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特許7525299走行環境変化特定方法、その装置及びそのコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】走行環境変化特定方法、その装置及びそのコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/01 20060101AFI20240723BHJP
   G08G 1/13 20060101ALI20240723BHJP
   G01C 21/26 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
G08G1/01 A
G08G1/13
G01C21/26 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020087674
(22)【出願日】2020-05-19
(65)【公開番号】P2021182286
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】501271479
【氏名又は名称】株式会社トヨタマップマスター
(74)【代理人】
【識別番号】100095577
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 富雅
(74)【代理人】
【識別番号】100100424
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 知公
(72)【発明者】
【氏名】安田 芽以
【審査官】武内 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-180797(JP,A)
【文献】特開2007-109001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/01
G08G 1/13
G01C 21/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両インナーデータとプローブデータとを保存する車両データ保存部と、
データ読出部と、
ドライブチャート作成部と、
ドライブチャート比較部と、
特定部と、を備えてなる走行環境変化特定装置を用いて実行する走行環境変化特定方法であって、
前記データ読出部に、前記車両データ保存部から、特定対象の領域に第1の時間帯に存在したプローブカーの第1の車両インナーデータと第1のプローブデータとを読み出させ、前記特定対象の領域に第2の時間帯に存在したプローブカーの第2の車両インナーデータと第2のプローブデータとを読み出させ、
前記ドライブチャート作成部に、前記第1の車両インナーデータと前記第1のプローブデータとから第1のドライブチャートを作成させ、前記第2の車両インナーデータと前記第2のプローブデータから第2のドライブチャートを作成させ、
前記ドライブチャート比較部に、前記第1のドライブチャートと前記第2のドライブチャートとを比較させ、
前記特定部に、前記ドライブチャート比較部の比較結果から、前記特定対象の領域の走行環境の変化を特定させ、
前記特定対象の領域を指定する特定対象領域指定部が更に備えられ、
該特定対象領域指定部は、任意領域選択部と、領域特性作成部と、領域特性比較部と、指示部とを備え、
前記任意領域選択部に、任意に領域を選択させ、
前記領域特性作成部に、前記任意に選択した領域に所定の第3の時間帯に存在したプローブカーの車両インナーデータに基づいて第1の領域特性データを作成させ、前記任意に選択した領域に所定の第4の時間帯に存在したプローブカーの車両インナーデータに基づいて第2の領域特性データを作成させ、
前記領域特性比較部に前記第1の領域特性データと前記第2の領域特性データとを比較させ、
前記指示部に、前記領域特性比較部の比較結果に基づき、前記ドライブチャート作成部に指示を送らせる、走行環境変化特定方法。
【請求項2】
前記領域特性作成部に、更に、前記任意に選択した領域に所定の第5の時間帯に存在したプローブカーの車両インナーデータに基づいて第3の領域特性データを作成させ、
前記領域特性比較部に、前記第1~第3の領域特性データを比較させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ドライブチャート作成部に、
前記第1のプローブデータから作成される前記特定対象の領域における走行軌跡と前記第1の車両インナーデータとの相関関係を示す前記第1のドライブチャートを作成させ、
前記第2のプローブデータから作成される前記特定対象の領域における走行軌跡と前記第2の車両インナーデータとの相関関係を示す前記第2のドライブチャートを作成させる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ドライブチャート作成部に、
前記第1のプローブデータから作成される前記特定対象の領域における基準時間帯と前記第1の車両インナーデータとの相関関係を示す前記第1のドライブチャートを作成させ、
前記第2のプローブデータから作成される前記特定対象の領域における基準時間帯と前記第2の車両インナーデータとの相関関係を示す前記第2のドライブチャートを作成させる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
車両インナーデータとプローブデータとを保存する車両データ保存部と、
データ読出部と、
ドライブチャート作成部と、
ドライブチャート比較部と、
特定部と、を備えてなる走行環境変化特定装置を用いて実行する走行環境変化特定方法であって、
前記データ読出部に、前記車両データ保存部から、特定対象の領域に第1の時間帯に存在したプローブカーの第1の車両インナーデータと第1のプローブデータとを読み出させ、前記特定対象の領域に第2の時間帯に存在したプローブカーの第2の車両インナーデータと第2のプローブデータとを読み出させ、
前記ドライブチャート作成部に、前記第1の車両インナーデータと前記第1のプローブデータとから第1のドライブチャートを作成させ、前記第2の車両インナーデータと前記第2のプローブデータから第2のドライブチャートを作成させ、
前記ドライブチャート比較部に、前記第1のドライブチャートと前記第2のドライブチャートとを比較させ、
前記特定部に、前記ドライブチャート比較部の比較結果から、前記特定対象の領域の走行環境の変化を特定させる、走行環境変化特定方法において、
前記車両データ保存部に保存されている前記車両インナーデータのデータ取得インターバルは前記プローブデータのデータ取得インターバルより短く、
前記データ読出部はプローブデータ読出部及び車両インナーデータ読出部を備え、
前記ドライブチャート作成部は、プローブデータ補完部及びデータ対応付け部を備え、
前記プローブデータ読出部に、前記車両データ保存部の前記プローブデータを読み出させ、
前記車両インナーデータ読出部に、前記車両データ保存部の前記車両インナーデータを読み出させ、
前記プローブデータ補完部に、読み出された前記プローブデータを補完して読み出された前記車両インナーデータの獲得時刻に対応するプローブデータを作成させ、
前記データ対応付け部に、前記獲得時刻を基準にして補完された前記プローブデータと前記車両インナーデータとを対応付けさせて、ドライブチャートを作成する、走行環境変化特定方法。
【請求項6】
車両インナーデータとプローブデータとを保存する車両データ保存部と、
データ読出部と、
ドライブチャート作成部と、
ドライブチャート比較部と、
特定部と、を備えてなる走行環境変化特定装置であって、
前記データ読出部は、前記車両データ保存部から、特定対象の領域に第1の時間帯に存在したプローブカーの第1の車両インナーデータと第1のプローブデータとを読み出させ、前記特定対象の領域に第2の時間帯に存在したプローブカーの第2の車両インナーデータと第2のプローブデータとを読み出し、
前記ドライブチャート作成部は、前記第1の車両インナーデータと前記第1のプローブデータとから第1のドライブチャートを作成させ、前記第2の車両インナーデータと前記第2のプローブデータから第2のドライブチャートを作成し、
前記ドライブチャート比較部は、前記第1のドライブチャートと前記第2のドライブチャートとを比較し、
前記特定部は、前記ドライブチャート比較部の比較結果から、前記特定対象の領域の走行環境の変化を特定する、
走行環境変化特定装置において、
前記車両データ保存部に保存されている前記車両インナーデータのデータ取得インターバルは前記プローブデータのデータ取得インターバルより短く、
前記データ読出部はプローブデータ読出部及び車両インナーデータ読出部を備え、
前記ドライブチャート作成部は、プローブデータ補完部及びデータ対応付け部を備え、
前記プローブデータ読出部に、前記車両データ保存部の前記プローブデータを読み出させ、
前記車両インナーデータ読出部に、前記車両データ保存部の前記車両インナーデータを読み出させ、
前記プローブデータ補完部に、読み出された前記プローブデータを補完して読み出された前記車両インナーデータの獲得時刻に対応するプローブデータを作成させ、
前記データ対応付け部に、前記獲得時刻を基準にして補完された前記プローブデータと前記車両インナーデータとを対応付けさせて、ドライブチャートを作成する、走行環境変化特定装置。
【請求項7】
車両インナーデータとプローブデータとを保存する車両データ保存部と、
データ読出部と、
ドライブチャート作成部と、
ドライブチャート比較部と、
特定部と、を備えてなる走行環境変化特定装置に用いられるコンピュータプログラムであって、
前記データ読出部に、前記車両データ保存部から、特定対象の領域に第1の時間帯に存在したプローブカーの第1の車両インナーデータと第1のプローブデータとを読み出させ、前記特定対象の領域に第2の時間帯に存在したプローブカーの第2の車両インナーデータと第2のプローブデータとを読み出させ、
前記ドライブチャート作成部に、前記第1の車両インナーデータと前記第1のプローブデータとから第1のドライブチャートを作成させ、前記第2の車両インナーデータと前記第2のプローブデータから第2のドライブチャートを作成させ、
前記ドライブチャート比較部に、前記第1のドライブチャートと前記第2のドライブチャートとを比較させ、
前記特定部に、前記ドライブチャート比較部の比較結果から、前記特定対象の領域の走行環境の変化を特定させる、
コンピュータプログラムにおいて
前記車両データ保存部に保存されている前記車両インナーデータのデータ取得インターバルは前記プローブデータのデータ取得インターバルより短く、
前記データ読出部はプローブデータ読出部及び車両インナーデータ読出部を備え、
前記ドライブチャート作成部は、プローブデータ補完部及びデータ対応付け部を備え、
前記プローブデータ読出部に、前記車両データ保存部の前記プローブデータを読み出させ、
前記車両インナーデータ読出部に、前記車両データ保存部の前記車両インナーデータを読み出させ、
前記プローブデータ補完部に、読み出された前記プローブデータを補完して読み出された前記車両インナーデータの獲得時刻に対応するプローブデータを作成させ、
前記データ対応付け部に、前記獲得時刻を基準にして補完された前記プローブデータと前記車両インナーデータとを対応付けさせて、ドライブチャートを作成する、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は走行環境変化特定方法、その装置及びそのコンピュータプログラムの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
ナビゲーション装置を用いて経路案内をする際、検索対象となるマップデータは常に最新の状態に更新されていることが好ましい。自動運転時に採用されるマップデータについても同様である。
マップデータの更新は、公的な情報に基づくほか、現実の道路、交差点及びその他の車両走行領域における走行環境変化を反映させるため現地調査やプローブカーによるプローブデータ解析により行われてきた。
本発明に関連する技術を開示する先行特許文献1~4を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-109675号公報
【文献】特開2014-099056号公報
【文献】特開2013-190963号公報
【文献】特開2007-041916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マップデータがカバーする全域においてかつ短時間に道路等の走行環境変化を更新するにはプローブデータの解析が不可欠である。現地調査にかける人手には限界があるからである。
しかしながら、プローブデータはプローブカーの走行履歴をトレースする座標データと時間データとの組み合わせからなるものであるので、その解析に制限がある。換言すれば、座標変化及び時間変化以外のパラメータの変化が関係する走行環境変化を反映することができない。
また、プローブデータはそのインターバルが比較的長い。これは、プローブデータ獲得自体のインターバルが長いこともあるし、また、通信量削減のためプローブデータが間引きして収集される場合もあるからである。このため、走行環境の変化を詳細にとらえきれないおそれがある。
そこでこの発明は、マップデータを効率よく更新するための新規な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねてきたところ、プローブデータから得られる走行軌跡と車両インナーデータとを組み合わせれば、道路等の走行環境をより詳細に把握することができるのではないかと考えた。ここに、車両インナーデータとは、車両が備えるセンサ、コントロールユニットその他から出力される当該車両の各種状態に関するデータであって、当該車両に搭載されたネットワーク上でCAN(Controller Area Network)をはじめとした各種通信プロトコルにより伝送可能なデータをいう。この車両インナーデータは、プローブデータに比べて、データ獲得のインターバルが短い(1/10~1/100)。よって、かかる車両インナーデータとプローブデータとを組み合わせたものを解析することによって、プローデータのみの解析では得られなかった走行環境変化を特定可能となる。
【0006】
即ち、この発明の第1の局面は次のように規定される。
車両インナーデータとプローブデータとを保存する車両データ保存部と、
データ読出部と、
ドライブチャート作成部と、
ドライブチャート比較部と、
特定部と、を備えてなる走行環境変化特定装置を用いて実行する走行環境変化特定方法であって、
前記データ読出部に、前記車両データ保存部から、特定対象の領域に第1の時間帯に存在したプローブカーの第1の車両インナーデータと第1のプローブデータとを読み出させ、前記特定対象の領域に第2の時間帯に存在したプローブカーの第1の車両インナーデータと第2のプローブデータとを読み出させ、
前記ドライブチャート作成部に、前記第1の車両インナーデータと前記第1のプローブデータとから第1のドライブチャートを作成させ、前記第2の車両インナーデータと前記第2のプローブデータから第2のドライブチャートを作成させ、
前記ドライブチャート比較部に、前記第1のドライブチャートと前記第2のドライブチャートとを比較させ、
前記特定部に、前記ドライブチャート比較部の比較結果から、前記特定対象の領域の走行環境の変化を特定させる、
走行環境変化特定方法。
【0007】
このように規定される第1の局面の走行環境変化特定方法によれば、ドライブチャートなる新規なパラメータを用いるので、従来では特定できなかった道路等の走行環境変化を特定可能となる。
ドライブチャートとは、プローブデータと車両インナーデータとの相関関係を表す。
例えば、プローブカーが、図1Aの信号付き交差点C1において進入路T1から退出路T4への右折したときのプローブデータより求めた軌跡L1-4の位置変化d(起点Oからの移動距離)と速度Vとの関係は図1Bに示すようになる。図1Bに表される位置変化と速度変化との相関関係がドライブチャートの一例である。このドライブチャートから次のことが読み取れる。プローブカーが信号待ちをしたものとすると、停止線a1の位置でその速度が一旦ゼロとなる。次に、信号が青に変わった後も、対向車線の車両をやり過ごすため、交差点C1のほぼ中央で一旦停止している。
進入路T1から退出路T3へと直進したプローブカーの中には、図1Cに示すドライブチャートを示すものがある。即ち、信号待ちのために前の車両に続いて停止した後、信号が青に変わって出発しようとしても前の車両が右折(若しくは左折)のため一旦停止することがある。そのため、前の車両に続いて交差点C1の中央手前で一旦停止する。
【0008】
図1Aの交差点は片側2車線であって、交差点入口において追い越し車線は右折可能レーンとなる。かかる交差点C1のレーン構成が、図2Aに示す通り、変更される場合がある(C2)。即ち、追い越し車線側に右折専用レーンが付加される。かかる交差点C2では、信号機に右折用の矢印信号機が付設されることが多い。信号機の動作如何によるが、軌跡L1-4の車両の進行が右折信号のときのみ許されるときのドライブチャートは図2B(1)となり、その他のときもその右折が許されるときのドライブチャートは図2(1)と図2(2)(:図1Bと同じ)とが併存する。
進入路T1の追い越し車線から退出路T3へ直進したプローブカーのドライブチャートは図2Cのパターンとなる。右折車両により塞がれることがないからである。
【0009】
上記の説明より、交差点のレーン構造に変化があると、当該交差点を通過するプローブカーのドライブチャートに変化が現れることがわかる。
ドライブチャートを比較することにより、交差点のレーン構造、即ちその走行環境に変化の生じたことを特定できる。
上記ドライブチャートにおいて、プローブデータと車両インナーデータとではデータ獲得のインターバルが異なる。即ち、プローブデータのデータ獲得インターバルは車両インナーデータのそれより長い。そこで車両インナーデータ獲得時に対応する位置データを、線形補完等の手法で、補完する。なお、プローブデータと車両インナーデータとは時刻において結び付けられる。プローブデータのデータ構造は座標(x、y)と時刻tとで専ら構成され、車両インナーデータは車両状態に関するデータと時刻tとで専ら構成されるからである。
【0010】
この例では、車両インナーデータにおいて車両状態に関するデータとして速度を採用し、これとプローブカーの軌跡(位置変化)と対応させている。車両インナーデータとして加速度等を採用することもできる。
なお、速度や加速度は、プローブデータからも演算可能であるが、プローブデータのデータ取得頻度では、交差点内での短時間の停車を特定できない場合がある。プローブデータの取得インターバルが停止時間より長いおそれがあるからである。他方、車両インナーデータとして得られる速度を用いれば、かかるデータの空白期間の発生を防止できる。車両インナーデータの取得インターバルはプローブデータの1/10~1/100以下であるからである。
【0011】
ドライブチャートの他の態様として、速度等の車両インナーデータと基準点からのプローブカーの移動時間tとを対応させることができる。
図3Aは橋Bを示す。この橋Bは冬季には凍結するものとする。
図3Bは凍結をしていないときの橋Bの開始点B1を通過した後のプローブカーの速度の時間変化を示す。橋Bの非凍結時のプローブカーの速度はほぼ一定に保たれている。
他方、橋Bが凍結したときは、橋Bの開始点B1を通過したプローブカーの速度変化は小刻みに変化することがある(図3Cのドライブチャート参照)。なお、図3B、3Cのドライブチャートにおいて、車両インナーデータとして加速度やハンドル切れ角を用いることもできる。
【0012】
このようにドライブチャートには、プローブカーの軌跡(位置変化)と車両インナーデータとの相関関係で表されるものと(第2の局面)、プローブカーの走行時間と車両インナーデータとの相関関係で表されるものとがある(後者を、「タイムドライブチャート」と呼ぶことがある。第3の局面)。
タイムドライブチャートにおいて、横軸の時間経過は、基準点からの各プローブカーの移動時間を示している。換言すれば、タイムドライブチャートを比較するにあたり、横軸の時間は絶対的な時間を示すものではない。この明細書ではタイムドライブチャートの横軸を構成する時間帯を「基準時間帯」と称している。
図1B,1C及び図2B,2Cの例は、交差点の信号で一旦停止したプローブカーのプローブデータ及び車両インナーデータを用いたドライブチャートである。このように、所定の条件に合致した(この場合は、車両インナーデータである速度がゼロを示すことのある)ドライブチャートのみを採用することができる(第4の局面)。
【0013】
ドライブチャートを作成するには対象となる走行領域を所定の時間帯に通過したプローブカーを抽出し、さらにそのプローブデータと車両インナーデータとを抽出する。ここに、マップデータ上のすべて領域についてドライブチャートを作成することには演算装置にかかる負担が大きい。したがって、変化のありそうな領域をオペレータが指定して、所定の時間帯にその領域を走行したプローブカーのドライブチャートを作成する。その後、しばらく時間をおいた後(例えば1か月後)における当該領域のドライブチャートを再度作成し、両者を比較する。比較の結果、ドライブチャートに変化が認められれば、当該領域の走行環境に変化があったものと特定される。変化後のドライブチャートに特殊な類型がみられれば、当該類型に従い変化後に如何なる走行環境があったかを特定することもできる。更には、AIを用いて変化後の走行環境を特定することもできる。
【0014】
マップデータの更新作業においては、走行環境変化が生じている可能性の高い走行領域を自動的に指定することが好ましい。そのため、この発明の第5の局面は次のように規定される。即ち、
第1~4のいずれかの局面の走行環境変化特定方法において、前記特定対象の領域を指定する特定対象領域指定部が更に備えられ、
該特定対象領域指定部は、任意領域選択部と、領域特性作成部と、領域特性比較部と、指示部とを備え、
前記任意領域選択部に、任意に領域を選択させ、
前記領域特性作成部に、前記任意に選択した領域に所定の第3の時間帯に存在したプローブカーの車両インナーデータに基づいて第1の領域特性データを作成させ、前記任意に選択した領域に所定の第4の時間帯に存在したプローブカーの車両インナーデータに基づいて第2の領域特性データを作成させ、
前記領域特性比較部に前記第1の領域特性データと前記第2の領域特性データとを比較させ、
前記指示部に、前記領域特性比較部の比較結果に基づき、前記ドライブチャート作成部に指示を送らせる。
このように規定される第5の局面に規定の走行環境変化特定方法によれば、走行環境変化を特定すべき領域が自動的に指定されるので、オペレータの負担が軽減される。
【0015】
この発明の第6の局面は次のように規定される。即ち、
第5の局面に規定の走行環境変化特定方法において、前記領域特性作成部に、更に、前記任意に選択した領域に所定の第5の時間帯に存在したプローブカーの車両インナーデータに基づいて第3の領域特性データを作成させ、
前記領域特性比較部に、前記第1~第3の領域特性データを比較させる。
このように規定される第6の局面に規定の走行環境変化特定方法によれば、任意の領域につき3度もその道路特性データが比較されるので、走行環境変化を特定すべき領域が絞りこまれる。よって、演算装置にかかる負担が軽減される。
【0016】
この発明の第7の局面は次のように規定される。
車両インナーデータとプローブデータとを保存する車両データ保存部と、
データ読出部と、
ドライブチャート作成部と、
ドライブチャート比較部と、
特定部と、を備えてなる走行環境変化特定装置であって、
前記データ読出部は、前記車両データ保存部から、特定対象の領域に第1の時間帯に存在したプローブカーの第1の車両インナーデータと第1のプローブデータとを読み出させ、前記特定対象の領域に第2の時間帯に存在したプローブカーの第1の車両インナーデータと第2のプローブデータとを読み出し、
前記ドライブチャート作成部は、前記第1の車両インナーデータと前記第1のプローブデータとから第1のドライブチャートを作成させ、前記第2の車両インナーデータと前記第2のプローブデータから第2のドライブチャートを作成し、
前記ドライブチャート比較部は、前記第1のドライブチャートと前記第2のドライブチャートとを比較し、
前記特定部は、前記ドライブチャート比較部の比較結果から、前記特定対象の領域の走行環境の変化を特定する、
走行環境変化特定装置。
このように規定される第7の局面の装置は第1の局面の方法と同様の効果を発揮する。
【0017】
この発明の第8の局面は次のように規定される。即ち、第7の局面の装置において、 前記ドライブチャート作成部は、
前記第1のプローブデータから作成される前記特定対象の領域における走行軌跡と前記第1の車両インナーデータとの相関関係を示す前記第1のドライブチャートを作成し、
前記第2のプローブデータから作成される前記特定対象の領域における走行軌跡と前記第2の車両インナーデータとの相関関係を示す前記第2のドライブチャートを作成する
このように規定される第7の局面の装置は第2の局面と同様の効果を奏する。
【0018】
この発明の第9の局面は次のように規定される。即ち、第7の局面の装置において、 前記ドライブチャート作成部は、
前記第1のプローブデータから作成される前記特定対象の領域における基準時間帯と前記第1の車両インナーデータとの相関関係を示す前記第1のドライブチャートを作成し、
前記第2のプローブデータから作成される前記特定対象の領域における基準時間帯と前記第2の車両インナーデータとの相関関係を示す前記第2のドライブチャートを作成する。
このように規定の第9の装置は第3の局面と同様な効果を奏する。
【0019】
この発明の第10の局面は次のように規定される。即ち、第7~9に規定の装置において、前記ドライブチャート作成部は、所定の条件に合致した車両インナーデータを採用する。
このように規定の第7の局面に規定のコンピュータプログラムによれば、第2の局面の発明と同様な効果が得られる。
このように規定の第10の局面の装置は第4の局面と同様な効果を奏する。
【0020】
この発明の第11の局面はつぎのように規定される。即ち、第7~10に規定の装置において、前記特定対象の領域を指定する特定対象領域指定部が更に備えられ、
該特定対象領域指定部は、任意領域選択部と、領域特性作成部と、領域特性比較部と、指示部とを備え、
前記任意領域選択部は、任意に領域を選択し、
前記領域特性作成部は、前記任意に選択した領域に所定の第3の時間帯に存在したプローブカーの車両インナーデータに基づいて第1の領域特性データを作成させ、前記任意に選択した領域に所定の第4の時間帯に存在したプローブカーの車両インナーデータに基づいて第2の領域特性データを作成し、
前記領域特性比較部は、前記第1の領域特性データと前記第2の領域特性データとを比較し、
前記指示部は、前記領域特性比較部の比較結果に基づき、前記ドライブチャート作成部に指示を送る。
このように規定の第11の装置は第5の局面と同様な効果を奏する。
【0021】
この発明の第12の局面は次のように規定される。即ち、第11の局面の装置において、前記領域特性作成部は、更に、前記任意に選択した領域に所定の第5の時間帯に存在したプローブカーの車両インナーデータに基づいて第3の領域特性データを作成し、
前記領域特性比較部は、前記第1~第3の領域特性データを比較する。
このように規定の第12の装置は第6の局面と同様な効果を奏する。
【0022】
この発明の第13の局面は次のように規定される。即ち、
車両インナーデータとプローブデータとを保存する車両データ保存部と、
データ読出部と、
ドライブチャート作成部と、
ドライブチャート比較部と、
特定部と、を備えてなる走行環境変化特定装置に用いられるコンピュータプログラムであって、
前記データ読出部に、前記車両データ保存部から、特定対象の領域に第1の時間帯に存在したプローブカーの第1の車両インナーデータと第1のプローブデータとを読み出させ、前記特定対象の領域に第2の時間帯に存在したプローブカーの第1の車両インナーデータと第2のプローブデータとを読み出させ、
前記ドライブチャート作成部に、前記第1の車両インナーデータと前記第1のプローブデータとから第1のドライブチャートを作成させ、前記第2の車両インナーデータと前記第2のプローブデータから第2のドライブチャートを作成させ、
前記ドライブチャート比較部に、前記第1のドライブチャートと前記第2のドライブチャートとを比較させ、
前記特定部に、前記ドライブチャート比較部の比較結果から、前記特定対象の領域の走行環境の変化を特定させる、
コンピュータプログラム。
このように規定される第13の局面に規定のコンピュータプログラムによれば、第1の局面と同様な効果が得られる。
【0023】
この発明の第14の局面の発明は次のように規定される。即ち、第13の局面に規定のプコンピュータプログラムは、
前記ドライブチャート作成部に、
前記第1のプローブデータから作成される前記特定対象の領域における走行軌跡と前記第1の車両インナーデータとの相関関係を示す前記第1のドライブチャートを作成させ、
前記第2のプローブデータから作成される前記特定対象の領域における走行軌跡と前記第2の車両インナーデータとの相関関係を示す前記第2のドライブチャートを作成させる。
このように規定の第14の局面に規定のコンピュータプログラムによれば、第2の局面の発明と同様な効果が得られる。
【0024】
この発明の第15の局面の発明は次のように規定される。即ち、第13の局面に規定のコンピュータプログラムにおいて、前記ドライブチャート作成部に、
前記第1のプローブデータから作成される前記特定対象の領域における基準時間帯と前記第1の車両インナーデータとの相関関係を示す前記第1のドライブチャートを作成させ、
前記第2のプローブデータから作成される前記特定対象の領域における基準時間帯と前記第2の車両インナーデータとの相関関係を示す前記第2のドライブチャートを作成させる。
このように規定の第15の局面に規定のコンピュータプログラムによれば、第3の局面の発明と同様な効果が得られる。
【0025】
この発明の第16の局面の発明は次のように規定される。即ち、第13~15の局面に規定のコンピュータプログラムにおいて、前記ドライブチャート作成部は、所定の条件に合致した車両インナーデータを採用する。
このように規定の第16の局面に規定のコンピュータプログラムによれば、第4の局面の発明と同様な効果が得られる。
【0026】
この発明の第17の局面の発明は次のように規定される、即ち、第13~16の局面に規定のコンピュータプログラムにおいて、前記特定対象の領域を指定する特定対象領域指定部が更に備えられ、
該特定対象領域指定部は、任意領域選択部と、領域特性作成部と、領域特性比較部と、指示部とを備え、
前記任意領域選択部に、任意に領域を選択させ、
前記領域特性作成部に、前記任意に選択した領域に所定の第3の時間帯に存在したプローブカーの車両インナーデータに基づいて第1の領域特性データを作成させ、前記任意に選択した領域に所定の第4の時間帯に存在したプローブカーの車両インナーデータに基づいて第2の領域特性データを作成させ、
前記領域特性比較部に前記第1の領域特性データと前記第2の領域特性データとを比較させ、
前記指示部に、前記領域特性比較部の比較結果に基づき、前記ドライブチャート作成部に指示を送らせる。
このように規定の第17の局面に規定のコンピュータプログラムによれば、第5の局面の発明と同様な効果が得られる。
【0027】
この発明の第18の局面の発明は次のように規定される。即ち、第17の局面に規定のコンピュータプログラムにおいて、前記領域特性作成部に、更に、前記任意に選択した領域に所定の第5の時間帯に存在したプローブカーの車両インナーデータに基づいて第3の領域特性データを作成させ、
前記領域特性比較部に、前記第1~第3の領域特性データを比較させる。
このように規定の第16の局面に規定のコンピュータプログラムによれば、第6の局面の発明と同様な効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1Aは走行環境変化の特定対象となる交差点の模式図、図1Bは走行軌跡L1-4におけるドライブチャート、図1Cは走行軌跡L1-3におけるドライブチャートを示す。
図2図2Aは走行環境変化の特定対象となる交差点の模式図、図2Bは走行軌跡L1-4におけるドライブチャート、図2Cは走行軌跡L1-3におけるドライブチャートを示す。
図3図3Aは走行環境変化の特定対象となる橋の模式図、図3Bは通常の橋の走行時のタイムドライブチャート、図3Cは凍結した橋の走行時のタイムドライブチャートを示す。
図4図4はこの発明の実施形態の走行環境特定装置1の構成を示すブロック図である。
図5図5は走行環境特定装置の特定対象領域指定部6の構成を説明するブロック図である。
図6図6は同じくドライブチャート作成部7の構成を説明するブロック図である。
図7図7は同じくドライブチャート比較部9の構成を示すブロック図である。
図8図8は同じく他の実施形態のドライブチャート比較部90を示すブロック図である。
図9図9は学習装置を示すブロック図である。
図10図10はコンピュータ装置を実施形態の走行環境特定装置として機能させたときのブロック図である。
図11図11は学習モードにおいてAI処理装置に学習させる動作を示すフローチャートである。
図12図12は実施形態の走行環境特定装置の動作を示すフローチャートである。
図13図13は特定対象領域指定部の動作を示すフローチャートである。
図14】AI処理部を利用したドライブチャート比較部の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図4はこの発明の実施形態の走行環境変化特定装置1の構成を示すブロック図を示す。
この走行環境変化特定装置1は、車両データ保存部3、マップデータ保存部4、特定対象領域指定部6、ドライブチャート作成部7、ドライブチャート比較部9及び出力部10から構成される。
車両データ保存部3には、プローブカーから収集された車両データが保存される。車両データにはプローブデータと車両インナーデータとが含まれる。
マップデータ保存部4には、ナビゲーション装置や自動運転装置が用いるマップデータが保存されている。
【0030】
特定対象領域指定部6は、マップデータ保存部4に保存されるマップデータを参照して、走行環境変化を特定する対象となる領域を指定する。この指定は、オペレータがマニュアルで行うことができる。
図5には、対象領域を自動的に指定する特定対象領域指定部6の構成を示す。この特定対象領域指定部6は任意領域選択部61、領域特性作成部62、領域特性比較部65及び指示部66を備える。
任意領域選択部61は、マップデータから任意の領域を選択する。ここに選択される領域は、交差点、橋、駐車場の出入口など走行環境変化の生じうる領域を予め定めておくことが好ましい。
【0031】
領域特性作成部62は、所定の時間帯(例えば1日;第3の時間帯)に領域選択部61が選択した領域に存在したプローブカーを読み出し、当該領域内を通過時の平均速度を演算する。かかる演算をすべてのプローブカーについて行い、合計平均を当該領域の第1の領域特性とする。
次に、選択した領域につき1月後に再度同じ処理を実行して、第2の領域特性とする。即ち、1月後の1日(第4の時間帯)に領域選択部61が選択した領域に存在したプローブカーを読み出し、当該領域内を通過時の平均速度を演算する。かかる演算をすべてのプローブカーについて行い、合計平均を当該領域の第2の領域特性とする。
【0032】
特性比較部65は、選択した領域につき領域特性作成部62が作成した第1の領域特性と第2の領域特性とを比較する。上の例では、例えば2つの特性領域の間で平均速度が10%以上変化したとき、当該領域に何らかの走行環境変化が生じたものと推定する。
指示部66は、領域特性比較部65の比較結果に基づきドライブチャート作成部7へ指示を送る。即ち、第1と第2の領域特性に例えば10%以上の変化があったとき、指示部66からドライブチャート作成部7へドライブチャート作成開始の指示が出される。この指示には、選択した領域の種類も含まれるものとする。
【0033】
上記の説明では、第1の領域特性を特定した1月後に、同じ領域について第2の領域特性を特定して、両者を比較している。ここに、第2の領域特性を特定している時間帯に対象領域で工事が行われていると(工事終了後においても走行環境に変化はないものとする)、第2の領域特性が第1の領域特性から大きく変位する。そこで、かかる偶発的な工事や事故などの影響を排除するため、第2の領域特性を作成した更に1月後に第3の領域特性を作成する。即ち、第2の領域特性を作成の更に1月後の1日(第5の時間帯)に任意領域選択部61が選択した領域に存在したプローブカーを読み出し、当該領域内を通過時の平均速度を演算する。かかる演算をすべてのプローブカーについて行い、合計平均を当該領域の第3の領域特性とする。
【0034】
これにより、走行環境変化の特定が必要な領域の選択がより正確に行われる。
例えば、上の例では、第2の領域特性が第1の領域特性から大きく変位していても、第3の領域特性が第1の領域特性と実質的に等しいとき、第2の領域特性は無視される。つまり、選択した領域の領域特性(この場合は平均速度)に変化はないものと認定される。よって、指示部66はドライブチャート作成部7へ何ら指示を送らない。
【0035】
ドライブチャート作成部7は、図6に示すように、プローブデータ読出部71、車両インナーデータ読出部72、プローブデータ補完部73、データ対応付け部74及びドライブチャートフィルター部75を備える。
指示部66からの指示に従い、プローブデータ読出部71は、車両データ保存部3のプローブデータ保存領域31から関係するプローブデータを読み出す。同様に、車両インナーデータ読出部72は車両インナーデータ保存領域33から関係する車両インナーデータを読み出す。
【0036】
プローブデータ及び車両インナーデータにおいて読み出される対象は、指示部66からの指示に含まれる領域の座標、及び領域の種類により決められる。
指示された領域の種類が交差点(四差路)であれば(図1A参照)、1つの進入路から3つ退出路への3つの軌跡についてのドライブチャートが含まれるように、選択した交差点に存在したプローブカーのデータが読み出される。また、選択された領域の種類が橋であれば(図3A参照)、橋の全長にわたり、タイムドライブチャートが作成できるように、選択した橋に存在したプローブカーのデータが読み出される。
プローブデータ読出部71及び車両インナーデータ読出部72は、車両データ保存部3から最新のデータを読み出すことが好ましい。
ドライブチャートの数は任意に選択できる。また、予め定められた時間帯に対象領域に存在したプローブカーから形成されるドライブチャートの中から、任意に読み出すこともできる。
【0037】
プローブデータ補完部73では、車両インナーデータ読出部72が読み出した車両インナーデータに対応するプローブデータを演算により作成して、これを補完する。即ち、プローブデータの獲得インターバルは車両インナーデータの獲得インターバルより長いので、車両インナーデータを獲得した時刻に対応するプローブデータが存在しないことがある。そこで、線形補完の手法によりプローブデータを補完して、車両インナーデータの獲得時刻に対応するプローブデータを作成する。
【0038】
このようにして得られるプローブデータと車両インナーデータとは、データ対応付け部74において、それぞれの獲得時刻を基準にして対応付けされる。これにより、図1B,1C、図2B,C及び図3B,Cに示すようなドライブチャートが作成される。
なお、ドライブチャートの関係が際立つように、ドライブチャートフィルター部75を用いて、例えば図1,2の例のように、信号待ちで停止したもの以外を除外することもできる。このドライブチャートフィルター部75はこれを省略することもできる。
このようにして形成されたドライブチャートはドライブチャート比較部9へ送られる。
【0039】
ドライブチャート比較部9の例を図7に示す。このドライブチャート比較部9は特徴ドライブチャートパターン特定部91、特徴ドライブチャートパターン保存部93及びパターン比較部95を備えている。
特徴ドライブチャートパターン特定部95は、得られたドライブチャート(複数)を所定のルールで処理して、特徴ドライブチャートパターンを特定する。例えば、得られたドライブチャートの中から特徴的なパターンを、特徴量の大きいものから順に所定数選択し、その平均のパターンを描くことで、特徴ドライブチャートパターンとする。
得られた特徴ドライブチャートパターンは特徴ドライブチャートパターン保存部93に保存される。
【0040】
以上のようにして、特徴ドライブチャートパターン(第1のパターン;第1のドライブチャート)を保存した後、例えば1か月後の1日(第2の時間帯)に、同じ領域につき、上記の動作を繰り返して特徴ドライブチャートパターン(第2のパターン;第2のドライブチャート)を得る。
パターン比較部95において、第1のパターンと第2のパターンの相関度を演算する。両者のパターンの相関度が所定のしきい値より大きければ、対象領域の走行環境変化はないものと特定され、その旨が出力される。他方、第1のパターンと第2のパターンとの相関度が所定のしきい値以下であれば、対象領域の走行環境に変化があったものと特定される。
ここにパターンの相関度は汎用的なパターンマッチングのアルゴリズムで演算することができる。
【0041】
図8には他の実施形態のドライブチャート比較部90を示す。
このドライブチャート比較部90は第1のドライブチャート保存部901、第2のドライブチャート保存部902、AI処理部903、AI出力比較部905及び変化特定部906を備えている。
第1のドライブチャート保存部901には、特定対象領域について最初(第1の時間帯)に作成したドライブチャートが保存される。この例では、多数作成したドライブチャートの中から任意に所定数(例えば100)のドライブチャートのデータセットが選択されて第1のドライブチャート保存部901に保存される。第2のドライブチャート保存部902には、最初にドライブチャートを作成した日から1か月後の1日(第2の時間帯)に作成したドライブチャートにおいて任意に選択された所定数(例えば100)のドライブチャートのデータセットが保存される。
【0042】
学習済AI処理部903は、これへ所定数のドライブチャートのデータセットが入力されると、学習機能に基づき、ドライブチャートのデータセットに対応する領域の走行環境を確率とともに特定する。従って、第1のドライブチャート保存部901に保存されているドライブチャートのデータセットを入力するとこのデータセットに応じた第1の走行環境がその確率とともに出力される。同様に、第2のドライブチャート保存部902に保存されているドライブチャートのデータセットを入力するとそのデータセットに応じた第2の走行環境がその確率とともに出力される。
【0043】
これらの出力をAI出力比較部905において比較する。
比較の結果は変化特定部906へ送られる。変化特定部906は、最も高い確率として示された走行環境が両出力において同じあって、かつその確率の相違が所定の範囲(例えば20%以内)であったとき、走行環境に変化はないと特定する。
最も高い確率として示された走行環境が同じであっても、両者の確率が所定の範囲を超えて違っていたら、上記の処理を再度繰り返す。
最も高い確率として示された走行環境が異なっていたら、対象領域に走行環境の変化があったものと特定する。
【0044】
変化特定部906で特定された走行環境の変化の有無については、変化出力部101から出力される。
また、AI処理部903により示された走行環境の確率が90%を超えるものであったとき、特定された走行環境は走行環境出力部102を介して出力される。
出力部10の出力方式は、画面表示、プリント、テキストのメール配信など任意の方式を採用できる。
【0045】
図9にAI処理部903の学習装置200を示す。
この学習装置200は教師データ保存部201とAI処理部903とを備える。
教師データ保存部201には車両走行領域ドライブチャート保存領域2011と走行環境ラベル保存領域2012とが備えられる。
マップデータのなから走行環境の基準となる領域のドライブチャートを作成する。この例では、1つの領域につき、100のドライブチャートが1つセットとしてドライブチャート保存領域2011に保存される。この1つのデータセットに対して基準となる領域の種類が走行環境ラベルとしてラベル保存領域2012に保存される。
【0046】
これらドライブチャートのデータセットと走行環境ラベルとの組み合わせを10000件程度準備して、それらをAI処理部903へ入力する。
AI処理部903はニューラルネットワーク等の機械学習機能を備える。AI処理部903は入力されたドライブチャートのデータセットと走行環境ラベルとを処理して、両者の関係を学習する。
【0047】
図10に走行環境特定装置1のハード構成を示す。
演算部300はCPU301、ROM303及びRAM305を備え、システム全体の制御をつかさどる。それとともに、特定対象領域指定部6、ドライブチャート作成部7、ドライブチャート比較部9として機能する。ROM303は、演算部300を制御する制御プログラム等が格納された不揮発性メモリである。RAM305は、キーボード等の入力装置330を介して利用者により予め設定された各種設定値を読み出し可能に格納したり、CPU301に対してワーキングエリアを提供したりする。演算部300を制御する制御プログラムはROM303に限らずRAM305や第1、第2記憶装置340及び350に格納されていてもよい。
【0048】
第1記憶装置340は車両データ保存部3及びマップデータ保存部4として機能する。車両データ保存部3やマップデータ保存部4は外部サーバを利用することもできる。
第2記憶装置350はAI処理部で利用する第1、第2ドライブチャート保存部901、903として機能する。
第1、第2記憶装置はハードメモリやフラッシュメモリなど、サーバシステムのメモリ装置の一部の領域を利用することが好ましい。
【0049】
データを一時的に保存する、いわゆるバッファメモリには、演算部のRAMの一部領域を利用できる。
出力装置320はディスプレイや音声出力装置であり、入力装置330は音声入力部や、ディスプレイに重ねて配置されるタッチパネル式のキーボートやマウスなどが該当する。
通信インターフェース306を介して、プローブカーと通信可能となる。
コンピュータを構成する各装置はシステムバス307で連結されている。
【0050】
次に、この発明の走行環境特定装置1の動作について図11以降のフローチャートを参照しながら説明する。
<学習モード>
AI処理部903を学習させる動作を図11のフローチャートに示す。
ステップ1において基準となる車両走行領域を指定する。車両指定領域として図1Aに示す交差点C1が指定されると、ステップ3においてドライブチャートが作成される。
【0051】
より具体的には、所定の時間帯(1日程度の長さ)が選択され、当該時間帯に交差点C1に存在したプローブカーが特定される。プローブデータ読出部71がプローブデータ保存領域31よりプローブデータを読み出し、当該プローブカーが交差点C1を通過したときの走行軌跡を作成する。作成された走行軌跡の中から、進入路が同じものをグループ化する。例えば進入路T1のグループには左折する走行軌跡L1-2、直進する走行軌跡L1-3,及び右折する走行軌跡L1-4が存在する。
各走行軌跡に対応して、車両インナーデータ読出部が車両インナーデータ保存領域33より車両インナーデータを読み出す。
そして、プローブデータ保管部73、データ対応付け部74によりドライブチャートが作成される。
このようにして作成されたドライブチャートは、交通量が多い交差点であれば数千単位で形成される。
【0052】
ステップ4では、上記のようにして得られたドライブチャート群から任意に100のドライブチャートを選択して1つのデータセットとする。そしてこのデータセットを交差点C1の走行環境の種類を表すラベルとともに、学習装置200の教師データ保存部201の車両走行領域ドライブチャート保存領域2011と走行環境ラベル保存領域2012にそれぞれ保存する。
かかるドライブチャートのデータセットと走行環境の種類を表すラベルとの組み合わせの数がk(この例では10000)となるまで、ステップ4を繰り返す(ステップ6、7)。
このようして準備した教師データをAI処理部903へ入力し、これにドライブチャートのデータセットと走行環境の種類との関係を学習させる(ステップ9)。
【0053】
<運用モード>
図12に示すように、ステップ11では、マップデータを参照して走行環境変化の特定対象となる領域を指定する。この指定はオペレータによるマニュアルで行ってもよいが、図13に示すように、特定対象領域指定部6の機能を用いて自動的に指定できるようにすることができる(詳細は後述)。
ステップ13において、指定された領域についてタイムドライブチャートを作成する。即ち、指定されたときから24時間を遡って(第1の時間帯)、指定された領域に存在したプローブカーを特定する。ドライブチャート作成部7の各読出部71、72は、特定されたプローブカーについてのプローブデータ及び車両インナーデータをそれぞれ車両データ保存部3から読み出して、プローブデータ補完部73及びデータ対応付け部74と協働してドライブチャートを作成する。これにより、多数のドライブチャートが得られる。
【0054】
ステップ14において、得られた多数のドライブチャートから任意の100を抽出して一つのデータセットとして第1のドライブチャート保存部901に保存する。その後、当該データセットを学習済のAI処理部903へ入力する(ステップ16)。AI処理部903へ入力したデータセットに対応する走行環境の種類がその確率とともに出力される。出力される走行環境の種類は1つに限られず、高い確率のものから順に表示される。
このようにして得られた第1の走行環境(AI出力)はAI処理部903内のバッファメモリに一旦保存される(ステップ17)。
ステップ13~ステップ17までの処理を、指定された領域について、1か月後に繰り返す(ステップ18、19)。それにより得られた第2の走行環境(AI出力)を対比して(ステップ21)、対比の結果を出力する(ステップ22)。
【0055】
AI出力の対比ステップ21の詳細を図14のフローチャートを参照して説明する。
ステップ2204では、AI処理部903のバッファメモリに保存されている第1及び第2の走行環境(AI出力)を読み出して比較する。
両者の種類が異なるときは(ステップ2204:N)、ステップ2205に進んで走行環境変化ありと特定する。両者の種類が同じときは(ステップ2204:Y)、ステップ2206に進んで両者の確率(%)が比較される。
両者の確率の差が20%以内であれば(ステップ2206:Y)、ステップ2208に進んで環境変化なしと特定する。
両者の確率の差が20%を超えるときは、判定不能として、図12のステップ13に戻し、最初からステップを繰り返す。
【0056】
図13に戻って、特定対象領域指定部6による対象領域を自動的に指定する方法を説明する。
ステップ1301において、任意領域選択部61はマップデータ保存部4から任意の領域を選択する。この例では、走行環境の変化が生じる可能性が高い交差点を優先的に選択している。
ステップ1303において、選択された領域に、選択されたときより24時間遡って存在したすべてのプローブカーを特定し、全てのプローブカーの平均速度(領域内平均速度V1)を演算して、保存する。
【0057】
1か月経過した後(ステップ1304)、同じ領域についてステップ1303と同じ処理を繰り返し(ステップ1306)、得られた領域内平均速度V2を保存する。
ステップ1307では、上記のようにして得られた領域内平均速度V1とV2とを比較する。両者が実質的に一致していたとき(S1307;Y)、処理を終了する。即ち、選択した領域は走行環境特定の対象領域として指定されない。2つの平均速度が等しいことは、選択した領域において走行環境の変化が生じている可能性が小さいからである。
領域内平均速度V1とV2とが相違するとき(ステップ1307;N)は、更に1か月経過後(ステップ1309)、同じ領域についてステップ1303と同じ処理を繰り返し(ステップ1310)、得られた領域内平均速度V3を保存する。
ステップ1312において領域内平均速度V3とV1とが比較される。
両者が実質的に一致していたとき(S1312;Y)、処理を終了する。領域内平均速度V2を得たとき、領域内において偶発的な工事や事故があったものと考えられるからある。他方、両者が実質的に異なるときは、当該領域において何らかの走行環境に影響をあたえるような変化があるものと考え、選択された領域が走行環境変化を特定する領域として指定される(ステップ1313)。
【0058】
本発明は、上記実施形態、実施例、変形例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
1 走行環境特定装置
3 車両データ保存部
4 マップデータ保存部
6 特定対象領域指定部
7 ドライブチャート作成部
9 ドライブチャート比較部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14