(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】糖タンパク質を作製するための細胞培養方法
(51)【国際特許分類】
C12P 21/02 20060101AFI20240723BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240723BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20240723BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
C12P21/02 C ZNA
C07K19/00
C12N1/00 G
C12Q1/02
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023005801
(22)【出願日】2023-01-18
(62)【分割の表示】P 2019572719の分割
【原出願日】2018-07-03
【審査請求日】2023-02-17
(32)【優先日】2017-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】ジョン チェン
(72)【発明者】
【氏名】ショーン ローレンス
(72)【発明者】
【氏名】エイミー ジョンソン
(72)【発明者】
【氏名】セオドア ロニー
(72)【発明者】
【氏名】ラビンドラ パングール
(72)【発明者】
【氏名】ター-チュン ハン
(72)【発明者】
【氏名】スコット カーバー
(72)【発明者】
【氏名】ベルンハルト シリング
(72)【発明者】
【氏名】キャスリーン リネハン ハリソン
(72)【発明者】
【氏名】ケネス ウェイン ウッド
(72)【発明者】
【氏名】アーロン ウェスリー ミラー
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-501749(JP,A)
【文献】特表2017-517518(JP,A)
【文献】特表2008-517610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 21/02
C07K 19/00
C12N 1/00
C12Q 1/02
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイズ加水分解産物を含む細胞培養培地中で組換え異種糖タンパク質を生産する方法であって、前記方法が以下の:
(a)ダイズ加水分解産物中のオルニチン量を決定し;
(b)0.003%~0.027
%(w/w)のオルニチンを含むダイズ加水分解産物を選択し;そして
(c)前記組換え異種糖タンパク質を発現する細胞の集団を、工程(b)において選択されたダイズ加水分解産物を含む細胞培養培地中で培養する
を含み、ここで前記組換え異種糖タンパク質が、前記細胞により産生される、前記方法。
【請求項2】
前記細胞の集団が、組換え異種糖タンパク質を発現する細胞のクローン性増殖によって得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記培養培地が≦5mg/Lのオルニチンまたはプトレシンを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記培養培地が0.6~3mg/Lのオルニチンまたはプトレシンを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記組換え異種糖タンパク質がトラップ分子である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記トラップ分子がエタネルセプト、リロナセプト及びアフリベルセプトからなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記組換え異種糖タンパク質がA1 N-グリカン及び少なくとも1つの他のN-グリカン種を含み、A1 N-グリカンの相対量が前記組換え異種糖タンパク質の全N-グリカン種の総量の≧10%(w/w)である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
a.組換え異種糖タンパク質を発現する細胞を、ダイズ加水分解産物を含む細胞培養培地中で培養すること、ここで前記細胞が組換え異種糖タンパク質を生成し、
b.前記組換え異種糖タンパク質を精製すること、
c.前記精製した組換え異種糖タンパク質をオリゴ糖フィンガープリント解析にかけること、
d.前記組換え異種糖タンパク質のN-グリカン種の総量と比較して、A1 N-グリカンの相対量を決定すること、及び
e.前記組換え異種糖タンパク質のN-グリカン種の総量と比較して、少なくとも10%(w/w)のA1 N-グリカンを提供するダイズ加水分解産物を選択すること
を含み、ここで前記ダイズ加水分解産物が、0.003%~0.027%(w/w)オルニチンを含む、ダイズ加水分解産物を選択する方法。
【請求項9】
前記培養培地が0.6~3mg/Lのオルニチンまたはプトレシンを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記組換え異種糖タンパク質がトラップ分子である、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記トラップ分子がエタネルセプト、リロナセプト及びアフリベルセプトからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記組換え異種糖タンパク質が、糖タンパク質1モルあたり8~12モルのシアル酸、または糖タンパク質1モルあたり35~65モルのシアル酸を含む、請求項8~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
組換え異種糖タンパク質を生産するための細胞培養培地の製造方法であって、前記方法が以下の:
a.ダイズ加水分解産物中のオルニチンの量を測定すること、
b.0.003%~0.027%(w/w)のオルニチンを有するダイズ加水分解産物を選択すること、及び
c.前記選択されたダイズ加水分解産物を、動物タンパク質を含まない細胞培養培地と組み合わせて、ダイズ加水分解産物を含む細胞培養培地を形成すること、ここでダイズ加水分解産物を含む前記細胞培養培地が、≦5mg/Lのオルニチンを含んでいる、
を含む、前記方法。
【請求項14】
前記細胞培養培地が0.6~3mg/Lのオルニチンまたはプトレシンを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記組換え異種糖タンパク質がトラップ分子である、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記トラップ分子がエタネルセプト、リロナセプト及びアフリベルセプトからなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記組換え異種糖タンパク質がA1 N-グリカン及び少なくとも1つの他のN-グリカン種を含み、A1 N-グリカンの相対量が前記組換え異種糖タンパク質の全N-グリカン種の総量の≧10%(w/w)である、請求項13~16のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表の組み込み
2018年2月1日に作成され、11.2KBのサイズの、「REGE009P02US_SeqList.txt」という名前の提出されたテキストの内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、細胞を培養するための方法及び組換えタンパク質を生成するための方法に関する。本発明は、特に、高品質の組換えタンパク質の一貫した生成を達成するためにダイズ加水分解産物含有培地において細胞を培養するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
タンパク質加水分解産物、例えばダイズ加水分解産物を含有する細胞培養培地は、培養細胞からの組換えタンパク質の生成において一般に使用される。しかし、タンパク質加水分解産物は、細胞増殖または組換えタンパク質生成に悪影響を及ぼす化合物を含む可能性がある。これらの欠点にもかかわらず、タンパク質加水分解産物は、細胞培養の補充物として広く使用されている。
【0004】
ヒトの生物的治療剤(バイオ医薬品)は、一般に、哺乳類細胞培養で生成される。しかし、生物的治療剤の品質及性能は、製造方法に非常に依存する。Tebbey,P.and Declerck,P.Generics and Biosimilars Initiative Journal(2016)5:2,pp.70-73は、一貫したグリコシル化を有する生物学的薬物の製造のために、本明細書に組みこまれる。糖タンパク質の製造のための細胞培養方法に対する変更は、グリコシル化パターン、酸性種(例えば、シアル酸)の存在またはタンパク質上のグリカンの量を変動させる可能性がある(同上)。そのような変動は、生じるタンパク質生成においてタンパク質アイソフォームの不均一性を増大させ、これは、生物的治療剤の安定性、有効性または免疫原性を変化させ、最終的に、タンパク質のロットが拒否される可能性がある。
【0005】
したがって、薬物製品の収量及び組成のロット間変動性を排除する細胞培養方法が非常に望ましい。本開示は、バッチ間で変動し、ダイズ加水分解産物を使用する培養において生成される高品質な糖タンパク質の組成及び収量を変化させる可能性がある、植物タンパク質加水分解産物(例えば、ダイズ加水分解産物)中のある種の成分を特定した。本開示は、数ある中でも、植物タンパク質加水分解産物のバッチをスクリーニングし、バイオ医薬品の生成で使用するための、植物タンパク質加水分解産物の望ましい濃度の成分を含むそうしたバッチを選択することによって、向上した細胞培養方法の必要性に対処する。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、ダイズ加水分解産物のバッチ中のオルニチンまたはプトレシンの濃度が、ダイズ加水分解産物を使用する細胞培養において生成されるタンパク質の品質及び組成に影響を及ぼすという発見に部分的に基づいている。本開示は、ある種の濃度のオルニチンまたはプトレシンを含むダイズ加水分解産物を含む培地中で培養された細胞が、ロット間でより一貫したグリコシル化パターン、グリカンの量及びシアル酸プロファイルを示す、より多くの量の高品質タンパク質を生成することも提供する。
【0007】
一態様では、本発明は、組換え異種糖タンパク質を生成するために、ダイズ加水分解産物を含む細胞培養培地中で組換え異種糖タンパク質を発現する細胞の集団を培養する方法であって、ダイズ加水分解産物が、≦0.067%(w/w)のオルニチンまたはプトレシンを含む方法に関する。
【0008】
いくつかの実施形態では、方法は、ダイズ1グラム(g)あたり≦0.67ミリグラム(mg)未満のオルニチン(w/w)、または約0.003%~0.067%(w/w)のオルニチンを含むダイズ加水分解産物を含む細胞培養培地中で組換え異種糖タンパク質を発現する細胞の集団を培養するステップを含む。一実施形態では、培養培地は、≦5mg/Lのオルニチン、または約0.6~3mg/Lのオルニチンを含む。いくつかの実施形態では、細胞の集団は、組換え異種糖タンパク質を発現する細胞のクローン性増殖によって得られる。
【0009】
一態様では、本発明は、糖タンパク質を生成するための方法に関する。一実施形態では、方法は、ダイズ1グラム(g)あたり≦0.67ミリグラム(mg)未満のプトレシン(w/w)、または約0.003%~0.067%(w/w)のプトレシンを含むダイズ加水分解産物を含む培養培地中で組換え異種糖タンパク質を発現する細胞の集団を培養するステップを含む。一実施形態では、培養培地は、≦5mg/Lのプトレシンまたは約0.6~3mg/Lのプトレシンを含む。いくつかの実施形態では、細胞の集団は、組換え異種糖タンパク質を発現する細胞のクローン性増殖によって得られる。
【0010】
一実施形態では、糖タンパク質は、トラップ分子、例えば、リロナセプト(例えば、米国特許第6,927,004号に開示される、IL1-トラップ)、アフリベルセプト(例えば、米国特許第7,087,411号に開示されるVEGF-トラップ)、コンバセプト(conbercept)(例えば、米国特許第7,750,138号及び第8,216,575号に開示される、VEGF-トラップ)ならびにエタネルセプト(例えば、米国特許第5,610,279号に開示される、TNF-トラップ)である。一実施形態では、糖タンパク質の全N-グリカン種の総量の≧10%(w/w)は、A1 N-グリカンである。
【0011】
一態様では、本発明は、糖タンパク質を生成する方法に関する。別の態様では、本発明は、糖タンパク質の生成においてダイズ加水分解産物を使用する方法に関する。別の態様では、本発明は、生成された糖タンパク質の品質を評価することによって、糖タンパク質を生成するのに使用するためのダイズ加水分解産物を選択する方法に関する。一実施形態では、方法は、グリコシル化タンパク質を発現する細胞を細胞培養培地中で培養して糖タンパク質を生成すること、グリコシル化タンパク質を精製すること、精製したグリコシル化タンパク質をオリゴ糖フィンガープリント解析にかけること、糖タンパク質のN-グリカン種の総量と比較して、A1 N-グリカンの相対量を決定すること、及び糖タンパク質のN-グリカン種の総量と比較して、少なくとも10%(w/w)のA1 N-グリカンを提供するダイズ加水分解産物を選択することを含む。
【0012】
一実施形態では、方法は、ダイズ加水分解産物を含有する細胞培養培地を調製するステップ、細胞培養培地中で糖タンパク質を発現する細胞を培養するステップ、グリコシル化タンパク質を精製するステップ、精製したグリコシル化タンパク質をオリゴ糖フィンガープリント解析にかけるステップ、糖タンパク質のN-グリカン種の総量と比較して、A1 N-グリカンの相対量を決定するステップ、及び、次いで、糖タンパク質のN-グリカン種の総量と比較して、少なくとも10%(w/w)のA1 N-グリカンを有する糖タンパク質の生成をもたらすダイズ加水分解産物を選択するステップを含む。
【0013】
一実施形態では、選択されたダイズ加水分解産物は、ダイズ1gあたり≦0.67mgのオルニチン(w/w)または約0.003%~0.067%(w/w)のオルニチンを含む。一実施形態では、培養培地は、≦5mg/Lのオルニチンまたは約0.6~3mg/Lのオルニチンを含む。
【0014】
一実施形態では、選択されたダイズ加水分解産物は、ダイズ1gあたり≦0.67mgのプトレシン(w/w)または約0.003%~0.067%(w/w)のプトレシンを含む。一実施形態では、培養培地は、≦5mg/Lのプトレシンまたは約0.6~3mg/Lのプトレシンを含む。
【0015】
一態様では、本発明は、ダイズ加水分解産物中のオルニチンまたはプトレシンの量を測定することによって、糖タンパク質を生成するのに使用するためのダイズ加水分解産物を選択する方法に関する。一実施形態では、方法は、ダイズ加水分解産物中のオルニチンの量を測定するステップ、ダイズ1gあたり≦0.67mgのオルニチンまたは約0.003%~0.067%(w/w)のオルニチンを有するダイズ加水分解産物を選択するステップ、及び選択されたダイズ加水分解産物をさらなる成分と組み合わせて、≦5mg/Lのオルニチンまたは約0.6~3mg/Lのオルニチンを有する細胞培養培地を形成するステップを含む。一実施形態では、方法は、有用な可能性があるダイズ加水分解産物中のプトレシンの量を測定するステップ、ダイズ1gあたり≦0.67mgのプトレシンまたは約0.003%~0.067%(w/w)のプトレシンを有するダイズ加水分解産物を選択するステップ、及び選択されたダイズ加水分解産物をさらなる成分と組み合わせて、≦5mg/Lのプトレシンまたは約0.6~3mg/Lのプトレシンを有する細胞培養培地を形成するステップを含む。
【0016】
一態様では、本発明は、A1 N-グリカン及び少なくとも1つの他のN-グリカン種を含み、A1 N-グリカンの相対量が糖タンパク質のN-グリカンの総量の少なくとも10%(w/w)である、糖タンパク質に関する。一実施形態では、A1 N-グリカンの相対量は約10%~17%(w/w)である。
【0017】
一実施形態では、糖タンパク質は、A2 N-グリカン、A2F N-グリカン、A1F N-グリカン、NGA2F N-グリカン、NA2G1F N-グリカン、NA2 N-グリカン及びNA2F N-グリカンも有する。
【0018】
一実施形態では、糖タンパク質は、糖タンパク質1モルあたり8~65モルのシアル酸を含む。糖タンパク質がリロナセプトである一実施形態では、配列番号1のアスパラギン残基N37、N98、N418及びN511のうちのいずれか1つは、A1 N-グリカンを含む。糖タンパク質がアフリベルセプトである一実施形態では、配列番号2のアスパラギン残基N123及びN196のうちのいずれか1つは、A1 N-グリカンを含む。
【0019】
一実施形態では、糖タンパク質のA1 N-グリカンの相対量は、キャピラリー電気泳動によって得られる糖タンパク質のオリゴ糖フィンガープリントから得られるA1 N-グリカンのピーク下の面積を全N-グリカンに対するピーク下の全面積と比較することによって、決定される。
【0020】
一態様では、オルニチンまたはプトレシンの量が低減したダイズ加水分解産物を製造する方法が提供される。一実施形態では、方法は、残基を含まない反応器中でダイズ抽出物を酵素消化するステップ、ダイズ加水分解産物中のオルニチンの量を測定するステップ、及び細胞培養培地で使用するための、≦0.067%(w/w)のオルニチンまたはプトレシンを含むダイズ加水分解産物のロットを選択するステップを含む。一実施形態では、方法は、残基を含まない反応器中でダイズ抽出物を酵素消化するステップ、ダイズ加水分解産物中のプトレシンの量を測定するステップ、及び細胞培養培地で使用するための、≦0.067%(w/w)のオルニチンまたはプトレシンを有するダイズ加水分解産物を選択するステップを含む。
【0021】
用語「約」は、記載される値の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%または0.01%内として理解され得る。文脈から特に明らかでない限り、本明細書で提供されるすべての数値は、用語「約」で修飾される。
【0022】
本明細書に記載のものと類似または等価の方法及び材料を本開示の実施または試験において使用することができるが、適切な方法及び材料を以下に記載する。本明細書で言及されるすべての刊行物、特許出願、特許及び他の参考文献は、参照によりその全体が組み込まれる。本明細書で引用される参考文献は、請求される開示に対する先行技術であると認められない。矛盾がある場合には、定義を含めて、本明細書が優先する。さらに、材料、方法及び実施例は例示に過ぎず、制限を意図したものではない。本開示の他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0023】
上記の態様及び実施形態いずれかは、発明の概要及び/または発明を実施するための形態のセクションにおいて本明細書で開示される任意の他の態様または実施形態と組み合わせることができる。
【0024】
本特許または出願ファイルは、カラーで製作された少なくとも1つの図面を含む。カラー図面を含む本特許または特許出願公開のコピーは、要請及び必要な料金の支払いに応じて、当局によって提供されるであろう。
【0025】
本発明の様々な目的及び利点ならびにより完全な理解は、添付の図面と併せて、以下の発明を実施するための形態及び添付の特許請求の範囲を参照することにより、明らかであり、よりたやすく認識される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】ニンヒドリン由来アミノ酸のクロマトグラフィーの溶出プロファイルを示す図である。X軸はクロマトグラフィーカラムからの溶出時間(保持時間)を示し、Y軸は570nmの吸光度を示す。パネルAは、FDA標準によって許容されるN-グリカン混合物の生成に関する基準を満たさないバッチを示す。パネルBは、ダイズタンパク質加水分解産物の許容されるアミノ酸解析を示す。オルニチンに相当するピークを両方のクロマトグラムにおいて丸で囲む。
【
図2】ペプチド:N-グリコシダーゼF(PNGase F)消化によって糖タンパク質から遊離したオリゴ糖のキャピラリー電気泳動図を示す。X軸はキャピラリーからの溶出時間を示し、Y軸は吸光度または蛍光強度を示す。ピークは1~21の番号が付けられる。ピーク1はN-グリカンA2を表し、ピーク4はN-グリカンA2Fを表し、ピーク11はN-グリカンA1を表し、ピーク14はN-グリカンA1Fを表し、ピーク16はN-グリカンNGA2Fを表し、ピーク19はN-グリカンNA2G1Fを表し、ピーク20はN-グリカンNA2を表し、ピーク21はN-グリカンNA2Fを表す。
【
図3】ダイズタンパク質加水分解産物におけるオルニチン及びシトルリン濃度の関数として、A1 N-グリカンの相対量のドットブロットを示す図である。X軸は、mg/Lでシトルリンまたはオルニチンの濃度を示す。Y軸は、A1 N-グリカンに相当するピーク11の相対面積を示す。
【
図4】ダイズ加水分解産物中のオルニチン濃度(右下四分円)とアフリベルセプトにおけるピーク11の相対量(A1 N-グリカン、左上四分円)との負の相関を示す相関プロットである。
【
図5】(i)ダイズ加水分解産物中のオルニチン濃度(左下四分円)とリロナセプトの最終力価(右上四分円)との負の相関、及び(ii)ダイズ加水分解産物中のオルニチン濃度(左下四分円)と培地中のラクテートの蓄積(左下四分円)との正の相関を示す相関プロットである。
【
図6A】CHO細胞培養から合成されたポリアミンの量を示す1組のグラフである。これは、対照、高及び低オルニチン濃度、プトレシン、MFC及びIPCを含めた様々な条件下のバッチ日の関数として、IVCD×10
6細胞-日/mlとしてまたは力価(グラム/ml)のいずれかとして示される。
【
図6B】
図6Aに示される各研究群の実験条件を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
記載される特定の方法及び実験条件は変動し得るので、本開示の範囲がそのような方法及び条件に限定されないことを理解されたい。本明細書で使用される術語は特定の実施形態のみを説明することを目的とし、限定することを意図したものではないことも理解されたい。
【0028】
別段規定されない限り、本出願で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、この発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本出願に記載されているものと同様または均等の任意の方法及び材料を本発明の実施または試験で使用することができるが、ある種の特定の方法及び材料をこれから記載する。単位、接頭辞及び記号は、それらの標準的な、業界に認められる形で表示され得る。明細書に記載される数値範囲は、オープンブラケットであり、範囲を規定する数を含むこと意味する。特記しない限り、用語「a」または「an」は、「の少なくとも1つ」を意味すると解釈されるべきである。
【0029】
本明細書で使用されるセクションの見出しは、構成上の目的のためだけであり、記載される主題を制限するものとして解釈されるべきでない。本明細書に記載の方法及び技法は、一般に、当技術分野で既知の従来の方法に従って、及び本明細書全体を通して引用され議論される様々な一般的参考文献及びより特定の参考文献に記載されているように、実施される。例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(2001)、及びAusubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Associates(1992),Harlow and Lane Antibodies:A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1990)、及びJulio E.Celis,Cell Biology:A Laboratory Handbook,2nd ed.,Academic Press,New York,N.Y.(1998)、及びDieffenbach and Dveksler,PCR Primer:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1995)を参照されたい。本開示全体にわたって言及されるすべての刊行物は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0030】
定義
別段規定されない限り、本出願で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、この発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0031】
フレーズ「相対量」は、一般的なタイプのすべての分子種の総量に対するある分子種の量を意味する。例えば、A1グリカン(すなわち、(GlcNAc)2(Man)3(GlcNAc)2(Gal)2(SA)1)の相対量は、A1の量/すべてのNグリカンの量の合計として計算される。相対量は、絶対質量対質量量(すなわち、グラムあたりのグラム)またはパーセンテージ、すなわち、%(w/w)として表され得る。
【0032】
「オルニチン」は、尿素回路、ポリアミン合成及びアルギニン代謝に関与する、タンパク質をコードしないアミノ酸である。オルニチンは、組換えタンパク質のグリコフォーム含量に影響することも知られている。PCT/US2014/069378を参照されたい。オルニチンは、いくつかの酵素の作用を受ける。例えば、オルニチンデカルボキシラーゼは、ポリアミン生合成経路においてオルニチンからプトレシンへの変換を触媒する。Pegg A,J.of Biol.Chem.(2006)281:21pp.14532を参照されたい。さらに、シトルリンへのオルニチンの変換は、尿素回路の一部として、オルニチントランスカルバミラーゼによって触媒される。オルニチンの代謝は、培養中の細胞のサイトゾルとミトコンドリアの両方で起こる。プトレシンの存在またはオルニチンの存在は、合成培地で培養される細胞の増殖及び生産性に重要であると考えられているが、そのような細胞によって生成されるタンパク質の重要な品質属性に対する影響は、説明されていない。
【0033】
「プトレシン」は、尿素回路に関与する、タンパク質をコードしないアミノ酸、ポリアミンである。プトレシン(C4H12N2の化学式を有する、1,4-ジアミノブタンとしても知られる)はオルニチンの脱炭酸によって生成され、ガンマ-アミノ酪酸(γ-アミノ酪酸)に対する前駆物質として働く。
【0034】
本明細書で使用する場合、「ペプチド」、「ポリペプチド」及び「タンパク質」は全体にわたって互換的に使用され、ペプチド結合によって互いに結合した2つ以上のアミノ酸残基を含む分子を指す。ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質は、修飾、例えば、グリコシル化、脂質付着、硫酸化、グルタミン酸残基のガンマ-カルボキシル化、アルキル化、ヒドロキシル化及びADPリボシル化を含むこともできる。ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質は、タンパク質ベースの薬物(生物治療剤)を含めた科学的または商業的に興味のあるものでもよい。ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質としては、数ある中でも、抗体及びキメラタンパク質または融合タンパク質が挙げられる。ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質は、細胞培養方法を使用して、哺乳動物細胞株などの組換え動物細胞株によって、生成することができる。
【0035】
本明細書で使用する場合、用語「ポリヌクレオチド配列」または「ペプチド配列」は、バイオ医薬品の原体として生成される目的のタンパク質、例えば、キメラタンパク質(トラップ分子など)、抗体または抗体の一部(例えば、VH、VL、CDR3)をコードする核酸ポリマーを指す。ポリヌクレオチド配列は、遺伝子工学技法によって製造することができ(例えば、キメラタンパク質をコードする配列、またはコドン最適化配列、イントロンのない配列)、細胞中に導入することができ、ここで、これは、エピソームとして存在することができ、または細胞のゲノム中に組み込まれ得る。ポリヌクレオチド配列は、宿主細胞のゲノム内の異所に導入される天然に存在する配列でもよい。ペプチド配列は、異種性、例えば、別の生物由来の天然に存在する配列、組換え配列、遺伝子改変配列、または特に、野生型と異なるプロモーターの制御下で発現する配列、例えば、ヒトオルソログをコードするヌクレオチド配列(宿主(生成)細胞はCHO細胞である)でもよい。
【0036】
フレーズ「抗原結合タンパク質」は、少なくとも1つのCDRを有し、抗原を選択的に認識することができる、すなわち、少なくともマイクロモル範囲のKDで抗原に結合することができるタンパク質を含む。治療用抗原結合タンパク質(例えば、治療用抗体)は、ナノモルまたはピコモル範囲のKDを必要とすることが多い。典型的には、抗原結合タンパク質は、2つ以上のCDR、例えば、2つ、3つ、4つ、5つまたは6つのCDRを含む。抗原結合タンパク質の例としては、抗体、抗体の抗原結合性断片、例えば、抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域を含むポリペプチド(例えば、Fab断片、F(ab’)2断片)、ならびに抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域を含み、重鎖及び/または軽鎖の定常領域由来の付加的なアミノ酸(例えば、1つまたは複数の定常ドメイン、すなわち、CL、CH1、ヒンジ、CH2及びCH3ドメインの1つまたは複数)を含むタンパク質が挙げられる。
【0037】
「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互接続した、4つのポリペプチド鎖、2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖からなる免疫グロブリン分子を指す。各重鎖は、重鎖可変領域(HCVRまたはVH)及び重鎖定常領域を有する。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2及びCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)及び軽鎖定常領域を有する。軽鎖定常領域は1つのドメイン(CL)からなる。VH及びVL領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域にさらに細分することができ、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域が点在している。各VH及びVLは、3つのCDR及び4つのFRから構成され、これらは、アミノ末端からカルボキシ末端に次の順序で配置されている:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3及びFR4。用語「抗体」は、任意のアイソタイプまたはサブクラスのグリコシル化免疫グロブリンと非グリコシル化免疫グロブリンの両方を含む。用語「抗体」は、組換え手段によって、調製された、発現された、作出された、または単離された抗体分子、例えば、抗体を発現させるためにヌクレオチド配列がトランスフェクトされた宿主細胞から単離された抗体を含む。用語「抗体」は、1つを超えるエピトープに結合することができるヘテロ四量体免疫グロブリンを含む二重特異性抗体も含む。二重特異性抗体は、一般に、米国特許出願公開第2010/0331527号に記載されており、これは、参照により本明細書に組み込まれる。
【0038】
抗体(もしくは抗体断片)または目的のタンパク質の「抗原結合部分」という用語は、抗原に特異的に結合する能力を保持する、抗体または目的のタンパク質の1種または複数の断片を指す。抗体の「抗原結合部分」という用語内に包含されるタンパク質結合断片の非限定例には、(i)VL、VH、CL及びCH1ドメインからなる一価の断片である、Fab断片、(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価の断片である、F(ab’)2断片、(iii)VH及びCH1ドメインからなるFd断片、(iv)抗体の単一アームのVL及びVHドメインからなるFv断片、(v)VHドメインからなるdAb断片(Ward et al.,Nature(1989)241:544-546)、(vi)単離されたCDR、ならびに(vii)VL及びVH領域が対形成して一価の分子を形成する単一タンパク質鎖を形成するように合成リンカーによって結合したFv断片の2つのドメイン、VL及びVHからなる、scFvが挙げられる。単鎖抗体の他の形態、例えばダイアボディも用語「抗体」の下に包含される。例えば、Holliger et al.,PNAS USA(1993)90:6444-6448、Poljak et al.,Structure (1994)2:1121-1123を参照されたい。
【0039】
さらにまた、抗体またはその抗原結合部分は、1つまたは複数の他のタンパク質またはペプチドとの抗体または抗体の一部の共有結合性または非共有結合性の会合によって形成されるより大きな免疫接着分子の一部でもよい。そのような免疫接着分子の非限定例には、四量体scFv分子を作製するためのストレプトアビジンコア領域の使用(Kipriyanov et al.,Human Antibodies and Hybridomas(1995)6:93-101)ならびに二価のビオチン化scFv分子を製造するためのシステイン残基、マーカーペプチド及びC末端ポリヒスチジンタグの使用(Kipriyanov et al.Mol.Immunol.(1994)31:1047-1058)が含まれる。抗体の一部、例えば、Fab及びF(ab’)2断片は、従来の技法を使用して、例えば、全抗体のパパインまたはペプシン消化によって、全抗体から調製することができる。さらに、抗体、抗体の一部及び免疫接着分子は、一般に当技術分野で既知の標準的な組換えDNA法を使用して得ることができる(Sambrook et al.,1989を参照されたい)。
【0040】
用語「ヒト抗体」は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域及び定常領域を有する抗体を含むことが意図される。本開示のヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列にコードされていないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダムなまたは部位特異的な変異誘発によって、またはインビボでの体細胞変異によって、導入された変異)を、例えばCDR中に、特にCDR3中に含むことができる。本明細書で使用する場合、用語「組換えヒト抗体」は、組換え手段によって調製された、発現された、作出された、または単離されたすべてのヒト抗体、例えば、宿主細胞中にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを使用して発現された抗体、組換え体から単離された抗体、コンビナトリアルヒト抗体ライブラリー、ヒト免疫グロブリン遺伝子についてトランスジェニックである動物(例えば、マウス)から単離された抗体(例えば、Taylor et al.Nucl.Acids Res.(1992)20:6287-6295を参照されたい)、または他のDNA配列へのヒト免疫グロブリン遺伝子配列のスプライシングを含む任意の他の手段によって調製された、発現された、作出された、もしくは単離された抗体を含むことが意図される。そのような組換えヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域及び定常領域を有する。しかし、ある種の実施形態では、そのような組換えヒト抗体はインビトロ変異誘発(または、ヒトIg配列に対してトランスジェニックである動物が使用される場合は、インビトロ体細胞変異誘発)にかけられ、それにより、組換え抗体のVH及びVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列VH及びVL配列に由来し、それと関係しているが、インビボで、ヒト抗体生殖系列レパートリー内に天然に存在しない可能性がある配列である。
【0041】
「Fc融合タンパク質」は、2つ以上のタンパク質の一部またはすべてを含み、それらのうちの1つは免疫グロブリン分子のFc部分であり、それらは、そうでなければ、天然に一緒に見られない。抗体由来ポリペプチド(Fcドメインを含む)の様々な部分に融合したある種の異種ポリペプチドを含む融合タンパク質の調製は、例えば、Ashkenazi et al.,PNAS USA(1991)88:10535、Byrn et al.,Nature(1990)344:677、及びHollenbaugh et al.,Current Protocols in Immunology(1992)Suppl.4,pp.10.19.1-10.19.11によって記載されている。「受容体Fc融合タンパク質」は、いくつかの実施形態では、ヒンジ領域、続いて、免疫グロブリンのCH2及びCH3ドメインを含むFc部分に結合した受容体の1つまたは複数の細胞外ドメイン(複数可)を含む。いくつかの実施形態では、Fc-融合タンパク質は、1種または複数のリガンド(複数可)に結合する2つ以上の異なる受容体鎖を含む。
【0042】
ある種の実施形態では、「Fc-融合タンパク質」は「トラップ」分子であり、これは、対応する内在性受容体の結合ドメインを模倣する2つの異なる受容体成分及び抗体のFc部分を含むデコイ受容体分子である。トラップ分子の非限定例としては、IL-1トラップ(例えば、リロナセプト。これは、IL-1R1細胞外領域(次にこれがhIgG1のFcに融合する)に融合したIL-1RAcPリガンド結合領域)(例えば、配列番号1)を含む(米国特許第6,927,004号を参照されたい)、またはVEGFトラップ(例えば、アフリベルセプト。これは、VEGF受容体Flk1のIgドメイン3(次にこれがhIgG1のFcと融合する)に融合したVEGF受容体Flt1のIgドメイン2を含む。例えば、米国特許第7,087,411号、第7,279,159号を参照されたい。エタネルセプト(TNFトラップ)について米国特許第5,610,279も参照されたい)が挙げられる。
【0043】
「「グリコシル化」は、オリゴ糖がタンパク質のアスパラギン(Asn)残基(すなわち、N結合型)またはセリン(Ser)もしくはスレオニン(Thr)残基(すなわち、O結合型)の側鎖のいずれかに結合している糖タンパク質の形成を含む。「糖タンパク質」は、O結合型グリカンまたはN結合型グリカンを含む任意のタンパク質を含む。グリカンは、直鎖状でも分枝状でもよい、単糖残基のホモまたはヘテロポリマーでもよい。N結合型グリコシル化は、主として小胞体で開始することが知られているが、O結合型グリコシル化は、ERまたはゴルジ装置のいずれかで開始することが示されている。用語「N-グリカン」は「N結合型オリゴ糖」と互換的に使用される。用語「O-グリカン」は「O結合型オリゴ糖」と互換的に使用される。
【0044】
「N-グリカンタンパク質」は、N結合型オリゴ糖を含むか、受容することができるタンパク質を含む。N-グリカンは、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)、マンノース(Man)、フコース(Fuc)、ガラクトース(Gal)、ノイラミン酸(NANA)及び他の単糖類から構成され得るが、N-グリカンは、3つのマンノース及び2つのN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)糖を含む、共通のコア五糖構造を通常有する。連続したアミノ酸配列、Asn-X-SerまたはAsn-X-Thr(Xは、プロリンを除いた任意のアミノ酸である)を有するタンパク質は、N-グリカンに対する結合部位を提供し得る。
【0045】
N-グリカンは、表1に列挙されるN結合型オリゴ糖を含む。列挙されるオリゴ糖の略称は、オリゴ糖を述べるための簡易化した名称として本明細書で使用される。したがって、例えば、A1 N-グリカンは、(SA)(Gal)2(GlcNAc)2(Man)3(GlcNAc)3からなるオリゴ糖に連結したアルギニンを含む。
【表1】
【0046】
スクリーニング
「加水分解産物」は、植物材料、動物材料、乳清、酵母などの加水分解に由来する複合材料である。用語「加水分解産物」は、「タンパク質加水分解産物」と互換的に使用される。「植物加水分解産物」(植物タンパク質加水分解産物)は、加水分解された植物材料、例えば、コメ粉、コムギ粉、トウモロコシ粉、ダイズ粉などである。タンパク質加水分解産物は、3つの一般的方法、すなわち、酸加水分解、アルカリ加水分解及び酵素的加水分解によって、製造することができる。生物治療剤の製造を含めた生物学的用途のために、タンパク質加水分解産物は、酵素的加水分解によってたいてい作製される。例えば、ペプシン消化によって作製されるダイズ加水分解産物は「ダイズペプトン」と呼ぶことができ、またはトリプシン消化によって作製される酵母加水分解産物は「酵母トリプトン」と呼ぶことができる。Franek et al.,Biotechnol.Prog.16(5):688-92(2000)は、植物タンパク質加水分解産物及びその製造方法について、本明細書に組み込まれる。
【0047】
いくつかの実施形態では、対象の加水分解産物は植物加水分解産物である。具体的な実施形態では、対象のタンパク質加水分解産物はダイズ加水分解産物である。「ダイズ加水分解産物」は、ダイズ粗粒に由来する酵素的に消化されたダイズ生成物であり、ほとんど化学的に未決定である。一般に、ダイズ加水分解産物は、アミノ酸、タンパク質、炭水化物、ミネラル及びビタミンの集合体から構成される。ダイズ加水分解産物は、例えば、高濃度溶液(例えば、HyClone(商標)HyQダイズ加水分解産物溶液)または粉末(例えば、Sigma Aldrich(登録商標)S1674(Amisoy(商標))、ダイズタンパク質加水分解産物)の形態で市販されている、植物由来のタンパク質加水分解産物である。ダイズ加水分解産物の「バッチ」または「ロット」は、本明細書で使用する場合、ダイズ粗粒の加水分解によって生じる、製造量のダイズ加水分解産物を指す。例えば、各加水分解方法は、様々な濃度の成分、例えば、ビタミン、アミノ酸、ペプチド及び糖を有する、ダイズ加水分解産物のユニークな「バッチ」または「ロット」をもたらすことができる。ダイズ加水分解産物は、市販の生物治療剤、例えば抗体の生成の間の哺乳動物細胞株の増殖のために、動物タンパク質を含まない細胞培養培地とともに一般に使用される。より具体的には、ダイズ加水分解産物は、細胞の接種より前かその間に、細胞培養培地に加えられる。次いで、細胞は、回収されるまで、加水分解産物含有培地中で培養される。ダイズ加水分解産物の未決定の性質のために、ダイズ加水分解産物のバッチはバッチ間(またはロット間)で変動し、これが、生物治療剤の商業的製造においてばらつきをもたらす可能性がある。
【0048】
本開示は、ダイズ加水分解産物のバッチ中のある種の成分の濃度が、ダイズ加水分解産物を使用する細胞培養において生成されるタンパク質の品質及び組成に影響を及ぼすことを確認した。本開示は、望ましい量の成分、例えば、オルニチン、プトレシン、シトルリン、アルギニンまたはこれらの組み合わせなどを含む、ある種のダイズ加水分解産物のバッチを選択するために、ダイズ加水分解産物のバッチをスクリーニングするための方法を提供する。
【0049】
ある種の実施形態では、スクリーニング方法は、ダイズ加水分解産物のバッチの少なくとも一部(すなわち、試料)において、オルニチンまたはプトレシンの量を測定することを含む。具体的な実施形態では、ダイズ加水分解産物試料は秤量され、その一部が所望の濃度まで溶解される。いくつかの実施形態では、次いで、ダイズ加水分解産物溶液は、第2の所望の濃度(例えば、1g/L~25g/L)まで溶媒中に希釈され、次いで、得られたダイズ加水分解産物溶液の組成が決定される。
【0050】
いくつかの実施形態では、測定ステップは、例えば、ポストカラムニンヒドリン反応後に実施される比色検出、または溶出されるニンヒドリン陽性化合物のためのクロマトグラフィー、例えば、HPLCまたはUPLCを含めた、ダイズ加水分解産物試料の分子組成を決定するための適切な方法を用い、各成分(例えば、オルニチンまたはプトレシン)の測定量を表すために使用される単位は、任意の適切な単位(例えば、マイクロモル/L、mg/Lまたはg/L)でもよい。いくつかの実施形態では、オルニチンまたはプトレシンの量の測定は、試料中のオルニチンの濃度の測定、またはダイズ加水分解産物試料中のオルニチンの総量の測定を含む。しかし、オルニチンまたはプトレシンの量は測定され、測定量を表すために、いかなる単位も使用され、ダイズ加水分解産物の選択されたバッチ中のオルニチンまたはプトレシンの濃度は、ダイズ1gあたり0.67mg以下のオルニチンまたはプトレシンである。
【0051】
一実施形態では、ダイズ加水分解産物のバッチの試料が得られ、試料のオルニチンまたはプトレシンの含量が、ポストカラムニンヒドリン検出を用いて、イオン交換カラムによるアミノ酸のクロマトグラフィーによって測定される。より具体的には、具体的な実施形態において、スクリーニング方法は、ダイズ加水分解産物試料の酸加水分解及び試料緩衝液における再構成を含む。次いで、加水分解された試料は、例えば、スルホン化ポリスチレン樹脂(Dowex 50)のカラムによる高速陽イオン交換分離にかけられ、続いて、試料中の個々のアミノ酸の高感度な検出を可能にするポストカラム誘導体化が行われる。例えば、Moore and Stein.J.Biol.Chem.(1954)Vol.211 pp.907-913、Nemkov ,et al.,Amino Acids 2015 Nov;47(11):2345-2357、Wahl and Holzgrabe,“Amino acid analysis for pharmacopoeial purposes,”Talanta 154:150-163,1 July 2016を参照されたい。ニンヒドリン試薬によるポストカラム発色に続いて、吸光度がニンヒドリンの紫の範囲、例えば570nmで測定される。データ取得は、アミノ酸あたりマイクロモル/L、アミノ酸あたりmg/Lまたはアミノ酸あたりg/Lを示す定量的なクロマトグラム提供するためのクロマトグラフィーソフトウェア(例えば、Hitachi用EZChrom Eliteバージョン3.1.5bクロマトグラフィーソフトウェア)を使用して達成される。
【0052】
試料組成物中のアミノ酸を特定及び測定するための他の方法は、本開示の方法、例えば、液体クロマトグラフィー及びマススペクトロスコピーを使用する、プレカラム誘導体化クロマトグラフィーまたは逆相液体クロマトグラフィー方法に従って使用することができることを当業者は認識するであろう。
【0053】
ある種の実施形態では、ダイズ加水分解産物試料をスクリーニングするために、液体クロマトグラフィー-マススペクトロメトリーが使用される。例えば、ダイズ加水分解産物のバッチの試料を本明細書に記載されるように得ることができ、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)システム、例えば、Agilent 1100またはAgilent 1200SLによるクロマトグラフィーのランまたは一連のクロマトグラフィーのランにかけることができる。マススペクトロメトリー解析は、測定されるダイズ加水分解産物試料の組成を説明する高分解能の定量的データを提供するために、行うことができる。
【0054】
いくつかの実施形態では、本開示は、所望量の成分、例えば、オルニチン、プトレシン及び/またはシトルリンについてダイズ加水分解産物のバッチをスクリーニングすること、ならびに所望量のそのような成分を有するダイズ加水分解産物のバッチを選択することを含む方法を提供する。例えば、ダイズ加水分解産物の粉末のバッチの一部を含む試料を上記のようにスクリーニングすることができ、試料のランと同じ条件下で作成されたアミノ酸標準プロファイルと比較することができる。
図1A~1Bに示すように、得られたクロマトグラム(複数可)は、ダイズ加水分解産物試料中に存在する各アミノ酸成分の濃度(例えば、アミノ酸あたりマイクロモル/L、アミノ酸あたりmg/Lまたはアミノ酸あたりg/L)を提供するであろう。クロマトグラムの解析によって、所望の濃度の成分、例えば、オルニチン、プトレシン及び/またはシトルリンを含むダイズ加水分解産物のバッチ(すなわち、試料)の特定が容易になる。次いで、本明細書に記載されるように、例えば細胞培養における、さらなる使用のために、所望量の特定の一成分または複数成分を含む各ダイズ加水分解産物のバッチが選択される。
図1のパネルAは、アミノ酸の特定後に不合格にされたバッチを示す。
図1のパネルBは、同一条件下での、許容されるダイズ加水分解産物バッチのランの例を示す。オルニチンに対応するアミノ酸ピークは、両方の図において丸で囲まれる。オルニチンまたはプトレシンの濃度は、検量線を作成し、試料のオルニチンまたはプトレシン濃度を内挿することによって決定することができる。あるいは、オルニチンまたはプトレシンの相対量を、オルニチンまたはプトレシンのピークに対する曲線下面積を決定し、すべてのアミノ酸に対するピーク下の面積の合計でそれを割ること、またはピーク面積を標準と比較することによって、決定することができる。
【0055】
ある種の実施形態では、選択されたダイズ加水分解産物の成分(例えば、オルニチンまたはプトレシン)の所望の濃度は、5mg/L以下である。一実施形態では、選択されたダイズ加水分解産物のバッチ中のオルニチンまたはプトレシンの所望の濃度は、0.5mg/L~5.0mg/Lまたは0.5mg/L~2.0mg/Lの範囲にわたる。他の実施形態では、ダイズ加水分解産物の選択されたバッチ中のオルニチンまたはプトレシンの濃度は、0.5mg/L~4.5mg/L、0.5mg/L~4.0mg/L、0.5mg/L~3.5mg/L、0.5mg/L~3.0mg/L、0.5mg/L~2.5mg/L、0.5mg/L~2.0mg/L、0.5mg/L~1.5mg/Lまたは0.5mg/L~1.0mg/Lの範囲にわたる。いくつかの実施形態では、ダイズ加水分解産物の選択されたバッチ中のオルニチンまたはプトレシンの濃度は、1.0mg/L~5.0mg/L、1.5mg/L~5.0mg/L、2.0mg/L~5.0mg/L、2.5mg/L~5.0mg/L、3.0mg/L~5.0mg/L、3.5mg/L~5.0mg/L、4.0mg/L~5.0mg/Lまたは4.5mg/L~5.0mg/Lの範囲にわたる。
【0056】
具体的な実施形態では、ダイズ加水分解産物のバッチ中のオルニチンまたはプトレシンの所望の濃度は、少なくとも0.5mg/L、0.6mg/L、0.7mg/L、0.8mg/L、0.9mg/L、1.1mg/L、1.2mg/L、1.3mg/L、1.4mg/L、1.5mg/L、1.6mg/L、1.7mg/L、1.8mg/L、1.9mg/L、2.0mg/L、2.1mg/L、2.2mg/L、2.3mg/L、2.4mg/L、2.5mg/L、2.6mg/L、2.7mg/L、2.8mg/L、2.9mg/L、3.0mg/L、3.1mg/L、3.2mg/L、3.3mg/L、3.4mg/L、3.5mg/L、3.6mg/L、3.7mg/L、3.8mg/L、3.9mg/L、4.0mg/L、4.1mg/L、4.2mg/L、4.3mg/L、4.4mg/L、4.5mg/L、4.6mg/L、4.7mg/L、4.8mg/L、4.9mg/Lであり、または5.0mg/Lのオルニチンまたはプトレシンである。
【0057】
他の実施形態では、ダイズ加水分解産物のバッチ中のオルニチンまたはプトレシンの所望の濃度は、ダイズ1gあたり0.67mg以下のオルニチンである。さらに他の実施形態では、ダイズ加水分解産物のバッチ中のオルニチンまたはプトレシンの所望の濃度は、ダイズ1gあたり0.27mg以下のオルニチンである。別の実施形態では、ダイズ加水分解産物のバッチ中のオルニチンまたはプトレシンの所望の濃度は、ダイズ1gあたり0.24mg以下のオルニチンまたはプトレシンである。いくつかの実施形態では、ダイズのバッチ中のオルニチンまたはプトレシンの所望の濃度は、ダイズ1gあたり0.067mg~0.67mgのオルニチンまたはプトレシンである。さらに他の実施形態では、ダイズ加水分解産物のバッチ中のオルニチンまたはプトレシンの所望の濃度は、ダイズ1gあたり0.067mg~0.27mgのオルニチンの範囲内に入る。さらに別の実施形態では、ダイズ加水分解産物のバッチ中のオルニチンまたはプトレシンの所望の濃度は、ダイズ1gあたり0.067mg~0.24mgのオルニチンまたはプトレシンの範囲内に入る。
【0058】
一実施形態では、選択されたダイズ加水分解産物中におけるオルニチンまたはプトレシンの質量(%w/w)による相対量(w/w=オルニチンまたはプトレシンの質量/加水分解産物の全質量)は、≦0.067%、例えば、0.0001%、0.0002%、0.0003%、0.0004%、0.0005%、0.0006%、0.0007%、0.0008%、0.0009%、0.001%、0.0015%、0.002%、0.0025%、0.003%、0.0035%、0.004%、0.0045%、0.005%、0.0055%、0.006%、0.0061%、0.0062%、0.0063%、0.0064%、0.0065%、0.0066%(すべて、w/w)である。
【0059】
一実施形態では、植物タンパク質加水分解産物は、特定の品質属性を有する糖タンパク質の生成に基づいて選択される。糖タンパク質の品質は、糖タンパク質上の1種または複数の特定のN-グリカンのレベルを評価することによって、または糖タンパク質上の1種または複数の特定の糖のレベルまたは複数の属性の組み合わせを評価することによって、決定することができる。例えば、特定のフコースレベル、例えば、糖タンパク質1モルあたり5~10モルのフコースを有する糖タンパク質は品質属性基準であり得、または特定のシアル酸レベル、例えば、糖タンパク質1モルあたり5~15モルのシアル酸、もしくは全N-グリカンの合計あたりのA1 N-グリカンの特定の比、例えば、10~17%(w/w)は、必須の品質属性を有すると考えることができる。前記糖タンパク質の生成を可能にする植物タンパク質加水分解産物は、選択可能であると考えられるであろう。
【0060】
一実施形態では、植物タンパク質加水分解産物は、潜在的な選択される(潜在的に選択可能な)植物タンパク質加水分解産物(例えば、ダイズ加水分解産物)を含む培地中で培養される細胞中で糖タンパク質を生成すること、糖タンパク質を精製すること、糖タンパク質をオリゴ糖フィンガープリンティングにかけること、及びA1 N-グリカンと関係があるピーク下の面積を計算し、その値を全N-グリカンのピーク下の全面積で割ることによって、A1 N-グリカンの相対量を決定すること、及び≧10%、≧10.5%、10~17%、10%、10.5%、11%、11.5%、12%、12.5%、13%、13.5%、14%、14.5%、15%、15.5%、16%、16.5%、17%、17.5%または18%のA1 N-グリカンの相対量を有する糖タンパク質の生成を可能にした植物タンパク質加水分解産物を選択することによって、選択される。
【0061】
細胞培養
本開示は、上記のダイズ加水分解産物の選択されたバッチを使用して、細胞培養培地中で目的のタンパク質を発現する細胞を培養するための方法を提供する。本開示は、細胞培養培地における、5.0mg/Lのオルニチンまたはそれ以下を含むダイズ加水分解産物の選択されたバッチの使用が、ロット間の変動性を低減し、タンパク質生成物の品質を向上させることを初めて発見した。本開示は、細胞培養培地における、5.0mg/Lのプトレシンまたはそれ以下を含むダイズ加水分解産物の選択されたバッチの使用が、ロット間の変動性を低減し、タンパク質生成物の品質を向上させることを初めて発見した。
【0062】
「細胞培養」または「培養」は、多細胞生物または組織の外側での細胞の増殖及び拡大を意味する。哺乳動物細胞の適切な培養条件は当技術分野で既知である。例えば、Animal cell culture:A Practical Approach,D.Rickwood,ed.,Oxford University Press,New York(1992)を参照されたい。哺乳動物細胞は、懸濁液で、または固体基材に接着しながら培養することができる。マイクロキャリアの有無を問わず、バッチ、フェドバッチ、連続的、半連続的または灌流モードで操作される、流動床バイオリアクター、中空糸バイオリアクター、ローラボトル、振盪フラスコまたは撹拌槽バイオリアクターが、哺乳類細胞培養に利用可能である。細胞培養培地または高濃度フィード培地を、培養中に、連続的に、または間隔を置いて、培養に加えることができる。例えば、培養は、1日あたり1回、隔日、3日ごとフィードされ得、またはモニターされている特定の培地成分の濃度が所望の範囲から外れた場合にフィードされ得る。
【0063】
本明細書で使用する場合、用語「細胞培養培地」、「培地」、「細胞培地」、「細胞培養培地」または「培養培地」は、細胞、例えば、動物または哺乳動物の細胞を増殖させるのに使用され、一般に、以下の少なくとも1つまたはそれ以上の成分を提供する、任意の栄養液を指す:エネルギー源(通常、グルコースなどの炭水化物の形態);すべての必須アミノ酸の1つまたは複数、及び一般に20種の基本アミノ酸、加えてシステイン;典型的には低濃度で必要とされるビタミン及び/または他の有機化合物;脂質または遊離脂肪酸;ならびに典型的には非常に低濃度で、通常マイクロモル範囲で必要とされる微量元素、例えば、無機化合物または天然に存在する元素。いくつかの実施形態では、細胞培養培地は、ダイズまたは他の植物タンパク質加水分解産物をさらなる成分と組み合わせることによって形成される。
【0064】
本明細書で使用する場合、「さらなる成分」は、限定されないが、水、エネルギー源、すべての必須アミノ酸の1つまたは複数、及び一般に20種の基本アミノ酸、加えてシステイン;典型的には低濃度で必要とされるビタミン及び/または他の有機化合物、脂質または遊離脂肪酸ならびに微量元素を含めた細胞培養培地成分のいずれか1つまたは複数を含む。
【0065】
具体的な実施形態では、細胞培養培地は、ある量の、ダイズ加水分解産物の選択されたバッチが補充される。ある種の実施形態では、細胞培養培地は、約0.5g/L~約25g/Lの選択されたダイズ加水分解産物が補充される。いくつかの実施形態では、細胞培養培地は、約0.5g/L、1g/L、1.5g/L、2g/L、2.5g/L、2g/L、2.5g/L、3g/L、3.5g/L、4g/L、4.5g/L、5g/L、5.5g/L、6g/L、6.5g/L、7g/L、7.5g/L、8g/L、8.5g/L、9g/L、9.5g/L、10g/L、10.5g/L、11g/L、11.5g/L、12g/L、12.5g/L、13g/L、13.5g/L、14g/L、14.5g/L、15g/L、15.5g/L、16g/L、16.5g/L、17g/L、17.5g/L、18g/L、18.5g/L、19g/L、19.5g/L、20g/L、20.5g/L、21g/L、21.5g/L、22g/L、22.5g/L、23g/L、23.5g/L、24g/L、24.5g/Lまたは約25g/Lのダイズ加水分解産物の選択されたバッチが補充される。
【0066】
一実施形態では、植物タンパク質加水分解産物を加えた後の細胞培養培地中のオルニチンまたはプトレシンの濃度は、≦5mg/L、0.6~3mg/L、0.01mg/L、0.02mg/L、0.03mg/L、0.04mg/L、0.05mg/L、0.06mg/L、0.07mg/L、0.08mg/L、0.09mg/L、0.010mg/L、0.015mg/L、0.02mg/L、0.025mg/L、0.03mg/L、0.035mg/L、0.04mg/L、0.045mg/L、0.05mg/L、0.055mg/L、0.06mg/L、0.065mg/L、0.07mg/L、0.075mg/L、0.08mg/L、0.085mg/L、0.09mg/L、0.095mg/L、0.1mg/L、0.15mg/L、0.2mg/L、0.25mg/L、0.3mg/L、0.35mg/L、0.4mg/L、0.45mg/L、0.5mg/L、0.55mg/L、0.6mg/L、0.65mg/L、0.7mg/L、0.75mg/L、0.8mg/L、0.85mg/L、0.9mg/L、0.95mg/L、1mg/L、1.5mg/L、2mg/L、2.5mg/L、3mg/L、3.5mg/L、4mg/L、4.5mg/Lまたは5mg/Lである。
【0067】
一実施形態では、培養される細胞は、生物治療用タンパク質を生成することができる細胞株の細胞である。タンパク質生物治療剤を生成するのに使用される細胞株の非限定例としては、特に、初代細胞、BSC細胞、HeLa細胞、HepG2細胞、LLC-MK細胞、CV-1細胞、COS細胞、VERO細胞、MDBK細胞、MDCK細胞、CRFK細胞、RAF細胞、RK細胞、TCMK-1細胞、LLCPK細胞、PK15細胞、LLC-RK細胞、MDOK細胞、BHK細胞、BHK-21細胞、CHO細胞、CHO-K1細胞、NS-1細胞、MRC-5細胞、WI-38細胞、BHK細胞、3T3細胞、293細胞、RK細胞、Per.C6細胞及びニワトリ胚細胞が挙げられる。一実施形態では、細胞株は、CHO細胞株または大規模タンパク質生成のために最適化されたいくつかの特定のCHO細胞変異体の1つもしくは複数、例えば、CHO-K1もしくはCHO-K1由来のEESYR(登録商標)(増強された発現及び安定性領域(enhanced expression and stability regions))細胞(米国特許第7,771,997号)である。
【0068】
一実施形態では、培養され、異種糖タンパク質を発現する細胞は、糖タンパク質または糖タンパク質のサブユニットをコードするポリヌクレオチドを持ち、これを発現する細胞(すなわち、前駆細胞)のクローン性増殖によって得られた細胞の集団であり、この場合、糖タンパク質は抗体のような複合マルチサブユニットタンパク質である。いくつかの実施形態では、クローン性増殖によって前駆細胞から得られるか前駆細胞に由来する細胞の集団の構成細胞の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%または約100%は、糖タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み、糖タンパク質を発現する。
【0069】
哺乳動物細胞、例えばCHO細胞は、小規模の細胞培養容器中で、例えば、約25mlの培地を有する125ml容器、約50~100mlの培地を有する250ml容器、約100~200mlの培地を有する500ml容器中で培養することができる。あるいは、培養は、例えば約300~1000mlの培地を有する1000ml容器、約500ml~3000mlの培地を有する3000ml容器、約2000ml~8000mlの培地を有する8000ml容器及び約4000ml~15000mlの培地を有する15000ml容器のような大規模でもよい。製造のための培養(すなわち、生成細胞培養)は、10,000Lの培地またはそれ以上を含むことができる。タンパク質治療剤の臨床上の製造などのための大規模細胞培養または「生成細胞培養」は、細胞が所望のタンパク質(複数可)を生成する間、典型的には、数日またはさらに数週にわたって維持される。この期間の間、培養に、培養の過程で消費される成分、例えば、栄養素及びアミノ酸を含む高濃度フィード培地を補充することができる。
【0070】
ある種の実施形態では、高濃度フィード培地が使用される。高濃度フィード培地は、任意の細胞培養培地配合物に基づき得る。そのような高濃度フィード培地は、本明細書に記載の細胞培養培地の成分の多くを、例えば、それらの通常の有用な量の約5×、6×、7×、8×、9×、10×、12×、14×、16×、20×、30×、50×、100×、200×、400×、600×、800×、またはさらに約1000×で含むことができる。高濃度フィード培地は、フェドバッチ培養方法で使用されることが多い。
【0071】
いくつかの実施形態では、細胞培養培地は、添加物、ポイントオブユース成分またはポイントオブユース化学物質としても知られる「ポイントオブユース添加物」が、細胞増殖またはタンパク質生成の過程で補充される。ポイントオブユース添加物は、増殖因子または他のタンパク質、緩衝液、エネルギー源、塩、アミノ酸、金属及びキレート剤のいずれか1つまたは複数を含む。他のタンパク質としては、トランスフェリン及びアルブミンが挙げられる。サイトカイン及びケモカインを含めた増殖因子は当技術分野で一般に既知であり、細胞増殖、またはある場合には細胞分化を刺激することが知られている。増殖因子は、通常、タンパク質(例えば、インスリン)、低分子ペプチド、またはステロイドホルモン、例えば、エストロゲン、DHEA、テストステロンなどである。ある場合には、増殖因子は、例えば、テトラヒドロ葉酸(THF)、メトトレキサートなどのような、細胞増殖またはタンパク質生成を促進する非天然化学物質でもよい。タンパク質及びペプチド増殖因子の非限定例としては、アンジオポエチン、骨形成タンパク質(BMP)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、上皮増殖因子(EGF)、エリスロポエチン(EPO)、維芽細胞増殖因子(FGF)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、増殖分化因子-9(GDF9)、肝細胞増殖因子(HGF)、ヘパトーム由来増殖因子(HDGF)、インスリン、インスリン様増殖因子(IGF)、遊走刺激因子、ミオスタチン(GDF-8)、神経成長因子(NGF)及び他のニューロトロフィン、血小板由来増殖因子(PDGF)、トロンボポエチン(TPO)、トランスフォーミング増殖因アルファ(TGF-α)、トランスフォーミング増殖因ベータ(TGF-β)、腫瘍壊死因子-アルファ(TNF-α)、血管内皮増殖因子(VEGF)、wntシグナリング経路アゴニスト、胎盤増殖因子(PlGF)、ウシ胎仔ソマトトロピン(FBS)、インターロイキン-1(IL-1)、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7などが挙げられる。一実施形態では、細胞培養培地は、ポイントオブユース添加増殖因子のインスリンが補充される。一実施形態では、培地中のインスリンの濃度、すなわち、添加後の細胞培養培地中のインスリンの量は、約0.1μM~10μMである。1種または複数のポイントオブユース添加物をいくつかの実施形態の培地配合物中に含めることもできる。
【0072】
緩衝液は一般に当技術分野で既知である。本発明は、任意の特定の緩衝液(複数可)に限定されず、いかなる当業者も、特定のタンパク質を生成する特定の細胞株とともに使用するための適切な緩衝液(複数可)を選択することができる。一実施形態では、ポイントオブユース添加緩衝液はNaHCO3/CO2系である。一実施形態では、ポイントオブユース添加緩衝液はNaHCO3を含む。別の実施形態では、緩衝液はHEPESである。
【0073】
細胞培養におけるポイントオブユース添加物として使用するためのエネルギー源は、当技術分野で周知である。限定はされないが、一実施形態では、ポイントオブユース添加エネルギー源はグルコースである。特定の細胞株及び生成されるタンパク質の特定の及び具体的な要求を考慮して、一実施形態では、約1~20mMの濃度までグルコースを培地中に加えることができる。
【0074】
キレート剤も同様に細胞培養及びタンパク質生成の分野で周知である。四ナトリウムEDTA無水物及びクエン酸塩は、当技術分野で使用される2つの一般的なキレート剤であるが、他のキレート剤を本発明の実施で用いてもよい。一実施形態では、ポイントオブユース添加キレート剤は四ナトリウムEDTA二水和物である。一実施形態では、ポイントオブユース添加キレート剤はクエン酸塩、例えばNa3C6H5O7である。
【0075】
一実施形態では、細胞培養は、補充される1種または複数のポイントオブユース添加アミノ酸、例えばグルタミンが添加され得る。他のポイントオブユース添加物としては、様々な金属塩、例えば、鉄、ニッケル、亜鉛及び銅の塩の1つまたは複数が挙げられる。一実施形態では、細胞培養培地は、硫酸銅、硫酸亜鉛、塩化第2鉄及び硫酸ニッケルのいずれか1つまたは複数が補充される。
【0076】
一実施形態では、培地は、フェドバッチ方法に従って、細胞培養の間に間隔を置いて補充される。フェドバッチ培養は一般に当技術分野で既知であり、最適化されたタンパク質生成に用いられる。例えば、Y.M.Huang et al.,Biotechnol Prog.(2010)26(5)pp.1400-1410を参照されたい。
【0077】
本開示の別の態様では、所望の濃度(すなわち、5.0mg/L以下、例えば、0.5mg/L~5.0mg/Lまたは0.5mg/L~2.0mg/L)のオルニチンまたはプトレシンを含むダイズ加水分解産物を含む培地中で培養される細胞は、5mg/Lを越える濃度のオルニチンまたはプトレシンを含むダイズ加水分解産物を含む培地中で培養される細胞と比べて、品質が向上した目的のタンパク質を生成する。ある種の実施形態では、タンパク質の品質の向上は、目的のタンパク質の1つまたは複数のアミノ酸におけるグリコシル化の有無、目的のタンパク質におけるグリカンの量、目的のタンパク質の1つまたは複数のグリコシル化部位におけるシアル酸の存在、またはこられの組み合わせによって、測定される。本明細書で使用する場合、「品質が増強した」、「品質が向上した」または「高品質の」タンパク質生成物は、より一貫した品質、例えば、生物治療用タンパク質生成ロットで観察される翻訳後修飾も指すことができる。一貫した品質は、例えば、反復した生成ラインの後に反復することのできる所望のグリコシル化プロファイルを有することを含む。一貫性は、品質に関して、ある程度の均一性及び規格化を指すが、反復した生成バッチは本質的に変動がない。
【0078】
ある種の実施形態では、タンパク質生成物(目的のタンパク質)は、抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、モノクローナル抗体、多特異性抗体、二重特異性抗体、抗原結合抗体断片、単鎖抗体、ダイアボディ、トリアボディまたはテトラボディ、Fab断片またはF(ab’)2断片、IgD抗体、IgE抗体、IgM抗体、IgG抗体、IgG1抗体、IgG2抗体、IgG3抗体またはIgG4抗体である。一実施形態では、抗体はIgG1抗体である。一実施形態では、抗体はIgG2抗体である。一実施形態では、抗体はIgG4抗体である。一実施形態では、抗体はキメラIgG2/IgG4抗体である。一実施形態では、抗体はキメラIgG2/IgG1抗体である。一実施形態では、抗体はキメラIgG2/IgG1/IgG4抗体である。
【0079】
いくつかの実施形態では、抗体は、抗プログラム細胞死1抗体(例えば、米国特許出願公開第US2015/0203579A1号に記載されているような抗PD1抗体)、抗プログラム細胞死リガンド-1(例えば、米国特許出願公開第US2015/0203580A1号に記載されているような抗PD-L1抗体)、抗Dll4抗体、抗アンジオポエチン-2抗体(例えば、米国特許第9,402,898号に記載されているような抗ANG2抗体)、抗アンジオポエチン様3抗体(例えば、米国特許第9,018,356号に記載されているような抗AngPtl3抗体)、抗血小板由来増殖因子受容体抗体(例えば、米国特許第9,265,827号に記載されているような抗PDGFR抗体)、抗Erb3抗体、抗プロラクチン受容体抗体(例えば、米国特許第9,302,015号に記載されているような抗PRLR抗体)、抗補体5抗体(例えば、米国特許出願公開第US2015/0313194A1号に記載されているような抗C5抗体)、抗TNF抗体、抗上皮増殖因子受容体抗体(例えば、米国特許第9,132,192号に記載されているような抗EGFR抗体または米国特許出願公開第US2015/0259423A1号に記載されているような抗EGFRvIII抗体)、抗プロタンパク質転換酵素スブチリシンケキシン-9抗体(例えば、米国特許第8,062,640号または米国特許出願公開第US2014/0044730A1号に記載されているような抗PCSK9抗体)、抗成長分化因子-8抗体(例えば、米国特許第8,871,209号または第9,260,515号に記載されているような、抗ミオスタチン抗体としても知られる抗GDF8抗体)、抗グルカゴン受容体(例えば、米国特許出願公開第US2015/0337045A1号または第US2016/0075778A1号に記載されているような、抗GCGR抗)、抗VEGF抗体、抗IL1R抗体、インターロイキン4受容体抗体(例えば、米国特許出願公開第US2014/0271681A1号または米国特許第8,735,095号もしくは第8,945,559号に記載されているような抗IL4R抗体)、抗インターロイキン6受容体抗体(例えば、米国特許第7,582,298号、第8,043,617号または第9,173,880号に記載されているような抗IL6R抗体)、抗IL1抗体、抗IL2抗体、抗IL3抗体、抗IL4抗体、抗IL5抗体、抗IL6抗体、抗IL7抗体、抗インターロイキン33(例えば、米国特許出願公開第US2014/0271658A1号または第US2014/0271642A1号に記載されているような抗IL33抗体)、抗呼吸系発疹ウイルス抗体(例えば、米国特許出願公開第US2014/0271653A1号に記載されているような抗RSV抗体)、抗表面抗原分類3(例えば、米国特許出願公開第US2014/0088295A1号及び第US20150266966A1号ならびに米国出願第62/222,605号に記載されているような抗CD3抗体)、抗表面抗原分類20(例えば、米国特許出願公開第US2014/0088295A1号及び第US20150266966A1号ならびに米国特許第7,879,984号に記載されているような抗CD20抗体)、抗CD19抗体、抗CD28抗体、抗表面抗原分類-48(例えば、米国特許第9,228,014号に記載されているような抗CD48抗体)、抗Fel d1抗体(例えば、米国特許第9,079,948号に記載されている)、抗中東呼吸器症候群ウイルス(例えば、米国特許出願公開第US2015/0337029A1号に記載されている抗MERS抗体)、抗エボラウイルス抗体(例えば、米国特許出願公開第US2016/0215040号に記載されている)、抗ジカウイルス抗体、抗リンパ球活性化遺伝子3抗体(例えば、抗LAG3抗体または抗CD223抗体)、抗神経成長因子抗体(例えば、米国特許出願公開第US2016/0017029号ならびに米国特許第8,309,088号及び第9,353,176号に記載されているような抗NGF抗体)ならびに抗アクチビンA抗体からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、二重特異性抗体は、抗CD3×抗CD20二重特異性抗体(米国特許出願公開第US2014/0088295A1号及び第US20150266966A1号に記載されている)、抗CD3×抗ムチン16二重特異性抗体(例えば、抗CD3×抗Muc16二重特異性抗体)及び抗CD3×抗前立腺特異的膜抗原二重特異性抗体(例えば、抗CD3×抗PSMA二重特異性抗体)からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、目的のタンパク質は、アリロクマブ、サリルマブ、ファシヌマブ、ネスバクマブ、デュピルマブ、トレボグルマブ、エビナクマブ及びリヌクマブ(rinucumab)からなる群から選択される。本開示全体にわたって言及されるすべての刊行物は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0080】
他の実施形態では、目的のタンパク質は、Fc部分及び別のドメインを含む組換えタンパク質(例えば、Fc-融合タンパク質)である。いくつかの実施形態では、Fc-融合タンパク質は、Fc部分に結合した受容体の1つまたは複数の細胞外ドメイン(複数可)を含む、受容体Fc-融合タンパク質である。いくつかの実施形態では、Fc部分は、IgGのヒンジ領域、それに続くCH2及びCH3ドメインを含む。いくつかの実施形態では、受容体Fc-融合タンパク質は、単一のリガンドまたは複数のリガンドのいずれかに結合する2つ以上の異なる受容体鎖を含む。例えば、Fc-融合タンパク質は、トラップタンパク質、例えば、IL-1トラップ(例えば、hIgG1のFcに融合したIL-1R1細胞外領域に融合したIL-1RAcPリガンド結合領域を含む、リロナセプ;参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第6,927,004号を参照されたい)、VEGFトラップ(例えば、hIgG1のFcに融合したVEGF受容体Flk1のIgドメイン3に融合したVEGF受容体Flt1のIgドメイン2を含む、アフリベルセプトもしくはziv-アフリベルセプト;米国特許第7,087,411号及び第7,279,159号を参照されたい。または、hIgG1のFcに融合したVEGF受容体Flk1のIgドメイン4に融合したVEGF受容体Flk1のIgドメイン3に融合したVEGF受容体Flt1のIgドメイン2を含む、コンバセプト;米国特許第8,216,575号を参照されたい)、あるいはTNFトラップ(例えば、hIgG1のFcに融合したTNF受容体を含む、エタネルセプト;米国特許第5,610,279号を参照されたい)などである。他の実施形態では、Fc-融合タンパク質は、Fc部分に結合した抗体の1種または複数の抗原結合ドメイン(複数可)、例えば、可変重鎖断片及び可変軽鎖断片の1つまたは複数を含む、ScFv-Fc-融合タンパク質である。
【0081】
タンパク質生成
目的のタンパク質は、当業者に既知の方法を使用して、宿主細胞によって発現させることができる。一般に、哺乳動物細胞における発現に適した任意の目的のタンパク質を本方法によって生成することができるが、糖タンパク質は、本方法から特に恩恵を受けるであろう。例えば、具体的な実施形態では、目的のタンパク質は抗体もしくはその抗原結合性断片、二重特異性抗体もしくはその断片、キメラ抗体もしくはその断片、ScFvもしくはその断片、Fcタグ化タンパク質(例えば、トラップタンパク質)もしくはその断片、増殖因子もしくはその断片、サイトカインもしくはその断片、または細胞表面レセプターの細胞外ドメインまたはその断片である。
【0082】
アスパラギン結合型(N結合型)グリカンを有する糖タンパク質は、真核細胞中に遍在している。これらのグリカンの生合成及びポリペプチドへのそれらの移行は、小胞体(ER)で起こる。N-グリカンの構造は、いくつかのグリコシダーゼ及びグリコシルトランスフェラーゼによって、ER及びゴルジ複合体でさらに修飾される。本方法で使用するタンパク質生成は、免疫原性エピトープ(「グリコトープ」)を排除するために、所望のN-グリカン構造の一貫性を向上させることを対象とする。グリカン結合型タンパク質の詳細な構造解析は、タンパク質の機能的特色と関連づけされ得る。タンパク質のグリコシル化を特性評価するそのような解析は、典型的には以下のいくつかのステップを含む:i)結合しているグリカンの酵素的または化学的遊離、ii)芳香族もしくは脂肪族アミンを用いる還元的アミノ化または完全メチル化による遊離したグリカンの誘導体化、iii)グリカンの解析。グリコシル化パターンを解析する多くの変形が当業者に既知である。糖タンパク質は、特定の量で様々な部位を占めるいくつかのタイプのグリコフォームを保有する場合があり、したがって、その複雑さによって、ある種の生成方法において再現することが困難になり得る。グリコフォームのタイプ及び量の一貫性は測定可能であり、治療用タンパク質生成についての望ましい結果に相当する。
【0083】
本開示は、特定の濃度のオルニチンまたはプトレシンを有するダイズ加水分解産物を含む培地中で目的のタンパク質を発現する細胞を培養することによって、バッチまたは流加培養において目的のタンパク質の多数のバッチを生成することが、生成されるタンパク質の品質を高め、バッチ間の一貫性を向上させることを示す。したがって、本開示の別の態様は、所定量のオルニチンまたはプトレシンを含むダイズ加水分解産物の別々のバッチを含む培地中で細胞を培養することによって生成された、複数のタンパク質調製物を提供する。ある種の実施形態では、細胞培養で使用するために選択されるダイズ加水分解産物の各バッチは、ダイズ1gあたり0.67mgのオルニチンまたはプトレシンまたはそれ以下、特に、ダイズ1gあたり0.0067mg~0.67mgのオルニチンもしくはプトレシン、またはダイズ1gあたり0.0067~0.27mgのオルニチンもしくはプトレシンの濃度を有する。
【0084】
他の実施形態では、ダイズ加水分解産物含有細胞培養培地中のオルニチンまたはプトレシンの濃度は、0.5mg/L~4.5mg/L、0.5mg/L~4.0mg/L、0.5mg/L~3.5mg/L、0.5mg/L~3.0mg/L、0.5mg/L~2.5mg/L、0.5mg/L~2.0mg/L、0.5mg/L~1.5mg/Lまたは0.5mg/L~1.0mg/Lの範囲にわたる。いくつかの実施形態では、ダイズ加水分解産物含有細胞培養培地中のオルニチンまたはプトレシンの濃度は、1.0mg/L~5.0mg/L、1.5mg/L~5.0mg/L、2.0mg/L~5.0mg/L、2.5mg/L~5.0mg/L、3.0mg/L~5.0mg/L、3.5mg/L~5.0mg/L、4.0mg/L~5.0mg/Lまたは4.5mg/L~5.0mg/Lの範囲にわたる。
【0085】
具体的な実施形態では、ダイズ加水分解産物を含有する細胞培養培地は、0.5mg/L、0.6mg/L、0.7mg/L、0.8mg/L、0.9mg/L、1.1mg/L、1.2mg/L、1.3mg/L、1.4mg/L、1.5mg/L、1.6mg/L、1.7mg/L、1.8mg/L、1.9mg/L、2.0mg/L、2.1mg/L、2.2mg/L、2.3mg/L、2.4mg/L、2.5mg/L、2.6mg/L、2.7mg/L、2.8mg/L、2.9mg/L、3.0mg/L、3.1mg/L、3.2mg/L、3.3mg/L、3.4mg/L、3.5mg/L、3.6mg/L、3.7mg/L、3.8mg/L、3.9mg/L、4.0mg/L、4.1mg/L、4.2mg/L、4.3mg/L、4.4mg/L、4.5mg/L、4.6mg/L、4.7mg/L、4.8mg/L、4.9mg/Lまたは5.0mg/Lの量のオルニチンまたはプトレシンを含む。
【0086】
他の実施形態では、ダイズ加水分解産物を含む培地のバッチ中のオルニチンまたはプトレシンの所望の濃度は、5.0mg/L以下である。さらに他の実施形態では、ダイズ加水分解産物を含む培地のバッチ中のオルニチンまたはプトレシンの所望の濃度は、2.0mg/L以下である。別の実施形態では、ダイズ加水分解産物を含む培地のバッチ中のオルニチンまたはプトレシンの所望の濃度は、1.8mg/L以下である。いくつかの実施形態では、ダイズを含む培地のバッチ中のオルニチンまたはプトレシンの所望の濃度は、0.5mg/L~5.0mg/Lである。さらに他の実施形態では、ダイズ加水分解産物を含む培地のバッチ中のオルニチンまたはプトレシンの所望の濃度は、0.5mg/L~2.0mg/Lの範囲内に入る。さらに別の実施形態では、ダイズ加水分解産物を含む培地のバッチ中のオルニチンまたはプトレシンの所望の濃度は、0.5mg/L~1.8mg/Lの範囲内に入る。
【0087】
ある種の実施形態では、複数のタンパク質調製物の各タンパク質調製物における、生成された目的のタンパク質の品質またはある種のグリカンの量は、5mg/Lを越える濃度のオルニチンまたはプトレシンを含むダイズ加水分解産物が補充された培地中で細胞を培養することを含む方法によって生成されたタンパク質調製物と比較して、向上される。ある種の実施形態では、各タンパク質調製物が示すタンパク質の品質の向上は、目的のタンパク質の1つまたは複数のアミノ酸におけるグリコシル化の有無、目的のタンパク質におけるグリカンの量、目的のタンパク質の1つまたは複数のグリコシル化部位におけるシアル酸の存在、またはこられの組み合わせによって、測定される。一実施形態では、タンパク質の品質は、培養において生成されるタンパク質の集団の個々のメンバーのグリコシル化状態に対応する。ある種の実施形態では、品質は、5.0mg/L以下のオルニチンまたはプトレシン、0.5mg/L~5.0mg/Lのオルニチンまたはプトレシン、または0.5mg/L~2.0mg/Lのオルニチンまたはプトレシンの濃度を有するダイズ加水分解産物が補充された培地において細胞を培養することによる培養において生成されるタンパク質の集団の個々の糖タンパク質上に存在するグリコシル化置換を調節することによって、向上される。
【0088】
一実施形態では、タンパク質の品質は、複数のタンパク質調製物由来のタンパク質の各バッチ中の少なくとも1つのグリカン分子の存在量を、タンパク質の別のバッチ中の同じグリカン分子(複数可)の存在量と比較することによって、決定される。本明細書で使用する場合、用語「存在量」は、特定の生成ロットにおける、特定のグリカン分子を有するタンパク質のパーセンテージ、または生成ロット中のすべてのタイプのグリカン分子の量に対する、特定のグリカン分子を有するタンパク質の量を指す。いくつかの実施形態では、グリカン分子は、A1、A1F、A2、A2F、Man5、NA2、NA2F、NA2G1、NA2G1F、NGA2及びNGA2FIからなる群から選択される。具体的な実施形態では、グリカン分子は、A1(例えば、
図2のピーク11)である。
【0089】
本開示の細胞培養方法によって生成される目的のタンパク質は、好ましい品質特性を示す。タンパク質の品質は、例えば、当業者に周知の方法、例えば、弱陽イオン交換クロマトグラフィー、キャピラリー等電点電気泳動、サイズ排除クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ELISA及び/またはウエスタンブロット解析を使用して、測定することができる。いくつかの実施形態では、タンパク質の品質は、マススペクトロメトリー、例えばキャピラリー電気泳動マススペクトロメトリー(CE-MS)によって、測定される。具体的な実施形態では、タンパク質の品質は、複数のタンパク質調製物由来のタンパク質の各バッチのマススペクトロメトリーの読み出し情報を比較することによって、決定される。
【0090】
本明細書において、表2~4に例示されるように、例示的生成ロットの蛍光検出をともなう高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、0.5mg/L~5.0mg/Lのオルニチンまたはプトレシンの濃度を有するダイズ加水分解産物を含む培地中で培養された細胞によって生成された目的のタンパク質(糖タンパク質)は、より一貫したグリカン発現及びグリコシル化パターンを有することを示す。
【0091】
オリゴ糖プロファイリング
糖タンパク質上の特定のN結合型糖鎖の程度及び分布は、オリゴ糖プロファイリングによって確認することができる。一実施形態では、糖タンパク質はペプチド:N-グリコシダーゼF(PNGase F)によって脱グリコシル化されて、アスパラギン側鎖からN結合型オリゴ糖が切断され、除去される。次いで、オリゴ糖が蛍光試薬、例えばアントラニル酸で誘導体化される。次いで、糖鎖が順相陰イオン交換HPLCによって分離され、蛍光検出器で検出され、HPLCクロマトグラムが生成される。
【0092】
別の実施形態では、全体的な炭水化物特性評価解析の一部として、還元されアルキル化された糖タンパク質のトリプシン消化に続いて、個々の糖ポリペプチドが単離される。個々のトリプシン性糖ポリペプチドは、必要に応じて、分解能を高めるためのその後のC18カラムをともなった、逆相HPLCによって分離される。オリゴ糖は、PNGase F消化によって、分離された糖ポリペプチドのそれぞれから遊離され、アントラニル酸で誘導体化され、蛍光HPLCによって解析され、糖タンパク質の部位特異的なオリゴ糖プロファイルが得られる。糖タンパク質がリロナセプト(配列番号1)である一実施形態では、N37、N87、N91、N98、場合により、N176、N189、N279、N418、N511、N551、N567、N581、N615及びN730のアスパラギン残基がグリコシル化される。一実施形態では、リロナセプトの残基N37、N98、N418及びN511(残基の位置は配列番号1に対応する)のいずれか1つまたは複数が、A1オリゴ糖を含む。糖タンパク質がアフリベルセプト(配列番号2)である一実施形態では、N36、N68、N123、N196及びN282のアスパラギン残基がグリコシル化される。一実施形態では、アフリベルセプトの残基N123及びN196(残基の位置は配列番号2対応する)のいずれか1つまたは両方がA1オリゴ糖を含む。
【0093】
別の実施形態では、糖タンパク質からのオリゴ糖プールが、PNGase Fによるタンパク質の脱グリコシル化、それに続くアントラニル酸誘導体化、その後の固相抽出(SPE)によって、生成される。次いで、マトリックスとして2,4,6-トリヒドロキシアセトフェノン(THAP)を用いて、ネガティブリニアモードでMALDI-TOFを使用して、オリゴ糖の質量が測定される。
【0094】
各観察された質量は、組換えタンパク質において一般に観察されるN結合型グリカンの質量に基づいて、ユニークなオリゴ糖構造に割り当てられる。すべてのピークの予想される質量割り当てを表1に概説する。予想される質量は、アントラニル酸残基の質量を加えた提案されるN結合型糖鎖構造に基づいて計算された平均質量である。単糖組成も提案されるN結合型糖鎖構造に基づいて列挙する。
【0095】
別の実施形態では、キャピラリー電気泳動を使用する定量的オリゴ糖フィンガープリントアッセイを使用して、対象の糖タンパク質のN-グリカン(オリゴ糖)構造を特性評価する。糖タンパク質は変性させられ、次いで、PNGase Fで処理することによって脱グリコシル化される。遊離したオリゴ糖は、次いで、タンパク質を除去した後の沈殿によって単離される。単離されたオリゴ糖プールは、フルオロフォア8-アミノピレン1,3,6-トリスルホネート(APTS)で標識される。次いで、標識されたオリゴ糖はキャピラリー電気泳動によって分離され、488nmの励起波長及び520nmの発光波長を使用するレーザー誘起蛍光検出器でモニターされる。
【0096】
アフリベルセプト糖タンパク質について
図2に示すように、定量化可能なすべてのピーク番号付けされて(この実施例では合計で21ピーク)、電気泳動図が生成される。オリゴ糖フィンガープリントに対する完全な統合ピーク面積(全ピーク面積)が決定される。各オリゴ糖の相対量は、その特定のオリゴ糖に対するピーク面積(例えば、A1ピーク面積)を全ピーク面積で割ることによって、決定することができる。
【0097】
いくつかの実施形態では、対象の糖タンパク質の品質は、シアリル化(糖タンパク質あたりのシアル酸残基の量)またはフコシル化(糖タンパク質あたりのフコース残基の量)のレベルを決定することによって、評価される。一実施形態では、糖タンパク質上のシアル酸の総数は、定量的HPLCアッセイを使用して決定される。このアッセイでは、シアル酸は、穏やかな酸加水分解を使用して糖タンパク質から遊離され、次いで、o-フェニレンジアミンで誘導体化され、HPLCによって分離され、UVまたは蛍光検出器のいずれかで検出される。シアル酸の定量化は、例えばシアリルラクトースを使用する検量線と比較して、評価され得る。シアル酸含量は、遊離したシアル酸のモル及び反応で使用された糖タンパク質のモルから計算される。
【0098】
一実施形態では、リロナセプト糖タンパク質のシアル酸含量は、1モルの糖タンパク質あたり約30~70モルシアル酸(mol/mol)、約35~65mol/mol、30mol/mol、31mol/mol、32mol/mol、33mol/mol、34mol/mol、35mol/mol、36mol/mol、37mol/mol、38mol/mol、39mol/mol、40mol/mol、41mol/mol、42mol/mol、43mol/mol、44mol/mol、45mol/mol、46mol/mol、47mol/mol、48mol/mol、49mol/mol、50mol/mol、51mol/mol、52mol/mol、53mol/mol、54mol/mol、55mol/mol、56mol/mol、57mol/mol、58mol/mol、59mol/mol、60mol/mol、61mol/mol、62mol/mol、63mol/mol、64mol/mol、65mol/mol、66mol/mol、67mol/mol、68mol/mol、69mol/molまたは70mol/molである。
【0099】
一実施形態では、アフリベルセプト糖タンパク質のシアル酸含量は、シアル酸1モルの糖タンパク質あたり約5~15モル(mol/mol)、約8~12mol/mol、4mol/mol、5mol/mol、6mol/mol、7mol/mol、8mol/mol、9mol/mol、10mol/mol、11mol/mol、12mol/mol、13mol/mol、14mol/mol、15mol/mol、16mol/mol、17mol/mol、18mol/mol、19mol/molまたは20mol/molである。
【0100】
一実施形態では、オリゴ糖プロファイリングを用いて、糖タンパク質上のN結合型糖鎖のシアリル化の程度及び分布が決定される。糖タンパク質は、PNGase Fで脱グリコシル化され、次いで蛍光試薬、すなわちアントラニル酸で誘導体化される。次いで、オリゴ糖は、順相陰イオン交換HPLCによって分離され、蛍光検出器で検出されて、オリゴ糖プロファイルのHPLCクロマトグラムが生成される。糖タンパク質に対するZ数(これは、平均シアリル化度を評価する)は、以下の式から計算される:
【0101】
(OS A*O)+(ISA*111-(2SA*2)+(3SA*3)+...(nSA*n)1/(OSA+15A+2SA+35A+...n5A)
【0102】
Z数を決定するために、オリゴ糖プロファイルからの各ピークの面積が統合される。全シアル酸は、0を乗じた、0シアル酸/鎖ピーク、1を乗じた、1シアル酸/鎖ピーク、2を乗じた、2シアル酸/鎖ピーク、及び3を乗じた3シアル酸/鎖ピークなどの面積の合計として計算される。糖鎖の総数は、すべてのピークの面積の合計として生成される。Z数は、全糖鎖面積で割った全シアル酸面積である。
【0103】
一実施形態では、リロナセプト糖タンパク質のシアル酸のZ数は、約1.3~1.6、1.4~1.5、1.41~1.48、1.3、1.31、1.32、1.33、1.34、1.35、1.36、1.37、1.38、1.39、1.4、1.41、1.42、1.43、1.44、1.45、1.46、1.47、1.48、1.49、1.5、1.51、1.52、1.53、1.54、1.55、1.56、1.57、1.58、1.59または1.60である。
【0104】
一実施形態では、アフリベルセプト糖タンパク質のシアル酸のZ数は、約0.5~2、1~1.5、1~1.2、0.5、0.51、0.52、0.53、0.54、0.55、0.56、0.57、0.58、0.59、0.6、0.61、0.62、0.63、0.64、0.65、0.66、0.67、0.68、0.69、0.7、0.71、0.72、0.73、0.74、0.75、0.76、0.77、0.78、0.79、0.8、0.81、0.82、0.83、0.84、0.86、0.87、0.88、0.89、0.9、0.91、0.92、0.93、0.94、0.95、0.96、0.97、0.98、0.99、1、1.01、1.02、1.03、1.04、1.05、1.06、1.07、1.08、1.09、1.1、1.11、1.12、1.13、1.14、1.15、1.16、1.17、1.18、1.19、1.2、1.21、1.22、1.23、1.24、1.25、1.26.、1.27、1.28、1.29または1.3である。
【実施例】
【0105】
以下の実施例は、本明細書に記載の方法及び組成物の作製及び使用の方法を当業者に提供するために述べられ、本発明者らが自身の発明であると見なすものの範囲を限定することを意図しない。使用される数(例えば、量、温度など)について正確性を確実にするように努力したが、いくらかの実験誤差及び偏差が考慮されるべきである。別段指示がない限り、部は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏度であり、圧力は大気圧または大気圧付近である。
【0106】
実施例1:アミノ酸濃度を決定するためのダイズ加水分解産物のスクリーニング
ダイズ加水分解産物試料を秤量し、その20グラム部を1Lの水に溶解して、20g/Lの出発濃度にした。次いで、得られたダイズ加水分解産物溶液をさらに水に希釈して、細胞培養で使用するための所望の濃度にし、得られたダイズ加水分解産物溶液の分子組成を、クロマトグラフィーを使用することによって決定した。
【0107】
ダイズ加水分解産物試料中のアミノ酸の濃度を、ポストカラムニンヒドリン検出とともに、イオン交換カラムによるクロマトグラフィーによって測定した。例えば、Moore and Stein.J.Biol.Chem.(1954)Vol.211 pp.907-913を参照されたい。HPLCカラムから溶出し、標準と比較した場合に、個々のピーク(アミノ酸)の高感度の分離及び分解能を可能にするために、ダイズ加水分解産物試料を希釈した。
図1A及び1Bに示すクロマトグラムの各ピーク面積を標準と比べて、各溶出液の濃度を決定した。
【0108】
ダイズ加水分解産物の粉末のバッチが、ダイズ1グラムあたり0.67ミリグラム未満のオルニチンまたはプトレシンを含むかどうかを決定するために、各代表試料のクロマトグラムを標準と比較する。例えば、
図1Aは、保持時間89.02でオルニチンを含む溶出液をともなうダイズ加水分解産物のバッチを示し、これは、標準と比べた場合に、オルニチンのダイズ1gあたり1.57mgオルニチンと等しいピーク面積を明らかにする。
図1Bは、ダイズ1gあたり0.67mg未満のオルニチンのオルニチン濃度を有するダイズ加水分解産物のバッチを図示する。ロット間でより一貫したタンパク質グリコシル化を有する生物治療用タンパク質を生成するために、ダイズ1gあたり0.067から0.67mgのオルニチンを有するダイズ加水分解産物のバッチを、細胞培養方法で使用するために選択した。しかし、タンパク質生成に対するダイズ加水分解産物のオルニチン濃度の影響を決定するために、以下に記載のように、ダイズ1gあたり0.67mg未満のオルニチンを越える濃度のオルニチンを含むダイズ加水分解産物バッチをさらなる実験で用いた。
【0109】
実施例2:目的のタンパク質の発現及びグリコシル化プロファイル
生成されるタンパク質の品質にどのアミノ酸成分が影響を及ぼすかを決定するために、トラップタンパク質(受容体-Fc融合タンパク質、VEGF-トラップ)を発現するCHO細胞を、様々な量のオルニチン、プトレシン及びシトルリンまたはこれらの組み合わせを含むダイズ加水分解産物を含む独自開発の培地中で培養した。表2は、シトルリン濃度と関係なく、5.0mg/L未満の濃度のオルニチンを含むダイズ加水分解産物が補充された培地におけるCHO細胞の培養の結果として生成されたタンパク質ロットについて、重要なN-グリカンに対する曲線下面積の増大として示されるように、加水分解産物中のオルニチンのレベルがタンパク質生成ロットの品質と負に相関することを示す。
【0110】
表2に示し、
図3に描写するように、2.0mg/L以下のオルニチン濃度を有するダイズ加水分解産物を含む培地中で培養された細胞によって生成されたVEGF-トラップタンパク質生成物のロットは、5.0mg/Lを超えるオルニチン、シトルリンまたはプトレシンを含む培地中で培養された細胞と比較して、より高品質のタンパク質生成物を生成する。
【表2】
【0111】
オルニチンがタンパク質グリコシル化プロファイルに対して影響があったかどうかを決定するために、HPLC及び蛍光アントラニル酸(AA)タグのための周知の方法(Anumula,and Dhume,Glycobiology(1998)8(7)pp.685-694)に基づくクロマトグラフィーを使用して、糖タンパク質の各ロットについて詳細なグリカン解析を行った。表3に示すように、ダイズ1gあたり0.67mg以下のオルニチンを含むダイズ加水分解産物を含む培地における細胞の培養は、ロット間でより一貫したタンパク質生成をもたらす。より具体的には、選択されたダイズ加水分解産物を含む培地中で培養された生成ロットの約90%が、FDA生成基準を満たす。これに対して、5mg/Lを超えるオルニチンを有するダイズ加水分解産物を含む培地で培養された生成ロットの57%しか、FDA生成基準を満たさなかった(特定のN-グリカンピークに対する曲線下面積)。表3に示すように、ダイズ1gあたり0.67mgのオルニチンまたはそれ以下のオルニチン濃度を有するダイズ加水分解産物を含む培地中で培養される細胞によって生成されたVEGF-トラップタンパク質生成物のロットは、生成物の品質の高まり、及びロット間でより一貫した品質を示す。
【表3】
【0112】
例示的VEGF-トラップタンパク質についての、タンパク質の治療的に許容されるバッチに相当する参照標準とも、各生成ロットを(グリカンプロファイルに関して)比較した。0.5mg/Lから2.0mg/Lの間のオルニチンの終濃度をもたらすダイズ加水分解産物が補充された培地中で培養される細胞から生成されたタンパク質ロットについて、代表的なグリカン解析を表4に示す。参照と比較して、各生成されたトラップタンパク質は、許容範囲内にピークを有する一貫したグリカンプロファイルを含む(解析したロットの75%)。これに対して、5.0mg/Lを超えるオルニチンを含むダイズ加水分解産物が補充された培地中で培養される細胞によって生成された各ロットは、FDA認容基準を満たすことができなかった。表4に示すように、0.5mg/L~2.0mg/L以下のオルニチン濃度を有するダイズ加水分解産物を含む培地中で培養された細胞によって生成されたタンパク質生成ロットは、生成物許容基準を下回るA1 N-グリカンレベルによって示されるように、5.0mg/Lを越えるオルニチン濃度を有するより多くのダイズ加水分解産物を含む培地中で培養された細胞よりも高品質のロットを生成する。
【表4】
【0113】
図4は、A1 N-グリカンレベルによって示されるように、ダイズ加水分解産物中のオルニチンのレベルと糖タンパク質(アフリベルセプト)の品質の間の強い負の相関を示す。
【0114】
実施例3:糖タンパク質生成力価
16個のダイズ加水分解産物ロットを、リロナセプトのCHO細胞生成のメタボロミクスに影響を及ぼすそれらの能力について試験した。およそ426個のダイズ加水分解産物分析物を測定し、最終的な糖タンパク質力価及びラクテート代謝と比較した。
図5は、ダイズ加水分解産物分析物と最大ラクテート及び最終的な糖タンパク質力価との間の相関のローディングプロットを示す。ラクテート及び糖タンパク質力価の決定は、ダイズ加水分解産物中のオルニチンの負の相関を示す。
【0115】
実施例4:スパイキング研究によるマーカー確認
図6A及び6Bは、それぞれ細胞増殖及びグリコシル化に対するオルニチン及びプトレシンの影響を実証するためにオルニチンまたはプトレシンのいずれかがスパイクされた、対照培地及びフィード条件の下での、CHO細胞培養を示す。表6Bは、特に著しいピーク11における影響を強調表示する。
【0116】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明してきたが、本発明は正確な実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲で定義される本発明の範囲または趣旨を逸脱することなく、当業者が、その中で様々な変更及び修飾を行うことができることを理解されたい。
【配列表】