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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】ポリオレフィン微多孔膜
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/489 20210101AFI20240723BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20240723BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20240723BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20240723BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20240723BHJP
   H01M 50/451 20210101ALI20240723BHJP
   H01M 50/457 20210101ALI20240723BHJP
   H01M 50/483 20210101ALI20240723BHJP
   H01M 50/491 20210101ALI20240723BHJP
   H01M 50/494 20210101ALI20240723BHJP
【FI】
H01M50/489
H01M50/414
H01M50/417
H01M50/434
H01M50/449
H01M50/451
H01M50/457
H01M50/483
H01M50/491
H01M50/494
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023071085
(22)【出願日】2023-04-24
(65)【公開番号】P2023164348
(43)【公開日】2023-11-10
【審査請求日】2023-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2022075126
(32)【優先日】2022-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】水谷 渡
(72)【発明者】
【氏名】大久保 智聡
(72)【発明者】
【氏名】岡田 賢明
(72)【発明者】
【氏名】松林 毅
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/093572(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/175252(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/101222(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜厚が1μm~30μmであり、透気度が500sec/100cm以下であり、かつ温度60℃、圧力3.4MPa及び圧縮時間1secの条件下でのプレスによる耐電圧減少率が、1.0%以上17.0%以下である非水系二次電池用ポリオレフィン微多孔膜。
【請求項2】
膜厚が1μm~30μmであり、透気度が500sec/100cm以下であり、かつ温度70℃、圧力8MPa及び圧縮時間3minの条件下でのプレスによる耐電圧減少率が、1.0%以上28.0%以下である非水系二次電池用ポリオレフィン微多孔膜。
【請求項3】
小角X線散乱(SAXS)法により測定される圧縮前のポリエチレン結晶長周期が、35.0nm以上かつ、圧縮前のポリエチレン結晶(110)面、(200)面由来の回折ピーク間距離が2.410°以上2.600°以下である非水系二次電池用ポリオレフィン微多孔膜。
【請求項4】
前記非水系二次電池用ポリオレフィン微多孔膜の圧縮前の気孔率が、40%以上80%以下かつ、目付換算突刺強度が、55gf/(g/m)以上150gf/(g/m)以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水系二次電池用ポリオレフィン微多孔膜。
【請求項5】
前記非水系二次電池用ポリオレフィン微多孔膜の動摩擦係数の両表面の平均が、0.01以上0.4以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水系二次電池用ポリオレフィン微多孔膜。
【請求項6】
前記非水系二次電池用ポリオレフィン微多孔膜のメルトフローインデックス(MI)値が、0.01g/10min以上0.50g/10min以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水系二次電池用ポリオレフィン微多孔膜。
【請求項7】
前記非水系二次電池用ポリオレフィン微多孔膜の長手方向(MD)の引張強度と幅方向(TD)の引張強度の比(MD/TD引張強度比)が、0.7~1.3である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水系二次電池用ポリオレフィン微多孔膜。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか1項に記載の非水系二次電池用ポリオレフィン微多孔膜と、
前記非水系二次電池用ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に配置される無機多孔層と、
を有するセパレータ。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか1項に記載の非水系二次電池用ポリオレフィン微多孔膜と、
前記非水系二次電池用ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に配置される熱可塑性樹脂層と、
を有するセパレータ。
【請求項10】
請求項1~3のいずれか1項に記載の非水系二次電池用ポリオレフィン微多孔膜と、
前記非水系二次電池用ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に配置される、多機能層、無機多孔層および熱可塑性樹脂層から成る群から選択される少なくとも一層と、
を有するセパレータ。
【請求項11】
請求項8に記載のセパレータを含む非水系二次電池。
【請求項12】
請求項9に記載のセパレータを含む非水系二次電池。
【請求項13】
請求項10に記載のセパレータを含む非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン微多孔膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン微多孔膜は、優れた電気絶縁性及びイオン透過性を示すことから、電池用セパレータ、コンデンサー用セパレータ、燃料電池用材料、精密濾過膜等に使用されており、特にリチウムイオン二次電池用セパレータとして使用されている。
【0003】
近年、リチウムイオン二次電池は、携帯電話、ノート型パソコン等の小型電子機器、及び電気自動車、小型電動バイク等の電動車両にも使用されている。リチウムイオン二次電池用セパレータには、機械的特性及びイオン透過性だけでなく、各種の安全試験における安全性も求められている。また、リチウムイオン二次電池用セパレータのプレス試験特性が検討されている(特許文献1)。
【0004】
特許文献1には、セパレータ基材としてのポリオレフィン微多孔膜に対して無機塗工層を設け、無機塗工層中の無機粒子を均一に分散させることで、セパレータをプレスした際の耐電圧変化率を調整し、局所的な潰れを抑制することが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2021/101222号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リチウムイオン二次電池等の非水系二次電池は、その用途に応じて、円筒型、角型、パウチ型などの多様な形状が展開されている。電池の製造方法は、電池の形状によっても異なるが、例えば角型電池の製造においては、電極とポリオレフィン微多孔膜の捲回体又は積層体をプレスし、直方体の外装缶に挿入する工程がある。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されるような従来のセパレータを用いる電池作製工程のプレス、および電池内での電極膨張によるプレスに伴う、膜の潰れと耐電圧減少によって、電池の高出力・高サイクル特性とショート不良の抑制との両立が困難であった。
【0008】
上記の事情に鑑みて、本発明は、非水系二次電池の高出力・高サイクル特性とショート不良の抑制とを両立することができるポリオレフィン微多孔膜、並びにそれを含む非水系二次電池用セパレータ及び非水系二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ポリオレフィン微多孔膜について、所定の条件下でのプレスによる耐電圧減少率、圧縮前の結晶構造などを特定することによって、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。本発明の態様を以下に例示する。
<1>
膜厚が1μm~30μmであり、透気度が500sec/100cm以下であり、かつ温度60℃、圧力3.4MPa及び圧縮時間1secの条件下でのプレスによる耐電圧減少率が、1.0%以上17.0%以下であるポリオレフィン微多孔膜。
<2>
膜厚が1μm~30μmであり、透気度が500sec/100cm以下であり、かつ温度70℃、圧力8MPa及び圧縮時間3minの条件下でのプレスによる耐電圧減少率が、1.0%以上28.0%以下であるポリオレフィン微多孔膜。
<3>
小角X線散乱(SAXS)法により測定される圧縮前のポリエチレン結晶長周期が、35.0nm以上かつ、圧縮前のポリエチレン結晶(110)面、(200)面由来の回折ピーク間距離が2.410°以上2.600°以下であるポリオレフィン微多孔膜。
<4>
前記ポリオレフィン微多孔膜の圧縮前の気孔率が、40%以上80%以下かつ、目付換算突刺強度が、55gf/(g/m)以上150gf/(g/m)以下である、項目1~3のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
<5>
前記ポリオレフィン微多孔膜の動摩擦係数の両表面の平均が、0.01以上0.4以下である、項目1~4のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
<6>
前記ポリオレフィン微多孔膜のメルトフローインデックス(MI)値が、0.01g/10min以上0.50g/10min以下である、項目1~5のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
<7>
前記ポリオレフィン微多孔膜の長手方向(MD)の引張強度と幅方向(TD)の引張強度の比(MD/TD引張強度比)が、0.7~1.3である、項目1~6のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
<8>
項目1~7のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜と、
前記ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に配置される無機多孔層と、
を有するセパレータ。
<9>
項目1~7のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜と、
前記ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に配置される熱可塑性樹脂層と、
を有するセパレータ。
<10>
項目1~7のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜と、
前記ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に配置される、多機能層、無機多孔層および熱可塑性樹脂層から成る群から選択される少なくとも一層と、
を有するセパレータ。
<11>
項目8~10のいずれか1項に記載のセパレータを含む非水系二次電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポリオレフィン微多孔膜を含む非水系二次電池の高出力・高サイクル特性とショート不良の抑制とを両立することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」と略記する。)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
本明細書では、長手方向(MD)とは微多孔膜連続成形の機械方向を意味し、かつ幅方向(TD)とは微多孔膜のMDを90°の角度で横切る方向を意味する。
【0013】
本明細書において、各数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。また、或る部材が特定成分を主成分として含有することは、特定成分の含有量が部材の質量を基準として50質量%以上であることを意味する。特に言及しない限り、本明細書に記載の物性又は数値は、実施例において説明される方法により測定又は算出されるものである。
【0014】
<ポリオレフィン微多孔膜>
本発明の一態様は、ポリオレフィン微多孔膜である。ポリオレフィン微多孔膜は、主成分としてポリオレフィン樹脂を含み、優れた電気絶縁性及びイオン透過性を示すことができるため、例えば非水系二次電池等において、具体的には非水系二次電池用セパレータとして、使用されることができる。
【0015】
(実施形態1)
実施形態1に係るポリオレフィン微多孔膜は、次の特徴を有する:
膜厚が1μm~30μmである;
透気度が500sec/100cm3以下である;及び
温度60℃、圧力3.4MPa及び圧縮時間1secの条件下でのプレスによる耐電圧減少率が、1.0%以上17.0%以下である。
【0016】
実施形態1に係るポリオレフィン微多孔膜は、膜厚1μm~30μmの範囲内で、500sec/100cm3以下の透気度と、温度60℃、圧力3.4MPa及び圧縮時間1secという比較的穏やかなプレス条件での1.0%以上17.0%以下の耐電圧減少率とを有することにより、膜の耐圧縮性を高めることができるだけでなく、結晶構造を最適化することで、ひいては非水系二次電池の高出力・高サイクル特性とショート不良の抑制とを両立することができる。実施形態1に係るポリオレフィン微多孔膜による膜の潰れと結晶構造の変化による耐電圧変化は、非水系二次電池のセル内で膨張収縮し易い電極を用いた場合に、顕著であり、車載用電池等に使用される高容量電極、又はケイ素(Si)含有負極を用いる場合に、より顕著である。
【0017】
温度60℃、圧力3.4MPa及び圧縮時間1secの条件下でのプレスにより圧縮試験を行なう方法は、実施例において詳述される。耐電圧減少率は、非水系二次電池において出力及びサイクル特性を高め、かつ/又はショート不良の抑制を担うポリオレフィン微多孔膜の主成分の構造と関連することが考えられる。
【0018】
ポリオレフィン微多孔膜の温度60℃、圧力3.4MPa及び圧縮時間1secの条件下でのプレスによる耐電圧減少率の下限値は、上記で説明された観点から、好ましくは1.0%以上で、より好ましくは5.0%以上で、更に好ましくは6.0%以上、より更に好ましくは7.0%以上、特に好ましくは10.0%以上であり、その上限値は、好ましくは17.0%以下、より好ましくは16.0%以下、更に好ましくは15.5%以下、特に好ましくは15.0%以下である。
【0019】
ポリオレフィン微多孔膜の温度60℃、圧力3.4MPa及び圧縮時間1secの条件下でのプレスによる耐電圧減少率は、例えば、ポリオレフィン微多孔膜の製造プロセスにおいて、ポリオレフィン又はポリエチレン原料の分子量、ポリエチレン原料の含有率、二軸延伸工程時の延伸倍率、二軸延伸工程時のMD/TD延伸温度、熱固定工程時の温度、熱固定工程時の熱固定炉での熱固定係数に対する予熱係数の比(予熱係数/熱固定係数)などを制御することによって、上記で説明された数値範囲内に調整されることができる。非水系二次電池の作製においてプレスによるポリオレフィン微多孔膜の結晶変化を少なくして耐電圧減少率を調整するという観点から、ポリオレフィン又はポリエチレン原料の分子量、ポリエチレン原料の含有率、二軸延伸工程時の延伸倍率、二軸延伸工程時のMD/TD延伸温度、および熱固定(HS)工程時の温度を相対的に高く、かつ/又は熱固定炉での比(予熱係数/熱固定係数)を一定値以下、具体的には0.5以下等にすることが好ましい。
【0020】
実施形態1に係るポリオレフィン微多孔膜について圧縮試験前後の耐電圧値又は耐電圧性を比較することは、非水系二次電池において高出力・高サイクル特性とショート不良の抑制とを両立することができるポリオレフィン微多孔膜の主成分の構造を特定するという観点から好ましい。ポリオレフィン微多孔膜の圧縮試験前の、又は圧縮試験に供していない耐電圧値又は耐電圧性も実施例に記載の方法で測定される。
【0021】
実施形態1に係るポリオレフィン微多孔膜の膜厚については、高出力・高サイクル特性とショート不良の抑制との両立に加えて、小サイズ化の観点から、下限値が、1μm以上であり、好ましくは3μm以上、より好ましくは4μm以上、更に好ましくは5μm以上、特に好ましくは8μm以上であり、そして上限値が、30μm以下であり、好ましくは25μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは16μm以下、より更に好ましくは15μm以下、特に好ましくは13μm以下である。微多孔膜の膜厚は、例えば、キャストロールのロール間距離、延伸工程における延伸倍率等により最適化されることができる。
【0022】
実施形態1に係るポリオレフィン微多孔膜の透気度は、圧縮試験前に、実施例に記載の方法により測定されることができる。実施形態1に係るポリオレフィン微多孔膜の透気度は、高出力・高サイクル特性とショート不良の抑制との両立に加えて、微多孔膜のイオン透過性と非水系二次電池の高出力化の観点から、500sec/100cm3以下であり、好ましくは200sec/100cm3以下、より好ましくは150sec/100cm3以下、更に好ましくは130sec/100cm3以下、より更に好ましくは120sec/100cm3以下、特に好ましくは110sec/100cm3以下、殊に好ましくは100sec/100cm3以下、最も好ましくは90sec/100cm3以下であり、そして微多孔膜の機械的強度の観点から、好ましくは10sec/100cm3以上、より好ましくは40sec/100cm3以上、更に好ましくは50sec/100cm3以上、より更に好ましくは60sec/100cm3以上、特に好ましくは70sec/100cm3以上、最も好ましくは80sec/100cm3以上である。微多孔膜の透気度は、上記で説明された耐電圧減少率の制御手段と同様に最適化されることができる。
【0023】
(実施形態2)
実施形態2に係るポリオレフィン微多孔膜は、次の特徴を有する:
膜厚が1μm~30μmである;
透気度が500sec/100cm3以下である;及び
温度70℃、圧力8MPa及び圧縮時間3minの条件下でのプレスによる耐電圧減少率が、1.0%以上28.0%以下である。
【0024】
実施形態2に係るポリオレフィン微多孔膜は、膜厚1μm~30μmの範囲内で、500sec/100cm3以下の透気度と、温度70℃、圧力8MPa及び圧縮時間3minという比較的激しいプレス条件での1.0%以上28.0%以下の耐電圧減少率とを有することにより、膜の耐圧縮性を高めることができるだけでなく、膜中に不安定な結晶構造を多く有することもでき、例えばセパレータとしてポリオレフィン微多孔膜を用いる非水系二次電池の作製において、プレスによる斜方晶の単斜晶転移を抑制し、結晶構造の塑性変形による膜の潰れを抑制し、ひいては非水系二次電池の高出力・高サイクル特性とショート不良の抑制とを両立することができる。実施形態2に係るポリオレフィン微多孔膜によるプレス時の斜方晶の単斜晶転移の抑制は、非水系二次電池のセル内で膨張収縮し易い電極を用いた場合に、顕著であり、車載用電池等に使用される高容量電極、又はケイ素(Si)含有負極を用いる場合に、より顕著である。
【0025】
温度70℃、圧力8MPa及び圧縮時間3minの条件下でのプレスにより圧縮試験を行なう方法は、実施例において詳述される。耐電圧減少率は、非水系二次電池において出力及びサイクル特性を高め、かつ/又はショート不良の抑制を担うポリオレフィン微多孔膜の主成分の構造と関連することが考えられる。
【0026】
ポリオレフィン微多孔膜の温度70℃、圧力8MPa及び圧縮時間3minの条件下でのプレスによる耐電圧減少率の下限値は、上記で説明された観点から、好ましくは1.0%以上で、より好ましくは5.0%以上で、更に好ましくは10.0%以上、特に好ましくは15.0%以上であり、その上限値は、好ましくは28.0%以下、より好ましくは25.0%以下、更に好ましくは23.0%以下、特に好ましくは20.0%以下である。
【0027】
ポリオレフィン微多孔膜の温度70℃、圧力8MPa及び圧縮時間3minの条件下でのプレスによる耐電圧減少率は、例えば、ポリオレフィン微多孔膜の製造プロセスにおいて、ポリオレフィン又はポリエチレン原料の分子量、ポリエチレン原料の含有率、二軸延伸工程時の延伸倍率、二軸延伸工程時のMD/TD延伸温度、熱固定工程時の温度、熱固定工程時の熱固定炉での熱固定係数に対する予熱係数の比(予熱係数/熱固定係数)などを制御することによって、上記で説明された数値範囲内に調整されることができる。非水系二次電池の作製においてプレスによるポリオレフィン微多孔膜の結晶変化を少なくして耐電圧減少率を調整するという観点から、ポリオレフィン又はポリエチレン原料の分子量、ポリエチレン原料の含有率、二軸延伸工程時の延伸倍率、二軸延伸工程時のMD/TD延伸温度、およびHS工程時の温度を相対的に高く、かつ/又は熱固定炉での比(予熱係数/熱固定係数)を一定値以下、具体的には0.5以下等にすることが好ましい。
【0028】
実施形態2に係るポリオレフィン微多孔膜について圧縮試験前後の耐電圧値又は耐電圧性を比較することは、非水系二次電池において高出力・高サイクル特性とショート不良の抑制とを両立することができるポリオレフィン微多孔膜の主成分の構造を特定するという観点から好ましい。ポリオレフィン微多孔膜の圧縮試験前の、又は圧縮試験に供していない耐電圧値又は耐電圧性も実施例に記載の方法で測定される。
【0029】
実施形態2に係るポリオレフィン微多孔膜の膜厚については、高出力・高サイクル特性とショート不良の抑制との両立に加えて、小サイズ化の観点から、下限値が、1μm以上であり、好ましくは3μm以上、より好ましくは4μm以上、更に好ましくは5μm以上、特に好ましくは8μm以上であり、そして上限値が、30μm以下であり、好ましくは25μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは16μm以下、より更に好ましくは15μm以下、特に好ましくは13μm以下である。微多孔膜の膜厚は、例えば、キャストロールのロール間距離、延伸工程における延伸倍率等により最適化されることができる。
【0030】
実施形態2に係るポリオレフィン微多孔膜の透気度は、圧縮試験前に、実施例に記載の方法により測定されることができる。実施形態2に係るポリオレフィン微多孔膜の透気度は、高出力・高サイクル特性とショート不良の抑制との両立に加えて、微多孔膜のイオン透過性と非水系二次電池の高出力化の観点から、500sec/100cm3以下であり、好ましくは200sec/100cm3以下、より好ましくは150sec/100cm3以下、更に好ましくは130sec/100cm3以下、より更に好ましくは120sec/100cm3以下、特に好ましくは110sec/100cm3以下、殊に好ましくは100sec/100cm3以下、最も好ましくは90sec/100cm3以下であり、そして微多孔膜の機械的強度の観点から、好ましくは10sec/100cm3以上、より好ましくは40sec/100cm3以上、更に好ましくは50sec/100cm3以上、より更に好ましくは60sec/100cm3以上、特に好ましくは70sec/100cm3以上、最も好ましくは80sec/100cm3以上である。微多孔膜の透気度は、上記で説明された耐電圧減少率の制御手段と同様に最適化されることができる。
【0031】
(実施形態3)
実施形態3に係るポリオレフィン微多孔膜は、次の特徴を有する:
ポリオレフィン微多孔膜は、小角X線散乱(SAXS)法により測定される圧縮前のポリエチレン結晶長周期が、35.0nm以上である;かつ
ポリオレフィン微多孔膜は、圧縮前のポリエチレン結晶(110)面、(200)面由来の回折ピーク間距離が2.410°以上2.600°以下である。
【0032】
実施形態3に係るポリオレフィン微多孔膜は、小角X線散乱(SAXS)法により測定される圧縮前のポリエチレン結晶長周期が、35.0nm以上であり、かつ、圧縮前のポリエチレン結晶(110)面、(200)面由来の回折ピーク間距離が2.410°以上2.600°以下であることにより、驚くべきことに、例えばセパレータとしてポリオレフィン微多孔膜を用いる非水系二次電池の作製において、プレスによる結晶構造変化が少なく、潰れを抑制し、プレス後の耐電圧特性を向上させることでき、ひいては非水系二次電池の高出力・高サイクル特性とショート不良の抑制とを両立することができる。実施形態3に係るポリオレフィン微多孔膜の構造とプレス後の耐電圧特性は、非水系二次電池のセル内で膨張収縮し易い電極を用いた場合に、顕著であり、車載用電池等に使用される高容量電極又はケイ素(Si)含有負極を用いる場合に、より顕著である。
【0033】
ポリオレフィン微多孔膜のプレス前の結晶長周期測定は、実施例において詳述される。実施形態3に係るポリオレフィン微多孔膜のプレス前の結晶長周期は、上記で説明された観点から、35.0nm以上であり、好ましくは35.5nm以上であり、より好ましくは36.0nm以上であり、更に好ましくは36.5nm以上であり、最も好ましくは37.0nm以上である。また、プレス前の結晶長周期は、好ましくは60.0nm以下であり、より好ましくは50.0nm以下であり、更に好ましくは45.0nm以下であり、特に好ましくは40.0nm以下である。
【0034】
また、ポリオレフィン微多孔膜の圧縮前のポリエチレン結晶(110)面、(200)面由来の回折ピーク間距離も上記と同様の観点から、2.410°以上であり、好ましくは、2.415°以上であり、より好ましくは2.420°以上であり、更に好ましくは2.422°以上である。また、回折ピーク間距離の上限値は、2.600°以下であり、好ましくは2.500°以下であり、より好ましくは2.450°以下であり、更に好ましくは2.430°以下である。
【0035】
実施形態3に係るポリオレフィン微多孔膜の圧縮前のポリエチレン結晶長周期及び、圧縮前のポリエチレン結晶(110)面、(200)面由来の回折ピーク間距離は、例えば、ポリオレフィン微多孔膜の製造プロセスにおいて、ポリオレフィン又はポリエチレン原料の分子量、ポリエチレン原料の含有率、二軸延伸工程時の延伸倍率、二軸延伸工程時のMD/TD延伸温度、熱固定工程時の温度、熱固定工程時の熱固定炉での熱固定係数に対する予熱係数の比(予熱係数/熱固定係数)などを制御することによって、上記で説明された数値範囲内に調整されることができる。ポリオレフィン微多孔膜のポリエチレン結晶長周期を伸長し、プレスによる結晶構造変化を少なくして耐電圧減少率を調整するという観点から、ポリオレフィン又はポリエチレン原料の分子量、ポリエチレン原料の含有率、二軸延伸工程時の延伸倍率、二軸延伸工程時のMD/TD延伸温度、およびHS工程時の温度を相対的に高く、かつ/又は熱固定炉での比(予熱係数/熱固定係数)を一定値以下、具体的には0.5以下等にすることが好ましい。
【0036】
(実施形態4)
実施形態4では、実施形態1~実施形態3に係る構成の何れか2つ以上を組み合わせたポリオレフィン微多孔膜が提供される。
【0037】
実施形態4に係るポリオレフィン微多孔膜は、主成分としてオレフィンを含み、膜厚が1μm~30μmであり、(圧縮前の)透気度が500sec/100cm3以下であり、温度60℃、圧力3.4MPa及び圧縮時間1secの条件下でのプレスによる耐電圧減少率が1.0%以上17.0%以下、および/または温度70℃、圧力8MPa及び圧縮時間3minの条件下でのプレスによる耐電圧減少率が1.0%以上28.0%以下であり、かつ小角X線散乱(SAXS)法により測定される圧縮前のポリエチレン結晶長周期が、35.0nm以上、および/または圧縮前のポリエチレン結晶(110)面、(200)面由来の回折ピーク間距離が2.410°以上2.600°以下である。
【0038】
実施形態1~4において、共通する構成要素、好ましい構成要素、又は他の構成要素を以下に説明する。
【0039】
(構成要素)
ポリオレフィン微多孔膜としては、例えば、ポリオレフィン樹脂を含む多孔膜;ポリオレフィン樹脂に加えて、ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリアラミド、ポリシクロオレフィン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂も含む多孔膜;ポリオレフィン系の繊維を織ったもの(織布);ポリオレフィン系の繊維の不織布などが挙げられる。これらの中でも、膜の電気抵抗の低下又は上昇抑制、膜の耐圧縮性及び構造均一性などの観点から、ポリオレフィン樹脂を含む微多孔膜(以下、ポリオレフィン樹脂多孔膜という)が好ましく、主成分としてポリエチレンを含む微多孔膜がより好ましい。
【0040】
ポリオレフィン樹脂多孔膜について説明する。ポリオレフィン樹脂多孔膜は、非水系二次電池用ポリオレフィン微多孔膜を形成した時のシャットダウン性能等を向上させる観点から、多孔膜を構成する樹脂成分の50質量%以上100質量%以下をポリオレフィン樹脂が占めるポリオレフィン樹脂組成物により形成される多孔膜であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂組成物におけるポリオレフィン樹脂が占める割合は、60質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、70質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましく、最も好ましくは95質量%以上100質量%以下である。
【0041】
ポリオレフィン樹脂組成物に含有されるポリオレフィン樹脂としては、特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、及び1-オクテン等をモノマーとして用いて得られるホモ重合体、共重合体、又は多段重合体等が挙げられる。また、これらのポリオレフィン樹脂は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0042】
中でも、膜の電気抵抗の低下又は上昇抑制、膜の耐圧縮性及び構造均一性などの観点から、ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-それら以外のモノマーの共重合体、並びにこれらの混合物が好ましい。
【0043】
ポリエチレンの具体例としては、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン等、ポリプロピレンの具体例としては、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン等、共重合体の具体例としては、エチレン-プロピレンランダム共重合体、エチレンプロピレンラバー等、が挙げられる。
【0044】
ポリオレフィン樹脂多孔膜は、非水系二次電池用ポリオレフィン微多孔膜を形成した時の結晶性、高強度、耐圧縮性などの観点から、微多孔膜を構成する樹脂成分の50質量%以上100質量%以下をポリエチレンが占めるポリエチレン組成物により形成される多孔膜であることが好ましい。多孔膜を構成する樹脂成分におけるポリエチレンが占める割合は、60質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、70質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましく、最も好ましくは90質量%以上100質量%以下である。
【0045】
また、ポリオレフィン樹脂多孔膜に含まれるポリオレフィン樹脂は、膜を剛直にして耐圧縮性を向上させるという観点から、融点が、好ましくは120℃以上150℃以下、より好ましくは125℃以上140℃以下の範囲内にあり、かつ/又はDSCの1stピーク温度が、好ましくは136℃~144℃の範囲内にある。
【0046】
非水系二次電池用セパレータとしてポリオレフィン微多孔膜を形成した時の結晶性、高強度、耐圧縮性、電気抵抗の抑制などの観点から、ポリオレフィン樹脂におけるポリエチレンの割合は、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましく、80質量%以上が特に好ましく、そして100質量%以下であることが好ましく、97質量%以下であることがより好ましく、95質量%以下であることがさらに好ましい。なお、ポリオレフィン樹脂におけるポリエチレン(PE)の割合が100質量%であると、強度発現の観点で好ましい。ポリオレフィン樹脂におけるPEの割合が50%以上であると、ヒューズ挙動も高い応答性で発現する観点でも好ましい。
【0047】
ポリオレフィン樹脂組成物には、任意の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、例えば、ポリオレフィン樹脂以外の重合体;無機フィラー;フェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤;光安定剤;帯電防止剤;防曇剤;着色顔料等が挙げられる。これらの添加剤の総添加量は、ポリオレフィン樹脂100質量%に対して、20質量%以下であることがシャットダウン性能等を向上させる観点から好ましく、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0048】
微多孔膜がポリオレフィン樹脂多孔膜である場合、原料として用いるポリオレフィン樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、30,000以上6,000,000以下であることが好ましく、より好ましくは80,000以上3,000,000以下、さらに好ましくは150,000以上2,000,000以下である。粘度平均分子量が30,000以上であると、重合体同士の絡み合いにより高強度となる傾向にあるため好ましい。一方、粘度平均分子量が6,000,000以下であると、押出および延伸工程での成形性を向上させる観点で好ましい。
【0049】
ポリオレフィン樹脂多孔膜が主成分としてポリエチレンを含む場合、少なくとも1種類のポリエチレンのMvは、膜の配向と剛性の観点から、500,000以上であることが好ましく、600,000以上であることがより好ましく、700,000以上であることが更に好ましく、800,000以上であることがより好ましく、そしてポリエチレンのMv上限値は、例えば、2,000,000以下でよい。同様の観点から、ポリオレフィン樹脂多孔膜を構成するポリオレフィン樹脂のうちMv700,000以上のポリエチレンが占める割合は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましく、80質量%以上であることが特に好ましく、100質量%でもよい。
【0050】
所望により、ポリオレフィン樹脂多孔膜は、ポリプロピレンを含んでよく、そしてポリオレフィン樹脂におけるポリプロピレンの割合は、例えば、0質量%を超えてよく、又は1質量%~10質量%の範囲内もしくは5質量%~8質量%の範囲内でよい。
【0051】
ポリオレフィン樹脂多孔膜を構成するポリオレフィン樹脂の種類、分子量、及び組成は、例えば、ポリオレフィン微多孔膜の製造プロセスにおいて、ポリオレフィン等の高分子原料の種類、分子量及び配合割合などを制御することによって、上記のとおりに調整されることができる。また、同種もしくは異種のポリオレフィン樹脂微多孔膜を2層以上積層した構造を有する多層ポリオレフィン樹脂微多孔膜も、上記のとおりに調整される。
【0052】
(微多孔膜の詳細)
ポリオレフィン微多孔膜は、非常に小さな孔が多数集まって緻密な連通孔を形成した多孔構造を有しているため、電解液を含んだ状態においてイオン透過性に非常に優れると同時に高強度であるという特徴を有する。
【0053】
ポリオレフィン微多孔膜の(圧縮前の)平均膜厚は、高出力・高サイクル特性とショート不良の抑制との両立に加えて、セパレータの占有体積を低減して電池容量の向上に資するという観点から、上限値が、1μm以上であり、好ましくは3μm以上、より好ましくは4μm以上、更に好ましくは5μm以上、特に好ましくは8μm以上であり、そして上限値が、30μm以下であり、好ましくは25μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは16μm以下、より更に好ましくは15μm以下、特に好ましくは13μm以下である。ポリオレフィン微多孔膜の平均膜厚は、キャストロールのロール間距離、キャストクリアランス、二軸延伸時工程時の延伸倍率、HS倍率、HS温度等を制御することにより上記の数値範囲内に調整することができる。
【0054】
ポリオレフィン微多孔膜の(圧縮前の)透気度は、例えば非水系二次電池の製造においてプレス工程後に膜の電気抵抗を低下させて、電池の高出力と高サイクル特性を両立するという観点、および高いイオン透過性及び突刺強度の観点から、下限値が、好ましくは10sec/100cm以上、より好ましくは40sec/100cm以上、更に好ましくは50sec/100cm以上、より更に好ましくは60sec/100cm以上、特に好ましくは70sec/100cm以上、最も好ましくは80sec/100cm以上であり、そして上限値が、好ましくは500sec/100cm以下、より好ましくは200sec/100cm以下、更に好ましくは150sec/100cm以下、より更に好ましくは130sec/100cm以下、なお更に好ましくは120sec/100cm以下、特に好ましくは110sec/100cm以下、殊に好ましくは100sec/100cm以下、最も好ましくは90sec/100cm以下である。
【0055】
ポリオレフィン微多孔膜の(圧縮前の)気孔率は、例えば、微多孔膜をセパレータとして備える非水系二次電池の製造において、プレス工程後に膜の電気抵抗を低下させて、電池の高出力と高サイクル特性を両立するという観点から、好ましくは40%以上または40.0%以上、より好ましくは41.0%以上、更に好ましくは42.0%以上、より更に好ましくは43.0%以上、特に好ましくは44.0%以上、殊に好ましくは45.0%以上、最も好ましくは46.0であり、そして電池の安全性の観点、および一定の膜強度と低透気度を達成するという観点から、好ましくは80%以下または80.0%以下、より好ましくは70.0%以下、更に好ましくは65.0%以下、より更に好ましくは60.0%以下、特に好ましくは55.0%以下、最も好ましくは50.0%以下である。微多孔膜の気孔率は、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤の混合比率、二軸延伸工程時の延伸倍率、熱固定時の延伸倍率、熱固定時の緩和率などを制御すること、又はこれらを組み合わせることによって調整することができる。
【0056】
微多孔膜の孔径については、高いイオン透過性、優れた耐電圧及び高強度を達成するという観点から、ハーフドライ法により測定されるときに、下限値が、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、更に好ましくは30nm以上、より更に好ましくは40nm以上、特に好ましくは45nm以上であり、そして上限値が、好ましくは100nm以下、より好ましくは80nm以下、更に好ましくは70nm以下、より更に好ましくは60nm以下、特に好ましくは55nm以下、最も好ましくは50nm以下である。微多孔膜の孔径は、例えば、延伸温度、延伸倍率、熱固定温度、熱固定時の延伸倍率、熱固定時の緩和率などを制御すること、又はこれらを組み合わせることにより調整することができる。
【0057】
ポリオレフィン微多孔膜の190℃でのメルトフローインデックス(MI)は、例えば釘刺試験などの安全性試験において安全性を高めるという観点から、上限値が、好ましくは0.50g/10min以下、より好ましくは0.45g/10min以下、更に好ましくは0.40g/10min以下、特に好ましくは0.30g/10min以下であり、そして下限値が、好ましくは0.01g/10min以上、より好ましくは0.03g/10min以上、更に好ましくは、0.05g/10min以上、より更に好ましくは0.08g/10min以上、特に好ましくは0.10g/10min以上である。ポリオレフィン微多孔膜のMIは、例えば、ポリエチレン等の高分子原料の平均分子量及び/又は配合割合を制御することなどにより上記の数値範囲内に調整されることができる。
【0058】
ポリオレフィン微多孔膜の目付換算突刺強度は、膜強度を高めて、例えばプレス時に、膜の潰れを抑制するという観点、並びに電池の高出力性及び高サイクル性の観点から、55gf/(g/m)以上150gf/(g/m)以下であることが好ましい。目付換算突刺強度は、実施例に記載の方法により測定され、膜のTDに沿って、両端から中央に向かって全幅の10%内側の地点2点と中央1点との計3点で目付に換算されてない突刺強度(以下、単に突刺強度という)を測定し、それらの平均値を目付で除することにより得られる。膜の潰れを抑制して電池の出力性及びサイクル性を更に向上させるという観点から、ポリオレフィン微多孔膜の目付換算突刺強度の下限値は、より好ましくは57gf/(g/m)以上、更に好ましくは60gf/(g/m)以上、より更に好ましくは65gf/(g/m)以上、特に好ましくは70gf/(g/m)以上であり、その上限値は、より好ましくは130gf/(g/m)以下、更に好ましくは120gf/(g/m)以下、より更に好ましくは110gf/(g/m)以下、特に好ましくは100gf/(g/m)以下、殊に好ましくは90gf/(g/m)以下、最も好ましくは80gf/(g/m)以下である。
【0059】
ポリオレフィン微多孔膜の突刺強度は、目付換算突刺強度と同様の観点から、下限値が、好ましくは50gf以上、より好ましくは100gf以上、更に好ましくは200gf以上、より更に好ましくは240gf以上、特に好ましくは280gf以上、殊に好ましくは300gf以上、最も好ましくは350gf以上であり、その上限値が、好ましくは1000gf以下、より好ましくは600gf以下、更に好ましくは500gf以下、特に好ましくは400gf以下である。
【0060】
ポリオレフィン微多孔膜の突刺強度及び目付換算突刺強度は、例えば、ポリエチレン等の高分子原料の平均分子量及び/又は配合割合、二軸延伸時工程時の延伸倍率など制御することにより上記の数値範囲内に調整されることができる。
【0061】
ポリオレフィン微多孔膜の目付としては、非水系二次電池の熱暴走を抑制する観点から3.0g/m2以上が好ましく、電池の高容量化の観点からは10g/m2以下が好ましい。より好ましくは、ポリオレフィン微多孔膜の目付は、3.0g/m2以上7.0g/m2以下である。さらに好ましくは、ポリオレフィン微多孔膜の目付は、3.0g/m2以上6.0g/m2以下である。耐圧縮性が向上することにより、より低目付でも、電池の安全性を担保できる。
【0062】
ポリオレフィン微多孔膜の引張破断強度については、MD、TDともに、非水系二次電池の製造プロセスにおいて電極とセパレータを捲回および積層するために必要な膜強度を確保するという観点から、その上限値は、5000kgf/cm2以下であることが好ましく、4500kgf/cm2以下であることがより好ましく、4000kgf/cm2以下であることが更に好ましく、又は3500kgf/cm2以下であることがより更に好ましく、3,000kgf/cm2以下であることが特に好ましく、その下限値は、500kgf/cm2以上であることが好ましく、700kgf/cm2以上であることがより好ましく、1,000kgf/cm2以上、1500kgf/cm2以上、2000kgf/cm2以上、又は2500kgf/cm2以上であることが更に好ましい。また、ポリオレフィン微多孔膜の引張破断強度の上限値は、MD、TDともに、ポリオレフィン微多孔膜の熱収縮抑制の観点から、5000kgf/cm2よりも低いことが好ましい。
【0063】
ポリオレフィン微多孔膜のMDとTDの引張破断強度の値が近いほど、等方的な構造になり、構造均一性も高まるので、ポリオレフィン微多孔膜を含む非水系二次電池のサイクル特性が高まる。このような観点から、ポリオレフィン微多孔膜のMDの引張強度とTDの引張強度の比(MD/TD引張強度比)としては、0.7~1.3が好ましく、0.8~1.2がより好ましい。ポリオレフィン微多孔膜のMD/TD引張強度比は、例えば、二軸延伸工程時の同時二軸延伸、二軸延伸工程時の延伸倍率、HS倍率などを制御することによって、上記で説明された数値範囲内に調整されることができる。
【0064】
ポリオレフィン微多孔膜の熱収縮率については、比較的高温時の膜の形状安定性が高く、釘刺試験等の際に非水系二次電池の熱暴走状態において短絡を抑制するという観点から、120℃でMDに測定されるとき5%以上20%以下であることが好ましく、120℃でTDに測定されるとき1%以上25%以下であることが好ましい。
【0065】
ポリオレフィン微多孔膜の表面平滑度について、加圧状態における非水系二次電池の出力特性およびサイクル特性の観点から、ポリオレフィン微多孔膜の一方の面と他方の面との表面平滑度の平均値が、好ましくは20,000sec/10cm3以上200,000sec/10cm3以下、より好ましくは30,000sec/10cm3以上180,000sec/10cm3以下、更に好ましくは40,000sec/10cm3以上160,000sec/10cm3以下、特に好ましくは50,000sec/10cm3以上140,000sec/10cm3以下である。表面平滑度が20,000sec/10cm3より低い場合、ポリオレフィン微多孔膜と電極材料との物理的距離が不均一化するために電池反応が不均一化し、サイクル特性が悪化する場合がある。また、表面平滑度が200,000sec/10cm3より高い場合、ポリオレフィン微多孔膜と電極材料との距離が小さくなり、微多孔膜と電極材料の間に形成される空隙が小さくなるために、電解液の均一な浸透が妨げられ、サイクル特性が悪化する場合がある。ポリオレフィン微多孔膜の表面平滑度は、例えば、ポリオレフィン等の高分子原料の分子量及び配合割合、キャストロールのロール間距離、二軸延伸工程時の延伸倍率、二軸延伸工程時のMD/TD延伸温度、二軸延伸工程時の樹脂組成物の単位樹脂当たりの加熱量係数、HS倍率、HS温度などを制御することによって、上記で説明された数値範囲内に調整されることができる。
【0066】
ポリオレフィン微多孔膜の一方の表面と他方の表面について、動摩擦係数を所定の範囲内に調整することで、プレスによる外力が膜に均等に伝わるため、局所的な潰れを抑制することができ、ひいては非水系二次電池の出力特性およびサイクル特性を向上させることができる。このような観点から、ポリオレフィン微多孔膜の動摩擦係数の両表面の平均が、0.01以上0.4以下であることが好ましく、0.05以上0.38以下であることがより好ましく、0.10以上0.35以下であることが更に好ましく、0.15以上0.33以下であることがより更に好ましく、0.20以上0.30以下であることが特に好ましい。なお、塗工膜の場合には、塗工膜から塗工層を剥がして、ポリオレフィン微多孔膜の動摩擦係数又は表面平滑度を測定するものとする。
【0067】
ポリオレフィン微多孔膜の片面または両面の動摩擦係数およびその平均については、例えば、ポリオレフィン微多孔膜の製造プロセスにおいて、ポリオレフィン又はポリエチレン原料の分子量、ポリエチレン原料の含有率、二軸延伸工程時の延伸倍率、二軸延伸工程時のMD/TD延伸温度、熱固定工程時の温度、熱固定工程時の熱固定炉での熱固定係数に対する予熱係数の比(予熱係数/熱固定係数)などを制御することによって、上記で説明された数値範囲内に調整されることができる。プレスによる外力を膜に均等に伝えて、局所的な潰れを抑制するという観点から、ポリオレフィン又はポリエチレン原料の分子量、ポリエチレン原料の含有率、及び二軸延伸工程時の延伸温度を相対的に高くし、かつ/又はHS工程時の熱固定炉での比(予熱係数/熱固定係数)を一定値以下、具体的には0.5以下にすることが好ましい。
【0068】
(多層多孔膜)
本発明の一態様では、上記で説明されたポリオレフィン微多孔膜と、その少なくとも片面に配置される少なくとも1つの層とを有する多層多孔膜も提供される。多層多孔膜は、少なくとも1つの層の性質に応じて、ポリオレフィン微多孔膜に単数又は複数の機能を付与することができ、非水系二次電池用セパレータとして使用されることもできる。
【0069】
具体的には、多層多孔膜は、下記1~4のいずれかの層構成を有することができる:
層構成1:ポリオレフィン微多孔膜と、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に配置される無機多孔層とを含む;
層構成2:ポリオレフィン微多孔膜と、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に配置される熱可塑性樹脂層とを含む;
層構成3:ポリオレフィン微多孔膜と、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に配置される多機能層とを含む;及び
層構成4:ポリオレフィン微多孔膜と、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に配置される、無機多孔層、熱可塑性樹脂層、多機能層から成る群から選択される少なくとも二層以上とを含む。
【0070】
(無機多孔層)
無機多孔層は、無機粒子及びバインダ高分子を含む。無機多孔層を含む多層多孔膜は、無機多孔層の孔構造を有するため、イオン透過性を維持しながら、薄膜でも熱収縮抑制能に優れたものとなる。
【0071】
無機粒子としては、特に限定されないが、耐熱性及び電気絶縁性が高く、かつ非水系二次電池の使用範囲で電気化学的に安定であるものが好ましい。
【0072】
無機粒子の材料としては、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、及び酸化鉄などの酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、及び窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム又はベーマイト、チタン酸カリウム、タルク、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、及びケイ砂等のセラミックス;並びにガラス繊維などが挙げられる。これらの中でも、アルミナ、ベーマイト、及び硫酸バリウムから成る群から選ばれる少なくとも1つが、非水系二次電池内での安定性の観点から好ましい。また、ベーマイトとしては、電気化学素子の特性に悪影響を与えるイオン性の不純物を低減できる合成ベーマイトが好ましい。無機粒子は、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。
【0073】
無機粒子の形状としては、例えば、板状、鱗片状、多面体、針状、柱状、粒状、球状、紡錘状、ブロック状等が挙げられ、上記形状を有する無機粒子を複数種組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、透過性と耐熱性のバランスの観点からは、ブロック状が好ましい。
【0074】
無機粒子のアスペクト比としては、1.0以上3.0以下であることが好ましく、より好ましくは、1.1以上2.5以下である。アスペクト比が3.0以下であることで、多層多孔膜の水分吸着量を抑制し、サイクルを重ねた時の容量劣化を抑制する観点、及びPO微多孔膜の融点を超えた温度における変形を抑制する観点から好ましい。
【0075】
無機粒子が無機多孔層中に占める割合において、90質量%以上99質量%以下であることが好ましく、より好ましくは91質量%以上98質量%以下であり、更に好ましくは92質量%以上98質量%以下である。無機粒子の割合が90質量%以上であることで、イオン透過性の観点、及びポリオレフィン微多孔膜の融点を超えた温度での変形を抑制する観点から好ましい。また、この割合が99質量%以下であることで、無機粒子同士の結着力又は無機粒子とポリオレフィン微多孔膜との界面結着力を維持する観点で好ましい。
【0076】
バインダ高分子は、無機多孔層において複数の無機粒子同士を結び付けたり、無機多孔層とポリオレフィン微多孔膜を結び付けたりする材料である。バインダ高分子の種類としては、多層多孔膜がセパレータとして使用される際、非水系二次電池の電解液に対して不溶であり、且つ非水系二次電池の使用範囲で電気化学的に安定なものを用いることが好ましい。
【0077】
バインダ高分子の具体例としては、以下の1)~7)が挙げられる。
1)ポリオレフィン:例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンラバー、及びこれらの変性体;
2)共役ジエン系重合体:例えば、スチレン-ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体及びその水素化物;
3)アクリル系重合体:例えば、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル-アクリル酸エステル共重合体;
4)ポリビニルアルコール系樹脂:例えば、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル;
5)含フッ素樹脂:例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体;
6)セルロース誘導体:例えば、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース;
7)融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂あるいは融点を有しないが分解温度が200℃以上のポリマー:例えば、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエステル。
【0078】
短絡時の安全性の観点からは、3)アクリル系重合体、5)含フッ素樹脂、及び7)ポリマーとしてのポリアミドが好ましい。ポリアミドとしては、耐久性の観点から全芳香族ポリアミド、中でもポリメタフェニレンイソフタルアミドが好適である。
【0079】
バインダ高分子と電極との適合性の観点からは上記2)共役ジエン系重合体が好ましく、耐電圧性の観点からは上記3)アクリル系重合体及び5)含フッ素樹脂が好ましい。
【0080】
上記2)共役ジエン系重合体は、共役ジエン化合物を単量体単位として含む重合体である。
【0081】
上記共役ジエン化合物としては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロル-1,3-ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換及び側鎖共役ヘキサジエン類等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中でも、特に1,3-ブタジエンが好ましい。
【0082】
上記3)アクリル系重合体は、(メタ)アクリル系化合物を単量体単位として含む重合体である。上記(メタ)アクリル系化合物とは、(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸エステルから成る群から選ばれる少なくとも一つを示す。
【0083】
上記3)アクリル系重合体に用いられる(メタ)アクリル酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸を挙げることができる。
【0084】
上記3)アクリル系重合体に用いられる(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアメタクリレート;エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート;が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。上記の中でも、特に2-エチルヘキシルアクリレート(EHA)、ブチルアクリレート(BA)が好ましい。
【0085】
アクリル系重合体は、非水系二次電池の安全性の観点から、EHA又はBAを主な構成単位として含むポリマーであることが好ましい。主な構成単位とは、ポリマーを形成するための全原料に対して40モル%以上を占めるモノマーと対応するポリマー部分をいう。
【0086】
上記2)共役ジエン系重合体および3)アクリル系重合体は、これらと共重合可能な他の単量体をも共重合させて得られるものであってもよい。用いられる共重合可能な他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸アルキルエステル、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、不飽和カルボン酸アミド単量体、クロトン酸、マレイン酸、マレイン酸無水物、フマール酸、イタコン酸等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。上記の中でも、特に不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体が好ましい。不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0087】
なお、上記2)共役ジエン系重合体は、他の単量体として上記(メタ)アクリル系化合物を共重合させて得られるものであってもよい。
【0088】
バインダ高分子は、常温を超えるような高温時でさえも複数の無機粒子間の結着力が強く、熱収縮を抑制するという観点から、ラテックスの形態であることが好ましく、アクリル系重合体のラテックスであることがより好ましい。
【0089】
無機多孔層を形成するための塗工液には、分散安定化又は塗工性の向上のために、界面活性剤等の分散剤を加えてもよい。分散剤は、スラリー中で無機粒子表面に吸着し、静電反発などにより無機粒子を安定化させるものであり、例えば、ポリカルボン酸塩、スルホン酸塩、ポリオキシエーテルなどである。分散剤の添加量としては固形分換算で0.2重量部以上5.0重量部以下が好ましく、より好ましくは0.3重量部以上1.0重量部以下が好ましい。
【0090】
無機多孔層の総厚みは、0.1μm~10μmであることが好ましく、より好ましくは0.2μm~7μm、更に好ましくは0.3μm~4μmである。無機多孔層の総厚みとは、ポリオレフィン微多孔膜の片面に形成された場合は無機多孔層の厚みを、PO微多孔膜の両面に形成された場合は両方の無機多孔層の厚みの合計を示す。無機多孔層の総厚みが0.1μm以上であることで、ポリオレフィン微多孔膜の融点を超えた温度での変形を抑制する観点で好ましく、総厚みが10μm以下であることで、電池容量の向上の観点で好ましい。
【0091】
(熱可塑性樹脂層)
熱可塑性樹脂層は、熱可塑性樹脂を主成分として含む層であり、所望により他の成分を含んでよい。高接着性の観点から、熱可塑性樹脂層とポリオレフィン微多孔膜が直接接触していることが好ましい。
【0092】
熱可塑性樹脂層中に占める熱可塑性樹脂の割合は、電極に対する接着性の観点から、3質量%超が好ましく、10質量%以上がより好ましく、更に好ましくは、20質量%以上、40質量%以上、60質量%以上、又は80質量%以上であり、90質量%以上が特に好ましい。
【0093】
熱可塑性樹脂としては、例えば、上記の無機多孔層に含まれるバインダ高分子の具体例などが挙げられ、中でも、接着性の観点、及び非水系二次電池の釘刺試験又は短絡時の安全性の観点からは、2)共役ジエン系重合体、3)アクリル系重合体、5)含フッ素樹脂、及び7)ポリマーとしてのポリアミドが好ましい。
【0094】
ポリオレフィン微多孔膜の表面の全面積に対する熱可塑性樹脂層の面積割合は、100%以下、95%以下、80%以下、75%以下、又は70%以下であることが好ましく、また、この面積割合は、5%以上、10%以上、又は15%以上であることが好ましい。この面積割合を100%以下とすることは、熱可塑性樹脂によるポリオレフィン微多孔膜の孔の閉塞を抑制し、セパレータの透過性を一層向上する観点から好ましい。この面積割合を5%以上とすることは、電極との接着性を一層向上する観点から好ましい。
【0095】
熱可塑性樹脂層をポリオレフィン微多孔膜又は無機多孔層の面の一部分に配置する場合、熱可塑性樹脂層の配置パターンとしては、例えば、ドット状、斜線状、ストライプ状、格子状、縞状、亀甲状、ランダム状等、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0096】
熱可塑性樹脂層の厚みは、ポリオレフィン微多孔膜の片面当たり、0.1μm以上であることが好ましく、0.2μm以上であることがより好ましく、0.3μm以上であることが更に好ましく、また10μm以下であることが好ましく、7μm以下であることがより好ましく、4μm以下であることが更に好ましい。熱可塑性樹脂層の厚みを0.1μm以上とすることは、電極と多層多孔膜の間の接着力を均一に発現する観点で好ましく、その結果、電池特性を向上させることができる。熱可塑性樹脂層の厚みを10μm以下とすることは、イオン透過性の低下を抑制する観点で好ましい。
【0097】
(多機能層)
多機能層は、ポリオレフィン微多孔膜又はセパレータに多数の機能を付与する層であり、例えば、上記の無機多孔層と熱可塑性樹脂層の両方の機能を有することができる。より詳細には、多機能層は、上記で説明された、バインダ高分子又は熱可塑性樹脂と、無機粒子とを含み、所望により分散剤などの追加の成分を含んでよい。多機能層の厚みは、限定されるものではないが、ポリオレフィン微多孔膜に付与する機能、及び塗工条件に応じて決定されることができる。
【0098】
<ポリオレフィン微多孔膜の製造方法>
本発明に係るポリオレフィン微多孔膜の製造方法は、特に限定されないが、一例として以下の工程を含む方法が挙げられる:
(A)ポリオレフィン樹脂及び孔形成材を含むポリオレフィン組成物を押し出して、ゲル状シートを形成する工程;
(B)ゲル状シートを二軸延伸して、延伸シートを形成する工程;
(C)延伸シートから孔形成材を抽出して、多孔膜を形成する工程;並びに
(D)多孔膜を熱固定する工程。
ポリオレフィン微多孔膜の製造工程及び好ましい実施形態について以下に説明する。
【0099】
[押出工程(A)]
工程(A)では、ポリオレフィン組成物を押し出して、ゲル状シートを形成する。ポリオレフィン組成物は、ポリオレフィン樹脂、孔形成剤等を含んでよい。ポリオレフィン組成物に含まれる樹脂は、微粒子等の非樹脂成分、又は融点の大きく異なる高耐熱性樹脂を含まずに、ポリオレフィンのみから成ることが、延伸応力の均一化、及び得られる膜の透気度と透気度分布を良好にする観点から好ましい。ゲル状シートは、ポリオレフィン樹脂と孔形成材とを溶融混練してシート状に成形することにより得ることができる。
【0100】
先ず、ポリオレフィン樹脂と孔形成材を溶融混練する。溶融混練方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂及び必要によりその他の添加剤を、押出機、ニーダー、ラボプラストミル、混練ロール、バンバリーミキサー等の樹脂混練装置に投入することで、樹脂成分を加熱溶融させながら任意の比率で孔形成材を導入して混練する方法が挙げられる。
【0101】
ポリオレフィン組成物に含有されるポリオレフィン樹脂は、得られるポリオレフィン微多孔膜の所定の樹脂原料に応じて決定されることができる。具体的には、押出工程(A)で使用されるポリオレフィン樹脂は、実施形態1~4に係るポリオレフィン微多孔膜の構成要素として説明されたポリオレフィン樹脂でよい。
【0102】
樹脂組成物中の可塑剤の含有率については、下限値が、好ましくは66質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは73質量%以上であり、そして上限値が、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。可塑剤の含有率を66質量%以上に調整することで、樹脂組成物の溶融粘度が低下し、メルトフラクチャーが抑制されることで、押出時の製膜性が向上する傾向にある。他方、可塑剤の含有率を90質量%以下に調整することにより製膜工程中での原反伸びを抑制できることがある。
【0103】
ポリオレフィン組成物に含まれる高分子量原料は、得られる微多孔膜の分子量、MI、突刺強度、目付換算突刺強度、(圧縮前の)透気度と気孔率、プレスによる耐電圧減少率、及び熱収縮率を上記で説明された数値範囲内に調整するという観点から、原料のうち少なくとも1つについて、そのMv下限値が700,000以上であることが好ましく、そしてMv上限値は、例えば、2,000,000以下でよい。同様の観点から、ポリオレフィン組成物に含まれる樹脂のうちMv700,000以上の高分子量原料が占める割合は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましく、80質量%以上であることが特に好ましく、100質量%でもよい。
【0104】
ポリオレフィン組成物が主成分としてポリエチレンを含む場合、ポリエチレンのMvは、得られる微多孔膜のプレスによる耐電圧減少率、又は結晶構造特性値を上記で説明された数値範囲内に調整するという観点から、500,000以上であることが好ましく、600,000以上であることがより好ましく、700,000以上であることが更に好ましく、800,000以上であることがより好ましく、そしてポリエチレンのMv上限値は、例えば、2,000,000以下でよい。同様の観点から、ポリオレフィン樹脂多孔膜を構成するポリオレフィン樹脂のうちMv700,000以上のポリエチレンが占める割合は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましく、80質量%以上であることが特に好ましく、100質量%でもよい。
【0105】
また、得られる微多孔膜の耐熱性の観点から、ポリオレフィン組成物にポリプロピレンを混合してよい。この場合、ポリオレフィン組成物中の、総ポリオレフィン樹脂に対するポリプロピレンの割合は、膜の強度と耐圧縮性の観点から、1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2質量%以上15質量%以下、さらに好ましくは2質量%以上10質量%以下である。また、成形性を向上させる観点から、ポリオレフィン組成物中の、総ポリオレフィン樹脂に対するポリプロピレンの割合は3質量%以上10質量%以下が好ましく、5質量%以上9質量%以下が好ましい。
【0106】
孔形成材としては、可塑剤、無機材又はそれらの組み合わせを挙げることができる。
【0107】
可塑剤としては、特に限定されないが、ポリオレフィンの融点以上において均一溶液を形成し得る不揮発性溶媒を用いることが好ましい。不揮発性溶媒の具体例としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス等の炭化水素類;フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル等のエステル類;オレイルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール等が挙げられる。なお、これらの可塑剤は、抽出後、蒸留等の操作により回収して再利用してよい。
【0108】
可塑剤の中でも、流動パラフィンは、ポリオレフィン樹脂がポリエチレン又はポリプロピレンの場合に、これらとの相溶性が高く、溶融混練物を延伸しても樹脂と可塑剤の界面剥離が起こり難く、均一な延伸が実施し易くなる傾向にあるため好ましい。
【0109】
無機材としては、特に限定されず、例えば、アルミナ、シリカ(珪素酸化物)、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄などの酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス;ガラス繊維が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中でも、抽出が容易である点から、シリカが特に好ましい。
【0110】
ポリオレフィン樹脂組成物と無機材との比率は、良好な隔離性を得る観点から、これらの合計質量に対して無機材が3質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、高い強度を確保する観点から、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。
【0111】
次に、溶融混練物をシート状に成形してゲル状シートを得る。押出機により溶融混練を行う場合には、ポリオレフィン組成物の押出速度(すなわち、押出機の吐出量Q:kg/時間)と押出機のスクリュー回転数N(rpm)との比(Q/N、単位:kg/(h・rpm))が、好ましくは0.1以上7.0以下、より好ましくは0.5以上6.0以下、さらに好ましくは1.0以上5.0以下である。0.1以上7.0未満のQ/Nの条件下で溶融混練を行うと、樹脂と相分離した流動パラフィンがより分散し易くなるために、孔構造が緻密になり、高強度化できる傾向にある。
【0112】
シート状成形体を製造する方法としては、例えば、溶融混練物を、Tダイ等を介してシート状に押出し、熱伝導体に接触させて樹脂成分の結晶化温度より充分に低い温度まで冷却して固化する方法が挙げられる。冷却固化に用いられる熱伝導体としては、金属、水、空気、可塑剤等が挙げられる。これらの中でも、熱伝導の効率が高いため、金属製のロールを用いることが好ましい。また、押出したゲル状シートを金属製のロールに接触させる際に、ロール間で挟み込むことは、熱伝導の効率がさらに高まると共に、シートが配向して膜強度が増し、シートの表面平滑性も向上する傾向にあるためより好ましい。
【0113】
溶融混練物をTダイからシート状に押出す際のキャストクリアランスを制御して、得られる微多孔膜の(圧縮前の)平均膜厚を上記で説明された数値範囲内に調整するという観点から、例えばキャストロール等については、ロール間距離は200μm以上3,000μm以下であることが好ましく、500μm以上2,500μm以下であることがより好ましい。キャストロールのロール間距離が200μm以上であるとその後の延伸工程において膜破断などのリスクを低減することができ、ロール間距離が3,000μm以下であると、冷却速度が速く冷却ムラを防げる。また、薄膜を得て、かつ面配向及び結晶性を高めて圧縮性を改善するのに必要な延伸倍率を達成するという観点から、キャスト厚みは、500μm~2200μmであることが好ましく、700μm~2000μmであることが好ましい。
【0114】
また、押し出されたシート状成形体又はゲル状シートを圧延してもよい。圧延は、例えば、ロール等を使用した方法にて実施することができる。圧延を施すことにより、特に表層部分の配向を増すことができる。圧延面倍率は1倍を超えて3倍以下であることが好ましく、1倍を超えて2倍以下であることがより好ましい。圧延倍率が1倍を超えると、面配向が増加し、最終的に得られる多孔膜の膜強度が増加する傾向にある。圧延倍率が3倍以下であると、表層部分と中心内部の配向差が小さく、膜の厚さ方向に均一な多孔構造を形成することができる傾向にある。
【0115】
[二軸延伸工程(B)]
工程(B)では、工程(A)で得られたゲル状シートを延伸する。工程(B)は、シートから孔形成材を抽出する工程(C)の前に行う。工程(B)では、ゲル状シートの延伸処理は、ポリオレフィン微多孔膜の曲げ剛性をコントロールする観点から、長手方向と幅方向に少なくとも1回ずつ(すなわち、二軸延伸により)行われる。
【0116】
延伸方法としては、例えば、同時二軸延伸、逐次二軸延伸、多段延伸、多数回延伸等の方法を挙げることができる。中でも、膜強度の向上、MD/TD引張強度比の制御、及び延伸の均一性の観点、並びに幹構造が面内で等方性になり易く、プレス時に応力が等方分散されることにより釘刺試験安全性やサイクル特性が良好になるという観点から、同時二軸延伸が好ましい。同時二軸延伸とは、MD延伸とTD延伸が同時に施される延伸方法をいい、各方向の延伸倍率は異なってもよい。逐次二軸延伸とは、MD及びTDの延伸が独立して施される延伸方法をいい、MD又はTDに延伸が為されているときは、他方向は非拘束状態又は定長に固定されている状態とする。
【0117】
工程(B)のMD延伸では、得られる微多孔膜のプレスによる耐電圧減少率、プレス前後の結晶構造特性値、圧縮前の気孔率、突刺強度又は目付換算突刺強度を上記で説明された数値範囲内に調整するという観点、および主成分としてのポリエチレンを高度に配向させて高剛性の幹を形成するという観点から、MD延伸倍率の下限値は、6倍以上であることが好ましく、6.3倍以上であることがより好ましく、7倍以上であることが更に好ましく、その上限値は、15倍以下であることが好ましく、12倍以下であることがより好ましく、10倍以下であることが更に好ましく、8倍以下であることが特に好ましい。MD延伸倍率は、例えばMD延伸温度、MD延伸風速、MD延伸時間、MD延伸係数等に応じて調整されることができる。
【0118】
工程(B)のTD延伸では、得られる微多孔膜のプレスによる耐電圧減少率、プレス前後の結晶構造特性値、圧縮前の気孔率、突刺強度又は目付換算突刺強度を上記で説明された数値範囲内に調整するという観点、および主成分としてのポリエチレンを高度に配向させて高剛性の幹を形成するという観点から、TD延伸倍率の下限値は、6倍以上であることが好ましく、6.3倍以上であることがより好ましく、7倍以上であることが更に好ましく、その上限値は、15倍以下であることが好ましく、12倍以下であることがより好ましく、10倍以下であることが更に好ましく、8倍以下であることが特に好ましい。TD延伸倍率は、例えばTD延伸温度、TD延伸風速、TD延伸時間、TD延伸係数等に応じて調整されることができる。
【0119】
MDまたはTD延伸倍率と同様の観点、およびポリオレフィン微多孔膜の片面または両面の動摩擦係数およびその平均値を上記で説明された数値範囲内に調整するという観点から、MDまたはTD延伸温度の下限値は、好ましくは120.0℃以上、より好ましくは120.5℃以上、更に好ましくは121.0℃以上であり、その上限値は、好ましくは130.0℃以下、より好ましくは128.0℃以下、更に好ましくは126.0℃以下である。中でも、TD延伸温度、二軸延伸温度または同時二軸延伸温度が、上記の数値範囲内にあることが特に好ましい。工程(B)の延伸温度は、例えば、MD又はTD延伸風速、MD又はTD延伸時間、MD又はTD延伸係数等に応じて調整されることができる。
【0120】
工程(B)では、得られる微多孔膜の物性値を上記で説明された数値範囲内に調整するという観点から、二軸延伸倍率は、5倍×5倍以上であることが好ましく、5×5倍以上10×10倍以下であることがより好ましく、6×6倍以上10×10倍以下であることが更に好ましい。同様の観点から、二軸延伸倍率は、同時二軸延伸倍率であることが好ましい。
【0121】
[抽出工程(C)]
工程(C)では、シート状成形体から孔形成材を除去して多孔膜を得る。孔形成材を除去する方法としては、例えば、抽出溶剤にシート状成形体を浸漬して孔形成材を抽出し、充分に乾燥させる方法が挙げられる。孔形成材を抽出する方法は、バッチ式と連続式のいずれであってもよい。多孔膜の収縮を抑えるために、浸漬及び乾燥の一連の工程中にシート状成形体の端部を拘束することが好ましい。また、多孔膜中の孔形成材残存量は、多孔膜全体の質量に対して1質量%未満であることが好ましい。
【0122】
孔形成材を抽出する際に用いられる抽出溶剤としては、ポリオレフィン樹脂に対して貧溶媒であり、孔形成材に対して良溶媒であり、かつ沸点がポリオレフィン樹脂の融点より低いものを用いることが好ましい。このような抽出溶剤としては、例えば、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;塩化メチレン、1,1,1-トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロカーボン等の非塩素系ハロゲン化溶剤;エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類が挙げられる。なお、これらの抽出溶剤は、蒸留等の操作により回収して再利用してよい。また、孔形成材として無機材を用いる場合には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水溶液を抽出溶剤として用いることができる。
【0123】
[熱固定工程(D)]
熱固定工程(D)では、ポリオレフィン微多孔膜の収縮を抑制するために、工程(C)の可塑剤抽出後に、熱固定(HS)を目的として微多孔膜の熱処理を行う。微多孔膜の熱処理としては、物性の調整を目的として、所定の温度の雰囲気及び所定の延伸倍率で行う延伸操作、並びに/又は、延伸応力の低減を目的として、所定の温度の雰囲気及び所定の緩和率で行う緩和操作が挙げられる。緩和操作は、延伸操作後の膜の縮小操作のことである。これらの熱処理は、テンター又はロール延伸機を用いて行うことができる。なお、可塑剤抽出後の延伸及び緩和操作などを含む熱固定は、TDに行うことが好ましい。
【0124】
所望により、工程(D)では、ポリオレフィン微多孔膜の延伸前に、微多孔膜を予熱炉に送達したり、予熱に供したりしてよい。膜の破断を防ぎながらHS延伸を行なうという観点から、HS予熱温度の下限値は、好ましくは100℃以上、より好ましくは105℃以上、更に好ましくは110℃以上、特に好ましくは115℃以上であり、その上限値は、好ましくは140℃以下、より好ましくは135℃以下、130℃以下である。
【0125】
HSでの予熱係数は、予熱温度に予熱風速、予熱での膜の滞留時間(以下「予熱滞留時間」という。)を乗じることにより得られる値であり、HS予熱温度と同様の観点から、下限値が、好ましくは500℃・m以、より好ましくは1000℃・m以、更に好ましくは1500℃・m以、特に好ましくは2000℃・m以であり、そして上限値が、好ましくは10000℃・m以下、より好ましくは8000℃・m以下、更に好ましくは6000℃・m以下である。HS工程時の熱固定炉での熱固定係数に対する予熱係数の比(予熱係数/熱固定係数)の制御の観点から、予熱滞留時間の下限値は、1秒(s)以上であることが好ましく、かつ/又は予熱滞留時間の上限値は、10秒(s)以下であることが好ましく、8秒(s)以下であることがより好ましい。予熱滞留時間と同様の観点から、予熱風速の下限値は、1m/s以上であることが好ましく、かつ/又は予熱風速の上限値は、8m/s以下であることが好ましく、6m/s以下であることがより好ましい。なお、予熱炉が異なる風速の複数の部屋に分かれている場合には、「各部屋の風速×各部屋の炉長/予熱炉全体の炉長」の合計から、予熱炉全体の風速として予熱係数を算出する。
【0126】
工程(D)のTD延伸操作については、TD延伸温度が、好ましくは130℃以上150℃以下、より好ましくは132℃以上145℃以下、更に好ましくは133℃以上140℃以下になるように行われる。それにより、得られる微多孔膜のプレスによる耐電圧減少率、プレス前後の結晶構造特性値、圧縮前の気孔率、片面または両面の動摩擦係数およびその平均値を上記で説明された数値範囲内に調整し易くなる。
【0127】
工程(D)の熱固定倍率、すなわち緩和後倍率は、微多孔膜の主成分であるポリエチレンを結晶化させて、剛性の強い幹を形成するという観点、ならびに得られる微多孔膜の物性値を上記で説明された数値範囲内に調整するという観点から、下限値が、1.4倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、そして上限値が、2.5倍以下であることが好ましく、2.0倍以下であることがより好ましく、1.9倍以下であることが更に好ましく、1.8倍以下であることがより更に好ましく、1.7倍以下であることが特に好ましい。
【0128】
工程(D)の熱固定温度、すなわち緩和温度は、微多孔膜の主成分であるポリエチレンを結晶化させて、剛性の強い幹を形成するという観点、ならびに得られる微多孔膜の物性値を上記で説明された数値範囲内に調整するという観点から、下限値が、好ましくは130℃以上、より好ましくは131℃以上、更に好ましくは132℃以上であり、そして上限値が、好ましくは140℃以下、より好ましくは138℃以下、更に好ましくは136℃以下である。
【0129】
工程(D)では、得られるポリオレフィン微多孔膜のプレスによる結晶変化を少なくして、耐電圧減少を抑制するという観点から、熱固定炉で微多孔膜に予熱を掛けないことが好ましく、又は熱固定炉での熱固定係数に対する予熱係数の比(予熱係数/熱固定係数)を一定値以下に制御することが好ましい。工程(D)では、得られる微多孔膜のプレスによる耐電圧減少率、プレス前後の結晶構造特性値、微多孔膜の片面又は両面の動摩擦係数及びその平均値などを上記で説明された数値範囲内に調整するという観点からは、熱固定炉での比(予熱係数/熱固定係数)の上限値が、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.45以下、更に好ましくは0.4以下、特に好ましくは0.35以下であり、その下限値が、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.10以上、より更に好ましくは0.20以上、特に好ましくは0.25以上である。
【0130】
熱固定炉での熱固定係数は、熱固定温度に熱固定風速、熱固定工程での膜の滞留時間(以下「熱固定滞留時間」という。)を乗じることにより得られる値であり、そして得られるポリオレフィン微多孔膜のプレスによる結晶変化を少なくして、耐電圧減少を抑制するという観点、及び熱固定炉での比(予熱係数/熱固定係数)を制御するという観点から、熱固定係数の下限値は、好ましくは3000℃・m以上、より好ましくは5000℃・m以上、更に好ましくは6000℃・m以上であり、そして熱固定係数の上限値は、好ましくは30000℃・m以下、より好ましくは20000℃・m以下、更に好ましくは15000℃・m以下、特に好ましくは12000℃・m以下である。HS工程時の熱固定炉での比(予熱係数/熱固定係数)の制御の観点から、熱固定滞留時間の下限値は、1秒(s)以上であることが好ましく、かつ/又は熱固定滞留時間の上限値は、15秒(s)以下であることが好ましく、12秒(s)以下であることがより好ましい。熱固定滞留時間と同様の観点から、熱固定風速の下限値は、1m/s以上であることが好ましく、6m/s以上であることがより好ましく、かつ/又は熱固定風速の上限値は、15m/s以下であることが好ましく、12m/s以下であることがより好ましい。なお、熱固定炉が異なる風速の複数の部屋に分かれている場合には、「各部屋の風速×各部屋の炉長/熱固定炉全体の炉長」の合計から、熱固定炉全体の風速として風速および熱固定係数を算出する。また、熱固定滞留時間は、熱固定炉全体の炉長/熱固定炉全体の平均速度、から算出する。また、熱固定炉長は、横延伸緩和操作の始まった箇所から、熱固定炉の最後までの距離とする。
【0131】
工程(A)~(D)を含む製造方法により実施形態1~4に係るポリオレフィン微多孔膜を得ることができる。最終的に得られるポリオレフィン微多孔膜の総延伸倍率は、微多孔膜の主成分であるポリエチレンを結晶化させて、剛性の強い幹を形成するために、60倍以上200倍以下であることが好ましく、65倍以上150倍以下であることがより好ましく、70倍以上100倍以下であることが更に好ましい。
【0132】
<多層多孔膜の製造方法>
本発明の一態様に係る多層多孔膜の製造方法は、特に限定されないが、一例として、上記で製造されたポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に、多機能層、無機多孔層、及び熱可塑性樹脂層から成る群から選択される少なくとも一層を配置する工程を含むことができる。
【0133】
多機能層、無機多孔層又は熱可塑性樹脂層の配置方法は、特に限定されず、例えば、これらのいずれかの層の構成成分を含む塗工液を、ポリオレフィン微多孔膜の片面若しくは両面に、又はポリオレフィン微多孔膜上に形成された層上に、塗工する方法が挙げられる。塗工層の厚みは、0.1~10μmであることが好ましく、0.2~7μmであることがより好ましく、0.3~4μmであることが更に好ましい。また、塗工層の数は、0~5層であることが好ましく、0~3層であることがより好ましい。塗工層の厚みを適正に制御することで、電池容量を高めることが出来る。無機塗工は、基材の収縮を抑制して電池の安全性を高める効果があり、有機塗工は、電極との密着性を高め加工性を高める効果がある。無機成分と有機ポリマー成分を混合する事で、両方の特徴をバランスよく達成する事が出来る。
【0134】
塗工方法については、所望の塗工パターン、塗工膜厚、及び塗工面積を実現できる方法であれば特に限定はなく、例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法、インクジェット塗布法等が挙げられる。
【0135】
塗工液の媒体としては、水、又は水と水溶性有機媒体の混合溶媒が好ましい。水溶性有機媒体としては、特に限定されないが、例えば、エタノール、メタノール等を挙げることができる。
【0136】
塗工に先立ち、ポリオレフィン微多孔膜に表面処理を施しておくと、塗工液を塗工し易くなると共に、ポリオレフィン微多孔膜と塗工層の接着性が向上するため好ましい。表面処理の方法としては、例えば、コロナ放電処理法、プラズマ処理法、機械的粗面化法、溶剤処理法、酸処理法、紫外線酸化法等が挙げられる。
【0137】
塗工後に、ポリオレフィン微多孔膜の融点以下の温度での乾燥、減圧乾燥、溶媒抽出などにより、塗工膜から溶媒を除去してよい。
【0138】
代替的には、ポリオレフィン微多孔膜と、多機能層、無機多孔層、及び熱可塑性樹脂層から成る群から選択される少なくとも一層とを、別々に製造しておいて、貼付、積層、接着、融着などにより両者を統合してよい。
【0139】
<非水系二次電池用セパレータ、及び非水系二次電池>
実施形態1~4に係るポリオレフィン微多孔膜は、例えば非水系二次電池等において、具体的には非水系二次電池用セパレータとして、使用されることができる。非水系二次電池としては、例えば、リチウムイオン二次電池等が挙げられる。実施形態1~4に係るポリオレフィン微多孔膜は、リチウムイオン二次電池に組み込まれることによって、リチウムイオン二次電池の熱暴走を抑制するだけでなく、易収縮性電極、高容量電極、又はSi含有負極を備える場合でさえも、高出力特性及び高サイクル特性などの電池特性と、ショート不良の抑制とを両立することができる。
【実施例
【0140】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の物性は以下の方法により測定した。特に断りがない限り、各測定は室温23℃±2℃、湿度40%±5%の環境下で行なった。
【0141】
[粘度平均分子量]
ASTM-D4020に基づき、デカリン溶媒における135℃での極限粘度[η](dl/g)を求めた。
ポリエチレンについては、次式により算出した。
[η]=6.77×10-4Mv0.67
ポリプロピレンについては、次式によりMvを算出した。
[η]=1.10×10-4Mv0.80
【0142】
[重量平均分子量と数平均分子量]
Waters社製 ALC/GPC 150C型(商標)を用い、標準ポリスチレンを以下の条件で測定して較正曲線を作成した。また、下記各ポリマーについても同様の条件でクロマトグラムを測定し、較正曲線に基づいて、下記方法により各ポリマーの重量平均分子量を算出した。
カラム :東ソー製 GMH6-HT(商標)2本+GMH6-HTL(商標)2本
移動相 :o-ジクロロベンゼン
検出器 :示差屈折計
流速 :1.0ml/min
カラム温度:140℃
試料濃度 :0.1wt%
(ポリエチレン及びポリプロピレンの重量平均分子量と数平均分子量)
得られた較正曲線における各分子量成分に、0.43(ポリエチレンのQファクター/ポリスチレンのQファクター=17.7/41.3)又は0.64(ポリプロピレンのQファクター/ポリスチレンのQファクター=26.4/41.3)を乗じることにより、ポリエチレン換算又はポリプロピレン換算の分子量分布曲線を得て、重量平均分子量と数平均分子量を算出した。
(樹脂組成物又は樹脂微多孔膜の重量平均分子量と数平均分子量)
最も質量分率の大きいポリオレフィンのQファクター値を用い、その他はポリエチレンの場合と同様にして重量平均分子量と数平均分子量を算出した。
【0143】
[メルトフローインデックス(MI)]
JIS K7210:1999(プラスチック-熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR))に従って、微多孔膜のメルトフローインデックス(MI)を測定した。190℃で21.6kgfの荷重を膜に加えて、直径2mm、長さ10mmのオリフィスから10分で流出した樹脂量(g)を測定し、小数点以下第一位を四捨五入した値をMIとした。
【0144】
[密度(g/cm3)]
JIS K7112:1999に従い、密度勾配管法(23℃)により、試料の密度を測定した。
【0145】
[目付(g/m2)]
目付は、単位面積(1m2)当たりのポリオレフィン微多孔膜の重量(g)である。1m×1mにサンプリング後、島津製作所製の電子天秤(AUW120D)にて重量を測定した。なお、1m×1mにサンプリングできない場合は、適当な面積に切り出して重量を測定した後、単位面積(1m2)当たりの重量(g)に換算した。
【0146】
[(圧縮前の)微多孔膜の平均膜厚(μm)]
東洋精機製の微少測厚器(タイプKBN、端子径Φ5mm)を用いて、雰囲気温度23±2℃で厚みを測定した。なお、厚みを測定する際には微多孔膜を10cm×10cmにサンプリング後、重ねて15μm以上になるように複数枚微多孔膜を重ねて、9か所を測定して平均を取り、その平均値を重ねた枚数で割った値を1枚の厚みとする。
【0147】
[(圧縮前の)多層多孔膜及び塗工層の膜厚(μm)]
東洋精機株式会社製の微小測厚器「KBM(商標)」を用いて、室温(23±2℃)で多層多孔膜の厚みを測定して、(圧縮前の)微多孔膜の平均膜厚と(圧縮前の)多層多孔膜のそれぞれの厚みから塗工層の厚みを算出した。また、多層多孔膜からの検出の観点から、断面SEM像を用いて各層の厚みを計測することも可能である。
【0148】
[(圧縮前の)気孔率(%)]
3cm×3cm四方、1cm×1cm四方、5cm×5cm四方、または10cm×10cm四方の試料をポリオレフィン微多孔膜から切り取り、前記膜厚の測定結果より、その体積(cm3)と質量(g)を求め、それらと密度(g/cm3)より、次式を用いて計算した。
気孔率(%)=(体積-質量/混合組成物の密度)/体積×100
なお、混合組成物の密度は、用いたポリオレフィン樹脂と他の成分の各々の密度と混合比より計算して求められる値を用いた。
【0149】
また、多層多孔膜の(圧縮前の)気孔率は、下記式のように求められる。
多層多孔膜の気孔率=(基材となるポリオレフィン樹脂微多孔膜の気孔率)×(基材となるポリオレフィン樹脂微多孔膜の平均膜厚)÷(多層多孔膜全体の厚み)+(塗工層の気孔率)×(塗工層の厚み)÷(多層多孔膜全体の厚み)
ここでは、塗工層の気孔率は50%として、多層多孔膜の気孔率を算出した。塗工層の気孔率が50%ではない場合には、必要に応じて、塗工層の気孔率をポリオレフィン微多孔膜の気孔率と同様に上記式と同様に算出できる。具体的には、塗工膜において、SEMでの直接観察もしくは塗工前後の膜厚変化から塗工層の厚みを測定し、特定の面積の塗工層試料の体積を求めたうえで、当該塗工層の構成成分の材料比率から算出した塗工成分の質量平均密度を用いて、塗工層の気孔率を算出する。
【0150】
[(圧縮前の)透気度(sec/100cm3)]
旭精工株式会社の王研式透気度測定機「EGO2」で透気度を測定した。
透気度の測定値は、膜の幅方向(TD)に沿って両端から中央に向かって全幅の10%内側の地点2点と中央1点との計3点の透気度を測定し、それらの平均値を算出した値である。
【0151】
[圧縮試験]
圧縮試験は、三庄インダストリー株式会社の20kNヒータプレスを用い、1サイクル自動ヒータプレス、150×150mmおよび200℃に条件設定して実施した。厚さ0.8mmのゴム製の緩衝材、厚さ0.1mmのPETフィルム、微多孔膜、上記PETフィルム、上記緩衝材の順序で積層し、得られた積層体を静置し、積層体の片側の緩衝材面に対して圧力を掛けることにより圧縮試験を行なった。ここで、用いる微多孔膜は、幅方向90cmまでの範囲で、任意の箇所で、2枚重ねずつサンプリングし、次の2つの圧縮試験条件に応じて使用枚数を変更して、圧縮試験に用いた。必要に応じて、微多孔膜またはセパレータは、膜の幅方向90cmまでの範囲で、任意の箇所で、2枚重ねで5×5cmのサイズを圧縮前後用にそれぞれ70点ずつサンプリングした。プレス試験に用いる前に平均膜厚(9点平均)、目付、及び透気度を測定した。また、目付と平均膜厚から圧縮試験前の気孔率を算出した。
【0152】
次の2つの圧縮試験条件下で、それぞれ圧縮試験を行なって、その後に耐電圧試験を行なった。
【0153】
(圧縮試験条件1)
温度60℃、圧力3.4MPa及び圧縮時間1secの条件下、微多孔膜を一枚ずつプレスして、上記のとおりに圧縮試験を行なった。その後、再度2枚重ねの微多孔膜をセットにして、耐電圧試験に用いた。
【0154】
(圧縮試験条件2)
温度70℃、圧力8MPa及び圧縮時間3minの条件下、5cm×5cmのサイズを有する微多孔膜を二枚ずつプレスして、上記のとおりに圧縮試験を行なった。その後、二枚重ねのまま微多孔膜をセットして、耐電圧試験に用いた。
【0155】
[耐電圧試験]
圧縮試験前後の微多孔膜またはセパレータを5×5cmのサイズで2枚重ねたものを、アルミニウム箔の中心と微多孔膜またはセパレータの中心とを合わせて両面からアルミニウム箔(4×4cmのサイズ)で挟み、それらを両面から、菊水電子工業の「TOS9201」備え付け電極で挟んで、絶縁破壊試験を行った。温度23℃、湿度40%の環境下で次の条件に従って測定を行った。
・0Vから100V/sの速度で電圧を上げ、直流試験を行い、「>0.5mA、3s」となった電圧を絶縁破壊電圧として記録した。
・絶縁破壊試験は、菊水電子工業の「TOS9201」を用いて実施した。除電機は、SHISHIDO ELECTROSTATIC,LTD.の「WINSTAT AIR IONIZER BF-2DD」を用いて実施した。
・アルミニウム箔は、「A1N30H」(厚さ20μm)を用いた。
・微多孔膜またはセパレータは、上述のとおり、膜の幅方向90cmまでの範囲で、任意の箇所で、2枚重ね(5×5cm)を圧縮前後用にそれぞれ70点ずつサンプリングした。耐電圧試験前に必ず除電機を使用し、除電してから測定を行った。圧縮前の耐電圧試験では、サンプリングした2枚重ねのセットをそのまま測定に使用した。圧縮後の試験では、一枚ずつプレスした場合は、再度二枚に重ね、二枚ずつプレスした場合には、そのまま測定に使用した。
・圧縮試験前後、それぞれ70点の平均値を算出し、((圧縮前の耐電圧平均)―(圧縮後の耐電圧平均))/(圧縮前の耐電圧平均)×100を計算して、耐電圧減少率(%)を求めた。
【0156】
[動摩擦試験]
微多孔膜の一方の表面(A面)と他方の表面(B面)について、動摩擦係数は、カトーテック株式会社製、KES-SE摩擦試験機を用い、荷重50g、接触子面積10×10=100mm(0.5mmφの硬質ステンレス線SUS304製ピアノ線を互いに隙間なく、かつ、重ならないように20本巻きつけたもの)、接触子送りスピード1mm/sec、張力6kPa、温度23℃、及び湿度50%の条件下にてMD50mm×TD200mmのサンプルサイズについてMD、TDに各3回測定し、その平均値を求めることにより算出した。なお、下記表には、微多孔膜サンプルのA面とB面のそれぞれについて、MD、TDに各3回測定し、それらの平均値を示す。
【0157】
[120℃,1時間での熱収縮率(%)]
サンプルとして、多孔膜をMDに100mmかつTDに100mm、MDに50mmでTDかつ50mm、またはMDに30mmかつTDに30mmの加熱前の長さ(mm)に切り取り、120℃のオーブン中に1時間静置した。このとき、温風が直接サンプルに当たらないように、サンプルを10枚の紙に挟んだ。サンプルをオーブンから取り出して冷却した後、長さを測定して加熱後の長さ(mm)とし、下式にて熱収縮率を算出した。測定はMDとTDでそれぞれ行い、数値の大きい方を熱収縮率とした。
熱収縮率(%)={(加熱前の長さ-加熱後の長さ)/加熱前の長さ}×100
【0158】
[突刺強度および目付換算突刺強度]
カトーテック製のハンディー圧縮試験器KES-G5(商標)を用いて、開口部の直径11.3mmの試料ホルダーで微多孔膜を固定した。次に固定された微多孔膜の中央部を、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secで、室温23℃及び湿度40%の雰囲気下にて突刺試験を行うことにより、最大突刺荷重として突刺強度(gf)を測定した。突刺試験の測定値は、膜のTDに沿って、両端から中央に向かって全幅の10%内側の地点2点と中央1点との計3点を測定し、それらの平均値を算出した値である。
目付換算突刺強度は以下の式で求める。
目付換算突刺強度[gf/(g/m2)]=突刺強度[gf]/目付[g/m2
ここで、ポリオレフィン微多孔膜基材に少なくとも1つ以上の層を設けた多層多孔膜の突刺強度および目付換算突刺強度に関しては、樹脂の強度および目付当たりの強度を評価する観点から、ポリオレフィン微多孔膜基材の突刺強度および目付換算突刺強度をもって特性を評価した。
【0159】
[孔径(nm):ハーフドライ]
ハーフドライ法に準拠し、パームポロメータ(Porous Materials,Inc.社:CFP-1500AE)を用い、平均孔径(nm)を測定した。浸液には同社製のパーフルオロポリエステル(商品名「Galwick」、表面張力15.6dyn/cm)を用いた。乾燥曲線、及び湿潤曲線について、印加圧力、及び空気透過量の測定を行い、得られた乾燥曲線の1/2の曲線と湿潤曲線とが交わる圧力PHD(Pa)から、次式により平均孔径dHD(nm)を求め、孔径とした。
dHD=2860×γ/PHD
【0160】
[目付当たりの(圧縮前の)耐電圧測定]
ポリオレフィン微多孔膜の幅方向の中央1点について、MD10cm×TD10cmに切り出し、直径5mmのアルミニウム板で挟み、菊水電子工業製の耐電圧測定機(TOS9201)でこれの測定を実施した。測定条件については、直流電圧を初電圧0Vからスタートし、100V/secの昇圧速度で電圧を掛け、電流値が0.2mA流れた時の電圧値(kV)を微多孔膜の耐電圧測定値とした。なお、15mm間隔にMD5点×TD5点の合計25点測定し、その平均値を耐電圧測定値とした。目付当たりの耐電圧は、耐電圧に対する目付の比(耐電圧/目付)を算出した。
【0161】
[結晶構造解析]
ポリオレフィン微多孔膜中の結晶長周期については、リガク社製NANOPIXを用い、透過法の小角X線散乱測定を行った。CuKα線を試料に照射し、半導体検出器HyPix-6000により散乱を検出した。試料-検出器間距離は1312mm、出力は40kV,30mAの条件で測定を行った。光学系はポイントフォーカスを採用し、スリット径は1st slit:φ=0.55mm, 2nd slit:open, guard slit:φ=0.35mmの条件で行った。なお、試料は、試料面とX線入射方向とが垂直になるようにセットした。
【0162】
圧縮前のポリエチレン結晶(110)面、(200)面由来の回折ピーク間距離については、リガク社製X線回折装置Ultima-IVを用いてXRD測定を行った。Cu-Kα線を試料に入射し、リガク社製検出器D/tex Ultraにより回折光を検出した。試料-検出器間距離285mm、励起電圧40kV及び電流40mAの条件下で測定を行った。光学系としては集中光学系を採用し、DS=1/2°、SS=解放及び縦スリット=10mmというスリット条件下で測定を行った。なお、測定時には試料を回転させた。
【0163】
(結晶長周期[nm])
HyPix-6000から得られたX線散乱パターンに対して、円環平均によりSAXSプロフィールI(q)を得た。得られた1次元プロフィールI(q)のLinear-Linearプロットにおいて0.1nm-1< q < 0.6nm-1範囲で直線のベースラインを引き、Gauss関数でフィッティングを行った。最大強度となっている位置を結晶長周期由来のピーク位置qmとして下記式4から結晶長周期を計算した。

d = 2π/ qm 式4

{式中、d(nm):結晶長周期
m(nm-1):SAXSプロフィール中のラメラ由来のピーク位置}
【0164】
(圧縮前のポリエチレン結晶(110)面、(200)面由来の回折ピーク間距離)
得られたXRDプロフィールの2θ=9.7°から2θ=29.0°までの範囲を直線でベースラインを引き、斜方晶(110)面回折ピークと斜方晶(200)面回折ピークと非晶ピークの3つに分離した。(110)面回折ピークと(200)面回折ピークはVoight関数で近似し、非晶ピークはgauss関数で近似した。なお、非晶ピークのピーク位置は、2θ=19.6°、半値全幅は6.3°で固定し、結晶ピークのピーク位置と半値全幅は特に固定せずにピーク分離を行った。ピーク分離により得られた(110)面および(200)面回折ピーク位置の差分の絶対値をピーク間距離として算出した。
【0165】
[引張破断強度(MPa)とMD/TD引張破断強度比および引張破断伸度(%)とMD/TD引張破断伸度比]
JIS K7127に準拠し、島津製作所製の引張試験機、オートグラフAG-A型(商標)を用いて、MD及びTDサンプル(形状;幅10mm×長さ100mm)について測定した。引張試験機のチャック間を50mmとし、サンプルの両端部(各25mm)の片面にセロハン(登録商標)テープ(日東電工包装システム(株)製、商品名:N.29)を貼ったものを用いた。更に、試験中のサンプル滑りを防止するために、引張試験機のチャック内側に、厚み1mmのフッ素ゴムを貼り付けた。
なお、測定は、温度23±2℃、チャック圧0.40MPa、及び引張速度100mm/minの条件下で行った。
引張破断強度(MPa)は、ポリオレフィン微多孔膜の破断時の強度を、試験前のサンプル断面積で除することで求めた。また、ポリオレフィン微多孔膜の破断時の伸度を、引張破断伸度(%)とした。
引張破断強度をMDとTDのそれぞれについて求めて、MD引張破断強度とTD引張破断強度の比(MD/TD引張破断強度比)も算出した。同様に、引張破断伸度をMDとTDのそれぞれについて求めて、MD引張破断伸度とTD引張破断伸度の比(MD/TD引張破断伸度比)も算出した。
【0166】
[平滑度(sec/10cm3)]
ISO 8791-5:2020に準拠し、旭精工(株)製の透気度平滑度計EYO-5型において内径0.15mm、長さ50mmのステンレス製のノズルを用いて、温度30℃、及び湿度40%の雰囲気でポリオレフィン微多孔膜の平滑度を測定した。ポリオレフィン微多孔膜の一方の表面と他方の表面について、それぞれ表面平滑度の測定を行って、上記で説明されたとおりに一方の表面と他方の表面の平滑度の平均値も算出した。
【0167】
[電池試験]
a.正極の作製
正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物LiCoO2、並びに導電材としてグラファイト及びアセチレンブラックを、バインダであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びN-メチルピロリドン(NMP)に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを正極集電体となる厚さ15μmのアルミニウム箔にダイコーターで塗布し、130℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。得られた成形体を57.0mm幅にスリットして正極を得た。
【0168】
b.負極の作製
負極活物質として人造グラファイト、及びバインダとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩とスチレン-ブタジエン共重合体ラテックスとを、精製水に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる銅箔にダイコーターで塗布し、120℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。得られた成形体を58.5mm幅にスリットして負極を得た。
【0169】
c.非水電解液の調製
エチレンカーボネート:ジメチルカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPF6を濃度1mol/Lとなるように溶解させて、非水電解液を調製した。
【0170】
d.電池組立
正極、実施例又は比較例で得られた多孔膜及び負極を捲回した後、常法により捲回電極体を作製し、外装缶に入るようにプレス機にてプレスした。なお、捲回数はポリオレフィン微多孔膜の厚み及びスプリングバックの程度によって調整した。得られた巻回電極体の最外周端部を絶縁テープの貼付により固定した。負極リードを電池缶に、正極リードを安全弁にそれぞれ溶接して、巻回電極体を電池缶の内部に挿入した。その後、非水電解液を電池缶内に5g注入し、ガスケットを介して蓋を電池缶にかしめることにより、幅42.0mm、高さ63.0mm、厚さ10.5mmの角型二次電池を得た。この角型二次電池を25℃の雰囲気下、0.2C(定格電気容量の1時間率(1C)の0.2倍の電流)の電流値で電池電圧4.2Vまで充電し、到達後4.2Vを保持するようにして電流値を絞り始めるという方法で、合計3時間充電を行った。続いて0.2Cの電流値で電池電圧3.0Vまで放電した。
【0171】
e.出力特性試験(25℃)
上記d.と同様にして組み立てて評価のために選定された角型二次電池について、25℃の環境下で、1Cの定電流で充電し、4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計3時間充電した。充電後の電池を、25℃の雰囲気下の恒温状態で放電終止電圧3Vまでの1C放電容量と5C放電容量を測定し、5C容量/1C容量を出力特性値とした。なお、下記基準に即して出力特性値を評価した。
A:出力特性値が0.95以上。
B:出力特性値が0.90以上0.95未満。
C:出力特性値が0.90未満。
【0172】
f.サイクル試験(25℃)
上記d.と同様にして組み立てて評価のために選定された角型二次電池を用いて、(i)電流量0.5C、上限電圧4.2V、合計3時間の定電流定電圧充電、(ii)10分間の休止、(iii)電流量0.5C、終止電圧3.0Vの定電流放電、(iv)10分間の休止、のサイクル条件下で都合100回の充放電を行った。上記充放電処理は全て25℃の雰囲気下にてそれぞれ実施した。その後、上記初回電池容量X(mAh)に対する上記100サイクル目の放電容量の比を100倍することで、容量維持率(%)を求めた。なお、下記基準に即して容量維持率を評価した。
A:容量維持率(%)が90%以上。
B:容量維持率(%)が88%以上90%未満。
C:容量維持率(%)が88未満。
【0173】
[実施例1]
(A)表1に示すように、Mv70万以上のポリエチレン(PE)の割合を調整して、原料樹脂組成物を得た。次に、原料樹脂組成物と流動パラフィンと0.1質量%の酸化防止剤とを配合して、ポリオレフィン組成物を得た。次に、ポリオレフィン組成物を二軸押出機に投入し、溶融したポリオレフィン組成物を押出してゲル状シートを形成し、キャストロールで冷却固化した。
(B)同時二軸延伸機を用いて、表1に示される条件下で、冷却固化されたシートの二軸延伸工程を行なって、延伸シートを得た。
(C)その後、延伸シートを塩化メチレンに浸漬し、流動パラフィンを抽出除去してから乾燥させて多孔化した。
(D)さらに、一軸延伸機を用いて、表1に示される条件下で、得られた多孔化物の熱固定を行なって、ポリオレフィン微多孔膜を得た。得られたポリオレフィン微多孔膜の総延伸倍率は、78倍であった。得られたポリオレフィン微多孔膜を上記方法に従って評価し、さらにポリオレフィン微多孔膜を備える電池も評価した。評価結果を表3に示す。
【0174】
[実施例2~11、参考例1、及び比較例2]
表1及び2に示される樹脂原料と製造条件を使用したこと以外は実施例1と同様の方法でポリオレフィン微多孔膜を得て、評価した。評価結果を下記表3及び4に示す。
【0175】
【表1】
【0176】
【表2】
【0177】
【表3】
【0178】
【表4】