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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】切削工具の管理システム
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/09 20060101AFI20240723BHJP
   B23Q 17/00 20060101ALI20240723BHJP
   B23Q 17/24 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
B23Q17/09 B
B23Q17/00 D
B23Q17/00 F
B23Q17/24 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023070195
(22)【出願日】2023-04-21
【審査請求日】2023-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100165995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 寿人
(72)【発明者】
【氏名】手塚 亮
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 太輔
【審査官】荻野 豪治
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-205826(JP,A)
【文献】特開2020-032475(JP,A)
【文献】特開2021-070114(JP,A)
【文献】特開2023-009980(JP,A)
【文献】特開2019-082836(JP,A)
【文献】特開2002-079438(JP,A)
【文献】国際公開第2021/157518(WO,A1)
【文献】特開2011-136347(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 3/155
B23Q 17/00
B23Q 17/09
B23Q 17/24
G05B 19/4065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の切削工具の寿命を管理する切削工具の管理システムにおいて、
工具に取り付けるインサートの座面又は工具のシャンク部の模様、傷又は加工痕からなるテクスチャを撮像する個体識別カメラと、
前記インサート又は前記工具の刃部を撮像する刃部状態確認カメラと、
前記個体識別カメラで撮像した前記インサートの前記座面又は前記シャンク部の模様、傷又は加工痕からなるテクスチャの画像の特徴と工具IDとを関連付けて記憶する個体識別データベースと、
前記個体識別データベースに記憶された工具IDごとに前記刃部状態確認カメラで撮像した前記インサート又は前記工具の刃部の画像から得られた摩耗実績データが記憶された摩耗実績データベースと、
前記摩耗実績データから各工具の余寿命を推定する制御装置と、
を備えることを特徴とする切削工具の管理システム。
【請求項2】
前記個体識別データベースは、複数の刃部を選択的に使用可能なインサートの個体識別情報として、前記制御装置は、前記座面の画像を前記刃部の数に応じて分割し、前記刃部ごと個体識別情報を記憶する、請求項1に記載の切削工具の管理システム。
【請求項3】
被削材及び/又は加工種別ごとに、余寿命推定条件である寿命曲線を記憶する余寿命推定データベースをさらに備え、
前記切削工具は、生産計画に基づいて、複数工程の切削加工に用いられ前記制御装置は、前記余寿命推定データベースに記憶された被削材及び/又は前記加工種別ごとの余寿命推定条件を生産計画に基づいて組合せ、複数工程使用後の切削工具の余寿命を推定する、請求項1に記載の切削工具の管理システム。
【請求項4】
切削工具の刃部を撮像する切れ刃位置識別カメラと、前記個体識別カメラで撮像した前記インサートの前記座面又は前記シャンク部の画像の特徴に関連付けられた工具ID、及び前記切れ刃位置識別カメラで撮像した前記工具の刃部の画像を画面に表示する表示装置と、をさらに備える、請求項1に記載の切削工具の管理システム。
【請求項5】
工具種別と被削材又は部品との組み合わせに応じた寿命曲線を記憶する余寿命推定データベースをさらに備える、請求項1に記載の切削工具の管理システム。
【請求項6】
前記切削工具は、複数のインサートを取り付けて1つの工具として使用され、どの位置にどのインサートを取り付けたかを記憶したツーリングシートと、前記ツーリングシートにおいて交換すべきインサートの位置を明示してオペレータに知らせるモニタと、をさらに備える、請求項1に記載の切削工具の管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具の管理システムに関し、特に、工具表面に固体識別子としてのマーキングを予めすることなく、切削工具の摩耗量から切れ刃ごとに余寿命を推定し得る切削工具の管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
切削工具のインサートとしては、例えば90°ごとの回転対称な形状を有するインサートが知られている(特許文献1)。特許文献1のインサートは、その主面の取付孔の周辺に、インサートを識別するための工具IDをコード化した2次元コードを有し、この2次元コードがインサートの個体識別子として機能している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-69569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のようにインサートの主面に2次元コードを形成するには特別な装置が必要である。また、インサートの主面は、ワーク(被削材)を切削した際にその切りくずと接触することがあるため、インサートの個体識別子としての二次元コードが摩耗等の損傷により識別できなくなるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、刃部付近に2次元コードを形成する特別な装置を必要とせず、また工具表面に固体識別子としてのマーキングが予め施された特殊な工具を使用しなくても、切削工具の摩耗量から切れ刃ごとに余寿命を推定することができ、ひいては工具をその寿命に至るまで余すことなく使用できるように管理する、切削工具の管理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る切削工具の管理システムは、複数の切削工具の寿命を管理する切削工具の管理システムにおいて、
工具に取り付けるインサートの座面又は工具のシャンク部を撮像する個体識別カメラと、
前記インサート又は前記工具の刃部を撮像する刃部状態確認カメラと、
前記個体識別カメラで撮像した前記インサートの前記座面又は前記シャンク部の画像の特徴と工具IDとを関連付けて記憶する個体識別データベースと、
前記個体識別データベースに記憶された工具IDごとに前記刃部状態確認カメラで撮像した前記インサート又は前記工具の刃部の画像から得られた摩耗実績データが記憶された摩耗実績データベースと、
前記摩耗実績データから各工具の余寿命を推定する制御装置と、
を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る切削工具の管理システムでは、(工具の一部である)インサート又は工具そのもの(例えばエンドミル)の刃部を撮像する刃部状態確認カメラの他に、特許文献1に開示された2次元データを形成する特別な装置に代わり、工具に取り付けるインサートの座面又は工具のシャンク部を撮像する個体識別カメラを含む。この個体識別カメラは、インサートの座面等にあるその個体特有の微細な模様、傷、加工痕などのテクスチャを撮像し、切削工具を識別する。
【0008】
このテクスチャはインサートの座面や工具のシャンク部に購入時からもともと存在するものである。インサートの座面や工具のシャンク部は、ワーク(被削材)を切削した際にその切りくずと接触することがないため、上記テクスチャは切削中に工具の個体識別子として損傷により識別できなくなるということはない。そのため、本発明によれば、2次元データを形成する特別な装置を不要とし、かつ、工具表面に固体識別子としてのマーキングが予め施された特殊な工具を使用しなくても、切削工具の摩耗量から切れ刃ごとに余寿命を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施形態に係る切削工具の管理システムの全体を示すブロック図である。
図2図2は、図1に示す識別確認装置10内における、2種類のカメラ12、14及び刃部(又は刃具)の設置例を示す模式図である。
図3図3は、図2に示すインサートIを取り付けるカッタボディ(図3(a))と、図2に示すインサートI全体についての個体識別を行った結果得られた情報(図3(b))と、インサートIを切れ刃ごとに分解した部分についての個体識別を行った結果得られた情報(図3(c))と、を示す。
図4図4は、切れ刃一体型の切削工具であるエンドミル(図4(a))と、図2に示す識別確認装置10を用いて上記エンドミルの個体識別を行った結果得られた情報(図4(b))と、を示す。
図5図5は、図1に示す個体識別データベース23の一例を示す表である。
図6図6は、図1に示す摩耗実績データベース24の一例を示す表である。
図7図7は、図1に示す余寿命推定データベース25の一例を示す表である。
図8図8は、図7のエンドミル1を使用することを前提に、3種類の部品a、b、cを所定数連続して切削加工する生産計画に基づき、当該切削加工を行った後のエンドミル1の余寿命を推定する一連の手順を示す図である。
図9図9は、図1のデータ管理装置20に含まれる制御装置21によって好適なエンドミルを選定する一連の手順を示す図である。
図10図10は、図1に示す摩耗推定データベース26の一例を示す表である。
図11図11は、図8に示す3つの工程からなる生産計画に基づき切削加工をした場合の、各種の部品の加工時における閾値の設定と、この閾値の範囲内である場合及び閾値を超えた場合のエンドミル1の刃部状態とを示す図である。
図12図12は、工作機械の一例を示す側面図である。
図13図13は、複数のインサートを取り付けるカッタボディ(図13(a))と、このカッタボディのどの位置にどのインサートを取り付けたのかを記録した表、即ちツーリングシート(図13(b))と、を示す図である。
図14図14は、工場の工具室等に設置して使用する機外設置型の工具観察装置の一例を示す模式図である。
図15図15は、工場の工具室等に設置して使用する機外設置型の工具観察装置の一例を示す模式図である。
図16図16は、工具マガジン内設置型の工具観察装置の一例を示す模式図である。
図17図17は、工具マガジン内設置型の工具観察装置の一例を示す模式図である。
図18図18は、本発明の実施形態に係る切削工具の管理システムの運用手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明に係る切削工具の管理システムの実施形態を、図面に基づいて詳細に説明する。なお、これらの実施形態は、本発明を限定するものではない。また、当該実施形態の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。さらに、当該実施形態に含まれる各種形態は、当業者が自明の範囲内で任意に組み合わせることができる。
【0011】
以下の説明においては、切削工具として、切れ刃交換型の切削工具(例えばカッタボディに複数のインサートが取り付けられた切削工具)と切れ刃一体型の切削工具(例えばエンドミル)との双方について説明するが、いずれの型の切削工具についても、「切れ刃」とは被削材を切削する刃そのものを意味し、「刃部」とは上記切れ刃とその周辺領域を意味し、「刃具」とは上記刃部を含むとともにツーリングインターフェースに取り付ける対象となる部材を意味する。
【0012】
<切削工具の管理システム>
図1は、本発明の実施形態に係る切削工具の管理システムの全体を示すブロック図である。同図に示す切削工具の管理システム1は、識別確認装置10と、データ管理装置20と、工具ストッカ(工場内)30と、ツーリング装置40と、工作機械50とを含み、これらの構成要素が実線で結ばれているように有線又は無線等により関連付けられている。なお、同図においては、管理対象としての工具の部分又は工具や、管理条件としての生産計画についても示されている。
【0013】
[識別確認装置10]
識別確認装置10は、図1に示すように、個体識別カメラ12と、切れ刃位置識別カメラ14と、表示装置16(例えばモニター)と、工具種別入力部18(例えばバーコードリーダによって入力を行う部分)と、を含む。
【0014】
図2は、図1に示す識別確認装置10内における、2種類のカメラ12、14及び刃部(又は刃具)の設置例を示す模式図であり、特に切れ刃交換型の切削工具を構成するインサートIについての個体識別と切れ刃位置の識別とを行う例を示す。
【0015】
図2に示すように、インサートIの座面(インサートIがカッタボディ(図示せず)に取り付けられる際にカッタボディと接触する面)がガラス板GPに接触するように、ガラス板GP上にインサートIを配置する。この状態で、個体識別カメラ12によってインサートIの座面Iaを撮像して、座面Iaの画像(以下、「個体識別用画像」と称する場合がある)を得るとともに、切れ刃位置識別カメラ14によって座面Iaとは反対側の主面Ibを撮像して、主面Ibの画像(以下、切れ刃位置識別用画像」と称する場合がある)を得る。
【0016】
個体識別用画像は、インサートIの座面Iaにあるその個体特有の微細な模様や傷などのテクスチャを識別するために用いられ、当該テクスチャに基づき識別された個体ごと(この場合インサートIごと)に各工具IDが付される。
【0017】
これに対し、切れ刃位置識別用画像は、表示装置16に工具IDと共に表示され、対応する工具IDの切れ刃がどの位置の切れ刃なのかオペレータが目視で確認するために用いられる。
【0018】
図3は、図2に示すインサートIを取り付けるカッタボディ(図3(a))と、図2に示すインサートI全体についての個体識別を行った結果得られた情報(図3(b))と、インサートIを切れ刃ごとに分解した部分についての個体識別を行った結果得られた情報(図3(c))と、を示す。
【0019】
図3(b)に示される情報には、個体識別カメラ12によって撮像された個体識別用画像に基づいて付された工具ID(図3(b)の文字列からなる個体識別情報)と、切れ刃位置識別カメラ14によって撮像された切れ刃位置識別用画像そのもの(図3(b)の切れ刃位置識別情報)と、が含まれる。
【0020】
このように、個体識別情報と切れ刃位置識別情報とを紐づけることで、各インサートIの異なる2つの情報を一元管理することができるが、これらの情報は、図3(c)に示すように刃部ごとに管理することもできる。
【0021】
即ち、図3(c)に示すように、インサートIの主面Ib(切れ刃位置識別用画像)を刃部ごとに分割し(本例では図3(b)を上下に分割し)、それぞれに固体識別用画像に基づく工具IDを付して、紐づけられた個体識別情報と切れ刃位置識別情報とを一元管理することができる。
【0022】
このようにして紐づけられた2種類の情報(個体識別情報及び切れ刃位置識別情報)は、図2に示すように表示装置16に表示される。図2の表示装置16には、1枚のインサートIの特に下半分の刃部が含まれる部分(図3(c)の下側の部分)についての情報が表示されている。
【0023】
また、このようにして紐づけられた2種類の情報(個体識別情報及び切れ刃位置識別情報)は、図2に示すように工具種別入力部18から入力された、切削工具の型式名等の工具種別情報とともに、各種データとして保存される。工具種別入力部18は、コードリーダであり、工具種別情報の取得は、切削工具の包装ケースに貼付され、又は切削工具本体に印刷されたバーコードや、QRコード(登録商標)等のようなマトリクス型二次元コードを読み取ることで実現される。また、工具種別入力部18にはキーボードのような手動入力装置を用いることもできる。
【0024】
以上は図2における識別確認装置10を用いた、切れ刃交換型の切削工具を構成するインサートの個体識別及び切れ刃位置識別についての説明であるが、以下に図2における識別確認装置10を用いた、切れ刃一体型の切削工具であるエンドミルの個体識別及び切れ刃位置識別について説明する。
【0025】
図2に示す識別確認装置10内で、ガラス板GP上にエンドミル(図示せず)を設置する。この状態で、個体識別カメラ12によってエンドミルのシャンク部(刃が形成されていない部分)を撮像して、シャンク部の例えば端面の画像(個体識別用画像)を得る。
【0026】
図4は、切れ刃一体型の切削工具であるエンドミル(図4(a))と、図2に示す識別確認装置10を用いて上記エンドミルの個体識別を行った結果得られた情報(図4(b))と、を示す。
【0027】
図4(b)に示される情報は、個体識別カメラ12によってエンドミルEMのシャンク部の端面SBが撮像された個体識別用画像に基づいて付された工具ID(図4(b)の文字列からなる個体識別情報)である。
【0028】
このように、個体識別情報は、図2に示す表示装置16に表示することができる。また、この情報は、図2の工具種別入力部18に、各種データとして保存することができる。
【0029】
[データ管理装置20]
図1に戻り、データ管理装置20は、制御装置21と、データベース記憶装置22とを含み、データベース記憶装置22は、個体識別データベース23と、摩耗実績データベース24と、余寿命推定データベース25と、摩耗推定データベース26とを含む。
【0030】
データ管理装置20は、CPU(中央演算素子)、RAM(ランダムアクセスメモリ)やROM(リードオンリーメモリ)のようなメモリ装置、HDD(ハードディスクドライブ)やSSD(ソリッドステートドライブ)のような記憶デバイス、出入力ポート及びこれらを相互接続する双方向バスを含むコンピュータ装置、並びに関連するソフトウェアから構成することができる。データ管理装置20は、後述する工作機械50のNC装置又は機械制御装置の一部としてソフトウェア的に構成してもよい。
【0031】
(制御装置21)
制御装置21は、識別確認装置10において一元管理された情報(個体識別情報及び切れ刃位置識別情報)を特定の演算処理等を用いてデータベース化し、後述するデータベース記憶装置22に記憶される各種データベース23から26を作成するための装置である。
【0032】
制御装置21に必要な演算処理としては、例えば個体識別カメラ12と切れ刃位置識別カメラ14とを用いて得られた情報(個体識別情報及び切れ刃位置識別情報)とバーコードの情報(工具種別情報)とを具体的に数値化して関連づけるような処理であれば特に限定されず、公知の技術を使用することができる。
【0033】
(データベース記憶装置22)
データベース記憶装置22は、制御装置21によって演算処理されて得られた以下の各種データベース23から26を記憶するための装置であり、以下に、各種データベース23から26について詳述する。
【0034】
((個体識別データベース23))
個体識別データベース23は、上述した工具の部分及び工具そのもの(即ち、インサートI及びエンドミルEM)についての、個体ごと(或いは個体を分割した部分ごと)の特徴等のデータの組織的な集合である。制御装置21が識別確認装置10において一元管理された情報を演算処理して各種データを作成し、さらにはこれらをデータベース化することにより、個体識別データベース23が得られる。
【0035】
図5は、図1に示す個体識別データベース23の一例を示す表である。同図に示すように、個体識別データベース23には、工具IDと、工具種別と、個体識別データとが含まれ、個体識別データはそれぞれの切れ刃を識別するために必要な各刃部に対応した座面またはシャンク部の画像の特徴であり、これらの特徴はバイナリ形式で格納されている。
【0036】
((摩耗実績データベース24))
摩耗実績データベース24は、上述した工具の部分及び工具そのもの(以下、「工具等」と称する場合がある)についての、個体ごとに演算処理した、加工時間(分)、加工長さ(m)及び摩耗量(mm)等のデータの組織的な集合である。摩耗実績データベース24は、制御装置21により、個体識別データベース23において格納された各種データに基づいて作成される。ここで、加工時間(分)とは、工具等を用いて切削加工を行った全時間をいい、加工長さ(m)とは、これらの工具等によって実際に被削材が切削加工された全長さをいい、摩耗量(mm)とは、これらの工具等における刃部の最大摩耗量(例えば、新品時の刃部の稜線と切削加工後の刃部の稜線との間の最大寸法)をいう。
【0037】
図6は、図1に示す摩耗実績データベース24の一例を示す表である。同図に示すように、摩耗実績データベース24には、加工時間(分)と、加工長さ(m)と、摩耗量(mm)とが含まれ、図6に示す例では加工時間3分ごとのデータが示されている。
【0038】
((余寿命推定データベース25))
余寿命推定データベース25は、上述した工具等と特定の被削材との組み合わせを前提として、仕上げ加工(F)、中仕上げ加工(SF)及び荒加工(R)を行う際に、工具等にどれ程の寿命が残されているのかを知るために用いる、加工時間又は加工長さの関数で表される寿命曲線の集合である。余寿命推定データベース25は、制御装置21により、摩耗実績データベース24において格納された各種データに基づいて作成され、上記摩耗実績データベース24の情報の蓄積とともに更新される。
【0039】
ここで、仕上げ加工(F)とは、設計や製品仕様で決められた寸法精度や仕上げ面粗さに合うものに被削材を加工するための機械加工をいい、中仕上げ加工(SF)とは、切削力や切削熱が被削材に作用しないことを前提に仕上げ加工の準備を行う機械加工をいい、荒加工(R)とは、短時間で不要な余肉を削ることを目的として中仕上げの加工代を残した状態まで行う被削材の切削加工をいう。
【0040】
図7は、図1に示す余寿命推定データベース25の一例を示す表である。同図に示すように、余寿命推定データベース25には、工具種別、被削材種別及び加工種別(仕上げ加工、中仕上加工げ及び荒加工)ごとに得られた寿命曲線が格納されている。なお、図7に示す各寿命曲線については、その欄をクリックすると、同図の下側に記載されているような具体的なグラフを見ることができる。これらのグラフについては後述する。
【0041】
図7中、「寿命曲線(1)」等の文字の右下には工具種別(EM1等)、被削材種別(FC等)及び加工種別(F等)の添え字が付されており、余寿命推定データベース25には、これらの組み合わせに応じて異なる寿命曲線が多数格納されている。なお、被削材種別に関し、FCとはJIS G5501に規定されている鋼材(ねずみ鋳鉄品)を意味し、FCDとはJIS G5502に規定されている鋼材(球状黒鉛鋳鉄品)を意味し、S45CとはJIS G4051に規定されている鋼材(機械構造用炭素鋼鋼材)を意味する。
【0042】
ここで、特に、図7中の寿命曲線(1)から(5)について、以下に詳細に説明する。同図の下側部分には、左側から順に、寿命曲線(1)、寿命曲線(2)、寿命曲線(3)、寿命曲線(4)、寿命曲線(5)が具体的にグラフとして示されており、これらのいずれについても、縦軸は測定した工具の摩耗量であり、横軸は加工時間又は(被削材の)加工長さである。
【0043】
なお、摩耗量、加工時間及び加工長さについては、上述した摩耗実績データベース24のデータが使用され、図1の制御装置21によって各寿命曲線が作成される。また、寿命曲線(1)から(5)のいずれについても、記号Wlimit、tlimit及びLlimit中の添え字limitは、限界値(寿命)を意味する。
【0044】
図7の左下側の寿命曲線(1)(添え字:EM1_FC_F)をみると、測定した摩耗量が複数プロットされており、これらプロットが寿命曲線を導き出す根拠となる。これらのプロットは、実際に測定した摩耗量であり、寿命曲線は、これらプロットを基に、最小二乗法を用いて求めることができる、なお、図7に示す寿命曲線(1)は一次関数で表しているが、実際には二次以上の多項式関数や指数関数、べき乗関数、対数関数等で表すこともできる。
【0045】
同様に、図7の下側の寿命曲線(2)(添え字:EM2_FC_F)及び寿命曲線(3)(添え字:I1_FC_F)をみると、寿命曲線(1)とほぼ同じ形状の線分が得られている。なお、寿命曲線(2)及び(3)については、寿命曲線(1)に記載した複数のプロットは省略している。寿命曲線(2)及び(3)については、寿命曲線(1)に対して工具種別は異なるが、被削材種別(ねずみ鋳鉄品(FC))及び加工種別(仕上げ加工(F))は同一である。このため、寿命曲線(2)及び(3)の線分は、それぞれ、寿命曲線(1)の線分と比べて、初期の摩耗量が異なるが線分の傾きはほぼ等しくなる。
【0046】
同様に、図7の下側の寿命曲線(4)(添え字:EM1_FC_SF)をみると、寿命曲線(1)とは異なる形状の線分が得られている。なお、寿命曲線(4)についても、寿命曲線(1)に記載した複数のプロットは省略している。寿命曲線(4)については、寿命曲線(1)に対して加工種別は異なるが、工具種別(エンドミル1)及び被削材種別(ねずみ鋳鉄品(FC))は同一である。このため、寿命曲線(4)の線分は、寿命曲線(1)の線分と比べて、初期の摩耗量はほぼ等しいが線分の傾きが異なるものとなる。
【0047】
同様に、図7の下側の寿命曲線(5)(添え字:EM1_FC_R)をみると、寿命曲線(1)とは著しく異なる形状の線分が得られている。なお、寿命曲線(5)についても、寿命曲線(1)に記載した複数のプロットは省略している。寿命曲線(5)については、寿命曲線(1)に対して工具種別(エンドミル1)及び被削材種別(ねずみ鋳鉄品(FC))は同一であるが、加工種別が大幅に異なる。このため、寿命曲線(5)の線分は、寿命曲線(1)の線分と比べて、初期の摩耗量も線分の傾きも相当に異なるものとなる。
【0048】
次に、このように作成された寿命曲線を活用して、具体的に余寿命を推定し、さらにその余寿命を満足する工具(の部分)を選択する実施形態を詳述する。なお、以下に示す例は、図7に掲載されたエンドミル1を使用した例である。
【0049】
図8は、図7のエンドミル1を使用することを前提に、3種類の部品a、b、cを所定数連続して切削加工する生産計画に基づき、当該切削加工を行った後のエンドミル1の余寿命を推定する一連の手順を示す図である。
【0050】
図8に示すように、本例では、3つの工程を順に行う。具体的には、工程1では部品c(被削材Cからなる)を2つ加工し、工程2では部品a(被削材Aからなる)を3つ加工し、さらに工程3では部品b(被削材Bからなる)を1つ加工する。なお、工程1から工程3はいずれも荒加工を行ったものである。
【0051】
図1のデータ管理装置20内の制御装置21は、図8に示すような生産計画データを認識すると、余寿命推定データベース25に予め格納された、エンドミル1とこれら3つの各被削材A、B、Cとに関する寿命曲線(図8の下側に示す、エンドミル1の被削材ごとの寿命曲線)のそれぞれを抽出し、これら寿命曲線を使用するための準備をする。
【0052】
次いで、制御装置21は、図8の右側に示すように、3つの寿命曲線から判断された各部品1つ当たりの摩耗量と部品の個数との積を演算処理して各工程において切削加工した際のエンドミル1の摩耗量を算出し、さらにそれらの和を演算処理して全ての工程において切削加工した際のエンドミル1の全摩耗量(切削加工による全摩耗量)を算出する。
【0053】
さらに、制御装置21は、図8の右側に示すように、事前に決められているエンドミル1の荒加工に対する限界摩耗量と上述した切削加工による全摩耗量との差を演算処理して余寿命を算出する(図8の「複数工程使用後のエンドミル1の余寿命推定結果」を参照)。なお、このようにエンドミル1の余寿命が算出されたら、制御装置21は、以下に示す通り、この算出結果を基に好適なエンドミルの選定を行う。
【0054】
図9は、図1のデータ管理装置20に含まれる制御装置21によって好適なエンドミルを選定する一連の手順を示す図である。なお、以下に詳述する事項は全て制御装置21が行うものである。
【0055】
図9に示すように、本実施形態におけるエンドミル1については、摩耗量設計上限値が0.25mmであり、上限値余裕率(安全性を加味した閾値)が96%である。このため、制御装置21は摩耗量設計上限値と上限値余裕率との積を演算処理し、その結果(0.24mm)を摩耗量上限値とする。これに対し、図7に示す3つの工程を終えた時点での推定摩耗量は0.23mmである。
【0056】
制御装置21は、以上の知見を得た後、摩耗量上限値(0.24mm)と推定摩耗量(0.23mm)との差を演算処理して、その結果(0.01mm)を基に、現状の摩耗量が0.01mm以下のエンドミルを選択するように結論づけ、これが識別確認装置10の表示装置16に表示される。
【0057】
最後に、以上に示す結論に基づき、図9の下段部に記載された各工具(エンドミル)のうち、現状の摩耗量が0.01mm以下の工具を選択する。同図に示す複数のエンドミルの中では、現状の摩耗量が0.008mmのもの(左から2番目)が唯一の好適なエンドミル(即ち、これから図7に示す3つの工程を行っても限界摩耗量に達しないエンドミル)であるといえる。
【0058】
((摩耗推定データベース26))
摩耗推定データベース26は、上述した工具等と特定の被削材との組み合わせを用いて、仕上げ加工(F)、中仕上げ加工(SF)及び荒加工(R)を行う際にどれ程の寿命が残されているのかを知るための閾値がマッピング化された情報の集合である。
【0059】
図10は、図1に示す摩耗推定データベース26の一例を示す表である。同図に示すように、摩耗推定データベース26には、工具種別、被削材種別、加工種別(仕上げ加工、中仕上加工げ及び荒加工)ごとに得られた特定の閾値がマッピングされている。
【0060】
ここで、特定の閾値とは、それ以上の値となると限界摩耗量に達したと推定される値であり、図10に示す例においては、切削時に工具等に作用する力(N)が閾値として用いられている。なお、閾値は、用いるセンシング技術に応じて、切削時に工具等に作用する力(N)の他、切削時に工作機械50の各部に生じる振動の加速度(m/s)や、工作機械50の主軸モータ又は送り軸モータの電流(A)などの指標を用いることもできる。
【0061】
次に、このような閾値を活用して、刃部の状態の正常又は異常を推定する実施形態を詳述する。なお、以下に示す例は、図7のエンドミル1を使用するとともに、切削時にエンドミル1に作用する力(N)を閾値として用いた例である。なお、以下に詳述する事項は全て制御装置21が行うものである。
【0062】
図11は、図8に示す3つの工程からなる生産計画に基づき切削加工をした場合の、各種の部品の加工時における閾値の設定と、この閾値の範囲内である場合及び閾値を超えた場合のエンドミル1の刃部状態とを示す図である。より具体的には、同図の上部では、加工している最中の部品の種類が示され、同図の中部では、エンドミル1の軸方向断面視での切削力(N)の波形が極座標系示され、同図の下部では、上記の切削力波形から推定したエンドミル1の摩耗量とエンドミル1の刃部の状態とが示されている。
【0063】
図11に示すように、各部品の加工においては、切削力波形の極座標表示での閾値が各被削材種別により異なり、具体的には、閾値はそれぞれ、80(N)、85(N)及び90(N)に設定されている。なお、図11の極座標表示によれば、エンドミル1の断面視でどの方位にどの程度の力が加わっているのかを知ることができる。
【0064】
図11によれば、3種類の部品の加工に関し、切削力波形が閾値を示す点線の円の外側にはみ出しているのは、部品bを加工した場合のみである。各切削力波形については、その波形上で最も原点から離れている点についての力(N)に基づいて、エンドミルの摩耗量(mm)が推定される。この摩耗量についても、閾値の0.23(mm)を超えているのは、部品bを加工した場合のみである。制御装置21は、このような切削力から摩耗量への変換の後、エンドミル1の刃部の状態を正常又は異常として決定する。
【0065】
より具体的にみると、図11に示すところによれば、部品cの加工中は切削力波形が閾値80(N)を超えていないため、変換後の摩耗量推定値も0.23(mm)を超えていない。同様に、部品aの加工中も切削力波形が閾値85(N)を超えていないため、変換後の摩耗量推定値も0.23(mm)を超えていない。従って、部品c及び部品aの加工後にエンドミル1の刃部の状態は正常であり、予備のエンドミル1に交換する必要はない。
【0066】
これに対し、部品bの加工中は切削力波形の一部が閾値90(N)を超えているため、摩耗量推定値が0.23(mm)を超えている。従って、部品bの加工後にエンドミル1の刃部の状態は異常であり、予備のエンドミル1に交換する必要がある。なお、以上に示す切削力波形、変換後の摩耗量推定値、及びエンドミル1の刃部の状態(正常又は異常)については、後述する工作機械制御装置57のモニタ57a(図1においては図示しない)に表示される。
【0067】
[工具ストッカ30]
図1に戻り、工具ストッカ30は、工場内において工具を格納するための棚等であり、図1に示すように、識別確認装置10及び後述するツーリング装置40と関連付けられるように配置される。工具ストッカ30については、本願の切削工具の管理システム1において任意選択的な構成要素である。
【0068】
[ツーリング装置40]
ツーリング装置40は、後述する工作機械50(図12)の主軸58に取り付けて使用する切削工具を、工具マガジン70(図16及び図17)に格納できる状態に準備するために用いられる装置であって、データ管理装置20、工具ストッカ30及び工作機械50と関連付けられるように配置される。
【0069】
切削工具の工作機械50への取り付け準備としては、エンドミルのようにシャンク部と切れ刃とが一体となっている刃具のツールホルダへの装着、カッタボディへのインサートの取り付け、インサートを取り付けたカッタボディのツールホルダへの装着、ツールホルダに装着した切削工具の測定(例えば、工具長(突き出し長さ)や工具径に関する)、並びに測定して得られた工具データのデータ管理装置20への入力を含む。
【0070】
工具データは、オペレータによって、当該切削工具の工具番号や、工具マガジン70(図16及び図17)内の番地である工具マガジン番号に関連付けて、工作機械50が保有する工具データベース(図示せず)に入力される。
【0071】
ツーリング装置40は、切削工具をツールホルダに装着するための装置(例えば焼き嵌め装置(図示せず))、ツールホルダに装着した切削工具を測定するツールプリセッタのような測定装置42(図1)、オペレータが入力、操作するキーボード(図示せず)やボタン(図示せず)のような入力装置、及びモニタ44を含むことができる。
【0072】
モニタ44がタッチパネルにより形成される場合には、モニタ44が入力装置を兼ねるようにすることができる。ツーリング装置40は、オペレータがツールホルダに刃具を取り付けるために使用する作業台(図示せず)を含んでいてもよい。モニタ44はツールプリセッタに付属するタッチパネルのようなディスプレイ(図示せず)とすることができる。
【0073】
[工作機械50]
工作機械50は、上述した切削工具とワークとを相対移動させて切削加工を行う装置であり、データ管理装置20及びツーリング装置40と関連付けられるように配置される。
【0074】
図12は、工作機械の一例を示す側面図である。同図に示す工作機械50は横形マシニングセンタであるが、本実施形態の工作機械は立形マシニングセンタであってもよい。工作機械50は、ベッド51と、ベッド51に水平な左右方向であるX軸方向(図12では紙面に垂直な方向)に往復動可能に取り付けられたコラム52と、コラム52に鉛直上下方向であるY軸方向に往復動可能に取り付けられた主軸頭53と、主軸頭53に取り付けられた切削力センサ53aと、X軸及びY軸に垂直な水平方向に延びる中心軸線Os周りに回転可能に主軸頭53に支持され、先端部に切削工具Tを装着する主軸58と、ベッド51上でコラム52とは逆側に配置されてベッド51上を中心軸線Osに平行な水平前後方向であるZ軸方向(図12では左右方向)に往復動可能に取り付けられたテーブル54と、テーブル54上に固定された刃部状態確認カメラ56と、モニタ57aを含む工作機械制御装置57を含む。
【0075】
図12において、ワークWは、主軸58の先端に対面するように、イケール55を介してテーブル54に固定される。ワークWは、イケール55のようなワーク取り付け具を介することなくテーブル54に直接固定するようにしてもよい。また、ワークWは、パレット(図示せず)や適当な治具(図示せず)を介してイケール55又はテーブル54に固定することができる。
【0076】
工作機械50は、コラム52をX軸方向に往復駆動するX軸送り装置(図示せず)、主軸頭53をY軸方向に往復駆動するY軸送り装置(図示せず)、テーブル54をZ軸方向に往復駆動するZ軸送り装置(図示せず)を備えている。さらに、工作機械50は、主軸58に装着された切削工具Tと、ワークWとを相対的に回転送りする少なくとも1つの回転送り装置(B軸又はC軸の回転送り装置)を備えていてもよい。
【0077】
上述したX軸、Y軸及びZ軸の送り装置は、X軸、Y軸及びZ軸方向に延設されたボールねじ(図示せず)と、該ボールねじの一端に連結されたX軸、Y軸及びZ軸サーボモータ(図示せず)を含むことができる。
【0078】
さらに、工作機械50は、X軸、Y軸及びZ軸サーボモータ、並びに主軸58を回転駆動する主軸サーボモータ(図示せず)を制御するNC装置(図示せず)を含む。工作機械50が、B軸又はC軸の回転送り装置を備える場合には、NC装置はB軸又はC軸のサーボモータ(図示せず)も制御する。
【0079】
工作機械制御装置57はデータ管理装置20及びNC装置を含むことができる。さらに、工作機械制御装置57は、工具マガジン70や、自動工具交換装置(図示せず)、加工液供給装置(図示せず)、オイルエア供給装置(図示せず)、圧縮空気供給装置(図示せず)のような工作機械50の関連機器を制御する機械制御装置(図示せず)を含んでいてもよい。
【0080】
工作機械50中、切削力センサ53aは上述した摩耗推定データベース26に含まれる各種閾値(切削時に工具(の部分)に作用する力(N))を測定するためのセンサである。
【0081】
刃部状態確認カメラ56は、図12の吹き出し部に示すように、切削工具Tの刃部を撮像するための、底面観察カメラ56a及び側面観察カメラ56bの2種類のカメラを含む。それぞれのカメラ56a、56bが工具の所定箇所を撮像して2種類の画像を得、これらの画像を制御装置21で画像処理することによって数値化した摩耗量データを得る。そして、この摩耗量データが加工時間又は加工長さの情報と関連づけられて摩耗実績データベース24に格納される。また、上記2種類の画像から数値化された摩耗量データは、その後の工具の使用継続の判断のために用いられる。なお、刃部状態確認カメラ56の設置場所は、図12のようにテーブル54の上ではなく、工具マガジン内や工作機械の外でもよい。
【0082】
工作機械制御装置57は、工作機械50のオペレータが操作状況を把握しつつ操作を行うための装置である。オペレータはNCプログラムを工作機械制御装置57に読み込ませて自動運転を行う。或いは、オペレータはモニタ57aを見ながら、切削工具TとワークWとを相互に移動させるべく、テーブル54を主軸58の方向において進退させて、所定の切削を行う。
【0083】
以上は、切削工具の管理システムの全容であるが、以下に、3つの好適な実施形態について詳述する。以下に示す実施形態は、それぞれ、ツーリングシート、機外設置型工具観察装置及び工具マガジン内設置型工具観察装置に関し、いずれも以上に述べた切削工具の管理システムにおいて任意選択的に採用することができる形態である。
【0084】
(ツーリングシート)
例えばインサートを用いる場合、本実施形態の切削工具の管理システム1には、カッタボディのどの位置にどのインサートを取り付けたのかを記憶したツーリングシートを含ませることができる。
【0085】
図13は、複数のインサートを取り付けるカッタボディ(図13(a))と、このカッタボディのどの位置にどのインサートを取り付けたのかを記録した表、即ちツーリングシート(図13(b))と、を示す図である。同図では、図13(a)のカッタボディの丸印部分に図13(b)の丸印が付されたインサートを取り付けることが示されている。
【0086】
カッタボディの段数(図面の鉛直方向最上部から下方に向かって順に1段目、2段目、3段目、…とする)と、各段数における位置数(いずれかの位置を位置1とし、位置1から図面の上方から見た場合に時計回りに隣り合う位置を順に位置2、位置3、…とする)との組み合わせにより、図13(b)に示す取付位置1-1、取付位置1-2等がカッタボディの特定の位置として決定される。
【0087】
このようなカッタボディの取付位置と工具ID(この場合はインサートに関する工具ID)との組み合わせが記録されたツーリングシートは、図12に示すツーリング装置40のモニタ44に表示される。複数のインサートのそれぞれは、カッタボディに取り付けられる前に各工具IDによって個体識別がされており、所定の切削加工を行った後に刃部状態確認カメラ56で各工具IDに対応する刃部が撮像され、それらの画像に基づいてデータ管理装置20の制御装置21で摩耗量が数値化される。
【0088】
その結果、交換が必要であると判断されたインサートは、ツーリングシートにおいて他のインサートと区別すべく表示態様が変わる(例えば、表示色が変わる、マスの模様が変わる、図形が点滅する)ように管理され、ツーリングシートは所定の切削加工が完了すると、このようにして順次更新される。なお、図13に示すところでは、交換すべきインサートには斜線表示がなされている。
【0089】
例えば、図13に示すツーリングシートには、取付位置1-1から取付位置10-4までの40個のインサートについての最新情報が記録されている。同図に示すツーリングシートによれば、取付位置1-2、取付位置1-3、取付位置1-4及び取付位置2-2の各インサートについて、交換が必要であることが判る。
【0090】
(機外設置型工具観察装置)
図14及び図15は、工場の工具室等に設置して使用する機外設置型の工具観察装置の一例をそれぞれ示す模式図である。これらの図に示す装置は、いずれも、基部60と、基部60の上方に位置して基部60に対してx軸方向に移動可能な第1のステージ61と、第1のステージ61の上方に位置して基部60に対してy軸方向に移動可能な第2のステージ62とを有し、さらに第2のステージ62上に配置されてα方向に回転可能な台座63aを含む第3のステージ63とを含む。
【0091】
図14に示す例では、台座63a上にインサート64aを含む刃具64が載置され、姿勢を適宜変更可能に制御されている1台の刃部状態確認カメラ65により、インサート64aにおける刃部の状態(同図に示す例では、インサートの底面、逃げ面及びすくい面)を撮像して観察することができる。なお、図14には、インサート64aの底面、逃げ面及びすくい面がそれぞれ示されており、これらの面を1台の刃部状態確認カメラ65により撮像した画像もそれぞれ示されている。
【0092】
これに対し、図15に示す例では、台座63a上にインサート64aを含む刃具64が載置され、固定された2台の刃部状態確認カメラ65、66のいずれかにより、インサート64aにおける刃部の状態(同図に示す例では、インサートの底面、逃げ面及びすくい面)を撮像して観察することができる。なお、図15には、図14と同様に、インサート64aの底面、逃げ面及びすくい面がそれぞれ示されており、これらの面を2台の刃部状態確認カメラ65、66により撮像した画像もそれぞれ示されている。
【0093】
(工具マガジン内設置型の工具観察装置)
図16及び図17は、工具マガジン内設置型の工具観察装置の一例を示す模式図である。これらの図に示す装置は、工具マガジン70内に格納され、引手部分71を図面の左方向に手動或いは自動で移動させて図面の吹き出し部分を工具マガジン70内から搬送ステーション72に移動させ、この位置で工具の観察を行う装置である。図16及び図17に示す装置は、いずれも、基部73と、基部73に設置された回転ステージ74とを含む。
【0094】
図16に示す例では、回転ステージ74にインサート75aを含む刃具75が取り付けられ、姿勢や位置を適宜変更可能に制御されている1台の刃部状態確認カメラ76により、インサート75aにおける刃部の状態を撮像して観察することができる。図16に示す刃部状態確認カメラ76は、同じ姿勢(カメラのレンズが同じ方向を向いている状態)では同図のx、y及びz方向にそれぞれスライドすることができる。
【0095】
これに対し、図17に示す例では、回転ステージ74にインサート75aを含む工具75が取り付けられ、位置を適宜変更可能に制御されている2台の刃部状態確認カメラ76、77により、インサート75aにおける刃部の状態を撮像して観察することができる。図17に示す刃部状態確認カメラ76は、同じ姿勢(カメラのレンズが同じ方向を向いている状態)では同図のx、y及びz方向にそれぞれスライドすることができ、刃部状態確認カメラ77は、同じ姿勢では同図のy、z方向にそれぞれスライドすることができる。
【0096】
<切削工具の管理方法>
以上は本発明の実施形態に係る切削工具の管理システムであるが、以下に本発明の実施形態に係る切削工具の管理システムを用いた、切削工具の管理方法について詳述する。なお、以下に詳述する事項は図1に示す制御装置21によって制御される。
【0097】
図18は、本発明の実施形態に係る切削工具の管理システムの運用手順を示すフローチャートである。同図に示すように、まず、図18に示す「開始」により切削工具の管理を開始し、「個体識別登録済」であるか否かを図1に示す個体識別データベース22より確認する。個体識別登録済であれば生産計画データ(加工内容及び加工時間t1分等)に基づき、図1に示す工具ストッカ30内にある複数の刃具を照合して余寿命t2分以上の刃具を選択する。これに対し、個体識別登録済でなければ、図1に示す識別確認装置10を用いて個体識別を行った上で、上記のとおり複数の刃具を照合して余寿命t2分以上の刃具を選択する。
【0098】
次に選択した刃具とツールホルダとを組み合わせて切削工具Tを構成(ツーリング)し、これを工作機械50の工具マガジン70に格納した後、自動工具交換装置(図示しない)を用いて主軸58に装着する。
【0099】
次いで、図12に示す切削力センサ53aによって切れ刃状態を監視しながら切削工具Tによって切削加工を行い、上述した切削力波形の極座標表示等の閾値を基に、刃部の状態に異常があれば切削工具Tを予備のものに交換し、異常がなければ1個の部品の加工が終了するまで上記切削力センサ53aにより切れ刃状態の監視を継続する。
【0100】
1個の部品の加工が終了した後、又は生産計画データで指示された1つの工程が終了した後、切削工具Tの各切れ刃を刃部状態確認カメラ56によって撮像し、その画像に基づいて各切れ刃の摩耗量を測定し、直近において行ったのと同じ条件(被削材種別及び加工種別)の切削加工を行った場合の余寿命曲線を再度作成した上で、図1に示すデータ管理装置20内の制御装置21が各種データベース24から26を更新する。
【0101】
その後、新たな生産計画で指示された加工内容に基づき、切削工具Tの使用を継続する場合は、図18のツーリングをした状態に戻り、使用を継続しない場合は、切削工具Tに装着された刃具を廃棄するか否か検討する。
【0102】
刃具を廃棄する場合は、図1の個体識別データベース23から対象の刃具についてのデータを削除し、次いで対象の刃具を廃棄又は再研磨して管理を終了する。これに対し、刃具を廃棄しない場合は、カッタボディからインサートを取り外して保管し、図18の「個体識別登録済」であるか否かを再確認し、上述したプロセスと同じプロセスをたどることとなる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
以上に示した本発明の切削工具の管理システムによれば、刃部付近に2次元コード等を形成する特別な装置を必要とせず、工具表面に固体識別子としてのマーキングが予め施された特殊な工具を使用しなくても、切削工具の摩耗量から切れ刃ごとに余寿命を推定することができる。このため、本発明は、各種工具の管理において極めて有望である。
【符号の説明】
【0104】
1 切削工具の管理システム
10 識別確認装置
12 個体識別カメラ
14 切れ刃位置識別カメラ
16 表示装置(モニタ)
18 工具種別入力部
20 データ管理装置
21 制御装置
22 データベース記憶装置
23 個体識別データベース
24 摩耗実績データベース
25 余寿命推定データベース
26 摩耗推定データベース
30 ストッカ(工場内)
40 ツーリング装置
42 測定装置
44 モニタ
50 工作機械
51 ベッド
52 コラム
53 主軸頭
53a 切削力センサ
54 テーブル
55 イケール
56、65、66、76、77 刃部状態確認カメラ
57 工作機械制御装置
57a モニタ
58 主軸
60、73 基部
61 第1のステージ
62 第2のステージ
63 第3のステージ
63a 台座
64、75 刃具
64a、75a インサート
70 工具マガジン
71 引手部分
72 搬送ステーション
74 回転ステージ
EM エンドミル
GP ガラス板
I インサート
Ia 座面
Ib 主面
Os 中心軸線
SB エンドミルのシャンク部の端面
T 切削工具
【要約】
【課題】刃部付近に2次元コード等を形成する特別な装置を必要とせず、工具表面に固体識別子としてのマーキングを予めしなくても、切削工具の摩耗量から切れ刃ごとに余寿命を推定し得る切削工具の管理システムを提供すること。
【解決手段】工具に取り付けるインサートの座面(Ia)又は工具のシャンク部を撮像する個体識別カメラ(12)と、インサート又は工具の刃部を撮像する刃部状態確認カメラ(56)と、個体識別カメラで撮像したインサートの座面又はシャンク部の画像の特徴と工具IDとを関連付けて記憶する個体識別データベース(23)と、個体識別データベースに記憶された工具IDごとに刃部状態確認カメラで撮像したインサート又は工具の刃部の画像から得られた摩耗実績データが記憶された摩耗実績データベース(24)と、摩耗実績データから各工具の余寿命を推定する制御装置(21)と、備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18