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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】推定装置、推定方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 19/02 20060101AFI20240723BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20240723BHJP
【FI】
G01N19/02 C
G06N20/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021080621
(22)【出願日】2021-05-11
(65)【公開番号】P2022174667
(43)【公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早川 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】西田 三博
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 良
(72)【発明者】
【氏名】若尾 泰通
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-038495(JP,A)
【文献】特開平06-003243(JP,A)
【文献】特開2021-043108(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0157480(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 19/02
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性体を接触させた際に生じる対象物の材質に応じて変化する摩擦特性と、前記対象物の材質を示す材質情報とを学習用データとして用いて、前記摩擦特性を入力とし、前記材質情報を出力するように学習された学習モデルに対して、推定対象物の摩擦特性を入力し、前記推定対象物の材質情報を推定する推定部、
を含む推定装置。
【請求項2】
前記摩擦特性は、前記弾性体及び前記対象物に相対的に所定の圧力刺激が発生するように前記弾性体と前記対象物とが接触された場合における摩擦特性を含む
請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記所定の圧力刺激は、前記弾性体と前記対象物とを予め定められた圧力値で接触させながら前記弾性体と前記対象物とを相対的に摺動させた摺動状態のときに発生する圧力刺激を含む
請求項2に記載の推定装置。
【請求項4】
前記学習モデルは、前記摩擦特性と、前記材質情報と、前記圧力刺激を示す圧力情報とを学習用データとして用いて、前記摩擦特性及び前記圧力情報を入力とし、前記材質情報を出力するように学習され、
前記推定部は、推定対象物の摩擦特性及び圧力情報を入力し、前記推定対象物の材質情報を推定する
請求項2又は請求項3に記載の推定装置。
【請求項5】
前記学習モデルは、前記摩擦特性と、前記材質情報との複数の関係をリザバーとして当該リザバーを用いたリザバーコンピューティングによるネットワークを用いて学習させることで生成されたモデルを含む
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の推定装置。
【請求項6】
コンピュータが
弾性体を接触させた際に生じる対象物の材質に応じて変化する摩擦特性と、前記対象物の材質を示す材質情報とを学習用データとして用いて、前記摩擦特性を入力とし、前記材質情報を出力するように学習された学習モデルに対して、推定対象物の摩擦特性を入力し、前記推定対象物の材質情報を推定する
推定方法。
【請求項7】
コンピュータに
弾性体を接触させた際に生じる対象物の材質に応じて変化する摩擦特性と、前記対象物の材質を示す材質情報とを学習用データとして用いて、前記摩擦特性を入力とし、前記材質情報を出力するように学習された学習モデルに対して、推定対象物の摩擦特性を入力し、前記推定対象物の材質情報を推定する
処理を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推定装置、推定方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、対象物を識別することに関係して、対象物の確認に関係する様々な技術が提案されている。例えば、対象物を撮影した撮影画像を画像処理して撮影画像における光の波長から対象物の材質を検出する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、特許文献2には、オペレータに対して振動によって触感を与える技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。さらに、人型ロボットの指用触覚センサに関する技術も知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-126207号公報
【文献】国際公開2016088246号のパンフレット
【非特許文献】
【0004】
【文献】「人型ロボットの指用触覚センサの構成法と評価法」、日本ロボット学会誌Vol.37 No.5,pp1-5、2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば、カメラ及び画像解析手法を用いて物体の変位等の変形量を検出する手法を用いて柔軟材料の変形を検出する場合、カメラ及び画像解析等を含むシステムは、大規模なものとなり、装置の大型化を招くので好ましくはない。また、振動によって触感を与えるための対象物の触感の計測には多様な手法が存在し、対象物の材質を特定することは困難である。さらに、温度や圧力等の静的なエネルギを検出する触覚センサにより対象物を分類する場合、例えば時系列に動的に変化するエネルギにより変化する対象物の材質を特定するのには充分ではない。従って、対象物の材質などを特定するのには改善の余地がある。
【0006】
本開示は、特殊な検出装置を用いることなく、対象物への接触時における摩擦力を利用して、対象物の材質を示す材質情報を推定することができる推定装置、推定方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、第1態様は、
弾性体を接触させた際に生じる対象物の材質に応じて変化する摩擦特性と、前記対象物の材質を示す材質情報とを学習用データとして用いて、前記摩擦特性を入力とし、前記材質情報を出力するように学習された学習モデルに対して、推定対象物の摩擦特性を入力し、前記推定対象物の材質情報を推定する推定部、
を含む推定装置である。
【0008】
第2態様は、第1態様の推定装置において、
前記摩擦特性は、前記弾性体及び前記対象物に相対的に所定の圧力刺激が発生するように前記弾性体と前記対象物とが接触された場合における摩擦特性を含む。
【0009】
第3態様は、第2態様の推定装置において、
前記所定の圧力刺激は、前記弾性体と前記対象物とを予め定められた圧力値で接触させながら前記弾性体と前記対象物とを相対的に摺動させた摺動状態のときに発生する圧力刺激を含む。
【0010】
第4態様は、第2態様又は第3態様の推定装置において、
前記学習モデルは、前記摩擦特性と、前記材質情報と、前記圧力刺激を示す圧力情報とを学習用データとして用いて、前記摩擦特性及び前記圧力情報を入力とし、前記材質情報を出力するように学習され、
前記推定部は、推定対象物の摩擦特性及び圧力情報を入力し、前記推定対象物の材質情報を推定する。
【0011】
第5態様は、第1態様から第4態様の何れか1態様の推定装置において、
前記学習モデルは、前記摩擦特性と、前記材質情報との複数の関係をリザバーとして当該リザバーを用いたリザバーコンピューティングによるネットワークを用いて学習させることで生成されたモデルを含む。
【0012】
第6態様は、
コンピュータが
弾性体を接触させた際に生じる対象物の材質に応じて変化する摩擦特性と、前記対象物の材質を示す材質情報とを学習用データとして用いて、前記摩擦特性を入力とし、前記材質情報を出力するように学習された学習モデルに対して、推定対象物の摩擦特性を入力し、前記推定対象物の材質情報を推定する
推定方法である。
【0013】
第7態様は、
コンピュータに
弾性体を接触させた際に生じる対象物の材質に応じて変化する摩擦特性と、前記対象物の材質を示す材質情報とを学習用データとして用いて、前記摩擦特性を入力とし、前記材質情報を出力するように学習された学習モデルに対して、推定対象物の摩擦特性を入力し、前記推定対象物の材質情報を推定する
処理を実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、特殊な検出装置を用いることなく、対象物への接触時における摩擦力を利用して、対象物の材質を示す材質情報を推定することができる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係る対象物の材質推定装置の構成の一例を示す図である。
図2】実施形態に係る学習処理に関する図である。
図3】実施形態に係る測定装置の一例を示す図である。
図4】圧力刺激に関係する時間特性を示す図である。
図5】摩擦特性に関係する時間特性を示す図である。
図6】摩擦特性に関係する時間特性を示す図である。
図7】実施形態に係る学習データ収集処理の一例を示すフローチャートである。
図8】実施形態に係る学習処理部における学習処理に関する図である。
図9】実施形態に係る学習処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図10】再帰型ニューラルネットワークの一例を示す図である。
図11】リザバーコンピューティングネットワークの一例を示す図である。
図12】実施形態に係る対象物の材質推定装置の構成の一例を示す図である。
図13】実施形態に係る推定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図14】実施形態に係る材質推定に関する検証結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本開示の技術を実現する実施形態を詳細に説明する。
なお、作用、機能が同じ働きを担う構成要素及び処理には、全図面を通して同じ符合を付与し、重複する説明を適宜省略する場合がある。また、本開示は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0017】
本開示において「弾性体」とは、ゴム、発泡材および樹脂材などの柔らかい材料を含む概念である。すなわち、弾性体とは、外部力が与えられることによって少なくとも一部が撓み等のように変形可能な材料を含む概念であり、ゴム材料等の柔らかい材料、繊維状の骨格を有する構造体、及び内部に微小な空気泡が複数散在する構造体を含む。外部力の一例には圧力が挙げられる。繊維状の骨格を有する構造体、及び内部に微小な空気泡が複数散在する構造体の一例には、ウレタン材などの高分子材料が挙げられる。なお、弾性体の形状や移動により接触又は押圧された物品にさまざまな圧力刺激を与えることが可能である。
【0018】
本開示において、「摩擦特性」とは、時系列に連続する複数の摩擦力の値を示す情報の集合を含む概念である。すなわち、ゴム材料等の弾性体は、同一の材質又は異なる材質の物品に対して相対的に摺動させることで、摩擦特性が現れる。この摩擦特性は、物品の種類、すなわち、物品の接触部分における物品の材質に応じて変化した挙動を示す。このため、ゴム材料等の弾性体を物品に接触又は摺動させる状態の観点では、弾性体と物品との間に与えられた力(例えば圧力刺激)に応じて摩擦特性が変化すると考えられる。
【0019】
本開示の推定装置は、弾性体を接触させた際に生じる素材の材質に応じて変化する摩擦特性と、物品の材質を示す材質情報とを学習用データとして用いて、摩擦特性を入力とし、材質情報を出力するように学習された学習モデルに対して、推定対象物の摩擦特性を入力し、その出力を推定対象物の材質情報として推定する。
【0020】
図1に、本開示の推定装置としての対象物の材質推定装置1の構成の一例を示す。
【0021】
対象物の材質推定装置1における推定処理は、所定の材質で表面が形成された素材を含む物品2の接触部分における材質を示す材質情報をラベルとする付与データ(少なくとも対象物に与えられた圧力刺激)及び物品2の摩擦データ(すなわち、摩擦特性)を入力として学習を行った学習済みの学習モデルを用いて、未知の物品(推定対象物)の材質を推定し、出力する。
【0022】
すなわち、対象物の材質推定装置1は、物品2に与えられた圧力刺激により変化した摩擦特性から、物品2の材質を推定する。これにより、特殊な装置や大型の装置を用いたり対象物の材質を直接計測することなく、対象物の材質を同定することが可能となる。
【0023】
図1に示すように、対象物の材質推定装置1は、推定部5を備えている。推定部5には、物品2とゴム部材74とに相対的に与えられた時系列な圧力刺激を示す第1入力データ3と、その圧力刺激より時系列に発生した摩擦力の大きさ(摩擦特性)を示す第2入力データ4が入力される。また、推定部5は、推定結果の物品2の材質を示す出力データ6を出力する。推定部5は、学習済みの学習モデル51を含んでいる。
【0024】
学習モデル51は、物品2に対する圧力刺激(第1入力データ3)及び摩擦特性(第2入力データ4)から、物品2の材質(出力データ6)を導出する学習を済ませたモデルである。学習モデル51は、例えば、学習済みのニューラルネットワークを規定するモデルであり、ニューラルネットワークを構成するノード(ニューロン)同士の間の結合の重み(強度)の情報の集合として表現される。
【0025】
また、学習モデル51は、学習処理部52(図2)の学習処理により生成される。学習処理部52は、物品2とゴム部材74とにおける相対的に発生する時系列な物理量を用いて学習処理を行う。本実施形態では、物品2に対する物理量を時系列に測定した大量のデータを学習データとして含む。具体的には、学習データは、圧力刺激(第1入力データ3)及び摩擦特性(第2入力データ4)を含んだ入力データと、物品2の表面の材質(出力データ6)と、のセットを大量に含む。ここでは、物品2の表面の材質(出力データ6)の各々に測定時刻を示す情報を付与することで時系列情報が対応付けられる。この場合、前記セットに測定時刻を示す情報を付与して時系列情報を対応付けてもよい。
【0026】
次に、学習処理部52が行う学習処理について説明する。
【0027】
まず、学習処理に用いる学習データについて説明する。
図3に、物品2における物理量を測定する測定装置7の一例を示す。
【0028】
測定装置7は、基台71に固定された固定部72に、物品2に圧力刺激を与えるための圧力付与部73が取り付けられる。圧力付与部73は、圧力付与本体73A、圧力付与本体73Aから伸縮可能なアーム73B、及びアーム73Bの先端に取り付けられた先端部73Cを備えている。圧力付与本体73Aは固定部72に固定され、入力信号に応じてアーム73Bが伸縮されて、先端部73Cが所定方向(矢印F方向)に移動される。また、先端部73C及びゴム部材74は、アーム73Bを介して、伸縮される所定方向(矢印F方向)と交差する所定方法(矢印X方向)にも移動される。これによって、ゴム部材74は物品2に接触したり、所定方向に摺動したりすることが可能となる。ゴム部材74は、物品2に圧力刺激を与えるための押圧部材の一例である。
【0029】
具体的には、圧力付与部73の先端部73Cに、所定形状のゴム部材74が取り付けられる。物品2は、基台71に設置され、圧力付与部73の先端部73Cに取り付けられたゴム部材74が、少なくとも接触可能に配置される。なお、本実施形態では、所定形状のゴム部材74の一例として、円錐台形状のゴム部材74を用いる。ゴム部材74は、物品2に対して所定の圧力で接触、又は接触しつつ摺動する圧力刺激を与える押圧部材である。なお、ゴム部材74の形状は円形、楕円形、又は多角形の何れの形状でもよい。
【0030】
圧力付与部73は、アーム73Bが伸長することによって、先端部73Cがゴム部材74を物品2に押圧、又は押圧して摺動するように作動する。
【0031】
圧力付与本体73Aは、例えば6軸方向の力を検出する機能を有するフォースセンサ75を備える。フォースセンサ75は、検出した力から、物品2に対するゴム部材74の押圧状態及び摺動状態を検出する機能、及び物品2に付与される圧力を検出する機能を有する。また、フォースセンサ75は、検出した力から、物品2における摩擦力すなわち摩擦特性を導出する機能を有する。このフォースセンサ75によって、ゴム部材74の物品2への押圧状態及び摺動状態における物理量を時系列に検出可能であり、物品2に付与される圧力を時系列に検出可能である。また、フォースセンサ75によって、物品2における摩擦力すなわち摩擦特性を時系列に検出可能である。時系列に検出される摩擦特性(すなわち、摩擦力を示す値)は、物品2の摩擦データ(すなわち、摩擦特性)を示す第2入力データ4である。また、時系列に検出される圧力特性(圧力を示す値)は、付与データ(少なくとも対象物に与えられた圧力刺激)を示す第1入力データ3である。なお、物品2の摩擦データ(すなわち、摩擦特性)は、フォースセンサ75で検出した力から後述するコントローラ70で導出してもよい。
【0032】
測定装置7は、圧力付与部73、及びフォースセンサ75に接続されたコントローラ70を備えている。コントローラ70は、圧力付与部73の制御を行い(図4)、物品2に対して圧力刺激を与え、押圧状態又は摺動状態を特定し、物品2への圧力刺激による摩擦特性(図5)を取得し、記憶する。なお、記憶されるデータには、物品2への圧力刺激、すなわちゴム部材74の移動時における圧力値、そして物品2の材質を示す情報が対応付けられる。具体的には、物品2の材質を示す情報に対応して、ゴム部材74を物品2に押圧する状態を維持しつつ周期的に摺動する状態における摩擦力を示す値及び圧力刺激を示す値が時系列に記憶される。
【0033】
図4に示すように、本実施形態では、コントローラ70は、第1位置と第2位置とを往復運動、すなわち時間t0から時間t1の往路と、時間t1から時間t2までの復路を移動する1周期を周期Taとする圧力付与部73の制御を行う。この周期Taによる1周期は、例えば、フォースセンサ75で検出される力の向きの変化や大きさ、そして時間により同定可能である。また、図5には、周期Taによる周期を繰り返して圧力刺激を付与した場合に摩擦力が時系列に変化する特性(摩擦特性)の一例を示した。また、図6には、物品2の異なる材質としてアクリルと鉄との2種類の物品2における摩擦特性を示した。図6に示すように、物品2の異なる材質としての特徴が摩擦特性の違いとして現れる。従って、摩擦特性は、物品2の材質に応じて変化する特徴データでもある。
【0034】
従って、測定装置7は、ゴム部材74の押圧制御による物品2における時系列な摩擦力を示す摩擦特性を含むデータのデータセットを時系列に複数取得可能となる。
【0035】
図7に、コントローラ70における学習データ収集処理の一例を示す。
コントローラ70は、図示しないCPUを含むコンピュータを含んで構成可能であり、学習データ収集処理を実行する。コントローラは、ステップS100で、物品2に対してゴム部材74による圧力刺激の指示、すなわち、物品2にゴム部材74を接触させつつ周期Taによる往復運動の指示を行い、ステップS102で、物品2における摩擦力を示すデータを時系列に取得する。次のステップS104では、物品2に対する圧力刺激及び摩擦特性に物品2の材質をラベルとして付与して、記憶する。コントローラ70は、これらの物品2に対する時系列な圧力刺激及び摩擦特性と、物品2の材質とのセットが予め定めた所定数、又は予め定めた所定時間に達するまで(ステップS106で、肯定判断されるまで否定判断し)、上記処理を繰り返す。
【0036】
従って、コントローラ70は、種類(材質)が異なる複数の物品2の各々について、ゴム部材74による圧力刺激の押圧制御を行うことによって、ゴム部材74の材質毎に、圧力刺激および摩擦特性を時系列に取得し、記憶することが可能となる。このコントローラ70に記憶された物品2に対する、時系列な圧力刺激及び摩擦特性と、材質とのセットが学習データとなる。
【0037】
次に、図8を参照して、学習処理部52について説明する。
学習処理部52は、生成器54と演算器56とを含む。生成器54は、入力である時系列に取得された少なくとも摩擦特性の前後関係を考慮して出力を生成する機能を有する。
【0038】
また、学習処理部52は、学習用データとして、測定装置7において、周期的に時系列に測定した第1入力データ3(圧力刺激)及び第2入力データ4(摩擦特性)と、出力データ6(物品2の材質)とのセットを多数保持している。
【0039】
図8に示す例では、生成器54は、入力層540、中間層542、および出力層544を含んで、公知のニューラルネットワーク(NN:Neural Network)を構成している。ニューラルネットワーク自体は公知の技術であるため詳細な説明は省略するが、中間層542は、ノード間結合およびフィードバック結合を有するノード群(ニューロン群)を多数含む。その中間層542には、入力層540からのデータが入力され、中間層542の演算結果のデータは、出力層544へ出力される。
【0040】
生成器54は、第1入力データ3(圧力刺激)及び第2入力データ4(摩擦特性)からゴム部材74の材質を表す生成出力データ6Aを生成するニューラルネットワークである。生成出力データ6Aは、第1入力データ3(圧力刺激)及び第2入力データ4(摩擦特性)から物品2の材質を推定したデータである。生成器54は、時系列に入力された第1入力データ3(圧力刺激)及び第2入力データ4(摩擦特性)から、物品2の材質に近い材質を示す生成出力データを生成する。生成器54は、多数の第1入力データ3(圧力刺激)及び第2入力データ4(摩擦特性)を用いて学習することで、より物品2の材質に近い生成出力データ6Aを生成できるようになる。
【0041】
演算器56は、生成出力データ6Aと、学習データの出力データ6とを比較し、その比較結果の誤差を演算する演算器である。学習処理部52は、生成出力データ6A、および学習データの出力データ6を演算器56に入力する。これに応じて、演算器56は、生成出力データ6Aと、学習データの出力データ6との誤差を演算し、その演算結果を示す信号を出力する。
【0042】
学習処理部52は、演算器56で演算された誤差に基づいて、ノード間の結合の重みパラメータをチューニングする、生成器54の学習を行う。具体的には、生成器54における入力層540と中間層542とのノード間の結合の重みパラメータ、中間層542内のノード間の結合の重みパラメータ、および中間層542と出力層544とのノード間の結合の重みパラメータの各々を例えば勾配降下法や誤差逆伝搬法等の手法を用いて、生成器54にフィードバックする。すなわち、学習データの出力データ6を目標として、生成出力データ6Aと学習データの出力データ6との誤差を最小化するように全てのノード間の結合を最適化する。
【0043】
学習モデル51は、学習処理部52の学習処理により生成される。学習モデル51は、学習処理部52による学習結果のノード間の結合の重みパラメータ(重み又は強度)の情報の集合として表現される。
【0044】
図9に学習処理の流れの一例を示す。
学習処理部52は、図示しないCPUを含むコンピュータを含んで構成し、学習処理を実行することが可能である。学習処理部52は、ステップS110で、時系列に測定した結果の学習データである、物品2の材質を示す情報をラベルとした第1入力データ3(圧力刺激)及び第2入力データ4(摩擦特性)を取得する。学習処理部52は、ステップS112で、時系列に測定した結果の学習データを用いて学習モデル51を生成する。すなわち、上記のようにして多数の学習データを用いて学習した学習結果のノード間の結合の重みパラメータ(重み又は強度)の情報の集合を得る。そして、ステップS114で、学習結果のノード間の結合の重みパラメータ(重み又は強度)の情報の集合として表現されるデータを学習モデル51として記憶する。
【0045】
上述したように、対象物の材質推定装置1では、以上に例示した手法により生成した学習済みの生成器54(すなわち、学習結果のノード間の結合の重みパラメータの情報の集合として表現されるデータ)を学習モデル51として用いる。十分に学習した学習モデル51を用いれば、物品2に対する圧力刺激及び摩擦特性から、物品2の材質を同定することも不可能ではない。
なお、対象物の材質推定装置1は、本開示の推定部および推定装置の一例である。
【0046】
なお、生成器54は、図10に示すように、時間的な相関を有する中間層542を含み、時系列入力の前後関係を考慮して出力を生成する機能を有する再帰型ニューラルネットワークを用いることが好ましい。再帰型ニューラルネットワークは公知の技術であるため詳細な説明は省略する。
【0047】
一般的な再帰型ニューラルネットワークでは、入力層から中間層へのノードの結合、中間層におけるノード間の結合およびフィードバック結合、そして中間層から出力層へのノード間の結合の各々の結合について重みパラメータの情報を最適化する。しかし、時間的な相関を持つ時系列データを用いた学習では膨大な学習時間が要求される。また、時系列な学習データによる学習時に、時間的遡及を行うために、膨大なメモリも要求される。これらの要求に対して、学習時間の抑制やメモリの使用量の抑制を実現する、リザバーコンピューティングと呼ばれる周知のネットワークモデルが知られている。リザバーコンピューティング(RC:Reservoir Computing)と呼ばれるネットワークモデル(以下、RCNという。)自体は公知の技術であるため、詳細な説明を省略するが、図11に示すように、RCNの一例は、再帰型ニューラルネットワークの一部を固定し(ランダムなネットワークに置き換え)、中間層から出力層へのノード間の結合のみを最適化する。図11には、図10に示す中間層542をリザバー層543に代えた構成の生成器54Aの一例を示した。
【0048】
RCNには、物理的なリザバーコンピューティング(PRC:Physical Reservoir Computing)と呼ばれるネットワークモデル(以下、PRCNという。)や、エコーステイトネットワーク(ESN:Echo State Network)と呼ばれるネットワークモデルが知られている。物品2の材質に関する情報の推定には、ESNが好適に適用可能である。ESNは、過去の記憶が時間によって消失していくという制限(Echo state property) をかけることで、短期な記憶情報のみを利用する技術である。なお、PRC、PRCN及びESN自体は公知の技術であるため、詳細な説明を省略する。
【0049】
上述の対象物の材質推定装置1は、例えば、コンピュータに上述の各機能を表すプログラムを実行させることにより実現可能である。
【0050】
図12に、対象物の材質推定装置1の各種機能を実現する処理を実行する実行装置としてコンピュータを含んで構成した場合の一例を示す。
【0051】
対象物の材質推定装置1として機能するコンピュータは、図12に示すコンピュータ本体100を備えている。コンピュータ本体100は、CPU102、揮発性メモリ等のRAM104、ROM106、ハードディスク装置(HDD)等の補助記憶装置108、及び入出力インターフェース(I/O)110を備えている。これらのCPU102、RAM104、ROM106、補助記憶装置108、及び入出力I/O110は、相互にデータ及びコマンドを授受可能にバス112を介して接続された構成である。また、入出力I/O110には、外部装置と通信するための通信部114、及びディスプレイやキーボード等の操作表示部116が接続されている。通信部114は、外部装置との間で、第1入力データ3(圧力刺激)及び第2入力データ4(摩擦特性)と、出力データ6(物品2の材質)とのセットを取得する機能を有する。すなわち、通信部114は、検出部である、物品2に対する第1入力データ3(圧力刺激)と、物品2における第2入力データ4(摩擦特性)を取得することが可能である。
【0052】
補助記憶装置108には、コンピュータ本体100を本開示の推定装置の一例として対象物の材質推定装置1として機能させるための制御プログラム108Pが記憶される。CPU102は、制御プログラム108Pを補助記憶装置108から読み出してRAM104に展開して処理を実行する。これにより、制御プログラム108Pを実行したコンピュータ本体100は、本開示の推定装置の一例として対象物の材質推定装置1として動作する。
【0053】
なお、補助記憶装置108には、学習モデル51を含む学習モデル108M、及び各種データを含むデータ108Dが記憶される。制御プログラム108Pは、CD-ROM等の記録媒体により提供するようにしても良い。
【0054】
次に、コンピュータにより実現された対象物の材質推定装置1における推定処理について説明する。
【0055】
図13に、コンピュータ本体100において、実行される制御プログラム108Pによる推定処理の流れの一例を示す。
図13に示す推定処理は、コンピュータ本体100に電源投入されると、CPU102により実行される。すなわち、CPU102は、制御プログラム108Pを補助記憶装置108から読み出し、RAM104に展開して処理を実行する。
【0056】
まず、CPU102は、ステップS200で、補助記憶装置108の学習モデル108Mから学習モデル51を読み出し、RAM104に展開することで、学習モデル51を取得する。具体的には、学習モデル51として表現された重みパラメータによるノード間の結合となるネットワークモデルを、RAM104に展開する。よって、重みパラメータによるノード間の結合が実現された学習モデル51が構築される。
【0057】
次に、CPU102は、ステップS202で、未知の材質である物品2(推定対象物)に対する第1入力データ3(圧力刺激)と、第2入力データ4(摩擦特性)を、通信部114を介して時系列に取得する。
【0058】
次に、CPU102は、ステップS204で、ステップS200で取得した学習モデル51を用いて、ステップS202において取得した第1入力データ3(圧力刺激)と、第2入力データ4(摩擦特性)に対応する出力データ6(推定対象物の材質)を推定する。
【0059】
そして、次のステップS206で、推定結果の出力データ6(推定対象物の材質)を、通信部114を介して出力して、本処理ルーチンを終了する。
【0060】
なお、図13に示す推定処理は、本開示の推定方法で実行される処理の一例である。
【0061】
以上説明したように、本開示によれば、材質が未知の推定対象物である物品2に対する、第1入力データ3(圧力刺激)と、第2入力データ4(摩擦特性)から、推定対象物である物品2の材質を推定することが可能となる。すなわち、特殊な検出装置を用いることなく、物品2への接触時における摩擦力を利用して、物品2の材質を示す材質情報を推定することが可能となる。
【0062】
なお、上述した実施形態では、周期的に時系列に測定した第1入力データ3(圧力刺激)及び第2入力データ4(摩擦特性)と、出力データ6(物品2の材質)とのセットを用いて学習された学習モデル51により物品2の材質を推定した。しかし、本開示の推定装置は、第1入力データ3(圧力刺激)及び第2入力データ4(摩擦特性)を入力することに限定されない。摩擦特性のみから物品2の材質を推定することが可能である。摩擦特性のみから物品2の材質を推定する場合は、異なる種類の物品2の各々に同じ圧力刺激を付与することを標準の圧力刺激として、当該標準の圧力刺激を定数化して記憶し、圧力刺激の対応付けを省略することが可能である。
【0063】
また、学習モデル51は第1入力データ3(圧力刺激)及び第2入力データ4(摩擦特性)を用いて学習し、材質が未知の推定対象物である物品2について、材質を推定する場合に、摩擦特性のみから物品2の材質を推定することも可能である。この場合は、第1入力データ3(圧力刺激)を予め定められた圧力刺激、又は上記した圧力刺激を読み取り、入力すればよい。さらに、第1入力データ3(圧力刺激)の入力を省略し、第2入力データ4(摩擦特性)のみのデータで学習モデル51を学習し、材質が未知の推定対象物である物品2について、摩擦特性のみから物品2の材質を推定してもよい。
【0064】
また、上述した実施形態では、物品2に対して圧力刺激を与える場合を説明したが、本開示の推定装置は、物品2に対して圧力刺激を与えることに限定されるものではない。圧力刺激は、物品2とゴム部材74との間で相対的に圧力刺激が与えられれば良い。すなわち、物品2とゴム部材74との少なくとも一方を移動させて、接触状態又は摺動状態を形成するようにしてもよい。
【0065】
次に、上述した対象物の材質推定装置1において、材質が未知の物品2に対し、材質推定に関して検証した検証結果を説明する。
【0066】
図14には、複数の異なる材質の物品2に圧力刺激を与え、材質が未知の推定対象物として第1入力データ3(圧力刺激)と、第2入力データ4(摩擦特性)を入力して物品2の材質の推定結果を検証した検証結果が示されている。この検証では、鉄、硝子、アクリル、大理石及びポリプロピレンの各々を物品2として、各々について、3500回の押圧試験(摺動試験)を行い、各々の時系列に変化した圧力刺激と摩擦特性とを学習データとして収集した。そして、収集した学習データで学習された学習モデルを構築し、その学習モデルを用いて、1500回の材質推定試験を実施した。図14では、実際の材質の物品の試験回数に対する材質が一致した推定結果の判定率を示した。
【0067】
図14に示すように、上述した対象物の材質推定装置1によれば、異なる材質の物品2に対して、実際の部品の材質に適合する推定結果となることを確認できる。
【0068】
本開示の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に多様な変更または改良を加えることができ、当該変更または改良を加えた形態も本開示の技術的範囲に含まれる。
【0069】
また、上記実施形態では、検査処理を、フローチャートを用いた処理によるソフトウエア構成によって実現した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば各処理をハードウェア構成により実現する形態としてもよい。
【0070】
また、推定装置の一部、例えば学習モデル等のニューラルネットワークを、ハードウェア回路として構成してもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 材質推定装置
2 物品
3 第1入力データ(圧力刺激)
4 第2入力データ(摩擦特性)
5 推定部
6 出力データ(材質)
6A 生成出力データ
7 測定装置
51 学習モデル
52 学習処理部
54 生成器
56 演算器
70 コントローラ
71 基台
72 固定部
73 圧力付与部
74 ゴム部材
75 フォースセンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図13
図14