IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サイトベーション エーエスの特許一覧

<>
  • 特許-ペプチドを用いる併用療法 図1
  • 特許-ペプチドを用いる併用療法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】ペプチドを用いる併用療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20240723BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240723BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240723BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240723BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20240723BHJP
【FI】
A61K38/17 ZNA
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61K39/395 U
A61P35/00
A61P43/00 121
C07K14/47
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020570822
(86)(22)【出願日】2019-06-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-14
(86)【国際出願番号】 EP2019066295
(87)【国際公開番号】W WO2019243471
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-05-23
(31)【優先権主張番号】1810058.6
(32)【優先日】2018-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】512200169
【氏名又は名称】サイトベーション エーエスエー
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】プレステガーデン、ラーズ
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-517787(JP,A)
【文献】国際公開第2016/207646(WO,A1)
【文献】特表2016-537340(JP,A)
【文献】国際公開第2017/157964(WO,A1)
【文献】Szczepanski, C. et al.,Identification of a novel lytic peptide for the treatment of solid tumours,Genes & Cancer,2014年,Vol. 5, No. 5-6,p. 186-200,doi:10.18632/genesandcancer.18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 45/00-45/08
A61K 39/00-39/44
C07K 1/00-19/00
C12N 1/00- 7/08
C12P 1/00-41/00
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の癌を治療するための薬剤の製造におけるチェックポイント阻害剤およびオリゴペプチド化合物の使用であって、前記オリゴペプチド化合物が、配列番号1に記載のアミノ酸配列またはそれに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、癌細胞の増殖および/または生存能力の阻害活性を有し、並びに前記オリゴペプチド化合物の全てのアミノ酸がD-アミノ酸であり、前記チェックポイント阻害剤が、PD-1に結合するまたはPD-L1に結合する抗体であり、前記オリゴペプチド化合物と前記チェックポイント阻害剤は前記対象に別々に、同時にまたは逐次的に投与するためのものである、使用。
【請求項2】
前記オリゴペプチド化合物が、配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記オリゴペプチド化合物が、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む又は配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記オリゴペプチド化合物が、癌細胞に対して選択的に細胞毒性を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記抗体は、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、チスレリズマブ、またはアベルマブである、請求項1~4のいずれかに記載の使用。
【請求項6】
前記対象がヒトである、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記癌が、子宮頚癌、肛門癌、膣癌、外陰癌、陰茎癌、メラノーマ、肺癌、頭頚部癌、膀胱癌、腎臓癌、ホジキンリンパ腫、扁平上皮癌またはメルケル細胞癌である、請求項1~6のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
前記癌が、高頻度マイクロサテライト不安定性(microsatellite instability-high)またはミスマッチ修復欠損(mismatch-repair deficient)である、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記対象が、HPV(ヒトパピローマウイルス)陽性である、請求項7または8に記載の使用。
【請求項10】
対象の癌の治療において、別々に、同時にまたは逐次的に使用するための製品であって、前記製品は、請求項1に記載のオリゴペプチド化合物と請求項1に記載の抗体とを含む製品。
【請求項11】
前記オリゴペプチド化合物、前記抗体、前記癌、前記治療および前記対象は、請求項2~9のいずれか1項に記載された通りである、請求項10に記載の製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌治療におけるオリゴペプチド化合物とチェックポイント阻害剤の併用に関する。特に本発明は、癌細胞に対して選択的に毒性を有する(すなわち抗癌効果を有する)オリゴペプチド化合物であって、癌の治療に、チェックポイント阻害剤と組み合わせて用いられるオリゴペプチド化合物を提供する。そのようなオリゴペプチド化合物とチェックポイント阻害剤とを含むキットおよび製品も提供する。
【背景技術】
【0002】
新生物疾患は、異常な細胞増殖を特徴とする病状である。新生物疾患に関連した異常な細胞増殖により、腫瘍(異常な細胞増殖により形成された細胞の固体塊)が形成されるのが特徴である。しかし、特に血液の新生物疾患の場合は必ずしもそうではない。新生物疾患は、悪性または良性であり得る。良性腫瘍は、隣接組織に浸潤や転移を起こすことはない(すなわち良性腫瘍は、患者の体内の他の部位に広がらない)。これに対し、悪性腫瘍はこれらの両方を起こし得る。一般的に、悪性腫瘍は癌として知られている。
【0003】
2010年(詳細な統計が入手できるようになった最新年)、世界における癌の死者数(約800万人)が他の単一要因による死者数を上回った(Lozanoら、Lancet380:2095~2128、2012)。更に、世界全体の高齢化に伴い、癌の発生率が増えることも予想される。したがって、新規且つ改良された癌治療が早急に必要である。
【0004】
WO2011/092347は、新生細胞に対して選択的に細胞毒性を有するオリゴペプチド化合物を開示している。これらのオリゴペプチド化合物は、配列番号1に記載のアミノ酸配列(CyPep-1と名付けられている)からなるペプチドを含む。該文献に詳述され、以下の実施例にも記載されているように、CyPep-1系ペプチドは、癌の新規治療薬として大きな可能性を秘めている。CyPep-1は、インビトロで癌細胞に対する選択的細胞毒性を有するだけでなく、疾患動物モデルにおいても強い抗腫瘍効果を有し、耐性も十分であることが明らかになっている。
【0005】
CyPep-1は、HIV-TAT細胞透過性ペプチドのC末端に結合する腫瘍抑制タンパク質コンダクチン/アキシン2(Conductin/Axin2)のフラグメントに基づく融合ペプチドである。HIV-TAT細胞透過性ペプチドはカチオン性ペプチドであり、CyPep-1の選択的細胞毒性は、理論に拘束されるものではないが、癌細胞膜がもつ負電荷によるものであると考えられている(一方で、非癌性哺乳類細胞の細胞膜は、より中性の電荷を持つ傾向がある)。有利なことに、CyPep-1は抗菌特性も有し(おそらくこれも多くの細菌細胞膜がもつ負電荷によるもの)、グラム陽性菌とグラム陰性菌の医学的関連種に対して強力な殺菌効果を有することが明らかになっている(WO2011/092347を参照)。
【0006】
免疫チェックポイント阻害剤(以下、単に「チェックポイント阻害剤」)は、癌細胞を攻撃するよう患者の免疫系を活性化する比較的新しいファミリーの抗癌剤である。チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイントの活性をブロックするよう作用する。免疫チェックポイントは、正常細胞の死滅や自己免疫を抑えるよう免疫系を抑制している。免疫チェックポイントは、免疫系の「ブレーキ」として機能してT細胞の活性化を抑える。チェックポイントタンパク質は免疫細胞の表面に発現しており、標的細胞や抗原提示細胞の表面にあるチェックポイントリガンドに結合して、免疫細胞の活性を阻害する。
【0007】
最もよく知られた免疫チェックポイントとしては、例えば、PD-1(プログラム細胞死タンパク質1)が挙げられる。PD-1はT細胞によって発現され、標的細胞、リンパ球、抗原提示細胞等の細胞の表面に発現したPD-L1(プログラム細胞死リガンド1)およびPD-L2と結合する。PD-1がPD-L1またはPD-L2との結合によって活性化すると、T細胞の活性化および増殖が阻害される。このように、癌細胞によるPD-L1および/またはPD-L2のアップレギュレーションは、癌細胞がT細胞による癌細胞破壊を回避するための保護メカニズムとして機能する。腫瘍周辺の正常細胞によるPD-L1および/またはPD-L2のアップレギュレーションは、免疫応答に対して同様の減衰効果を有する。重要な別の免疫チェックポイントとしては、CTLA-4(細胞傷害性Tリンパ球抗原-4)があり、これもT細胞(主にCD4+T細胞)の表面に発現している。CTLA-4は、抗原提示細胞の表面のCD80およびCD86と結合する。CD80およびCD86は、T細胞共刺激受容体CD28のリガンドでもある。CTLA-4は、CD28よりもCD80およびCD86に対する親和性がはるかに高い。すなわちT細胞によってCTLA-4の発現が増えると、CD80/CD86結合に関してCD28を打ち負かし、共刺激を阻害してT細胞の活性をダウンレギュレートする。チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイントとそのリガンドとの相互作用を妨げ(一般的にはブロックする)、免疫細胞の活性をアップレギュレートする。免疫チェックポイントおよび癌治療におけるその遮断については、Topalianら、Cancer Cell27:450~461、2015に概説されている。
【0008】
チェックポイント阻害剤は、大いに有望であるにもかかわらず、癌治療におけるその臨床試験結果はまちまちである。注目すべき成功例もあるが、チェックポイント阻害剤に対する反応は、大半が比較的少数の患者または非常に特殊な癌をもつ患者においてのみ見られる。単独療法およびチェックポイント阻害剤と第2の抗癌治療薬とを利用した併用療法の両方において、数多くのチェックポイント阻害剤が試験されてきた。これらの治療法の一部が非常に有効であることが分かっているが(例えば、メラノーマ治療における抗PD-1抗体ペムブロリズマブ(Pembrolizumab)の成功を報告したRobertら、N Engl J Med372:2521~2532、2015;動物モデルにおけるチェックポイント阻害剤と腫瘍溶解性ウイルスとの有効な組み合わせを開示したLiuら、Nature Communications 8:14754、2017)、その一方で、多くの試験が失敗に終わっている(例えば、メラノーマ治療として小分子エパカドスタット(Epacadostat:Incyte社、米国)とペムブロリズマブとを組み合わせた試験は、対象の無増悪生存期間に改善が見られず中止となった。2018年4月6日にIncyte社とMSD社が発行したプレスリリースを参照)。チェックポイント阻害剤と特定の第2の治療剤との組み合わせが成功するかどうかは予測不能である。
【発明の概要】
【0009】
本明細書に詳述されるように、本発明者は、驚くべきことに、CyPep-1とチェックポイント阻害剤とを用いる併用療法が、癌の治療に有益な効果をもたらすことを見出した。特にこの組み合わせを用いることにより、チェックポイント阻害剤の有効性が高まることを明らかにした。更にCyPep-1の有効性は、チェックポイント阻害剤と組み合わせて用いることで高まり得る。例えば、CyPep-1の用量は、CyPep-1を用いた単独療法よりも低用量とすることができる。したがって、CyPep-1ペプチドとチェックポイント阻害剤とを組み合わせた併用は、ペプチドまたはチェックポイント阻害剤を単独で用いた場合と比較して治療効果が高まる。特におよびいくつかの実施形態では相乗効果が生まれており、この組み合わせが2つの薬物の効果を相乗的に高めることをデータが裏付けていると考える。リンパ球の腫瘍浸潤の増加によって明らかになるマウスモデルにおける腫瘍に対する免疫応答が、チェックポイント阻害剤療法とCyPep-1療法との組み合わせにより高まることが分かっている。この組み合わせは非常に有利であり、多くの癌患者に対して新規で強化された治療の選択肢を提供する。
【0010】
特に興味深いのは、チェックポイント阻害剤を単独で用いた治療では反応しなかった腫瘍をもつ対象において、向上した(例えば相乗的な)反応が併用療法に対して見られたことである。この組み合わせは、チェックポイント阻害剤と他の癌治療剤(例えば化学療法剤、免疫療法剤、腫瘍溶解性ウイルス)とを併用した治療法と比べていくつかの利点がある。上記のように、CyPep-1は動物モデルにおける耐性が十分あり、化学療法剤や免疫療法剤と比べ副作用が少なく、患者と医療スタッフの両方にとって感染性腫瘍溶解性ウイルスよりも安全である。したがって、本発明は、癌に対して新規で極めて有利な併用療法を提供する。WO2011/092347に記載されているように、配列番号1の全てもしくは一部を含むまたは配列番号1をベースとした配列変化を含むペプチド模倣化合物およびペプチド配列も含め、CyPep-1(配列番号1)の配列に基づくオリゴペプチド化合物を調製することができる。さらに、オリゴペプチド化合物は、1個以上のD-アミノ酸、および/または1個以上の化学的に修飾されたアミノ酸残基を含み得る。
【0011】
従って、第1の態様において、本発明は、新生物疾患の治療に使用するためのオリゴペプチド化合物であって、前記オリゴペプチド化合物が、配列番号1に記載のアミノ酸配列またはそれに対して少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、新生細胞の増殖および/または生存能力の阻害活性を有し、前記治療が、対象に前記オリゴペプチド化合物とチェックポイント阻害剤とを投与することを含む、オリゴペプチド化合物を提供する。
【0012】
関連する態様において、本発明は、配列番号1に記載のアミノ酸配列またはそれに対して少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むオリゴペプチド化合物と、チェックポイント阻害剤とを、それを必要とする対象に投与することを含む、新生物疾患を治療する方法を提供する。具体的には、対象に有効量のオリゴペプチド化合物とチェックポイント阻害剤とをそれぞれ投与する。より具体的には、有効量とは、組み合わせて投与した場合、新生物疾患の治療に効果的な量を指す。
【0013】
別の関連する態様において、本発明は、配列番号1に記載のアミノ酸配列またはそれに対して少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むオリゴペプチド化合物の、新生物疾患を治療するための薬剤の製造における使用であって、前記新生物疾患の治療が、対象に前記薬剤とチェックポイント阻害剤とを投与することを含む使用を提供する。
【0014】
別の態様において、本発明は、配列番号1に記載のアミノ酸配列またはそれに対して少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むオリゴペプチド化合物と、チェックポイント阻害剤とを含むキットを提供する。
【0015】
別の態様において、本発明は、対象の新生物疾患の治療において、別々に、同時にまたは逐次的に使用される、配列番号1に記載のアミノ酸配列またはそれに対して少なくとも85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むオリゴペプチド化合物と、チェックポイント阻害剤とを含む製品を提供する。
【0016】
上記のように、オリゴペプチド化合物とチェックポイント阻害剤との間には、相乗効果が認められる(すなわちこれら2つの成分は、組み合わせにおいて、相乗的に作用するまたは相乗効果を引き起こす)。従って、いくつかの実施形態において、オリゴペプチド化合物とチェックポイント阻害剤とは、新生物疾患の治療に相乗的に効果的である。オリゴペプチド化合物およびチェックポイント阻害剤は、相乗効果が得られる量で対象に投与され得る(言い換えると、化合物および阻害剤は、相乗効果を生じさせる量で使用され得る)。具体的には、オリゴペプチド化合物とチェックポイント阻害剤とを併用した治療の治療効果は、同量のチェックポイント阻害剤を単独で用いた治療効果と、同量のオリゴペプチド化合物を単独で用いた治療効果との累積を上回る相乗効果が見込める。治療効果は、例えば、腫瘍体積の変化または当該技術で新生物疾患の治療有効性の測定に用いられてきた他の定量化可能変数に基づいて定量化することができる。
【0017】
上述したように、配列番号1のオリゴペプチド化合物は、WO2011/092347に開示されている。配列番号1は、HIV-TAT細胞透過性ペプチドのC末端に結合した腫瘍抑制タンパク質コンダクチン/アキシン2のフラグメントから構成されている。上記コンダクチン/アキシン2のフラグメントは、配列番号2に記載のアミノ酸配列(配列番号1のアミノ酸番号13~27に相当)を有し、HIV-TAT細胞透過性ペプチドは、配列番号3に記載のアミノ酸配列(配列番号1のアミノ酸番号1~12に相当)を有する。
【0018】
本明細書で使用されている用語「オリゴペプチド化合物」は、ペプチド結合または同等の結合によって結合しているアミノ酸または同等のサブユニットから構成された化合物を意味する。従って、用語「オリゴペプチド化合物」は、ペプチドおよびペプチド模倣薬を含む。
【0019】
「同等のサブユニット」とは、構造的および機能的にアミノ酸と類似したサブユニットを意味する。サブユニットの主鎖部分は、標準的なアミノ酸と異なっていてもよい、例えば、1個以上の炭素原子の代わりに1個以上の窒素原子を組み込んでいてもよい。
【0020】
「ペプチド模倣薬」は、機能的にペプチドと同等または類似し、対応するペプチドと同様の三次元構造をとり得るが、ペプチド結合によって結合したアミノ酸のみからなる化合物ではないことを意味する。好ましいペプチド模倣薬の種類としては、ペプトイド、すなわちN-置換グリシンである。ペプトイドは、それに対応する天然のペプチドと近似しているが、側鎖がアミノ酸のようにα-炭素結合しているのではなく、分子の主鎖に沿って窒素原子に結合している点で化学的に異なっている。
【0021】
ペプチド模倣薬は、典型的には、患者の体内における半減期がより長く、そのためより効果が持続することが望まれる実施形態で好ましい。これは、組成物の再投与の頻度を減らす一助となり得る。しかしながら、別の実施形態において、生物学的安全性の理由で半減期が短いことが好ましい場合、そのような実施形態では、ペプチドが好ましい。
【0022】
オリゴペプチド化合物は、オリゴペプチドであることが好ましい。オリゴペプチド化合物は、ジ-アミノ酸および/またはβ-アミノ酸を組み込んでいてもよい。オリゴペプチド化合物は、α-アミノ酸からなることが最も好ましい。
【0023】
オリゴペプチドは、ペプチド結合によってアミノ酸が互いにつながったポリマーである。本明細書で定義されているオリゴペプチドは、少なくとも3個のアミノ酸を含むが、本発明に記載の使用のオリゴペプチド化合物が4個以上のアミノ酸を含むことは明らかである。本明細書で定義されているオリゴペプチド化合物またはオリゴペプチドは、その最大長に特に限定はないが、例えば、最大30、40、50、100個のアミノ酸またはそれ以上を含み得る。しかし、通常「オリゴ」という接頭語は、比較的少数のアミノ酸などのサブユニット、すなわち200個未満のサブユニット、好ましくは100、90、80、70、60または50個未満のサブユニットを指すのに用いられる。したがって、本発明のオリゴペプチド化合物は、23個以上200個以下のサブユニットを含み得る。いくつかの実施形態において、オリゴペプチド化合物は、24、25、26または27個以上のサブユニットを含む。別の定義としては、50、45、40、35、30、29、28または27個以下のサブユニットを含む。よって、オリゴペプチド化合物は、サブユニットの最小数または最大数について先に記載されたいずれかの整数から構成された範囲の複数のサブユニットを含み得る。代表的なサブユニットの範囲としては、23~150、23~100、23~80、23~50、23~40、23~30、25~150、25~100、25~80、25~50、25~40、25~30、26~150、26~100、26~80、26~50、26~40、26~30、27~150、27~100、27~80、27~50、27~40、27~30、27~29および27~28等が挙げられる。
【0024】
本明細書で定義されているオリゴペプチド化合物は、単にオリゴペプチド、すなわちペプチド結合によってつながったアミノ酸から構成されるポリマーであってもよい。或いは、オリゴペプチド化合物は、官能基やコンジュゲート等を更に含んでいてもよい。
【0025】
本発明に記載の使用のオリゴペプチド化合物は、配列番号1に記載のアミノ酸配列またはそれに対して少なくとも85%、90%もしくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。特定の実施形態において、オリゴペプチド化合物は、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む。別の実施形態において、オリゴペプチド化合物は、配列番号1に記載のアミノ酸配列またはそれに対して少なくとも85%、90%もしくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる。別の実施形態において、オリゴペプチド化合物は、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる。
【0026】
配列アラインメントを行うことによって、2つの配列(例えば、オリゴペプチド配列および配列番号1に記載の配列)間の配列同一性レベルを判断することができる。配列アラインメントは、適切な方法を用いて行うことができる。例えば、一対(ペアワイズ)配列アライメントには、コンピュータープログラムのEMBOSS Needle、EMBOSS stretcher(共にRice P.ら、Trends Genet、16(6):276~277、2000)等、多重(マルチプル)配列アラインメントには、Clustal Omega(Sievers F.ら、Mol.Syst.Biol.7:539、2011)、MUSCLE(Edgar、R.C.、Nucleic Acids Res.32(5):1792-1797、2004)等を用いることができる。このようなコンピュータープログラムは、標準入力パラメータと共に用いてもよく、例えば、matrix Gonnet、gap opening penalty 6、gap extension penalty1等の標準Clustal Omegaパラメータ、matrix BLOSUM62、gap opening penalty 10、gap extension penalty 0.5等の標準EMBOSS Needleパラメータを用いてもよい。代わりに別の適切なパラメータを用いてもよい。
【0027】
本発明に記載の使用のオリゴペプチド化合物は、タンパク質構成アミノ酸(proteinogenic amino acids)(すなわち標準遺伝コードによってコードされるL-アミノ酸)のみを含み得る。或いは、本発明に記載の使用のオリゴペプチド化合物は、1個以上の非タンパク質構成アミノ酸を含み得る。例えば、本発明に記載の使用のオリゴペプチド化合物は、1個以上のD-アミノ酸(例えば1、2、3、4、5、6、7もしくは8個以上のD-アミノ酸)、人間工学的(human-engineered)アミノ酸、または天然の非タンパク質構成アミノ酸(例えば、代謝過程で形成されるアミノ酸)を含み得る。使用可能な非タンパク質構成アミノ酸としては、例えば、オルニチン(尿素回路の生成物)、9H-フルオレン-9-イルメトキシカルボニル(Fmoc)保護アミノ酸、tert-ブチルオキシカルボニル(Boc)保護アミノ酸および2,2,5,7,8-ペンタメチルクロマン-6-スルホニル(Pmc)保護アミノ酸等の人工的に修飾されたアミノ酸、並びにカルボキシベンジル(Z)基を有するアミノ酸等が挙げられる。
【0028】
本発明のオリゴペプチド化合物は、インビトロおよび/またはインビボでの安定性を、例えば、保護基もしくは安定化基の付加、アミノ酸誘導体もしくはアミノ酸アナログの組み込み、またはアミノ酸の化学修飾等、当該技術分野において公知の安定化手段または保護手段を用いて改善または向上することができる。このような保護基または安定化基は、例えばN末端および/またはC末端に付加され得る。このような基としてはアセチル基が挙げられ、他の保護基やペプチドを安定化させる基は当該技術分野において公知である。
【0029】
全てがL-アミノ酸からなるペプチドは、当技術分野においてL-ペプチドとして知られ、全てがD-アミノ酸からなるペプチドは、当該技術分野においてD-ペプチドとして知られている。用語「インベルソペプチド」は、L-ペプチドと同じアミノ酸配列を有するが全てがD-アミノ酸からなるペプチド(つまり対応するL-ペプチドと同じ配列を有するD-ペプチド)を指すのに用いられる。インベルソペプチドは、それと対応するL-ペプチド(つまり同じアミノ酸配列のL-ペプチド)に対してミラー構造をもつ。インベルソペプチドは、血清プロテアーゼによる分解の影響を一般的に受けにくいため(インベルソペプチドは、その非天然な構造により、プロテアーゼ酵素に認識されない場合がある)、臨床設定における使用に有利となり得る(L-ペプチドとの比較)。特定の実施形態において、本発明に記載の使用のオリゴペプチド化合物は、インベルソ化合物であり、前記インベルソ化合物の全てのアミノ酸がD-アミノ酸である。具体的には、オリゴペプチド化合物は、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるD-ペプチドを含むまたはD-ペプチドからなる化合物であり得る。
【0030】
本発明に記載の使用のオリゴペプチド化合物は、新生細胞の増殖および/または生存能力の阻害活性を有する。細胞の「増殖の阻害」とは、細胞増殖の任意の局面、例えば細胞サイズの増加あるいはその成分量の増加および/または体積の増加、特に細胞数の増加、を減少させる、より具体的には特定が可能な程度に減少させることを意味する。したがって、用語「増殖」が細胞の複製または再生を含むことは明らかである。例えば細胞数の増加速度の観点からは、細胞の増殖速度は下がり得る。代表的な例としては、増殖(例えば細胞数または増殖速度)が、50、60、70、80、90または95%以上減少し得る。場合によっては、増殖が100%減少し得る、すなわち増殖が完全に阻害され得るまたは停止し得る。よって、細胞の複製または再生が減少または阻害され得る。説明したように、用語「阻害」は、あらゆる程度の増殖の低下も含む。
【0031】
細胞増殖が阻害されたかどうかは、標準実験室の条件下であって目的のオリゴペプチド化合物の非存在下で培養されたコントロール細胞または細胞集団の増殖速度と、目的のオリゴペプチド化合物の存在下であること以外は上記コントロール細胞または細胞集団と同一の条件下で培養された同一のもしくは対応する細胞または細胞集団の増殖速度とを比較することによって特定することができる。細胞複製または細胞再生の速度は、具体的には選択時点での細胞数を決定することによって評価することができる。オリゴペプチド化合物の存在下で培養された集団の細胞数が、コントロール集団の細胞数と比較して減少した場合、オリゴペプチド化合物は細胞増殖の阻害活性を有することを意味する。細胞数(および増殖またはその他)は、例えば血球計算盤を用いてセルカウントを行うことによって求めることができる。
【0032】
細胞の「生存能力の阻害」は、細胞の生存能力を減少させるか、または細胞が生存する可能性を低くするもしくは生存不能にするあらゆる効果も含む。細胞の生存能力は、細胞が所定の条件下で生存する能力と考えることができる。細胞の生存能力を阻害するとは、具体的には、細胞を死滅させるか破壊すること、すなわち細胞を死に至らしめることを含む。細胞死は、標準実験手法によって判定することができる。例えば、細胞または細胞集団が複製できないまたは栄養素を利用できないもしくは資化できないことを含めて増殖できないことを細胞死(すなわち生存能力の欠如)と見なしてもよい。細胞または細胞が含まれている組織(例えば腫瘍)に対する形態学的変化を観察することにより、細胞の生存能力を判定してもよい。顕微鏡法を用いて形態学的変化を分析してもよく、例えば、細胞または組織の視覚分析で壊死または細胞溶解が明らかな場合、生存能力の欠如を示すと判定してもよい。典型的には、細胞膜の統合性が失われた場合には、細胞は死んでいると解釈することができる。
【0033】
生存能力が阻害されたかどうかは、例えば、標準実験室の条件下であって目的のオリゴペプチド化合物の非存在下で培養されたコントロール細胞または細胞集団の生存能力と、目的のオリゴペプチド化合物の存在下であること以外は上記コントロール細胞または細胞集団と同一の条件下で培養された同一のもしくは対応する細胞または細胞集団の生存能力とを比較することによって特定することができる。細胞の生存能力は、当業者に公知のように、クリスタルバイオレットアッセイを用いて評価するのが一般的である。そのようなアッセイでは、表面(例えば培養皿)に付着した細胞単層を目的の化合物と接触させる(または接触させない)。細胞は、細胞死によって表面からはがれる。目的の化合物との接触後、細胞単層を洗浄してはがれた細胞を取り除き、クリスタルバイオレットで染色する。クリスタルバイオレットは、タンパク質やDNAと結合することで細胞を染色する。染色レベルは、生存能力を判断するのに使用することができる、つまり、目的の化合物と接触させた細胞集団がコントロール集団と比較して染色されていない場合、目的の化合物は、細胞の生存能力を阻害したと判断することができる。細胞集団のクリスタルバイオレット染色レベルは、視覚的に(単に目によって)判断してもよいし、或いは、染料をメタノールで抽出した後、メタノール抽出染料の光学濃度を分光法で570nmにて測定することで定量的に判断してもよい。
【0034】
新生細胞の生存能力または増殖を測定する方法が当該技術分野において数多く周知であり、細胞が生きている(生存可能)か死滅しているかの判断に、多くのルーチンアッセイを利用することができる。その1つの選択肢としては、目的の細胞を視覚的に評価することである。細胞死の形態学的特徴(例えば、壊死またはアポトーシス小体、膜小疱、核凝縮および一定の大きさの断片へのDNA開裂、細胞膜の破裂、細胞含有物の細胞外環境への漏出)を視覚的に評価する。別の方法は、死細胞における細胞膜統合性の特徴的な喪失を利用することである。膜統合性の評価に、膜不浸透性染料(例えば、トリパンブルーおよびヨウ化プロピジウム)が慣例的に使用されている。これらの染料は無傷細胞から排除されるため、無傷細胞では染色は起こらない。細胞膜の統合性が損なわれると、これらの染料は細胞にアクセスして細胞内構成要素を染色することができる。それに代わってまたはそれに加えて、膜が無傷の細胞のみを染色する染料を用いて、細胞の生存能力の指標としてもよい。Thermo Fisher Scientific社のLIVE/DEAD細胞生存率アッセイは、2色の染料を用いるアッセイであり、一方は死細胞を染色して他方は生細胞を染色してそれぞれを特定するアッセイである。適切な生細胞専用染料としては、例えば、カルセインAM(緑)およびC12-リザズリン(赤)等が挙げられ、適切な死細胞専用染料としては、例えば、エチジウムホモダイマー-1(赤)、よう化プロピジウム(赤)およびSYTOXグリーン等が挙げられる。膜統合性を評価するための別の手法としては、細胞構成要素(例えば、乳酸デヒドロゲナーゼ)の培地への放出を検出することである。
【0035】
さらに別の選択肢としては、細胞の代謝を測定することである。これは、多くの方法において慣例的に行うことができ、例えば、ATPレベルを測定することができる。ATPは、膜が無傷の生細胞のみが合成でき、またATPは細胞に蓄積されないため、ATPレベルは細胞死時に急速に低下する。したがって、ATPレベルを観察することにより、細胞の状態を知ることができる。また別の選択肢としては、細胞の還元能を測定することである。栄養素を代謝する生存細胞は、還元剤(例えば、NADHおよびNADPH)を生成する。したがって、還元形態か酸化形態かどうかで異なったアウトプットをするマーカー(例えば、蛍光染料)を細胞に適用することにより、細胞の還元能を評価することができる。マーカーを還元する能力が欠如した細胞は、死滅していると考えられる。MTTアッセイおよびMTSアッセイは、この種の簡便なアッセイの例である。
【0036】
上述したように、本発明に記載の使用のオリゴペプチド化合物は、新生細胞の増殖および/または生存能力の阻害活性を有する。したがって、オリゴペプチド化合物は、新生細胞の増殖の阻害活性を有するもの、新生細胞の生存能力の阻害活性を有するもの、または新生細胞の増殖の阻害活性を有し且つ新生細胞の生存能力の阻害活性を有するものであり得る。オリゴペプチド化合物は、新生細胞の生存能力の阻害活性を有することが好ましく、新生細胞の増殖および生存能力の阻害活性を有することがより好ましい(新生細胞の生存能力の阻害活性を有する化合物は、新生細胞の増殖の阻害活性も有する可能性が高いことは明らかである(逆は必ずしもそうではない))。
【0037】
本明細書で使用されている用語「新生細胞」は、正常細胞と比較して、異常且つ過剰な増殖をみせる細胞を指す。新生細胞は、新生物に由来する。新生物は、増殖が異常且つ過剰であり、周囲の正常組織の増殖と調和しない組織増殖である。用語「新生物」は癌を含み、特に新生細胞は癌細胞であり得る。したがって、本発明に記載の使用のオリゴペプチド化合物は、癌細胞の増殖および/または生存能力の阻害活性を有する。新生細胞は抑制がきかない形で分裂し、「不死」であり得る、つまりテロメラーゼを発現しているため、正常細胞がヘイフリック限界に到達した後に死滅したり老化したりするのではなく、無限に分裂し続けることができる。当業者は、特定の細胞が新生物性か正常かを判断することができる。新生細胞は、例えば核が大きく不規則であったり、細胞質内に異常があったり等、その識別を可能とする顕著な組織学的特徴を見せる場合が多い。遺伝子検査で細胞が新生物性であるかどうかを判断することもできる。
【0038】
本発明に記載の使用のオリゴペプチド化合物は、インビボとインビトロの両方における新生細胞の増殖および/または生存能力に対して阻害活性を有する。該活性の判断は、適切な細胞株を使用してインビトロで簡便に行うことができる。実験室細胞株の多くが新生物性であり、「不死性」であることから研究利用に便利である。そのような新生細胞株は、目的の化合物の活性を判断するのに使用することができ、例えば、細胞株A172(ヒト神経膠芽腫)、GAMG(ヒト神経膠芽腫)、U87(ヒト神経膠芽腫)、4T1(マウス乳癌)、HOS(ヒト骨肉腫)、MC38(マウス結腸癌)等を使用することができる。その他多くの新生細胞株が当業者に公知である。これらの細胞は、適切な供給源、例えばATCC(米国)の細胞寄託機関から得ることができる。哺乳動物の新生細胞を使用して、目的の化合物の活性を判断することが好ましい。ヒト新生細胞を使用してもよい。
【0039】
新生細胞は、対象、例えばヒトの癌患者から得てもよい。新生細胞を癌患者から外科的に除去して、目的のオリゴペプチド化合物の活性を試験してもよい。従って、新生細胞は、新生細胞株のものであっても、臨床サンプルまたは獣医サンプル由来のものであってもよい。新生細胞は腫瘍由来であってもよく、良性または悪性であり得る。新生細胞が癌細胞の場合、いずれの癌の細胞であってもよい。癌については、以下でより詳しく説明する。特に本発明に記載の使用のオリゴペプチド化合物は、ヒト癌細胞の増殖および/または生存能力の阻害活性を有する。
【0040】
特定の実施形態において、本発明に記載の使用のオリゴペプチド化合物は、癌細胞に対して選択的に細胞毒性を有する。本明細書で使用されている用語「細胞毒性を有する」は、上述した「生存能力の阻害」と本質的に同じ意味である。つまり、オリゴペプチド化合物は、癌細胞の生存能力を選択的に阻害するまたは死滅させる(通常、新生細胞の生存能力を阻害することがより好ましい)。
【0041】
化合物が非癌性細胞よりも癌細胞に対して細胞毒性効果が高い場合、具体的には正常細胞よりも癌細胞に対して細胞毒性効果が高い場合、化合物は癌細胞に対して選択的に細胞毒性を有すると言える。本発明に記載の使用のオリゴペプチド化合物は、正常細胞や非癌性細胞に対して効果がない又はほとんどないが、癌細胞に対して細胞毒性を有することが好ましい。このように、非癌性細胞に対して好ましからざる細胞毒性効果を回避することにより、オリゴペプチド化合物が投与される患者において、毒性および好ましからざる副作用を減らすことができる。
【0042】
目的の化合物の細胞増殖および生存能力に対する効果の分析方法は、上記の通りである。同様の方法で、目的の化合物が癌細胞に対して選択的に細胞毒性を有するかどうかを判断することができる。但し、目的の化合物に曝した新生細胞集団の生存能力と、目的の化合物に曝していない対応する細胞集団の生存能力とを比較するのではなく、目的の化合物に接触させた癌細胞集団の生存能力と、目的の化合物に接触させた正常細胞集団の生存能力とを比較する。目的の化合物を同条件で接触させた後、癌細胞集団の生存能力が正常細胞集団の生存能力よりも低下した場合、目的の化合物は癌細胞に対して選択的に細胞毒性を有すると言える。
【0043】
発明に記載の使用のオリゴペプチド化合物は、微生物細胞、特に細菌細胞の増殖および/または生存能力の阻害活性も有し得る。すなわち、オリゴペプチド化合物は、特に細菌発育阻止活性または殺菌活性を有し得る。オリゴペプチド化合物の抗菌活性は、任意の標準的な抗生物質感受性試験方法によって判断することができる。そのような方法は当該技術分野において周知であり、例えば、ディスク拡散(WO00/55357に記載)が挙げられる。
【0044】
目的のオリゴペプチド化合物の抗菌活性は、任意の細菌種に対するその活性を試験することによって判断することができる。グラム陽性種およびグラム陰性種は、病原性種や非病原性種も含め共に適切である。目的の化合物の抗菌活性が判断できる種としては、例えば、大腸菌、黄色ブドウ球菌およびエンテロコッカス-フェカーリス等が挙げられる。発明に記載の使用のオリゴペプチド化合物は、別の形態の微生物(例えば古細菌や菌類)に対する抗菌活性も有し得る。このような活性は、上記活性と同様にして試験することができる。癌患者は、悪性腫瘍自体によって引き起こされる衰弱や、化学療法または他の積極的治療によって免疫系が損傷することが原因で、一般の人々よりも微生物感染の影響を受けやすい。オリゴペプチド化合物は、投与されると癌に対する治療的活性を有するだけでなく癌患者を感染から保護するため、その抗菌活性は非常に有利である。
【0045】
本明細書に記載されているオリゴペプチド化合物は、当業者であれば標準的な生化学的手法を用いて合成することができる。オリゴペプチド化合物がタンパク質構成アミノ酸のみを含むL-ペプチドである場合、組み換えDNA技術によって合成することができる。すなわち、オリゴペプチド化合物をコードするDNA配列をクローン化して、発現ベクターに導入すればよい。本発明に記載の使用のオリゴペプチド化合物をコードするDNA配列は、配列番号1に記載のアミノ酸配列またはそれに対して少なくとも85%、90%もしくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むまたはヌクレオチド配列からなる配列である。このようなヌクレオチド配列は、当業者であれば容易に生成および合成することができる。
【0046】
本明細書に記載されているオリゴペプチド化合物をコードするDNA配列は、当該技術分野において公知の標準的な方法を用いて、テンプレートからの増幅(例えばPCR)または人工遺伝子合成によって生成され得る。オリゴペプチド化合物をコードするDNA配列は、制限酵素またはギブソン・アセンブリ等の標準的な分子クローニング技術を用いて発現ベクターに導入され得る。適切な発現ベクターは、当該技術分野において公知である。次に発現ベクターは、標準的な手法を用いて細胞発現系に導入され得る。適切な発現系としては、細菌細胞および/または真核細胞(例えば酵母菌)、昆虫細胞または哺乳類細胞が挙げられる。本明細書に記載されているオリゴペプチド化合物が細菌細胞(上記記載)に対して毒性を有するとすれば、真核細胞はオリゴペプチド化合物の製造により適した細胞発現系であろう。
【0047】
本発明に記載の使用のL-ペプチド化合物は、細胞発現系の代わりに無細胞インビトロタンパク質発現系を用いて合成され得る。このような系において、オリゴペプチド化合物をコードするヌクレオチド配列はmRNAに転写され、mRNAはインビトロでタンパク質に翻訳される。無細胞発現系キットは広く市販されており、例えばThermo Fisher Scientific社(米国)から購入することができる。
【0048】
或いは、本発明に記載の使用のオリゴペプチド化合物は、非生物系において化学的に合成され得る。D-アミノ酸または他の非タンパク質構成アミノ酸を含むオリゴペプチド化合物は、一般的に生物学的合成が不可能であることから、特に化学合成され得る。液相タンパク質合成または固相タンパク質合成を用いて、本発明における使用のオリゴペプチド化合物を構成するポリペプチドまたはそれに含まれるポリペプチドを生成してもよい。そのような方法は当業者にとって周知であり、当業者は当該技術分野において一般的な適した技法を用いて、オリゴペプチド化合物を容易に製造することができる。
【0049】
本発明は、対象の新生物疾患の治療に使用される上記のオリゴペプチド化合物を提供する。本明細書で定義されている「新生物疾患」とは、1以上の新生物の発生を特徴とする病状を指す。従って、用語「新生物疾患」は、非悪性新生物(すなわち良性新生物)、前悪性新生物および悪性新生物(すなわち癌)を含む。オリゴペプチド化合物とチェックポイント阻害剤とが投与される対象は、本発明によると、新生物疾患を患う対象である。
【0050】
本発明によると、上記定義のオリゴペプチド化合物は、新生物疾患の治療にチェックポイント阻害剤と組み合わせて用いられる。上述したように、チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイントに結合してそれらの機能を阻害する薬剤である。
【0051】
免疫チェックポイントは、免疫細胞の抗原特異的活性化を促進し、自己寛容を可能にするよう機能する免疫系の調節因子であり、抗原標的に対する免疫活性をサポートし、自己免疫疾患および宿主組織に対する異常な免疫系活性を防ぐ。免疫チェックポイントは、刺激性または抑制性であり得る。刺激性免疫チェックポイントは、同族のリガンドまたはアゴニストが結合すると、増殖応答およびエフェクター応答を刺激して抗原標的に対する免疫細胞の活性を高めるよう作用する。刺激性免疫チェックポイントとしては、例えばCD28が挙げられる。CD28は、T細胞活性の共刺激分子として作用し、そのリガンドであるCD80およびCD86と結合するとT細胞の増殖を開始する。
【0052】
抑制性免疫チェックポイントは、同族のリガンドまたはアゴニストが結合すると、免疫細胞機能をダウンレギュレートまたは阻害して自己寛容を促進し、自己免疫活性またはサイトカインストーム等の宿主に損傷を与え得る過剰で異常な免疫応答を抑える。その一方で、前述のように、抑制性免疫チェックポイントの活性化は、免疫系が癌細胞を標的とする妨げとなり得る。上述したように、そのような抑制性免疫チェックポイントとしては、例えば、PD-1およびCTLA-4が挙げられる。本明細書において(および当該技術分野で一般的に)定義されているチェックポイント阻害剤は、抑制性免疫チェックポイントの活性を阻害する薬剤である。用語「免疫チェックポイント」は、その意味が明確に定義されている上記段落を除き、本開示を通して抑制性免疫チェックポイントを意味する。
【0053】
本明細書で定義されているように、チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイントまたは免疫チェックポイントリガンドに結合して免疫チェックポイントの活性化を防ぐよう直接的に作用する薬剤を指す。したがって、チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイントのアンタゴニストであり得る。現在利用可能な全てのチェックポイント阻害剤は、標的免疫チェックポイントを遮断すること、つまり、免疫チェックポイントまたはそのリガンドに結合してチェックポイントとリガンドとの相互作用を防ぐよう作用する(免疫チェックポイント遮断として知られるメカニズム)。本発明でオリゴペプチド化合物と組み合わせて使用されるチェックポイント阻害剤のメカニズムは特に限定されず、該メカニズムとしては、例えば、免疫チェックポイントの遮断、免疫チェックポイントの非競合的阻害、免疫チェックポイント(またはそのリガンド)の共有結合変化または構造変化が挙げられる。癌細胞を免疫系にさらしつつ、正常組織を同システムに攻撃させないチェックポイント阻害剤が理想的である。
【0054】
したがって、チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイントまたは免疫チェックポイントリガンドに結合して免疫チェックポイントの活性を阻害する薬剤であれば特に限定されない。チェックポイント阻害剤は、例えば、小分子、リガンドアンタゴニスト、アフィマー(affimer)または抗体であり得る。本明細書で言及されている抗体は、天然抗体もしくは合成抗体、またはそのフラグメントもしくは誘導体であり得る。用語「抗体」は本明細書で広く用いられ、あらゆる種類の抗体または抗体ベースの分子を含む。これは、天然抗体分子だけでなく、修飾、合成または組み換え抗体も含み、それらの誘導体またはフラグメントも含む。したがって、抗体は、抗体ベースの結合領域(抗体の結合ドメインまたは抗体に由来する結合ドメイン)を有する分子またはエンティティまたはコンストラクトであり得る。或いは、抗体は、抗体から得られたまたは抗体に由来する抗原結合ドメインを含む結合分子として定義され得る。抗体は、好都合なもしくは所望の種、クラスもしくはサブタイプの抗体であり得る、または該抗体に由来する/基づくものであり得る。上記のように、抗体は、天然、誘導体化または合成抗体であり得る。抗体は、モノクローナルまたはポリクローナルであり得る。したがって、抗体は、単一のエピトープに結合し得る、または異なるエピトープに結合する抗体(または抗体分子)の混合物であり得る。
【0055】
したがって、チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイントまたはそのリガンドに特異的な/対する抗体の抗原結合ドメインを含む結合分子であり得る。そのような「抗体」(抗体ベースの結合分子)としては、例えば、モノクローナルおよびポリクローナル抗体、Fab、Fab'、F(ab')およびFvフラグメント等の抗体フラグメント、Fc領域欠失フラグメント、キメラ(例えばヒト化またはCDRグラフト化)抗体、一本鎖抗体(例えばscFv抗体)、ファージディスプレイ同定/取得抗体等が挙げられる。特定の実施形態において、チェックポイント阻害剤は、モノクローナル抗体である。
【0056】
アフィマーは、標的に結合する抗体を模倣する改変非抗体タンパク質である。アフィマーは、シスタチンタンパク質ファミリーに由来し、逆平行βシート上部のαヘリックスと共通の構造をシェアしている。アフィマーとそれらの生成方法は、WO2009/136182に記載されている。
【0057】
本発明の特定の実施形態において、チェックポイント阻害剤は、PD-1の活性を阻害する。具体的には、チェックポイント阻害剤は、PD-1とPD-L1との相互作用(またはPD-1とPD-L2との相互作用)をブロックして、PD-1の活性化を防ぐ(上記のように、PD-1の活性化は、T細胞のエフェクター機能を阻害する)。PD-1とPD-L1/PD-L2との相互作用をブロックするチェックポイント阻害剤は、これらのタンパク質のうちの1つに結合して、2つのタンパク質の相互作用が起こるのを防ぐ。したがって、PD-1とPD-L1との相互作用をブロックするチェックポイント阻害剤は、PD-1に結合し得るまたはPD-L1もしくはPD-L2に結合し得る。好ましい実施形態において、チェックポイント阻害剤は、PD-1またはPD-L1に結合する。具体的には、そのようなチェックポイント阻害剤は、PD-1のPD-L1結合部位またはPD-L1のPD-1結合部位に結合し得る。PD-1と、PD-L1およびPD-L2の両方との相互作用をブロックするためには、PD-1に結合し、PD-1とそのリガンドとの相互作用をブロックするチェックポイント阻害剤を使用することが有利となり得る。
【0058】
本発明の特定の実施形態において、PD-1とPD-L1/PD-L2との相互作用をブロックするチェックポイント阻害剤は、PD-1に結合する抗体(好ましくは、モノクローナル抗体、またはその誘導体もしくはフラグメント)である。別の実施形態において、PD-1とPD-L1との相互作用をブロックするチェックポイント阻害剤は、PD-L1に結合する抗体(好ましくは、モノクローナル抗体、またはその誘導体もしくはフラグメント)である。そのような抗体は当該技術分野において数多く知られており、規制上の承認を取得し、本発明にしたがって使用できる抗体としては、例えば、ヒトモノクローナル抗PD1 lgG4抗体のニボルマブ(Nivolumab:Bristol-Myers Squibb社)、ヒト化lgG4抗PD-1抗体のペムブロリズマブ(Pembrolizumab:Merck社)、完全ヒト化抗PD-L1抗体のアテゾリズマブ (Atezolizumab:Genentech社)およびヒト抗PD-L1抗体のデュルバルマブ(Durvalumab:Medimmune社/Astrazeneca社)等が挙げられる。また、他にも現在開発中/試験中の抗体が多数あり、例えば、ヒト化抗PD-1抗体のチスレリズマブ(Tislelizumab:BeiGene社)および完全ヒト抗PD-L1抗体のアベルマブ(Avelumab:Pfizer社/Merck社)等が挙げられ、これらも本発明にしたがって使用することができる。同様に、PD-L2に結合する抗体(好ましくは、モノクローナル抗体、またはその誘導体もしくはフラグメント)も、PD-1とPD-L2との相互作用をブロックする抗体として使用することができる。
【0059】
上記のように、チェックポイント阻害剤の標的となり得る別の免疫チェックポイントはCTLA-4である。したがって、チェックポイント阻害剤は、別の実施形態において、CTLA-4とそのリガンドのCD80およびCD86との相互作用をブロックする。PD-1とPD-L1との相互作用に関して上述したように、CTLA-4とCD80/CD86との相互作用をブロックする薬剤は、これらのタンパク質のうちの1つに結合して、CTLA-4がCD80および/またはCD86と相互作用するのを防ぐ。そのような薬剤は、CTLA-4、CD80またはCD86に結合し得る。しかしながら、上述したように、CD80およびCD86は、CD28への結合を介してT細胞の共刺激分子としても機能する。したがって、CTLA-4とCD80/CD86との相互作用をブロックするチェックポイント阻害剤は、CD28とCD80/CD86との相互作用をブロックしてはならない。CTLA-4とCD80/CD86との相互作用をブロックするチェックポイント阻害剤は、CD80および/またはCD86ではなく、CTLA-4に結合するのが好ましい。具体的には、チェックポイント阻害剤は、CD80またはCD86と相互作用する結合部位でCTLA-4に結合し得る。
【0060】
特定の実施形態において、CTLA-4とCD80/CD86との相互作用をブロックするチェックポイント阻害剤は、CTLA-4に結合する抗体(好ましくは、モノクローナル抗体、またはその誘導体もしくはフラグメント)である。そのような抗体は当該技術分野において数多く知られており、例えば、規制上の承認を取得したヒトlgG1モノクローナル抗体のイピリムマブ(Ipilimumab:Bristol-Myers Squibb社)等が挙げられる。他の開発中/試験中の抗体としては、例えば、ヒトlgG2モノクローナル抗体のトレメリムマブ(Tremelimumab:Medimmune社/Astrazeneca社)等が挙げられる。
【0061】
上述したように、PD-1およびCTLA-4はT細胞で発現する。PD-1およびCTLA-4の阻害は、T細胞の活性を促進することを目的とする。PD-1またはCTLA-4を標的とする抗体をチェックポイント阻害剤として使用する場合、抗体の標的への結合により、標的T細胞の死を招き得る抗体依存性細胞傷害(ADCC)が起きないことが望ましいであろう。ADCCは、主にナチュラルキラー(NK)細胞によって媒介される。NK細胞は、標的抗原に結合した抗体のFc(定常)ドメインを認識して結合するFc受容体(例えばCD16)を発現している。NK細胞のFc受容体が抗原結合抗体のFcドメインに結合すると、NK細胞が活性化され、その抗体が結合している細胞を殺傷する細胞毒物を放出する。
【0062】
ADCCを誘導することなく標的細胞と結合できる抗体としては、ADCC活性に関連しない特定のIgGサブクラス抗体、または、点突然変異を導入してFc受容体結合を阻害するよう合理的に設計された抗体が考えらえる。当業者にとって、そのような合理的設計は容易である。例えば、ヒトlgG4定常領域の228位を変異させることにより、抗体のFc受容体結合を防ぐことができる。ニボルマブおよびペムブロリズマブ(上記の通り、共にヒトlgG4抗体)はその定常領域にFc受容体結合を防ぐS228P変異を含むため、いずれの抗体もADCCを媒介しない。本発明のチェックポイント阻害剤として使用される抗PD-1抗体は、同じまたは同等の突然変異を含み得る。同等の突然変異とは、同じ効果(つまりFc受容体結合を阻害する効果)を有するが、別の残基(または別の抗体アイソタイプの定常領域における対応残基)での突然変異を意味する。
【0063】
別の状況では、チェックポイント阻害剤がADCCを媒介できることが好ましい時もある。抗CTLA-4抗体であるイピリムマブは、非古典的なCD16発現単球によって媒介されるTreg細胞に対してADCCを媒介し、それによって免疫エフェクター細胞のダウンレギュレーションを防ぐ第2のメカニズムを提供することが証明されている(Romanoら、PNAS112(19)6140~6145、2015)。
【0064】
それほど知名度は高くないが、PD-1やCTLA-4に加えて別の免疫チェックポイントも知られており、チェックポイント阻害剤の標的となり得る。例えば、LAG-3(別名CD223)は、T細胞に発現してMHCクラスIIタンパク質と結合する免疫チェックポイントである(CD4よりも親和性が高い)。LAG-3がMHCクラスIIに結合すると、細胞増殖およびエフェクター機能がダウンレギュレートされる。LAG-3は、Treg細胞の免疫抑制機能を活性化する役割も果たすと考えられている。LAG-3の活性化を阻害する薬剤を、本発明のチェックポイント阻害剤として使用してもよい。そのような薬剤は、LAG-3とMHCクラスIIとの相互作用をブロックするものであり得る。具体的には、そのような薬剤は、LAG-3に結合する抗体であり得、BMS-986016(Bristol-Myers Squibb社)など、現在多くのものが開発されている。
【0065】
さらなる代替アプローチにおいて、キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)阻害剤をチェックポイント阻害剤として用いてもよい。KIRは、NK細胞の細胞毒性活性をダウンレギュレートするNK細胞上の受容体である。HLAクラスIアレル特異的KIR受容体は、細胞溶解性(CD56dimCD16+)NK細胞で発現し、一方で、CD56brightCD16-NKサブセットは、これらのKIRを欠く。この方法では、抑制性KIRは、腫瘍周辺のNK細胞浸潤において選択的に発現し、PD-L1と同様に腫瘍によって取り込まれるチェックポイント経路であると考えられている。よって、特定のKIRを阻害すれば、NK細胞のインビボ活性化が持続するはずである。具体的には、抗KIR抗体を本発明のチェックポイント阻害剤として使用してもよい。例えば、リリルマブ(Lirilumab:Bristol-Myers Squibb社)は、本発明のチェックポイント阻害剤として使用し得るKIRに対する完全ヒトモノクローナル抗体である。
【0066】
本発明のチェックポイント阻害剤によって標的とされ得る別の免疫チェックポイント(その活性化を例えばその同族リガンドとの相互作用をブロックすることにより防ぐ)としては、B7-H3(別名CD276)、BTLA(別名CD272)、VISTAおよびTIM-3(別名HAVCR2)等が挙げられる。必要に応じて、これらのチェックポイントのリガンドをチェックポイント阻害剤の標的として、リガンドとその免疫チェックポイント受容体との相互作用をブロックしてもよい。例えば、TIM-3のリガンドをチェックポイント受容体の標的としてもよい。TIM-3のリガンドには、ガレクチン-9およびホスファチジルセリン(PS)(正常細胞の細胞膜の内葉に存在するリン脂質)等がある。PSは、アポトーシス中に膜の外葉に移動してT細胞上のTIM-3と結合し、それにより腐敗細胞物質の処理や除去の際に発生し得る過剰な免疫活性化を抑制する。PSの外在化は、マクロファージを間接的に刺激して樹状細胞の抗原提示を抑制する。外在化されたPSは、PD-L1と同様に、一部の腫瘍細胞や腫瘍由来微細小胞によって異常に発現する。PSは、適応型抗腫瘍免疫を回避するために腫瘍によって悪用されると考えられている(Birgeら、Cell Death&Differentiation23、962~978、2016)。したがって、PSをチェックポイント阻害剤の標的として、例えば抗PS抗体を用いてTIM-3との相互作用をブロックしてもよい。このような抗体の一例としては、現在開発中のバビツキシマブ(Bavituximab:Oncologie社)が挙げられる。
【0067】
本発明で用いられるチェックポイント阻害剤は、特に限定されない。上述したように、多くのチェックポイント阻害剤が当業者に知られているが、例えば、合理的な設計を行ったり、適切な標的に対する抗体を作成することによってチェックポイント阻害剤を開発してもよい。特定の実施形態において、2つ以上のチェックポイント阻害剤をオリゴペプチド化合物と組み合わせて使用してもよい。例えば、それぞれが異なる免疫チェックポイントの活性化を阻害する2つ以上の異なるチェックポイント阻害剤を使用してもよい。例えば、PD-1の活性化をブロックするチェックポイント阻害剤と、CTLA-4の活性化をブロックするチェックポイント阻害剤とを組み合わせて使用してもよい。複数のチェックポイント阻害剤を併用することで、単一のチェックポイント阻害剤を使用した場合と比較して一部の癌の治療成果が向上することが明らかになっている(Wolchokら、N Engl J Med369:122~133、2013)。
【0068】
別の態様において、本発明は、新生物疾患、特に癌(以下に記載)を治療するために、活性化免疫チェックポイントのアゴニストと組み合わせて用いられる上記オリゴペプチド化合物を提供する。上述したように、刺激性免疫チェックポイントにリガンドまたはアゴニストが結合すると、抗原標的に対する免疫細胞活性が高まる。刺激性免疫チェックポイントとしては、上記CD28に加え、CD27、CD40、CD122、CD137、0X40、GITRおよびICOS等が挙げられる。したがって、本発明に記載の使用のオリゴペプチド化合物は、任意の刺激性免疫チェックポイントのアゴニスト、例えばCD28、CD27、CD40、CD122、CD137、0X40、GITRまたはICOSのアゴニスト、と組み合わせて対象に投与され得る。そのようなアゴニストは、抗体、特にモノクローナル抗体であり得る。
【0069】
本発明によると、新生物疾患は、対象にオリゴペプチド化合物とチェックポイント阻害剤とが別々に、同時にまたは逐次的に投与されることにより治療され得る。本明細書で使用されている「別々」の投与とは、オリゴペプチド化合物とチェックポイント阻害剤とが、対象に同時にまたは少なくとも実質的に同時に投与されるが、異なる投与経路によって投与されることを意味する。本明細書で使用されている「同時」投与とは、オリゴペプチド化合物とチェックポイント阻害剤とが、対象に同時にまたは少なくとも実質的に同時に、同じ投与経路によって投与されることを意味する。本明細書で使用されている「逐次的」投与とは、オリゴペプチド化合物とチェックポイント阻害剤とが、対象に異なる時間に投与されることを意味する。具体的には、第1の治療剤の投与完了後に、第2の治療剤の投与を開始する。第1および第2の治療剤は、対象に逐次的に投与される場合、同じ投与経路によって投与されても異なる投与経路によって投与されてもよい。
【0070】
オリゴペプチド化合物および/またはチェックポイント阻害剤は、対象の治療過程において、繰り返し(すなわち2回以上)投与され得る。例えば、対象は、オリゴペプチド化合物とチェックポイント阻害剤の両方が投与される治療サイクルを複数回受ける場合がある。或いは、対象は、一方の治療剤が単回投与され、他方の治療剤が反復投与される場合もある。
【0071】
複数のチェックポイント阻害剤がオリゴペプチド化合物と組み合わせて対象に投与される場合、複数のチェックポイント阻害剤は、互いに別々に、同時にまたは逐次的に投与され得る。
【0072】
オリゴペプチド化合物およびチェックポイント阻害剤は、任意の適した経路で投与されればよい。そのような経路は、熟練した医師によって決定され、治療される疾患に依存し得る。投与可能な経路としては、例えば、経口、直腸、鼻、局所、膣および非経口投与等が挙げられる。本明細書で用いられる経口投与は、口腔投与および舌下投与を含む。本明細書で用いられる局所投与は、経皮投与を含む。本明細書で定義されている非経口投与は、皮下、筋肉内、静脈内、腹膜内および皮内投与を含む。具体的には、オリゴペプチド化合物は、例えば経口または非経口の投与経路を介して全身送達されるように対象に投与されてもよく、治療される新生物疾患の部位、例えば腫瘍に局所的に投与されてもよい。可能な局所投与経路としては、新生物(例えば腫瘍)の部位に注射または注入を行って直接投与する送達である局所投与や、吸入等が、もちろん癌(腫瘍)の部位によって用いられる。特定の実施形態において、オリゴペプチド化合物は、腫瘍内投与により対象に投与される。
【0073】
上述にように、オリゴペプチド化合物は、チェックポイント阻害剤が投与される経路と同じ経路または異なる経路を介して対象に投与され得る。2つ以上のチェックポイント阻害剤が対象に投与される場合、前記2つ以上のチェックポイント阻害剤は同じ経路または異なる経路を介して対象に投与され得る。特定の実施形態において、チェックポイント阻害剤は、対象に非経口的に投与される。例えば、チェックポイント阻害剤は、対象に静脈内投与され得る。
【0074】
オリゴペプチド化合物およびチェックポイント阻害剤は、医薬組成物に含まれる形で対象に投与されることが好ましい。医薬組成物は、当該技術分野で知られた適切な形態であればよく、例えば、液剤、懸濁剤、シロップ、乳剤等の液体形態や、錠剤、カプセル剤、被覆錠剤、粉末、ペレット、顆粒等の固体形態等が挙げられる。医薬組成物は、クリーム剤、軟膏もしくはこう薬、または吸入剤、凍結乾燥剤もしくは噴霧剤、または当該技術分野において一般的に使用されている他のスタイルの組成物の形態をとり得る。医薬組成物は、例えば、耐胃液製剤としておよび/または持続性の作用形態で提供され得る。医薬組成物は、経口、非経口、局所、直腸、生殖器、皮下、経尿道、経皮、鼻腔内、腹腔内、筋肉内および/もしくは静脈内投与、ならびに/または吸入による投与に適した形態であればよい。オリゴペプチド化合物およびチェックポイント阻害剤は、単一の医薬組成物に含まれて投与されてもよく、それぞれが別の医薬組成物に含まれて投与されてもよい。
【0075】
医薬組成物は、1つ以上の薬学的に許容される希釈剤、担体または賦形剤を含むことが好ましい。適切な薬学的に許容される希釈剤、担体および賦形剤は、当該技術分野において周知である。例えば、適切な賦形剤としては、ラクトース、トウモロコシデンプンまたはその誘導体、ステアリン酸またはその塩、ベジタブルオイル、ワックス、脂肪、およびポリオール等が挙げられる。適切な担体または希釈剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、デキストロース、トレハロース、リポソーム、ポリビニルアルコール、医薬品等級デンプン、マンニトール、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルカム、セルロース、グルコース、スクロース(および他の糖)、炭酸マグネシウム、ゼラチン、油、アルコール、洗浄剤、ポリソルベート等の乳化剤等が挙げられる。安定剤、湿潤剤、甘味料等も使用することができる。
【0076】
液体医薬組成物は、液剤、懸濁剤または他の同様の形態のいずれであっても、以下を1つ以上含み得る:水、食塩水(好ましくは、生理食塩水すなわち等張食塩水)、リンガー溶液等の滅菌希釈剤、溶媒または懸濁化剤の役割を果たし得る合成モノグリセリドまたはジグリセリド等の固定油、ポリエチレングリコール類、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の溶媒;ベンジルアルコールまたはメチルパラベン等の抗菌剤;アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウム等の酸化防止剤;EDTA等のキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩等の緩衝液;塩化ナトリウムまたはデキストロース等の等張化剤。非経口製剤は、ガラスまたはプラスチック製のアンプル、使い捨て注射器または多回投与バイアルに封入されてもよい。注射用医薬組成物は、無菌であることが好ましい。
【0077】
オリゴペプチド化合物およびチェックポイント阻害剤(またはこれらを含む医薬組成物)は、治療される新生物疾患に適した方法で対象に投与されればよい。投与量と投与頻度は、患者の状態や患者の病気の種類および重症度等の要因によって決定される(とはいえ、適切な投与量は、臨床試験によっても決定され得る)。オリゴペプチド化合物および/またはチェックポイント阻害剤は、好都合に、1日毎、1週毎もしくは1月毎の用量、または中間頻度の用量(例えば、2、3、4、5もしくは6日毎、2、3、4、5もしくは6週毎、2、3、4、5もしくは6ヶ月毎、年に1度もしくは半年に1度の用量)で対象に提供され得る。上記のように、オリゴペプチド化合物およびチェックポイント阻害剤の対象への投与は、同じ投薬計画を用いても、異なる投薬計画を用いてもよい。
【0078】
用量は、対象の大きさに依存した量で投与され得る。本発明の併用療法にしたがって投与されるオリゴペプチド化合物およびチェックポイント阻害剤の量は、治療上有効な量である。オリゴペプチド化合物は、10μg/kg~100mg/kgボディマス(body mass)の用量、例えば10μg/kg~50mg/kgボディマス、10μg/kg~10mg/kgボディマス、10μg/kg~5mg/kgボディマス、10μg/kg~2.5mg/kgボディマス、100μg/kg~5mg/kgボディマス、100μg/kg~2.5mg/kgボディマス、500μg/kg~5mg/kgボディマス、または1mg/kg~5mg/kgボディマスの用量で投与され得る。特定の実施形態において、オリゴペプチド化合物は、約2mg/kgボディマスの用量、例えば1mg/kg~2.5mg/kgボディマス、1.5mg/kg~2.5mg/kgボディマス、または1.8mg/kg~2.2mg/kgボディマスの用量で投与される。熟練した臨床医であれば、患者にとっての適切な用量を、あらゆる関連要因(例えば、年齢、身長、体重、治療疾患とその重症度)に基づいて算出することができる。
【0079】
チェックポイント阻害剤は、オリゴペプチド化合物と同じ用量で投与され得る、またはオリゴペプチド化合物よりも高い用量もしくは特別に低い用量で投与され得る。例えば、チェックポイント阻害剤は、100μg/kg~100mg/kgボディマスの用量、例えば500μg/kg~50mg/kgボディマスまたは1mg/kg~10mg/kgボディマスの用量で投与され得る。例示的な用量としては、1mg/kgボディマス、2mg/kgボディマス、3mg/kgボディマス、4mg/kgボディマス、5mg/kgボディマス、6mg/kgボディマス、7mg/kgボディマス、8mg/kgボディマス、9mg/kgボディマスおよび10mg/kgボディマスボディマス等が挙げられる。チェックポイント阻害剤は、固定用量、例えば100mg~1.5gで投与され得る。チェックポイント阻害剤の例示的な用量としては、100mg、200mg、240mg、250mg、300mg、400mg、480mg、500mg、600mg、700mg、800mg、900mg、1000mg、1100mg、1200mg、1300mg、1400mgおよび1500mg等が挙げられる。
【0080】
多くのチェックポイント阻害剤に関して、適切な投薬計画が知られている。例えば、ニボルマブは、単独で用いられる場合、2週間毎に240mgIVまたは4週間毎に480mgIVの投与計画にしたがって投与される。イピリムマブは、メラノーマの治療に単独で用いられる場合、3週間毎に3mg/kgIVの投薬計画にしたがって投与される。これらの他にも多くのチェックポイント阻害剤の投与計画が当業者に知られており、FDAおよびEMA等の規制機関が発行したライセンス承認内で参照できる。
【0081】
上記のように、オリゴペプチド化合物およびチェックポイント阻害剤が投与される対象は、新生物疾患を患う対象である。対象は動物であり、哺乳動物であることが好ましい。対象は、マウス、ラット、ウサギまたはモルモット等のげっ歯類であり得る。対象は、ネコもしくはイヌ等のペット動物、またはウマ、ウシ、ヒツジ、ブタもしくはヤギ等の家畜であり得る。対象は、例えば動物園または禁猟区の動物等、野生動物であり得る。特定の実施形態において、対象は、サルまたは類人猿等の霊長類である。対象はヒトであるのが最も好ましい。従って、本明細書で開示する治療は、獣医学的目的または臨床目的であり得るが、臨床目的、すなわち新生物疾患を有するヒト対象(例えば癌患者)の治療に用いられることが好ましい。
【0082】
本明細書で使用されている用語「治療」は、臨床症状の管理において有益なあらゆる効果または工程(または介入)を広く指す。治療は、治療前の疾患または症状と比較して、治療を受けている疾患もしくは1以上のその症状の発症を減少、緩和、改善、遅延することまたは除去すること、あるいは何らかの方法で対象の臨床状態を向上することを含み得る。治療には、治療プログラムまたはレジメンに寄与する、またはその一部をなす臨床段階または介入が含まれ得る。従って、本明細書で使用されている「治療」は、治癒的治療(または治癒的であることを意図した治療)および延命的または姑息的治療(すなわち疾患の症状を単に制限、解放または改善することを目的とした治療)を包含する。
【0083】
本発明のオリゴペプチド化合物およびチェックポイント阻害剤は、対象の新生物疾患の治療に用いるものである。上述したように、新生物疾患は良性または悪性であり得る。特定の実施形態において、新生物疾患は悪性疾患である、すなわち、オリゴペプチド化合物およびチェックポイント阻害剤は、癌を治療するためのものである。
【0084】
治療される癌は特に限定されず、原発腫瘍または転移(すなわち二次癌)であり得る。本明細書で開示する併用療法を用いて治療され得る癌としては、例えば、子宮頚癌、肛門癌、膣癌、外陰癌、陰茎癌、メラノーマ、肺癌、頭頚部癌、膀胱癌、腎臓癌、ホジキンリンパ腫、扁平上皮癌およびメルケル細胞癌等が挙げられる。そのような癌は、当業者が標準的な技術を用いて診断することができる。
【0085】
治療される癌は、原発部位または開始組織の型によって定義されるのではなく、代わりにその遺伝的同一性に基づいて定義されてもよい。具体的には、本明細書で開示する併用療法を用いて治療される癌は、高頻度マイクロサテライト不安定性および/またはミスマッチ修復欠損であり得る。
【0086】
マイクロサテライト(別名「ショートタンデムリピート」)は、反復単位の配列からなるゲノム(コード領域と非コード領域の両方を含む)全体に散在するDNA配列である。個々のマイクロサテライトは、通常長さ1~6塩基対の反復単位を10~60回繰り返している。このマイクロサテライトの繰り返し性が原因で、DNAポリメラーゼは、ゲノムの他の領域よりも該領域においてミスを生じる傾向が強い。機能的ミスマッチ修復(MMR)システムを備えた細胞では、MMR機構が新しく合成されたDNA鎖を「校正」してポリメラーゼが生じたエラーを修正する。MMR機構が欠損した癌細胞は、これらのエラーを修正することができず、マイクロサテライト内の点突然変異が100~1000倍に増加する。このマイクロサテライトにおける突然変異率の増加は、マイクロサテライト不安定性(MSI)として知られている(Dudleyら、Clin Cancer Res22(4):813~820、2016)。「高頻度マイクロサテライト不安定性」癌は、MSIを示す癌である。「ミスマッチ修復欠損」癌は、機能的なMMR機構が欠損した癌である。
【0087】
MSIは、遺伝性または自然発生であり得る。リンチ症候群は、個体がMMR機構をコードする遺伝子に1以上の生殖細胞系突然変異を持ち、それによりMMR欠損が生じる常染色体優性疾患である。リンチ症候群患者は、癌を発症するリスクが高い。本発明に記載の使用のオリゴペプチド化合物およびチェックポイント阻害剤は、リンチ症候群を患う患者の癌治療に用いることができる。非遺伝性MSIは、MMRに関与する1以上の遺伝子発現のエピジェネティック・サイレンシング(後成的休止)によって引き起こされるのが一般的であり、これらの遺伝子内の機能喪失型突然変異によって引き起こされる場合もある。
【0088】
MSIは、遺伝子検査によって癌において特定され得る。MSI検査の詳細は、Dudleyら(上記参照)に記載されており、その内容は参照によって本明細書に組み込まれる。そこに記載されているように、5個の特定のマイクロサテライトパネルを、腫瘍組織と正常組織の両方で増幅する。5個のマイクロサテライトのうち2個以上にサイズ変化が認められた場合、MSIの症状を示すと判断される。Dudleyらにも記載されているように、MMR欠損は、免疫組織化学に基づいて腫瘍サンプルのMMR機構タンパク質の発現欠失を調べることによって診断することができる。現在のガイドラインでは、MSIに関する腫瘍スクリーニングは、同時DNAベースMSI分析、MMRタンパク質免疫組織化学、BRAF遺伝子(セリン/トレオニンキナーゼB-Rafをコードする)変異スクリーニング等により行うことが推奨されている。BRAF変異は、リンチ症候群/MSIのいくつかの症例と関連している。
【0089】
MSIは、癌における突然変異荷重の増加(MMR機構の欠損が原因)に関連しており、癌細胞における新抗原の産生増加、ひいては癌に対する免疫応答の増加を招く。高頻度MSI癌細胞は、免疫発現をダウンレギュレートしてT細胞媒介破壊を回避する必要があるため、他の癌と比較してPD-L1発現の増加に関連しており、特に有力なチェックポイント阻害剤治療の標的であると考えられている。2017年、ペムブロリズマブ(上述)が高頻度MSIおよび/またはMM欠損腫瘍の治療薬としてFDAに認可された。これは、抗癌剤が、体内の腫瘍発生箇所ではなく、特定のバイオマーカーのみに基づく癌治療において使用されることが認められた最初のケースである。
【0090】
MSIは大腸癌に最も関連しているが、胃癌、子宮内膜癌、卵巣癌、肝胆道癌、尿路癌、脳腫瘍および皮膚癌にも関連している。本明細書で開示する併用療法は、そのような高頻度MSI癌の治療にも用いられ得る。
【0091】
別の実施形態において、本明細書で開示する併用療法は、ヒトパピローマウイルス(HPV)に関連する癌の治療に用いられる。HPVは、パピローマウイルス科のDNAウイルスである。HPVは、ヒトにのみ感染する性感染症である。一部のHPV株は、発癌性である。HPV媒介発癌は、ウイルス癌遺伝子E6およびE7を介して発生する。E6およびE7は、それぞれ腫瘍抑制タンパク質p53の分解を促進し、腫瘍抑制タンパク質pRbと結合してそれを阻害する(Narisawa、Saito、Kiyono、Cancer Science98(10):1505~1511、2007)。HPVは、子宮頚癌、肛門癌、陰茎癌、外陰癌、膣癌および頭頚部癌(喉頭癌、中咽頭癌等)と特に関連している。
【0092】
したがって、本明細書で開示する併用療法は、HPV陽性の対象における癌の治療、具体的には、先に記載されたHPVに特に関連する癌の治療に用いられ得る。HPVを個体において検出し得る方法としては、Abreuら、2012(Virology Journal9:262)に概説されており、その内容は参照によって本明細書に組み込まれる。そのような方法は、一般的に、ハイブリダイゼーション(サザンブロット分析)および増幅分析(qPCR、マイクロアレイベース分析等)等によるHPV関連DNA配列の同定に依存する。数多くのHPV検出用キット、例えばPapilloCheck(登録商標)(Greiner Bio-One社、オーストリア)が市販
されている。
【0093】
上記本発明は、オリゴペプチド化合物とチェックポイント阻害剤とをそれを必要とする対象に投与することを含む、対象における新生物疾患を治療する方法と解釈することができる。そのような対象は、医師が特定でき、上記のように新生物疾患を患う対象である。前記オリゴペプチド化合物、前記チェックポイント阻害剤、前記対象、前記治療および前記新生物疾患は、それぞれ先に記載した通りであり得る。
【0094】
同様に、本発明は、新生物疾患を治療するための薬剤の製造におけるオリゴペプチド化合物の使用であって、前記新生物疾患の治療が、対象に前記薬剤とチェックポイント阻害剤とを投与することを含む使用であると解釈することができる。この場合も、前記オリゴペプチド化合物、前記チェックポイント阻害剤、前記対象、前記治療および前記新生物疾患は、それぞれ先に記載した通りであり得る。
【0095】
別の態様において、本発明は、上記定義のオリゴペプチド化合物とチェックポイント阻害剤とを含むキットを提供する。好適なチェックポイント阻害剤は、先に記載した通りである。キットは、オリゴペプチド化合物を含む第1の容器と、チェックポイント阻害剤を含む第2の容器とを含み得る。或いは、キットは、オリゴペプチド化合物とチェックポイント阻害剤の両方を含む単一の容器を含み得る。オリゴペプチド化合物およびチェックポイント阻害剤は、適した形態のキットにおいて提供され得る。例えば、オリゴペプチド化合物および/またはチェックポイント阻害剤は、上記のように、医薬組成物の形態で提供され得る。キットは、対象における新生物疾患の治療に使用し得る。新生物疾患および対象は、先に記載した通りである。或いは、キットは研究(例えば疾患動物モデルにおける用途)で使用し得る。
【0096】
別の態様において、本発明は、対象の新生物疾患の治療において、別々に、同時にまたは逐次的に使用される、上記定義のオリゴペプチド化合物とチェックポイント阻害剤とを含む製品を提供する。前記チェックポイント阻害剤、前記新生物疾患、前記治療および前記対象は、先に記載した通りであり得る。
【0097】
本発明は、以下の非限定的な実施例および図面を参照することによって、より深く理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
図1図1は、CyPep-1または抗体の単独治療と比較して、CyPep-1+抗PD-1抗体の併用治療がマウス結腸癌モデルの腫瘍体積に与える効果を示す。0日目は、マウスがCyPep-1(または対応するコントロール)の二次・最終用量を受けた日に相当する。つまりx軸の「治療後」は、CyPep-1を用いた治療後を意味する。図に抗PD-1抗体(または同等のコントロール)の初回用量がマウスに投与された日を示す。エラーバーは、標準誤差(SEM)を示す。
【0099】
図2図2は、抗PD-1抗体単独治療のマウス(A)と、抗PD-1抗体+CyPep-1併用治療のマウス(B)から死後に切除した腫瘍の顕微鏡画像を示す。図から分かるように、抗PD-1抗体+CyPep-1併用治療のマウスの腫瘍には、抗PD-1抗体単独治療のマウスから採取した腫瘍よりもはるかに多くのTIL(大きく暗く染色された核をもつ細胞)が含まれている。
【実施例
【0100】
(実施例)
(材料)
CyPep-1ペプチドは、Bachem AG社(スイス)が合成したものである。CyPep-1は、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる全D-アミノ酸ペプチドである。抗マウスPD-1抗体は、Bio X Cell社(米国)から入手したものである。モノクローナル抗体として、アイソタイプlgG2aのラット抗体クローンRMP1-14を使用した。クローンRMP1-14は、PD-L1およびPD-L2のPD-1への結合をブロックすることで知られている。
【0101】
(方法)
雌C57/BL6Nマウスの腫瘍接種対象部位を剃毛した。4日後、マウスに5×10個のMC38結腸癌細胞を50%PBS+50%マトリゲルの混合物中、総注入量100μlで移植した。
【0102】
腫瘍の大きさをカリパスで測定した。腫瘍体積の中央値が100mmに到達した時点で、40匹のマウスを無作為に以下の4つの群に分けた。1)Ctr_IT;2)Ctr_IT_PD1;3)CyPep_IT;4)CyPep_IT_PD1。
【0103】
Ctr_IT群には、1日目と2日目に、腫瘍内にPBSを0.05ml/kg投与した。
【0104】
Ctr_IT_PD1群には、1日目と2日目に、腫瘍内にPBSを0.05ml/kg/日投与し、4、8、11、15日目に、腹腔内に抗PD-1抗体を5mg/kg投与した。抗PD-1抗体は、PBS中1mg/mlの濃度で投与した。
【0105】
CyPep_IT群には、1日目と2日目に、CyPep-1を2mg/kg投与した。PBS中40mg/mlの濃度で腫瘍内投与した。
【0106】
CyPep_IT_PD1群には、1日目と2日目に、腫瘍内にPBS中40mg/mlの濃度でCyPep-1を2mg/kg投与し、4、8、11および15日目に、腹腔内にPBS中1mg/mlの濃度で抗PD-1抗体を5mg/kg投与した。
【0107】
3日目に平均+/-2倍を上回る腫瘍をもつ動物を除外して、チェックポイント阻害剤の投与前にすべての群を標準化した。腫瘍潰瘍発生時または腫瘍注射6週間後、腫瘍体積が1500mmに達した時点でマウスを犠牲にした。死後のマウスから腫瘍を取り除いた。各群の平均腫瘍体積を、非対応の両側t検定(unpaired two-tailed t-test)で分析し、組織学的にも腫瘍を分析した。
【0108】
(結果)
図1に示すように、CyPep-1単独または抗PD-1抗体単独で治療したマウスには、PBSのみが投与されたコントロール群と比較して、腫瘍増殖に統計的有意差は認められなかった。しかしながら、CyPep-1と抗PD-1抗体の両方が投与されたマウスは、コントロールと比較して、腫瘍増殖が有意に減少した(P=0.02)。CyPep-1と抗PD-1抗体の両方が投与されたマウスは、コントロールマウスと比較して、腫瘍体積が平均52%減少したことが実証された。
【0109】
図2に組織学的結果を示す。腫瘍を顕微鏡検査で分析したところ、CyPep-1と抗PD-1抗体とを組み合わせて治療したマウスの腫瘍(図2B)には、抗PD-1抗体単独で治療したマウスの腫瘍(図2A)よりも有意に多くの腫瘍浸潤リンパ球(TIL)が含まれていることが分かった。TILの数は、腫瘍に対する免疫活性の指標である。
図1
図2
【配列表】
0007525408000001.app