(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】材料モデルの安定性に基づく制約付き数値較正のためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/20 20200101AFI20240723BHJP
G06F 30/12 20200101ALI20240723BHJP
【FI】
G06F30/20
G06F30/12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019232292
(22)【出願日】2019-12-24
【審査請求日】2022-11-25
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518165763
【氏名又は名称】ダッソー システムズ シムリア コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダン コジョカル
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ クリストファー ウォーリーバー
(72)【発明者】
【氏名】トッド オラン ダルリンプル
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-010629(JP,A)
【文献】特開2003-083874(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0010427(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータシミュレーションシステムであって、
実験的試験データセットを格納するメモリであって、前記実験的試験データセットは、実世界での実験中に1つ以上の変形モードを受けた物理材料のサンプルの実験的に取得された応力-歪みデータを含む、実験的試験データセットを格納するメモリと、
前記メモリに格納された命令を実行するように構成されたプロセッサと、
を備え、
前記命令は、前記プロセッサによって実行されると、前記プロセッサに、少なくとも、 ユーザが前記実験的試験データセットをインポートできるように構成されたグラフィカルユーザインタフェースを前記ユーザに対して表示することと、
材料モデル較正用の前記
実験的試験データセットの識別情報を受け取ることと、
材料モデルを特定することであって、前記材料モデルは、材料モデルの較正中に較正されるパラメータセットの1つ以上のパラメータを含み、前記パラメータセットは初期パラメータ値のセットから開始される、材料モデルを特定することと、
1つ以上の所定の歪み範囲に亘ってドラッカーの安定性基準に基づいて制約を強制する最適化アルゴリズムを使用する反復最適化プロセスを実行して前記材料モデルを較正することと、
前記反復最適化プロセスを終了し、前記反復最適化プロセスにより較正済み材料モデルを生成することと、
前記ユーザからの入力に基づいて、前記較正済み材料モデルを、実世界等価物が前記物理材料で形成されているシミュレーションモデルの構成要素に割り当てることと、
安定した材料モデル及び安定したパラメータセットを使用して、前記構成要素を含むシミュレーションを実行して、前記シミュレーション中の前記実世界等価物の応答をシミュレートすることと、
を実行させる、コンピュータシミュレーションシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のコンピュータシミュレーションシステムにおいて、前記命令は、さらに前記プロセッサに、
前記ユーザが前記反復
最適化プロセス中の安定性制約違反の判定を有効又は無効にできる安定性較正ペインを前記グラフィカルユーザインタフェース内に表示することを実行させる、コンピュータシミュレーションシステム。
【請求項3】
請求項1に記載のコンピュータシミュレーションシステムにおいて、前記命令は、さらに、前記プロセッサに、安定性較正ペインを前記グラフィカルユーザインタフェース内に表示することを実行させ、
前記安定性較正ペインは、前記ユーザが、前記安定性制約違反の判定時に使用する範囲を特定できるようにし、
前記範囲は、前記材料モデルの安定性を評価する値の範囲を特定する、
コンピュータシミュレーションシステム。
【請求項4】
請求項1に記載のコンピュータシミュレーションシステムにおいて、前記グラフィカルユーザインタフェースは、更に、前記ユーザが、前記インポートされたデータのサブセットとして前記実験的試験データセットを選択することを可能にする、コンピュータシミュレーションシステム。
【請求項5】
請求項1に記載のコンピュータシミュレーションシステムにおいて、
前記パラメータセットは、反復毎にパラメータ値の現セットを有し、
前記反復最適化プロセスの各反復は、
前記パラメータ値の現セットにおける前記材料モデルの応答を目的関数で評価することにより、前記材料モデルの応答と前記
実験的試験データセットとの間の誤差を生成することと、
前記誤差に基づいて前記材料モデルのパラメータ値の更新済みセットを算出することと、
前記パラメータの更新済みセットによる材料モデルが安定性制約に違反していることを判定することと、
前記安定性制約違反の判定に際し、目的関数にペナルティ関数を適用して、次の内部反復で使用される修正された目的関数を生成することと、
前記パラメータの更新済みセットによる材料モデルが前記安定性制約に違反しない場合は、前記最適化プロセスの現在の反復における前記制約違反プロセスを終了することと、を含む、コンピュータシミュレーションシステム。
【請求項6】
請求項5に記載のコンピュータシミュレーションシステムにおいて、前記パラメータの更新済みセットによる材料モデルが前記安定性制約に違反していることを判定することは、前記材料モデルの材料剛性行列が正定値であることを判定することを含むコンピュータシミュレーションシステム。
【請求項7】
請求項6に記載のコンピュータシミュレーションシステムにおいて、前記材料モデルの材料剛性行列が正定値であることを判定することは、シルヴェスターの基準を使用することを含むコンピュータシミュレーションシステム。
【請求項8】
コンピュータシミュレーションで使用するための材料モデルを較正する方法であって、 前記方法は、メモリを備えたプロセッサによって実行され、
前記メモリに実験的試験データセットを格納することであって、前記実験的試験データセットは、実世界での実験中に1つ以上の変形モードを受けた物理材料のサンプルの実験的に取得された応力-歪みデータを含む、実験的試験データセットを格納することと、
ユーザが前記実験的試験データセットをインポートできるように構成されたグラフィカルユーザインタフェースを前記ユーザに対して表示することと、
材料モデル較正用の前記
実験的試験データセットの識別情報を受け取ることと、
材料モデルを特定することであって、前記材料モデルは、材料モデルの較正中に較正されるパラメータセットの1つ以上のパラメータを含み、前記パラメータセットは初期パラメータ値のセットから開始される、材料モデルを特定することと、
1つ以上の所定の歪み範囲に亘ってドラッカーの安定性基準に基づいて制約を強制する最適化アルゴリズムを使用する反復最適化プロセスを実行して前記材料モデルを較正することと、
前記反復
最適化プロセスを終了し、前記反復
最適化プロセスにより較正済み材料モデルを生成することと、
前記ユーザからの入力に基づいて、前記較正済み材料モデルを、実世界等価物が前記物理材料で形成されているシミュレーションモデルの構成要素に割り当てることと、
安定した材料モデル及び安定したパラメータセットを使用して、前記構成要素を含むシミュレーションを実行して、前記シミュレーション中の前記実世界等価物の応答をシミュレートすることと、
を含む方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、
安定性較正ペインを前記グラフィカルユーザインタフェース内に表示することを更に含み、
前記安定性較正ペインは、前記ユーザが前記反復
最適化プロセス中の安定性制約違反の判定を有効又は無効にできる、
方法。
【請求項10】
請求項8に記載の方法において、
安定性較正ペインを前記グラフィカルユーザインタフェース内に表示することを更に含み、
前記安定性較正ペインは、前記ユーザが、前記安定性制約違反の判定時に使用する範囲を特定できるようにし、
安定性較正ペインを前記グラフィカルユーザインタフェース内に表示し、
前記範囲は、前記材料モデルの安定性を評価する値の範囲を特定する、
含む方法。
【請求項11】
請求項8に記載の方法において、前記グラフィカルユーザインタフェースは、更に、前記ユーザが、前記インポートされたデータのサブセットとして前記実験的試験データセットを選択することを可能にする、方法。
【請求項12】
請求項8に記載の方法において、前記パラメータセットは、反復毎にパラメータ値の現セットを有し、
前記反復最適化プロセスの各反復は、
前記パラメータ値の現セットにおける前記材料モデルの応答を目的関数で評価することにより、前記材料モデルの応答と前記
実験的試験データセットとの間の誤差を生成することと、
前記誤差に基づいて前記材料モデルのパラメータ値の更新済みセットを算出することと、
前記パラメータの更新済みセットによる材料モデルが安定性制約に違反していることを判定することと、
前記安定性制約違反の判定に際し、目的関数にペナルティ関数を適用して、次の内部反復で使用される修正された目的関数を生成することと、
前記パラメータの更新済みセットによる材料モデルが前記安定性制約に違反しない場合は、前記最適化プロセスの現在の反復における前記制約違反プロセスを終了することと、を含む方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、前記パラメータの更新済みセットによる材料モデルが前記安定性制約に違反していることを判定することは、前記材料モデルの材料剛性行列が正定値であることを判定することを含む方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法において、前記材料モデルの材料剛性行列が正定値であることを判定することは、シルヴェスターの基準を使用することを含む方法。
【請求項15】
コンピュータ実行可能命令を有するコンピュータ可読記憶媒体であって、
前記コンピュータ実行可能命令が少なくとも1つのプロセッサによって実行されると、前記コンピュータ実行可能命令は、前記プロセッサに、
メモリに実験的試験データセットを格納することであって、前記実験的試験データセットは、実世界での実験中に1つ以上の変形モードを受けた物理材料のサンプルの実験的に取得された応力-歪みデータを含む、実験的試験データセットを格納することと、
ユーザが前記実験的試験データセットをインポートできるように構成されたグラフィカルユーザインタフェースを前記ユーザに対して表示することと、
材料モデル較正用の前記
実験的試験データセットの識別情報を受け取ることと、
材料モデルを特定することであって、前記材料モデルは、材料モデルの較正中に較正されるパラメータセットの1つ以上のパラメータを含み、前記パラメータセットは初期パラメータ値のセットから開始される、材料モデルを特定することと、
1つ以上の所定の歪み範囲に亘ってドラッカーの安定性基準に基づいて制約を強制する最適化アルゴリズムを使用する反復最適化プロセスを実行して前記材料モデルを較正することと、
前記反復
最適化プロセスを終了し、前記反復
最適化プロセスにより較正済み材料モデルを生成することと、
前記ユーザからの入力に基づいて、前記較正済み材料モデルを、実世界等価物が前記物理材料で形成されているシミュレーションモデルの構成要素に割り当てることと、
安定した材料モデル及び安定したパラメータセットを使用して、前記構成要素を含むシミュレーションを実行して、前記シミュレーション中の前記実世界等価物の応答をシミュレートすることと、
を実行させる、コンピュータ可読記憶媒体。
【請求項16】
請求項15に記載のコンピュータ可読
記憶媒体において、
前記コンピュータ実行可能命令は、さらに、安定性較正ペインを前記グラフィカルユーザインタフェース内に表示することを実行させ、
前記安定性較正ペインは、前記ユーザが前記反復
最適化プロセス中の安定性制約違反の判定を有効又は無効にできるようにする、
コンピュータ可読
記憶媒体。
【請求項17】
請求項15に記載のコンピュータ可読
記憶媒体において、
前記コンピュータ実行可能命令はさらに、前記プロセッサに、安定性較正ペインを前記グラフィカルユーザインタフェース内に表示することを実行させ、
前記安定性較正ペインは、前記ユーザが、前記安定性制約違反の判定時に使用する範囲を特定できるようにし、
前記範囲は、前記材料モデルの安定性を評価する値の範囲を特定する、
コンピュータ可読
記憶媒体。
【請求項18】
請求項15に記載のコンピュータ可読
記憶媒体において、
前記パラメータセットは、反復毎にパラメータ値の現セットを有し、
前記反復最適化プロセスの各反復は、
前記パラメータ値の現セットにおける前記材料モデルの応答を目的関数で評価することにより、前記材料モデルの応答と前記
実験的試験データセットとの間の誤差を生成することと、
前記誤差に基づいて前記材料モデルのパラメータ値の更新済みセットを算出することと、
前記パラメータの更新済みセットによる材料モデルが安定性制約に違反していることを判定することと、
前記安定性制約違反の判定に際し、目的関数にペナルティ関数を適用して、次の内部反復で使用される修正された目的関数を生成することと、
前記パラメータの更新済みセットによる材料モデルが前記安定性制約に違反しない場合は、前記最適化プロセスの現在の反復における前記制約違反プロセスを終了することと、を含む、コンピュータ可読
記憶媒体。
【請求項19】
請求項18に記載のコンピュータ可読
記憶媒体において、前記パラメータの更新済みセットによる材料モデルが前記安定性制約に違反していることを判定することは、前記材料モデルの材料剛性行列が正定値であることを判定することを含むコンピュータ可読
記憶媒体。
【請求項20】
請求項19に記載のコンピュータ可読
記憶媒体において、前記材料モデルの材料剛性行列が正定値であることを判定することは、シルヴェスターの基準を使用することを含むコンピュータ可読
記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[背景]
本開示は、包括的には、シミュレーションシステムに関し、詳しくは、コンピュータシミュレーションにおける材料モデルの安定性に基づく制約付き数値較正のためのシステム及び方法に関する。
【0002】
材料構成モデルは、コンピュータシミュレーションソフトウェアシステムにおいて実際の材料の挙動を再現しようとする数学モデルである。このような材料モデルは、シミュレーションソフトウェアシステムの重要な一側面を表す。材料構成モデルを使用して、車両シャーシの構成要素等の材料を含む単純な構成要素、又は車両シャーシ全体等のより複雑なアセンブリをシミュレートできる。
【0003】
幾つかの既知のシステムは、実世界での試験から導出された実験データを使用して、特定の材料の材料構成モデルを生成する。実際の材料は、通常、実験室で特定の荷重条件下で試験される。このような試験では、実材料で形成されている試験片が、一軸変形、二軸変形、平面変形、単純剪断変形、又は体積変形等の1つ以上の変形モードを受け、ここで、変形は、引張であっても圧縮であってもよい。これらの試験条件の間、実際の材料の応答は、歪み値と応力値の対のシーケンス(実験的な歪み-応力データセットを表す)として記録される場合がある。このような実験的に収集されたデータセットは、通常、数値シミュレーションにおいて直接的には使用されない。すなわち、シミュレーションでは、特定の数学的材料モデルが選択されて使用され、実験的な歪み-応力データセットを使用して数学的材料モデルの材料パラメータを較正し、例えば、実験データを近似的に数値的に複製する。1つの一般的な手法は、数学的構成応答のパラメータの初期推測から開始され、シミュレートされた応答と対応する実験データとの間の誤差を最小化するように処理を反復することである。幾つかのシステムは、数値最適化アルゴリズムを使用して、モデルと実験データとの間の誤差を反復的に最小化できる。
【0004】
しかしながら、このような既知のシミュレーションソフトウェアシステムでは、生成される材料モデルが不安定になることがある。例えば、ゴムバンドの材料モデルは、ゴムバンドの自然な長さの2倍の変形では正常に完了するが、ゴムバンドの長さの3倍を超える変形では不安定になることがある。ユーザ(例えば、技術者、科学者)がシミュレーションソフトウェアシステムにおいて不安定な材料モデルを使用する構成要素シミュレーションを実行すると、シミュレーションが成功しない場合がある(例えば、実行が完了しないことがある)。シミュレーションが成功しなかった理由がユーザには不明であることがあり、このため、ユーザは、不安定な材料モデルが失敗の潜在的な原因であることを発見するまで、様々な失敗の可能性を調査する必要がある。材料モデルが不安定であることをユーザが知ったとしても、この情報は、必ずしも大規模なシミュレーションにおける材料モデルを意味するものではなく、また、解決策を提供するものでもなく、何が失敗の原因であるかについての1つの手掛かりを提供するのみである。このため、シミュレーションソフトウェアシステムのための安定した材料構成モデルを提供するシステム及び方法が必要である。
【0005】
[簡単な説明]
一態様として、コンピュータシミュレーションシステムを提供する。コンピュータシミュレーションシステムは、実験的試験データセットを格納するメモリを含む。実験的試験データセットは、実世界での実験中に1つ以上の変形モードを受けた物理的材料のサンプルについて実験的に取得された応力-歪みデータを含む。コンピュータシミュレーションシステムは、更に、メモリに格納された命令を実行するように構成されたプロセッサを含む。プロセッサによって命令が実行されると、この命令は、プロセッサに、少なくとも、ユーザが実験的試験データセットをインポートできるように構成されたグラフィカルユーザインタフェースをユーザに対して表示させる。また、命令は、プロセッサに、材料モデル較正用の試験データセットの識別情報を受け取らせる。命令は、プロセッサに、材料モデルを特定させる。材料モデルは、材料モデル較正中に較正されるパラメータセットの1つ以上のパラメータを含む。パラメータセットは、初期パラメータ値のセットから開始される。また、命令は、プロセッサに、反復最適化プロセスを実行させて材料モデルを較正させる。反復最適化プロセスでは、1つ以上の所定の歪み範囲に亘ってドラッカーの安定性基準(Drucker’s stability criterion)に基づいて制約を強制する最適化アルゴリズムが使用される。更に、命令は、プロセッサに、反復最適化プロセスを終了させる。最適化プロセスは、較正済み材料モデルを生成する。また、この命令は、プロセッサに、ユーザからの入力に基づいて、較正済み材料モデルをシミュレーションモデルの構成要素に割り当てさせる。構成要素の実世界等価物は、物理材料で構成されている。更に、命令は、プロセッサに、構成要素を含むシミュレーションを実行させる。シミュレーションでは、安定した材料モデルと安定したパラメータのセットを使用して、シミュレーション中の実世界等価物の応答をシミュレートする。
【0006】
他の態様では、コンピュータシミュレーションで使用するための材料モデルを較正する方法が提供される。この方法は、メモリを有するプロセッサによって実行される。この方法は、実験的試験データセットをメモリに記憶することを含む。実験的試験データセットは、実世界での実験中に1つ以上の変形モードを受けた物理的材料のサンプルについて実験的に取得された応力-歪みデータを含む。また、この方法は、ユーザが実験的試験データセットをインポートできるように構成されたグラフィカルユーザインタフェースをユーザに対して表示することを含む。また、この方法は、材料モデル較正用の試験データセットの識別情報を受信することを含む。更に、この方法は、材料モデルを特定することを含む。材料モデルは、材料モデル較正中に較正されるパラメータセットの1つ以上のパラメータを含む。パラメータセットは、初期パラメータ値のセットから開始される。また、この方法は、反復最適化プロセスを実行して材料モデルを較正することを含む。反復最適化プロセスでは、1つ以上の所定の歪み範囲に亘ってドラッカーの安定性基準に基づいて制約を強制する最適化アルゴリズムが使用される。更に、この方法は、反復プロセスを終了することを含む。反復プロセスは、較正済み材料モデルを生成する。また、この方法は、ユーザからの入力に基づいて、較正済み材料モデルをシミュレーションモデルの構成要素に割り当てることを含む。構成要素の実世界等価物は、物理材料で構成されている。この方法は、構成要素を含むシミュレーションを実行することを更に含む。シミュレーションでは、安定した材料モデルと安定したパラメータのセットを使用して、シミュレーション中の実世界等価物の応答をシミュレートする。
【0007】
更に他の態様として、コンピュータ実行可能命令が組み込まれたコンピュータ可読記憶媒体を提供する。コンピュータ実行可能命令が少なくとも1つのプロセッサによって実行されると、コンピュータ実行可能命令は、プロセッサに、実験的試験データセットをメモリに格納させる。実験的試験データセットは、実世界での実験中に1つ以上の変形モードを受けた物理的材料のサンプルについて実験的に取得された応力-歪みデータを含む。また、コンピュータ実行可能命令は、プロセッサに、ユーザが実験的試験データセットをインポートできるように構成されたグラフィカルユーザインタフェースをユーザに対して表示させる。また、コンピュータ実行可能命令は、プロセッサに、材料モデル較正用の試験データセットの識別情報を受け取らせる。また、コンピュータ実行可能命令は、プロセッサに、材料モデルを特定させる。材料モデルは、材料モデル較正中に較正されるパラメータセットの1つ以上のパラメータを含む。パラメータセットは、初期パラメータ値のセットから開始される。また、コンピュータ実行可能命令は、プロセッサに、反復最適化プロセスを実行させて材料モデルを較正させる。反復最適化プロセスでは、1つ以上の所定の歪み範囲に亘ってドラッカーの安定性基準に基づいて制約を強制する最適化アルゴリズムが使用される。また、コンピュータ実行可能命令は、プロセッサに、反復最適化プロセスを終了させる。反復プロセスは、較正済み材料モデルを生成する。また、コンピュータ実行可能命令は、プロセッサに、ユーザからの入力に基づいて、較正済み材料モデルをシミュレーションモデルの構成要素に割り当てさせる。構成要素の実世界等価物は、物理材料で構成されている。また、コンピュータ実行可能命令は、プロセッサに、構成要素を含むシミュレーションを実行させる。シミュレーションでは、安定した材料モデルと安定したパラメータのセットを使用して、シミュレーション中の実世界等価物の応答をシミュレートする。
【0008】
図1~
図8は、ここに説明する方法及びシステムの例示的な実施形態を示している。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】安定性に基づく制約付き数値較正を用いて材料モデルを生成するための材料較正モジュールを含む例示的なシミュレーションシステムの図である。
【
図2】
図1に示す材料較正モジュールの様々なサブモジュールを示す図である。
【
図3】安定性に基づく制約付き数値較正を用いて材料モデルを生成するための例示的な較正プロセスのフローチャートである。
【
図4】安定性制約のない較正プロセス中に材料較正モジュールによって提供されるグラフィカルユーザインタフェースの例示的な図である。
【
図5】非制約較正プロセス中に材料較正モジュールによって提供される安定性表示パネルを含む、
図4に示すグラフィカルユーザインタフェースの別の例示的な図である。
【
図6】ここに説明する安定性制約の考慮を含む較正プロセス中に材料較正モジュールによって提供されるグラフィカルユーザインタフェースの例示的な図である。
【
図7】ユーザ102が安定性制約付き較正プロセスを実行した後の、
図6の例を示す図である。
【
図8】安定性制約較正プロセス後の安定性表示パネルを含む、
図7に示すグラフィカルユーザインタフェースの別の例示的な図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の詳細な説明は、限定ではなく例として、本開示の実施形態を示す。本開示は、材料モデルを用いたコンピュータシミュレーションに包括的に適用される。
【0011】
シミュレーションシステムは、ここに説明するように、特定の実世界の材料をシミュレートするために使用するための安定した材料モデルを決定する材料較正モジュール及び関連する方法を提供する。材料モデル較正プロセスの間、材料較正モジュールは、結果として得られる材料モデル(「較正済み材料モデル」)が特定の歪み範囲に亘って安定するように構成される基本材料構成モデルのパラメータ値を決定する。
【0012】
構成中、材料較正モジュールは、グラフィカルユーザインタフェース(graphical user interface:GUI)を提供し、ユーザ(例えば、技術者、製品試験担当者)は、このGUIを介して、材料較正モジュールに、材料の実世界の実験室での試験からの材料試験データ(例えば、1つ以上の変形モードの歪み-応力試験データ)のセットを入力する。更に、ユーザは、シミュレーションシステムによって提供される利用可能な材料モデルのリストから、特定の基本材料モデルを特定する。選択された材料モデルは、一旦較正されると、関連する材料を含む将来のシミュレーションに使用できる。選択された基本材料モデルは、1つ以上のモデルパラメータを含み、これらのパラメータは、一旦較正されると、シミュレーションにおいて、材料モデルを、関連付けられた材料に近似させる。ユーザは、較正プロセス中にどのパラメータを使用するかを選択でき、選択された各パラメータの開始値(例えば、係数)を変更できる。更に、ユーザが較正用の安定性制御を有効にすると、ユーザは、次に、材料モデルが安定することをユーザが望む様々な関心対象の変形について、1つ以上の歪み範囲設定(例えば、公称歪み、体積比、及び剪断歪みの上下の閾値)を特定できる。次に、ユーザは、材料モデルの較正を開始する。
【0013】
較正の間、材料較正モジュールは、結果として得られる較正済み材料モデルが、特定された歪み範囲に亘って安定するように、材料モデルの選択されたパラメータのそれぞれについて較正値を決定する。より具体的には、材料較正モジュールは、数値制約付き最適化アルゴリズムを反復的に使用して、試験データセットと、(例えば、現在の係数について)現在の反復における材料モデルの予測された応答との間の誤差を組み込んだ目的関数を最小化する(1つ以上の安定性基準から導出された制約と共に)。最適化アルゴリズムは、最小化プロセス中に安定性基準の制約条件を強制し、材料パラメータのセットに反復的に収束させる。この材料パラメータのセットは、特定された歪み範囲に亘って安定性基準を満たすと共に、試験データセットと材料モデルによって予測された対応する応答との間の誤差を最小化する。収束により、材料モデルに結合された最終パラメータ値は、結果として得られる較正済み材料モデルを表す。
【0014】
シミュレーション(例えば、有限要素シミュレーション)の間、シミュレーションシステムは、例えば、較正済み材料モデルを使用して、シミュレートされる構成要素の剛性を表す一連の線形代数方程式を生成する。数値有限要素シミュレーションで不安定な材料応答を使用すると、解が非一意的又は非物理的になる又は解析プロセスが正常に機能しなくなる可能性がある。したがって、シミュレーションシステムは、較正済み材料モデルを使用して、基礎となる材料を含む構成要素をモデル化してもよい。シミュレーション(例えば、有限要素ベースのシミュレーション)には、通常、様々な因子(例えば、ジオメトリ、メッシュ、材料モデル、荷重、境界条件等)が含まれる。メッシュは、通常、シミュレーション内のパーツ又はアセンブリのジオメトリを表す有限要素(例えば、四面体、六面体、ピラミッド、三角形等)のセットで構成される。シミュレーション内の各有限要素には、印加された荷重下で要素がどのような挙動を示すかを記述する材料モデルが割り当てられる。シミュレーションシステムにより、ユーザは、シミュレーションモデルにおいて、様々なメッシュ領域(例えば、有限要素の集合)に、較正済み材料モデルを割り当てることができる。このように、シミュレーションシステムは、有効なシミュレーション中にこれらのメッシュ領域をシミュレートする際、較正済み材料モデルを使用できる。
【0015】
本明細書において単数形で示され冠詞「a」又は「an」が付された要素又はステップは、特段の指定がない限り、複数の要素又はステップを除外しないものと解釈される。更に、本開示の「例示的な実施形態」又は「一実施形態」等の表現は、列挙した特徴を組み込む別の更なる実施形態の存在を除外するものではない。
【0016】
本明細書中で使用する用語「データベース」は、データの本体、リレーショナルデータベース管理システム(relational database management system:RDBMS)、又はその両方を意味してもよい。本明細書中で使用するデータベースは、階層的データベース、リレーショナルデータベース、フラットファイルデータベース、オブジェクトリレーショナルデータベース、オブジェクト指向データベース、及びコンピュータシステムに格納されるレコード又はデータの任意の他の構造化されたコレクションを含む、任意のデータの集合を含むことができる。上記の例は、単なる例であり、したがって、データベースという用語の定義及び/又は意味を制限することを意図するものではない。RDBMSの例としては、以下に限定されるものではないが、Oracle(登録商標)データベース、MySQL、IBM(登録商標)DB2、Microsoft(登録商標)SQLServer、Sybase(登録商標)、及びPostgreSQLが含まれる。なお、ここに説明するシステム及び方法を可能にする任意のデータベースを使用できる。(Oracleは、カリフォルニア州、レッドウッドショアーズのOracle Corporation社の登録商標であり、IBMは、ニューヨーク州アーモンクのInternational Business Machines Corporation社の登録商標であり、Microsoftは、米国ワシントン州レドモンドのMicrosoft Corporationの登録商標であり、Sybaseは、カリフォルニア州ダブリンのSybaseの登録商標である。)
【0017】
本明細書で使用する用語プロセッサは、マイクロコントローラ、縮小命令セット回路(reduced instruction set circuit:RISC)、特定用途向け集積回路(application specific integrated circuit:ASIC)、論理回路、及び本明細書で説明する機能を実行できる他の任意の回路又はプロセッサを使用するシステムを含む任意のプログラム可能なシステムを含むことができる。上記の例は、単なる例であり、したがって、用語「プロセッサ」の定義及び/又は意味を制限するものではない。
【0018】
本明細書で使用する用語「ソフトウェア」及び「ファームウェア」は、交換可能であり、RAMメモリ、ROMメモリ、EPROMメモリ、EEPROMメモリ、及び不揮発性RAM(non-volatile:NVRAM)メモリを含むメモリに格納された、プロセッサによる実行のための任意のコンピュータプログラムを含む。上記のメモリタイプは、一例であり、コンピュータプログラムの記憶に使用可能なメモリのタイプを制限するものではない。
【0019】
本開示の一実施形態では、コンピュータプログラムが提供され、プログラムは、コンピュータ可読媒体上に提供される。例示的な実施形態では、システムは、サーバコンピュータへの接続を必要とせずに、単一のコンピュータシステム上で実行される。更なる実施形態では、システムは、Windows(登録商標)環境で実行される(Windowsは、米国ワシントン州レドモンドのMicrosoft Corporation社の登録商標である)。更に別の実施形態では、システムは、メインフレーム環境及びUNIX(登録商標)サーバ環境上で実行される(UNIXは、英国バークシャー州レディングのX/Open Company Limited社の登録商標である)。このアプリケーションは、柔軟性が高く、主要な機能を損なうことなく様々な環境で動作するように設計されている。幾つかの実施形態では、システムは、複数の演算デバイス間に分散された複数の構成要素を含む。1つ以上の構成要素は、コンピュータ可読媒体に具現化されたコンピュータ実行可能命令の形態であってもよい。システム及びプロセスは、ここに説明する特定の実施形態に限定されない。更に、各システム及び各プロセスの構成要素は、ここに説明する他の構成要素及びプロセスから独立及び分離して実施できる。各構成要素及びプロセスは、他のアセンブリパッケージ及びプロセスと組み合わせて使用することもできる。
【0020】
図1は、安定性に基づく制約付き数値較正を使用して材料モデルを生成するための材料較正モジュール130を含む例示的なシミュレーションシステム100の図である。例示的な実施形態では、シミュレーションシステム100は、シミュレーションソフトウェアシステム120を実行する演算デバイス110を含む。演算デバイス110は、1つ以上のプロセッサ112と、シミュレーションソフトウェアシステム120を格納するメモリ114とを含む。演算デバイス110は、表示デバイス118に接続されており、これにより、ユーザ102(例えば、技術者、科学者、製品開発者)は、シミュレーションソフトウェアシステム120とインタフェースし、様々なシミュレーション活動(ここに説明するように、アセンブリ又は構成要素についてのシミュレーションを実行し、このようなシミュレーションに使用される材料モデルを較正する等)を行うことができる。演算デバイス110は、従来の演算デバイスの他の周知のハードウェア及びソフトウェア構成要素(例えば、ネットワークインタフェースカード等の通信デバイス、又はキーボード、ポインティングデバイス、タッチスクリーン、オーディオ入出力デバイス等の入出力デバイス)を含むことができるが、説明を簡潔にするために、これらのデバイスは図示していない。
【0021】
シミュレーションソフトウェアシステム120は、コンピュータベースのシミュレーションを準備し、実行し、結果を評価するために使用できる様々なシミュレーション支援モジュール122を含む。このようなシミュレーション支援モジュール122は、例えば、コンピュータ支援製図(computer-aided drafting:CAD)モジュール等の3D製品設計ツール、有限要素解析モジュール等の解析ツール、数値流体力学モジュール、及びコンピュータ支援エンジニアリングを支援する数値電磁気学モジュール(個別に図示せず)等を含むことができる。シミュレーションソフトウェアシステム120により、ユーザ102は、例えば、実世界での対応物が様々な条件下でどのように作用又は反応するかを理解するために、様々なタイプのコンピュータ実施シミュレーションを構成及び実行できる。
【0022】
例示的な実施形態では、シミュレーションソフトウェアシステム120は、更に、材料較正モジュール130を含む。材料較正モジュール130により、ユーザ102は、材料構成モデル(あるいは、単に「材料モデル」)(
図1には示していない)を較正し、実世界での試験結果に基づいて、対象材料の特性を近似させることができる。材料構成モデルは、様々な変形モード下における実際の材料の挙動を再現しようとする数学モデルである。当分野では、多くの材料構成モデルが知られており、これらは、それぞれ、材料モデルの応答を変更するように構成できる1つ以上のパラメータを含むことができる。
【0023】
ユーザ102は、シミュレーションソフトウェアシステム120内の材料モデルの較正を準備するために、実世界の試験データを収集する。実際の材料(本明細書では「対象材料」ともいう。)は、実験室において、特定の荷重条件下で試験でき、その間、実際の材料で作成された試験片は、1つ以上の変形モード(例えば、引張及び圧縮一軸荷重、引張及び圧縮二軸荷重、引張及び圧縮平面荷重(純剪断荷重とも呼ばれる)、体積荷重、及び単純剪断荷重)を受ける。これらの試験条件の間、実際の材料の応答は、実験設備によって、歪み値及び応力値の対(ε、T)のシーケンス(「歪み-応力データ」)として記録され、幾つかの例では、ここに時間を含むこともある。幾つかの実施形態では、試験データは、メモリ114又はデータベース116に保存でき、これは、
図1に示すようにローカルで保存してもよく又は別の演算デバイス上でリモートに保存してもよい。例えば、対象材料は、自動車のエンジンマウント用のブッシュに使用することが計画されているエラストマーであってもよい。したがって、そのエラストマーからなる試験片を実験室で試験して、様々な変形モードでの歪み-応力データを取得できる。
【0024】
しかしながら、これらの実験的に取得された歪み-応力データセットは、数値シミュレーションでは直接使用できないことがある。これに代えて、対象材料をシミュレートする際に使用するための材料モデルが選択され、次に、その材料モデルが対象材料を近似するように材料モデルが較正される。幾つかの材料モデルは、対象材料を近似するのにより適している場合がある。幾つかの実施形態では、ユーザ102は、利用可能な材料モデル(例えば、超弾性、超泡等)のリストから材料モデルを選択できる。各材料モデルは、材料モデルの応答を較正してモデル応答を変更できる1つ以上の構成可能なパラメータ(例えば、典型的には、基礎となる方程式変数の係数)を含む。特定の「基本」材料モデル(例えば、較正されていない材料モデル)が選択されると、基本材料モデルには、初期パラメータ値(デフォルト値、ユーザ指定値等)がシードされる。次に、材料較正モジュール130は、一連の反復に亘って1つ以上のパラメータを変更し、各反復における実験データとモデルのシミュレーション応答との間の誤差を最小化する。
【0025】
例示的な実施形態では、材料較正モジュール130は、数値最適化アルゴリズムを実行し、数値最適化アルゴリズムは、最小化プロセス中に安定性制約を強制し、実験データとモデル応答との間の誤差を最小化しながら、規定された歪み範囲において1つ以上の安定性基準(例えば、ドラッカーの安定性基準)を満たす材料パラメータのセットに反復的に収束する。人間にとっては、パラメータが少ないモデルであっても、モデル応答における安定な応答と正確さの両方を同時に保証するようにパラメータを手作業で操作するタスクは、扱いにくい。そのため、技術者は、特定の変形領域で不安定な材料モデルを使用するか、最適でない材料パラメータの設定を行うかの選択を迫られる。ここで、材料較正モジュール130は、関心対象の歪み範囲(例えば、材料モデルが使用される将来のシミュレーションで発生すると予想される歪み範囲)に対して安定した材料応答に対応する材料モデルの較正済みパラメータをユーザ102に自動的に提供する。これにより、入力された試験データを手動で繰り返し変更し、又は材料モデルを変更することに依存する周知の手法と比較して、かなりの時間を短縮できる。
【0026】
対象材料についての較正済み材料モデル(例えば、決定されたパラメータ値に関連する材料モデル)が一旦生成されると、その材料を含むシミュレーションにおいてその材料モデルを使用できる。例えば、シミュレーションソフトウェアシステム120は、対象材料で作成されたエンジンマウントブッシュを含むコンピュータ支援シミュレーションを実行して、様々な条件下(エンジン重量の支持、運転時のシャーシ変形、振動解析等)でブッシュの性能を分析できる。較正済み材料モデルは、シミュレーションシステム100内(例えば、データベース116内)に保存され、これは、シミュレーションシステム内のシミュレーションの実行中に使用してもよく、他のシミュレーションシステム100で使用するためにエクスポートしてもよい。シミュレーション(例えば、有限要素ベースのシミュレーション)には、通常、様々な因子(ジオメトリ、メッシュ、材料モデル、荷重、境界条件等)が含まれる。したがって、較正済み材料モデルは、メッシュ内の特定の有限要素に割り当てることができる。例えば、ユーザ102は、この材料モデル又は他の材料モデルについてデータベース116を検索し、シミュレーションモデルにおける特定のメッシュ領域について関心対象の較正済み材料モデルを選択できる。
【0027】
図2は、
図1に示す材料較正モジュール130の様々なサブモジュール200を示す図である。材料較正モジュール130の様々なサブモジュールのそれぞれは、ここに説明するように、安定性に基づく制約付き数値較正を使用して材料モデルを生成するための様々な機能を実行する。例示的な実施形態では、材料較正モジュール130は、グラフィカルユーザインタフェース(GUI)モジュール210、グラフ作成モジュール212、試験データモジュール214、材料モデル選択モジュール216、安定性構成モジュール218、較正計算モジュール220、及びシミュレーションインタフェースモジュール222(集合的に「サブモジュール200」と呼ぶ)を含む。様々なサブモジュール200のそれぞれは、それぞれの機能を実行する際に他のサブモジュール200と相互作用できる。
【0028】
例示的な実施形態では、材料較正モジュール130は、ユーザ102が材料較正モジュール130の諸態様とインタフェースできるグラフィカルユーザインタフェース(
図2には示していない)を提供する。GUIモジュール210は、表示デバイス118を介して多くのサブモジュール200のためのグラフィカルユーザインタフェース機能をユーザ102に提供し、これにより、ユーザ102は、例えば、材料モデル選択モジュール216を介して構成パラメータを表示及び入力し、試験データモジュール214を介して試験データを提供し、グラフ作成モジュール212によって準備されたグラフを閲覧し、安定性構成モジュール218を介して材料較正用の安定性設定を構成し、較正計算モジュール220によって提供された結果を閲覧することができる。このようなGUI構成要素の例を
図4~
図8に示す。
【0029】
例示的な実施形態では、グラフ作成モジュール212は、材料較正モジュール130によって提供されるグラフを生成し、表示する。幾つかの実施形態では、グラフ作成モジュール212は、対象材料についての実験データセット(あるいは、単に「試験データ」)からの軸及びデータ点(例えば、歪み及び応力軸、試験データからのデータ点)をプロットする。このようなプロットにより、ユーザ102は、例えば、試験データを視覚化し、試験データを確認し、試験データを材料モデル(例えば、基本材料モデル、較正済み材料モデル、その他の材料モデル)の結果と比較できる。幾つかの実施形態では、グラフ作成モジュール212は、単一のグラフ上に重ね合わされた複数のプロット(例えば、複数の試験データ、試験データと結果データの両方)を提供する。試験データと結果データの両方をプロットすることにより、ユーザ102は、試験データに対して較正済み材料モデルの結果を視覚的に検証できる。
【0030】
例示的な実施形態では、試験データモジュール214は、実験データセットの読み取りを容易にし、材料較正モジュール130によって使用される及び実験データセットの準備を容易にする。幾つかの実施形態では、試験データモジュール214により、ユーザ102は、実験データのソース(例えば、エクセルスプレッドシート等の生データソース、データベース116等)を特定できる。試験データには、応力と歪みの対が含まれる場合があり、状況によっては、時間も含まれる場合がある。試験データモジュール214は、生データファイルからのデータを表示し、これにより、ユーザ102は、材料モデルを較正するためにどのデータを使用するかを選択できる。また、試験データモジュール214により、ユーザ102は、試験データの試験パラメータ(試験データセットが表す変形のタイプ等)を特定できる。
【0031】
例示的な実施形態では、材料モデル選択モジュール216により、ユーザ102は、基本材料モデルのリストを閲覧でき、対象材料の較正プロセス中にどの材料モデルを使用するかを選択できる。様々な材料モデルが知られている。例えば、超弾性材料の場合、基本材料モデルのリストには、Arruda-Boyce、Mooney-Rivlin、Neo Hooke、Ogden、Polynomial、Reduced Polynomial、Yeoh等が含まれ得る。材料モデル選択モジュール216により、ユーザ102は、選択を望むモデルのタイプ(例えば、超弾性のみ、マリンス効果(Mullins effect)と組み合わせた超弾性、粘弾性と組み合わせた超弾性、又は粘弾性及びマリンス効果と組み合わせた超弾性)を選択できる。特定のタイプを選択すると、材料モデル選択モジュール216は、選択されたタイプの材料モデルのみをユーザ102に表示する。
【0032】
各材料モデルは、ユーザ102によって構成可能な1つ以上のモデルパラメータを含むことができる。例示的な実施形態では、特定の基本材料モデルを選択すると、材料モデル選択モジュール216は、利用可能なモデルパラメータをユーザ102に表示する。幾つかの実施形態では、ユーザ102は、その基本モデルについて利用可能なモデルパラメータのうち、較正プロセス中に変更可能にするものを選択できる。材料モデル選択モジュール216により、ユーザ102は、例えば、利用可能なモデルパラメータのうち較正プロセスで使用するパラメータをトグルすることができる。幾つかの実施形態では、材料モデル選択モジュール216は、選択されたモデルについて利用可能なモデルパラメータのうちの1つ以上についてデフォルトの初期値を自動的に設定してもよい。材料モデル選択モジュール216により、ユーザ102は、モデルパラメータの初期値を入力でき又はデフォルトの初期値を変更できる。
【0033】
幾つかの実施形態では、材料モデル選択モジュール216により、ユーザ102は、最小化に関連する設定を構成することができる(例えば、利用可能な最小化アルゴリズムのリストから特定の最小化アルゴリズムを選択し、その最小化アルゴリズムの特定の設定を調整し、(例えば、使用可能な誤差尺度のリストから)目的関数の因子の1つとして使用される誤差尺度を選択する)。
【0034】
例示的な実施形態において、安定性構成モジュール218により、ユーザ102は、較正プロセス中に安定性の考慮を有効にでき、安定性の考慮の態様を構成できる。安定性構成モジュール218は、較正プロセスの間、ユーザ102が安定性の考慮を有効又は無効にする機能を提供してもよい。安定性の考慮が無効にされると、較正計算モジュール220は、反復プロセス中に材料モデルの安定性を評価することなく、材料モデルを較正する。安定性の考慮が有効にされると、較正計算モジュール220は、較正プロセス(例えば、各反復)の間に、1つ以上の安定性基準を評価し、最新のモデル結果が安定であるか否かを判定する。安定性の考慮については、後により詳細に説明する。
【0035】
更に、例示的な実施形態では、安定性構成モジュール218により、ユーザ102は、この較正用の1つ以上の関心対象の歪み範囲を特定できる。例えば、ユーザ102は、1つ以上の範囲の歪みに亘って、及び場合によっては1つ以上の変形モードに亘って、材料モデルを安定させることを望むことがある。このため、安定性構成モジュール218により、ユーザ102は歪み範囲(例えば、荷重方向及び横方向における歪み範囲、体積比、及び剪断歪み)を入力できる。各歪み範囲は、特定のタイプの変形モードに関連付けられ、下限閾値及び上限閾値、又はその両方を含むことができる。幾つかの実施形態において、歪み範囲は、実験的試験データセットにおいて利用可能な歪み値を超えてもよい。有限要素シミュレーションプロセスは、シミュレーション中に広い歪み範囲に亘って材料計算を行うことができるので、ユーザ102は、広い歪み範囲に亘る安定性を望むことができる。
【0036】
更に、ユーザ102は、安定性の考慮を特定の変形モードのみに制限できる。例えば、ユーザ102は、歪み範囲設定を全ての変形モードに適用するか、一軸変形のみに適用するか、二軸変形のみに適用するか等のオプションを選択できる。
【0037】
例示的な実施形態では、較正計算モジュール220は、較正プロセスに関連する計算を実行する。より具体的には、較正計算モジュール220は、収束に到達するまで、反復プロセスにおいて、数値制約付き最適化アルゴリズムを使用して、1つ以上の制約基準と共に試験データセットとモデル応答との間の誤差を組み込んだ目的関数を最小化する。
【0038】
例示的な実施形態では、較正計算モジュール220は、ユーザが選択した数値最小化アルゴリズムを使用して、初期パラメータ値から開始して、材料モデルを較正する反復最小化プロセスを実行する。最小化プロセスの間、較正計算モジュール220は、目的関数を使用して、現在のパラメータ値(今回の反復における「現モデル応答」)を有する材料モデルと試験データセットとの間の誤差を計算する。様々な最小化アルゴリズムが独自の反復スキームを使用するが、一般的に言えば、各最小化アルゴリズムは、各最小化反復中に目的関数を複数回評価し、材料パラメータを繰り返し修正し、反復の終了時に、目的関数の値が反復の開始時の目的関数の値よりも小さくなるようにする。この反復プロセスは、特定の終了基準(例えば、材料特性の変化が所定の閾値未満)が満たされるまで続行される。
【0039】
目的関数の各評価の間に、現在のパラメータ値を有する材料モデルと試験データセットとの間の誤差が計算された後、較正計算モジュール220は、材料モデルの安定性を自動的に評価する。
【0040】
使用できる制約基準の1つに、ドラッカーの安定性基準があり、これは、数学的に次のように記述できる。
dε:D:dε>0
ここで、dεは増分歪みであり、Dは材料の接線剛性を表すテンソル量である。数値評価の場合、テンソル量は、等価行列形式で表される。材料の接線剛性の成分Dijklの値は、選択した数学的材料モデルとそのパラメータセットの現在の値によって異なる。
【0041】
古典的なドラッカーの安定性基準では、対応する増分変位に沿った増分(例えばKirchoff)応力によって生じる増分作用が正の場合、材料は、安定しているとみなされる。この安定性基準を満たさない材料モデルは、不安定とみなされる。これは、次のように表すことができる。
dτijdεij>0
ここで、dτijは増分応力成分であり、dεijは増分対数歪み成分である。以下の構成式を用いて、
dτij=Dijkldεkl
安定性条件は、次のように記述できる。
Dijkldτijdεij>0 (1)
ここで、Dijklは、材料の接線剛性テンソルの成分であり、較正される材料特性の関数である。数値(例えば、有限要素)シミュレーションで不安定な材料応答を使用すると、解が非一意又は非物理的になる可能性があるため、これは、多くの場合、望ましくない。
【0042】
この例では、較正計算モジュール220は、ドラッカーの安定性基準に基づく安定性基準による最適化プロセスを実施するが、最適化プロセスは、最小化プロセス中に安定性基準を強制し、提供された歪み範囲で安定性基準を満たす材料パラメータのセットに反復的に収束させると共に、試験データセットと、選択された材料モデルによって予測された対応する応答との間の誤差を最小化する。
【0043】
例示的な実施形態では、最適化プロセスの間に最小化されるべき目的関数は、記録された試験データセットと所与の反復における対応する予測された材料応答との間の誤差の尺度を提供する数学的関数であり、予測された材料応答が記録された試験データと完全に一致する理想的な場合に、目的関数の大域的最小値が達成される。目的関数は、較正のために使用される記録された試験データ又は材料特性の現在の値(例えば、較正されるように選択された構成的応答)に依存してもよい。目的関数は、(例えば、ユーザの選択に基づく手法を含む)異なる手法で作成できる。幾つかの実施形態では、複数の試験データセットが使用される場合、各データセット間で誤差に対する重み付け係数を使用してもよい。
【0044】
多くの制約付き最適化技術が知られており、ここで使用できる。例示的な実施形態では、使用される目的関数は、以下のように表される。
【数1】
ここで、E
i(c)は、i番目の試験データセットと対応する予測応答との間の誤差を特徴付ける値であり、W
iは、E
i(c)に対する重み付け係数であり、cは、(例えば、ユーザにより)設計変数として特定された材料特性の配列である。例示的な実施形態では、E
iの目的関数において平均二乗誤差測度を使用できる。
【数2】
ここでも、安定性条件は、ドラッカーの基準である。
D
ijkl(c)dτ
ijdε
ij>0 (1)
ここで、D
ijkl(c)は、材料の接線剛性テンソルの成分であり、較正対象である材料特性cの関数である。この関係は、D(c)が正定値の場合に成立する。
【0045】
例示的な実施形態では、較正計算モジュール220は、Dの首座小行列式(leading principal minor)の全てが正である場合に対称実行列が正定値であることを示すシルヴェスター(Sylvester)の基準を使用して、Dの正定値性をチェックする。N×N行列の場合、シルヴェスターの基準は、次のように記述できるN個の不等式制約の集合を導く。
g
i(D)>0,i=1…N
ここで、g
i(D)は、Dの様々な成分を実際のスカラーにマップする関数である。例えば、3×3D行列の場合、シルヴェスターの基準は、次の3つの不等式を満たすD成分に相当する。
g
1(D)=D
11+D
22+D
33>0 (4a)
g
2(D)=D
11D
22+D
22D
33+D
33D
11-D
23
2-D
13
2-D
12
2>0 (4b)
g
3(D)=det(D)>0 (4c)
例示的な実施形態では、このような不等式(4a)~(4c)は、較正プロセス中に制約条件として処理され、これにより、較正プロセスは、安定性基準を満たすべきパラメータのセットへと押し込まれる。制約付き最適化手順は、数学的に次のように記述できる。
目的関数Π(c)を最小化する。
条件:g
i(D)>0,i=1…N
上記の不等式制約問題は、追加の変数(s
i,i=1...N)を定義することにより、以下のように、等式制約問題として書き換えることができる。
目的関数Π(c)を最小化する。
【数3】
幾つかの実施形態では、安定性基準を満たす解を得ることに成功するか否かは、最小化アルゴリズムと制約の強制法の選択に依存する。
【0046】
他の実施形態では、Dの固有値解析を実行し、全ての固有値が正であることをチェックすることによって、正定値性を判定できる。更に他の実施形態では、DのLDL分解を行うことによって正定値性を判定でき、ここで分解が存在し、Dの値の全てが正である場合、Dは、正定値行列である。
【0047】
例示的な実施形態では、較正計算モジュール220は、較正プロセスの間、制約強制の方法としてペナルティ関数を使用する。ペナルティ関数は、目的関数に加算される正のスカラー値に制約違反をマップする。制約が満たされている場合、その制約の違反はなく、目的関数に寄与しない。制約が満たされない場合、違反値は、制約が満たされない分の値(例えば、制約を満たすために加算する必要がある値)になる。例えば、D11+D22+D33=2の場合、値は0より大きいため、この制約に違反はない。一方、D11+D22+D33=-5の場合、この制約に違反しており、違反値はv=5になる。
【0048】
例示的な実施形態では、目的関数が2次ペナルティ関数で修正され、以下のような修正された目的関数Π
*が得られる。
【数4】
ここで、kは、ペナルティ剛性と呼ばれる正のスカラーであり、ユーザ102によって制御できる。一例では、二次ペナルティ法は、以下の汎関数を最小化することを含む。
【数5】
他の実施形態では、他のペナルティ関数又は障壁関数を使用できる。ペナルティ関数を用いて安定性制約を強制する利点の1つは、これらが広範囲の制約なし最小化アルゴリズムと共に使用できることである。例えば、導関数フリー最小化アルゴリズムを用いてペナルティ制約強制を実装し使用することは、計算的に安価である。
【0049】
他の実施形態では、制約最小化は、ラグランジュ乗数を用いて実行してもよい。例えば、不等式制約の強制は、次の汎関数を最小化することで実行できる。
【数6】
更に他の実施形態では、制約最小化は、拡張ラグランジュ乗数(augmented Lagrange multiplier)を用いて、以下の汎関数を最小化することによって実行してもよい。
【数7】
更に他の実施形態では、制約最小化は、拡張摂動ラグランジュ乗数(augmented perturbed Lagrange multiplier)を用いて以下の汎関数を最小化することによって実行してもよい。
【数8】
【0050】
このように、本実施形態では、安定性違反が発生するたびに、目標値に含まれる誤差値にペナルティ関数が加算され、加算されるペナルティ値の量は、安定性違反の値に依存する。したがって、ペナルティ関数を適用すると、較正プロセスは、材料パラメータの値が安定性基準を満たすように材料パラメータの値を修正するように強制される。
【0051】
例示的な実施形態では、較正計算モジュール220は、以下のいずれか1つ以上が真である場合に、反復プロセスを終了する。
(1)後続の反復間で、解(例えば、ユーザ102が較正しようとしている材料特性)の変化が、事前に定義された(例えば、ユーザにより定義された)閾値よりも小さくなった。
(2)ペナルティを含む目的関数の値の変化が、事前に定義された(例えば、ユーザにより定義された)閾値より小さくなった。
(3)発生した目的関数評価の合計回数が、事前に定義された(例えば、ユーザにより定義された)関数評価の最大許容回数を超えた。
(4)最小化反復の合計回数が、事前に定義された(例えば、ユーザにより定義された)値を超えた。
(5)アルゴリズムが実行エラーを捕捉した。
幾つかの状況では、較正プロセスの成功が保証されないことがある。したがって、ユーザ102は、入力パラメータを調整し、較正を再実行しなければならない場合がある。幾つかの実施形態では、較正計算モジュール220は、失敗を検出し、自動的に1つ以上のパラメータを調整し、較正の試みを再実行できる。幾つかの実施形態では、材料較正モジュール130は、制約最適化のために逐次二次計画法(sequential quadratic programming:SQP)を使用できる。
【0052】
較正計算モジュール220が解について収束した後、較正プロセスは、材料モデルについてのモデルパラメータの結果セットで終了する。したがって、材料モデルは、得られたモデルパラメータと組み合わせて、較正済み材料モデルを表す。例示的な実施形態では、較正計算モジュール220は、較正済みモデルパラメータをユーザ102に表示し、さらに、グラフ作成モジュール212を介して、較正済み材料モデルをプロットしてもよい(例えば、結果の材料モデルの値を試験セット上にプロットしてもよい)。したがって、ユーザ102は、結果として得られる材料モデルパラメータと、指定された歪み範囲にわたる較正済み材料モデルのプロットとの両方を視覚的にレビューできる。
【0053】
例示的な実施形態では、シミュレーションインタフェースモジュール222は、データベース116内に較正済み材料モデルを保存し、シミュレーションソフトウェアシステム120と共に使用するための較正済み材料モデルを提供する。シミュレーションインタフェースモジュール222により、ユーザ102は、別のシミュレーションシステム100と共に使用するために較正済み材料モデルをエクスポートできる。較正済み材料モデルは、シミュレーションモデルの特定の構成要素(メッシュ領域等)に割り当てられてもよく、これらのシミュレーション中に、割り当てられた構成要素の応答を近似するために使用してもよい。
【0054】
図3は、安定性に基づく制約付き数値較正を使用して材料モデルを生成するための例示的較正プロセス300のフローチャートである。例示的な実施形態では、較正プロセス300は、
図1に示す演算デバイス110上で動作する材料較正モジュール130によって実行される。プロセス300は、材料モデルオプションのリストをユーザ102に表示し、ユーザ102がプロセス300で使用する基本材料モデルを選択できるようにすることを含む(動作310)。材料較正モジュール130は、ユーザ102が選択できるモデルタイプのリストを表示でき、その後、材料較正モジュール130は、選択されたタイプに関連する基本材料モデルのリストを表示できる。
【0055】
例示的な実施形態では、プロセス300は、較正プロセス300で使用するために生の試験データをインポートすることも含む(動作312)。材料較正モジュール130は、生の試験データをユーザ102に表示してもよく、これによりユーザ102は、試験データセットを構成(例えば、使用するデータ対を選択、各列の測定単位および試験データセットに関連付けられた変形タイプ等を特定)することができる。
【0056】
プロセス300は、更に、較正プロセス300の更なる構成を含む(動作314)。更なる構成は、例えば、選択された材料モデルに対して利用可能な設計パラメータのうち使用する設計パラメータをユーザ102が選択できるようにすること、設計パラメータの初期値を自動的に設定すること、これらの設計パラメータをユーザ102が入力又は変更できるようにすることを含むことができる。また、較正の構成は、選択された材料モデルに関連する最適化アルゴリズムを特定することを含む。更に、較正の構成は、反復プロセスを終了するための収束基準のみでなく、各反復における誤差を評価する際に使用する目的関数を特定することを含む。較正の構成は、ユーザ102が、安定性制約較正に加えて、関連する構成パラメータ(剛性、ペナルティ関数、及び歪み範囲等)を有効にできるようにすることも含む。
【0057】
また、例示的な実施形態では、プロセス300は、構成された特徴を使用して安定性制約較正を反復的に実行することを含む。より具体的には、材料較正モジュール130は、安定性制約較正の最初の反復を実行し、設計パラメータの初期値に基づいて最適化アルゴリズムを評価し、その反復についてのモデル結果を生成する。次に、材料較正モジュール130は、ペナルティ関数を伴う目的関数に対するその反復についてのモデル結果を評価し、モデル結果により生じた誤差が所定の収束値未満であるか否かを判定する。各最小化アルゴリズムは、固有の反復スキームを有し、これは、アルゴリズム間で著しく異なることがある。例示的な実施形態では、各反復において、目的関数は、所定回数評価される。各反復の間、最小化アルゴリズムは、目的関数が減少するように解を調整する(例えば、最小化プロセスを想定)。このアプローチも各アルゴリズムに固有である。制約に違反した場合、ペナルティ値が生成され、評価時に目的関数に加算される。したがって、最小化アルゴリズムは、制約違反を引き起こす値から解を遠ざける。
【0058】
例示的な実施形態では、安定性基準の違反は、各反復におけるペナルティ計算中に、歪み範囲内の複数の歪み値において評価される。例えば、ユーザ102が[0,1]の歪み範囲及び0.01の歪増分を選択した場合、材料較正モジュール130は、ペナルティ関数の評価において、0.00、0.01、0.02、…、0.99、及び1.00の歪値における安定性違反をチェックする。安定性違反があると、ペナルティ値が増加し、目的関数の値が増加する。
【0059】
図4は、安定性制約のない較正プロセス中に材料較正モジュール130によって提供されるグラフィカルユーザインタフェースの例示的な
図400を示す。例示的な実施形態では、グラフィカルユーザインタフェースは、材料モデルパネル410を含み、ここで、ユーザ102は、較正のために超弾性オグデン(Ogden)材料モデルを選択している。材料モデルパネル410は、モデルによって提供される設計パラメータ412のリスト、ユーザ102がこの較正の間にどの設計パラメータ412を使用することを選択したかを示すチェックボックス、並びに関連するパラメータ値414のための表示ボックスを含む。この例では、オグデンは、設計パラメータmu1、alpha1、mu2、alpha2、mu3、alpha3、D1、D2、及びD3を含み、ユーザ102は、D1、D2、及びD3を除く全ての設計パラメータを使用することを選択している。更に、この例のこの段階では、選択されたパラメータを使用して、制約なしの較正が既に実行されており、したがって、ここに表示される値414は、安定性制約なしではあるが、較正プロセスによって生成された較正値である。
【0060】
例示的な実施形態では、ユーザ102は、試験データセットパネル420に示すように、一軸引張りに関する単一の試験データセットをロードしている。グラフパネル430では、試験データセットからのサンプルがグラフ上にドットでプロットされ、このグラフは、x軸上に公称歪みを、y軸上に公称応力をプロットしている。更に、グラフは、(例えば、得られたパラメータ値414に基づく)較正済みモデルの線プロットを示す。較正履歴パネル450も設けられており、ここに較正プロセスの各反復に対してプロットされた目標値が示され、較正プロセスが0.991の偏差に収束することが示されている。
【0061】
グラフィカルユーザインタフェースは、更に、材料安定性設定ペイン440を含む最適化制御パネルを含む。この例では、材料安定性設定ペイン440は、「較正に安定性計算を含める」がオン(例えば、チェック済み)であるが、安定性剛性ペナルティが0に設定されていることを示している。したがって、較正プロセス中に安定性の考慮に対するペナルティは、課されていない。したがって、上述のように、この例における較正プロセスは、安定性に関して制約されていない。
【0062】
図5は、
図4に示すグラフィカルユーザインタフェースの別の例示的な
図500を示し、これは、非制約較正プロセス中に材料較正モジュール130によって提供される安定性表示パネル502を含む。例示的な実施形態では、安定性表示パネル502は、幾つかの変形モードのそれぞれについての棒グラフ対を示し、これらは、
図4の結果として得られる較正済み材料モデルがどの歪み範囲に亘って安定又は不安定であるかを示している。この例では、較正済み材料モデルは、一軸、二軸、平面、及び単純剪断変形に対して大きな歪み範囲が不安定である。
【0063】
図6は、ここに説明する安定性制約の考慮を含む較正プロセス中に材料較正モジュール130によって提供されるグラフィカルユーザインタフェースの例示的な
図600を示す。例示的な実施形態では、グラフィカルユーザインタフェースは、材料モデルパネル410を含み、ここで、
図4の例と同様に、ユーザ102は、較正のために超弾性オグデン材料モデルを選択している。この例では、ここに表示される値414は、初期値であり、すなわち、これは、材料較正モジュール130によって自動的に設定されたかユーザ102によって入力されたデフォルト値であり、ユーザ102は、較正プロセスをまだ実行していない。したがって、グラフは、グラフの中央を横切って弧を描く試験データのドットを含み、一方、較正されていない材料モデルのプロットは、x軸を横切る線として示されている。更に、例示的な実施形態では、ユーザ102は、材料安定性設定パネル440の歪み範囲設定パネル640を拡張し、較正プロセスの安定性に焦点を合わせるための幾つかの範囲設定(公称歪み、体積比、及び剪断歪みの最小値及び最大値等)を提供している。
【0064】
図7は、ユーザ102が安定性制約較正プロセスを実行した後の、
図6に示す例の
図700を示す。この例では、材料較正モジュール130は、ここでは線プロットによって表される、安定性制約較正済み材料モデルを生成している。
【0065】
図8は、安定性制約較正プロセス後の安定性表示パネル502を含む、
図7に示すグラフィカルユーザインタフェースの別の例示的な
図800を示す。例示的な実施形態では、安定性表示パネル502は、幾つかの変形モードのそれぞれについての棒グラフ対を示し、これらは、
図4の結果として得られる較正済み材料モデルがどの歪み範囲に亘って安定又は不安定であるかを示している。この例では、較正済み材料モデルは、ユーザ102によって指定された歪み範囲全体に亘って、また変形の各モードについて安定している。
【0066】
以上の説明から明らかなように、本開示の上述の実施形態は、コンピュータプログラミング又はエンジニアリング技術(コンピュータソフトウェア、ファームウェア、ハードウェア、又はこれらの任意の組み合わせ又はサブセットを含む)を用いて実施してもよく、その技術的効果として、安定した材料モデルを生成し、その安定した材料モデルをコンピュータシミュレーションに利用するシステムが実現される。この結果として得られるプログラムは、コンピュータ可読コード手段を有し、1つ以上のコンピュータ可読媒体内で実施又は提供でき、これによって、本開示で説明した実施形態に基づくコンピュータプログラム製品、すなわち、製造物が提供される。コンピュータ可読媒体は、以下に限定されるものではないが、例えば、固定(ハード)ドライブ、ディスケット、光ディスク、磁気テープ、半導体メモリ(読出専用メモリ(ROM)等)、及び/又は任意の送受信媒体(インターネット又は他の通信ネットワーク又はリンク等)であってもよい。コンピュータコードを含む製品は、1つの媒体から直接コードを実行することによって、1つの媒体から別の媒体にコードをコピーすることによって、又はネットワークを介してコードを送信することによって製造及び/又は使用できる。
【0067】
これらのコンピュータプログラム(プログラム、ソフトウェア、ソフトウェアアプリケーション、「apps」、又はコードとも呼ばれる)は、プログラム可能なプロセッサのための機械命令を含み、高水準手続き型及び/又はオブジェクト指向プログラミング言語、及び/又はアセンブリ/機械言語で実装できる。本明細書で使用する用語「機械可読媒体」、「コンピュータ可読媒体」は、任意のコンピュータプログラム製品、装置及び/又はデバイス(例えば、磁気ディスク、光ディスク、メモリ、プログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD))(プログラム可能なプロセッサに機械命令及び/又はデータを提供するために使用される)を指し、機械命令を機械可読信号として受け取る機械可読媒体を含む。なお、「機械可読媒体」及び「コンピュータ可読媒体」は、一時的な信号を含まない。用語「機械可読信号」は、機械命令及び/又はデータをプログラム可能なプロセッサに提供するために使用される任意の信号を指す。
【0068】
このシステムによって解決される技術的課題の少なくとも1つは、以下を含む。
(i)特定の状況で不安定になる可能性がある材料モデルの生成と使用を回避する。
(ii)材料モデルが不安定になる可能性があるか否かを判断するための手動の介入と試験を不要にする。
ここに説明するシステム及び方法によって解決される他の技術的問題は、システムに現れる不必要な構成要素のためにコンピュータ処理が増加し、コンピュータの速度が低下することを含む。
【0069】
ここに説明する方法及びシステムは、コンピュータプログラミング又はエンジニアリング技術(コンピュータソフトウェア、ファームウェア、ハードウェア、又はこれらの任意の組み合わせ又はサブセットを含む)を用いて実施してもよく、ここで、技術的効果は、次の少なくとも1つの工程を実施することにより達成できる。
(a)ユーザが実験的試験データセットをインポートできるように構成されたグラフィカルユーザインタフェースをユーザに対して表示する。
(b)材料モデル較正用の試験データセットの識別情報を受け取る。
(c)初期パラメータ値のセットから開始され、材料モデル較正中に較正されるパラメータセットの1つ以上のパラメータを含む材料モデルを特定する。
(d)1つ以上の所定の歪み範囲に亘ってドラッカーの安定性基準に基づいて制約を強制する最適化アルゴリズムを使用する反復最適化プロセスを実行して材料モデルを較正する。
(e)反復最適化プロセスを終了し、最適化プロセスにより較正済み材料モデルを生成する。
(f)ユーザからの入力に基づいて、較正済み材料モデルを、実世界等価物が物理的材料で構成されているシミュレーションモデルの構成要素に割り当てる。
【0070】
このシステムによって達成される結果としての技術的効果は、
安定した材料モデルを生成するための演算要求を低減すること、
特定の範囲に亘って安定なモデルを生成すること、及び
以前は不安定な材料モデルに依存し失敗していたシミュレーションを実行することによる計算の無駄を低減すること、
の少なくとも1つである。
【0071】
この書面による記載は、最良の態様を含む本開示を開示し、当業者が本開示の実施(任意のデバイス又はシステムの作製及び使用、並びに任意の組み込まれた方法の実施を含む)を可能にするために例を用いている。本開示の特許可能な範囲は、特許請求の範囲によって定義され、当業者によって想到される他の例を含むことができる。そのような他の例は、これらが特許請求の範囲の文言と相違しない構造的要素を有する場合、又はこれらが特許請求の範囲の文言と実質的に相違しない同等の構造的要素を含む場合には、特許請求の範囲に含まれる。