(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】大気遮断装置及び大気非暴露搬送方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/20 20060101AFI20240724BHJP
H01J 37/18 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
H01J37/20 Z
H01J37/18
H01J37/20 G
(21)【出願番号】P 2022105120
(22)【出願日】2022-06-14
【審査請求日】2023-07-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 販売日 令和4年3月31日 販売した場所 国立研究開発法人物質・材料研究機構
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520210675
【氏名又は名称】株式会社ANMIC
(72)【発明者】
【氏名】井上 佳寿恵
(72)【発明者】
【氏名】保田 英洋
(72)【発明者】
【氏名】丹司 敬義
【審査官】後藤 慎平
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-124755(JP,U)
【文献】特開昭61-058151(JP,A)
【文献】特開昭60-264033(JP,A)
【文献】特開2010-108936(JP,A)
【文献】特開2014-116185(JP,A)
【文献】国際公開第2015/011967(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/20
H01J 37/18
H01J 37/16
G01N 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察・分析装置の試料ホルダー取付部に取り付けられ、カバーとなる大気遮断装置であって、
観察・分析装置の試料ホルダー取付部に密着接続・固定が可能な接続部と、
前記接続部に密着接続・固定が可能なチャンバー部と、
前記チャンバー部への脱着
が可能な蓋と、
から構成され、前記接続部と前記チャンバー部と前記蓋とはそれぞれ分割可能で
あり、
前記蓋は、前記試料ホルダーに付属の接続ケーブルへの電力供給を可能とするコネクタを有することを特徴とする大気遮断装置。
【請求項2】
前記接続部、前記チャンバー部、前記蓋は観察・分析装置にあらかじめ装備されている部品及び装飾品に干渉がない、
ことを特徴とする請求項1に記載の大気遮断装置。
【請求項3】
観察・分析装置の試料ホルダー取付部に取り付けられ、カバーとなる大気遮断装置であって、
観察・分析装置の試料ホルダー取付部に密着接続・固定が可能な接続部と、
前記接続部に密着接続・固定が可能なチャンバー部と、
前記チャンバー部への脱着可能な蓋と、
から構成され、前記接続部と前記チャンバー部と前記蓋とはそれぞれ分割可能であり、
前記接続部、前記チャンバー部、前記蓋は前記観察・分析装置にあらかじめ装備されている部品及び装飾品に干渉がなく、
前記蓋は、前
記試料ホルダーに付属の接続ケーブルへの電力供給を可能とするコネクタを有す
ることを特徴とする大気遮断装置。
【請求項4】
試料ホルダーを観察・分析装置から別の場所へ搬送する際に
、前記観察・分析装置の試料ホルダー取付部に取り付けられて、カバーとなる大気遮断装置を搬送する搬送方法であって、
前記大気遮断装置は、観察・分析装置の試料ホルダー取付部に密着接続・固定が可能な接続部と、前記接続部に密着接続・固定が可能なゲートバルブと、前記ゲートバルブに密着接続・固定が可能なチャンバー部と、前記チャンバー部への脱着が可能な蓋を備えてお
り、
前記チャンバー部の一部に大気遮断タイプの手袋を取り付け、
上記手袋によって
前記試料ホルダーを
前記観察・分析装置から引き抜き、
前記試料ホルダー全体を前記チャンバー部内部に設置した後、前記ゲートバルブを閉じ、前記チャンバー部を真空排気あるいは不活性ガス置換によって酸素や水分が極力排除された状態とし、
前記観察・分析装置から
前記試料ホルダーを分離させて大気遮断状態のまま持ち運びを可能とする、ことを特徴とする大気遮断装置の搬送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観察・分析装置に装着された試料ホルダーの一部または全体を密封して大気と遮断する装置及び大気非暴露搬送方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
試料ホルダーに保持された試料は、大気中を搬送し、観察・分析装置内のしかるべき位置に挿入され、電子やイオン等の荷電粒子ビームにより照射され、照射された後に試料から発生する荷電粒子やX線等を検出して試料の形状や組成を測定することができるようになっている。試料の測定の過程においては、以下の問題が発生している。
【0003】
1.観察・分析点の位置の不安定さ
実験室内の空気は扉の開閉やエアコンなどの影響を受ける。観察・分析装置装着時に試料ホルダーの一部が大気にさらされていることにより、室内の気圧の変動や空気の動きによって試料ホルダーが押されたり引っ張られたりするため、試料位置が安定せず、観察点・分析点が動く。
【0004】
2.搬送時での大気中の水分や酸素による試料の劣化
試料の多くは大気に含まれる酸素や水分が吸着し、試料汚染の原因となる。また酸素や水分に反応しやすい材料も多く、その場合は元の材料と異なった観察・分析結果を示すこととなる。
【0005】
このように観察・分析装置では、試料を装着した試料ホルダーを大気中で搬送し、試料ホルダーの先端のみを観察・分析装置内に挿入するようになっている。メーカー標準装備の試料ホルダーの利用時には試料ホルダーの大気に露出している部分を密封するタイプの観察・分析装置も登場するようになってきているが、加熱機能などを有する特殊な試料ホルダーはサードパーティーが販売しており、それらの試料ホルダーは装置メーカーの密封機能は対応していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2020-27716
【文献】特開2012-138233
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
試料ホルダーの大気露出部分の大気遮断については、観察・分析装置メーカーあるいはサードパーティーが提供する専用カバーが知られている(特許文献1)。しかしながらこのカバーは大気変動や音・振動の低減に特化したカバーとしての機能をもつものであり、拡張性はなく、試料ホルダーに電力を供給するためのコネクター形状によってはカバーを使用できない場合がある。またカバー単一機能であるため、試料ホルダー全体を大気遮断して装置から取り外し搬送する機能を有することはできない。
【0008】
試料ホルダーの試料保持部のみを大気に暴露しないタイプの試料ホルダーは存在しているが、ユーザーが使いたい試料ホルダー全体を大気遮断して用いることはできない(特許文献2)。また試料ホルダー全体を大気から遮断できないため、前記大気遮断カバーと互換性はなくカバーは別途準備する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による大気非暴露搬送装置は、観察・分析装置の試料ホルダー取付部に取り付けられ、カバーとなる大気遮断装置であって、 観察・分析装置の試料ホルダー取付部に密着接続・固定が可能な接続部と、前記接続部に密着接続・固定が可能なチャンバー部と、前記チャンバー部への脱着可能な蓋とから構成され、前記接続部と前記チャンバー部と前記蓋とはそれぞれ分割可能であることを特徴とする。
【0010】
また、前記接続部、前記チャンバー部、前記蓋は観察・分析装置にあらかじめ装備されている部品及び装飾品に干渉がないことを特徴とする。
【0011】
また、前記蓋は、観察・分析装置の試料ホルダーに付属の接続ケーブルへの電力供給を可能とするコネクタを有する。
【0012】
また、前記接続部、前記チャンバー部、前記蓋は観察・分析装置にあらかじめ装備されている部品及び装飾品に干渉がなく、前記蓋は、観察・分析装置の試料ホルダーに付属の接続ケーブルへの電力供給を可能とするコネクタを有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明による大気非暴露搬送は、試料ホルダーを観察・分析装置から別の場所へ搬送する際の搬送装置となる大気遮断装置であって、前記接続部と、前記接続部に密着接続・固定が可能なゲートバルブと、前記ゲートバルブに密着接続・固定が可能なチャンバー部と、前記チャンバー部への脱着可能な蓋とから構成され、試料ホルダー全体を前記チャンバー部内に大気遮断収納して搬送可能な特徴を有する。
【0014】
また、前記接続部、前記チャンバー部、前記ゲートバルブ、前記蓋は観察・分析装置にあらかじめ装備されている部品及び装飾品に干渉がないことを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明による大気遮断装置の搬送方法は、試料ホルダーを観察・分析装置から別の場所へ搬送する際において、前記チャンバー部の一部に大気遮断タイプの手袋を取り付け、前記手袋によって試料ホルダーを実験容器や観察・分析装置から引き抜き、試料ホルダー全体を前記チャンバー部内部に設置した後、前記ゲートバルブを閉じ、前記チャンバー部を真空排気あるいは不活性ガス置換によって酸素や水分が極力排除された状態とし、観察・分析装置から分離させて大気遮断状態のまま持ち運びを可能とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の大気遮断装置によれば、観察・分析装置に装着された試料ホルダーの大気露出部分を大気から遮断するカバーとして使用することで、室内の気圧変動や大気の動きが試料ホルダーに伝わることを低減することができる。
【0017】
本発明の大気遮断装置によれば、試料ホルダーに付属の接続ケーブルのコネクターの仕様に応じて複数種のコネクター付き蓋を交換することで、どのような試料ホルダーに対しても使用することができる。
【0018】
本発明の大気遮断装置によれば、接続部とチャンバー部の間にゲートバルブを装着することで、試料ホルダー全体をチャンバー内に収納して大気から遮断し、真空排気あるいはガス置換によって酸素や水分が極力排除された状態を維持したまま持ち運びすることができ、大気に含まれる酸素や水の成分による試料の劣化を低減することができる。
【0019】
本発明の大気遮断方法によれば、グローブボックス内で試料ホルダーに保持された試料は、試料ホルダーごと大気に触れることなく分析装置のゴニオメーターに取り付けられ、試料は大気に触れることなく分析装置内に挿入され、大気に含まれる酸素や水の成分による劣化なく分析を可能とする効果をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】は、観察・分析装置に装着された加熱試料ホルダーの装置外露出部分を大気から遮断し、かつ、加熱ホルダーに付属の電力供給ケーブルに接続可能なコネクターに外部の電源から電力を供給する大気遮断装置の一例を示す図である。
【0021】
【
図2】は、試料ホルダーに保持された試料を大気に触れさせることなく、グローブボックスから分析装置まで試料ホルダーの搬送を可能とする試料ホルダー全体を搬送する大気遮断装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の大気遮断装置は、観察・分析装置と密着接続が可能であり、かつ、分割可能なパーツから構成されており、自在に変形が可能であるため、試料ホルダーが観察・分析装置にとりつけられている場合にその試料ホルダーの装置外露出部分を大気遮断するカバーとして用いることができ、また、試料を大気にさらさずに搬送する場合には、試料ホルダー全体を本装置の内部に収納して大気遮断して観察・分析装置から別の場所へ搬送する装置として利用することができる。従って、本発明の大気遮断装置により、測定中は実験室の気圧や空気の変動の影響を低減し、かつ、試料の搬送においては大気に含まれる酸素や水の成分による汚染や劣化を低減し、再現性のあるデータの創出において、信頼性の高い安定した分析を可能とし、研究発展をはじめ広範な範囲での分野において有益である。
【0023】
本発明の大気遮断装置は、
図1を参照すれば、観察・分析装置1の試料ホルダー取り付け部2に試料ホルダー3が装着され、試料4は観察・分析装置1の内部の適切な位置に保持された後、接続部5とチャンバー部6と蓋7から構成される大気遮断装置の接続部5を試料ホルダー取り付け部2に密着させ、固定具8で固定することで、試料ホルダー3の装置外露出部分に露出している部分を大気から遮断する。
【0024】
本発明の大気遮断装置は、
図1を参照すれば、試料ホルダー3の先端のヒーター14に電力を供給するためのケーブル9を蓋10に取り付けられたコネクター11に内側から接続し、電源13の出力ケーブル12をコネクター11に外側から接続し、ケーブル9とケーブル12を導通させ、加熱試料ホルダー3の装置外露出している部分を大気遮断した状態で、電源13からヒーター14に電流を流し、試料4を加熱することが可能である。
【0025】
本発明の大気遮断装置は、
図2を参照すれば、チャンバー部15には手袋16がフランジ17を介して取り付けられている。真空引きバルブ24は真空ポンプに接続され、ガス導入バルブ25は不活性ガスなど任意のガスボンベに接続される。ゲートバルブ22のゲート弁21が駆動棒23によって閉じられ、チャンバー部15内部が密封された後、真空引きバルブ24とガス導入バルブ25の開閉によりチャンバー部15内部の真空排気とガス置換の制御を行い酸素や水分を排除する。
【0026】
真空引きバルブ19は真空ポンプに接続され、ガス導入バルブ20は不活性ガスなど任意のガスボンベに接続される。接続部5が固定具8によって観察・分析装置1の試料ホルダー取り付け部2に密着接続・固定され、真空引きバルブ19とガス導入バルブ20の開閉により接続部5の内部の真空排気とガス置換の制御を行い酸素や水分を排除する。
【0027】
接続部5が固定具8によって観察・分析装置1の試料ホルダー取り付け部2に密着接続された状態で、真空引きバルブ21とガス導入バルブ21の開閉により接続部5の内部の真空排気とガス置換の制御を行い酸素や水分を排除する。
接続部5とチャンバー部15が同じ圧力の置換ガスで充満された状態で、ゲートバルブ部22の駆動棒23によってゲート弁21を開け、手袋16によって試料ホルダー3のホルダーグリップ7をつかんで試料ホルダー取り付け部2から試料ホルダー3引き抜き、チャンバー部15内に移動させる。試料ホルダー3は台座18に置いて保持し、ゲート弁21を駆動棒23によって閉じ、接続部5を試料ホルダー取り付け部2から切り離す。こうして試料ホルダー3の試料4は大気に触れることなく観察・分析装置1内から取り外され、任意の場所へ搬送することができる。
【0028】
[0025]乃至[0027]と逆の手順で大気遮断して搬送された試料ホルダー3は、大気に触れることなく観察・分析装置1内に挿入することができる。
【0029】
グローブボックスに試料ホルダー取り付け部2と同じ形状のフランジを用意すれば、試料を大気に触れさせることなくグローブボックス内に挿入することができる。また逆に試料を大気に触れさせることなくグローブボックス内から取り出し、任意の場所へ搬送することができる。すなわち本装置を用いることで、試料を大気に触れることなく観察・分析装置1とグローブボックスの間で行き来させることができる。
【0030】
チャンバー3をガラスまたは樹脂など透明な素材で製作すれば、内部が観察可能であり、例えば試料ホルダーの状態を確認することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 観察・分析装置
2 試料ホルダー取り付け部
3 試料ホルダー
4 試料
5 接続部
6 チャンバー部
7 ホルダーグリップ
8 固定具
9 ケーブル
10 蓋
11 コネクター
12 出力ケーブル
13 電源
14 ヒーター
15 チャンバー部
16 手袋
17 フランジ
18 台座
19 真空引きバルブ
20 ガス導入バルブ
21 ゲート弁
22 ゲートバルブ部
23 駆動棒
24 真空引きバルブ
25 ガス導入バルブ