(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】ビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及び、ビールテイスト飲料の香味向上方法
(51)【国際特許分類】
C12C 7/00 20060101AFI20240723BHJP
【FI】
C12C7/00 B
(21)【出願番号】P 2020048312
(22)【出願日】2020-03-18
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】手崎 聡
(72)【発明者】
【氏名】飯牟礼 隆
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-043292(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103773642(CN,A)
【文献】宮地秀夫,ビール醸造技術,1999年12月28日,p.190-196, p.242-290
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルトールと2,6-ジメチルピラジンとを含有し、
前記2,6-ジメチルピラジンの含有量が4.0~50.0ppbであ
り、
前記マルトールの含有量をXppmとし、前記2,6-ジメチルピラジンの含有量をYppbとした場合、Y≧2X-0.1を満たし、
色度が75°EBC以上であるビールテイスト飲料。
【請求項2】
前記マルトールの含有量が50.0ppm以下である請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
マルトールと2,6-ジメチルピラジンとを含有し、
前記2,6-ジメチルピラジンの含有量が4.0~50.0ppbであ
り、
前記マルトールの含有量が2.0~23.0ppmであり、
色度が75°EBC以上であるビールテイスト飲料。
【請求項4】
前記マルトールの含有量をXppmとし、前記2,6-ジメチルピラジンの含有量をYppbとした場合、Y≧2X-0.1を満た
す請求項
3に記載のビールテイスト飲料。
【請求項5】
マルトールと2,6-ジメチルピラジンとを含有させ、前記2,6-ジメチルピラジンの含有量を4.0~50.0ppbとする
とともに、前記マルトールの含有量をXppmとし、前記2,6-ジメチルピラジンの含有量をYppbとした場合、Y≧2X-0.1を満たすようにし、色度を75°EBC以上とする工程を含むビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項6】
ビールテイスト飲料のとげとげしさを抑制させるとともに焙煎香を増強させる香味向上方法であって、
前記ビールテイスト飲料にマルトールと2,6-ジメチルピラジンとを含有させ、前記2,6-ジメチルピラジンの含有量を4.0~50.0ppbとする
とともに、前記マルトールの含有量をXppmとし、前記2,6-ジメチルピラジンの含有量をYppbとした場合、Y≧2X-0.1を満たすようにし、色度を75°EBC以上とするビールテイスト飲料の香味向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及び、ビールテイスト飲料の香味向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
消費者の多様な嗜好に応えるべく、多くの種類のビールテイスト飲料やその製造方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、3-メチル-4-オクタノリドを含み、かつ色度が9~950EBCである、ビールテイスト飲料が開示されている。
そして、特許文献1では、ウッド香と焙煎香が良好に調和したビールテイスト飲料が提供できると説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1が示すようにビールテイスト飲料には様々な色度を呈するものが存在する。その中でも、黒ビールなどの色度の値の大きなビールテイスト飲料は、焙煎した麦芽の深い味わいを楽しむことができることから、一定のニーズが存在する。
【0006】
本発明者らは、色度の値の大きなビールテイスト飲料の香味について、詳細に検討した結果、当該飲料の特徴でもある「焙煎香」は商品価値を大きく左右する指標となることから、この焙煎香については、できる限り増強させるべきであると考えた。
一方、このような種類のビールテイスト飲料のスモーキーな強い香味は、飲料全体の香味に「とげとげしさ」を付与してしまうことも確認した。
【0007】
そこで、本発明は、とげとげしさが抑制されているとともに焙煎香が増強しているビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及び、ビールテイスト飲料の香味向上方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、以下の手段により解決することができる。
(1)マルトールと2,6-ジメチルピラジンとを含有し、前記2,6-ジメチルピラジンの含有量が4.0~50.0ppbであり、前記マルトールの含有量をXppmとし、前記2,6-ジメチルピラジンの含有量をYppbとした場合、Y≧2X-0.1を満たし、色度が75°EBC以上であるビールテイスト飲料。
(2)前記マルトールの含有量が50.0ppm以下である前記1に記載のビールテイスト飲料。
(3)マルトールと2,6-ジメチルピラジンとを含有し、前記2,6-ジメチルピラジンの含有量が4.0~50.0ppbであり、前記マルトールの含有量が2.0~23.0ppmであり、色度が75°EBC以上であるビールテイスト飲料。
(4)前記マルトールの含有量をXppmとし、前記2,6-ジメチルピラジンの含有量をYppbとした場合、Y≧2X-0.1を満たす前記3に記載のビールテイスト飲料。
(5)マルトールと2,6-ジメチルピラジンとを含有させ、前記2,6-ジメチルピラジンの含有量を4.0~50.0ppbとするとともに、前記マルトールの含有量をXppmとし、前記2,6-ジメチルピラジンの含有量をYppbとした場合、Y≧2X-0.1を満たすようにし、色度を75°EBC以上とする工程を含むビールテイスト飲料の製造方法。
(6)ビールテイスト飲料のとげとげしさを抑制させるとともに焙煎香を増強させる香味向上方法であって、前記ビールテイスト飲料にマルトールと2,6-ジメチルピラジンとを含有させ、前記2,6-ジメチルピラジンの含有量を4.0~50.0ppbとするとともに、前記マルトールの含有量をXppmとし、前記2,6-ジメチルピラジンの含有量をYppbとした場合、Y≧2X-0.1を満たすようにし、色度を75°EBC以上とするビールテイスト飲料の香味向上方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るビールテイスト飲料は、とげとげしさが抑制されているとともに焙煎香が増強している。
本発明に係るビールテイスト飲料の製造方法は、とげとげしさが抑制されているとともに焙煎香が増強しているビールテイスト飲料を製造することができる。
本発明に係るビールテイスト飲料の香味向上方法は、ビールテイスト飲料のとげとげしさを抑制するとともに焙煎香を増強させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】マルトールの含有量と2,6-ジメチルピラジンの含有量とを変化させた場合における本発明の香味への影響を確認するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及び、ビールテイスト飲料の香味向上方法を実施するための形態(本実施形態)について説明する。
【0012】
[ビールテイスト飲料]
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、マルトールと2,6-ジメチルピラジンとを含有し、2,6-ジメチルピラジンの含有量が所定範囲内となる飲料である。
ここで、ビールテイスト飲料とは、ビール様(風)飲料とも呼ばれ、ビール様の香味を奏する飲料、言い換えると、ビール様の香味を奏するように調製された飲料である。そして、ビールテイスト飲料としては、例えば、酒税法(平成三十年六月二十日公布(平成三十年法律第五十九号)改正)で定義される「発泡性酒類」(ビール、発泡酒、その他の発泡性酒類)に分類されるものが挙げられる。なお、前記したその他の発泡性酒類としては、「その他の醸造酒(発泡性)(1)」(第三のビール)や「リキュール(発泡性)(1)」(新ジャンルビール)がある。また、ビールテイスト飲料としては、ビール様の香味を奏していればよく、酒税法で定義される発泡性酒類には属さない飲料および清涼飲料水(例えばノンアルコールビールテイスト飲料など)も挙げることができる。
【0013】
(マルトール)
マルトール(Maltol)とは、化学式C6H6O3で表される有機化合物であり、3-ヒドロキシ-2-メチル-4H-ピラン-4-オンとも呼ばれる。
そして、本発明者らは、マルトールが、ビールテイスト飲料の香味(特に、不快な甘ったるさ)に影響を与えることを確認した。
【0014】
マルトールの含有量は、1.0ppm以上が好ましく、1.5ppm以上、1.9ppm以上、2.0ppm以上、2.5ppm以上、2.8ppm以上がより好ましい。マルトールの含有量が所定値以上であることによって、本発明の効果(とげとげしさの抑制、焙煎香の増強)をしっかりと発揮させることができる。
また、マルトールの含有量は、50.0ppm以下が好ましく、40.0ppm以下、30.0ppm以下、25.0ppm以下、23.0ppm以下、20.0ppm以下、18.0ppm以下がより好ましい。マルトールの含有量が所定値以下であることによって、不快な甘ったるさが強くなり過ぎる事態を回避することができる。
なお、本明細書において、「ppm」という単位は「mg/L」と同義である。
【0015】
マルトールの含有量は、例えば、GC-MSによって測定することができる。
また、マルトールの含有量は、後記する発酵前工程(仕込み工程)で使用する原料によって制御することができるが、発酵後工程でのマルトールの添加によって制御することもできる。
【0016】
(2,6-ジメチルピラジン)
2,6-ジメチルピラジン(2,6-Dimethylpyrazine)とは、化学式C6H8N2で表される有機化合物である。
そして、本発明者らは、2,6-ジメチルピラジンの含有量によって、とげとげしさを抑制させつつ(とげとげしさを大幅に増強させることなく)、焙煎香を増強させるという効果を発揮できることを確認した。
【0017】
2,6-ジメチルピラジンの含有量は、4.0ppb以上が好ましく、8.0ppb以上、10.0ppb以上、13.0ppb以上、15.0ppb以上、17.0ppb以上、19.0ppb以上、19.7ppb以上、20.0ppb以上、25.0ppb以上、30.0ppb以上、35.0ppb以上がより好ましい。2,6-ジメチルピラジンの含有量が所定値以上であることによって、焙煎香を増強させることができる。
また、2,6-ジメチルピラジンの含有量は、50.0ppb以下が好ましく、48.0ppb、47.0ppb以下、46.0ppb以下、45.6ppb以下がより好ましい。2,6-ジメチルピラジンの含有量が所定値以下であることによって、とげとげしさの増強を抑制することができる。
なお、本明細書において、「ppb」という単位は「μg/L」と同義である。
【0018】
2,6-ジメチルピラジンの含有量は、例えば、GC-MSによって測定することができる。
また、2,6-ジメチルピラジンの含有量は、後記する発酵前工程(仕込み工程)で使用する原料によって制御することができるが、発酵後工程での2,6-ジメチルピラジンの添加によって制御することもできる。
【0019】
(マルトールの含有量と2,6-ジメチルピラジンの含有量とに基づく関係式)
マルトールの含有量をXppmとし、2,6-ジメチルピラジンの含有量をYppbとした場合、Y≧2X-0.1を満たすのが好ましい。
ここで、
図1は、横軸をマルトールの含有量とし、縦軸を2,6-ジメチルピラジンの含有量としたグラフであり、
図1の直線は、上記関係式の等号付き不等号を等号に代えた直線である。
上記関係式は、本発明者らが、ビールテイスト飲料の「不快な甘ったるさ」について、マルトールの含有量と2,6-ジメチルピラジンの含有量との両者が影響を与えることに着目して作成したものであり、各関係式の定数(傾き、切片)は、実験結果から導き出したものである。
【0020】
ビールテイスト飲料が、Y≧2X-0.1を満たすことによって、不快な甘ったるさが大幅に増強することを回避する(又は、不快な甘ったるさを低減させる)ことができる。そして、上記関係式は、Y≧2X+4.8が好ましく、Y≧2X+7.3、Y≧2X+9.8がより好ましい。
【0021】
(2,6-ジメチルピラジンの含有量(ppb)/マルトールの含有量(ppm))
マルトールの含有量をXppmとし、2,6-ジメチルピラジンの含有量をYppbとした場合、上記関係式の代わりに(又は、上記関係式と併用して)、Y/Xで算出される値を特定してもよい。
詳細には、Y/Xで算出される値は、2.3以上が好ましく、2.5以上がより好ましい。Y/Xが所定値以上となることによって、不快な甘ったるさが大幅に増強することを回避する(又は、不快な甘ったるさを低減させる)ことができる。
【0022】
(色度)
ビールテイスト飲料の色度は、飲料の色の濃淡を示す指標であって、基本的には、使用する原料(厳密には、麦芽などの麦由来原料)で決定される。そして、色度が高いビールテイスト飲料とは、通常、濃い色を呈する濃色麦芽(カラメル麦芽や黒麦芽など)の使用割合が大きかったり、使用する濃色麦芽の濃色度合い(焙煎度合い)が高かったりするものであることを意味している。
本発明者らは、黒色を呈するビールテイスト飲料、言い換えると、色度が所定値以上となるビールテイスト飲料は、前記した濃色麦芽に由来するスモーキーな強い香味が、飲料全体の香味に「とげとげしさ」を付与してしまうことを確認した。
【0023】
ビールテイスト飲料の色度は、特に限定されないが、本発明の効果が顕著に得られるという観点から、75.0°EBC以上が好ましく、80.0°EBC以上、90.0°EBC以上、100.0°EBC以上、110.0°EBC以上、120.0°EBC以上、125.0°EBC以上、125.3°EBC以上がより好ましい。色度が所定値以上であることによって、ビールテイスト飲料が黒色を呈するとともに、課題(とげとげしさ)が明確化する。
なお、ビールテイスト飲料の色度の上限は特に限定されず、例えば、200.0°EBC以下、180.0°EBC以下、140.0°EBC以下である。
【0024】
色度は、例えば、改訂BCOJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集、2013年増補改訂)の「8.8 色度 8.8.2 吸光度法」に記載されている方法によって測定することができる。
また、色度は、後記する発酵前工程(仕込み工程)で使用する原料によって制御することができるが、発酵後工程での色素、植物原料、食品添加物等の添加によって制御することもできる。色素としては、特に限定されないものの、例えば、カラメル色素、カカオ色素、ベニバナ色素、ウコン色素等が挙げられる。植物原料としては、特に限定されないものの、例えば、麦芽エキス等が挙げられる。
【0025】
(アルコール度数)
本実施形態に係るビールテイスト飲料のアルコール度数は、特に限定されないものの、例えば、1%(v/v%)以上、3%以上、4%以上であり、15%以下、10%以下、9%以下、8%以下、6%以下である。
【0026】
本実施形態に係るビールテイスト飲料のアルコール度数は、麦由来原料を発酵させて得られた飲料の値であってもよいが、当該飲料に対して、適宜、蒸留アルコールを添加して調製してもよいし、発酵を経ない場合(調合の場合)は、蒸留アルコールの添加のみで調製してもよい。
蒸留アルコールとしては、焼酎、ブランデー、ウォッカ、ウイスキー等の各種スピリッツ、原料用アルコール等が挙げられる。蒸留アルコールは1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、本明細書において「スピリッツ」とは、蒸留酒であるスピリッツを指し、酒税法上のスピリッツとは異なる場合もある。
なお、本明細書においてアルコールとは、特に明記しない限り、エタノールのことをいう。そして、ビールテイスト飲料のアルコール度数は、例えば、国税庁所定分析法(訓令)3清酒3-4アルコール分(振動式密度計法)に基づいて測定することができる。
【0027】
(発泡性)
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、発泡性であるのが好ましい。
そして、本実施形態に係るビールテイスト飲料の20℃におけるガス圧は、特に限定されないものの、例えば、2.0kg/cm2以上、2.2kg/cm2以上、2.3kg/cm2以上、2.4kg/cm2以上であり、5.0kg/cm2以下、4.0kg/cm2以下、3.0kg/cm2以下である。そして、ビールテイスト飲料のアルコール度数は、例えば、国税庁所定分析法(訓令)8-3ガス圧に基づいて測定することができる。
【0028】
(その他)
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、本発明の所望の効果が阻害されない範囲で飲料として通常配合される甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、香料、酸味料、塩類、食物繊維など(以下、適宜「添加剤」という)を添加することもできる。甘味料としては、例えば、果糖ぶどう糖液糖、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、グリコーゲンやデンプンなどを用いることができる。高甘味度甘味料としては、例えば、ネオテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、チクロ、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテームなどを用いることができる。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどを用いることができる。酸味料としては、例えば、アジピン酸、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、二酸化炭素、乳酸、乳酸ナトリウム、氷酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、リン酸などを用いることができる。塩類としては、例えば、食塩、酸性りん酸カリウム、酸性りん酸カルシウム、りん酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウムなどを用いることができる。食物繊維としては、例えば、難消化性デキストリン、ペクチン、ポリデキストロース、グアーガム分解物などを用いることができる。
そして、前記した各原料は、一般に市販されているものを使用することができる。
【0029】
(容器詰めビールテイスト飲料)
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、各種容器に入れて提供することができる。各種容器にビールテイスト飲料を詰めることにより、長期間の保管による品質の劣化を好適に防止することができる。
なお、容器は密閉できるものであればよく、金属製(アルミニウム製又はスチール製など)のいわゆる缶容器・樽容器を適用することができる。また、容器は、ガラス容器、ペットボトル容器などを適用することもできる。容器の容量は特に限定されるものではなく、現在流通しているどのようなものも適用することができる。なお、気体、水分および光線を完全に遮断し、長期間常温で安定した品質を保つことが可能な点から、金属製の容器を適用することが好ましい。
【0030】
以上説明したように、本実施形態に係るビールテイスト飲料は、とげとげしさが抑制されているとともに焙煎香が増強している。
また、本実施形態に係るビールテイスト飲料は、不快な甘ったるさが抑制されている。
【0031】
[ビールテイスト飲料の製造方法]
次に、本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法について説明する。
本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法は、マルトールと2,6-ジメチルピラジンとを含有させ、2,6-ジメチルピラジンの含有量を所定範囲内とする工程を含む。そして、詳細には、本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法は、発酵前工程と、発酵工程と、発酵後工程と、を含む。
【0032】
(発酵前工程)
発酵前工程では、麦芽、麦、糖類、酵素、各種添加剤、副原料等を適宜混合して原料を糖化し、糖化液を得る。そして、糖化液を適宜ろ過して得られた麦汁に、適宜、ホップの添加、煮沸、冷却等を行って発酵前液を調製する。
【0033】
発酵前工程において調製される発酵前液は、酵母が資化可能な窒素源及び炭素源となる麦由来原料(麦芽や麦、又はそれらのエキス)を含む溶液であれば特に限られない。窒素源及び炭素源は、酵母が資化可能なものであれば特に限られない。酵母が資化可能な窒素源とは、例えば、麦由来原料に含まれるアミノ酸及びペプチドのうちの少なくとも一つである。酵母が資化可能な炭素源とは、例えば、前記した糖類や麦由来原料に含まれる糖類である。
【0034】
発酵前工程で使用する麦芽は、麦を発芽させ焙燥した後に根を除いたものであり、また、発酵前工程で使用する麦とは、発芽させていない状態の麦である。そして、麦とは、大麦、小麦、ライ麦、燕麦等であるが、大麦が好ましい。
なお、麦芽比率(ビールテイスト飲料の製造に用いられる原料のうち水及びホップ以外のものの全重量に占める麦芽の重量の比率)は、特に限定されないものの、例えば、下限は1%以上、10%以上、25%以上、30%以上、50%以上であり、上限は100%以下、95%以下である。
【0035】
発酵前工程で使用する副原料は、酒税法施行規則(平成三十年三月三十一日公布(平成三十年財務省令第十九号)改正)の第4条第2項各号に掲げられている物品、さらには、果実(果実を乾燥させ、若しくは煮つめたもの又は濃縮させた果汁を含む)等が挙げられる。
【0036】
発酵前工程で使用するホップは、特に限定されず、例えば、乾燥ホップ、ホップペレット、ホップエキスが挙げられるとともに、ローホップ、ヘキサホップ、テトラホップ、イソ化ホップエキス等のホップ加工品であってもよい。
【0037】
(発酵工程)
発酵工程は、発酵前液に酵母を添加してアルコール発酵を行う工程である。本実施形態においては、例えば、予め温度が所定の範囲内(例えば、0~40℃の範囲)に調製された発酵前液に酵母を添加して発酵液を調製し、発酵を行う。
【0038】
発酵工程においては、さらに熟成を行うこととしてもよい。熟成は、上述のような発酵後の発酵液をさらに所定の温度で所定の時間だけ維持することにより行う。この熟成により、発酵液中の不溶物を沈殿させて濁りを取り除き、また、香味を向上させることができる。
【0039】
こうして発酵工程においては、酵母により生成されたエタノール及び各種成分を含有する発酵後液を得ることができる。発酵後液に含まれるエタノールの濃度(アルコール度数)は、例えば、1~20%とすることができる。
【0040】
(発酵後工程)
発酵後工程は、発酵後液に所定の処理を施して最終的にビールテイスト飲料を得る工程である。発酵後工程としては、例えば、発酵工程により得られた発酵後液のろ過(いわゆる一次ろ過)が挙げられる。この一次ろ過により、発酵後液から不溶性の固形分や酵母を除去することができる。また、発酵後工程においては、さらに発酵後液の精密ろ過(いわゆる二次ろ過)を行ってもよい。二次ろ過により、発酵後液から雑菌や、残存する酵母を除去することができる。なお、精密ろ過に代えて、発酵後液を加熱することにより殺菌することとしてもよい。発酵後工程における一次ろ過、二次ろ過、加熱は、ビールテイスト飲料を製造する際に使用される一般的な設備で行うことができる。
なお、発酵後工程には、前記した容器に充填する工程も含まれる。
【0041】
発酵後工程によって得られたビールテイスト飲料のマルトールの含有量と2,6-ジメチルピラジンの含有量を制御する方法として、原料である麦芽の種類を選択するという方法が挙げられる。
例えば、一般的な濃色麦芽と異なり、麦芽を焙煎する際に、砂や石などの焙煎媒体(150~300℃、好ましくは160~270℃)を麦芽に混合しながら焙煎することで得られる濃色麦芽(特殊焙煎麦芽)を原料として用いるという方法が挙げられる。この方法で得られた特殊焙煎麦芽は、ビールテイスト飲料の色度を高くしつつも、マルトールの含有量の上昇を抑えつつ、2,6-ジメチルピラジンの含有量を多くすることができる。よって、一般的な濃色麦芽や淡色麦芽と組み合わせて特殊焙煎麦芽を用いることにより、黒ビールのような色合いを呈するようにしつつも、マルトールの含有量と2,6-ジメチルピラジンの含有量とを所望の範囲内(マルトールの含有量は比較的少ない範囲、かつ、2,6-ジメチルピラジンの含有量は比較的多い範囲)とすることができる。
また、濃色麦芽と淡色麦芽の混合比率を調製するという方法や、発酵後工程において、マルトールや2,6-ジメチルピラジンの添加によって調製するという方法も挙げられる。
【0042】
また、本実施形態に係るビールテイスト飲料は、発酵工程を経ないで製造することもできる。つまり、本実施形態に係るビールテイスト飲料は、非発酵飲料として製造されてもよい。
この場合、本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法は、混合タンクに、水、マルトール、2,6-ジメチルピラジン、色素、添加剤、麦芽エキス、蒸留アルコールなどの原料を適宜投入する調合工程(混合工程)と、ろ過、殺菌、炭酸ガスの付加、容器への充填などの処理を行う後処理工程と、を含むこととなる。
【0043】
以上説明したように、本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法は、とげとげしさが抑制されているとともに焙煎香が増強しているビールテイスト飲料を製造することができる。
また、本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法は、不快な甘ったるさが抑制されているビールテイスト飲料を製造することができる。
【0044】
[ビールテイスト飲料の香味向上方法]
次に、本実施形態に係るビールテイスト飲料の香味向上方法を説明する。
本実施形態に係るビールテイスト飲料の香味向上方法は、ビールテイスト飲料のとげとげしさを抑制させるとともに焙煎香を増強させる香味向上方法であって、マルトールと2,6-ジメチルピラジンとを含有させ、2,6-ジメチルピラジンの含有量を所定範囲内とする方法である。
なお、各成分の含有量等については、前記した「ビールテイスト飲料」において説明した値と同じである。
【0045】
以上説明したように、本実施形態に係るビールテイスト飲料の香味向上方法は、ビールテイスト飲料のとげとげしさを抑制させるとともに焙煎香を増強させることができる。
また、本実施形態に係るビールテイスト飲料の香味向上方法は、ビールテイスト飲料の不快な甘ったるさを抑制させることができる。
【実施例】
【0046】
次に、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを例示して、本発明について説明する。
【0047】
[サンプルの準備]
サンプル1、3については、まず、最終製品のビールテイスト飲料の色度が130°EBC程度となるように、淡色麦芽、濃色麦芽(黒麦芽)、特殊焙煎麦芽を、適宜混合し、原料液を調整した。その後、原料液を糖化させ、糖化後にホップを添加し煮沸した。そして、冷却した原料液にビール酵母を添加してアルコール発酵を行った。その後、熟成させた後に、ろ過を施し、ビールテイスト飲料(サンプル1、3)を製造した。
なお、サンプル1は特殊焙煎麦芽を使用していないが、サンプル3は特殊焙煎麦芽を使用した点で、両サンプルの製造方法は異なっている。この特殊焙煎麦芽は、麦芽を焙煎する際に、約160~270℃の砂(焙煎媒体)を麦芽に混合させながら麦芽を焙煎することで得られた濃色麦芽である。
【0048】
サンプル2は、サンプル1のビールテイスト飲料とサンプル3のビールテイスト飲料とを混合させて、製造した。
サンプル4、6~8は、サンプル3のビールテイスト飲料に対して、表1の含有量となるようにマルトール、2,6-ジメチルピラジンを適宜添加して製造した。また、サンプル5は、サンプル2にマルトールを添加して製造した。
【0049】
[試験内容]
前記の方法により製造した各サンプルについて、選抜された識別能力のあるパネル4名が下記評価基準に則って「味のふくらみ」、「とげとげしさ」、「マイルドさ」、「焙煎香の強さ」、「不快な甘ったるさ」について、1~5点の0.5点刻みで独立点数付けし、その平均値を算出した。
なお、全ての評価は、各サンプルを飲んで評価した。また、全ての評価は、サンプル1の2点を基準とした相対評価を行った。
【0050】
(味のふくらみ:評価基準)
味のふくらみの評価については、「味のふくらみがある」場合を5点、「味のふくらみがない」場合を1点として、0.5点刻みで評価した。そして、味のふくらみの評価については、点数が高いほど、好ましいと判断できる。
【0051】
なお、「味のふくらみ」とは、サンプルを飲んでいる最中および飲んだ後に感じる味が膨らむ(口腔内に広がる)感覚である。
【0052】
(とげとげしさ:評価基準)
とげとげしさの評価については、「とげとげしさがある」場合を5点、「とげとげしさがない」場合を1点として、0.5点刻みで評価した。そして、とげとげしさの評価については、点数が低いほど、好ましいと判断できる。
【0053】
なお、「とげとげしさ」とは、味がとがっていて、角張っている感覚である。
【0054】
(マイルドさ:評価基準)
マイルドさの評価については、「マイルドさがある」場合を5点、「マイルドさがない」場合を1点として、0.5点刻みで評価した。そして、マイルドさの評価については、点数が高いほど、好ましいと判断できる。
【0055】
なお、「マイルドさ」とは、味のまろやかな感覚である。
【0056】
(焙煎香の強さ:評価基準)
焙煎香の強さの評価については、「焙煎香の強さがある」場合を5点、「焙煎香の強さがない」場合を1点として、0.5点刻みで評価した。そして、焙煎香の強さの評価については、点数が高いほど、好ましいと判断できる。
なお、焙煎香については、飲んでいる最中に感じる香りと、飲む前に感じる香りとの両者を総合的に評価した。
【0057】
なお、「焙煎香」とは、黒ビールに特有の燻されたようなスモーキーな香りである。
【0058】
(不快な甘ったるさ:評価基準)
不快な甘ったるさの評価については、「不快な甘ったるさがある」場合を5点、「不快な甘ったるさがない」場合を1点として、0.5点刻みで評価した。そして、不快な甘ったるさの評価については、点数が低いほど、好ましいと判断できる。
【0059】
なお、「不快な甘ったるさ」とは、ビールテイスト飲料には適さない甘味であって、香味のバランスを崩すような甘味である。
【0060】
[分析方法]
(色度)
各サンプルの色度は、改訂BCOJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集、2013年増補改訂)の「8.8 色度 8.8.2 吸光度法」に記載されている方法によって測定した。具体的には、各サンプルの波長430nmの吸光度を分光光度計(HITACHI社製)を用いて測定し、C=25×f×A430(C:色度(EBC単位)、f:希釈率、A430:430nmの吸光度)に基づいて算出した。
また、アルコール度数は、国税庁所定分析法(訓令)3清酒3-4アルコール分(振動式密度計法)に基づいて測定した。
【0061】
表1に、各サンプルの各評価結果を示す。そして、サンプル1~3のマルトール、2,6-ジメチルピラジンの含有量は、GC-MS(Agilent Technologies社製)で測定した値であり、サンプル4、6~8の各物質の含有量は、サンプル3の含有量に各物質の添加量を合計した値であり、サンプル5の各物質の含有量は、サンプル2の含有量に各物質の添加量を合計した値である。
【0062】
【0063】
(結果の検討)
表1の結果から、2,6-ジメチルピラジンの含有量が所定範囲内となると、とげとげしさを抑制しつつ(とげとげしさを大幅に増強させることなく)、焙煎香を増強できることが確認できた。
詳細には、「とげとげしさ」については、サンプル1~8の中でも、サンプル1~3、5~8について好ましい結果(2.2点以下、より好ましくは2.0点以下)が得られた。
一方、「焙煎香の強さ」については、サンプル1~8の中でも、サンプル2~8(特に、サンプル3、4、6~8)について好ましい結果(2.3点以上、より好ましくは3.0点以上)が得られた。
よって、2つの評価を総合すると、サンプル1~8の中でも、サンプル2、3、5~8(特に、サンプル3、6~8)について好ましい結果が得られた。
【0064】
表1の結果と
図1のグラフから、マルトールの含有量と2,6-ジメチルピラジンの含有量とに基づく関係式(Y≧2X-0.1)を満たすと、不快な甘ったるさを大幅に増強させることがない(又は、不快な甘ったるさを低減できる)ことが確認できた。
詳細には、「不快な甘ったるさ」については、サンプル2、3、5~8(「とげとげしさ」と「焙煎香の強さ」の2つの評価について好ましい結果が得られたサンプル)の中でも、サンプル2、3、6、7について好ましい結果(2.5点以下)が得られた。
【0065】
なお、「とげとげしさ」と「焙煎香の強さ」の2つの評価について好ましい結果が得られたサンプル2、3、5~8は、「味のふくらみ」の評価も好ましい結果(2.5点以上)となるとともに、「マイルドさ」の評価も好ましい結果(2.5点以上)が得られた。