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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】象牙芽細胞増殖・分化促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/235 20060101AFI20240723BHJP
   A61K 6/20 20200101ALI20240723BHJP
   A61K 6/50 20200101ALI20240723BHJP
   A61K 6/60 20200101ALI20240723BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240723BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20240723BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20240723BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20240723BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240723BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
A61K31/235
A61K6/20
A61K6/50
A61K6/60
A61K45/00
A61K47/42
A61K47/46
A61P1/02
A61P29/00
A61P43/00 105
A61P43/00 107
A61P43/00 121
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021553564
(86)(22)【出願日】2020-10-23
(86)【国際出願番号】 JP2020039911
(87)【国際公開番号】W WO2021079988
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2019193019
(32)【優先日】2019-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592093578
【氏名又は名称】サンメディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【弁理士】
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 隆史
(72)【発明者】
【氏名】邱 友靖
(72)【発明者】
【氏名】大槻 環
(72)【発明者】
【氏名】多田 明世
(72)【発明者】
【氏名】山本 隆司
(72)【発明者】
【氏名】小里 達也
(72)【発明者】
【氏名】中村 久美子
(72)【発明者】
【氏名】石田 忠
【審査官】愛清 哲
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-347943(JP,A)
【文献】特開2004-307475(JP,A)
【文献】国際公開第2016/084780(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0290550(US,A1)
【文献】特開2019-99481(JP,A)
【文献】QIU Youjing, TANG Jia and SAITO Takashi,The in vitro effects of CCN2 on odontoblast-like cells,Archives of Oral Biology,2018年,vol.94,p.54-61
【文献】田上順次, 北迫勇一, 園田秀一, 大槻昌幸, 猪越重久,接着性レジンによる歯髄保護と修復,接着歯学,1999年,vol.17, No.1,p.56-60
【文献】Effects of calcium salts of acidic monomers on mineral induction of phosphoprotein immobilized to agarose beads,J Biomed Mater Res Part A,2012年,vol.100A, ISSUE.10,pp.2760-2765,DOI: 10.1002/jbm.a.34212
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 6/00- 6/90
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00- 1/18
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩を含有することを特徴とする、象牙芽細胞増殖・分化促進剤。
【請求項2】
前記4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩を、溶解、分散または吸着する生体吸収材料をさらに含有する、請求項1に記載の象牙芽細胞増殖・分化促進剤。
【請求項3】
抗炎症剤をさらに含有する、請求項1に記載の象牙芽細胞増殖・分化促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、象牙芽細胞増殖・分化促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
う蝕(虫歯)の歯科治療において、う蝕部分を除去した後、クラウンやインレー、コンポジットレジンなどの修復材料を、歯科用接着剤により歯牙に接着することが知られている。そのような歯科用接着剤は、例えば、歯質(象牙質)を脱灰した後に塗布され、脱灰された部分に浸透することによって、ハイブリッド層を形成する。これによって、歯科用接着剤は、修復材料と歯質との接着性の向上を図っている。
【0003】
しかるに、う蝕感染部位が歯質深くまで至っている場合、う蝕除去する際に歯髄に至り、感染部周囲に突発的な露髄をおこす場合があり、そのような歯科用接着剤では、歯質の強度低下や歯髄の神経に悪影響を及ぼすおそれがある。そこで、歯科用接着剤に、歯質の再石灰化能を有する歯科材料を添加することが種々検討されている。
【0004】
例えば、重合性基と酸性基とを有する単量体の酸性基がカルシウムにより中和されている単量体カルシウム塩、および/または、重合性基と酸性基とを有する単量体の重合体であり、酸性基がカルシウムにより中和されている重合体カルシウム塩を含有する歯科材料が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
そのような歯科材料の再石灰化能は、Hepes水溶液に塩化カルシウム、リン酸二水素カリウム、塩化カリウムおよびアジ化ナトリウムを添加して石灰化溶媒を調製し、石灰化溶媒に上記した歯科材料を添加した後、石灰化溶媒中で生成したカルシウムの析出量を測定することにより、確認されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-347943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかるに、う蝕が歯髄近くまであるいは歯髄に到達している場合、う蝕病原菌に感染した歯髄周辺の象牙質ないしは歯髄の一部を除去する必要がある。近年、歯髄の全てを除去(抜髄)すると歯質、特に象牙質が脆弱化することから、歯髄において、感染部分を除去する一方、未感染部分を保存することが望まれている。
【0008】
この場合、歯髄の感染部分を除去すると、歯髄腔内にスペースが生じて、歯髄の未感染部分が露出する。そこで、覆髄剤を歯髄腔内のスペースに充填して、歯髄を覆うことによって歯髄を生活させたまま保存することが検討される。
【0009】
例えば、覆髄剤として水酸化カルシウム系薬剤を使用し、水酸化カルシウムにより象牙芽細胞を刺激して、接触させた歯髄の一部に象牙質橋(デンチンブリッジ)の生成を促す間接覆髄法が提案されている。このような間接覆髄法は、生活歯髄の一部を象牙質に分化させるため、歯髄自体の容積が減少して、歯髄が委縮するおそれがある。
【0010】
また、特許文献1に記載の歯科材料は、上記したように、通常、歯科用接着剤に添加されるものであって、覆髄剤に添加されるものではない。
【0011】
本発明は、象牙芽細胞の増殖および/または幹細胞から象牙芽細胞への分化の促進を図ることができる象牙芽細胞増殖・分化促進剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明[1]は、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩を含有する象牙芽細胞増殖・分化促進剤を含む。
【0013】
本発明[2]は、前記4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩を、溶解、分散または吸着する生体吸収材料をさらに含有する、上記[1]に記載の象牙芽細胞増殖・分化促進剤を含む。
【0014】
本発明[3]は、抗炎症剤をさらに含有する、上記[1]または[2]に記載の象牙芽細胞増殖・分化促進剤を含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明の象牙芽細胞増殖・分化促進剤は、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩を含有するので、象牙芽細胞の増殖および/または、幹細胞から象牙芽細胞への分化を促進することができる。そのため、歯科治療において、歯髄の感染部分を除去したときに露出する歯髄に、象牙芽細胞増殖・分化促進剤を接触させることにより、歯髄腔内のスペースに象牙芽細胞を増殖させることが期待できる。この場合、増殖した象牙芽細胞が象牙質を生成するので、歯髄腔の容積減少を抑制でき、ひいては、歯髄の委縮を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1Aは、う蝕が歯髄に到達していない歯牙の概略構成図を示す。図1Bは、う蝕が歯髄に到達した歯牙の概略構成図を示す。図1Cは、図1Bに続いて、歯髄の感染部分が除去され、歯髄が露出した歯牙の概略構成図を示す。図1Dは、図1Cに続いて、露出した歯髄を従来の覆髄剤で覆った状態の歯牙の概略構成図を示す。
図2図2Aは、図1Cに続いて、露出した歯髄を象牙芽細胞増殖・分化促進剤で覆った状態の歯牙の概略構成図を示す。図2Bは、図2Aに続いて、象牙芽細胞が増殖・分化して、歯髄腔が埋まった状態の歯牙の概略構成図を示す。
図3図3は、実施例1~5の象牙芽細胞増殖・分化促進剤により増殖させたラット象牙芽細胞様細胞株のCCK-8アッセイの結果を示すグラフである。
図4図4は、実施例4、6~10の象牙芽細胞増殖・分化促進剤により増殖させたラット象牙芽細胞様細胞株のCCK-8アッセイの結果を示すグラフである。
図5図5Aは、実施例4、6および7の象牙芽細胞増殖・分化促進剤を用いた象牙芽細胞増殖試験のリアルタイムPCR解析結果であって、rDSPPのmRNAの発現量を示す。図5Bは、図5Aと同様の象牙芽細胞増殖試験のリアルタイムPCR解析結果であって、rDMP-1のmRNAの発現量を示す。図5Cは、図5Aと同様の象牙芽細胞増殖試験のリアルタイムPCR解析結果であって、rOCNのmRNAの発現量を示す。図5Dは、図5Aと同様の象牙芽細胞増殖試験のリアルタイムPCR解析結果であって、rOPNの発現量を示す。
図6図6は、実施例9、11~17の象牙芽細胞増殖・分化促進剤を接触させたヒト歯髄幹細胞のCCK-8アッセイの結果を示すグラフである。
図7図7Aは、実施例12および比較例1~3の象牙芽細胞増殖・分化促進剤を用いたヒト歯髄幹細胞から象牙芽細胞への分化試験のリアルタイムPCR解析結果であって、BSPのmRNAの発現量を示す。図7Bは、図7Aと同様のヒト歯髄幹細胞から象牙芽細胞への分化試験のリアルタイムPCR解析結果であって、rOPNのmRNAの発現量を示す。図7Cは、図7Aと同様のヒト歯髄幹細胞から象牙芽細胞への分化試験のリアルタイムPCR解析結果であって、rOCNのmRNAの発現量を示す。図7Dは、図7Aと同様のヒト歯髄幹細胞から象牙芽細胞への分化試験のリアルタイムPCR解析結果であって、rDSPPのmRNAの発現量を示す。図7Eは、図7Aと同様のヒト歯髄幹細胞から象牙芽細胞への分化試験のリアルタイムPCR解析結果であって、rDMP-1のmRNAの発現量を示す。
図8図8は、実施例12の象牙芽細胞増殖・分化促進剤を用いたアルカリホスターゼ測定(静置時間14日間、21日間および28日間)の結果を示すグラフである。
図9図9Aは、実施例12および比較例1~4の象牙芽細胞増殖・分化促進剤を用いたアリザリンレッドS染色測定(静置時間30日間)の結果を示すグラフである。図9Bは、図9Aと同様のアリザリンレッドS染色測定(静置時間32日間)の結果を示すグラフである。
図10図10Aは、実施例12の象牙芽細胞増殖・分化促進剤を用いた間葉系幹細胞から象牙芽細胞への分化試験のリアルタイムPCR解析結果であって、BSPのmRNAの発現量を示す。図10Bは、図10Aと同様の間葉系幹細胞から象牙芽細胞への分化試験のリアルタイムPCR解析結果であって、rDMP-1のmRNAの発現量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の象牙芽細胞増殖・分化促進剤は、必須成分として、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩を含有する。
【0018】
(1)4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩
4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩は、下記一般式(1)により示される。
【0019】
【化1】
【0020】
(一般式(1)中、Rは、HまたはCHを示す。)
一般式(1)において、Rは、水素原子またはメチル基を示し、好ましくは、メチル基を示す。
【0021】
つまり、象牙芽細胞増殖・分化促進剤は、4-アクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩および/または4-メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩(以下、C-METとする。)を含み、好ましくは、C-METを含む。
【0022】
4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩の含有割合は、象牙芽細胞増殖・分化促進剤の固形分を100質量%としたときに、例えば、0.01質量%以上、好ましくは、0.03質量%以上、例えば、100質量%以下、好ましくは、95質量%以下である。
【0023】
4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩の含有割合が上記下限以上であれば、象牙芽細胞の増殖および/または幹細胞から象牙芽細胞への分化を確実に促進できる。4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩の含有割合が上記上限以下であれば、象牙芽細胞の増殖および/または幹細胞から象牙芽細胞への分化の促進効果を確保できながら、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩の使用量を低減できる。
【0024】
(2)生体吸収材料
象牙芽細胞増殖・分化促進剤は、任意成分として、好ましくは、生体吸収材料をさらに含有する。
【0025】
象牙芽細胞増殖・分化促進剤が生体吸収材料を含有すれば、象牙芽細胞増殖・分化促進剤を歯髄に接触させたときに、象牙芽細胞が増殖および/または幹細胞から象牙芽細胞への分化するためのスペースを十分に確保することができる(図2A参照)。
【0026】
生体吸収材料は、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩を、溶解、分散または吸着する。
【0027】
生体吸収材料は、生体が吸収可能な材料であって、例えば、コラーゲン(例えば、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、アテロコラーゲンなど)、タンパク質(例えば、ゼラチン、フィブリンなど)、多糖類(例えば、酸化セルロース、キチン・キトサン、ヒアルロン酸など)、合成高分子(例えば、ポリグリコール酸・共重合体、ポリ乳酸・共重合体など)、リン酸系・炭酸系無機材料(例えば、ハイドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム、炭酸カルシウムなど)などが挙げられる。生体吸収材料は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0028】
生体吸収材料のなかでは、好ましくは、コラーゲンが挙げられる。
【0029】
常温(25℃)における生体吸収材料の状態は、特に制限されず、液体であってもよく、固体であってもよい。生体吸収材料が常温において液体である場合、生体吸収材料は、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩を溶解または分散する。生体吸収材料が常温において固体である場合、生体吸収材料は、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩を吸着する。
【0030】
生体吸収材料の含有割合は、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸1質量部に対して、例えば、2質量部以上、好ましくは、5質量部以上、例えば、100質量部以下、好ましくは、80質量部以下である。
【0031】
(3)抗炎症剤
また、象牙芽細胞増殖・分化促進剤は、任意成分として、好ましくは、抗炎症剤をさらに含有する。
【0032】
抗炎症剤が生体吸収材料を含有すれば、象牙芽細胞増殖・分化促進剤が歯髄と接触したときに、歯髄の炎症を抑制できるとともに、象牙芽細胞の増殖および/または幹細胞から象牙芽細胞への分化の促進を確実に図ることができる(図2A参照)。
【0033】
抗炎症剤は、歯科材料に適用可能な公知の抗炎症剤であれば特に制限されず、例えば、ステロイド系抗炎症剤(例えば、デキサメタゾン、プレドニゾロン、ベクロメタゾンなど)、ベタメタゾン、フルチカゾン、ヒドロコルチゾンなどが挙げられる。抗炎症剤は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0034】
抗炎症剤のなかでは、好ましくは、ステロイド系抗炎症剤が挙げられ、より好ましくは、デキサメタゾンが挙げられる。
【0035】
抗炎症剤の含有割合は、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸1質量部に対して、例えば、1×10-7質量部以上、好ましくは、1×10-6質量部以上、例えば、1×10-2質量部以下、好ましくは、1×10-3質量部以下である。
【0036】
(4)その他の添加剤
さらに、象牙芽細胞増殖・分化促進剤は、任意成分として、その他の添加剤を適宜の割合で含有することができる。その他の添加剤として、例えば、賦形剤、保存剤、緩衝材、着色剤、着香剤、粘稠剤などが挙げられる。
【0037】
(5)象牙芽細胞増殖・分化促進剤の剤形
上記した象牙芽細胞増殖・分化促進剤は、例えば、覆髄剤として好適に利用できる。象牙芽細胞増殖・分化促進剤は、う蝕が歯髄に到達している場合に、歯科治療により露出した歯髄に接触するように使用される(図2A参照)。象牙芽細胞増殖・分化促進剤の剤形は、特に制限されず、例えば、粉剤、液剤、シート剤などが挙げられる。
【0038】
(5-1)粉剤
象牙芽細胞増殖・分化促進剤が粉剤である場合、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩は、好ましくは、粒子形状を有する。
【0039】
4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩の平均一次粒子径は、例えば、1μm以上、好ましくは、5μm以上、例えば、100μm以下、好ましくは、50μm以下である。
【0040】
粉剤である象牙芽細胞増殖・分化促進剤を使用するには、例えば、象牙芽細胞増殖・分化促進剤を綿球に一旦保持した後、その綿球を歯髄に接触、または歯髄近くで振るなどさせて、象牙芽細胞増殖・分化促進剤を歯髄に付着させる(図2A参照)。
【0041】
(5-2)液剤
象牙芽細胞増殖・分化促進剤が液剤である場合、象牙芽細胞増殖・分化促進剤は、好ましくは、溶媒を含有する。
【0042】
溶媒は、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩を、溶解または分散できる。
【0043】
溶媒として、例えば、高極性溶媒(例えば、水、エタノールなど)、中極性溶媒(例えば、アセトンなど)、低極性溶媒(例えば、油など)などが挙げられる。溶媒は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0044】
溶媒のなかでは、好ましくは、水、エタノール、アセトンが挙げられる。
【0045】
液剤である象牙芽細胞増殖・分化促進剤における4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩の濃度は、例えば、1μg/mL以上、好ましくは、10μg/mL以上、より好ましくは、150μg/mL以上、さらに好ましくは、300μg/mL以上、例えば、5000μg/mL以下、好ましくは、3000μg/mL以下、より好ましくは、2000μg/mL以下、とりわけ好ましくは、1200μg/mL以下である。
【0046】
4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩の濃度が上記下限以上であれば、象牙芽細胞の増殖および/または幹細胞から象牙芽細胞への分化をより一層確実に促進することができる。4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩の濃度が上記上限以下であれば、象牙芽細胞の増殖および/または幹細胞から象牙芽細胞への分化の促進効果を十分に確保できながら、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩の使用量の低減できる。
【0047】
液剤である象牙芽細胞増殖・分化促進剤を使用するには、例えば、歯髄に塗布、噴霧または滴下する(図2A参照)。
【0048】
(5-3)シート剤
象牙芽細胞増殖・分化促進剤がシート剤である場合、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩は、好ましくは、生体吸収材料からなるシート(例えば、コラーゲンシートなど)に吸着される。
【0049】
この場合、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩は、好ましくは、粒子形状を有する。4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩の平均一次粒子径の範囲は、例えば、上記の範囲と同様である。
【0050】
シート剤である象牙芽細胞増殖・分化促進剤を使用するには、例えば、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩が歯髄に接触するように、歯牙に貼付する(図2A参照)。
【0051】
(5)作用効果
う蝕が歯髄1に到達していない場合、歯科治療では、図1Aに示すように、エナメル質3および原生象牙質2のう蝕部分が除去されて、例えば、窩洞9が形成される。そして、窩洞9の内面を脱灰した後、公知の歯科用接着剤7を窩洞9の内面に塗布して、修復材料8(例えば、インレー、コンポジットレジンなど)を、歯科用接着剤7により歯牙に接着する。つまり、歯科用接着剤7は、う蝕が歯髄1に到達していない場合に、エナメル質3および原生象牙質2の表面と接触する一方、歯髄1とは接触しないように使用される。
【0052】
一方、図1Bに示すように、う蝕10が歯髄1に到達している場合、歯科治療において、エナメル質3および原生象牙質2のう蝕部分とともに、う蝕病原菌に感染した歯髄1の感染部分1Aが除去され、歯髄の未感染部分1Bが保存される。この場合、図1Cに示すように、感染部分1Aの除去により、原生象牙質2が有する歯髄腔2A内にはスペースSが生じており、未感染部分1Bの一部は、エナメル質3に形成された窩洞3A、原生象牙質2に形成された窩洞2BおよびスペースSを介して、露出している。
【0053】
図1Dに示すように、露出する未感染部分1Bに、従来の覆髄剤4(例えば、水酸化カルシウム系の薬剤)を接触させると、未感染部分1Bに含まれる象牙芽細胞が刺激されて、歯髄腔2A内のスペースSに臨む未感染部分1Bの表面にのみ、第三象牙質6が生成する。そのため、歯髄腔2Aの容積が減少して、歯髄1が委縮するおそれがある。
【0054】
一方、図2Aに示すように、露出する未感染部分1Bに、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩を含有する象牙芽細胞増殖・分化促進剤5を接触させると、図2Bに示すように、未感染部分1Bに含まれる象牙芽細胞の増殖および/または幹細胞から象牙芽細胞への分化を促進でき、歯髄腔2A内のスペースSに臨む未感染部分1Bの表面のみならず、スペースSを埋めるように象牙芽細胞7が増殖することを期待できる。そして、増殖した象牙芽細胞が第三象牙質6を、歯髄腔2Aの外側(例えば、原生象牙質2の窩洞2B内)に生成するので、歯髄腔2Aの容積減少を抑制でき、ひいては、歯髄1の委縮を抑制できる。
【実施例
【0055】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、それらに限定されない。以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0056】
<実施例1~実施例10>
<<4-メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩の調製>>
撹拌装置、冷却管、温度計および滴下ロートを備えるガラス製反応装置に、エタノール64gと、4-メタクリロキシエチルトリメリット酸(以下、4-METとする。)3.19g(0.01mol)とを加えて、氷水で反応装置の内温を約10℃に冷却しながら撹拌して、4-METをエタノールに溶解した。
【0057】
別途、蒸留水400gに水酸化カルシウム0.74g(0.01mol)を溶解させて、水酸化カルシウム水溶液を調製した。そして、水酸化カルシウム水溶液を滴下ロートにより、4-METのエタノール溶液に約30分かけて滴下した。このとき、反応装置の内温が変化しないように維持した。
【0058】
4-METのエタノール溶液の滴下終了から30分間、反応装置の内温を室温(25℃)に上昇させて、反応液の攪拌を続けて、4-METと水酸化カルシウムとの反応生成物を熟成した。得られた反応液を減圧蒸留器にて濃縮して、析出した反応生成物を濾過した。残渣をエタノールで洗浄および乾燥し、白色の固体粉末約3.3gを得た。
【0059】
得られた固体粉末は、NMR分析および元素分析により、4-METのカルシウム塩(C-MET)であることを確認した。C-METにおける酸塩基グラム当量比(カルシウム塩基グラム当量/酸グラム当量)は、1.0[グラム当量/グラム当量]であった。
【0060】
C-METをボールミルで粗粉砕し、さらにメノウ乳鉢にて十分に均一な微粉末にした。C-MET粉末の一部を走査型電子顕微鏡にて観察したところ、C-MET粉末の最大一次粒子径は、約30μmであり、C-MET粉末の最小一次平均粒子径は、約0.1μmであった。C-MET粉末をエチレンオキシドにてガス滅菌して分包して保管した。
【0061】
<<象牙芽細胞増殖・分化促進剤の調製>>
次いで、各実施例においてC-METの濃度が下記になるように、C-MET粉末を超純水(dHO)に溶解または分散して、液剤である象牙芽細胞増殖・分化促進剤を調製した。なお、実施例17では、C-METを超純水に溶解または分散せずに、粉末状体のC-METを、粉剤である象牙芽細胞増殖・分化促進剤とした。
実施例1:10μg/mL(1.0質量%)
実施例2:20μg/mL(2.0質量%)
実施例3:50μg/mL(4.8質量%)
実施例4:100μg/mL(9.1質量%)
実施例5:200μg/mL(16.7質量%)
実施例6:300μg/mL(23.1質量%)
実施例7:500μg/mL(33.3質量%)
実施例8:1000μg/mL(50.0質量%)
実施例9:1500μg/mL(60.0質量%)
実施例10:2000μg/mL(66.7質量%)
実施例11:30.9μg/mL(3.0質量%)
実施例12:52.6μg/mL(5.0質量%)
実施例13:111.1μg/mL(10.0質量%)
実施例14:250g/mL(20.0質量%)
実施例15:666.7μg/mL(40.0質量%)
実施例16:4000μg/mL(80.0質量%)
実施例17:100.0質量%。
【0062】
<評価>
<<象牙芽細胞増殖試験>>
ウシ胎児血清(FBS)が5質量%添加されたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を準備した。そして、ラット象牙芽細胞様細胞株の一種であるMDPC-23細胞(ラット歯乳頭由来細胞)を、DMEMにおいて培養した。次いで、マイクロプレート(96ウェル)の各ウェルに1000個のMDPC-23細胞が分配されるように、MDPC-23細胞が培養されているDMEM0.1mLを各ウェルに注入した。
【0063】
次いで、実施例1~10の象牙芽細胞増殖・分化促進剤および超純水(コントロール)のそれぞれを、対応するウェルに加えた。その後、常温(25℃)で5日間静置した後、生細胞数測定キット(CCK-8:Cell Counting Kit-8)によって、MDPC-23細胞の増殖を評価した。
【0064】
CCK-8アッセイでは、マイクロプレートリーダー(測定波長:450nm)を使用した。また、CCK-8アッセイを6回繰り返した。
【0065】
実施例1~5およびコントロールのCCK-8アッセイ結果を図3に示し、実施例4、6~10およびコントロールのCCK-8アッセイ結果を図4に示す。
【0066】
図3および図4に示されるように、各実施例の象牙芽細胞増殖・分化促進剤により、コントロールと比較して、MDPC-23細胞の増殖が顕著に促進されていることが確認された。
【0067】
また、図4に示すように、象牙芽細胞増殖・分化促進剤におけるC-METの濃度が500μg/mL(実施例7)までは、C-METの濃度の増加に伴って、MDPC-23細胞の増殖・分化促進効果が徐々に向上することが確認され、C-METの濃度が500μg/mLを超過すると、それ以上のMDPC-23細胞の増殖・分化促進効果の向上は、確認されなかった。
【0068】
<<象牙質形成に関する関連遺伝子の発現試験>>
ウシ胎児血清(FBS)が5質量%添加されたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を準備した。そして、MDPC-23細胞(ラット歯乳頭由来細胞)をDMEMにおいて培養した。次いで、マイクロプレート(12ウェル)の各ウェルに104個のMDPC-23細胞が分配されるように、MDPC-23細胞が培養されているDMEM2mLを各ウェルに注入した。
【0069】
次いで、実施例4、6および7の象牙芽細胞増殖・分化促進剤と超純水(コントロール)とのそれぞれを、対応するウェルに加えた。その後、常温(25℃)で5日間静置した後、各ウェルに、10mmol/Lのβ-グリセロリン酸(β-GP)水溶液0.02mLと、50μg/mLのアスコルビン酸0.02mLと、100nmol/Lのデキサメタゾン水溶液(ステロイド系抗炎症剤)0.002mLとを添加した。
【0070】
その後、さらに2日間静置した後、リアルタイムPCRを実施した。なお、内部標準として、β-アクチンを使用した。また、リアルタイムPCRを3回繰り返した。
【0071】
RNA-象牙質シアロリンタンパク質(rDSPP)のメッセンジャーRNA(mRNA)の発現量を図5Aに示す。RNA-象牙質マトリックスタンパク質(rDMP-1)のmRNAの発現量を図5Bに示す。RNA-オステオカルシン(rOCN)のmRNAの発現量を図5Cに示す。RNA-オステオポンチン(rOPN)のmRNAの発現量を図5Dに示す。
【0072】
図5Aおよび図5Bに示すように、象牙質特有のタンパク質(rDSPPおよびrDMP-1)を生成する遺伝子の増加が確認され、かつ、図5Cおよび図5Dに示すように、硬組織(石灰化)に必要な骨基質タンパク質(オステオカルシンおよびオステオポンチン)を生成する遺伝子の増加が確認された。そのため、増殖したMDPC-23細胞による象牙質の形成が期待できる。
【0073】
<<細胞生存率測定>>
ウシ胎児血清(FBS)5質量%、50ユニット/mLペニシリン、および、50μg/mLストレプトマイシンを加えたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を準備した。そして、ヒト歯髄幹細胞(hDPSC)を、DMEMにおいて培養した。次いで、10mmol/Lのβ-グリセロリン酸(β-GP)0.02mLと、50μg/mLのアスコルビン酸0.02mLとを、hDPSCを培養するDMEMに添加した。
【0074】
次いで、マイクロプレート(96ウェル)の各ウェルに1,000~3,000個のhDPSCが分配されるように、hDPSCが培養されているDMEM0.1mLを各ウェルに注入した。
【0075】
次いで、実施例9、11~17の象牙芽細胞増殖・分化促進剤および超純水(コントロール)のそれぞれを、対応するウェルに加えた。その後、常温(25℃)で4日間静置した後、生細胞数測定キット(CCK-8:Cell Counting Kit-8)によって、細胞生存率を評価した。
【0076】
CCK-8アッセイでは、マイクロプレートリーダー(測定波長:450nm)を使用した。また、CCK-8アッセイを6回繰り返した。その結果を図6に示す。
【0077】
図6に示されるように、各実施例の象牙芽細胞増殖・分化促進剤を添加しても、コントロールと同様に、細胞が十分に生存することが確認された。
【0078】
<<ヒト歯髄幹細胞から象牙芽細胞への分化試験>>
上記した細胞生存率測定と同様にして、hDPSCを培養するDMEMを準備した。
【0079】
また、粉末状の下記試料のそれぞれを超純水(dHO)に溶解または分散した後、DMEMで希釈して、実施例12および比較例1~4の象牙芽細胞増殖・分化促進剤を調製した。各象牙芽細胞増殖・分化促進剤における試料の濃度は、5質量%であった。
【0080】
試料:
4-METのカルシウム塩:C-MET(実施例12)、
4-メタクリロキシエチルトリメリット酸:4-MET(比較例1)、
水酸化カルシウム:CH(比較例2)、
ミネラルトリオキサイドアグリゲート:MTA(比較例3)、
塩化カルシウム:CaCl(比較例4)。
【0081】
次いで、実施例12および比較例1~4の象牙芽細胞増殖・分化促進剤と超純水(コントロール)とのそれぞれを、hDPSCを培養するDMEMに直接溶解した。
【0082】
その後、24日間静置した後、実施例12および比較例1~4の象牙芽細胞増殖・分化促進剤と超純水(コントロール)とを溶解したDMEMについて、リアルタイムPCRを実施した。なお、内部標準として、β-アクチンを使用した。
【0083】
RNA-骨シアロタンパク質(BSP)のmRNAの発現量を図7Aに示す。RNA-オステオポンチン(rOPN)のmRNAの発現量を図7Bに示す。RNA-オステオカルシン(rOCN)のmRNAの発現量を図7Cに示す。RNA-象牙質シアロリンタンパク質(rDSPP)のmRNAの発現量を図7Dに示す。RNA-象牙質マトリックスタンパク質(rDMP-1)のmRNAの発現量を図7Eに示す。
【0084】
図7A図7Eに示すように、C-METをhDPSCと接触させると、象牙芽細胞に特有な遺伝子(BSP、rOPN、rOCB、rDSPPおよびrDMP-1)の増加が確認された。一方、4-MET、CHおよびMTAのそれぞれをhDPSCに接触させても、象牙芽細胞に特有な遺伝子の増加は確認されなかった、これによって、C-METが、hDPSCから象牙芽細胞への分化を促進することが確認された。
【0085】
また、実施例12の象牙芽細胞増殖・分化促進剤と超純水(コントロール)とを溶解したDMEMに関して、14日間、21日間および28日間静置したときの石灰化状態を、アルカリホスファターゼ(ALPase)測定により評価した。その結果を図8に示す。
【0086】
さらに、実施例12および比較例1~4の象牙芽細胞増殖・分化促進剤と超純水(コントロール)とを溶解したDMEMに関して、30日間および32日間静置したときの石灰化状態を、アリザリンレッドS染色測定により評価した。その結果を図9Aおよび図9Bに示す。なお、石灰化状態の評価は、有意水準を1%として、ワンウェイANOVAと、ポストホックTukey’s HSDテストとを用いて実施した。
【0087】
図8図9Aおよび図9Bに示すように、C-METをhDPSCと接触させると、石灰化が促進されることが確認された。また、CH、MTAおよびCaClをhDPSCに接触させた場合においても、石灰化が確認された。しかし、CHおよびMTAをhDPSCに接触させた場合、図7A図7Eに示すように、hDPSCから象牙芽細胞への分化を促進が観測されないことから、細胞上でカルシウムイオンがリン酸と結合してリン酸カルシウムが沈着していると思われる。
【0088】
<<間葉系幹細胞から象牙芽細胞への分化試験>>
hDPSCを間葉系幹細胞(MSC)に変更したこと以外は、上記した細胞生存率測定と同様にして、MSCを培養するDMEMを準備した。
【0089】
次いで、実施例12の象牙芽細胞増殖・分化促進剤と超純水(コントロール)とのそれぞれを、MSCを培養するDMEMに直接溶解した。その後、10日間、17日間および24日間静置したときのリアルタイムPCRを実施した。なお、内部標準として、β-アクチンを使用した。
【0090】
RNA-骨シアロタンパク質(BSP)のmRNAの発現量を図8Aに示す。RNA-象牙質マトリックスタンパク質(rDMP-1)のmRNAの発現量を図8Bに示す。
【0091】
図8Aおよび図8Bに示すように、C-METをMSCと接触させると、象牙芽細胞に特有な遺伝子の増加が確認された。これによって、C-METが、MSCから象牙芽細胞への分化を促進することが確認された。
【0092】
なお、上記発明は、本発明の例示の実施形態として提供したが、これは単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。当該技術分野の当業者によって明らかな本発明の変形例は、後記請求の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の象牙芽細胞増殖・分化促進剤は、例えば、覆髄剤として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0094】
1 歯髄
2 原生象牙質
3 エナメル質
5 象牙芽細胞増殖・分化促進剤
6 第三象牙質
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10