IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アランセオ・ドイチュランド・ゲーエムベーハーの特許一覧

特許7525485代替溶媒を使用してHNBR溶液を調製するための方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】代替溶媒を使用してHNBR溶液を調製するための方法
(51)【国際特許分類】
   C08C 19/02 20060101AFI20240723BHJP
   C08F 236/12 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
C08C19/02
C08F236/12
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021529015
(86)(22)【出願日】2019-11-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-28
(86)【国際出願番号】 EP2019082538
(87)【国際公開番号】W WO2020126345
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-18
(31)【優先権主張番号】18213114.4
(32)【優先日】2018-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516112462
【氏名又は名称】アランセオ・ドイチュランド・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】カローラ・シュナイダース
(72)【発明者】
【氏名】スザンナ・リーバー
(72)【発明者】
【氏名】サラ・ダーヴィト
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-501207(JP,A)
【文献】特表2014-530754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C 19/02
C08F 236/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化ニトリル-ジエンコポリマーの溶液を調製するための方法であって、
(i)ニトリル-ジエンコポリマーが提供され、
(ii)溶媒混合物が提供され、前記溶媒混合物は、
a)第1の溶媒と、第2の溶媒としてのエーテル含有溶媒又はケトン含有溶媒とを含むか、あるいは、
b)エーテル含有溶媒と、ケトン含有溶媒とを含み、
(iii)(i)による前記ニトリル-ジエンコポリマーが、(ii)による前記溶媒混合物中に溶解され、且つ水素化条件に供され、
前記水素化が、構造(IV)のGrubbs I触媒、構造(V)のGrubbs II触媒、構造(XV)のZhan 1B触媒、構造(XVI)のGrela触媒、及び構造(VII)のGrubbs-Hoveyda II触媒:
【化1】
からなる群から選択されるメタセシス触媒の存在下で行われることを特徴とする方法であって、
第1の溶媒が、モノクロロベンゼン(MCB)、ジクロロメタン、ベンゼン、ジクロロベンゼン、トルエン、シクロヘキサン、又はジメチルスルホキシド(DMSO)を含み、
エーテル含有溶媒が、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、又はジオキサンから選択され、
ケトン含有溶媒が、メチルエチルケトン(MEK)又はアセトンから選択される、方法。
【請求項2】
前記溶媒混合物が、エーテル含有溶媒としてCPMEを含み、そのCPME含有溶媒混合物中のCPME対他の溶媒の比が、10:1~1:10の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(iii)で調製される溶液中の前記ニトリル-ジエンコポリマーの濃度が、全反応混合物の量に基づいて1重量%~20重量%の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
メタセシス触媒の量が、使用される前記ニトリル-ジエンコポリマーの量に基づいて0.001phr~1phrである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記水素化が100℃~150℃の温度で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記水素化が50バール~150バールの範囲の圧力で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ニトリル-ジエンコポリマーが、ニトリルモノマー単位及びジエンモノマー単位に加えて、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位、PEGアクリレート単位、及びα,β-エチレン性不飽和カルボン酸単位から選択される更なるモノマー単位を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記水素化ニトリル-ジエンコポリマーが、100000g/モル以下の分子量(Mw)を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の方法によって得られる、100000g/モル以下の分子量(Mw)を有する、溶媒中の水素化ニトリル-ジエンコポリマーを含むHNBR溶液。
【請求項10】
前記溶媒がCPMEを含む、請求項に記載のHNBR溶液。
【請求項11】
電極の製造用のバインダーとしての、請求項10に記載のHNBR溶液の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化ニトリル-ジエンコポリマーの溶液を調製するための方法に関し、ここで、エーテル含有又はケトン含有溶媒混合物中に溶解されたニトリル-ジエンコポリマーは、水素化条件に供される。本発明はさらに、溶媒としてCPMEを含む水素化ニトリル-ジエンコポリマーの溶液(HNBR溶液)、及び電極中のバインダーとしての、CPME含有溶媒混合物中のHNBR溶液の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術には、水素化触媒の存在下、有機溶媒中(「溶液水素化」)又はラテックス中(「ラテックス水素化」)で、非水素化ニトリルゴム(NBR)を水素化することによって、水素化ニトリルゴム(HNBR)を製造できることが開示されている。
【0003】
HNBR製造に関する最も初期の出版物でも、例えば(特許文献1)には、トルエン、ベンゼン、キシレン、ジメチルホルムアミド、エチルアセテート、メチルエチルケトン(MEK)、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン又は塩化メチレンなどの有機溶媒中でのHNBRへのNBRの水素化が開示されている。
【0004】
(特許文献2)には、メチルエチルケトン(MEK)中のルテニウム触媒、例えばカルボニル-クロロスチレン-ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(II)による、HNBRへのNBRの水素化が開示されている。
【0005】
(特許文献3)には、ジクロロメタン、ベンゼン、トルエン、アセトン、シクロヘキサン、メチルエチルケトン(MEK)又はモノクロロベンゼン(MCB)などの有機溶媒中での、HNBRへのNBRの水素化が開示されている。
【0006】
(特許文献4)には、モノクロロベンゼン(MCB)又はジクロロベンゼンなどの塩素化芳香族溶媒中での、HNBRへのNBRの水素化が開示されている。
【0007】
(特許文献5)には、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレンカーボネート(EC)、テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ジオキサン、モノクロロベンゼン(MCB)、ジクロロベンゼン(DCB)、トリクロロベンゼン(TCB)、モノブロモベンゼン(MBB)、ジブロモベンゼン(DBB)、トリブロモベンゼン(TBB)、メチルエチルケトン(MEK)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、又はそれらの混合物などの有機溶媒中での、HNBRへのNBRの水素化が開示されている。
【0008】
(特許文献6)及び(特許文献7)には、バインダーとしてHNBR及び溶媒としてシクロペンチルメチルエーテル(CPME)を含むスラリーが開示されている。
【0009】
(特許文献8)には、シクロアルキルアルキルエーテルが有機バインダー、例えばアクリロニトリル-ブタジエンゴムバインダーに対するすぐれた溶解性を有することが開示されている。
【0010】
ニトリルゴムの水素化に関する問題は、ムーニージャンプ(Mooney jump)、すなわち、NBRの水素化によりHNBRが生じる際に起こるムーニー粘度の著しい上昇である。高いムーニー粘度は、いくつかの用途において、例えばHNBRベースの組成物を射出成形する方法において非常に不利な効果を有し得る。ムーニー粘度の上昇を阻止するために、高価なメタセシス反応が行われるか又は剪断方法が使用されるかどちらかがよくあるケースである。
【0011】
また、先行技術には、一部のメタセシス触媒は、水素の注入によって水素化触媒としても作用し得ることが開示されている。例えば、(非特許文献1)、(特許文献9)、(特許文献10)、(特許文献11)、(特許文献12)、(特許文献13)及び(特許文献14)には、メタセシス反応及び水素化反応の両方のために使用され得るRuベースの触媒が開示されている。
【0012】
NBRの溶液水素化に適したさらなるRuベースの水素化触媒が、とりわけ(特許文献15)、(特許文献16)及び(特許文献17)に開示されている。
【0013】
ニトリルゴムを水素化する文脈では、(特許文献18)、(特許文献19)及び(非特許文献2)をさらに参照することができる。
【0014】
完全な水素化のために、残留二重結合(RDB)の含有量がNBR中に当初存在している二重結合の1%未満になるまで、水素化反応が継続される。
【0015】
触媒の量を低減し且つ生産プラントの設備能力を増加させるという絶え間ない要望があるため、水素化に関するさらなる重要な側面は、水素化効率(少ない触媒必要量及び/又は短い反応時間によって表される)である。高い水素化効率を有する水素化反応では、低い水素化効率を有する水素化反応の場合よりも、同じ量の触媒により短い時間内で<1%のRDBを達成する。
【0016】
従来のHNBR製造では、NBRはモノクロロベンゼン(MCB)中に溶解される。この溶液中で、最初にメタセシス触媒を使用してメタセシス反応を実施してムーニー粘度を低減し、次いでWilkinson触媒を使用して水素化を実施する。
【0017】
一部のメタセシス触媒は水素化の間まだ活性のままであり水素をNBR溶液と接触させる時に水素化触媒として機能するが、水素化効率はこのため低い。他のRuベースの触媒はより高い水素化効率を有するが、メタセシス触媒としての活性を有さない。
【0018】
ムーニー粘度の低下及び改良された水素化効率の両方、したがって全工程の効率が、同じ触媒を使用して独立に達成され得る反応系は今まで全く知られていない。
【0019】
したがって、水素化ニトリル-ジエンコポリマーの溶液を製造するための、粘度の低下及び高い水素化効率の両方に向けて改良された方法を提供することが本発明の目的である。先行技術の前述した問題を克服することが本発明のさらなる目的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【文献】独国特許出願公開第A2539132号明細書
【文献】欧州特許出願公開第A0588097号明細書
【文献】欧州特許出願公開第A1862477号明細書
【文献】欧州特許出願公開第A0471250号明細書
【文献】国際公開第A2012/175725号パンフレット
【文献】独国特許出願公開第A102015225719号明細書
【文献】米国特許出願公開第A2018053932号明細書
【文献】欧州特許出願公開第A1405840号明細書
【文献】国際公開第A2013/056400号パンフレット
【文献】国際公開第A2013/057295号パンフレット
【文献】国際公開第A2013/057285号パンフレット
【文献】国際公開第A2013/057286号パンフレット
【文献】国際公開第A2013/190371号パンフレット
【文献】国際公開第A2013/190373号パンフレット
【文献】国際公開第A2013/160470号パンフレット
【文献】国際公開第A2014/198658号パンフレット
【文献】国際公開第A2016/166097号パンフレット
【文献】中国特許第104140479号明細書
【文献】中国特許第107308985号明細書
【非特許文献】
【0021】
【文献】J.Am.Chem.Soc.(2007)129,4168-4169
【文献】Chunjin Ai et al.,“Selectively Catalytic Hydrogenation of Nitrile-Butadiene Rubber Using Grubbs II Catalyst”,Macromolecular Research,25(5),461-465(2017)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0022】
この目的は本発明の主題によって達成される。本発明の主題は、水素化ニトリル-ジエン(HNBR)コポリマーを調製するための方法であって、
(i)ニトリル-ジエンコポリマーが提供され、
(ii)エーテル含有又はケトン含有溶媒混合物が提供され、
(iii)(i)によるニトリル-ジエンコポリマーが(ii)によるエーテル含有又はケトン含有溶媒混合物中に溶解され且つ水素化条件に供され、
水素化が、構造(IV)のGrubbs I触媒、構造(V)のGrubbs II触媒、構造(XV)のZhan 1B触媒、構造(XVI)のGrela触媒、及び構造(VII)のGrubbs-Hoveyda II触媒:
【化1】
からなる群から選択されるメタセシス触媒の存在下で行われる。
【0023】
驚くべきことに、少量のエーテル、例えばシクロペンチルメチルエーテル(CPME)、又はケトン、例えばメチルエチルケトン(MEK)、或いはエーテルとケトンとの混合物のMCBへの添加は、メタセシス反応を継続させる効果を有するが、水素化についても、追加の水素化触媒を用いずに短時間内で<1%の残留二重結合含有量まで進行させる効果を有することが見出された。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明及びその利点の完全な理解のために、以下の詳細な説明が参照される。
【0025】
本明細書に開示される詳細な説明の様々な態様及び実施形態は本発明を製造及び使用する特定の方法を単に例示するにすぎず、特許請求の範囲及び詳細な説明が考慮される時に本発明の範囲を制限しないと理解されるべきである。また、本発明の異なった態様及び実施形態からの特徴を本発明の異なった態様及び実施形態からの特徴と組み合わせることができると理解されよう。
【0026】
本出願の文脈において、「ニトリル-ジエンコポリマー」(ニトリル-ブタジエンコポリマー、ニトリルゴム、また「NBR」とも略される)は、少なくとも1つのα,β-エチレン性不飽和ニトリル、少なくとも1つの共役ジエン及び任意選択的に1つ又は複数の追加的な共重合性モノマーのコポリマー、ターポリマー又はクォーターポリマーであるゴムを意味すると理解される。したがってこの用語は、2つ以上のα,β-エチレン性不飽和ニトリルモノマー単位及び2つ以上の共役ジエンモノマー単位を有するコポリマーも包含する。
【0027】
「水素化ニトリル-ジエンコポリマー」(「HNBR」)は、共重合したジエン単位中のC=C二重結合の少なくとも一部が水素化されている相当するコポリマー、ターポリマー又はクォーターポリマーを意味すると理解される。
【0028】
用語「完全水素化」は、水素化ニトリル-ジエンコポリマー中のブタジエン単位の水素化度が99.1%~100%であることを意味する。
【0029】
用語「コポリマー」は、1超のモノマー単位を有するポリマーを包含する。
【0030】
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単位を形成する、使用されるα,β-エチレン性不飽和ニトリルは、任意の公知のα,β-エチレン性不飽和ニトリルであり得る。好ましいのは、(C~C)-α,β-エチレン性不飽和ニトリル、例えばアクリロニトリル、α-ハロアクリロニトリル、例えばα-クロロアクリロニトリル及びα-ブロモアクリロニトリル、α-アルキルアクリロニトリル、例えばメタクリロニトリル、エタクリロニトリル又は2つ以上のα,β-エチレン性不飽和ニトリルの混合物である。特に好ましいのはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル又はそれらの混合物である。アクリロニトリルが非常に特に好ましい。
【0031】
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単位の量は典型的に、ニトリル-ジエンコポリマー中の全てのモノマー単位100重量%の総量に基づいて、10重量%~60重量%、好ましくは15重量%~50重量%、より好ましくは17重量%~44重量%の範囲である。
【0032】
共役ジエン単位を形成する共役ジエンは、任意の共役ジエン、特に共役C~C12ジエンであり得る。特に好ましいのは1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチルブタジエン、1,3-ペンタジエン(ピペリレン)、2-クロロ-1,3-ブタジエン又はそれらの混合物である。1,3-ブタジエン及びイソプレン又はそれらの混合物が特に好ましい。1,3-ブタジエンは非常に特に好ましい。
【0033】
共役ジエンの量は典型的に、ニトリル-ジエンコポリマーの全てのモノマー単位100重量%の総量に基づいて、40重量%~90重量%、好ましくは50重量%~85重量%及びより好ましくは56重量%~83重量%の範囲である。
【0034】
追加的なコモノマー
α,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単位及び共役ジエン単位に加えて、ニトリル-ジエンコポリマーは、追加的な単位として少なくとも1つのα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位を含有し得る。
【0035】
典型的なα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位は、
・ アルキル(メタ)アクリレート、特にC~C18-アルキル(メタ)アクリレート、好ましくはn-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル又はn-ヘキシル(メタ)アクリレート;
・ アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、特にC~C18-アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、好ましくはC~C12-アルコキシアルキル(メタ)アクリレート;
・ ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、特にC~C18-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、好ましくはC~C12-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;
・ シクロアルキル(メタ)アクリレート、特にC~C18-シクロアルキル(メタ)アクリレート、好ましくはC~C12-シクロアルキル(メタ)アクリレート、より好ましくはシクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘプチル(メタ)アクリレート;
・ アルキルシクロアルキル(メタ)アクリレート、特にC~C12-アルキルシクロアルキル(メタ)アクリレート、好ましくはC~C10-アルキルシクロアルキル(メタ)アクリレート、より好ましくはメチルシクロペンチル(メタ)アクリレート及びエチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート;
・ アリールモノエステル、特にC~C14-アリールモノエステル、好ましくはフェニル(メタ)アクリレート又はベンジル(メタ)アクリレート;
・ アミノ含有α,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル、例えばジメチルアミノメチルアクリレート又はジエチルアミノエチルアクリレート;
・ α,β-エチレン性不飽和モノアルキルジカルボキシレート、好ましくは
o アルキル、特にC~C18-アルキル、好ましくはn-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル又はn-ヘキシル、より好ましくはモノ-n-ブチルマレエート、モノ-n-ブチルフマレート、モノ-n-ブチルシトラコネート、モノ-n-ブチルイタコネート、最も好ましくはモノ-n-ブチルマレエート、
o アルコキシアルキル、特にC~C18-アルコキシアルキル、好ましくはC~C12-アルコキシアルキル、
o ヒドロキシアルキル、特にC~C18-ヒドロキシアルキル、好ましくはC~C12-ヒドロキシアルキル、
o シクロアルキル、特にC~C18-シクロアルキル、好ましくはC~C12-シクロアルキル、より好ましくはモノシクロペンチルマレエート、モノシクロヘキシルマレエート、モノシクロヘプチルマレエート、モノシクロペンチルフマレート、モノシクロヘキシルフマレート、モノシクロヘプチルフマレート、モノシクロペンチルシトラコネート、モノシクロヘキシルシトラコネート、モノシクロヘプチルシトラコネート、モノシクロペンチルイタコネート、モノシクロヘキシルイタコネート及びモノシクロヘプチルイタコネート、
o アルキルシクロアルキル、特にC~C12-アルキルシクロアルキル、好ましくはC~C10-アルキルシクロアルキル、より好ましくはモノメチルシクロペンチルマレエート及びモノエチルシクロヘキシルマレエート、モノメチルシクロペンチルフマレート及びモノエチルシクロヘキシルフマレート、モノメチルシクロペンチルシトラコネート及びモノエチルシクロヘキシルシトラコネート;モノメチルシクロペンチルイタコネート及びモノエチルシクロヘキシルイタコネート、
o アリールモノエステル、特にC~C14-アリールモノエステル、好ましくはモノアリールマレエート、モノアリールフマレート、モノアリールシトラコネート又はモノアリールイタコネート、より好ましくはモノフェニルマレエート又はモノベンジルマレエート、モノフェニルフマレート又はモノベンジルフマレート、モノフェニルシトラコネート又はモノベンジルシトラコネート、モノフェニルイタコネート又はモノベンジルイタコネート、
o 不飽和ポリアルキルポリカルボキシレート、例えばジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジメチルイタコネート又はジエチルイタコネート、
又はそれらの混合物である。
【0036】
特に好ましい実施形態において、ニトリル-ジエンコポリマーは、追加的なモノマー単位として(C~C)-アルキルメタクリレート、最も好ましくはブチルアクリレートを含有する。
【0037】
本発明によるニトリル-ジエンコポリマー中の任意選択のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位の量は典型的に、ニトリル-ジエンコポリマーの全てのモノマー単位100重量%の総量に基づいて0重量%~20重量%、好ましくは0.5重量%~15重量%及びより好ましくは1重量%~10重量%の範囲である。
【0038】
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単位及び共役ジエン単位に加えて、ニトリル-ジエンコポリマーは、追加的な単位として、一般式(I)
【化2】
(式中、
Rは分岐状又は非分岐状C~C20-アルキル、好ましくはC~C20-アルキル、より好ましくはメチル、エチル、ブチル又はエチルヘキシルであり、
nは1~12、好ましくは1~8、より好ましくは1~5及び最も好ましくは1、2又は3であり、並びに
は水素又はCH-である)に由来する少なくとも1つのPEGアクリレート単位を含有し得る。
【0039】
本発明の文脈において用語「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」及び「メタクリレート」を意味する。一般式(I)におけるR基がCH-であるとき、分子はメタクリレートである。
【0040】
本発明の文脈において用語「ポリエチレングリコール」又は略語「PEG」は1~12のエチレングリコール繰り返し単位を有するエチレングリコール部分(PEG-1~PEG-12;n=1~12)を意味する。
【0041】
また、用語「PEGアクリレート」は、PEG-X-(M)A(「X」はエチレングリコール繰り返し単位の数を表し、「MA」はメタクリレートを意味し、「A」はアクリレートを意味する)に略される。
【0042】
一般式(I)のPEGアクリレートに由来するアクリレート単位は、本発明の文脈において「PEGアクリレート単位」と称される。
【0043】
好ましいPEGアクリレート単位は以下の式1~8のPEGアクリレートに由来し、式中、n=1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12、好ましくは1、2、3、4、5、6、7又は8、より好ましくは1、2、3、4又は5及び最も好ましくは2又は3である:
【0044】
【表1】
【0045】
エトキシポリエチレングリコールアクリレート(式番号1)のための他の一般的に使用される用語は、例えば、ポリ(エチレングリコール)エチルエーテルアクリレート、エトキシPEGアクリレート、エトキシポリ(エチレングリコール)モノアクリレート又はポリ(エチレングリコール)モノエチルエーテルモノアクリレートである。
【0046】
これらのPEGアクリレートは、例えばArkemaから商品名Sartomer(登録商標)として、Evonikから商品名Visiomer(登録商標)として又はSigma Aldrichから商業的に購入することができる。
【0047】
ニトリル-ジエンコポリマー中の任意選択のPEGアクリレート単位の量は典型的に、全てのモノマー単位100重量%の総量に基づいて0重量%~60重量%、好ましくは20重量%~60重量%及びより好ましくは20重量%~55重量%の範囲である。
【0048】
代替の実施形態において、ニトリル-ジエンコポリマーは、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単位及び共役ジエン単位だけでなく、追加的なモノマーとして、一般式(I)のPEGアクリレートに由来するPEGアクリレート単位及び、追加的な不飽和カルボン酸エステル単位として、モノアルキルジカルボキシレート単位、好ましくはモノブチルマレエートを含有する。
【0049】
本発明による好ましいニトリル-ジエンコポリマーにおいて、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単位は、アクリロニトリル又はメタクリロニトリルに由来し、より好ましくはアクリロニトリルに由来し、共役ジエン単位は、イソプレン又は1,3-ブタジエンに由来し、より好ましくは1,3-ブタジエンに由来し、任意選択のPEGアクリレート単位は、一般式(I)のPEGアクリレート(nは2~8である)に由来し、より好ましくは一般式(I)のPEGアクリレート(n=2又は3)に由来し、ここで、さらなるカルボン酸エステル単位は存在していない。
【0050】
本発明によるさらなる好ましいニトリル-ジエンコポリマーにおいて、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単位はアクリロニトリル又はメタクリロニトリルに由来し、より好ましくはアクリロニトリルに由来し、共役ジエン単位はイソプレン又は1,3-ブタジエンに由来し、より好ましくは1,3-ブタジエンに由来し、任意選択のPEGアクリレート単位は一般式(I)のPEGアクリレート(n=2~12)に由来し、より好ましくは一般式(I)のPEGアクリレート(n=2又は3)に由来する。
【0051】
さらに、ニトリル-ジエンコポリマーは、1つ又は複数の追加的な共重合性モノマーを全てのモノマー単位100重量%の総量に基づいて0重量%~20重量%、好ましくは0.1重量%~10重量%の量で含有することができる。その場合、他のモノマー単位の量は、全てのモノマー単位の総計が常に100重量%であるように、適した方法で低減される。ニトリル-ジエンコポリマーは、追加的な共重合性モノマーとして、1つ又は複数の以下のものを含有することができる。
・ 芳香族ビニルモノマー、好ましくはスチレン、α-メチルスチレン及びビニルピリジン、
・ フッ素化ビニルモノマー、好ましくはフルオロエチルビニルエーテル、フルオロプロピルビニルエーテル、o-フルオロメチルスチレン、ビニルペンタフルオロベンゾエート、ジフルオロエチレン及びテトラフルオロエチレン、或いはまた
・ α-オレフィン、好ましくはC~C12オレフィン、例えばエチレン、1-ブテン、4-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン又は1-オクテン、
・ 非共役ジエン、好ましくはC~C12ジエン、例えば1,4-ペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、4-シアノシクロヘキセン、4-ビニルシクロヘキセン、ビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエン或いはまた
・ 1-又は2-ブチンなどのアルキン、
・ α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸、好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸又は桂皮酸、
・ α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸、好ましくはマレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、
・ 共重合性酸化防止剤、例えばN-(4-アニリノフェニル)アクリルアミド、N-(4-アニリノフェニル)メタクリルアミド、N-(4-アニリノフェニル)シンナミド、N-(4-アニリノフェニル)クロトンアミド、N-フェニル-4-(3-ビニルベンジルオキシ)アニリン、N-フェニル-4-(4-ビニルベンジルオキシ)アニリン又は
・ 架橋性モノマー、例えばジビニル成分、例えばジビニルベンゼンなど。
【0052】
代替の実施形態において、ニトリル-ジエンコポリマーは、任意選択のPEGアクリレート単位として、2~12個のエチレングリコール繰り返し単位を含むエトキシ、ブトキシ又はエチルヘキシルオキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、より好ましくは2~5個のエチレングリコール繰り返し単位を含むエトキシ又はブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート及び最も好ましくは2又は3個のエチレングリコール繰り返し単位を含むエトキシ又はブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートを含有する。
【0053】
さらなる代替実施形態において、ニトリル-ジエンコポリマーは、8重量%~18重量%のアクリロニトリル単位、27重量%~65重量%の1,3-ブタジエン単位及び任意選択的に27重量%~55重量%のPEG-2アクリレート単位又はPEG-3アクリレート単位を含有する。
【0054】
好ましい実施形態において、ニトリル-ジエンコポリマーは、ニトリルモノマー単位及びジエンモノマー単位だけでなく、追加的なモノマーとして、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル単位、PEGアクリレート単位又はα,β-エチレン性不飽和カルボン酸単位を含有する。
【0055】
最も好ましいニトリル-ジエンコポリマーは、アクリロニトリル/ブタジエン;アクリロニトリル/ブタジエン/(メタ)アクリル酸;アクリロニトリル/ブタジエン/ブチル(メタ)アクリレート;アクリロニトリル/ブタジエン/ブチルマレエート;アクリロニトリル/ブタジエン/ブチルイタコネート;アクリロニトリル/ブタジエン/メトキシエチル(メタ)アクリレート;アクリロニトリル/ブタジエン/ブトキシジグリコール(メタ)アクリレート又はアクリロニトリル/ブタジエン/エトキシトリグリコール(メタ)アクリレートを含有する。
【0056】
本発明による非水素化ニトリル-ジエンコポリマーは典型的に、25000g/モル~5000000g/モル、好ましくは100000g/モル~2500000g/モル、より好ましくは125000g/モル~1250000g/モル及び最も好ましくは150000g/モル~700000g/モルの数平均分子量(Mw)を有する。
【0057】
本発明による非水素化ニトリル-ジエンコポリマーは典型的に、1.5~6、好ましくは2~5及びより好ましくは2.5~4の多分散指数(PDI=M/M、Mは重量平均分子量を意味する)を有する。
【0058】
本発明による非水素化ニトリル-ジエンコポリマーは典型的に、10~150、好ましくは20~120及びより好ましくは25~100のムーニー粘度(ML1+4@100℃)を有する。
【0059】
非水素化ニトリル-ジエンコポリマーを調製するための方法
水素化のための中間体として必要とされる非水素化ニトリル-ジエンコポリマーの調製は、前述のモノマーの重合によって達成され得、文献(例えばHouben-Weyl,Methoden der Organischen Chemie[Methods of Organic Chemistry],vol.14/1,30 Georg Thieme Verlag Stuttgart 1961)において広範囲にわたって記載されており、特に限定されない。一般的には、この方法は、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単位、共役ジエン単位及び任意選択の追加的なモノマー単位が望む通りに共重合される方法である。使用される重合方法は、任意の公知の乳化重合方法、懸濁重合方法、塊状重合方法及び溶液重合方法であり得る。好ましいのは乳化重合方法である。乳化重合は特に、使用される反応媒体が通常は水である本質的に公知の方法を意味すると理解される(とりわけ、Roempp Lexikon der Chemie [Roempp’s Chemistry Lexicon],volume 2,10th edition 1997;P.A.Lovell,M.S.El-Aasser,Emulsion Polymerization and Emulsion Polymers,John Wiley & Sons,ISBN: 0471 96746 7;H.Gerrens,Fortschr.Hochpolym.Forsch.1,234(1959)を参照のこと)。ターモノマーの混合速度は、本発明によるターポリマーが得られるように当業者によって容易に調節することができる。モノマーを初期に投入するか又は2つ以上の工程において増加的に反応させることができる。
【0060】
ニトリルゴムのメタセシス反応は、例えば、国際公開第A02/100941号パンフレット及び国際公開第A02/100905号パンフレットから公知であり、分子量を低下させるために使用され得る。
【0061】
メタセシス反応はメタセシス触媒の存在下で行われる。
【0062】
本発明に従って使用されるメタセシス触媒は、モリブデン、オスミウム又はルテニウムベースのメタセシス触媒である。好ましいメタセシス触媒はルテニウムベースのメタセシス触媒である。
【0063】
本発明に適したメタセシス触媒は、一般式(A)
【化3】
[式中、
Mはオスミウム又はルテニウムであり、
及びXは同一であるか又は異なり、2つの配位子、好ましくはアニオン配位子を表し、
Lは同一又は異なった配位子、好ましくは非荷電電子供与体を表し、
Rは同一であるか又は異なり、水素、アルキル、好ましくはC~C30-アルキル、シクロアルキル、好ましくはC~C20-シクロアルキル、アルケニル、好ましくはC~C20-アルケニル、アルキニル、好ましくはC~C20-アルキニル、アリール、好ましくはC~C24-アリール、カルボキシレート、好ましくはC~C20-カルボキシレート、アルコキシ、好ましくはC~C20-アルコキシ、アルケニルオキシ、好ましくはC~C20-アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、好ましくはC~C20-アルキニルオキシ、アリールオキシ、好ましくはC~C24-アリールオキシ、アルコキシカルボニル、好ましくはC~C20-アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、好ましくはC~C30-アルキルアミノ、アルキルチオ、好ましくはC~C30-アルキルチオ、アリールチオ、好ましくはC~C24-アリールチオ、アルキルスルホニル、好ましくはC~C20-アルキルスルホニル、又はアルキルスルフィニル、好ましくはC~C20-アルキルスルフィニルを表し、ここで、全てのこれらの基は、それぞれ、1つ又は複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール又はヘテロアリール基によって任意選択的に置換され得、或いは代わりに、2つのR基が、それらが結合している共通の炭素原子と一緒に架橋して、本質的に脂肪族又は芳香族であり得、任意選択的に置換され且つ1つ又は複数のヘテロ原子を含有し得る、環状基を形成し得る]の化合物である。
【0064】
一般式(A)の好ましい触媒において、一方のR基は水素であり、他方のR基はC~C20-アルキル、C~C10-シクロアルキル、C~C20-アルケニル、C~C20-アルキニル、C~C24-アリール、C~C20-カルボキシレート、C~C20-アルコキシ、C~C20-アルケニルオキシ、C~C20-アルキニルオキシ、C~C24-アリールオキシ、C~C20-アルコキシカルボニル、C~C30-アルキルアミノ、C~C30-アルキルチオ、C~C24-アリールチオ、C~C20-アルキルスルホニル又はC~C20-アルキルスルフィニルであり、ここで、全てのこれらの基がそれぞれ、1つ又は複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール又はヘテロアリール基によって置換され得る。
【0065】
一般式(A)の触媒において、X及びXは同一であるか又は異なり、2つの配位子、好ましくはアニオン配位子である。
【0066】
及びXは、例えば、水素、ハロゲン、擬ハロゲン、直鎖又は分岐状C~C30-アルキル、C~C24-アリール、C~C20-アルコキシ、C~C24-アリールオキシ、C~C20-アルキルジケトネート、C~C24-アリールジケトネート、C~C20-カルボキシレート、C~C20-アルキルスルホネート、C~C24-アリールスルホネート、C~C20-アルキルチオール、C~C24-アリールチオール、C~C20-アルキルスルホニル又はC~C20-アルキルスルフィニル基であり得る。
【0067】
また、前述のX及びX基は、1つ又は複数の追加的な基によって、例えばハロゲン、好ましくはフッ素、C~C10-アルキル、C~C10-アルコキシ又はC~C24-アリールによって置換され得、ここで、これらの基も、任意選択的にさらには、ハロゲン、好ましくはフッ素、C~C-アルキル、C~C-アルコキシ及びフェニルを含む群から選択される1つ又は複数の置換基によって置換され得る。
【0068】
好ましい実施形態において、X及びXは、同一であるか又は異なり、ハロゲン、特にフッ素、塩素、臭素又はヨウ素、ベンゾエート、C~C-カルボキシレート、C~C-アルキル、フェノキシ、C~C-アルコキシ、C~C-アルキルチオール、C~C24-アリールチオール、C~C24-アリール又はC~C-アルキルスルホネートである。
【0069】
特に好ましい実施形態において、X及びXは、同一であり、ハロゲン、特に塩素、CFCOO、CHCOO、CFHCOO、(CHCO、(CF(CH)CO、(CF)(CHCO、PhO(フェノキシ)、MeO(メトキシ)、EtO(エトキシ)、トシレート(p-CH-C-SO)、メシレート(2,4,6-トリメチルフェニル)又はCFSO(トリフルオロメタンスルホネート)である。
【0070】
一般式(A)において、Lは同一又は異なった配位子であり、好ましくは非荷電電子供与体である。
【0071】
2つのL配位子は、例えば、独立にホスフィン、スルホン化ホスフィン、ホスフェート、ホスフィニト、ホスホニト、アルシン、スチビン、エーテル、アミン、アミド、スルホキシド、カルボキシル、ニトロシル、ピリジン、チオエーテル又はイミダゾリジン(「Im」)配位子を表し得る。
【0072】
好ましくは、2つのL配位子は、独立に、C~C24-アリール-、C~C10-アルキル-又はC~C20-シクロアルキルホスフィン配位子、スルホン化C~C24-アリール-又はスルホン化C~C10-アルキルホスフィン配位子、C~C24-アリール-又はC~C10-アルキルホスフィニト配位子、C~C24-アリール-又はC~C10-アルキルホスホニト配位子、C~C24-アリール-又はC~C10-アルキルホスフィト配位子、C~C24-アリール-又はC~C10-アルキルアルシン配位子、C~C24-アリール-又はC~C10-アルキルアミン配位子、ピリジン配位子、C~C24-アリール-又はC~C10-アルキルスルホキシド配位子、C~C24-アリールエーテル又はC~C10-アルキルエーテル配位子又はC~C24-アリール-又はC~C10-アルキルアミド配位子であり、それらの全てがそれぞれ、ハロゲン、C~C-アルキル又はC~C-アルコキシ基によって任意選択的にさらには置換されるフェニル基によって置換され得る。
【0073】
用語「ホスフィン」には、例えば、PPh、P(p-Tol)、P(o-Tol)、PPh(CH、P(CF、P(p-FC、P(p-CF、P(C-SONa)、P(CH-SONa)、P(イソプロピル)、P(CHCH(CHCH))、P(シクロペンチル)、P(シクロヘキシル)、P(ネオペンチル)及びP(ネオフェニル)が含まれる。
【0074】
用語「ホスフィニト(phosphinite)」には、例えば、トリフェニルホスフィニト、トリシクロヘキシルホスフィニト、トリイソプロピルホスフィニト及びメチルジフェニルホスフィニトが含まれる。
【0075】
用語「ホスフィット(phosphite)」には、例えば、トリフェニルホスフィト、トリシクロヘキシルホスフィト、トリ-tert-ブチルホスフィト、トリイソプロピルホスフィト及びメチルジフェニルホスフィトが含まれる。
【0076】
用語「スチビン(stibine)」には、例えば、トリフェニルスチビン、トリシクロヘキシルスチビン及びトリメチルスチビンが含まれる。
【0077】
用語「スルホネート」には、例えば、トリフルオロメタンスルホネート、トシレート及びメシレートが含まれる。
【0078】
用語「スルホキシド」には、例えば、(CHS(=O)及び(CS=Oが含まれる。
【0079】
用語「チオエーテル」には、例えば、CHSCH、CSCH、CHOCHCHSCH及びテトラヒドロチオフェンが含まれる。
【0080】
用語「ピリジン」は、本出願の文脈において、例えば、国際公開第A03/011455号パンフレットのGrubbsによって明記されるように全ての窒素含有配位子のための包括的な用語として理解されるものとする。その例は:ピリジン、ピコリン(α-、β-、及びγ-ピコリン)、ルチジン(2,3-、2,4-、2,5-、2,6-、3,4-及び3,5-ルチジン)、コリジン(2,4,6-トリメチルピリジン)、トリフルオロメチルピリジン、フェニルピリジン、4-(ジメチルアミノ)ピリジン、クロロピリジン、ブロモピリジン、ニトロピリジン、キノリン、ピリミジン、ピロール、イミダゾール及びフェニルイミダゾールである。
【0081】
L配位子の一方又は両方がイミダゾリジン基(Im)であるとき、これは典型的に一般式(IIa)又は(IIb)
【化4】
(式中、
、R、R10、R11は同一であるか又は異なり、水素、直鎖又は分岐状C~C30-アルキル、C~C20-シクロアルキル、C~C20-アルケニル、C~C20-アルキニル、C~C24-アリール、C~C20-カルボキシレート、C~C20-アルコキシ、C~C20-アルケニルオキシ、C~C20-アルキニルオキシ、C~C20-アリールオキシ、C~C20-アルコキシカルボニル、C~C20-アルキルチオ、C~C20-アリールチオ、C~C20-アルキルスルホニル、C~C20-アルキルスルホネート、C~C20-アリールスルホネート又はC~C20-アルキルスルフィニルである)の構造を有する。
【0082】
任意選択的に、R、R、R10、R11基の1つ又は複数は、それぞれ独立に、1つ又は複数の置換基、好ましくは直鎖又は分岐状C~C10-アルキル、C~C-シクロアルキル、C~C10-アルコキシ又はC~C24-アリールによって置換され得、ここで、これらの前述の置換基は、ハロゲン、特に塩素又は臭素、C~C-アルキル、C~C-アルコキシ及びフェニルの群から好ましくは選択される、1つ又は複数の基によってさらに置換され得る。
【0083】
単に明確にするために、本出願の文脈において一般式(IIa)及び(IIb)に示されるイミダゾリジン基の構造は、イミダゾリジン基のカルベン特性を強調する、このイミダゾリジン基(Im)について文献においてしばしば同様に見出される構造(IIa’)及び(IIb’)に等しいということが付け加えられるべきである。このことは、以下に示される相当する好ましい構造(IIIa)~(IIIf)にも準用される。
【化5】
【0084】
一般式(A)の触媒の好ましい実施形態において、R及びRは、独立に水素、C~C24-アリール、より好ましくはフェニル、直鎖又は分岐状C~C10-アルキル、より好ましくはプロピル又はブチルであるか、又はそれらが結合している炭素原子と一緒に、シクロアルキル又はアリール基を形成し、ここで、全ての前述の基は、直鎖又は分岐状C~C10-アルキル、C~C10-アルコキシ、C~C24-アリール、並びにヒドロキシル、チオール、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート及びハロゲンからなる群から選択される官能基を含む群から選択される1つ又は複数の追加的な基によってさらに任意選択的に置換され得る。
【0085】
一般式(A)の触媒の好ましい実施形態において、R10及びR11基は、さらに同一であるか又は異なり、直鎖又は分岐状C~C10-アルキル、より好ましくはイソプロピル又はネオペンチル、C~C10-シクロアルキル、好ましくはアダマンチル、C~C24-アリール、より好ましくはフェニル、C~C10-アルキルスルホネート、より好ましくはメタンスルホネート、C~C10-アリールスルホネート、より好ましくはp-トルエンスルホネートである。
【0086】
任意選択的に、R10及びR11の定義として前述した基は、直鎖又は分岐状C~C-アルキル、特にメチル、C~C-アルコキシ、アリール、並びにヒドロキシル、チオール、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート及びハロゲンからなる群から選択される官能基を含む群から選択される1つ又は複数の追加的な基によって置換される。
【0087】
より詳しくは、R10及びR11基は同一であっても異なっていてもよく、イソプロピル、ネオペンチル、アダマンチル、メシチル又は2,6-ジイソプロピルフェニルである。
【0088】
特に好ましいイミダゾリジン基(Im)は以下の構造(IIIa)~(IIIf)を有し、ここで、Phは各場合においてフェニル基であり、Buはブチル基であり、Mesは各場合において2,4,6-トリメチルフェニル基であるか、或いはMesは代わりに全ての場合において2,6-ジイソプロピルフェニルである。
【化6】
【0089】
式(A)の触媒の多種多様な異なった代表例は、基本的には、例えば国際公開第A96/04289号パンフレット及び国際公開第A97/06185号パンフレットから公知である。
【0090】
好ましいIm基の代替として、一般式(A)の一方又は両方のL配位子が好ましくは、同一又は異なったトリアルキルホスフィン配位子であり、ここで、アルキル基の少なくとも1つは第二級アルキル基又はシクロアルキル基、好ましくはイソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、ネオペンチル、シクロペンチル又はシクロヘキシルを表す。
【0091】
より好ましくは、一般式(A)において、一方又は両方のL配位子がトリアルキルホスフィン配位子であり、ここで、アルキル基の少なくとも1つは第二級アルキル基又はシクロアルキル基、好ましくはイソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、ネオペンチル、シクロペンチル又はシクロヘキシルを表す。
【0092】
特に好ましいのは、一般式(A)によって網羅されて構造(IV)(Grubbs I触媒)及び構造(V)(Grubbs II触媒)を含む触媒であり、ここで、Cyはシクロヘキシルである。
【化7】
【0093】
本発明による他の適したメタセシス触媒はまた、一般式(B)
【化8】
(式中、
Mはルテニウム又はオスミウムであり、
及びXは同一又は異なった配位子、好ましくはアニオン配位子であり、
Yは酸素(O)、硫黄(S)、N-R基又はP-R基であり、ここで、Rは以下に示される定義を有し、
はアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニル又はアルキルスルフィニル基を表し、それらの全てがそれぞれ、1つ又は複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール又はヘテロアリール基によって任意選択的に置換され得、
、R、R及びRは同一であるか又は異なり、水素或いは有機基又は無機基を表し、
は水素又はアルキル、アルケニル、アルキニル又はアリール基を表し、及び
Lは式(A)について定義される配位子である)の化合物である。
【0094】
一般式(B)の触媒は基本的には公知である。この化合物クラスの代表例は、Hoveydaらによって米国特許出願公開第A2002/0107138号明細書及びAngew.Chem.Int.Ed.2003,42,4592に記載される触媒、及びGrelaによって国際公開第A2004/035596号パンフレット、Eur.J.Org.Chem 2003,963-966及びAngew.Chem.Int.Ed.2002,41,4038、及びまたJ.Org.Chem.2004,69,6894-96及びChem.Eur.J 2004,10,777-784に記載される触媒である。触媒は市販されており、引用文献に従って調製可能である。
【0095】
一般式(B)の触媒において、Lは、典型的に電子供与体機能を有し且つ一般式(A)のLと同じ一般的な、好ましい定義及び特に好ましい定義を与え得る配位子である。
【0096】
さらに、一般式(B)のLは好ましくは、P(R基を表し、ここで、Rは独立にC~Cアルキル、C~C-シクロアルキル又はアリール、或いはまた任意選択的に置換されたイミダゾリジン基(「Im」)である。
【0097】
~C-アルキルは、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、1-メチルブチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、ネオペンチル、1-エチルプロピル及びn-ヘキシルである。
【0098】
~C-シクロアルキルは、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル及びシクロオクチルを含む。
【0099】
アリールは、6~24個の骨格炭素原子を有する芳香族基を含む。6~10個の骨格炭素原子を有する好ましい単環、二環又は三環炭素環芳香族基には、例えば、フェニル、ビフェニル、ナフチル、フェナントレニル又はアントラセニルが含まれる。
【0100】
イミダゾリジン基(Im)は典型的に、一般式(IIa)又は(IIb)
【化9】
(式中、
、R、R10、R11が同一であるか又は異なり、水素、直鎖又は分岐状C~C30-アルキル、C~C20-シクロアルキル、C~C20-アルケニル、C~C20-アルキニル、C~C24-アリール、C~C20-カルボキシレート、C~C20-アルコキシ、C~C20-アルケニルオキシ、C~C20-アルキニルオキシ、C~C20-アリールオキシ、C~C20-アルコキシカルボニル、C~C20-アルキルチオ、C~C20-アリールチオ、C~C20-アルキルスルホニル、C~C20-アルキルスルホネート、C~C20-アリールスルホネート又はC~C20-アルキルスルフィニルである)の構造を有する。
【0101】
任意選択的に、R、R、R10、R11基の1つ又は複数は、1つ又は複数の置換基、好ましくは直鎖又は分岐状C~C10-アルキル、C~C-シクロアルキル、C~C10-アルコキシ又はC~C24-アリールによって独立に置換され得、ここで、これらの前述の置換基は、ハロゲン、特に塩素又は臭素、C~C-アルキル、C~C-アルコキシ及びフェニルの群から好ましくは選択される、1つ又は複数の基によってさらには置換され得る。
【0102】
任意選択的に、R10及びR11の定義として前述した基は、直鎖又は分岐状C~C-アルキル、特にメチル、C~C-アルコキシ、アリール、並びにヒドロキシル、チオール、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート及びハロゲンからなる群から選択される官能基を含む群から選択される1つ又は複数の追加的な基によって置換され得る。
【0103】
より詳しくは、R10及びR11基は同一であっても異なっていてもよく、イソプロピル、ネオペンチル、アダマンチル又はメシチルである。
【0104】
特に好ましいイミダゾリジン基(Im)は既述の構造(IIIa~IIIf)を有し、ここで、各場合のMesは2,4,6-トリメチルフェニルである。
【0105】
一般式(B)の触媒において、X及びXは同一であるか又は異なり、例えば、水素、ハロゲン、擬ハロゲン、直鎖又は分岐状C~C30-アルキル、C~C24-アリール、C~C20-アルコキシ、C~C24-アリールオキシ、C~C20-アルキルジケトネート、C~C24-アリールジケトネート、C~C20-カルボキシレート、C~C20-アルキルスルホネート、C~C24-アリールスルホネート、C~C20-アルキルチオール、C~C24-アリールチオール、C~C20-アルキルスルホニル又はC~C20-アルキルスルフィニルであり得る。
【0106】
また、前述のX及びX基は、1つ又は複数の追加的な基によって、例えばハロゲン、好ましくはフッ素、C~C10-アルキル、C~C10-アルコキシ又はC~C24-アリール基によって置換され得、ここで、後者の基も、任意選択的にさらには、ハロゲン、好ましくはフッ素、C~C-アルキル、C~C-アルコキシ及びフェニルを含む群から選択される1つ又は複数の置換基によって置換され得る。
【0107】
好ましい実施形態において、X及びXは同一であるか又は異なり、ハロゲン、特にフッ素、塩素、臭素又はヨウ素、ベンゾエート、C~C-カルボキシレート、C~C-アルキル、フェノキシ、C~C-アルコキシ、C~C-アルキルチオール、C~C24-アリールチオール、C~C24-アリール又はC~C-アルキルスルホネートである。
【0108】
特に好ましい実施形態において、X及びXは同一であり、ハロゲン、特に塩素、CFCOO、CHCOO、CFHCOO、(CHCO、(CF(CH)CO、(CF)(CHCO、PhO(フェノキシ)、MeO(メトキシ)、EtO(エトキシ)、トシレート(p-CH-C-SO)、メシレート(2,4,6-トリメチルフェニル)又はCFSO(トリフルオロメタンスルホネート)である。
【0109】
一般式(B)において、R基はアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニル又はアルキルスルフィニル基であり、それらの全てがそれぞれ、1つ又は複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール又はヘテロアリール基によって任意選択的に置換され得る。
【0110】
典型的に、R基はC~C30-アルキル、C~C20-シクロアルキル、C~C20-アルケニル、C~C20-アルキニル、C~C24-アリール、C~C20-アルコキシ、C~C20-アルケニルオキシ、C~C20-アルキニルオキシ、C~C24-アリールオキシ、C~C20-アルコキシカルボニル、C~C20-アルキルアミノ、C~C20-アルキルチオ、C~C24-アリールチオ、C~C20-アルキルスルホニル又はC~C20-アルキルスルフィニル基であり、それらの全てがそれぞれ、1つ又は複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール又はヘテロアリール基によって任意選択的に置換され得る。
【0111】
好ましくは、RはC~C20-シクロアルキル基、C~C24-アリール基或いは直鎖又は分岐状C~C30-アルキル基であり、ここで、後者は、1つ又は複数の二重結合又は三重結合或いは他の1つ又は複数のヘテロ原子、好ましくは酸素又は窒素によって任意選択的に割り込まれていてもよい。より好ましくは、Rは直鎖又は分岐状C~C12-アルキル基である。
【0112】
~C20-シクロアルキル基は、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル及びシクロオクチルを含む。
【0113】
~C12-アルキル基は、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、1-メチルブチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、ネオペンチル、1-エチルプロピル、n-ヘキシル、n-へプチル、n-オクチル、n-デシル又はn-ドデシルであり得る。より詳しくは、Rはメチル又はイソプロピルである。
【0114】
~C24-アリール基は、6~24個の骨格炭素原子を有する芳香族基である。6~10の骨格炭素原子を有する好ましい単環、二環又は三環炭素環芳香族基には、例えば、フェニル、ビフェニル、ナフチル、フェナントレニル又はアントラセニルが含まれる。
【0115】
一般式(B)において、R、R、R及びR基は同一であるか又は異なり、水素或いは有機基又は無機基を表し得る。
【0116】
適した実施形態において、R、R、R、Rは同一であるか又は異なり、水素、ハロゲン、ニトロ、CF、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニル又はアルキルスルフィニル基であり、それらの全てがそれぞれ、1つ又は複数のアルキル、アルコキシ、ハロゲン、アリール又はヘテロアリール基によって任意選択的に置換され得る。
【0117】
典型的に、R、R、R、Rは同一であるか又は異なり、水素、ハロゲン、好ましくは塩素又は臭素、ニトロ、CF、C~C30-アルキル、C~C20-シクロアルキル、C~C20-アルケニル、C~C20-アルキニル、C~C24-アリール、C~C20-アルコキシ、C~C20-アルケニルオキシ、C~C20-アルキニルオキシ、C~C24-アリールオキシ、C~C20-アルコキシカルボニル、C~C20-アルキルアミノ、C~C20-アルキルチオ、C~C24-アリールチオ、C~C20-アルキルスルホニル又はC~C20-アルキルスルフィニル基であり、それらの全てがそれぞれ、1つ又は複数のC~C30-アルキル、C~C20-アルコキシ、ハロゲン、C~C24-アリール又はヘテロアリール基によって任意選択的に置換され得る。
【0118】
特に証明された実施形態において、R、R、R、Rは同一であるか又は異なり、ニトロ、直鎖又は分岐状C~C30-アルキル、C~C20-シクロアルキル、直鎖又は分岐状C~C20-アルコキシ基又はC~C24-アリール基、好ましくはフェニル又はナフチルである。C~C30-アルキル基及びC~C20-アルコキシ基は、1つ又は複数の二重結合又は三重結合或いは他の1つ又は複数のヘテロ原子、好ましくは酸素又は窒素によって任意選択的に割り込まれていてもよい。
【0119】
さらに、R、R、R又はR基の2つ以上は、脂肪族又は芳香族構造によって架橋もされ得る。R及びRは、例えば、式(B)のフェニル環においてそれらが結合している炭素原子を含めて、縮合(fused-on)フェニル環を形成して全体としてナフチル構造をもたらすことができる。
【0120】
一般式(B)において、R基は水素又はアルキル、アルケニル、アルキニル又はアリール基である。好ましくは、Rは水素又はC~C30-アルキル、C~C20-アルケニル、C~C20-アルキニル又はC~C24-アリール基である。より好ましくは、Rは水素である。
【0121】
さらに適しているのは、一般式(B1)
【化10】
(式中、
M、L、X、X、R、R、R、R及びRは、一般式(B)について与えられる一般的な、好ましい定義及び特に好ましい定義を有し得る)のメタセシス触媒である。
【0122】
一般式(B1)の触媒は基本的には、例えば、米国特許出願公開第A2002/0107138号明細書(Hoveydaら)から公知であり、そこに記載された調製方法によって得ることができる。
【0123】
特に好ましいのは一般式(B1)の触媒であり、ここで
Mはルテニウムを表し、
及びXは両方ともハロゲン、特に両方とも塩素であり、
は、直鎖又は分岐状C~C12アルキル基であり、
、R、R、Rは、一般式(B)について与えられる一般的な及び好ましい定義を有し、及び
Lは、一般式(B)について与えられる一般的な及び好ましい定義を有する。
【0124】
特に好ましい触媒は、一般式(B1)の触媒であり、ここで
Mはルテニウムを表し、
及びXは両方とも塩素であり、
はイソプロピル基であり、
、R、R、Rは全て水素であり、及び
Lは、式(IIa)又は(IIb)
【化11】
[式中、
、R、R10、R11は同一であるか又は異なり、水素、直鎖又は分岐状C~C30-アルキル、C~C20-シクロアルキル、C~C20-アルケニル、C~C20-アルキニル、C~C24-アリール、C~C20-カルボキシレート、C~C20-アルコキシ、C~C20-アルケニルオキシ、C~C20-アルキニルオキシ、C~C24-アリールオキシ、C~C20-アルコキシカルボニル、C~C20-アルキルチオ、C~C24-アリールチオ、C~C20-アルキルスルホニル、C~C20-アルキルスルホネート、C~C24-アリールスルホネート又はC~C20-アルキルスルフィニルであり、ここで、前述の基はそれぞれ、1つ又は複数の置換基、好ましくは直鎖又は分岐状C~C10-アルキル、C~C-シクロアルキル、C~C10-アルコキシ又はC~C24-アリールによって置換され得、これらの前述の置換基はまた、ハロゲン、特に塩素又は臭素、C~C-アルキル、C~C-アルコキシ及びフェニルの群から好ましくは選択される、1つ又は複数の基によってさらには置換され得る]の任意選択的に置換されたイミダゾリジン基を表す。
【0125】
非常に特に好ましいのは、一般式(B1)によって網羅されて構造(VII)を有するメタセシス触媒であり、ここで、各場合のMesは2,4,6-トリメチルフェニルである。
【化12】
【0126】
構造(VII)のこの触媒はまた、文献において「Grubbs-Hoveyda II触媒」と称されている。
【0127】
さらに適したメタセシス触媒は、一般的な構造式(B1)によって網羅されて以下の式(VIII)、(IX)、(X)、(XI)、(XII)、(XIII)、(XIV)及び(XV)の1つを有するメタセシス触媒であり、ここで、各場合のMesは2,4,6-トリメチルフェニルである。
【化13A】
【化13B】
【0128】
構造(XV)の触媒は、文献において「Zhan 1B触媒」とも称される。
【0129】
本発明によるさらなるメタセシス触媒は、一般式(B2)
【化14】
(式中、
M、L、X、X、R及びRは式(B)について与えられる一般的な及び好ましい定義を有し、
12は同一であるか又は異なり、水素を除いて、式(B)のR、R、R及びR基について与えられる一般的な及び好ましい定義を有し、
Nは0、1、2又は3である)の構造を有する。
【0130】
一般式(B2)の触媒は、基本的に、例えば、国際公開第A2004/035596号パンフレット(Grela)から公知であり、そこに記載された調製方法によって得ることができる。
【0131】
特に好ましいのは一般式(B2)のメタセシス触媒であり、ここで
Mはルテニウムを表し、
及びXは両方ともハロゲン、特に両方とも塩素であり、
は直鎖又は分岐状C~C12アルキル基であり、
12は一般式(B2)について定義される通りであり、
nは0、1、2又は3であり、
は水素であり、及び
Lは一般式(B)について定義される通りである。
【0132】
特に好ましいのは一般式(B2)のものであり、ここで
Mはルテニウムを表し、
及びXは両方とも塩素であり、
はイソプロピル基であり、
nは0であり、及び
Lは式(IIa)又は(IIb)の任意選択的に置換されたイミダゾリジン基を表し、ここで、R、R、R10、R11は同一であるか又は異なり、一般式(B1)の特に好ましい触媒について定義される通りである。
【化15】
【0133】
構造(XVI)の触媒は、文献において「Grela触媒」とも称される。
【0134】
さらに適したメタセシス触媒は以下の構造(XVII)を有し、ここで、各場合のMesは2,4,6-トリメチルフェニルである。
【化16】
【0135】
(B)タイプの全ての前述の触媒は、NBRメタセシス反応のための反応混合物中でそのままで使用され得るか或いはまたそれらは固形担体に適用されてその上に固定化され得る。適した固相又は担体は、第一にメタセシス反応混合物に対して不活性であり且つ第二に触媒の活性を損なわない材料である。触媒は、例えば、金属、ガラス、ポリマー、セラミック、有機ポリマービード或いはまた無機ゾル-ゲル、カーボンブラック、シリカ、シリケート、炭酸カルシウム及び硫酸バリウムを使用して固定化され得る。
【0136】
さらなる代替実施形態は、一般的な構造要素(N1)を有するメタセシス触媒(N)に関し、ここで、「*」によって示される炭素原子は、1つ又は複数の二重結合によって触媒基本骨格に結合している。
【化17】
(式中、
25~R32が同一であるか又は異なり、水素、ハロゲン、ヒドロキシル、アルデヒド、ケト、チオール、CF、ニトロ、ニトロソ、シアノ、チオシアノ、イソシアナト、カルボジイミド、カルバメート、チオカルバメート、ジチオカルバメート、アミノ、アミド、イミノ、シリル、スルホネート(-SO-)、-OSO-、-PO-又はOPO-を表すか、又はアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、カルボキシレート、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニル、アルキルスルフィニル、ジアルキルアミノ、アルキルシリル又はアルコキシシリルであり、ここで、全てのこれらの基がそれぞれ、1つ又は複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール又はヘテロアリール基によって任意選択的に置換され得、或いは代わりにそれらが結合している環炭素原子を含む、R25~R32の基からの各場合の2つの直接隣接した基が架橋して、環状基、好ましくは芳香族系を形成するか、或いは代わりにRは、ルテニウム-又はオスミウム-カルベンメタセシス触媒の別の配位子と任意選択的に架橋しており、
mは0又は1であり、及び
Aは酸素、硫黄、C(R3334)、N-R35、-C(R36)=C(R37)-、-C(R36)(R38)-C(R37)(R39)-であり、ここで、R33~R39が同一であるか又は異なり、それぞれ、R25~R32基と同じ定義を有し得る)。
【0137】
本発明による触媒は一般式(N1)の構造要素を有し、ここで、「*」によって示される炭素原子は、1つ又は複数の二重結合によって触媒基本骨格に結合している。「*」によって示される炭素原子が2つ以上の二重結合によって触媒基本骨格に結合しているとき、これらの二重結合は集積又は共役され得る。
【0138】
このような触媒(N)は、欧州特許出願公開第A2027920号明細書にすでに記載されており、当業者に公知である。
【0139】
一般式(N1)の構造要素を有する触媒(N)には、例えば、以下の一般式(N2a)及び(N2b):
【化18】
(式中、
Mはルテニウム又はオスミウムであり,
及びXは同一であるか又は異なり、2つの配位子、好ましくはアニオン配位子を表し、
及びLは同一又は異なった配位子、好ましくは非荷電電子供与体を表し、ここで、Lはまた、代わりにR基に架橋され得、
nは0、1、2又は3、好ましくは0、1又は2であり、
n’は1又は2、好ましくは1であり、及び
25~R32、m及びAは一般式(N1)におけるのと同じ定義を有する)の触媒が含まれる。
【0140】
一般式(N2a)の触媒において、一般式(N1)の構造要素は、二重結合(n=0)によって又は2、3又は4の集積二重結合(n=1、2又は3の場合)によってメタセシス触媒の中心金属に結合している。一般式(N2b)の本発明の触媒において、一般式(N1)の構造要素は、共役二重結合によってメタセシス触媒の金属に結合している。両方の場合において、「*」によって示される炭素原子上のメタセシス触媒の中心金属の方向に二重結合がある。
【0141】
したがって一般式(N2a)及び(N2b)の触媒には、以下の一般的な構造要素(N3)~(N9)
【化19】
が“*”によって示される炭素原子によって、1つ又は複数の二重結合によって一般式(N10a)又は(N10b)
【化20】
(式中、X及びX、L1及びL2、n、n’並びにR25~R39は一般式(N2a)及び(N2b)について定義される通りである)の触媒基本骨格に結合している触媒が含まれる。
【0142】
典型的に、本発明のルテニウム-又はオスミウム-カルベン触媒は五配位である。
【0143】
一般式(N1)の構造要素において、
15~R32は同一であるか又は異なり、水素、ハロゲン、ヒドロキシル、アルデヒド、ケト、チオール、CF、ニトロ、ニトロソ、シアノ、チオシアノ、イソシアナト、カルボジイミド、カルバメート、チオカルバメート、ジチオカルバメート、アミノ、アミド、イミノ、シリル、スルホネート(-SO-)、-OSO-、-PO-又はOPO-を表すか又はアルキル、好ましくはC~C20-アルキル、特にC~C-アルキル、シクロアルキル、好ましくはC~C20-シクロアルキル、特にC~C-シクロアルキル、アルケニル、好ましくはC~C20-アルケニル、アルキニル、好ましくはC~C20-アルキニル、アリール、好ましくはC~C24-アリール、特にフェニル、カルボキシレート、好ましくはC~C20-カルボキシレート、アルコキシ、好ましくはC~C20-アルコキシ、アルケニルオキシ、好ましくはC~C20-アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、好ましくはC~C20-アルキニルオキシ、アリールオキシ、好ましくはC~C24-アリールオキシ、アルコキシカルボニル、好ましくはC~C20-アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、好ましくはC~C30-アルキルアミノ、アルキルチオ、好ましくはC~C30-アルキルチオ、アリールチオ、好ましくはC~C24-アリールチオ、アルキルスルホニル、好ましくはC~C20-アルキルスルホニル、アルキルスルフィニル、好ましくはC~C20-アルキルスルフィニル、ジアルキルアミノ、好ましくはジ(C~C20-アルキル)アミノ、アルキルシリル、好ましくはC~C20-アルキルシリル、又はアルコキシシリル、好ましくはC~C20-アルコキシシリル基であり、ここで、全てのこれらの基がそれぞれ、1つ又は複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール又はヘテロアリール基によって置換され得、或いは代わりにそれらが結合している環炭素原子を含めて、R25~R32の基からの各場合の2つの直接隣接した基が架橋して環状基、好ましくは芳香族系を形成し得るか、或いは代わりにRは、ルテニウム-又はオスミウム-カルベンメタセシス触媒の別の配位子と任意選択的に架橋している。
mは0又は1であり、及び
Aは酸素、硫黄、C(R33)(R34)、N-R35、-C(R36)=C(R37)-又は-C(R36)(R38)-C(R37)(R39)-であり、ここで、R33~R39が同一であるか又は異なり、それぞれ、R~R基と同じ好ましい定義を有し得る。
【0144】
一般式(N1)の構造要素においてC~C-アルキルは、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、1-メチルブチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、ネオペンチル、1-エチルプロピル及びn-ヘキシルである。
【0145】
一般式(N1)の構造要素においてC~C-シクロアルキルは、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル及びシクロオクチルである。
【0146】
一般式(N1)の構造要素においてC~C24-アリールは、6~24個の骨格炭素原子を有する芳香族基を含む。6~10個の骨格炭素原子を有する好ましい単環、二環又は三環炭素環芳香族基には、例えば、フェニル、ビフェニル、ナフチル、フェナントレニル又はアントラセニルが含まれる。
【0147】
一般式(N1)の構造要素においてX及びX基は、一般式Aの触媒について与えられる同じ一般的な、好ましい定義及び特に好ましい定義を有する。
【0148】
一般式(N2a)及び(N2b)において及び一般式(N10a)及び(N10b)において類似して、L1及びL2基は同一又は異なった配位子、好ましくは非荷電電子供与体であり、及び一般式Aの触媒について与えられる同じ一般的な、好ましい定義及び特に好ましい定義を有し得る。
【0149】
好ましいのは、一般的な構造単位(N1)を有する一般式(N2a)又は(N2b)の触媒であり、ここで
Mはルテニウムを表し、
及びXは同時にハロゲンであり、
nは一般式(N2a)において0、1又は2であり、又は
n’は一般式(N2b)において1であり、
及びLは同一であるか又は異なり、一般式(N2a)及び(N2b)について与えられる一般的な又は好ましい定義を有し、
25~R32は同一であるか又は異なり、一般式(N2a)及び(N2b)について与えられる一般的な又は好ましい定義を有し,
mは0又は1のどちらかであり、
及び、m=1であるとき、
Aは酸素、硫黄、C(C~C10-アルキル)、-C(C~C10-アルキル)-C(C~C10-アルキル)-、-C(C~C10-アルキル)=C(C~C10-アルキル)-又は-N(C~C10-アルキル)である。
【0150】
非常に特に好ましいのは、一般的な構造単位(N1)を有する式(N2a)又は(N2b)の触媒であり、ここで
Mはルテニウムを表し、
及びXは両方とも塩素であり、
nは一般式(N2a)において0、1又は2であるか、又は
n’は、一般式(N2b)において1であり
は、式(IIIa)~(IIIf)のイミダゾリジン基を表し、
は、スルホン化ホスフィン、ホスフェート、ホスフィニト、ホスホニト、アルシン、スチビン、エーテル、アミン、アミド、スルホキシド、カルボキシル、ニトロシル、ピリジン基、式(XIIa)~(XIIf)のイミダゾリジン基又はホスフィン配位子、特にPPh、P(p-Tol)、P(o-Tol)、PPh(CH、P(CF、P(p-FC、P(p-CF、P(C-SONa)、P(CH-SONa)、P(イソプロピル)、P(CHCH(CHCH))、P(シクロペンチル)、P(シクロヘキシル)、P(ネオペンチル)及びP(ネオフェニル)であり、
25~R32は、一般式(N2a)及び(N2b)について与えられる一般的な又は好ましい定義を有し、
mは0又は1のどちらかであり、
及びm=1であるとき、
Aは酸素、硫黄、C(C~C10-アルキル)、-C(C~C10-アルキル)-C(C~C10-アルキル)-、-C(C~C10-アルキル)=C(C~C10-アルキル)-又は-N(C~C10-アルキル)である。
【0151】
例えば一般式(N2a)及び(N2b)の触媒について、R25基が式Nの触媒の別の配位子と架橋される場合、これは、一般式(N13a)及び(N13b)の以下の構造
【化21】
(式中、
は酸素、硫黄、N-R41基又はP-R41基(R41は以下に定義される通りである)であり、
40及びR41は同一であるか又は異なり、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニル又はアルキルスルフィニル基を表し、それらの全てがそれぞれ、1つ又は複数のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール又はヘテロアリール基によって任意選択的に置換され得、
pは0又は1であり、及び
は、p=1であるとき-(CH)r-(r=1、2又は3である)、-C(=O)-CH-、-C(=O)-、-N=CH-、-N(H)-C(=O)-であるか、或いはその代わりに全構造単位“-Y(R40)-(Y)p-”が(-N(R40)=CH-CH-)、(-N(R40,R41)=CH-CH-)であり、及び
M、X、X、L、R25~R32、A、m及びnは一般式(IIa)及び(IIb)と同じ定義を有する)を生じる。
【0152】
式(N)の触媒の例には、以下の構造:
【化22A】
【化22B】
が含まれる。
【0153】
触媒(N)は、この合成が特定の温度範囲内で行われ且つ同時に、反応体の、互いに対するモル比が選択範囲内であるとき、適した触媒前駆体錯体を適切なジアゾ化合物と反応させることによって調製され得る。この目的のために、例えば、触媒前駆体化合物を、一般式(N1-アゾ)
【化23】
(式中、R25~R32、m及びAは一般式(N1)について与えられた定義を有する)の化合物と反応させ、ここで、この反応は、
(i)-20℃~100℃の範囲、好ましくは+10℃~+80℃の範囲、より好ましくは+30~+50℃の範囲の温度で及び
(ii)1:0.5~1:5、好ましくは1:1.5~1:2.5、より好ましくは1:2の触媒前駆体化合物対一般式(N1-アゾ)の化合物のモル比で行われる。
【0154】
一般式(N1-アゾ)の化合物は、R25~R32及びA基の意味に従って9-ジアゾフルオレン又はその多種多様な異なった誘導体である。9-ジアゾフルオレンの多種多様な異なった誘導体を使用することができる。このように、多種多様な異なったフルオレニリデン誘導体が得られる。
【0155】
触媒前駆体化合物は、一般的な構造要素(N1)を有する任意の配位子をまだ含有していないルテニウム又はオスミウムメタセシス触媒である。
【0156】
この反応において、配位子が触媒前駆体化合物を脱離し、一般的な構造要素(N1)を含有するカルベン配位子が受容される。
【0157】
反応の遂行に適しているのは、飽和、不飽和及び芳香族炭化水素、エーテル及びハロゲン化溶媒である。好ましいのはジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン又はモノクロロベンゼンなどの塩素化溶媒である。典型的に、ルテニウム又はオスミウム前駆体の形態の触媒前駆体化合物は、好ましくは乾燥された溶媒中に最初に投入される。溶媒中のルテニウム又はオスミウム前駆体の濃度は典型的に15重量%~25重量%の範囲、好ましくは15重量%~20重量%の範囲である。その後、溶液を加熱することができる。30~50℃の範囲の温度まで加熱することは、特に有用であることがわかった。その後、典型的に乾燥された、好ましくは無水の溶媒に溶解された一般式(N1-アゾ)の化合物が添加される。溶媒中の一般式(N1-アゾ)の化合物の濃度は好ましくは5重量%~15重量%の範囲、好ましくは約10重量%である。完全な反応まで、反応をさらに0.5時間~1.5時間の間継続させておく。ここで温度はより好ましくは、上に記載されたのと同じ範囲内、すなわち30~50℃である。その後、溶媒を取り除き、残留物を例えばヘキサンと芳香族溶媒との混合物を使用して抽出によって精製する。
【0158】
典型的に、本発明による触媒は高純度の形態で得られるのではなく、一般式(N1-アゾ)の化合物と、反応において使用される触媒前駆体化合物からの脱離配位子との反応生成物による反応の化学量論から生じる等モル混合物として得られる。脱離配位子は好ましくはホスフィン配位子である。本発明による高純度触媒を得るためにこの反応生成物を取り除くことができる。しかし、メタセシス反応の触媒作用のために、本発明による高純度触媒だけでなく本発明によるこの触媒と前述の反応生成物との混合物を使用することもできる。
【0159】
上に記述した方法は以下のように説明される:
一般式(N2a)及び(N2b)の触媒の場合、一般式(「N2-前駆体」)
【化24】
(式中、
M、X、X、L及びLは一般式(N2a)及び(N2b)におけるのと同じ一般的な及び好ましい意味を有し、並びに
AbLは脱離配位子を有し、一般式(N2a)及び(N2b)におけるL及びLと同じ定義をとることができ、好ましくは、一般式(N2a)及び(N2b)について与えられた定義を有するホスフィン配位子を表す)の触媒前駆体化合物は、
-20℃~100℃の範囲、好ましくは+10℃~+80℃の範囲、より好ましくは+30~+50℃の範囲の温度で、及び1:0.5~1:5、好ましくは1:1.5~1:2.5、より好ましくは1:2の一般式(XVII)の触媒前駆体化合物対一般式(N1-アゾ)の化合物のモル比で、一般式(N1-アゾ)の化合物と反応させられる。式(N)のこのような触媒の調製のためのさらなる例は、欧州特許出願公開第A2027920号明細書にある。
【0160】
さらなる代替実施形態は、一般式(O)の本発明のメタセシス触媒
【化25】
[式中、
及びXは同一又は異なったアニオン配位子、好ましくはハロゲン、より好ましくはF、Cl、Br、I及び特に好ましくはClを表し,
は直鎖又は分岐状、脂肪族C~C20-アルキル、C~C20-シクロアルキル、C~C20-アリール、CHCH-CO-CH、好ましくはメチル、エチル、イソプロピル、イソアミル、t-ブチル、CHCH-CO-CH、シクロヘキシル又はフェニルを表し、
は水素、ハロゲン、C~C-アルキル又はC~C-アルケニルを表し、
は電子引抜基、好ましくは-F、-Cl、-Br、-I、-NO、-NO、~CF、-OCF、-CN、-SCN、-NCO、-CNO、-COCH、-COCF、-CO-C、-SO、-SO-N(CH、アリールスルホニル、アリールスルフィニル、アリールカルボニル、アルキルカルボニル、アリールオキシカルボニル、又は-NR-CO-Rを表し、ここで、R及びRが同一であるか又は異なり、それぞれ独立に、H、C~C-アルキル、過ハロゲン化C~C-アルキル、アルデヒド、ケトン、エステル、アミド、ニトリル、任意選択的に置換されたアリール、ピリジニウム-アルキル、ピリジニウム-パーハロアルキル又は任意選択的に置換されたC~Cシクロヘキシル、n=1~6のC2nY又はC2nY基であり得、Yは式(EWG1)、(EWG2)又は(EWG3)
【化26】
(式中、
、R、R、R、R10、R11は独立に、H、C~C-アルキル、C~C-パーハロアルキル又はC~C-アリールを表し且つR、R10、R11がへテロ環を形成し得、
はアニオン、ハロゲン、テトラフルオロボレート([BF)、[テトラキス(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ボレート]([BARF])、ヘキサフルオロホスフェート([PF)、ヘキサフルオロアンチモネート([SbF)、ヘキサフルオロアルセネート([AsF)又はトリフルオロメチルスルホネート([(CFN])を表す)の1つのイオン性基又は基であり;
及びRは、それらが結合しているN及びCと一緒に式(EWG4)又は(EWG5)
【化27】
(式中、
halはハロゲンであり、及び
12は水素、C~C-アルキル、C~C-シクロアルキル又はC~C-シクロアリールである)のへテロ環を形成し得、
Lは一般式(L1)又は(L2)
【化28】
(式中、
13は水素、C~C-アルキル、C~C30-シクロアルキル又はC~C30-アリールであり、
14及びR15は同一であるか又は異なり、任意選択的に3個までのヘテロ原子の、直鎖又は分岐状C~C30-アルキル、C~C30-シクロアルキル、C~C30-アリール、C~C30-アルカリール、C~C30-アラルキル、好ましくはイソプロピル、i-ブチル、tert-ブチル、シクロヘキシル又はフェニルである)の配位子を表す]に関する。
【0161】
さらなる代替実施形態は、一般式(P1)
【化29】
[式中、
Mはルテニウム又はオスミウムであり;
X及びXはそれぞれ独立に、アニオン配位子であり、
Lは中性配位子であり、
は水素、C~C20アルキル又はC~C10アリールであり;
【化30】
は、任意選択的に置換されたo-フェニレンであり、ここで、o-フェニレンの2つ以上の置換基が、任意選択的に置換されたC~C環又は任意選択的に置換された芳香族C~C14環を形成し;及び
、R、及びRはそれぞれ独立に、水素、C~Cアルキル、任意選択的に置換されたC~C10へテロ環又は任意選択的に置換されたC~C14アリールであり;ここで、R及びRが置換又は非置換C~C環状系を形成することができる]のメタセシス触媒、
又は
一般式(P2)
【化31】
[式中、
及びXがそれぞれ独立に、ハロゲン原子、-CN、-SCN、-OR’、-SR’、-O(C=O)R’、-O(SO)R’、及び-OSi(R’)からなる群から選択されるアニオン配位子を表し、ここで、R’は、C~C12アルキル、C~C12シクロアルキル、C~C12アルケニル、C~C20アリールであり、それは少なくとも1つのC~C12アルキル、C~C12ペルフルオロアルキル、C~C12アルコキシ、C~C24アリールオキシ又はC~C20ヘテロアリールオキシによって任意選択的に置換され;
Arは、水素原子によって置換されるか或いは少なくとも1つのC~C12アルキル、C~C12ペルフルオロアルキル、C~C12アルコキシ、C~C24アリールオキシ、C~C20ヘテロアリールオキシ、又はハロゲン原子によって任意選択的に置換されるアリール基であり;
、R、R、及びR10は独立に、水素原子又はC~C12アルキルであり、R及び/又はRは、R及び/又はR10と一緒に、環状系を形成し得、或いは独立に、C~C12アルキル、C~C12シクロアルキル、C~C12アルケニル、C~C20アリール、C~Cペルフルオロアルキル、C~C24アラルキル、C~C24パーフルオロアリールを表し、それらは、少なくとも1つのC~C12アルキル、C~C12ペルフルオロアルキル、C~C12アルコキシ、C~C24アリールオキシ、C~C20ヘテロアリールオキシ、又はハロゲン原子によって任意選択的に置換され;
11、R12はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、任意選択的に置換された又は非置換のC~C25アルキル、任意選択的に置換された又は非置換のC~C25ペルフルオロアルキル、任意選択的に置換された又は非置換のC~C25アルケン、任意選択的に置換された又は非置換のC~Cシクロアルキル、任意選択的に置換された又は非置換のC~C25アルケニル、任意選択的に置換された又は非置換のC~C25シクロアルケニル、任意選択的に置換された又は非置換のC~C25アルキニル、任意選択的に置換された又は非置換のC~C25シクロアルキニル、任意選択的に置換された又は非置換のC~C25アルコキシ、任意選択的に置換された又は非置換のC~C24アリールオキシ、任意選択的に置換された又は非置換のC~C20ヘテロアリールオキシ、任意選択的に置換された又は非置換のC~C24アリール、任意選択的に置換された又は非置換のC~C20ヘテロアリール、任意選択的に置換された又は非置換のC~C24アラルキル、任意選択的に置換された又は非置換のC~C24パーフルオロアリール、或いは任意選択的に置換された又は非置換の3~12員へテロ環であり;
ここで、置換基R11及びR12は、C~Cシクロアルキル、C~C25シクロアルケニル、C~C25シクロアルキニル、C~C24アリール、C~C20ヘテロアリール、C~C24パーフルオロアリール、3-12員へテロ環からなる群から選択される環を形成することができ、それらは独立に、水素原子、ハロゲン原子、C~C12アルキル、C~C25ペルフルオロアルキル、C~C25アルケン、C~Cシクロアルキル、C~C25アルケニル、C~C25シクロアルケニル、C~C25アルキニル、C~C25シクロアルキニル、C~C25アルコキシ、C~C24アリールオキシ、C~C20ヘテロアリールオキシ、C~C24アリール、C~C20ヘテロアリール、C~C24アラルキル、C~C24パーフルオロアリール、及び3~12員へテロ環からなる群から選択される1つ及び/又は複数の置換基によって置換され得る]のメタセシス触媒、
又は
一般式(P3)
【化32】
[式中、
Lは中性配位子であり;
及びXは独立にアニオン配位子であり;
、R、R、R、R、Rは独立に、水素原子、ハロゲン原子、C~C25アルキル、C~C25ペルフルオロアルキル、C~Cシクロアルキル、C~C25アルケニル、C~C25シクロアルケニル、C~C25アルキニル、C~C25シクロアルキニル、C~C25アルコキシ、C~C24アリール、C~C20ヘテロアリール、3-12員へテロ環、エーテル(-OR’)、チオエーテル(-SR’)、ニトロ(-NO)、シアノ(-CN)、カルボキシル(-COOH)、エステル(-COOR’)、アミド(-CONR’R’’)、スルホン(-SOR’)、スルホンアミド(-SONR’R’’)、ホルミル又はケト(-COR’)を表し、ここで、R’及びR”は独立に水素原子、C~Cアルキル、C~Cペルフルオロアルキル、C~C24アリール、C~C24ヘテロアリール、C~C24パーフルオロアリールであり;
Zは独立に、ホルミル又はケト(-COR’)、カルボン酸又はエステル(-COOR’)、チオエステル(~CSOR’)、ニトロ(-NO)、アミド(-CONR’R’’)、スルホン(-SO’)、スルホンアミド(-SONR’R’’)、-CR’R’’COR’、-CR’R’’COOR’、-CR’R’’CONR’R’’、-CR’R’’SO’又は-CR’R’’SONR’R’’を表し;ここで、R’及びR’’は独立に、水素原子、C~Cアルキル、C~Cペルフルオロアルキル、C~C24アリール、C~C24ヘテロアリール又はC~C24パーフルオロアリールを表し;
アニオン配位子X及びXは独立に、ハロゲン原子、-CN、-SCN、-OR、-SR、-O(C=O)R、-O(SO)R、-OP(O)R 、-OSiR を表し、ここで、RはC~C12アルキル、C~C12シクロアルキル、C~C12アルケニル、又はC~C20アリールを表し、それは少なくとも1つのC~C12アルキル、C~C12パーハロアルキル、C~C12アルコキシ又はハロゲン原子によって任意選択的に置換され;及び
非荷電配位子Lは、式1a、1b、1c、1d、1e、1f、1g、1h、1i、1j、1k、1l、1m、1n、1o又は1pのN複素環式カルベン:
【化33】
(式中、R50、R60、R70及びR80はそれぞれ独立に、C~C12アルキル、C~C12シクロアルキル、C~C12アルケニル、C~C20アリール、又はC~C20ヘテロアリールを表し、それは少なくとも1つのC~C12アルキル、C~C12パーハロアルキル、C~C12アルコキシ又はハロゲン原子によって任意選択的に置換され;
、R、R、R、R及びR10はそれぞれ独立に、水素原子、C~C12アルキル、C~C12シクロアルキル、C~C12アルケニル、C~C20アリール、又はC~C20ヘテロアリールを表し、それは少なくとも1つのC~C12アルキル、C~C12パーハロアルキル、C~C12アルコキシ又はハロゲン原子によって任意選択的に置換され;
、R、R、R、R及びR10並びにまたR50、R60、R70及びR80を含む群から選択されるそれぞれの置換基が互いに環状又は大環状系を任意選択的に形成し得る)からなる群から選択される]のメタセシス触媒に関する。
【0162】
本発明のさらなる実施形態は、一般式(Q)
【化34】
[式中、
X及びXはそれぞれ独立に、Cl、Br及びIからなる群から好ましくは選択される、ハロゲンであり、
Lは式L、L、L又はL
【化35】
(式中、R10及びR11はそれぞれ独立に、1~30個の炭素原子を含み且つ1つ又は複数の官能基を任意選択的に含む置換又は非置換側鎖であり、及び
12及びR13はそれぞれ独立に、H、アルコキシ基OR15によって任意選択的に置換されたC1~6アルキル、又はアルコキシ基OR15によって任意選択的に置換されたアリールであるか、或いは3員又は4員アルケン架橋を形成し、及び
15は、C1~20アルキル、アリール及びC7~18アラルキルからなる群から選択され、及び
g及びg’は各場合においてハロゲンである)の非荷電配位子であり、
zはメチル又はカルボニル基であり、
a、b及びcは各場合においてHであり;
は、H、C1~12アルキル、好ましくはメチル、エチル又はイソプロピル、C5~12シクロアルキル、C7~18アラルキル又はアリールからなる群から選択され;及び
は、H、C1~12アルキル、C5~12シクロアルキル、C7~18アラルキル、アリール、C1~12ハロアルキル、C1~12アンモニウムアルキル、C1~12ピリジニウムアルキル、C1~12アルデヒドアルキル、C1~12ニトロアルキル、ニトリル、又はケトンCOR、エステルCO、オキサレートCOCO、スルホンSO又はアミドCONHR(ここで、Rは、H、C1~12アルキル、C5~12シクロアルキル、C7~18アラルキル、アリール、C1~12ハロアルキル、C1~12アンモニウムアルキル、C1~12ピリジニウムアルキル、C1~12アルデヒドアルキル、C1~12ニトロアルキル及びニトリルからなる群から選択される)からなる群から選択される基からなる群から選択されるか、或いはRは、式R3c、R3d、R3e、R3f、R3g、R3h、R3i、R3j、R3k、R3l、R3m、R3n、R3o又はR3p
【化36】
の側鎖であるか、或いは、zがメチルである場合、Rは、式R3a又はR3b
【化37】
(式中、Aは、F、Cl、Br、I、テトラフルオロボレートBF 、ヘキサフルオロホスフェートPF 及びビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミドNTf からなる群から選択される)の側鎖である]のメタセシス触媒に関する。
【0163】
非常に好ましいメタセシス触媒は、構造(IV)のGrubbs I触媒、構造(V)のGrubbs II触媒、構造(XV)のZhan 1B触媒、構造(XVI)のGrela触媒、構造(VII)のGrubbs-Hoveyda II触媒からなる群から選択される。
【0164】
最も好ましいのは、Grubbs-Hoveyda II触媒及びGrubbs II触媒である。非常に最も好ましいのはGrubbs-Hoveyda II触媒である。
【0165】
メタセシス反応のために本発明に従って使用される触媒の量は、特定の触媒の性質及びまた触媒活性に依存している。使用される触媒の量は、使用されるニトリル-ジエンコポリマーに基づいて0.001phr~1phr、好ましくは0.005phr~0.1phr、特に0.008phr~0.05phrである。
【0166】
ニトリル-ジエンコポリマーのメタセシス反応は、コオレフィンを使用せずに或いはまたその存在下で行うことができる。これは好ましくは、直鎖又は分岐状C~C16オレフィンである。適した例はエチレン、プロピレン、イソブテン、スチレン、1-ヘキセン又は1-オクテンである。1-ヘキセン又は1-オクテンを使用するのが好ましい。
【0167】
2つ以上の二重結合を有するか又は二重結合とカルボン酸基又はヒドロキシル基とを含有するコオレフィンも、適している。コオレフィンが液体(例えば1-ヘキセン)である場合、コオレフィンの量は、使用されるニトリル-ジエンコポリマーに基づいて好ましくは0.2重量%~20重量%の範囲内である。コオレフィンが気体、例えばエチレンである場合、コオレフィンの量は、1×10Pa~1×10Pa、好ましくは5.2×10Pa~4×10Paの範囲の圧力が室温の反応器内に形成されるように選択される。
【0168】
水素化ニトリル-ジエンコポリマーの溶液の調製のための本発明による方法は、エーテル含有又はケトン含有溶媒混合物を用いて行われる。
【0169】
好ましくは、水素化ニトリル-ジエンコポリマーの溶液の調製のための本発明による方法は、CPME含有溶媒混合物又はMEK含有溶媒混合物を用いて行われる。
【0170】
本発明の文脈において、適したエーテル含有溶媒は、一般式R-O-R(式中、R及びRがそれぞれ独立に、1~20個の炭素原子を有する、好ましくは1~6個の炭素原子を有する直鎖又は分岐状又は環状アルキルを表す)の化合物である。また、R及びRは接合して、3~12個の炭素原子を有する環を形成することができる。好ましいエーテル含有溶媒はCPME、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン又はジオキサンである。特に好ましいエーテル含有溶媒はCPMEである。CPMEは他のエーテルと比較して106℃の高い沸点を有し、したがって特に安全な取扱を可能にする。
【0171】
本発明の文脈において、適したケトン含有溶媒は、一般式R-CO-R(式中、R及びRがそれぞれ独立に、1~20個の炭素原子を有する、好ましくは1~6個の炭素原子を有する直鎖又は分岐状又は環状アルキルを表す)の化合物である。また、R及びRは接合して、3~12個の炭素原子を有する環を形成することができる。好ましいケトン含有溶媒はメチルエチルケトン(MEK)及びアセトンである。特に好ましいケトン含有溶媒はMEKである。MEKは、アセトンと比較して80℃の高めの沸点を有し、したがって特に安全な取扱を可能にする。
【0172】
追加的な溶媒として、本発明によるエーテル含有又はケトン含有溶媒混合物は好ましくは、モノクロロベンゼン(MCB)、ジクロロメタン、ベンゼン、ジクロロベンゼン、トルエン、シクロヘキサン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、又は1-ヘキセン以外のコオレフィンを含有する。
【0173】
本発明による好ましい方法において、CPME及びMEKは、10:1~1:10の比において、好ましくは6:1~1:1の比において使用される。代替方法において、CPME及びMCBは、10:1~1:10の比において、好ましくは1:1~1:6の比において使用される。
【0174】
メタセシス反応のために反応混合物において使用されるニトリル-ジエンコポリマーの濃度は重要ではないが、もちろん、反応混合物の高すぎる粘度及びこれに伴う混合問題によって反応が悪影響を与えられないことを確実にするように注意するべきである。好ましくは、反応混合物中のニトリル-ジエンコポリマーの濃度は、全反応混合物に基づいて1重量%~20重量%の範囲、より好ましくは5重量%~15重量%の範囲である。
【0175】
メタセシス反応は典型的に、10℃~150℃の範囲、好ましくは20℃~100℃の範囲の温度で行われる。
【0176】
反応時間は、多数の要因、例えばニトリル-ジエンコポリマーのタイプ、触媒のタイプ、使用される触媒濃度及び反応温度に依存し、典型的に1~24時間である。メタセシス反応の進行は標準分析によってモニタされ得、例えばその後にGPC測定又は粘度の決定を行うことができる。
【0177】
本発明によるメタセシス反応プロセスの後に、得られた劣化ニトリル-ジエンコポリマーの水素化が行われる。代わりに、水素化はまた、いわゆるタンデム反応としてメタセシス反応と同時に実施することができる。これは、当業者に公知の方法で実施することができる。
【0178】
本発明の文脈において、「水素化」は、少なくとも50%、好ましくは70~100%、より好ましくは80~100%の程度まで水素化される、ニトリル-ジエンコポリマー中に存在している二重結合の変換を意味すると理解されたい。
【0179】
均質又は不均質水素化触媒を使用して水素化を行うことができる。また、insituで、すなわちメタセシス反応も前もって実施された同じ反応器内で、及び劣化ニトリル-ジエンコポリマーを単離する必要が全くなく水素化を行うことができる。また、触媒を有するNBR溶液を水素と直接に接触させることによって先行のメタセシスなしに本発明による記載条件下で水素化を行うことができる。メタセシス反応からの反応器内に残っているメタセシス触媒は、本発明による条件下で特に効率的であることがわかっており、短時間の範囲内で水素化を完全水素化に導き得る。
【0180】
さらに、CPMEと同様に、また、1つ又は複数の追加的な溶媒が存在していることが可能である。NBRからHNBRへの水素化のために基本的には適している追加的な溶媒はまた、独国特許出願公開第A2539132号明細書及び欧州特許出願公開第A0471250号明細書から公知である。
【0181】
この水素化の実際の実施は、例えば米国特許出願公開第A6,683,136号明細書から業者に十分に知られている。それは、水素化されるニトリル-ジエンコポリマーを、2時間~10時間の間100℃~150℃の範囲の温度及び50バール~150バールの範囲の圧力で本発明によるエーテル含有又はケトン含有溶媒混合物中で水素と接触させることによって行われる。
【0182】
水素化の終結時に、ASTM Standard D 1646により測定される、ムーニー粘度(100℃でML1+4)を有する、10~50、好ましくは10~30の範囲の水素化ニトリル-ジエンコポリマーが得られる。これは、2000g/モル~400000g/モルの範囲、好ましくは20000g/モル~200000g/モルの範囲の重量平均分子量Mwに相当する。また、得られた水素化ニトリル-ジエンコポリマーは、1~5の範囲及び好ましくは1.5~3の範囲の多分散度PDI=Mw/Mn(ここで、Mwは重量平均分子量を表し、Mnは数平均分子量を表す)を有する。
【0183】
Mw[g/モル]: 重量平均分子量
Mn[g/モル]: 数平均分子量
PDI: 分子量分布の幅(Mw/Mn)
水素化の後に、製造された水素化ニトリル-ジエンコポリマーの溶液(HNBR溶液)を少なくとも精製工程に供することができる。
【0184】
精製の適した方法の例には、完成ポリマーに悪影響を有し得る、貴金属含有触媒の除去のための方法が含まれる。貴金属のレベルを有効に低減する1つの方法は、貴金属を結合する適した樹脂床(より具体的にはイオン交換体)を通ってHNBR含有溶液を流すことによる。
【0185】
ポリマーを精製するさらなる手段は、ポリマーが不溶性であるが不純物が可溶性である適した有機溶媒中での沈殿を必要とする。
【0186】
また、膜方法によって特定の最大サイズまで不純物をポリマー溶液から分離することができる、限外ろ過も適している。
【0187】
したがって、本発明はさらに、100000g/モル以下、好ましくは50000g/モル以下及びより好ましくは20000g/モル以下の分子量(Mw)を有する、CPME含有溶媒中の水素化ニトリル-ジエンコポリマーを含むHNBR溶液に関する。
【0188】
HNBR溶液中の水素化ニトリル-ジエンコポリマーの濃度は、全HNBR溶液に基づいて典型的に1重量%~20重量%の範囲、より好ましくは5重量%~15重量%の範囲である。
【0189】
本発明によるHNBR溶液は典型的に1~500ppm、好ましくは2~350ppm及び最も好ましくは5~150ppmのRu含有量を有する。
【0190】
本発明によるHNBR溶液は典型的に0~2000ppm、好ましくは0~1000ppm及び最も好ましくは0~500ppmのFe含有量を有する。
【0191】
本発明によるHNBR溶液は典型的に0~350ppm、好ましくは0~100ppm及び最も好ましくは0~50ppmのRh含有量を有する。
【0192】
本発明はさらに、バインダーとして、好ましくは電極の製造用のバインダーとして、より好ましくはカソードの製造用のバインダーとしての、本発明によるHNBR溶液の使用に関する。
【0193】
本発明の特定の利点は、100000g/モル以下の低分子量、好ましくは50000g/モル以下及びより好ましくは20000g/モル以下の低分子量を有する水素化ニトリル-ジエンコポリマーのHNBR溶液が提供されるということである。
【0194】
本発明は以下の非限定的な実施例によって実証される。
【実施例
【0195】
以下の材料を使用した。
【0196】
Grubbs-Hoveyda II触媒[1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)-2-イミダゾリジニリデン]ジクロロ(o-イソプロポキシフェニルメチレン)ルテニウム(CAS番号:301224-40-8);C3138ClORu、重量:626.62g/モル;(Umicoreから市販)
【化38】
【0197】
Grubbs II触媒ベンジリデン[1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)-2-イミダゾリジニリデン]ジクロロ(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(CAS番号:246047-72-3);C4665ClPRu;重量:848.97g/モル;(Umicoreから市販)
【化39】
【0198】
Wilkinson触媒-クロリドトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)(CAS番号:14694-95-2);C5445ClPRh、重量:925.24g/モル;(Umicoreから市販)
ニトリル-ジエンコポリマー(NBR)-ペルブナン(登録商標)3431ACN含有量:34重量%;ムーニー粘度:35MU;Mw:268.326;ARLANXEO Deutschland GmbHから市販
モノクロロベンゼン(MCB)-CAS番号108-90-7(Merckから市販)
シクロペンチルメチルエーテル(CPME)-CAS番号5614-37-9(Merckから市販)
メチルエチルケトン(MEK)-CAS番号78-93-3(Merckから市販)
1-ヘキセン-CAS番号592-41-6(Merckから市販)
得られた水素化ニトリル-ジエンコポリマーの残留二重結合含有量は、通例のASTMD5670-95に従って決定された。
【0199】
分子量は、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)によって決定される。Shodex RI-71示差屈折計、S 5200自動アンプラー(SFD製)、カラムオーブン(ERC-125)、Shimadzu LC 10 ATポンプ及びAgilent製の3PLgel 10μm 混合B300×7.5mmカラムのカラム組合せを有するモジュラーシステムを使用した。使用される溶媒はテトラヒドロフランであった;存在している分子量は、PSS(Mainz)製のポリスチレン標準に基づいている。完成THF試料溶液は、0.45μmPTFE膜を有し直径25mmのシリンジフィルターを通して濾過される。測定は、テトラヒドロフラン中で40℃及び1ml/分の流量で行われた。
【0200】
数平均分子量M、質量平均分子量M及び得られた多分散指数PDIなどの分子パラメーターは、Waters製の「Empower2データベース」ソフトウェアによってRI信号から決定された。
【0201】
ニトリル-ジエンコポリマー(ペルブナン(登録商標)3435)は、5時間までの間又は水素化が終了するまで120℃で指定触媒の指定量の存在下で変換された。
【0202】
ニトリル-ジエンコポリマーを13重量%の濃度で適切な溶媒中に溶解した。この溶液及びMCB中に溶解された6phrの1-ヘキセンをガス入口及び攪拌機を有し且つ窒素で不活性化された2Lオートクレーブ内に移した。600min-1の攪拌機速度及び30℃の温度で、MCB中に溶解された0.015phrのGrubbs-Hoveyda II触媒からなる触媒溶液をゆるやかな窒素向流下に置いた。ガラスビュレットに5バールまで窒素を入れ、触媒溶液を反応器中に移した。メタセシスの間ニトリル-ジエンコポリマーの濃度は10%であった。18時間の反応時間後に、反応器を600min-1の攪拌機速度で及び<0.5バールの窒素圧力を使用して120℃まで加熱し、水素圧力を84バールまで段階的に増加させた。反応の進行を残留二重結合含有量の測定によってモニタした。反応の終了後に、反応器を室温まで冷却し、徐々に減圧し、窒素でパージしてから、水素化ニトリル-ジエンコポリマーの溶液を排出した。
【0203】
【表2】
【0204】
先行技術から公知のRhベースの触媒、例えばWilkinson触媒の水素化効率は、モノクロロベンゼン(MCB)中でよりもこのような代替溶媒混合物中では相対的に低い。
【0205】
本発明の方法6*~10*は、短時間(5時間以下)の範囲内での完全な水素化(<1%)及び<100000g/モルへの分子量の明白な低下の両方を有する。
【0206】
CPME又はMEKが溶媒として使用された本発明の方法(6*、7*、8*、9*、10*)は、特に短い時間(3時間以下)の範囲内で特に低い分子量(<20000g/モル)を有し、特に低いRDB値(0.5以下)を有する。
【0207】
本発明及びその利点をこのように記載してきたが、これらは、本明細書に開示される本発明の様々な態様及び実施形態は本発明を製造及び使用する特定の方法を単に例示しているにすぎないと理解されるべきである。
【0208】
本発明の様々な態様及び実施形態は、添付された特許請求の範囲及び前述の詳細な説明が考慮される場合に、本発明の範囲を制限しない。
【0209】
特許証によって保護されるのが望まれるものは、以下の特許請求の範囲に示される。