(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-22
(45)【発行日】2024-07-30
(54)【発明の名称】横向き自動溶接方法及び横向き自動溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/095 20060101AFI20240723BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
B23K9/095 501H
B23K9/12 331F
B23K9/12 331A
(21)【出願番号】P 2024031120
(22)【出願日】2024-03-01
【審査請求日】2024-04-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】302040135
【氏名又は名称】日鉄溶接工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩良
(72)【発明者】
【氏名】田中 良一
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 慎司
(72)【発明者】
【氏名】田代 裕一朗
(72)【発明者】
【氏名】脇田 直弥
(72)【発明者】
【氏名】後藤 憲一
(72)【発明者】
【氏名】片山 翼
【審査官】杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-108838(JP,A)
【文献】特開2023-41627(JP,A)
【文献】特開平10-175068(JP,A)
【文献】特開2000-167666(JP,A)
【文献】特開2000-664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/095
B23K 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
横向き自動溶接装置を制御するコンピュータを用いて開先の形状に基づく溶接条件を自動生成し、生成された溶接条件で自動的に前記開先の横向き溶接を行う横向き自動溶接方法であって、
前記コンピュータは、前記横向き溶接を開始する前の溶接条件生成時に、
予め設定された、溶接対象材の板厚と余盛高さと基準層深さとから、前記開先の断面を溶着金属で埋めるために必要な溶接層の積層数を算出し、
前記板厚と前記余盛高さと前記積層数とから、各溶接層の溶接層深さを算出し、
前記開先の形状と前記溶接層深さとから、各溶接層の断面積である層断面積を算出し、
予め設定された基準溶接条件と前記開先に送給するワイヤの径から、各溶接層の1パスあたりの基準断面積を算出し、
前記層断面積と前記基準断面積から、各溶接層における溶接パス数を算出することで、溶接条件を生成し、
前記生成された溶接条件で前記開先の横向き溶接を行うことを特徴とする、横向き自動溶接方法。
【請求項2】
前記コンピュータは、
複数の前記溶接層を第1層、第2層、中間層および最終層と区分したときの前記中間層の溶接パス数を算出する際に、前記層断面積から前記基準断面積を差し引いた値と前記基準断面積とから、前記中間層における溶接パス数を算出することを特徴とする、請求項1に記載の横向き自動溶接方法。
【請求項3】
前記コンピュータは、
前記基準溶接条件と前記開先に送給するワイヤの径から、各溶接パスにおける溶接速度を算出し、
前記溶接速度が予め設定された基準溶接速度範囲の範囲内となるように溶接パス数の修正を行う制御を実行することを特徴とする、請求項1又は2に記載の横向き自動溶接方法。
【請求項4】
複数の前記溶接層のうちの最終層の溶接を開始する前に、前記開先の下側に位置する溶接対象材の表面側の角部に溶接線方向に沿って延びるビードを形成することを特徴とする、請求項1又は2に記載の横向き自動溶接方法。
【請求項5】
開先の形状に基づく溶接条件を自動生成し、生成された溶接条件で自動的に前記開先の横向き溶接を行う横向き自動溶接装置であって、
溶接トーチと、
溶接線が延びる溶接線方向、前記開先の深さ方向及び前記開先の幅方向の各々の方向に前記溶接トーチを移動させるトーチ移動機構と、
制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記横向き溶接を開始する前の溶接条件生成時に、
予め設定された、溶接対象材の板厚と余盛高さと基準層深さとから、前記開先の断面を溶着金属で埋めるために必要な溶接層の積層数を算出し、
前記板厚と前記余盛高さと前記積層数とから、各溶接層の溶接層深さを算出し、
前記開先の形状と前記溶接層深さとから、各溶接層の断面積である層断面積を算出し、
予め設定された基準溶接条件と前記開先に送給するワイヤの径から、各溶接層の1パスあたりの基準断面積を算出し、
前記層断面積と前記基準断面積から、各溶接層における溶接パス数を算出することで、溶接条件を生成し、
前記生成された溶接条件で前記開先の横向き溶接を行う制御を実行することを特徴とする、横向き自動溶接装置。
【請求項6】
前記制御手段は、複数の前記溶接層を第1層、第2層、中間層および最終層と区分したときの前記中間層の溶接パス数を算出する際に、前記層断面積から前記基準断面積を差し引いた値と前記基準断面積とから、前記中間層における溶接パス数を算出する制御を実行することを特徴とする、請求項5に記載の横向き自動溶接装置。
【請求項7】
前記制御手段は、
前記基準溶接条件と前記開先に送給するワイヤの径から、各溶接パスにおける溶接速度を算出し、
前記溶接速度が予め設定された基準溶接速度範囲の範囲内となるように溶接パス数の修正を行う制御を実行することを特徴とする、請求項5又は6に記載の横向き自動溶接装置。
【請求項8】
前記制御手段は、複数の前記溶接層のうちの最終層の溶接を開始する前に、前記開先の下側に位置する溶接対象材の表面側の角部に溶接線方向に沿って延びるビードを形成する制御を実行することを特徴とする、請求項5又は6に記載の横向き自動溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開先の横向き自動溶接方法及び横向き自動溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接対象材の溶接線、例えばT継手、レ型平継手の開先の溶接では、溶接線が延びる方向(溶接線方向)に沿って溶接トーチが走行する。また、通常、この溶接トーチは開先の幅方向に往復動する(ウィービング又はオシレート)。これらの溶接トーチの溶接線方向の走行と開先幅方向の往復動を組み合わせることで、開先内が溶着金属で埋められて開先溶接が行われる。
【0003】
そのような溶接施工の省力化、品質向上のため、予めコンピュータに登録された溶接条件に基づいて、開先を自動検出し溶接トーチを自動駆動する溶接ロボットが開発され使用されている。例えば特許文献1や特許文献2には、横向き溶接を行うことが可能な溶接ロボットを備えた自動溶接装置が開示されている。
【0004】
ところで、自動溶接装置で溶接対象材の開先の溶接を行うためには、開先の形状に応じて予め溶接条件を設定する必要がある。溶接条件は、例えば自動溶接装置を利用する作業者によって設定されたり、或いは作業者による設定に加えて、自動溶接装置に予め記憶されたプログラムに基づいて既知の情報から自動的に設定されることもある。この溶接条件の設定を行う際に作業者への負荷を軽減するためには、可能な限り溶接条件を自動的に設定できることが好ましい。
【0005】
そのような溶接条件を自動生成する自動溶接方法として、特許文献3には、開先の形状に基づいて各溶接パスの溶接条件を自動生成し、生成した溶接条件で自動的に各溶接パスの溶接を行う自動溶接方法が開示されている。具体的には、開先の断面における溶接パスの層毎に溶接高さを算出し、層毎に算出された溶接高さをそれぞれ積算し、溶接高さの積算値が、溶接板厚に対して設定された基準高さ以上となったときに開先の断面を埋めるに必要な溶接パスの層数と決定し、最上層の溶接パスの頂上部分の位置が基準余盛高さの位置となるように、溶接パスの溶接速度を基準溶接速度から修正して決定し、決定した溶接速度で溶接を行う方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2022-144916号公報
【文献】特開2023-003846号公報
【文献】特開2021-016881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
開先内で溶着金属を積層させる際には、開先内に送給されて溶融したワイヤを凝固させて1層の溶着金属の層を形成する溶接パスを複数回行う。特許文献3に記載の自動溶接方法は、そのような溶接パスを複数回行う方法に関するものであるが、下向き溶接を行う際に特に有用な技術である。
【0008】
一方、横向き溶接を行う際には、開先内に送給されたワイヤが溶融してから凝固するまでの間、溶融金属が重力の影響によって垂れ易くなる。このため、横向き溶接において溶接パスを複数回行い溶着金属を積層させる際には、溶融金属の垂れを考慮して各溶接パスの溶接条件を設定することが望まれる。しかしながら、特許文献3に記載の自動溶接方法は、横向き溶接時における溶融金属の垂れの影響が考慮されていないため、溶接品質確保の観点では改善の余地がある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、開先の横向き溶接において、溶融金属の垂れを抑制できる溶接条件を自動生成することが可能な横向き自動溶接方法及び横向き自動溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の一態様は、横向き自動溶接装置を制御するコンピュータを用いて開先の形状に基づく溶接条件を自動生成し、生成された溶接条件で自動的に前記開先の横向き溶接を行う横向き自動溶接方法であって、前記コンピュータは、前記横向き溶接を開始する前の溶接条件生成時に、予め設定された、溶接対象材の板厚と余盛高さと基準層深さとから、前記開先の断面を溶着金属で埋めるために必要な溶接層の積層数を算出し、前記板厚と前記余盛高さと前記積層数とから、各溶接層の溶接層深さを算出し、前記開先の形状と前記溶接層深さとから、各溶接層の断面積である層断面積を算出し、予め設定された基準溶接条件と前記開先に送給するワイヤの径から、各溶接層の1パスあたりの基準断面積を算出し、前記層断面積と前記基準断面積から、各溶接層における溶接パス数を算出することで、溶接条件を生成し、前記生成された溶接条件で前記開先の横向き溶接を行うことを特徴とする。
【0011】
別の観点による本発明の一態様は、開先の形状に基づく溶接条件を自動生成し、生成された溶接条件で自動的に前記開先の横向き溶接を行う横向き自動溶接装置であって、溶接トーチと、溶接線が延びる溶接線方向、前記開先の深さ方向及び前記開先の幅方向の各々の方向に前記溶接トーチを移動させるトーチ移動機構と、制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記横向き溶接を開始する前の溶接条件生成時に、予め設定された、溶接対象材の板厚と余盛高さと基準層深さとから、前記開先の断面を溶着金属で埋めるために必要な溶接層の積層数を算出し、前記板厚と前記余盛高さと前記積層数とから、各溶接層の溶接層深さを算出し、前記開先の形状と前記溶接層深さとから、各溶接層の断面積である層断面積を算出し、予め設定された基準溶接条件と前記開先に送給するワイヤの径から、各溶接層の1パスあたりの基準断面積を算出し、前記層断面積と前記基準断面積から、各溶接層における溶接パス数を算出することで、溶接条件を生成し、前記生成された溶接条件で前記開先の横向き溶接を行う制御を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、開先の横向き溶接において、溶融金属の垂れを抑制できる溶接条件を自動生成することが可能な横向き自動溶接方法及び横向き自動溶接装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る横向き自動溶接装置の使用状態の一例を示す図である。
【
図2】横向き自動溶接装置の溶接ロボット周辺の構造を説明するための斜視図である。
【
図3】溶接ロボットを
図2の矢印Vの方向から見た図である。
【
図4】
図3に示す溶接ロボットを下方から見た図である。
【
図5】
図3に示す溶接ロボットを側方から見た図である。
【
図7】本実施形態に係る横向き自動溶接装置が実行する「条件生成」の一例を示すフローチャートである。
【
図8】本実施形態に係る条件生成方法によって設定される、開先断面に対する各溶接パスの断面領域の一例を示す図である。
【
図9】溶接パス数を修正する制御の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0015】
(自動溶接装置)
図1は、本実施形態に係る横向き自動溶接装置1の使用状態の一例を示す図である。図中に示されるY方向は、溶接線が延びる方向(以下、「溶接線方向」という)である。X方向は、開先の深さ方向であり、溶接線方向に直交する水平方向でもある。Z方向は、開先の幅方向であり、鉛直方向でもある。X方向、Y方向およびZ方向は、互いに垂直な方向である。
【0016】
図1に示した自動溶接装置1(以下、単に「溶接装置1」と記載する)は、Y-Z平面内に延在する溶接対象材5、6の開先4の横向き溶接を行う装置である。溶接対象材5、6は、例えば鋼板である。溶接装置1は、溶接トーチ70を保持する溶接ロボット10と、溶接ロボット10の動作を制御するための制御盤2を備えている。
【0017】
<制御盤>
制御盤2は、コンピュータ3(制御部、演算部、記憶部等を含む)や、図示しないディスプレイ、入力キー、操作スイッチ、表示灯等で構成されている。制御盤2内のコンピュータ3は、溶接装置1を利用する作業者の入力操作等に応答して、例えば溶接条件の設定、開先端検出、開先形状検出、溶接条件の算出、補正、溶接データの蓄積、編集などの電子的処理、ならびに、溶接ロボット10、ワイヤ送給装置(図示せず)、溶接電源(図示せず)及び電磁開閉器(図示せず)などの自動制御を行う。
【0018】
<溶接ロボットの周辺構造>
次に、
図2~
図5を参照しながら溶接ロボット10の周辺構造をについて更に詳細に説明する。
図2は、溶接ロボット10の周辺構造を説明するための斜視図である。
図3は、溶接ロボット10を
図2の矢印Vの方向から見た図である。
図4は、
図3に示す溶接ロボット10を下方から見た図である。
図5は、
図3に示す溶接ロボット10を側方から見た図である。なお、図中に示されるT方向は、溶接トーチ70が首振りする回動方向である。
【0019】
溶接ロボット10は、溶接対象材5、6の開先4と平行に配置されたガイドレール9に装着されている。ガイドレール9は、4個の吸着具7で支持されて溶接対象材5上に固定されている。吸着具7は、例えばマグネットであり、溶接対象材5に対して磁力によって吸着する。
【0020】
溶接ロボット10の底部は、Y方向(溶接線方向)に沿って移動する走行台車(以下、Y走行台車20)で構成されている。Y走行台車20は、ガイドレール9に設けられたラック(図示せず)に噛み合うピニオン(図示せず)を有しており、ガイドレール9とY走行台車20によってラック&ピニオン式の直線移動機構(Y駆動機構)が構成されている。このY駆動機構によって溶接ロボット10がY方向に往復動できる。
【0021】
また、溶接装置1には、上記のY駆動機構に加えて、X方向(開先4の深さ方向)に溶接ロボット10を移動させるX駆動機構(図示せず)も設けられている。さらに、
図5に示すトーチ駆動バー44をZ方向(開先の幅方向)に移動させることで溶接トーチ70をZ方向に移動させるZ駆動機構(図示せず)も設けられている。X駆動機構とZ駆動機構の構造としては、公知の構造を適用できる。例えば本実施形態に係るX駆動機構には、前述の特許文献3に開示されたZ駆動機構を適用でき、本実施形態に係るZ駆動機構には、特許文献3に開示されたX駆動機構を適用できる。
【0022】
上述したX駆動機構、Y駆動機構およびZ駆動機構の各種駆動機構は、それぞれ駆動源として例えばステッピングモータなどの電気モータ(図示せず)を備えている。
図1に示した制御盤2内のコンピュータ3は、各電気モータを駆動するモータドライバに駆動指令パルスを与えて各電気モータの動作を制御し、各モータの回転量(X移動量、Y移動量、Z移動量)を把握して溶接トーチ70の位置座標を把握する。
【0023】
溶接ロボット10は、溶接トーチ70の姿勢を調整するためのトーチ姿勢調整機構50(
図5)を備えている。トーチ姿勢調整機構50には、公知の構造、例えば前述の特許文献3に開示されたトーチ調整機構を適用できる。このトーチ姿勢調整機構50により、溶接トーチ70を、
図5中の2点鎖線で示す、前方傾斜姿勢70wfまたは後方傾斜姿勢70wrならびにそれらの間の任意の傾斜姿勢に設定することができる。
【0024】
溶接ロボット10は、溶接トーチ70を電動で首振り回動させるT軸駆動機構60をさらに備えている。T軸駆動機構60は、モータケース61及び軸受ケース62を備えており、モータケース61及び軸受ケース62は板57に装着されている。軸受ケース62内軸受で回動可能に支持されたT軸63は、モータケース61内の減速機構付き電気モータ(図示せず)の出力軸に結合している。T軸63にはトーチホルダ64が結合しており、このトーチホルダ64で溶接トーチ70が保持されている。モータケース61内電気モータの正転で溶接トーチ70を
図4中の2点鎖線で示す右傾斜姿勢70Trに、逆転で左傾斜姿勢70Tlに定めることができる。上記の電気モータは、例えばステッピングモータであり、
図1に示した制御盤2内のコンピュータ3が電気モータを駆動するモータドライバに駆動指令パルスを与えてモータの動作を制御し回転量(T軸回転量)を把握して首振り回動の傾斜を把握する。
【0025】
本実施形態に係る溶接装置1は以上のように構成されている。この溶接装置1においては、各種駆動機構等の動作により溶接トーチ70をX方向、Y方向およびZ方向に移動させることができ、また、X方向を回動中心として回動させ、Y方向を回動中心として回動させることができる。換言すると、溶接装置1は、X方向、Y方向およびZ方向の各方向に溶接トーチ70を移動させるトーチ移動機構と、X方向およびY方向の各方向を回動中心として溶接トーチ70を回動させるトーチ回動機構を有している。
【0026】
(自動溶接方法)
次に、上記の溶接装置1を用いた横向き自動溶接方法について説明する。本実施形態においては、開先内を複数の溶接パスで横向き溶接を行う際の各パスの溶接条件の自動生成方法について重点的に説明するが、溶接装置1で溶接条件の自動生成を開始する前に、まずは開先形状の特定方法について説明する。
【0027】
<開先形状の特定>
開先形状の特定方法の一例として、溶接装置1による開先形状の全自動計測方法について説明する。
図6は、溶接対象材5、6の一例を示す斜視図である。なお、溶接対象材5、6の裏面側に接している平板80は当て金である。
【0028】
まず、制御盤2内のコンピュータ3からの制御信号に基づき、溶接トーチ70に送給された溶接ワイヤ先端のX、Y、Z位置を定める「原点調整」が実施される。
【0029】
次に、溶接ロボット10のY往方向走行と走行距離計測が開始され、開先線の一端部である開先1点目Cs1が検出される。具体的には、T軸駆動機構60の駆動を制御することで溶接トーチ70を開先4の溶接開始側の一端に指向する傾斜姿勢に定めてY走行台車20をY往方向走行駆動し、溶接ワイヤの先端と開先4の溶接開始側の一端にあるフェイス板(図示せず)との接触を検知することにより開先1点目Cs1が検出される。その後、溶接ワイヤの先端を開先4の断面に沿う所定軌跡で振って開先1点目Cs1における開先4のギャップや開先角度、板厚等の開先形状が計測される。
【0030】
続いて、Y復方向走行と走行距離計測が開始され、開先線の開先1点目Cs1とは反対側の端部である開先2点目Cs2が検出される。具体的には、T軸駆動機構60の駆動を制御することで溶接トーチ70を開先4の溶接終了側の一端に指向する傾斜姿勢に定めてY走行台車20をY復方向走行駆動し、溶接ワイヤの先端と開先4の溶接終了側の一端にあるフェイス板(図示せず)との接触を検知することにより開先2点目Cs2が検出される。その後、溶接ワイヤの先端を開先4の断面に沿う所定軌跡で振って開先2点目Cs2における開先4のギャップや開先角度、板厚等の開先形状が計測される。
【0031】
以上で説明した開先形状の特定は、制御盤2内のコンピュータ3による制御下において全自動で実施されるが、例えば開先1点目Cs1の位置と開先2点目Cs2の位置については、作業者が制御盤2に座標情報を入力することによって制御盤2内のコンピュータ3に記憶させてもよい。この場合、溶接装置1は、開先1点目Cs1の位置と開先2点目Cs2の位置を特定する動作を実施せず、入力された開先1点目Cs1の位置における開先4の形状計測と、入力された開先2点目Cs2の位置における開先4の形状計測を自動的に行う。
【0032】
また例えば、開先1点目Cs1及び開先2点目Cs2の位置情報に加えて、作業者が開先4のギャップや開先角度、板厚等の開先形状の情報を制御盤2に入力して制御盤2内のコンピュータ3に記憶させてもよい。この場合、溶接装置1は、開先形状を特定するための動作を実施せず、入力された開先形状の情報に基づき、後述する「条件生成」の制御フローを開始する。すなわち、後述する「条件生成」の制御フローを開始するために必要な開先形状の特定方法は、特に限定されず、上述した方法や公知の方法を適用できる。
【0033】
<条件生成>
図7は、本実施形態に係る溶接装置1が実行する「条件生成」の一例を示すフローチャートである。
【0034】
まず、
図7中のステップs1に示すように、制御盤2内のコンピュータ3は、開先1点目Cs1の開先4の形状から開先1点目Cs1の断面積を算出し、これと同様に、開先2点目Cs2の開先4の形状から開先2点目Cs2の断面積を算出する。次に、開先1点目Cs1の断面積と開先2点目Cs2の断面積とに基づいて、開先線の途中の開先中間点Csmの断面積を算出する。開先中間点Csmの断面積は、例えば、開先1点目Cs1の断面積と開先2点目Cs2の断面積との平均値である。この平均値を算出して、開先1点目Cs1と開先2点目Cs2との間の開先中間点Csmの断面積とみなす。なお、開先中間点Csmは、開先1点目Cs1から開先2点目Cs2までの距離の1/2の位置にあるとは限らない。
【0035】
次に、
図7中のステップs2に示すように、開先中間点Csnの断面を溶着金属で埋めるために必要な「溶接層の積層数」と「各溶接層の深さ」を算出する。具体的には、制御盤2内のコンピュータ3に予め設定された溶接対象材5、6の板厚と余盛高さと基準層深さとから、溶接層の積層数を算出し、ここで算出された積層数と溶接対象材5、6の板厚と余盛高さとから、各溶接層の深さを算出する。
【0036】
「基準層深さ」とは、横向き溶接時に溶融金属が垂れ難くなる溶接層1層あたりの開先深さ方向(X方向)の長さであり、当業者が横向き溶接の実験等を行い適宜設定するものである。なお、基準層深さは、溶融金属の垂れを抑制することが可能な目安の深さであり、実際の溶接層の深さが基準層深さを超えた時に必ず垂れが生じるということではない。
【0037】
溶接層の積層数と各溶接層の溶接層深さは、例えば次のように算出される。表1は、余盛高さHwが2mm、基準層深さDrefが4mmと設定されている場合の計算例である。
【0038】
【0039】
まず、(板厚t+余盛高さHs)/基準層深さDrefの計算を行う。ここで算出された値の小数点以下を切り捨てた値が溶接層の積層数である。例えば、板厚tが20mmの場合には、(板厚t+余盛高さHs)/基準層深さDrefの計算値が5.5であり、この値の小数点以下を切り捨てた数値である“5”が溶接層の積層数である。すなわち、板厚tが20mmの場合には、開先4内に溶接層を5層形成する条件が設定される。
【0040】
そのような溶接層が5層形成される開先断面の一例を
図8に示す。この例では、第1層A、第2層B、第3層C、第4層D、第5層Eからなる5層の溶接層が存在する。なお、
図8中の各溶接層A~Eの層内に付された数字は各々の層内における溶接パス数である。溶接パス数の決定方法については後述する。
【0041】
次に、前述の方法で算出された溶接層の積層数を用いて、(板厚t+余盛高さHs)/積層数の計算を行う。ここで算出された値が、各溶接層の溶接層深さとなる。上記表1に示すように、板厚tが20mmの場合には、各溶接層(第1層~第5層)の溶接深さLdがそれぞれ4.4mmに設定される。
【0042】
次に、
図7中のステップs3に示すように、各溶接層の断面積である「層断面積」を算出する。具体的には、開先4の形状と、ステップs2で算出された溶接層深さから、例えば下記の式を用いて溶接層ごとに層断面積を算出する。
Sn=(Gn×Ld+(Ld×tanθ)×Ld)/2
Sn:溶接層の層断面積(mm
2)、Gn:溶接層の開先幅(mm)、Ld:溶接層の深さ(mm)、θ:開先角度(°)
【0043】
次に、
図7中のステップs4に示すように、各溶接層の1パスあたりの「基準断面積」を算出する。具体的には、制御盤2内のコンピュータ3に予め設定された「基準溶接条件」と開先4に送給するワイヤの径から、溶接層ごとに基準断面積を算出する。
【0044】
「基準溶接条件」とは、溶接電流、溶接電圧、ワイヤ送給速度、溶接速度、ワイヤの溶着効率等を含む条件であり、当業者が横向き溶接の実験等を行い適宜設定するものである。なお、複数の溶接層は、第1層、第2層、中間層、最終層と区分され、上記の基準溶接条件は、第1層、第2層、中間層、最終層ごとにそれぞれ設定されるものである。
【0045】
「最終層」とは、複数の溶接層のうちの最後に形成される溶接層であり、溶接対象材5、6の表面に最も近い溶接層である。
図8に示す例では、第5層Eが最終層である。「中間層」とは、第2層と最終層との間に位置する溶接層である。
図8に示す例では、第3層Cと第4層Dが中間層に属する溶接層である。なお、溶接層の積層数が4層である場合には、中間層は1層で構成され、溶接層の積層数が3層である場合には、中間層は存在しない。
【0046】
前述した各溶接層の1パスあたりの「基準断面積」は、例えば下記の式で算出される。
Sp=(Wf×(Wd/2)2×π×K)/Wmin
Wf:ワイヤ送給速度(m/min)、Wd:ワイヤ径(mm)、K:溶着効率(%)、Wmin:基準溶接速度範囲の下限値(mm/min)
なお、「基準溶接速度範囲」とは、基準溶接条件として設定されている溶接速度の範囲である。
【0047】
次に、
図7中のステップs5に示すように、各溶接層における溶接パス数を算出する。詳述すると、既に算出されている各溶接層の層断面積と1パスあたりの基準断面積とから、各溶接層における溶接パス数を算出する。具体的には、(層断面積Sn/基準断面積Sp)の計算を行い、算出された値の小数点以下を切り捨てた値を溶接パス数とする。
【0048】
例えば
図8に示した第1層Aにおける層断面積Snが38.6mm
2であり、第1層Aにおける基準断面積Spが29.0mm
2である場合には、(層断面積Sn/基準断面積Sp)の計算値は1.33となる。ここで算出された値の小数点以下を切り捨てた数値である“1”が第1層Aにおける溶接パス数となる。また例えば、第2層Bにおける層断面積Snが52.8mm
2であり、第2層Bにおける基準断面積Spが19.2mm
2である場合には、(層断面積Sn/基準断面積Sp)の計算値は2.74となり、小数点以下を切り捨てた数値である“2”が第2層Bにおける溶接パス数となる。第3層C~第5層Eにおける溶接パス数も同様の方法によって算出する。また、算出された各溶接層の溶接パス数を用いて、(層断面積Sn/溶接パス数)の計算を行うことで、各溶接パスの断面積を算出することができる。
【0049】
以上の方法によって、溶接層ごとの溶接パス数と溶接層内に占める各溶接パスの断面積の大きさが決定される。前述した表1においては、積層数から算出された溶接層深さLdが、垂れが生じ難い深さとして設定された基準層深さよりも大きい例も含まれているが、上記のように溶接パス数を設定することによって、各溶接層の層断面積を適度に細分化できる。これにより、各溶接パスの溶接時における溶融金属の垂れを抑制できる。
【0050】
なお、中間層に属する各溶接層(
図8の例では第3層Cと第4層D)において溶接パス数を算出する際には、((層断面積Sn‐基準断面積Sp)/基準断面積Sp)の計算を行い、算出された値の小数点以下を切り捨てた数値に“1”を加算した数値を溶接パス数として設定することが好ましい。これにより、中間層に属する各溶接層における最終パスの溶接時に生じ得る溶け込み不良の発生を抑制できる。
【0051】
次に、
図7中のステップs6に示すように、各溶接パスの断面積を算出する。具体的には、既に算出されている層断面積と溶接パス数から、例えば下記の式を用いて各溶接パスの断面積を算出する。
Spn=Sn/溶接パス数
Spn:溶接パスの断面積(mm
2)、Sn:溶接層の層断面積(mm
2)
【0052】
次に、
図7中のステップs7に示すように、各溶接パスにおける溶接速度を算出する。溶接速度は、予め設定された基準溶接条件と開先に供給するワイヤの径と溶接パスの断面積とから、例えば下記の式を用いて算出される。
Ws=(Wf×(Wd/2)
2×π×K)/Spn
Ws:溶接パスの溶接速度(mm/min)、Wf:ワイヤ送給速度(m/min)、Wd:ワイヤ径(mm)、K:溶着効率(%)、Spn:溶接パスの断面積(mm
2)
【0053】
次に、
図7中のステップs8に示すように、開先1点目Cs1と開先2点目Cs2における溶接速度の比率を決定する。具体的には、開先1点目Cs1の断面積と開先2点目Cs2の断面積の比較から、開先中間点Csmの溶接速度に対する開先1点目Cs1の溶接速度の比率と開先2点目Cs2の溶接速度の比率を決定する。そして、決定された比率に基づき、開先1点目Cs1の各溶接パスにおける溶接速度と、開先2点目Cs2の各溶接パスにおける溶接速度を算出する。次に、開先線に沿って開先1点目Cs1から開先2点目Cs2までの区間を例えば
図6に示すように5つの領域Sa~Seに区分する。その後、上記の比率に基づいて算出された、開先1点目Cs1における溶接速度と開先2点目Cs2における溶接速度とを用いて、各領域の溶接速度を直線補間により決定する。例えば、開先1点目Cs1の溶接速度を最初の領域Saの溶接速度とし、開先2点目Cs2の溶接速度を最後の領域Seの溶接速度として、2番目の領域Sbの始点から、4番目の領域Sdの終点までの溶接速度を直線補間により決定する。
【0054】
次に、
図7中のステップs9に示すように、決定した溶接速度に従い各領域Sa~Seのオシレート条件(例えばオシレート速度)を算出する。具体的には、例えば作業者によって予め設定された溶接層ごとのオシレート幅やオシレート端点停止時間などの条件に基づきオシレート速度が算出され、算出されたオシレート速度に従って溶接時に溶接トーチ70がオシレートされる。なお、溶接トーチ70のオシレートは必要に応じて行われることであり、溶接装置1はオシレートのON/OFF切替が可能な構成を有している。例えば
図7に示す条件生成フローの開始前にオシレートの設定がOFFにされている場合には、オシレートの条件生成ステップs9はスキップされる。また例えば、複数の溶接層のうちの第1層の溶接時にのみオシレートをONとし、他の溶接層の溶接時にはオシレートをOFFとする設定にしてもよい。
【0055】
以上のステップs1~s9を経て、溶接装置1を制御するコンピュータ3による「条件生成」が終了する。その後、生成された溶接条件に基づいて開先の横向き自動溶接が開始される。
【0056】
本実施形態に係る横向き自動溶接方法においては、溶融金属の垂れが生じ難い深さとして予め設定される基準層深さを起点として、溶接層の積層数や溶接パス数等を算出する。このため、横向き溶接時の溶融金属の垂れを考慮した溶接条件を自動生成することが可能となる。
【0057】
なお、本実施形態では、開先中間点Csmの断面積に基づきステップs2~ステップs7を実行する例を説明したが、これらのステップs2~s7を実行する対象断面は、開先中間点Csmの断面に限定されず、開先線内の他の位置における断面であってもよい。すなわち、開先線内の任意の位置における開先断面に対してステップs2~ステップs7を実行しても、当該断面における溶接層の積層数や溶接パス数などの溶接条件を自動生成することは可能である。
【0058】
また、前述したステップs7で、各溶接パスにおける溶接速度を算出する際には、
図9に示すフローチャートに沿って必要に応じて溶接パス数の修正を行うことが好ましい。以下、具体的に説明する。
【0059】
<溶接パス数の修正>
まず、
図9中のステップs71に示すように、算出された溶接速度が基準溶接速度範囲の下限値以上であるか否かを判定する。基準溶接速度範囲は、前述したように基準溶接条件として設定されている溶接速度の範囲である。ステップs71において、溶接速度が基準溶接速度範囲の下限値を下回る場合には、ステップs72に進む。そのような溶接速度が基準溶接速度範囲の下限値を下回る場合の一例を下記表2に示す。
【0060】
【0061】
表2の例では、中間層の基準溶接速度範囲として、400~550(mm/min)が設定されているが、第4層における1パス目と2パス目の溶接速度として算出された値は386(mm/min)であり、中間層の基準溶接速度範囲の下限値400(mm/min)を下回っている。中間層の基準溶接速度範囲の下限値は、中間層の横向き溶接時に垂れが生じ難い速度として設定されるため、垂れを抑制する効果を高めるため、溶接速度を修正することが好ましい。
【0062】
そこで、
図9に示すフローでは、溶接速度が基準溶接速度範囲の下限値を下回る溶接パスがある場合に、ステップs72として、当該溶接パスを含む溶接層の溶接パス数を1パス増加させる。表2の例では、第4層の溶接パス数を3パスから4パスに増加させる。次に、ステップs73において、
図7のステップs7と同様の方法で各溶接パスの断面積を再計算する。ここで算出された各溶接パスの断面積の値を用いて、ステップs74として、
図7のステップs7と同様の方法で各溶接パスにおける溶接速度を再計算する。その後、ステップs71に戻り、再計算された溶接速度が基準溶接速度範囲の下限値以上であるか否かを再度判定する。
【0063】
ステップs71において、溶接速度が基準溶接速度範囲の下限値以上である場合には、ステップs75に進む。ステップs75では、溶接速度が基準溶接速度範囲の上限値以下であるか否かを判定する。ステップs75において、溶接速度が基準溶接速度範囲の上限値を上回る場合には、ステップs76に進む。そのような溶接速度が基準溶接速度範囲の上限値を上回る場合の一例を下記表3に示す。
【0064】
【0065】
表3の例では、第4層における1~3パス目の溶接速度として算出された値が579(mm/min)であり、中間層の基準溶接速度範囲の上限値550(mm/min)を上回っている。このように溶接速度が基準溶接速度範囲の上限値を上回る溶接パスがある場合には、ステップs76として、当該溶接パスを含む溶接層の溶接パス数を1パス減少させる。表3の例では、第4層の溶接パス数を4パスから3パスに減少させる。次に、ステップs77において、
図7のステップs6と同様の方法で各溶接パスの断面積を再計算する。ここで算出された各溶接パスの断面積の値を用いて、ステップs78として、
図7のステップs7と同様の方法で各溶接パスにおける溶接速度を再計算する。その後、ステップs75に戻り、再計算された溶接速度が基準溶接速度範囲の上限値以下であるか否かを再度判定する。
【0066】
以上のステップs71~s78の制御を行うことによって、各溶接パスにおける溶接速度が基準溶接速度範囲の範囲内となるまで溶接パス数を修正でき、より適切な溶接条件を自動生成することができる。
【0067】
<垂れ防止ビード>
開先4の横向き溶接を行う際には、
図8に示すように、開先4の下側に位置する溶接対象材6の表面側の角部に垂れ防止ビード90を形成してもよい。垂れ防止ビード90は、溶接線方向(Y方向)に延びた溶接ビードである。
【0068】
最終層(
図8の例では第5層E)は、余盛高さHwを含む溶接層であるため、例えば第1層Aから第4層Dまでを実際に溶接した際に各溶接層A~Dの溶接層深さが設計値よりも過度に大きくなると、第5層Eが開先4内に十分に収まらず、第5層Eの溶接時に垂れが生じ易くなる場合がある。
【0069】
そのような場合に予め垂れ防止ビード90を形成しておくと、第5層Eの1パス目の溶着金属が垂れ防止ビード90の上に載る状態となるため、開先4からの溶融金属の垂れを抑制できる。また、垂れ防止ビード90を形成することによって、従来、垂れ防止用の部品として使用されていたセラミックタブが不要となり、部品コストを削減することができる。
【0070】
なお、垂れ防止ビード90は、最終層の溶接開始前に形成されていれば、垂れ防止ビード90の形成タイミングは特に限定されない。
図8の例では、第1層Aの1パス目の溶接を開始する前に形成してもよいし、第4層Dの3パス目の溶接終了後であって第5層Eの1パス目の溶接開始前に形成してもよい。
【0071】
また、溶接条件の生成時においては、例えば制御盤2内のコンピュータ3に設定される余盛高さHwの大きさが所定の閾値以上であるときに、最終層の溶接開始前に垂れ防止ビード90を形成する溶接条件を生成するようにしてもよい。
【0072】
以上、本発明の実施形態について例示したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0073】
例えば、上記実施形態の構成要件は任意に組み合わせることができる。当該任意の組み合せからは、組み合わせにかかるそれぞれの構成要件についての作用及び効果が当然に得られるとともに、本明細書の記載から当業者には明らかな他の作用及び他の効果が得られる。
【0074】
また、本明細書に記載された効果は、あくまで説明的または例示的なものであって限定的ではない。つまり、本開示に係る技術は、上記の効果とともに、又は、上記の効果に代えて、本明細書の記載から当業者には明らかな他の効果を奏しうる。
【0075】
なお、以下のような構成例も本開示の技術的範囲に属する。
(1)横向き自動溶接装置を制御するコンピュータを用いて開先の形状に基づく溶接条件を自動生成し、生成された溶接条件で自動的に前記開先の横向き溶接を行う横向き自動溶接方法であって、
前記コンピュータは、前記横向き溶接を開始する前の溶接条件生成時に、
予め設定された、溶接対象材の板厚と余盛高さと基準層深さとから、前記開先の断面を溶着金属で埋めるために必要な溶接層の積層数を算出し、
前記板厚と前記余盛高さと前記積層数とから、各溶接層の溶接層深さを算出し、
前記開先の形状と前記溶接層深さとから、各溶接層の断面積である層断面積を算出し、
予め設定された基準溶接条件と前記開先に送給するワイヤの径から、各溶接層の1パスあたりの基準断面積を算出し、
前記層断面積と前記基準断面積から、各溶接層における溶接パス数を算出することで、溶接条件を生成し、
前記生成された溶接条件で前記開先の横向き溶接を行うことを特徴とする、横向き自動溶接方法。
(2)前記コンピュータは、
複数の前記溶接層を第1層、第2層、中間層および最終層と区分したときの前記中間層の溶接パス数を算出する際に、前記層断面積から前記基準断面積を差し引いた値と前記基準断面積とから、前記中間層における溶接パス数を算出することを特徴とする、(1)に記載の横向き自動溶接方法。
(3)前記コンピュータは、
前記基準溶接条件と前記開先に送給するワイヤの径から、各溶接パスにおける溶接速度を算出し、
前記溶接速度が予め設定された基準溶接速度範囲の範囲内となるように溶接パス数の修正を行う制御を実行することを特徴とする、(1)又は(2)に記載の横向き自動溶接方法。
(4)複数の前記溶接層のうちの最終層の溶接を開始する前に、前記開先の下側に位置する溶接対象材の表面側の角部に溶接線方向に沿って延びるビードを形成することを特徴とする、(1)~(3)のいずれかに記載の横向き自動溶接方法。
(5)開先の形状に基づく溶接条件を自動生成し、生成された溶接条件で自動的に前記開先の横向き溶接を行う横向き自動溶接装置であって、
溶接トーチと、
溶接線が延びる溶接線方向、前記開先の深さ方向及び前記開先の幅方向の各々の方向に前記溶接トーチを移動させるトーチ移動機構と、
制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記横向き溶接を開始する前の溶接条件生成時に、
予め設定された、溶接対象材の板厚と余盛高さと基準層深さとから、前記開先の断面を溶着金属で埋めるために必要な溶接層の積層数を算出し、
前記板厚と前記余盛高さと前記積層数とから、各溶接層の溶接層深さを算出し、
前記開先の形状と前記溶接層深さとから、各溶接層の断面積である層断面積を算出し、
予め設定された基準溶接条件と前記開先に送給するワイヤの径から、各溶接層の1パスあたりの基準断面積を算出し、
前記層断面積と前記基準断面積から、各溶接層における溶接パス数を算出することで、溶接条件を生成し、
前記生成された溶接条件で前記開先の横向き溶接を行う制御を実行することを特徴とする、横向き自動溶接装置。
(6)前記制御手段は、複数の前記溶接層を第1層、第2層、中間層および最終層と区分したときの前記中間層の溶接パス数を算出する際に、前記層断面積から前記基準断面積を差し引いた値と前記基準断面積とから、前記中間層における溶接パス数を算出する制御を実行することを特徴とする、(5)に記載の横向き自動溶接装置。
(7)前記制御手段は、
前記基準溶接条件と前記開先に送給するワイヤの径から、各溶接パスにおける溶接速度を算出し、
前記溶接速度が予め設定された基準溶接速度範囲の範囲内となるように溶接パス数の修正を行う制御を実行することを特徴とする、(5)又は(6)に記載の横向き自動溶接装置。
(8)前記制御手段は、複数の前記溶接層のうちの最終層の溶接を開始する前に、前記開先の下側に位置する溶接対象材の表面側の角部に溶接線方向に沿って延びるビードを形成する制御を実行することを特徴とする、(5)~(7)のいずれかに記載の横向き自動溶接装置。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、開先の横向き自動溶接方法に適用することができる。
【符号の説明】
【0077】
1 :自動溶接装置
2 :制御盤
3 :コンピュータ
4 :開先
5、6 :溶接対象材
7 :吸着具
9 :ガイドレール
10 :溶接ロボット
20 :Y走行台車
50 :トーチ姿勢調整機構
60 :T軸駆動機構
61 :モータケース
62 :軸受ケース
63 :T軸
64 :トーチホルダ
70 :トーチ
70wf :前方傾斜姿勢
70wr :後方傾斜姿勢
70Tr :右傾斜姿勢
70Tl :左傾斜姿勢
80 :当て金
90 :垂れ防止ビード
A :第1層
B :第2層
C :第3層
D :第4層
E :第5層
Cs1 :開先1点目
Cs2 :開先2点目
Csm :開先中間点
Hw :余盛高さ
Sa~Se:領域
【要約】
【課題】開先の横向き溶接において、溶融金属の垂れを抑制できる溶接条件を自動生成することが可能な横向き自動溶接方法を提供する。
【解決手段】横向き自動溶接装置を制御するコンピュータを用いて開先4の形状に基づく溶接条件を自動生成し、生成された溶接条件で自動的に開先4の横向き溶接を行う横向き自動溶接方法において、予め設定された、溶接対象材5、6の板厚と余盛高さHwと基準層深さとから、開先4の断面を溶着金属で埋めるために必要な溶接層の積層数を算出し、各溶接層の溶接層深さを算出し、各溶接層の層断面積を算出し、各溶接層の1パスあたりの基準断面積を算出し、層断面積と基準断面積から、各溶接層における溶接パス数を算出することで、溶接条件を生成し、生成された溶接条件で開先4の横向き溶接を行う。
【選択図】
図8