(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】反射型フォトマスクブランク及び反射型フォトマスク
(51)【国際特許分類】
G03F 1/24 20120101AFI20240723BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
G03F1/24
C23C14/08 N
(21)【出願番号】P 2020162226
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】522212882
【氏名又は名称】株式会社トッパンフォトマスク
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】松井 一晃
(72)【発明者】
【氏名】合田 歩美
【審査官】藤田 健
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/100632(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0146331(US,A1)
【文献】特開2007-273678(JP,A)
【文献】国際公開第2018/135468(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00
C23C 14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型フォトマスクを作製するための反射型フォトマスクブランクであって、
基板と、
前記基板上に形成されて入射した光を反射する反射部と、
前記反射部上に形成されて入射した光を吸収する低反射部と、を備え、
前記低反射部は、第1の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料と、前記第1の材料群とは異なる第2の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料とを含む層であり、
前記第1の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料の含有量は、前記基板側から前記低反射部の最表面側に向かって減少し、
前記第2の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料の含有量は、前記基板側から前記低反射部の最表面側に向かって増加し、
前記第1の材料群は、テルル(Te)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、プラチナ(Pt)、銀(Ag)、錫(Sn)、インジウム(In)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、及びビスマス(Bi)、並びにその酸化物、窒化物、及び酸窒化物であり、
前記第2の材料群は、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、アルミ(Al)、ケイ素(Si)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、バナジウム(V)、ハフニウム(Hf)、及びニオブ(Nb)、並びにその酸化物、窒化物、及び酸窒化物である反射型フォトマスクブランク。
【請求項2】
前記低反射部は、複数層に分割された場合であっても、前記低反射部全体の合計膜厚が少なくとも33nm以上であり、且つ前記第1の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料を、前記低反射部全体で合計して20原子%以上を含む構造体である請求項1に記載の反射型フォトマスクブランク。
【請求項3】
前記低反射部は、複数層に分割された場合であっても、前記低反射部全体の合計膜厚が少なくとも26nm以上であり、且つ前記第1の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料を、前記低反射部全体で合計して55原子%以上を含む構造体である請求項1に記載の反射型フォトマスクブランク。
【請求項4】
前記低反射部は、複数層に分割された場合であっても、前記低反射部全体の合計膜厚が少なくとも17nm以上であり、且つ前記第1の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料を、前記低反射部全体で合計して95原子%以上を含む構造体である請求項1に記載の反射型フォトマスクブランク。
【請求項5】
前記低反射部の最表面層は、前記第2の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料を、合計して80原子%以上を含む構造体である請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の反射型フォトマスクブランク。
【請求項6】
前記低反射部の厚さ寸法を100%としたときの、前記低反射部の表面から50%以内の深さの領域を前記低反射部の最表面層とした場合に、
前記低反射部の最表面層は、前記第2の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料を、合計して80原子%以上を含む構造体である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の反射型フォトマスクブランク。
【請求項7】
前記低反射部の最表面層は、0.5nm以上30nm以下の膜厚を有する請求項2から請求項6のいずれか1項に記載の反射型フォトマスクブランク。
【請求項8】
基板と、
前記基板上に形成されて入射した光を反射する反射部と、
前記反射部上に形成されて入射した光を吸収する低反射部と、を備え、
前記低反射部は、第1の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料と、前記第1の材料群とは異なる第2の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料とを含む層であり、
前記第1の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料の含有量は、前記基板側から前記低反射部の最表面側に向かって減少し、
前記第2の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料の含有量は、前記基板側から前記低反射部の最表面側に向かって増加し、
前記第1の材料群は、テルル(Te)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、プラチナ(Pt)、銀(Ag)、錫(Sn)、インジウム(In)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、及びビスマス(Bi)、並びにその酸化物、窒化物、及び酸窒化物であり、
前記第2の材料群は、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、アルミ(Al)、ケイ素(Si)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、バナジウム(V)、ハフニウム(Hf)、及びニオブ(Nb)、並びにその酸化物、窒化物、及び酸窒化物である反射型フォトマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外領域の光を光源としたリソグラフィで使用する反射型フォトマスク及びこれを作製するために用いる反射型フォトマスクブランクに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいては、半導体デバイスの微細化に伴い、フォトリソグラフィ技術の微細化に対する要求が高まっている。フォトリソグラフィにおける転写パターンの最小解像寸法は、露光光源の波長に大きく依存し、波長が短いほど最小解像寸法を小さくできる。このため、露光光源は、従来の波長193nmのArFエキシマレーザー光から、波長13.5nmのEUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外線)領域の光に置き換わってきている。
【0003】
EUV領域の光は、ほとんどの物質で高い割合で吸収されるため、EUV露光用のフォトマスク(EUVマスク)としては、反射型のフォトマスクが使用される(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、ガラス基板上にモリブデン(Mo)層及びシリコン(Si)層を交互に積層した多層膜からなる反射層を形成し、その上にタンタル(Ta)を主成分とする光吸収層を形成し、この光吸収層にパターンを形成することで得られたEUVフォトマスクが開示されている。
【0004】
また、EUVリソグラフィは、前記の通り光の透過を利用する屈折光学系が使用できないことから、露光機の光学系部材もレンズではなく、反射型(ミラー)となる。このため、反射型フォトマスク(EUVマスク)への入射光と反射光とを同軸上に設計できない問題があり、通常、EUVリソグラフィでは、光軸をEUVマスクの垂直方向から6度傾けて入射し、マイナス6度の角度で反射する反射光を半導体基板に導く手法が採用されている。
【0005】
このように、EUVリソグラフィではミラーを介し光軸を傾斜することから、EUVマスクに入射するEUV光がEUVマスクのマスクパターン(パターン化された光吸収層)の影をつくる、所謂「射影効果」と呼ばれる問題が発生することがある。
【0006】
現在のEUVマスクブランクでは、光吸収層として膜厚60~90nmのタンタル(Ta)を主成分とした膜が用いられている。このマスクブランクを用いて作製したEUVマスクでパターン転写の露光を行った場合、EUV光の入射方向とマスクパターンの向きとの関係によっては、マスクパターンの影となるエッジ部分で、コントラストの低下を引き起こす恐れがある。これに伴い、半導体基板上の転写パターンのラインエッジラフネスの増加や、線幅が狙った寸法に形成できないなどの問題が生じ、転写性能が悪化することがある。
【0007】
そこで、吸収層を形成する材料をタンタル(Ta)からEUV光に対する吸収性(消衰係数)が高い材料へ変更した反射型マスクブランクや、タンタル(Ta)にEUV光に対する吸収性の高い材料を加えた反射型マスクブランクが検討されている。例えば、特許文献2では、吸収層を、Taを主成分として50原子%(at%)以上含み、さらにTe、Sb、Pt、I、Bi、Ir、Os、W、Re、Sn、In、Po、Fe、Au、Hg、Ga及びAlから選ばれた少なくとも一種の元素を含む材料で構成した反射型マスクブランクが記載されている。
なお、吸収層をパターニング処理した後の断面側壁角度は垂直に近い矩形形状が望ましく、段差形状やテーパー形状となった場合は、露光光の意図しない減衰増幅やパターン端部の反射光強度の変化が転写性能を悪化させる懸念がある。
【0008】
さらに、ミラーはEUV発生の副生成物(例えばSn)や炭素などによって汚染されることが知られている。汚染物質がミラーに蓄積することにより、表面の反射率が減少し、リソグラフィ装置のスループットを低下させることになる。この問題に対し、特許文献3では、装置内に水素ラジカルを生成させることで、汚染物質と水素ラジカルとを反応させて、ミラーからこの汚染物質を除去する方法が開示されている。
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載の反射型マスクブランクでは、吸収層が水素ラジカルに対する耐性(水素ラジカル耐性)を有することについては検討されていない。そのため、EUV露光装置への導入によって吸収膜パターンを安定的に維持できず、結果として転写性が悪化する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2011-176162号公報
【文献】特開2007-273678号公報
【文献】特開2011-530823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであって、シャドウイング(射影効果)を低減すると共にマスクパターンの矩形性を向上することで、ウェハ上へ転写されるパターンの寸法精度や形状精度を向上させ、且つ水素ラジカル耐性を付与することで、長期間フォトマスクを使用することができる反射型フォトマスクブランク及びその反射型フォトマスクブランクを用いて作製された反射型フォトマスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る反射型フォトマスクブランクは、極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型フォトマスクを作製するための反射型フォトマスクブランクであって、基板と、前記基板上に形成されて入射した光を反射する反射部と、前記反射部上に形成されて入射した光を吸収する低反射部と、を備え、前記低反射部は、第1の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料と、前記第1の材料群とは異なる第2の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料とを含む層であり、前記第1の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料の含有量は、前記基板側から前記低反射部の最表面側に向かって減少し、前記第2の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料の含有量は、前記基板側から前記低反射部の最表面側に向かって増加し、前記第1の材料群は、テルル(Te)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、プラチナ(Pt)、銀(Ag)、錫(Sn)、インジウム(In)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、及びビスマス(Bi)、並びにその酸化物、窒化物、及び酸窒化物であり、前記第2の材料群は、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、アルミ(Al)、ケイ素(Si)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、バナジウム(V)、ハフニウム(Hf)、及びニオブ(Nb)、並びにその酸化物、窒化物、及び酸窒化物であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の一態様に係る反射型フォトマスクブランクは、前記低反射部が複数層に分割された場合であっても、前記低反射部全体の合計膜厚が少なくとも33nm以上であり、且つ前記第1の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料を、前記低反射部全体で合計して20原子%以上を含む構造体であってもよい。
また、本発明の一態様に係る反射型フォトマスクブランクは、前記低反射部が複数層に分割された場合であっても、前記低反射部全体の合計膜厚が少なくとも26nm以上であり、且つ前記第1の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料を、前記低反射部全体で合計して55原子%以上を含む構造体であってもよい。
【0014】
また、本発明の一態様に係る反射型フォトマスクブランクは、前記低反射部が複数層に分割された場合であっても、前記低反射部全体の合計膜厚が少なくとも17nm以上であり、且つ前記第1の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料を、前記低反射部全体で合計して95原子%以上を含む構造体であってもよい。
また、本発明の一態様に係る反射型フォトマスクブランクは、前記低反射部の最表面層が、前記第2の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料を、合計して80原子%以上を含む構造体であってもよい。
【0015】
また、本発明の一態様に係る反射型フォトマスクブランクは、前記低反射部の厚さ寸法を100%としたときの、前記低反射部の表面から50%以内の深さの領域を前記低反射部の最表面層とした場合に、前記低反射部の最表面層が、前記第2の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料を、合計して80原子%以上を含む構造体であってもよい。
また、本発明の一態様に係る反射型フォトマスクブランクは、前記低反射部の最表面層が、0.5nm以上30nm以下の膜厚を有していてもよい。
【0016】
また、本発明の一態様に係る反射型フォトマスクは、基板と、前記基板上に形成されて入射した光を反射する反射部と、前記反射部上に形成されて入射した光を吸収する低反射部と、を備え、前記低反射部は、第1の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料と、前記第1の材料群とは異なる第2の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料とを含む層であり、前記第1の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料の含有量は、前記基板側から前記低反射部の最表面側に向かって減少し、前記第2の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料の含有量は、前記基板側から前記低反射部の最表面側に向かって増加し、前記第1の材料群は、テルル(Te)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、プラチナ(Pt)、銀(Ag)、錫(Sn)、インジウム(In)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、及びビスマス(Bi)、並びにその酸化物、窒化物、及び酸窒化物であり、前記第2の材料群は、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、アルミ(Al)、ケイ素(Si)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、バナジウム(V)、ハフニウム(Hf)、及びニオブ(Nb)、並びにその酸化物、窒化物、及び酸窒化物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、EUV光に対して高い吸収性を持つ化合物材料の含有量を基板側から最表面側に向かって減少させ、且つ水素ラジカル耐性の高い化合物材料の含有量を基板側から最表面側に向かって増加させた低反射部を形成することで、シャドウイングが低減すると共にマスクパターンの矩形性が向上するため、ウェハ上へ転写されるパターンの寸法精度や形状精度が向上し、且つ水素ラジカル耐性が付与されるため、長期間フォトマスクを使用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランクの構造を示す概略断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクの構造を示す概略断面図である。
【
図3】EUV光の波長における各金属材料の光学定数を示すグラフである。
【
図4】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク及びに反射型フォトマスクに備わる吸収層(低反射部)における第1の材料群の含有量(濃度)分布及び第2の材料群の含有量(濃度)分布の例を示す概念図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク及びに反射型フォトマスクに備わる吸収層における第1の材料群の含有量分布及び第2の材料群の含有量分布の例を示す概念図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク及びに反射型フォトマスクに備わる吸収層における第1の材料群の含有量分布及び第2の材料群の含有量分布の例を示す概念図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク及びに反射型フォトマスクに備わる吸収層における第1の材料群の含有量分布及び第2の材料群の含有量分布の例を示す概念図である。
【
図8】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクブランクの構造を示す概略断面図である。
【
図9】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの製造工程を示す概略断面図である。
【
図10】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの製造工程を示す概略断面図である。
【
図11】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの製造工程を示す概略断面図である。
【
図12】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの構造を示す概略断面図である。
【
図13】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの設計パターンを表す概略平面図である。
【
図14】本発明の比較例に係る既存の反射型フォトマスクブランクであって、2層構造の吸収層を有する反射型フォトマスクブランクの構造を示す概略断面図である。
【
図15】本発明の比較例に係る既存の反射型フォトマスクであって、2層構造の吸収層を有する反射型フォトマスクの構造を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下に示す実施形態では、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定はこの発明の必須要件ではない。
図1は、本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク10の構造を示す概略断面図である。また、
図2は、本発明の実施形態に係る反射型フォトマスク20の構造を示す概略断面図である。ここで、
図2に示す本発明の実施形態に係る反射型フォトマスク20は、
図1に示す本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク10の吸収層4をパターニングして形成したものである。
【0020】
(全体構成)
図1に示すように、本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク10は、基板1と、基板1上に形成された反射層2と、反射層2の上に形成されたキャッピング層3と、キャッピング層3の上に形成された吸収層4とを備えている。より詳しくは、本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク10は、極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型フォトマスクを作製するための反射型フォトマスクブランクであって、基板1と、基板1上に形成されて入射した光を反射する反射部として機能する反射層2及びキャッピング層3と、反射部上に形成されて入射した光を吸収する低反射部として機能する吸収層4と、を備えている。以下、上述した各層の構成等について説明する。
【0021】
(基板)
本発明の実施形態に係る基板1には、平坦なSi基板や合成石英基板等を用いることができる。また、基板1には、チタンを添加した低熱膨張ガラスを用いることができるが、熱膨張率の小さい材料であれば、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0022】
(反射層)
本発明の実施形態に係る反射層2は、反射部の一部を構成する層である。本発明の実施形態に係る反射層2は、露光光であるEUV光(極端紫外光)を反射するものであり、例えば、EUV光に対する屈折率の大きく異なる材料の組み合わせによる多層反射膜から構成されている。多層反射膜としては、例えば、Mo(モリブデン)とSi(シリコン)、またはMo(モリブデン)とBe(ベリリウム)といった組み合わせの層を40周期程度繰り返し積層することにより形成したものが挙げられる。
【0023】
(キャッピング層)
本発明の実施形態に係るキャッピング層3は、反射部の一部を構成する層である。本発明の実施形態に係るキャッピング層3は、吸収層4に転写パターンを形成する際に行われるドライエッチングに対して耐性を有する材質で形成されて、吸収層4をエッチングする際に、反射層2へのダメージを防ぐエッチングストッパとして機能するものである。キャッピング層3は、例えば、Ru(ルテニウム)で形成されている。ここで、反射層2の材質やエッチング条件により、キャッピング層3は無くてもかまわない。
なお、図示しないが、基板1上の反射層2を形成していない面に裏面導電膜を形成することができる。裏面導電膜は、反射型フォトマスク20を露光機に設置するときに静電チャックの原理を利用して固定するための膜である。
【0024】
(吸収層)
反射型フォトマスクブランク10の吸収層4は、その一部を除去することにより反射型フォトマスク20の吸収パターン層41(
図2を参照)となる層である。EUVリソグラフィにおいて、EUV光は反射型フォトマスク20の基板水平面に対して斜めに入射し、反射層2で反射されるが、吸収パターン層41が光路の妨げとなる射影効果のため、ウェハ上への転写性能が悪化することがある。この転写性能の悪化は、EUV光を吸収する吸収層4の厚さを薄くすることで低減される。吸収層4の厚さを薄くするためには、従来の材料よりEUV光に対す吸収性の高い材料、つまり波長13.5nmに対する消衰係数kの高い材料を適用することで可能である。
【0025】
図3は、各金属材料のEUV光の波長13.5nmに対する光学係数を示すグラフである。
図3の横軸は屈折率nを表し、縦軸は消衰係数kを示している。従来の吸収層4の主材料であるタンタル(Ta)の消衰係数kは0.041である。それより大きい消衰係数kを有する化合物材料であれば、吸収層4の厚さを薄くすることが可能である。消衰係数kが0.06以上であれば、吸収層4の厚さを十分に薄くすることが可能であるため、射影効果を十分に低減できる。
上記のような光学定数(nk値)の組み合わせを満たす材料としては、
図3に示すように、例えば、銀(Ag)、プラチナ(Pt)、インジウム(In)、コバルト(Co)、錫(Sn)、ニッケル(Ni)、テルル(Te)がある。
【0026】
以下、吸収層4に添加可能な材料(元素)について詳しく説明する。
吸収層4は、後述する第1の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料と、後述する、第1の材料群とは異なる第2の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料とを含む層である。
吸収層4において、第1の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料の含有量は、基板1側から吸収層4の最表面4a側に向かって減少し、第2の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料の含有量は、基板1側から吸収層4の最表面4a側に向かって増加している。
【0027】
ここで、上述した第1の材料群は、テルル(Te)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、プラチナ(Pt)、銀(Ag)、錫(Sn)、インジウム(In)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、及びビスマス(Bi)、並びにその酸化物、窒化物、及び酸窒化物である。また、上述した第2の材料群は、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、アルミ(Al)、ケイ素(Si)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、バナジウム(V)、ハフニウム(Hf)、及びニオブ(Nb)、並びにその酸化物、窒化物、及び酸窒化物である。
【0028】
吸収層4は、複数層に分割された場合であっても、吸収層4全体の合計膜厚が少なくとも33nm以上であり、且つ第1の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料を、吸収層4全体で合計して20原子%以上を含む構造体であることが好ましい。
また、吸収層4は、複数層に分割された場合であっても、吸収層4全体の合計膜厚が少なくとも26nm以上であり、且つ第1の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料を、吸収層4全体で合計して55原子%以上を含む構造体であることがより好ましい。
【0029】
また、吸収層4は、複数層に分割された場合であっても、吸収層4全体の合計膜厚が少なくとも17nm以上であり、且つ第1の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料を、吸収層4全体で合計して95原子%以上を含む構造体であることがさらに好ましい。
また、吸収層4の最表面層は、第2の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料を、合計して80原子%以上を含む構造体であることが好ましい。
【0030】
また、吸収層4の厚さ寸法を100%としたときの、吸収層4の表面から50%以内の深さの領域を「吸収層4の最表面層」と定義した場合に、吸収層4の最表面層は、第2の材料群から選択される少なくとも1種類以上の材料を、合計して80原子%以上を含む構造体であることが好ましい。
また、吸収層4の最表面層は、0.5nm以上30nm以下の膜厚を有していることが好ましい。なお、吸収層4の最表面層の膜厚については0.5nmが成膜限界であり、0.5nm未満の成膜は極めて困難である。また、吸収層4の最表面層の膜厚が30nmを超えると、シャドウイングの影響が顕著になる傾向がある。
【0031】
以下、吸収層4における第1の材料群に含まれる材料の含有量(濃度)及び第2の材料群に含まれる材料の含有量(濃度)の各分布について説明する。
本実施形態では、第1の材料群に含まれる材料の含有量は、基板1側から吸収層4の最表面4a側に向かって、直線的(線形)、曲線的(例えばS字カーブ)、または指数関数的に減少していることが好ましい。
また、本実施形態では、第2の材料群に含まれる材料の含有量は、基板1側から吸収層4の最表面4a側に向かって、直線的(線形)、曲線的(例えばS字カーブ)、または指数関数的に増加していることが好ましい。
【0032】
また、第1の材料群及び第2の材料群の少なくとも一方は、基板1側及び吸収層4の最表面4a側の少なくとも一方の領域において組成が均一であることが好ましい。なお、本実施形態において「基板1側の領域」とは、吸収層4全体における下層10%の領域を意味し、「最表面4a側の領域」とは、吸収層4全体における上層10%の領域を意味する。
また、第1の材料群の含有量(濃度)と、第2の材料群の含有量(濃度)とが同じになる点(箇所)は、吸収層4を厚さ方向に2等分した場合に、基板1側に位置していてもよいし、吸収層4の最表面4a側に位置していてもよい。
【0033】
また、基板1側の領域(吸収層4全体における下層10%の領域)は、第1の材料群に含まれる材料のみで構成されていなくてもよいし、最表面4a側の領域(吸収層4全体における上層10%の領域)は、第2の材料群に含まれる材料のみで構成されていなくてもよい。つまり、基板1側の領域には、第2の材料群に含まれる材料が含まれていてもよいし、最表面4a側の領域には、第1の材料群に含まれる材料が含まれていてもよい。
以下、吸収層4における第1の材料群に含まれる材料の含有量(濃度)及び第2の材料群に含まれる材料の含有量(濃度)の各分布について、図を参照して説明する。
【0034】
図4から
図7は、第1の材料群に含まれる材料の含有量分布(濃度分布)、及び第2の材料群に含まれる材料の含有量分布(濃度分布)を示した概念図である。
図4から
図7の各図における縦軸は、吸収層4全体における第1の材料群及び第2の材料群の各含有量(%)をそれぞれで示し、横軸は、吸収層4全体の深さ方向をそれぞれ示している。
図4は、第1の材料群に含まれる材料の含有量(実線)が、基板1側から吸収層4の最表面4a側に向かって直線的(線形)に減少し、且つ第2の材料群に含まれる材料の含有量(破線)が、基板1側から吸収層4の最表面4a側に向かって直線的(線形)に増加する形態を示している。
【0035】
図5は、第1の材料群に含まれる材料の含有量(実線)が、基板1側から吸収層4の最表面4a側に向かって直線的(線形)に減少し、且つ第2の材料群に含まれる材料の含有量(破線)が、基板1側から吸収層4の最表面4a側に向かって直線的(線形)に増加する形態であって、第1の材料群の含有量(濃度)と第2の材料群の含有量(濃度)とが同じになる点(箇所)が、吸収層4を厚さ方向に2等分した場合に、基板1側に位置しており、且つ、基板1側の領域には第2の材料群に含まれる材料が含まれており、最表面4a側の領域には第1の材料群に含まれる材料が含まれている形態を示している。
【0036】
図6は、第1の材料群に含まれる材料の含有量(実線)が、基板1側から吸収層4の最表面4a側に向かって指数関数的に減少し、且つ第2の材料群に含まれる材料の含有量(破線)が、基板1側から吸収層4の最表面4a側に向かって指数関数的に増加する形態であって、基板1側の領域及び最表面4a側の領域は、それぞれ組成が均一となっており、且つ、第1の材料群の含有量(濃度)と第2の材料群の含有量(濃度)とが同じになる点(箇所)が、吸収層4を厚さ方向に2等分した場合に、最表面4a側に位置している形態を示している。
【0037】
図7は、第1の材料群に含まれる材料の含有量(実線)が、基板1側から吸収層4の最表面4a側に向かって曲線的に(S字カーブを描くように)減少し、且つ第2の材料群に含まれる材料の含有量(破線)が、基板1側から吸収層4の最表面4a側に向かって曲線的に(S字カーブを描くように)増加する形態であって、基板1側の領域及び最表面4a側の領域は、それぞれ組成が均一となっている形態を示している。
【0038】
上記形態であれば、EUV光に対して高い吸収性を持つ化合物材料(第1の材料群に含まれる材料)の含有量が基板1側から最表面4a側に向かって減少し、且つ水素ラジカル耐性の高い化合物材料(第2の材料群に含まれる材料)の含有量が基板1側から最表面4a側に向かって増加している吸収層4を備えているため、シャドウイングが低減すると共にマスクパターンの矩形性が向上するため、ウェハ上へ転写されるパターンの寸法精度や形状精度が向上し、且つ水素ラジカル耐性が付与されるため、長期間使用可能なフォトマスクを作製することができる。
なお、本実施形態における第1の材料群及び第2の材料群の各含有量の分布は、上述した分布に限定されるものではなく、それぞれを組み合わせた分布であってもよい。
【0039】
一般に、反射型フォトマスクブランクは、パターニングのための加工が可能である必要がある。上記材料のうち、酸化錫は、塩素系ガスにドライエッチング加工が可能であることが知られている。したがって、吸収層4は、錫(Sn)及び酸素(O)を含む材料を含んでいればより好ましい。
【0040】
また、反射型フォトマスクは、水素ラジカル環境下にさらされるため、吸収層4が水素ラジカル耐性の高い吸収材料(第2の材料群)を含んでいなければ、反射型フォトマスクは長期の使用に耐えられない。なお、本実施形態では、マイクロ波プラズマを使って、電力1kWで水素圧力が0.36ミリバール(mbar)以下の水素ラジカル環境下で、膜減り速さ0.1nm/s以下の材料を、水素ラジカル耐性の高い材料とする。
上記材料のうち、錫(Sn)単体では水素ラジカルへの耐性が低いことが知られているが、酸素(O)を追加することによって水素ラジカル耐性が高くなる。表1に示す通り、錫(Sn)と酸素(O)の原子数比が1:2を超えた材料で、水素ラジカル耐性が確認された。これは、錫(Sn)と酸素(O)の原子数比が1:2以下では錫(Sn)の結合がすべて酸化錫(SnO2)にならず、膜全体を酸化錫(SnO2)にするためには1:2を超えた原子数比が必要であると考えられるからである。
【0041】
表1には、本発明の実施形態に係るSnとOの元素数比に伴う水素ラジカル耐性を示す。なお、表1に示した原子数比は、膜厚1μmに成膜された材料をEDX(エネルギー分散型X線分析)で測定した結果である。ここで、錫(Sn)と酸素(O)の原子数比が1:2の場合には、繰り返し評価においてばらつきが確認されたため、表1では「△」と表記している。本実施形態では、「△」及び「○」であれば使用する上で問題がないため、合格とした。
【0042】
【0043】
吸収層4を形成するために使用可能な錫(Sn)及び酸素(O)を含む材料は、化学量論的組成の酸化錫よりも酸素を多く含むことが好ましい。すなわち、吸収層4の材料中の錫(Sn)と酸素(O)の原子数比は1:2を超えていることが好ましい。
また、錫(Sn)と酸素(O)の原子数比が1:3.5を超えると、EUV光に対する吸収性の低下が進行するため、錫(Sn)と酸素(O)の原子数比は1:3.5以下であることが好ましく、1:3以下であることがより好ましい。つまり、吸収層4を錫(Sn)及び酸素(O)を含む材料で形成する場合には、酸素(O)の含有量は、錫(Sn)の含有量に対して、原子数比で2倍以上3.5倍以下の範囲内であれば好ましい。
【0044】
また、吸収層4は、吸収層4全体に対して、錫(Sn)及び酸素(O)を合計で50原子%以上含有することが好ましい。
これは、吸収層4に錫(Sn)と酸素(O)以外の成分が含まれているとEUV光吸収性と水素ラジカル耐性の両方が低下する可能性があるものの、その成分が50原子%未満であれば、EUV光吸収性と水素ラジカル耐性の両方の低下はごく僅かであり、EUVマスク(反射型フォトマスク)の吸収層4としての性能の低下はほとんど無いためである。
なお、本実施形態では、吸収層4は、吸収層4全体に対して、第1の材料群に含まれる材料及び第2の材料群に含まれる材料を合計で50原子%以上含有していてもよい。
【0045】
錫(Sn)と酸素(O)以外の材料として、例えば、Ta、Pt、Te、Zr、Hf、Ti、W、Si、Cr、In、Pd、Ni、Al、Ni、F、N、CやHが吸収層4に混合されていてもよい。
例えば、Inを、例えば10原子%以上50原子%未満の範囲内で混合することで、EUV光に対する高吸収性を確保しながら、膜(吸収層4)に導電性を付与することが可能となるため、波長190nm~260nmのEUV光を用いたマスクパターン検査において、検査性を高くすることが可能となる。あるいは、NやHfを、例えば10原子%以上50原子%未満の範囲内で混合した場合には、吸収層4の膜質をよりアモルファスにすることが可能となるため、ドライエッチング後の吸収パターン層41のラフネスや面内寸法均一性や転写像の面内均一性が向上する。
【0046】
従来のEUV反射型フォトマスクの吸収層には、上述の通りTaを主成分とする化合物材料が適用されてきた。この場合、吸収層と反射層との光強度のコントラストを表す指標である光学濃度OD(式1)で1以上を得るには、膜厚を40nm以上にする必要があり、ODで2以上を得るには、膜厚を70nm以上にする必要があった。Taの消衰係数kは、0.041だが、消衰係数kが0.06以上である、錫(Sn)と酸素(O)を含む化合物材料を吸収層に適用することで、ベールの法則より、ODで1以上を得る場合であってもその膜厚を17nm以下することが可能であり、ODで2以上を得る場合であってもその膜厚を45nm以下にすることが可能である。ただし、膜厚が45nm以上であると、従来のTaを主成分とした膜厚60nmの化合物材料と射影効果が同程度となってしまう。
OD=-log(Ra/Rm) ・・・(式1)
従って、吸収層4の膜厚は、17nm以上45nm以下であることが好ましい。
【0047】
また、従来のEUV反射型フォトマスクの吸収層には、最表面である上層にTaを主成分とする酸化膜、下層にTaを主成分とする窒化膜をそれぞれ使用したものが多く、吸収層は、上層と下層の境界(界面)を有するものが多い。そのため、従来のEUV反射型フォトマスクの吸収層をドライエッチングによってパターニングした後に、その断面形状を観察すると、上層と下層の境界(界面)に段差が発生していることがある。このような吸収層の段差は、ウェハ上へ転写されるパターンの寸法精度や形状精度の低下を招くため、パターニングした後の吸収層には段差は無いことが望ましい。
【0048】
[実施例1]
以下、本発明に係る反射型フォトマスクブランク及び反射型フォトマスクの実施例について説明する。
図8に示すように、低熱膨張特性を有する合成石英の基板11の上に、シリコン(Si)とモリブデン(Mo)とを一対とする積層膜が40枚積層されて形成された反射層12を形成する。反射層12の膜厚は280nmであった。
次に、反射層12上に、中間膜としてルテニウム(Ru)で形成されたキャッピング層13を、膜厚が3.5nmになるように成膜した。
次に、キャッピング層13の上に、錫(Sn)と酸素(O)とを含む領域(層)、及びタンタル(Ta)と酸素(O)とを含む領域(層)を有する吸収層14を膜厚がそれぞれ26nm、7nmになるように成膜した。ここで、吸収層14のSnO、TaO成膜時は境界(界面)が発生しないよう、連続的にスパッタリングを行った。以下、この点について詳しく説明する。
【0049】
本実施例では、キャッピング層13の上に、吸収層14として、まず、錫(Sn)と酸素(O)を含む膜(層)をその膜厚が26nmとなるように成膜した。そして、錫(Sn)と酸素(O)を含む膜(層)の膜厚が26nmに達したところで、錫(Sn)と酸素(O)を含む膜(層)の成膜と、タンタル(Ta)と酸素(O)を含む膜(層)の成膜とを同時に行った。こうして、SnO及びTaOを含んだ膜(層)をその膜厚が0.5nm程度となるように成膜した。その後、錫(Sn)と酸素(O)を含む膜(層)の成膜を終了し、タンタル(Ta)と酸素(O)を含む膜(層)をその膜厚が7nmとなるように成膜した。こうして、錫(Sn)と酸素(O)を含む領域と、タンタル(Ta)と酸素(O)を含む領域とに境界(界面)が発生しないように吸収層14を成膜した。
【0050】
こうして成膜した吸収層14における、錫(Sn)と酸素(O)の原子数比率は、EDX(エネルギー分散型X線分析)で測定したところ1:2.5であり、タンタル(Ta)と酸素(O)の原子数比率は、EDX(エネルギー分散型X線分析)で測定したところ1:1.9であった。
また、XRD(X線回析装置)で測定したところ、吸収層14の膜質は、僅かに結晶性が見られるものの、アモルファスであった。
【0051】
次に、基板11の反射層12が形成されていない側に窒化クロム(CrN)で形成された裏面導電膜15を100nmの厚さで成膜し、実施例1の反射型フォトマスクブランク100を作製した。
実施例1では、基板11上へのそれぞれの膜の成膜は、多元スパッタリング装置を用いた。各々の膜の膜厚は、スパッタリング時間で制御した。吸収層14は、反応性スパッタリング法により、スパッタリング中にチャンバーに導入する酸素の量を制御することで、O/Sn比が2.5、O/Ta比が1.9になるように成膜した。
【0052】
次に、実施例1の反射型フォトマスク200の作製方法について、
図9から
図12を用いて説明する。
図9に示すように、反射型フォトマスクブランク100の吸収層14の上に、ポジ型化学増幅型レジスト(SEBP9012:信越化学社製)を120nmの膜厚にスピンコートで塗布し、110℃で10分間ベークし、レジスト膜16を形成した。
次に、電子線描画機(JBX3030:日本電子社製)によってレジスト膜16に所定のパターンを描画した。
その後、110℃、10分間のプリベーク処理を行い、次いでスプレー現像機(SFG3000:シグマメルテック社製)を用いて現像処理をした。
こうして、
図10に示すように、レジストパターン16aを形成した。
【0053】
次に、レジストパターン16aをエッチングマスクとして、塩素系ガスを主体としたドライエッチングにより、吸収層14のパターニングを行った。
こうして、
図11に示すように、キャッピング層13の上に吸収パターン層141を形成した。
次に、レジストパターン16aの剥離を行い、
図12に示す、本実施例の反射型フォトマスク200を作製した。
【0054】
本実施例において、吸収層14に形成した転写パターン(吸収パターン層141の形状)は、転写評価用の反射型フォトマスク200上で、線幅64nmのLS(ラインアンドスペース)パターン、AFMを用いた吸収層の膜厚測定用の線幅200nmのLSパターン、及びEUV反射率測定用の4mm角の吸収層除去部を含んだパターンとした。線幅64nmのLSパターンは、EUV照射による射影効果の影響が見えやすくなるように、
図13に示すようにx方向とy方向それぞれに設計した。
【0055】
[比較例1]
比較例1として、従来のEUV反射型フォトマスクブランクを以下のように作製した。
図14に示すように、吸収層を構成する下層5を、タンタル(Ta)と窒素(N)の原子数比率が1:0.25であり、且つその膜厚が58nmとなるよう成膜して形成した後、吸収層を構成する上層6を、タンタル(Ta)と酸素(O)の原子数比率が1:1.9であり、且つその膜厚が2nmになるよう成膜して形成した。こうして、比較例1の反射型フォトマスクブランク30を作製した。こうして成膜した下層5と上層6との間には境界(界面)が形成されていた。
次に、
図15に示すように、実施例1と同様の方法で、比較例1の反射型フォトマスク300を作製した。
図15に示すように、比較例1の反射型フォトマスク300は、吸収パターン層142として、吸収パターン層(下層)51と、吸収パターン層(上層)61とを備えている。ただし、吸収パターン層142に関して、TaNとTaOは上層下層で分かれており、連続的に組成が変化する膜ではない。
【0056】
[実施例2]
吸収層14を、錫(Sn)と酸素(O)の原子数比率が1:2.5となるように形成した。また、錫(Sn)と酸素(O)の合計含有量を吸収層14全体の55原子%とし、残りの45原子%をTaとした状態で、吸収層14の膜厚が26nmになるよう成膜した。それ以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の反射型フォトマスクブランク100及び反射型フォトマスク200を作製した。
【0057】
[実施例3]
吸収層14を、錫(Sn)と酸素(O)の原子数比率が1:2.5となるように形成した。また、錫(Sn)と酸素(O)の合計含有量を吸収層14全体の95原子%とし、残りの5原子%をTaとした状態で、吸収層14の膜厚が26nmになるよう成膜した。それ以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3の反射型フォトマスクブランク100及び反射型フォトマスク200を作製した。
【0058】
[実施例4]
吸収層14を、錫(Sn)と酸素(O)の原子数比率が1:2.5となるように形成した。また、錫(Sn)と酸素(O)の合計含有量を吸収層14全体の95原子%とし、残りの5原子%をTaとした状態で、吸収層14の膜厚が17nmになるよう成膜した。それ以外は、実施例1と同様の方法で、実施例4の反射型フォトマスクブランク100及び反射型フォトマスク200を作製した。
【0059】
[実施例5]
吸収層14を、錫(Sn)と酸素(O)の原子数比率が1:2.5となるように形成した。また、錫(Sn)と酸素(O)の合計含有量を吸収層14全体の60原子%とし、残りの40原子%をSiとした状態で、吸収層14の膜厚が33nmになるよう成膜した。それ以外は、実施例1と同様の方法で、実施例5の反射型フォトマスクブランク100及び反射型フォトマスク200を作製した。
【0060】
[実施例6]
吸収層14を、錫(Sn)と酸素(O)の原子数比率が1:2.5となるように形成した。また、錫(Sn)と酸素(O)の合計含有量を吸収層14全体の78原子%とし、残りの22原子%をSiとした状態で、吸収層14の膜厚が26nmになるよう成膜した。それ以外は、実施例1と同様の方法で、実施例6の反射型フォトマスクブランク100及び反射型フォトマスク200を作製した。
【0061】
[実施例7]
吸収層14を、錫(Sn)と酸素(O)の原子数比率が1:2.5となるように形成した。また、錫(Sn)と酸素(O)の合計含有量を吸収層14全体の95原子%とし、残りの5原子%をSiとした状態で、吸収層14の膜厚を17nmになるよう成膜した。それ以外は、実施例1と同様の方法で、実施例7の反射型フォトマスクブランク100及び反射型フォトマスク200を作製した。
【0062】
(膜厚測定)
前述の各実施例及び比較例において、吸収層14の膜厚は透過電子顕微鏡によって測定した。
(反射率測定)
前述の各実施例及び比較例において、作製した反射型フォトマスクの吸収パターン層141領域の反射率RaをEUV光による反射率測定装置で測定した。
また、前述の各実施例及び比較例において、作製した反射型フォトマスクの吸収パターン層141領域以外の領域の反射率RmをEUV光による反射率測定装置で測定した。
【0063】
(水素ラジカル耐性測定)
マイクロ波プラズマを使って、電力1kWで水素圧力が0.36ミリバール(mbar)以下の水素ラジカル環境下に、各実施例及び比較例で作製した反射型フォトマスクを設置した。水素ラジカル処理後での吸収層14の膜厚変化を、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて確認した。測定は線幅200nmのLSパターンを用いて行った。
【0064】
(ウェハ露光評価)
EUV露光装置(NXE3300B:ASML社製)を用いて、EUVポジ型化学増幅型レジストを塗布した半導体ウェハ上に、各実施例及び比較例で作製した反射型フォトマスクの転写パターンを転写露光した。このとき、露光量は
図13のx方向のLSパターンが設計通りに転写するように調節した。電子線寸法測定機により転写されたレジストパターンの観察及び線幅測定を実施し、解像性の確認を行った。
これらの評価結果を表2に示す。
【0065】
【0066】
従来の膜厚が60nmのタンタル(Ta)系吸収層の反射率は、0.019(OD=1.54)であるのに対し、SnOの混合比率が95%と高い実施例3においては、その反射率が0.007(OD=1.97)と良好であった。これに対し、SnOの混合比率が95%と高いが、吸収層14の膜厚を17nmと非常に薄くした場合である実施例4においてはその反射率は0.059(OD=1.05)、実施例7においては、その反射率は0.061(OD=1.03)と低下した。
なお、ODが1.5以上のものを「◎」、1.0以上1.5未満のものを「○」として表している。ODが「◎」及び「〇」であれば、使用する上で問題がないため、本実施例で合格とした。
【0067】
続いて、各実施例及び比較例の水素ラジカル耐性を示す。ここでは、膜減り速さが0.1nm/s以下の材料を「◎」、0.1nm/sを超えるものを「×」として表している。既存のEUV反射型フォトマスクである比較例1及び実施例1~7の全てにおいて、膜減り速さが0.1nm/s以下となり、十分な耐性を有していることが分かった。
続いて、吸収層のパターニング後における断面形状の判定結果を示す。ここでは、SEMにてパターニングされた吸収層の断面を目視で観察し、その断面に段差がある場合を「×」とし、段差がない場合を「◎」とした。
【0068】
以上のように、各実施例の反射型フォトマスクブランク及び反射型フォトマスクであれば、十分なOD値を備えるとともに、十分な水素ラジカル耐性を備え、且つパターニングされた吸収層の断面形状には段差が形成されていない。そのため、各実施例の反射型フォトマスクブランク及び反射型フォトマスクであれば、ウェハ上へ転写されるパターンの寸法精度や形状精度が向上し、且つ水素ラジカル耐性が付与されるため、長期間フォトマスクを使用することが可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係る反射型フォトマスクブランク及び反射型フォトマスクは、半導体集積回路などの製造工程において、EUV露光によって微細なパターンを形成するために好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0070】
1…基板
2…反射層
3…キャッピング層
4…吸収層
4a…最表面
5…吸収層(下層)
6…吸収層(上層)
41…吸収パターン層
51…吸収パターン層(下層)
61…吸収パターン層(上層)
10…反射型フォトマスクブランク
20…反射型フォトマスク
30…反射型フォトマスクブランク
11…基板
12…反射層
13…キャッピング層
14…吸収層
141…吸収パターン層
142…吸収パターン層(2層膜)
15…裏面導電膜
16…レジスト膜
16a…レジストパターン
17…反射部
18…低反射部
100…反射型フォトマスクブランク
200…反射型フォトマスク
300…反射型フォトマスク