82
B29C 69/00 - 69/02
C08J 9/00 - 9/42
B32B 1/00 - 43/00
A61L 15/00 - 15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層体に複数の穿孔を導入するための工程であって、少なくとも以下のステップ:
i.積層体を提供するステップであって、前記積層体が、少なくとも一つのシリコーンゲル含有層と接触している少なくとも一つの基材層を含み、
前記積層体が更に、前記シリコーンゲル含有層と接触している状態の少なくとも一つの変形可能層を含む、前記ステップと、
ii.少なくとも前記基材層及び前記シリコーンゲル含有層に穿孔を導入するのに適する穿孔部材のアレイを備える超音波溶接装置を提供するステップと、
iii.前記穿孔部材のアレイを、前記積層体と接触させるステップと、
iv.超音波エネルギーを前記積層体に適用して、少なくとも前記基材層及び前記シリコーンゲル含有層に複数の穿孔を同時に導入しつつ、前記変形可能層に変形部分を導入するステップであって、前記変形部分が、穿孔部材の形状に基本的に対応し、更に、前記変形部分が、少なくとも部分的に、そのように形成された穿孔に入り込む、前記ステップと、
v.前記複数の穿孔を前記積層体に導入した後、すなわちステップ(iv)の後、前記変形可能層と前記シリコーンゲル含有層との接触を、前記変形部分による前記複数の穿孔への入り込みが維持されている状態で、少なくとも12時間保持するステップと、
vi.任意に、ステップ(v)で示される時間の後、前記変形可能層を前記シリコーンゲル含有層から除去するステップと、を含む工程。
【請求項2】
前記積層体の前記基材層が、ポリマー層である、請求項1に記載の工程。
【請求項3】
前記基材層の厚さが、5μm~200μmである、請求項1又は請求項2に記載の工程。
【請求項4】
前記基材層が、前記シリコーンゲル含有層から更に隔離されて配置されている、すなわち前記基材層の上方に位置している、少なくとも一つの更なる層と接触している、請求項1から3のいずれか一項に記載の工程。
【請求項5】
シリコーン組成物、前駆体又はシリコーンゲルが、工程ステップ(i)より前に行われる工程ステップ(0)において、前記基材層と接触して接合する、請求項1から4のいずれか一項に記載の工程。
【請求項6】
ステップ(0)において前記基材層をシリコーン組成物、前駆体又はシリコーンゲルと接合させる瞬間から、超音波エネルギーを積層体に適用して同時に複数の穿孔を前記積層体に導入するまでの時間が、12時間以下である、請求項5に記載の工程。
【請求項7】
前記シリコーンゲル含有層が、2成分シリコーン組成物を主成分とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の工程。
【請求項8】
前記シリコーンゲルの柔らかさを表す入り込み深さが、3mm~20mmであり、ここで、前記入り込み深さは、62.5gの重量を有するコーンをシリコーンゲルの試験片の表面に接触させ、重力により試験片に入り込ませたときの深さである、請求項1から7のいずれか一項に記載の工程。
【請求項9】
平方メートル当たりのシリコーンゲルの含量が、10g/m~500g/ ある、請求項1から8のいずれか一項に記載の工程。
【請求項10】
前記穿孔が、0.5mm~20mmの直径を有する、請求項1から9のいずれか一項に記載の工程。
【請求項11】
前記変形可能の融点が、120~230℃である、請求項1から10のいずれか一項に記載の工程。
【請求項12】
前記変形可能層が、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート又はポリアミドから選択される材料を含むか、又はそれである、請求項1から11のいずれか一項に記載の工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンゲルを含む積層体へ穿孔を導入するための工程、特にシリコーンゲルを含む積層体に安定な穿孔を形成するための超音波エネルギーの使用に関する。
【0002】
具体的には、本発明による工程は、以下のステップを含む:
(iii)穿孔部材のアレイを、基材層と、シリコーンゲル含有層と、変形可能層と、を少なくとも含む積層体の変形可能層と接触させるステップであって、前記変形可能層が、前記シリコーンゲル含有層を被覆している、前記ステップと、
(iv)超音波エネルギーを前記積層体に適用して、複数の穿孔を前記積層体に同時に導入しつつ、前記変形可能層に変形部分を導入するステップであって、前記変形部分が、穿孔部材の形状に基本的に対応し、更に、前記変形部分が、少なくとも部分的に、そのように形成された穿孔に入り込む、前記ステップと、
(v)前記複数の穿孔を前記積層体に導入した後、すなわちステップ(iv)の後、前記変形可能層と前記シリコーン層との接触を、前記変形部分による前記複数の穿孔への入り込みが維持されている状態で、少なくとも12時間、好ましくは少なくとも24時間、更に好ましくは少なくとも36時間、更に好ましくは少なくとも48時間保持するステップ。
【0003】
前記変形可能層と前記シリコーン層との接触を維持する主な目的は、形成される穿孔をシリコーンゲルの少なくとも一部が閉塞するという悪影響を回避するか、又は少なくともそれを最小化することである。理論に拘束されないが、発明者らは、少なくとも部分的に硬化したシリコーンゲルがその「最初の」物理的形状(すなわち穿孔ステップの前のその位置)へ「戻ろうとする」のは、硬化工程の間に形成される化学的架橋結合によるものと考えている。
【背景技術】
【0004】
超音波溶接は、少なくとも一つの熱可塑性樹脂層を含む材料の積層体などの、複雑な部材又は構造を結合又は修飾するのに適する技術として知られている。溶接、切断及び穿孔などの幾つかの工程ステップを、単一のステップにおいて実施することができる。接合又は修飾しようとする、特に穿孔しようとする部材又は層(例えば積層体(1))は、典型的には、穿孔部材(13)と、トランスデューサに連結されているソノトロード(ホーン)(10)との間に挟まれている(かかる超音波溶接装置の略図については図1を参照のこと)。典型的には、20kHz以下の低振幅音響振動を発生させる(熱可塑性物質の超音波溶接において使用する他の一般的な周波数は、15kHz、20kHz、30kHz、35kHz、40kHz及び70kHzである)。超音波エネルギーは、(局所的に)部材間の接触部分を溶解させ、ジョイント部分(あるいは、エネルギーインプット及び接触時間によっては孔)を形成する。
【0005】
特に積層体に穿孔を形成させるための超音波溶接について、例えば特許文献1において、その原理が公知となっており、同文献では、連続的に移動する材料片(例えば接着剤に裏打ちされたプラスチック製ストリップ)の超音波穿孔が開示されている。特許文献1によると、連続的に移動するストリップは、超音波ホーンにより画定されるギャップを通過し、アンビルのアレイとして機能する鋭利な穿孔突出部を有する回転ドラムとの接触に供される。
【0006】
この基本原理はより具体的には、特許文献2のシリコーンゲルを含む積層体に適用されている。特許文献2による穿孔部材は、回転ドラム(12)上に配列されている平坦な上部(13)を有する突出部様のピンとして具現されている。積層体(1)は、ソノトロード(14)と穿孔部材(13)の間に形成される隙間に連続的に設けられている(図2を参照)。
【0007】
同様に、特許文献3には、超音波装置においてピン様の穿孔部材を有する回転ドラム(「ピンロール」)を用いるウェブ穿孔方法が開示されている。
【0008】
超音波穿孔工程の1つの潜在的欠点は、積層体に存在する熱可塑性物質でない材料(すなわち溶融及び冷却の後で、その形状を必ずしも保持するわけではない(例えば特許文献2に記載のようなシリコーンゲルなどの)材料)では、孔の端部に圧搾され、穿孔部が(部分的に)閉塞されるおそれがあり、すなわち、その「最初の」(穿孔前の)位置の方へと、時間経過とともに(すなわち数時間のうちに)少なくとも部分的に戻るおそれがある、という点である。この課題のおそらく最も典型的な例が図6aに図示され、同図では当技術分野において公知の工程に従い穿孔されたシリコーンゲルを含む穿孔された積層フィルムを示す。図6aから、外向きに穿孔(out-perforated)された基材層により画定された最初の穿孔は、シリコーンゲルにより部分的に閉塞し、その「最初の」位置、すなわち穿孔前の位置、に戻ろうとすることは明らかである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許第4,747,895号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2382069号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1112823号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の若しくは他の欠点、又は先行技術では実現できていないニーズに鑑み、本発明の一つの課題は、シリコーンゲルの層を含む積層体に穿孔を導入するための工程であって、積層体に導入される穿孔の閉塞の発生を最小化又は回避する工程を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題又はこれらの課題、あるいは他の課題は、複数の穿孔を積層体に導入するための工程により解決され、前記工程は、少なくとも以下のステップを含む:
i.積層体を提供するステップであって、前記積層体が、少なくとも一つのシリコーンゲル含有層と接触している少なくとも一つの基材層を含み、
前記積層体が更に、前記シリコーンゲル層と接触する少なくとも一つの変形可能層を含む、前記ステップと、
ii.少なくとも前記基材層及び前記シリコーンゲル含有層に穿孔を導入するのに適する穿孔部材のアレイを備える超音波溶接装置を提供するステップと、
iii.前記穿孔部材のアレイを、前記積層体と、特に前記変形可能層と接触させるステップと、
iv.超音波エネルギーを前記積層体に適用して、少なくとも前記基材層及び前記シリコーンゲル含有層に複数の穿孔を同時に導入しつつ、前記変形可能層に変形部分を導入するステップであって、前記変形部分が、穿孔部材の形状に基本的に対応し、更に、前記変形部分が、少なくとも部分的に、そのように形成された穿孔に入り込む、前記ステップと、
v.前記複数の穿孔を前記積層体に導入した後、すなわちステップ(iv)の後、前記変形可能層と前記シリコーンゲル含有層との接触を、前記変形部分による前記複数の穿孔への入り込みが維持されている状態で、少なくとも12時間、好ましくは少なくとも24時間、更に好ましくは少なくとも36時間、更に好ましくは少なくとも48時間保持するステップと、
vi.任意に、ステップ(v)で示される時間経過の後、シリコーンゲル含有層から、前記変形可能層を除去するステップ。
【0012】
本発明において、「積層体」とは、接着、熱、圧力又はそれらの組み合わせにより各々接合される少なくとも3枚の層を含む複合材料である。
【0013】
本発明による穿孔ステップを顕著に妨害しない限り、数枚又は数種類の更なる層が存在してもよい。かかるものとしては、例えば吸収体層、剥離ライナー、液体を分配するための線維層などの任意の層、又は更なる構造体層、又は創傷の治療において一般的に用いられ、及び適する他の任意の層が好ましい。
【0014】
本発明は部分的には、前記積層体の一部である架橋された(すなわち少なくとも部分的に又は実質的に完全に硬化した)シリコーンゲルが、穿孔の間に形成される穿孔の端部において通常少なくとも部分的に閉塞する(架橋されたシリコーンゲルは通常、超音波エネルギーインプットへの曝露により溶解せず、むしろ軟化し「押しのけられる」)という発見に基づく。その後、このシリコーンゲルの穿孔部は(部分的に)閉塞する、すなわち、時間経過とともに(例えば数時間のうちに)その(穿孔前の)「最初の」位置の方向へと、少なくとも部分的に「戻る」傾向を示しうる。
【0015】
本発明者らは、この(完全に又は部分的に架橋した)シリコーンゲルによるその最初の位置への部分的な「戻り」が、超音波エネルギーのインプットの制御如何とは本質的に関係がなく、特に、穿孔部材がどの程度の長さで積層体と接触して穿孔を形成するか否かとは関係がないことを発見した。換言すれば、実際の穿孔ステップ及び超音波エネルギーインプットが数秒単位の範囲であっても、閉塞の課題は未だ発生する。
【0016】
理論に拘束されないが、本発明者らは、少なくとも部分的に硬化したシリコーンゲルが通常、硬化ステップの間に形成される架橋的な化学結合のために、その最初の(すなわち穿孔ステップ前の)物理的形状に「戻ろう」とすることによるものと考えている。
【0017】
この課題のおそらく最も典型的な例が図6aに図示されており、同図では当技術分野において公知の工程に従い穿孔されたシリコーンゲルを含む穿孔された積層フィルムが示されている。図から、特に図6aから、外向きに穿孔(out-perforated)された基材層により画定された最初の穿孔は、シリコーンゲルにより部分的に閉塞し、その「最初の」位置、すなわち穿孔前の位置、に戻ろうとすることは明らかである。
【0018】
本発明者は更に、この閉塞のプロセスが比較的遅いものであり、穿孔が形成される実際のステップのかなり後に発生しうることを発見した。したがって、その閉塞の課題は、穿孔ステップの間では、例えば境界条件及び/又は穿孔時間を変化させるなどにより適切に解決することができない。
【0019】
本発明は更に、変形可能層を用いることにより、少なくとも部分的に硬化したシリコーンゲル層において生じる穿孔の閉塞を回避できる、という発見に部分的に基づく。穿孔工程の間に、シリコーンゲル層及び穿孔部材と接触させるべく変形可能層を導入することにより、穿孔部材は、変形可能層にインプリント部(「変形部分」)を提供することができ、該インプリントは、穿孔部材の形状に基本的に対応し、それにより、インプリント部は少なくとも部分的に、好ましくは実質的に完全に、穿孔内に深く入りこみ、それを充填する。連続的工程の穿孔ステップの後直ぐに除去される穿孔部材とは対照的に、インプリント部を有する変形可能層は、穿孔ステップのかなり後においてもシリコーン層との直接の接触が維持され、それにより、穿孔が開いた状態が維持され、シリコーンゲルを含む層の穿孔における(各穿孔の端部周辺で蓄積される余剰のシリコーンゲル材料の移動による)いかなる閉塞も実質的に回避されるか、又は少なくとも最小化されることが確実に行われる。
【0020】
したがって、前記変形可能層と前記シリコーン層との接触を維持する主な目的は、形成されたての穿孔をシリコーンゲルの少なくとも一部が閉塞するという悪影響を回避するか、又は少なくともそれを最小化することである。それは、上記で既に概説したように、また理論に拘束されないが、本発明者らは、穿孔ステップの前に少なくとも部分的に硬化したシリコーンゲル、又は実質的に完全に硬化したシリコーンゲルが、硬化工程の間に生じる化学的架橋により、その「最初の」位置へ「戻ろうと」する、と考えていることによる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
基材層:
本発明の実施形態において、前記の積層体の基材層は、ポリマー層、好ましくは少なくとも一つの熱可塑性ポリマー材料を含む層、のフィルムである。
【0022】
好適な熱可塑性ポリマーは、ポリウレタン、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチロール、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエーテルポリアミドコポリマー、ポリアクリラート、ポリメタクリレート及び/又はポリマレエートである。好ましくは、熱可塑性ポリマーはエラストマーである。本発明の好ましい実施形態において、基材層は、ポリウレタン、ポリエチレン又はエチレン酢酸ビニルを含む。本発明では、本発明における穿孔に適する限り、いずれの基材層又は組合せ基材下層を用いてもよい。特に、基材層は、穿孔の間に、また積層体の(好ましくは創傷治療の際の、又はそのための材料としての)使用箇所において、シリコーンゲルを保持するのに適していなければならない。
【0023】
本発明の実施形態において、前記基材層の厚さは5μm~200μm、好ましくは10μm~100μm、更に好ましくは15μm~60μmである。
【0024】
「熱可塑性」であるとは、一般には、それぞれの材料において典型的である温度範囲内における加熱により繰り返し軟化し、冷却により繰り返し硬化する、高分子材料の特性であると理解され、その際、該材料は、軟化した段階において、特に繰り返し流動されることにより例えば成形物品へと、押出し又はその他の形成方法により、形成される能力を維持している。
【0025】
本発明の実施形態において、基材層は、例えばシリコーンゲル層の十分背後に(すなわち基材層の「上部」に、図4を参照)配置される少なくとも一つの更なる層と接触してもよい。実施形態において、前記更なる層は、吸収体を含んでもよい。
【0026】
他の実施形態において、前記更なる層は紙層である。
【0027】
他の好ましい実施形態では、前記少なくとも一つの更なる層は、穿孔されない。
【0028】
本発明の実施形態において、シリコーン組成物、前駆体又はシリコーンゲルは、ステップ(i)の前に行われる工程ステップ(0)において、基材層と接触し、特に接合する。好ましくは、前記のシリコーン組成物、前駆体又はシリコーンゲルを基材層と接触/接合させるステップは、連続的に行われる。
【0029】
シリコーンゲル:
積層体において、また本発明の工程において用いられるシリコーンゲルは当技術分野において公知であり(例えば国際公開第2009/031948号パンフレットを参照)特に創傷ケアにおける接着剤及び/又は創傷との接触表面として公知である。具体的には、シリコーンゲルは、硬めの接着剤(例えばアクリル系接着剤)とは対照的に皮膚に対して穏やかであると理解される。これは、柔軟なシリコーンゲルが皮膚の輪郭に良好に沿うことができ、それにより、大きな接触表面積を提供する、という理由によるものである。すなわち、シリコーンゲル接着剤の各接触点の実際の接着力は、典型的なアクリル系接着剤のそれよりも通常小さいが、シリコーンゲルにより得られるより大きな接触表面積は、皮膚に全体から見れば高い接着力を与え、一方で、それと同時に、シリコーンゲルは皮膚に対して優しく、それにより、シリコーンゲルが皮膚から除かれるとき、各接触点における接着力が比較的小さいため、その際に一緒に除かれる皮膚細胞は極めて少なくて済む。したがって、皮膚から剥がす際の課題を回避できるか、又は最小化することができる。
【0030】
他の好ましい実施形態では、シリコーンゲルは、2成分の添加により硬化させるシリコーンゲルを含むか又はかかるゲルであり、すなわちそれは、硬化プロセスが、2つの成分を、特に上記で概説したステップ(0)において基材と結合させたときに(のみ)開始されるものである。
【0031】
かかる2成分型のシリコーンゲルは、化学的に架橋されたシリコーンゲルなどのポリジメチルシロキサンゲル、例えばプラチナ触媒により反応した2成分添加硬化型RTV-シリコーンであってもよい。使用できるゲルの例としては、Wacker-Chemie社(Burghausen、ドイツ)製のSilGel 612、及びNuSil Technology社(Carpinteria、米国)製のMED-6340が挙げられる。またこの目的において有用なシリコーンゲルの例としては、英国特許出願公開第2192142号明細書、第2226780号明細書、及び欧州特許出願公開第0300620号明細書に記載のものであってもよい。
【0032】
本発明の好ましい実施形態において、シリコーンゲルは2成分型シリコーンゲルであり、また、基材層をステップ(0)においてシリコーンゲルと接合させるときから、超音波エネルギーを積層体に適用して同時に複数の穿孔を前記積層体に導入させるときまでの時間は、12時間以下、好ましくは6時間以下である。
【0033】
本発明者らは、ステップ(0)(硬化プロセスの開始時)における基材層上へのシリコーンゲルのコーティングの24時間以上後に穿孔が導入された場合、シリコーンゲルはその最初の形状へ「戻り」、(そしてPU穿孔を塞ぐ)傾向が強く、そのような場合には、「変形した」フィルムは、除去されるまでの長時間(>48時間)(例えばドレッシングへと作り変えられる間)、そのままの状態が維持されてしまうことを見出した。理論に拘束されないが、この影響は硬化後反応によるものと考えられ、すなわち、コーティング(シリコーンの成分が混合され硬化が開始するとき)の24時間後の遅い時点であっても硬化後反応が依然として行われ、更に高度な架橋が形成される(すなわち形状の「戻り」の傾向が強くなる)。
【0034】
ステップ(v)、すなわち、変形可能層とシリコーンゲル含有層との接触が維持されるステップであって、変形可能層の変形部分(又はインプリント)がシリコーンゲル含有層の穿孔に入り込むステップの1つの目的は、穿孔の閉塞を最小化することであり、それにより、穿孔の端部周辺で蓄積される余剰のシリコーンゲルの移動が最小化される。
【0035】
理論に拘束されないが、シリコーンゲルがその最初の(非穿孔時の)位置へ戻る傾向、及びそのために穿孔後の一定時間における変形可能フィルムの必要性は、シリコーンの架橋度に関連があると考えられる。本発明者らは、一般に、穿孔の導入前におけるシリコーンゲルの架橋結合(「硬化」)の度合いがより強い程、変形可能層を配置する時間がより長く維持される必要があることを見出した。
【0036】
本発明の実施形態において、シリコーンゲルの柔らかさ/入り込み深さは3mm~20mm、好ましくは4mm~17mm、更に好ましくは9mm~15mmである。
【0037】
図面/実施例を議論する際に下記で概説されるように、本発明者らは、閉塞における最も強い影響、すなわち特に本発明による工程を用いる際のかかる影響を回避する必要性が、比較的低い柔らかさ(入り込み)の値、特に3mm~15mmの値のシリコーンゲルの場合において生じることを発見した。
【0038】
理論に拘束されないが、この効果は、より軟らかめのシリコーンと比較し、硬めのシリコーンにおける高めの架橋度に関連すると考えられる。当業者であれば先ずは、軟らかめのシリコーンゲルであれば「流動する」傾向が強いと予想するため、この挙動は当業者にとり直観に反するかも知れない。
【0039】
シリコーンゲルの柔らかさ/入り込みを測定するための方法は、例えば米国特許第9737613号明細書に記載され、その各記載内容を参照により本願明細書に援用する。
【0040】
シリコーンゲルの柔らかさ/入り込みを測定するために用いるこの方法は、ASTM D 937及びDIN 51580標準に従い行われるが、幾つかの特定のステップでは、下記で説明されるように変更が加えられている。図3a~bは、このシリコーンゲルの柔らかさを測定するための変更された方法を例示し、そこでは、62.5gの重量を有するコーンBを用いて、重力により試験片Cに入り込ませるが、その際、柔らかさを測定しようとする該サンプルはシリコーンゲルから調製し、また30mmの厚さを有する。試験片は、60mmの内径及び35~40mmの内側高さを有する円筒形の容器に、30mmの高さまでシリコーンゲルを満たすことにより得られる。
【0041】
シリコーンゲルを試験するとき、未硬化のシリコーンプレポリマーを容器に満たし、このプレポリマーを次に容器中でゲル状に架橋させる。用いるコーンは図3に示すとおりであり、a=65mm、b=30mm、c=15mm及びd=8.5mmのサイズを有する。柔らかさの測定方法では、破線により示される位置にコーンBを下ろし、そこでコーンの先端部をちょうど試験片Cの表面に接触させる。コーンBを次に離し、重力により試験片Cに入り込ませる入り込みの程度、すなわちコーンが試験片中に入り込んだ距離を、mm単位で5秒後に測定して入り込み値Pとして表し、それが大きい程、試験片がより軟らかいことを意味する。
【0042】
Sommer & Runge KG(ドイツ)社製の針入度計PNR 10を前記方法で用いる。
【0043】
本発明の実施形態において、「坪量値」(grammage、平方メートル当たりのシリコーンゲルの重量)は、10g/m~500g/m、好ましくは15g/m~200g/mである。本発明者らは、坪量値が過度に大きい(例えば500g/m超の)場合、閉塞を防止又は最小化するのがより困難となることを発見した。
【0044】
「変形可能層」:
本発明の実施形態では、変形可能層は好ましくは、穿孔プロセスにおいて与えられる超音波エネルギーのインプット下でそれが溶融しないよう調整される。それにより、(例えば穿孔を内部に生じさせるか又は材料を完全にロスすることにより)変形可能なフィルムを壊すことなく、穿孔部材に対応する変形部分又はインプリント提供することができる。
【0045】
本発明の実施形態では、変形可能層の融点は120~220℃であり、好ましくは130~190℃である。
【0046】
本発明の実施形態では、変形可能層は、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート又はポリアミドから選択される材料を含むか、又はそれらを材料とする。
【0047】
本発明の実施形態において、変形可能層の厚さは、30μm~120μmであり、好ましくは40μm~80μmである。
【0048】
本発明の実施形態においては、工程補助フィルムが用いられ、該工程補助フィルムは、変形可能層とシリコーンゲル層との間に配列される。例えば、ポリエチレンのフィルムを、ポリアミドのフィルム(変形可能層)とシリコーンゲル層の間に配置される工程補助フィルムとして用いてもよく、その際、ポリエチレンのフィルムは、シリコーンゲル層に対する剥離ライナーとして機能する。
【0049】
「穿孔部材」:
穿孔部材の形状、輪郭、最終形態又はアレンジメントは、変形可能フィルムが基本的にいかなる穿孔部材の形状又はその配列にも順応できるため、本発明の実施においては特に問われない。したがって、本発明によれば、穿孔部材は、シリコーンゲル及び少なくとも一つの更なる層を含む層を穿孔するのに適する穿孔部材であれば、基本的にいかなる形態又は形状であってもよい。
【0050】
本発明の実施形態において、穿孔部材は、支持部材上においてピン様の立面的形状を有する。本発明の実施形態では、前記支持部材は回転ドラムである。
【0051】
本発明の実施形態において、穿孔部材の外側は傾斜しており、すなわち、穿孔部材は基本的に円錐形に形成される。
【0052】
穿孔:
本発明の実施形態において、穿孔は0.5mm~20mmの、好ましくは0.75mm~4mmの直径を有する。
【0053】
穿孔は好ましくは実質的に円形であるが、他のいかなる考えられる穿孔形状も本発明の範囲内に含まれる。この場合において、かかる形状の最大幅は、上記で概説した直径に対して同等である。
【0054】
本発明の実施形態において、ステップ(iv)において積層体に「複数」の穿孔が導入されるとは、少なくとも12、好ましくは少なくとも24、より好ましくは48の穿孔が同時に形成されることを意味する。
【0055】
本発明において、特に請求項において、用語「…を含む」とは、他の部材又はステップの存在を除外するものではない。また不定冠詞「a」又「an」を使用しているとしても、複数の部材又はステップの存在を除外するものではない。
【0056】
単に、特定の手段が実施形態又は請求項に応じて相互に異なる態様で記載されているという事実は、これらの手段の組合せが有効に使用できないことを意味するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】特に、積層体(1)内への穿孔の導入に使用できるソノトロード/ホーン(10)及び対向側の穿孔部材(13)を備える超音波溶接装置を示す図である。
図2】当技術分野で公知の、積層体に穿孔を連続的に導入するための装置を示す。穿孔部材(13)を備える回転ドラム(12)は、ソノトロード(14)と連動して積層体(1)に穿孔を導入する。
図3】所定のシリコーンゲルの柔らかさ/入り込みを測定するための標準手順において用いるコーン(サイズ及び配置)を示す。測定法は上述したとおりである。
図4】本発明の一実施形態に係る工程を例示する。該工程では、穿孔部材(例えばピン)のアレイを有する回転ドラム(12)が、積層体(11)に穿孔のアレイを導入するが、前記積層体は、紙層(60)、基材層(50)及びシリコーン層(40)を含み、併せて変形可能フィルム(20)(すなわち、穿孔部材により変形させることができるが、超音波エネルギーのインプットによっては溶融しないフィルム)が回転ドラムと接触するよう配置され、その際、穿孔部材のアレイが変形可能フィルムに対して、対応するパターンの変形部分(又はインプリント)を、該変形部分が積層体の穿孔(30)に入り込む形で形成し、それにより、穿孔の端部周辺に押しのけられて凝集したいかなる「余剰の」シリコーンゲル(40)も、穿孔を閉塞しないように維持される。
図5図5A~5Cは、図4に図式的に示す層状構造(ポリウレタン基材層(「PUフィルム」)及びシリコーンコーティング)を有する穿孔ラミネートフィルムの顕微鏡的イメージを示し、そこにおいて、図5Aは、シリコーン層は、500g/mの坪量値及び14.5mmの比較的高い柔らかさ/入り込み深さを有し、変形した(穿孔に入り込んだ)状態(変形部分を有する状態)の変形可能フィルム(ポリエチレン(PE)フィルム及びポリアミド(PA)フィルムの積層体であり、PEフィルムが加工補助剤、すなわちシリコーンに対する剥離ライナーとして機能し、PAフィルムが変形可能フィルムである)を穿孔ステップ(本発明でない工程)の直後に除去した場合を示す。 図5Aから明らかなように、72時間後に、シリコーンゲルはPUフィルムの穿孔を完全に閉塞した。一方、図5B及び5Cでは、(他の条件が同じ積層体及び工程において)変形可能フィルム(上記の通りのポリエチレン(PE)フィルム及びポリアミド(PA)フィルムの積層体)を72時間後に除去した。図5Aとの比較により、図5B及び5Cから理解できるように、変形可能フィルムを導入して、少なくとも12時間、好ましくは少なくとも24時間、穿孔内部に変形可能(又は変形した)フィルムを保持させるステップを実施することにより、シリコーンゲルによる穿孔の閉塞が最小化される。
図6図4に図式的に示される層状構造(PU層及びシリコーンコーティング)を有する穿孔された積層体の顕微鏡的イメージを示し、そこにおいて、図6Aでは、シリコーン層は、100g/mの坪量値及び5mm~6mmの比較的低い柔らかさ/入り込み深さを有し、変形し、穿孔に入り込んだ変形可能フィルム(図5に関連して上記したポリエチレン(PE)フィルム及びポリアミド(PA)フィルムの積層体)を、穿孔ステップの直後に除去した場合を示す。一方、図6Bでは、(他の条件が同じ積層体及び工程において)変形可能フィルム(上記と同様のポリエチレン(PE)フィルム及びポリアミド(PA)フィルムの積層体)を72時間後に除去した。図6A及び6Bの比較から明らかなように、閉塞効果(すなわち穿孔へのシリコーンゲルの移動)は、変形可能フィルムを用いることにより(すなわち穿孔ステップ後に変形可能/変形されたフィルムを保持させることにより)実質的に回避される。
【0058】
上記で議論した全ての穿孔された調製物は、偏光顕微鏡法を用いた目視により分析した。(全ての分析した調製物の)2つの穿孔間の距離は、約3mm(中心間距離)である。上記の実施例の全ての顕微鏡イメージは、積層体のポリウレタンフィルム側から撮影したものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6