(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】炭素繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 6/18 20060101AFI20240723BHJP
D01F 9/22 20060101ALI20240723BHJP
D06M 15/643 20060101ALI20240723BHJP
D06M 13/513 20060101ALI20240723BHJP
D06M 13/17 20060101ALI20240723BHJP
D06M 15/53 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
D01F6/18 E
D01F9/22
D06M15/643
D06M13/513
D06M13/17
D06M15/53
(21)【出願番号】P 2022117334
(22)【出願日】2022-07-22
【審査請求日】2022-10-04
(32)【優先日】2021-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518305565
【氏名又は名称】臺灣塑膠工業股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】謝 家竣
(72)【発明者】
【氏名】蔡 坤曄
(72)【発明者】
【氏名】陳 敬文
(72)【発明者】
【氏名】洪 家祺
(72)【発明者】
【氏名】周 ▲ビン▼汝
(72)【発明者】
【氏名】▲黄▼ 龍田
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102477159(CN,A)
【文献】特開2002-371476(JP,A)
【文献】特開2006-183159(JP,A)
【文献】特開2018-145562(JP,A)
【文献】特開昭60-173169(JP,A)
【文献】特開2021-025042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M
D01F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油剤を形成するように、γ-ジビニルトリアミンプロピルメチルジメトキシシラン及びN-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシランを含むシリコーンオイル組成物
、乳化剤
及び脱イオン水を均一に混合する乳化ステップと、
炭素繊維前駆体を形成するように、炭素繊維原糸を前記油剤に浸漬し、前記油剤を前記炭素繊維原糸の表面に付着させる給油ステップと、
炭素繊維を形成するように、前記炭素繊維前駆体に対して焼成を行う焼成ステップと、を含み、
前記シリコーンオイル組成物と前記乳化剤と前記脱イオン水の重量比が(12~40):(3~15):(45~85)であり、
前記γ-ジビニルトリアミンプロピルメチルジメトキシシランと前記N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシランとの重量比は、7:3~8:2にある炭素繊維の製造方法。
【請求項2】
空気中で前記油剤に対して熱重量分析を行い、温度が273℃~277℃である場合、前記油剤の重量は前記油剤の元の重量の90%より大きい請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項3】
温度が428℃~432℃である場合、前記油剤の重量は前記油剤の元の重量の80%より大きい請求項2に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項4】
前記給油ステップにおいて、前記油剤の油付着率は、0.5%~0.8%にある請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項5】
前記シリコーンオイル組成物を形成するように、前記γ-ジビニルトリアミンプロピルメチルジメトキシシランと、前記N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシランとを、回転数300~1000rpmで均一に混合する混合ステップを更に含む請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項6】
前記混合ステップは、50℃~65℃の温度で行われる請求項5に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項7】
前記乳化剤は、非イオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤又はそれらの組み合わせを含む請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項8】
前記非イオン界面活性剤は、ポリオキシエチレンエーテル・ポリオキシプロピレンエーテルブロック共重合体、トリスチリルフェニルエーテル・エチレンオキシド/プロピレンオキシドブロック共重合体又はそれらの組み合わせを含む請求項
7に記載の炭素繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭素繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護意識の高まり及び省エネルギー・効率化の概念の形成に伴い、炭素繊維への需要が高まりつつある。炭素繊維は、耐疲労性に優れ、熱伝導率が高く、摩擦係数が小さく、潤滑性に優れ、熱膨張係数が小さく、耐食性に優れ、X線透過率が高く、及び比熱と導電性が非金属と金属とにある等のメリットを有するため、例えば、工業、運動、土木建築、交通輸送、エネルギー、宇宙及び軍事等の分野に広く応用されることが多い。しかしながら、炭素繊維の製造過程において、前駆体、プロセス及び炭素化条件によって、製造される炭素繊維の機械的強度及びその他の物理的や化学的特性も異なる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
炭素繊維の製造過程において、加熱された環境下で繊維原糸を延伸することがほとんどであり、且つ繊維原糸の焼成も高温の環境下で行われるが、高温により繊維原糸が軟化することを招きやすく、さらに単繊維の接着が発生する場合がある。また、繊維原糸は、搬送中にローラの表面と接触して摩擦し、毛羽及びその他の欠陥の発生を招くため、炭素繊維の品質を低下させる。上記の発生を防止するために、繊維原糸の表面に油剤を付着させて保護膜を形成することが現在最も多く用いられている。しかしながら、一般に汎用されている油剤は高温に耐えることが困難であるため、変性された油剤が開発されていた。しかしながら、変性された油剤は、成膜性が悪く、耐熱性が悪く、安定性が悪く、親水性が悪く、プロセスが複雑である等の問題が依然としてある。上記に基づき、如何に上記問題を克服できる油剤を提供するかは、当業者が積極的に研究する重要な課題である。
本発明は、上述に鑑みてなされたものであり、その目的は、炭素繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示の幾つかの実施形態の炭素繊維の製造方法によれば、油剤を形成するように、γ-ジビニルトリアミンプロピルメチルジメトキシシラン及びN-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシランを含むシリコーンオイル組成物、乳化剤及び脱イオン水を均一に混合する乳化ステップと、炭素繊維前駆体を形成するように、炭素繊維原糸を前記油剤に浸漬し、前記油剤を前記炭素繊維原糸の表面に付着させる給油ステップと、炭素繊維を形成するように、前記炭素繊維前駆体に対して焼成を行う焼成ステップと、を含む。
【0005】
シリコーンオイル組成物と乳化剤と脱イオン水の重量比が(12~40):(3~15):(45~85)であり、γ-ジビニルトリアミンプロピルメチルジメトキシシランとN-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシランとの重量比は、7:3~8:2にある。
【0006】
本開示の幾つかの実施形態において、空気中で油剤に対して熱重量分析を行い、温度が273℃~277℃である場合、油剤の重量は油剤の元の重量の90%より大きい。
【0007】
本開示の幾つかの実施形態において、温度が428℃~432℃である場合、油剤の重量は油剤の元の重量の80%より大きい。
【0008】
本開示の幾つかの実施形態において、給油ステップにおいて、油剤の油付着率は、0.5%~0.8%にある。
【0009】
本開示の幾つかの実施形態において、シリコーンオイル組成物を形成するように、γ-ジビニルトリアミンプロピルメチルジメトキシシランと、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシランとを、回転数300~1000rpmで均一に混合する混合ステップを更に含む。
【0010】
本開示の幾つかの実施形態において、混合ステップは、50℃~65℃の温度で行われる。
【0012】
本開示の幾つかの実施形態において、乳化剤は、非イオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤又はそれらの組み合わせを含む。
【0013】
本開示の幾つかの実施形態において、非イオン界面活性剤は、ポリオキシエチレンエーテル・ポリオキシプロピレンエーテルブロック共重合体、トリスチリルフェニルエーテル・エチレンオキシド/プロピレンオキシドブロック共重合体又はそれらの組み合わせを含む。
【0014】
本開示の上記実施形態によれば、本開示の油剤は、炭素繊維を製造することに用いられ、且つγ-ジビニルトリアミンプロピルメチルジメトキシシラン及びN-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシランを含み、γ-ジビニルトリアミンプロピルメチルジメトキシシラン及びN-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシランはいずれもアミノ基で変性されたシランであるため、両者の相溶性が良好で、油剤の安定性を向上させることに寄与し、且つプロセス上の利便性を提供することができ、シリコーンオイル組成物に良好な親水性を有させることができる。一方、本開示の油剤は良好な成膜性及び耐熱性を有することができるため、油付着率がかなり小さい前提で良好な保護効果を達成することができる。
本開示の上記及び他の目的、特徴、メリット及び実施例をより明確に理解するために、添付図面についての説明は以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示の幾つかの実施形態による炭素繊維の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】本開示の幾つかの実施形態による油剤の熱重量分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の複数の実施形態による炭素繊維の製造方法を図面によって開示し、説明を明確にするために、多くの実務上の細部を以下の説明において併せて説明する。しかしながら、これらの実務上の細部は、本開示を制限するために適用されないことを理解されたい。すなわち、本開示の一部の実施形態において、これらの実務上の細部は、必要ではないので、本開示を限定することに用いられるべきではない。
【0017】
本開示の幾つかの実施形態による炭素繊維の製造方法を示すフローチャートである
図1を参照する。本開示による炭素繊維の製造方法は、ステップS10~ステップS50を含む。ステップS10において、シリコーンオイル組成物を形成するように、混合ステップを行う。ステップS20において、油剤を形成するように、乳化ステップを行う。ステップS30において、炭素繊維原系を調製する。ステップS40において、炭素繊維前駆体を形成するように、炭素繊維原糸に対して給油ステップを行う。ステップS50において、炭素繊維を形成するように、炭素繊維前駆体に対して焼成ステップを行う。以下の説明において、上記の各ステップをさらに説明する。
【0018】
まず、ステップS10において、シリコーンオイル組成物を形成するように、第1アミノ変性シリコーンオイル及び第2アミノ変性シリコーンオイルを均一に混合する混合ステップを行う。第1アミノ変性シリコーンオイルは、γ-ジビニルトリアミンプロピルメチルジメトキシシランを含み、かつ、第2アミノ変性シリコーンオイルは、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシランを含む。γ-ジビニルトリアミンプロピルメチルジメトキシシラン及びN-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシランは、いずれもアミノ基で変性されたシランであるため、両者の相溶性が良好で、シリコーンオイル組成物全体の安定性の向上に寄与するとともに、プロセス上の利便性を提供することができる(例えば、シリコーンオイル組成物で油剤を形成する時、乳化剤の選択が多様であり、これについてさらに後述する)。また、γ-ジビニルトリアミンプロピルメチルジメトキシシラン及びN-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシランはいずれもアミノ基で変性されたシランであるため、シリコーンオイル組成物に良好な親水性を有させることができ、これにより、乳化の方式で油剤を形成した後、さらに油剤を炭素繊維原糸の表面に付着させることに寄与し、揮発性が強く且つ可燃性が高い有機溶媒を用いてシリコーンオイル組成物を溶解してそれを炭素繊維原糸の表面に成形する必要がなく、このようにプロセスの安全性を向上させる。
【0019】
幾つかの実施形態において、第1アミノ変性シリコーンオイルと第2アミノ変性シリコーンオイルとの重量比は、7:3~8:2の間にあってもよく、これにより、後続に形成された油剤の成膜性及び熱安定性を向上させる。詳細には、上記重量比が7:3(例えば6:4)未満であると、油剤の熱安定性が比較的悪く、炭素繊維原糸の保護に役に立たないおそれがある。上記重量比が8:2(例えば9:1)より大きいと、油剤の成膜性が悪く、炭素繊維原糸の表面に付着させるのに役に立たないおそれがある。幾つかの実施形態において、第1アミノ変性シリコーンオイル及び第2アミノ変性シリコーンオイルを均一に混合するように、回転数300rpm~1000rpmで第1アミノ変性シリコーンオイル及び第2アミノ変性シリコーンオイルを撹拌してもよい。詳細には、上記回転数が300rpm未満であると、混合が不均一になり、さらに油剤の保護能力に影響を与えるおそれがある。上記回転数が1000rpmより大きいと、不要な発熱を引き起こし、第1アミノ変性シリコーンオイル及び第2アミノ変性シリコーンオイルの変質を引き起こすおそれがある。幾つかの実施形態において、50℃~65℃の温度で混合ステップを行ってもよく、且つ60分間~90分間持続して、第1アミノ変性シリコーンオイル及び第2アミノ変性シリコーンオイルを徹底的に混合することを確保する。
【0020】
次に、ステップS20において、油剤を形成するように、ステップS10で形成されたシリコーンオイル組成物、乳化剤及び脱イオン水を均一に混合する乳化ステップを行う。乳化剤の添加は、シリコーンオイル組成物の親水性を向上させ、シリコーンオイル組成物と脱イオン水を十分に混合させることができる。幾つかの実施形態において、シリコーンオイル組成物、乳化剤及び脱イオン水の重量比は、(12~40):(3~15):(45~85)であってもよく、これにより、好適な混合又は乳化効果を達成する。幾つかの実施形態において、乳化剤は、非イオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤又はそれらの組み合わせを含んでもよい。好適な実施形態において、乳化剤は、非イオン界面活性剤を含んでもよい。本開示に用いられる非イオン界面活性剤は、ポリオキシエチレンエーテル・ポリオキシプロピレンエーテルブロック共重合体、トリスチリルフェニルエーテル・エチレンオキシド/プロピレンオキシドブロック共重合体又はそれらの組み合わせを含み、上記非イオン界面活性剤は、アミノ基で変性されたシランを含むシリコーンオイル組成物と脱イオン水とを乳化することが好ましい。ステップS20を完了した後、本開示の油剤が得られる。幾つかの実施形態において、油剤の酸塩基値(pH値)を7以下に制御し、油剤の安定性を確保するように、さらに油剤に酢酸、クエン酸又はそれらの組み合わせを加えてもよい。
【0021】
その後、ステップS30において、炭素繊維原系を調製し、ステップS32~ステップS36を含んでもよい。まず、ステップS32において、第1モノマー及び第2モノマーを、溶媒に溶解し、且つ重合反応を行い、共重合高分子を得る。幾つかの実施形態において、第1モノマーはアクリロニトリルを含むが、第2モノマーは不飽和結合を有する。具体的には、第2モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、酢酸ビニル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、臭化ビニル、イタコン酸、クエン酸、マレイン酸、メサコン酸、クロトン酸、スチレン、塩化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、ビニルトルエン、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、上記任意の化合物のアミン塩又はエステル系誘導体が挙げられる。幾つかの実施形態において、共重合高分子の溶媒への溶解性、繊維への緻密性及び安定化プロセスにおける酸化反応の促進機能を考慮すると、第2モノマーは、例えばイタコン酸であることが好ましい。
【0022】
幾つかの実施形態において、第1モノマーと第2モノマーとの合計100wt%に対して、第1モノマーの含有量は、95wt%~100wt%であってもよく、即ち、第2モノマーの含有量は5wt%未満であってもよい。上記含有量の範囲では、第1モノマーは高い含有率を有するため、後続の焼成ステップの間における、後続に形成される炭素繊維前駆体に欠陥が生じることを回避し、炭素繊維の機械的強度を向上させることができる。詳細には、第1モノマーの含有量が95wt%未満であると、焼成ステップの間において炭素繊維前駆体は過剰な質量を失うおそれがあり、そして、欠陥が生じやすくなる。好適な実施形態において、第1モノマーと第2モノマーとの合計100wt%に対して、第1モノマーの含有量は、99wt%~100wt%であってもよく、即ち、第2モノマーの含有量は1wt%未満であってもよく、これにより、上記効果を良く実現し、炭素繊維はより好適な機械的強度を有するようになる。
【0023】
続いて、ステップS34において、一次炭素繊維を形成するように、紡糸ステップを行う。具体的には、紡糸ステップは、糸引きステップ及び凝縮ステップを順次含んでもよい。まず、紡糸原液を形成するように、共重合高分子を適当な濃度で溶媒に溶解し、紡糸原液に対して糸引きステップを行って糸状の共重合高分子を形成してもよい。このステップにおいて、溶媒は、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどの有機溶媒、又はそれらの組み合わせであってもよい。他の実施形態において、溶媒は、二塩化亜鉛、チオシアン酸ナトリウム等の無機塩類水溶液又はそれらの組み合わせであってもよい。金属の残留が炭素繊維の物理的特性に影響するのを回避するために、溶媒はジメチルスルホキシドであることが好ましい。幾つかの実施形態において、共重合高分子の溶媒における重量濃度%は、18%~25%であってもよく、紡糸引きステップにより適切な緻密性を有する糸状の共重合高分子を形成することに有利である。詳細には、共重合高分子の溶媒における重量濃度%が18%未満であると、紡糸原液は高倍率の延伸を受けることができず、且つ紡糸引きにより得られた糸状の共重合高分子の構造が疎であり、炭素繊維の機械的強度が比較的低いことを招く。共重合高分子の溶媒における重量濃度%が15%より大きいと、溶媒の共重合高分子に対する溶解能力が不足であり、紡糸原液の均一性が悪く且つ粘度が高すぎることを招き、さらに紡糸原液の流動性が低いことを招き、紡糸プロセスの安定性に不利である。
【0024】
その後、一次炭素繊維を形成するように、乾噴湿式紡糸又は湿噴湿式紡糸によって糸状の共重合高分子に対して凝縮ステップを行ってもよい。具体的には、凝縮溝から一次炭素繊維を吐出するように、凝縮溝によって糸状の共重合高分子に対して凝縮ステップを行ってもよい。凝縮溝における凝縮液の濃度、凝縮ステップの温度(凝縮液の温度)、凝縮溝出口の牽引張力及び延伸倍率等の条件を調整することにより、一次炭素繊維の穴のサイズを制御することができる。幾つかの実施形態において、凝縮液は、ジメチルスルホキシドを溶解した水溶液を含んでもよく、凝縮液100wt%に対して、ジメチルスルホキシドの含有量は、20wt%~50wt%である。詳細には、ジメチルスルホキシドの含有量が20wt%未満であると、糸状の共重合高分子が凝縮液から析出することや凝固する速度が速すぎることを招き、一次炭素繊維の構造が疎で且つ表面の穴のサイズが比較的大きいことを招くおそれがある。ジメチルスルホキシドの含有量が50wt%より大きいと、糸状の共重合高分子の凝縮液における凝固速度が遅すぎることを招き、一次炭素繊維が完全に凝縮できず、一次炭素繊維が後続の水洗、延伸等のステップの間に単繊維の粘着が発生するおそれがある。幾つかの実施形態において、凝縮ステップの温度は、0℃~40℃であってもよく、一次炭素繊維の緻密性を向上させることに有利であり、且つ一次炭素繊維の穴のサイズを適切な範囲に制御させる。詳細には、凝縮温度が0℃未満であると、一次炭素繊維の穴のサイズが目標範囲より小さいことを招くおそれがある。凝縮温度が40℃より大きいと、一次炭素繊維の構造が疎すぎ、高い機械的強度の炭素繊維を形成することに不利である。
【0025】
続いて、ステップS36において、水洗槽を用いて、一次炭素繊維に対して水洗ステップを行うことができる。水洗槽中の水洗液の濃度、水洗ステップの温度(水洗液の温度)などの条件を調整することにより、単繊維の粘着を回避することができ、且つ一次炭素繊維の穴のサイズを制御することができる。幾つかの実施形態において、水洗槽は、ジメチルスルホキシドを溶解した水溶液(水洗液ともいう)を含んでもよく、水洗液100wt%に対して、ジメチルスルホキシドの含有量は、0wt%~25wt%であってもよい。幾つかの実施形態において、水洗ステップの温度は、70℃~90℃であってもよいが、複数段階の水洗ステップであると、最終段階の水洗ステップの温度は、さらに、90℃~95℃に上昇することができる。好適な実施形態において、溶媒が残留して一次炭素繊維に不必要な穴を形成することを好ましく回避するために、水洗ステップの温度は、100℃(即ち水洗液が沸騰状態にある)であることが好ましい。幾つかの実施形態において、水洗ステップを行う前に、一次炭素繊維に対して延伸ステップを行い、2倍~5倍の延伸倍率で一次炭素繊維を延伸してもよい。具体的には、延伸ステップは、高温ホットローラ、高温ホットプレートを用いるか、又は高温高圧蒸気において延伸するなどの方式によって行うことができる。好適な実施形態において、複数段階の延伸ステップ及び複数段階の水洗ステップを行うことができ、且つ延伸ステップ及び水洗ステップは、例えば、交互に行われてもよい。ステップS30(ステップS32~S36を含む)を完了した後、炭素繊維原糸が得られる。
【0026】
続いて、ステップS40において、炭素繊維前駆体を形成するように、炭素繊維原糸を油剤に浸漬し、油剤を炭素繊維原糸の表面に付着させる。幾つかの実施形態において、炭素繊維原糸を油剤に浸漬して取り出した後、油剤は炭素繊維原糸を完全に覆うことができ、すなわち、炭素繊維原糸の全ての表面が完全に露出することを回避することができる。幾つかの実施形態において、油剤に適切な流動性を有させるように、油剤を水で希釈してもよく、且つ希釈後の油剤の濃度は20wt%~35wt%であってもよい。幾つかの実施形態において、油剤の油付着率は0.5%~0.8%であってもよく、これにより、油剤が炭素繊維原糸の表面を十分に覆うことを確保し、且つ油剤の浪費を回避することができる。詳細には、油剤の油付着率が0.5%未満であると、油剤が炭素繊維原糸の表面を十分に覆うことを確保できないおそれがあり、油剤による炭素繊維原糸の保護力が不十分になる。油剤の油付着率が0.8%より大きいと、油剤の量が多すぎるため後続のプロセスに影響を与えるおそれがあり、且つ油剤の浪費も引き起こす。一方、本開示の油剤は良好な成膜性及び耐熱性を有することができるため、油付着率がかなり小さい(0.5%~0.8%の間)前提で良好な保護効果を達成することができる。ステップS40を完了した後、炭素繊維前駆体が得られる。
【0027】
本開示の幾つかの実施形態による油剤の熱重量分析結果を示す
図2を参照する。より詳細には、油剤の熱重量分析結果は、Mettler STARE System TGA2メーターにより空気中で行われ、かつ温度25℃から10℃/minの速度で250℃まで昇温してから半時間保持し、さらに455℃まで10℃/minの速度で昇温した。
図2の熱重量分析結果から分かるように、温度が273℃~277℃(例えば275℃)である時、油剤の重量は油剤の元の重量の90
%より大きい
(例えば93.8%)。また、温度が428℃~432℃(例えば430℃)である時、油剤の重量は油剤の元の重量の80
%より大きい。換言すれば、本開示の製造方法により製造された油剤は高温下で優れた耐熱性を有することができ、これにより、炭素繊維原糸を良好に保護し、後続の焼成、延伸等のステップを行う。
【0028】
その後、ステップS50において、炭素繊維を形成するように、炭素繊維前駆体に対して焼成ステップを行う。焼成ステップは、業界で公知の方法で行うことができ、例えば、安定化、炭素化、表面処理及びサイジングなどの4段階のステップを順次含む。具体的には、安定化ステップは、炭素繊維前駆体を適切な張力で、及び温度が200℃~300℃の空気において反応させることであり、安定化ステップを経た後の炭素繊維前駆体の繊維密度は、1.3g/cm3~1.4g/cm3であってもよい。炭素化ステップは、炭素繊維前駆体を高温の不活性ガス中で高温炭素化を行うことであり、また、炭素繊維の機械的強度を向上させるために、炭素化温度は1000℃~2000℃であってもよく、必要であれば、さらに炭素化温度を2000℃~2500℃に上昇させ、黒鉛化を行う。表面処理ステップは、炭素繊維と樹脂との結合能力を向上させることができ、化学グラフト、プラズマ、電解、オゾン処理等の方式を含み、好ましくはプラズマ処理を用いる。サイジングステップは、表面処理後の炭素繊維前駆体を水洗し、乾燥し、さらに含浸によってスラリーを炭素繊維前駆体の表面に付着させることであり、これにより、炭素繊維は良好な耐摩耗性、集束性等の保護効果を有する。ステップS50を完了した後、本開示の高い機械的強度を有する炭素繊維が得られる。
【0029】
以下、各実施例及び各比較例の炭素繊維を参照して、本開示の特徴及び効果についてより具体的に説明する。本開示の範囲を逸脱しない限り、使用する材料、その使用量及び割合、処理細部、及び処理手順等を、適宜変更することができることは了解されるべきである。従って、本開示は以下に説明した各実施例によって限定的に解釈されるべきではない。各実施例及び各比較例についての詳細説明は以下の通りである。
【0030】
各実施例及び各比較例の炭素繊維の製造方法は、以下のステップを含む。98wt%のアクリロニトリルを第1モノマーとし、2wt%のイタコン酸を第2モノマーとし、ジメチルスルホキシド溶媒に重合反応を行い、共重合高分子を形成した。共重合高分子を22wt%含む溶液(紡糸原液)を紡糸ノズルから空気に吐出した後、35wt%のジメチルスルホキシドの水溶液で凝縮溝に一次炭素繊維を形成した。一次炭素繊維に対して水洗ステップを行った後、沸騰水で2段階に分けて総延伸倍率3.5倍の延伸ステップを行い、炭素繊維原系を形成する。油剤で油剤槽において炭素繊維原系に対して給油ステップを行う。温度が175℃の熱ローラで給油後の炭素繊維原系に対して乾燥緻密化ステップを行う。高圧蒸気において炭素繊維原系に対して延伸倍率が3.5倍の延伸ステップを行い、炭素繊維前駆体を形成した。炭素繊維前駆体を空気中で240℃から300℃まで段階的に昇温し、前後の牽引ローラの速度比を1.0に制御して炭素繊維前駆体の張力を維持する条件で安定化ステップを行い、且つ安定化された炭素繊維前駆体の繊維密度は1.35g/cm3である。安定化された炭素繊維前駆体を窒素ガス中で300℃から800℃まで段階的に昇温し、かつ前後牽引ローラの速度比を0.9に制御する条件で低温炭素化を行い、さらに温度を900℃から1800℃まで段階的に昇温し、かつ前後牽引ローラの速度比を0.95に制御する条件で高温炭素化を行う。炭素化された炭素繊維前駆体に対して電解表面処理を行う。表面処理後の炭素繊維前駆体に対して水洗、乾燥及びサイジングステップを行い、最終的な炭素繊維を得る。油剤中の詳細な成分については後述する。
【0031】
各実施例の油剤における第1アミノ変性シリコーンオイルは、γ-ジビニルトリアミンプロピルメチルジメトキシシランであり、第2アミノ変性シリコーンオイルは、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシランであり、且つ乳化剤は、トリスチリルフェニルエーテル・エチレンオキシド/プロピレンオキシドブロック共重合体である。各比較例は、シリコーンオイル組成物として、アミノ変性ポリジメチルシロキサンであるポリ[3-((2-アミノエチル)アミノ)プロピル]ジメチルシロキサン(第1シロキサンと略称する)及びエポキシ変性ポリジメチルシロキサンである1,2エポキシシクロヘキシル変性ポリジメチルシロキサン(第2シロキサンと略称する)を混合し、且つ乳化剤が脂肪族アルコールポリオキシエチレンエーテルである。各成分の含有量を表1に示す。
【0032】
【0033】
<試験例1:油剤の油付着率及び残留重量テスト>
本試験例では、炭素繊維原糸をソックスレー蒸留器により抽出し、毎回、油剤を含有する炭素繊維原糸を10g取り、アセトンを沸騰溶媒に加熱して抽出し、抽出時間は4時間とした。ボトル内に残った残留重量を算出すれば油付着率を求めることができる。油剤残留重量は、TGA(熱重量損失機器)によりシステム記録からデータを得、油剤が275℃及び430℃に昇温した状態であり、テストの結果を表2に示す。
【0034】
【0035】
テストの結果から分かるように、油剤が炭素繊維原糸の表面を十分に覆うことを確保するように、本開示の油剤の油付着率は0.5%~0.8%の範囲内に維持することができ、且つ油付着率が低い場合に、油剤の使用量及びコストを低減することができる。
【0036】
<試験例2:炭素繊維の機械的強度テスト>
本試験例では、各実施例及び各比較例について、標準的方法であるASTM D4018-99を用いて炭素繊維の強度テストを行った。テストの結果を表3に示す。
【0037】
【0038】
試験例1及び試験例2のテストの結果をまとめて分かるように、本開示の油剤は、比較的低い油付着率で炭素繊維原糸に対して比較的良好な保護効果を達成することができ、最終的に製造された炭素繊維は比較的高い機械的強度を有し、油剤のコストを効果的に低減することができる。
【0039】
本開示の上記実施形態によれば、本開示の油剤は、炭素繊維を製造することに用いられ、且つγ-ジビニルトリアミンプロピルメチルジメトキシシラン及びN-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシランを含み、γ-ジビニルトリアミンプロピルメチルジメトキシシラン及びN-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシランはいずれもアミノ基で変性されたシランであるため、両者の相溶性が良好で、油剤の安定性を向上させることに寄与し、且つプロセス上の利便性を提供することができ、シリコーンオイル組成物に良好な親水性を有させることができる。一方、本開示の油剤は良好な成膜性及び耐熱性を有するため、油付着率がかなり小さい前提で良好な保護効果を達成することができる。
【0040】
以上、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0041】
S10~S50 ステップ