(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】時間差設定装置及び数値制御装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/00 20140101AFI20240723BHJP
【FI】
B23K26/00 N
(21)【出願番号】P 2023515914
(86)(22)【出願日】2021-04-20
(86)【国際出願番号】 JP2021015978
(87)【国際公開番号】W WO2022224334
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】西村 竜太朗
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-237202(JP,A)
【文献】特開2016-155169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を発生するレーザ発振器、前記レーザ光を出射するレーザヘッド、前記レーザヘッドとワークとの相対位置を位置決めする駆動機構、及び加工プログラムに基づいて前記レーザ発振器に対するレーザ指令及び前記駆動機構に対する位置決め指令を生成する数値制御装置を備えるレーザ加工システムにおける、前記レーザ指令の前記位置決め指令に対する出力タイミングの時間差である指令時間差を設定する時間差設定装置であって、
前記加工プログラムに基づく前記位置決め指令に対する前記駆動機構の速度変化を取得する速度変化取得部と、
前記速度変化取得部が取得した前記駆動機構の前記速度変化に基づいて前記駆動機構による位置決めの前記位置決め指令に対する遅延時間である機構遅延時間を算出する機構遅延時間算出部と、
前記レーザ発振器の動作をシミュレートする発振器モデルを用いて前記加工プログラムに基づく前記レーザ指令に対する前記レーザ発振器の出力変化を算出するレーザ出力算出部と、
前記レーザ出力算出部が算出した前記レーザ発振器の出力変化に基づいて前記レーザ発振器の出力の前記レーザ指令に対する遅延時間であるレーザ遅延時間を算出するレーザ遅延時間算出部と、
前記加工プログラムにおいて前記レーザ光の出射が指定される区間について前記機構遅延時間算出部が算出した前記機構遅延時間及び前記レーザ遅延時間算出部が算出した前記レーザ遅延時間に基づいて前記指令時間差を設定する指令時間差設定部と、
を備える、時間差設定装置。
【請求項2】
前記速度変化取得部は、前記駆動機構の動作をシミュレートする機構モデルを用いて前記位置決め指令に対する前記駆動機構の速度変化を算出する、請求項1に記載の時間差設定装置。
【請求項3】
前記機構遅延時間算出部は、前記位置決め指令に従う速度が一定となる瞬間についてのみ前記機構遅延時間を算出する、請求項1又は2に記載の時間差設定装置。
【請求項4】
レーザ光を発生するレーザ発振器、前記レーザ光を出射するレーザヘッド、及び前記レーザヘッドとワークとの相対位置を位置決めする駆動機構を備えるレーザ加工システムにおいて、加工プログラムに基づいて前記レーザ発振器に対するレーザ指令及び前記駆動機構に対する位置決め指令を生成する数値制御装置であって、
前記加工プログラムに基づく前記位置決め指令に対する前記駆動機構の速度変化を取得する速度変化取得部と、
前記速度変化取得部が取得した前記駆動機構の前記速度変化に基づいて前記駆動機構による位置決めの前記位置決め指令に対する遅延時間である機構遅延時間を算出する機構遅延時間算出部と、
前記レーザ発振器の動作をシミュレートする発振器モデルを用いて前記加工プログラムに基づく前記レーザ指令に対する前記レーザ発振器の出力変化を算出するレーザ出力算出部と、
前記レーザ出力算出部が算出した前記レーザ発振器の出力変化に基づいて前記レーザ発振器の出力の前記レーザ指令に対する遅延時間であるレーザ遅延時間を算出するレーザ遅延時間算出部と、
前記加工プログラムにおいて前記レーザ光の出射が指定される区間について前記機構遅延時間算出部が算出した前記機構遅延時間及び前記レーザ遅延時間算出部が算出した前記レーザ遅延時間に基づいて、前記レーザ指令の前記位置決め指令に対する出力タイミングの時間差である指令時間差を設定する指令時間差設定部と、
を備える、数値制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時間差設定装置及び数値制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工機において、制御装置から出力され、駆動軸の位置、レーザの出力等を指定する指令値が実際の出力等に反映されるまでの遅れによる加工精度の低下を抑制することが検討されている。具体例として、加工プログラムの実行中のブロックにおける移動の残時間が駆動軸、レーザ発振器等の遅れ時間に基づいて定められる切換時間に達したときに、実効中のブロックのレーザ指令から次のブロックのレーザ指令に切り換える技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
駆動軸及びレーザ発振器の遅れは、常に一定ではなく、加工の種類等に応じて変化し得る。従って、より加工精度を向上するためには、加工プログラムに応じてレーザの切換時間を調整することが望まれる。しかしながら、加工プログラム毎に時定数を想定して切換時間の設定値を修正することは極めて煩雑である。このため、レーザ出力変更のタイミングを適切に設定できる技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る時間差設定装置は、レーザ光を発生するレーザ発振器、前記レーザ光を出射するレーザヘッド、前記レーザヘッドとワークとの相対位置を位置決めする駆動機構、及び加工プログラムに基づいて前記レーザ発振器に対するレーザ指令及び前記駆動機構に対する位置決め指令を生成する数値制御装置を備えるレーザ加工システムにおける、前記レーザ指令の前記位置決め指令に対する出力タイミングの時間差である指令時間差を設定する時間差設定装置であって、前記加工プログラムに基づく前記位置決め指令に対する前記駆動機構の速度変化を取得する速度変化取得部と、前記速度変化取得部が取得した前記駆動機構の前記速度変化に基づいて前記駆動機構による位置決めの前記位置決め指令に対する遅延時間である機構遅延時間を算出する機構遅延時間算出部と、前記レーザ発振器の動作をシミュレートする発振器モデルを用いて前記加工プログラムに基づく前記レーザ指令に対する前記レーザ発振器の出力変化を算出するレーザ出力算出部と、前記レーザ出力算出部が算出した前記レーザ発振器の出力変化に基づいて前記レーザ発振器の出力の前記レーザ指令に対する遅延時間であるレーザ遅延時間を算出するレーザ遅延時間算出部と、前記加工プログラムにおいて前記レーザ光の出射が指定される区間について前記機構遅延時間算出部が算出した前記機構遅延時間及び前記レーザ遅延時間算出部が算出した前記レーザ遅延時間に基づいて前記指令時間差を設定する指令時間差設定部と、を備える。
【0006】
本開示の別の態様に係る数値制御装置は、レーザ光を発生するレーザ発振器、前記レーザ光を出射するレーザヘッド、及び前記レーザヘッドとワークとの相対位置を位置決めする駆動機構を備えるレーザ加工システムにおいて、加工プログラムに基づいて前記レーザ発振器に対するレーザ指令及び前記駆動機構に対する位置決め指令を生成する数値制御装置であって、前記加工プログラムに基づく前記位置決め指令に対する前記駆動機構の速度変化を取得する速度変化取得部と、前記速度変化取得部が取得した前記駆動機構の前記速度変化に基づいて前記駆動機構による位置決めの前記位置決め指令に対する遅延時間である機構遅延時間を算出する機構遅延時間算出部と、前記レーザ発振器の動作をシミュレートする発振器モデルを用いて前記加工プログラムに基づく前記レーザ指令に対する前記レーザ発振器の出力変化を算出するレーザ出力算出部と、前記レーザ出力算出部が算出した前記レーザ発振器の出力変化に基づいて前記レーザ発振器の出力の前記レーザ指令に対する遅延時間であるレーザ遅延時間を算出するレーザ遅延時間算出部と、前記加工プログラムにおいて前記レーザ光の出射が指定される区間について前記機構遅延時間算出部が算出した前記機構遅延時間及び前記レーザ遅延時間算出部が算出した前記レーザ遅延時間に基づいて、前記レーザ指令の前記位置決め指令に対する出力タイミングの時間差である指令時間差を設定する指令時間差設定部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、レーザ出力を切り換えるタイミングを適切に設定できる時間差設定装置及び数値制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の一実施形態に係る数値制御装置を備えるレーザ加工システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】本開示の一実施形態に係る時間差設定装置を備えるレーザ加工システムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係る数値制御装置100を備えるレーザ加工システム1の構成を示すブロック図である。
【0010】
本実施形態に係るレーザ加工システム1は、レーザ光を発生するレーザ発振器10と、レーザ光を出射するレーザヘッド20と、レーザヘッド20とワークWとの相対位置を位置決めする駆動機構30と、加工プログラムに基づいてレーザ発振器10及び駆動機構30を制御する数値制御装置100と、を備える。レーザ加工システム1は、ワークWにレーザを照射することにより加工を施すシステムである。
【0011】
レーザ発振器10は、数値制御装置100から入力されるレーザ指令に応じた出力のレーザを発生する。レーザ発振器10としては、例えばYAGレーザ発振器、炭酸ガスレーザ発振器、エキシマレーザ発振器等が用いられ得る。
【0012】
レーザヘッド20は、レーザ発振器10が発生したレーザをワークWに照射するよう出射する。レーザヘッド20は、レーザをワークWにおいて合焦させる光学系を有する。
【0013】
駆動機構30は、数値制御装置100から入力される位置決め指令に応じてレーザヘッド20及びワークWの少なくとも一方を移動させる。駆動機構30としては、例えば直交座標型ロボット、垂直多関節型ロボット、スカラ型ロボット、パラレルリンク型ロボット等の複数の駆動軸を有する位置決め機構を用いることができ、単一の駆動軸のみを有するアクチュエータを用いてもよい。また、駆動機構30は、駆動軸の位置を検出して数値制御装置100にフィードバック信号を入力するよう構成され得る。
【0014】
数値制御装置100は、加工プログラムに基づいてレーザ発振器10に対するレーザ指令及び駆動機構30に対する位置決め指令を生成する。また、数値制御装置100は、レーザ発振器10及び駆動機構30の応答性を考慮して、レーザ指令の出力タイミングと位置決め指令の出力タイミングとの時間差である指令時間差を設定する。数値制御装置100は、例えばメモリ、CPU、入出力インターフェイス等を有するコンピュータ装置に適切な制御プログラムを実行させることにより実現できる。
【0015】
数値制御装置100は、主記憶部101、プログラム解析部102、補間部103、レーザ指令生成部104、レーザ指令切換部105、レーザ出力算出部106、レーザ遅延時間算出部107、位置決め指令生成部108、位置決め指令切換部109、速度変化取得部110、機構遅延時間算出部111、及び指令時間差設定部112を有する。なお、これらの構成要素は、数値制御装置100の機能を類別したものであって、物理構成及びプログラム構成において明確に区分できるものでなくてもよい。
【0016】
主記憶部101は、加工プログラム及び指令時間差の設定値を記憶する。また、主記憶部101は、レーザ発振器10及び駆動機構30の仕様を特定するパラメータ又はコード、並びに数値制御装置100の他の構成要素における処理方法を定める設定値等をさらに記憶してもよい。
【0017】
加工プログラムは、例えばGコード等の言語で記述される。具体的には、加工プログラムは、レーザヘッド20が通過すべき指定座標、移動速度及び移動経路の曲率、レーザ発振器10の出力等を特定する複数の命令文を含み得る。
【0018】
プログラム解析部102は、加工プログラムを解析し、数値制御装置100の他の構成要素において処理可能なデータ形式に変換する。
【0019】
補間部103は、加工プログラムに従って、時刻毎の各種の制御目標値を算出する。具体例として、補間部103が算出する制御目標値としては、駆動機構30の各駆動軸の位置又は速度、時刻毎のレーザ発振器10の出力等が含まれる。この補間部103の構成は、従来のレーザ加工システムの数値制御装置におけるものと同様である。
【0020】
補間部103は、駆動機構30に限度を超える負荷を要求しないよう、つまり各駆動軸の加速度を上限値以下に抑制するよう加工プログラムにより指定される動作に修正を加える加減速処理を行ってもよい。このような補間についても、従来と同様とすることができる。
【0021】
レーザ指令生成部104は、補間部103が補間した目標値に基づいてレーザ発振器10に指示する信号であるレーザ指令信号を生成する。レーザ指令信号の生成方法については、従来のレーザ加工システムの数値制御装置におけるものと同様である。通常、レーザ指令の値は、加工プログラムに従ってステップ状に変化する。また、レーザ指令生成部104は、その出力の基準時間を主記憶部101が記憶している指令時間差だけ位置決め指令の出力の基準時間に対して遅らせることができるよう構成される。
【0022】
レーザ指令切換部105は、レーザ指令生成部104が生成したレーザ指令信号をレーザ発振器10に入力するか、レーザ出力算出部106に入力するかを選択する。
【0023】
レーザ出力算出部106は、レーザ発振器10の動作をシミュレートする発振器モデルを用いて加工プログラムに基づくレーザ指令に対するレーザ発振器の出力変化を算出する。発振器モデルは、例として、レーザ出力の変化開始がレーザ指令信号に対して遅延がすると共に、レーザ出力の立ち上がり及び立ち下がりの傾きが制限されるものとされ得る。
【0024】
レーザ遅延時間算出部107は、レーザ出力算出部106が算出したレーザ発振器10の出力変化に基づいて、レーザ発振器10の出力のレーザ指令に対する遅延時間であるレーザ遅延時間を算出する。レーザ遅延時間は、レーザ指令の値がステップ変化した瞬間から、レーザ出力算出部106が算出した出力の値が、レーザ指令の変化後の値と実質的に等しい値となるまでの時間として、算出される。なお、「実質的に等しい」とは、両者の差が、シミュレーションが誤差を含み、且つ一定の時間間隔でしか値が算出されないことを考慮して予め設定される閾値以下である状態として判断され得る。
【0025】
加工プログラムにおいて、レーザの出力は複数回変更され得る。このため、レーザ遅延時間算出部107は、レーザ遅延時間を、加工プログラム全体又はその内容に応じて区分される作業範囲における平均値として、算出してもよい。
【0026】
位置決め指令生成部108は、補間部103が補間した目標値に基づいて駆動機構30に指示する信号である位置決め指令信号を生成する。位置決め指令信号は、駆動機構30の複数の駆動軸にそれぞれ対応して複数生成され得る。位置決め指令の生成方法については、従来のレーザ加工システムの数値制御装置におけるものと同様である。
【0027】
位置決め指令切換部109は、位置決め指令生成部108が生成した位置決め指令信号を駆動機構30に入力するか、速度変化取得部110に入力するかを選択する。つまり、位置決め指令切換部109は、実際にワークWを加工する処理を行うか、ワークWの加工に先立って予定されるレーザ加工に最適な指令時間差を設定する処理を行うかを選択する。
【0028】
速度変化取得部110は、加工プログラムに基づく位置決め指令に対する駆動機構30の速度変化を取得する。駆動機構30の速度変化を取得する方法としては、駆動機構30の動作をシミュレートする機構モデルを用いて位置決め指令に対する駆動機構30の速度変化を算出する方法と、レーザの照射を行わずに実際に駆動機構30を動作させて駆動機構30のフィードバック信号によって速度変化を得る方法とがある。本実施形態の速度変化取得部110は、機構モデルを用いたシミュレーションによって駆動機構30の速度変化を算出することも、駆動機構30のフィードバック信号から駆動機構30の速度変化を確認することもできるよう構成されている。
【0029】
速度変化取得部110の機構モデルは、周知技術に基づいて、駆動機構30の機械的な遊び、部材の撓み等を再現するモデルとされ得る。機構モデルを用いて駆動機構30の速度変化を算出することによって、不適切な動作によりレーザヘッド20、駆動機構30又はワークWを損傷させることなく、レーザ加工を最適化できる。また、機構モデルは、周知技術に基づいて、駆動機構30の動作を補正するためにも利用できる。
【0030】
機構遅延時間算出部111は、速度変化取得部110が取得した駆動機構30の速度変化に基づいて、駆動機構30の位置決め指令に対する遅延時間である機構遅延時間を算出する。機構遅延時間は、位置決め指令の出力から駆動機構30の速度が位置決め指令に従う速度と実質的に等しくなるまでの時間として、算出される。
【0031】
機構遅延時間算出部111は、位置決め指令に従う速度が変化する範囲内の全ての時刻の位置決め指令について駆動機構30の速度が等しくなるまでの時間を求め、これらを平均した値として算出してもよい。また、機構遅延時間算出部111は、位置決め指令に従う速度が一定となる瞬間についてのみ機構遅延時間を算出してもよい。通常、レーザ加工は、駆動機構30の速度を一定に保持した状態で行われる。このため、位置決め指令に従う速度が一定となる瞬間について機構遅延時間を算出すれば、容易且つ正確に加工全体を最適化することができる。
【0032】
指令時間差設定部112は、加工プログラムにおいてレーザ光の出射が指定される区間について機構遅延時間算出部111が算出した機構遅延時間t1及びレーザ遅延時間算出部107が算出したレーザ遅延時間t2に基づいて、レーザ指令の基準時間と位置決め指令の基準時間に対する時間差である指令時間差tdを設定する。具体的には、指令時間差tdを機構遅延時間t1からレーザ遅延時間t2を差し引いた値(t1-t2)に設定することで、加工プログラムにより忠実な位置にレーザを照射することができる。
【0033】
以上のように、数値制御装置100は、機構遅延時間算出部111が算出した機構遅延時間t1と、レーザ出力算出部106において発振器モデルを用いてレーザ発振器10の出力変化をシミュレートすることでレーザ遅延時間算出部107において正確に算出されるレーザ遅延時間t2とに基づいて、指令時間差設定部112において加工プログラムを正確に再現できるよう指令時間差tdを設定するため、オペレータが加工種別の違い等を意識することなく、理想的なレーザ加工を行うことができる。例として、ワークWを所定形状に切り抜く輪郭切断を行う場合、レーザヘッド20を切断の終点に停止させることがあるが、レーザヘッド20の終点への到達の遅れを示す構遅延時間t1と、レーザ光の出力停止の遅れを示すレーザ遅延時間t2と、を考慮した指令時間差tdを設定することで、ワークWの切り残しを防止できる。
【0034】
続いて、本開示に係る時間差設定装置について説明をする。
図2は、本開示の一実施形態に係る時間差設定装置200を備えるレーザ加工システム1Aの構成を示すブロック図である。なお、以降の説明において、先に説明した実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付して重複する説明を省略することがある。
【0035】
本実施形態に係るレーザ加工システム1Aは、レーザ光を発生するレーザ発振器10と、レーザ光を出射するレーザヘッド20と、レーザヘッド20とワークWとの相対位置を位置決めする駆動機構30と、加工プログラムに基づいてレーザ発振器10及び駆動機構30を制御する数値制御装置100Aと、指令時間差を設定する時間差設定装置200と、を備える。
【0036】
数値制御装置100Aは、加工プログラム等を記憶する主記憶部101と、主記憶部101が記憶する加工プログラム等に基づいてレーザ発振器10に対するレーザ指令及び駆動機構30に対する位置決め指令を生成する制御部121と、時間差設定装置200との間で情報を送受信する第1転送部122と、を備える。
【0037】
図2のレーザ加工システム1Aの数値制御装置100Aも、
図1のレーザ加工システム1の数値制御装置100と同様に、コンピュータ装置に適切な制御プログラムを実行させることにより実現できる。
【0038】
制御部121の構成は、従来のレーザ加工システムの数値制御装置におけるものと同様とすることができる。例として、制御部121は、
図1の数値制御装置100のプログラム解析部102、補間部103、レーザ指令生成部104及び位置決め指令生成部108を有する構成とされる。
【0039】
第1転送部122は、主記憶部101が記憶する情報を時間差設定装置200に送信すると共に、時間差設定装置200から送信される情報を主記憶部101に記憶させる。
【0040】
時間差設定装置200は、数値制御装置100Aにおけるレーザ指令と位置決め指令との指令時間差を設定する。時間差設定装置200は、例えばメモリ、CPU、入出力インターフェイス等を有するコンピュータ装置に適切な制御プログラムを実行させることにより実現できる。具体例として、時間差設定装置200は、複数のレーザ加工システムの状態をモニタリングする管理者用コンピュータの一機能として実現され得る。このように、数値制御装置100Aから独立した時間差設定装置200を設けることにより、既存設備をより正確なレーザ加工を行うことができるレーザ加工システム1Aに比較的容易に改変することができる。
【0041】
時間差設定装置200は、副記憶部201、第2転送部202、プログラム解析部102、補間部103、レーザ指令生成部104、レーザ出力算出部106、レーザ遅延時間算出部107、位置決め指令生成部108、速度変化取得部110、機構遅延時間算出部111、及び指令時間差設定部112を有する。これらは、
図2のレーザ加工システム1Aの時間差設定装置200のプログラム解析部102、補間部103、レーザ指令生成部104、レーザ出力算出部106、レーザ遅延時間算出部107、位置決め指令生成部108、速度変化取得部110、機構遅延時間算出部111、及び指令時間差設定部112は、
図1のレーザ加工システム1の主記憶部101、プログラム解析部102、補間部103、レーザ指令生成部104、レーザ出力算出部106、レーザ遅延時間算出部107、位置決め指令生成部108、速度変化取得部110、機構遅延時間算出部111、及び指令時間差設定部112と同様の構成とされる。
【0042】
副記憶部201は、数値制御装置100Aから受信した加工プログラムと指令時間差設定部112が算出した指令時間差とを記憶する。
【0043】
第2転送部202は、数値制御装置100Aから送信される情報を副記憶部201に記憶させるとともに、副記憶部201に記憶される指令時間差を数値制御装置100Aに送信する。
【0044】
図2のレーザ加工システム1Aは、
図1のレーザ加工システム1における指令時間差の設定のための構成要素を独立した装置として設けたものであり、装置の分割のために第1転送部122、副記憶部201及び第2転送部202が付加されている。このため、
図2のレーザ加工システム1Aにおいても、加工プログラムを正確に再現できるよう指令時間差を設定することにより理想的なレーザ加工を行うことができる。
【0045】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本発明は前述した実施形態に限るものではない。また、前述した実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、前述した実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0046】
1,1A レーザ加工システム
10 レーザ発振器
20 レーザヘッド
30 駆動機構
100,100A 数値制御装置
101 主記憶部
102 プログラム解析部
103 補間部
104 レーザ指令生成部
105 レーザ指令切換部
106 レーザ出力算出部
107 レーザ遅延時間算出部
108 位置決め指令生成部
109 位置決め指令切換部
110 速度変化取得部
111 機構遅延時間算出部
112 指令時間差設定部
121 制御部
122 第1転送部
200 時間差設定装置
201 副記憶部
202 第2転送部