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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】固体電解質およびそれを含む全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20240723BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240723BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/052
H01B1/06 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023506524
(86)(22)【出願日】2021-10-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-30
(86)【国際出願番号】 KR2021014159
(87)【国際公開番号】W WO2022131505
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】10-2020-0174457
(32)【優先日】2020-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】503257778
【氏名又は名称】コリア エレクトロニクス テクノロジ インスティチュート
【住所又は居所原語表記】25,Saenari-ro,Bundang-gu,Seongnam-si,Gyeonggi-do 13509 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ウ ソク
(72)【発明者】
【氏名】キム,キョン ス
(72)【発明者】
【氏名】ユ,ジ サン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,グ ジン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ゴン ホ
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-072288(JP,A)
【文献】国際公開第2017/002971(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/239949(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/0562
H01B1/00-1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】

下記の化学式で表されるオキシスルフィド(oxysulfide)系化合物を含む全固体電池用固体電解質。
【化1】
(5≦a≦7、2.5≦d≦5、0<e≦2および1<f≦1.5であり
は、Cl、Br、IおよびFからなるグループから1つ以上選ばれる。)
【請求項2】
前記オキシスルフィド系化合物は、アルジロダイト結晶構造を含むことを特徴とする請求項1に記載の全固体電池用固体電解質。
【請求項3】
記Xは、Clを含み、Brをさらに含んでもよいことを特徴とする請求項1に記載の全固体電池用固体電解質。
【請求項4】
前記Clの含有量が前記Brの含有量より高いことを特徴とする請求項3に記載の全固体電池用固体電解質。
【請求項5】
前記Xは、ClとBrを含み、かつ
前記Xの含有量内で、前記C1の含有量が一定であり、前記Brの含有量が増加するほど、前記オキシスルフィド系化合物の格子定数が増加することを特徴とする請求項4に記載の全固体電池用固体電解質。
【請求項6】
前記XがClである場合、前記C1の含有量が増加するほど、前記オキシスルフィド系化合物の格子定数が減少することを特徴とする請求項1に記載の全固体電池用固体電解質。
【請求項7】
前記a、d、およびeは、それぞれ、5.6≦a≦6、4≦d≦5、0<e≦0.6および1<f≦1.5であることを特徴とする請求項1に記載の全固体電池用固体電解質。
【請求項8】
下記の化学式で表されるオキシスルフィド系化合物を含む全固体電池。
【化2】
(5≦a≦7、2.5≦d≦5、0<e≦2および1<f≦1.5であり
は、Cl、Br、IおよびFからなるグループから1つ以上選ばれる。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池に関し、より詳細には、従来硫化物固体電解質のアニオンが一部を酸素で置換したオキシスルフィド(oxysulfide)固体電解質に関し、イオン伝導度および水分安定性が向上する固体電解質およびそれを含む全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車および大容量の電力貯蔵装置の要求が高まるにつれて、これを満たすための多様な電池の開発が行われてきた。
【0003】
リチウム二次電池は、多様な二次電池のうちエネルギー密度および出力特性に最も優れていて、広く商用化された。リチウム二次電池としては、有機溶媒を含む液体タイプの電解質を含むリチウム二次電池(以下「液体タイプ二次電池」という)が主に使用されている。
【0004】
しかしながら、液体タイプ二次電池は、液体電解質自体が可燃性の物質であり、内外部の衝撃などによる損傷時の発火の危険性が指摘されている。このような液体タイプ二次電池の問題点を解消するために、安定性に優れた固体電解質を適用したリチウム二次電池(以下「全固体電池」という)が注目されている。
【0005】
硫化物系固体電解質は、粉末がもろいため、焼結工程なしに常温加圧だけでも粒子間の接触特性に優れる。これによって、硫化物系固体電解質は、酸化物系固体電解質と比べて接触抵抗が低く、それによって、高いイオン伝導度を示すことが可能であるため、注目を浴びている。
【0006】
しかしながら、硫化物系固体電解質は、化学的安定性が酸化物系固体電解質より相対的に低いため、全固体電池の作動が安定しないという短所を有する。硫化物系固体電解質は、残存LSや構造内に含まれているP加硫などの様々な要因によって、大気中の水分または工程上流入する水分と反応しやすい。そのため、硫化物系固体電解質は、水分との反応を通じて硫化水素(HS)ガスを発生する恐れがあるので、アルゴンガス雰囲気のグローブボックス、水分を除去したドライルームなどの環境で取り扱っている。また、硫化物系固体電解質は、水分との反応性が高くて、硫化水素ガスの発生によってイオン伝導度が低下するなど、製作工程上の問題点を持っている。
【0007】
このように従来の硫化物系固体電解質は、厳しい取り扱い条件を要求するので、硫化物系固体電解質を用いる全固体電池の大面積化および大量量産時の製作工程上の短所として作用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】韓国公開特許第2019-0079135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、高いイオン伝導度を有し、大気中の水分環境に対して安定性に優れたオキシスルフィド系化合物を含む固体電解質およびそれを含む全固体電池を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、大気露出時に硫化水素(HS)ガスの発生量を減らすことができるオキシスルフィド系化合物を含む固体電解質およびそれを含む全固体電池を提供することにある。
【0011】
本発明のまた他の目的は、大気露出後にもイオン伝導度の低下を抑制できるオキシスルフィド系化合物を含む固体電解質およびそれを含む全固体電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、下記の化学式で表されるオキシスルフィド系化合物を含む全固体電池用固体電解質を提供する。
【0013】
【化1】
【0014】
(5≦a≦7、0<b≦1、0≦c<1、2.5≦d≦5、0<e≦2および1<f≦1.5であり、
Mは、Si、Ti、Ta、Nb、As、Sb、SnおよびAlからなるグループから1つ以上選ばれ、
Xは、Cl、Br、IおよびFからなるグループから1つ以上選ばれる。)
【0015】
前記オキシスルフィド系化合物は、アルジロダイト結晶構造を含む。
【0016】
前記Mは、Siであり、前記Xは、Clを含み、Brをさらに含んでもよい。
【0017】
前記Clの含有量が前記Brの含有量より高くてもよい。
【0018】
前記Clの含有量が一定であり、前記Brの含有量が増加するほど、前記オキシスルフィド系化合物の格子定数が増加する。
【0019】
前記XがClである場合、前記C1の含有量が増加するほど、前記オキシスルフィド系化合物の格子定数が減少する。
【0020】
前記a、b、c、d、およびeは、それぞれ、5.6≦a≦6、0.1≦b≦0.3、0.7≦c<1、4≦d≦5、0<e≦0.6および1<f≦1.5であってもよい。
【0021】
前記Xの含有量が増加するほど、硫化水素ガスの発生量が減少する。
【0022】
前記オキシスルフィド系化合物は、Li6.1Si0.10.94.80.2Clの固体電解質に比べて、活性化エネルギーが低い。
【0023】
前記オキシスルフィド系化合物は、0.34~0.41eVの活性化エネルギーを有していてもよい。
【0024】
前記オキシスルフィド系化合物は、Lic1X(0≦c1≦1)の固体電解質に比べて、大気露出後、イオン伝導度が高い。
【0025】
前記オキシスルフィド系化合物のイオン伝導度は、常温で、大気露出前に1.54~2.58mS/cmであり、大気露出後に0.49~0.97mS/cmであってもよい。
【0026】
また、本発明は、前記化学式で表現されるオキシスルフィド系化合物を含む全固体電池を提供する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によるオキシスルフィド系化合物を含む固体電解質は、大気中の水分環境に対して優れた安定性と向上したイオン伝導度を提供することができる。また、活性化エネルギー(activation energy)が改善され、向上したイオン伝導度を提供することができる。
【0028】
本発明によるオキシスルフィド系化合物を含む固体電解質は、水分安定性の向上によって大気露出時にも硫化水素(HS)ガスの発生量を減らすことができる。これによって、本発明による固体電解質は、大気露出後にもイオン伝導度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施例および比較例による固体電解質のXRDパターンから算出された格子定数を示すグラフである。
図2】実施例および比較例による固体電解質の大気露出時の硫化水素発生量を示すグラフである。
図3】実施例および比較例による固体電解質の活性化エネルギーを示すグラフである。
図4】実施例および比較例による固体電解質の大気露出前後のイオン伝導度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
下記の説明では、本発明の実施例を理解するのに必要な部分のみが説明され、その他の部分の説明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で省略されることに留意しなければならない。
【0031】
以下で説明される本明細書および請求範囲に使用される用語や単語は、通常的や辞書的な意味に限定して解すべきものではなく、発明者は自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に基づいて、本発明の技術的思想に符合する意味や概念として解すべきである。したがって、本明細書に記載された実施例と図面に示された構成は、本発明の好適な実施例に過ぎず、本発明の技術的思想を全部表すものではないので、本出願時点においてこれらを代替できる多様な均等物と変形例がありえることを理解しなければならない。
【0032】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施例をより詳細に説明する。
【0033】
本発明による全固体電池用固体電解質は、下記の化学式で表されるオキシスルフィド(oxysulfide)系化合物を含む。
【0034】
【化2】
【0035】
(5≦a≦7、0<b≦1、0≦c<1、2.5≦d≦5、0<e≦2および1<f≦1.5であり、
Mは、Si、Ti、Ta、Nb、As、Sb、SnおよびAlからなるグループから1つ以上選ばれ、
Xは、Cl、Br、IおよびFからなるグループから1つ以上選ばれる。)
【0036】
本発明によるオキシスルフィド系化合物は、非晶質構造または結晶質構造、あるいはその混合状態であってもよい。本発明によるオキシスルフィド系化合物は、アルジロダイト(argyrodite)結晶構造の結晶相を含んでもよい。
【0037】
アルジロダイト結晶構造は、当業界に広く知られているので、これに関する詳しい説明は省略する。このようなアルジロダイト結晶構造を含む本発明による固体電解質は、高いイオン伝導度を有することができるようになる。
【0038】
本発明によるオキシスルフィド系化合物は、LiPSXのP位置にSiの一部が置換され、必要に応じてS位置にOおよびXのうち一部が置換された形態を有する。
【0039】
ここで、bとcは、b+c=1であってもよく、d+e+f=6であってもよい。
【0040】
本発明によるオキシスルフィド系化合物において、Mは、Siであり、Xは、Clを含み、Brをさらに含んでもよい。
【0041】
ここで、Clの含有量がBrの含有量より高くてもよい。
【0042】
C1の含有量が一定であり、Brの含有量が増加するほど、オキシスルフィド系化合物の格子定数が増加する。格子定数の増加は、Sに比べてイオン半径の大きいBrがオキシスルフィド系化合物の構造内部に固溶したためである。
【0043】
XがClである場合、C1の含有量が増加するほど、オキシスルフィド系化合物の格子定数が減少する。格子定数の減少は、Sに比べてイオン半径の小さいClがオキシスルフィド系化合物の構造内部に固溶したためである。
【0044】
好ましくは、a、b、c、d、およびeは、それぞれ、5.6≦a≦6、0.1≦b≦0.3、0.7≦c<1、4≦d≦5、0<e≦0.6および1<f≦1.5であってもよい。
【0045】
本発明によるオキシスルフィド系化合物は、Xの含有量が増加するほど、硫化水素ガスの発生量が減少する。
【0046】
本発明によるオキシスルフィド系化合物は、Li6.1Si0.10.94.80.2Clの固体電解質に比べて、活性化エネルギーが低いことを確認することができる。
【0047】
本発明によるオキシスルフィド系化合物は、Lic1X(0≦c1≦1)の固体電解質に比べて、大気露出後にイオン伝導度が高く、硫化水素ガスの発生量が低い。
【0048】
このように本発明による固体電解質は、固体電解質の大気中の水分環境に対して優れた安定性を提供する。また、活性化エネルギー(activation energy)が改善され、向上したイオン伝導度を提供することができる。
【0049】
本発明による固体電解質は、水分安定性の向上によって大気露出時にも硫化水素(HS)ガスの発生量を減らすことができる。これによって、本発明による固体電解質は、大気露出後にもイオン伝導度の低下を抑制することができる。
【0050】
本発明による固体電解質は、正極、負極および固体電解質膜のうち少なくとも1つに含まれてもよい。
【0051】
本発明による固体電解質を含む全固体電池を提供する。
【0052】
前述したように、本発明による固体電解質は、オキシスルフィド系化合物を含んでいて、高いイオン伝導度を有しながらも、大気への露出時に硫化水素ガスの発生速度および発生量を最小化することができる。したがって、本発明による固体電解質を含む全固体電池は、優れた水分安定性および安全性を有するので、大面積化および大量量産が可能であり、製造工程性にも優れている。
【0053】
このような全固体電池は、正極と、負極と、正極と負極の間に介在される固体電解質膜を含む。
【0054】
[実施例および比較例]
このような本発明による固体電解質の水分安定性、活性化エネルギーおよびイオン伝導度を確認するために、下記のように実施例および比較例による固体電解質を製造した。製造された固体電解質の格子定数、大気露出時の硫化水素発生量、活性化エネルギーおよび大気露出前後のイオン伝導度を測定して比較した。一方、イオン伝導度は、サンプリングおよび測定方式によって測定値が異なっていてもよい。また、イオン伝導度は、実験条件によって異なっていてもよい。例えば、イオン伝導度の測定は、サンプルの加圧条件、イオン伝導度測定セルおよび装備によって異なっていてもよい。したがって、下記の表1に測定されたイオン伝導度は、1つの例示に過ぎず、本発明がこれに限定されるものではない。
【0055】
比較例および実施例による固体電解質の組成は、下記の表1のとおりである。
【0056】
【表1】
【0057】
比較例および実施例による固体電解質は、オキシスルフィド系化合物である。
【0058】
比較例および実施例による固体電解質の製造を含むすべての実験は、水分に触れないグローブボックスまたはドライルームで行った。
【0059】
[比較例1:LiPSClの製造]
固体電解質の組成は、LiPSCl(LPSCL)となるように素材合成を行った。出発物質は、LiS、P、LiClを使用した。固体電解質の合成量10gを基準として出発物質を秤量し、混合した後、350rpm、2時間ミーリング工程処理を行った。
【0060】
混合物を回収した後、油圧プレスで圧縮して、ペレット状に加工し、真空雰囲気における熱処理のために、クォーツ管に装入し、真空状態にシールした。1分当たり2℃の昇温速度で550℃まで昇温させた後、6時間維持し、その後、自然冷却した。次に、熱処理が終わったペレット状のサンプルを粉砕し、比較例1による粉末状の固体電解質を得た。
【0061】
比較例1による固体電解質のイオン伝導度は、1.6mS/cmであり、通常のLPSCLのイオン伝導度で具現されることを確認した。
【0062】
[比較例2:Li6.1Si0.10.9Clの製造]
固体電解質の組成がLi6.1Si0.10.9Clとなるように素材合成を行った。出発物質は、比較例1と同じLiS、P、LiClを使用し、Si置換のためにSi、Sをさらに使用した。出発物質をミーリング用容器に装入し、350rpm、2h以上ミキシングを行って均一に混合した。
【0063】
混合物を回収した後、油圧プレスで圧縮して、ペレット状に加工し、真空雰囲気における熱処理のために、クォーツ管に装入し、真空状態にシールした。1分当たり2℃の昇温速度で570℃まで昇温させた後、18時間維持し、その後、自然冷却した。
【0064】
次に、熱処理が終わったペレット状のサンプルを粉砕し、比較例2による粉末状の固体電解質を得た。
【0065】
[比較例3:Li6.1Si0.10.94.80.2Clの製造]
固体電解質の組成がLi6.2Si0.20.8Clとなるように素材合成を行った。出発物質は、比較例1と同じLiS、P、LiClを使用し、さらにSiOを使用した。出発物質をミーリング用容器に装入し、350rpm、2h以上ミキシングを行って均一に混合した。
【0066】
混合物を回収した後、油圧プレスで圧縮してペレット状に加工し、真空雰囲気における熱処理のためにクォーツ管に装入し、真空状態にシールした。1分当たり2℃の昇温速度で570℃まで昇温させた後、18時間維持し、その後、自然冷却した。
【0067】
次に、熱処理が終わったペレット状のサンプルを粉砕し、比較例3による粉末状の固体電解質を得た。
【0068】
[実施例1:LiSi0.10.94.70.2ClBr0.1の製造]
固体電解質の組成がLiSi0.10.94.70.2ClBr0.1となるように素材合成を行った。出発物質は、比較例1と同じLiS、P、LiClを使用し、さらにSiO、LiBrを使用した。出発物質をミーリング用容器に装入し、350rpm、2h以上ミキシングを行って均一に混合した。
【0069】
混合物を回収した後、油圧プレスで圧縮してペレット状に加工し、真空雰囲気における熱処理のためにクォーツ管に装入し、真空状態にシールした。1分当たり2℃の昇温速度で510℃まで昇温させた後、18時間維持し、その後、自然冷却した。
【0070】
次に、熱処理が終わったペレット状のサンプルを粉砕し、実施例1による粉末状の固体電解質を得た。
【0071】
[実施例2:Li5.9Si0.10.94.60.2ClBr0.2の製造]
固体電解質の組成がLi5.9Si0.10.94.60.2ClBr0.2となるように出発物質の割合を変更したことを除いて、実施例1と同一条件で行った。
【0072】
[実施例3:Li5.8Si0.10.94.50.2ClBr0.3の製造]
固体電解質の組成がLi5.8Si0.10.94.50.2ClBr0.3となるように出発物質の割合を変更したことを除いて、実施例1と同一条件で行った。
【0073】
[実施例4:Li5.7Si0.10.94.40.2ClBr0.4の製造]
固体電解質の組成がLi5.7Si0.10.94.40.2ClBr0.4となるように出発物質の割合を変更したことを除いて、実施例1と同一条件で行った。
【0074】
[実施例5:Li5.6Si0.10.94.30.2ClBr0.5の製造]
固体電解質の組成がLi5.6Si0.10.94.30.2ClBr0.5となるように出発物質の割合を変更したことを除いて、実施例1と同一条件で行った。
【0075】
[実施例6:LiSi0.10.94.70.2Cl1.1の製造]
固体電解質の組成がLiSi0.10.94.70.2ClBr0.1となるように素材合成を行った。出発物質は、比較例1と同じLiS、P、LiClを使用し、さらにSiOを使用した。
【0076】
出発物質をミーリング用容器に装入し、350rpm、2h以上ミキシングを行って均一に混合した。混合物を回収した後、油圧プレスで圧縮してペレット状に加工し、真空雰囲気における熱処理のためにクォーツ管に装入し、真空状態にシールした。1分当たり2℃の昇温速度で550℃まで昇温させた後、18時間維持し、その後、自然冷却した。
【0077】
次に、熱処理が終わったペレット状のサンプルを粉砕し、実施例6による粉末状の固体電解質を得た。
【0078】
[実施例7:Li5.9Si0.10.94.60.2Cl1.2の製造]
固体電解質の組成がLi5.9Si0.10.94.60.2Cl1.2となるように出発物質の割合を変更したことを除いて、実施例6と同一条件で行った。
【0079】
[実施例8:Li5.8Si0.10.94.50.2Cl1.3の製造]
固体電解質の組成がLi5.8Si0.10.94.50.2Cl1.3となるように出発物質の割合を変更したことを除いて、実施例6と同一条件で行った。
【0080】
[実施例9:Li5.7Si0.10.94.40.2Cl1.4の製造]
固体電解質の組成がLi5.7Si0.10.94.40.2Cl1.4となるように出発物質の割合を変更したことを除いて、実施例6と同一条件で行った。
【0081】
[格子定数の変化]
図1は、実施例および比較例による固体電解質のXRDパターンから算出された格子定数を示すグラフである。ここで、図1は、Liの格子定数をXRDパターンから計算して導き出した結果である表2をグラフで示した図である。
【0082】
【表2】
【0083】
図1および表2を参照すると、比較例3と比較して、Brの含有量を増加させた実施例1~5の場合、Br含有量の増加につれて格子定数が増加することを確認することができる。反対に、Clの含有量を増加させた実施例6~9の場合、Cl含有量の増加につれて格子定数が減少することが分かる。
【0084】
このような格子定数の増減は、Sに比べてイオン半径の大きいBrが固体電解質の構造内部に固溶したり、イオン半径の小さいClが固体電解質の構造内部に固溶したりした効果であることが分かる。したがって、本発明の固体電解質は、構成元素の含有量を調節することによって、格子定数を調節することができる。
【0085】
[水分安定性]
図2は、実施例および比較例による固体電解質の大気露出時の硫化水素発生量を示すグラフである。ここで、図2は、水分RH50%の大気への露出時の固体電解質の硫化水素ガス発生量を測定した結果である表3をグラフで示した図である。
【0086】
【表3】
【0087】
図2および表3を参照すると、実施例1~9は、比較例1~3に比べて、硫化水素ガス発生量が顕著に減少することを確認することができる。特にClとBrの含有量が増加するにつれて、硫化水素ガス発生量が減少することを確認することができる。
【0088】
したがって、実施例1~9による固体電解質は、硫化水素ガス発生の抑制に効果的であることを確認することができる。
【0089】
[活性化エネルギー]
図3は、実施例および比較例による固体電解質の活性化エネルギーを示すグラフである。ここで、図3は、活性化エネルギーを温度変化によるインピーダンス変化から計算して導き出した結果である表4をグラフで示した図である。
【0090】
【表4】
【0091】
図3および表4を参照すると、実施例1~9による固体電解質は、0.34~0.41 eVの活性化エネルギーを有する。実施例1~9は、比較例3に比べて活性化エネルギーが低くなることを確認することができる。すなわち、実施例1~9による固体電解質の組成が活性化エネルギーの改善に効果的であることを確認することができる。
【0092】
このような活性化エネルギーの改善によって、実施例1~9による固体電解質のイオン伝導度が向上すると判断される。
【0093】
[イオン伝導度]
図4は、実施例および比較例による固体電解質の大気露出前後のイオン伝導度の変化を示すグラフである。ここで、図4は、イオン伝導度を常温で測定した結果である表5をグラフで示した図である。
【0094】
【表5】
【0095】
図4および表5を参照すると、実施例1~9による固体電解質のイオン伝導度は、常温で、大気露出前に1.54~2.58mS/cmであり、大気露出後に0.49~0.97mS/cmであることを確認することができる。
【0096】
まず、実施例および比較例による固体電解質の大気露出前のイオン伝導度を比較すると、次のとおりである。
【0097】
実施例1~9は、比較例3に比べて全部イオン伝導度が増加したことを確認することができる。実施例5の場合、2.58mS/cmの最も高いイオン伝導度を確認することができる。
【0098】
したがって、実施例1~9による固体電解質は、イオン伝導度が向上することを確認することができる。一部の実施例、すなわち実施例2~5、実施例8~5の場合、比較例1より高いイオン伝導度を示すことを確認することができる。
【0099】
このような実施例1~9による固体電解質の大気露出前のイオン伝導度の改善は、活性化エネルギーの改善にも関連していると判断される。
【0100】
次に、大気露出前後のイオン伝導度の変化を説明すると、次のとおりである。
【0101】
実施例1~9が、比較例1~3より大気露出後のイオン伝導度の低下が低く示されることを確認することができる。すなわち、実施例1~9による固体電解質の組成が大気露出後のイオン伝導度の改善に効果的であることを確認することができる。
【0102】
このような実施例1~9による固体電解質の大気露出後のイオン伝導度の改善は、硫化水素ガス発生量の低減にも関連していると判断される。
【0103】
したがって、実施例1~9の固体電解質は、アルジロダイト構造を維持しており、向上したイオン伝導度を維持しつつ、水分安定性が向上することによって、全固体電池の製作工程性の向上を介した大面積化および量産性能の具現を可能にするのに効果的な技術であることを確認することができる。
【0104】
なお、本明細書と図面に開示された実施例は、理解を助けるために特定例を提示したものに過ぎず、本発明の範囲を限定しようとするものではない。ここに開示された実施例以外にも、本発明の技術的思想に基づく他の変形例が実施可能であるということは、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者にとって自明なものである。
図1
図2
図3
図4