(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】品質判定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20240724BHJP
F25D 23/00 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
F25D23/00 301L
F25D23/00 302Z
(21)【出願番号】P 2022187438
(22)【出願日】2022-11-24
(62)【分割の表示】P 2021551252の分割
【原出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2019179867
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 秀徳
(72)【発明者】
【氏名】田中 直宏
(72)【発明者】
【氏名】丹埜 昭一
(72)【発明者】
【氏名】仲野 政賢
(72)【発明者】
【氏名】西本 素三
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 喜一郎
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-096712(JP,A)
【文献】特開2016-133296(JP,A)
【文献】特開2001-041640(JP,A)
【文献】特開2006-300351(JP,A)
【文献】特開2015-065965(JP,A)
【文献】特開2017-122569(JP,A)
【文献】特開2017-015291(JP,A)
【文献】特開2017-089913(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0156594(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/84
A23B 7/04
F25D 11/00
F25D 23/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部環境が制御された収容空間(5)に収容された対象物品(7)の状態を示す状態指標を検知する状態検知器(15)から、上記状態指標を取得するように構成された状態取得部(75,101)と、
上記対象物品(7)の品質低下の前兆を示す前兆条件の成否を、上記状態取得部(75,101)が取得した上記状態指標に基づいて判定する判定動作を行うように構成された本体処理部(64)とを備え、
上記本体処理部(64)は、上記前兆条件が成立したと判定すると、上記収容空間(5)の内部環境を示す複数の環境指標のうち、上記対象物品(7)の品質低下の前兆の原因となっているものを特定する原因特定動作を行うように構成される
ことを特徴とする品質判定装置。
【請求項2】
請求項1において、
上記本体処理部(64)は、上記前兆条件が成立したと判定すると、人間に対して情報を告知する告知装置(80,130)に対して、上記対象物品(7)の品質が低下するおそれの告知を指示する告知動作を行うように構成される
ことを特徴とする品質判定装置。
【請求項3】
請求項
1又は2において、
上記本体処理部(64)は、上記前兆条件が成立したと判定すると、上記収容空間(5)の内部環境を調節する環境調節装置(14)に対して、該環境調節装置(14)の構成機器が正常に機能しているかの診断を指示する診断指示動作を行うように構成される
ことを特徴とする品質判定装置。
【請求項4】
請求項
1乃至3のいずれか一つにおいて、
上記状態取得部(75,101)は、上記対象物品(7)である青果物のクロロフィル蛍光の強度を、状態指標として取得するように構成される
ことを特徴とする品質判定装置。
【請求項5】
請求項4において、
上記前兆条件は、上記状態取得部(75,101)が取得したクロロフィル蛍光の強度が基準蛍光強度を上回るという条件であり、
上記本体処理部(64)は、上記収容空間(5)の酸素濃度を低下させたときに上記状態取得部(75,101)が取得したクロロフィル蛍光の強度に基づいて上記基準蛍光強度を設定するように構成される
ことを特徴とする品質判定装置。
【請求項6】
請求項
1乃至3のいずれか一つにおいて、
上記前兆条件は、上記対象物品(7)において凍結が生じたという条件であり、
上記状態取得部(75,101)は、上記対象物品(7)における氷の存否を、状態指標として取得するように構成される
ことを特徴とする品質判定装置。
【請求項7】
請求項
1乃至3のいずれか一つにおいて、
上記状態取得部(75,101)は、上記対象物品(7)である青果物についての、上記対象物品(7)からの細胞の内部成分の漏出量、上記対象物品(7)から発生したストレスに関する植物ホルモンの濃度、上記対象物品(7)の嫌気呼吸によって生じる物質の濃度、上記対象物品(7)の内部褐変の程度、上記対象物品(7)に含まれるフェノールの濃度、上記対象物品(7)に含まれるクロロゲン酸の濃度、上記対象物品(7)に含まれるカロチンの濃度、及び上記対象物品(7)のpHのうちの少なくとも1つを、状態指標として取得するように構成される
ことを特徴とする品質判定装置。
【請求項8】
請求項1において、
上記収容空間(5)の内部環境に関連する環境情報を取得するように構成された情報取得部(102)と、
上記収容空間(5)の内部環境を示す環境指標の設定値である設定情報を取得する設定取得部(103)と、
上記状態検知器(15)が検知した上記状態指標と、上記情報取得部(102)が取得した上記環境情報および上記設定取得部(103)が取得した設定情報との相関関係を学習させた状態推定モデル(111~113)を生成するように構成された学習部(104)とを備え、
上記本体処理部(64)は、上記状態推定モデル(111~113)に上記環境情報および上記設定情報を入力することによって算出した上記状態指標の推定値に基づいて、上記前兆条件の成否を判定するように構成される
ことを特徴とする品質判定装置。
【請求項9】
請求項8において、
上記本体処理部(64)は、上記前兆条件が成立したと判定すると、上記収容空間(5)の内部環境を調節する環境調節装置(14)に対して、上記対象物品(7)の品質低下を抑えるための上記収容空間(5)の内部環境の変更を指示する環境変更動作を行うように構成され、
上記本体処理部(64)は、上記環境変更動作において、上記状態推定モデル(111~113)に上記環境情報および上記設定情報を入力することによって算出した上記状態指標の推定値を所定の基準値と比較した結果に基づいて、上記環境指標の設定値の変更を上記環境調節装置(14)に対して指示するように構成される
ことを特徴とする品質判定装置。
【請求項10】
請求項
8又は9において、
上記情報取得部(102)が取得する上記環境情報には、上記収容空間(5)内の空気の温度、酸素濃度、及び二酸化炭素濃度のうちの少なくとも一つが含まれる
ことを特徴とする品質判定装置。
【請求項11】
請求項
8乃至10のいずれか一つにおいて、
上記情報取得部(102)が取得する上記環境情報には、上記収容空間(5)の温度を調節する冷凍装置(20)の運転状態を示し、且つ上記収容空間(5)の温度に相関する物理量が含まれる
ことを特徴とする品質判定装置。
【請求項12】
請求項9において、
上記本体処理部(64)は、上記環境変更動作において決定した変更後の上記環境指標の設定値が所定の基準範囲から外れた異常値である場合に、人間に対して情報を告知する告知装置(80,130)に対して、変更後の上記環境指標の設定値が異常値であることの告知を指示するように構成される
ことを特徴とする品質判定装置。
【請求項13】
内部環境が制御された収容空間(5)に収容された対象物品(7)の状態を示す状態指標を、該状態指標を検知する状態検知器(15)から取得する第1取得ステップと、
上記収容空間(5)の内部環境に関連する環境情報を取得する第2取得ステップと、
上記収容空間(5)の内部環境を示す環境指標の設定値である設定情報を取得する第3取得ステップと、
上記第1取得ステップで取得した上記状態指標と、上記第2取得ステップで取得した上記環境情報および上記第3取得ステップで取得した上記設定情報との相関関係を学習させた状態推定モデル(111~113)を生成する学習ステップと、
上記対象物品(7)の品質低下の前兆を示す前兆条件の成否を、上記状態推定モデル(111~113)に上記環境情報および上記設定情報を入力することによって算出した上記状態指標の推定値に基づいて判定する判定ステップと、
上記判定ステップで上記前兆条件が成立したと判定されると、上記収容空間(5)の内部環境を示す複数の環境指標のうち、上記対象物品(7)の品質低下の前兆の原因となっているものを特定する原因特定ステップとを備える
ことを特徴とする品質判定方法。
【請求項14】
内部環境が制御された収容空間(5)に収容された対象物品(7)の状態を示す状態指標を、該状態指標を検知する状態検知器(15)から取得する第1取得処理と、
上記収容空間(5)の内部環境に関連する環境情報を取得する第2取得処理と、
上記収容空間(5)の内部環境を示す環境指標の設定値である設定情報を取得する第3取得処理と、
上記第1取得処理で取得した上記状態指標と、上記第2取得処理で取得した上記環境情報および上記第3取得処理で取得した上記設定情報との相関関係を学習させた状態推定モデル(111~113)を生成する学習処理と、
上記対象物品(7)の品質低下の前兆を示す前兆条件の成否を、上記状態推定モデル(111~113)に上記環境情報および上記設定情報を入力することによって算出した上記状態指標の推定値に基づいて判定する判定処理と、
上記判定処理で上記前兆条件が成立したと判定されると、上記収容空間(5)の内部環境を示す複数の環境指標のうち、上記対象物品(7)の品質低下の前兆の原因となっているものを特定する原因特定処理と
をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、品質判定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、収容空間の内部環境(具体的には、収容空間内の空気の温度や組成など)を制御することによって、収容空間に収容された対象物品の品質を保つことが行われている。例えば、特許文献1に開示された冷凍装置は、海上輸送等に用いられるコンテナを対象とし、このコンテナの庫内空気の温度と組成(具体的には、酸素濃度と二酸化炭素濃度)とを制御する。このような収容空間の内部環境を制御する装置は、収容空間内の空気の温度や組成が、作業者によってあらかじめ設定された設定値となるように、収容空間内の空気の温度や組成を調節する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、対象物品が青果物の場合、その青果物の品質を保つために最も適した環境は、青果物の品種や収穫時期などによって異なる場合がある。このため、対象物品がリンゴである場合、収容空間の内部環境の設定値を、リンゴの保存に適していると一般的に知られている値に設定しても、その設定値が実際に収容空間に収容されたリンゴに適した値とは限らないため、収容空間に収容されたリンゴの品質を保てない可能性がある。
【0005】
本開示の目的は、収容空間に収容された対象物品の状態を判定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の態様は、品質判定装置(13)を対象とし、内部環境が制御された収容空間(5)に収容された対象物品(7)の状態を示す状態指標を検知する状態検知器(15)から、上記状態指標を取得するように構成された状態取得部(75,101)と、上記対象物品(7)の品質低下の前兆を示す前兆条件の成否を、上記状態取得部(75,101)が取得した上記状態指標に基づいて判定する判定動作を行うように構成された本体処理部(64)とを備えることを特徴とする。
【0007】
第1の態様では、本体処理部(64)が判定動作を行うことによって、対象物品(7)の品質低下の前兆の有無を、状態検知器(15)が検知した状態指標に基づいて判定できる。このため、この態様の品質判定装置(13)によれば、実際に収容空間(5)に収容されている対象物品(7)の品質低下の有無を判定できる。
【0008】
本開示の第2の態様は、上記第1の態様において、上記本体処理部(64)は、上記前兆条件が成立したと判定すると、上記収容空間(5)の内部環境を調節する環境調節装置(14)に対して、上記対象物品(7)の品質低下を抑えるための上記収容空間(5)の内部環境の変更を指示する環境変更動作を行うように構成されることを特徴とする。
【0009】
第2の態様において、本体処理部(64)は、判定動作において前兆条件が成立したと判定すると、環境変更動作を行う。環境変更動作において、本体処理部(64)は、収容空間(5)の内部環境の変更を、環境調節装置(14)に対して指示する。本体処理部(64)からの指示を受けた環境調節装置(14)は、対象物品(7)の品質低下を抑えるために、収容空間(5)の内部環境を変更する。従って、この態様によれば、収容空間(5)の内部環境を、対象物品(7)の品質保持に適した内部環境にできる。
【0010】
本開示の第3の態様は、上記第1又は第2の態様において、上記本体処理部(64)は、上記前兆条件が成立したと判定すると、上記収容空間(5)の内部環境を示す複数の環境指標のうち、上記対象物品(7)の品質低下の前兆の原因となっているものを特定する原因特定動作を行うように構成されることを特徴とする。
【0011】
第3の態様において、本体処理部(64)は、判定動作において前兆条件が成立したと判定すると、原因特定動作を行う。原因特定動作において、本体処理部(64)は、対象物品(7)の品質低下の前兆の原因となっている環境指標を特定する。
【0012】
本開示の第4の態様は、上記第1~第3のいずれか一つの態様において、上記本体処理部(64)は、上記前兆条件が成立したと判定すると、人間に対して情報を告知する告知装置(80,130)に対して、上記対象物品(7)の品質が低下するおそれの告知を指示する告知動作を行うように構成されることを特徴とする。
【0013】
第4の態様の本体処理部(64)は、判定動作において前兆条件が成立したと判定すると、告知動作を行う。告知動作において、本体処理部(64)は、対象物品(7)の品質が低下するおそれの告知を、告知装置(80,130)に対して指示する。本体処理部(64)からの指示を受けた告知装置(80,130)は、対象物品(7)の品質低下のおそれがある旨の情報を、作業者等の人間に対して告知する。従って、この態様によれば、対象物品(7)の品質低下のおそれがあることを、人間に知らせることができる。
【0014】
本開示の第5の態様は、上記第1~第4のいずれか一つの態様において、上記本体処理部(64)は、上記前兆条件が成立したと判定すると、上記収容空間(5)の内部環境を調節する環境調節装置(14)に対して、該環境調節装置(14)の構成機器が正常に機能しているかの診断を指示する診断指示動作を行うように構成されることを特徴とする。
【0015】
第5の態様では、本体処理部(64)は、判定動作において前兆条件が成立したと判定すると、診断指示動作を行う。診断指示動作において、本体処理部(64)は、環境調節装置(14)の構成機器が正常に機能しているかの診断を、環境調節装置(14)に対して指示する。本体処理部(64)からの指示を受けた環境調節装置(14)は、その構成機器が正常に機能しているかどうかを診断する。従って、この態様によれば、対象物品の品質低下の原因が環境調節装置(14)の構成機器の不具合であるか否かを判定できる。
【0016】
本開示の第6の態様は、上記第1~第5のいずれか一つの態様において、上記状態取得部(75,101)は、上記対象物品(7)である青果物のクロロフィル蛍光の強度を、状態指標として取得するように構成されることを特徴とする。
【0017】
クロロフィル蛍光は、植物が行う光合成の状態を示す指標である。そこで、第6の態様では、状態取得部(75,101)がクロロフィル蛍光の強度を状態指標として取得する。
【0018】
本開示の第7の態様は、上記第6の態様において、上記前兆条件は、上記状態取得部(75,101)が取得したクロロフィル蛍光の強度が基準蛍光強度を上回るという条件であり、上記本体処理部(64)は、上記収容空間(5)の酸素濃度を低下させたときに上記状態取得部(75,101)が取得したクロロフィル蛍光の強度に基づいて上記基準蛍光強度を設定するように構成されることを特徴とする。
【0019】
第7の態様において、本体処理部(64)は、状態取得部(75,101)が取得したクロロフィル蛍光の強度が基準蛍光強度を上回ると、前条条件が成立したと判定する。収容空間(5)の酸素濃度が低下すると、対象物品(7)である青果物が行う光合成の状態が変化し、その結果、対象物品(7)が発するクロロフィル蛍光の強度が変化する。そこで、本体処理部(64)は、収容空間(5)の酸素濃度を低下させたときのクロロフィル蛍光の強度に基づいて、基準蛍光強度を設定する。
【0020】
本開示の第8の態様は、上記第1~第5のいずれか一つの態様において、上記前兆条件は、上記対象物品(7)において凍結が生じたという条件であり、上記状態取得部(75,101)は、上記対象物品(7)における氷の存否を、状態指標として取得するように構成されることを特徴とする。
【0021】
対象物品(7)において凍結が生じると、対象物品(7)の品質が損なわれる。そこで、第8の態様では、状態取得部(75,101)が対象物品(7)における氷の存否を状態指標として取得する。そして、本体処理部(64)は、対象物品(7)において凍結が生じると、前兆条件が成立したと判定する。
【0022】
本開示の第9の態様は、上記第1~第5のいずれか一つの態様において、上記状態取得部(75,101)は、上記対象物品(7)である青果物についての、上記対象物品(7)からの細胞の内部成分の漏出量、上記対象物品(7)から発生したストレスに関する植物ホルモンの濃度、上記対象物品(7)の嫌気呼吸によって生じる物質の濃度、上記対象物品(7)の内部褐変の程度、上記対象物品(7)に含まれるフェノールの濃度、上記対象物品(7)に含まれるクロロゲン酸の濃度、上記対象物品(7)に含まれるカロチンの濃度、及び上記対象物品(7)のpHのうちの少なくとも1つを、状態指標として取得するように構成されることを特徴とする。
【0023】
第9の態様において、状態取得部(75,101)は、対象物品(7)である青果物の状態を示す複数の物理量のうちの少なくとも一つを、状態指標として取得する。
【0024】
本開示の第10の態様は、上記第1の態様において、上記収容空間(5)の内部環境に関連する環境情報を取得するように構成された情報取得部(102)と、上記収容空間(5)の内部環境を示す環境指標の設定値である設定情報を取得する設定取得部(103)と、上記状態検知器(15)が検知した上記状態指標と、上記情報取得部(102)が取得した上記環境情報および上記設定取得部(103)が取得した設定情報との相関関係を学習させた状態推定モデル(111~113)を生成するように構成された学習部(104)とを備え、上記本体処理部(64)は、上記状態推定モデル(111~113)に上記環境情報および上記設定情報を入力することによって算出した上記状態指標の推定値に基づいて、上記前兆条件の成否を判定するように構成されることを特徴とする。
【0025】
本開示の第10の態様では、学習部(104)が状態推定モデル(111~113)を生成する。本体処理部(64)は、状態推定モデル(111~113)を用いて状態指標の推定値を算出し、算出した状態指標の推定値に基づいて前兆条件の成否を判定する。
【0026】
本開示の第11の態様は、上記第10の態様において、上記本体処理部(64)は、上記前兆条件が成立したと判定すると、上記収容空間(5)の内部環境を調節する環境調節装置(14)に対して、上記対象物品(7)の品質低下を抑えるための上記収容空間(5)の内部環境の変更を指示する環境変更動作を行うように構成され、上記本体処理部(64)は、上記環境変更動作において、上記状態推定モデル(111~113)に上記環境情報および上記設定情報を入力することによって算出した上記状態指標の推定値を所定の基準値と比較した結果に基づいて、上記環境指標の設定値の変更を上記環境調節装置(14)に対して指示するように構成されることを特徴とする。
【0027】
本開示の第11の態様において、本体処理部(64)は、環境変更動作を行う。環境変更動作において、本体処理部(64)は、状態推定モデル(111~113)を用いて算出した状態指標の推定値を所定の基準値と比較した結果に基づいて、環境指標の設定値の変更を環境調節装置(14)に対して指示する。
【0028】
本開示の第12の態様は、上記第10又は第11の態様において、上記情報取得部(102)が取得する上記環境情報には、上記収容空間(5)内の空気の温度、酸素濃度、及び二酸化炭素濃度のうちの少なくとも一つが含まれることを特徴とする。
【0029】
本開示の第13の態様は、上記第10~第12のいずれか一つの態様において、上記情報取得部(102)が取得する上記環境情報には、上記収容空間(5)の温度を調節する冷凍装置(20)の運転状態を示し、且つ上記収容空間(5)の温度に相関する物理量が含まれることを特徴とする。
【0030】
本開示の第12及び第13の各態様では、所定の物理量が環境情報に含まれる。
【0031】
本開示の第14の態様は、上記第11の態様において、上記本体処理部(64)は、上記環境変更動作において決定した変更後の上記環境指標の設定値が所定の基準範囲から外れた異常値である場合に、人間に対して情報を告知する告知装置(80,130)に対して、変更後の上記環境指標の設定値が異常値であることの告知を指示するように構成されることを特徴とする。
【0032】
本開示の第14の態様において、環境変更動作において決定した変更後の環境指標の設定値が異常値である場合に、そのことを告知する旨の指示を、本体処理部(64)が告知装置(80,130)に送る。
【0033】
本開示の第15の態様は、品質判定方法を対象とする。そして、内部環境が制御された収容空間(5)に収容された対象物品(7)の状態を示す状態指標を、該状態指標を検知する状態検知器(15)から取得する第1取得ステップと、上記収容空間(5)の内部環境に関連する環境情報を取得する第2取得ステップと、上記収容空間(5)の内部環境を示す環境指標の設定値である設定情報を取得する第3取得ステップと、上記第1取得ステップで取得した上記状態指標と、上記第2取得ステップで取得した上記環境情報および上記第3取得ステップで取得した上記設定情報との相関関係を学習させた状態推定モデル(111~113)を生成する学習ステップと、上記対象物品(7)の品質低下の前兆を示す前兆条件の成否を、上記状態推定モデル(111~113)に上記環境情報および上記設定情報を入力することによって算出した上記状態指標の推定値に基づいて判定する判定ステップとを備えることを特徴とする。
【0034】
本開示の第15の態様の品質判定方法では、第1取得ステップと、第2取得ステップと、第3取得ステップと、学習ステップと、判定ステップとが行われる。学習ステップでは、状態推定モデル(111~113)が生成する。判定ステップでは、状態推定モデル(111~113)を用いて算出した状態指標の推定値に基づいて、前兆条件の成否が判定される。
【0035】
本開示の第16の態様は、上記第15の態様において、上記判定ステップで前兆条件が成立したと判定されると、上記収容空間(5)の内部環境を調節する環境調節装置(14)に対して、上記対象物品(7)の品質低下を抑えるための上記収容空間(5)の内部環境の変更を指示する環境変更ステップを備え、上記環境変更ステップでは、上記状態推定モデル(111~113)に上記環境情報および上記設定情報を入力することによって算出した上記状態指標の推定値を所定の基準値と比較した結果に基づいて、上記環境指標の設定値の変更を上記環境調節装置(14)に対して指示することを特徴とする。
【0036】
本開示の第16の態様の品質判定方法では、環境変更ステップが行われる。環境変更ステップでは、状態推定モデル(111~113)を用いた処理が行われ、所定の場合に、環境調節装置(14)に対して、対象物品(7)の品質低下を抑えるための収容空間(5)の内部環境の変更が指示される。
【0037】
本開示の第17の態様は、品質判定用のプログラムを対象とする。そして、内部環境が制御された収容空間(5)に収容された対象物品(7)の状態を示す状態指標を、該状態指標を検知する状態検知器(15)から取得する第1取得処理と、上記収容空間(5)の内部環境に関連する環境情報を取得する第2取得処理と、上記収容空間(5)の内部環境を示す環境指標の設定値である設定情報を取得する第3取得処理と、上記第1取得処理で取得した上記状態指標と、上記第2取得処理で取得した上記環境情報および上記第3取得処理で取得した上記設定情報との相関関係を学習させた状態推定モデル(111~113)を生成する学習処理と、上記対象物品(7)の品質低下の前兆を示す前兆条件の成否を、上記状態推定モデル(111~113)に上記環境情報および上記設定情報を入力することによって算出した上記状態指標の推定値に基づいて判定する判定処理とをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0038】
本開示の第17の態様のプログラムは、第1取得処理と、第2取得処理と、第3取得処理と、学習処理と、判定処理とを、コンピュータに実行させる。学習処理において、コンピュータは、状態推定モデル(111~113)を生成させる。判定処理において、コンピュータは、状態推定モデル(111~113)を用いて算出した状態指標の推定値に基づいて、前兆条件の成否を判定する。
【0039】
本開示の第18の態様は、上記第17の態様において、上記判定処理で前兆条件が成立したと判定されると、上記収容空間(5)の内部環境を調節する環境調節装置(14)に対して、上記対象物品(7)の品質低下を抑えるための上記収容空間(5)の内部環境の変更を指示する環境変更処理をコンピュータに実行させ、上記環境変更処理では、上記状態推定モデル(111~113)に上記環境情報および上記設定情報を入力することによって算出した上記状態指標の推定値を所定の基準値と比較した結果に基づいて、上記環境指標の設定値の変更を上記環境調節装置(14)に対して指示する処理をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0040】
本開示の第18の態様のプログラムは、環境変更処理をコンピュータに実行させる。環境変更処理において、コンピュータは、状態推定モデル(111~113)を用いた処理を行い、所定の場合に、環境調節装置(14)に対して、対象物品(7)の品質低下を抑えるための収容空間(5)の内部環境の変更を指示する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】
図1は、庫内環境制御システムのコンテナ用冷凍装置と、それが取り付けられた輸送用コンテナの概略断面図である。
【
図2】
図2は、コンテナ用冷凍装置が備える冷媒回路の配管系統図である。
【
図3】
図3は、庫内環境制御システムの操作パネルの正面図である。
【
図4】
図4は、庫内環境制御システムの制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、実施形態1の制御装置の品質判定部が行う基準設定動作を示すフロー図である。
【
図6】
図6は、実施形態1の制御装置の品質判定部が行う主動作を示すフロー図である。
【
図7】
図7は、実施形態2の制御装置の品質判定部が行う基準設定動作を示すフロー図である。
【
図8】
図8は、実施形態3の制御装置の品質判定部が行う主動作を示すフロー図である。
【
図9】
図9は、実施形態4の品質判定装置の構成と、コンテナ用冷凍装置、空気組成調節装置、及びセンサと品質判定装置の関係を示すブロック図である。
【
図10】
図10は、実施形態4の品質判定装置の吹出温度に関連する学習部の構成と機能を示すブロック図である。
【
図11】
図11は、実施形態4の品質判定装置の吹出温度に関連する推論部の構成と機能を示すブロック図である。
【
図12】
図12は、実施形態4の品質判定装置の酸素濃度に関連する学習部の構成と機能を示すブロック図である。
【
図13】
図13は、実施形態4の品質判定装置の酸素濃度に関連する推論部の構成と機能を示すブロック図である。
【
図14】
図14は、実施形態4の品質判定装置の二酸化炭素濃度に関連する学習部の構成と機能を示すブロック図である。
【
図15】
図15は、実施形態4の品質判定装置の二酸化炭素濃度に関連する推論部の構成と機能を示すブロック図である。
【
図16】
図16は、実施形態4の品質判定装置が行う処理を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
《実施形態1》
実施形態1について説明する。本実施形態の品質判定装置(13)は、庫内環境制御システム(10)に設けられる。
【0043】
図1に示すように、庫内環境制御システム(10)は、いわゆるCA(Controlled Atmosphere)輸送を行うために輸送用コンテナ(1)に設けられる。庫内環境制御システム(10)が設けられた輸送用コンテナ(1)は、対象物品(7)を輸送するために用いられる。この輸送用コンテナ(1)に収容される対象物品(7)は、果物や野菜などの青果物である。
【0044】
図1及び
図4に示すように、庫内環境制御システム(10)は、コンテナ用冷凍装置(20)と、空気組成調節装置(40)と、操作パネル(80)と、状態指標センサ(15)と、制御装置(50)とを備える。
【0045】
制御装置(50)と、状態指標センサ(15)とは、本実施形態の品質判定装置(13)を構成する。この品質判定装置(13)は、輸送用コンテナ(1)に収容された対象物品(7)の品質低下の前兆の有無を判定する。
【0046】
コンテナ用冷凍装置(20)と、空気組成調節装置(40)と、制御装置(50)とは、環境調節装置(14)を構成する。環境調節装置(14)は、輸送用コンテナ(1)の庫内環境を、庫内環境が設定環境となるように制御する。つまり、環境調節装置(14)は、輸送用コンテナ(1)の庫内環境を示す物理量である環境指標(例えば、庫内空気の温度、湿度、酸素濃度、二酸化炭素濃度など)が設定値となるように、輸送用コンテナ(1)の庫内環境を制御する。
【0047】
貯蔵庫であるの輸送用コンテナ(1)のコンテナ本体(2)は、細長い直方体形状の箱状に形成される。コンテナ本体(2)は、一方の端面が開口する。コンテナ用冷凍装置(20)は、コンテナ本体(2)の開口端を塞ぐように取り付けられる。コンテナ本体(2)の内部空間は、貨物(6)を収納するための荷室(5)を構成する。この荷室(5)は、収容空間である。貨物(6)は、対象物品(7)を箱詰めしたものである。
【0048】
荷室(5)の底部には、貨物(6)を載せるための床板(3)が配置される。この床板(3)とコンテナ本体(2)の底板との間には、コンテナ用冷凍装置(20)が吹き出した空気を流すための床下流路(4)が形成される。床下流路(4)は、コンテナ本体(2)の底板に沿ってコンテナ本体(2)の長手方向へ延びる流路である。床下流路(4)は、一端がコンテナ用冷凍装置(20)の吹出口(34)に接続し、他端が床板(3)の上側の空間(即ち、貨物(6)が収容される空間)と連通する。
【0049】
-コンテナ用冷凍装置-
図1に示すように、コンテナ用冷凍装置(20)は、ケーシング(30)と、冷凍サイクルを行う冷媒回路(21)と、庫外ファン(26)と、庫内ファン(27)と、操作パネル(80)とを備える。
【0050】
〈ケーシング〉
ケーシング(30)は、ケーシング本体(31)と、背面板(32)とを備える。このケーシング(30)には、冷媒回路(11)と、庫外ファン(26)と、庫内ファン(27)とが設けられる。
【0051】
ケーシング本体(31)は、その下部が輸送用コンテナ(1)の荷室(5)側へ窪んだ形状となっている。ケーシング本体(31)の下部は、輸送用コンテナ(1)の外部空間と連通する庫外機器室(35)を形成する。この庫外機器室(35)には、庫外ファン(26)が配置される。
【0052】
背面板(32)は、概ね矩形の平板状の部材である。背面板(32)は、ケーシング本体(31)よりも輸送用コンテナ(1)の荷室(5)側に配置され、ケーシング本体(31)との間に庫内空気流路(36)を形成する。
【0053】
庫内空気流路(36)は、その上端がケーシング(30)の吸込口(33)を構成し、その下端がケーシング(30)の吹出口(34)を構成する。庫内空気流路(36)は、吸込口(33)を介して荷室(5)と連通し、吹出口(34)を介して床下流路(4)と連通する。庫内空気流路(36)の上部には、庫内ファン(27)が配置される。
【0054】
〈冷媒回路〉
図2に示すように、冷媒回路(21)は、圧縮機(22)と、凝縮器(23)と,膨張弁(24)と、蒸発器(25)とを配管で接続することによって形成された閉回路である。圧縮機(22)を作動させると、冷媒回路(21)を冷媒が循環し、蒸気圧縮冷凍サイクルが行われる。
【0055】
図1に示すように、凝縮器(23)は、庫外機器室(35)における庫外ファン(26)の吸込側に配置され、蒸発器(25)は、庫内空気流路(36)における庫内ファン(27)の下方に配置される。また、
図1では図示を省略するが、圧縮機(22)は、庫外機器室(35)に配置される。
【0056】
〈センサ〉
コンテナ用冷凍装置(20)は、吸込温度センサ(37)と、吹出温度センサ(38)と、蒸発器温度センサ(39)とを備える。
【0057】
吸込温度センサ(37)は、庫内空気流路(36)における蒸発器(25)の上流側に配置される。吸込温度センサ(37)は、荷室(5)から吸込口(33)を通って庫内空気流路(36)へ吸い込まれた庫内空気の温度を計測する。吸込温度センサ(37)が計測する庫内空気の温度は、庫内環境を示す物理量である環境指標である。
【0058】
吹出温度センサ(38)は、庫内空気流路(36)における蒸発器(25)の下流側に配置される。吹出温度センサ(38)は、吹出口(34)から床下流路(4)へ吹き出される空気の温度を計測する。
【0059】
蒸発器温度センサ(39)は、蒸発器(25)に取り付けられる。蒸発器温度センサ(39)は、蒸発器(25)の表面の温度を計測する。
【0060】
-空気組成調節装置-
空気組成調節装置(40)は、輸送用コンテナ(1)の荷室(5)内の空気の組成を調節する装置である。
図1に示すように、空気組成調節装置(40)は、本体ユニット(41)と、換気用排気管(45)とを備える。本体ユニット(41)は、コンテナ用冷凍装置(20)の庫外機器室(35)に設置される。
【0061】
〈本体ユニット〉
図示しないが、空気組成調節装置(40)の本体ユニット(41)には、二つの吸着筒と、加圧した空気を吸着筒へ供給する加圧ポンプと、吸着筒から空気を吸引する減圧ポンプとが収容される。空気組成調節装置(40)は、いわゆるPSA(Pressure Swing Adsorption)法によって、庫外空気(即ち、大気)を原料として、庫外空気とは組成が異なる修正空気を生成する。この修正空気は、窒素濃度が庫外空気よりも高く、酸素濃度が庫外空気よりも低い。
【0062】
本体ユニット(41)は、本体ユニット(41)内に庫外空気を取り込むための外気吸込口(42)を備える。また、本体ユニット(41)には、供給管(43)と酸素排出管(44)とが接続される。供給管(43)は、本体ユニット(41)において生成した修正空気(低酸素濃度空気)を荷室(5)へ導入するための配管であって、その終端が庫内空気流路(36)に開口する。酸素排出管(44)は、本体ユニット(41)において生成した高酸素濃度空気を庫外へ排出するための配管であって、その終端が庫外機器室(35)に開口する。
【0063】
〈換気用排気管〉
換気用排気管(45)は、輸送用コンテナ(1)の庫内空気を庫外へ排出するための配管である。換気用排気管(45)は、一端が庫内空気流路(36)に開口し、他端が庫外機器室(35)に開口する。換気用排気管(45)には、換気用排気弁(46)が設けられる。換気用排気弁(46)は、電磁弁からなる開閉弁である。
【0064】
〈センサ〉
空気組成調節装置(40)は、酸素濃度センサ(47)と、二酸化炭素濃度センサ(48)と、エチレン濃度センサ(140)とを備える。
【0065】
酸素濃度センサ(47)及び二酸化炭素濃度センサ(48)は、庫内空気流路(36)における蒸発器(25)の上流側に配置される。酸素濃度センサ(47)は、吸込口(33)から庫内空気流路(36)へ吸い込まれた庫内空気の酸素濃度を計測する。二酸化炭素濃度センサ(48)は、吸込口(33)から庫内空気流路(36)へ吸い込まれた庫内空気の二酸化炭素濃度を計測する。エチレン濃度センサ(140)は、吸込口(33)から庫内空気流路(36)へ吸い込まれた庫内空気のエチレン濃度を計測する。
【0066】
酸素濃度センサ(47)が計測する庫内空気の酸素濃度と、二酸化炭素濃度センサ(48)が計測する庫内空気の二酸化炭素濃度と、エチレン濃度センサ(140)が計測する庫内空気のエチレン濃度とは、庫内環境を示す物理量である環境指標である。
【0067】
-操作パネル-
図3に示すように、操作パネル(80)は、LED表示部(81)と、液晶表示部(82)と、複数の表示ランプ(83)と、複数の操作ボタン(84)とを備える。
図1では省略するが、操作パネル(80)は、ケーシング(30)の外側面に配置される。この操作パネル(80)は、作業者等の人間に対して情報を告知する告知装置である。
【0068】
LED表示部(81)、液晶表示部(82)、及び表示ランプ(83)は、荷室(5)内の環境に関する情報と、庫内環境制御システム(10)の運転状態に関する情報とを表示する。操作ボタン(84)は、作業者等の人間が庫内環境制御システム(10)に対して情報を入力するための入力部である。作業者等の人間は、操作ボタン(84)を操作することによって、例えば荷室(5)内の空気の温度、酸素濃度、及び二酸化炭素濃度の設定値を、庫内環境制御システム(10)に対して入力する。
【0069】
-状態指標センサ-
状態指標センサ(15)は、対象物品(7)の状態を示す物理量である状態指標を計測するセンサである。この状態指標センサ(15)は、状態検知器である。
【0070】
状態指標センサ(15)は、対象物品(7)が発するクロロフィル蛍光の強度を、状態指標として計測する。クロロフィル蛍光の強度は、対象物品(7)である青果物が行う光合成の状態に相関する物理量である。この状態指標センサ(15)としては、パルス変調蛍光測定器を用いることができる。
【0071】
図1に示すように、本実施形態の庫内環境制御システム(10)は、複数(
図1では三つ)の状態指標センサ(15)を備える。状態指標センサ(15)は、異なる位置に配置された複数(
図1では三つ)の貨物(6)に一つずつ設けられる。
【0072】
-制御装置-
図4に示すように、制御装置(50)は、演算処理ユニット(60)と、メモリーユニット(70)と、通信ユニット(75)とを備える。
【0073】
〈演算処理ユニット〉
演算処理ユニット(60)は、例えば集積回路から成るマイクロプロセッサである。演算処理ユニット(60)は、メモリーユニット(70)が記憶するプログラムを実行することによって、冷凍装置制御部(61)、空気組成調節部(62)、機器診断部(63)、品質判定部(64)、及びログデータ作成部(65)として機能する。
【0074】
冷凍装置制御部(61)は、コンテナ用冷凍装置(20)の構成機器の動作を制御する。例えば、冷凍装置制御部(61)は、荷室(5)の気温(庫内温度)が気温設定値となるようにコンテナ用冷凍装置(20)の圧縮機(22)の運転容量を制御する。この場合、冷凍装置制御部(61)は、吹出温度センサ(38)の計測値が気温設定値よりも低いときは圧縮機(22)の運転容量を減少させ、吹出温度センサ(38)の計測値が気温設定値よりも高いときは圧縮機(22)の運転容量を増加させる。
【0075】
空気組成調節部(62)は、荷室(5)内の空気の酸素濃度と二酸化炭素濃度がそれぞれの設定濃度となるように、空気組成調節装置(40)を制御する。この空気組成調節部(62)は、荷室(5)内の空気の酸素濃度を低下させるために修正空気(低酸素濃度空気)を荷室(5)へ供給する動作、荷室(5)内の空気の酸素濃度を上昇させるために外気を荷室(5)へ供給する動作、荷室(5)内の空気の二酸化炭素濃度を低下させるために荷室(5)から空気を排出しながら修正空気(低酸素濃度空気)を荷室(5)へ供給する動作などを、空気組成調節装置(40)に実行させる。
【0076】
機器診断部(63)は、環境調節装置(14)を構成するコンテナ用冷凍装置(20)及び空気組成調節装置(40)の構成機器が正常に作動するかどうかを診断する。具体的に、機器診断部(63)は、コンテナ用冷凍装置(20)の圧縮機(22)、膨張弁(24)、庫内ファン(27)、及び庫外ファン(26)が正常に動作するかどうかを診断する。また、機器診断部(63)は、酸素濃度センサ(47)、二酸化炭素濃度センサ(48)、吸込温度センサ(37)、吹出温度センサ(38)、及び蒸発器温度センサ(39)が正常に機能するかどうかを診断する。また、機器診断部(63)は、冷媒回路(21)に充填された冷媒の量が不足しているかどうかと、蒸発器(25)に付着した霜の量が過多かどうかを診断する。
【0077】
品質判定部(64)は、荷室に収容された対象物の品質低下の前兆の有無を判定する。この品質判定部(64)は、品質判定装置(13)の本体処理部である。
【0078】
ログデータ作成部(65)は、酸素濃度センサ(47)、二酸化炭素濃度センサ(48)、吸込温度センサ(37)、吹出温度センサ(38)、及び蒸発器温度センサ(39)の計測値を所定時間(例えば60分間)が経過する毎に取得し、取得した計測値をメモリーユニット(70)へ送信する。
【0079】
〈メモリーユニット〉
メモリーユニット(70)は、例えば集積回路から成る半導体メモリーである。メモリーユニット(70)は、制御装置(50)に所定の動作を実行させるためのプログラムと、制御装置(50)の動作に必要なデータとを記憶する。また、メモリーユニット(70)は、設定値記憶部(71)、基準値記憶部(72)、及びログデータ記憶部(73)として機能する。
【0080】
設定値記憶部(71)は、荷室(5)内の空気の温度、酸素濃度、及び二酸化炭素濃度のそれぞれについてのユーザー設定値を記憶する。これらのユーザー設定値は、作業者が操作パネル(80)の操作ボタン(84)を操作することによって制御装置(50)に入力される。
【0081】
基準値記憶部(72)は、クロロフィル蛍光の強度に関する基準蛍光強度を記憶する。この基準蛍光強度は、品質判定部(64)によって設定される。
【0082】
ログデータ記憶部(73)は、ログデータ作成部(65)から送信された各センサ(37,38,39,47,48)の計測値の時系列データを、ログデータとして記憶する。
【0083】
〈通信ユニット〉
通信ユニット(75)は、コンテナ用冷凍装置(20)、空気組成調節装置(40)、及び状態指標センサ(15)と有線通信を行うように構成される。通信ユニット(75)は、吸込温度センサ(37)、吹出温度センサ(38)、蒸発器温度センサ(39)、酸素濃度センサ(47)、二酸化炭素濃度センサ(48)、及び状態指標センサ(15)の計測値を受信し、受信した計測値を演算処理ユニット(60)へ送信する。また、通信ユニット(75)は、冷凍装置制御部(61)、空気組成調節部(62)、及び機器診断部(63)において生成した指令信号を出力する。本実施形態の通信ユニット(75)は、状態指標センサ(15)が計測した状態指標(本実施形態では、クロロフィル蛍光の強度)を取得する状態取得部である。
【0084】
-制御装置の動作-
制御装置(50)の品質判定部(64)が行う動作を説明する。品質判定部(64)は、基準蛍光強度を設定する基準設定動作と、対象物品(7)の品質低下の前兆の有無を判定する主動作とを行う。また、主動作において、品質判定部(64)は、原因特定動作と、告知動作と、診断指示動作と、環境変更動作とを行う。
【0085】
〈基準設定動作〉
品質判定部(64)が行う基準設定動作について、
図5のフロー図を参照しながら説明する。この基準設定動作において、品質判定部(64)は、荷室(5)の空気の酸素濃度を極端に低くすることによって対象物品(7)である青果物にストレスを与え、ストレスを与えた状態における対象物品(7)のクロロフィル蛍光の強度に基づいて、基準蛍光強度を設定する。
【0086】
(ステップST11)
ステップST11の処理において、品質判定部(64)は、気温設定値を“対象物品(7)の低温障害が発生しない温度”に設定する。“対象物品(7)の低温障害が発生しない温度”は、対象物品(7)の種類毎に予め定まった値である。例えば、対象物品(7)が「リンゴ」の場合、“対象物品(7)の低温障害が発生しない温度”は10℃である。
【0087】
ステップST11の処理において、品質判定部(64)は、“対象物品(7)の低温障害が発生しない温度”に設定した気温設定値を、冷凍装置制御部(61)へ送信する。冷凍装置制御部(61)は、品質判定部(64)から送信された気温設定値を用いて、コンテナ用冷凍装置(20)の運転を制御する。
【0088】
また、ステップST11の処理において、品質判定部(64)は、保護条件タイマーをスタートさせる。保護条件タイマーは、スタートした時点からの経過時間を計る。
【0089】
(ステップST12)
次のステップST12において、品質判定部(64)は、荷室(5)の気温が安定しているか否かを判定する。具体的に、品質判定部(64)は、“吹出温度センサ(38)の計測値が気温設定値±1℃の範囲である状態が1時間以上に亘って継続する”という安定条件の成否を判定する。この安定条件の「気温設定値」は、ステップST11の処理において設定された値である。
【0090】
安定条件が成立した場合、品質判定部(64)は、ステップST13の処理を行う。一方、安定条件が成立しない場合、品質判定部(64)は、ステップST12の処理を継続する。
【0091】
(ステップST13)
ステップST13の処理において、品質判定部(64)は、状態指標センサ(15)が計測したクロロフィル蛍光の強度を取得する。品質判定部(64)は、取得したクロロフィル蛍光の強度の計測値を、記憶値Aとしてメモリーユニット(70)に記憶させる。
【0092】
本実施形態の品質判定部(64)は、三つの状態指標センサ(15)からクロロフィル蛍光の強度の計測値を取得する。そして、この品質判定部(64)は、三つの状態指標センサ(15)から取得した計測値の算術平均を、記憶値Aとしてメモリーユニット(70)に記憶させる。
【0093】
(ステップST14)
次のステップST14の処理において、品質判定部(64)は、酸素濃度設定値と二酸化炭素濃度設定値のそれぞれを「0%」に設定する。品質判定部(64)は、「0%」に設定した酸素濃度設定値および二酸化炭素濃度設定値を、空気組成調節部(62)へ送信する。空気組成調節部(62)は、品質判定部(64)から受信した酸素濃度設定値および二酸化炭素濃度設定値を用いて、空気組成調節装置(40)の運転を制御する。
【0094】
なお、ステップST14の処理において設定される二酸化炭素濃度設定値は、「0%」ではなく、メモリーユニット(70)の設定値記憶部(71)が記憶するユーザー設定値であってもよい。
【0095】
(ステップST15)
次のステップST15の処理において、品質判定部(64)は、所定の時間T1(本実施形態では、T1=60分間)に亘って待機する。時間T1が経過するまでの間、空気組成調節装置(40)は、荷室(5)内の空気の酸素濃度を引き下げるための運転を継続する。その結果、荷室(5)内の空気の酸素濃度が0%に近い値にまで低下し、対象物品(7)である青果物にストレスが与えられる。
【0096】
(ステップST16)
次のステップST16の処理において、品質判定部(64)は、状態指標センサ(15)が計測したクロロフィル蛍光の強度を取得する。品質判定部(64)は、取得したクロロフィル蛍光の強度の計測値を、記憶値Bとしてメモリーユニット(70)に記憶させる。
【0097】
このステップST16の処理において、品質判定部(64)は、ステップST13の処理と同様に、三つの状態指標センサ(15)から取得した計測値の算術平均を算出する。そして、品質判定部(64)は、三つの状態指標センサ(15)の計測値の算術平均を、記憶値Bとしてメモリーユニット(70)に記憶させる。
【0098】
(ステップST17)
次のステップST17の処理において、品質判定部(64)は、メモリーユニット(70)から記憶値Aと記憶値Bとを読み出し、“記憶値B/記憶値A≧104%”という関係の成否を判定する。品質判定部(64)は、荷室(5)内の空気の酸素濃度を引き下げて対象物品(7)にストレスを与えた結果、クロロフィル蛍光の強度がある程度以上増加したかどうかを判定する。
【0099】
“記憶値B/記憶値A≧104%”という関係が成立する場合、品質判定部(64)は、ステップST18の処理を行う。一方、“記憶値B/記憶値A≧104%”という関係が成立しない場合、品質判定部(64)は、ステップST20の処理を行う。
【0100】
(ステップST18)
ステップST18の処理において、品質判定部(64)は、記憶値Bの99%の値を、基準蛍光強度に設定する(基準蛍光強度=0.99×記憶値B)。品質判定部(64)は、記憶値Bの99%の値を、基準蛍光強度としてメモリーユニット(70)の基準値記憶部(72)に記憶させる。
【0101】
ここで、青果物を長期間(例えば数ヶ月間)に亘って貯蔵する場合は、経時的な青果物の鮮度低下に伴って青果物のクロロフィル(葉緑体)の機能が損なわれ、それに起因してクロロフィル蛍光の強度が徐々に低下する。このため、記憶値Bを基準蛍光強度に設定すると、長期間に亘って保存された青果物が低酸素濃度によるストレスを受けたときに、その青果物のクロロフィル蛍光の強度が基準蛍光強度に達しないおそれがある。そこで、ステップST18では、基準蛍光強度を記憶値Bよりも若干小さい値に設定する。
【0102】
(ステップST19)
次のステップST19の処理において、品質判定部(64)は、気温設定値、酸素濃度設定値、及び二酸化炭素濃度設定値を、メモリーユニット(70)の設定値記憶部(71)が記憶するそれぞれのユーザー設定値に戻す。ステップST19の処理が終了すると、品質判定部(64)は、基準設定動作を終了する。
【0103】
(ステップST20)
ステップST20の処理において、品質判定部(64)は、対象物品(7)を低酸素濃度障害から保護するための保護条件の成否を判断する。この保護条件は、第1サブ条件と第2サブ条件の少なくとも一方が成立するという条件である。第1サブ条件は、“酸素濃度センサ(47)の計測値がユーザー設定値よりも低い状態”が24時間以上に亘って継続するという条件である。第2サブ条件は、“酸素濃度センサ(47)の計測値が1%未満の状態”が6時間以上に亘って継続するという条件である。
【0104】
保護条件が成立する場合、品質判定部(64)は、ステップST21の処理を行う。一方、保護条件が成立しない場合、品質判定部(64)は、ステップST15以降の処理を再び行う。
【0105】
(ステップST21)
ステップST21の処理において、品質判定部(64)は、状態指標センサ(15)が計測したクロロフィル蛍光の強度を取得する。品質判定部(64)は、取得したクロロフィル蛍光の強度の計測値を、記憶値Bとしてメモリーユニット(70)に記憶させる。
【0106】
このステップST21の処理において、品質判定部(64)は、ステップST16の処理と同様に、三つの状態指標センサ(15)から取得した計測値の算術平均を、記憶値Bとしてメモリーユニット(70)に記憶させる。品質判定部(64)は、メモリーユニット(70)が記憶する記憶値Bを、ステップST16の処理において算出した値から、ステップST21において算出した値に更新する。
【0107】
(ステップST22)
次のステップST22の処理において、品質判定部(64)は、メモリーユニット(70)から記憶値Aと記憶値Bとを読み出し、“記憶値B/記憶値A≧102%”という関係の成否を判定する。品質判定部(64)は、荷室(5)内の空気の酸素濃度を引き下げて対象物品(7)にストレスを与えた結果、クロロフィル蛍光の強度が少しでも増加したかどうかを判定する。
【0108】
“記憶値B/記憶値A≧102%”という関係が成立する場合、品質判定部(64)は、上述したステップST18及びステップST19の処理を行う。一方、“記憶値B/記憶値A≧102%”という関係が成立しない場合、品質判定部(64)は、ステップST23の処理を行う。
【0109】
(ステップST23)
ステップST22の処理において“記憶値B/記憶値A≧102%”という関係が成立しない場合は、荷室(5)内の空気の酸素濃度を極端に低くして対象物品(7)である青果物にストレスを与えても、青果物のクロロフィル蛍光の強度が殆ど増加しないことになる。従って、その場合は、前兆条件(対象物品(7)の品質低下の前兆を示す条件)の成否を判定する際に用いる基準蛍光強度を、設定することができない。そこで、ステップST23の処理において、品質判定部(64)は、基準蛍光強度の値を設定せず、主動作の実行を禁止する。品質判定部(64)は、ステップST23の処理が終了すると、ステップST19の処理を行う。
【0110】
〈主動作〉
品質判定部(64)が行う主動作について、
図6のフロー図を参照しながら説明する。
【0111】
(ステップST31)
ステップST31の処理において、品質判定部(64)は、気温設定値、酸素濃度設定値、及び二酸化炭素濃度設定値を、メモリーユニット(70)の設定値記憶部(71)が記憶するそれぞれのユーザー設定値に設定する。
【0112】
品質判定部(64)は、気温設定値を冷凍装置制御部(61)へ送信する。冷凍装置制御部(61)は、品質判定部(64)から送信された気温設定値を用いて、コンテナ用冷凍装置(20)の運転を制御する。また、品質判定部(64)は、酸素濃度設定値および二酸化炭素濃度設定値を、空気組成調節部(62)へ送信する。空気組成調節部(62)は、品質判定部(64)から送信された酸素濃度設定値および二酸化炭素濃度設定値を用いて、空気組成調節装置(40)の運転を制御する。
【0113】
(ステップST32)
次のステップST32の処理において、品質判定部(64)は、状態指標センサ(15)が計測したクロロフィル蛍光の強度を取得する。品質判定部(64)は、取得したクロロフィル蛍光の強度の計測値を、記憶値Cとしてメモリーユニット(70)に記憶させる。
【0114】
このステップST32の処理において、品質判定部(64)は、
図5のステップST13の処理と同様に、三つの状態指標センサ(15)から取得した計測値の算術平均を算出する。そして、品質判定部(64)は、三つの状態指標センサ(15)の計測値の算術平均を、記憶値Cとしてメモリーユニット(70)に記憶させる。
【0115】
(ステップST33)
次のステップST33の処理において、品質判定部(64)は、ステップST32においてメモリーユニット(70)に記憶させた記憶値Cと、メモリーユニット(70)の基準値記憶部(72)が記憶する基準蛍光強度とを読み出す。そして、品質判定部(64)は、“記憶値Cが基準蛍光強度以上である(記憶値C≧基準蛍光強度)”という条件の成否を判定する。
【0116】
記憶値Cが基準蛍光強度以上である場合は、荷室(5)に収容された対象物品(7)が比較的大きなストレスを受けていると推測される。対象物品(7)が比較的大きなストレスを受け続けると、対象物品(7)の品質が次第に低下してゆく。従って、“記憶値C≧基準蛍光強度”という条件は、荷室(5)に収容された対象物品(7)の品質低下の前兆を示す前兆条件である。また、このステップST33の処理は、前兆条件の成否を判定する判定動作である。
【0117】
“記憶値C≧基準蛍光強度”という条件が成立する場合、品質判定部(64)は、ステップST35の処理を行う。一方、“記憶値C≧基準蛍光強度”という条件が成立しない場合、品質判定部(64)は、ステップST34の処理を行う。
【0118】
(ステップST34)
基準値Cが基準蛍光強度よりも小さい場合は、対象物品(7)は大きなストレスを受けておらず、対象物品(7)の品質が保たれていると推定できる。そこで、ステップST34の処理において、品質判定部(64)は、所定の時間T2(本実施形態ではT2=180分間)に亘って待機する。品質判定部(64)の待機中において、冷凍装置制御部(61)は、ステップST31において設定された気温設定値を用いてコンテナ用冷凍装置(20)を制御し、空気組成調節部(62)は、ステップST31において設定された酸素濃度設定値および二酸化炭素濃度設定値を用いて空気組成調節装置(40)を制御する。
【0119】
(ステップST35)
ステップST35の処理において、品質判定部(64)は、酸素濃度センサ(47)、二酸化炭素濃度センサ(48)、吸込温度センサ(37)、吹出温度センサ(38)、及び蒸発器温度センサ(39)の計測値の平均値を算出する。
【0120】
具体的に、品質判定部(64)は、メモリーユニット(70)のログデータ記憶部(73)が記憶する各センサ(37,38,39,47,48)の計測値の時系列データのうち、直近の一日分の時系列データを読み出す。そして、品質判定部(64)は、各センサ(37,38,39,47,48)の計測値について、それぞれの一日分の時系列データの算術平均を算出する。
【0121】
(ステップST36)
次のステップST36の処理において、品質判定部(64)は、原因特定動作を行う。この原因特定動作は、収容空間(5)の内部環境を示す複数の環境指標のうち、対象物品(7)の品質低下の前兆の原因となっているものを特定する動作である。
【0122】
原因特定動作において、品質判定部(64)は、酸素濃度センサ(47)、二酸化炭素濃度センサ(48)、吸込温度センサ(37)、吹出温度センサ(38)、及び蒸発器温度センサ(39)が計測する物理量の中から、前兆条件が成立した原因となっているものを特定し、特定した物理量を原因環境指標とする。
【0123】
具体的に、品質判定部(64)は、ステップST36の処理において、これら各センサ(37,38,39,47,48)の計測値を現在値として取得する。次に、品質判定部(64)は、これら各センサ(37,38,39,47,48)の計測値について、それぞれの“ステップST35で算出した平均値”と“ステップST36で取得した現在値”の差を算出し、その値を判定値とする(判定値=平均値-現在値)。そして、品質判定部(64)は、各センサ(37,38,39,47,48)についての判定値に基づいて、原因環境指標を特定する。なお、一回の原因特定動作において特定される原因環境指標は、一つの物理量であってもよいし、複数の物理量であってもよい。
【0124】
例えば、酸素濃度センサ(47)の計測値についての判定値が所定の基準値よりも小さい場合は、荷室(5)内の空気の酸素濃度の現在値が平均値よりも大幅に低いため、酸素濃度が低すぎることによって対象物品(7)の品質低下を招くおそれがあると推定できる。そこで、この場合、品質判定部(64)は、酸素濃度センサ(47)が計測する荷室(5)内の空気の酸素濃度を、原因環境指標とする。
【0125】
また、二酸化炭素濃度センサ(48)の計測値についての判定値が所定の基準値よりも大きい場合は、荷室(5)内の空気の二酸化炭素濃度の現在値が平均値よりも大幅に高いため、二酸化炭素濃度が高すぎることによって対象物品(7)の品質低下を招くおそれがあると推定できる。そこで、この場合、品質判定部(64)は、二酸化炭素濃度センサ(48)が計測する荷室(5)内の空気の二酸化炭素濃度を、原因環境指標とする。
【0126】
また、吸込温度センサ(37)の計測値についての判定値が所定の基準値よりも小さい場合は、荷室(5)内の空気の温度の現在値が平均値よりも大幅に低いため、荷室(5)の気温が低すぎることによって対象物品(7)の品質低下を招くおそれがあると推定できる。そこで、この場合、品質判定部(64)は、吸込温度センサ(37)が計測する荷室(5)内の空気の温度を、原因環境指標とする。
【0127】
(ステップST37)
次のステップST37の処理において、品質判定部(64)は、告知動作と診断指示動作とを行う。
【0128】
告知動作は、告知装置であるに操作パネル(80)に対して、対象物品(7)の品質が低下するおそれの告知を指示する動作である。この告知動作において、品質判定部(64)は、対象物品(7)の品質が低下するおそれがあることを示す情報の提示を指示する告知指示信号を、通信ユニット(75)を通じて操作パネル(80)へ送信する。
【0129】
告知指示信号を受信した操作パネル(80)は、対象物品(7)の品質が低下するおそれがあることを示す情報を、LED表示部(81)又は液晶表示部(82)に表示する。その結果、対象物品(7)の品質が低下するおそれがあることを示す情報が、作業者等の人間に対して告知される。
【0130】
診断指示動作は、環境調節装置(14)に対して、環境調節装置(14)の構成機器が正常に機能しているかの診断を指示する動作である。この診断指示動作において、品質判定部(64)は、診断動作の実行を指示する診断指示信号を、機器診断部(63)へ送信する。
【0131】
診断指示信号を受信した機器診断部(63)は、環境調節装置(14)を構成するコンテナ用冷凍装置(20)及び空気組成調節装置(40)の構成機器が正常に作動するかどうかを診断する。そして、機器診断部(63)は、診断した結果を品質判定部(64)へ送信する。
【0132】
(ステップST38)
次のステップST38の処理において、品質判定部(64)は、機器診断部(63)から受信した診断結果が、コンテナ用冷凍装置(20)及び空気組成調節装置(40)の構成機器が正常に作動していることを示す場合、ステップST39の処理を行う。一方、機器診断部(63)から受信した診断結果が、コンテナ用冷凍装置(20)及び空気組成調節装置(40)の構成機器が正常に作動していないことを示す場合、品質判定部(64)は、主動作を終了する。
【0133】
(ステップST39)
ステップST39の処理において、品質判定部(64)は、環境変更動作を行う。環境変更動作は、対象物品(7)の品質低下を抑えるための収容空間(5)の内部環境の変更を、環境調節装置(14)に対して指示する動作である。
【0134】
この環境変更動作において、品質判定部(64)は、 “ステップST36の原因特定動作によって特定された原因環境指標”を変更することを指示する信号を、冷凍装置制御部(61)及び空気組成調節部(62)へ送信する。ステップST39の処理が終了すると、品質判定部(64)は、主動作を終了する。
【0135】
例えば、ステップST36において“荷室(5)内の空気の酸素濃度”が原因環境指標であると特定され、“荷室(5)内の空気の酸素濃度”が低すぎることが対象物品(7)の品質低下の前兆の原因であると推測される場合、品質判定部(64)は、酸素濃度設定値を所定値だけ引き上げることを指示する信号を、空気組成調節部(62)へ送信する。この信号を受信した空気組成調節部(62)は、酸素濃度センサ(47)の計測値が引き上げられた酸素濃度設定値となるように、空気組成調節装置(40)の運転を制御する。その結果、荷室(5)内の空気の酸素濃度が上昇し、荷室(5)内の対象物品(7)の品質低下が抑えられる。
【0136】
また、ステップST36において“荷室(5)内の空気の二酸化炭素濃度”が原因環境指標であると特定され、“荷室(5)内の空気の二酸化炭素濃度”が高すぎることが対象物品(7)の品質低下の前兆の原因であると推測される場合、品質判定部(64)は、二酸化炭素濃度設定値を所定値だけ引き下げることを指示する信号を、空気組成調節部(62)へ送信する。この信号を受信した空気組成調節部(62)は、二酸化炭素濃度センサ(48)の計測値が引き下げられた二酸化炭素濃度設定値となるように、空気組成調節装置(40)の運転を制御する。その結果、荷室(5)内の空気の二酸化炭素濃度が低下し、荷室(5)内の対象物品(7)の品質低下が抑えられる。
【0137】
また、ステップST36において“荷室(5)からコンテナ用冷凍装置(20)へ吸い込まれる空気の温度”が原因環境指標であると特定され、“荷室(5)内の空気の温度”が低すぎることが対象物品(7)の品質低下の前兆の原因であると推測される場合、品質判定部(64)は、気温設定値を所定値だけ引き上げることを指示する信号を、冷凍装置制御部(61)へ送信する。この信号を受信した冷凍装置制御部(61)は、吹出温度センサ(38)の計測値が引き上げられた気温設定値となるように、コンテナ用冷凍装置(20)の運転を制御する。その結果、荷室(5)内の空気の温度が上昇し、荷室(5)内の対象物品(7)の品質低下が抑えられる。
【0138】
ここで、蒸発器(25)に多量の霜が付着すると、蒸発器(25)における冷媒の蒸発温度が低下し、蒸発器(25)を通過した空気の温度が低くなり過ぎ、その結果、荷室(5)内の空気の温度が低くなり過ぎることがある。そのため、ステップST36において“荷室(5)からコンテナ用冷凍装置(20)へ吸い込まれる空気の温度”が原因環境指標であると特定され、“荷室(5)内の空気の温度”が低すぎることが対象物品(7)の品質低下の前兆の原因であると推測される場合、品質判定部(64)は、蒸発器(25)に付着した霜を溶かすための除霜運転の実行を指示する信号を、通信ユニット(75)を介してコンテナ用冷凍装置(20)へ送信してもよい。
【0139】
また、ステップST36において“コンテナ用冷凍装置(20)から荷室(5)へ吹き出される空気の温度”が原因環境指標であると特定され、“荷室(5)内の空気の温度”が低すぎることが対象物品(7)の品質低下の前兆の原因であると推測される場合、品質判定部(64)は、吹出温度の設定値を所定値だけ引き上げることを指示する信号を、冷凍装置制御部(61)へ送信する。この信号を受信した冷凍装置制御部(61)は、吹出温度センサ(38)の計測値が引き上げられた吹出温度の設定値となるように、コンテナ用冷凍装置(20)の運転を制御する。その結果、荷室(5)内の空気の温度が上昇し、荷室(5)内の対象物品(7)の品質低下が抑えられる。
【0140】
上述したように、蒸発器(25)に多量の霜が付着すると、荷室(5)内の空気の温度が低くなり過ぎることがある。そのため、ステップST36において“コンテナ用冷凍装置(20)から荷室(5)へ吹き出される空気の温度”が原因環境指標であると特定され、“荷室(5)内の空気の温度”が低すぎることが対象物品(7)の品質低下の前兆の原因であると推測される場合、品質判定部(64)は、除霜運転の実行を指示する信号を、通信ユニット(75)を介してコンテナ用冷凍装置(20)へ送信してもよい。
【0141】
また、ステップST36において“蒸発器(25)の温度”が原因環境指標であると特定された場合は、蒸発器(25)に多量の霜が付着しており、その結果、荷室(5)内の空気の温度が低くなり過ぎている可能性がある。そこで、この場合、品質判定部(64)は、除霜運転の実行を指示する信号を、通信ユニット(75)を介してコンテナ用冷凍装置(20)へ送信する。なお、この場合、品質判定部(64)は、気温設定値を所定値だけ引き上げることを指示する信号を、冷凍装置制御部(61)へ送信してもよい。
【0142】
-実施形態1の特徴(1)-
本実施形態の品質判定装置(13)は、状態指標センサ(15)と、品質判定部(64)とを備える。状態指標センサ(15)は、状態指標を検知する。状態指標は、内部環境が制御された荷室(5)に収容された対象物品(7)の状態を示す指標である。品質判定部(64)は、判定動作を行う。判定動作は、対象物品(7)の品質低下の前兆を示す前兆条件の成否を、状態指標センサ(15)が検知した状態指標に基づいて判定する動作である。
【0143】
本実施形態の品質判定装置(13)では、品質判定部(64)が判定動作を行うことによって、対象物品(7)の品質低下の前兆の有無を、状態指標センサ(15)が検知した状態指標に基づいて判定できる。このため、本実施形態の品質判定装置(13)によれば、実際に荷室(5)に収容されている対象物品(7)の品質低下の有無を判定できる。
【0144】
-実施形態1の特徴(2)-
本実施形態の品質判定装置(13)において、品質判定部(64)は、前兆条件が成立したと判定すると、環境変更動作を行う。環境変更動作は、荷室(5)の内部環境を調節する環境調節装置(14)に対して、対象物品(7)の品質低下を抑えるための荷室(5)の内部環境の変更を指示する動作である。
【0145】
本実施形態の品質判定装置(13)において、品質判定部(64)は、判定動作において前兆条件が成立したと判定すると、環境変更動作を行う。環境変更動作において、品質判定部(64)は、荷室(5)の内部環境の変更を、環境調節装置(14)に対して指示する。品質判定部(64)からの指示を受けた環境調節装置(14)は、対象物品(7)の品質低下を抑えるために、荷室(5)の内部環境を変更する。従って、本実施形態によれば、荷室(5)の内部環境を、実際に荷室(5)に収容されている対象物品(7)の品質保持に適した内部環境にできる。その結果、荷室(5)に収容されている間における対象物品(7)の品質低下を、最小限に抑えることができる。
【0146】
-実施形態1の特徴(3)-
本実施形態の品質判定装置(13)において、品質判定部(64)は、前兆条件が成立したと判定すると、原因特定動作を行う。この原因特定動作は、荷室(5)の内部環境を示す複数の環境指標のうち、対象物品(7)の品質低下の前兆の原因となっているものを特定する動作である。
【0147】
本実施形態の品質判定部(64)は、判定動作において前兆条件が成立したと判定すると、原因特定動作を行う。原因特定動作において、品質判定部(64)は、対象物品(7)の品質低下の前兆の原因となっている環境指標を特定し、特定した環境指標を原因環境指標とする。
【0148】
本実施形態の品質判定部(64)は、原因特定動作の終了後に環境変更動作を行う。その環境変更動作において、品質判定部(64)は、荷室(5)内の空気についての原因環境指標が対象物品(7)の品質保持に適した値となるように、コンテナ用冷凍装置(20)又は空気組成調節装置(40)の運転を制御する。従って、本実施形態によれば、対象物品(7)の品質低下の前兆の原因となっている環境指標を、対象物品(7)の品質保持に適した値にすることができ、対象物品(7)の品質低下を確実に抑えることができる。
【0149】
-実施形態1の特徴(4)-
本実施形態の品質判定装置(13)において、品質判定部(64)は、前兆条件が成立したと判定すると、告知動作を行う。告知動作は、人間に対して情報を告知する操作パネル(80)に対して、対象物品(7)の品質が低下するおそれの告知を指示する動作である。
【0150】
本実施形態の品質判定部(64)は、判定動作において前兆条件が成立したと判定すると、告知動作を行う。告知動作において、品質判定部(64)は、対象物品(7)の品質が低下するおそれの告知を、操作パネル(80)に対して指示する。品質判定部(64)からの指示を受けた操作パネル(80)は、対象物品(7)の品質低下のおそれがある旨の情報を、作業者等の人間に対して告知する。従って、本実施形態の品質判定装置(13)によれば、対象物品(7)の品質低下のおそれがあることを、人間に知らせることができる。
【0151】
-実施形態1の特徴(5)-
本実施形態の品質判定部(64)は、前兆条件が成立したと判定すると、診断指示動作を行う。断指示動作は、荷室(5)の内部環境を調節する環境調節装置(14)に対して、環境調節装置(14)の構成機器が正常に機能しているかの診断を指示する動作である。
【0152】
本実施形態の品質判定部(64)は、判定動作において前兆条件が成立したと判定すると、診断指示動作を行う。診断指示動作において、品質判定部(64)は、環境調節装置(14)の構成機器が正常に機能しているかの診断を、環境調節装置(14)に対して指示する。品質判定部(64)からの指示を受けた環境調節装置(14)は、その構成機器が正常に機能しているかどうかを診断する。従って、本実施形態によれば、対象物品(7)の品質低下の原因が環境調節装置(14)の構成機器の不具合であるか否かを判定できる。
【0153】
本実施形態の品質判定部(64)は、診断指示動作を実行し、環境調節装置(14)の構成機器が正常に機能していることが確認できた後に、環境変更動作を行う。従って、本実施形態の品質判定装置(13)によれば、荷室(5)の内部環境を対象物品(7)の保存に適した環境に設定することができ、対象物品(7)の品質を保つことができる。
【0154】
-実施形態1の特徴(6)-
本実施形態の品質判定装置(13)において、状態指標センサ(15)は、対象物品(7)である青果物のクロロフィル蛍光の強度を、状態指標として検知する。
【0155】
クロロフィル蛍光は、植物が行う光合成の状態を示す指標である。そこで、本実施形態の状態指標センサ(15)は、クロロフィル蛍光の強度を状態指標として検知する。
【0156】
-実施形態1の特徴(7)-
本実施形態の品質判定部(64)において、前兆条件は、状態指標センサ(15)が検知したクロロフィル蛍光の強度が基準蛍光強度を上回るという条件である。品質判定部(64)は、荷室(5)の酸素濃度を低下させたときに状態指標センサ(15)が検知したクロロフィル蛍光の強度に基づいて基準蛍光強度を設定する。
【0157】
本実施形態の品質判定部(64)は、状態指標センサ(15)が検知したクロロフィル蛍光の強度が基準蛍光強度を上回ると、前兆条件が成立したと判定する。荷室(5)の酸素濃度が低下すると、対象物品(7)である青果物が行う光合成の状態が変化し、その結果、対象物品(7)が発するクロロフィル蛍光の強度が変化する。そこで、品質判定部は、荷室(5)の酸素濃度を低下させたときのクロロフィル蛍光の強度に基づいて、基準蛍光強度を設定する。
【0158】
《実施形態2》
実施形態2について説明する。本実施形態の品質判定装置(13)は、実施形態1の品質判定装置(13)において、制御装置(50)の品質判定部(64)が行う基準設定動作を変更したものである。ここでは、本実施形態の品質判定装置(13)について、実施形態1の品質判定装置(13)と異なる点を説明する。
【0159】
-制御装置の動作-
制御装置(50)の品質判定部(64)が行う動作を説明する。本実施形態の品質判定部(64)が行う主動作は、実施形態1の品質判定部(64)が行う主動作と同じである。
【0160】
〈基準設定動作〉
本実施形態の品質判定部(64)が行う基準設定動作について、
図7のフロー図を参照しながら説明する。この基準設定動作において、品質判定部(64)は、荷室(5)の空気の温度を低くすることによって対象物品(7)である青果物にストレスを与え、ストレスを与えた状態における対象物品(7)のクロロフィル蛍光の強度に基づいて、基準蛍光強度を設定する。
【0161】
(ステップST41)
ステップST41の処理において、品質判定部(64)は、気温設定値を、メモリーユニット(70)の設定値記憶部(71)が記憶する荷室(5)の気温に関するユーザー設定値に設定する。
【0162】
品質判定部(64)は、ユーザー設定値に設定した気温設定値を冷凍装置制御部(61)へ送信する。冷凍装置制御部(61)は、品質判定部(64)から送信された気温設定値を用いて、コンテナ用冷凍装置(20)の運転を制御する。具体的に、冷凍装置制御部(61)は、吹出温度センサ(38)の計測値が気温設定値となるように、コンテナ用冷凍装置(20)の冷却能力を調節する。
【0163】
なお、本実施形態の品質判定部(64)が基準設定動作を行っている間、空気組成調節装置(40)は停止状態に保たれる。従って、基準設定動作の実行中において、荷室(5)内の空気の組成は、大気と実質的に同じになる。
【0164】
(ステップST42)
次のステップST42において、品質判定部(64)は、荷室(5)の気温が安定しているか否かを判定する。具体的に、品質判定部(64)は、“吹出温度センサ(38)の計測値が気温設定値±1℃の範囲である状態が1時間以上に亘って継続する”という安定条件の成否を判定する。この安定条件の「気温設定値」は、ステップST41の処理において設定された値である。
【0165】
安定条件が成立した場合、品質判定部(64)は、ステップST43の処理を行う。一方、安定条件が成立しない場合、品質判定部(64)は、ステップST42の処理を継続する。
【0166】
安定条件が成立するまでの間、コンテナ用冷凍装置(20)は、吹出温度センサ(38)の計測値がステップST41において設定された気温設定値となるように、荷室(5)内の空気を冷却する運転を継続する。その結果、荷室(5)内の空気の温度が、ユーザー設定値に近づいてゆく。
【0167】
(ステップST43)
ステップST43の処理において、品質判定部(64)は、状態指標センサ(15)が計測したクロロフィル蛍光の強度を取得する。品質判定部(64)は、取得したクロロフィル蛍光の強度の計測値を、記憶値Dとしてメモリーユニット(70)に記憶させる。このステップST43の処理において、品質判定部(64)は、
図5のステップST13の処理と同様に、三つの状態指標センサ(15)から取得した計測値の算術平均を、記憶値Dとしてメモリーユニット(70)に記憶させる。
【0168】
(ステップST44)
ステップST44の処理において、品質判定部(64)は、気温設定値を“対象物品(7)の低温障害が発生する温度”に設定する。“対象物品(7)の低温障害が発生する温度”は、対象物品(7)の種類毎に予め定まった値である。例えば、対象物品(7)が「バナナ」の場合、“対象物品(7)の低温障害が発生する温度”は10℃である。
【0169】
ステップST44の処理において、品質判定部(64)は、“対象物品(7)の低温障害が発生する温度”に設定した気温設定値を、冷凍装置制御部(61)へ送信する。冷凍装置制御部(61)は、品質判定部(64)から送信された気温設定値を用いて、コンテナ用冷凍装置(20)の運転を制御する。その結果、荷室(5)内の空気の温度が比較的低くなり、対象物品(7)である青果物にストレスが与えられる。
【0170】
また、ステップST44の処理において、品質判定部(64)は、保護条件タイマーをスタートさせる。保護条件タイマーは、スタートした時点からの経過時間を計る。
【0171】
(ステップST45)
ステップST45の処理において、品質判定部(64)は、対象物品(7)を低温障害から保護するための保護条件の成否を判断する。この保護条件は、気温設定値が“対象物品(7)の低温障害が発生する温度”に設定されてから24時間以上が経過したという条件である。
【0172】
保護条件が成立する場合、品質判定部(64)は、ステップST53の処理を行う。一方、保護条件が成立しない場合、品質判定部(64)は、ステップST46の処理を行う。
【0173】
(ステップST46)
ステップST46の処理において、品質判定部(64)は、状態指標センサ(15)が計測したクロロフィル蛍光の強度を取得する。品質判定部(64)は、取得したクロロフィル蛍光の強度の計測値を、記憶値Aとしてメモリーユニット(70)に記憶させる。このステップST46の処理において、品質判定部(64)は、ステップST43の処理と同様に、三つの状態指標センサ(15)から取得した計測値の算術平均を、記憶値Aとしてメモリーユニット(70)に記憶させる。
【0174】
(ステップST47)
次のステップST47の処理において、品質判定部(64)は、所定の時間T3(本実施形態では、T3=30分間)に亘って待機する。品質判定部(64)が待機している間、コンテナ用冷凍装置(20)は、吹出温度センサ(38)の計測値がステップST44において設定された気温設定値となるように、荷室(5)内の空気を冷却する運転を継続する。その結果、荷室(5)内の空気の温度が比較的低く保たれ、対象物品(7)である青果物にストレスが与えられ続ける。
【0175】
(ステップST48)
次のステップST48の処理において、品質判定部(64)は、状態指標センサ(15)が計測したクロロフィル蛍光の強度を取得する。品質判定部(64)は、取得したクロロフィル蛍光の強度の計測値を、記憶値Bとしてメモリーユニット(70)に記憶させる。
【0176】
このステップST48の処理において、品質判定部(64)は、ステップST43の処理と同様に、三つの状態指標センサ(15)から取得した計測値の算術平均を算出する。そして、品質判定部(64)は、三つの状態指標センサ(15)の計測値の算術平均を、記憶値Bとしてメモリーユニット(70)に記憶させる。
【0177】
(ステップST49)
次のステップST49の処理において、品質判定部(64)は、メモリーユニット(70)から記憶値Aと記憶値Bとを読み出し、“記憶値B/記憶値A≦100%”という関係の成否を判定する。品質判定部(64)は、ステップST47において待機した時間T3において対象物品(7)のクロロフィル蛍光の強度が増加したかどうかを判定する。“記憶値B/記憶値A≦100%”という関係が成立している場合は、荷室(5)内の空気の温度を引き下げて対象物品(7)にストレスを与えたことに起因するクロロフィル蛍光の増加が止まったと推定できる。
【0178】
“記憶値B/記憶値A≦100%”という関係が成立する場合、品質判定部(64)は、ステップST50の処理を行う。一方、“記憶値B/記憶値A≦100%”という関係が成立しない場合、品質判定部(64)は、ステップST45以降の処理を再び行う。
【0179】
(ステップST50)
ステップST50の処理において、品質判定部(64)は、メモリーユニット(70)から記憶値Bと記憶値Dとを読み出し、“記憶値B/記憶値D≦102%”という関係の成否を判定する。品質判定部(64)は、荷室(5)内の空気の温度を引き下げて対象物品(7)にストレスを与える前に計測したクロロフィル蛍光の強度である記憶値Dと、荷室(5)内の空気の温度を引き下げて対象物品(7)にストレスを与えた後に計測したクロロフィル蛍光の強度である記憶値Bとを比較する。そして、品質判定部(64)は、対象物品(7)にストレスを与えることによってクロロフィル蛍光の強度がある程度以上増えたかどうかを判定する。
【0180】
ステップST50の処理において“記憶値B/記憶値D≦102%”という関係が成立する場合は、ステップST49の“記憶値B/記憶値A≦100%”という関係と、ステップST50の“記憶値B/記憶値D≦102%”という関係の両方が成立していることになる。従って、この場合は、対象物品(7)にストレスを与えることによってクロロフィル蛍光の強度がある程度以上増えており、且つストレスに起因するクロロフィル蛍光の強度の増加が既に止まっていると推定できる。
【0181】
そこで、“記憶値B/記憶値D≦102%”という関係が成立する場合、品質判定部(64)は、ステップST51の処理を行う。一方、“記憶値B/記憶値D≦102%”という関係が成立しない場合、品質判定部(64)は、ステップST45以降の処理を再び行う。
【0182】
(ステップST51)
ステップST51の処理において、品質判定部(64)は、記憶値Bの99%の値を、基準蛍光強度に設定する(基準蛍光強度=0.99×記憶値B)。品質判定部(64)は、記憶値Bの99%の値を、基準蛍光強度としてメモリーユニット(70)の基準値記憶部(72)に記憶させる。記憶値Bの99%の値を基準蛍光強度に設定する理由は、
図5のステップST18について記載した理由と同じである。
【0183】
(ステップST52)
次のステップST52の処理において、品質判定部(64)は、気温設定値を、メモリーユニット(70)の設定値記憶部(71)が記憶するそのユーザー設定値に戻す。ステップST52の処理が終了すると、品質判定部(64)は、基準設定動作を終了する。
【0184】
(ステップST53)
ステップST45の処理において保護条件が成立した場合は、荷室(5)内の空気の温度を極端に低くして対象物品(7)である青果物にストレスを与えても、青果物のクロロフィル蛍光の強度が殆ど増加しないことになる。従って、その場合は、前兆条件(対象物品(7)の品質低下の前兆を示す条件)の成否を判定する際に用いる基準蛍光強度を、設定することができない。そこで、ステップST53の処理において、品質判定部(64)は、基準蛍光強度の値を設定せず、主動作の実行を禁止する。品質判定部(64)は、ステップST53の処理が終了すると、ステップST52の処理を行う。
【0185】
《実施形態3》
実施形態3について説明する。本実施形態の品質判定装置(13)は、実施形態1の品質判定装置(13)において、制御装置(50)の品質判定部(64)が行う動作を変更したものである。ここでは、本実施形態の品質判定装置(13)について、実施形態1の品質判定装置(13)と異なる点を説明する。
【0186】
-制御装置の動作-
制御装置(50)の品質判定部(64)が行う動作を説明する。本実施形態の品質判定部(64)は、主動作を行い、基準設定動作は行わない。
【0187】
〈主動作〉
本実施形態の品質判定部(64)が行う主動作について、
図8のフロー図を参照しながら説明する。この主動作において、品質判定部(64)は、対象物品(7)である青果物のクロロフィル蛍光の強度を監視し、クロロフィル蛍光の強度がある程度増加すると、対象物品(7)の品質低下の前兆が現れたと判定する。
【0188】
(ステップST61)
ステップST61の処理において、品質判定部(64)は、気温設定値、酸素濃度設定値、及び二酸化炭素濃度設定値を、メモリーユニット(70)の設定値記憶部(71)が記憶するそれぞれのユーザー設定値に設定する。
【0189】
品質判定部(64)は、気温設定値を冷凍装置制御部(61)へ送信する。冷凍装置制御部(61)は、品質判定部(64)から送信された気温設定値を用いて、コンテナ用冷凍装置(20)の運転を制御する。また、品質判定部(64)は、酸素濃度設定値および二酸化炭素濃度設定値を、空気組成調節部(62)へ送信する。空気組成調節部(62)は、品質判定部(64)から送信された酸素濃度設定値および二酸化炭素濃度設定値を用いて、空気組成調節装置(40)の運転を制御する。
【0190】
(ステップST62)
次のステップST62の処理において、品質判定部(64)は、状態指標センサ(15)が計測したクロロフィル蛍光の強度を取得する。品質判定部(64)は、取得したクロロフィル蛍光の強度の計測値を、記憶値Cとしてメモリーユニット(70)に記憶させる。このステップST62の処理において、品質判定部(64)は、
図6のステップST32の処理と同様に、三つの状態指標センサ(15)から取得した計測値の算術平均を、記憶値Cとしてメモリーユニット(70)に記憶させる。
【0191】
(ステップST63)
次のステップST63の処理において、品質判定部(64)は、メモリーユニット(70)から記憶値Cと平均蛍光強度とを読み出し、“記憶値C/平均蛍光強度>101%”という関係の成否を判定する。品質判定部(64)は、荷室(5)に対象物品(7)として収容されている青果物のクロロフィル蛍光の強度が増加したかどうかを判定する。平均蛍光強度については後述する。
【0192】
基準値Cが平均蛍光強度の101%よりも大きい場合は、荷室(5)に収容された対象物品(7)がストレスを受けていると推測される。対象物品(7)がストレスを受け続けると、対象物品(7)の品質が低下する次第に低下してゆく。従って、“記憶値C/平均蛍光強度>101%”という条件は、荷室(5)に収容された対象物品(7)の品質低下の前兆を示す前兆条件である。また、このステップST63の処理は、前兆条件の成否を判定する判定動作である。
【0193】
“記憶値C/平均蛍光強度>101%”という関係が成立する場合、品質判定部(64)は、ステップST66の処理を行う。一方、“記憶値C/平均蛍光強度>101%”という関係が成立しない場合、品質判定部(64)は、ステップST64の処理を行う。
【0194】
(ステップST64)
ステップST64の処理において、品質判定部(64)は、平均蛍光強度を更新し、更新後の平均蛍光強度をメモリーユニット(70)に記憶させる。
【0195】
ここで、本実施形態の品質判定部(64)が行う主動作では、ステップST62からステップST65までの処理が複数回行われる。品質判定部(64)は、ステップST62の処理を行う毎に記憶値Cを取得し、これまでに取得した複数の記憶値Cの算術平均を、平均蛍光強度としてメモリーユニット(70)に記憶させる。
【0196】
具体的に、n回目のステップST62の処理において品質判定部(64)が取得した記憶値Cを、「C(n)」とする。N回目のステップST64において、品質判定部(64)は、下記の数式に示す演算を行うことによって平均蛍光強度を算出する。
【0197】
平均蛍光強度=(C(1)+C(2)+C(3)+・・・+C(N-1)+C(N))/N
(ステップST65)
次のステップST65の処理において、品質判定部(64)は、所定の時間T4(本実施形態では、T4=180分間)に亘って待機する。ステップST65の処理が終了すると、品質判定部(64)は、ステップST62以降の処理を再び行う。
【0198】
(ステップST66~ステップST70)
ステップST66からステップST70までの処理において、本実施形態の品質判定部(64)は、
図6のステップST35からステップST39までの処理と同じ処理を行う。具体的に、ステップST66の処理は
図6のステップST35の処理と同じであり、ステップST67の処理は
図6のステップST36の処理と同じであり、ステップST68の処理は
図6のステップST37の処理と同じであり、ステップST69の処理は
図6のステップST38の処理と同じであり、ステップST70の処理は
図6のステップST39の処理と同じである。ステップST70の処理が終了すると、品質判定部(64)は、主動作を終了する。
【0199】
《実施形態4》
実施形態4について説明する。本実施形態の品質判定装置(13)は、品質判定プログラムがインストールされた携帯用端末(例えば、スマートフォン)である。
【0200】
図9に示すように、本実施形態の品質判定装置(13)は、演算処理ユニット(60)と、メモリーユニット(70)と、通信ユニット(75)とを備える。本実施形態の品質判定装置(13)は、実施形態1のコンテナ用冷凍装置(20)、空気組成調節装置(40)、及び状態指標センサ(15)が設けられた輸送用コンテナ(1)を対象として、品質判定方法を実行する。
【0201】
-冷凍装置制御部、空気組成調節部、設定値記憶部-
本実施形態では、コンテナ用冷凍装置(20)に冷凍装置制御部(61)と設定値記憶部(71a)とが設けられる。設定値記憶部(71a)は、実施形態1の設定値記憶部(71)と同様に、吹出温度設定値を記憶する。冷凍装置制御部(61)は、実施形態1と同様に、吹出温度センサ(38)の計測値が吹出温度設定値となるように、コンテナ用冷凍装置(20)の運転を制御する。
【0202】
また、本実施形態では、空気組成調節装置(40)に空気組成調節部(62)と設定値記憶部(71b)とが設けられる。設定値記憶部(71b)は、実施形態1の設定値記憶部(71)と同様に、酸素濃度設定値と二酸化炭素濃度設定値とを記憶する。空気組成調節部(62)は、実施形態1と同様に、酸素濃度センサ(47)の計測値が酸素濃度設定値となり、二酸化炭素濃度センサ(48)の計測値が二酸化炭素濃度設定値となるように、空気組成調節装置(40)の運転を制御する。
【0203】
-演算処理ユニット-
図9に示すように、制御装置(50)は、演算処理ユニット(60)と、メモリーユニット(70)と、通信ユニット(75)とを備える。
【0204】
演算処理ユニット(60)は、携帯用端末に設けられたマイクロプロセッサによって構成される。演算処理ユニット(60)は、メモリーユニット(70)が記憶する品質判定プログラムを実行することによって、状態取得部(101)、情報取得部(102)、設定取得部(103)、学習部(104)、及び推論部(106)として機能する。
【0205】
また、演算処理ユニット(60)は、品質判定装置(13)を構成する携帯用端末のディスプレイ(130)に対して“所定の情報を表示させるための指示”を送信する動作を行う。本実施形態では、この携帯用端末のディスプレイ(130)が、人間に対して情報を告知する告知装置を構成する。
【0206】
〈状態取得部〉
状態取得部(101)は、第1取得処理を実行する。第1取得処理は、荷室(5)に収容された対象物品(7)の状態を示す状態指標を取得する処理である。この第1取得処理は、品質判定方法の第1処理ステップである。
【0207】
具体的に、状態取得部(101)は、状態指標センサ(15)が出力したクロロフィル蛍光強度の計測値を、通信ユニット(75)を介して取得する。この状態取得部(101)は、三つの状態指標センサ(15)の計測値を取得し、取得した三つの計測値の算術平均を算出する。そして、状態取得部(101)は、三つの計測値の算術平均を、状態指標センサ(15)から計測値を取得した時刻と対応づけて出力する。
【0208】
〈情報取得部〉
情報取得部(102)は、第2取得処理を実行する。第2取得処理は、荷室(5)の内部環境に関連する環境情報を取得する処理である。第2取得処理は、品質判定方法の第2処理ステップである。
【0209】
具体的に、情報取得部(102)は、吸込温度センサ(37)が出力した吸込温度の計測値と、吹出温度センサ(38)が出力した吹出温度の計測値と、蒸発器温度センサ(39)が出力した蒸発器温度の計測値と、酸素濃度センサ(47)が出力した酸素濃度の計測値と、二酸化炭素濃度センサ(48)が出力した二酸化炭素濃度の計測値と、エチレン濃度センサ(140)が出力したエチレン濃度の計測値とを、通信ユニット(75)を介して取得する。情報取得部(102)は、これらの各センサ(37,38,39,47,48,140)から取得した計測値を、各センサ(37,38,39,47,48,140)から計測値を取得した時刻と対応づけて出力する。
【0210】
なお、吸込温度センサ(37)が計測する吸込温度と、吹出温度センサ(38)が計測する吹出温度と、蒸発器温度センサ(39)が計測する蒸発器温度とは、コンテナ用冷凍装置(20)の運転状態を示し且つ荷室(5)の温度に相関する物理量である。
【0211】
〈設定取得部〉
設定取得部(103)は、第3取得処理を実行する。第3取得処理は、“荷室(5)の内部環境を示す環境指標”の設定値である設定情報を取得する処理である。第3取得処理は、品質判定方法の第3処理ステップである。
【0212】
具体的に、設定取得部(103)は、コンテナ用冷凍装置(20)の設定値記憶部(71a)が記憶する吹出温度設定値を、通信ユニット(75)を介して取得する。また、設定取得部(103)は、空気組成調節装置(40)の設定値記憶部(71b)が記憶する酸素濃度設定値および二酸化炭素濃度設定値を、通信ユニット(75)を介して取得する。設定取得部(103)は、取得した吹出温度設定値、酸素濃度設定値、及び二酸化炭素濃度設定値を、これらの設定値を取得した時刻と対応づけて出力する。
【0213】
〈学習部〉
学習部(104)は、いわゆる機械学習を行う。この学習部(104)は、学習処理を実行する。学習処理は、状態推定モデル(111~113)を生成する処理である。学習処理は、品質判定方法の学習ステップである。
【0214】
状態推定モデル(111~113)は、状態取得部(101)が取得した状態指標と、情報取得部(102)が取得した環境情報および設定取得部(103)が取得した設定情報との相関関係を学習させたモデルである。状態推定モデル(111~113)の形式としては、NN(Neural Network)モデル、ランダムフォレストモデル、SVM(Support Vector Machine)モデル等が例示される。
【0215】
学習部(104)は、クロロフィル蛍光強度と吹出温度設定値に関する第1状態推定モデル(111)と、クロロフィル蛍光強度と酸素濃度設定値に関する第2状態推定モデル(112)と、クロロフィル蛍光強度と二酸化炭素濃度設定値に関する第3状態推定モデル(113)とを生成する。学習部(104)が行う学習処理の詳細については後述する。
【0216】
〈推論部〉
推論部(106)は、判定処理を実行する。判定処理は、情報取得部(102)が取得した環境情報および設定取得部(103)が取得した設定情報を状態推定モデル(111~113)に入力することによって“状態指標(本実施形態では、クロロフィル蛍光強度)の推定値”を算出し、“対象物品(7)の品質低下の前兆を示す前兆条件”の成否を、算出した“状態指標の推定値”に基づいて判定する処理である。判定処理は、品質判定方法の判定ステップである。判定処理の詳細については後述する。
【0217】
また、推論部(106)は、環境変更処理を実行する。環境変更処理は、判定処理において前兆条件が成立したと判定されたときに、環境調節装置(14)を構成するコンテナ用冷凍装置(20)及び空気組成調節装置(40)に対して、対象物品(7)の品質低下を抑えるための荷室(5)の内部環境の変更を指示する処理である。環境変更処理は、品質判定方法の環境変更ステップである。環境変更処理の詳細については後述する。
【0218】
-メモリーユニット-
実施形態1と同様に、メモリーユニット(70)は、例えば集積回路から成る半導体メモリーである。メモリーユニット(70)は、品質判定プログラムと、品質判定装置(13)の動作に必要なデータとを記憶する。
【0219】
〈学習用情報記憶部〉
図9に示すように、メモリーユニット(70)は、学習用情報記憶部(121)及びモデル記憶部(122)として機能する。
【0220】
学習用情報記憶部(121)は、学習部(104)が行う処理において用いられる学習用情報を記憶する。具体的に、学習用情報記憶部(121)は、“状態取得部(101)が状態指標として取得した状態指標センサ(15)の計測値(本実施形態では、クロロフィル蛍光強度)”と“それを状態取得部(101)が取得した時刻”とを対応づけたデータを、学習用情報として記憶する。
【0221】
また、学習用情報記憶部(121)は、“情報取得部(102)が環境情報として取得した各センサ(37,38,39,47,48,140)の計測値”と“それらを情報取得部(102)が取得した時刻”と対応づけたデータを、学習用情報として記憶する。
【0222】
また、学習用情報記憶部(121)は、“設定取得部(103)が設定情報として取得した吹出温度設定値、酸素濃度設定値、及び二酸化炭素濃度設定値”と“それらを設定取得部(103)が取得した時刻”とを対応づけたデータを、学習用情報として記憶する。
【0223】
〈モデル記憶部〉
モデル記憶部(122)は、学習部(104)が生成した三つの状態推定モデル(111~113)を記憶する。モデル記憶部(122)は、これらの状態推定モデル(111~113)を構成する各種のパラメータを記憶する。
【0224】
-通信ユニット-
通信ユニット(75)は、コンテナ用冷凍装置(20)、空気組成調節装置(40)、及び状態指標センサ(15)と無線通信を行うように構成される。
【0225】
-学習処理-
学習部(104)が行う学習処理について説明する。学習処理は、機械学習における学習フェーズである。本実施形態の学習処理は、吹出温度設定値に関連する第1状態推定モデル(111)と、酸素濃度設定値に関連する第2状態推定モデル(112)と、二酸化炭素濃度設定値に関連する第3状態推定モデル(113)とを生成する処理である。
【0226】
図10,
図12,
図14に示すように、学習部(104)は、パラメータ調節部(105)を備える。パラメータ調節部(105)は、状態推定モデル(111~113)を構成する様々なパラメータを調節する処理を行う。
【0227】
以下で説明する学習処理において、学習部(104)は、最初に、学習用情報記憶部(121)から学習用情報を読み出す。
【0228】
〈吹出温度設定値に関連する第1状態推定モデル〉
学習部(104)が“吹出温度設定値に関連する第1状態推定モデル(111)”を生成する処理について、
図10を参照しながら説明する。
【0229】
学習部(104)は、所定のデータセットを第1状態推定モデル(111)に入力する。学習部(104)が第1状態推定モデル(111)に入力するデータセットは、実質的に同一の時刻に取得された“吸込温度、蒸発器温度、エチレン濃度、酸素濃度、及び二酸化炭素濃度の測定値”と“吹出温度設定値”とを含む。学習部(104)は、このデータセットを第1状態推定モデル(111)に入力することにより、クロロフィル蛍光強度の推定値を算出する。算出されたクロロフィル蛍光強度の推定値は、パラメータ調節部(105)に入力される。
【0230】
学習部(104)は、第1状態推定モデル(111)に入力されるデータセットと実質的に同一の時刻に取得された“クロロフィル蛍光強度の測定値”を、パラメータ調節部(105)に入力する。パラメータ調節部(105)は、“第1状態推定モデル(111)を用いて算出されたクロロフィル蛍光強度の推定値”と、“クロロフィル蛍光強度の測定値”とを比較する。そして、パラメータ調節部(105)は、“クロロフィル蛍光強度の推定値”と“クロロフィル蛍光強度の測定値”の差が小さくなるように、第1状態推定モデル(111)を構成する各種のパラメータを調節する。
【0231】
学習部(104)は、互いに異なる時刻に対応する複数のデータセットと、各データセットに対応する“クロロフィル蛍光強度の測定値”とを用いて、第1状態推定モデル(111)を構成するパラメータを調節する処理を繰り返し行う。その結果、学習済みの第1状態推定モデル(111)が生成される。
【0232】
〈酸素濃度設定値に関連する第2状態推定モデル〉
学習部(104)が“酸素濃度設定値に関連する第2状態推定モデル(112)”を生成する処理について、
図12を参照しながら説明する。
【0233】
学習部(104)は、所定のデータセットを第2状態推定モデル(112)に入力する。学習部(104)が第2状態推定モデル(112)に入力するデータセットは、実質的に同一の時刻に取得された“吸込温度、吹出温度、蒸発器温度、エチレン濃度、及び二酸化炭素濃度の測定値”と“酸素濃度設定値”とを含む。学習部(104)は、このデータセットを第2状態推定モデル(112)に入力することにより、クロロフィル蛍光強度の推定値を算出する。算出されたクロロフィル蛍光強度の推定値は、パラメータ調節部(105)に入力される。
【0234】
学習部(104)は、第2状態推定モデル(112)に入力されるデータセットと実質的に同一の時刻に取得された“クロロフィル蛍光強度の測定値”を、パラメータ調節部(105)に入力する。パラメータ調節部(105)は、“第2状態推定モデル(112)を用いて算出されたクロロフィル蛍光強度の推定値”と、“クロロフィル蛍光強度の測定値”とを比較する。そして、パラメータ調節部(105)は、“クロロフィル蛍光強度の推定値”と“クロロフィル蛍光強度の測定値”の差が小さくなるように、第2状態推定モデル(112)を構成する各種のパラメータを調節する。
【0235】
学習部(104)は、互いに異なる時刻に対応する複数のデータセットと、各データセットに対応する“クロロフィル蛍光強度の測定値”とを用いて、第2状態推定モデル(112)を構成するパラメータを調節する処理を繰り返し行う。その結果、学習済みの第2状態推定モデル(112)が生成される。
【0236】
〈二酸化炭素濃度設定値に関連する第3状態推定モデル〉
学習部(104)が“二酸化炭素濃度設定値に関連する第3状態推定モデル(113)”を生成する処理について、
図14を参照しながら説明する。
【0237】
学習部(104)は、所定のデータセットを第3状態推定モデル(113)に入力する。学習部(104)が第3状態推定モデル(113)に入力するデータセットは、実質的に同一の時刻に取得された“吸込温度、吹出温度、蒸発器温度、エチレン濃度、及び酸素濃度の測定”値と“二酸化炭素濃度設定値”とを含む。学習部(104)は、このデータセットを第3状態推定モデル(113)に入力することにより、クロロフィル蛍光強度の推定値を算出する。算出されたクロロフィル蛍光強度の推定値は、パラメータ調節部(105)に入力される。
【0238】
学習部(104)は、第3状態推定モデル(113)に入力されるデータセットと実質的に同一の時刻に取得された“クロロフィル蛍光強度の測定値”を、パラメータ調節部(105)に入力する。パラメータ調節部(105)は、“第3状態推定モデル(113)を用いて算出されたクロロフィル蛍光強度の推定値”と、“クロロフィル蛍光強度の測定値”とを比較する。そして、パラメータ調節部(105)は、“クロロフィル蛍光強度の推定値”と“クロロフィル蛍光強度の測定値”の差が小さくなるように、第3状態推定モデル(113)を構成する各種のパラメータを調節する。
【0239】
学習部(104)は、互いに異なる時刻に対応する複数のデータセットと、各データセットに対応する“クロロフィル蛍光強度の測定値”とを用いて、第3状態推定モデル(113)を構成するパラメータを調節する処理を繰り返し行う。その結果、学習済みの第3状態推定モデル(113)が生成される。
【0240】
-環境変更処理-
推論部(106)が行う環境変更処理について説明する。環境変更処理は、機械学習における推論フェーズである。本実施形態の環境変更処理は、吹出温度設定値、酸素濃度設定値、及び二酸化炭素濃度設定値の変更予定値を算出する処理である。
図11,
図13,
図15に示すように、推論部(106)は、誤差判定部(107)を備える。
【0241】
推論部(106)は、その時点において情報取得部(102)が出力する環境情報と、その時点において設定取得部(103)が出力する設定情報とを取得する。推論部(106)は、メモリーユニット(70)のモデル記憶部(122)から、学習済みの状態推定モデル(111~113)を読み出す。また、推論部(106)は、“クロロフィル蛍光強度の基準値”を、メモリーユニット(70)から読み出す。この“クロロフィル蛍光強度の基準値”は、対象物品(7)の品質が低下していないと推定される状態において状態指標センサ(15)が出力したクロロフィル蛍光強度の計測値である。
【0242】
〈吹出温度設定値の変更予定値〉
推論部(106)が“吸込温度設定値の変更予定値”を算出する処理について、
図11を参照しながら説明する。
【0243】
推論部(106)は、所定のデータセットを学習済みの第1状態推定モデル(111)に入力する。推論部(106)が第1状態推定モデル(111)に入力するデータセットは、設定取得部(103)が設定情報として出力した吹出温度設定値と、情報取得部(102)が環境情報として取得した吸込温度、蒸発器温度、エチレン濃度、酸素濃度、及び二酸化炭素濃度の測定値とを含む。推論部(106)は、このデータセットを学習済みの第1状態推定モデル(111)に入力することにより、クロロフィル蛍光強度の推定値を算出する。算出されたクロロフィル蛍光強度の推定値は、誤差判定部(107)に入力される。
【0244】
誤差判定部(107)には、“クロロフィル蛍光強度の基準値”が入力される。誤差判定部(107)は、学習済みの第1状態推定モデル(111)を用いて算出された“クロロフィル蛍光強度の推定値”と、クロロフィル蛍光強度の基準値”の差(誤差値)を算出する。
【0245】
推論部(106)は、第1状態推定モデル(111)と誤差判定部(107)が算出した誤差値とを用いて誤差逆伝播法に基づく処理を行い、誤差値がゼロに近づくような吹出温度設定値を算出する。推論部(106)は、算出した吹出温度設定値を“吹出温度設定値の変更予定値”として出力する。“吹出温度設定値の変更予定値”は、対象物品(7)の品質低下が抑えられるように調節された吹出温度設定値である。
【0246】
〈酸素濃度設定値の変更予定値〉
推論部(106)が“酸素濃度設定値の変更予定値”を算出する処理について、
図13を参照しながら説明する。
【0247】
推論部(106)は、所定のデータセットを学習済みの第2状態推定モデル(112)に入力する。推論部(106)が第2状態推定モデル(112)に入力するデータセットは、設定取得部(103)が設定情報として出力した酸素濃度設定値と、情報取得部(102)が環境情報として取得した吸込温度、吹出温度、蒸発器温度、エチレン濃度、及び二酸化炭素濃度の測定値とを含む。推論部(106)は、このデータセットを学習済みの第2状態推定モデル(112)に入力することにより、クロロフィル蛍光強度の推定値を算出する。算出されたクロロフィル蛍光強度の推定値は、誤差判定部(107)に入力される。
【0248】
誤差判定部(107)には、“クロロフィル蛍光強度の基準値”が入力される。誤差判定部(107)は、学習済みの第2状態推定モデル(112)を用いて算出された“クロロフィル蛍光強度の推定値”と、クロロフィル蛍光強度の基準値”の差(誤差値)を算出する。
【0249】
推論部(106)は、第2状態推定モデル(112)と誤差判定部(107)が算出した誤差値とを用いて誤差逆伝播法に基づく処理を行い、誤差値がゼロに近づくような酸素濃度設定値を算出する。推論部(106)は、算出した酸素濃度設定値を“酸素濃度設定値の変更予定値”として出力する。“酸素濃度設定値の変更予定値”は、対象物品(7)の品質低下が抑えられるように調節された酸素濃度設定値である。
【0250】
〈二酸化炭素濃度設定値の変更予定値〉
推論部(106)が“二酸化炭素濃度設定値の変更予定値”を算出する処理について、
図15を参照しながら説明する。
【0251】
推論部(106)は、所定のデータセットを学習済みの第3状態推定モデル(113)に入力する。推論部(106)が第3状態推定モデル(113)に入力するデータセットは、設定取得部(103)が設定情報として出力した二酸化炭素濃度設定値と、情報取得部(102)が環境情報として取得した吸込温度、吹出温度、蒸発器温度、エチレン濃度、及び酸素濃度の測定値とを含む。推論部(106)は、このデータセットを学習済みの第3状態推定モデル(113)に入力することにより、クロロフィル蛍光強度の推定値を算出する。算出されたクロロフィル蛍光強度の推定値は、誤差判定部(107)に入力される。
【0252】
誤差判定部(107)には、“クロロフィル蛍光強度の基準値”が入力される。誤差判定部(107)は、学習済みの第3状態推定モデル(113)を用いて算出された“クロロフィル蛍光強度の推定値”と、クロロフィル蛍光強度の基準値”の差を算出する。
【0253】
推論部(106)は、第3状態推定モデル(113)と誤差判定部(107)が算出した誤差値とを用いて誤差逆伝播法に基づく処理を行い、誤差値がゼロに近づくような二酸化炭素濃度設定値を算出する。推論部(106)は、算出した二酸化炭素濃度設定値を“二酸化炭素濃度設定値の変更予定値”として出力する。“二酸化炭素濃度設定値の変更予定値”は、対象物品(7)の品質低下が抑えられるように調節された二酸化炭素濃度設定値である。
【0254】
-品質判定装置が行う処理-
品質判定装置(13)が行う処理について、
図16のフロー図を参照しながら説明する。
【0255】
コンテナ用冷凍装置(20)及び空気組成調節装置(40)の使用前検査(PTI/Pre-trip Inspection)が完了すると、先ず、コンテナ用冷凍装置(20)が荷室(5)の温度を引き下げるための運転を行い、その後に荷室(5)へ対象物品(7)が搬入される。
【0256】
荷室の温度が安定していることを示す温度安定条件が成立すると、品質判定装置(13)は、ステップST101の処理を行う。温度安定条件は、例えば“吹出温度センサ(38)の計測値が所定時間(例えば、60分間)にわたって吹出温度設定値±1℃の範囲内に保たれる”という条件である。
【0257】
(ステップST101)
ステップST101の処理では、品質判定装置(13)の状態取得部(101)が状態指標センサ(15)の計測値を取得する。状態取得部(101)は、三つの状態指標センサ(15)が計測したクロロフィル蛍光強度の計測値を取得し、取得した三つの計測値の算術平均を算出する。状態取得部(101)は、算出した計測値の平均値を、記憶値Eとしてメモリーユニット(70)に記憶させる。
【0258】
ステップST101の処理が行われる時点において、荷室(5)内の空気の組成は、荷室(5)の外部の空気(即ち、大気)の組成と実質的に同じである。ステップST101の処理は、荷室(5)に対象物品(7)が搬入されてからそれほど時間が経過していない時点で行われる。そのため、ステップST101の処理が実行される時点において、荷室(5)内の対象物品(7)の品質は実質的に低下していないと推定できる。
【0259】
従って、ステップST101の処理において状態取得部(101)がメモリーユニット(70)に記憶させた記憶値Eは、対象物品(7)の品質が低下していないと推定される状態において状態指標センサ(15)が計測したクロロフィル蛍光強度である。つまり、この記憶値Eは、“クロロフィル蛍光強度の基準値”である。
【0260】
ステップST101の処理の終了後に、空気組成調節装置(40)が起動し、荷室(5)内の空気の酸素濃度を引き下げる運転を行う。
【0261】
なお、ステップST101の処理は、空気組成調節装置(40)の起動後に行われてもよい。この場合、ステップST101の処理は、酸素濃度センサ(47)および二酸化炭素濃度センサ(48)の計測値が概ね一定になった状態で行われる。
【0262】
(ステップST102)
ステップST101の処理の終了後に空気組成調節装置(40)が起動し、酸素濃度センサ(47)および二酸化炭素濃度センサ(48)の計測値がある程度安定すると、品質判定装置(13)は、ステップST102の処理を行う。
【0263】
ステップST102の処理において、品質判定装置(13)は、状態取得部(101)が取得した状態指標と、情報取得部(102)が取得した環境情報と、設定取得部(103)が取得した設定値とを、学習用情報としてメモリーユニット(70)の学習用情報記憶部(121)に記憶させる。
【0264】
(ステップST103)
次のステップST103の処理では、品質判定装置(13)の学習部(104)が学習用情報を学習用情報記憶部(121)から読み出す。
【0265】
(ステップST104)
次のステップST104の処理では、品質判定装置(13)の学習部(104)が学習処理を行う。具体的に、学習部(104)は、吸込温度設定値に関連する第1状態推定モデル(111)を作成する処理と、酸素濃度設定値に関連する第2状態推定モデル(112)を作成する処理と、二酸化炭素濃度設定値に関連する第3状態推定モデル(113)を作成する処理とを行う。これらの処理の詳細は、上述した通りである。学習部(104)は、学習済みの状態推定モデル(111~113)を、メモリーユニット(70)のモデル記憶部(122)に記憶させる。
【0266】
(ステップST105)
次のステップST105の処理では、品質判定装置(13)の推論部(106)が、学習済みの状態推定モデル(111~113)と、ステップST101の処理においてメモリーユニット(70)に記録されたクロロフィル蛍光強度の基準値(記憶値E)とを読み出す。
【0267】
(ステップST106)
次のステップST106の処理では、品質判定装置(13)の情報取得部(102)が環境情報を取得し、その設定取得部(103)が設定情報を取得する。
【0268】
(ステップST107)
次のステップST107の処理では、品質判定装置(13)の推論部(106)が状態推定モデル(111~113)を用いてクロロフィル蛍光強度の推定値を算出する。具体的に、推論部(106)は、第1状態推定モデル(111)と第2状態推定モデル(112)と第3状態推定モデル(113)のそれぞれに所定のデータセットを入力し、クロロフィル蛍光強度の推定値を算出する。状態推定モデル(111~113)を用いてクロロフィル蛍光強度の推定値を算出する処理の詳細は、上述した通りである。
【0269】
(ステップST108)
次のステップST108の処理において、品質判定装置(13)の演算処理ユニット(60)は、判定処理を行う。判定処理は、“対象物品(7)の品質低下の前兆を示す前兆条件”の成否を、ステップST107において算出した“クロロフィル蛍光強度の推定値”に基づいて判定する処理である。この判定処理は、品質判定方法の判定ステップである。
【0270】
前兆条件は、ステップST107において算出された“クロロフィル蛍光強度の推定値”が“クロロフィル蛍光強度の基準値(記憶値E)”を上回る、という条件である。ステップST108の処理において、演算処理ユニット(60)は、第1状態推定モデル(111)に基づいて算出した“クロロフィル蛍光強度の推定値”と、第2状態推定モデル(112)に基づいて算出した“クロロフィル蛍光強度の推定値”と、第3状態推定モデル(113)に基づいて算出した“クロロフィル蛍光強度の推定値”とのそれぞれを、“クロロフィル蛍光強度の基準値”と比較する。そして、演算処理ユニット(60)は、三つの“クロロフィル蛍光強度の推定値”の少なくとも一つが“クロロフィル蛍光強度の基準値”を上回る場合に、前兆条件が成立したと判定する。
【0271】
前兆条件が成立したと判定した場合、品質判定装置(13)は、次にステップST109の処理を行う。一方、この前兆条件が成立しないと判定した場合、品質判定装置(13)は、次にステップST113の処理を行う。
【0272】
(ステップST109)
ステップST109の処理では、推論部(106)が、吹出温度設定値、酸素濃度設定値、及び二酸化炭素濃度設定値の変更予定値を算出する処理を行う。これらの設定値の変更予定値を算出する処理の詳細は、上述した通りである。推論部(106)は、算出した設定値の変更予定値を、メモリーユニット(70)に記憶させる。
【0273】
(ステップST110)
次のステップST110の処理において、推論部(106)は、ステップST109において算出された吹出温度設定値、酸素濃度設定値、及び二酸化炭素濃度設定値の変更予定値が正常値であるか否かを判定する。
【0274】
吹出温度設定値の変更予定値が吹出温度に関する正常範囲内の値である場合、推論部(106)は、吹出温度設定値の変更予定値が正常値であると判定する。酸素濃度設定値の変更予定値が酸素濃度に関する正常範囲内の値である場合、推論部(106)は、酸素濃度設定値の変更予定値が正常値であると判定する。二酸化炭素濃度設定値の変更予定値が二酸化炭素濃度に関する正常範囲内の値である場合、推論部(106)は、二酸化炭素濃度設定値の変更予定値が正常値であると判定する。
【0275】
なお、吸込温度、酸素濃度、及び二酸化炭素濃度のそれぞれの正常範囲は、吸込温度、酸素濃度、及び二酸化炭素濃度のそれぞれについて設定可能な数値範囲であってもよいし、吸込温度、酸素濃度、及び二酸化炭素濃度のそれぞれについて作業者が任意に設定した数値範囲であってもよい。
【0276】
吹出温度設定値、酸素濃度設定値、及び二酸化炭素濃度設定値の全ての変更予定値が正常値である場合は、演算処理ユニット(60)の推論部(106)がステップST111の処理を行う。一方、吹出温度設定値、酸素濃度設定値、及び二酸化炭素濃度設定値の少なくとも一つの変更予定値が正常値でない場合は、演算処理ユニット(60)がステップST112の処理を行う。
【0277】
(ステップST111)
ステップST111の処理において、推論部(106)は、ステップST109において算出された“吸込温度設定値の変更予定値”を、コンテナ用冷凍装置(20)に対して送信する。コンテナ用冷凍装置(20)は、受信した“吸込温度設定値の変更予定値”を用いて、荷室(5)内の空気の温度を調節する。
【0278】
また、ステップST111の処理において、推論部(106)は、ステップST109において算出された“酸素濃度設定値の変更予定値”及び“二酸化炭素濃度設定値の変更予定値”を、空気組成調節装置(40)に対して送信する。空気組成調節装置(40)は、受信した“酸素濃度設定値の変更予定値”を用いて荷室(5)内の空気の酸素濃度を調節し、受信した“二酸化炭素濃度設定値の変更予定値” を用いて荷室(5)内の空気の二酸化炭素濃度を調節する。
【0279】
推論部(106)が行うステップST109からステップST111までの一連の処理が、環境変更処理である。
【0280】
(ステップST112)
ステップST112の処理において、演算処理ユニット(60)は、設定値の変更予定値が正常値から外れた異常値であることを作業者に告知するための処理を行う。具体的に、演算処理ユニット(60)は、品質判定装置(13)を構成する携帯用端末のディスプレイ(130)に対して、設定値の変更予定値が異常値であることを示す情報を表示するための指示を送信する。
【0281】
なお、このステップST112の処理において、演算処理ユニット(60)が“設定値の変更予定値が異常値であることを示す情報を表示するための指示”を送信する対象は、例えばコンテナ輸送船の運航管理者が使用するパソコンや管理用サーバであってもよい。
【0282】
(ステップST113)
ステップST113の処理において、吹出温度設定値、酸素濃度設定値、及び二酸化炭素濃度設定値の調節を継続する場合、品質判定装置(13)の演算処理ユニット(60)は、ステップST106に戻り、ステップST106以降の処理を再び行う。一方、吹出温度設定値、酸素濃度設定値、及び二酸化炭素濃度設定値の調節を終了する場合、品質判定装置(13)の演算処理ユニット(60)は、これら設定値を調節するための処理を終了する。
【0283】
-実施形態4の特徴-
本実施形態の品質判定装置(13)では、学習部(104)が状態推定モデル(111~113)を作成し、推論部(106)が状態推定モデル(111~113)を用いて状態指標(本実施形態では、クロロフィル蛍光強度)の推定値を算出する。従って、本実施形態によれば、いわゆる機械学習を利用して状態指標の推定値を算出することができ、算出した状態指標の推定値を用いて前兆条件の成否を正確に判定することができる。
【0284】
また、本実施形態の品質判定装置(13)において、推論部(106)は、機械学習によって生成された状態推定モデル(111~113)を用いて、吸込温度設定値、酸素濃度設定値、及び二酸化炭素濃度設定値の変更予定値を算出する。従って、本実施形態によれば、吸込温度設定値、酸素濃度設定値、及び二酸化炭素濃度設定値のそれぞれを適切な値に設定でき、対象物品(7)の品質低下を抑えることができる。
【0285】
-実施形態4の変形例1-
本実施形態の情報取得部(102)が取得する環境情報について、上述した環境情報が含む計測値は、単なる一例である。情報取得部(102)が取得する環境情報には、例えば、冷媒回路(21)における冷媒の蒸発圧力の計測値、荷室(5)内の空気の相対湿度の計測値、荷室(5)内の空気のエチレン濃度の計測値などが含まれていてもよい。冷媒回路(21)における冷媒の蒸発圧力は、コンテナ用冷凍装置(20)の運転状態を示し且つ荷室(5)の温度に相関する物理量である。また、情報取得部(102)が取得する環境情報については、上述した計測値の一部が省略されていてもよい。
【0286】
なお、コンテナ用冷凍装置(20)と空気組成調節装置(40)のうちコンテナ用冷凍装置(20)だけが輸送用コンテナ(1)に設けられる場合は、酸素濃度および二酸化炭素濃度の計測値が環境情報から省略される。この場合は、環境情報に“荷室(5)の換気量”を含めるのが望ましい。
【0287】
-実施形態4の変形例2-
本実施形態の品質判定プログラムがインストールされるコンピュータは、携帯用端末に限定されない。この明細書において、「コンピュータ」は、「計算の手順(アルゴリズム))を記述したプログラムを記憶し、記憶するプログラムに従って計算を自動的に実行する機械」を指す。従って、本実施形態の品質判定プログラムがインストールされるコンピュータは、例えば、タブレット型、ノート型、又はデスクトップ型のパソコンであってもよいし、コンテナ用冷凍装置(20)のコントローラに組み込まれたマイコンであってもよい。
【0288】
《その他の実施形態》
上記実施形態1~4の品質判定装置(13)については、次のような変形例を適用してもよい。なお、以下の変形例は、品質判定装置(13)の機能を損なわない限り、適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。
【0289】
-第1変形例-
実施形態1~3の品質判定部(64)は、その主動作において、告知動作を実行しないように構成されていてもよいし、診断指示動作を実行しないように構成されていてもよい。また、実施形態1~3の品質判定部(64)は、その主動作において、原因特定動作および環境変更動作を実行しないように構成されていてもよい。
【0290】
-第2変形例-
実施形態1~4の品質判定装置(13)において、状態指標センサ(15)は、対象物品(7)における氷の存否を計測するセンサであってもよい。この場合、状態指標センサ(15)は、対象物品(7)における氷の存否を、状態指標として検知する。本変形例の状態指標センサ(15)としては、水(液体)と氷の吸収スペクトルを計測できる分光計を用いることができる。
【0291】
本変形例の品質判定装置(13)は、“状態指標センサ(15)が氷の存在を検出したという条件”を前兆条件とする。そして、本変形例の品質判定装置(13)は、この前兆条件が成立すると、対象物品(7)の品質低下の前兆が現れた判定する。
【0292】
対象物品(7)に含まれる水分が凍結すると、対象物品の品質が損なわれる。このような凍結に起因する品質の低下は、対象物品(7)が青果物である場合だけでなく、対象物品(7)が例えば液状の医薬品である場合にも生じる。従って、本変形例を適用した品質判定装置(13)によって品質低下の前兆を判定される対象物品(7)は、青果物に限られず、例えば医薬品であってもよい。
【0293】
-第3変形例-
実施形態1~4の品質判定装置(13)において、状態指標センサ(15)は、対象物品(7)である青果物からの細胞の内部成分の漏出量を、状態指標として計測するように構成されていてもよい。青果物の細胞膜がダメージを受け、その結果、青果物の細胞から内部成分が漏出すると、それに伴って青果物の電気抵抗が低下する。従って、本変形例の状態指標センサ(15)としては、対象物品(7)である青果物の電気抵抗を計測し、計測した電気抵抗に基づいて青果物からの細胞の内部成分の漏出量を推定するセンサを用いることができる。本変形例の品質判定装置(13)は、“青果物からの細胞の内部成分の漏出量”が所定の基準値を超えたという条件を、前兆条件とする。
【0294】
-第4変形例-
実施形態1~4の品質判定装置(13)において、状態指標センサ(15)は、対象物品(7)である青果物から発生したストレスに関する植物ホルモンの濃度を、状態指標として計測するように構成されていてもよい。この種の植物ホルモンとしては、エチレン、アブシジン酸、ブラシノステロイド、及びジャスモン酸が例示される。本変形例の状態指標センサ(15)としては、これらの物質の濃度を計測するガスセンサを用いることができる。本変形例の品質判定装置(13)は、状態指標センサ(15)によって計測された物質の濃度が所定の基準値を超えたという条件を、前兆条件とする。
【0295】
-第5変形例-
実施形態1~4の品質判定装置(13)において、状態指標センサ(15)は、対象物品(7)である青果物の嫌気呼吸によって生じる物質の濃度を、状態指標として計測するように構成されていてもよい。この種の物質としては、アセトアルデヒドとエタノールが例示される。本変形例の状態指標センサ(15)としては、これらの物質の濃度を計測するガスセンサを用いることができる。本変形例の品質判定装置(13)は、状態指標センサ(15)によって計測された物質の濃度が所定の基準値を超えたという条件を、前兆条件とする。
【0296】
また、青果物が嫌気呼吸を行う場合、青果物は、酸素を消費せずに二酸化炭素を放出する。従って、本変形例の状態指標センサ(15)としては、対象物品(7)である青果物の呼吸商(二酸化炭素の放出量/酸素の消費量)を算出するセンサを用いることができる。この場合、品質判定装置(13)は、呼吸商が所定の基準値を超えたという条件を、前兆条件とする。
【0297】
-第6変形例-
実施形態1~4の品質判定装置(13)において、状態指標センサ(15)は、対象物品(7)である青果物の内部褐変の程度を、状態指標として計測するように構成されていてもよい。本変形例の状態指標センサ(15)としては、青果物に光を照射することによって青果物を破壊せずに内部褐変の程度を計測するセンサを用いることができる。本変形例の品質判定装置(13)は、状態指標センサ(15)によって計測された内部褐変の程度が所定の基準値を超えたという条件を、前兆条件とする。
【0298】
-第7変形例-
実施形態1~4の品質判定装置(13)において、状態指標センサ(15)は、対象物品(7)である青果物に含まれるフェノール、クロロゲン酸、又はカロチンの濃度を計測するように構成されていてもよい。本変形例の品質判定装置(13)は、状態指標センサ(15)によって計測された物質の濃度が所定の基準値を超えたという条件を、前兆条件とする。
【0299】
-第8変形例-
実施形態1~4の品質判定装置(13)において、状態指標センサ(15)は、対象物品(7)である青果物のpHを計測するように構成されていてもよい。本変形例の品質判定装置(13)は、状態指標センサ(15)によって計測されたpHが所定の基準値を上回ったという条件を、前兆条件とする。
【0300】
-第9変形例-
実施形態1~4及び各変形例の品質判定装置(13)を備えた庫内環境制御システム(10)が取り付けられる輸送用コンテナ(1)は、海上輸送用のものには限定されず、陸上輸送用のものであってもよい。また、この庫内環境制御システム(10)の設置対象は、輸送用コンテナ(1)に限定されない。つまり、この庫内環境制御システム(10)は、例えば、冷蔵倉庫や、業務用の冷蔵庫などに設置されてもよい。
【0301】
以上、実施形態および変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態および変形例は、本開示の対象の機能を損なわない限り、適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0302】
以上説明したように、本開示は、品質判定装置について有用である。
【符号の説明】
【0303】
5 荷室(収容空間)
7 対象物品
13 品質判定装置
14 環境調節装置
15 状態指標センサ(状態検知器)
64 品質判定部(本体処理部)
75 通信ユニット(状態取得部)
80 操作パネル(告知装置)
101 状態取得部
102 情報取得部
103 設定取得部
104 学習部
111 第1状態推定モデル
112 第2状態推定モデル
113 第3状態推定モデル
130 携帯端末のディスプレイ(告知装置)