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特許7525789鋼管とプレキャスト部材の接続構造及びその接続方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】鋼管とプレキャスト部材の接続構造及びその接続方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/00 20060101AFI20240724BHJP
   E02D 27/12 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
E02D27/00 E
E02D27/12 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020195935
(22)【出願日】2020-11-26
(65)【公開番号】P2022084216
(43)【公開日】2022-06-07
【審査請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000230010
【氏名又は名称】ジオスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】池田 真
(72)【発明者】
【氏名】松野 真樹
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-138096(JP,A)
【文献】特開2019-152089(JP,A)
【文献】特開2014-145228(JP,A)
【文献】特開昭48-098605(JP,A)
【文献】特開2017-095955(JP,A)
【文献】特開2006-057312(JP,A)
【文献】特開平02-272148(JP,A)
【文献】特開昭63-300120(JP,A)
【文献】特開2018-178641(JP,A)
【文献】特開2019-137991(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1036507(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/00
E02D 27/12
E04B 1/58
E02B 3/04
E02B 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート製のプレキャスト部材と、鋼管と、当該プレキャスト部材と当該鋼管とに跨って配置される接続部材と、からなる接続構造であって、
前記接続部材の一方の端部は前記鋼管の内部に内包され、前記接続部材の他方の端部は前記プレキャスト部材に形成された挿入孔に内包され、
前記接続部材は、前記鋼管の内部及び前記挿入孔の内部に充填された時経硬化材によって固定され、
前記プレキャスト部材の接続端面の一部及び前記挿入孔の内部に充填された時経硬化材の端面は、前記鋼管の内部に充填された時経硬化材の端面と直接的に接触し、且つ、前記プレキャスト部材の接続端面と前記鋼管の端面との間には直接的な接触を回避する接触回避手段が施され
前記プレキャスト部材は、下部構造としての膨出部と、上部構造としてのパネル部からなる壁体構造物であり、前記膨出部の厚みは前記パネル部の厚みより厚く構成され、前記挿入孔は前記膨出部に形成されていることを特徴とする、接続構造。
【請求項2】
前記接触回避手段は、前記鋼管の端面に施される緩衝材であることを特徴とする、請求項1に記載の接続構造。
【請求項3】
前記接触回避手段は、前記プレキャスト部材の端面に形成され、前記鋼管の端面形状に対応した円環形状の切欠き部であることを特徴とする、請求項1に記載の接続構造。
【請求項4】
前記接触回避手段は、前記鋼管の端面を覆う時経硬化材であり、当該時経硬化材は前記鋼管の内部に充填された時経硬化材と一体化して構成されることを特徴とする、請求項1に記載の接続構造。
【請求項5】
前記プレキャスト部材に形成された挿入孔は、当該プレキャスト部材を貫通する貫通孔であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の接続構造。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の接続構造を用いて、プレキャスト部材と、鋼管とを接続させる接続方法であって、
前記鋼管を所望の位置に施工し、
前記鋼管に一方の端部が内包され、他方の端部が当該鋼管から突出して配置された接続部材において、当該接続部材の他方の端部が前記挿入孔に挿通されるように前記プレキャスト部材を移動させ、
前記挿入孔に前記接続部材の他方の端部が内包された状態で時経硬化材を当該挿入孔に充填させ、前記プレキャスト部材と前記鋼管とを一体化させることを特徴とする、接続方法。
【請求項7】
請求項4に記載の接続構造を用いて、プレキャスト部材と、鋼管とを接続させる接続方法であって、
前記鋼管を所望の位置に施工し、前記接続部材を一方の端部が当該鋼管に内包され、他方の端部が当該鋼管から突出して配置し、
前記鋼管の先端外側に当該鋼管より外径の大きい型枠鞘管を外挿させた状態で時経硬化材を当該鋼管及び当該型枠鞘管の内部に充填させ、
前記接続部材の他方の端部が前記挿入孔に挿通されるように前記プレキャスト部材を移動させ、
前記挿入孔に前記接続部材の他方の端部が内包された状態で時経硬化材を当該挿入孔に充填させ、前記プレキャスト部材と前記鋼管とを一体化させることを特徴とする、接続方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防潮堤や梁柱構造に用いられる鋼管とプレキャスト部材の接続構造及びその接続方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築・土木の分野において、地上に突出した杭基礎と、当該杭基礎の頭部(杭頭)に結合される構造体(基礎躯体)とを用いて防潮堤や梁柱構造等を構築する技術が知られている。例えば特許文献1には、構造物の下部に設置されるフーチングと、そのフーチングの下部に設置される杭との間の結合構造(接続構造)が開示されている。特許文献1に記載の結合構造によれば、構造物を確実に支持し、地震力に対抗できると共に、施工性や経済性に優れた構造が実現される。
【0003】
また、近年では、施工性や工期短縮化といった観点から、工場などで予め製作された部材を現場に搬入し、既設部材に組み付けるといったいわゆるプレキャストコンクリート部材(単にプレキャスト部材とも呼称される)を用い種々の構造物を構成する技術が一般的となっている。そこで、杭基礎の上部に当該杭基礎を挿入するための開口を備えたプレキャスト部材を設置し、モルタル等によって固定させるといった接続構造も考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-132009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プレキャスト部材と基礎杭(鋼管杭等)を用いて接続構造を構成する場合、大きい開口部が必要となるため、大型のプレキャスト部材を基礎杭の周囲に外装させるといった手段が採られる。大型のプレキャスト部材では、開口部の周囲の厚みが杭基礎の幅より大きく構成され、杭基礎の杭径が大きくなればなるほどプレキャスト部材も大型化し、コスト増が懸念される。
【0006】
このような点に関し、上記特許文献1に記載の接続構造では、鋼管杭よりも外径の小さい鋼製結合部材を用いることで、プレキャスト部材の大型化を抑制し、施工性や経済性を向上させている。一方で、特許文献1の技術では、フーチングと杭及び杭中コンクリートとの間に所定の隙間を設け、鋼製結合部材を除き、フーチングと杭及び杭中コンクリートとの間に接触が無いような構成を採っている。これにより地震時に構造物の転倒等の致命的な被害を受けないといった効果があるものの、フーチングと杭及び杭中コンクリートが接触していないため、コンクリート同士の接触によって圧縮応力の伝達がされず、接続構造全体としての曲げ耐力が十分に担保されない恐れがある。
【0007】
また、本発明者が鋭意検討したところ、基礎杭(鋼管・鋼管杭等)とコンクリートからなるプレキャスト部材を直接接触させた場合には、接触箇所において局部支圧が発生し、プレキャスト部材にクラック(亀裂)等が生じる懸念がある。
【0008】
上記事情に鑑み、本発明の目的は、鋼管とプレキャスト部材との接続構造を構築させる場合、鋼管より外径の小さい接続部材を用いて接続を行い、施工性や経済性に優れ、且つ、鋼管とプレキャスト部材とを直接接触させることなく接続構造の曲げ耐力を十分に担保することが可能な鋼管とプレキャスト部材の接続構造及びその接続方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するため、本発明によれば、コンクリート製のプレキャスト部材と、鋼管と、当該プレキャスト部材と当該鋼管とに跨って配置される接続部材と、からなる接続構造であって、前記接続部材の一方の端部は前記鋼管の内部に内包され、前記接続部材の他方の端部は前記プレキャスト部材に形成された挿入孔に内包され、前記接続部材は、前記鋼管の内部及び前記挿入孔の内部に充填された時経硬化材によって固定され、前記プレキャスト部材の接続端面の一部及び前記挿入孔の内部に充填された時経硬化材の端面は、前記鋼管の内部に充填された時経硬化材の端面と直接的に接触し、且つ、前記プレキャスト部材の接続端面と前記鋼管の端面との間には直接的な接触を回避する接触回避手段が施され、前記プレキャスト部材は、下部構造としての膨出部と、上部構造としてのパネル部からなる壁体構造物であり、前記膨出部の厚みは前記パネル部の厚みより厚く構成され、前記挿入孔は前記膨出部に形成されていることを特徴とする、接続構造が提供される。
【0010】
前記接触回避手段は、前記鋼管の端面に施される緩衝材であっても良い。
【0011】
前記接触回避手段は、前記プレキャスト部材の端面に形成され、前記鋼管の端面形状に対応した円環形状の切欠き部であっても良い。
【0012】
前記接触回避手段は、前記鋼管の端面を覆う時経硬化材であり、当該時経硬化材は前記鋼管の内部に充填された時経硬化材と一体化して構成されても良い。
【0013】
前記プレキャスト部材に形成された挿入孔は、当該プレキャスト部材を貫通する貫通孔であっても良い。
【0015】
また、別の観点からの本発明によれば、上記記載の接続構造を用いて、プレキャスト部材と、鋼管とを接続させる接続方法であって、前記鋼管を所望の位置に施工し、前記鋼管に一方の端部が内包され、他方の端部が当該鋼管から突出して配置された接続部材において、当該接続部材の他方の端部が前記挿入孔に挿通されるように前記プレキャスト部材を移動させ、前記挿入孔に前記接続部材の他方の端部が内包された状態で時経硬化材を当該挿入孔に充填させ、前記プレキャスト部材と前記鋼管とを一体化させることを特徴とする、接続方法が提供される。
【0016】
また、本発明によれば、上記記載の接続構造を用いて、プレキャスト部材と、鋼管とを接続させる接続方法であって、前記鋼管を所望の位置に施工し、前記接続部材を一方の端部が当該鋼管に内包され、他方の端部が当該鋼管から突出して配置し、前記鋼管の先端外側に当該鋼管より外径の大きい型枠鞘管を外挿させた状態で時経硬化材を当該鋼管及び当該型枠鞘管の内部に充填させ、前記接続部材の他方の端部が前記挿入孔に挿通されるように前記プレキャスト部材を移動させ、前記挿入孔に前記接続部材の他方の端部が内包された状態で時経硬化材を当該挿入孔に充填させ、前記プレキャスト部材と前記鋼管とを一体化させることを特徴とする、接続方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、鋼管とプレキャスト部材との接続構造を構築させる場合、鋼管より外径の小さい接続部材を用いて接続を行い、施工性や経済性に優れ、且つ、鋼管とプレキャスト部材とを直接接触させることなく接続構造の曲げ耐力を十分に担保することが可能な鋼管とプレキャスト部材の接続構造及びその接続方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る接続構造を用いて構築された防潮堤の概略側面断面図である。
図2】本発明の第1の実施の形態に係る接続構造を用いて構築された防潮堤の概略正面断面図である。
図3】第1の実施の形態に係る防潮堤の構築方法を示す概略説明図である。
図4】第1の実施の形態に係る防潮堤の構築方法を示す概略説明図である。
図5】第1の実施の形態に係る防潮堤の構築方法を示す概略説明図である。
図6】第1の実施の形態に係る防潮堤の構築方法を示す概略説明図である。
図7】第1の実施の形態に係る防潮堤の構築方法を示す概略説明図である。
図8】第1の実施の形態に係る防潮堤の構築方法を示す概略説明図である。
図9】第1の実施の形態に係る防潮堤の構築方法を示す概略説明図である。
図10】第1の実施の形態に係る防潮堤における力の伝達メカニズムに関する説明図である。
図11】第1の実施の形態に係る防潮堤における力の伝達メカニズムに関する説明図である。
図12】本発明の第2の実施の形態に係る接続構造を用いて構築された梁柱構造の概略説明図である。
図13】梁柱構造の概略平面断面図である。
図14】第2の実施の形態に係る梁柱構造の構築方法を示す概略説明図である。
図15】第2の実施の形態に係る梁柱構造の構築方法を示す概略説明図である。
図16】第2の実施の形態に係る梁柱構造の構築方法を示す概略説明図である。
図17】第2の実施の形態に係る梁柱構造の構築方法を示す概略説明図である。
図18】第2の実施の形態に係る梁柱構造の構築方法を示す概略説明図である。
図19】第2の実施の形態に係る梁柱構造の構築方法を示す概略説明図である。
図20】第2の実施の形態に係る梁柱構造の構築方法を示す概略説明図である。
図21】第2の実施の形態に係る梁柱構造の構築方法を示す概略説明図である。
図22】本発明の第1変形例に係る接続構造についての概略説明図である。
図23】本発明の第2変形例に係る接続構造についての概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する場合がある。即ち、以下の本明細書において、各実施の形態において共通する構成要素については同一の符号を付して図示し、その説明は省略する場合がある。また、説明のため、地盤や地表面などは図示しない場合がある。
【0020】
<第1の実施の形態:防潮堤>
(防潮堤の構成)
図1図2は、本発明の第1の実施の形態に係る接続構造1を用いて構築された1又は複数のパネル部材10aからなる防潮堤10の概略説明図であり、図1は概略側面断面図、図2は概略正面断面図である。ここで、図2では複数(3つ)のパネル部材10aが並べて設置された状態を示している。
【0021】
図1、2に示すように、防潮堤10(パネル部材10a)は、地中に打ち込まれた基礎杭としての1又は複数の円筒形状の鋼管である鋼管杭12、鋼管杭12の上方に設けられるコンクリート製のプレキャスト部材20、及び、鋼管杭12の内部から上方に突出して設置される接続部材30と、を備えている。鋼管杭12の地中への打ち込み方法は特に限定されない。プレキャスト部材20は、下部構造としての膨出部20aと、上部構造としてのパネル部20bからなる壁体構造物であっても良く、その場合、パネル部20bに比べ膨出部20aは厚みが厚くなっている。
【0022】
ここで、プレキャスト部材20の膨出部20aには、鉛直方向において上下に開口する挿入孔22が設けられ、挿入孔22の内部空間は鋼管杭12の内部と挿通するように配置されている。防潮堤10は、鋼管杭12の上方にプレキャスト部材20を設置した状態で、これら挿入孔22と鋼管杭12内部に時経硬化材Uを充填することで一体化される構成となっている。
【0023】
防潮堤10の構築時には、挿入孔22の内部空間と鋼管杭12の内部空間に挿通するように挿入される接続部材30が配置された状態で、それら内部空間に時経硬化材Uが充填される。なお、時経硬化材Uは例えばコンクリート、モルタル、グラウト等であっても良く、接続部材30は例えばH形鋼やI形鋼等の鋼部材であっても良い。
【0024】
また、プレキャスト部材20と鋼管杭12との接続箇所(地表面近傍の接続端面)において、プレキャスト部材20と鋼管杭12とは厳密には非接触となる構成が採られる。即ち、プレキャスト部材20に設けられた挿入孔22と、鋼管杭12の内部とは連通しており、そこに時経硬化材Uを充填し硬化させることで一体化させているが、鋼管杭12の上端面(円環状の鋼管の上端部)とプレキャスト部材20の接続端面とは直接的な接触をしないように接触回避手段が講じられている。本実施の形態に係る構成では、図1、2に示すように、接触回避手段として鋼管杭12の上端面に円環状の緩衝材40が施され、当該緩衝材40を介在して鋼管杭12とプレキャスト部材20が一体化している。なお、緩衝材40は、例えば鋼管杭12の端面に施された樹脂やゴム等である。
【0025】
換言すると、プレキャスト部材20に設けられた挿入孔22と、鋼管杭12の内部が連通した空間において、鋼管杭12内部の時経硬化材をU1、挿入孔22内部の時経硬化材をU2とすると、プレキャスト部材20の接続端面(下面)の一部と、時経硬化材U2の端面(下面)は、時経硬化材U1と直接接触(密着)しているものの、プレキャスト部材20の接続端面と鋼管杭12の上端面とは緩衝材40が介在しているために直接接触しない構成となっている。
【0026】
また、プレキャスト部材20の内部には、耐力向上のため、鉛直方向に延伸する複数の主鉄筋50が設けられている。更に、膨出部20aの内部においては、複数の主鉄筋50を束ねるように水平方向で略円形状に構成されるせん断補強筋53が複数設けられている。なお、これら主鉄筋50やせん断補強筋53の本数や形状は図1、2の構成に限定されるものではなく、プレキャスト部材20の形状や構成に合わせて任意に設計される。
【0027】
図1、2を参照して説明したように構成される防潮堤10において、鋼管杭12や接続部材30、時経硬化材Uを用いた防潮堤10全体の構築は現場での施工によって行われる。一方で、プレキャスト部材20の部材自体は工場などで事前に製作されたものを現場まで運搬して用いている。即ち、プレキャスト部材20を用いることで、工事の効率化、工期の短縮化などが図られる。特に、パネル部20bのように高さの高い部材は、現場で製作する場合には施工足場を組んで施工することが求められ、足場の組み立てや解体といった種々の工程が必要となることから、防潮堤10を、プレキャスト部材20を用いたハーフプレキャスト構造とするメリットは大きい。
【0028】
また、本実施の形態に係る防潮堤10では、鋼管杭12とプレキャスト部材20を接続させる際に、挿入孔22の内部空間と鋼管杭12の内部空間に挿通するように挿入される接続部材30と、その周囲を覆うような時経硬化材Uを用いた接続構造1を用いている。これにより、プレキャスト部材20の大きさを必要以上に大きくすることなく十分な曲げ耐力が担保された接続構造1が実現され、施工性や経済性に優れた構造物が実現される。加えて、本実施の形態に係る構成では、鋼管杭12とプレキャスト部材20との間に接触回避手段としての緩衝材40を介在させている。これにより、鋼管杭12とコンクリートからなるプレキャスト部材20を直接接触させた際に接触箇所において局部支圧が発生し、プレキャスト部材20にクラック(亀裂)が生じるといった問題を回避することができる。
【0029】
(防潮堤の構築方法)
本実施の形態に係る防潮堤10の構築方法は以下の通りである。以下で参照する図3図9は、第1の実施の形態に係る防潮堤10の構築方法を示す概略説明図であり、以下ではこれら図3図9を参照して構築方法について説明する。
【0030】
先ず、図3に示すように、地中に鋼管杭12が打ち込まれる。そして、鋼管杭12の内部から所定の長さだけ地表面に突出するように接続部材30が配置される。ここで、鋼管杭12はその全体が地中に埋まるように打ち込まれ、鋼管杭12の上端面には接触回避手段としての円環状の緩衝材40が施されている。
【0031】
続いて、図4に示すように、鋼管杭12の内部に時経硬化材U1が充填される。充填された時経硬化材U1の上面は地表面と概ね同じ高さレベルとされる。これにより、鋼管杭12の内部から突出するように配置された接続部材30は固定される。なお、鋼管杭12の内部において、打ち込み時に内部空間の下方の一部に土砂が入り込む場合があるが、接続部材30が配置できる程度の高さだけ空間が確保できれば十分である。
【0032】
次いで、図5に示すように、挿入孔22が形成されたプレキャスト部材20を鋼管杭12の上方から降下させ、挿入孔22の内部に接続部材30の上部が挿通されるように設置する。そして、図6に示すように、プレキャスト部材20の接続端面(下面)は鋼管杭12の内部に充填された時経硬化材U1の上面(表面)に密着するように設置される。一方で、鋼管杭12の上端面には緩衝材40が施されているために、当該鋼管杭12の上端面自体には接触せず、鋼管杭12とプレキャスト部材20とは緩衝材40を介した非接触な関係となる。
【0033】
そして、図7に示すように、プレキャスト部材20が鋼管杭12上に設置された状態で、挿入孔22の上部開口から当該挿入孔22の内部に時経硬化材U2が充填される。図示のように、時経硬化材U2の下面は、時経硬化材U1の上面の一部と密着し、硬化することで一体化される。なお、図8は防潮堤10の概略平面断面図であり、(a)は図7のA-A断面、(b)は図7のB-B断面を示している。また、図9は防潮堤10の概略正面断面図である。挿入孔22の形状は任意であるが、図8(a)のように、接続部材30を挿入することができ、且つ、時経硬化材U2の充填量を抑える観点から、接続部材30がH形鋼である場合には矩形断面であることが好ましい。
【0034】
以上、図3図9を参照して説明したような方法により防潮堤10が構築される。このように構築された防潮堤10によれば、接続構造1において十分な曲げ耐力が担保される。そのメカニズムについて以下に図面を参照して説明する。
【0035】
(防潮堤における力の伝達メカニズム)
図10図11は、本実施の形態に係る防潮堤10における使用時の力の伝達メカニズムに関する説明図である。なお、図11図10の一部拡大図であり、図10図11には防潮堤10に加え、部材に作用する作用荷重Wの分布を図示している。
【0036】
図10図11に示すように、防潮堤10において津波などによって力がかかった場合、プレキャスト部材20の接続端面と、鋼管杭12内部の時経硬化材U1とは直接接触しており、曲げがかかった時に圧縮力はコンクリート等の時経硬化材が受け持ち、引張り力は接続部材30が受け持つように力の伝達が行われる。
【0037】
コンクリート等の時経硬化材Uと鋼管杭12とでは弾性係数が約10倍程度異なっており、鋼管杭12の材質の方が硬いのが一般的である。防潮堤10に力がかかった場合、プレキャスト部材20に曲げがかかるため鋼管杭12と直接接触していると局部的な力がかかることで接触箇所でのクラック等の発生が懸念される。そこで、本実施の形態では、鋼管杭12の上端面には接触回避手段としての円環状の緩衝材40を施している。一方で、プレキャスト部材20の接続端面と、鋼管杭12内部の時経硬化材U1とは直接接触しているため、図10、11のように力の伝達は十分に行われると考えられ、十分な曲げ耐力が担保される。
【0038】
クラック等の発生を抑制するために、緩衝材40の弾性係数はコンクリート等の時経硬化材よりも小さいことが求められる。併せて、緩衝材40は時経硬化材Uの充填時に鋼管杭12の上端部型枠としての機能も果たすことができるだけの強度を有しており、具体的には樹脂あるいはゴム等が望ましい。
【0039】
<第2の実施の形態:梁柱構造>
(梁柱構造の構成)
図12は、本発明の第2の実施の形態に係る接続構造1を用いて構築された梁柱構造60の概略説明図である。また、図13は梁柱構造60の概略平面断面図であり、(a)が図12のA-A断面、(b)が図12のB-B断面を示している。なお、本実施の形態に係る説明において、上記第1の実施の形態と同様の機能構成を有する構成要素については同一の符号を付して図示し、その説明は省略する場合がある。
【0040】
図12に示すように、梁柱構造60は、中央の鋼管柱12aと、その両端に設けられる一対のプレキャスト梁部材65(65a、65b)を備えている。また、鋼管柱12aとプレキャスト梁部材65と、は接続部材30を用いた接続構造1を介して接続されている。図13に示すように、各プレキャスト梁部材65a、65bには、それぞれその中央に時経硬化材Uを充填するための挿入孔が形成されている。一例として、一方のプレキャスト梁部材65aには挿入孔としての非貫通孔70が形成され、他方のプレキャスト梁部材65bには挿入孔としての貫通孔71が形成されても良い。
【0041】
そして、梁柱構造60においては、鋼管柱12aの両端内部と、非貫通孔70、貫通孔71それぞれに跨って挿通される位置に、2つの接続部材30(30a、30b)が内包されている。非貫通孔70、貫通孔71、及び、鋼管柱12aの内部空間は挿通しており、その内部には時経硬化材Uが充填されている。
【0042】
ここで、鋼管柱12aの両端面とプレキャスト梁部材65a、65bとの間には、両者が直接的に接触しないような接触回避手段が講じられている。具体的には、接触回避手段として鋼管柱12aの両側端面に円環状の緩衝材40(40a、40b)が施され、当該緩衝材40(40a、40b)を介在して鋼管柱12aとプレキャスト梁部材65a、65bが一体化している。
【0043】
なお、図13に示すように、非貫通孔70及び貫通孔71の断面形状は上記第1の実施の形態と同様に矩形断面であることが好ましい。また、プレキャスト梁部材65a、65bの内部には図示しない主鉄筋やせん断補強筋が複数設けられても良く、その本数や形状は任意に設計される。
【0044】
図12図13に示したように構成される梁柱構造60において、鋼管柱12aや接続部材30(30a、30b)、時経硬化材Uを用いた梁柱構造60全体の構築は現場での施工によって行われる。一方で、プレキャスト梁部材65a、65bの部材自体は工場などで事前に製作されたものを現場まで運搬して用いている。これにより、工事の効率化、工期の短縮化などが図られる。また、プレキャスト梁部材65a、65bの大きさを必要以上に大きくすることなく十分な曲げ耐力が担保された接続構造1が実現され、施工性や経済性に優れた構造物が実現される。加えて、鋼管柱12aとプレキャスト梁部材65a、65bとの間に接触回避手段としての緩衝材40(40a、40b)を介在させている。これにより、鋼管柱12aとコンクリートからなるプレキャスト梁部材65a、65bを直接接触させた際に接触箇所において局部支圧が発生し、プレキャスト梁部材65にクラック(亀裂)が生じるといった問題を回避することができる。
【0045】
(梁柱構造の構築方法)
本実施の形態に係る梁柱構造60の構築方法は以下の通りである。以下で参照する図14図21は、第2の実施の形態に係る梁柱構造60の構築方法を示す概略説明図であり、以下ではこれら図14図21を参照して構築方法について説明する。
【0046】
先ず、図14に示すように、非貫通孔70が形成された第1のプレキャスト梁部材65aが所定の位置に設置される。そして、図15に示すように、接続部材30aが、その上側所定長さが第1のプレキャスト梁部材65aから上方に向かって突出するように非貫通孔70内に配置される。この状態で非貫通孔70内には時経硬化材U3(U)が充填される。
【0047】
次いで、図16に示すように、第1のプレキャスト梁部材65aの上面において接続部材30aを内包させるように鋼管柱12aが配置される。鋼管柱12aの両端面には接触回避手段としての緩衝材40(40a、40b)が施されており、鋼管柱12aの下端面と第1のプレキャスト梁部材65aは直接接触しない構成となっている。
【0048】
続いて、図17に示すように、鋼管柱12aの内部に時経硬化材U4(U)が所定の高さまで充填される。この時、鋼管柱12aの内部において上端側には、接続部材30bを配置するために、ある程度、時経硬化材Uの非充填空間を設ける必要がある。そして、図18に示すように、鋼管柱12aの上端側において、その一部が鋼管柱12aの内部に内包されるように接続部材30bが配置される。
【0049】
そして、図19に示すように、接続部材30bの一部が鋼管柱12aの内部に内包された状態で鋼管柱12aの内部に時経硬化材U4’(U)が充填される。これにより、接続部材30bは、鋼管柱12aの上端から一部が突出した状態で固定される。次いで、図20に示すように、接続部材30bが貫通孔71の内部に内包され、第2のプレキャスト梁部材65bが鋼管柱12aの上端面に施された緩衝材40bと接触するような位置まで当該第2のプレキャスト梁部材65bが上方から降下させられる。その際、鋼管柱12aの上端面と第2のプレキャスト梁部材65bは、予め鋼管柱12aの上端面に施された緩衝材40bにより直接接触しない構成となる。
【0050】
そして、図21に示すように、第2のプレキャスト梁部材65bに形成された貫通孔71の上部開口から、時経硬化材U5が当該貫通孔71内部に充填される。ここで、本構築方法において非貫通孔70、貫通孔71、及び、鋼管柱12aの内部空間は挿通しており、これらの空間に充填される時経硬化材U3、U4(U4’含む)、U5は一体化されて硬化する。これにより、第1のプレキャスト梁部材65a、鋼管柱12a、及び、第2のプレキャスト梁部材65bは時経硬化材Uによって一体化され、梁柱構造60が構築される。以上、図14~21を参照して説明した構築方法により、本実施の形態に係る接続構造1を用いた梁柱構造60が構築される。
【0051】
(作用効果)
以上説明したように構成された本発明の実施の形態に係る接続構造1を用いて構築される防潮堤10や梁柱構造60によれば、プレキャスト部材(プレキャスト部材20、プレキャスト梁部材65)を用いた構築方法を採っているため工事の効率化、工期の短縮化などが図られる。また、図10、11を参照して説明したように、接続部材30と時経硬化材Uを組み合わせた接続構造1を用いて鋼管杭12とプレキャスト部材(プレキャスト部材20、プレキャスト梁部材65)との接続を行っているため、曲げ耐力を担保しつつ、施工性や経済性に優れた構造物が実現される。
【0052】
また、防潮堤10、梁柱構造60のいずれにおいても、鋼管杭12あるいは鋼管柱12aとプレキャスト部材(プレキャスト部材20、プレキャスト梁部材65)との間に接触回避手段として緩衝材40を施しており、両者が直接接触しない構成を採っている。これにより、鋼管杭12あるいは鋼管柱12aとコンクリートからなるプレキャスト部材(プレキャスト部材20、プレキャスト梁部材65)を直接接触させた際に接触箇所において局部支圧が発生し、クラック(亀裂)が生じるといった問題を回避することができる。
【0053】
以上、本発明の実施の形態の一例を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変形例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。そこで、以下では本発明の変形例について図面を参照して説明する。なお、以下の変形例において上記各実施の形態と同じ機能構成を有する構成要素については同一の符号を付して図示し、その説明は省略する場合がある。
【0054】
<変形例:接触回避手段の変形例>
上記実施の形態に係る接続構造1においては、接触回避手段として鋼管杭12や鋼管柱12aの端面に緩衝材40を施す構成を図示して説明したが、接触回避手段はこれに限られるものではない。そこで、本発明の変形例として、接触回避手段の他の構成について図面を参照して説明する。なお、上記実施の形態と同様の機能構成を有する構成要素については同一の符号を付して図示し、その説明は省略する場合がある。
【0055】
(第1変形例)
図22は本発明の第1変形例に係る接続構造1aについての概略説明図であり、プレキャスト部材20と鋼管杭12との接続箇所を拡大したものである。図22に示すように、本変形例では、プレキャスト部材20の端面(下面)に円環状の溝である切欠き部80が形成されている。この切欠き部80は鋼管杭12の端面形状に対応した形状に形成されておりプレキャスト部材20の端面と鋼管杭12とは直接接触しない構成となっている。一方でプレキャスト部材20と鋼管杭12とは、それぞれの内部に充填された時経硬化材Uが一体化しているために一体的に構成されており、プレキャスト部材20と鋼管杭12とが直接接触していなくとも、接続構造1aとして一体的に構築され、十分な曲げ耐力が担保される。
【0056】
この第1変形例ではプレキャスト部材20と鋼管杭12との接触回避手段として切欠き部80を形成する構成を説明したが、形成した切欠き部に緩衝材を施すといった構成も考え得る。
【0057】
(第2変形例)
また、図23は本発明の第2変形例に係る接続構造1bについての概略説明図であり、プレキャスト部材20と鋼管杭12との接続箇所を拡大したものである。図23に示すように、本変形例では、鋼管杭12とプレキャスト部材20とは非接触であり、時経硬化材Uが鋼管杭12の内部に加え、鋼管杭12の上部端面を覆うように構成されている。このような時経硬化材Uの構成は、図示のように、鋼管杭12より外径の大きい型枠鞘管90を、鋼管杭12の先端よりプレキャスト部材20方向に突出させるように、鋼管杭12の先端外側に型枠鞘管90を外挿させた状態で時経硬化材Uを充填し固体化させることで、鋼管杭12内部の時経硬化材Uと一体物して施工される。即ち、型枠鞘管90の内部においては、鋼管杭12に比べ外径が大きい状態にて時経硬化材Uが充填され、それにより鋼管杭12の上部端面が時経硬化材Uによって覆われることになる。
【0058】
本変形例において、型枠鞘管90は時経硬化材Uの硬化後において残留させても良く、あるいは、撤去しても良い。また、型枠鞘管90の素材は、時経硬化材Uを充填させる際の型枠としての強度を備えていれば特に限定されるものではなく、例えば、樹脂やゴム等の緩衝性能を有する素材でも良く、鋼製でも良い。
【0059】
但し、鋼製の型枠鞘管90を用いる場合、当該型枠鞘管90とプレキャスト部材20との接触箇所において局部支圧が発生し、プレキャスト部材にクラック(亀裂)等が生じるのを防止するような構成が必要となる。例えば、鋼管杭12に型枠鞘管90を外挿させるに際し、負荷を受けた場合に型枠鞘管90が鋼管杭12の外面を容易にスライドする程度の最小限の固定に留めても良い。一例としては、鋼管杭12に対し最小限の点溶接でもって型枠鞘管90を固定させても良い。
【0060】
なお、上記実施の形態では、基礎杭として一般的な円筒形状の鋼管である鋼管杭12や鋼管柱12aを用いる場合を挙げて図示・説明したが、本発明はこれに限られるものではない。例えば、基礎杭として、種々の形状の鋼管、鋼管矢板などを用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、防潮堤や梁柱構造に用いられる鋼管とプレキャスト部材の接続構造及びその接続方法に適用できる。
【符号の説明】
【0062】
1…接続構造
10…防潮堤
12…鋼管杭
12a…鋼管柱
20…プレキャスト部材
22…挿入孔
30…接続部材
40、40a、40b…緩衝材
50…主鉄筋
53…せん断補強筋
60…梁柱構造
65(65a、65b)…プレキャスト梁部材
70…非貫通孔
71…貫通孔
80…切欠き部
90…型枠鞘管
U(U1~U5)…時経硬化材
図1
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