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特許7525471S.アウレウス(S.aureus)クランピング因子A(ClfA)に対する抗体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】S.アウレウス(S.aureus)クランピング因子A(ClfA)に対する抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20240723BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240723BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240723BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20240723BHJP
   C07K 16/12 20060101ALI20240723BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240723BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240723BHJP
   A61K 47/55 20170101ALI20240723BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20240723BHJP
   G01N 33/569 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12P21/08
C07K16/12
A61P31/04
A61K39/395 R
A61K47/55
A61K47/68
G01N33/569 E
【請求項の数】 32
(21)【出願番号】P 2021503901
(86)(22)【出願日】2019-07-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-11
(86)【国際出願番号】 US2019043254
(87)【国際公開番号】W WO2020023644
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-07-22
(31)【優先権主張番号】62/702,762
(32)【優先日】2018-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504333972
【氏名又は名称】メディミューン,エルエルシー
(73)【特許権者】
【識別番号】516097907
【氏名又は名称】ヒューマブス バイオメド エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トカジク,クリスティーン
(72)【発明者】
【氏名】セルマン,ブレット
(72)【発明者】
【氏名】ボーロック ザ サード,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】コルティ,ダヴィデ
(72)【発明者】
【氏名】ミノラ,アンドレア
【審査官】植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-522000(JP,A)
【文献】ANTIMICROBIAL AGENTS AND CHEMOTHERAPY,2017年,Vol. 61,DOI: 10.1128/AAC.00629-17
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K
CAplus/MEDLINE/EMBASE/REGISTRY/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(S.aureus)クランピング因子A(ClfA)タンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片であって、前記抗体又はその抗原結合断片は、配列番号1のアミノ酸配列を含む可変重鎖(VH)相補性決定領域(CDR)1と、配列番号2のアミノ酸配列を含むVH CDR2と、配列番号3のアミノ酸配列を含むVH CDR3と、配列番号4のアミノ酸配列を含む可変軽鎖(VL)CDR1と、配列番号5のアミノ酸配列を含むVL CDR2と、配列番号6のアミノ酸配列を含むVL CDR3と、を有し、且つ前記抗体又はその抗原結合断片は、CSYHLC(配列番号21)のアミノ酸配列を含むIgG重鎖定常領域を有する、抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号13のアミノ酸配列を含むVHを有し、配列番号14のアミノ酸配列を含むVLを有する、請求項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項3】
前記重鎖定常領域が、MHEACSYHLCQKSLSLS(配列番号23)のアミノ酸配列を含む、請求項1又は2に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項4】
前記重鎖定常領域が、配列番号24のアミノ酸配列を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項5】
前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号50のアミノ酸配列を含む重鎖を有し、配列番号26のアミノ酸配列を含む軽鎖を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項6】
フィブリノーゲン結合阻害アッセイにおけるClfA001、ClfA002、及びClfA004のIC50が、互いに2μg/mL以内である、及び/又は全て1μg/mL~5μg/mLである、請求項1~のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項7】
ClfA001、ClfA002、及びClfA004の結合親和性(K)が、全て200~350pMである、請求項1~のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項8】
前記抗体又はその抗原結合断片が、前記抗体又はその抗原結合断片を従来の白色光に2kLux/時で23℃にて14日間曝露した後、5%以下低下するモノマー純度を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項9】
前記重鎖定常領域が、ヒトIgG定常領域である、請求項1~及びのいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項10】
前記重鎖定常領域が、YTE変異を含む、請求項1~及びのいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項11】
前記軽鎖定常領域が、ヒト免疫グロブリンIgGκ及びIgGλ軽鎖定常領域からなる群から選択される、請求項1~及び10のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項12】
前記抗体又はその抗原結合断片が、モノクローナル抗体又はその抗原結合断片である、請求項1~11のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項13】
前記抗体又はその抗原結合断片が、完全長の抗体である、請求項1~11のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項14】
前記抗体又はその抗原結合断片が、抗原結合断片であり、任意選択的に前記抗原結合断片が、IgGΔCH2、ミニボディ、又はscFv-Fcを含む、請求項1~4及び6~11のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片と、薬学的に許容される担体と、を含む組成物。
【請求項16】
請求項1~14のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片と、S.アウレウス(S.aureus)αトキシン(AT)タンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片と、任意選択的に薬学的に許容される担体と、を含む、組成物。
【請求項17】
S.アウレウス(S.aureus)ATタンパク質に特異的に結合する前記抗体又はその抗原結合断片が、
(i)配列番号7のアミノ酸配列を含むVH CDR1と、配列番号8のアミノ酸配列を含むVH CDR2と、配列番号9のアミノ酸配列を含むVH CDR3と、配列番号10のアミノ酸配列を含むVL CDR1と、配列番号11のアミノ酸配列を含むVL CDR2と、配列番号12のアミノ酸配列を含むVL CDR3と、を有する、
(ii)配列番号15のアミノ酸配列を含むVHを有し、かつ配列番号16のアミノ酸配列を含むVLを有する、又は
(iii)配列番号27のアミノ酸配列を含む重鎖を有し、かつ配列番号28のアミノ酸配列を含む軽鎖を有する、
請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
対象のスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(S.アウレウス(S.aureus))感染症を治療又は予防するための医薬の製造における、請求項1~14のいずれか一項に記載の抗体若しくはその抗原結合断片又は請求項1517のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項19】
対象のスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(S.アウレウス(S.aureus))感染症を治療又は予防するための医薬の製造における、請求項1~14のいずれか一項に記載の抗体若しくはその抗原結合断片又は請求項15に記載の組成物の使用であって、前記抗体又はその抗原結合断片あるいは組成物がS.アウレウスαトキシン(AT)タンパク質に特異的に結合する抗体と共に投与するためのものである、使用。
【請求項20】
ClfAに特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片、並びにS.アウレウス(S.aureus)ATタンパク質に特異的に結合する前記抗体又はその抗原結合断片が、同時に投与されるためのものである、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
ClfAに特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片、並びにS.アウレウス(S.aureus)ATタンパク質に特異的に結合する前記抗体又はその抗原結合断片が、逐次的に投与されるためのものである、請求項19に記載の使用。
【請求項22】
S.アウレウスATタンパク質に特異的に結合する前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号7のアミノ酸配列を含むVH CDR1と、配列番号8のアミノ酸配列を含むVH CDR2と、配列番号9のアミノ酸配列を含むVH CDR3と、配列番号10のアミノ酸配列を含むVL CDR1と、配列番号11のアミノ酸配列を含むVL CDR2と、配列番号12のアミノ酸配列を含むVL CDR3と、を有する、請求項1921のいずれか一項に記載の使用。
【請求項23】
S.アウレウスATタンパク質に特異的に結合する前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号15のアミノ酸配列を含むVHと、配列番号16のアミノ酸配列を含むVLを有する、請求項1922のいずれか一項に記載の使用。
【請求項24】
S.アウレウスATタンパク質に特異的に結合する前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号27のアミノ酸配列を含む重鎖を有し、配列番号28のアミノ酸配列を含む軽鎖を有する、請求項1923のいずれか一項に記載の使用。
【請求項25】
対象のS.アウレウス(S.aureus)感染症の治療又は予防は、S.アウレウス(S.aureus)関連敗血症の阻害、S.アウレウス(S.aureus)凝集の阻害、血栓塞栓性病変形成の阻害、トキシンの中和、オプソニン化貪食作用の誘発、S.アウレウス(S.aureus)フィブリノーゲン結合の阻害、又は前述のものの任意の組み合わせを含む、請求項1824のいずれか一項に記載の使用。
【請求項26】
前記対象が、糖尿病を有する、請求項1825のいずれか一項に記載の使用。
【請求項27】
前記対象がヒトである、請求項1826のいずれか一項に記載の使用。
【請求項28】
請求項1~14のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片のVH又は重鎖をコードする、及び前記抗体又はその抗原結合断片のVL又は軽鎖をコードする核酸分子を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項29】
請求項28に記載のポリヌクレオチドを含む、単離されたベクター。
【請求項30】
請求項28に記載のポリヌクレオチド、又は請求項29に記載のベクターを有する宿主細胞。
【請求項31】
抗体又はその抗原結合断片の産生方法であって、前記抗体又はその抗原結合断片が産生されるように、請求項30に記載の宿主細胞を培養することを含む、方法。
【請求項32】
試料のS.アウレウス(S.aureus)又はS.アウレウス(S.aureus)ClfA検出方法であって、前記試料を請求項1~14のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片と接触させることを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)クランピング因子Aタンパク質(ClfA)に特異的に結合するモノクローナル抗体又はその抗原結合断片、並びにそのモノクローナル抗体を含む組成物に関する。本開示は、また、抗ClfAモノクローナル抗体単独で、又はS.アウレウス(S.aureus)αトキシン(AT)タンパク質に特異的に結合するモノクローナル抗体と組み合わせて対象に投与することにより、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)感染症を治療する方法に関する。ClfA及びATの両方に特異的に結合する二重特異性モノクローナル抗体並びにその使用方法もまた、提供される。
【背景技術】
【0002】
薬剤耐性(AMR)病原菌によって引き起こされる感染症により、公衆衛生に対する脅威が高まっている。進行中のAMRの流行は、部分的には経験的広域スペクトル抗生物質療法によって煽られてきた。これは、深刻な細菌感染を予防又は治療するための、モノクローナル抗体(mAb)を含む病原体特異的方法の探求につながった。抗生物質耐性菌感染症の予防又は治療のために、現在、多数のモノクローナル抗体が開発されている(例えば、DiGiandomenico,A.,and B.R.Sellman,Curr.Opin.Microbiol.,27:78-85(2015)を参照されたい)。このような受動免疫戦略は、標的病原体に対して即時且つ強力な免疫グロブリン応答を提供する。理想的には、モノクローナル抗体又はモノクローナル抗体カクテルは、主要な細菌の病原性メカニズムを中和し、宿主の自然免疫応答を増強するための複数の作用メカニズムを提供し、これにより臨床的成功の最大の機会がもたらされる。
【0003】
スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)は、皮膚及び軟組織の感染症、心内膜炎、骨髄炎、肺炎、及び菌血症を含む広範な病気を引き起こす細菌性病原体である(Lowy,F.D.,N.Engl.J.Med.,339(8):520-32(1998))。前臨床試験は、モノクローナル抗体ベースのアプローチがS.アウレウス(S.aureus)感染症の予防及び補助療法に有望であることを示している(例えば、Hazenbos et al.,PLoS Pathog.,9(10):e1003653.doi:10.1371/journal.ppat.10036532013(2013);Rouha,H.,MAbs,7(1):243-254(2015);Foletti et al.,J.Mol.Biol.,425(10):1641-1654(2013);Karauzum et al.,J Biol Chem.,287(30):25203-15(2012);及びHua et al.,Antimicrob Agents Chemother.,58(2):1108-17(2014)を参照されたい)。S.アウレウス(S.aureus)αトキシン(AT)及びクランピング因子A(ClfA)を標的とするマルチメカニズムモノクローナル抗体の組み合わせにより、S.アウレウス(S.aureus)致死性菌血症モデルにおける各々の個々のモノクローナル抗体と比較して、防御を強化し、菌株の適用範囲を改善することが示された(Tkaczyk et al.,MBio.,7(3).pii:e00528-16(2016));しかしながら、試験したClfAモノクローナル抗体は、他の2つの始祖配列(ClfA001及びClfA004)と比較して、ClfA始祖配列ClfA002に対して結合親和性及び機能活性の低下を示す。
【0004】
したがって、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)感染症、特に現在利用可能な抗生物質に耐性のある感染症を治療するための組成物及び方法の必要性が残っている。本開示は、このような組成物及び方法を提供する。
【発明の概要】
【0005】
本明細書では、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(S.aureus)クランピング因子A(ClfA)タンパク質に結合する抗体又は抗原結合断片が提供される。特定の例では、S.アウレウス(S.aureus)ClfAタンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片は、配列番号1のアミノ酸配列を含む可変重鎖(VH)相補性決定領域(CDR)1と、配列番号2のアミノ酸配列を含むVH CDR2と、配列番号3のアミノ酸配列を含むVH CDR3と、配列番号4のアミノ酸配列を含む可変軽鎖(VL)CDR1と、配列番号5のアミノ酸配列を含むVL CDR2と、配列番号6のアミノ酸配列を含むVL CDR3と、を有し、且つ抗体又は抗原結合断片は、CSYHLC(配列番号21)のアミノ酸配列を含む重鎖定常領域を有する。特定の例では、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号13のアミノ酸配列を含むVHを有する。特定の例では、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号14のアミノ酸配列を含むVLを有する。
【0006】
特定の例では、S.アウレウス(S.aureus)ClfAタンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片は、VHと、VLと、CSYHLC(配列番号21)のアミノ酸配列を含む重鎖定常領域とを有し;VHは、配列番号13のアミノ酸配列を含む。
【0007】
特定の例では、S.アウレウス(S.aureus)ClfAタンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片は、VHと、VLと、CSYHLC(配列番号21)のアミノ酸配列を含む重鎖定常領域とを有し;VLは、配列番号14のアミノ酸配列を含む。
【0008】
特定の例では、S.アウレウス(S.aureus)ClfAタンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片は、SAR114のVH CDR1、VH CDR2、VH CDR3、VL CDR1、VL CDR2、及びVL CDR3を有する。特定の例では、CDRは、Kabat-決定CDR、Chothia-決定CDR、又はAbM-決定CDRである。特定の例では、抗体又は抗原結合断片は、CSYHLC(配列番号21)のアミノ酸配列を含む重鎖定常領域を有する。
【0009】
特定の例では、重鎖定常領域は、MHEACSYHLCQKSLSLS(配列番号23)のアミノ酸配列を含む。特定の例では、重鎖定常領域は、配列番号24のアミノ酸配列を含む。特定の例では、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号50のアミノ酸配列を含む重鎖を有する。特定の例では、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号26のアミノ酸配列を含む軽鎖を有する。
【0010】
特定の例では、フィブリノーゲン結合阻害アッセイにおけるClfA001、ClfA002、及びClfA004の抗体又はその抗原結合断片のIC50は、互いに2μg/ml以内である。特定の例では、フィブリノーゲン結合阻害アッセイにおけるClfA001、ClfA002、及びClfA004の抗体又はその抗原結合断片のIC50は、全て1μg/ml~5μg/mlである。特定の例では、ClfA001、ClfA002、及びClfA004の抗体又はその抗原結合断片の結合親和性(K)は、全て200~350pMである。
【0011】
特定の例では、抗体又はその抗原結合断片は、抗体又は抗原結合断片を従来の白色光に2kLux/時、23℃で14日間曝露した後、5%以下低下するモノマー純度を有する。特定の例では、抗体又は抗原結合断片は、ヒトFcRnマウスで変異がない同じ抗体と比較して半減期を延長する変異を含む。特定の例では、抗体又は抗原結合断片は、変異がない同じ抗体と比較して半減期を延長する変異を含み、変異は、同じ抗体又は抗原結合断片変異と比較してOPK活性を阻害しない。
【0012】
本明細書では、また、S.アウレウス(S.aureus)ClfAタンパク質及びS.アウレウス(S.aureus)αトキシン(AT)タンパク質に特異的に結合する二重特異性抗体及びその抗原結合断片が提供される。特定の例では、S.アウレウス(S.aureus)ClfAタンパク質及びS.アウレウス(S.aureus)αトキシン(AT)タンパク質に特異的に結合する二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、配列番号1のアミノ酸配列を含むVH CDR1と、配列番号2のアミノ酸配列を含むVH CDR2と、配列番号3のアミノ酸配列を含むVH CDR3と、配列番号4のアミノ酸配列を含むVL CDR1と、配列番号5のアミノ酸配列を含むVL CDR2と、配列番号6のアミノ酸配列を含むVL CDR3と、を有する。特定の例では、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号13のアミノ酸配列を含むVHを有する。特定の例では、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号14のアミノ酸配列を含むVLを有する。特定の例では、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号7のアミノ酸配列を含むVH CDR1と、配列番号8のアミノ酸配列を含むVH CDR2と、配列番号9のアミノ酸配列を含むVH CDR3と、配列番号10のアミノ酸配列を含むVL CDR1と、配列番号11のアミノ酸配列を含むVL CDR2と、配列番号12のアミノ酸配列を含むVL CDR3と、を更に有する。特定の例では、抗体又は抗原結合断片は、配列番号15のアミノ酸配列を含むVHを有する。特定の例では、抗体又は抗原結合断片は、配列番号16のアミノ酸配列を含むVLを有する。
【0013】
特定の例では、S.アウレウス(S.aureus)ClfAタンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片は、SAR72、SAR80、SAR113、SAR132、SAR352、SAR372、SAR510、SAR547、SAS1、SAS19、又はSAS203のVH CDR1と、VH CDR2と、VH CDR3と、VL CDR1と、VL CDR2と、VL CDR3と、を有する。特定の例では、CDRは、Kabat-決定CDR、Chothia-決定CDR、又はAbM-決定CDRである。特定の例では、抗体又は抗原結合断片は、(a)それぞれ配列番号17及び18、(b)それぞれ配列番号30及び31、(c)それぞれ配列番号32及び33、(d)それぞれ配列番号34及び35、(e)それぞれ配列番号36及び37、(f)それぞれ配列番号38及び39、(g)それぞれ配列番号40及び41、(h)それぞれ配列番号42及び43、(i)それぞれ配列番号44及び45、(j)それぞれ配列番号46及び47、又は(k)それぞれ配列番号48及び49に記述されているアミノ酸配列を含む可変重鎖及び可変軽鎖配列を有する。
【0014】
特定の例では、S.アウレウス(S.aureus)ClfAタンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片は、VHと、VLと、を有し、VHは、配列番号17、30、32、34、36、38、40、42、44、46、又は48に記述されているアミノ酸配列を含む。
【0015】
特定の例では、S.アウレウス(S.aureus)ClfAタンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片は、VHと、VLと、を有し、VLは、配列番号18、31、33、35、37、39、41、43、45、47、又は49に記述されているアミノ酸配列を含む。
【0016】
特定の例では、抗体又はその抗原結合断片は、重鎖定常領域を更に有する。特定の例では、重鎖定常領域は、ヒト免疫グロブリンIgG、IgG、IgG、IgG、IgA、及びIgA重鎖定常領域からなる群から選択される。特定の例では、重鎖定常領域は、ヒトIgG定常領域である。特定の例では、重鎖定常領域は、N3、N3E、又はN3F変異を含む。特定の例では、重鎖定常領域は、YTE変異を含む。
【0017】
特定の例では、抗体又はその抗原結合断片は、軽鎖定常領域を更に有する。特定の例では、軽鎖定常領域は、ヒト免疫グロブリンIgGκ及びIgGλ軽鎖定常領域からなる群から選択される。特定の例では、軽鎖定常領域は、ヒトIgGκ軽鎖定常領域である。
【0018】
特定の例では、抗体又は抗原結合断片は、モノクローナル抗体又は抗原結合断片である。
【0019】
特定の例では、抗体又は抗原結合断片は、完全長の抗体である。特定の例では、抗体又は抗原結合断片は、抗原結合断片である。特定の例では、抗原結合断片は、Fab、Fab’、F(ab’)、単鎖Fv(scFv)、ジスルフィド連結Fv、イントラボディ、IgGΔCH2、ミニボディ、F(ab’)、テトラボディ、トリアボディ、ダイアボディ、DVD-Ig、Fcab、mAb、(scFv)、又はscFv-Fcを含む。
【0020】
特定の例では、S.アウレウス(S.aureus)ClfAタンパク質に特異的に結合する抗体は、配列番号50に記述されているアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号26に記述されているアミノ酸配列を含む軽鎖と、を有する。
【0021】
特定の例では、抗体又はその抗原結合断片は、検出可能な標識を更に含む。
【0022】
本明細書では、また、本明細書で提供される抗体を含む組成物が提供される。特定の例では、組成物は、本明細書で提供される抗体と、薬学的に許容される担体と、を含む。
【0023】
特定の例では、組成物は、本明細書で提供される抗体と、S.アウレウス(S.aureus)ATタンパク質に特異的に結合する抗体又は抗原結合断片と、任意選択的に薬学的に許容される担体と、を含む。特定の例では、S.アウレウス(S.aureus)ATタンパク質に特異的に結合する抗体又は抗原結合断片は、配列番号7のアミノ酸配列を含むVH CDR1と、配列番号8のアミノ酸配列を含むVH CDR2と、配列番号9のアミノ酸配列を含むVH CDR3と、配列番号10のアミノ酸配列を含むVL CDR1と、配列番号11のアミノ酸配列を含むVL CDR2と、配列番号12のアミノ酸配列を含むVL CDR3と、を有する。特定の例では、S.アウレウス(S.aureus)ATタンパク質に特異的に結合する抗体又は抗原結合断片は、配列番号15のアミノ酸配列を含むVHを有する。特定の例では、S.アウレウス(S.aureus)ATタンパク質に特異的に結合する抗体又は抗原結合断片は、配列番号16のアミノ酸配列を含むVLを有する。特定の例では、S.アウレウス(S.aureus)ATタンパク質に特異的に結合する抗体又は抗原結合断片は、配列番号27のアミノ酸配列を含む重鎖を有する。特定の例では、S.アウレウス(S.aureus)ATタンパク質に特異的に結合する抗体又は抗原結合断片は、配列番号28のアミノ酸配列を含む軽鎖を有する。
【0024】
本明細書では、また、本明細書で提供される抗体の使用方法が提供される。特定の例では、対象のS.アウレウス(S.aureus)感染症を治療又は予防する方法は、本明細書で提供される抗体若しくは抗原結合断片又は本明細書で提供される組成物を対象に投与することを含む。
【0025】
特定の例では、対象のS.アウレウス(S.aureus)感染症を治療又は予防する方法は、本明細書で提供される抗体又は抗原結合断片、及びS.アウレウス(S.aureus)αトキシン(AT)タンパク質に特異的に結合する抗体又は抗原結合断片を対象に投与することを含む。特定の例では、S.アウレウス(S.aureus)ATタンパク質に特異的に結合する抗体又は抗原結合断片は、配列番号7のアミノ酸配列を含むVH CDR1と、配列番号8のアミノ酸配列を含むVH CDR2と、配列番号9のアミノ酸配列を含むVH CDR3と、配列番号10のアミノ酸配列を含むVL CDR1と、配列番号11のアミノ酸配列を含むVL CDR2と、配列番号12のアミノ酸配列を含むVL CDR3と、を有する。特定の例では、S.アウレウス(S.aureus)ATタンパク質に特異的に結合する抗体又は抗原結合断片は、配列番号15のアミノ酸配列を含むVHを有する。特定の例では、S.アウレウス(S.aureus)ATタンパク質に特異的に結合する抗体又は抗原結合断片は、配列番号16のアミノ酸配列を含むVLを有する。特定の例では、S.アウレウス(S.aureus)ATタンパク質に特異的に結合する抗体又は抗原結合断片は、配列番号27のアミノ酸配列を含む重鎖を有する。特定の例では、S.アウレウス(S.aureus)ATタンパク質に特異的に結合する抗体又は抗原結合断片は、配列番号28のアミノ酸配列を含む軽鎖を有する。特定の例では、本明細書で提供される抗S.アウレウス(S.aureus)ClfA抗体又は抗原結合断片、及びS.アウレウス(S.aureus)ATタンパク質に特異的に結合する抗体又は抗原結合断片は、同時に投与される。特定の例では、本明細書で提供される抗S.アウレウス(S.aureus)ClfA抗体又は抗原結合断片、及びS.アウレウス(S.aureus)ATタンパク質に特異的に結合する抗体又は抗原結合断片は、逐次的に投与される。
【0026】
特定の例では、対象のS.アウレウス(S.aureus)感染症の治療又は予防は、S.アウレウス(S.aureus)関連敗血症の阻害、S.アウレウス(S.aureus)凝集の阻害、血栓塞栓性病変形成の阻害、トキシンの中和、オプソニン化貪食作用の誘発、S.アウレウス(S.aureus)フィブリノーゲン結合の阻害、S.アウレウス(S.aureus)凝集の阻害、又は前述の任意の組み合わせを含む。
【0027】
特定の例では、対象は、糖尿病を有する。特定の例では、対象はヒトである。
【0028】
本明細書では、また、ポリヌクレオチドが提供される。特定の例では、単離されたポリヌクレオチドは、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合断片のVH又は重鎖をコードする核酸分子を含む。特定の例では、核酸分子は、配列番号13のVH又は配列番号25、50、若しくは52の重鎖をコードする。
【0029】
特定の例では、単離されたポリヌクレオチドは、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合断片のVL又は軽鎖をコードする核酸分子を含む。特定の例では、核酸分子は、配列番号14のVL又は配列番号26の軽鎖をコードする。
【0030】
特定の例では、単離されたポリヌクレオチドは、本明細書で提供される抗体又はその抗原結合断片のVH又は重鎖及び抗体又はその抗原結合断片のVH又は軽鎖をコードする核酸分子を含む。
【0031】
本明細書では、また、ベクターが提供される。特定の例では、単離されたベクターは、本明細書で提供されるポリヌクレオチドを含む。
【0032】
本明細書では、また、宿主細胞が提供される。特定の例では、宿主細胞は、本明細書で提供されるポリヌクレオチド、本明細書で提供されるベクター、又は本明細書で提供されるポリヌクレオチドを含む第1のベクター及び本明細書で提供されるポリヌクレオチドを含む第2のベクターを含む。特定の例では、宿主細胞は、CHO、NS0、PER-C6、HEK-293、及びHeLa細胞からなる群から選択される。特定の例では、宿主細胞は単離されている。
【0033】
本明細書では、また、抗体又は抗原結合断片の産生方法が提供される。特定の例では、抗体又はその抗原結合断片の産生方法は、抗体又はその抗原結合断片が産生されるように、本明細書で提供される宿主細胞を培養することを含む。
【0034】
本明細書では、また、S.アウレウス(S.aureus)又はS.アウレウス(S.aureus)ClfAの検出方法が提供される。特定の例では、試料におけるS.アウレウス(S.aureus)又はS.アウレウス(S.aureus)ClfA検出方法は、試料を本明細書で提供される抗体又はその抗原結合断片と接触させることを含む。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1図1は、連続希釈された(666μM~2.55μMの)抗ClfA mAb 11H10(図1A)又はSAR114(図1B)の存在下で測定された、3つの主要なClfA遺伝子型へのフィブリノーゲン結合の阻害を示す一連のグラフである。データは、3つの独立した実験の代表的なものである。
図2図2は、ヒト血漿及び抗ClfAmAbの存在下でのS.アウレウス(S.aureus)臨床分離株の凝集を示すグラフである。図2は、細菌凝集を阻害するのに必要とされる11H10及びSAR114 mAbの最小濃度を示す。データは2つの独立した実験の代表的なものである。c-IgGは、陰性対照として使用し、200μg/mlではいかなる阻害も示さなかった。
図3図3は、S.アウレウス(S.aureus)臨床分離株ARC635(ST5)(図3A)、SF8300(ST8)(図3B)、NRS383(ST346)(図3C)、NRS382(ST5)(図3D)、NRS384(ST8)(図3E)、及びARC2081(ST30)(図3F)に対する抗ClfAモノクローナル抗体SAR114のオプソニン食作用傷害(opsonophagocytic killing)(OPK)活性を示す一連のグラフである。S.アウレウス(S.aureus)菌株を、ヒトHL-60細胞、ヒト血清、及び段階希釈のSAR114(四角)又はc-IgC(丸)とインキュベートした。グラフは、3つの独立した実験の平均値±標準偏差(SD)を表す。
図4図4は、SAR114モノクローナル抗体による複数のS.アウレウス(S.aureus)型の凝集阻害を示すグラフである。40個の異なる配列型(ST)及び検出されない一部のもの(NF)を表す112個のS.アウレウス(S.aureus)臨床分離株を、実施例1で記載されるように試験した。
図5図5は、ClfA001遺伝子型への結合についてのSAR114及び11H10の競合を示すグラフである。図5Aのグラフは、実施例1で記載されたような競合ELISA結合アッセイの結果を示す。データは、平均値±標準偏差(SD)を表す。図5Bのグラフは、実施例1で記載されたOCTECT(登録商標)結合アッセイの結果を示す。
図6図6は、オプソニン食作用傷害(OPK)での抗細菌抗体中のYTE及びN3変異の影響を示すグラフを提供する。Cam004(上方の区画)は、抗シュードモナス抗体であり、2F4(下方の区画)は、抗S.アウレウス(S.aureus)抗体である。R347抗体は陰性対照として使用した。(実施例2を参照されたい。)
図7図7は、N3変異が、ClfA001、ClfA002、又はClfA1004のフィブリノーゲンへの結合を阻害するSAR114の能力を低下させないことを示すグラフを提供する。(実施例2を参照されたい。)
図8図8は、凝集及びフィブリノーゲン効力アッセイにおけるSAR114でのN3F及びN3Y変異の影響を報告する表を提供する。(実施例3を参照されたい。)
図9図9は、ヒトFcRnのトランスジェニックマウスにおける薬物動態(PK)に対するN3(N3W)、N3F、及びN3Y変異の影響(上方区画)、並びにSAR114のOPK(下方区画)示すグラフを提供する。(実施例3を参照されたい。)
図10-1】図10A-Mは、SAR114及びMEDI4893モノクローナル抗体の組み合わせにより、実施例4に記載のとおり、致死性菌血症マウスモデルにおける菌株の適用範囲がもたらされることを示す一連のグラフである。様々な配列型(ST)からの異なるS.アウレウス(S.aureus)臨床分離株、及び試験されたClfA遺伝子型としては:NRS123(ST1、ClfA012)、NRS387(ST5、ClfA002)、ARC635(ST5、ClfA002)、3049043(ST5、ClfA002)、3049057(ST8、ClfA001)、SF8300(ST8、Clf A001)、3049088(ST30、ClfA004)、3049114(ST30、ClfA004)、ARC2784(ST188、ClfA019)、9043、9057、9157、及び2784が挙げられる。示されたデータは、3つの独立した実験の代表的なものである。末尾に丸が付いた破線は、IgG対照抗体で処理されたマウスを表す。末尾に四角が付いた線は、SAR114(15mpk)で処理されたマウスを表す。末尾に上向き三角が付いた線は、MEDI4893(15mpk)で処理されたマウスを表す。末尾に下向き三角が付いた線は、SAR114及びMEDI4893(各々7.5mpk)で処理されたマウスを表す。(実施例4を参照されたい。)
図10-2】図10-1の続き。
図11図11は、SAR114及びMEDI4893モノクローナル抗体の組み合わせが、BKS.Cg-Dock7+/+Leprdb/J糖尿病マウス(db/db)におけるCA-MRSA SF8300誘発性IV致死性菌血症に対して防御することを示す一連のグラフである。下方2つの区画における横棒線は、幾何平均CFUを表す。データは、3つの独立した実験の代表的なものである。(実施例5を参照されたい。)
図12図12は、肉眼的病理学(左)又は切片のヘマトキシリン及びエオシン染色後(右)のいずれかにより、CA-MRSA SF8300誘発性IV致死性菌血症に曝露されたdb/dbマウスの肝障害に対するSAR114及びMEDI4893モノクローナル抗体の組み合わせの影響を示す画像を提供する。(実施例7を参照されたい。)
図13図13は、SAR114及びMEDI4893モノクローナル抗体の組み合わせにより、致死性菌血症糖尿病db/dbマウスモデルにおける防御についての菌株適用範囲がもたらされることを示す一連のグラフである。(実施例8を参照されたい。)
図14図14は、スキャホールドとして抗ClfA mAbを使用した二重特異性コンストラクト(図14A)又は10-アミノ酸リンカー(GGGGx2)を介してClfAモノクローナル抗体重鎖N末端とつながった抗AT mAb MEDI4893のscFv(図14B)若しくは重鎖C末端とつながった抗AT mAb MEDI4893のscFv(図14C)の略図を提供する。(実施例9を参照されたい。)
図15図15は、実施例9に記載されるように、抗ClfA SAR114又は11H10/MEDI4893BiSAbのin vitroでの特性を示す一連のグラフである。図15A及び15Dは、AT媒介ウサギRBC溶血アッセイにおけるMEDI4893と比較したBiS及びBiS活性を示す。BiSAb及びMEDI4893の段階希釈液を、AT単独(図15A)又は10M過剰のClfA001(図15D)及びRBCとともにインキュベートした。溶血阻害率は、以下のように計算した。100(100-(ODAT+mAb)/(ODAT単独))。データは、3つの独立した実験の代表的なものである。図15B及び15Cは、実施例9に記載されるとおり、固定化フィブリノーゲン(fribrinogen)結合アッセイの結果を示す。BiSAb、SAR114、又は11H10の段階希釈液を、ClfA単独(図15B)又は10M過剰のAT(図15C)とともにインキュベートした。データは、3つの別々の実験の平均値標準偏差を表す。結合阻害率は、100(100-(ODClfA+mAb)/(ODClfA単独))として計算した。
図16図16は、実施例9に記載されるように、3つの主要なClfA遺伝子型へのフィブリノーゲン結合の阻害を示す一連のグラフである。フィブリノーゲン結合の阻害は、モノクローナル抗体11H10(図16A)、SAR114(図16B)、又は対応する二重特異性抗体(図16C)の段階希釈液の存在下で測定した。同様のアッセイを、10M過剰のAT(6.6mM)の存在下でATscFvを飽和させることによって実施した(図16D-F)。
図17図17は、抗ClfA/AT二重特異性抗体(BiS)のオプソニン食作用傷害(OPK)活性を示す一連のグラフである。S.アウレウス(S.aureus)Newman分離株を、ヒトHL-60細胞、ヒト血清、及び11H10親モノクローナル抗体若しくは11H10-BiS分子の段階希釈液(図17A)、又はSAR114親モノクローナル抗体若しくはSAR114-BiS分子の段階希釈液(図17B)とインキュベートした。グラフは、2つの独立した実験の平均値±SDを表す。(実施例9を参照されたい。)
図18-1】図18は、菌血症マウスモデルにおける抗ClfA mAb/MEDI4893二重特異性抗体の有効性を示す一連のグラフである。Balb/cマウス(n=10)を、SAR114/MEDI4893BiS、BiS、又はSAR114+MEDI4893の組み合わせで、示された濃度でIPで受動免疫し、24時間後にS.アウレウス(S.aureus)分離株SF8300(6e cfu)(図18A)又は3049057(5e cfu)(図18B)のLD90にIV感染させた。11H10/MEDI4893BiS、BiS、又は11H10+MEDI4893mAbについての防御有効性は、SF8300(図18C)又は30419057(図18D)チャレンジに対して評価された。生存を2週間監視した。結果をログランク(Mantel Cox)検定で分析した。対c-IgGの統計分析は、p<0.05の場合、統計的に異なると見なされ、アスタリスク()で示された。データは、3つの独立した実験の代表的なものである。(実施例10を参照されたい。)
図18-2】図18-1の続き。
図19図19は、ClfAが、致死性肺炎マウスモデルにおいてSAR114/MEDI4893BiSAbを隔離することを示す一連のグラフである。C57/B6マウス(n=10)を、BiS、BiS、MEDI4893、又はSAR114+MEDI4893mAbの組み合わせで、示された濃度でIPで受動免疫し、24時間後に1.5ecfuのS.アウレウス(S.aureus)分離株SF8300(図19A)又はSF8300ΔclfA同質遺伝子変異体(図19B)に鼻腔内(IN)感染させた。生存を6日間監視した。結果をログランク(Mantel Cox)検定で分析した。対c-IgGの統計分析は、p<0.05の場合、統計的に異なると見なされた。データは、3つの独立した実験の代表的なものである。(実施例11を参照されたい。)
図20図20は、5mg/kgの抗体投与後の60日間にわたるカニクイザルのSAR114、SAR114 N3F、及びSAR114 N3Yのレベルを示す。
図21図21は、ex vivoでのPBMC刺激アッセイを使用した野生型及びN3Y Fc領域の免疫原性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本開示は、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(S.アウレウス(S.aureus))クランピング因子A(ClfA)タンパク質に結合する(及び任意選択的に、S.アウレウス(S.aureus)αトキシン(AT)タンパク質にも結合する)抗体及びその抗原結合断片(例えば、モノクローナル抗体及びその抗原結合断片)を提供する。本開示は、また、このような抗体又はその断片を含む組成物、並びにこのような抗体、その断片、又は組成物の使用方法を提供する。
【0037】
用語「抗体」は、免疫グロブリン分子の可変領域内の少なくとも1つの抗原認識部位を介してタンパク質、ポリペプチド、ペプチド、炭水化物、ポリヌクレオチド、脂質、又は前述の組み合わせなどの標的を認識し、それに特異的に結合する免疫グロブリン分子を意味する。本発明で使用する場合、用語「抗体」は、インタクトポリクローナル抗体、インタクトモノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、抗体を含む融合タンパク質、及び抗体が所望の生物学的活性を示す限り、任意の他の修飾免疫グロブリン分子を包含する。抗体は、免疫グロブリンの5つの主要なクラスのいずれかであり得る:それぞれアルファ、デルタ、イプシロン、ガンマ、及びミューと呼ばれる、重鎖定常ドメインの同一性に基づく、IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgM、又はそれらのサブクラス(アイソタイプ)(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2)。免疫グロブリンの異なるクラスは、異なる周知のサブユニット構造及び3次元配置を有する。抗体は、ネイキッドであってもよく、又はトキシン、放射性同位体等の他の分子に結合されていてもよい。
【0038】
用語「モノクローナル抗体」は、本発明で使用する場合、B細胞の単独クローンによって産生され、同じエピトープに結合する抗体を指す。対照的に、用語「ポリクローナル抗体」は、異なるB細胞によって産生され、同じ抗原の異なるエピトープに結合する抗体の集団を指す。
【0039】
用語「抗体断片」は、インタクト抗体の部分を指す。「抗原結合断片」、「抗原結合ドメイン」又は「抗原結合領域」は、抗原に結合するインタクト抗体の一部を指す。抗原結合断片は、インタクト抗体の抗原決定領域(例えば、相補性決定領域(CDR))を含有し得る。抗体の抗原結合断片の例としては、限定はされないが、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びFv断片、線状抗体、並びに一本鎖抗体が挙げられる。抗体の抗原結合断片は、げっ歯類(例えば、マウス、ラット、又はハムスター)及びヒトなどの任意の動物種から誘導することができるか、又は人工的に生成することができる。
【0040】
全抗体は、典型的には、4つのポリペプチド:重(H)鎖ポリペプチドの2つの同一コピー及び軽(L)鎖ポリペプチドの2つの同一コピーからなる。重鎖の各々は、1つのN末端可変(VH)領域と3つのC末端定常(CH1、CH2、及びCH3)領域とを含有し、各軽鎖は、1つのN末端可変(VL)領域と1つのC末端定常(CL)領域とを含有する。軽鎖と重鎖の各ペアの可変領域は、抗体の抗原結合部位を形成する。VH及びVL領域は、同一の一般的構造を有し、各領域は、4つのフレームワーク領域を有しており、その配列は、比較的保存されている。用語「フレームワーク領域」は、本発明で使用する場合、超可変又は相補性決定領域(CDR)の間に位置する可変領域内の比較的保存されたアミノ酸配列を指す。各可変ドメインには4つのフレームワーク領域があり、FR1、FR2、FR3、及びFR4と指定されている。フレームワーク領域は、可変領域の構造フレームワークを提供するβシートを形成する(例えば、C.A.Janeway et al.(eds.),Immunobiology,5th Ed.,Garland Publishing,New York,NY(2001)を参照されたい)。CDR1、CDR2、及びCDR3として知られる3つのCDRは、抗体の「超可変領域」を形成し、抗原結合を担っている。
【0041】
用語「Kabat付番」及び同様の用語は、当該技術分野で認識されており、抗体の重鎖及び軽鎖可変領域又はこれらの抗原結合断片のアミノ酸残基の付番方式を指す。特定の態様では、CDRは、Kabat付番方式に従って決定することができる(例えば、Kabat EA & Wu TT(1971) Ann NY Acad Sci 190:382-391 and Kabat EA et al.,(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition,U.S.Department of Health and Human Services,NIH Publication No.91-3242を参照されたい)。Kabat付番方式を用いると、抗体重鎖分子内のCDRは、典型的には、35に続く1つ又は2つの追加のアミノ酸(Kabat付番スキームでは、35A及び35Bと呼ばれる)を任意選択的に含めることができるアミノ酸位置31~35(CDR1)、アミノ酸位置50~65(CDR2)、及びアミノ酸位置95~102(CDR3)に存在する。Kabat付番方式を使用して、抗体軽鎖分子内のCDRは、典型的には、アミノ酸位置24~34(CDR1)、アミノ酸位置50~56(CDR2)、及びアミノ酸位置89~97(CDR3)に存在する。具体的な実施形態では、本明細書で記載される抗体のCDRは、Kabat付番スキームに従って決定された。
【0042】
Chothiaは、代わりに構造ループの位置に言及している(Chothia and Lesk,J.Mol.Biol.196:901-917(1987))。Kabat付番規則を用いて付番したときのChothia CDR-H1ループの末端は、ループの長さに応じてH32~H34で異なる(これは、Kabat付番スキームがH35A及びH35Bに挿入を置くためであり、35Aも35Bも存在しない場合、ループは32で終わり、35Aのみが存在する場合、ループは33で終わり、35A及び35Bの両方が存在する場合、ループは34で終わる)。AbM超可変領域は、Kabat CDRとChothia 構造ループとの妥協案に相当し、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアによって用いられている。
【0043】
【表1】
【0044】
一実施形態では、組成物は、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)クランピング因子Aタンパク質(ClfA)に特異的に結合する第1の抗体又はその抗原結合断片(例えば、モノクローナル抗体又は断片)と、S.アウレウス(S.aureus)αトキシン(AT)タンパク質に特異的に結合する第2の抗体又はその抗原結合断片(例えば、モノクローナル抗体又は断片)と、を含む。多くのS.アウレウス(S.aureus)表面アドへシンの中でも、クランピング因子A(ClfA)は、深刻な血流感染で重要な役割を果たすことが示されてきた(Foster et al.,Nat.Rev.Microbiol.,12:49-62(2014);及びMurphy et al.,Hum.Vaccin.,7(Suppl):51-59(2011))。ClfAはフィブリノーゲンに結合し、フィブリノーゲンの細菌接着、及び細菌クランピングの両方を促進し、その両方が、S.アウレウス(S.aureus)血流感染症の進行における重要な属性である(Vaudaux et al.,Infect.Immun.,63:585-590(1995);McDevitt et al.,Mol.Microbiol.,11:237-248(1994);及びMcDevitt et al.,Eur.J.Biochem.,247:416-424(1997))。損傷部位でフィブリン若しくはフィブリノーゲンに結合した、又は留置装置にコーティングされたClfAは、細菌のコロニー形成を促進し(Foster et al.,supra)、細菌のクランピングを促進する可能性があり、これは細菌の侵襲性を高めると考えられている(McDevitt et al.,Eur.J.Biochem.,247:416-424(1997);McAdow et al.,PLoS Pathog.,7:e1002307(2011);Flick et al.,Blood,121:1783-1794(2013);及びRothfork et al.,J.Immunol.,171:5389-5395(2003))。ClfAは、また、オプソニン食作用細菌傷害(OPK)に必要な補体沈着を損なうことも報告されている(Hair et al.,Infect.Immun.,78:1717-1727(2010))。これらの観察と一致して、同質遺伝子のΔclfA変異体は感染モデルにおいて毒性の低下を示した(McAdow et al.,supra;Josefsson et al.,PLoS One,3:e2206(2008);及びJosefsson et al.,J Infect.Dis.,184:1572-1580(2001))。加えて、ヒト抗ClfA濃縮静脈内(i.v.)免疫グロブリン(Ig)(INH-A21又はベロネート)又はモノクローナル抗体(テフィバズマブ又はAurexis)による受動免疫は、S.アウレウス(S.aureus)血流感染を有する患者の疾患転帰を改善した(Vernachio et al.,Antimcirob.Agents Chemother.,47:3400-3406(2003);及びVernachio et al.,Antimicrob.Agents Chemother.,50:511-518(2006))。しかし、これらの抗体製剤は、超低出生体重児のS.アウレウス(S.aureus)菌血症を予防又は治療するためのバンコマイシンによる予防又は補助療法の臨床研究の結果を改善することができなかった(DeJonge et al.,J.Pediatr.,151:260-265(2007);Capparelli et al.,Antimicrob.Agents Chemother.,49:4121-4127(2005);及びBloom et al.,Pediatr.Infect.Dis.,24:858-866(2005))。ClfAの構造及び機能は、例えば、McDevitt et al.,Mol.Microbiol.,11:237-248(1994))に詳細に記載されている。
【0045】
αトキシン(AT)は、肺炎、皮膚及び軟組織感染症(SSTI)、菌血症など、いくつかのS.アウレウス(S.aureus)感染症の主要な病原性因子である(Bubeck Wardenburg,J.and O.Schneewind,J.Exp.Med.,205:287-294(2008);Inoshima et al.,J.Invest.Dermatol.,132:1513-1516(2012);及びFoletti et al.,supra)。抗ATモノクローナル抗体による受動免疫は、肺炎及び皮膚壊死モデルにおける疾患の重症度を軽減し(Hua et al.,Antimicrob.Agents Chemother.,58:1108-1117(2014);Tkaczyk et al.,Clin.Vaccine Immunol.,19:377-385(2012);及びRagle,B.E.and J.Wardenburg Bubeck,Infect.Immun.,77:2712-2718(2009))、マウス致死性菌血症及び肺炎モデルにおける死亡から防御されるH35L変異(ATH35L)を含むATトキソイドによるワクチン接種を減少させた(Bubeck Wardenburg,supra,Foletti et al.,supra,Hua et al.,supra,Ragle,supra,Menzies,B.E.and D.S Kernodle,Infect.Immun.,77:2712-2718(2009);及びAdhikari et al.,PLoS One,7:e38567(2012))。ATは、血管の完全性の喪失につながる、敗血症に特徴的な過炎症反応の刺激及びADAM10媒介内皮密着結合の切断の活性化を含む、菌血症及び敗血症時のS.アウレウス(S.aureus)の病因の複数の態様に寄与する(Powers et al.,J Infect.Dis.,206:352-356(2012);Wilke,G.A.及びJ.Bubeck Wardenburg,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,107:13473-13478(2010);及びBecker et al.,J Innate Immun.,6:619-631(2014))。ATはまた、血小板を標的とすることも実証されており、これは損傷した内皮バリアの修復を妨げ、血小板-好中球凝集体の形成を通じて臓器機能障害を促進する(Powers et al.,Cell Host Microbe,17:775-787(2015))。αトキシンの構造及び機能は、例えば、Bhakdi,S.and J.Tranum-Jensen,Microbiol.Mol.Biol.Rev.,55(4):733-751(1991)に詳細に記載されている。
【0046】
ClfAに結合するモノクローナル及びポリクローナル抗体は、当該技術分野において既知であり(例えば、米国特許第7,364,738号明細書;Hall et al.,Infect.Immun.,71(12):6864-6870(2003);及びVernachio et al.,Antimicrob.Agents Chemother.,47(11):3400-3406(2003)を参照されたい)、例えば、Creative Biolabs(Shirley,NY)などの供給元から市販されている。上述のように、いくつかの抗ClfAモノクローナル抗体(例えば、Tkaczyk et al.,MBio.,7(3).pii:e00528-16(2016)に記載されている11H10モノクローナル抗体)は、菌血症モデルにおけるS.アウレウス(S.aureus)感染症に対する有効性を示し、このような抗体は、ClfAに対する親和性の低下、及びメチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(MRSA)の特定の菌株によって発現されるClfA始祖配列(ClfA002)へのフィブリノーゲン結合の阻害障害を示すことが判明している。そのようなものであるため、本開示は、ClfA002を含む3つの主要なClfAバリアントに対する親和性が100倍超で増加し、112の多様な臨床分離株による細菌凝集の強力な阻害によりClfAに特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片(例えば、モノクローナル抗体又は断片)を提供する。この関連で、一実施形態では、本明細書に記載の組成物の第1の抗体又はその抗原結合断片(例えば、モノクローナル抗体又は断片)は、ClfAに特異的に結合し、(i)配列番号1の相補性決定領域(CDR)1アミノ酸配列、配列番号2のCDR2アミノ酸配列、及び配列番号3のCDR3アミノ酸配列を含む重鎖ポリペプチドと、(ii)配列番号4のCDR1アミノ酸配列、配列番号5のCDR2アミノ酸配列、及び配列番号6のCDR3アミノ酸配列を含む軽鎖ポリペプチドと、を含むか、それらから本質的になるか、又はそれらからなる。別の実施形態では、第1の抗体又は抗原結合断片(例えば、モノクローナル抗体又は断片)の重鎖ポリペプチドは、配列番号13の可変領域アミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなり、及び第1の抗体又は抗原結合断片の軽鎖ポリペプチドは、配列番号14の可変領域アミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなる。特定の例では、抗体又は抗原結合断片(例えば、モノクローナル抗体又は断片)は、CSYHLC(配列番号21)、MHEACSYHLCQKSLSLS(配列番号23)、又は配列番号24のアミノ酸配列を含む重鎖定常領域を有する。
【0047】
ATに結合するモノクローナル及びポリクローナル抗体もまた、当該技術分野において既知であり(例えば、Hua et al.,Antimicrob.Agents Chemother.,58(2):1108-1117(2014);及びOganesyan et al.,J.Biol.Chem.,289:29874-29880(2014)を参照のこと)、例えば、Sigma Aldrich(St.Louis,MO)及びAbCam(Cambridge,MA)などの供給元から市販されている。一実施形態では、本明細書で記載される組成物の第2の抗体又は抗原結合断片(例えば、モノクローナル抗体又は断片)は、S.アウレウス(S.aureus)αトキシン(AT)タンパク質に特異的に結合し、(i)配列番号7のCDR1アミノ酸配列、配列番号8のCDR2アミノ酸配列、及び配列番号9のCDR3アミノ酸配列を含む重鎖ポリペプチドと、(ii)配列番号10のCDR1アミノ酸配列、配列番号11のCDR2アミノ酸配列、及び配列番号12のCDR3アミノ酸配列を含む軽鎖ポリペプチドと、を含むか、それらから本質的になるか、又はそれらからなる。別の実施形態では、第2の抗体又は抗原結合断片(例えば、モノクローナル抗体又は断片)の重鎖ポリペプチドは、配列番号15の可変領域アミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなり、及び/又は第2のモノクローナル抗体の軽鎖ポリペプチドは、配列番号16の可変領域アミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなる。
【0048】
例示的な抗ClfA及び抗AT抗体の配列を以下に示す。特定の例では、本明細書で記載される抗体又はその抗原結合断片は、ClfA及び/又はATに結合し、以下の2つの表で列挙された抗体の6つのCDRを有する(即ち、第1の表で列挙された抗体の3つのVH CDR及び第2の表で列挙された同じ抗体の3つのVL CDR)。抗AT抗体MEDI4893は、国際公開第2012/109285号パンフレット及び同第2014/074540号パンフレット(その両方の全体が本明細書に参照により組み込まれる)にて既に記載された「LC10」の半減期延長(YTE)バージョンである。MEDI4893は、YTE変異を含有しない。
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
特定の例では、本明細書で記載される抗体又はその抗原結合断片は、ClfA及び/又はATに結合し、以下の表で列挙された抗体のVHを、例えばVLと組み合わせて、有する。
【0052】
【表4】
【0053】
特定の例では、本明細書で記載される抗体又はその抗原結合断片は、ClfA及び/又はATに結合し、以下の表で列挙された抗体のVLを、例えばVHと組み合わせて、任意選択的に前表で列挙された同じ抗体のVHを、有する。
【0054】
【表5】
【0055】
特定の例では、本明細書で記載される抗体又はその抗原結合断片は、ClfA及び/又はATに結合し、以下の表で列挙された抗体の重鎖を、例えば軽鎖と組み合わせて、有する。
【0056】
【表6】
【0057】
特定の例では、本明細書で記載される抗体又はその抗原結合断片は、ClfA及び/又はATに結合し、以下の表で列挙された抗体の軽鎖を、例えば重鎖と組み合わせて、任意選択的に前表で列挙された同じ抗体の重鎖を、有する。
【0058】
【表7】
【0059】
特定の態様では、抗体又はその抗原結合断片のCDRは、免疫グロブリン構造ループの位置を指す、Chothia付番スキームに従って決定することができる(例えば、Chothia C & Lesk AM,(1987),J Mol Biol 196:901-917;Al-Lazikani B et al.,(1997)J Mol Biol 273:927-948;Chothia C et al.,(1992)J Mol Biol 227:799-817;Tramontano A et al.,(1990)J Mol Biol 215(1):175-82;及び米国特許第7,709,226号明細書を参照されたい)。典型的には、Kabat付番規則を用いた場合、Chothia CDR-H1ループは重鎖アミノ酸26~32、33、又は34に存在し、Chothia CDR-H2ループは重鎖アミノ酸52~56に存在し、Chothia CDR-H3ループは重鎖アミノ酸95~102に存在するとともに、Chothia CDR-L1ループは軽鎖アミノ酸24~34に存在し、Chothia CDR-L2ループは軽鎖アミノ酸50~56に存在し、Chothia CDR-L3ループは軽鎖アミノ酸89~97に存在する。Kabat付番規則を用いて付番したときのChothia CDR-H1ループの末端は、ループの長さに応じてH32~H34で異なる(これは、Kabat付番スキームがH35A及びH35Bに挿入を置くためであり、35Aも35Bも存在しない場合、ループは32で終わり、35Aのみが存在する場合、ループは33で終わり、35A及び35Bの両方が存在する場合、ループは34で終わる)。
【0060】
特定の態様では、本明細書において、SAR114及び/又はMEDI4893抗体のChothiaVH及びVL CDRを有する抗体及びその抗原結合断片が提供される。特定の実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、Chothia及びKabat CDRが、同一のアミノ酸配列を含む、1つ以上のCDRを有する。特定の実施形態では、本明細書において、Kabat CDR及びChothia CDRの組み合わせを含む抗体及びその抗原結合断片が提供される。
【0061】
特定の態様では、抗体又はその抗原結合断片のCDRは、Lefranc M-P,(1999)The Immunologist 7:132-136 and Lefranc M-P et al.,(1999)Nucleic Acids Res 27:209-212で記載されているようにIMGT付番方式に従って決定することができる。IMGT付番スキームよれば、VH-CDR1は26~35位にあり、VH-CDR2は51~57位にあり、VH-CDR3は93~102位にあり、VL-CDR1は27~32位にあり、VL-CDR2は50~52位にあり、及びVL-CDR3は89~97位にある。特定の実施形態では、本明細書において、例えば、Lefranc M-P(1999) supra and Lefranc M-P et al.,(1999)supra)で記載されているように、SAR114及び/又はMEDI4893抗体のIMGT VH及びVL CDRを有する抗体及びその抗原結合断片が提供される。
【0062】
特定の態様では、抗体又はその抗原結合断片のCDRは、MacCallum RM et al.,(1996)J Mol Biol 262:732-745に従って決定され得る。例えば、Martin A.“Protein Sequence and Structure Analysis of Antibody Variable Domains,” in Antibody Engineering、Kontermann and Duebel,eds.,Chapter 31,pp.422-439,Springer-Verlag,Berlin(2001)もまた参照にされたい。特定の実施形態では、本明細書において、MacCallum RM et alにおける方法により決定されたSAR114及び/又はMEDI4893抗体のVH及びVL CDRを有する抗体又はその抗原結合断片が提供される。
【0063】
特定の態様では、抗体又はその抗原結合断片のCDRは、Kabat CDRとChothia構造ループとの妥協案に相当し、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェア(Oxford Molecular Group,Inc.)によって用いられているAbM超可変領域を指す、AbM付番スキームに従って決定することができる。特定の実施形態では、本明細書において、AbM付番スキームにより決定されたSAR114及び/又はMEDI4893抗体のVH及びVL CDRを有する抗体又は抗原結合断片が提供される。
【0064】
別の実施形態では、本明細書で記載される抗体又はその抗原結合断片(例えば、モノクローナル抗体又は断片)は、エフェクタ機能(例えば、オプソニン食作用細菌傷害(OPK))又は組成物中に存在する第1及び/若しくは第2の抗体若しくは抗原結合断片(例えば、モノクローナル抗体又は断片)の半減期を改善するために改変された任意の好適なクラス(IgG、IgA、IgD、IgM、及びIgE)の定常領域(Fc)を有してもよい。例えば、本明細書で記載される抗体又はその抗原結合断片(例えば、モノクローナル抗体又は断片)は、変異がない同じ抗体と比較して半減期を延長する変異を含み、変異が、同じ抗体又は抗原結合断片変異と比較してOPK活性を阻害しないFcを有してもよい。Fc領域遺伝子操作は、治療用抗体の半減期を延長し、in vivoでの分解から防御するために当該技術分野で広く使用されている。いくつかの実施形態では、IgG抗体又は抗原結合断片のFc領域は、IgG異化作用を媒介し、IgG分子を分解から防御する胎児性Fc受容体(FcRn)に対するIgG分子の親和性を高めるために改変することができる。本明細書で記載される抗体又は抗原結合断片(例えば、モノクローナル抗体又は断片)のいずれかのFc領域は、FcRnに対するIgG分子の親和性を高めることなどによって、抗体半減期又はエフェクタ機能を改善又は延長させる1つ以上のアミノ酸置換又は改変を含んでもよい。好適なFc領域アミノ酸置換又は改変は、当該技術分野において既知であり、例えば、三重置換M252Y/S254T/T256Eが挙げられる(「YTE」と呼ばれる)(例えば、米国特許第7,658,921号明細書;米国特許出願公開第2014/0302058号明細書;及びYu et al.,Antimicrob.Agents Chemother.,61(1):e01020-16(2017)を参照されたい)。別の実施形態では、Fc領域は、C2中でYTE変異且つ432及び437位にシステイン残基を含む、高親和性FcRn結合FcバリアントN3E-YTEから誘導されてもよい(例えば、Borrok et al.,J.Biol.Chem.,290(7):4282-4290(2015)を参照されたい)。例えば、N3E-YTEバリアントは、YTE変異を欠いていてもよい(「N3E」と呼ばれる)か、又はFc残基432(Kabat付番使用)で、例えば、配列CSWHLC(「N3」;配列番号19と呼ばれる)、CSFHLC(「N3F」;配列番号20と呼ばれる)、若しくはCSYHLC(「N3Y」;配列番号21と呼ばれる)と置換されていてもよい。特に、N3、N3F、及びN3Y Fcバリアントは、YTEバリアントと比較して、高められた薬物動態(PK)特性(例えば、血清持続性)及びエフェクタ機能(例えば、オプソニン食作用細菌傷害(OPK))を示す。
【0065】
例示的なFcバリアントの配列は、以下で提供される。
【0066】
【表8】
【0067】
本開示は、ClfAに結合し(例えば、CDR、VH及び/若しくはVL、重及び/若しくは軽、又は上記表で列挙されたFcバリアント配列を有する抗体及び抗原結合断片)、フィブリノーゲン結合阻害アッセイにおけるClfA001、ClfA002、及びClfA004のIC50が、互いに2μg/ml以内である、抗体及びその抗原結合断片を提供する。例えば、ClfA001、ClfA002、及びClfA004の抗体又はその抗原結合断片のIC50は、全て1μg/ml~5μg/mlであり得る。ClfA001、ClfA002、及びClfA004の抗体又はその抗原結合断片の結合親和性(K)は、全て200~350pMであり得る。
【0068】
本開示は、ClfAに結合し(例えば、CDR、VH及び/若しくはVL、重及び/若しくは軽、又は上記表で列挙されたFcバリアント配列を有する抗体及び抗原結合断片)、従来の白色光に2kLux/時で23℃にて14日間曝露した後、5%以下の低下をするモノマー純度を有する、抗体及びその抗原結合断片を提供する。
【0069】
本開示は、限定はされないが、上記で記載されたClfA結合抗体又は抗原結合断片、及びAT結合抗体又は抗原結合断片の両方を含む組成物である。実際に、本開示はまた、(a)配列番号1のCDR1アミノ酸配列、配列番号2のCDR2アミノ酸配列、及び配列番号3のCDR3アミノ酸配列を含む重鎖ポリペプチドと、(b)配列番号4のCDR1アミノ酸配列、配列番号5のCDR2アミノ酸配列、及び配列番号6のCDR3アミノ酸配列を含む軽鎖ポリペプチドと、
を含む抗体又はその抗原結合断片(例えば、モノクローナル抗体又は断片)を別々に提供する。
【0070】
本開示は、また、ClfA及びATの両方に(例えば、同時に)結合する二重特異性抗体又は抗原結合断片を提供する。用語「二重特異性(bispecific)モノクローナル抗体」(「二重特異性(dual-specific)」モノクローナル抗体とも呼ばれる)は、2つの異なる抗原認識ドメインを含み、そのため、同時に2つの異なるエピトープに結合し得るモノクローナル抗体を指す。3つ以上の異なるエピトープを認識して結合するモノクローナル抗体は、当該技術分野では、「多重特異性モノクローナル抗体」と呼ばれる。第1の二重特異性抗体は、2つの抗体分泌細胞の体細胞ハイブリダイゼーションによって産生されたが、親重鎖及び軽鎖がランダムに集合するため、収量が低くなった(Milstein,C.and A.C.Cuello,Immunol.Today,5:299-304(1984))。一本鎖可変断片(scFv)の発見及び抗体工学の進歩により、二重特異性抗体を開発するための新しい方法論がもたらされた(Orcutt et al.,Protein Eng.Des.Sel.,23:221-228(2010);及びColoma,M.J.and S.L.Morrison,Nat.Biotechnol.,15:159-163(1997))。現在、IgGスキャホールド上でscFv番号及び融合位置に基づいて少なくとも50の異なる二重特異性抗体フォーマットが存在する(Kontermann,R.E.,MAbs,4:182-197(2012))。二重特異性及び多重特異性抗体は、いくつかの異なる構造フォーマットで製造することができ、限定されないが、タンデムscFv、ダイアボディ、タンデムダイアボディ、二重可変ドメイン抗体、及びCH1/Ckドメイン又はDock and Lockモチーフなどのモチーフを使用したヘテロ二量体化が挙げられる(例えば、Chames,P.and D.Baty,Curr.Opin.Drug.Discov.Devel.,12:276-283(2009)を参照されたい)。一実施形態では、本開示は、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)ClfAタンパク質及びスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)αトキシン(AT)タンパク質に特異的に結合する抗体(即ち、二重特異性抗体)又はその抗原結合断片(例えば、モノクローナル抗体又は断片)であって、以下:(a)配列番号1のCDR1アミノ酸配列、配列番号2のCDR2アミノ酸配列、及び配列番号3のCDR3アミノ酸配列を含む第1の重鎖ポリペプチドと、(b)配列番号4のCDR1アミノ酸配列、配列番号5のCDR2アミノ酸配列、及び配列番号6のCDR3アミノ酸配列を含む第1の軽鎖ポリペプチドと、(c)配列番号7のCDR1アミノ酸配列、配列番号8のCDR2アミノ酸配列、及び配列番号9のCDR3アミノ酸配列を含む第2の重鎖ポリペプチドと、(d)配列番号10のCDR1アミノ酸配列、配列番号11のCDR2アミノ酸配列、及び配列番号12のCDR3アミノ酸配列を含む第2の軽鎖ポリペプチドと、
を含むものを提供する。別の実施形態では、上述の二重特異性抗体又はその抗原結合断片(例えば、モノクローナル抗体又は断片)の第1の重鎖ポリペプチド及び第1の軽鎖ポリペプチドは、それぞれ、配列番号13及び配列番号14の可変領域アミノ酸配列を含み、上述の二重特異性抗体又はその抗原結合断片(例えば、モノクローナル抗体又は断片)の第2の重鎖ポリペプチド及び第2の軽鎖ポリペプチドは、それぞれ、配列番号15及び配列番号16の可変領域アミノ酸配列を含む。このような二重特異性(任意選択的にモノクローナル)抗体(SAR114及びMEDI4893又はMEDI4893配列を含む抗体)は、例えば、SAR114のClfAとの強力な結合の結果として、MEDI4893又はMEDI4893のAT-中和活性と比較して、AT-中和活性が低下し得る。これは、MEDI4893又はMEDI4893のAT-中和活性と比較して、AT-中和活性が有意に減少していない、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)ClfA及びATタンパク質に結合する他の二重特異性(任意選択的にモノクローナル)抗体(例えば、11H10及びMEDI4893又はMEDI4893配列を含む抗体)とは対照的である。二重特異性又は多重特異性(任意選択的にモノクローナル)抗体の産生方法は、当該技術分野で既知であり、例えば、Holliger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90(14):6444-6448(1993);Brinkmann,U.and R.E.Kontermann、MAbs,9(2):182-212(2017);及びSegal,D.M.and Bast,B.J.2001.Production of Bispecific Antibodies.Current Protocols in Immunology.14:IV:2.13:2.13.1-2.13.16)に記載されている。
【0071】
本明細書で記載される抗体又は抗原結合断片(例えば、モノクローナル抗体又は断片)は、ヒト抗体、ヒト化抗体、非ヒト抗体、又はキメラ抗体であり得るか、又はそれらから得られ得る。「キメラ」抗体は、ヒト及び非ヒト領域の両方を含む抗体又はその断片を指す。「ヒト化」抗体は、ヒト抗体スキャホールドと、非ヒト抗体から得られる又は誘導される少なくとも1つのCDRを含む抗体である。非ヒト抗体は、例えば、げっ歯類(例えば、マウス又はラット)などの任意の非ヒト動物から単離される抗体を含む。ヒト化抗体は、非ヒト抗体から得られる又は誘導される1つ、2つ、又は3つのCDRを含み得る。完全ヒト抗体は、非ヒト動物から得られる又は誘導されるいかなるアミノ酸残基も含有しない。完全ヒト抗体及びヒト化抗体は、マウスやキメラ抗体よりもヒトに免疫反応を誘発するリスクが低いと理解されよう(例えば、Harding et al.,mAbs,2(3):256-26(2010)を参照されたい)。一実施形態では、本明細書で記載される抗体又はその抗原結合断片は、完全ヒト抗体である。
【0072】
ヒト抗体、非ヒト抗体、キメラ抗体、又はヒト化抗体は、in vitroでの供給源(例えば、ハイブリドーマ又は組換え的に抗体を産生する細胞株)及びin vivoで供給源(例えば、げっ歯類、ヒト扁桃腺)を含む任意の手段で入手することができる。抗体産生方法は、当該技術分野において既知であり、例えば、Koehler and Milstein,Eur.J.Immunol.,5:511-519(1976);Harlow and Lane(eds.),Antibodies:A Laboratory Manual,CSH Press(1988);及びJaneway et al.(eds.),Immunobiology,5th Ed.,Garland Publishing,New York,N.Y.(2001))に記載されている。特定の実施形態では、ヒト抗体又はキメラ抗体は、1つ以上の内因性免疫グロブリン遺伝子が1つ以上のヒト免疫グロブリン遺伝子に置換されているトランスジェニック動物(例えば、マウス)を用いて産生することができる。内因性抗体遺伝子が、効果的にヒト抗体遺伝子に置き換えられているトランスジェニックマウスの例としては、限定されるものではないが、Medarex HUMAB-MOUSE(商標)、Kirin TC MOUSE(商標)、及びKyowa Kirin KM-MOUSE(商標)が挙げられる(例えば、Lonberg,Nat.Biotechnol.,23(9):1117-25(2005),and Lonberg,Handb.Exp.Pharmacol.,181:69-97(2008)を参照されたい)。ヒト化抗体は、任意の好適な当該技術分野において既知の方法を用いて産生することができ(例えば、An,Z.(ed.),Therapeutic Monoclonal Antibodies:From Bench to Clinic,John Wiley & Sons,Inc.,Hoboken,N.J.(2009)を参照されたい)、例えば、非ヒトCDRのヒト抗体スキャホールドへの移植(例えば、Kashmiri et al.,Methods,36(1):25-34(2005);及びHou et al.,J.Biochem.,144(1):115-120(2008)を参照されたい)が挙げられる。一実施形態では、ヒト化抗体は、例えば、米国特許出願公開第2011/0287485A1号明細書に記載される方法を用いて産生することができる。
【0073】
本開示は、また、本明細書で記載されるようなClfA結合抗体、AT結合抗体、若しくはClfA及びATの両方に結合する抗体、又はその抗原結合断片(任意選択的に、ここで抗体又は断片はモノクローナルである)をコードする、1つ以上の単離された核酸配列を提供する。用語「核酸配列」は、DNA又はRNAのポリマー、即ち、ポリヌクレオチドを包含することが意図され、これは、一本鎖又は二本鎖であり得、非天然又は改変されたヌクレオチドを含み得る。用語「核酸」及び「ポリヌクレオチド」は、本発明で使用する場合、リボヌクレオチド(RNA)又はデオキシリボヌクレオチド(DNA)のいずれかの任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態を指す。これらの用語は、分子の一次構造を指し、したがって、二本鎖及び一本鎖DNA、並びに二本鎖及び一本鎖RNAが含まれる。この用語は、同等物として、ヌクレオチド類似体及び修飾されたポリヌクレオチド、例えば、限定されないが、メチル化及び/又はキャップされたポリヌクレオチドから作製されたRNA又はDNAのいずれかの類似体を含む。核酸は、典型的には、リン酸結合を介して連結されて、核酸配列又はポリヌクレオチドを形成するが、他の多くの連結が当該技術分野で知られている(例えば、ホスホロチオエート、ボラノホスフェートなど)。
【0074】
本開示は、更に、本明細書で記載されるようなClfA結合抗体、AT結合抗体、若しくはClfA及びATの両方に結合する抗体、又はそれらの抗原結合断片(任意選択的に、ここで抗体又は断片はモノクローナルである)をコードする、1つ以上の核酸配列を含む1つ以上のベクターを提供する。ベクターは、例えば、プラスミド、エピソーム、コスミド、ウイルスベクター(例えば、レトロウイルス又はアデノウイルス)、又はファージであり得る。好適なベクター及びベクター調製方法は、当該技術分野において周知である(例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning,a Laboratory Manual,3rd edition,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(2001)及びAusubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Associates and John Wiley & Sons,New York,N.Y.(1994)を参照のこと)。
【0075】
本明細書で記載されるClfA結合抗体若しくは抗原結合断片、AT結合抗体若しくは抗原結合断片、又はClfA及びATの両方に結合する抗体若しくは抗原結合断片(任意選択的に、ここで抗体又は断片はモノクローナルである)をコードする核酸配列に加えて、ベクターは、望ましくは、宿主細胞におけるコード配列の発現を提供する、プロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、転写ターミネーター、内部リボソーム侵入部位(IRES)などの発現制御配列を含む。例示的な発現制御配列は、当該技術分野において既知であり、例えば、Goeddel,Gene Expression Technology:Methods in Enzymology,Vol.185,Academic Press,San Diego,Calif.(1990)に記載されている。
【0076】
本明細書で記載される抗体又は抗原結合断片のアミノ酸配列(例えば、ClfA結合抗体の重鎖及び/又は軽鎖をコードするアミノ酸配列)をコードする核酸を含むベクター(任意選択的に、モノクローナル抗体又は断片)は、任意の好適な原核細胞又は真核細胞を含む、それによってコードされるポリペプチドを発現することができる宿主細胞に導入することができる。そのようなものであるから、本開示は、ベクターを含む単離された細胞を提供する。使用してもよい宿主細胞としては、容易且つ確実に増殖でき、適度に速い増殖速度を有し、十分に特徴付けられた発現系を有し、容易且つ効率的に形質転換又はトランスフェクトすることができるものが挙げられる。好適な原核細胞の例としては、限定されるものではないが、バチルス(Bacillus)属(バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)及びバチルス・ブレビス(Bacillus brevis)など)、エスケリキア(Escherichia)属(E.コリ(E.coli)など)、シュードモナス(Pseudomonas)属、ストレプトミセス(Streptomyces)属、サルモネラ(Salmonella)属、及びエルウィニア(Erwinia)属が挙げられる。特に有用な原核細胞としては、エスケリキア・コリ(Escherichia coli)(例えば、K12、HB101(ATCC No.33694)、DH5a、DH10、MC1061(ATCC No.53338)、及びCC102)の様々な菌株が挙げられる。好適な真核細胞は、当該技術分野において既知であり、例えば、酵母細胞、昆虫細胞、及び哺乳類細胞が挙げられる。一実施形態では、ベクターは哺乳類細胞で発現する。多数の好適な哺乳類宿主細胞が、当該技術分野において既知であり、多くは、米国培養細胞系統保存機関(ATCC,Manassas,VA)から入手可能である。好適な哺乳類細胞の例としては、限定されるわけではないが、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)(ATCC No.CCL61)、CHO DHFR-細胞(Urlaub et al,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,97:4216-4220(1980))、ヒト胎児腎臓(HEK)293又は293T細胞(ATCC No.CRL1573)、及び3T3細胞(ATCC No.CCL92)が挙げられる。他の好適な哺乳類細胞株は、サルCOS-1(ATCC No.CRL1650)及びCOS-7細胞株(ATCC No.CRL1651)、並びにCV-1細胞株(ATCC No.CCL70)である。哺乳類細胞は、望ましくは、ヒト細胞である。例えば、哺乳類細胞は、ヒトリンパ球又はリンパ球誘導細胞株、例えばプレBリンパ球系統(pre-B lymphocyte origin)の細胞株、PER.C6(登録商標)細胞株(Crucell Holland B.V.,The Netherlands)、又はヒト胎児腎臓(HEK)293若しくは293T細胞(ATCC No.CRL1573)であり得る。
【0077】
本明細書で記載される抗体又は抗原結合断片(任意選択的に、モノクローナル抗体又は断片)のいずれかのアミノ酸をコードする核酸配列は、細胞に「トランスフェクション」、「形質転換」、又は「形質導入」によって導入してもよい。「トランスフェクション」、「形質転換」、又は「形質導入」は、本発明で使用する場合、物理的又は化学的方法を使用することによる、宿主細胞への1つ以上の外因性ポリヌクレオチドの導入を指す。多くのトランスフェクション技術が、当該技術分野において既知であり、例えば、リン酸カルシウムDNA共沈が挙げられる(例えば、Murray E.J.(ed.),Methods in Molecular Biology,Vol.7,Gene Transfer and Expression Protocols,Humana Press(1991));DEAE-dextran;electroporation;cationic liposome-mediated transfection;tungsten particle-facilitated microparticle bombardment(Johnston,Nature,346:776-777 (1990));及びstrontium phosphate DNA co-precipitation (Brash et al,Mol.Cell Biol.,7:2031-2034(1987)を参照されたい)。ファージ又はウイルスベクターは、その多くが市販されている、好適なパッケージング細胞で感染性粒子を増殖させた後、宿主細胞に導入することができる。
【0078】
本開示は、本明細書で記載される抗体又はその抗原結合断片のいずれか1つ又は組み合わせの有効量と、薬学的に許容される担体と、を含む組成物を提供する。一実施形態では、例えば、組成物は、上記のようなS.アウレウス(S.aureus)ClfAタンパク質に特異的に結合する第1の抗体若しくはその抗原結合断片(任意選択的にはモノクローナル)、及び上記のようなS.アウレウス(S.aureus)ATタンパク質に特異的に結合する第2の抗体若しくはその抗原結合断片(任意選択的にはモノクローナル)と、薬学的に許容される担体と、を含み得る。或いは、組成物は、S.アウレウス(S.aureus)ClfAタンパク質に特異的に結合する抗体若しくはその抗原結合断片、又はS.アウレウス(S.aureus)ATタンパク質に特異的に結合する抗体若しくはその抗原結合断片のいずれかと、薬学的に許容される担体と、を含み得る。更に別の実施形態では、組成物は、ClfA結合抗体若しくは抗原結合断片、AT結合抗体若しくは抗原結合断片、及び/若しくは抗ClfA/AT二重特異性抗体若しくは抗原結合断片をコードする核酸配列、又はこのような核酸配列を含む1つ以上のベクターを含んでもよい。一実施形態では、組成物は、薬学的に許容される(例えば、生理学的に許容される)組成物であり、これは、薬学的に許容される(例えば、生理学的に許容される)担体などの担体、及びClfA結合抗体若しくは抗原結合断片、AT結合抗体若しくは抗原結合断片、抗ClfA/AT二重特異性抗体若しくは抗原結合断片、核酸配列、又はベクターを含む。任意の好適な担体は、本開示の文脈の範囲内で使用することができ、このような担体は当該技術分野において周知である。担体の選択は、部分的には、組成物を投与することができる特定の部位及び組成物を投与するために使用される特定の方法によって決定されるであろう。組成物は、任意選択的に、無菌であり得る。組成物は、保存のために冷凍又は凍結乾燥することができ、使用前に好適な無菌担体で再構成できる。組成物は、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,21st Edition,Lippincott Williams & Wilkins,Philadelphia,PA(2001)で記載される従来の技術に従って、生成することができる。
【0079】
組成物は、望ましくは、ClfA結合抗体及び/若しくはAT結合抗体、及び/若しくは抗ClfA/AT二重特異性抗体、又はそれらの抗原結合断片(例えば、モノクローナル抗体又は断片)を、S.アウレウス(S.aureus)感染症の治療又は予防に有効な量で含む。したがって、本開示は、対象(例えば、ヒト)のスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(S.アウレウス(S.aureus))感染症を治療又は予防する方法であって、それを必要とする対象に本明細書で記載される抗体又はその抗原結合断片(例えば、モノクローナル抗体又は断片)のいずれか1つ又は組み合わせを含む組成物を投与し、その結果S.アウレウス(S.aureus)感染症が対象で治療又は予防されることを含む方法を提供する。本開示は、また、S.アウレウス(S.aureus)感染症を治療又は予防するための医薬の製造における、本明細書で記載されるClfA結合抗体若しくは抗原結合断片、AT結合抗体若しくは抗原結合断片、及び/若しくは抗ClfA/AT二重特異性抗体若しくは抗原結合断片、又は本明細書で記載される抗体若しくはその断片のいずれか1つ又は組み合わせを含む組成物の使用を提供する。本明細書にて言及されるように、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)は、広範囲の臨床感染症を引き起こす主要なヒト病原体である。S.アウレウス(S.aureus)は、菌血症及び感染性心内膜炎、並びに骨関節、皮膚及び軟組織、胸膜肺芽腫、及びデバイス関連感染症の主な原因である。およそ30%のヒト個体群は、S.アウレウス(S.aureus)でコロニー形成されている(Wertheim et al.,Lancet Infect.Dis.,5:751-762 (2005))。S.アウレウス(S.aureus)皮膚感染症の症状としては、例えば、腫脹、蜂窩織炎(cellulits)、及び膿痂疹が挙げられる。S.アウレウス(S.aureus)は、また、食中毒、菌血症(バクテリア血症としても知られている)、毒素性ショック症候群、及び敗血症性関節炎を引き起こすことがある。S.アウレウス(S.aureus)感染症の疫学、病態生理学、及び臨床症状は、例えば、Tong et al.,Clin.Microbiol.Rev.,28(3):603-661(2015)で詳細に記載されており、いくつかの異なるS.アウレウス(S.aureus)株のゲノムは、配列決定されている(例えば、GenBank/EMBL受け入れ番号BX571856、BX571857、BX571858、FN433596、FN433597、FN433598、HE681097、FR821777、FR821778、FR821779、及びFR821780)。本明細書にて議論されるように、対象(例えば、ヒト対象)は、糖尿病を有し得る。
【0080】
本発明で使用する場合、用語「治療」、「治療すること」などは、所望の薬理学的及び/又は生理学的効果を得ることを指す。一実施形態では、効果は治療的である、即ち、効果は、疾患及び/又は疾患に起因する有害な症状を部分的又は完全に治癒する。この目的のため、本開示の方法は、「治療有効量」のClfA結合抗体、AT結合抗体、及び/若しくは抗ClfA/AT二重特異性抗体、若しくはそれらの抗原結合断片、又は上述の抗体若しくは断片(モノクローナル抗体又は断片を含む)のいずれか1つ若しくは組み合わせを含む組成物を投与することを含む。「治療有効量」は、所望の治療結果を達成するために、必要な投与量及び期間で有効な量を指す。治療有効量は、個体の病状、年齢、性別、及び体重、並びに個体において所望の応答を誘発する抗体又は抗原結合断片の能力などの要因によって異なり得る。例えば、治療有効量のClfA結合抗体若しくはその抗原結合断片、AT結合抗体若しくはその抗原結合断片、又はClfA/AT二重特異性抗体若しくはその抗原結合断片は、ヒトにおいて、S.アウレウス(S.aureus)-関連敗血症を阻害するか、S.アウレウス(S.aureus)凝集を阻害するか、血栓塞栓性病変形成を阻害するか、αトキシンを中和するか、オプソニン化貪食作用を誘発するか、S.アウレウス(S.aureus)フィブリノーゲン結合を阻害するか、S.アウレウス(S.aureus)凝集を阻害するか、又は前述のものの任意の組み合わせである量である。
【0081】
或いは、薬理学的及び/又は生理学的効果は予防的であり得る、すなわち、その効果は、疾患又はその症状を完全に又は部分的に予防する。この点において、本開示の方法は、「予防有効量」のClfA結合抗体、AT結合抗体、及び/若しくは抗ClfA/AT二重特異性抗体、又はそれらの抗原結合断片(モノクローナル抗体又は断片を含む)を投与することを含む。「予防有効量」は、所望の予防結果(例えば、S.アウレウス(S.aureus)感染症又は発病の予防)を達成するために、必要な投与量及び期間で有効な量を指す。
【0082】
治療的又は予防的有効性は、治療された患者の中期的な評価によって監視することができる。病態に応じて、数日以上の反復投与の場合、疾患症状の所望の抑制が起こるまで治療が繰り返され得る。しかし、他の投与レジメンが有用である可能性があり、本開示の範囲内である。所望の投与量は、組成物の単回ボーラス投与、組成物の複数回ボーラス投与、又は組成物の持続注入投与によって送達させることができる。
【0083】
S.アウレウス(S.aureus)感染症の治療又は予防方法は、本明細書で記載されるClfA結合抗体、本明細書で記載されるAT結合抗体、本明細書で記載されるClfA結合及びAT結合抗体の両方、若しくは本明細書で記載されるClfA-AT二重特異性抗体、又はそれらの抗原結合断片を投与することを含み得る。ClfA結合及びAT結合抗体又は断片(例えば、モノクローナル抗体又は断片)の両方が対象に投与される実施形態では、各抗体又は断片は、同じ組成物又は別々の組成物中に存在し得る。別々の組成物が対象に投与される場合、組成物の各々は、同時に又は任意の順序で逐次的に投与され得る。
【0084】
本明細書で記載される抗体若しくはその抗原結合断片、前述のもののいずれかをコードする核酸配列、又は核酸配列を含むベクターのいずれか1つ又は組み合わせの有効量を含む組成物は、静脈内、腹腔内、皮下、及び筋肉内の投与経路を含む標準的な投与技術を用いて、ヒトなどの対象に投与され得る。組成物は、非経口的投与に好適であり得る。用語「非経口の」は、本発明で使用する場合、静脈内、筋肉内、皮下、及び腹腔内投与を含む。いくつかの実施形態では、組成物は、静脈内、腹腔内、又は皮下注射による末梢全身送達を使用して、対象に投与される。
【0085】
ClfA結合抗体若しくは抗原結合断片、AT結合抗体若しくは抗原結合断片、及び/若しくは抗ClfA/AT二重特異性抗体若しくは抗原結合断片、又は同じものを含む組成物は、単独又はS.アウレウス(S.aureus)感染症の治療に従来使用される他の薬剤(例えば、アジュバントとして)と組み合わせて投与され得る。ClfA結合抗体若しくは抗原結合断片、AT結合抗体若しくは抗原結合断片、又はClfA-AT二重特異性抗体若しくは抗原結合断片を含む組成物は、例えば、ペニシリナーゼ耐性β-ラクタム抗生物質(例えば、オキサシリン又はフルクロキサシリン)などの1つ以上の抗生物質と組み合わせて使用され得る。ゲンタマイシンを使用して、心内膜炎などの深刻な感染症を治療してもよい。しかしながら、S.アウレウス(S.aureus)のほとんどの菌株は、現在ペニシリンに耐性があり、100人に2人がS.アウレウス(S.aureus)のメチシリン耐性菌(MRSA)を保有している。MRSA感染症は、典型的には、バンコマイシンで治療され、軽度の皮膚感染症は3剤の抗生物質軟膏で治療され得る。
【0086】
治療上の使用に加えて、本明細書で記載される抗体のいずれか1つ又は組み合わせは、診断又は研究用途で使用することができる。この点において、ClfA結合抗体若しくは抗原結合断片、AT結合抗体若しくは抗原結合断片、又はClfA-AT二重特異性抗体若しくは抗原結合断片は、対象のS.アウレウス(S.aureus)感染症を監視するためのアッセイで使用され得る。研究用途としては、例えば、ClfA結合抗体若しくは抗原結合断片、AT結合抗体若しくは抗原結合断片、又はClfA-AT二重特異性抗体若しくは抗原結合断片及び標識を利用して例えば、ヒト体液中又は細胞若しくは組織抽出物中の試料のS.アウレウス(S.aureus)を検出する方法が挙げられる。ClfA結合抗体若しくは抗原結合断片、AT結合抗体若しくは抗原結合断片、又はClfA-AT二重特異性抗体若しくは抗原結合断片は、検出可能な成分による共有結合又は非共有結合の標識など、修飾の有無にかかわらず使用され得る。例えば、検出可能な成分は、放射性同位体(例えば、H、14C、32P、35S、又は125I)、蛍光又は化学発光化合物(例えば、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、又はルシフェリン)、酵素(例えば、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、又はセイヨウワサビペルオキシダーゼ)、又は補欠分子族であり得る。抗体又はその抗原結合断片を検出可能な部分に別々に結合させるための当該技術分野で既知の任意の方法を、本開示の文脈において用いてもよい(例えば、Hunter et al.,Nature,194:495-496(1962);David et al.,Biochemistry,13:1014-1021(1974);Pain et al.,J.Immunol.Meth.,40:219-230(1981);及びNygren,J.,Histochem.And Cytochem.,30:407-412(1982)を参照されたい)。
【0087】
本明細書で記載される抗体若しくはその抗原結合断片(例えば、モノクローナル抗体又は断片)、前述のもののいずれかをコードする核酸配列、その核酸配列を含むベクターのいずれか1つ若しくは組み合わせ、又は前述のもののいずれかを含む組成物は、キット、即ち、診断アッセイを実施するための説明書を含む所定量の試薬のパッケージ化された組み合わせで提供され得る。ClfA結合抗体若しくは抗原結合断片、AT結合抗体若しくは抗原結合断片、又はClfA-AT二重特異性抗体若しくは抗原結合断片を酵素で標識する場合、キットには、酵素に必要な基質と補因子が含まれていることが望ましい(例えば、検出可能な発色団又はフルオロフォアを提供する基質前駆体)。加えて、安定剤、バッファ(例えば、ブロッキングバッファ又は細胞溶解バッファ)などのその他の添加剤がキットに含まれてもよい。様々な試薬の相対量を変化させて、アッセイの感度を実質的に最適化する試薬の溶液中の濃度を提供することができる。試薬は、乾燥粉末(典型的には、凍結乾燥した)として提供されてもよく、溶解すると適切な濃度の試薬溶液を提供する賦形剤を含む。
【0088】
以下の実施例は、本発明を更に説明するが、もちろん、その範囲を制限するものとして解釈されるべきではない。
【実施例
【0089】
[実施例1]
本実施例は、S.アウレウス(S.aureus)ClfAタンパク質に特異的に結合するモノクローナル抗体の選択及び特性を示す。
【0090】
S.アウレウス(S.aureus)致死性菌血症モデルの個々のmAbに対して、抗ClfA mAb(「11H10」と呼ばれる)と組み合わせた抗S.アウレウス(S.aureus)αトキシン(AT)モノクローナル抗体(mAb)(「LC10」として国際公開第2012/109285号パンフレット及び同第2014/074540号パンフレットに記載されている「MEDI4893」と称される)による予防によって得られる強化された防御能力及び分離株適用範囲が、既に報告されている(Tkaczyk et al.,MBio.,7(3).pii:e00528-16(2016))。(YTE変異は、ヒトのIgG半減期を増加させるが、マウスの血清曝露を減少させるため、MEDI4893には存在しないYTE変異を含有するMEDI4893は、マウスでは使用されなかったことに注意する。)11H10は、強力な抗ClfA活性を示したが、図1A及び表1に示すように、他のClfA始祖配列ClfA001及びClfA004と比較して、フィブリノーゲン結合阻害アッセイで、1000倍超の親和性の低下(Konは検出限界を下回り、表1のNDである)及びClfA始祖配列ClfA002のIC50の約40倍の増加を示した。ClfA002は、主要なS.アウレウス(S.aureus)院内感染MRSA(HA-MRSA;USA100又は配列型5(ST5))により発現される(Sharma-Kuinkel et al.,J.Clin.Microbiol.,53:227-236(2015);及びMendes et al.,J.Clin.Microbiol.,50:3694-3702(2012))。
【0091】
【表9】
【0092】
潜在的な臨床分離株適用範囲を拡大するために、ヒト扁桃腺B細胞ライブラリーをスクリーニングして、より広範囲に反応する抗ClfAmAbを検索した。具体的には、メモリーB細胞を、フィコエリトリン(PE)-Cy7標識CD19マイクロビーズ(BD Biosciences,San Jose,CA)を使用して扁桃腺から分離された凍結保存リンパ球から単離し、続いて、抗PEビーズ(Miltenyi Biotec,Inc.,San Diego,CA)で染色し、FACSAria(BD Biosciences,San Jose,CA)でのセルソーティングによりIgM、IgD、及びIgAを運ぶ細胞を枯渇させた。細胞は、Traggiai et al.,Nat.Med.,10:871-875(2004)に記載のようにエプスタインバーウイルス(EBV)を用いてクローン条件下で細胞を不死化させた。2週間後、培養上清を、384ウェルベースのELISAアッセイを使用して、ClfA001特異的モノクローナル抗体の存在についてスクリーニングした。要約すると、抗ClfAmAbの段階希釈(1:2又は1:600)を、ClfAコーティングプレートに加え、続いてビオチン化11H10を加えた(1:600)。競合パーセントは、100(ODmAb+11H10biot)/(OD11H10biot))として計算した。陽性培養物を完全RPMI培地で増殖させ、ClfA遺伝子型001、002、及び004に高い親和性で結合する能力について選択した。VH及びVL配列は、RT-PCRにより検索された。
【0093】
この試みから、ClfA001、002、及び004について高い親和性(KD=1.15~44.7pM、表1)、及び図1Bに示されるとおりの3つの主要な始祖ClfA遺伝子型によるフィブリノーゲン結合の強力な阻害(IC50約20μM)を示すモノクローナル抗体を同定した(「SAR114」と呼ばれる)。SAR114は、また、図3A~3Fに示されるとおり、いくつかのS.アウレウス(S.aureus)臨床分離株に対するオプソニン食作用傷害(OPK)活性を示し(例えば、Tkaczyk et al.,supra for methods of measuring OPK killingを参照されたい)、以下の図2図4、及び表2に示すように、11H10と比較してヒト血漿における細菌凝集の阻害を改善した。ヒト血漿における凝集阻害は、112個のS.アウレウス(S.aureus)臨床分離株をトリプシン大豆ブロス(TSB)で一晩培養し、PBSで洗浄し、氷冷PBSで元の容量の10分の1に懸濁することによって測定した。抗ClfAモノクローナル抗体を200μg/mlから開始して30μlのPBSで段階希釈(2倍)し、96ウェルU底プレート(ThermoFisher Scientific,Waltham,MA)で30μlのクエン酸ヒト血漿と混合した。細菌を加え(30μl)、37℃で5分間インキュベートした。各ウェルを目視評価し、細菌が凝集した最低のモノクローナル抗体濃度を記録した。R347、ヒト抗gp120モノクローナル抗体を、アイソタイプ対照ヒトIgG1(c-IgG)として利用した。ヒト陰性対照モノクローナル抗体(c-IgG)は、200μg/mlまでいかなる阻害効果も示さなかった。
【0094】
【表10】
【0095】
SAR114抗体の重鎖ポリペプチドは、配列番号1のCDR1アミノ酸配列、配列番号2のCDR2アミノ酸配列、及び配列番号3のCDR3アミノ酸配列とともに、配列番号13の可変領域アミノ酸配列を含むように決定された。SAR114抗体の軽鎖ポリペプチドは、配列番号4のCDR1アミノ酸配列、配列番号5のCDR2アミノ酸配列、及び配列番号6のCDR3アミノ酸配列とともに、配列番号14の可変領域アミノ酸配列を含むように決定された。11H10及びSAR114は、図5A及び5Bにて示すように、ELISA及びOctet系競合アッセイにより、ClfA001への結合をめぐって競合することが判明した。要約すると、PBSで5μg/mlに希釈したmAbを、アミノプロピルシラン(APS)バイオセンサで7分間捕捉した。コーティングされたバイオセンサをブロッキングバッファ(PBS,1mg/ml BSA(Sigma Aldrich,St.Louis,MO))含有ウェルに6分間移し、遊離センサ結合部位をブロックし、ブロッキングバッファで希釈した2.5μg/mlのClfA001とともに7分間インキュベートし、最後にブロッキングバッファで5μg/mlに希釈した競合mAbを含むウェルに移した。OCTET(登録商標)データ取得及び解析ソフトウェア(Pall ForteBio LLC,Fremont,CA)を使用して、データを解析した。競合するmAbの会合がない場合、競合がもたらされ、そのため、同じ抗原部位が認識される一方で、第2のmAbの会合が検出された場合は非競合が観察された。
【0096】
本実施例の結果は、抗ClfAモノクローナル抗体11H10及びSAR114が、ClfA001上の重複するエピトープに結合することを示し、これは、ClfA002に対する活性の違いが異なる結合親和性に起因する可能性があることを示唆する。
【0097】
[実施例2]
本実施例は、SAR114と比較して半減期が増加したSAR114-N3の産生について記載する。
【0098】
抗体のFc領域はそれらの半減期で役割を果たし、Fc遺伝子操作は治療用生物製剤の半減期を操作するために使用されてきたことは周知である。例えば、三重アミノ酸置換M252Y/S254T/T256E(「YTE」置換と称する)は、抗S.アウレウス(S.aureus)MEDI4893抗体を含む抗体のFc領域中に遺伝子操作されており、これは、半減期が3~4倍に増加する可能性がある。しかし、YTE変異は、また、C1q及びFcγRへの結合を減少させ、ADCC及びCDC活性などのエフェクタ機能の減少を示した。(Monnet C.,et al.,Front Immunol.6:39(2015)。)YTE変異は、また、抗細菌抗体のオプソニン食作用傷害(OPK)を減少させる(YTE置換が、抗シュードモナス抗体Cam004のOPKを減少させることを示す図6を参照されたい)。したがって、半減期の延長は、抗ClfA抗体にとって望ましいが、YTE変異は、SAR114に好適ではない。
【0099】
Borrok et al.,(J.Biol.Chem.,290(7):4282-4290(2015).)は、「N3」バリアントを含む他のFc改変の影響を研究した。「N3」バリアントは、それらの同じ位置で野生型配列(LHNHYT;配列番号22)の代わりにCH3ドメインに配列CSWHLC(配列番号19)を含有する。このFcバリアントは、また、半減期を増加させる(図9、上方区画を参照されたい)が、図6で示されるように、抗細菌抗体Cam004(上方区画)又は2F4(下方区画)のOPK傷害を減少させない。
【0100】
したがって、SAR114の結合に対するN3変異の影響を評価した。これらの実験において、Biacoreプラットフォームを使用して、CLFA001、CLFA002、及びCLFA004タンパク質に対する親抗体及びFc変異抗体と、それぞれSAR-114及びSAR114-N3との結合についての速度論的速度/親和性(K)定数を決定した。結果を以下の表3に示す。
【0101】
【表11】
【0102】
1:1結合モデルへの速度論的適合は適切であった。SAR114及びSAR114-N3は両方が、同じ親和性で、CLFA001、CLFA002、及びCLFA004に結合する。しかし、SAR114の全てのCLFAタンパク質への結合(K)は、SAR114-N3よりも約10倍タイトであった。SAR114-N3の結合が弱いのは、オフレートが速いからである。
【0103】
フィブリノーゲン結合を阻害するSAR114-N3の能力もまた評価した。これらのアッセイにおいて、ClfAのフィブリノーゲンへの結合は、段階希釈(200~0.5μg/ml)のSAR114、SAR114-N3、又は対照IgG抗体の存在下で測定した。結果を図7及び以下の表4に示す。
【0104】
【表12】
【0105】
これらのデータは、SAR114-N3が、3つの主要なClfA遺伝子型のフィブリノーゲンへの結合を阻害することを示す。
【0106】
[実施例3]
本実施例は、SAR114-N3と比較して安定性が改善したSAR114-N3Yの産生について記載する。
【0107】
しかし、「N3」バリアントは、FcRn親和性の向上に寄与するトリプトファン(W434)を含有するが、通常の光条件では1週間で約20%のモノマー損失をもたらし、同じ期間での強い光条件では60%超のモノマー損失が発生するような光感度をもたらした。酸化不可能な疎水性残基(F、Y、L、I、V、A、及びS)をトリプトファン(W434)と置換し、SAR114の半減期、OPK、及び光感度に対するそれらの影響を評価した。F及びY置換は、結合の点からSAR114 N3と最も類似しており、どちらもN3改変と同様の半減期延長を示した(図9、上方区画を参照されたい)。光安定性評価は、F(「N3F」;配列番号20)及びY(「N3Y」;配列番号21)改変を用いたSAR114抗体で実施した。この評価において、mAbを2kLux/時間(強度測定)のCWL(従来の白色光)に23℃で14日間曝露し、観察されたモノマー純度を以下の表5にまとめる。
【0108】
【表13】
【0109】
結果は、N3Yが優れた光安定性を有することを示す。凝集及びフィブリノーゲン効力アッセイは、また、図8に示すように、N3YがN3Fよりも優れた活性を有することを示した。マウスにおける抗体レベルの測定は、N3Y及びN3FがどちらもN3変異体と同様のpK値を有し(図9、上方区画)、N3YバリアントのOPK傷害が、変化がない(図9、下方区画)ことを示した。
【0110】
[実施例4]
本実施例は、ネズミ菌血症モデルにおける、SAR114又はSAR114 N3Y抗ClfAモノクローナル抗体単独の影響、又は抗αトキシン(AT)モノクローナル抗体と組み合わせた影響を記載する。
【0111】
6~8週齢の雌BALB/cマウス(Envigo,Huntingdon,Cambridgeshire,United Kingdom)10匹の群を、アイソタイプ対照IgG(c-IgG)、SAR114抗ClfAモノクローナル抗体、及び/又はMEDI4893抗ATモノクローナル抗体の腹腔内(IP)注射で受動免疫した。24時間後にLD90のS.アウレウス(S.aureus)臨床分離株の静脈内(IV)注射でマウスにチャレンジした。生存を2週間にわたって監視した。c-IgGに対する特異的抗ブドウ球菌抗原の統計分析を、ログランク(Mantel Cox)検定で実施した。p<0.05の場合、データは統計的に異なると見なされた。
【0112】
SAR114(15mg/kg(mpk))の予防は、図10に示すように、それぞれ、ClfA遺伝子型ClfA001、002、及び004をコードすることが確認される配列型(ST)ST8、ST5、又はST30を表す、S.アウレウス(S.aureus)分離株でチャレンジ後のアイソタイプ対照IgG(c-IgG)と比較して生存率の増加をもたらした。11H10及びMEDI4893抗体の組み合わせと同様に、SAR114及びMEDI4893(各7.5mg/kg(mpk))の組み合わせによる予防は、試験した全ての菌株でチャレンジ後、c-IgGと比較して生存率が大幅に増加し、いくつかの菌株に対する対応する個々のモノクローナル抗体よりも利点がもたらされた(Tkaczyk et al.,supra)。
【0113】
この実験結果は、抗ClfA SAR114モノクローナル抗体が、in vivoで機能的であることを示し、SAR114及び抗ATモノクローナル抗体の組み合わせにより、S.アウレウス(S.aureus)予防についてのより広い菌株適用範囲がもたらされることを示唆する。
【0114】
[実施例5]
本実施例は、糖尿病ネズミ致死性菌血症モデルにおける、SAR114抗ClfAモノクローナル抗体単独の影響、又は抗αトキシン(AT)モノクローナル抗体と組み合わせた影響を記載する。
【0115】
6週齢の糖尿病BKS.Cg-Dock7+/+Leprdb/J雄マウスの群を、アイソタイプ対照IgG(c-IgG)、SAR114抗ClfAモノクローナル抗体、及び/又はMEDI4893抗ATモノクローナル抗体の腹腔内(IP)注射で受動免疫した。24時間後にLD90(5e7CFU)のS.アウレウス(S.aureus)臨床分離株SF8300の静脈内(IV)注射でマウスにチャレンジした。生存を2週間にわたって監視した。図11、上方区画。腎臓(図11、中央区画)及び肝臓(図11、下方区画)における細菌の数え上げのために、48時間後に10匹の動物を安楽死させた。c-IgGに対する特異的抗ブドウ球菌抗原の統計分析を、ログランク(Mantel Cox)検定で実施した。p<0.05の場合、データは統計的に異なると見なされた。
【0116】
SAR114(15mg/kg(mpk))の予防は、チャレンジ後のアイソタイプ対照IgG(c-IgG)と比較して生存率の増加をもたらし、SAR114及びMEDI4893(各7.5mg/kg(mpk))の組み合わせによる予防は、チャレンジ後のc-IgGと比較して生存率が有意に増加した。図11、上方区画。SAR114及びMEDI4893(各7.5mg/kg(mpk))の組み合わせは、また、腎臓(図11、中央区画)及び肝臓(図11、下方区画)において、有意に細菌を減少させた。
【0117】
この実験結果は、抗ClfA SAR114モノクローナル抗体はin vivoで機能的であることを示し、SAR114及び抗ATモノクローナル抗体の組み合わせにより、糖尿病マウスdb/dbにおけるCA-MRSA SF8300誘発性致死性菌血症からの防御がもたらされることを示唆する。
【0118】
[実施例6]
本実施例は、ネズミ菌血症モデルにおける、炎症性サイトカインレベルに対する、SAR114抗ClfAモノクローナル抗体単独の影響、又は抗αトキシン(AT)モノクローナル抗体と組み合わせた影響を記載する。
【0119】
6週齢の糖尿病(db)BKS.Cg-Dock7+/+Leprdb/J雄マウス(n=20)及び非糖尿病C57/B6(B6)雄マウス(n=20)の群を、アイソタイプ対照IgG(c-IgG)、SAR114抗ClfAモノクローナル抗体、及び/又はMEDI4893抗ATモノクローナル抗体の腹腔内(IP)注射で免疫した。24時間後にLD90のS.アウレウス(S.aureus)臨床分離株SF8300の静脈内(IV)注射でマウスにチャレンジした。8時間又は24時間後、1群当たり10匹の動物を安楽死させ、心臓穿刺から採血した。Mesoscale Multiplex炎症促進性サイトカインキットを使用して、血漿から炎症促進性サイトカインを測定した。群間の統計的差異は、マン・ホイットニーU検定で分析され、p<0.05の場合は統計的に異なると見なされた。
【0120】
SAR114及びMEDI4893の組み合わせは、表6に示されるように、糖尿病db/dbマウスにおいて、24時間で、IL-6、TNF-α、及びKCレベルを有意に減少させた。
【0121】
【表14】
【0122】
その組み合わせは、また、非糖尿病C57/B6マウスにおいて、24時間で、IL-6、TNF-α、及びKCレベルを有意に減少させた。
【0123】
[実施例7]
本実施例は、糖尿病ネズミ菌血症モデルにおける、肝障害に対する、SAR114抗ClfAモノクローナル抗体単独の影響、又は抗αトキシン(AT)モノクローナル抗体と組み合わせた影響を記載する。
【0124】
6週齢の糖尿病BKS.Cg-Dock7+/+Leprdb/J雄マウス(n=10)の群を、アイソタイプ対照IgG(c-IgG)、SAR114抗ClfAモノクローナル抗体(15mg/kg(mpk))、MEDI4893抗ATモノクローナル抗体(15mpk)、又はSAR114+MEDI4893(各15mpk)の組み合わせの腹腔内(IP)注射で受動免疫した。24時間後にLD90のS.アウレウス(S.aureus)臨床分離株SF8300の静脈内(IV)注射でマウスにチャレンジした。感染から48時間後、マウスを安楽死させ、肝臓を回収した。肉眼的病理を写真で記録し(図12、左区画)、10%ホルマリンで固定した後、肝臓切片をヘマトキシリン/エオシンで染色した(図12、右区画)。SAR114抗体、MEDI4893抗体、及びSAR114+MEDI4893の組み合わせは、全て、S.アウレウス(S.aureus)に曝露された糖尿病マウスの肝障害を予防した。
【0125】
[実施例8]
本実施例は、ネズミ糖尿病菌血症モデルにおける、SAR114抗ClfAモノクローナル抗体単独の影響、又は抗αトキシン(AT)モノクローナル抗体と組み合わせた影響を記載する。
【0126】
6週齢の糖尿病BKS.Cg-Dock7+/+Leprdb/J雄マウス(n=10)の群を、アイソタイプ対照IgG(c-IgG)、SAR114抗ClfAモノクローナル抗体、及び/又はMEDI4893抗ATモノクローナル抗体の腹腔内(IP)注射で免疫した。24時間後にLD90のS.アウレウス(S.aureus)臨床分離株の静脈内(IV)注射でマウスにチャレンジした。生存を2週間にわたって監視した。図13
【0127】
SAR114及びMEDI4893(各7.5mg/kg(mpk))の組み合わせにより、試験したほとんどの菌株でチャレンジ後のc-IgGと比較して生存率の増加がもたらされ、また、ほとんどの菌株において対応する個々のモノクローナル抗体よりも有益性がもたらされた。
【0128】
この実験結果は、抗ClfA SAR114モノクローナル抗体がin vivoで機能的であることを示し、SAR114及び抗ATモノクローナル抗体の組み合わせにより、糖尿病マウスにおけるS.アウレウス(S.aureus)予防についてのより広い菌株適用範囲がもたらされることを示唆する。
【0129】
[実施例9]
本実施例は、ClfA及びATの両方に特異的に結合する二重特異性モノクローナル抗体の産生、並びにそのin vitroでの有効性について記載する。
【0130】
抗ClfAモノクローナル抗体及び抗ATモノクローナル抗体の組み合わせによる受動免疫により、致死性菌血症における菌株適用範囲についての有益性がもたらされ、ネズミ皮膚壊死及び肺炎モデルにおける抗AT防御能力が保持されるため(Tkaczyk et al.,supra)、ClfA及びATに対する二重特異性抗体(BiSAb)を産生して、そのような二重特異性抗体が対応する個々の抗体の組み合わせよりも有益性がもたらされるかを判断した。この目的のために、BiSAbは前述のように遺伝子操作した(例えば、Dimasi et al.,J.Mol.Biol.,393:672-692(2009);及びColoma,M.J.and S.L.Morrison,Nat.Biotechnol.,15:159-163(1997)を参照されたい)。要約すると、抗ClfA mAb 11H10又はSAR114は、IgGスキャホールドとして使用され、MEDI4893はscFvフォーマットで移植された。MEDI4893scFvは、軽可変ドメイン及び重可変ドメインの間に20アミノ酸(GGGGSx4)リンカーを使用してVL-VHフォーマットで合成した(GeneArt,ThermoFisher Scientific,Waltham,MA).「BiS」抗体は、11H10又はSAR114抗ClfA IgG1の重鎖のN末端にMEDI893scFv配列を融合させることにより構築した。「BiS」コンストラクトは、11H10又はSAR114の重鎖のC末端にMEDI4893のリンカー-scFvを付加することにより産生した。BiS及びBiSコンストラクトは、図14にて概略的に図示されている。BiS及びBiS分子を、293個の細胞で一過性トランスフェクションによって発現し、タンパク質A親和性クロマトグラフィーにより精製し、サイズ排除クロマトグラフィーにより磨いた。各分子の完全性は、質量分析法並びにインタクト質量及びペプチドマッピングによって評価され、操作された内因性のジスルフィド結合の適切な形成を検証した。ScFvはIgGの異なる位置に位置しており、あるフォーマットが別のフォーマットよりも有利であるかどうかを判断する唯一の方法は、目的の抗体特異性について経験的にテストすることであるため、BiS及びBiSフォーマットが選択された。
【0131】
BiSAbが対応する個々のモノクローナル抗体の機能的活性を保持するかどうかを判断するために、AT依存性ウサギ赤血球(RBC)溶解を阻害する、並びにClfA001、ClfA002、及びClfA004へのフィブリノーゲン結合を阻害する各BiSAbの能力を評価した。ウサギRBC溶血アッセイは、BiS Ab及びMEDI4893の段階希釈液(500~1.7nM)をAT(0.1μg/ml=3nM)と混合し、50μlの洗浄ウサギRBC(ピールフリーズ)を37℃で1時間インキュベートすることにより実施した。いくつかのアッセイでは、BiSAbの抗AT scFvを、10M過剰のClfA(5μM)で飽和させた。次いで、プレートを、1200rpmで3分間遠心分離にかけ、50μlの上清を新しいプレートに移した。非特異性ヒトIgG1 R347は、陰性対照(c-IgG)として使用した(例えば、Tkaczyk et al.,Clin.Vaccine Immunol.,19:377-385(2012)を参照されたい)。分光光度計(Molecular Devices,Sunnyvale,CA)で、OD450nmを測定した。溶血の阻害は、次式を使用して計算した。
100-(100[ODAT+mAb]/[ODAT])。
【0132】
フィブリノーゲン結合アッセイについて、NUNC MAXISORP(商標)プレート(ThermoFisher Scientific,Waltham,MA)を、2μg/mlのヒトフィブリノーゲン(Sigma Aldrich,St.Louis,MO)で4℃にて一晩コーティングし、0.1%のTween20を含有するPBS(洗浄バッファ)で3回洗浄し、200μl/ウェルのカゼイン(ThermoFisher Scientific,Waltham,MA)で室温(RT)にて1時間ブロックした。3回の洗浄後、プレートを、50μlのAviタグClfA221-559(2μg/ml)及び抗ClfAモノクローナル抗体又はBiS抗体の段階希釈液の100μl最終用量PBS中混合物でRTにて1時間インキュベートした。いくつかのアッセイでは、BiSAbの抗ClfA IgG1を、10M過剰のAT(6.6mM)で飽和させた。洗浄後、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合ストレプトアビジン(1:20000,GE Healthcare,Chicago,IL)及び100μlの3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)基質(KPL)を使用して、結合ClfAを検出した。10分後、100μlの0.2M HSOで反応を停止させた。OD450nmの分光光度計でプレートを読み取った。フィブリノーゲンへのClfA結合阻害率は、以下の式を使用して計算した:100-(100[ODClfA+mAb]/[ODClfA,no mAb])。
【0133】
11H10-BiS及びBiS抗体並びにSAR114-BiS抗体は、AT溶血アッセイにおいて、MEDI4893と同様のIC50値を示し、一方でSAR114-BiSは、図15Aで示すとおり、AT中和活性の減少を示した。11H10 BiSAb及びSAR114 BiSAbのどちらも、フィブリノーゲン結合阻害アッセイにおいて、それぞれの親抗ClfA IgGと同様のIC50値を示す一方で、SAR114 BiSAbは、図15B図16、及び表7に示すように、ClfA002に対して一部の活性を失ったが、それでも11H10より優れていた。BiSAbはまた、図17で示されるように、親抗ClfAIgGとして、同様のオプソニン食作用細菌傷害(OPK)を媒介した。重要なことには、図15Cに示すように、10M過剰のATの存在下での抗AT scFvの飽和は、フィブリノーゲン結合アッセイにおける抗ClfA活性を妨害しなかった。同様に、10M過剰のClfAによるClfA結合の飽和は、図15Dに示すように、溶血アッセイにおけるBiSAbのAT中和活性を減少させなかった。
【0134】
【表15】
【0135】
本実施例の結果は、抗ClfA/AT BiS分子が、ほとんどの場合、親IgGと同様のin vitro機能活性を保持しており、この活性は、BiSAbによって認識される他の抗原の10倍モル過剰の存在下では減少しなかったことを示す。
【0136】
[実施例10]
本実施例は、S.アウレウス(S.aureus)致死性菌血症モデルにおける抗ClfA/AT二重特異性抗体の防御効果を記載する。
【0137】
実施例4に記載するように、S.アウレウス(S.aureus)菌株SF8300によるIV感染の24時間前に、抗ClfA SAR114抗体及びMEDI4893モノクローナル抗体の組み合わせ(各7.5mpk又は1mpk)又は等モル用量のBiSAb(それぞれ、9又は1.2mpk)でマウスを受動免疫し、生存を14日間監視した。図18Aに示すように、9mpkのSAR114-BiSAbはどちらも、各々7.5mpkのモノクローナル抗体の組み合わせと比較して、減少したが有意に異なる防御を示さなかった(BiSではp=0.234、BiSではp=0.412)。1mpk(p=0.0051対c-IgG)のモノクローナル抗体組み合わせ及び1.2mpk(p=0.0336対c-IgG)のSAR114-BiSは、c-IgGと比較して生存率を有意に増加させた。in vitroで観察されたAT中和活性の喪失と一致して(図15Aを参照されたい)、SAR114-BiSは1.2mpkで投与された場合に生存率を有意に増加させなかった(p=0.657、図18A)。どちらのモノクローナル単独も有意な防御に十分ではない株S.アウレウス(S.aureus)菌株3049057(MRSA、ST8)に対して試験した場合(図10を参照されたい)、1.2mpkのSAR114-BiS分子はc-IgG(p=0.4310)と比較して生存率を有意に増加させなかった一方、等モル濃度(1mpk)のモノクローナル抗体の組み合わせは、図18Bに示すように生存率を増加させた(p=0.0348対c-IgG)。この結果は、in vivoでのSAR114-BiS抗体の欠陥を示唆した。興味深いことに、11H10-BiSAbによる受動免疫は、図18C及び18Dで示されるとおり、試験した両方の用量(9mpk及び1.2mpk)でモノクローナル組み合わせと同様の防御をもたらし、ClfA001発現株SF8300及び3049057の両方に対してc-IgGと比較して生存率を有意に増加させた。
【0138】
本実施例の結果は、抗ClfA/AT BiSAbが、対応する個々の抗体の組み合わせよりも有益性がもたらされないことを示す。むしろ、SAR114/MEDI4893二重特異性抗体は、対応する個々のモノクローナル抗体が防御をもたらすのに十分ではない場合、菌株に対する低用量での防御の損失を示した。
【0139】
[実施例11]
本実施例は、致死性肺炎モデルにおけるSAR114/MEDI4893二重特異性抗体の有効性を試験する実験について記載する。
【0140】
SAR114は11H10よりも約1000倍高い親和性でClfA001に結合するため(表1)、ClfAに結合するSAR114は細菌表面でSAR114/MEDI4893BiSAbを隔離し、分泌される時にATの捕捉及び中和が不十分になると仮定された。ATは、S.アウレウス(S.aureus)肺炎の重要な病原性因子であり(Bubeck Wardenburg,J.and O.Schneewind,J.Exp.Med.,205:287-294(2008))、抗ATモノクローナル抗体単独による受動免疫は、致死性S.アウレウス(S.aureus)肺炎からマウスを防御する(Foletti et al.,J.Mol.Biol.,425(10):1641-1654(2013);Hua et al.,Antimicrob.Agents Chemother.,58:1108-1117(2014);及びRagle,B.E.,and J.Bubeck Wardenburg,Infect.Immun.,77:2712-2718(2009))。更に、抗ClfAモノクローナル抗体は、肺炎モデルにおいて、生存に影響を与えず、抗ClfA及び抗ATモノクローナル抗体の組み合わせは、抗AT mAb単独と同様の防御をもたらす(Tkaczyk et al.,supra)。したがって、致死性菌血症モデルにおけるSAR114-BiSAbで観察された防御の低下が、不十分なAT中和に起因する可能性があるかどうかを判断するために、雌のC57/B6マウス(Jackson Laboratory,Bar Harbor,ME)に、MEDI4893単独又はSAR114、若しくはSAR114 BiS若しくはBiS分子との組み合わせをIP注射した。肺炎は、Hua et al.,supra.で記載されているように、SF8300(1eCFU)による鼻腔内感染により引き起こされた。動物の生存を6日間監視した。c-IgGに対する統計分析を、ログランク(Mantel Cox)検定で実施した。p<0.05の場合、データは統計的に異なると見なされた。
【0141】
MEDI4893(15mpk)単独又はSAR114との組み合わせによる受動免疫は、SF8300でチャレンジ後100%防御をもたらした。しかし、SAR114-BiS又はBiSによる受動免疫は、図19Aで示されるように、それぞれ、30%及び0%の生存をもたらした。興味深いことに、ClfAに対する親和性が約1000倍減少した11H10BiSによる受動免疫(表1)は、100%の生存をもたらした。これらの結果は、細菌表面のClfAへの結合がSAR114-BiSAbを隔離し、したがってAT中和を損なうという結論を裏付ける。この仮説を更に試験するために、ClfA同質遺伝子変異体SF8300Δclfaによる鼻腔内(IN)感染の前に、マウスをBiS分子で受動免疫した。SAR114-BiSAbによる予防により、図19Bで示されるように、MEDI4893と同様のSF8300Δclfaに対する防御がもたらされた。
【0142】
本実施例の結果は、表面に局在するClfAに結合するSAR114-BiSAbが可溶性ATの効果的な中和を妨げるというさらなる証拠を提供する。
【0143】
[実施例12]
本実施例は、カニクイザルにおけるSAR114抗体の薬物動態(pK)を試験する実験について記載する。5mg/kgのSAR114、SAR114 N3F、又はSAR114 N3Yによる静脈内(IV)投与によりサルを処理し、抗体レベルを60日間にわたって血中で測定した。結果を図20にて示し、以下の表8にて報告する。
【0144】
【表16】
【0145】
上記データは、SAR114の改変バージョン、特にSAR114 N3Yが、霊長類での半減期の増加を示すことを示す。上記データは、ヒトFcRNのトランスジェニックマウスにおける半減期延長研究から予測されるものと一致する。霊長類における半減期の効果的な延長は、SAR114 N3Yの半減期が適切に延長され、ヒトのS.アウレウス(S.aureus)関連疾患の適切な投与、治療、及び予防にとって重要であることを示す。
【0146】
[実施例13]
本実施例は、N3Y Fcの免疫原性を試験する実験について記載する。
【0147】
治療用タンパク質の免疫原性は、中和、治療薬のクリアランスの加速、及び/又は有害事象を含む問題を引き起こす可能性がある。抗体フレームワーク領域などのヒトタンパク質は、ほとんどが非免疫原性であると同時に、抗体のFc領域における変異は、免疫応答の潜在的なリスクを提示する。ヒトCD4 T-細胞を用いた機能的活性アッセイは、免疫原性応答におけるヘルパーT細胞の主な役割の結果として、現在、免疫原性予測の証明と見なされる。したがって、T細胞活性化に対するIgG1のFc領域のN3Yの影響を分析した。
【0148】
これらの実験では、フィコール勾配を使用して39のヒト全血コレクションから、PMBCを分離した。次いで、正の選択を使用してCD8細胞を抽出し、5つの異なるペプチドプールで刺激し、IL-2で10日間in vitroで増殖させることにより細胞を濃縮した。次いで、CD4用のELIspotプレート内の個々のペプチドライブラリで細胞を再刺激した。図21で示される結果は、NY3変異が、野生型Fc領域と比較して免疫原性を有意に増加させないことを示す。
【0149】
本明細書に引用される、刊行物、特許出願及び特許を含む参照は全て、各参照が参照により組み込まれることが個別且つ具体的に示され、本明細書にその全体が記載されている場合と同程度に参照により本明細書に組み込まれる。
【0150】
用語「1つの(a)」及び「1つの(an)」及び「その(the)」及び「少なくとも1つの(at least one)」並びに本発明を説明する文脈における(特に以下の請求項の文脈における)同様の指示対象の使用は、本明細書で別段の指示がない限り、又は文脈によって明確に矛盾しない限り、単数形及び複数形の両方をカバーすると解釈されるべきである。1つ以上の項目のリストに続く用語「少なくとも1つの」の使用(例えば、「A及びBの少なくとも1つ」)は、本明細書で別段の指示がない限り、又は文脈によって明確に矛盾しない限り、リストされた項目(A又はB)から選択された1つの項目、又はリストされた項目の2つ以上の任意の組み合わせ(A及びB)を意味すると解釈されるべきである。用語「含むこと(comprising)」、「有すること(having)」、「含むこと(including)」、及び「含有すること(containing)」は、別途注記のない限り、非限定的用語として解釈されるべきである(即ち、「含むが、限定されない」を意味する)。本明細書の値の範囲の列挙は、本明細書で別段の指示がない限り、範囲内にある各個別の値を個別に参照する簡略化された方法として役立つことを単に意図し、各個別の値は、本明細書に個別に引用されているかのように本明細書に組み込まれる。本明細書に記載した全ての方法は、本明細書で別段の指示がない限り、又は文脈によって別に明確に矛盾しない限り、任意の好適な順序で実施することができる。本明細書で提供されるありとあらゆる例、又は例示的な言葉(例えば「などの」)の使用は、本発明を、単に、より明らかにするためのものであり、別に主張されない限り、本発明の範囲に対する制限を与えない。本明細書中の言葉は、本発明の実施に不可欠であるものとしてのいずれかの主張されていない要素を示すと解釈されるべきではない。
【0151】
本発明の好ましい実施形態は、本発明を実施するために発明者に知られているベストモードを含めて、本明細書に記載されている。それらの好ましい実施形態の変形は、前述の説明を読むと、当業者には明らかになり得る。本発明者らは、当業者がそのような変形を適切に使用することを期待し、本発明者らは、本明細書に具体的に記載されている以外の方法で本発明を実施することを意図している。したがって、本発明は、適用可能な法律によって許可されるように、本明細書に添付された特許請求の範囲に記載された主題の全ての修正及び同等物を含む。更に、その全ての可能な変形における上記の要素の任意の組み合わせは、本明細書で別段の指示がない限り、又は文脈によって明確に矛盾しない限り、本発明に含まれる。

本発明は、以下を提供する。
1. スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(S.aureus)クランピング因子A(ClfA)タンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片であって、前記抗体又は抗原結合断片は、配列番号1のアミノ酸配列を含む可変重鎖(VH)相補性決定領域(CDR)1と、配列番号2のアミノ酸配列を含むVH CDR2と、配列番号3のアミノ酸配列を含むVH CDR3と、配列番号4のアミノ酸配列を含む可変軽鎖(VL)CDR1と、配列番号5のアミノ酸配列を含むVL CDR2と、配列番号6のアミノ酸配列を含むVL CDR3と、を有し、且つ前記抗体又は抗原結合断片は、CSYHLC(配列番号21)のアミノ酸配列を含む重鎖定常領域を有する、抗体又はその抗原結合断片。
2. 前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号13のアミノ酸配列を含むVHを有する、上記1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
3. 前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号14のアミノ酸配列を含むVLを有する、上記1又は2に記載の抗体又はその抗原結合断片。
4. S.アウレウス(S.aureus)ClfAタンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片であって、前記抗体又は抗原結合断片は、(1)VHと、(2)VLと、(3)CSYHLC(配列番号21)のアミノ酸配列を含む重鎖定常領域とを有し;前記VHは、配列番号13のアミノ酸配列を含む、抗体又はその抗原結合断片。
5. S.アウレウス(S.aureus)ClfAタンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片であって、前記抗体又は抗原結合断片は、(1)VHと、(2)VLと、(3)CSYHLC(配列番号21)のアミノ酸配列を含む重鎖定常領域とを有し;前記VLは、配列番号14のアミノ酸配列を含む、抗体又はその抗原結合断片。
6. S.アウレウス(S.aureus)ClfAタンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片であって、前記抗体又は抗原結合断片は、SAR114のVH CDR1、VH CDR2、VH CDR3、VL CDR1、VL CDR2、及びVL CDR3を有する、抗体又はその抗原結合断片。
7. 前記CDRが、Kabat-決定CDR、Chothia-決定CDR、又はAbM-決定CDRである、上記6に記載の抗体又はその抗原結合断片。
8. 前記抗体又は抗原結合断片が、CSYHLC(配列番号21)のアミノ酸配列を含む重鎖定常領域を有する、上記6又は7に記載の抗体又はその抗原結合断片。
9. 前記重鎖定常領域が、MHEACSYHLCQKSLSLS(配列番号23)のアミノ酸配列を含む、上記1~8のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
10. 前記重鎖定常領域が、配列番号24のアミノ酸配列を含む、上記1~9のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
11. 前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号50のアミノ酸配列を含む重鎖を有する、上記1~10のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
12. 前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号26のアミノ酸配列を含む軽鎖を有する、上記1~11のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
13. フィブリノーゲン結合阻害アッセイにおけるClfA001、ClfA002、及びClfA004のIC50が、互いに2μg/mL以内である、上記1~13のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
14. フィブリノーゲン結合阻害アッセイにおけるClfA001、ClfA002、及びClfA004のIC50が、全て1μg/ml~5μg/mlである、上記1~13のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
15. ClfA001、ClfA002、及びClfA004の結合親和性(K)が、全て200~350pMである、上記1~14のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
16. 前記抗体又は抗原結合断片が、前記抗体又は抗原結合断片を従来の白色光に2kLux/時で23℃にて14日間曝露した後、5%以下低下するモノマー純度を有する、上記1~15のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
17. 前記抗体又は抗原結合断片が、ヒトFcRnマウスで変異がない同じ抗体と比較して半減期を延長する変異を含む、上記1~16のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
18. 前記抗体又は抗原結合断片が、変異がない同じ抗体と比較して半減期を延長する変異を含み、前記変異が、同じ抗体又は抗原結合断片変異と比較してOPK活性を阻害しない、上記1~16のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
19. S.アウレウス(S.aureus)ClfAタンパク質に特異的に結合し、且つS.アウレウス(S.aureus)αトキシン(AT)タンパク質に特異的に結合する二重特異性抗体又はその抗原結合断片であって、前記抗体又は抗原結合断片は、配列番号1のアミノ酸配列を含むVH CDR1と、配列番号2のアミノ酸配列を含むVH CDR2と、配列番号3のアミノ酸配列を含むVH CDR3と、配列番号4のアミノ酸配列を含むVL CDR1と、配列番号5のアミノ酸配列を含むVL CDR2と、配列番号6のアミノ酸配列を含むVL CDR3と、を有する、抗体又は抗原結合断片。
20. 前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号13のアミノ酸配列を含むVHを有する、上記19に記載の抗体又はその抗原結合断片。
21. 前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号14のアミノ酸配列を含むVLを有する、上記19又は20に記載の抗体又はその抗原結合断片。
22. 前記抗体又はその抗原結合断片が、配列番号7のアミノ酸配列を含むVH CDR1と、配列番号8のアミノ酸配列を含むVH CDR2と、配列番号9のアミノ酸配列を含むVH CDR3と、配列番号10のアミノ酸配列を含むVL CDR1と、配列番号11のアミノ酸配列を含むVL CDR2と、配列番号12のアミノ酸配列を含むVL CDR3と、を更に有する、上記19~21のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
23. 前記抗体又は抗原結合断片が、配列番号15のアミノ酸配列を含むVHを有する、上記19~22のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
24. 前記抗体又は抗原結合断片が、配列番号16のアミノ酸配列を含むVLを有する、上記19~23のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
25. S.アウレウス(S.aureus)ClfAタンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片であって、前記抗体又は抗原結合断片が、SAR72、SAR80、SAR113、SAR132、SAR352、SAR372、SAR510、SAR547、SAS1、SAS19、又はSAS203のVH CDR1と、VH CDR2と、VH CDR3と、VL CDR1と、VL CDR2と、VL CDR3と、を有する、抗体又はその抗原結合断片。
26. 前記CDRが、Kabat-決定CDR、Chothia-決定CDR、又はAbM-決定CDRである、上記25に記載の抗体又はその抗原結合断片。
27. 前記抗体又は抗原結合断片が、(a)それぞれ配列番号17及び18、(b)それぞれ配列番号30及び31、(c)それぞれ配列番号32及び33、(d)それぞれ配列番号34及び35、(e)それぞれ配列番号36及び37、(f)それぞれ配列番号38及び39、(g)それぞれ配列番号40及び41、(h)それぞれ配列番号42及び43、(i)それぞれ配列番号44及び45、(j)それぞれ配列番号46及び47、又は(k)それぞれ配列番号48及び49に記述されているアミノ酸配列を含む可変重鎖及び可変軽鎖配列を有する、上記25又は26に記載の抗体又はその抗原結合断片。
28. S.アウレウス(S.aureus)ClfAタンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片であって、前記抗体又は抗原結合断片は、VHと、VLと、を有し、前記VHは、配列番号17、30、32、34、36、38、40、42、44、46、又は48に記述されているアミノ酸配列を含む、抗体又はその抗原結合断片。
29. S.アウレウス(S.aureus)ClfAタンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片であって、前記抗体又は抗原結合断片は、VHと、VLと、を有し、前記VLは、配列番号18、31、33、35、37、39、41、43、45、47、又は49に記述されているアミノ酸配列を含む、抗体又はその抗原結合断片。
30. 前記抗体又はその抗原結合断片が、重鎖定常領域を更に有する、上記6~7及び12~29のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
31. 前記重鎖定常領域が、ヒト免疫グロブリンIgG、IgG、IgG、IgG、IgA、及びIgA重鎖定常領域からなる群から選択される、上記30に記載の抗体又はその抗原結合断片。
32. 前記重鎖定常領域が、ヒトIgG定常領域である、上記31に記載の抗体又はその抗原結合断片。
33. 前記重鎖定常領域が、N3、N3E、又はN3F変異を含む、上記30に記載の抗体又はその抗原結合断片。
34. 前記重鎖定常領域が、YTE変異を含む、上記1~5、8~10、又は30のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
35. 前記抗体又はその抗原結合断片が、軽鎖定常領域を更に有する、上記1~11及び13~34のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
36. 前記軽鎖定常領域が、ヒト免疫グロブリンIgGκ及びIgGλ軽鎖定常領域からなる群から選択される、上記35に記載の抗体又はその抗原結合断片。
37. 前記軽鎖定常領域が、ヒトIgGκ軽鎖定常領域である、上記36に記載の抗体又はその抗原結合断片。
38. 前記抗体又は抗原結合断片が、モノクローナル抗体又は抗原結合断片である、上記1~37のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
39. 前記抗体又は抗原結合断片が、完全長の抗体である、上記1~38のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
40. 前記抗体又は抗原結合断片が、抗原結合断片である、上記1~38のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
41. 前記抗原結合断片が、Fab、Fab’、F(ab’)、単鎖Fv(scFv)、ジスルフィド連結Fv、イントラボディ、IgGΔCH2、ミニボディ、F(ab’)、テトラボディ、トリアボディ、ダイアボディ、DVD-Ig、Fcab、mAb、(scFv)、又はscFv-Fcを含む、上記40に記載の抗体又は抗原結合断片。
42. S.アウレウス(S.aureus)ClfAタンパク質に特異的に結合する抗体であって、配列番号50に記述されているアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号26に記述されているアミノ酸配列を含む軽鎖と、を有する抗体。
43. 検出可能な標識を更に含む、上記1~42のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
44. 上記1~43のいずれかに記載のモノクローナル抗体と、薬学的に許容される担体と、を含む組成物。
45. 上記1~18及び25~43のいずれかに記載の抗体又は抗原結合断片と、S.アウレウス(S.aureus)αトキシン(AT)タンパク質に特異的に結合する抗体又は抗原結合断片と、任意選択的に薬学的に許容される担体と、を含む、組成物。
46. S.アウレウス(S.aureus)ATタンパク質に特異的に結合する前記抗体又は抗原結合断片が、配列番号7のアミノ酸配列を含むVH CDR1と、配列番号8のアミノ酸配列を含むVH CDR2と、配列番号9のアミノ酸配列を含むVH CDR3と、配列番号10のアミノ酸配列を含むVL CDR1と、配列番号11のアミノ酸配列を含むVL CDR2と、配列番号12のアミノ酸配列を含むVL CDR3と、を有する、上記45に記載の組成物。
47. S.アウレウス(S.aureus)ATタンパク質に特異的に結合する前記抗体又は抗原結合断片が、配列番号15のアミノ酸配列を含むVHを有する、上記45又は46に記載の組成物。
48. S.アウレウス(S.aureus)ATタンパク質に特異的に結合する前記抗体又は抗原結合断片が、配列番号16のアミノ酸配列を含むVLを有する、上記45~47のいずれかに記載の組成物。
49. S.アウレウス(S.aureus)ATタンパク質に特異的に結合する前記抗体又は抗原結合断片が、配列番号27のアミノ酸配列を含む重鎖を有する、上記45~48のいずれかに記載の組成物。
50. S.アウレウス(S.aureus)ATタンパク質に特異的に結合する前記抗体又は抗原結合断片が、配列番号28のアミノ酸配列を含む軽鎖を有する、上記45~49のいずれかに記載の組成物。
51. 対象のスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(S.アウレウス(S.aureus))感染症を治療又は予防する方法であって、上記1~43のいずれかに記載の抗体若しくは抗原結合断片又は上記44~50のいずれかに記載の組成物を前記対象に投与することを含む、方法。
52. 対象のスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(S.アウレウス(S.aureus))感染症を治療又は予防する方法であって、上記1~18及び25~43のいずれかに記載の抗体又は抗原結合断片、並びにS.アウレウス(S.aureus)αトキシン(AT)タンパク質に特異的に結合する抗体又は抗原結合断片を前記対象に投与することを含む、方法。
53. S.アウレウス(S.aureus)ATタンパク質に特異的に結合する前記抗体又は抗原結合断片が、配列番号7のアミノ酸配列を含むVH CDR1と、配列番号8のアミノ酸配列を含むVH CDR2と、配列番号9のアミノ酸配列を含むVH CDR3と、配列番号10のアミノ酸配列を含むVL CDR1と、配列番号11のアミノ酸配列を含むVL CDR2と、配列番号12のアミノ酸配列を含むVL CDR3と、を有する、上記52に記載の方法。
54. S.アウレウス(S.aureus)ATタンパク質に特異的に結合する前記抗体又は抗原結合断片が、配列番号15のアミノ酸配列を含むVHを有する、上記52又は53に記載の方法。
55. S.アウレウス(S.aureus)ATタンパク質に特異的に結合する前記抗体又は抗原結合断片が、配列番号16のアミノ酸配列を含むVLを有する、上記52~54のいずれかに記載の方法。
56. S.アウレウス(S.aureus)ATタンパク質に特異的に結合する前記抗体又は抗原結合断片が、配列番号27のアミノ酸配列を含む重鎖を有する、上記52~55のいずれかに記載の方法。
57. S.アウレウス(S.aureus)ATタンパク質に特異的に結合する前記抗体又は抗原結合断片が、配列番号28のアミノ酸配列を含む軽鎖を有する、上記52~56のいずれかに記載の方法。
58. 上記1~18及び25~43のいずれかに記載の抗体又は抗原結合断片、並びにS.アウレウス(S.aureus)ATタンパク質に特異的に結合する前記抗体又は抗原結合断片が、同時に投与される、上記52~57のいずれかに記載の方法。
59. 上記1~18及び25~43のいずれかに記載の抗体又は抗原結合断片、並びにS.アウレウス(S.aureus)ATタンパク質に特異的に結合する前記抗体又は抗原結合断片が、逐次的に投与される、上記52~57のいずれかに記載の方法。
60. 対象のS.アウレウス(S.aureus)感染症の治療又は予防は、S.アウレウス(S.aureus)関連敗血症の阻害、S.アウレウス(S.aureus)凝集の阻害、血栓塞栓性病変形成の阻害、トキシンの中和、オプソニン化貪食作用の誘発、S.アウレウス(S.aureus)フィブリノーゲン結合の阻害、S.アウレウス(S.aureus)凝集の阻害、又は前述のものの任意の組み合わせを含む、上記51~59のいずれかに記載の方法。
61. 前記対象が、糖尿病を有する、上記51~60のいずれかに記載の方法。
62. 前記対象がヒトである、上記51~61のいずれかに記載の方法。
63. 上記1~18及び25~42のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片のVH又は重鎖をコードする核酸分子を含む、単離されたポリヌクレオチド。
64. 前記核酸分子が、配列番号13のVH又は配列番号25、50、又は52の軽鎖をコードする、上記63に記載のポリヌクレオチド。
65. 上記1~18及び25~42のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片のVL又は軽鎖をコードする核酸分子を含む、単離されたポリヌクレオチド。
66. 前記核酸分子が、配列番号14のVL又は配列番号26の軽鎖をコードする、上記65に記載のポリヌクレオチド。
67. (i)上記1~18及び25~42のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片のVH又は重鎖、並びに(ii)上記1~18及び25~42のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片のVL又は軽鎖をコードする、核酸分子を含む、単離されたポリヌクレオチド。
68. 上記63~67のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含む、単離されたベクター。
69. 上記63~67のいずれかに記載のポリヌクレオチド、上記68に記載のベクター、又は上記63若しくは64に記載のポリヌクレオチドを含む第1のベクター及び上記65若しくは66に記載のポリヌクレオチドを含む第2のベクターを有する宿主細胞。
70. 前記宿主細胞が、CHO、NS0、PER-C6、HEK-293、及びHeLa細胞からなる群から選択される、上記69に記載の宿主細胞。
71. 前記宿主細胞が単離されている、上記69又は70に記載の宿主細胞。
72. 抗体又はその抗原結合断片の産生方法であって、前記抗体又はその抗原結合断片が産生されるように、上記69~71のいずれかに記載の宿主細胞を培養することを含む、方法。
73. 試料のS.アウレウス(S.aureus)又はS.アウレウス(S.aureus)ClfA検出方法であって、前記試料を上記1~43のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片と接触させることを含む、方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10-1】
図10-2】
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18-1】
図18-2】
図19
図20
図21
【配列表】
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