(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】解析方法、解析装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/25 20200101AFI20240723BHJP
G06F 30/23 20200101ALI20240723BHJP
G16Z 99/00 20190101ALI20240723BHJP
【FI】
G06F30/25
G06F30/23
G16Z99/00
(21)【出願番号】P 2021007939
(22)【出願日】2021-01-21
【審査請求日】2023-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 修司
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-194884(JP,A)
【文献】特開2015-111401(JP,A)
【文献】特開2012-128490(JP,A)
【文献】特開2013-183551(JP,A)
【文献】国際公開第2019/171660(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/28
G16Z 99/00
G01R 33/00 -33/64
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータが、
仮想空間に定義される少なくとも1つの解析対象物を含む系の解析対象物の各々を、ボロノイ多面体またはボロノイ多角形の複数のビーズに分割し、
前記複数のビーズの各々に磁気モーメントを付与し、
外部磁場が時間変化したときの前記複数のビーズの各々の位置における誘導磁場を求める磁場解析方法であって、
前記コンピュータが、
前記複数のビーズのそれぞれを、ボロノイ多面体の複数のボロノイ面のそれぞれを底面とする複数の三角錐、またはボロノイ多角形の複数の辺のそれぞれを一つの辺とする複数の三角形の要素に分割し、
前記仮想空間に含まれる観測点におけるベクトルポテンシャルを、解析対象物内の微小領域における電磁気的物理量、及び微小領域から前記観測点までの距離の関数として記述し、
分割して得られた要素ごとに、ベクトルポテンシャルの関数を数値的に体積積分または面積積分することによって前記観測点における誘導磁場を求める解析方法。
【請求項2】
誘導磁場を求めるときに、ベクトルポテンシャルに対して、解析対象物ごとの重心ベクトルと、前記仮想空間における磁束密度とのベクトル積を用いて記述されるゲージ変換を行うことにより導出される誘導磁場の式を用いる請求項1に記載の解析方法。
【請求項3】
さらに、
求められた誘導磁場に基づいて、前記複数のビーズの各々に作用する力を求め、
前記複数のビーズの各々に作用する力に基づいて、各ビーズの運動を支配する運動方程式を数値的に解いて前記少なくとも1つの解析対象物の挙動を求める請求項1または2に記載の解析方法。
【請求項4】
解析条件が入力される入力装置と、
前記入力装置に入力された解析条件に基づいて、磁場の解析を行う処理装置と
を備え、
仮想空間に含まれる観測点におけるベクトルポテンシャルが、解析対象物内の微小領域における電磁気的物理量と、微小領域内の任意の点から前記観測点までの距離との関数として記述され、
前記処理装置は、
前記入力装置に入力された解析条件に基づいて、前記仮想空間に定義される少なくとも1つの解析対象物を含む系の解析対象物の各々を、ボロノイ多面体またはボロノイ多角形の複数のビーズに分割する手順と、
前記複数のビーズの各々に磁気モーメントを付与する手順と、
前記入力装置に入力された解析条件に基づいて、前記仮想空間に定義される少なくとも1つの解析対象物を含む系の解析対象物の各々を、ボロノイ多面体またはボロノイ多角形の複数のビーズに分割する手順と、
外部磁場が時間変化したときの前記複数のビーズの各々の位置における誘導磁場を求める手順と
を実行し、
誘導磁場を求める手順において、
前記複数のビーズのそれぞれを、ボロノイ多面体の複数のボロノイ面のそれぞれを底面とする複数の三角錐、またはボロノイ多角形の複数の辺のそれぞれを一つの辺とする複数の三角形の要素に分割し、
分割して得られた要素ごとに、ベクトルポテンシャルの関数を数値的に体積積分または面積積分することによって前記観測点における誘導磁場を求める解析装置。
【請求項5】
仮想空間に定義される少なくとも1つの解析対象物を含む系の解析対象物の各々を、ボロノイ多面体の複数のビーズに分割する手順と、
前記複数のビーズの各々に磁気モーメントを付与する手順と、
外部磁場が時間変化したときの前記複数のビーズの各々の位置における誘導磁場を求める手順と
をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記仮想空間に含まれる観測点におけるベクトルポテンシャルが、解析対象物内の微小領域における電磁気的物理量と、微小領域内の任意の点から前記観測点までの距離との関数として記述されており、
誘導磁場を求める手順は、
複数のビーズのそれぞれを、ボロノイ多面体の複数のボロノイ面のそれぞれを底面とする複数の三角錐、またはボロノイ多角形の複数の辺のそれぞれを一つの辺とする三角形の要素に分割する手順と、
分割して得られた要素ごとに、ベクトルポテンシャルの関数を数値的に体積積分または面積積分することによって前記観測点における誘導磁場を求める手順と
を含むプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場解析を行う解析方法、解析装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
古典力学や量子力学等を基に計算機を用いて物質科学全般の現象を探るための方法として、分子動力学法をマクロスケールの系を扱えるように発展させた繰り込み群分子動力学法に基づくシミュレーションが知られている(例えば、特許文献1参照)。分子動力学法のような粒子法は静的な現象だけでなく流れなどの動的な現象をも取り扱えるので、主に静的な現象を解析対象とする有限要素法などに代わるシミュレーション手法として注目されている。また、各粒子に磁気モーメントを付与し、各粒子の球対称性に基づく厳密解を利用して磁気的な物理量を演算することで、比較的精度の高いシミュレーション結果を高速に得ることのできる磁気ビーズ法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-37334号公報
【文献】特開2015―111401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の磁気ビーズ法では、対象物を複数個の要素に分割し、各要素を球形状の粒子とみなして球対称性に基づく厳密解を利用して磁場を演算している。対象物を複数の粒子で充填させようとすると粒子間に隙間が生じるため、その隙間や球形状の粒子に起因する誤差が生じ得る。
【0005】
誘導電動機の解析において、定格回転数近傍のトルクを得るために、誘導磁場解析の誤差を1%以下にすることが望まれている。また、極低温の条件下で用いられる磁気シールドの誘導磁場解析を行う場合、導電率が室温時の数百倍となる。導電率が高くなると、誘導磁場解析の誤差が大きくなる。従来の磁気ビーズ法では、誘導磁場解析の誤差を上述の目標値以下にすることが困難である。
【0006】
本発明の目的は、磁場解析の誤差を小さくすることが可能な解析方法、解析装置、及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によると、
コンピュータが、
仮想空間に定義される少なくとも1つの解析対象物を含む系の解析対象物の各々を、ボロノイ多面体またはボロノイ多角形の複数のビーズに分割し、
前記複数のビーズの各々に磁気モーメントを付与し、
外部磁場が時間変化したときの前記複数のビーズの各々の位置における誘導磁場を求める磁場解析方法であって、
前記コンピュータが、
前記複数のビーズのそれぞれを、ボロノイ多面体の複数のボロノイ面のそれぞれを底面とする複数の三角錐、またはボロノイ多角形の複数の辺のそれぞれを一つの辺とする複数の三角形の要素に分割し、
前記仮想空間に含まれる観測点におけるベクトルポテンシャルを、解析対象物内の微小領域における電磁気的物理量、及び微小領域から前記観測点までの距離の関数として記述し、
分割して得られた要素ごとに、ベクトルポテンシャルの関数を数値的に体積積分または面積積分することによって前記観測点における誘導磁場を求める解析方法が提供される。
【0008】
本発明の他の観点によると、
解析条件が入力される入力装置と、
前記入力装置に入力された解析条件に基づいて、磁場の解析を行う処理装置と
を備え、
仮想空間に含まれる観測点におけるベクトルポテンシャルが、解析対象物内の微小領域における電磁気的物理量と、微小領域内の任意の点から前記観測点までの距離との関数として記述され、
前記処理装置は、
前記入力装置に入力された解析条件に基づいて、前記仮想空間に定義される少なくとも1つの解析対象物を含む系の解析対象物の各々を、ボロノイ多面体またはボロノイ多角形の複数のビーズに分割する手順と、
前記複数のビーズの各々に磁気モーメントを付与する手順と、
前記入力装置に入力された解析条件に基づいて、前記仮想空間に定義される少なくとも1つの解析対象物を含む系の解析対象物の各々を、ボロノイ多面体またはボロノイ多角形の複数のビーズに分割する手順と、
外部磁場が時間変化したときの前記複数のビーズの各々の位置における誘導磁場を求める手順と
を実行し、
誘導磁場を求める手順において、
前記複数のビーズのそれぞれを、ボロノイ多面体の複数のボロノイ面のそれぞれを底面とする複数の三角錐、またはボロノイ多角形の複数の辺のそれぞれを一つの辺とする複数の三角形の要素に分割し、
分割して得られた要素ごとに、ベクトルポテンシャルの関数を数値的に体積積分または面積積分することによって前記観測点における誘導磁場を求める解析装置が提供される。
【0009】
本発明のさらに他の観点によると、
仮想空間に定義される少なくとも1つの解析対象物を含む系の解析対象物の各々を、ボロノイ多面体の複数のビーズに分割する手順と、
前記複数のビーズの各々に磁気モーメントを付与する手順と、
外部磁場が時間変化したときの前記複数のビーズの各々の位置における誘導磁場を求める手順と
をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記仮想空間に含まれる観測点におけるベクトルポテンシャルが、解析対象物内の微小領域における電磁気的物理量と、微小領域内の任意の点から前記観測点までの距離との関数として記述されており、
誘導磁場を求める手順は、
複数のビーズのそれぞれを、ボロノイ多面体の複数のボロノイ面のそれぞれを底面とする複数の三角錐、またはボロノイ多角形の複数の辺のそれぞれを一つの辺とする三角形の要素に分割する手順と、
分割して得られた要素ごとに、ベクトルポテンシャルの関数を数値的に体積積分または面積積分することによって前記観測点における誘導磁場を求める手順と
を含むプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0010】
ビーズのそれぞれを分割して得られた要素ごとに、ベクトルポテンシャルの関数を数値的に体積積分または面積積分するため、解析対象物のほぼ全域が積分範囲になり、積分範囲に隙間が生じない。このため、ビーズを真円または真球と仮定して積分範囲を真円または真球とする従来の方法と比べて、解析精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例による解析装置のブロック図である。
【
図2】
図2は、実施例による解析方法の手順を示すフローチャートである。
【
図3】
図3Aは、解析モデルの一例を示す模式図であり、
図3Bは、解析空間内の観測点、及び1つのビーズを示す模式図である。
【
図4】
図4Aは、二次元の円形の解析対象物を複数のビーズに分割する手法を説明するための模式図であり、
図4Bは、1つのビーズの模式図である。
【
図5】
図5Aは、仮想空間が三次元の場合に、解析対象物に含まれるボロノイ多面体の複数のビーズのうち1つのビーズの一例を示す模式図であり、
図5Bは、1つのボロノイ面を底面とする複数の三角錐の要素を示す模式図である。
【
図6】
図6Aは、解析モデルを示す模式図であり、
図6Bは、解析結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例及び比較例による解析方法で求めた解の、厳密解からの誤差を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1~
図7を参照して、本発明の一実施例による解析装置及び解析方法について説明する。
【0013】
古典力学や量子力学等を基に計算機を用いて物質科学全般の現象を探るための方法として、分子動力学法(Molecular Dynamics Method、以下MD法と称す。)や、量子分子動力学法(Quantum Molecular Dynamics Method)や、マクロスケールの系を扱えるようにMD法を発展させた繰り込み群分子動力学法(Renormalized Molecular Dynamics、以下RMD法と称す。)に基づくシミュレーションが知られている。正確にはMD法やRMD法は運動論的手法(物理量の算出には統計力学を使う)であり、粒子法は、連続体を記述する微分方程式を離散化する手法であり、両者は別ものであるが、ここではMD法やRMD法も粒子法と呼ぶ。
【0014】
粒子法は静的な現象だけでなく流れなどの動的な現象をも取り扱えるので、主に静的な現象を解析対象とする有限要素法などに代わるシミュレーション手法として注目されている。
【0015】
粒子法には、連続体を粒子で離散化することにより解析対象の粒子系を得るという微分的な見方がある。例えば、粒子法において流体を扱う場合、ナビエストークス(Navier-Stokes)方程式を粒子で離散化することが多い。
【0016】
一方、粒子法の別の見方として、多くの粒子を集めて連続体を形成するという積分的な見方もある。これは例えば、小さな鉄の粒を集めて固めて大きな鉄球を形成するという見方である。
【0017】
一般に、多くの磁気モーメントが存在する空間内のある点(観測点)の磁場を求める場合、重ね合わせの原理により、各磁気モーメントが観測点に発生させる磁場を磁気モーメントに亘って足し合わせる。本発明者は、このような磁気モーメントの集まりから磁場を求める手法と、積分的な見方をした場合の粒子法との親和性を独自に見い出し、粒子法における粒子(ビーズ)に磁気モーメントを付与することに想到した。これにより、対流や大変形の解析に強いという粒子法の利点を維持しつつ、粒子法の適用範囲を磁場解析にまで広げることが可能となる。本明細書において、各ビーズに磁気モーメントを付与して磁場解析を行う手法を、磁気ビーズ法という。
【0018】
対象物を球形のビーズの集合体で表し、各粒子の球対称性に基づく厳密解を利用することで、高速かつ高精度の演算結果を得ることができる。しかしながら、連続体である対象物を球形のビーズの集合体で表すとビーズ間に隙間が生じるため、その隙間に起因する計算誤差が生じてしまう。特に、ビーズ間の距離が近い場合のビーズ近傍の磁場を計算する場合に誤差の影響が大きくなる。
【0019】
以下に説明する実施例による解析装置及び解析方法では、解析対象物を、隙間が生じないように複数のビーズに分割し、ビーズの間に生じる隙間に起因する誤差を小さくすることが可能である。
【0020】
図1は、本実施例による解析装置30のブロック図である。本実施例による解析装置30は、処理装置20、記憶装置25、入力装置28、及び出力装置29を含む。処理装置20は、解析情報取得部21、磁化付与部22、演算部23、及び出力制御部24を含む。
【0021】
図1に示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータの中央処理ユニット(CPU)をはじめとする素子や機械装置で実現することができ、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現することができる。
図1では、ハードウェア及びソフトウェアの連携によって実現される機能ブロックが示されている。従って、これらの機能ブロックは、ハードウェア及びソフトウェアの組み合わせによって、種々の態様で実現することが可能である。
【0022】
処理装置20は入力装置28及び出力装置29と接続される。入力装置28は、処理装置20で実行される処理に関係するユーザからのコマンド及びデータの入力を受ける。入力装置28として、例えばユーザが操作を行うことにより入力を行うキーボードやマウス、インターネット等のネットワークを介して入力を行う通信装置、CD、DVD等のリムーバブルメディアから入力を行う読取装置等を用いることができる。
【0023】
解析情報取得部21は、入力装置28を介して磁場解析情報を取得する。磁場解析情報には、磁場解析に必要な種々の情報が含まれる。例えば、仮想空間内に定義される解析対象物の形状、解析対象物を複数のビーズに分割する情報、解析対象物の物性値等が含まれる。
【0024】
磁化付与部22は、磁場解析情報に基づき仮想空間内の解析対象物を複数のビーズに分割する。複数のビーズの各々に、ビーズを特定するためのビーズ識別子(ビーズID)が付与される。ビーズに付与する磁化は初期条件として付与してもよいし、後述する演算部23により求められた外磁場に基づいて各ビーズに発生する磁化を計算し、計算によって求められた磁化に基づく磁気モーメントを付与してもよい。なお、磁化は、ビーズ内の全磁気モーメントのベクトル和の単位体積当たりの値であるから、ビーズごとに求められた磁化から、ビーズに付与する磁気モーメントを求めることができる。磁化付与部22は、付与された磁気モーメントの情報をビーズIDと関連付けて、記憶装置25に格納する。
【0025】
演算部23は、ビーズに付与された磁気モーメントに基づいて、仮想空間内の複数の観測点における磁場を計算し、計算結果を記憶装置25に格納する。観測点は、例えばビーズの各々の中心位置に配置する。演算部23が行う演算については、後に詳しく説明する。
【0026】
出力制御部24は、解析結果、例えば記憶装置25に格納されている観測点ごとの磁場の計算結果を、出力装置29に出力する。
【0027】
図2は、本実施例による解析方法の手順を示すフローチャートである。
まず解析情報取得部21(
図1)が、磁場解析条件を取得する(ステップS1)。磁化付与部22(
図1)が、解析対象物を複数のビーズに分割し、複数のビーズの各々に磁気モーメントを付与する(ステップS2)。一例として、各ビーズに付与される磁気モーメントの初期値はゼロである。
【0028】
次に、演算部23が、解析対象物内、及び解析対象物が配置されている仮想空間内の磁場を演算する(ステップS3)。この磁場の演算には、例えば反復法を適用する。反復計算において、ビーズに付与されている磁気モーメントがタイムステップごとに更新される。さらに、演算部23は、ステップS3で求められた磁場、及び各ビーズに付与されている磁気モーメントに基づいて、ビーズに作用する力を演算する(ステップS4)。ビーズに作用する力を求めた後、演算部23は、ビーズの運動を支配する運動方程式を数値的に解くことにより、ビーズの位置及び速度を演算する(ステップS5)。その後、ステップS5で求められた位置及び速度に基づいて、現時点のビーズの位置及び速度を更新する(ステップS6)。
【0029】
ステップS3からステップS6までの手順を、解析終了条件が満たされるまで繰り返す(ステップS7)解析が終了すると、出力制御部24(
図1)が、解析結果を出力装置29に出力する(ステップS8)。
【0030】
次に、
図3A及び
図3Bを参照して、解析モデル及び座標系について説明する。
図3Aは、解析モデルの一例を示す模式図である。仮想空間内に少なくとも1つの解析対象物10、例えば2つの解析対象物10が配置されている。仮想空間に定義される座標系の原点をOと標記する。解析対象物10の各々が、複数のビーズ15に分割されている。i番目の解析対象物10に含まれるビーズ15の個数をN
iと標記する。
図3Aでは、1つの解析対象物10の1つのビーズ15を示している。j番目のビーズ15の位置ベクトルをr
jと標記する。i番目の解析対象物10の重心G
iの位置ベクトルをg
iと標記する。なお、図面においては、ベクトルを表す記号を太字で表している。本明細書において、位置ベクトルrで表される位置を、位置rという場合がある。
【0031】
図3Bは、解析空間内の観測点P
i、及び1つのビーズ15を示す模式図である。磁場を計算する対象となるi番目の観測点P
iの位置をr
iと標記し、観測点P
iに電磁気的作用を与えるj番目のビーズ15の位置をr
jと標記する。観測点P
iに電磁気的作用を与えるビーズ15を、本明細書においてソースとなるビーズという場合がある。観測点P
iは、ソースとなるビーズ15を含む解析対象物10内に位置する場合と、ソースとなるビーズ15を含む解析対象物10とは異なる解析対象物10内に位置する場合がある。
【0032】
観測点Piに、磁場ベクトルH(ri)及びベクトルポテンシャルA(ri)が定義される。位置ベクトルrjで重心位置が定義されるj番目のビーズ15に、磁気モーメントmjが付与される。j番目のビーズ15の体積をVjと標記する。さらに、j番目のビーズ15内において、ビーズ15の重心位置からベクトルρで表される位置のベクトルポテンシャルをAj(ρ)と標記する。
【0033】
次に、
図4Aを参照して、解析対象物10を複数のビーズ15に分割する手法について説明する。
【0034】
図4Aは、二次元の円形の解析対象物10を複数のビーズ15に分割する手法を説明するための模式図である。まず、解析対象物10内に、公知のアルゴリズムを用いてメッシュを作成する。メッシュの作成には、例えばデローニ分割方法を適用することができる。これにより、解析対象物10内に、複数の節点11が配置される。仮想空間が二次元である場合は、解析対象物10が複数の三角形要素に分割され、三角形要素の頂点が節点11となる。仮想空間が三次元である場合は、解析対象物10が複数の四面体に分割され、四面体の頂点が節点11となる。
【0035】
複数の節点11がそれぞれ母点となるように、解析対象物10をボロノイ分割する。これにより、仮想空間が二次元である場合には、複数のボロノイ多角形が形成され、仮想空間が三次元である場合には、複数のボロノイ多面体が形成される。解析対象物10をボロノイ分割して形成されたボロノイ多角形またはボロノイ多面体のそれぞれを、ビーズ15として定義する。
【0036】
次に、ビーズ15の好ましい寸法について説明する。ビーズ15の最小包含円の半径をaと標記する。解析対象物10(
図4A)が導体である場合、外部磁場の時間変化によって渦電流が発生する。渦電流によって発生する誘導磁場の影響を解析結果に十分反映させるためには、表皮効果による表皮の深さよりも半径aを十分小さくすることが好ましい。具体的には、以下の式を満たすように、半径aを設定することが好ましい。
【数1】
ここで、μ、σは、それぞれ解析対象物10の透磁率及び導電率である。また、ωは、外部から加える磁場の角周波数である。
【0037】
[ベクトルポテンシャルの計算]
本実施例で適用されるベクトルポテンシャルの計算方法について説明する。
ベクトルポテンシャルAについて、以下の微分方程式が成立する。
【数2】
ここで、rは位置ベクトルであり、μは透磁率であり、σは導電率であり、Aはベクトルポテンシャルである。式(2)で表される微分方程式の解は以下の通りである。
【数3】
式(3)の右辺の積分は、位置ベクトルr’について全空間に亘って行う。
【0038】
j番目のビーズ15の位置ベクトルr
jを用いて、位置ベクトルr’を以下のように標記する。
【数4】
【0039】
位置r
iにおけるベクトルポテンシャルA(r
i)は、式(3)及び式(4)から以下の式で表される。
【数5】
ここで、Nは系全体のビーズ15の個数であり、V
jは、j番目のビーズ15(
図3B)の体積であり、r
ijは、以下の式で定義される。
【数6】
また、式(5)の右辺のA
j(ρ)ドットの時間微分前の関数であるA
j(ρ)(
図3B)は、以下の式で定義される。
【数7】
式(5)の右辺の積分は、j番目のビーズについての体積積分を意味し、シグマ記号は、系全体のN個のビーズに亘って合計することを意味する。なお、1つのビーズ15内において導電率は一定であると仮定し、j番目のビーズの導電率をσ
jと標記している。
【0040】
解析対象物10を複数のビーズ15に分割することにより、ベクトルポテンシャルAの並進対称性が失われるおそれがある。本発明者は、磁束密度と、解析対象物10ごとの重心ベクトルとのベクトル積を用いて記述される以下のゲージ変換を導入することにより、ベクトルポテンシャルAの並進対称性を回復できることを見出した。
【数8】
ここで、B
jは、j番目のビーズ15の位置における磁束密度である。g
iは、i番目の解析対象物10(
図3A)の重心ベクトルであり、以下の式で定義される。
【数9】
ここで、N
iは、i番目の解析対象物10(
図3A)に含まれるビーズ15の個数であり、右辺のシグマ記号は、i番目の解析対象物10内のすべてのビーズ15に亘って足し合わせることを意味する。
【0041】
式(8)に示すゲージ変換について、以下の式(10)で表される磁束密度とベクトルポテンシャルとの関係式を求めると、式(11)が得られる。
【数10】
【数11】
ここで、関数O(1/N
i)は、N
iが十分大きいときゼロベクトルに近似することができる。したがって、i番目の解析対象物10のビーズ数N
iが十分大きい場合、並進対称性が満たされることがわかる。
【0042】
式(8)に示すゲージ変換から、式(5)の右辺に含まれるA
j(ρ)ドットは、以下の式で表すことができる。
【数12】
ここで、d
jiは、以下の式で定義される。
【数13】
【0043】
式(12)及び式(13)から、ベクトルポテンシャルA
j(ρ)の時間微分は、以下の式で表される。
【数14】
式(5)に式(14)を代入して積分を実行すれば、ベクトルポテンシャルAを、磁束密度Bの時間微分を用いて記述することができる。
【0044】
[ベクトルポテンシャルの数値計算]
次に、式(3)で表されるベクトルポテンシャルAを数値的に計算する方法について説明する。以下の説明では、仮想空間が二次元である場合について説明する。
【0045】
仮想空間が二次元の場合、式(3)は、以下のように書き直される。
【数15】
式(15)の右辺の積分は面積S’の微小領域における積分を意味する。r’は、面積S’の微小領域の位置ベクトルである。式(15)は、前記仮想空間に含まれる観測点におけるベクトルポテンシャルA(r)を、解析対象物内の微小領域S’における電磁気的物理量σとAドット、及び微小領域から観測点までの距離(r―r’)との関数として記述したものである。
【0046】
ビーズ内部で導電率と、ベクトルポテンシャルの時間微分値が一定であると仮定し、j番目のビーズ15内の導電率をσ
j、ベクトルポテンシャルAの時間微分値をA
jドットと標記すると、式(15)は以下のように変形される。
【数16】
ここで、式(16)の右辺の積分は、j番目のビーズ15における面積積分を意味する。
【0047】
次に、
図4Bを参照して、式(16)の右辺の積分を数値的に行う方法について説明する。
図4Bは、1つのビーズ15の模式図である。ビーズ15は、ボロノイ多角形として表される。ビーズ15を、ビーズ15の複数の辺のそれぞれを底辺とし、ビーズ15の重心Cを頂点とする複数の三角形の要素16に分割する。式(16)の右辺の面積積分を、この三角形の要素16ごとに行う。この面積積分には、例えばガウスルジャンドルの数値積分法を適用することができる。
【0048】
次に、
図5A及び
図5Bを参照して、仮想空間が三次元の場合の数値積分について説明する。
【0049】
図5Aは、仮想空間が三次元の場合に、解析対象物10(
図3A)に含まれるボロノイ多面体の複数のビーズ15のうち1つのビーズ15の一例を示す模式図である。ビーズ15は、複数のボロノイ面17で構成される。ビーズ15について数値的に体積積分するために、ビーズ15の各々を、ボロノイ面17を底面とする三角錐(四面体)の複数の要素16(
図5B)に分割する。
【0050】
図5Bは、1つのボロノイ面17を底面とする複数の三角錐の要素16を示す模式図である。まず、多角形のボロノイ面17を、ボロノイ面17の各頂点を頂点とする複数の三角形要素に分割する。ボロノイ面17が四角形の場合には、このボロノイ面17について2つの三角形要素が形成される。この三角形要素のそれぞれを底面とし、ビーズ15の重心Cを頂点とする複数の三角錐の要素16を形成する。
図5Bにおいて、2つの要素16で共有される面にハッチングを付している。すべてのボロノイ面17について同様に、複数の三角錐の要素16を形成することにより、ビーズ15が複数の要素16に分割される。
【0051】
三角錐の要素16ごとに、ガウスルジャンドルの数値積分法を適用して、ビーズ15ごとに式(5)の右辺の体積積分値を求めることができる。
【0052】
[磁性材料内の磁束密度、磁場ベクトル、磁化ベクトル、磁気モーメントの計算]
次に、ビーズ15内の磁束密度、磁場ベクトル、磁束密度の時間微分値の計算について説明する。磁性体内部の位置r
iに生じる磁束密度は、以下の式で表すことができる。
【数17】
ここで、r
iは、任意の位置の位置ベクトルであり、H
o(r
i)は位置r
iにおける全外磁場ベクトルであり、M(H)は磁化ベクトルである。なお、磁化ベクトルM(H)は、磁場ベクトルHに依存する。α
iはi番目のビーズの位置における反磁場係数である。α
iの値はi番目のビーズの形状によって決定される。例えば、i番目のビーズの形状が真球の場合はα
i=1/3である。i番目のビーズの形状が多面体である場合、α
iは式(5)においてj=iとした式(自身に作用する磁場ベクトルの値)から計算することができる。
【0053】
磁性体内の位置r
iにおける磁場ベクトルは以下の式で表される。
【数18】
磁束密度の時間微分値は、以下の式で表すことができる。
【数19】
ここで、χ(H)は磁気感受率であり、磁場ベクトルに依存する。
【0054】
全外磁場ベクトルH
o(r
i)は、以下の式で表される。
【数20】
ここで、H
m(r
i)は、磁性体内の磁気モーメントによる磁場ベクトルであり、H
ext(r
i)は、外部から印加される外部磁場ベクトルであり、H
ind(r
i)は、外部磁場が時間的に変化したときに解析対象物10に生じる誘導電流に起因する誘導磁場ベクトルである。
【0055】
式(17)及び式(18)の磁化ベクトルM(H)は、磁性材料が線形材料である場合、以下の式で表される。
【数21】
ここで、μ及びμ
0は、それぞれ磁性体の透磁率及び真空の透磁率である。磁性材料が非線形材料である場合、磁化ベクトルM(H)は、以下の式で表される。
【数22】
関数f(H)は、非線形磁性材料を特徴づける関数である。関数fが与えられれば、式(18)と式(22)とから、磁化ベクトルMを、全外磁場ベクトルH
o(r
i)の関数として記述することができる。
【0056】
i番目のビーズ15内の磁束密度、及び磁束密度の時間微分値を求める場合には、式(17)及び式(19)の位置ベクトルriに、ビーズ15の中心位置を代入すればよい。解析対象物10が非磁性体である場合には、磁化ベクトルMはゼロであり、磁気感受率χもゼロである。
【0057】
磁性体が線形磁性材料である場合、式(20)の全外磁場ベクトルHo(ri)が求まると、式(21)から位置riにおける磁化ベクトルMを求めることができる。磁性体が非線形磁性材料である場合、式(18)と式(22)とを用いて磁化ベクトルMを全外磁場ベクトルHo(ri)の関数として記述した式から、位置riにおける磁化ベクトルMを求めることができる。位置riの磁化ベクトルMから、i番目のビーズ15に付与すべき磁気モーメントmiを求めることができる。
【0058】
[磁性体内の磁気モーメントによる外磁場の計算]
磁性体内の磁気モーメントによる外磁場Hmの計算方法については、特許第6249912号公報に詳細に説明されている。ここでは、磁性体内の磁気モーメントによる外磁場Hmの計算方法について簡単に説明する。
【0059】
仮想空間内のj番目のビーズ15に付与された磁気モーメントをm
jと標記する。磁気モーメントm
jはxyz直交座標系のそれぞれの成分を用いて以下のように表される。
【数23】
ここで、M
jは、j番目のビーズ15の磁化ベクトルであり、V
jは、j番目のビーズ15の体積である。
【0060】
位置r
iにおける外磁場ベクトルH
m(r
i)は、以下の式で表される。
【数24】
ここで、磁場ベクトルH(r
ij;m
jx)は、j番目のビーズ15に付与されている磁気モーメントm
jのx成分が、j番目のビーズ15から距離r
ijの位置に生じさせる外磁場ベクトルを意味する。距離r
ijは、位置ベクトルr
iで表される位置から、j番目のビーズ15の重心位置までの距離である。式(24)の右辺のシグマは、位置ベクトルr
iに位置するビーズ15以外のj番目のビーズ15に付与されている磁気モーメントm
jからの作用を足し合わせることを意味する。磁場ベクトルH(r
ij;m
jx)等の詳細な計算方法については、特許第6249912号公報に説明されているため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0061】
[誘導磁場の計算]
次に、解析対象物10内の誘導磁場の計算方法について説明する。
解析対象物10(
図3A)内の観測点P
i(
図3B)に作用する全外磁場ベクトルH
o(r
i)は、式(20)で表される。式(20)を用いて、複数のビーズ15のそれぞれの位置における全外磁場ベクトルH
o(r
i)を求める。式(20)の右辺の磁場ベクトルH
m(r
i)は、式(24)を用いて計算することができる。外部から印加される磁場ベクトルH
ext(r
i)は、解析条件として与えられる。現時点の誘導磁場ベクトルH
ind(r
i)は既知であり、反復法を用いて1タイムステップ経過後の誘導磁場ベクトルH
ind(r
i)を計算する。誘導磁場ベクトルH
ind(r
i)の初期値は、例えばゼロである。
【0062】
i番目のビーズ15の位置における全外磁場ベクトルH
oi、及び全外磁場ベクトルH
oiの時間微分値を、それぞれ力学系の位置と速度に対応させて、以下の運動方程式を数値的に解く。
【数25】
ここで、m
vは仮想質量である。仮想質量の推奨値は、時間刻み幅の二乗の約250倍である。仮想質量m
vを十分小さくすると、正しい解の近傍で微小な減衰振動が起こり、誤差を小さくすることができる。H
o(r
i)は、位置r
iにおける現時点の全外磁場ベクトルであり、式(20)で計算される。式(25)の運動方程式の数値的な計算には、例えば蛙飛び法を用いることができる。
【0063】
全外磁場ベクトルHoi、及びその時間微分値が求まったら、式(17)及び式(19)を用いて、すべてのiについて、i番目のビーズ15の位置における磁束密度ベクトルBi及びその時間微分値Biドットを求める。
【0064】
次に、式(14)のベクトルρをゼロとして、すべてのjについて、j番目のビーズの位置におけるベクトルポテンシャルAjの時間微分値Ajドットを求める。次に、式(16)を用いて、すべてのiについて、i番目のビーズ15の位置におけるベクトルポテンシャルAiを求める。
【0065】
ベクトルポテンシャルA
iが求まると、すべてのiについて、i番目のビーズ15の重心位置r
iにおける誘導磁場ベクトルH
ind(r
i)を、以下の式を用いて更新する。
【数26】
【0066】
式(22)の右辺のベクトルポテンシャルA(r
i)の偏微分は、位置ベクトルr
iで表される位置からx、y、z方向に微小距離ずれた位置のベクトルポテンシャルを、式(16)を用いて計算し、差分をとることにより数値的に計算する。例えば、誘導磁場ベクトルH
ind(r
i)のx成分H
ind,x(r
i)は、以下の式で計算することができる。
【数27】
ここで、A
z(x,y,z)は、座標(x,y,z)で表される位置におけるベクトルポテンシャルAのz成分である。x
i、y
i、z
iは、それぞれ位置ベクトルr
iのx成分、y成分、z成分である。dyは、y方向への微小変位量である。微小変位量dx、dy、dzは、例えばボロノイ多面体と同一の体積の球の半径の1/10、またはボロノイ多角形と同一の面積の円の半径の1/10程度とするとよい。
【0067】
[繰り返し計算]
誘導磁場Hind(ri)が更新されると、式(20)から、全外磁場ベクトルHo(ri)を更新する。さらに、式(21)または式(22)を用いて、すべてのiについて、i番目のビーズ15の位置における磁化ベクトルM(H)を更新する。更新された磁化ベクトルM(H)によって、i番目のビーズ15に付与されている磁気モーメントmiを更新する。式(24)を用いて、更新後の磁気モーメントmiに基づいて磁場ベクトルHm(ri)を更新する。
【0068】
更新後の磁場ベクトルHm(ri)及び誘導磁場ベクトルHind(ri)に基づいて、同様の計算を繰り返すことにより、全外磁場ベクトルHo(ri)の時間変化を求めることができる。
【0069】
次に、上記実施例の優れた効果について説明する。
上記実施例では、
図4Aに示したように解析対象物10をボロノイ分割することにより、複数のビーズ15に分割する。このため、解析対象物10は複数のビーズ15で完全に充填され、隙間は形成されない。また、式(16)の右辺の積分を数値的に計算する際に、
図4Bに示したようにビーズ15のそれぞれを三角形または三角錐の複数の要素16に分割し、要素16ごとに数値的に面積積分または体積積分を行う。このため、ビーズ15の全域に亘って積分が行われる。これに対して、ビーズ15を真円または真球と仮定して積分を行う場合には、ビーズ15の間にいずれの真円または真球にも含まれない隙間が生じてしまう。
【0070】
本実施例では、すべてのビーズ15について、ビーズ15の全域にわたって面積積分または体積積分を行うため、隙間が生じることに起因する誤差の発生を防止することができる。
【0071】
本実施例の優れた効果を確認するために、上記実施例による解析方法を用いて磁場の解析を行った。
図6A~
図7を参照して、解析結果について説明する。
【0072】
図6Aは、解析モデルを示す模式図である。半径Rの二次元の導体柱(すなわち円)が空間的に一様で時間的に変化する外部磁場H
ext内に置かれている。外部磁場H
extはx成分のみを持つ。
【0073】
導体柱の表面の磁場H
surは、解析的に求めることができ、以下の式で表される。
【数28】
ここで、H
aは外部磁場の振幅、J
0、J
1はベッセル関数、nは導体柱の表面における単位法線ベクトル、tは時間である。kは以下の式で表される。
【数29】
ここで、jは虚数単位、σは導体柱の導電率、ωは外部磁場の角周波数である。
【0074】
外部磁場Hextの振幅を0.1T/μ0とし、角周波数ωを1Hzとした。導体柱の半径Rを0.01mとし、導電率σを177×108S/mとし、本実施例による解析方法、及び比較例による解析方法で導体柱の表面における誘導磁場を求めた。
【0075】
図6Bは、解析結果を示すグラフである。横軸は経過時間を単位「秒」で表し、縦軸は導体柱の表面における誘導磁場のx成分H
ind,xを単位「A/m」で表す。グラフ中の太い実線は、本実施例による解析方法を用いた場合の解を示し、細い実線は、比較例による解析方法を用いた場合の解を示し、破線は、式(28)を用いて計算した厳密解を示す。なお、比較例による解析方法においては、特許文献1に開示された方法、すなわち解析対象物を複数のビーズに分割し、ビーズを真球と仮定して式(16)の面積積分を行った。
【0076】
本実施例による解析方法で求めた解の、厳密解からの誤差は、比較例による解析方法で求めた解の誤差に比べて小さいことがわかる。
【0077】
図7は、実施例及び比較例による解析方法で求めた解の、厳密解からの誤差を示す図表である。比較例においては、導体中心及び導体表面のいずれにおいても振幅誤差が10%以上であり、導体中心における位相誤差も10%以上である。これに対して実施例においては、導体中心及び導体表面のいずれにおいても、振幅誤差及び位相誤差が1%以下である。
【0078】
図6A~
図7に示した解析結果により、本実施例による解析方法を適用することにより厳密解に対する誤差を十分小さくできることが確認された。
【0079】
上述の実施例は例示であり、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0080】
10 解析対象物
11 節点
15 ビーズ
16 三角形または三角錐の要素
17 ボロノイ面
20 処理装置
21 解析情報取得部
22 磁化付与部
23 演算部
24 出力制御部
25 記憶装置
28 入力装置
29 出力装置
30 解析装置