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特許7525563揚げ物の具材の食感改良用組成物、衣のひき抑制用組成物、油ちょう時間および/または油ちょう温度の低減用組成物ならびに揚げ物の製造方法
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  • 特許-揚げ物の具材の食感改良用組成物、衣のひき抑制用組成物、油ちょう時間および/または油ちょう温度の低減用組成物ならびに揚げ物の製造方法 図1
  • 特許-揚げ物の具材の食感改良用組成物、衣のひき抑制用組成物、油ちょう時間および/または油ちょう温度の低減用組成物ならびに揚げ物の製造方法 図2
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  • 特許-揚げ物の具材の食感改良用組成物、衣のひき抑制用組成物、油ちょう時間および/または油ちょう温度の低減用組成物ならびに揚げ物の製造方法 図7
  • 特許-揚げ物の具材の食感改良用組成物、衣のひき抑制用組成物、油ちょう時間および/または油ちょう温度の低減用組成物ならびに揚げ物の製造方法 図8
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】揚げ物の具材の食感改良用組成物、衣のひき抑制用組成物、油ちょう時間および/または油ちょう温度の低減用組成物ならびに揚げ物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/10 20160101AFI20240723BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20240723BHJP
   A23L 17/40 20160101ALI20240723BHJP
   A23L 17/00 20160101ALI20240723BHJP
【FI】
A23L5/10 E
A23L13/00 A
A23L17/40 A
A23L17/00 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022145685
(22)【出願日】2022-09-13
(65)【公開番号】P2023043180
(43)【公開日】2023-03-28
【審査請求日】2023-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2021150622
(32)【優先日】2021-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 糖アルコールセミナー(食品機能/全4回) 第三回 糖アルコールで美味しさを閉じ込めます!~タンパク質と糖アルコールの意外な関係~、令和3(2021)年9月16日、オンラインセミナー 〔刊行物等〕 ウェブセミナー(全6回) 第3回 新知見!糖アルコールが畜肉製品に及ぼす効果、令和4(2022)年8月19日、オンラインセミナー
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000226415
【氏名又は名称】物産フードサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004392
【氏名又は名称】弁理士法人佐川国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】三宅 加七子
(72)【発明者】
【氏名】柏倉 雄一
【審査官】石田 傑
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-133714(JP,A)
【文献】特開2014-147364(JP,A)
【文献】特開2012-095584(JP,A)
【文献】特開2003-265143(JP,A)
【文献】特開平07-274899(JP,A)
【文献】特開2004-057041(JP,A)
【文献】特開2020-010640(JP,A)
【文献】特開2012-029656(JP,A)
【文献】特開2011-103839(JP,A)
【文献】特開2020-080649(JP,A)
【文献】特開2000-300198(JP,A)
【文献】特開2013-118819(JP,A)
【文献】特開2001-128635(JP,A)
【文献】特開2022-007568(JP,A)
【文献】特開2022-151870(JP,A)
【文献】揚げ物 還元水飴でサクサク感アップ!,研究・テーマ_研究開発サイト|物産フードサイエンス,2020年,[online], [検索日:2023年5月31日], URL:https://rd.bfsci.co.jp/rtheme/230/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソルビトールおよび還元水飴から選択されるいずれか1以上の糖アルコールを有効成分とし、前記有効成分が揚げ物の衣部分に配合されることを特徴とする、揚げ物の具材の食感改良用組成物。
【請求項2】
ソルビトールおよび還元水飴から選択されるいずれか1以上の糖アルコールからなり、前記糖アルコールが揚げ物の衣部分に配合されることを特徴とする、揚げ物の衣のひき抑制用組成物。
【請求項3】
下記(イ)または(ク)の還元水飴を有効成分とし、前記有効成分が揚げ物の衣部分に配合されることを特徴とする、揚げ物の油ちょう時間および/または油ちょう温度の低減用組成物;
(イ)糖組成が、五糖以上が50質量%以上の還元水飴、
(ク)デキストロース当量が10以上35以下の水飴を還元してなる、還元水飴。
【請求項4】
前記具材の柔らかさを向上および/または維持するために用いられる、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記具材のしっとり感を向上および/または維持するために用いられる、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
下記(ア)~(ウ)から選択されるいずれか1以上の還元水飴を有効成分とし、前記具材の弾力を向上および/または維持するために用いられる、請求項1に記載の組成物;
(ア)糖組成が、単糖が30質量%未満かつ五糖以上が50質量%未満の還元水飴、
(イ)糖組成が、五糖以上が50質量%以上の還元水飴、
(ウ)デキストロース当量が10以上55以下の水飴を還元してなる、還元水飴。
【請求項7】
還元水飴を有効成分とし、さらに揚げ物の衣のサクミを向上および/または維持するために用いられる、請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
下記(ア)~(ウ)から選択されるいずれか1以上の還元水飴を有効成分とし、さらに揚げ物の衣と具材との結着性を向上および/または維持するために用いられる、請求項1~3のいずれかに記載の組成物;
(ア)糖組成が、単糖が30質量%未満かつ五糖以上が50質量%未満の還元水飴、
(イ)糖組成が、五糖以上が50質量%以上の還元水飴、
(ウ)デキストロース当量が10以上55以下の水飴を還元してなる、還元水飴。
【請求項9】
請求項1~のいずれかに記載の組成物を揚げ物の衣部分に配合した後に油ちょうする工程を有する、具材および衣からなる揚げ物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揚げ物の衣部分に配合することにより、揚げ物を改良する、あるいは油ちょうに要する時間や温度を低減する組成物であって、所定の糖アルコールを有効成分とする組成物およびそれを用いる揚げ物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油中で加熱調理(油ちょう)した食品である揚げ物は、具体的には、から揚げや天ぷら、フライ製品が例示される。これら揚げ物は、トンカツや鶏唐揚げに例示されるように、サクっとあるいはカリッとしたクリスピーな衣と、柔らかいあるいはしっとりとジューシーな具材との食感の対比が美味しさを形成するものが多い。そこで、揚げ物の衣や具材の食感を改良する技術が研究開発されており、例えば、特許文献1には、塩化ナトリウムと糖アルコールとを重量比1:1~1:10で含む調味液に鶏肉を浸漬した後、油ちょうすることで、柔らかい食感を有する鶏肉の唐揚げの製造方法が開示されている。
【0003】
また、近年では、揚げ物は、購入後そのまま喫食できる弁当・惣菜のほか、家庭で簡便な加熱処理をすることで喫食できる冷凍商品や冷蔵商品でも多く販売されている。これらは手軽に喫食できるため人気があるが、油ちょう後の保存時間の経過に伴い、具材がかたくなる、パサつく、弾力が低下する、あるいは衣のサクミが低下する、具材と揚げ衣との結着性が低下して隙間ができるなど、品質が劣化することが問題となっている。さらに、冷凍や冷蔵の揚げ物製品では、冷凍・解凍や再加熱、あるいは低温環境下での保存期間の経過により、衣のもさつきが増大することや、衣のひき(噛み切りにくさ)が増大することも問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3268543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法では、当該調味液に鶏肉を一定以上の時間(例えば、ブロイラーのモモ肉をそのまま浸漬するような場合には5~10時間)(特許文献1:段落[0033]および実施例1~6)浸漬する必要性があることから、製造に時間を要し効率性に欠ける。また、当該方法で得られた唐揚げは、冷凍・解凍後にも肉質からの離水が起こりにくいことが開示されているものの(特許文献1:段落[0128]、[137])、衣のもさつきやひきの増大といった冷凍・冷蔵製品に特有の課題の解決方法は開示されていない。すなわち、係る先行技術を鑑みても、揚げ物の具材の食感を改良できる、簡便で効率的な技術や、揚げ物を保存したときに生じる品質低下を抑制する技術は、十分に供給されている状況とはいえない。
【0006】
本発明は、係る課題を解決するためになされたものであって、揚げ物の具材や衣の食感を簡便ないし効率的に改良できる技術を提供することを目的とする。また、本発明は、揚げ物の保存時間の経過や冷凍・解凍、再加熱に伴う、具材や衣の品質低下を抑制できる技術を提供することを目的とする。さらに、本発明は、揚げ物製造時の油ちょうに要する時間や温度を低減できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ソルビトール、還元水飴、中糖化還元水飴または低糖化還元水飴(以下、「所定の糖アルコール」という場合がある。)を揚げ物の衣部分に配合するという簡便な操作により、揚げ物の具材の柔らかさやしっとり感、弾力を向上できるとともに、常温ないしは低温環境下での長時間保存した後も、これらの好ましい食感を維持できることを見出した。また、同操作により、揚げ物の衣のサクミや具材への結着性を向上できるとともに、常温ないしは低温環境下での長時間保存した後も、衣のサクミや結着性の低下を抑制でき、さらには衣のひきやもさつきの増大を抑制できることを見出した。さらに、同操作により、揚げ物の油ちょうに要する時間や温度を低減できることを見出した。そこで、係る知見に基づいて下記の各発明を完成した。
【0008】
(1)本発明に係る揚げ物の具材の食感改良用組成物は、ソルビトールおよび還元水飴から選択される1以上の糖アルコールを有効成分とし、前記有効成分が揚げ物の衣部分に配合されることを特徴とする。
【0009】
(2)本発明に係る揚げ物の衣のもさつきおよび/またはひき抑制用組成物は、ソルビトールおよび還元水飴から選択される1以上の糖アルコールを有効成分とし、前記有効成分が揚げ物の衣部分に配合されることを特徴とする。
【0010】
(3)本発明に係る揚げ物の油ちょう時間および/または油ちょう温度の低減用組成物は、ソルビトールおよび下記(ア)~(ウ)から選択されるいずれか1以上の糖アルコールを有効成分とし、前記有効成分が揚げ物の衣部分に配合されることを特徴とする;
(ア)糖組成が、単糖が30質量%未満かつ五糖以上が50質量%未満の還元水飴(中糖化還元水飴)、
(イ)糖組成が、五糖以上が50質量%以上の還元水飴(低糖化還元水飴)、
(ウ)デキストロース当量が10以上55以下の水飴を還元してなる、還元水飴(中~低糖化還元水飴)。
【0011】
(4)本発明に係る揚げ物の具材の食感改良用組成物は、具材の柔らかさを向上および/または維持するために用いられるもの(揚げ物の具材の柔らかさ向上および/または維持用組成物)であってもよい。
【0012】
(5)本発明に係る揚げ物の具材の食感改良用組成物は、具材のしっとり感を向上および/または維持するために用いられるもの(揚げ物の具材のしっとり感向上および/または維持用組成物)であってもよい。
【0013】
(6)本発明に係る揚げ物の具材の食感改良用組成物は、下記(ア)~(ウ)から選択されるいずれか1以上の還元水飴を有効成分とし、前記具材の弾力を向上および/または維持するために用いられるもの(揚げ物の具材の弾力向上および/または維持用組成物)であってもよい;
(ア)糖組成が、単糖が30質量%未満かつ五糖以上が50質量%未満の還元水飴(中糖化還元水飴)、
(イ)糖組成が、五糖以上が50質量%以上の還元水飴(低糖化還元水飴)、
(ウ)デキストロース当量が10以上55以下の水飴を還元してなる、還元水飴(中~低糖化還元水飴)。
【0014】
(7)本発明に係る揚げ物の具材の食感改良用組成物または衣のもさつきおよび/もしくはひき抑制用組成物は、還元水飴を有効成分とし、さらに揚げ物の衣のサクミを向上および/または維持するために用いられるもの(揚げ物の衣のサクミ向上および/または維持用組成物)であってもよい。
【0015】
(8)本発明に係る揚げ物の具材の食感改良用組成物、衣のもさつきおよび/もしくはひき抑制用組成物または油ちょう時間および/もしくは油ちょう温度の低減用組成物は、下記(ア)~(ウ)から選択されるいずれか1以上の還元水飴を有効成分とし、さらに揚げ物の衣と具材との結着性を向上および/または維持するために用いられるもの(揚げ物の衣の結着性向上および/または維持用組成物)であってもよい;
(ア)糖組成が、単糖が30質量%未満かつ五糖以上が50質量%未満の還元水飴(中糖化還元水飴)、
(イ)糖組成が、五糖以上が50質量%以上の還元水飴(低糖化還元水飴)、
(ウ)デキストロース当量が10以上55以下の水飴を還元してなる、還元水飴(中~低糖化還元水飴)。
【0016】
(9)本発明に係る具材および衣からなる揚げ物の製造方法は、本発明の組成物を、揚げ物の衣部分に配合した後に油ちょうする工程を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、揚げ物の具材の食感を改良することができる。例えば、具材の柔らかさやしっとり感、弾力といった好ましい食感を向上することができる。また、揚げ物を保存した時ないしは冷凍・解凍や再加熱した時に生じる具材の食感の劣化(例えば、かたさやパサつきの増大、弾力の低下など)を抑制することができる。
【0018】
本発明によれば、揚げ物の衣を改良することができる。例えば、揚げ物を保存した時ないしは冷凍・解凍や再加熱した時に生じる衣のもさつきやひきを抑制することができる。また、例えば、衣のサクミといった好ましい食感を向上することができる。また、例えば、衣の具材への結着性を向上して、食べやすさや外観を良くすることができる。また、保存時間の経過に伴う衣のサクミや結着性の低下を抑制し、揚げ衣の品質維持に寄与することができる。
【0019】
本発明によれば、揚げ物の油ちょうに要するエネルギー(例えば、油ちょう時間や油ちょう温度)を低減することができる。従って、揚げ物製品の製造効率の改善ないしは製造コストの削減に寄与することができる。
【0020】
本発明によれば、所定の糖アルコールを衣に配合するという簡便な操作により、揚げ物を改良し、油ちょう時間や油ちょう温度を低減することができる。従って、揚げ物製品の製造に要する時間や手間等のコストを増大させることなく、効率的に揚げ物を改良し、油ちょう時間や油ちょう温度を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】(I)は、各種の糖アルコールを配合したバッター液を用いたトンカツについて、油ちょう時間毎の芯温を示す表である。(II)は、当該芯温を折れ線グラフに表したものである。
図2】各種の糖アルコールを配合したバッター液を用いたトンカツの具肉について、歪率が50体積%となるまで圧縮した時の荷重を示す棒グラフである。(I)はトンカツの製造直後、(II)はトンカツを常温で6時間保存した後に、それぞれ測定した結果である。
図3】各種の糖アルコールを配合したバッター液を用いて製造し、冷凍後、4℃で1時間(Day0)、14日間(Day14)または29日間(Day29)保存して再加熱した鶏唐揚げについて、歪率が50体積%となるまで圧縮した時の荷重を示す棒グラフである。
図4】各種の糖アルコールを配合したバッター液を用いたトンカツの、衣と肉との接着状態を示す写真画像である。
図5】(I)は、低糖化還元水飴の配合量を0~17.5重量部の間で変化させたバッター液を用いたトンカツについて、油ちょう時間毎の芯温を示す表である。(II)は、当該芯温を折れ線グラフに表したものである。
図6】低糖化還元水飴の配合量を0~35重量部の間で変化させたバッター液を用いたトンカツについて、常温で20分(0h)または6時間(6h)保存し、歪率が50体積%となるまで圧縮した時の荷重を示す棒グラフである。
図7】バッター液に高糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合したトンカツの、衣と肉との接着状態を示す写真画像である。
図8】バッター液に高糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合したトンカツの、芯温と油ちょう時間との関係を示す折れ線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明では、揚げ物の具材の食感改良用組成物、揚げ物の衣のもさつきおよび/またはひき抑制用組成物、ならびに、揚げ物の油ちょう時間および/または油ちょう温度の低減用組成物をまとめて、あるいはこれらのうちのいずれかを指して「本組成物」または「本発明の組成物」という場合がある。
【0023】
「油ちょう」は、食材を油中で加熱調理することをいう。また、「油ちょう時間」は、油ちょうする時間をいい、「油ちょう温度」は、油ちょうする際の油の温度をいう。本発明において加熱調理は、食材に常温以上(例えば40℃~250℃)の熱を加える処理をいい、加熱調理された食品は食用に適する程度に加熱されていればよく、例えば、中心部など、食品の一部に熱が加わっておらず生の状態であるものも含む。
【0024】
「揚げ物の油ちょう時間を低減する」とは、揚げ物(特に、揚げ物の具材)を食用に適する程度に加熱するにあたり、必要とされる油ちょうにかかる時間を少なくすることをいう。
【0025】
「揚げ物の油ちょう温度を低減する」とは、揚げ物(特に、揚げ物の具材)を食用に適する程度に加熱するにあたり、必要となる油ちょうにかかる油の温度を低くすることをいう。
【0026】
「揚げ物」は、一般に、食材を油ちょうしてなる食品をいう。本発明においては、揚げ物のうち、特に、衣をつけた具材を油ちょうしてなる食品(具材および衣からなる揚げ物)を対象としている。具材は、揚げ物の食材本体となるもので、例えば、食肉や魚介類、野菜、あるいは、コロッケやメンチカツやシューマイの中具のようなミンチ状ないしマッシュ状食品の混合物などを例示することができる。一方、衣(「揚げ衣」という場合もある。)は、具材の表面全体に付着しているものをいう。衣となる食材は、具材の表面全体に付着する形態のものであればよい。係る衣となる食材としては、穀粉やおからパウダー、パン粉、青のり、ゆかり、ごま、あられ、そば米などの粉状、粒状のものや、穀粉と水などを混合してなるバッター液、卵液などの液体状のもののほか、コーン、砕いたそうめんなどの麺類、湯葉、砕いたあるいはスライスしたナッツ類などを例示することができる。衣付けは、具材および衣となる食材の態様に応じて、常法により行うことができる。
【0027】
本発明において「揚げ物の具材の食感を改良する」とは、具材における好ましい食感を向上させること、あるいは、好ましい食感を維持させることをいう。ここで、好ましい食感は、具材の種類によって異なるが、例えば、柔らかさ(柔らかい食感)やしっとり感(しっとりした、ジューシーな食感、みずみずしい食感)、弾力のある食感(弾力が強い食感)などを例示することができる。
【0028】
揚げ物の衣のもさつきとは、口中で揚げ物を咀嚼した際に、衣がモサモサしていると感じる食感である。衣のもさつきは、低温下での保存や冷凍・解凍、再加熱に伴って増大しやすい。
【0029】
揚げ物の衣のひきとは、口中で揚げ物を咀嚼した際に、衣が噛み切りにくいと感じる食感である。衣のひきは、低温帯での保存や冷凍・解凍、再加熱に伴って増大しやすい。
【0030】
なお、揚げ物の保存温度は、低温帯、常温帯および高温帯のいずれであってもよい。ここで、低温帯の温度は、具体的には、外気温あるいは室温下回る温度であればよいが、具体的には、食品を保存する容器内の温度として、10℃以下、-5℃以上10℃以下、0℃以上10℃以下、-5℃以上5℃以下を例示することができる。常温帯の温度は、外気温と同等程度であればよいが、具体的には、食品を保存する容器内の温度として、5℃以上35℃以下、10℃以上30℃以下、15℃以上25℃以下を例示することができる。高温帯の温度は、外気温あるいは室温を超える温度であればよいが、具体的には、食品を保存する容器内の温度として、35℃以上100℃以下、40℃以上100℃以下、50℃以上100℃未満、60以上100℃未満、60以上90℃以下を例示することができる。
【0031】
揚げ物の衣のサクミとは、口中で揚げ物を咀嚼した際に感じる、衣のサクサクとしたクリスピーな食感である。
【0032】
揚げ物の衣と具材との結着性(本発明において、単に「結着性」という場合がある)。は、製造後の揚げ物における衣の具材への付着の程度をいう。一般に、結着性が低い場合は、具材と衣との間に大きな隙間が生じ、揚げ物をカットした場合に見た目が良くないほか、喫食の最中や運搬の最中などにも衣が剥がれやすく食味の上でも好ましくない。結着性が高い場合はこれらの不都合が生じず、衣と具材とを一体的に味わうことができて好ましいといえる。
【0033】
本発明において、特定の食感や結着性を維持するという場合の「維持」は、当該食感や結着性の程度を一定に保つ場合のほか、当該食感や結着性の低下(劣化)が生じたとしてもその程度を小さくすることをいう。すなわち、特定の食感や結着性の維持は、当該食感や結着性の低下抑制(劣化抑制)と同義に用いられる。
【0034】
例えば、特定の食感や結着性が維持されたか否かは、本組成物を用いた揚げ物Xと、本組成物を用いていない揚げ物を同条件下で一定時間保存した後、当該食感や結着性の程度を比較することにより確認できる。それにより、食品Xの方が食品Yよりも、当該食感が優れている(例えば、具材が柔らかい、具材のしっとり感が大きい、具材の弾力が大きい、衣のサクミが大きい)あるいは衣と具材との結着性が高い、という比較結果が得られれば、本組成物により、揚げ物における特定の食感や結着性が維持されたと判断することができる。
【0035】
本発明において「衣のもさつき/ひきを抑制する」とは、揚げ物の保存前後で衣のもさつき/ひきを同等以下とする場合のほか、もさつき/ひきが増大したとしてもその程度を小さくすることをいう。すなわち、本組成物等を用いた揚げ物Xと、本組成物等を用いていない揚げ物Yとを同条件下で一定時間保存した後、比較して、Xの方が衣のもさつき/ひきが小さい場合には、本組成物により「衣のもさつき/ひきが抑制された」と判断することができる。
【0036】
本発明において、糖アルコールは、ソルビトールおよび還元水飴から選択されるいずれか1以上を用いる。
【0037】
ソルビトールは、ナナカマドの実やリンゴ、プルーンなどにも元来含まれている、六炭糖の単糖アルコールであり、グルコースの還元体である。
【0038】
還元水飴は、水飴を還元して得られる糖アルコールである。ここで、水飴は、デンプンを酸や酵素などで糖化して得られる物質であり、単糖(ブドウ糖)および多糖(オリゴ糖やデキストリンなど)の混合物である。よって、還元水飴もまた、単糖の糖アルコールおよび多糖(二糖、三糖または四糖以上)の糖アルコールのうち、2種以上の糖アルコールを含む混合物である。還元水飴の具体的な糖組成としては、例えば、単糖を1~50質量%、二糖を6~55質量%、三糖を1~65質量%、四糖以上を2~92質量%含有する糖組成を例示することができる。
【0039】
還元水飴は、糖化の程度により高糖化還元水飴、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴に分けられる場合がある。高糖化還元水飴の糖組成として、具体的には、(エ)単糖を30~50質量%、二糖を20~55質量%および三糖以上を40質量%以下、あるいは、(オ)単糖を37~50質量%、二糖を26~55質量%、三糖を1~21質量%、四糖を0~10質量%および五糖以上を0~8質量%含有する糖組成を例示することができる。
【0040】
中糖化還元水飴の糖組成として、具体的には、(ア)単糖を30質量%未満および五糖以上を50質量%未満含有する糖組成、あるいは、(カ)単糖を2~10質量%、二糖を15~55質量%、三糖を15~65質量%、四糖を1~15質量%および五糖以上を1~38質量%含有する糖組成を例示することができる。
【0041】
低糖化還元水飴の糖組成として、具体的には、(イ)五糖以上を50質量%以上含有する糖組成、あるいは、(キ)単糖を1~10質量%、二糖を6~21質量%、三糖を7~23質量%、四糖を5~13質量%および五糖以上を50~82質量%含有する糖組成を例示することができる。
【0042】
ここで、本発明において、糖組成とは、糖の総質量に占める各糖の質量割合を百分率で示すものをいう。すなわち、糖の総質量を100とした場合の、各糖の質量百分率である。
【0043】
糖組成は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて確認することができる。すなわち、還元水飴を試料としてHPLCに供してクロマトグラムを得る。当該クロマトグラムにおいて、全ピークの面積の総和が「糖の総質量」に、各ピークの面積が「各糖の質量」に相当する。よって、試料における各糖の質量百分率は、検出された全ピークの面積の総和に対する各ピークの面積の割合として算出することができる。HPLCの条件は、定法に従って適宜設定することができるが、下記条件を例示することができる。
《HPLCの条件》
カラム;MCI GEL CK04S(10mm ID x 200mm)
溶離液;高純水
流速;0.4mL/分
注入量;20μL
カラム温度;65℃
検出;示差屈折率検出器RI-10A(島津製作所)
【0044】
還元水飴は、水飴を還元して製造することから、還元水飴の糖化の程度は、水飴の糖化の程度に準じる。すなわち、原料水飴の糖化の程度が高いほど還元水飴の糖化の程度が高く、原料水飴の糖化の程度が低いほど還元水飴の糖化の程度は低い。水飴の糖化の程度の指標は、一般に、デキストロース当量(Dextrose Equivalent値;DE)が用いられる。DEは、試料中の還元糖をブドウ糖として測定したときの、当該還元糖の全固形分に対する割合(百分率)である。DEの最大値は100で、固形分の全てがブドウ糖であることを意味し、DEが小さくなるほど少糖類や多糖類が多いことを意味する。
【0045】
すなわち、高糖化還元水飴の原料水飴のDEとしては、例えば、55超、60以上、65以上、85以下、90以下、95以下、100以下を例示することができる。また、中糖化還元水飴の原料水飴のDEとしては、例えば、35超、37以上、48以下、50以下、55以下を例示することができる。また、低糖化還元水飴の原料水飴のDEとしては、例えば、10以上、12以上、14以上、30以下、32以下、35以下を例示することができる。また、低糖化~中糖化還元水飴の原料水飴のDEとしては、例えば、(ウ)10以上55以下を例示することができる。
【0046】
なお、水飴のDEは、下記の方法により測定することができる。
《DEの測定方法》
試料2.5gを正確に量り、水で溶かして200mLとする。この液10mLを量り、1/25mol/L ヨウ素溶液(注1)10mLと1/25mol/L 水酸化ナトリウム溶液(注2)15mLを加えて20分間暗所に放置する。次に、2mol/L塩酸(注3)を5mL加えて混和した後、1/25mol/L チオ硫酸ナトリウム溶液(注4)で滴定する。滴定の終点近くで液が微黄色になったら、デンプン指示薬(注5)2滴を加えて滴定を継続し、液の色が消失した時点を滴定の終点とする。水を用いてブランク値を求め、次式1によりDEを求める。
(注1)1/25mol/L ヨウ素溶液:ヨウ化カリウム20.4gとヨウ素10.2gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注2)1/25mol/L 水酸化ナトリウム溶液:水酸化ナトリウム3.2gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注3)2mol/L 塩酸:水750mLに塩酸150mLをかき混ぜながら徐々に加える。
(注4)1/25mol/L チオ硫酸ナトリウム溶液:チオ硫酸ナトリウム20gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注5)デンプン指示薬:可溶性デンプン5gを水500mLに溶解し、これに塩化ナトリウム100gを溶解する。
【0047】
本発明において、糖アルコールは、市販されているものをそのまま用いてもよく、当業者に公知の方法に従って製造して用いてもよい。ソルビトールおよび還元水飴の公知の製造方法としては、原料となるグルコースまたは水飴(原料糖)に水素を添加する還元反応を挙げることができる。
【0048】
糖アルコールは、揚げ物の衣部分に配合することにより用いる。すなわち、本発明は、本組成物を揚げ物の衣部分に配合した後に油ちょうする工程を有する揚げ物の製造方法をも提供する。
【0049】
衣部分への糖アルコールの配合方法は、揚げ物の種類や製品態様、具材の種類、所望の食感・食味・風味などに応じて、適宜設定することができる。例えば、バッター液を用いて製造する揚げ物であれば、当該バッター液に糖アルコールを添加し、これを用いて通常どおり揚げ物を製造すればよい。また、例えば、衣部分の原料が唐揚げ粉や天ぷら粉、片栗粉、パン粉等の粉粒状物であれば、ここに粉粒状の糖アルコールを添加混合し、これを具材にまぶしつければよい。また、例えば、衣としてパン粉を用いる場合であれば、糖アルコールを原料に添加してパンを製造し、これをパン粉にしたものを具材にまぶしつけてもよい。また、例えば、具材の衣付けの前または衣を付けた後に糖アルコール溶液を噴霧するなどしてもよい。
【0050】
糖アルコールの使用量もまた、揚げ物の種類や製品態様、具材の種類、所望の食感・食味・風味などに応じて、適宜設定することができる。使用量として具体的には、例えば、油ちょう前の衣部分の原料(固形分)100重量部に対して、糖アルコールが0.5重量部以上、1.0重量部以上、1.5重量部以上、2.0重量部以上、2.5重量部以上、3.0重量部以上、50重量部以下、45重量部以下、40重量部以下、39重量部以下、38重量部以下、37重量部以下、36重量部以下を例示することができる。
【0051】
揚げ物は、糖アルコールを油ちょう前に衣部分に配合する以外は、当業者に公知の手法で製造することができる。また、本方法は、本発明の特徴を損なわない限り他の工程を含むものであってもよい。係る工程としては、例えば、具材のカッティング工程、具材の破砕工程、調味工程、殺菌工程、冷却工程、冷凍工程、液切り工程、包装工程などを例示することができる。
【0052】
以下、本発明について、各実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例
【0053】
<試験方法>
(1)糖アルコール
糖アルコールは、表1に示す市販品を用いた。
【表1】
【0054】
(2)トンカツの製造
厚さ0.8cmの豚ロース肉をテンダライズ(針状の刃による筋切り)処理した後、冷凍した。各実施例に示す配合で、冷水、薄力粉またはミックス粉((株)ダイショー)、および糖アルコールを合わせて1分間ミキサーで混合した後、冷蔵庫にて10分間静置することにより、バッター液を作製した。続いて、凍結状態の豚ロース肉をバッター液に浸漬し、引き上げて網の上にのせた。ドライヤーをあてて余分なバッターを落とした後、市販のパン粉(高級とんかつ生パン粉、大川食品工業)を付けた。これを-40℃の冷凍庫に1時間以上置いて凍結した。凍結状態のパン粉付き肉を175℃の油に入れて油ちょう(フライ)して、トンカツを作製した。
【0055】
(3)チルド鶏唐揚げの製造
水94重量部に食塩1重量部および日持向上剤(「センドA-6」甲陽化学工業)5重量部を添加して、調味液を調製した。鶏胸肉を約30g/個の大きさにカットした。肉重量の30質量%に相当する重量の調味液と、カットした肉とを合わせて真空タンブラー(「フレーバーメーカー F-15」平井カンパニー)に入れ、圧力71kPa、回転数8回転/分の条件下で50分間タンブリング処理を行った後、液切りした。各実施例に示す配合で、冷水、薄力粉および糖アルコールを合わせて1分間ミキサーで混合することにより、バッター液を作製した。タンブリング処理後の肉をバッター液にくぐらせた後、片栗粉をまぶした。これを175℃で4分間油ちょうして鶏唐揚げを製造した。放冷した後、-40℃に60分間置いて急速凍結させた。続いて、ナイロンポリ袋で包装した後、冷蔵温度帯(4℃)にて冷蔵保管した。
【0056】
(4)エビ天ぷらの製造
水に食塩等を添加して浸漬液を調製した。凍結状態のエビを解凍した後、殻を剥いて伸ばしエビにした。伸ばしエビ重量と等量の浸漬液に伸ばしエビを浸漬し、10℃で一晩置いた。エビをザルに上げて1分間置くことにより液切りし、市販の天ぷら粉を薄くまぶした。天ぷら粉100重量部に対して、水を146.5重量部、糖アルコールを3.5重量部(固形分)となるよう加えて混合し、バッター液を作成した。バッター液にエビをくぐらせた後、175℃で2分40秒間油ちょうして、エビ天ぷらを製造した。
【0057】
<実施例1>油ちょうエネルギー低減効果
糖アルコールとしてソルビトール、高糖化還元水飴、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴(エスイー30、エスイー100)を用いて、試験方法(2)に記載の方法でトンカツを製造した。バッター液の配合は表2に示すとおりとした。試料1~6の製造工程における油ちょう開始の3分後から30秒ごとにトンカツの芯温を測定し、芯温が85℃を超えた時点で油ちょうを終了した。油ちょう時間ごとの芯温の計測結果を図1に示す。
【表2】
【0058】
図1に示すように、油ちょう時間が3分、3分30秒、4分および4分30秒のいずれの時点においても、試料2(ソルビトール)、試料4(中糖化還元水飴)、試料5(低糖化還元水飴(エスイー30))および試料6(低糖化還元水飴(エスイー100))の方が試料1(糖アルコール無し)よりも芯温が高かった。また、芯温が約85℃に達するまでの時間は、試料1では約5分30秒かかったのに対して、試料2および試料4では5分弱、試料5および試料6では約4分30秒弱であり、試料1よりも顕著に短かった。
【0059】
すなわち、ソルビトール、中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合したバッター液を用いたトンカツは、加熱による温度上昇が速く、具材の加熱調理に必要な芯温に達するまでの時間が短かった。この結果から、揚げ物の衣部分にソルビトール、中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合することにより、揚げ物の油ちょうに要するエネルギー(油ちょう時間あるいは油ちょう温度)を低減できることが明らかになった。
【0060】
<実施例2>具材の食感改良効果:トンカツ
(1)応力測定試験
糖アルコールとしてソルビトール、高糖化還元水飴、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴(エスイー30、エスイー100)を用いて、表2に示すバッター液の配合で、試験方法(2)に記載の方法により試料1~6のトンカツを製造した。油ちょう後、常温に20分(0h)または6時間(6h)置いてから2cm幅にカットし、衣をはがした。クリープメーターRE2-33005C(山電)の直径0.5cm円柱形プランジャーを用いて、圧縮速度1.0mm/秒で50体積%圧縮変形するまで圧縮し、歪率が50体積%となった時点の荷重(N)を測定した。各試料につき6検体を行い、荷重の平均値を算出した。すなわち、当該荷重の値が大きいほど試料が「かたい」といえ、値が小さいほど試料が「柔らかい」といえる。それらの結果を図2に示す。
【0061】
図2に示すように、試料2(ソルビトール)、試料3(高糖化還元水飴)、試料4(中糖化還元水飴)、試料5(低糖化還元水飴(エスイー30))および試料6(低糖化還元水飴(エスイー100))のいずれにおいても、0hおよび6hの両時点で、試料1よりも荷重が小さかった。特に、試料5および試料6の荷重は、両時点で試料1よりも顕著に小さかった。すなわち、ソルビトール、高糖化還元水飴、中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合したバッター液を用いたトンカツは、糖アルコールを用いないものと比較して、製造直後および6時間常温保存した後のいずれに時点においても、中の具肉が柔らかかった。この結果から、揚げ物の衣部分に糖アルコールを配合することにより、中の具材の柔らかさを向上させるとともに、常温環境下で長時間保存しても具材の柔らかさを維持できることが明らかになった。
【0062】
(2)官能試験
糖アルコールとしてソルビトール、高糖化還元水飴、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴(エスイー30、エスイー100)を用いて、表2に示すバッター液の配合で、試験方法(2)に記載の方法により試料1~6のトンカツを製造した。油ちょう後、常温に3時間置いた後、2cm幅に切って、4名(A~D)の分析型パネルにより官能試験を行った。評価項目は「肉のしっとり感」として、試料1(糖アルコール無し)を基準の5点として、1点(肉がぱさぱさしている)~10点(肉がしっとりしている)の10段階で各パネルが採点した。採点結果は、試料ごとに全パネルによる評点の平均値を求め、小数点第2位を四捨五入して評価点とした。すなわち、評価点の値が小さいほど中の具肉がパサついていることを示し、値が大きいほど中の具肉がしっとりしていることを示す。その結果を表3に示す。
【表3】
【0063】
表3に示すように、試料2、試料3、試料4、試料5および試料6のいずれにおいても、試料1よりも評価点が大きかった。特に、試料4、試料5および試料6の評価点が、試料1よりも顕著に大きかった。すなわち、ソルビトール、高糖化還元水飴、中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合したバッター液を用いたトンカツは、糖アルコールを用いないものと比較して、常温で3時間保存した後であっても、中の具肉がしっとりしていた。この結果から、揚げ物の衣部分に糖アルコールを配合することにより、具材のしっとり感を向上させるとともに、常温環境下で長時間保存しても具材のしっとり感を維持できることが明らかになった。
【0064】
<実施例3>具材の食感改良効果:チルド鶏唐揚げ
糖アルコールとしてソルビトール、高糖化還元水飴、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴(エスイー30、エスイー100)を用いて、表4に示すバッター液の配合で、試験方法(3)に記載の方法によりチルド鶏唐揚げを製造し、冷蔵温度帯(4℃)にて1時間~29日間保存した。冷蔵保存開始から1時間経過時(Day0)、7日目(Day7)、14日目(Day14)および29日目(Day29)に一部を取り出し、電子レンジに入れ、600ワットで2分/6個あたり、加熱した。20分放冷した後、下記(1)および(2)の試験に供した。
【表4】
【0065】
(1)応力測定試験
試料1~6のチルド鶏唐揚げ(Day0、Day14およびDay29のもの)の衣を剥がし、実施例2(1)に記載の方法により荷重を測定し、平均値を算出した。その結果を図3に示す。
【0066】
図3に示すように、試料2(ソルビトール)、試料3(高糖化還元水飴)、試料4(中糖化還元水飴)、試料5(低糖化還元水飴(エスイー30))および試料6(低糖化還元水飴(エスイー100))の荷重は、Day0、Day14およびDay29の全ての時点で、試料1よりも小さかった。特に、試料5および試料6の荷重は、全ての時点で試料1よりも顕著に小さかった。すなわち、ソルビトール、高糖化還元水飴、中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合したバッター液を用いたチルド鶏唐揚げは、糖アルコールを用いないものと比較して、製造直後および4℃で14~29日間保存した後のいずれにおいても、中の具肉が柔らかかった。この結果から、揚げ物の衣部分に糖アルコールを配合することにより、揚げ物を冷凍後、冷蔵温度帯で長時間保存した後に再加熱しても、中の具材の柔らかさを向上できるとともに、具材の柔らかさを維持できることが明らかになった。
【0067】
(2)官能試験
試料1~6のチルド鶏唐揚げ(Day7およびDay29のもの)について、実施例2(2)に記載の方法により官能試験を行った。ただし、パネルは3名(A~C)とした。評価項目は「肉のしっとり感」に加えて、「肉の弾力」とした。「肉の弾力」も、試料1(糖アルコール無し)を基準の5点として、1点(弾力が小さい)~10点(弾力が大きい)の10段階で各パネルが採点した。すなわち、評価点の値が小さいほど中の具肉の弾力が小さいことを示し、値が大きいほど中の具肉の弾力が大きいことを示す。「肉のしっとり感」の結果を表5に、「肉の弾力」の結果を表6に、それぞれ示す。
【表5】
【0068】
表5に示すように、Day7およびDay29の両時点において、「肉のしっとり感」は、試料2、試料3、試料4、試料5および試料6の方が試料1よりも評価点が大きかった。特に、両時点で、試料5および試料6の評価点が試料1よりも顕著に大きかった。すなわち、ソルビトール、高糖化還元水飴、中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合したバッター液を用いたチルド鶏唐揚げは、糖アルコールを用いないものと比較して、4℃で7~29日間保存した後であっても、中の具肉がしっとりしていた。この結果から、揚げ物の衣部分に糖アルコールを配合することにより、揚げ物を冷凍後、冷蔵温度帯で長時間保存した後に再加熱しても、中の具材のしっとり感を向上させるとともに、具材のしっとり感を維持できることが明らかになった。
【表6】
【0069】
表6に示すように、「肉の弾力」は、Day7およびDay29の両時点で、試料4、試料5および試料6の方が、試料1よりも評価点が大きかった。特に、試料5および試料6の評価点が試料1よりも顕著に大きかった。すなわち、中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合したバッター液を用いたチルド鶏唐揚げは、糖アルコールを用いないものと比較して、4℃で7~29日間保存した後であっても、中の具肉の弾力が大きかった。この結果から、揚げ物の衣部分に中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合することにより、揚げ物を冷凍後、冷蔵温度帯で長時間保存した後に再加熱しても、中の具材の弾力を向上させるとともに、具材の弾力を維持できることが明らかになった。
【0070】
<実施例4>具材の食感改良効果:エビ天ぷら
糖アルコールとしてソルビトール、高糖化還元水飴、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴(エスイー30、エスイー100)を用いて、試験方法(4)に記載の方法でエビ天ぷらを製造した。油ちょう後、常温に20分置いて放冷した後、実施例3(2)に記載の方法により官能試験を行った。評価項目は「肉(エビの身)の弾力」とした。
【0071】
その結果、中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合したバッター液を用いたエビ天ぷらは、糖アルコールを用いないものと比較して、エビの弾力が大きかった。この結果から、揚げ物の衣部分に中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合することにより、中の具材の弾力を向上できることが明らかになった。
【0072】
<実施例5>衣と具材との結着性向上効果
糖アルコールとして中糖化還元水飴および低糖化還元水飴(エスイー30、エスイー100)を用いて、表2に示すバッター液の配合で、試験方法(2)に記載の方法により試料1~4のトンカツを製造した。油ちょう後、20分常温に置いて放冷した後、トンカツの中央部を短軸方向にカットして断面を目視観察した。その写真画像を図4に示す。
【0073】
図4に示すように、試料1(糖アルコール無し)では衣の層が乱れ、衣層と中の豚肉との間に数カ所の穴のような隙間が見られ、衣層と肉との境目もはっきりとしていた。これに対して、試料2(中糖化還元水飴)、試料3(低糖化還元水飴(エスイー30))および試料4(低糖化還元水飴(エスイー100))では隙間が低減しており、特に試料5および試料6では隙間がほとんど見られず、衣層と肉との境目も目立たなかった。すなわち、中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合したバッター液を用いたトンカツは、衣と肉との間の隙間が低減され、衣と肉とがしっかりと結着していた。この結果から、揚げ物の衣部分に中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合することにより、具材と衣との結着性を向上できることが明らかになった。
【0074】
<実施例6>衣の食感改良効果:トンカツ
糖アルコールとしてソルビトール、高糖化還元水飴、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴(エスイー30、エスイー100)を用いて、表2に示すバッター液の配合で、試験方法(2)に記載の方法により試料1~6のトンカツを製造した。油ちょう後、常温に3時間(3h)または6時間(6h)置いた後、2cm幅に切って、3~4名(A~D)の分析型パネルにより官能試験を行った。評価項目は「衣のサクミ」および「衣と具材との結着性」とし、試料1(糖アルコール無し)を基準の5点として、1点(衣のサクサク感が小さい/具材から衣が剥がれやすい)~10点(衣のサクサク感が大きい/具材から衣が剥がれにくい)の10段階で各パネルが採点した。採点結果は、試料ごとに全パネルによる評点の平均値を求め、小数点第2位を四捨五入して評価点とした。すなわち、評価点の値が小さいほど衣のサクミが小さい/具材から衣が剥がれやすい(結着性が低い)ことを示し、値が大きいほど衣のサクミが大きい/具材から衣が剥がれにくい(結着性が高い)ことを示す。「衣のサクミ」の結果を表7に、「衣と具材との結着性」の結果を表8に、それぞれ示す。
【表7】
【0075】
表7に示すように、「衣のサクミ」は、3hおよび6hの両時点で、試料3、試料4、試料5および試料6の方が試料1よりも評価点が大きかった。特に、試料5および試料6の評価点が、試料1よりも顕著に大きかった。すなわち、高糖化還元水飴、中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合したバッター液を用いたトンカツは、糖アルコールを用いないものと比較して、常温で3~6時間保存した後であっても、衣がサクサクしていた。この結果から、揚げ物の衣部分に還元水飴を配合することにより、衣のサクミを向上させるとともに、常温環境下で長時間保存してもサクミを維持できることが明らかになった。
【表8】
【0076】
表8に示すように、3hおよび6hの両時点で、「衣と具材との結着性」は、試料4、試料5および試料6の方が試料1よりも評価点が大きかった。すなわち、中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合したバッター液を用いたトンカツは、糖アルコールを用いないものと比較して、常温で3~6時間保存した後であっても、食べるときに具材と衣とがしっかりくっ付いていて、互いに剥がれにくかった。この結果から、揚げ物の衣部分に中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合することにより、具材と衣との結着性を向上させるとともに、常温環境下で長時間保存しても結着性を維持できることが明らかになった。
【0077】
<実施例7>衣の劣化抑制効果:チルド鶏唐揚げ
糖アルコールとしてソルビトール、高糖化還元水飴、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴(エスイー30、エスイー100)を用いて、表4に示すバッター液の配合で、試験方法(3)に記載の方法により試料1~6のチルド鶏唐揚げを製造し、冷蔵温度帯(4℃)にて1時間~29日間保存した。冷蔵保存開始から1時間経過時(Day0)、7日目(Day7)、14日目(Day14)、21日目(Day21)および29日目(Day29)に一部を取り出し、電子レンジに入れ、600ワットで2分/6個あたり、加熱した後、20分放冷した。
【0078】
続いて、試料1~6について、3名(A~C)の分析型パネルにより官能試験を行った。評価項目は「衣のもさつき」および「衣のひき」とし、試料1(糖アルコール無し)を基準の5点として、1点(衣のもさつき/ひきが大きい)~10点(衣のもさつき/ひきが小さい)の10段階で各パネルが採点した。採点結果は、試料ごとに全パネルによる評点の平均値を求め、小数点第2位を四捨五入して評価点とした。すなわち、評価点の値が小さいほど衣のもさつき/ひきが大きいことを示し、値が大きいほど衣のもさつき/ひきが小さいことを示す。「衣のもさつき」については、Day0およびDay14の試料について評価した。その結果を表9に示す。「衣のひき」については、Day7、Day21およびDay29の試料について評価した。その結果を表10に示す。
【表9】
【0079】
表9に示すように、「衣のもさつき」は、Day0では試料4、試料5および試料6の方が、試料1よりも評価点が大きかった。Day14では、試料2、試料3、試料4、試料5および試料6の方が試料1よりも評価点が顕著に大きく、なかでも、試料5および試料6の評価点が大きかった。すなわち、ソルビトール、高糖化還元水飴、中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合したバッター液を用いたチルド鶏唐揚げは、糖アルコールを用いないものと比較して、4℃で14日間保存した後において、衣のもさつきが小さかった。この結果から、揚げ物の衣部分に糖アルコールを配合することにより、揚げ物を冷凍後、冷蔵温度帯で長期間保存した後に再加熱しても、衣のもさつきを抑制できることが明らかになった。
【表10】
【0080】
表10に示すように、「衣のひき」は、Day7、Day21およびDay29のいずれの時点においても、試料2、試料3、試料4、試料5および試料6の方が、試料1よりも評価点が大きかった。特に、全ての時点で、試料5および試料6の評価点が試料1よりも顕著に大きかった。すなわち、ソルビトール、高糖化還元水飴、中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合したバッター液を用いたチルド鶏唐揚げは、糖アルコールを用いないものと比較して、4℃で7~29日間保存した後において、衣のひきが小さかった。この結果から、揚げ物の衣部分に糖アルコールを配合することにより、揚げ物を冷凍後、冷蔵温度帯で長期間保存した後に再加熱しても、衣のひきを抑制できることが明らかになった。
【0081】
<実施例8>糖アルコールの配合量の検討
(1)油ちょうエネルギー低減効果
糖アルコールとして低糖化還元水飴(エスイー30)を用いて、試験方法(2)に記載の方法によりトンカツを製造した。バッター液の配合は表11に示すとおりとした。すなわち、試料1~6は、低糖化還元水飴を0~17.5重量部(固形分濃度)配合したバッター液を用いたトンカツである。試料1~6の製造工程における油ちょう開始の3分後から30秒ごとにトンカツの芯温を測定し、芯温が85℃を超えた時点で油ちょうを終了した。油ちょう時間ごとの芯温の計測結果を図5に示す。
【表11】
【0082】
図5に示すように、油ちょう時間が3分、3分30秒、4分、4分30秒、5分および5分30秒のいずれの時点においても、試料2(3.5部)、試料3(7部)、試料4(10.5部)、試料5(14部)および試料6(17.5部)の方が試料1(0部)よりも芯温が高かった。また、全ての時点で、バッター液における低糖化還元水飴の配合量が大きい程、芯温が高い傾向であった。また、芯温が約85℃に達するまでの時間は、試料1では約5分30秒かかったのに対して、試料2および試料3では5分弱、試料4および試料5では約4分30秒弱、試料6では4分弱であり、バッター液における低糖化還元水飴の配合量が大きい程、短い傾向であった。
【0083】
すなわち、低糖化還元水飴を3.5~17.5重量部配合したバッター液を用いたトンカツはいずれも、糖アルコールを用いなかったものと比較して、加熱による温度上昇が速く、芯温が約85℃に達するまでの油ちょう時間が短かった。この結果から、糖アルコールはその使用濃度を問わず、揚げ物の油ちょうに要するエネルギー(油ちょう時間や油ちょう温度)を低減できることが明らかになった。
【0084】
(2)具材の食感改良効果
糖アルコールとして低糖化還元水飴(エスイー30)を用いて、試験方法(2)に記載の方法でトンカツを製造した。バッター液の配合は表12に示すとおりとした。すなわち、試料1~6は、低糖化還元水飴を0~35重量部(固形分濃度)配合したバッター液を用いたトンカツである。
【表12】
【0085】
[2-1]応力測定試験
試料1~6のトンカツについて、常温環境下で20分(0h)および6時間(6h)置いた後、実施例2(1)に記載の方法により荷重を測定し、平均値を算出した。その結果を図6に示す。
【0086】
図6に示すように、0hおよび6hのいずれの時点においても、試料2(7部)、試料3(14部)、試料4(21部)、試料5(28部)および試料6(35部)の方が試料1(0部)よりも顕著に荷重が小さかった。すなわち、低糖化還元水飴を7~35重量部配合したバッター液を用いたトンカツは、糖アルコールを用いなかったものと比較して、製造直後および6時間常温保存した後のいずれの時点においても、中の具肉が柔らかかった。この結果から、糖アルコールはその使用濃度を問わず、揚げ物の中の具材の柔らかさを向上させるとともに、常温環境下で長時間保存しても具材の柔らかさを維持できることが明らかになった。
【0087】
[2-2]官能試験
試料1~6のトンカツについて、常温環境下で20分(0h)、3時間(3h)および6時間(6h)置いた後、実施例2(2)に記載の方法により官能試験を行った。パネルは3または4名(A~D)とした。評価項目は「肉のしっとり感」に加えて、「肉の柔らかさ」とした。「肉の柔らかさ」も、試料1(糖アルコール無し)を基準の5点として、1点(肉がかたい)~10点(肉が柔らかい)の10段階で各パネルが採点した。すなわち、評価点の値が小さいほど中の具肉がかたいことを示し、値が大きいほど中の具肉が柔らかいことを示す。「肉のしっとり感」の結果を表13に、「肉の柔らかさ」の結果を表14に、それぞれ示す。
【表13】
【0088】
表13に示すように、「肉のしっとり感」は、0h、3hおよび6hのいずれの時点においても、試料2、試料3、試料4、試料5および試料6の方が試料1よりも顕著に評価点が大きかった。すなわち、低糖化還元水飴を7~35重量部配合したバッター液を用いたトンカツは、糖アルコールを用いなかったものと比較して、製造直後および常温環境下で3~6時間保存した後のいずれの時点においても、中の具肉がしっとりしていた。この結果から、糖アルコールはその使用濃度を問わず、揚げ物の中の具材のしっとり感を向上させるとともに、常温環境下で長時間保存しても具材のしっとり感を維持できることが明らかになった。
【表14】
【0089】
表14に示すように、「肉の柔らかさ」は、0h、3hおよび6hのいずれの時点においても、試料2、試料3、試料4、試料5および試料6の方が試料1よりも顕著に評価点が大きかった。すなわち、低糖化還元水飴を7~35重量部配合したバッター液を用いたトンカツは、糖アルコールを用いなかったものと比較して、製造直後および常温環境下で3~6時間保存した後のいずれの時点においても、中の具肉が柔らかかった。この結果から、糖アルコールはその使用濃度を問わず、揚げ物の中の具材の柔らかさを向上させるとともに、常温環境下で長時間保存しても具材の柔らかさを維持できることが明らかになった。
【0090】
(3)衣の食感改良効果
糖アルコールとして低糖化還元水飴(エスイー30)を用いて、試験方法(2)に記載の方法でトンカツを製造した。バッター液の配合は表12に示すとおりとした。すなわち、試料1~6は、低糖化還元水飴を0~35重量部(固形分濃度)配合したバッター液を用いたトンカツである。油ちょう後、常温に20分(0h)、3時間(3h)または6時間(6h)置いた後、実施例6に記載の方法により官能試験を行い、「衣のサクミ」および「衣と具材との結着性」を評価した。パネルは3または4名(A~D)とした。「衣のサクミ」の結果を表15に、「衣と具材との結着性」の結果を表16に、それぞれ示す。
【表15】
【0091】
表15に示すように、「衣のサクミ」は、0h、3hおよび6hのいずれの時点においても、試料2、試料3、試料4、試料5および試料6の方が試料1よりも評価点が大きかった。すなわち、低糖化還元水飴を7~35重量部配合したバッター液を用いたトンカツは、糖アルコールを用いなかったものと比較して、製造直後および常温環境下で3~6時間保存した後のいずれの時点においても、衣のサクサク感が大きかった。この結果から、糖アルコールはその使用濃度を問わず、揚げ物の衣のサクミを向上させるとともに、常温環境下で長時間保存してもサクミを維持できることが明らかになった。
【表16】
【0092】
表16に示すように、「衣と具材との結着性」は、0h、3hおよび6hのいずれの時点においても、試料2、試料3、試料4、試料5および試料6の方が試料1よりも評価点が大きかった。すなわち、低糖化還元水飴を7~35重量部配合したバッター液を用いたトンカツは、糖アルコールを用いなかったものと比較して、製造直後および常温環境下で3~6時間保存した後のいずれの時点においても、具材と衣とがしっかりくっ付いていて、互いに剥がれにくかった。この結果から、糖アルコールはその使用濃度を問わず、具材と衣との結着性を向上させるとともに、常温環境下で長時間保存しても結着性を維持できることが明らかになった。
【0093】
<実施例9>トンカツに対する効果
(1)トンカツの製造
試験方法(2)に記載の方法でトンカツを製造し、20分放冷した。バッター液の配合は表17に示すとおりとした。すなわち、試料1は糖アルコールを配合しないバッター液、試料2は糖アルコールとして高糖化還元水飴を、試料3は糖アルコールとして低糖化還元水飴(エスイー30)を、それぞれ配合したバッター液を用いたトンカツである。
【表17】
【0094】
(2)結着性の評価
試料1~3のトンカツの中央部を、短軸方向にカットして断面を目視観察した。その写真画像を図14に示す。図14に示すように、試料1(糖アルコール無し)では衣と中の豚肉との間に隙間が見られたのに対して、試料2(高糖化還元水飴)および試料3(低糖化還元水飴(エスイー30))では隙間が低減しており、特に試料3では隙間がほとんど見られなかった。また、糖アルコールとして中糖化還元水飴を配合したバッター液を用いて同様に試験したところ、試料3と同様に、ほとんど隙間が見られなかった。
【0095】
すなわち、高糖化還元水飴、中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合したバッター液を用いたトンカツは、衣と肉との間の隙間が低減された。特に、中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合したものでは、衣と肉との間の隙間が顕著に小さくなった。この結果から、衣部分に還元水飴を配合することにより、揚げ物の具材と衣との結着性を向上できることが明らかになった。
【0096】
(2)油ちょう時間の評価
試料1~3のトンカツの作製工程における油ちょう時に、トンカツの芯温を30秒ごとに測定した。その結果を図8に示す。図8に示すように、芯温が約90℃に達するまでの時間は、試料3(低糖化還元水飴(エスイー30))では約4分30秒であったのに対して、試料1(糖アルコール無し)では約5分かかった。また、試料2(高糖化還元水飴)では、5分経過後も未だ77.5℃であった。また、糖アルコールとして中糖化還元水飴を配合したバッター液を用いて同様に試験したところ、試料3と同様に、芯温が約90℃に達するまでの時間が試料1よりも短かった。
【0097】
すなわち、中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合したバッター液を用いたトンカツは、加熱による温度上昇が速かった。この結果から、衣部分に中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合することにより、揚げ物の油ちょう(フライ)に要する時間を短縮できることが明らかになった。
【0098】
(3)肉の柔らかさの評価
試料1~3について、評価項目を「中の肉の柔らかさ」として官能評価を行った。採点は、1~10点の間で、試料1(糖アルコール無し)を5点とし、それよりも柔らかいほど点数が高く、それよりも硬いほど点数が低いという基準のもとで、各パネルが採点した。その結果、試料2(高糖化還元水飴)および試料3(低糖化還元水飴(エスイー30))では、試料1よりも点数が高かった。また、糖アルコールとして中糖化還元水飴を配合したバッター液を用いて同様に試験したところ、試料2および3と同様に、試料1よりも点数が高かった。
【0099】
すなわち、高糖化還元水飴、中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合したバッター液を用いたトンカツは、中の豚肉が柔らかかった。この結果から、衣部分に還元水飴を配合することにより、揚げ物の中の具材の柔らかさを向上できることが明らかになった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8