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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】X線発生装置及びX線撮像システム
(51)【国際特許分類】
   H01J 35/08 20060101AFI20240723BHJP
   H01J 35/14 20060101ALI20240723BHJP
   H01J 35/30 20060101ALI20240723BHJP
   H01J 35/16 20060101ALI20240723BHJP
   H05G 1/00 20060101ALI20240723BHJP
   H05G 1/70 20060101ALI20240723BHJP
   H05G 1/52 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
H01J35/08 C
H01J35/14
H01J35/30
H01J35/16
H05G1/00 E
H05G1/70 A
H05G1/52 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021000435
(22)【出願日】2021-01-05
(65)【公開番号】P2022105848
(43)【公開日】2022-07-15
【審査請求日】2023-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100156395
【弁理士】
【氏名又は名称】荒井 寿王
(72)【発明者】
【氏名】川上 博己
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-067513(JP,A)
【文献】特開2002-195961(JP,A)
【文献】特表2015-503190(JP,A)
【文献】特表2012-520543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/00
H05G 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を出射する電子銃と、
前記電子銃からの電子線の入射によってX線を発生する複数のターゲット部を有するX線発生用ターゲットと、
前記X線発生用ターゲットにおいて電子線が照射される領域を第1照射領域と第2照射領域との間で切り替える照射領域切替え部と、を備え、
前記第1照射領域に含まれる前記ターゲット部の数は、前記第2照射領域に含まれる前記ターゲット部の数よりも多く、
前記電子線の入射方向から見て、前記第1照射領域に含まれる前記ターゲット部の面積は、前記第2照射領域に含まれる前記ターゲット部の面積よりも広く、
前記X線発生用ターゲットは、複数の前記ターゲット部として、互いに平行になるように配置された複数の線状ターゲット部と、点状ターゲット部と、を有し、
前記第1照射領域は、少なくとも2つの前記線状ターゲット部を含むように広がり、
前記第2照射領域は、1つの前記点状ターゲット部のみを含むように広がる、X線発生装置。
【請求項2】
電子線を出射する電子銃と、
前記電子銃からの電子線の入射によってX線を発生する複数のターゲット部を有するX線発生用ターゲットと、
前記X線発生用ターゲットにおいて電子線が照射される領域を第1照射領域と第2照射領域との間で切り替える照射領域切替え部と、を備え、
前記第1照射領域に含まれる前記ターゲット部の数は、前記第2照射領域に含まれる前記ターゲット部の数よりも多く、
前記電子線の入射方向から見て、前記第1照射領域に含まれる前記ターゲット部の面積は、前記第2照射領域に含まれる前記ターゲット部の面積よりも広く、
前記X線発生用ターゲットは、複数の前記ターゲット部として、互いに平行になるように配置され互いに同じ材料で形成された複数の線状ターゲット部を有し、
前記第1照射領域は、少なくとも2つの前記線状ターゲット部を含むように広がり、
前記第2照射領域は、1つの前記線状ターゲット部のみを含むように広がり、
前記照射領域切替え部により前記電子線が照射される領域を前記第1照射領域とすることで、複数光源としてX線を発生させ、
前記照射領域切替え部により前記電子線が照射される領域を前記第2照射領域とすることで、点光源としてX線を発生させる、X線発生装置。
【請求項3】
前記照射領域切替え部は、前記X線発生用ターゲットに照射される電子線のビームサイズを第1サイズと当該第1サイズよりも小さい第2サイズとの間で切り替えることにより、前記X線発生用ターゲットにおいて電子線が照射される領域を前記第1照射領域と前記第2照射領域との間で切り替える、請求項1に記載のX線発生装置。
【請求項4】
前記照射領域切替え部は、前記電子銃から出射した電子線を偏向させることにより、前記X線発生用ターゲットにおいて電子線が照射される領域を前記第1照射領域と前記第2照射領域との間で切り替える、請求項1又は2に記載のX線発生装置。
【請求項5】
前記電子銃は、第1電子線と前記第1電子線よりもビームサイズが大きい第2電子線との何れかを選択的に出射可能であり、
前記照射領域切替え部は、前記電子銃から出射する電子線を前記第1電子線と前記第2電子線との間で切り替えることにより、前記X線発生用ターゲットにおいて電子線が照射される領域を前記第1照射領域と前記第2照射領域との間で切り替える、請求項1~3の何れか一項に記載のX線発生装置。
【請求項6】
前記線状ターゲット部は、前記線状ターゲット部の長手方向に沿って、一体となるように連続的に形成されている、請求項又はに記載のX線発生装置。
【請求項7】
前記線状ターゲット部は、前記線状ターゲット部の長手方向に沿って、複数に分割されて形成されている、請求項又はに記載のX線発生装置。
【請求項8】
前記X線発生用ターゲットを支持する支持体と、
前記電子銃、前記X線発生用ターゲット及び前記支持体の少なくとも一部を収容する筐体部と、
前記筐体部に設けられ、前記ターゲット部で発生したX線を筐体部の外部に出射させるX線出射窓と、を備える、請求項1~の何れか一項に記載の、X線発生装置。
【請求項9】
請求項1~の何れか一項に記載のX線発生装置と、
前記X線発生装置から出射され、撮影対象となる対象物を介してX線を検出するX線検出器と、
前記X線発生装置と前記X線検出器との間に配置された位相格子と、
前記位相格子と前記X線検出器との間に配置された吸収格子と、を備える、X線撮像システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、X線発生装置及びX線撮像システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子線を出射する電子銃と、電子線の入射によってX線を発生する複数のターゲット部を有するX線発生用ターゲットと、を備えたX線発生装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このようなX線発生装置は、例えばX線撮像システムに搭載される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2016-537797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したようなX線撮像システムは、例えば、X線位相イメージング技術を使用したX線撮像システムに用いることができる。その場合、X線発生装置から出射されたX線は、対象物、位相格子及び吸収格子を介してX線検出器により検出される。このようなX線撮像システムでは、例えば目的及び/又は対象物の種類等に応じて、X線撮影の特性(空間分解能及び撮影所要時間等)を変えることが望まれる場合がある。例えば対象物が微細構造を持つ場合は、高い空間分解能でのX線撮影が必要とされるため、タルボ干渉計方式が好ましいが、対象物が時間とともに変化するような場合は、短時間でのX線撮影が必要とされるため、タルボ・ロー干渉計方式が好ましい場合がある。一方、対象物が比較的大きい場合は、その全体をタルボ・ロー干渉計方式にて短時間でX線撮影を行い、高い分解能による確認が必要な部分のみをタルボ干渉計方式にてX線撮影することが好ましい場合がある。このように、X線撮影の特性を変えたい場合、従来は求める特性に応じてX線発生装置自体を替えることが必要であった。そのため、X線撮影の特性を簡易に変えることは困難であった。
【0005】
本開示は、上記課題の解決のためになされたものであり、X線撮影の特性を簡易に変えることが可能なX線発生装置及びX線撮像システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係るX線発生装置は、電子線を出射する電子銃と、電子銃からの電子線の入射によってX線を発生する複数のターゲット部を有するX線発生用ターゲットと、X線発生用ターゲットにおいて電子線が照射される領域を第1照射領域と第2照射領域との間で切り替える照射領域切替え部と、を備え、第1照射領域に含まれるターゲット部の数は、第2照射領域に含まれるターゲット部の数よりも多く、電子線の入射方向から見て、第1照射領域に含まれるターゲット部の面積は、第2照射領域に含まれるターゲット部の面積よりも広い。
【0007】
このX線発生装置では、X線発生用ターゲットにおいて電子線が照射される領域を照射領域切替え部により切り替えることで、電子線が照射されるターゲット部の数及び面積の大小を切り替えることができる。その結果、X線発生用ターゲットで発生させるX線の態様を切り替えることができ、特性が異なる2つのX線撮影を簡易に切り替えることができる。すなわち、X線撮影の特性を簡易に変えることが可能となる。
【0008】
照射領域切替え部は、X線発生用ターゲットに照射される電子線のビームサイズを第1サイズと当該第1サイズよりも小さい第2サイズとの間で切り替えることにより、X線発生用ターゲットにおいて電子線が照射される領域を第1照射領域と第2照射領域との間で切り替えてもよい。この場合、X線発生用ターゲットに照射される電子線のビームサイズを制御することで、特性が異なる2つのX線撮影を実現することが可能となる。
【0009】
照射領域切替え部は、電子銃から出射した電子線を偏向させることにより、X線発生用ターゲットにおいて電子線が照射される領域を第1照射領域と第2照射領域との間で切り替えてもよい。この場合、電子銃から出射した電子線の偏向を制御することで、特性が異なる2つのX線撮影を実現することが可能となる。
【0010】
電子銃は、第1電子線と第1電子線よりもビームサイズが大きい第2電子線との何れかを選択的に出射可能であり、照射領域切替え部は、電子銃から出射する電子線を第1電子線と第2電子線との間で切り替えることにより、X線発生用ターゲットにおいて電子線が照射される領域を第1照射領域と第2照射領域との間で切り替えてもよい。この場合、電子銃から出射する電子線を第1電子線と第2電子線との間で切り替えることで、特性が異なる2つのX線撮影を実現することが可能となる。
【0011】
X線発生用ターゲットは、複数のターゲット部として、互いに平行になるように配置された複数の線状ターゲット部を有し、第1照射領域は、少なくとも2つの線状ターゲット部を含むように広がり、第2照射領域は、1つの線状ターゲット部のみを含むように広がってもよい。この場合、電子線が照射される領域を照射領域切替え部によって切り替えることにより、複数光源としてX線発生装置からX線を発生させる場合と点光源としてX線発生装置からX線を発生させる場合とで切り替えることができ、例えばタルボ・ロー干渉計方式に対応するX線撮影とタルボ干渉計方式に対応するX線撮影とを切り替えることが可能となる。
【0012】
X線発生用ターゲットは、複数のターゲット部として、互いに平行になるように配置された複数の線状ターゲット部と、点状ターゲット部と、を有し、第1照射領域は、少なくとも2つの線状ターゲット部を含むように広がり、第2照射領域は、1つの点状ターゲット部のみを含むように広がってもよい。この場合、電子線が照射される領域を照射領域切替え部によって切り替えることにより、複数光源としてX線発生装置からX線を発生させる場合と点光源としてX線発生装置からX線を発生させる場合とで切り替えることができ、例えばタルボ・ロー干渉計方式に対応するX線撮影とタルボ干渉計方式に対応するX線撮影とを切り替えることが可能となる。
【0013】
ターゲット部は、線状ターゲット部の長手方向に沿って、一体となるように連続的に形成されていてもよいし、線状ターゲット部の長手方向に沿って、複数に分割されて形成されていてもよい。この場合、異なる形態で長尺の線状ターゲット部を構成することで、異なる照射条件のX線を得ることができる。
【0014】
X線発生装置は、X線発生用ターゲットを支持する支持体と、電子銃、X線発生用ターゲット及び支持体の少なくとも一部を収容する筐体部と、筐体部に設けられ、ターゲット部で発生したX線を筐体部の外部に出射させるX線出射窓と、を備えていてもよい。この場合、取扱いの容易なX線発生装置を構成することができる。
【0015】
本発明の一側面に係るX線撮像システムは、上記X線発生装置と、X線発生装置から出射され、撮影対象となる対象物を介してX線を検出するX線検出器と、X線発生装置とX線検出器との間に配置された位相格子と、位相格子とX線検出器との間に配置された吸収格子と、を備える。このX線撮像システムにおいても、上記X線発生装置を備えることから、X線撮影の特性を簡易に変えることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、X線撮影の特性を簡易に変えることが可能なX線発生装置及びX線撮像システムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、一実施形態に係るX線撮像システムを示す概略構成図である。
図2図2は、図1のX線発生装置の概略的な断面図である。
図3図3(a)は、図2のX線発生用ターゲットを示す平面図である。図3(b)は、図3(a)のX線発生用ターゲットにおける第1照射領域を示す平面図である。図3(c)は、図3(a)のX線発生用ターゲットにおける第2照射領域を示す平面図である。
図4図4(a)は、タルボ干渉計方式を利用したX線撮影時のX線撮像システムを示す概略構成図である。図4(b)は、タルボ・ロー干渉計方式を利用したX線撮影時のX線撮像システムを示す概略構成図である。
図5図5(a)は、変形例に係るX線発生用ターゲットを示す平面図である。図5(b)は、図5(a)のX線発生用ターゲットにおける第1照射領域を示す平面図である。図5(c)は、図5(a)のX線発生用ターゲットにおける第2照射領域を示す平面図である。
図6図6(a)は、変形例に係るX線発生用ターゲットを示す平面図である。図6(b)は、図6(a)のX線発生用ターゲットにおける第1照射領域を示す平面図である。図6(c)は、図6(a)のX線発生用ターゲットにおける第2照射領域を示す平面図である。
図7図7(a)は、変形例に係るX線発生用ターゲットを示す平面図である。図7(b)は、図7(a)のX線発生用ターゲットにおける第1照射領域を示す平面図である。図7(c)は、図7(a)のX線発生用ターゲットにおける第2照射領域を示す平面図である。
図8図8(a)は、変形例に係るX線発生用ターゲットを示す平面図である。図8(b)は、図8(a)のX線発生用ターゲットにおける第1照射領域を示す平面図である。図8(c)は、図8(a)のX線発生用ターゲットにおける第2照射領域を示す平面図である。
図9図9は、変形例に係るX線発生装置の概略的な断面図である。
図10図10は、変形例に係るX線発生装置の概略的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本開示の一側面に係るX線発生装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0019】
図1は、一実施形態に係るX線撮像システム100を示す概略構成図である。図1に示されるように、X線撮像システム100は、撮影対象となる対象物Sを透過したX線Lの強度及び位相の違いから画像の濃淡(コントラスト)を生成し、吸収コントラストのX線画像、微分位相画像及び小角散乱画像を得ることが可能なX線位相イメージングシステムである。X線撮像システム100は、例えば対象物Sの非破壊検査に用いられるシステムである。X線撮像システム100は、タルボ干渉計方式を利用したX線撮影とタルボ・ロー干渉計方式を利用したX線撮影とを選択的に実施可能なシステムである。
【0020】
X線撮像システム100は、X線発生装置1、X線検出器112、位相格子113及び吸収格子114を備える。X線発生装置1は、X線Lを出射するX線源である。X線検出器112は、X線発生装置1で出射されたX線Lを対象物Sを介して検出し、画像を取得する。位相格子113は、X線発生装置1とX線検出器112との間に配置される格子であり、本実施形態においては対象物SとX線検出器112との間に配置される。なお、位相格子113は、対象物Sの前、又は、X線発生装置1と対象物Sとの間に配置されてもよい。位相格子113は、一定の周期で並ぶ複数のスリットを有する。位相格子113は、その各スリットで回折した球面波を互いに干渉させて自己像を形成する(タルボ効果)。吸収格子114は、位相格子113とX線検出器112との間に配置される格子である。吸収格子114は、位相格子113に応じた周期で並ぶ複数のスリットを有する。
【0021】
X線撮像システム100では、X線発生装置1から出射されて位相格子113及び吸収格子114を通ったX線Lはモアレ縞を形成し、当該モアレ縞はX線検出器112により検出される。対象物Sが無い場合、モアレ縞は直線的で等間隔に並ぶ。一方、対象物Sが存在する場合、位相格子113を通ってできたX線Lの縞は対象物Sによりひずみ、モアレ縞もひずむ。当該ひずみ量が位相情報(位相シフトに相当)となる。ひずみを含むモアレ縞はX線検出器112により検出することができる。なお、位相格子113を通ってできたX線Lの縞のひずみは、それ自体はわずかであるためにX線検出器112では十分に検出できないが、吸収格子114を設けることにより、モアレ縞のひずみとして検出可能な大きさに拡大しているといえる。
【0022】
図2は、図1のX線発生装置1の概略的な断面図である。図3は、図2の支持体3及び放熱部14を示す斜視図である。図2に示されるように、X線発生装置1は、電子銃2と、X線発生用ターゲットKと、支持体3と、筐体部4と、X線出射窓5と、冷却機構31と、を備える。X線発生装置1は、X線発生用ターゲットKに対する電子線EBの入射方向に対して交わる方向に放出されたX線Lを取り出す反射型タイプのX線管である。
【0023】
電子銃2は、電子線EBを出射する。電子銃2は、例えば数keVから数100keV程度のエネルギーを持つ電子線EBを発生し、出射する部分である。電子銃2は、フィラメント2a、グリッドG、後述する照射領域切替え部7及びそれら電気的にフィラメント2aに接続された内部配線などを有している。フィラメント2aは、カソードを構成する。フィラメント2aは、電子線EBとなる電子を放出する電子放出部材であり、例えばタングステンを主成分とした材料により形成されている。グリッドGは、電子を引き出すと共に拡散を抑制するための電界形成部材であり、フィラメント2a及び照射領域切替え部7を覆うように配置されている。
【0024】
電子銃2を保持するベース部6は、例えばセラミック及びエポキシなどの絶縁性材料によって形成されている。ベース部6の端部には、X線発生装置1の外部から数kVから数100kV程度の電源電圧の供給を受けるための高耐電圧型コネクタ(不図示)が取り付けられている。フィラメント2a等に接続された内部配線は、ベース部6の内部を通って高耐電圧型コネクタに接続されている。
【0025】
フィラメント2aは、外部電源からの電流供給を受けて高温に加熱されると共に、-数kVから-数百kV程度の負の高電圧が印加されることにより、電子を放出する。フィラメント2aから放出された電子は、グリッドGの一部に形成された孔又はスリットから電子線EBとして出射される。フィラメント2aに負の高電圧が印加される一方で、筐体部4及びアノードとなるX線発生用ターゲットK(及び支持体3)は、グランド電位(接地電位)となっている。このため、電子銃2から出射した電子線EBは、フィラメント2aとX線発生用ターゲットKとの電位差により加速した状態でX線発生用ターゲットKに入射する。X線発生用ターゲットKでは、入射した電子線EBによりX線Lが発生する。
【0026】
筐体部4は、電子銃2、X線発生用ターゲットK及び支持体3を収容する。筐体部4は、電子銃2を収容する電子銃収容部11と、支持体3を収容する支持体収容部12とを有する。筐体部4は、電子銃収容部11と支持体収容部12とが互いに気密に結合されることにより、全体として略円筒形状の真空容器を構成している。電子銃収容部11は、例えばステンレス鋼などの金属材料によって中空の円筒形状に形成され、電子銃2を取り囲むように配置されている。電子銃収容部11の先端部分(電子線EBの出射側)は、支持体収容部12の後述のアパーチャ部13に対して気密に結合されている。電子銃収容部11の基端部分には、例えば断面円形の開口部が設けられ、当該開口部には、上述した高耐電圧型コネクタが設けられた蓋部が気密に結合されている。
【0027】
支持体収容部12は、例えば銅などの導電性及び伝熱性に優れる金属材料によって形成されている。本実施形態では、支持体収容部12は、電子銃2からの電子線EBをX線発生用ターゲットKに向けて導入するアパーチャ部13と、支持体3の基端部分3aと熱的に結合された放熱部14と、支持体3を包囲すると共にX線出射窓5を保持する窓保持部15と、を有する。窓保持部15は、中空の円筒形状に形成され、アパーチャ部13及び放熱部14は、円盤状に形成されている。支持体収容部12は、窓保持部15の一端側(電子銃2側)にアパーチャ部13が気密に結合され、窓保持部15の他端側(電子銃2の反対側)に放熱部14が気密に結合されることにより、支持体3を取り囲むように全体として円筒形状に形成されている。
【0028】
アパーチャ部13は、例えば電子銃収容部11の外径と略同径の外径を有する円盤状をなしている。アパーチャ部13の略中央部分には、その厚さ方向に貫通する断面円形の開口部(アパーチャ)13aが設けられている。電子銃2から出射した電子線EBは、開口部13aを通って支持体収容部12内に導入される。
【0029】
図2に示されるように、放熱部14は、例えばアパーチャ部13よりも僅かに小径の円盤状をなしている。放熱部14において、アパーチャ部13との対向面側には、アパーチャ部13側に向かって突出し、窓保持部15内に位置する支持体3が設けられている。支持体3は、X線発生用ターゲットKを支持し、例えば銅等の熱伝導率の高い材料から形成されている。ここでは、支持体3と放熱部14とは、一体的に形成されているが、これらは別体であってもよい。支持体3の一面側は、窓保持部15の内周面15aに対応する円弧状をなしており、当該内周面15aに気密に結合されている。これにより、アパーチャ部13側に向かって突出する支持体3は、窓保持部15に対しても熱的に結合された状態となっている。
【0030】
支持体3の他面側のターゲット支持面16には、後述の線状ターゲット部22が電子線EBの出射軸に対して所定の傾斜角度をもって電子銃2と対向するように、X線発生用ターゲットKが配置されている。具体的には、ターゲット支持面16には凹部19が形成されており、凹部19にX線発生用ターゲットKが嵌め込まれている。凹部19は、X線発生用ターゲットKの外形に対応する形状の窪みである。凹部19の内面は、X線発生用ターゲットKの裏面及び側面が直接又は熱伝導性に優れた接合部材を介して接触する。ターゲット支持面16と、凹部19に嵌め込まれたX線発生用ターゲットKにおいて電子入射側となる表面Kfとは、面一となっている。つまり、ターゲット支持面16は、X線発生用ターゲットKの表面Kfと同一平面上に配置されるように構成されている。
【0031】
窓保持部15は、放熱部14と同径の円筒形状をなしている。窓保持部15において、ターゲット支持面16と対向する周壁部17には、X線出射窓5が固定される固定部Fが設けられている。固定部Fには、X線出射窓5よりも一回り小さい寸法の矩形の開口部が形成されている。開口部の端縁部分には、X線出射窓5の周縁部分がロウ付けなどにより接合され、これにより、開口部がX線出射窓5で気密に封止された状態となっている。固定部Fに固定されたX線出射窓5は、X線発生用ターゲットKに対して所定の傾斜角度をもって対向配置されている。
【0032】
筐体部4には、その外側を覆うケース25が設けられている。ケース25は、例えば金属などの導電性材料によって略直方体形状に形成されている。ケース25において、X線出射窓5の固定部Fに対応する位置には、当該固定部Fの平面形状と同形状の開口部25aが設けられている。ケース25の内面側には、開口部25aの位置を除いてX線遮蔽部材26が配置されている。X線遮蔽部材26は、X線遮蔽能の高い材料(例えば鉛などの重金属材料)からなり、ケース25と筐体部4との間に配置される。これにより、無用なX線Lの漏洩が抑制されると共に、ケース25と筐体部4との間が電気的に接続され、X線発生装置1のグランド電位が安定に確保されている。
【0033】
冷却機構31は、支持体収容部12を冷却する。冷却機構31は、冷却媒体を導入及び排出するための接続管32と、支持体収容部12の壁部内に冷却媒体Mを循環させる冷却流路33とによって構成されている。冷却流路33は、支持体収容部12を構成する壁部の内部に形成された貫通孔であり、少なくとも放熱部14及びアパーチャ部13に配置されている。冷却流路33は、放熱部14内に設けられた第1冷却流路33Aと、窓保持部15内に設けられた第2冷却流路33Bと、アパーチャ部13内に設けられた第3冷却流路33Cとによって構成されている。冷却媒体Mとしては、例えば水或いはエチレングリコールが用いられる。
【0034】
接続管32は、冷却流路33に接続されていると共に、ケース25の外部に引き出されている。接続管32は一対設けられており、一方の接続管32は、外部の循環装置から冷却流路33に冷却媒体Mを導入する管として機能し、他方の接続管32は、冷却流路33を循環させた冷却媒体Mを外部の循環装置に搬出する管として機能する。このような冷却機構31では、一方の接続管32から導入された冷却媒体が第1冷却流路33Aを流れ、他方の接続管32から排出される。また、一方の接続管32から第1冷却流路33Aに導入された冷却媒体の一部は、第1冷却流路33Aから分岐して第2冷却流路33Bを流れ、第3冷却流路33Cに導入される。第3冷却流路33Cを流れた冷却媒体は、第2冷却流路33Bを流れて第1冷却流路33Aに回帰し、他方の接続管32から排出される。
【0035】
以上のように構成されたX線発生装置1では、X線発生用ターゲットK上の後述の線状ターゲット部22に電子線EBが入射し、電子線EBの入射によってX線発生用ターゲットKで発生したX線Lは、X線出射窓5を透過し、X線発生装置1の外部に取り出される。
【0036】
図3(a)は、X線発生用ターゲットKを示す平面図である。図3(b)は、第1照射領域ER1を示す平面図である。図3(c)は、第2照射領域ER2を示す平面図である。図3(a)~図3(c)では、図面の寸法比率は、説明の対象と必ずしも一致していない(以下の図面において同様)。図3(a)に示されるように、X線発生用ターゲットKは、電子線EBの入射によってX線Lを発生する複数の長尺の線状ターゲット部(ターゲット部)22と、複数の線状ターゲット部22が互いに平行となるように埋設されたターゲット部保持板21と、を備える。
【0037】
ターゲット部保持板21は、例えば単結晶ダイヤモンド、多結晶ダイヤモンド又は銅等の線状ターゲット部22を構成する材料よりも熱伝導率の高い材料によって形成された平板状部材である。ターゲット部保持板21を構成する材料の熱伝導率は、支持体3を構成する材料の熱伝導率以上であるのが好ましい。ターゲット部保持板21は、円板状を呈する。ターゲット部保持板21において電子線入射側面である表面21fには、その全面に亘って断面矩形状で有底の複数の溝部21aが形成されている。複数の溝部21aは、互いに平行な直線状に延在する。線状ターゲット部22は、例えばタングステンなどの金属によって形成されている。線状ターゲット部22は、溝部21aを埋めるようにターゲット部保持板21に設けられており、互いに平行な直線状に延在する。つまり、線状ターゲット部22は、長手方向に沿って、一体となるように連続的に形成されている。
【0038】
例えば、ターゲット部保持板21の径はφ3~12mmであり、ターゲット部保持板21の厚さは0.1~3mmである。線状ターゲット部22のピッチ(隣り合う線状ターゲット部22の中心間距離)は5~20μmであり、線状ターゲット部22の幅は2~10μmであり、線状ターゲット部22の深さは5~30μmである。
【0039】
図2図3(b)及び図3(c)に示されるように、X線発生装置1は、X線発生用ターゲットKにおいて電子線EBが照射される照射領域ERを第1照射領域ER1と第2照射領域ER2との間で切り替える照射領域切替え部7を備える。照射領域切替え部7は、電子銃2に設けられている。照射領域切替え部7は、偏向コイル71、第1電極72及び第2電極73を有する。偏向コイル71は、電子線EBの出射軸に垂直な方向において電子線EBの位置を調整する。第1電極72は、フィラメント2aから出射された電子線EBの電子の量を調整する。第1電極72は、フィラメント2aと偏向コイル71との間に配置されている。第2電極73は、電圧を変えることで、電子線EBのビームサイズを調整する。第2電極73は、第1電極72と偏向コイル71との間に配置されている。
【0040】
本実施形態では、照射領域切替え部7は、X線発生用ターゲットKに照射される電子線EBのビームサイズを第1サイズと当該第1サイズよりも小さい第2サイズとの間で切り替えることにより、照射領域ERを第1照射領域ER1と第2照射領域ER2との間で切り替える。ここで、ビームサイズとは、X線発生用ターゲットK上に照射された電子線EBの照射領域の大きさであり、実質的に照射領域ERの大きさと等しく、本実施形態では、X線発生用ターゲットK上に照射された電子線EBのビーム径であるということもできる。また、ビームサイズは、X線発生用ターゲットK上に照射された電子線EBの照射領域の面積の大きさであってもよい。また、電子線EBのビーム径とは、ビーム形状が円形の場合がその直径であり、楕円形の場合は長手方向における直径であり、多角形もしくはそれに類似する形状の場合は、当該形状が内接するような円における直径であって、ビーム径の大小を比較する場合には、上記したような直径をもって比較する。第1照射領域ER1は、電子線EBの入射方向(以下、単に「入射方向」ともいう)から見て、少なくとも2つの線状ターゲット部22を含むように広がる領域である。第2照射領域ER2は、入射方向から見て、1つの線状ターゲット部22のみを含むように広がる領域である。第1照射領域ER1に含まれる線状ターゲット部22の数は、第2照射領域ER2に含まれる線状ターゲット部22の数よりも多い。入射方向から見て、第1照射領域ER1に含まれる線状ターゲット部22の面積は、第2照射領域ER2に含まれる線状ターゲット部22の面積よりも広い。
【0041】
以上に説明したX線撮像システム100において、光学系アライメントの方法の例を説明する。
【0042】
まず、照射領域切替え部7により照射領域ERを第2照射領域ER2(図3(c)参照)とする。これにより、図4(a)に示されるように、点光源としてのX線発生装置1からX線Lが出射されるように構成され、タルボ干渉計方式を利用したX線撮影が行われる。タルボ干渉計方式を利用したX線撮影では、画像が鮮明であり、撮像時間が長時間である。このとき、対象物Sは配置しない。
【0043】
タルボ干渉計方式を利用したX線撮影の結果に基づいて、位相格子113と吸収格子114との位置関係を決定する。具体的には、位相格子113と吸収格子114とを、予め定められた位置(X線発生装置1からの設定距離だけ離れた位置)に配置する。位相格子113を固定したままX線Lの光軸回りに吸収格子114を回転させ、吸収格子114の回転方向の位置を、X線検出器112で検出する画像上にモアレ縞が発生する位置とする。さらに、位相格子113を固定したままX線Lの光軸回りに吸収格子114を回転させる。その結果、当該モアレ縞が回転する場合、位相格子113を固定したまま吸収格子114をX線の光軸方向に一方側及び/又は他方側に移動させる。そして再び、位相格子113を固定したままX線Lの光軸回りに吸収格子114を回転させる。位相格子113を固定したまま吸収格子114を回転させても当該モアレ縞が回転しない場合、位相格子113を固定したまま吸収格子114を回転させ、吸収格子114の回転方向の位置をモアレ縞の間隔が最大になる位置とする。
【0044】
続いて、照射領域切替え部7により照射領域ERを第1照射領域ER1(図3(b)参照)とする。これにより、図4(b)に示されるように、複数光源としてのX線発生装置1からX線Lが出射されるように構成され、タルボ・ロー干渉計方式を利用したX線撮影が行われる。タルボ・ロー干渉計方式を利用したX線撮影では、タルボ干渉方式を利用したX線撮影に比べて、画像の鮮明さは低くなるが、撮像時間は短時間である。このとき、対象物Sは配置しない。また、X線発生装置1における物理的な入替え作業及び位置合わせ作業は不要である。
【0045】
位相格子113及び吸収格子114を一体的に同方向へ同角度だけX線Lの光軸回りに回転させ、これらの回転方向の位置を、X線検出器112で検出する画像上にモアレ縞が発生する位置とする。位相格子113及び吸収格子114を一体的に同方向へ同角度だけX線Lの光軸回りに回転させ、これらの回転方向の位置を、ビジビリティが最大となる位置とする。以上により、光学系アライメントが完了する。
【0046】
なお、ビジビリティとは、モアレ縞の明暗(コントラスト)の度合いを示している。ビジビリティが最大となると、モアレ縞のコントラストが最大となり、位相シフト(対象物Sによる位相のズレ)に対して感度が最大となる。この場合、例えば薄い対象物Sでもイメージングが可能となる。
【0047】
以上、X線発生装置1及びX線撮像システム100では、X線発生用ターゲットKにおいて照射領域ERを照射領域切替え部7により切り替えることで、電子線EBが照射される線状ターゲット部22の数及び面積の大小を切り替えることができる。その結果、X線発生用ターゲットKで発生させるX線Lの態様を切り替えることができ、特性が異なる2つのX線撮影を簡易に切り替えることができる。すなわち、X線撮影の特性を簡易に変えることが可能となる。
【0048】
X線発生装置1及びX線撮像システム100では、照射領域切替え部7は、X線発生用ターゲットKに照射される電子線EBのビームサイズを第1サイズと当該第1サイズよりも小さい第2サイズとの間で切り替えることにより、X線発生用ターゲットKにおいて照射領域ERを第1照射領域ER1と第2照射領域ER2との間で切り替える。この場合、X線発生用ターゲットKに照射される電子線EBのビームサイズを制御することで、特性が異なる2つのX線撮影を実現することが可能となる。
【0049】
X線発生装置1及びX線撮像システム100では、X線発生用ターゲットKは、互いに平行になるように配置された複数の線状ターゲット部22を有する。第1照射領域ER1は、少なくとも2つの線状ターゲット部22を含むように広がり、第2照射領域ER2は、1つの線状ターゲット部22のみを含むように広がる。この場合、照射領域ERを照射領域切替え部7によって切り替えることにより、複数光源としてX線発生装置1からX線Lを発生させる場合と点光源としてX線発生装置1からX線Lを発生させる場合とで切り替えることができる。タルボ・ロー干渉計方式に対応するX線撮影とタルボ干渉計方式に対応するX線撮影とを、簡易に切り替えることが可能となる。
【0050】
X線発生装置1及びX線撮像システム100では、X線発生用ターゲットKを支持する支持体3と、電子銃2、X線発生用ターゲットK及び支持体3を収容する筐体部4と、筐体部4に設けられたX線出射窓5と、を備える。この場合、反射型タイプのX線発生装置を構成することができる。
【0051】
本開示は、上記実施形態に限られるものではない。
【0052】
上記実施形態において、照射領域切替え部7は、電子線EBのビームサイズを切り替えることによって照射領域ERを第1照射領域ER1と第2照射領域ER2との間で切り替えたが、これに限定されない。照射領域切替え部7は、電子銃2から出射した電子線EBを偏向させることにより、X線発生用ターゲットKにおいて照射領域ERを第1照射領域ER1と第2照射領域ER2との間で切り替えてもよい。この場合、電子銃2から出射した電子線EBの偏向を制御することで、特性が異なる2つのX線撮影を実現することが可能となる。
【0053】
上記実施形態において、電子銃2は、第1電子線と第1電子線よりもビームサイズが大きい第2電子線との何れかを選択的に出射可能であってもよい。例えば電子銃2は、第1電子線を放出する第1フィラメントと、第2電子線を放出する第2フィラメントと、をカソードとして有していてもよい。このとき、照射領域切替え部として、電子線放出部切り替え部を備え、当該電子線放出部切り替え部が、用いる電子放出源を第1フィラメントと第2フィラメントとの間で切り替えることで、電子銃2から出射する電子線EBを第1電子線と第2電子線との間で切り替える。つまり、電子線放出部切り替え部が、電子銃2から出射する電子線EBを第1フィラメントから放出する場合と第2フィラメントから放出する場合とで切り替える。そして、それぞれの電子線EBがX線発生用ターゲットKに適切に照射されるように照射領域切替え部7で調整することにより、X線発生用ターゲットKにおいて照射領域ERを第1照射領域ER1と第2照射領域ER2との間で切り替えてもよい。この場合、電子銃2から出射する電子線EBを第1電子線と第2電子線との間で切り替えることで、特性が異なる2つのX線撮影を実現することが可能となる。なお、電子線放出部切り替え部によって第1フィラメントと第2フィラメントとを切り替えるのみで、それぞれの電子線EBがX線発生用ターゲットKに適切に照射される場合には、照射領域切替え部7での調整は行わなくてもよい。また、第1フィラメントおよび第2フィラメントをともに電子出射が可能な状態としておき、照射領域切替え部7によって、第1フィラメントから電子線を引き出す場合と、第2フィラメントから電子線を引き出す場合とを切り替えてもよい。この場合、電子線放出部切り替え部は不要となる。
【0054】
上記実施形態において、X線発生用ターゲットK、第1照射領域ER1及び第2照射領域ER2は、特に限定されない。以下の変形例に例示されるように、第1照射領域ER1に含まれるターゲット部の数が第2照射領域ER2のそれよりも多く、且つ、入射方向から見て第1照射領域ER1に含まれるターゲット部の面積が第2照射領域ER2のそれよりも広ければよい。
【0055】
例えば、図5(a)、図5(b)及び図5(c)に示されるように、変形例に係るX線発生用ターゲットK2は、互いに平行になるように配置された複数の長尺の線状ターゲット部(ターゲット部)221と、1つの点状ターゲット部(ターゲット部)222と、線状ターゲット部221及び点状ターゲット部222が埋設されたターゲット部保持板201と、を有する。ターゲット部保持板201には、互いに平行な直線状に延在する複数の溝部201aと、複数の溝部201aに対して離れて配置される凹部201bと、が形成されている。線状ターゲット部221は、溝部201aを埋めるようにターゲット部保持板201に設けられており、互いに平行な直線状に延在する。点状ターゲット部222は、凹部201bを埋めるようにターゲット部保持板201に設けられており、複数の線状ターゲット部221に対して離れて配置される。変形例に係る第1照射領域ER21は、少なくとも2つの線状ターゲット部221を含むように広がる。変形例に係る第2照射領域ER22は、1つの点状ターゲット部222のみを含むように広がる。照射領域切替え部7は、電子線EBのビームサイズを第1サイズと第2サイズとの間で切り替えると共に、電子銃2から出射した電子線EBを偏向させる或いは電子銃2から出射する電子線EBを第1電子線と第2電子線との間で切り替えることにより、照射領域ERを第1照射領域ER21と第2照射領域ER22との間で切り替える。
【0056】
これにより、照射領域ERを照射領域切替え部7によって切り替えることで、X線発生装置1を複数光源としてX線Lを発生させる場合とX線発生装置1を点光源としてX線Lを発生させる場合とで切り替えることができる。タルボ・ロー干渉計方式に対応するX線撮影とタルボ干渉計方式に対応するX線撮影とを簡易に切り替えることが可能となる。
【0057】
また例えば、図6(a)、図6(b)及び図6(c)に示されるように、変形例に係る第1照射領域ER31は、少なくとも2つの線状ターゲット部221を含むように広がる。変形例に係る第2照射領域ER32は、1つの点状ターゲット部222のみを含むように広がる。照射領域切替え部7は、電子線EBのビームサイズを変えずに、電子銃2から出射した電子線EBを偏向させる或いは電子銃2から出射する電子線EBを第1電子線と第2電子線との間で切り替えることにより、照射領域ERを第1照射領域ER31と第2照射領域ER32との間で切り替える。これにより、上記変形例と同様に、タルボ・ロー干渉計方式に対応するX線撮影とタルボ干渉計方式に対応するX線撮影とを簡易に切り替えることが可能となる。
【0058】
また例えば、図7(a)、図7(b)及び図7(c)に示されるように、変形例に係るX線発生用ターゲットK3は、互いに平行になるように配置された複数の長尺の線状ターゲット部(ターゲット部)321と、複数(ここでは4つ)の点状ターゲット部(ターゲット部)322と、線状ターゲット部321及び点状ターゲット部322が埋設されたターゲット部保持板301と、を有する。ターゲット部保持板301には、互いに平行な直線状に延在する複数の溝部301aと、複数の溝部201aに対して離れて配置される複数の凹部301bと、が形成されている。線状ターゲット部321は、溝部301aを埋めるようにターゲット部保持板301に設けられており、互いに平行な直線状に延在する。点状ターゲット部322は、凹部301bを埋めるようにターゲット部保持板301に設けられており、複数の線状ターゲット部321に対して離れて配置される。変形例に係る第1照射領域ER41は、少なくとも2つの線状ターゲット部321を含むように広がる。変形例に係る第2照射領域ER42は、複数の点状ターゲット部322のうちの何れかのみを含むように広がる。照射領域切替え部7は、電子線EBのビームサイズを変えずに、電子銃2から出射した電子線EBを偏向させる或いは電子銃2から出射する電子線EBを第1電子線と第2電子線との間で切り替えることにより、照射領域ERを第1照射領域ER41と第2照射領域ER42との間で切り替える。これにより、上記変形例と同様に、タルボ・ロー干渉計方式に対応するX線撮影とタルボ干渉計方式に対応するX線撮影とを簡易に切り替えることが可能となる。点状ターゲット部322が複数設けられているため、第2照射領域ER42に点状ターゲット部322を確実に含ませることができる。
【0059】
また例えば、図8(a)、図8(b)及び図8(c)に示されるように、変形例に係るX線発生用ターゲットK4は、互いに平行になるように配置された複数の長尺の線状ターゲット部(ターゲット部)421と、1つの点状ターゲット部(ターゲット部)422と、線状ターゲット部421及び点状ターゲット部422が埋設されたターゲット部保持板301と、点状ターゲット部422の周囲の複数箇所(ここでは4箇所)に設けられた目印部411と、を有する。ターゲット部保持板401には、互いに平行な直線状に延在する複数の溝部401aと、複数の溝部401aに対して離れて配置される1つの凹部401bと、が形成されている。線状ターゲット部421は、溝部401aを埋めるようにターゲット部保持板401に設けられており、互いに平行な直線状に延在する。点状ターゲット部422は、凹部401bを埋めるようにターゲット部保持板301に設けられており、複数の線状ターゲット部421に対して離れて配置される。目印部411は、点状ターゲット部422の位置を見つけやすくするものであり、例えば印字部、凹部及び凸部の何れかであってもよい。
【0060】
変形例に係る第1照射領域ER51は、少なくとも2つの線状ターゲット部421を含むように広がる。変形例に係る第2照射領域ER52は、1の点状ターゲット部422のみを含むように広がる。照射領域切替え部7は、電子線EBのビームサイズを変えずに、電子銃2から出射した電子線EBを偏向させる或いは電子銃2から出射する電子線EBを第1電子線と第2電子線との間で切り替えることにより、照射領域ERを第1照射領域ER51と第2照射領域ER52との間で切り替える。これにより、上記変形例と同様に、タルボ・ロー干渉計方式に対応するX線撮影とタルボ干渉計方式に対応するX線撮影とを簡易に切り替えることが可能となる。
【0061】
上記実施形態では、照射領域切替え部7が偏向コイル71、第1電極72及び第2電極73を有するが、照射領域切替え部7の構成は特に限定されない。図9に示されるように、照射領域切替え部7は、集束コイル74、第1電極75及び偏向コイル76を有していてもよい。集束コイル74は、コイルに流れる電流量を調整することで、電子線EBのビームサイズを調整する。第1電極75は、フィラメント2aから出射された電子線EBの電子の量を調整する。第1電極75は、フィラメント2aと集束コイル74との間に配置されている。偏向コイル76は、電子線EBの出射軸に垂直な方向において電子線EBの位置を調整する。偏向コイル76は、第1電極75と集束コイル74との間に配置されている。なお、照射領域切替え部7は、照射領域ERを切り替えることができればよく、例えば第1電極72,75、第2電極73及び集束コイル74の少なくとも何れかを有していなくてもよい。
【0062】
上記実施形態は、反射型タイプのX線発生装置1を備えているが、これに限定されない。例えば図10に示されるように、X線発生用ターゲットKを透過するように、X線発生用ターゲットKに対する電子線EBの入射方向に対して沿った方向に放出されたX線Lを取り出す透過型タイプのX線発生装置1Bを備えていてもよい。図示する例のX線発生装置1Bでは、X線出射窓5を兼ねたX線発生用ターゲットKが電子線EBの出射軸と直交するようにアパーチャ部13に配置されている。
【0063】
上記実施形態では、支持体収容部12がアパーチャ部13、放熱部14、及び窓保持部15を組み合わせて構成されているが、支持体収容部12の構成はこれに限られない。例えばアパーチャ部13と一体化された窓保持部15が放熱部14に結合されて支持体収容部12が構成されていてもよく、放熱部14と一体化された窓保持部15がアパーチャ部13と結合されて支持体収容部12が構成されていてもよい。上記実施形態では、筐体部4は支持体3の少なくとも一部を収容すればよい。
【0064】
上記実施形態では、第1照射領域に含まれるターゲット部の数が第2照射領域に含まれるターゲット部の数よりも多く、第1照射領域に含まれるターゲット部の面積が、第2照射領域に含まれるターゲット部の面積よりも広ければ、第2照射領域に含まれるターゲット部の数は必ずしも1つでなくてもよい。例えば図3に示すX線発生用ターゲットKにおいて、第2照射領域ER2に含まれる線状ターゲット部22を2つ以上にしてもよい。
【0065】
上記実施形態では、照射領域は、第1照射領域及び第2照射領域のみに限らず、例えば第1照射領域に含まれるターゲット部の数よりも少なく、第2照射領域に含まれるターゲット部の数よりも多い第3照射領域というように、さらに複数の照射領域を設定してもよい。また、線状ターゲット部22,221,321,421は、長手方向に沿って、一体となるように連続的に形成されるのに限らず、長手方向に沿って、複数に分割されて形成されていてもよい。この場合、異なる形態で長尺の線状ターゲット部22,221,321,421を構成することで、異なる照射条件のX線を得ることができる。
【0066】
上記実施形態及び変形例における各構成には、上述した材料及び形状に限定されず、様々な材料及び形状を適用することができる。上記実施形態又は変形例における各構成は、他の実施形態又は変形例における各構成に任意に適用することができる。上記実施形態又は変形例における各構成の一部は、本発明の一態様の要旨を逸脱しない範囲で適宜に省略可能である。
【符号の説明】
【0067】
1,1B…X線発生装置、2…電子銃、3…支持体、4…筐体部、5…X線出射窓、7…照射領域切替え部、21,201,301,401…ターゲット部保持板、22,221,321,421…線状ターゲット部(ターゲット部)、100…X線撮像システム、112…X線検出器、113…位相格子、114…吸収格子、222,322,422…点状ターゲット部(ターゲット部)、EB…電子線、L…X線、ER…照射領域、ER1,ER21,ER31,ER41,ER51…第1照射領域、ER2,ER22,ER32,ER42,ER52…第2照射領域、K,K2,K3,K4…X線発生用ターゲット、S…対象物。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10