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特許7525373エネルギーを利用する方法及び蓄エネルギーシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】エネルギーを利用する方法及び蓄エネルギーシステム
(51)【国際特許分類】
   F28D 20/00 20060101AFI20240723BHJP
   C09K 5/16 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
F28D20/00 G
C09K5/16
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020188168
(22)【出願日】2020-11-11
(65)【公開番号】P2022077352
(43)【公開日】2022-05-23
【審査請求日】2023-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】間宮 尚
(72)【発明者】
【氏名】辻本 宏
(72)【発明者】
【氏名】速水 公佑
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-266122(JP,A)
【文献】特開2004-003832(JP,A)
【文献】特開昭54-124895(JP,A)
【文献】特開平10-310425(JP,A)
【文献】特開2004-251575(JP,A)
【文献】特開昭61-107096(JP,A)
【文献】米国特許第05398747(US,A)
【文献】工藤雅成,小嶋孝良,高橋燦吉,Libr水溶液の性質 -溶解度の文献調査-,八戸工業大学紀要,第22巻,日本,131-138
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 20/00
C09K 5/16
C01D 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を分離するとエネルギーが蓄えられ、水を供給するとエネルギーが放出され、LiBr化合物、LiCl化合物及びCaCl化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である蓄エネルギー材料のエネルギーを利用する方法であって、
無水LiBr、無水LiCl及び無水CaClからなる群より選ばれる少なくとも1種の無水塩の保有するエネルギーを利用し、
前記蓄エネルギー材料から水を分離して前記蓄エネルギー材料を濃縮する濃縮工程と、
濃縮された前記蓄エネルギー材料に水を供給して前記蓄エネルギー材料を希釈する希釈工程と、を備え、
前記濃縮工程で、無水LiBr、無水LiCl又は無水CaClを含む固体状濃縮物を形成し、
前記蓄エネルギー材料が、LiBr化合物を含み、
前記濃縮工程が、LiBr化合物水溶液の蒸気圧が11.7kPa以上である条件で加熱することを含み、
前記濃縮工程では、105℃~156℃の温度範囲でのLiBr化合物水溶液の蒸気圧が11.7kPa~20kPaとなるように、圧力を制御する、方法。
【請求項2】
前記希釈工程では、前記固体状濃縮物を、水を含む液又は水蒸気と接触させる、請求項に記載の方法。
【請求項3】
水を分離するとエネルギーが蓄えられ、水を供給するとエネルギーが放出され、LiBr化合物、LiCl化合物及びCaCl化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である蓄エネルギー材料のエネルギーを利用する方法であって、
無水LiBr、無水LiCl及び無水CaClからなる群より選ばれる少なくとも1種の無水塩の保有するエネルギーを利用し、
前記蓄エネルギー材料から水を分離して、無水LiBr以外のLiBr化合物、無水LiCl以外のLiCl化合物又は無水CaCl以外のCaCl化合物を含む固体状濃縮物を得る濃縮工程と、
無水LiBr以外の前記LiBr化合物、無水LiCl以外の前記LiCl化合物又は無水CaCl以外の前記CaCl化合物を、無水LiBr、無水LiCl又は無水CaClに変換して、固体無水塩を得る無水化工程と、
前記固体無水塩に水を供給して、前記固体無水塩を希釈する希釈工程と、を備え、
前記蓄エネルギー材料が、LiBr化合物を含み、
前記濃縮工程では、LiBr濃度67質量%以下であるLiBr化合物水溶液を、前記LiBr化合物水溶液の蒸気圧が0.5kPa以上11.7kPa未満である条件で加熱することにより、固体状濃縮物を形成し、
前記無水化工程では、前記固体状濃縮物を156℃以上に加熱することにより無水LiBrを形成し、
前記希釈工程では、前記無水LiBrと水を含む液又は水蒸気とを接触させる、方法。
【請求項4】
水を分離するとエネルギーが蓄えられ、水を供給するとエネルギーが放出され、LiBr化合物、LiCl化合物及びCaCl化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である蓄エネルギー材料のエネルギーを利用する方法であって、
無水LiBr、無水LiCl及び無水CaClからなる群より選ばれる少なくとも1種の無水塩の保有するエネルギーを利用し、
前記蓄エネルギー材料から水を分離して前記蓄エネルギー材料を濃縮する濃縮工程と、
濃縮された前記蓄エネルギー材料に水を供給して前記蓄エネルギー材料を希釈する希釈工程と、を備え、
前記濃縮工程で、無水LiBr、無水LiCl又は無水CaClを含む固体状濃縮物を形成し、
前記蓄エネルギー材料が、LiBr化合物を含み、
前記濃縮工程では、LiBr濃度67質量%以下であるLiBr化合物水溶液を、前記LiBr化合物水溶液の蒸気圧が0.5kPa以上11.7kPa未満である条件で156℃以上の温度まで加熱することにより、固体状濃縮物を形成し、
前記希釈工程では、前記固体状濃縮物を、水を含む液又は水蒸気と接触させる、方法。
【請求項5】
水を分離するとエネルギーが蓄えられ、水を供給するとエネルギーが放出され、LiBr化合物、LiCl化合物及びCaCl化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である蓄エネルギー材料のエネルギーを利用する方法であって、
無水LiBr、無水LiCl及び無水CaClからなる群より選ばれる少なくとも1種の無水塩の保有するエネルギーを利用し、
前記蓄エネルギー材料から水を分離して前記蓄エネルギー材料を濃縮する濃縮工程と、
濃縮された前記蓄エネルギー材料に水を供給して前記蓄エネルギー材料を希釈する希釈工程と、を備え、
前記濃縮工程で、無水LiBr、無水LiCl又は無水CaClを含む固体状濃縮物を形成し、
前記蓄エネルギー材料が、LiCl化合物を含み、
前記濃縮工程が、LiCl化合物水溶液の蒸気圧が7.0kPa以上である条件で加熱することを含み、
前記濃縮工程では、80℃~94℃の温度範囲でのLiCl化合物水溶液の蒸気圧が7.0kPa~15kPaとなるように、圧力を制御する、方法。
【請求項6】
前記希釈工程では、前記固体状濃縮物を、水を含む液又は水蒸気と接触させる、請求項に記載の方法。
【請求項7】
水を分離するとエネルギーが蓄えられ、水を供給するとエネルギーが放出され、LiBr化合物、LiCl化合物及びCaCl化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である蓄エネルギー材料のエネルギーを利用する方法であって、
無水LiBr、無水LiCl及び無水CaClからなる群より選ばれる少なくとも1種の無水塩の保有するエネルギーを利用し、
前記蓄エネルギー材料から水を分離して、無水LiBr以外のLiBr化合物、無水LiCl以外のLiCl化合物又は無水CaCl以外のCaCl化合物を含む固体状濃縮物を得る濃縮工程と、
無水LiBr以外の前記LiBr化合物、無水LiCl以外の前記LiCl化合物又は無水CaCl以外の前記CaCl化合物を、無水LiBr、無水LiCl又は無水CaClに変換して、固体無水塩を得る無水化工程と、
前記固体無水塩に水を供給して、前記固体無水塩を希釈する希釈工程と、を備え、
前記蓄エネルギー材料が、LiCl化合物を含み、
前記濃縮工程では、LiCl濃度46質量%以下であるLiCl化合物水溶液を、前記LiCl化合物水溶液の蒸気圧が0.2kPa以上7.0kPa未満である条件で、加熱することにより、固体状濃縮物を形成し、
前記無水化工程では、前記固体状濃縮物を94℃以上に加熱することにより無水LiClを形成し、
前記希釈工程では、前記無水LiClと水を含む液又は水蒸気とを接触させる、方法。
【請求項8】
水を分離するとエネルギーが蓄えられ、水を供給するとエネルギーが放出され、LiBr化合物、LiCl化合物及びCaCl化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である蓄エネルギー材料のエネルギーを利用する方法であって、
無水LiBr、無水LiCl及び無水CaClからなる群より選ばれる少なくとも1種の無水塩の保有するエネルギーを利用し、
前記蓄エネルギー材料から水を分離して前記蓄エネルギー材料を濃縮する濃縮工程と、
濃縮された前記蓄エネルギー材料に水を供給して前記蓄エネルギー材料を希釈する希釈工程と、を備え、
前記濃縮工程で、無水LiBr、無水LiCl又は無水CaClを含む固体状濃縮物を形成し、
前記蓄エネルギー材料が、LiCl化合物を含み、
前記濃縮工程では、LiCl濃度46質量%以下であるLiCl化合物水溶液を、前記LiCl化合物水溶液の蒸気圧が0.2kPa以上7.0kPa未満である条件で、94℃以上の温度まで加熱することにより、固体状濃縮物を形成し、
前記希釈工程では、前記固体状濃縮物を、水を含む液又は水蒸気と接触させる、方法。
【請求項9】
水を分離するとエネルギーが蓄えられ、水を供給するとエネルギーが放出され、LiBr化合物、LiCl化合物及びCaCl化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である蓄エネルギー材料のエネルギーを利用する方法であって、
無水LiBr、無水LiCl及び無水CaClからなる群より選ばれる少なくとも1種の無水塩の保有するエネルギーを利用し、
前記蓄エネルギー材料から水を分離して前記蓄エネルギー材料を濃縮する濃縮工程と、
濃縮された前記蓄エネルギー材料に水を供給して前記蓄エネルギー材料を希釈する希釈工程と、を備え、
前記濃縮工程で、無水LiBr、無水LiCl又は無水CaClを含む固体状濃縮物を形成し、
前記蓄エネルギー材料が、CaCl化合物を含み、
前記濃縮工程が、CaCl濃度50.7質量%以下であるCaCl化合物水溶液を、CaCl濃度75.5質量%まで濃縮する第一の濃縮工程と、前記第一の濃縮工程で得られた濃縮物を、当該濃縮物の蒸気圧が15kPa以下である条件で加熱して、固体状濃縮物を得る第二の濃縮工程を含む、方法。
【請求項10】
第二の濃縮工程では、濃縮物の蒸気圧が10kPa以下である条件で加熱する、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記第一の濃縮工程では、CaCl濃度50.7質量%超60.6質量%以下でのCaCl化合物水溶液の蒸気圧が0.9kPa以上になるように、かつ、CaCl濃度60.6質量%超75.5質量%以下でのCaCl化合物水溶液の蒸気圧が1.3kPa以上になるように、圧力を制御する、請求項又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記希釈工程では、前記固体状濃縮物を、水及びCaClを含む液又は水蒸気と接触させて、前記固体状濃縮物の希釈物を得る、請求項11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記濃縮工程で分離された水を保管する保管工程を更に備える、請求項12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
浸透圧の差を利用して、LiBr化合物又はLiCl化合物を含む水溶液から、CaCl化合物を含む水溶液へと水を移動させることにより、LiBr化合物又はLiCl化合物を含む水溶液を濃縮する濃縮工程を更に備え、
CaCl化合物を含む前記水溶液が、前記固体状濃縮物の希釈物を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
蒸気圧の差を利用して、LiBr化合物又はLiCl化合物を含む水溶液から水蒸気を抜き出すことにより、LiBr化合物又はLiCl化合物を含む水溶液を濃縮すると共に、抜き出した前記水蒸気を、CaCl化合物を含む水溶液に吸収させる工程を更に備え、
CaCl化合物を含む前記水溶液が、前記固体状濃縮物の希釈物を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
CaCl化合物を含む蓄エネルギー材料から放出されるエネルギーで、前記LiBr化合物又はLiCl化合物を含む水溶液を加熱する工程を更に含む、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記固体状濃縮物を保管する保管工程を更に備える、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギーを利用する方法及び蓄エネルギーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
水を分離するとエネルギーが蓄えられ、水を供給するとエネルギーが放出される蓄エネルギー材料を用いてエネルギーを利用する方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、水和物を含む蓄熱材から水を脱離することによって前記蓄熱材に蓄熱し、かつ、蓄熱状態の前記蓄熱材と前記脱離した水とを反応させることによって放熱する蓄熱システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5021597号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エネルギーの有効利用の観点から、蓄エネルギー材料を利用する方法のバリエーションは多いことが好ましい。
【0006】
そこで、本発明は、蓄エネルギー材料のエネルギーを利用する方法として、新規な方法を提供することを目的とする。本発明はまた、上記蓄エネルギー材料のエネルギーを利用する新規な蓄エネルギーシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記[1]~[20]に記載の方法及び下記[21]に記載の蓄エネルギーシステムを提供する。
[1]水を分離するとエネルギーが蓄えられ、水を供給するとエネルギーが放出され、LiBr化合物、LiCl化合物及びCaCl化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である蓄エネルギー材料のエネルギーを利用する方法であって、無水LiBr、無水LiCl及び無水CaClからなる群より選ばれる少なくとも1種の無水塩の保有するエネルギーを利用する方法。
[2]前記蓄エネルギー材料から水を分離して前記蓄エネルギー材料を濃縮する濃縮工程と、濃縮された前記蓄エネルギー材料に水を供給して前記蓄エネルギー材料を希釈する希釈工程と、を備え、前記濃縮工程で、無水LiBr、無水LiCl又は無水CaClを含む固体状濃縮物を形成する、[1]に記載の方法。
[3]前記蓄エネルギー材料から水を分離して、無水LiBr以外のLiBr化合物、無水LiCl以外のLiCl化合物又は無水CaCl以外のCaCl化合物を含む固体状濃縮物を得る濃縮工程と、無水LiBr以外の前記LiBr化合物、無水LiCl以外の前記LiCl化合物又は無水CaCl以外の前記CaCl化合物を、無水LiBr、無水LiCl又は無水CaClに変換して、固体無水塩を得る無水化工程と、前記固体無水塩に水を供給して、前記固体無水塩を希釈する希釈工程と、を備える、[1]に記載の方法。
[4]前記固体状濃縮物を保管する保管工程を更に備える、[2]又は[3]に記載の方法。
[5]前記蓄エネルギー材料が、LiBr化合物を含み、前記濃縮工程が、LiBr化合物水溶液の蒸気圧が11.7kPa以上である条件で加熱することを含む、[2]に記載の方法。
[6]前記希釈工程では、前記固体状濃縮物を、水を含む液又は水蒸気と接触させる、[5]に記載の方法。
[7]前記蓄エネルギー材料が、LiBr化合物を含み、前記濃縮工程では、LiBr濃度67質量%以下であるLiBr化合物水溶液を、前記LiBr化合物水溶液の蒸気圧が0.5kPa以上11.7kPa未満である条件で加熱することにより、固体状濃縮物を形成し、前記無水化工程では、前記固体状濃縮物を156℃以上に加熱することにより無水LiBrを形成し、前記希釈工程では、前記無水LiBrと水を含む液又は水蒸気とを接触させる、[3]に記載の方法。
[8]前記蓄エネルギー材料が、LiBr化合物を含み、前記濃縮工程では、LiBr濃度67質量%以下であるLiBr化合物水溶液を、前記LiBr化合物水溶液の蒸気圧が0.5kPa以上11.7kPa未満である条件で156℃以上の温度まで加熱することにより、固体状濃縮物を形成し、前記希釈工程では、前記固体状濃縮物を、水を含む液又は水蒸気と接触させる、[2]に記載の方法。
[9]前記蓄エネルギー材料が、LiCl化合物を含み、前記濃縮工程が、LiCl化合物水溶液の蒸気圧が7.0kPa以上である条件で加熱することを含む、[2]に記載の方法。
[10]前記希釈工程では、前記固体状濃縮物を、水を含む液と接触させる、[9]に記載の方法。
[11]前記蓄エネルギー材料が、LiCl化合物を含み、前記濃縮工程では、LiCl濃度46質量%以下であるLiCl化合物水溶液を、前記LiCl化合物水溶液の蒸気圧が0.2kPa以上7.0kPa未満である条件で、加熱することにより、固体状濃縮物を形成し、前記無水化工程では、前記固体状濃縮物を94℃以上に加熱することにより無水LiClを形成し、前記希釈工程では、前記無水LiClと水を含む液又は水蒸気とを接触させる、[3]に記載の方法。
[12]前記蓄エネルギー材料が、LiCl化合物を含み、前記濃縮工程では、LiCl濃度46質量%以下であるLiCl化合物水溶液を、前記LiCl化合物水溶液の蒸気圧が0.2kPa以上7.0kPa未満である条件で、94℃以上の温度まで加熱することにより、固体状濃縮物を形成し、前記希釈工程では、前記固体状濃縮物を、水を含む液又は水蒸気と接触させる、[2]に記載の方法。
[13]前記蓄エネルギー材料が、CaCl化合物を含み、前記濃縮工程が、CaCl濃度50.7質量%以下であるCaCl化合物水溶液を、CaCl濃度75.5質量%まで濃縮する第一の濃縮工程と、前記第一の濃縮工程で得られた濃縮物を、当該濃縮物の蒸気圧が15kPa以下である条件で加熱して、固体状濃縮物を得る第二の濃縮工程を含む、[2]に記載の方法。
[14]第二の濃縮工程では、濃縮物の蒸気圧が10kPa以下である条件で加熱する、[13]に記載の方法。
[15]前記第一の濃縮工程では、CaCl濃度50.7質量%超60.6質量%以下でのCaCl化合物水溶液の蒸気圧が0.9kPa以上になるように、かつ、CaCl濃度60.6質量%超75.5質量%以下でのCaCl化合物水溶液の蒸気圧が1.3kPa以上になるように、圧力を制御する、[13]又は[14]に記載の方法。
[16]前記希釈工程では、前記固体状濃縮物を、水及びCaClを含む液又は水蒸気と接触させて、前記固体状濃縮物の希釈物を得る、[13]~[15]のいずれかに記載の方法。
[17]前記濃縮工程で分離された水を保管する保管工程を更に備える、[13]~[16]のいずれかに記載の方法。
[18]浸透圧の差を利用して、LiBr化合物又はLiCl化合物を含む水溶液から、CaCl化合物を含む水溶液へと水を移動させることにより、LiBr化合物又はLiCl化合物を含む水溶液を濃縮する濃縮工程を更に備え、CaCl化合物を含む前記水溶液が、前記固体状濃縮物の希釈物を含む、[16]に記載の方法。
[19]蒸気圧の差を利用して、LiBr化合物又はLiCl化合物を含む水溶液から水蒸気を抜き出すことにより、LiBr化合物又はLiCl化合物を含む水溶液を濃縮すると共に、抜き出した前記水蒸気を、CaCl化合物を含む水溶液に吸収させる工程を更に備え、CaCl化合物を含む前記水溶液が、前記固体状濃縮物の希釈物を含む、[16]に記載の方法。
[20]CaCl化合物を含む蓄エネルギー材料から放出されるエネルギーで、前記LiBr化合物又はLiCl化合物を含む水溶液を加熱する工程を更に含む、[18]又は[19]に記載の方法。
[21]水を分離するとエネルギーが蓄えられ、水を供給するとエネルギーが放出され、LiBr化合物、LiCl化合物及びCaCl化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である蓄エネルギー材料のエネルギーを利用する蓄エネルギーシステムであって、無水LiBr、無水LiCl及び無水CaClからなる群より選ばれる少なくとも1種の無水塩の保有するエネルギーを利用する蓄エネルギーシステム。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、蓄エネルギー材料の保有するエネルギーを利用する方法として、新規な方法が提供できる。本発明によれば、水分離後の蓄エネルギー材料の濃度を高めることができるため、蓄エネルギー材料へのエネルギー貯蔵能力も向上すると考えられる。本発明はまた、上記蓄エネルギー材料のエネルギーを利用する新規な蓄エネルギーシステムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の方法(システム)を説明するための相図である。
図2】本実施形態の方法(システム)を説明するためのデューリング線図である。
図3】本実施形態の方法(システム)を説明するための模式図である。
図4】本実施形態の方法(システム)を説明するための模式図である。
図5】本実施形態の方法(システム)の適用例を説明するためのフロー図である。
図6】本実施形態の方法(システム)の適用例を説明するためのフロー図である。
図7】本実施形態の方法(システム)の適用例を説明するためのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
(方法及び蓄エネルギーシステム)
この方法及び蓄エネルギーシステムは、水を分離するとエネルギーが蓄えられ、水を供給するとエネルギーが放出され、LiBr化合物、LiCl化合物及びCaCl化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である蓄エネルギー材料のエネルギーを利用する方法及び蓄エネルギーシステムであって、無水LiBr、無水LiCl及び無水CaClからなる群より選ばれる少なくとも1種の無水塩の保有するエネルギーを利用する方法及び蓄エネルギーシステムである。このような方法及びシステムは、例えば、吸収式ヒートポンプサイクルを利用したエネルギーの貯蔵、及び貯蔵したエネルギーの吸収式ヒートポンプサイクルでの利用に適用可能である。このような方法及びシステムによれば、水分離後の蓄エネルギー材料の濃度を高めることができるため、蓄エネルギー材料へのエネルギー貯蔵能力も向上すると考えられる。また、このような方法及びシステムによれば、余剰電力、低温排熱等の余剰エネルギーの長期貯蔵が可能となると考えられる。
【0012】
本明細書において、水(水分ともいう)は、液体の状態又は気体の状態であり得る。蓄エネルギー材料は、水を供給して希釈するとエネルギーを放出する材料である。すなわち、蓄エネルギー材料は、液体状態の水又は気体状態の水(水蒸気)が供給され、蓄エネルギー材料中の水分量が高まると、エネルギーを放出する。また、希釈された蓄エネルギー材料は、例えば、水溶液の形態であってもよく、水和物を含む固体の形態であってもよい。
【0013】
また、本明細書において、XにおけるLiBr濃度との記載は、Xの全質量に対するLiBrの質量をいう。すなわち、LiBrが水和物の形態である場合には、水和物を構成するHOは、LiBrの質量には含めない。LiCl濃度及びCaCl濃度等の他の類似の記載についても同様である。
【0014】
上記方法(システム)の具体例は、方法(システム)A及び方法(システム)Bを含む。
方法(システム)A:蓄エネルギー材料から水を分離して蓄エネルギー材料を濃縮する濃縮工程(濃縮手段)と、濃縮された蓄エネルギー材料に水を供給して蓄エネルギー材料を希釈する希釈工程(希釈手段)と、を備え、濃縮工程(濃縮手段)で、無水LiBr、無水LiCl又は無水CaClを含む固体状濃縮物を形成する方法(システム)
方法(システム)B:蓄エネルギー材料から水を分離して、無水LiBr以外のLiBr化合物、無水LiCl以外のLiCl化合物又は無水CaCl以外のCaCl化合物を含む固体状濃縮物を得る濃縮工程(濃縮手段)と、無水LiBr以外のLiBr化合物、無水LiCl以外のLiCl化合物又は無水CaCl以外のCaCl化合物を、無水LiBr、無水LiCl又は無水CaClに変換して、固体無水塩を得る無水化工程(無水化手段)と、固体無水塩に水を供給して、固体無水塩を希釈する希釈工程(希釈手段)と、を備える方法(システム)
ここで、上記方法(システム)Bの濃縮工程(濃縮手段)で得られる固体状濃縮物は、水溶液中に固体として析出した状態であることもできる。すなわち、上記方法(システム)Bの濃縮工程(濃縮手段)は、固体状濃縮物のみからなる固体を得る工程(手段)であってもよく、固体状濃縮物を含む水溶液の状態の濃縮物を得る工程(手段)であってもよい。
【0015】
方法(システム)Aは、本実施形態に係る無水塩を濃縮工程(濃縮手段)で形成させる方法(システム)であり、方法(システム)Bは、本実施形態に係る無水塩を無水化工程(無水化手段)で形成させる方法(システム)である。
【0016】
方法(システム)A及び方法(システム)Bは、固体状濃縮物を保管する保管工程(保管手段)を更に備えていてもよい。例えば、方法(システム)Aが上記保管工程(保管手段)を備えることにより、無水塩を含む状態の蓄エネルギー材料を保管できるため、高い密度のエネルギーを取り出し得る蓄エネルギー材料を長期保存できると考えられる。
【0017】
以下、上記方法(システム)ついて、いくつかの具体例を説明する。
【0018】
[第1態様]LiBr化合物を含む蓄エネルギー材料
まず、LiBr化合物を含む蓄エネルギー材料を用いる場合の具体例を説明する。
【0019】
〔方法(システム)A1〕
方法(システム)Aの一例について説明する。
【0020】
この方法(システム)は、濃縮工程(濃縮手段)が、LiBr化合物水溶液の蒸気圧が11.7kPa以上である条件で加熱することを含む。
【0021】
この方法(システム)では、濃縮工程(濃縮手段)で、水溶液から無水LiBrを含む固体状濃縮物まで(例えば、図1のCからCまで)濃縮する。濃縮の際の温度は、例えば、濃度が高まると共に徐々に上昇するように調整する(例えば、図2のデューリング線図を参照)。上記方法(システム)A1によれば、結晶域を回避しつつ無水塩を形成できると考えられる。これにより、LiBr濃度の高い固体状濃縮物が得られ易く、後述の保管工程(保管手段)で貯蔵できるエネルギーの密度を高めることができると考えられる。
【0022】
この方法(システム)の希釈工程(希釈手段)では、例えば、固体状濃縮物を、水を含む液又は水蒸気と接触させる。
【0023】
以下、各工程(手段)について更に説明する。
【0024】
まず、濃縮工程(濃縮手段)に供する蓄エネルギー材料として、LiBr化合物水溶液を準備する。LiBr化合物水溶液は、LiBr化合物及び水を含む液状組成物である。LiBr化合物水溶液は、LiBr化合物及び水の他、例えば、腐食抑制剤、溶解度調整剤又はアルカリ調整剤を含んでいてもよい。LiBr化合物水溶液における、LiBr濃度は、LiBr化合物水溶液として吸収式ヒートポンプサイクル(例えば、図2のR、R、R及びRのサイクル)用の水溶液(吸収液等)を用いる観点から、LiBr化合物水溶液の全質量を基準として、例えば、52~67質量%であってもよく、55~65質量%であってもよく、58~63質量%であってもよい。この濃度は、低温冷却水を得るサイクルの水溶液を用いる観点から、例えば、52~58質量%であってもよく、高温加熱水を使うサイクルの水溶液を用いる観点から、例えば、63~67質量%であってもよい。LiBr水溶液において、LiBr化合物及び水以外の成分の含有量は、LiBr化合物水溶液の全質量を基準として、例えば、5質量%以下である。
【0025】
準備したLiBr化合物水溶液を濃縮工程(濃縮手段)に供することにより、LiBr化合物水溶液から水を分離し、無水LiBrを含む固体状濃縮物を形成する。これにより、固体状濃縮物に濃度差の形で水蒸気を吸収するポテンシャルエネルギーが蓄えられる。
【0026】
濃縮工程(濃縮手段)は、LiBr化合物水溶液の蒸気圧が11.7kPa以上である条件で加熱することを含む。これにより、無水LiBrを含む固体状濃縮物を形成し易い傾向にある。また、このような条件で加熱することにより、無水塩が形成される前に、固体状水和物が形成されることが抑制される傾向にある。
【0027】
濃縮工程(濃縮手段)では、LiBr濃度が67質量%以下であるLiBr化合物水溶液を、LiBr化合物水溶液の蒸気圧が11.7kPa以上である条件で156℃以上の温度まで加熱することにより、濃縮して、無水LiBrを含む固体状濃縮物を形成してもよい。上記圧力条件での加熱温度の下限(加熱し始めの温度)は、例えば、濃縮前のLiBr化合物水溶液の濃度に対応して適宜調整する。
【0028】
濃縮工程(濃縮手段)では、105℃~156℃の温度範囲でのLiBr化合物水溶液の蒸気圧が11.7kPa~20kPaとなるように、圧力を制御してもよく、125℃~156℃の温度範囲でのLiBr化合物水溶液の蒸気圧が11.7kPa~15kPaとなるように、圧力を制御してもよい。
【0029】
濃縮工程(濃縮手段)では、165℃以上の温度まで加熱し、かつ、105℃~165℃の温度範囲でのLiBr化合物水溶液の蒸気圧が11.7~20kPaとなるように、圧力を制御してもよく、165℃以上の温度まで加熱し、かつ、125℃~165℃の温度範囲でのLiBr化合物水溶液の蒸気圧が11.7kPa~15kPaとなるように、圧力を制御してもよい。
【0030】
無水LiBrを含む固体状濃縮物におけるLiBr濃度は、固体状濃縮物の全質量に対して、例えば、82.8~100.0質量%であってもよく、90.0~100.0質量%であってもよく、95.0~100.0質量%であってもよい。この濃度が高いほど、エネルギーの保有量が多いことから、後述の保管工程(保管手段)で貯蔵できるエネルギーの密度を高めることができる。
【0031】
得られた固体濃縮物は、必要に応じ、保管することができる。すなわち、濃縮工程(濃縮手段)と希釈工程(希釈手段)との間に、固体濃縮物を保管する保管工程(保管手段)を備えていてもよい。
【0032】
保管の条件は、空気や水蒸気が流入しない密閉状態を維持する条件が好ましい。この場合、温度の管理は必ずしも必要ではない。保管期間は、例えば、1日から数年である。
【0033】
続いて、固体状濃縮物を希釈工程(希釈手段)に供する。これにより、固体状濃縮物に蓄えられていたエネルギーが放出される。上記固体状濃縮物は、無水LiBrを含むため、水蒸気や水の吸収が速やかでエネルギーの取り出しが容易である。
【0034】
希釈工程(希釈手段)では、例えば、固体状濃縮物を、水を含む液又は水蒸気と接触させることにより、固体状濃縮物に水を供給して固体状濃縮物を希釈する。
【0035】
水を含む液の具体例は、水、LiBr化合物水溶液、を含む。水を含む液において、水以外の成分の含有量は、固体状濃縮物からの急速なエネルギー放出を避ける観点から、水を含む液の全質量を基準として、例えば、70.7~82.8質量%であってもよく、61.6~82.8質量%であってもよい。水を含む液は、吸収式ヒートポンプサイクル(例えば、図2のR、R、R及びRのサイクル)用の水溶液(吸収液等)であってもよい。この場合、水を含む液における水以外の成分の含有量は、水を含む液の全質量を基準として、例えば、52~67質量%であってもよく、55~65質量%であってもよく、58~63質量%であってもよい。
【0036】
希釈工程(希釈手段)における水蒸気圧は、最適利用濃度まで希釈する過程での水和物の発生を低減する観点から、例えば、11.7~20.0kPaとすることができる。この水蒸気圧は、温熱(例えば、80℃程度の温水)を回収する観点から、例えば、3.0~15.0kPaとしてもよく、冷熱(例えば、5℃程度の冷水)を回収する観点から、0.5~1.0kPaとしてもよい。
【0037】
希釈工程(希釈手段)における温度は、例えば、最適利用濃度まで希釈する過程での水和物の発生を低減する観点から、例えば、100~156℃とすることができる。この温度は、温熱(例えば、80℃程度の温水)を回収する観点から、例えば、50~100℃としてもよく、冷熱(例えば、5℃程度の冷水)を回収する観点から、20~60℃としてもよい。希釈工程(希釈手段)における水蒸気圧及び温度の組み合わせは、11.7~20.0kPa及び100~156℃の組み合わせ、3.0~15.0kPa及び50~100℃の組み合わせ、又は0.5~1.0kPa及び20~60℃の組み合わせであってもよい。
【0038】
上述のとおり、水を含む液は、吸収式ヒートポンプサイクルの吸収液であってもよい。すなわち、上記固体状濃縮物は、吸収式ヒートポンプサイクルの吸収液の再生に用いてもよい。
【0039】
濃縮工程(濃縮手段)で分離された水は、必要に応じ別途保管することができる。すなわち、この方法(システム)は、濃縮工程(濃縮手段)で分離された水を保管する保管工程(保管手段)を更に備えていてもよい。
【0040】
〔方法(システム)B〕
方法(システム)Bの一例について説明する。
【0041】
この方法(システム)は、濃縮工程(濃縮手段)では、LiBr濃度67質量%以下であるLiBr化合物水溶液を、LiBr化合物水溶液の蒸気圧が0.5kPa以上11.7kPa未満である条件で加熱することにより、固体状濃縮物を形成し、無水化工程(無水化手段)では、固体状濃縮物を156℃以上に加熱することにより無水LiBrを形成し、希釈工程(希釈手段)では、前記無水LiBrと水を含む液又は水蒸気とを接触させる。
【0042】
この方法(システム)では、例えば、無水LiBrが形成される前の段階まで(例えば、図1のCからCまで)濃縮して固体状濃縮物を得る。この場合、固体状濃縮物は、希釈工程(希釈手段)に供する前に、無水化工程(無水化手段)に供することにより、無水LiBr以外のLiBr化合物を、無水LiBrに変換する(図1のCからC)。濃縮及び無水化の際の温度は、例えば、濃度が高まると共に徐々に上昇するように調整する(例えば、図2のデューリング線図を参照)。上記方法(システム)Bは、無水化工程(無水化手段)で無水LiBrを得るため、濃縮工程(濃縮手段)の条件を簡便なものとすることができる。
【0043】
以下、各工程(手段)について更に説明する。
【0044】
まず、濃縮工程(濃縮手段)に供する蓄エネルギー材料として、LiBr化合物水溶液を準備する。LiBr化合物水溶液の好ましい態様は上記と同様である。
【0045】
準備したLiBr化合物水溶液を濃縮工程(濃縮手段)に供することにより、LiBr化合物水溶液から水を分離して、固体状濃縮物を得る。これにより、固体状濃縮物に濃度差の形で水蒸気を吸収するポテンシャルエネルギーが蓄えられる。
【0046】
濃縮工程(濃縮手段)では、LiBr濃度67質量%以下であるLiBr化合物水溶液を、前記LiBr化合物水溶液の蒸気圧が0.5kPa以上11.7kPa未満である条件で加熱することにより、固体状濃縮物を形成する。このような条件で濃縮することにより、後述の無水化工程(無水化手段)で、無水LiBrを形成し易い傾向にある。
【0047】
固体状濃縮物におけるLiBr濃度は、固体状濃縮物の全質量に対して、例えば、61.6質量%以上82.8質量%未満であってもよく、70.7質量%以上82.8質量%未満であってもよい。また、固体状濃縮物は、水溶液中で析出した状態で存在していてもよい。この濃度が高いほど、エネルギーの保有量が多いことから、後述の保管工程(保管手段)で貯蔵できるエネルギーの密度を高めることができる。
【0048】
得られた固体濃縮物は、必要に応じ、保管することができる。すなわち、濃縮工程(濃縮手段)と無水化工程(無水化手段)との間に、固体濃縮物を保管する保管工程(保管手段)を備えていてもよい。
【0049】
保管の条件は、空気や水蒸気が流入しない密閉状態を維持する条件が好ましい。この場合、温度の管理は必ずしも必要ではない。保管期間は、例えば、1日から数年である。
【0050】
続いて、固体状濃縮物を無水化工程(無水化手段)に供する。
【0051】
無水化工程(無水化手段)では、固体状濃縮物を156℃以上に加熱することにより無水LiBrを形成する。固体状濃縮物の加熱温度は、無水LiBrが形成されやすい観点から、165℃以上であってもよく、170℃以上であってもよく、175℃以上であってもよい。この温度が高い程、無水化し易い一方、省エネルギーの観点及び高圧条件を避ける観点から、この温度は低い方が好ましい。
【0052】
続いて、得られた無水LiBrを希釈工程(希釈手段)に供する。これにより、固体状濃縮物に蓄えられていたエネルギーが放出される。
【0053】
希釈工程では、無水LiBrと水を含む液又は水蒸気とを接触させる。
【0054】
水を含む液の具体例は、水、LiBr化合物水溶液、を含む。水を含む液において、水以外の成分の含有量は、固体状濃縮物からの急速なエネルギー放出を避ける観点から、水を含む液の全質量を基準として、例えば、70.7~82.8質量%であってもよく、61.6~82.8質量%であってもよい。水を含む液は、吸収式ヒートポンプサイクル(例えば、図2のR、R、R及びRのサイクル)用の水溶液(吸収液等)であってもよい。この場合、水を含む液における水以外の成分の含有量は、水を含む液の全質量を基準として、例えば、52~67質量%であってもよく、55~65質量%であってもよく、58~63質量%であってもよい。
【0055】
希釈工程(希釈手段)における水蒸気圧は、最適利用濃度まで希釈する過程での水和物の発生を低減する観点から、例えば、11.7~20.0kPaとすることができる。この水蒸気圧は、温熱(例えば、80℃程度の温水)を回収する観点から、例えば、3.0~15.0kPaとしてもよく、冷熱(例えば、5℃程度の冷水)を回収する観点から、0.5~1.0kPaとしてもよい。
【0056】
希釈工程(希釈手段)における温度は、例えば、最適利用濃度まで希釈する過程での水和物の発生を低減する観点から、例えば、100~156℃とすることができる。この温度は、温熱(例えば、80℃程度の温水)を回収する観点から、例えば、50~100℃としてもよく、冷熱(例えば、5℃程度の冷水)を回収する観点から、20~60℃としてもよい。希釈工程(希釈手段)における水蒸気圧及び温度の組み合わせは、11.7~20.0kPa及び100~156℃の組み合わせ、3.0~15.0kPa及び50~100℃の組み合わせ、又は0.5~1.0kPa及び20~60℃の組み合わせであってもよい。
【0057】
上述のとおり、水を含む液は、吸収式ヒートポンプサイクルの吸収液であってもよい。すなわち、上記固体状濃縮物は、吸収式ヒートポンプサイクルの吸収液の再生に用いてもよい。
【0058】
濃縮工程(濃縮手段)で分離された水は、必要に応じ別途保管することができる。すなわち、この方法(システム)は、濃縮工程(濃縮手段)で分離された水を保管する保管工程(保管手段)を更に備えていてもよい。
【0059】
〔方法(システム)A2〕
方法(システム)Aの他の例について説明する。
【0060】
この方法(システム)は、濃縮工程(濃縮手段)では、LiBr濃度67質量%以下であるLiBr化合物水溶液を、前記LiBr化合物水溶液の蒸気圧が0.5kPa以上11.7kPa未満である条件で156℃以上の温度まで加熱することにより、固体状濃縮物を形成し、前記希釈工程(希釈手段)では、前記固体状濃縮物を、水を含む液又は水蒸気と接触させる。上記圧力条件での加熱温度の下限(加熱し始めの温度)は、例えば、濃縮前のLiBr化合物水溶液の濃度に対応して適宜調整する。
【0061】
この方法(システム)では、濃縮工程(濃縮手段)で、水溶液から無水LiBrを含む固体状濃縮物まで(例えば、図1のCからCまで)濃縮する。濃縮の際の温度は、例えば、濃度が高まると共に徐々に上昇するように調整する(例えば、図2のデューリング線図を参照)。通常、結晶域で流動性が失われると無水化が難しくなる傾向にある。その一方で、上記方法(システム)A2によれば、結晶域を通過するものの、結晶域でもある程度の流動性を残すことができるため、無水塩を形成が可能となると考えられる。すなわち、LiBr濃度の高い固体状濃縮物が得られ易いことから、後述の保管工程(保管手段)で貯蔵できるエネルギーの密度を高めることができると考えられる。
【0062】
以下、各工程(手段)について更に説明する。
【0063】
濃縮工程(濃縮手段)に供する蓄エネルギー材料として、LiBr化合物水溶液を準備する。LiBr化合物水溶液の好ましい態様は上記と同様である。
【0064】
準備したLiBr化合物水溶液を濃縮工程(濃縮手段)に供することにより、LiBr化合物水溶液から水を分離し、無水LiBrを含む固体状濃縮物を形成する。これにより、固体状濃縮物に濃度差の形で水蒸気を吸収するポテンシャルエネルギーが蓄えられる。
【0065】
濃縮工程(濃縮手段)では、LiBr濃度67質量%以下であるLiBr化合物水溶液を、LiBr化合物水溶液の蒸気圧が0.5kPa以上11.7kPa未満である条件で156℃以上の温度まで加熱することにより、固体状濃縮物を形成する。濃縮の途中で固体状水和物が形成され流動性が失われると、無水塩が形成され難い傾向にある。一方で、このような条件で加熱すると、固体状水和物は発生するものの、全く流動性を失ってしまうことは回避できると考えられる。したがって、濃縮工程(濃縮手段)がこのようなものであると、固体状水和物を経由しつつも、容易に無水LiBrを得ることができると考えられる。
【0066】
濃縮工程(濃縮手段)では、LiBr濃度67質量%以下であるLiBr化合物水溶液を、LiBr化合物水溶液の蒸気圧が0.5kPa以上11.7kPa未満である条件で165℃以上の温度まで加熱してもよい。
【0067】
無水LiBrを含む固体状濃縮物におけるLiBr濃度は、固体状濃縮物の全質量に対して、例えば、82.8~100.0質量%であってもよく、90.0~100.0質量%であってもよく、95.0~100.0質量%であってもよい。この濃度が高いほど、エネルギーの保有量が多いことから、後述の保管工程(保管手段)で貯蔵できるエネルギーの密度を高めることができる。
【0068】
得られた固体濃縮物は、必要に応じ、保管することができる。すなわち、濃縮工程(濃縮手段)と希釈工程(希釈手段)との間に、固体濃縮物を保管する保管工程(保管手段)を備えていてもよい。
【0069】
保管の条件は、空気や水蒸気が流入しない密閉状態を維持する条件が好ましい。この場合、温度の管理は必ずしも必要ではない。保管期間は、例えば、1日から数年である。
【0070】
続いて、固体状濃縮物を希釈工程(希釈手段)に供する。これにより、固体状濃縮物に蓄えられていたエネルギーが放出される。上記固体状濃縮物は、無水LiBrを含むため、水蒸気や水の吸収が速やかでエネルギーの取り出しが容易である。
【0071】
希釈工程(希釈手段)では、例えば、固体状濃縮物を、水を含む液又は水蒸気と接触させることにより、固体状濃縮物に水を供給して固体状濃縮物を希釈する。
【0072】
水を含む液の具体例は、水、LiBr化合物水溶液、を含む。水を含む液において、水以外の成分の含有量は、固体状濃縮物からの急速なエネルギー放出を避ける観点から、水を含む液の全質量を基準として、例えば、70.7~82.8質量%であってもよく、61.6~82.8質量%であってもよい。水を含む液は、吸収式ヒートポンプサイクル(例えば、図2のR、R、R及びRのサイクル)用の水溶液(吸収液等)であってもよい。この場合、水を含む液における水以外の成分の含有量は、水を含む液の全質量を基準として、例えば、52~67質量%であってもよく、55~65質量%であってもよく、58~63質量%であってもよい。
【0073】
希釈工程(希釈手段)における水蒸気圧は、最適利用濃度まで希釈する過程での水和物の発生を低減する観点から、例えば、11.7~20.0kPaとすることができる。この水蒸気圧は、温熱(例えば、80℃程度の温水)を回収する観点から、例えば、3.0~15.0kPaとしてもよく、冷熱(例えば、5℃程度の冷水)を回収する観点から、0.5~1.0kPaとしてもよい。
【0074】
希釈工程(希釈手段)における温度は、例えば、最適利用濃度まで希釈する過程での水和物の発生を低減する観点から、例えば、100~156℃とすることができる。この温度は、温熱(例えば、80℃程度の温水)を回収する観点から、例えば、50~100℃としてもよく、冷熱(例えば、5℃程度の冷水)を回収する観点から、20~60℃としてもよい。希釈工程(希釈手段)における水蒸気圧及び温度の組み合わせは、11.7~20.0kPa及び100~156℃の組み合わせ、3.0~15.0kPa及び50~100℃の組み合わせ、又は0.5~1.0kPa及び20~60℃の組み合わせであってもよい。
【0075】
上述のとおり、水を含む液は、吸収式ヒートポンプサイクルの吸収液であってもよい。すなわち、上記固体状濃縮物は、吸収式ヒートポンプサイクルの吸収液の再生に用いてもよい。
【0076】
濃縮工程(濃縮手段)で分離された水は、必要に応じ別途保管することができる。すなわち、この方法(システム)は、濃縮工程(濃縮手段)で分離された水を保管する保管工程(保管手段)を更に備えていてもよい。
【0077】
[第2態様]LiCl化合物を含む蓄エネルギー材料
次に、LiCl化合物を含む蓄エネルギー材料を用いる場合の具体例を説明する。
【0078】
〔方法(システム)A1〕
方法(システム)Aの一例について説明する。
【0079】
この方法(システム)は、濃縮工程(濃縮手段)が、LiCl化合物水溶液の蒸気圧が7.0kPa以上である条件で加熱することを含む。
【0080】
この方法(システム)では、濃縮工程(濃縮手段)で、水溶液から無水LiClを含む固体状濃縮物まで濃縮する。濃縮の際の温度は、例えば、濃度が高まると共に徐々に上昇するように調整する。この方法(システム)によれば、結晶域を回避しつつ無水塩を形成できると考えられる。これにより、LiCl濃度の高い固体状濃縮物が得られ易く、後述の保管工程(保管手段)で貯蔵できるエネルギーの密度を高めることができると考えられる。
【0081】
この方法(システム)の希釈工程(希釈手段)では、例えば、固体状濃縮物を、水を含む液又は水蒸気と接触させる。
【0082】
以下、各工程(手段)について更に説明する。
【0083】
まず、濃縮工程(濃縮手段)に供する蓄エネルギー材料として、LiCl化合物水溶液を準備する。LiCl化合物水溶液は、LiCl化合物及び水を含む液状組成物である。LiCl化合物水溶液は、LiCl化合物及び水の他、例えば、腐食抑制剤、溶解度調整剤又はアルカリ調整剤を含んでいてもよい。LiCl化合物水溶液における、LiCl濃度は、LiCl化合物水溶液として吸収式ヒートポンプサイクル用の水溶液(吸収液等)を用いる観点から、LiCl化合物水溶液の全質量を基準として、例えば、30~46質量%であってもよく、35~45質量%であってもよく、39~44質量%であってもよい。LiCl水溶液において、LiCl化合物及び水以外の成分の含有量は、LiCl化合物水溶液の全質量を基準として、例えば、5質量%以下である。
【0084】
準備したLiCl化合物水溶液を濃縮工程(濃縮手段)に供することにより、LiCl化合物水溶液から水を分離し、無水LiClを含む固体状濃縮物を形成する。これにより、固体状濃縮物に濃度差の形で水蒸気を吸収するポテンシャルエネルギーが蓄えられる。
【0085】
濃縮工程(濃縮手段)は、LiCl化合物水溶液の蒸気圧が7.0kPa以上である条件で加熱することを含む。これにより、無水LiClを含む固体状濃縮物を形成し易い傾向にある。また、このような条件で加熱することにより、無水塩が形成される前に、固体状水和物が形成されることが抑制される傾向にある。
【0086】
濃縮工程(濃縮手段)では、LiCl濃度46質量%以下であるLiCl化合物水溶液を、LiCl化合物水溶液の蒸気圧が7.0kPa以上である条件で94℃以上の温度まで加熱することにより、濃縮して、無水LiClを含む固体状濃縮物を形成してもよい。上記圧力条件での加熱温度の下限(加熱し始めの温度)は、例えば、濃縮前のLiBr化合物水溶液の濃度に対応して適宜調整する。
【0087】
濃縮工程(濃縮手段)では、LiCl濃度46質量%以下であるLiCl化合物水溶液を、LiCl化合物水溶液の蒸気圧が7.0kPa以上である条件で100.5℃以上の温度まで加熱してもよい。
【0088】
濃縮工程(濃縮手段)では、80℃~94℃の温度範囲でのLiCl化合物水溶液の蒸気圧が7.0kPa~15kPaとなるように、圧力を制御してもよく、80℃~100.5℃の温度範囲でのLiCl化合物水溶液の蒸気圧が7.0kPa~15kPaとなるように、圧力を制御してもよく、80℃~100.5℃の温度範囲でのLiCl化合物水溶液の蒸気圧が7.0kPa~12kPaとなるように、圧力を制御してもよい。
【0089】
無水LiClを含む固体状濃縮物におけるLiCl濃度は、固体状濃縮物の全質量に対して、例えば、70.2~100.0質量%であってもよく、80.0~100.0質量%であってもよく、90.0~100.0質量%であってもよい。この濃度が高いほど、エネルギーの保有量が多いことから、後述の保管工程(保管手段)で貯蔵できるエネルギーの密度を高めることができる。
【0090】
得られた固体濃縮物は、必要に応じ、保管することができる。すなわち、濃縮工程(濃縮手段)と希釈工程(希釈手段)との間に、固体濃縮物を保管する保管工程(保管手段)を備えていてもよい。
【0091】
保管の条件は、空気や水蒸気が流入しない密閉状態を維持する条件が好ましい。この場合、温度の管理は必ずしも必要ではない。保管期間は、例えば、1日から数年である。
【0092】
続いて、固体状濃縮物を希釈工程(希釈手段)に供する。これにより、固体状濃縮物に蓄えられていたエネルギーが放出される。上記固体状濃縮物は、無水LiClを含むため、水蒸気や水の吸収が速く、エネルギーの取り出しが容易である。
【0093】
希釈工程(希釈手段)では、例えば、固体状濃縮物を、水を含む液又は水蒸気と接触させることにより、固体状濃縮物に水を供給して固体状濃縮物を希釈する。
【0094】
水を含む液の具体例は、水、LiCl化合物水溶液を含む。水を含む液が、水以外の成分を含む場合、水以外の成分としては、例えば、LiCl化合物、腐食抑制剤及び溶解度調整剤が挙げられる。水を含む液において、水以外の成分の含有量は、固体状濃縮物からの急速なエネルギー放出を避ける観点から、水を含む液の全質量を基準として、例えば、54.1~70.2質量%であってもよく、44.0~70.2質量%であってもよい。水を含む液は、吸収式ヒートポンプサイクル用の水溶液(吸収液等)であってもよい。この場合、水を含む液における水以外の成分の含有量は、水を含む液の全質量を基準として、例えば、30~46質量%であってもよく、35~45質量%であってもよく、39~44質量%であってもよい。
【0095】
希釈工程(希釈手段)における水蒸気圧は、最適利用濃度まで希釈する過程での水和物の発生を低減する観点から、例えば、7.0~15.0kPaとすることができる。この水蒸気圧は、温熱(例えば、80℃程度の温水)を回収する観点から、例えば、5.0~10.0kPaとしてもよく、冷熱(例えば、5℃程度の冷水)を回収する観点から、0.5~1.0kPaとしてもよい。
【0096】
希釈工程(希釈手段)における温度は、例えば、最適利用濃度まで希釈する過程での水和物の発生を低減する観点から、例えば、85~100℃とすることができる。この温度は、温熱(例えば、80℃程度の温水)を回収する観点から、例えば、55~85℃としてもよく、冷熱(例えば、5℃程度の冷水)を回収する観点から、20~40℃としてもよい。希釈工程における水蒸気圧及び温度の組み合わせは、7.0~15.0kPa及び85~100℃の組み合わせ、5.0~10.0kPa及び55~85℃の組み合わせ、又は0.5~1.0kPa及び20~40℃の組み合わせであってもよい。
【0097】
上述のとおり、水を含む液は、吸収式ヒートポンプサイクルの吸収液であってもよい。すなわち、上記固体状濃縮物は、吸収式ヒートポンプサイクルの吸収液の再生に用いてもよい。
【0098】
濃縮工程(濃縮手段)で分離された水は、必要に応じ別途保管することができる。すなわち、この方法(システム)は、濃縮工程(濃縮手段)で分離された水を保管する保管工程(保管手段)を更に備えていてもよい。
【0099】
〔方法(システム)B〕
方法(システム)Bの一例について説明する。
【0100】
この方法(システム)は、濃縮工程(濃縮手段)では、LiCl濃度46質量%以下であるLiCl化合物水溶液を、LiCl化合物水溶液の蒸気圧が0.2kPa以上7.0kPa未満である条件で、加熱することにより、固体状濃縮物を形成し、無水化工程では、固体状濃縮物を94℃以上に加熱することにより無水LiClを形成し、希釈工程では、前記無水LiClと水を含む液又は水蒸気とを接触させる。
【0101】
この方法(システム)では、例えば、無水LiClが形成される前の段階まで濃縮して固体状濃縮物を得る。この場合、固体状濃縮物は、希釈工程(希釈手段)に供する前に、無水化工程(無水化手段)に供することにより、無水LiCl以外のLiCl化合物を、無水LiClに変換する。濃縮及び無水化の際の温度は、例えば、濃度が高まると共に徐々に上昇するように調整する。この方法(システム)は、無水化工程(無水化手段)で無水LiClを得るため、濃縮工程(濃縮手段)の条件を簡便なものとすることができる。
【0102】
以下、各工程(手段)について更に説明する。
【0103】
まず、濃縮工程(濃縮手段)に供する蓄エネルギー材料として、LiCl化合物水溶液を準備する。LiCl化合物水溶液の好ましい態様は上記と同様である。
【0104】
準備したLiCl化合物水溶液を濃縮工程(濃縮手段)に供することにより、LiCl化合物水溶液から水を分離して、固体状濃縮物を得る。これにより、固体状濃縮物に濃度差の形で水蒸気を吸収するポテンシャルエネルギーが蓄えられる。
【0105】
濃縮工程(濃縮手段)では、LiCl濃度46質量%以下であるLiCl化合物水溶液を、LiCl化合物水溶液の蒸気圧が0.2kPa以上7.0kPa未満である条件で、加熱することにより、固体状濃縮物を形成する。このような条件で濃縮することにより、後述の無水化工程(無水化手段)で、無水LiClを形成し易い傾向にある。
【0106】
固体状濃縮物におけるLiCl濃度は、固体状濃縮物の全質量に対して、例えば、54.1質量%以上70.2質量%未満であってもよく、44.0質量%以上70.2質量%未満であってもよい。また、固体状濃縮物は、水溶液中で析出した状態で存在していてもよい。この濃度が高いほど、エネルギーの保有量が多いことから、後述の保管工程(保管手段)で貯蔵できるエネルギーの密度を高めることができる。
【0107】
得られた固体濃縮物は、必要に応じ、保管することができる。すなわち、濃縮工程(濃縮手段)と無水化工程(無水化手段)との間に、固体濃縮物を保管する保管工程(保管手段)を備えていてもよい。
【0108】
保管の条件は、空気や水蒸気が流入しない密閉状態を維持する条件が好ましい。この場合、温度の管理は必ずしも必要ではない。保管期間は、例えば、1日から数年である。
【0109】
続いて、固体状濃縮物を無水化工程(無水化手段)に供する。
【0110】
無水化工程(無水化手段)では、固体状濃縮物を94℃以上に加熱することにより無水LiClを形成する。固体状濃縮物の加熱温度は、無水LiClが形成されやすい観点から、100.5℃以上であってもよく、105.0℃以上であってもよく、110.0℃以上であってもよい。この温度が高い程、無水化し易い一方、省エネルギーの観点及び高圧条件を避ける観点から、この温度は低い方が好ましい。
【0111】
続いて、得られた無水LiClを希釈工程(希釈手段)に供する。これにより、固体状濃縮物に蓄えられていたエネルギーが放出される。
【0112】
希釈工程では、前記無水LiClと水を含む液又は水蒸気とを接触させる。
【0113】
水を含む液の具体例は、水、LiCl化合物水溶液を含む。水を含む液が、水以外の成分を含む場合、水以外の成分としては、例えば、LiCl化合物、腐食抑制剤及び溶解度調整剤が挙げられる。水を含む液において、水以外の成分の含有量は、例えば、固体状濃縮物からの急速なエネルギー放出を避ける観点から、水を含む液の全質量を基準として、例えば、54.1~70.2質量%であってもよく、44.0~70.2質量%であってもよい。水を含む液は、吸収式ヒートポンプサイクル用の水溶液(吸収液等)であってもよい。この場合、水を含む液における水以外の成分の含有量は、水を含む液の全質量を基準として、例えば、30~46質量%であってもよく、35~45質量%であってもよく、39~44質量%であってもよい。
【0114】
希釈工程(希釈手段)における水蒸気圧は、最適利用濃度まで希釈する過程での水和物の発生を低減する観点から、例えば、7.0~15.0kPaとすることができる。この水蒸気圧は、温熱(例えば、80℃程度の温水)を回収する観点から、例えば、5.0~10.0kPaとしてもよく、冷熱(例えば、5℃程度の冷水)を回収する観点から、0.5~1.0kPaとしてもよい。
【0115】
希釈工程(希釈手段)における温度は、例えば、最適利用濃度まで希釈する過程での水和物の発生を低減する観点から、例えば、85~100℃とすることができる。この温度は、温熱(例えば、80℃程度の温水)を回収する観点から、例えば、55~85℃としてもよく、冷熱(例えば、5℃程度の冷水)を回収する観点から、20~40℃としてもよい。希釈工程(希釈手段)における水蒸気圧及び温度の組み合わせは、7.0~15.0kPa及び85~100℃の組み合わせ、5.0~10.0kPa及び55~85℃の組み合わせ、又は0.5~1.0kPa及び20~40℃の組み合わせであってもよい。
【0116】
上述のとおり、水を含む液は、吸収式ヒートポンプサイクルの吸収液であってもよい。すなわち、上記固体状濃縮物は、吸収式ヒートポンプサイクルの吸収液の再生に用いてもよい。
【0117】
濃縮工程(濃縮手段)で分離された水は、必要に応じ別途保管することができる。すなわち、この方法(システム)は、濃縮工程(濃縮手段)で分離された水を保管する保管工程(保管手段)を更に備えていてもよい。
【0118】
〔方法(システム)A2〕
方法(システム)Aの他の例について説明する。
【0119】
この方法(システム)は、濃縮工程(濃縮手段)では、LiCl濃度46質量%以下であるLiCl化合物水溶液を、前記LiCl化合物水溶液の蒸気圧が0.2kPa以上7.0kPa未満である条件で、94℃以上の温度まで加熱することにより、固体状濃縮物を形成し、希釈工程(希釈手段)では、前記固体状濃縮物を、水を含む液又は水蒸気と接触させる。上記圧力条件での加熱温度の下限(加熱し始めの温度)は、例えば、濃縮前のLiBr化合物水溶液の濃度に対応して適宜調整する。
【0120】
この方法(システム)では、濃縮工程(濃縮手段)で、水溶液から無水LiClを含む固体状濃縮物まで濃縮する。濃縮の際の温度は、例えば、濃度が高まると共に徐々に上昇するように調整する。通常、結晶域で流動性が失われると無水化が難しくなる傾向にある。その一方で、この方法(システム)によれば、結晶域を通過するものの、結晶域でもある程度の流動性を残すことができるため、無水塩を形成が可能となると考えられる。すなわち、LiCl濃度の高い固体状濃縮物が得られ易いことから、後述の保管工程(保管手段)で貯蔵できるエネルギーの密度を高めることができると考えられる。
【0121】
以下、各工程(手段)について更に説明する。
【0122】
まず、濃縮工程(濃縮手段)に供する蓄エネルギー材料として、LiCl化合物水溶液を準備する。LiCl化合物水溶液の好ましい態様は上記と同様である。
【0123】
準備したLiCl化合物水溶液を濃縮工程(濃縮手段)に供することにより、LiCl化合物水溶液から水を分離し、無水LiClを含む固体状濃縮物を形成する。これにより、固体状濃縮物に濃度差の形で水蒸気を吸収するポテンシャルエネルギーが蓄えられる。
【0124】
濃縮工程(濃縮手段)では、LiCl濃度46質量%以下であるLiCl化合物水溶液を、前記LiCl化合物水溶液の蒸気圧が0.2kPa以上7.0kPa未満である条件で、94℃以上の温度まで加熱することにより、固体状濃縮物を形成する。濃縮の途中で固体状水和物が形成され流動性が失われると、無水塩が形成され難い傾向にある。一方で、このような条件で加熱すると、固体状水和物は発生するものの、全く流動性を失ってしまうことは回避できると考えられる。したがって、濃縮工程(濃縮手段)がこのようなものであると、固体状水和物を経由しつつも、容易に無水LiClを得ることができると考えられる。
【0125】
濃縮工程(濃縮手段)では、LiCl濃度46質量%以下であるLiCl化合物水溶液を、LiCl化合物水溶液の蒸気圧が0.2kPa以上7.0kPa未満である条件で、100.5℃以上の温度まで加熱してもよい。
【0126】
無水LiClを含む固体状濃縮物におけるLiCl濃度は、固体状濃縮物の全質量に対して、例えば、70.2~100.0質量%であってもよく、80.0~100.0質量%であってもよく、90.0~100.0質量%であってもよい。この濃度が高いほど、エネルギーの保有量が多いことから、後述の保管工程(保管手段)で貯蔵できるエネルギーの密度を高めることができる。
【0127】
得られた固体濃縮物は、必要に応じ、保管することができる。すなわち、濃縮工程(濃縮手段)と希釈工程(希釈手段)との間に、固体濃縮物を保管する保管工程(保管手段)を備えていてもよい。
【0128】
保管の条件は、空気や水蒸気が流入しない密閉状態を維持する条件が好ましい。この場合、温度の管理は必ずしも必要ではない。保管期間は、例えば、1日から数年である。
【0129】
続いて、固体状濃縮物を希釈工程(希釈手段)に供する。これにより、固体状濃縮物に蓄えられていたエネルギーが放出される。上記固体状濃縮物は、無水LiClを含むため、水蒸気や水の吸収が速く、エネルギーの取り出しが容易である。
【0130】
希釈工程(希釈手段)では、例えば、固体状濃縮物を、水を含む液又は水蒸気と接触させることにより、固体状濃縮物に水を供給して固体状濃縮物を希釈する。
【0131】
水を含む液の具体例は、水、LiCl化合物水溶液を含む。水を含む液が、水以外の成分を含む場合、水以外の成分としては、例えば、LiCl化合物、腐食抑制剤及び溶解度調整剤が挙げられる。水を含む液において、水以外の成分の含有量は、固体状濃縮物からの急速なエネルギー放出を避ける観点から、水を含む液の全質量を基準として、例えば、54.1~70.2質量%であってもよく、44.0~70.2質量%であってもよい。水を含む液は、吸収式ヒートポンプサイクル用の水溶液(吸収液等)であってもよい。この場合、水を含む液における水以外の成分の含有量は、水を含む液の全質量を基準として、例えば、30~46質量%であってもよく、35~45質量%であってもよく、39~44質量%であってもよい。
【0132】
希釈工程(希釈手段)における水蒸気圧は、最適利用濃度まで希釈する過程での水和物の発生を低減する観点から、例えば、7.0~15.0kPaとすることができる。この水蒸気圧は、温熱(例えば、80℃程度の温水)を回収する観点から、例えば、5.0~10.0kPaとしてもよく、冷熱(例えば、5℃程度の冷水)を回収する観点から、0.5~1.0kPaとしてもよい。
【0133】
希釈工程(希釈手段)における温度は、例えば、最適利用濃度まで希釈する過程での水和物の発生を低減する観点から、例えば、85~100℃とすることができる。この温度は、温熱(例えば、80℃程度の温水)を回収する観点から、例えば、55~85℃としてもよく、冷熱(例えば、5℃程度の冷水)を回収する観点から、20~40℃としてもよい。希釈工程(希釈手段)における水蒸気圧及び温度の組み合わせは、7.0~15.0kPa及び85~100℃の組み合わせ、5.0~10.0kPa及び55~85℃の組み合わせ、又は0.5~1.0kPa及び20~40℃の組み合わせであってもよい。
【0134】
上述のとおり、水を含む液は、吸収式ヒートポンプサイクルの吸収液であってもよい。すなわち、上記固体状濃縮物は、吸収式ヒートポンプサイクルの吸収液の再生に用いてもよい。
【0135】
濃縮工程(濃縮手段)で分離された水は、必要に応じ別途保管することができる。すなわち、この方法(システム)は、濃縮工程(濃縮手段)で分離された水を保管する保管工程(保管手段)を更に備えていてもよい。
【0136】
[第3態様]CaCl化合物を含む蓄エネルギー材料
続いて、CaCl化合物を含む蓄エネルギー材料を用いる場合の具体例を説明する。
【0137】
〔方法(システム)A〕
方法(システム)Aの一例について説明する。
【0138】
この方法(システム)は、濃縮工程(濃縮手段)が、CaCl濃度50.7質量%以下であるCaCl化合物水溶液を、CaCl濃度75.5質量%まで濃縮する第一の濃縮工程(第一の濃縮手段)と、第一の濃縮工程(第一の濃縮手段)で得られた濃縮物を、当該濃縮物の蒸気圧が15kPa以下である条件で加熱して、固体状濃縮物を得る第二の濃縮工程(第二の濃縮手段)を含む。
【0139】
この方法(システム)では、濃縮工程(濃縮手段)で、水溶液から無水CaClを含む固体状濃縮物まで濃縮する。濃縮の際の温度は、例えば、濃度が高まると共に徐々に上昇するように調整する。通常、CaCl化合物は無水化し難い傾向にあるが、この方法(システム)によれば、無水塩を容易に形成できると考えられる。これにより、CaCl濃度の高い固体状濃縮物が得られ易く、後述の保管工程(保管手段)で貯蔵できるエネルギーの密度を高めることができると考えられる。
【0140】
以下、各工程(手段)について更に説明する。
【0141】
まず、濃縮工程(濃縮手段)に供する蓄エネルギー材料として、CaCl化合物水溶液を準備する。CaCl化合物水溶液は、CaCl化合物及び水を含む液状組成物である。CaCl化合物水溶液は、CaCl化合物及び水の他、例えば、腐食抑制剤、溶解度調整剤、又はアルカリ調整剤を含んでいてもよい。CaCl化合物水溶液における、CaCl濃度は、CaCl化合物水溶液の全質量を基準として、50.7質量%以下である。CaCl化合物水溶液において、CaCl化合物及び水以外の成分の含有量は、CaCl化合物水溶液の全質量を基準として、例えば、5質量%以下である。
【0142】
準備したCaCl化合物水溶液を濃縮工程(濃縮手段)に供することにより、CaCl化合物水溶液から水を分離し、無水CaClを含む固体状濃縮物を形成する。これにより、固体状濃縮物に濃度差の形で水蒸気を吸収するポテンシャルエネルギーが蓄えられる。
【0143】
上述のとおり、濃縮工程(濃縮手段)は、CaCl濃度50.7質量%以下であるCaCl水溶液を、CaCl濃度75.5質量%まで濃縮する第一の濃縮工程(第一の濃縮手段)と、第一の濃縮工程(第一の濃縮手段)で得られた濃縮物を、当該濃縮物の蒸気圧が15kPa以下である条件で加熱して、固体状濃縮物を得る第二の濃縮工程(第二の濃縮手段)を含む。これにより、無水CaClを含む固体状濃縮物を形成し易い傾向にある。
【0144】
第一の濃縮工程(第一の濃縮手段)における温度は、CaCl濃度が高まると共に徐々に上昇するように調整することが好ましい。例えば、CaCl濃度が50.7質量%以下では29℃未満とすることができる。この温度は、CaCl濃度が50.7質量%超60.6質量%以下では、29℃以上45℃未満とすることが好ましく、CaCl濃度が60.6質量%超75.5質量%以下では45℃以上とすることが好ましい。このような条件であると、固体領域を通らず水溶液が存在する領域を通る条件で濃縮できると考えられる。これにより、CaCl濃度を高め易く、後述の保管工程で貯蔵できるエネルギーの密度を高めることができると考えられる。
【0145】
第二の濃縮工程(第二の濃縮手段)では、濃縮物の蒸気圧が10kPa以下である条件で加熱してもよい。
【0146】
第一の濃縮工程(第一の濃縮手段)では、CaCl濃度50.7質量%超60.6質量%以下でのCaCl化合物水溶液の蒸気圧が0.9kPa以上になるように、かつ、CaCl濃度60.6質量%超75.5質量%以下でのCaCl化合物水溶液の蒸気圧が1.3kPa以上になるように、圧力を制御してもよい。
【0147】
無水CaClを含む固体状濃縮物におけるCaCl濃度は、固体状濃縮物の全質量に対して、例えば、75.5質量%超100.0質量%以下であってもよく、86.0~100.0質量%であってもよく、90.0~100.0質量%であってもよく、95.0~100.0質量%であってもよい。この濃度が高いほど、エネルギーの保有量が多いことから、後述の保管工程(保管手段)で貯蔵できるエネルギーの密度を高めることができる。したがって、希釈工程で接触させる液の温度が低い場合には特に有用である。
【0148】
得られた固体濃縮物は、必要に応じ、保管することができる。すなわち、濃縮工程(濃縮手段)と希釈工程(希釈手段)との間に、固体濃縮物を保管する保管工程(保管手段)を備えていてもよい。
【0149】
保管の条件は、空気や水蒸気が流入しない密閉状態を維持する条件が好ましい。この場合、温度の管理は必ずしも必要ではない。保管期間は、例えば、1日から数年である。
【0150】
続いて、固体状濃縮物を希釈工程(希釈手段)に供する。これにより、固体状濃縮物に蓄えられていたエネルギーが放出される。上記固体状濃縮物は、無水CaClを含むため、水蒸気や水の吸収が速く、エネルギーの取り出しが容易である。
【0151】
この方法(システム)の希釈工程(希釈手段)では、例えば、前記固体状濃縮物を、水及びCaCl化合物を含む液又は水蒸気と接触させて、前記固体状濃縮物の希釈物を得る。
【0152】
水及びCaCl化合物を含む液は、水及びCaCl化合物以外の成分を含み得る。この成分としては、例えば、腐食防止剤、溶解度調整剤及びアルカリ調整剤が挙げられる。この成分の含有量は、水及びCaCl化合物を含む液の全質量を基準として、例えば、5質量%であってもよい。
【0153】
希釈工程(希釈手段)における水蒸気圧は、エネルギーの回収の目的に応じて適宜調整できる。この水蒸気圧は、冷熱(例えば、30~40℃程度の冷水)を回収する場合、例えば、4.0~6.0kPaとすることができる。この場合の水蒸気圧は、例えば、3.0~8.0kPaとしてもよく、2.0~10.0kPaとしてもよい。
【0154】
希釈工程(希釈手段)における温度は、エネルギーの回収の目的及び方法に応じて適宜調整できる。希釈工程(希釈手段)が、浸透圧差を利用する方法(システム)用のCaCl化合物を含む水溶液を調整する工程(手段)である場合、希釈工程(希釈手段)の温度としては、30.0~70.0℃が好ましく、45.0~65.0℃がより好ましい。希釈工程(希釈手段)が、蒸気圧差を利用する方法(システム)用のCaCl化合物を含む水溶液を調整する工程(手段)である場合、希釈工程(希釈手段)の温度は、70.0~100.0℃であってもよく、60.0~90.0℃であってもよい。
【0155】
上記固体状濃縮物は、吸収式ヒートポンプサイクルの吸収液の再生に用いてもよい。
【0156】
濃縮工程(濃縮手段)で分離された水は、必要に応じ別途保管することができる。すなわち、この方法(システム)は、濃縮工程(濃縮手段)で分離された水を保管する保管工程(保管手段)を更に備えていてもよい。
【0157】
〔浸透圧差を利用する方法(システム)〕
本実施形態に係る方法(システム)は、浸透圧の差を利用して、LiBr化合物又はLiCl化合物を含む水溶液から、CaCl化合物を含む水溶液へと水を移動させることにより、LiBr化合物又はLiCl化合物を含む水溶液を濃縮する濃縮工程(濃縮手段)を更に備え、CaCl化合物を含む水溶液が、固体状濃縮物の希釈物を含む態様(浸透圧差を利用する方法(システム))であってもよい。これにより、貯蔵したエネルギーをより有効に利用できる。図3は、この工程(手段)を説明するための模式図である。図3に示す装置100Aは、容器10及び容器20を備える。容器10及びに容器20には、それぞれ、液10a及び液20aが格納されている。液10aは、CaCl化合物を含む水溶液を含む。CaCl化合物を含む水溶液は、固体状濃縮物の希釈物を含む。また、液10aには、未溶解の固体状濃縮物が混合されていてもよい。液20aは、LiBr化合物又はLiCl化合物を含む水溶液である。液10a及び液20aは、浸透膜30で隔てられている。液10a及び液20aの浸透圧の差を利用すると、LiBr化合物又はLiCl化合物を含む水溶液(液20a)から混合物(液10a)へと水を移動させ、LiBr化合物又はLiCl化合物を含む水溶液(液20a)を濃縮させることができる。また、液10a中の、CaCl濃度が低下した場合には、固体状濃縮物(S1)を、容器10に供給して、液10a中の、CaCl濃度を高めてもよい。
【0158】
CaCl化合物を含む水溶液(液10a)の温度としては、30.0~70.0℃が好ましく、45.0~65.0℃がより好ましい。この温度が45.0℃未満であると、CaCl四水和物を含む固体が生成され易く、45.0℃以上であるとCaCl二水和物を含む水溶液が生成され易い傾向にある。固体は水溶液に比べて取り扱いが難しい傾向にあることから、上記温度は、45.0℃以上が好ましい。
【0159】
〔蒸気圧差を利用する方法(システム)〕
本実施形態に係る方法(システム)は、蒸気圧の差を利用して、LiBr化合物又はLiCl化合物を含む水溶液から水蒸気を抜き出すことにより、LiBr化合物又はLiCl化合物を含む水溶液を濃縮すると共に、抜き出した水蒸気を、CaCl化合物を含む水溶液に吸収させる工程(手段)を更に備え、CaCl化合物を含む水溶液が、固体状濃縮物の希釈物を含む態様(蒸気圧差を利用する方法(システム))であってもよい。これにより、貯蔵したエネルギーをより有効に利用できる。図4は、この工程(手段)を説明するための模式図である。図4に示す装置100Bは、容器10及び容器20を備える。容器10及びに容器20はその一部が連通している。容器10及びに容器20には、気相部が連通し、液相部が隔てられるような状態で、それぞれ液10a及び液20aを格納する。液10aは、CaCl化合物を含む水溶液を含む。CaCl化合物を含む水溶液は、固体状濃縮物の希釈物を含む。また、液10aには、未溶解の固体状濃縮物が混合されていてもよい。液20aは、LiBr化合物又はLiCl化合物を含む水溶液である。液10a及び液20aの蒸気圧の差を利用すると、LiBr化合物又はLiCl化合物を含む水溶液(液20a)から水蒸気を抜き出すと共に、抜き出した水蒸気を混合物(液10a)に吸収させることができる。これにより、LiBr化合物又はLiCl化合物を含む水溶液(液20a)を濃縮させることができる。液10a及び液20aの蒸気圧は、例えば、液10a及び液20aの温度を、それぞれ制御することにより調整できる。この蒸気圧及び温度は、目的に応じ適宜調整できるが、蒸気圧が5kPa程度である場合には、例えば、50~80℃程度である。蒸気圧が低い場合は全体的に温度域が下がり、高い場合は全体的に温度域が上がる方向である。また、液10a中の、CaCl濃度が低下した場合には、固体状濃縮物(S1)を、容器10に供給して、液10a中の、CaCl濃度を高めることもできる。
【0160】
浸透圧差利用する上記方法(システム)及び蒸気圧差を利用する上記方法(システム)は、CaCl化合物を含む蓄エネルギー材料から放出されるエネルギーで、前記LiBr化合物又はLiCl化合物を含む水溶液を加熱する工程(手段)を更に含んでいてもよい。すなわち、例えば、LiBr化合物又はLiCl化合物を含む水溶液(液20a)は、CaCl化合物を含む蓄エネルギー材料から放出されるエネルギーで加熱してもよい。これにより、更に有効にエネルギーを活用できる。
【0161】
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、本実施形態に係る濃縮工程(手段)は、上述した条件で加熱することに加え、加熱後に降温することを含んでいてもよい。この場合、固体状濃縮物は降温時に形成されてもよい。
本実施形態に係る方法(システム)は、いずれも、吸収式ヒートポンプサイクルシステムに好適に適用できる。以下、本実施形態の方法(システム)の適用例について、図5~7を参照しつつ説明する。ここで、図中の、P、V、CV、HE、L、PG、T及びHPは、それぞれ、ポンプ、バルブ、逆止弁、熱交換器、ライン、圧力計、温度計及びヒートパイプを意味する。
【0162】
図5を参照しつつ、単効用冷凍サイクルへの適用例について説明する。この例は、単効用の吸収式冷凍サイクルに、本実施形態に係る方法(システム)を適用したものである。
【0163】
図5に示す装置200は、貯蔵槽1及び2、発生器3、凝縮器4、吸収器5、蒸発器6、冷媒蓄積槽7、希溶液槽8及び9、並びに容器10(調整槽)を主として備えている。
【0164】
吸収器5内には、吸収液(LiBr化合物水溶液又はLiCl化合物水溶液)が格納されており、この吸収液は、水蒸気を吸収する。吸収液が水蒸気を吸収すると、熱が放出され、かつ、吸収器5内の水蒸気圧は低下する。
【0165】
吸収器5は、1つの出口及び2つの入口を有する。吸収器5の出口には、ラインL208が接続されている。ラインL208から分岐するラインL209、L210及びL211が、発生器3、希溶液槽9及び希溶液槽8の入口にそれぞれ接続されている。
【0166】
発生器3は2つの出口を有する。1つの出口は、凝縮器4に連結されており、他の出口はラインL205に接続されている。ラインL205はラインL206とラインL207とに分岐し、ラインL206は貯蔵槽1及び貯蔵槽2に、ラインL207は吸収器5の入口にそれぞれ接続されている。吸収器5の他の入口には、蒸発器6が連結している。
【0167】
希溶液槽9及び希溶液槽8の出口は、それぞれラインL213及びL212を介して、貯蔵槽1及び2の入口に接続されている。貯蔵槽1及び2の出口には、それぞれラインL214及びL215が接続されている。ラインL214及びL215が合流したラインL216が、容器10(調整槽)の入口に接続されている。
【0168】
容器10(調整槽)の出口には、ラインL218が接続されており、ラインL218は、ラインL207に合流している。
【0169】
凝縮器4の出口は、ラインL201を介して、冷媒蓄積槽7に接続されている。冷媒蓄積槽7の出口には、ラインL202が接続されている。ラインL202と、蒸発器6の出口に接続されているライン203と合流したラインL204が、蒸発器の入口に接続されている。
【0170】
続いて、この装置200の運転方法について説明する。
【0171】
〔単効用冷凍サイクル〕
まず、吸収器5に格納された吸収液(LiBr化合物水溶液又はLiCl化合物水溶液)に、水蒸気を吸収させ、吸収液を希釈する。これにより吸収液から、熱が放出され、吸収液の水蒸気圧は低下する。放出された熱(吸収熱)は、冷却水で除去する。また、吸収液の濃度低下に伴い、吸収液の水蒸気吸収能が低下する。吸収液の水蒸気圧の低下に伴い、吸収器5に連結されている蒸発器6の水蒸気圧は低下する。これにより、冷水パイプ(図示しない)に滴下した水を蒸発させることができる。冷水パイプ内の水は、気化熱により冷却される。
【0172】
濃度の低下した吸収液は、ラインL208から抜き出した後、ポンプP5、バルブV6及び熱交換器HE1を介して、L209から発生器3に供給される。発生器3では、濃度の低下した吸収液から水蒸気を脱着させ、吸収液の濃度を再生すると共に、脱着した水蒸気を凝縮器4に供給する。
【0173】
凝縮器4に供給された水蒸気は、冷却水等で冷却することにより除熱し、凝縮させる。水蒸気を凝縮させて得た凝縮液は、ラインL201から抜き出した後、冷媒蓄積槽7に供給する。
【0174】
冷媒蓄積槽7では、上記凝縮液を必要に応じ保管する。保管された凝縮液は、ラインL202から抜き出し、バルブV5及び逆止弁CV1を介し、蒸発器6に供給され、蒸発器6内で気化する。また、蒸発器6内で気化せずに残った液体は、ラインL203から抜き出し、ポンプP4を通過させた後、凝縮液と合流させ、蒸発器6に供給する。
【0175】
〔上述した実施形態に係る濃縮及び保管工程(濃縮及び保管手段)〕
ラインL208から分岐するライン上に設けられたバルブV7を調整することにより、ラインL208から抜き出した吸収液(濃度の低下した吸収液)の一部を、ラインL210を介して希溶液槽9に供給する。
【0176】
希溶液槽9内の吸収液を、ラインL217を介して抜き出し、バルブV8及び熱交換器HE1を通過させた後、ラインL209から発生器3に供給し、発生器3内で吸収液を濃縮する。濃縮された吸収液は、ラインL205から抜き出し、ポンプP3及びバルブV3を経て、ラインL206から貯蔵槽1に供給し、貯蔵槽1内で必要に応じ更に濃縮した後、貯蔵槽1内で保管(貯蔵)する。ここで、発生器3内での濃縮又は貯蔵槽1内での濃縮の条件は、上記濃縮工程(濃縮手段)を満たす条件とする。濃縮に伴い、発生器3又は貯蔵槽1内で発生する蒸気、水は冷媒蓄積槽で保管する(図示しない)。
【0177】
〔上述した実施形態に係る希釈工程(希釈工程)〕
希溶液槽9内の薄い吸収液を、ポンプP7及びバルブV9を介してラインL213から貯蔵槽1に供給し、貯蔵槽1内の濃縮物(液体又は固体)と接触(混合)する。これにより、貯蔵槽1内の濃縮物が希釈されると共に、希溶液槽9から抜き出した吸収液の濃度が高まる(再生する)。貯蔵槽1で加熱濃縮をしない場合は、貯蔵槽1の内部の濃い吸収液は、希溶液槽9からの吸収液とは接触させずに、そのまま吸収器5に供給してもよい。ここで、貯蔵槽1内での希釈(再生)の条件は、上記希釈工程(希釈手段)を満たす条件とする。
【0178】
濃度が高まった(再生された)吸収液は、調整槽としての容器10に導き、温度や濃度を調整したうえで吸収器5に供給する。これに伴い、蒸発器6で冷水を得る。
【0179】
希溶液槽8及び貯蔵槽2は、希溶液槽9及び貯蔵槽1と並列に設けられており、運転時には必要に応じ、希溶液槽9及び貯蔵槽1と切り替えて用いることができる。また、必要に応じ、希溶液槽8及び貯蔵槽2のラインと希溶液槽9及び貯蔵槽1のラインとの両方を同時に用いてもよい。また、希溶液槽を貯蔵槽として用いてもよく、貯蔵槽を希溶液槽として用いてもよい。
【0180】
次に、蓄エネルギー材料として無水CaClを保管(貯蔵)した場合の適用例(エネルギーの利用方法)について、図6及び7を参照しつつ説明する。
【0181】
図6は、浸透圧差を利用する方法(システム)を用いる場合のフロー図である。このフローでは、CaCl化合物水溶液とLiBr化合物水溶液との浸透圧差で、これらの濃度を調整すると共に、冷水を得る。
【0182】
図6に示す装置300Aは、蒸発器16、吸収器12及び11、浸透膜30、並びに無水CaCl貯蔵槽18を主として備えている。
【0183】
吸収器12内には、吸収液(LiBr化合物水溶液)が格納されており、この吸収液は、水蒸気を吸収する。吸収液が水蒸気を吸収すると、熱が放出され、かつ、吸収器12内の水蒸気圧は低下する。
【0184】
吸収器12には、その一部が浸透膜30を含む壁で隔てられた状態で吸収器11が接続されている。また、吸収器12には、蒸発器16が連結している。蒸発器16には、蒸発器16内の冷媒の温度を必要に応じ調節するためのラインL304が設けられ、このラインL304にはポンプ(P11)が設けられている。
【0185】
吸収器11は、ラインL302及びラインL303により、無水CaCl貯蔵槽18に接続されている。吸収器11には、ラインL302及びラインL303とは別に、希釈CaCl化合物水溶液を抜き出すラインL301が接続されている。また、吸収器11には、圧力計PG1及び温度計T1が設けられている。
【0186】
続いて、この装置300Aの運転方法について説明する。
【0187】
まず、上述した濃縮工程(濃縮手段)により、CaCl化合物水溶液を濃縮し、無水CaClを得る。得られた無水CaClは、例えば、無水CaCl貯蔵槽18に貯蔵できる。
【0188】
続いて、無水CaCl貯蔵槽18内の無水CaClをCaCl化合物水溶液に接触させる。これによりCaCl化合物水溶液を高濃度化(再生)する。
【0189】
CaClの水溶液は、同じ温度(例えば30~45℃程度)で58~63質量%のLiBrの水溶液よりも浸透圧が高いことから、これらを浸透膜を介して接触させるとLiBr水溶液からCaCl水溶液へと水分が移行し、LiBr水溶液が濃くなり、CaCl水溶液が薄くなる。すなわち、無水CaCl貯蔵槽18内で高濃度化されたCaCl化合物水溶液を、ラインL303を介してポンプP12により、吸収器11に供給することにより、吸収器12内に格納されたLiBr化合物水溶液を高濃度化(再生)する。
【0190】
LiBr化合物水溶液から移行した水分により希釈され、体積が増えたCaCl化合物水溶液の一部は、ラインL301により抜き出し系外に排出する。吸収器11内のCaCl化合物水溶液は、必要に応じラインL302により無水CaCl貯蔵槽18に供給し、再度高濃度化(再生)する。
【0191】
濃縮されたLiBr化合物水溶液は水蒸気を吸収するポテンシャルが高まる。したがって、吸収器12に30℃程度の冷却水を流すことで、5℃程度の冷水を得ることができる。これにより、吸収器12内の水蒸気圧が調整され、蒸発器16内に格納された冷媒の水蒸気を、吸収器12内に移動させることができる。蒸発器16内の冷媒の温度は、必要に応じ調整する。
【0192】
図7は、蒸気圧差を利用する方法(システム)を用いる場合のフロー図である。このフローでは、CaCl化合物水溶液とLiBr化合物水溶液との蒸気圧差で、これらの濃度を調整すると共に、冷水を得る。
【0193】
装置300Bは、CaCl吸収器21、LiBr吸収器25、蒸発器26、無水CaCl貯蔵槽28、圧力調整器27、LiBr再生器22を、主として備えている。
【0194】
吸収器25内には、吸収液(LiBr化合物水溶液)が格納されており、この吸収液は、水蒸気を吸収する。吸収液が水蒸気を吸収すると、熱が放出され、かつ、吸収器25内の水蒸気圧は低下する。
【0195】
吸収器25は、1つの出口及び2つの入口を有する。
【0196】
吸収器25の1つの入口には、熱交換器HE1を介してLiBr再生器22の出口に接続するラインL311が設けられている。吸収器25の他の入口には、蒸発器26が連結している。蒸発器26には、蒸発器26内の冷媒の温度を必要に応じ調節するためのラインL318が設けられ、このラインL318にはポンプ(P25)が設けられている。
【0197】
吸収器25の出口は、ラインL312によりLiBr再生器22の入口に接続されている。また、ラインL312には、熱交換器HE1及びポンプP24が、吸収器25の出口からみてこの順に設けられている。
【0198】
LiBr再生器22には、圧力調整器27が設けられている。圧力調整器27は、圧力調整器27内の温度を必要に応じ調節するためのラインL317が設けられ、このラインL317にはポンプ(P21)が設けられている。また、圧力調整器27は、圧力計PG21及び温度計T21を備える。
【0199】
LiBr再生器22には、壁で隔てられた状態でCaCl吸収器21が接続されている。壁には、ヒートパイプHP21が設けられている。
【0200】
CaCl吸収器21には、CaCl吸収器21に格納される吸収液の温度を必要に応じ調節するためのライン及びポンプ(P23)が設けられている。また、CaCl吸収器21は、圧力計PG22及び温度計T22を備える。
【0201】
吸収器21は吸収液の出口を有する。この出口は、ラインL313に接続されている。ラインL313は、吸収液を系外に排出するラインL315と、吸収液を無水CaCl貯蔵槽28に供給するラインL314に分岐している。すなわち、ラインL314は、無水CaCl貯蔵槽28の入口に接続している。また、無水CaCl貯蔵槽28の出口と吸収器21の入口とは、ポンプP22を備えるラインL316により接続されている。吸収器21内に格納される吸収液は、高温領域と低温領域とを有し、高温領域が、気相部とは隔てられていることが好ましい。ラインL316は、例えば、吸収器21へのCaCl化合物水溶液の供給位置が、LiBr再生器22近傍又はヒートパイプHP21近傍となるように配置されている。低温領域は、LiBr再生器22と気相部で繋がっており、冷却水で冷やされやすい構造になっていることが好ましい。
【0202】
続いて、この装置300Bの運転方法について説明する。
【0203】
まず、上述した濃縮工程(濃縮手段)により、CaCl化合物水溶液を濃縮し、無水CaClを得る。得られた無水CaClは、例えば、無水CaCl貯蔵槽28に貯蔵できる。
【0204】
続いて、無水CaCl貯蔵槽28内の無水CaClをCaCl化合物水溶液に接触させる。これによりCaCl化合物水溶液を高濃度化(再生)する。
【0205】
無水CaCl貯蔵槽28内で高濃度化されたCaCl化合物水溶液を、ラインL316を介してポンプP22により、吸収器21に供給する。一般的な作動範囲において同温(例えば、50~150℃程度)ではCaClの水溶液の水蒸気圧はLiBrの水溶液の水蒸気圧よりも高いので、このままでは水蒸気はCaCl側からLiBr側に移行してしまう。そこで、LiBr側よりもCaCl側の温度を下げるべく、供給する冷却水の温度をCaCl側の方を低くする。なお、機械力が発生してしまうが、圧縮機を利用してLiBr側からCaCl側に移行することもできる。すなわち、CaCl吸収器21内のCaCl化合物水溶液の温度が、LiBr再生器22内のLiBr化合物水溶液の温度(例えば、75~85℃)より低くなるように、これらの温度を調整する。これにより、LiBr化合物水溶液から、CaCl化合物水溶液に水分が移動させ、LiBr再生器22内に格納されたLiBr化合物水溶液を高濃度化(再生)する。LiBr再生器22内の温度及び圧力は、必要に応じヒートパイプHP1、熱交換器HE21及び圧力調整器27で調整する。圧力調整器27内の圧力及び温度は、例えば、12kPa及び50℃程度とすることが好ましい。
【0206】
LiBr吸収器25では吸収液が水蒸気を吸収して薄くなる一方、連結されている蒸発器26で冷熱を得る。
【0207】
薄くなった吸収液(LiBr吸収器25内の吸収液)は熱交換器HE21を経てLiBr再生(発生)器22に導かれ、ここで高い水蒸気圧のもとでLiBr化合物水溶液の蒸気圧よりもCaCl化合物水溶液の蒸気圧が小さくなるように(水蒸気がLiBr化合物水溶液からCaCl化合物水溶液に移行するように)、LiBr再生(発生)器22とCaCl吸収器21の温度を調整する。例えば、10kPaの時に、LiBr再生器22を70~75℃、CaCl吸収器21の高温領域を80~85℃に調整する。LiBr再生器22は、蒸発熱を失うので加熱が必要である。また、CaCl吸収器21は吸収熱を得るので除熱が必要である。さらに、無水CaCl貯蔵槽28でCaCl化合物水溶液は濃度を高める過程で希釈熱を得て昇温される。すなわち、CaCl吸収器21から無水CaCl貯蔵槽28に戻されたCaCl化合物水溶液(希釈CaCl)は高濃度化(再生)される一方で、貯蔵槽28内の無水CaClは希釈され希釈熱を放出する。このようにして濃度及び温度が高まったCaCl化合物水溶液を、例えば、ラインL316を通してCaCl吸収器21の高温領域に供給し、さらに、高温領域の熱を、ヒートパイプHP21でLiBr発生器に導く。これにより、CaCl化合物から放出される希釈熱をLiBr発生器22の加熱に用いることができる。
また、ここでは、ヒートパイプHP21を用いて、温度を調整する例を説明したが、ヒートパイプHP21は必ずしも必要ではない。例えば、LiBr発生器22内に、熱交換用のパイプを設け、パイプの内側にラインL316内のCaCl化合物水溶液を流通させることにより、LiBr発生器22内を加熱すると共に、CaCl化合物水溶液の温度を低下させた後、温度が低下したCaCl化合物水溶液をCaCl吸収器21に供給してもよい。これにより、CaCl化合物から放出される希釈熱をLiBr発生器22の加熱に用いることができる。また、この場合、高温領域及び低温領域を設ける必要はなく、吸収器21内へのCaCl化合物水溶液の供給位置は特に制限されない。高温領域を気相部と隔てる構造も省略できる。
【0208】
水蒸気の移行によってCaCl吸収器21内の吸収液は濃度が低下するとともに総量が増加するため、無水CaCl貯蔵槽28との間で吸収液を循環し、CaClの濃度を維持するとともに、希釈・増加分を系外に排出する(ラインL313~315)。
【符号の説明】
【0209】
1,2,18,28…貯蔵槽、3…発生器、4…凝縮器、5…吸収器、6…蒸発器、7…冷媒蓄積槽、8,9…希溶液槽、10,20…容器、10a,20a…液、11,12,21,25…吸収器、16,26…蒸発器、22…再生器、30…浸透膜、100A,100B,200,300A,300B…装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7