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  • 特許-異常判定システム及びプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】異常判定システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/4062 20060101AFI20240723BHJP
   G05B 19/4155 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
G05B19/4062
G05B19/4155 T
G05B19/4155 M
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022550524
(86)(22)【出願日】2021-09-10
(86)【国際出願番号】 JP2021033286
(87)【国際公開番号】W WO2022059611
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2020156633
(32)【優先日】2020-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】大西 庸士
【審査官】岩▲崎▼ 優
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-504421(JP,A)
【文献】特開2019-70916(JP,A)
【文献】特開平7-132440(JP,A)
【文献】特開2012-254499(JP,A)
【文献】特開平7-51995(JP,A)
【文献】特開2014-172102(JP,A)
【文献】特開2010-244256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/00-19/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工プログラムを先読みし、指令データを作成する先読み部と、
前記指令データに基づいて、工作機械の可動部の先行位置を算出する先行位置算出部と、
前記先行位置及び前記工作機械の形状データに基づいて前記工作機械の動作をシミュレーションすることによって、前記工作機械の前記可動部と前記工作機械の他の部分との干渉をチェックする干渉チェック部と、
前記干渉チェック部によりチェックされた前記可動部と前記他の部分との干渉に基づいて、前記工作機械のモータに関するモータ推定情報を推定するモータ情報推定部と、
前記モータ推定情報の推定精度を決定する推定精度決定部と、
前記モータ推定情報及び前記推定精度に基づいて、前記工作機械の異常を検出するための検出閾値を決定する検出閾値決定部と、
前記モータに関するモータ計測情報を取得するモータ計測部と、
前記モータ計測情報及び前記検出閾値に基づいて、前記工作機械の状態を判定する状態判定部と、
を備える異常判定システム。
【請求項2】
前記検出閾値決定部は、前記推定精度が相対的に高い場合、前記検出閾値を相対的に小さい値に決定し、前記推定精度が相対的に低い場合、前記検出閾値を相対的に大きい値に決定する、請求項1に記載の異常判定システム。
【請求項3】
前記干渉チェック部は、前記先行位置及び前記工作機械の形状データを含むシミュレーション条件に基づいて前記工作機械の動作をシミュレーションすることによって、前記工作機械の前記可動部と前記工作機械の前記他の部分との干渉をチェックし、
前記推定精度決定部は、前記シミュレーション条件に基づいて前記モータ推定情報の前記推定精度を決定する、請求項1又は2に記載の異常判定システム。
【請求項4】
前記状態判定部は、前記モータ計測情報が前記検出閾値を超える場合、前記工作機械の動作が異常であると判定し、前記モータ計測情報が前記検出閾値を超えない場合、前記工作機械の動作が正常であると判定する、請求項1から3のいずれか一項に記載の異常判定システム。
【請求項5】
コンピュータに、
加工プログラムを先読みし、指令データを作成するステップと、
前記指令データに基づいて、工作機械の可動部の先行位置を算出するステップと、
前記先行位置及び前記工作機械の形状データに基づいて前記工作機械の動作をシミュレーションすることによって、前記工作機械の前記可動部と前記工作機械の他の部分との干渉をチェックするステップと、
前記可動部と前記他の部分との干渉に基づいて、前記工作機械のモータに関するモータ推定情報を推定するステップと、
前記モータ推定情報の推定精度を決定するステップと、
前記モータ推定情報及び前記推定精度に基づいて、前記工作機械の異常を検出するための検出閾値を決定するステップと、
前記モータに関するモータ計測情報を取得するステップと、
前記モータ計測情報及び前記検出閾値に基づいて、前記工作機械の状態を判定するステップと、
を実行させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常判定システム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、数値制御装置は、予め作成された加工プログラム(NCプログラム)に基づいて、工作機械の可動部(例えば、制御軸)を駆動制御し、可動部によって被加工物であるワーク等を加工する。
【0003】
数値制御装置及び工作機械の運転中において、加工プログラムに間違いが存在する、工作機械に対するワークの取り付け位置が間違っている、工具オフセットの入力に誤りがある等のような原因によって、工作機械の可動部間の干渉や、工作機械の可動部と工作機械の他の部分との間に干渉が発生する場合がある。
【0004】
このような干渉の発生を防ぐために、工作機械の先行位置及び工作機械の可動部と他の部分との形状データに基づいて、工作機械の可動部と他の部分との干渉をシミュレーションすることにより、工作機械内の異常を検出する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-244256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、特許文献1に記載の数値制御装置は、工作機械の可動部の先行位置及び工作機械の形状データを含むシミュレーション条件に基づいて工作機械の動作をシミュレーションする。しかし、数値制御装置は、工作機械の実際の動作に先行してシミュレーションを実行する必要があるため、シミュレーションを処理するための処理時間は限られる。そのため、数値制御装置は、処理時間に余裕がないときはシミュレーションの精度を落とす必要があり、逆に処理時間に余裕があるときは高精度にシミュレーションすることができる。また、シミュレーションの精度は、シミュレーションを実行する計算機のスペックにも影響されうる。
【0007】
シミュレーションの精度にばらつきがある場合、数値制御装置は、工作機械の異常を検出するための検出閾値を決定する際に、シミュレーションの精度が悪い状態を前提として、検出閾値の範囲を広く設定する必要がある。それにより、数値制御装置は、高い精度でシミュレーションが可能な場合であっても、検出閾値の範囲を広く設定しているため、工作機械の異常を検出する精度が低くなる。
【0008】
そこで、シミュレーションの精度にばらつきがあったとしても、工作機械の異常を精度良く検出することができる異常判定システムが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る異常判定システムは、加工プログラムを先読みし、指令データを作成する先読み部と、前記指令データに基づいて、工作機械の可動部の先行位置を算出する先行位置算出部と、前記先行位置及び前記工作機械の形状データに基づいて前記工作機械の動作をシミュレーションすることによって、前記工作機械の前記可動部と前記工作機械の他の部分との干渉をチェックする干渉チェック部と、前記干渉チェック部によりチェックされた前記可動部と前記他の部分との干渉に基づいて、前記工作機械のモータに関するモータ推定情報を推定するモータ情報推定部と、前記モータ推定情報の推定精度を決定する推定精度決定部と、前記モータ推定情報及び前記推定精度に基づいて、前記工作機械の異常を検出するための検出閾値を決定する検出閾値決定部と、前記モータに関するモータ計測情報を取得するモータ計測部と、前記モータ計測情報及び前記検出閾値に基づいて、前記工作機械の状態を判定する状態判定部と、を備える。
【0010】
本開示に係るプログラムは、コンピュータに、加工プログラムを先読みし、指令データを作成するステップと、前記指令データに基づいて、工作機械の可動部の先行位置を算出するステップと、前記先行位置及び前記工作機械の形状データに基づいて前記工作機械の動作をシミュレーションすることによって、前記工作機械の前記可動部と前記工作機械の他の部分との干渉をチェックするステップと、前記可動部と前記他の部分との干渉に基づいて、前記工作機械のモータに関するモータ推定情報を推定するステップと、前記モータ推定情報の推定精度を決定するステップと、前記モータ推定情報及び前記推定精度に基づいて、前記工作機械の異常を検出するための検出閾値を決定するステップと、前記モータに関するモータ計測情報を取得するステップと、前記モータ計測情報及び前記検出閾値に基づいて、前記工作機械の状態を判定するステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、工作機械の異常を精度良く検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係る異常判定システムの概要を示す図である。
図2A】工作機械によって切削されるワークのボクセルモデルを示す図である。
図2B】検出閾値の例を示す図である。
図3A】工作機械によって切削されるワークのボクセルモデルを示す図である。
図3B】検出閾値の例を示す図である。
図4】本実施形態に係る異常判定システムの処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態の一例について説明する。図1は、本実施形態に係る異常判定システム1の概要を示す図である。異常判定システム1は、工作機械の異常を判定することを目的とする。図1に示すように、異常判定システム1は、数値制御装置2と、シミュレーション装置3と、を備える。
【0014】
数値制御装置2は、工作機械4を制御することにより、工作機械4に所定の機械加工等を行わせるための装置である。数値制御装置2は、加工プログラム21と、先読み部22と、先読みブロック指令データ23と、分配処理部24と、移動指令出力部25と、加減速処理部26と、サーボ制御部27と、先行位置算出部28と、現在位置レジスタ29と、モータ計測部30と、検出閾値決定部35と、状態判定部36と、を備える。
【0015】
シミュレーション装置3は、シミュレーションによって工作機械4の可動部と工作機械4の他の部分との干渉をチェックすることを目的とする。シミュレーション装置3は、先行位置受信部31と、干渉チェック部32と、モータ情報推定部33と、推定精度決定部34と、を備える。
【0016】
加工プログラム21は、数値制御装置2のメモリ等の記憶装置に記憶され、工作機械4に所定の機械加工を行わせるためのプログラムである。
【0017】
先読み部22は、加工プログラム21を先読みし、加工プログラム21から指令データを作成する。具体的には、先読み部22は、指令データとして先読みブロック指令データ23を作成する。
【0018】
先読みブロック指令データ23は、先読み部22によって加工プログラム21から1ブロック毎に指令を読み出され、実行形式に変換された複数のデータである。先読みブロック指令データ23は、数値制御装置2のメモリ等の記憶装置に記憶される。
【0019】
分配処理部24は、先読みブロック指令データ23を1ブロックずつ読み出し、各ブロックで指令された各軸の移動量及び速度に基づいて、分配周期毎の各軸のサーボモータ41へ指令する分配移動量を求める。分配処理部24は、求めた分配移動量を、例えば現在位置レジスタ29に加算することによって、各軸のサーボモータ41の現在位置を更新する。また、分配処理部24は、求めた分配移動量を、移動指令出力部25を介して加減速処理部26に出力する。
【0020】
移動指令出力部25は、シミュレーション装置3から、軸停止指令が入力されたとき、分配処理部24から出力された移動指令における分配移動量を、加減速処理部26に出力することを停止させる。よって、移動指令出力部25は、シミュレーション装置3から軸停止指令が入力されない限り、移動指令を加減速処理部13に出力する。
【0021】
加減速処理部26は、移動指令に基づいて加減速処理を行い、加減速処理された移動量の移動指令をサーボ制御部27に出力する。
【0022】
サーボ制御部27は、サーボモータ41(又はサーボモータ41によって駆動される工作機械4の可動部)に取り付けられた位置及び速度検出器からの位置及び速度のフィードバックと、加減速処理部26から出力された移動指令とに基づいて、位置及び速度のフィードバック制御を行う。また、サーボ制御部27は、サーボアンプを介してサーボモータ41を駆動制御する。
【0023】
なお、図1では、1つのサーボモータ41のみ表しているが、サーボ制御部27は、工作機械4における各軸のサーボモータ41に対して同様の制御を行う。すなわち、各軸のサーボモータ41は、サーボ制御部27によって位置及び速度を制御される。
【0024】
先行位置算出部28は、指令データとしての先読みブロック指令データ23に基づいて、工作機械4の可動部の先行位置を算出する。
【0025】
具体的には、先行位置算出部28は、工作機械4の可動部の現在位置、予め設定された先行時間及び先読みブロック指令データ23に基づいて、工作機械4の可動部の先行位置を算出する。ここで、工作機械4の可動部の先行位置は、サーボモータ41によって駆動される可動部が、現在位置から先行時間後に移動する位置を示す。
【0026】
そして、先行位置算出部28は、工作機械4の可動部と工作機械4の他の部分との干渉をチェックするために、先行時間と先行位置の座標値をシミュレーション装置3へ出力する。
【0027】
ここで、工作機械4の可動部は、サーボモータ41によって駆動されるワーク、工具(例えば、切削工具)、ワーク及び工具以外の可動部等を示す。また、工作機械4の他の部分は、サーボモータ41によって駆動されるワーク、工具及び可動部以外の部分を示す。
【0028】
現在位置レジスタ29は、工作機械4の可動部の現在位置を登録する。工作機械4の可動部の現在位置は、分配処理部24によって逐次更新される。
【0029】
モータ計測部30は、サーボモータ41に関するモータ計測情報を計測する。具体的には、モータ計測部30は、例えば、モータの電流値及び当該電流値から推定されるサーボモータ41の負荷及び主軸の負荷等のモータ計測情報を計測する。なお、モータ計測部30は、サーボモータ41に加えて、スピンドルモータ42に関するモータ計測情報を計測してもよい。
【0030】
シミュレーション装置3の先行位置受信部31は、先行位置算出部28によって算出された工作機械4の可動部の先行位置を受信する。
【0031】
干渉チェック部32は、工作機械4の可動部の先行位置及び工作機械4の形状データに基づいて、工作機械4の可動部と工作機械の他の部分との干渉をチェックする。具体的には、干渉チェック部32は、先行位置及び工作機械4の形状データを含むシミュレーション条件に基づいて工作機械4の動作をシミュレーションすることによって、工作機械4の可動部と他の部分との干渉をチェックする。
【0032】
ここで、工作機械4の形状データは、例えば、工作機械4の設計データに基づくデータであり、数値制御装置2のメモリ等に記憶される。
【0033】
モータ情報推定部33は、干渉チェック部32によりチェックされた可動部と他の部分との干渉に基づいて、工作機械4のモータに関するモータ推定情報を推定する。具体的には、モータ情報推定部33は、工作機械4の可動部と他の部分との干渉、すなわち、工作機械4の動作のシミュレーションに基づいて、サーボモータ41の負荷、サーボモータ41の負荷から推定されるサーボモータ41の電流値、主軸の負荷及び電流値等を含むモータ推定情報を推定する。
【0034】
推定精度決定部34は、モータ情報推定部33によって推定されたモータ推定情報の推定精度を決定する。具体的には、推定精度決定部34は、時間分解能や形状データの精度等のシミュレーション条件に基づいてモータ推定情報の推定精度を決定する。
【0035】
次に、数値制御装置2の検出閾値決定部35は、モータ推定情報及び推定精度に基づいて、工作機械4の異常を検出するための検出閾値を決定する。具体的には、検出閾値決定部35は、推定精度が相対的に高い場合、検出閾値を相対的に小さい値に決定し、推定精度が相対的に低い場合、検出閾値を相対的に大きい値に決定する。
【0036】
状態判定部36は、モータ計測部30によって計測されたモータ計測情報及び検出閾値決定部35によって決定された検出閾値に基づいて、工作機械4の状態を判定する。具体的には、状態判定部36は、モータ計測情報が検出閾値を超える場合、工作機械4の動作が異常であると判定し、モータ計測情報が検出閾値を超えない場合、工作機械4の動作が正常であると判定する。
【0037】
ここで、従来のシミュレーション装置は、工作機械の可動部の先行位置及び工作機械の形状データを含むシミュレーション条件に基づいて工作機械4の動作をシミュレーションする。しかし、シミュレーション装置は、工作機械の実際の動作前にシミュレーションを終了する必要があるため、シミュレーションを処理するための処理時間は限られる。
【0038】
よって、従来の数値制御装置は、工作機械の異常を検出するための検出閾値を決定する際に、シミュレーション装置によるシミュレーションの精度が悪い状態を前提として、検出閾値の範囲を広く設定する必要がある。それにより、数値制御装置は、高い精度でシミュレーションが可能な場合であっても、検出閾値の範囲を広く設定しているため、工作機械の異常を検出する精度が低くなる。
【0039】
そこで、本実施形態に係る異常判定システム1は、シミュレーションの精度に応じて検出閾値を決定することによって、工作機械4の異常を検出する精度を向上させる。
【0040】
図2A及び図3Aは、工作機械4によって切削されるワークのボクセルモデルを示す図であり、図3A及び図3Bは、検出閾値の例を示す図である。
【0041】
図2A及び図3Aに示すように、シミュレーション装置3は、工作機械4によって切削されるワークをボクセルモデルM1及びM2によって表現する。ここで、ボクセルモデルM1及びM2は、対象形状を微小な立方体の集合によって表現したモデルである。
【0042】
そして、シミュレーション装置3の干渉チェック部32は、ボクセルモデルM1及びM2を用いて、工作機械4によって切削されるワーク(すなわち、工作機械4の他の部分)及び工作機械4の可動部(例えば、図2A及び図3Aに示す切削工具T)の動作をシミュレーションする。
【0043】
例えば、干渉チェック部32は、ワークをモデル化したボクセルモデルM1及びM2と切削工具Tとの幾何学的関係から切削負荷及びモータトルクをシミュレーションする。なお、ボクセルモデルを用いた切削負荷及びモータトルクのシミュレーション方法は、様々な方法が存在し、本実施形態に係る干渉チェック部32は、既知の方法を用いて切削負荷及びモータトルクをシミュレーションする。また、干渉チェック部32は、切削工具Tによる切削の進行に合わせて、ボクセルモデルM1及びM2を被切削部分だけが残るようにシミュレーションする。
【0044】
シミュレーションの精度は、例えば、ボクセルモデルM1及びM2におけるボクセルのサイズ及び時間分解能等のシミュレーション条件に依存する。そのため、干渉チェック部32は、限られた時間内にシミュレーションを完了できるようにシミュレーション条件を調整する。
【0045】
推定精度決定部34は、調整されたシミュレーション条件に基づいてモータ推定情報の推定精度を決定する。例えば、図2Aに示すように、シミュレーション条件としてのボクセルモデルM1におけるボクセルのサイズが、図3Aに示すボクセルモデルM2よりも細かい場合、推定精度決定部34は、モータ推定情報(例えば、モータトルクの推定値)の推定精度を相対的に高い値に決定する。
【0046】
そして、図2BのグラフG1に示すように、検出閾値決定部35は、推定精度が相対的に高い場合、検出閾値を相対的に小さい値に決定する。これにより、図2Bに示すように、状態判定部36は、モータ計測情報(例えば、モータトルクの実測値)及び検出閾値決定部35によって決定された検出閾値に基づいて、工作機械4の状態を判定する。
【0047】
同様に、図3Aに示すように、シミュレーション装置3は、工作機械4によって切削されるワークをボクセルモデルM2によって表現する。シミュレーション装置3は、ボクセルモデルM2を用いて、工作機械4によって切削されるワーク(すなわち、工作機械4の他の部分)及び工作機械4の可動部(例えば、図3Aに示す切削工具T)の動作をシミュレーションする。
【0048】
そして、例えば、図3Aに示すように、シミュレーション条件としてのボクセルモデルM2におけるボクセルのサイズが、図2Aに示すボクセルモデルM1よりも粗い場合、推定精度決定部34は、モータ推定情報(例えば、モータトルクの推定値)の推定精度を相対的に低い値に決定する。
【0049】
図3BのグラフG2に示すように、検出閾値決定部35は、推定精度が相対的に低い場合、検出閾値を相対的に大きい値に決定する。これにより、状態判定部36は、モータ計測情報(例えば、モータトルクの実測値)及び検出閾値決定部35によって決定された検出閾値に基づいて、工作機械4の状態を判定する。
【0050】
ここで、状態判定部36は、検出閾値が相対的に大きい値に決定されているため、検出閾値が相対的に小さい値のままだと誤検出する可能性があるモータトルクの実測値を検出しない、すなわち、工作機械4の状態を正常であると判定する。
【0051】
したがって、異常判定システム1は、モータ推定情報(例えば、モータトルクの推定値)の推定精度が相対的に低い場合、検出閾値を相対的に大きい値に決定することによって、工作機械4の状態を適切に判定することができる。
【0052】
図4は、本実施形態に係る異常判定システム1の処理の流れを示すフローチャートである。
ステップS1において、先読み部22は、工作機械4の動作前に、加工プログラム21を先読みし、指令データとして先読みブロック指令データ23を作成する。
【0053】
ステップS2において、先行位置算出部28は、工作機械4の可動部の現在位置、予め設定された先行時間及び先読みブロック指令データ23に基づいて、工作機械4の可動部の先行位置を算出する。
【0054】
ステップS3において、干渉チェック部32は、先行位置及び工作機械4の形状データを含むシミュレーション条件に基づいて工作機械4の動作をシミュレーションすることによって、工作機械4の可動部と他の部分との干渉をチェックする。
【0055】
ステップS4において、モータ情報推定部33は、干渉チェック部32によりチェックされた可動部と他の部分との干渉に基づいて、工作機械4のモータに関するモータ推定情報を推定する。
【0056】
ステップS5において、推定精度決定部34は、モータ情報推定部33によって推定されたモータ推定情報の推定精度を決定する。
【0057】
ステップS6において、検出閾値決定部35は、モータ推定情報及び推定精度に基づいて、工作機械4の異常を検出するための検出閾値を決定する。
【0058】
ステップS7において、状態判定部36は、モータ計測部30によって計測されたモータ計測情報及び検出閾値決定部35によって決定された検出閾値に基づいて、工作機械4の状態を判定する。
【0059】
以上説明したように、本実施形態に係る異常判定システム1は、加工プログラム21を先読みし、指令データとして先読みブロック指令データ23を作成する先読み部22と、先読みブロック指令データ23に基づいて、工作機械4の可動部の先行位置を算出する先行位置算出部28と、先行位置及び工作機械4の形状データに基づいて工作機械4の動作をシミュレーションすることによって、工作機械4の可動部と工作機械4の他の部分との干渉をチェックする干渉チェック部32と、干渉チェック部32によりチェックされた可動部と他の部分との干渉に基づいて、工作機械4のモータに関するモータ推定情報を推定するモータ情報推定部33と、モータ推定情報の推定精度を決定する推定精度決定部34と、モータ推定情報及び推定精度に基づいて、工作機械4の異常を検出するための検出閾値を決定する検出閾値決定部35と、モータに関するモータ計測情報を取得するモータ計測部30と、モータ計測情報及び検出閾値に基づいて、工作機械4の状態を判定する状態判定部36と、を備える。
【0060】
これにより、異常判定システム1は、シミュレーションの精度に応じて検出閾値を決定するため、シミュレーションの精度にばらつきがあったとしても、工作機械4の異常を精度良く検出することができる。よって、異常判定システム1は、工作機械4の動作のシミュレーションと実際の工作機械の動作との間に差異が生じている(例えば、ワークの設置位置が誤っている、切削工具が破損している等)場合、シミュレーションの精度にばらつきがあったとしても、工作機械4の異常を精度良く検出することができる。
【0061】
また、検出閾値決定部35は、推定精度が相対的に高い場合、検出閾値を相対的に小さい値に決定し、推定精度が相対的に低い場合、検出閾値を相対的に大きい値に決定する。これにより、異常判定システム1は、シミュレーションの精度に応じて検出閾値を決定するため、工作機械4の異常を検出するための検出閾値を適切な値に設定することができる。
【0062】
また、干渉チェック部32は、先行位置及び工作機械4の形状データを含むシミュレーション条件に基づいて工作機械4の動作をシミュレーションすることによって、工作機械4の可動部と工作機械4の他の部分との干渉をチェックする。推定精度決定部34は、シミュレーション条件に基づいてモータ推定情報の推定精度を決定する。これにより、異常判定システム1は、シミュレーションの精度を示すモータ推定情報の推定精度を決定することができるため、シミュレーションの精度に応じて、工作機械4の異常を精度良く検出することができる。
【0063】
また、状態判定部36は、モータ計測情報が検出閾値を超える場合、工作機械4の動作が異常であると判定し、モータ計測情報が検出閾値を超えない場合、工作機械4の動作が正常であると判定する。
【0064】
また、異常判定システム1は、工作機械4を制御する数値制御装置2と、工作機械4の動作をシミュレーションするシミュレーション装置3と、を備える。そして、数値制御装置2は、先読み部22、先行位置算出部28、モータ計測部30、検出閾値決定部35及び状態判定部36を備え、シミュレーション装置3は、干渉チェック部32、モータ情報推定部33及び推定精度決定部34を備える。これにより、異常判定システム1は、数値制御装置2及びシミュレーション装置3によって、工作機械4の異常を精度良く検出することができる。
【0065】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記の異常判定システム1は、ハードウェア、ソフトウェア又はこれらの組み合わせにより実現することができる。また、上記の異常判定システム1により行なわれる制御方法も、ハードウェア、ソフトウェア又はこれらの組み合わせにより実現することができる。ここで、ソフトウェアによって実現されるとは、コンピュータがプログラムを読み込んで実行することにより実現されることを意味する。
【0066】
プログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えば、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば、光磁気ディスク)、CD-ROM(Read Only Memory)、CD-R、CD-R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(random access memory))を含む。
【0067】
また、上述した各実施形態は、本発明の好適な実施形態ではあるが、上記各実施形態のみに本発明の範囲を限定するものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更を施した形態での実施が可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 異常判定システム
2 数値制御装置
3 シミュレーション装置
4 工作機械
21 加工プログラム
22 先読み部
23 先読みブロック指令データ
24 分配処理部
25 移動指令出力部
26 加減速処理部
27 サーボ制御部
28 先行位置算出部
29 現在位置レジスタ
30 モータ計測部
31 先行位置受信部
32 干渉チェック部
33 モータ情報推定部
34 推定精度決定部
35 検出閾値決定部
36 状態判定部
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4