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特許7525812組成物、組成物を含む洗浄剤、エアゾール組成物、水切り剤、発泡剤または熱伝達媒体、熱伝達媒体を用いるシステム、物品の洗浄方法、および被膜の形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】組成物、組成物を含む洗浄剤、エアゾール組成物、水切り剤、発泡剤または熱伝達媒体、熱伝達媒体を用いるシステム、物品の洗浄方法、および被膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
   C11D 7/30 20060101AFI20240724BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20240724BHJP
   C09K 3/30 20060101ALI20240724BHJP
   C09K 5/04 20060101ALI20240724BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20240724BHJP
   B08B 3/08 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
C11D7/30
C09K3/00 111B
C09K3/30 J ZAB
C09K5/04 C
F25B1/00 396Z
B08B3/08 Z
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2023512948
(86)(22)【出願日】2022-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2022014889
(87)【国際公開番号】W WO2022215570
(87)【国際公開日】2022-10-13
【審査請求日】2024-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2021066672
(32)【優先日】2021-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】長舩 夏奈子
(72)【発明者】
【氏名】井村 英明
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-222647(JP,A)
【文献】特開2010-202640(JP,A)
【文献】特開2013-87066(JP,A)
【文献】特開2014-24821(JP,A)
【文献】特開2018-39799(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D
C09K5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロパン、および水からなり、
Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロパン、および水の全量に対し、Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの割合が55.00質量%から99.98質量%、1-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロパンの割合が0.01質量%から44.99質量%、水の割合が0.01質量%から10.00質量%である、組成物。
【請求項2】
前記全量に対し、Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの割合が60.00質量%から99.98質量%、1-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロパンの割合が0.01質量%から39.98質量%、水の割合が5.00質量%以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記全量に対し、Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの割合が85.00質量%から99.98質量%、1-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロパンの割合が0.01質量%から14.98質量%、水の割合が2.00質量%以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロパン、ジクロロテトラフルオロプロペン、および水からなり
Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロパン、ジクロロテトラフルオロプロペン、および水の全量に対し、Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの割合が55.00000質量%から99.98989質量%、1-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロパンの割合が0.00010質量%から44.98999質量%、ジクロロテトラフルオロプロペンの割合が0.00001質量%から5.00000質量%、水の割合が0.01000質量%から10.00000質量%である、組成物。
【請求項5】
前記全量に対し、Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの割合が60.00000質量%から99.98989質量%、1-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロパンの割合が0.00010質量%から39.98999質量%、ジクロロテトラフルオロプロペンの割合が0.00001質量%から5.00000質量%、水の割合が0.01000質量%から5.00000質量%である、請求項に記載の組成物。
【請求項6】
前記全量に対し、Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの割合が85.00000質量%から99.98989質量%、1-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロパンの割合が0.00010質量%から14.98999質量%、ジクロロテトラフルオロプロペンの割合が0.00001質量%から5.00000質量%、水の割合が0.01000質量%から2.00000質量%である、請求項に記載の組成物。
【請求項7】
ジクロロテトラフルオロプロペンが1,2-ジクロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンである、請求項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物は、共沸様組成物である、請求項1または4に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1または4に記載の組成物を含む洗浄剤。
【請求項10】
請求項1または4に記載の組成物と圧縮ガスを含むエアゾール組成物。
【請求項11】
請求項1または4に記載の組成物、および
潤滑剤、安定剤、難燃剤、界面活性剤、金属不動態化剤、および有機溶剤の少なくとも一つを含む、混合物
【請求項12】
請求項1または4に記載の組成物を含む、水切り剤。
【請求項13】
請求項1または4に記載の組成物を含む、発泡剤。
【請求項14】
請求項1または4に記載の組成物を含む、熱伝達媒体。
【請求項15】
請求項14に記載の熱伝達媒体を用いた有機ランキンサイクルシステム。
【請求項16】
請求項14に記載の熱伝達媒体を用いた高温ヒートポンプサイクルシステム。
【請求項17】
請求項14に記載の熱伝達媒体を用いた冷凍サイクルシステム。
【請求項18】
請求項1または4に記載の組成物を、洗浄対象の物品に接触させることを含む、物品の洗浄方法。
【請求項19】
請求項1または4に記載の組成物と、塗膜形成用成分とを含む溶液を、物品の表面に塗布し、該組成物を揮発させることを含む、物品表面上に塗膜形成用成分の被膜を形成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、組成物に関する。具体的には、Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(以下、HCFO-1233zd(Z)または1233zd(Z)とも記す)、1-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロパン(以下、HCFC-244faまたは244faとも記す)、および水を含む組成物、または1233zd(Z)、244fa、ジクロロテトラフルオロプロペン(以下、HCFO-1214または1214とも記す)、および水を含む組成物に関する。あるいは、本発明の実施形態の一つは、上記組成物を含む洗浄剤、エアゾール組成物、水切り剤、発泡剤または熱伝達媒体に関する。あるいは、本発明の実施形態の一つは、上記熱伝達媒体を用いるシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)やハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)などの含フッ素化合物は種々の溶質を溶解する能力が高いため、発泡剤、熱伝達媒体、溶媒、洗浄剤などに広く使用されている。特に、ハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)は、大気中での寿命が短く、地球温暖化係数が小さいという優れた環境性能を有するため、環境に優しい機能性溶媒の一つとして有用である(特許文献1から6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-039799号公報
【文献】特許5477011号公報
【文献】特表2015-507039号公報
【文献】米国特許出願公開第2006-0142173号明細書
【文献】特開2017-043742号公報
【文献】特開2013-087066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態の一つは、ハイドロクロロフルオロオレフィン系新規組成物を提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、優れた特性を備える、ハイドロクロロフルオロオレフィン系組成物を含む洗浄剤を提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、ハイドロクロロフルオロオレフィン系組成物を含むエアゾール組成物、水切り剤、発泡剤または熱伝達媒体を提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、上記熱伝達媒体を用いるシステムを提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、ハイドロクロロフルオロオレフィン系組成物を含む洗浄剤を用いる物品の洗浄方法を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態の一つは、組成物である。この組成物は、Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロパン、および水を含む。この組成物において、Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロパン、および水の全量に対し、Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの割合は55.00質量%から99.98質量%、1-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロパンの割合は0.01質量%から44.99質量%、水の割合は0.01質量%から10.00質量%である。
【0006】
本発明の実施形態の一つは、組成物である。この組成物は、Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロパン、ジクロロテトラフルオロプロペン、および水を含む。この組成物において、Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロパン、ジクロロテトラフルオロプロペン、および水の全量に対し、Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの割合は55.00000質量%から99.98989質量%、1-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロパンの割合は0.00010質量%から44.98999質量%、ジクロロテトラフルオロプロペンの割合は0.00001質量%から5.00000質量%、水の割合は0.01000質量%から10.00000質量%である。
【0007】
本発明の実施形態の一つは、物品表面上に塗膜形成用成分の被膜を形成する方法である。この方法は、上記組成物のいずれかと塗膜形成用成分とを含む溶液を物品の表面に塗布し、当該組成物を揮発させることを含む。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明の実施形態は、以下に示す実施形態および実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0009】
1.用語の定義
「共沸」とは熱力学的に厳密な意味での共沸を指す。例えば水とエタノールの場合、エタノール(96質量%)と水(4質量%)の組成物は共沸する混合物(azeotrope)であって、これと気液平衡して存在する蒸気も「エタノール(96質量%):水(4質量%)」となり、液組成と完全に一致する。この現象を「共沸」と呼び、共沸する混合物を共沸組成物と呼ぶ。特定の温度、圧力では共沸組成物の組成は、ただ1点となる。共沸組成物は、液組成と同じ組成で揮発するので、使用中に液組成が変化しない非常に好ましい組成である。
【0010】
「共沸様」とは、液組成と平衡状態にある気体の組成は完全に一致しないものの、実質的に等しくなる現象を指す。このような現象を示す組成物も共沸組成物と同様に扱うことができるため、共沸組成物と共沸様現象を示す組成物を総じて「共沸様組成物」と呼ぶことがある。本明細書において「共沸様組成物」とは、n(nは2以上の自然数)以上の成分(または化合物)からなる組成物であり、かつ、この組成物から最も高い沸点を有する成分を除いた組成物(nが2の場合には単一の組成物)と比較して低い沸点を示す組成物を指す。例えば、成分A、成分B、および成分Cの三成分(沸点は、C>B>A)からなる組成物の沸点が、最も沸点の高い成分Cを含まない成分Aと成分Bからなる組成物の沸点よりも低い場合、この三成分からなる組成物は共沸様組成物である。共沸様組成物には、所定の圧力において単一の液相として存在する均一共沸様組成物、および所定の圧力において2以上の液相として存在する異相共沸様組成物が含まれる。n成分からなる共沸様組成物をn成分共沸様組成物と呼ぶ。例えば、三成分からなる共沸様組成物を三成分共沸様組成物、四成分からなる共沸様組成物を四成分共沸様組成物と呼ぶ。なお、組成物の沸点は、1気圧(101.3kPa)における沸点、つまり標準沸点である。
【0011】
2.三成分組成物
本発明の実施形態の一つは、1233zd(Z)、244fa、および水から成る組成物である。この三成分組成物において、1233zd(Z)、244fa、および水の全量に対し、1233zd(Z)の割合は55.00質量%から99.98質量%、244faの割合は0.01質量%から44.99質量%、水の割合は0.01質量%から10.00質量%である。1233zd(Z)と244faの構造式は以下の通りである。
【化1】
【0012】
1233zd(Z)、244fa、および水の1気圧における沸点は、それぞれ39℃、42℃、100℃であり、この三成分組成物中最も高い沸点を示すのは水である。実施例に示すように、上記の割合で1233zd(Z)、244fa、および水からなる三成分組成物の沸点は、同じ組成比の1233zd(Z)と244faからなる二成分組成物の沸点よりも低い。したがって、この三成分組成物は共沸様現象を示し、三成分共沸様組成物ということもできる。
【0013】
この三成分組成物では、1233zd(Z)、244fa、および水の全量に対し、1233zd(Z)の割合は60.00質量%から99.98質量%、244faの割合は0.01質量%から39.98質量%、水の割合は0.01質量%から5.00質量%でもよい。あるいは、この三成分組成物では、1233zd(Z)、244fa、および水の全量に対し、1233zd(Z)の割合は85.00質量%から99.98質量%、244faの割合は0.01質量%から14.98質量%、水の割合は0.01質量%から2.00質量%でもよい。あるいは、この三成分組成物では、1233zd(Z)、244fa、および水の全量に対し、1233zd(Z)の割合は60.02000質量%から99.92000質量%、244faの割合は0.03000質量%から39.38000質量%、水の割合は0.01000質量%から1.01000質量%でもよい。
【0014】
3.四成分組成物
本発明の実施形態の他の一つは、1233zd(Z)、244fa、1214、および水から成る四成分組成物である。この四成分組成物において、1233zd(Z)、244fa、1214、および水の全量に対し、1233zd(Z)の割合は55.00000質量%から99.98989質量%、244faの割合は0.00010質量%から44.98999質量%、1214の割合は0.00001質量%から5.00000質量%、水の割合は0.01000質量%から10.00000質量%である。1214の構造式は以下の通りである。
【化2】
【0015】
上記構造式に示すように、1214は、1,1-ジクロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(以下、1214yaとも記す)、1,2-ジクロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(以下、1214xbとも記す)、および1,3-ジクロロ-1,2,3,3-テトラフルオロプロペン(以下、1214ybとも記す)を指す。1214xbにはシス体とトランス体が含まれる。同様に、1214ybにもシス体とトランス体が含まれる。したがって、本明細書においては、1214は5つの異性体の総称である。上記四成分組成物に含まれる1214は、上記異性体のうち一つのみを含んでもよく、複数を含んでもよく、あるいは全てを含んでもよい。複数の異性体を含む場合、その組成比は任意である。また、シス体とトランス体の異性体を取り得る1214xbが含まれる場合、いずれか一方の異性体のみが含まれてもよく、両方の異性体が任意の組成比で含まれていてもよい。同様に、シス体とトランス体の異性体を取り得る1214ybが含まれる場合においても、いずれか一方の異性体のみが含まれてもよく、両方の異性体が任意の組成比で含まれていてもよい。
【0016】
1233zd(Z)、244fa、1214、および水の1気圧における沸点は、それぞれ39℃、42℃、43から48℃、100℃であり、この四成分組成物中最も高い沸点を示すのは水である。実施例に示すように、上記の割合で1233zd(Z)、244fa、1214、および水からなる四成分組成物の沸点は、同一の組成比の1233zd(Z)、244fa、および1214からなる組成物の沸点よりも低い。したがって、この四成分組成物は共沸様現象を示し、四成分共沸様組成物ということもできる。
【0017】
この四成分組成物では、1233zd(Z)、244fa、1214、および水の全量に対し、1233zd(Z)の割合は60.00000質量%から99.98989質量%、244faの割合は0.00010質量%から39.98999質量%、1214の割合は0.00001質量%から5.00000質量%、水の割合は0.01000質量%から5.00000質量%でもよい。あるいは、この四成分組成物では、1233zd(Z)、244fa、1214、および水の全量に対し、1233zd(Z)の割合は85.00000質量%から99.98989質量%、244faの割合は0.00010質量%から14.98999質量%、1214の割合は0.00001質量%から5.00000質量%、水の割合は0.01000質量%から2.00000質量%でもよい。あるいは、この四成分組成物では、1233zd(Z)、244fa、1214、および水の全量に対し、1233zd(Z)の割合は86.78000質量%から99.97699質量%、244faの割合は0.00260質量%から9.34000質量%、1214の割合は0.00001質量%から4.82000質量%、水の割合は0.01690質量%から1.14640質量%でもよい。なお、1214は、その安定性の観点から、10質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは5質量%以下である。
【0018】
常温で液体の化合物を複数種含む組成物の共沸性を予想することは必ずしも容易ではなく、特に沸点が大きく異なる化合物が含まれる場合、組成物が共沸様組成物を形成するか否かを予測することや、共沸様組成物を形成するための組成比を予測することは極めて困難である。この傾向は、本組成物に含まれるハイドロクロロフルオロオレフィンのような親水性置換基を持たない化合物と水などの極性溶媒が含まれる組成物において特に顕著であり、実際に組成物を調整してその挙動を検討しなければ判断することができない。また、この予測困難性は、組成物に含まれる化合物の種類が増大するにしたがって当然増大し、相当量以上の試行錯誤によって初めて共沸性とそれを実現するための組成比を見出すことができる。したがって、本発明は、極性や沸点が大きく異なる化合物が三種以上含まれる本多成分組成物が共沸様の現象を示すことを見出した点、および共沸様の現象を示すための組成比を実験結果に基づいて特定した点で重要な技術的意義を有する。
【0019】
これらの三成分組成物と四成分組成物(以下、これらの組成物をそれぞれ本多成分組成物と呼ぶことがある)を構成する1233zd(Z)、244fa、1214、および水はオゾン層破壊係数や地球温暖化係数(GWP)が極めて小さいため、従来のクロロフルオロカーボン(CFC)またはハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)のみの組成物と比較し、地球環境に悪影響を及ぼしにくい組成物である。
【0020】
4.添加剤
本発明の実施形態の一つは、本多成分組成物を含む組成物である。該組成物は本多成分組成物とともに一種以上の他の成分を含んでもよい。後述するように、本多成分組成物は様々な用途に利用することができ、用途に応じて他の成分を添加剤として加えてもよい。添加剤としては、潤滑剤、安定剤、難燃剤、界面活性剤、金属不動態化剤、有機溶剤(1233zd(Z)、244fa、および1214を除く)、噴射ガスなどが挙げられるが、これらに限定されない。添加剤の添加量は用途に応じて適宜調整される。以下、添加剤を含む実施形態を説明する。
【0021】
4-1.潤滑剤
本発明の実施形態の一つは、本多成分組成物と潤滑剤を含む組成物である。潤滑剤としては、鉱物油(パラフィン系油またはナフテン系油)、合成油のアルキルベンゼン、ポリ(α-オレフィン)、エステル、ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテルなどを用いることができるが、これらに限定されない。潤滑剤と本多成分組成物の混合物は、高温ヒートポンプの冷媒やランキンサイクルの作動媒体などの熱伝達組成物として使用することもできる。潤滑剤の添加量は、例えば、本多成分組成物に対して、0.01質量%から20質量%、0.01質量%から10質量%、または0.01質量%から5質量%の範囲から選択してもよいが、これに限定されない。
【0022】
アルキルベンゼンとしては、n-オクチルベンゼン、n-ノニルベンゼン、n-デシルベンゼン、n-ウンデシルベンゼン、n-ドデシルベンゼン、n-トリデシルベンゼン、2-メチル-1-フェニルヘプタン、2-メチル-1-フェニルオクタン、2-メチル-1-フェニルノナン、2-メチル-1-フェニルデカン、2-メチル-1-フェニルウンデカン、2-メチル-1-フェニルドデカン、2-メチル-1-フェニルトリデカンなどが挙げられる。
【0023】
エステルとしては、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、およびこれらの混合物などの芳香族エステル、二塩基酸エステル、ポリオールエステル、コンプレックスエステル、炭酸エステルなどが挙げられる。
【0024】
ポリオールエステルの原料となるアルコールとしては、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ(トリメチロールプロパン)、トリ(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ(ペンタエリスリトール)、トリ(ペンタエリスリトール)などの多価アルコールなどが挙げられる。ポリオールエステルの原料となるカルボン酸としては、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、および3,5,5-トリメチルヘキサン酸などが挙げられる。
【0025】
ポリアルキレングリコールとしては、炭素数1から18のアルコール(例えば、メタノール、エタノール、直鎖状または分枝状のプロパノール、直鎖状または分枝状のブタノール、直鎖状または分枝状のペンタノール、直鎖状または分枝状のヘキサノールなどの脂肪族アルコール)によってアルキレンオキシド(例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキドなど)を付加重合した化合物などが挙げられる。
【0026】
ポリビニルエーテルとしては、ポリメチルビニルエーテル、ポリエチルビニルエーテル、ポリn-プロピルビニルエーテル、ポリイソプロピルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0027】
4-2.安定剤
本発明の実施形態の一つは、本多成分組成物と安定剤を含む組成物である。安定剤が添加されることで、本多成分組成物の熱安定性、耐酸化性などを改善することができる。このような安定剤としては、ニトロ化合物、エポキシ化合物、フェノール類、イミダゾール類、アミン類、炭化水素などが挙げられるが、これらに限定されない。また、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。安定剤の添加量は、例えば、本多成分組成物に対して、0.01質量%から20質量%、0.01質量%から10質量%、または0.01質量%から5質量%の範囲から選択してもよいが、これに限定されない。
【0028】
ニトロ化合物としては、例えば、脂肪族および/または芳香族誘導体が挙げられる。脂肪族系ニトロ化合物としては、例えば、ニトロメタン、ニトロエタン、1-ニトロプロパン、2-ニトロプロパンなどが挙げられる。芳香族ニトロ化合物としては、例えば、ニトロベンゼン、o-、m-、またはp-ジニトロベンゼン、トリニトロベンゼン、o-、m-、またはp-ニトロトルエン、o-、m-、またはp-エチルニトロベンゼン、2,3-、2,4-、2,5-、2,6-、3,4-、または3,5-ジメチルニトロベンゼン、o-、m-、またはp-ニトロアセトフェノン、o-、m-、またはp-ニトロフェノール、o-、m-、またはp-ニトロアニソールなどが挙げられる。
【0029】
エポキシ化合物としては、例えばエチレンオキサイド、1,2-ブチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、スチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、グリシドール、エピクロルヒドリン、グリシジルメタアクリレート、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテルなどのモノエポキシ系化合物、ジエポキシブタン、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントルグリシジルエーテルなどのポリエポキシ系化合物などが挙げられる。
【0030】
フェノール類としては、例えば、フェノールに加え、フェノール性水酸基とともにアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、ハロゲンなどの置換基を含む芳香族化合物が挙げられる。このような芳香族化合物としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、チモール、p-t-ブチルフェノール、o-メトキシフェノール、m-メトキシフェノール、p-メトキシフェノール、オイゲノール、イソオイゲノール、ブチルヒドロキシアニソール、フェノール、キシレノールなどの1価のフェノール、あるいはt-ブチルカテコール、2,5-ジ-t-アミノハイドロキノン、2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノンなどの2価のフェノールなどが挙げられる。
【0031】
イミダゾール類としては、炭素数1から18の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、シクロアルキル基、またはアリール基をN位の置換基として有する1-メチルイミダゾール、1-n-ブチルイミダゾール、1-フェニルイミダゾール、1-ベンジルイミダゾール、1-(β-オキシエチル)イミダゾール、1-メチル-2-プロピルイミダゾール、1-メチル-2-イソブチルイミダゾール、1-n-ブチル-2-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1,4-ジメチルイミダゾール、1,5-ジメチルイミダゾール、1,2,5-トリメチルイミダゾール、1,4,5-トリメチルイミダゾール、1-エチル-2-メチルイミダゾールなどが挙げられる。
【0032】
アミン類としては、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソブチルアミン、ジ-n-プロピルアミン、ジアリルアミン、トリエチルアミン、N-メチルアニリン、ピリジン、モルホリン、N-メチルモルホリン、トリアリルアミン、アリルアミン、α―メチルベンジルアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ジペンチルアミン、トリペンチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、アニリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、ベンジルアミン、ジベンジルアミン、ジフェニルアミン、ジエチルヒドロキシルアミンなどが挙げられる。
【0033】
炭化水素としては、α-メチルスチレン、p-イソプロペニルトルエン、イソプレン類、プロパジエン類、テルペン類などが挙げられる。
【0034】
4-3.難燃剤
本発明の実施形態の一つは、本多成分組成物と難燃剤を含む組成物である。難燃剤が添加されることで、本多成分組成物の燃焼性を低減することができ、これにより安全性が向上する。このような難燃剤としては、リン酸エステル、ハロゲン化芳香族化合物、フッ素化ヨードカーボン、フッ素化ブロモカーボンなどが挙げられるが、これらに限定されない。難燃剤の添加量は、例えば、本多成分組成物に対して、0.01質量%から20質量%、0.01質量%から10質量%、または0.01質量%から5質量%の範囲から選択してもよいが、これに限定されない。
【0035】
4-4.界面活性剤
本発明の実施形態の一つは、本多成分組成物と界面活性剤を含む組成物である。界面活性剤が添加されることにより、洗浄力、界面作用などをより一層改善することができる。このような界面活性剤としては、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエートなどのソルビタン脂肪族エステル;ポリオキシエチレンのソルビットテトラオレエートなどのポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンモノラウレートなどのポリエチレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンオレイン酸アミドなどのポリオキシエチレンアルキルアミン脂肪酸アミドなどのノニオン系界面活性剤が挙げられる。相乗的に洗浄力と界面作用を改善する目的で、本発明の組成物は、これらのノニオン系界面活性剤とともにカチオン系界面活性剤やアニオン系界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤の添加量は、例えば、本多成分組成物に対して、0.01質量%から20質量%、0.01質量%から10質量%、または0.01質量%から5質量%の範囲から選択してもよいが、これに限定されない。
【0036】
4-5.金属不動態化剤
本発明の実施形態の一つは、本多成分組成物と金属不動態化剤を含む組成物である。金属不動態化剤は、腐食防止剤および/または金属不活性化剤を含んでもよい。金属不動態化剤は、本多成分組成物が接触し得る物品の表面上に含まれ得る金属の腐食を防止するために有用であり得る。様々な金属不動態化剤は、当該技術分野において周知であり、任意のものが本多成分組成物の添加剤として使用され得る。金属不動態化剤の添加量は、例えば、本多成分組成物に対して、0.01質量%から20質量%、0.01質量%から10質量%、または0.01質量%から5質量%の範囲から選択してもよいが、これに限定されない。
【0037】
4-6.有機溶剤
本発明の実施形態の一つは、本多成分組成物と有機溶剤を含む組成物である。有機溶剤が添加されることで、本多成分組成物の洗浄力などをより一層改善することができる。このような有機溶剤としては、以下のものが例示できるが、これらに限定されない。
メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、ペンタフルオロプロパノールなどのアルコール類;
ペンタン、ヘキサン、イソペンタン、n-ヘプタン、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの炭化水素類;
石油系パラフィン類;
トルエン、キシレンなどのアルキルベンゼン類;
アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸エチルなどのエステル類;
ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのグリコールエーテル類;
軽質ナフサ、重質ナフサ、石油ナフサ、コールタールナフサなどのナフサ類;
塩化メチレン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、E-1,2-ジクロロエチレンなどの塩素系溶剤;
ジクロロフルオロエタン、ジクロロジフルオロエタン、ジクロロトリフルオロエタン、クロロフルオロプロパン、クロロジフルオロプロパン、クロロトリフルオロプロパン、クロロテトラフルオロプロパン(244faを除く)、ジクロロフルオロプロパン、ジクロロジフルオロプロパン、ジクロロトリフルオロプロパン、ジクロロテトラフルオロプロパン、ジクロロペンタフルオロプロパン、トリクロロフルオロプロパン、トリクロロジフルオロプロパン、トリクロロトリフルオロプロパンなどのハイドロクロロフルオロカーボン類;
フルオロプロパン、ジフルオロプロパン、トリフルオロプロパン、テトラフルオロプロパン、ペンタフルオロプロパン、ヘキサフルオロプロパン、フルオロブタン、ジフルオロブタン、トリフルオロブタン、テトラフルオロブタン、ペンタフルオロブタン、ヘキサフルオロブタン、ヘプタフルオロブタン、オクタフルオロブタン、ノナフルオロブタン、フルオロペンタン、ジフルオロペンタン、トリフルオロペンタン、テトラフルオロペンタン、ペンタフルオロペンタン、ヘキサフルオロペンタン、ヘプタフルオロペンタン、オクタフルオロペンタン、ノナフルオロペンタン、デカフルオロペンタン、ウンデカフルオロペンタンなどのハイドロフルオロカーボン類;
Z-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(HCFO-1233yd(Z))、E-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(HCFO-1233yd(E))、Z-1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1223xd(Z))、E-1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1223xd(E))、1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1223za)、1,1,2-トリクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1213xa)、Z-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(HFO-1336mzz(Z))、E-1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテン(HCFO-1437dycc(E))、Z-1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテン(HCFO-1437dycc(Z))、Z-1,1,1,2,4,4,5,5,5-ノナフルオロ-2-ペンテン(HFO-1429myz(Z))、E-1,1,1,2,4,4,5,5,5-ノナフルオロ-2-ペンテン(HFO-1429myz(E))、Z-1,1,1,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロ-2-ペンテン(HFO-1429mzy(Z))、E-1,1,1,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロ-2-ペンテン(HFO-1429mzy(E))、Z-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HCFO-1224yd(Z))、E-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HCFO-1224yd(E))、Z-2-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HCFO-1224xe(Z))、E-2-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HCFO-1224xe(E))、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)、メトキシパーフルオロヘプテンなどのハイドロハロオレフィン類;
ヘプタフルオロプロピルメチルエーテル、ノナフルオロブチルメチルエーテル、ノナフルオロブチルエチルエーテル、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-4-(トリフルオロメチル)-ペンタン、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル(HFE-347pc-f)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシプロパン(HFE-356mmz)などのハイドロフルオロエーテル類;
3,3,4,4-テトラフルオロ-2-ブタノン(HFK-354pc)、1,1,1,2,2-ペンタフルオロ-3-ペンタノン(HFK-465mc)、3,3,4,4,5,5,5-ヘプタフルオロ-2-ペンタノン(HFK-447mcc)、3,4,4,4-テトラフルオロ-3-(トリフルオロメチル)-2-ブタノン(HFK-447mmy)、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロ-2-ヘキサノン(HFK-549mccc)、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,7-ウンデカフルオロ-2-ヘプタノン(HFK-64-11mcccc)、などのハイドロフルオロケトン類;
1,1,1,2,2,4,5,5,5-ノナフルオロ-4-(トリフルオロメチル)-3-ペンタノンなどのパーフルオロケトン類。
また、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。有機溶剤の添加量は、例えば、本多成分組成物に対して、0.01質量%から50質量%、0.01質量%から30質量%、または0.01質量%から10質量%の範囲から選択してもよいが、これに限定されない。
【0038】
4-7.噴射ガス
本発明の実施形態の一つは、本多成分組成物と噴射ガスを含む組成物である。噴射ガスが含まれることにより、本多成分組成物を含むエアゾール組成物を与えることができる。噴射ガスとしては、液化ガスや圧縮ガスを使用することができる。例えば、LPG(液化石油ガス)、DME(ジメチルエーテル)、炭酸ガス、フッ素系ガス、窒素ガス、圧縮空気などのガスが挙げられるが、これらに限定されない。これらのガスは、単独であってもよいし、二種以上の混合物であってもよい。ここで、フッ素系ガスとは、1気圧における沸点が20℃未満であり、1気圧20℃で気体であるフッ素含有炭化水素化合物をいう。フッ素系ガスとしては、例えば、ジフルオロメタン(HFC-32)、1,1-ジフルオロエタン(HFC-152a)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)、1,1,1,2,2-ペンタフルオロエタン(HFC-125)、1,1,1-トリフルオロエタン(HFC-143a),1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(HFC-227ea)などのハイドロフルオロカーボンや、E-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd(E))、Z-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze(Z))、E-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze(E))、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)などのハイドロフルオロオレフィンが挙げられるが、これらに限定されない。エアゾール組成物は、本多成分組成物と噴射ガスを含む組成物を耐圧缶に充填して提供することができる。噴射ガスを含む場合、例えば、本多成分組成物と噴射剤の体積比は0.01:99.99~99.99:0.01、または0.1:99.9~99.9:0.1であってもよいが、これに限定されない。
【0039】
5.用途
以下、本多成分組成物の用途を例示する。本多成分組成物を含む組成物についても、本多成分組成物と同様に、以下に例示する各用途に適用可能である。
【0040】
5-1.洗浄用途
本多成分組成物は優れた洗浄力を有するため、洗浄剤として用いることができる。洗浄剤として用いる分野は特に限定されないが、これまでにCFC-113(クロロトリフルオロメタン)、HCFC-141b(1,1-ジクロロ-1-フルオロエタン)、HCFC-225(3,3-ジクロロ-1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン(HCFC-225ca)、および1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン(HCFC-225cb)の混合物などが洗浄剤として使用された分野が好適である。
【0041】
具体的には、本多成分組成物は、精密機械部品、電子材料(プリント基板、液晶表示器、磁気記録部品、半導体材料など)、樹脂加工部品、光学レンズ、衣料品などの被洗浄物品から異物、油脂、グリース、ワックス、フラックス、インキなどを除去するのに好適である。本多成分組成物は適度な流動性と溶解力を有するので、異物などの汚染物質を洗い流したり、または溶解したりして除去できる。これらの被洗浄物品を構成する基材の材質としては、鉄、ステンレス、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、銀、銅、銅合金、スズ、硫酸アルマイト、チタンなどの金属、銅、亜鉛、ニッケル、クロム、金などで表面をメッキした金属、ポリプロピレン、エポキシ樹脂などのプラスチック材料、高分子材料、ガラス材料などが挙げられる。
【0042】
汚染物質の種類も限定されないが、CFC-113、HCFC-141b、HCFC-225で除去可能な汚れは、本多成分組成物の組成比を最適化することで除去することが可能であり、このような汚染物質としてはパーティクルなどの固体汚染物質、あるいは、油、グリース、ワックス、フラックス、インキなどの液体汚染物質が挙げられる。また、本多成分組成物には高極性物質である水が含まれるため、汚染物質が水溶性油や無機塩などの高極性物質を含んでいても、これらを容易に除去することができる。
【0043】
あるいは、自動車、二輪自動車、自転車、建機、農機、航空機、鉄道車両、船舶などの各種車両、乗物、輸送用機関の洗浄(特に、これらの機関のブレーキクリーニング)にも本多成分組成物を好適に用いることができる。車両や乗物、輸送用機関の洗浄においては、汚染物質を湿潤させて洗い流す工程が必要になることがあるが、本多成分組成物は汚染物質に対する高い親和性を有しているため、汚染物質を湿潤させて洗い流すことができる。
【0044】
洗浄の手法は特に限定されないが、本多成分組成物と被洗浄物品を接触させればよい。例えば、被洗浄物品を本多成分組成物に浸漬する。あるいは、被洗浄物品に対して本多成分組成物をスプレーしてもよい。あるいは、本多成分組成物が染み込んだウェスで被洗浄物品上の汚染物質を拭き取ってもよい。浸漬する場合には、超音波を印加してもよい。スプレーする場合には、例えば、本多成分組成物と噴射ガスを含むエアゾールを用いればよい。
【0045】
上述したように、本多成分組成物は共沸様の現象を示すことができる。このため、本多成分組成物を開放系で使用しても、組成の変動はほとんど起こらず、厳密な組成管理をしなくても安定した洗浄力を発揮することができる。また、蒸留などの精製を行うことで、洗浄後の洗浄廃液から本多成分組成物を回収し、洗浄剤として再利用することができる。一般的に、洗浄廃液から蒸留回収して得られる洗浄剤は、元の洗浄液の組成と異なることが多く、これは洗浄力低下の一因となり得る。一方、本多成分組成物は共沸様の現象を示すので、蒸留しても組成の変動がほとんど起こらず、再利用品においても安定した洗浄力を発揮することができる。
【0046】
また、本多成分組成物に含まれる1233zd(Z)や244fa、1214などのハイドロクロロフルオロオレフィンやハイドロクロロフルオロカーボンは、有機化合物を溶解する能力が高く、被洗浄物品表面に付着した親油性汚染物質を除去するための洗浄剤として有用である。しかしながら、汚染物質の極性が高い場合、例えば汚染物質が水溶性油や無機塩など高極性物質である場合、これらはハイドロクロロフルオロオレフィンやハイドロクロロフルオロカーボンに難溶の物質であるため、ハイドロクロロフルオロオレフィンおよび/またはハイドロクロロフルオロカーボンのみで構成される洗浄剤では汚染物質を完全に除去することは難しい。
【0047】
一方、本多成分組成物にはハイドロクロロフルオロオレフィンとハイドロクロロフルオロカーボンに加えて水が含まれるため、被洗浄物品表面に付着した高極性物質の除去にも有効である。また、洗浄後に被洗浄物品の表面上に残存する本多成分組成物は共沸性を示すため、水はハイドロクロロフルオロオレフィンとハイドロクロロフルオロカーボンと共に蒸発する。したがって、水が物品表面に残留することは無く、水を含む組成物を洗浄剤として用いる際の課題である水滴点(水シミ、ウォーターマーク)の発生も同時に防止することができる。
【0048】
5-2.水切り用途
本多成分組成物は水切り剤として用いることができる。自動車、機械、精密機器、電気、電子、光学などの各種工業分野において扱われる物品は、その製造工程において、純水などの水で洗浄されたり、水系洗浄剤、水系洗浄剤に水溶性溶剤を配合した準水系洗浄剤、アルコール系洗浄剤、グリコールエーテル系洗浄剤、炭化水素に界面活性剤を配合した炭化水素系洗浄剤などにより洗浄されることがある。水系洗浄剤や準水系洗浄剤を使用した場合、洗浄後の物品には水が付着した状態となり、洗浄工程後に水切り剤で水を排除する水切り工程が一般的に行われている。本多成分組成物は、このような水切り工程で用いる水切り剤としても好適に用いることができる。
【0049】
水切り方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。例えば、被水切り物品を本多成分組成物に接触させて乾燥する方法が挙げられる。
【0050】
本多成分組成物は洗浄作用とともに水切り作用を示すことから、洗浄工程と水切り工程とを同時に行うことができる。すなわち、洗浄工程を施すことで被洗浄物に付着した汚染物質を除去できるとともに、被洗浄物に付着し得る水分を除去できる。したがって、洗浄工程と水切り工程とで使用する洗浄剤と水切り剤とを区別して用いる必要はないため、生産性が向上する。なお、このことは、洗浄工程と水切り工程とで使用する洗浄剤と水切り剤とを区別して用いることを妨げるものではなく、本多成分組成物をそれぞれの工程において、洗浄剤および/または水切り剤として用いてもよい。上述したように、本多成分組成物は水を含むため、水溶性油などの水を含む汚染物質が付着した被洗浄物品の洗浄に好適であり、被洗浄物品に付着した汚染物質とともに水を除去することができる。また、水滴点の発生も防止することができる。
【0051】
5-3.溶剤(分散剤)用途
本多成分組成物は共沸様現象を示すため、単一成分の組成物と同様に溶剤や分散剤として用いることができる。例えば、本多成分組成物はシリコーン、ポリテトラフルオロエチレンパウダー(PTFEパウダー)、フッ素系グリースなどの溶剤や分散剤として優れた特性を有し、種々のシリコーンを任意で溶解あるいは分散させることができる不燃性、高揮発性の溶媒として利用することができる。本多成分組成物は、広い共沸様組成範囲を持つので、各種のシリコーン化合物、PTFEパウダー、フッ素系グリースに応じた最適組成を選択することができる。
【0052】
本多成分組成物を、シリコーン、PTFEパウダー、フッ素系グリースなどの塗膜形成用成分の溶剤、あるいは分散剤として用いることにより、物品の表面コーティングを行うことができる。具体的には、本多成分組成物と塗膜形成用成分を含む溶液を物品の表面に塗布し、本多成分組成物を揮発させることによって物品表面に塗膜形成用成分の被膜を形成することができる。この方法が適用できる物品表面の材質としては、金属、樹脂、セラミックス、ガラスなどが挙げられ、特に、注射針の針管部、ディスペンサー(液体定量噴出装置)のスプリングやバネ部分などのコーティングにこの方法を好適に適用することができる。例えば、注射針の針管部にシリコーンの被膜を形成する場合、注射針の針管部をシリコーン塗布溶液に浸漬させた後、室温あるいは加温下で放置して本多成分組成物を蒸発させればよい。
【0053】
表面コーティングでは各種シリコーンを用いることができ、例えばメチル基、フェニル基、および/または水素原子をケイ素上の置換基として有するジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチル水素シリコーンオイルなどのストレートシリコーンオイル、また、ストレートシリコーンオイルから誘導された構成部分を持つ反応性シリコーンオイル、非反応性シリコーンオイルなどの変性シリコーンオイルなどを使用してもよい。また、反応性シリコーンは、例えば、アミノ変性型、ジアミノ変性型、エポキシ変性型、カルボキシ変性型、カルビノール変性型、メタクリル変性型、メルカプト変性型、フェノール変性型、ヒドロキシ変性型、異種官能基変性型のシリコーンなどであってもよいが、これらに限定されない。非反応性シリコーンは、例えば、ポリエーテル変性型、メチルスチリル変性型、アルキル変性型、脂肪酸エステル変性型、親水性特殊変性型、脂肪酸含有型、フッ素変性型などであってもよいが、これらに限定されない。
【0054】
他のシリコーンとしては、アミノアルキルシロキサンとジメチルシロキサンとの共重合体を主成分とするもの、アミノ基含有シランとエポキシ基含有シランの反応生成物およびシラノール基を含有するポリジオルガノシロキサンとの反応生成物を主成分とするもの、側鎖または末端にアミノ基を含有するシリコーンとポリジオルガノシロキサンとからなるシリコーン混合物、並びにアミノ基含有アルコキシシラン、エポキシ基含有アルコキシシラン、および両末端にシラノール基を有するシリコーンを反応させて得られたシリコーンと非反応性シリコーンとの混合物などが挙げられる。
【0055】
本多成分組成物と塗膜形成用成分を含む溶液における塗膜形成用成分の割合は、0.1質量%以上20質量%以下としてもよく、0.5質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0056】
5-4.発泡剤用途
本多成分組成物は、硬質ポリウレタンフォームまたはポリイソシアヌレートフォームの製造に用いる発泡剤として利用することができる。すなわち、発泡剤としての本多成分組成物、1種以上のポリオール、触媒、整泡剤、難燃剤などを混合した組成物(プレミックス)を用い、これとイソシアネートと反応させることによって、硬質ポリウレタンフォームまたはポリイソシアヌレートフォームを製造することができる。プレミックスには、紫外線防止剤、スコーチ防止剤、プレミックス貯蔵安定剤などがさらに含まれてもよく、これにより、硬質ポリウレタンフォームまたはポリイソシアヌレートフォームの諸物性を向上させることができる。
【0057】
イソシアネートには、芳香族イソシアネート、環状脂肪族イソシアネート、鎖状脂肪族イソシアネートが含まれ、一般的には2官能性イソシアネートが使用される。具体的には、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ナフタリンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンイソシアネートなどのポリイソシアネート、およびこれらのプレポリマー型変性体、ヌレート変性体、若しくは尿素変性体などが挙げられる。これらのイソシアネートは、単独または混合物として用いられる。
【0058】
ポリオールとしては、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、多価アルコール、水酸基含有ジエチレン系ポリマーなどが挙げられるが、ポリエーテル系ポリオールが一般的に使用される。また、ポリエステル系ポリオールとポリエーテル系ポリオールを主成分としてもよく、他のポリオールを使用してもよい。
【0059】
ポリエステル系ポリオールとしては、無水フタル酸、廃ポリエステル、ひまし油に由来する化合物に加え、縮合系ポリエステルポリオール、ラクトン系ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどが挙げられる。本多成分組成物との相溶性ならびに、発泡性、フォーム物性などの観点から、ポリエステルポリオールの水酸基価(OH価)は100mgKOH/g以上400mgKOH/g以下であり、かつ、ポリエステルポリオールの粘度は200Pa・s/25℃以上4000mPa・s/25℃以下であることが好ましい。
【0060】
ポリエーテル系ポリオールとしては、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、およびこれら変性体に加え、糖、多価アルコールが挙げられる。あるいは、アルカノールアミンなどの活性水素を含む化合物を開始剤としてプロピレンオキシド、エチレンオキシド、エピクロルヒドリン、ブチレンオキシドなどの環状エーテルを重合したものが好ましく使用される。ポリエーテル系ポリオールとしては、水酸基価が400mgKOH/g以上1000mgKOH/g以下のものを使用すればよい。
【0061】
触媒としては、有機金属系触媒と有機アミン系触媒が例示される。有機金属触媒としては有機スズ化合物が好ましく使用され、スタナスオクトエート、スタナスラウレート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレート、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジアセテートなどが挙げられる。有機アミン系触媒としては、第3級アミン、例えば、トリエチレンジアミン、N-エチルモルホリン、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、N,N’,N’-トリエチルエタノールアミンなどが挙げられる。
【0062】
整泡剤としては、有機ケイ素化合物系の界面活性剤を用いることができ、例えば東レシリコーン(株)製SH-193、SH-195、SH-200またはSRX-253、信越シリコーン(株)製F-230、F-305、F-341、F-348、日本ユニカー(株)製L-544、L-5310、L-5320、L-5420、L-5720、および東芝シリコーン(株)製TFA-4200、TFA-4202などが挙げられる。
【0063】
難燃剤としては、硬質ポリウレタンフォームまたはポリイソシアヌレートフォームに使用されるリン酸エステルであり、トリス(2-クロロエチル)ホスフェート、トリス(2-クロロプロピル)ホスフェート、トリス(ブトキシエチル)ホスフェート、トリスメチルホスフェート、トリスエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェートなどが挙げられる。
【0064】
5-5.熱伝達媒体用途
本多成分組成物は、冷凍サイクルシステム、高温ヒートポンプシステム、および有機ランキンサイクルシステムなどの熱伝達媒体として好適である。また、本多成分組成物は、これらのシステムを洗浄するための洗浄剤としても好適である。
【0065】
冷凍サイクルシステムは、少なくとも蒸発器、圧縮機、凝縮器、膨張弁の要素機器を含む蒸気圧縮式の冷凍サイクルシステムであり、主に冷却することを目的とするシステムである。膨張弁は熱伝達媒体が絞り膨張するための装置であり、キャピラリーチューブであってもよい。冷凍サイクルシステムは上記要素機器の他に、内部熱交換器、乾燥器(ドライヤ)、液分離器、油回収器、不凝縮ガス分離器などを備えていてもよい。冷凍サイクルシステムは、冷蔵庫、空調システム、冷却装置として用いることができる。
【0066】
高温ヒートポンプサイクルシステムは、少なくとも蒸発器、圧縮機、凝縮器、膨張弁の要素機器を含む蒸気圧縮式のヒートポンプサイクルシステムであり、主に加熱することを目的とするシステムである。膨張弁は、熱伝達媒体を絞り膨張させるための装置であり、キャピラリーチューブであってもよい。高温ヒートポンプサイクルシステムは、上記要素機器の他に、内部熱交換器、乾燥器(ドライヤ)、液分離器、油回収器、不凝縮ガス分離器などを備えていてもよい。高温ヒートポンプサイクルシステムは、給湯システム、蒸気生成システム、加熱装置として用いられてもよい。また、高温ヒートポンプサイクルシステムは、熱源として太陽熱エネルギーや工場廃熱などを利用してもよい。
【0067】
有機ランキンサイクルシステムは、少なくとも蒸発器、膨張機、凝縮器、昇圧ポンプの要素機器を含むシステムであり、主に熱エネルギーを電気エネルギーへ変換することを目的とするシステムである。有機ランキンサイクルシステムは、上記要素機器の他に、内部熱交換器、乾燥器(ドライヤ)、液分離器、油回収器、不凝縮ガス分離器などを備えていてもよい。有機ランキンサイクルシステムは、中低温熱を回収する発電装置として用いることができる。また、有機ランキンサイクルシステムは、熱源として太陽熱エネルギーや工場廃熱などを利用してもよい。
【実施例
【0068】
以下、本発明の実施形態に係る本多成分組成物の特性を評価した結果について述べるが、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。以下の実施例1から4では、1233zd(Z)、244fa、および水からなる三成分組成物が共沸様組成物を形成することを確認した結果を示す。実施例5から9では、1233zd(Z)、244fa、1214xb、および水からなる四成分組成物が共沸様組成物を形成することを確認した結果を示す。実施例10では、本発明の実施形態に係る三成分組成物と四成分組成物が洗浄作用とともに水切り作用を示すことを確認した結果について述べる。なお、実施例5から10で用いた1214xbは、シス体:トランス体の比が57:43であった。
【0069】
1.実施例1
上部に凝縮器を備えた300mL3つ口丸底フラスコに高精度温度計(株式会社チノー製、本体型式:CAB-F201-2、実用標準白金測温抵抗体:R900-F25AD)を装着し、凝縮器上部から外気水分が混入しない状態を維持しつつ、3つ口丸底フラスコの内圧が外気圧と等しくなる状態とした。60.62質量%の1233zd(Z)と39.38質量%の244faを混合して調製した標準試料1を200mLフラスコ内に加え、標準試料1を十分に攪拌しながら加熱した。標準試料1が十分に沸騰し、試料温度が安定した時の温度を「読み取り沸点」として計測し、この時の外気圧を気圧計(株式会社三王製、高精度デジタル気圧計VR-16NK)を用いて測定した。読み取り沸点を外気圧に基づいて標準沸点に換算した。沸点の換算は、日本工業規格:JIS K2254「石油製品の蒸留方法」に記載の温度計の読みの気圧補正方法に記載されているシドニーヤング式を用いて補正値を求め、読みとり沸点に補正値を加えることで行った。その結果、標準試料1の標準沸点は39.70℃であった。この標準試料1に所定量の水を加え調製した試料1から3について、上記の方法によりそれぞれ標準沸点を求めた。結果を表1に示す。標準試料1と試料1から3では、1233zd(Z)と244faの組成比は同一である。
【0070】
【表1】
【0071】
表1に示されるように、試料1から3は、いずれも標準試料1の標準沸点よりも低い標準沸点を示すことが観察された。このことは、試料1から3の各々が三成分共沸様組成物を形成することを示唆している。
【0072】
2.実施例2
90.91質量%の1233zd(Z)と9.09質量%の244faを混合して調製した標準試料2の標準沸点を実施例1と同様の方法により求めたところ、39.31℃であった。この標準試料2に所定量の水を加えて調製した試料4から6について、上記方法によりそれぞれ標準沸点を求めた。結果を表2に示す。標準試料2と試料4から6では、1233zd(Z)と244faの組成比は同一である。
【0073】
【表2】
【0074】
表2に示されるように、試料4から6は、いずれも標準試料2の標準沸点よりも低い標準沸点を示すことが観察された。このことは、試料4から6の各々が三成分共沸様組成物を形成することを示唆している。
【0075】
3.実施例3
99.18質量%の1233zd(Z)と0.82質量%の244faを混合して調製した標準試料3の標準沸点を実施例1と同様の方法により求めたところ、39.21℃であった。この標準試料3に所定量の水を加えて調製した試料7と8について、上記方法によりそれぞれ標準沸点を求めた。結果を表3に示す。標準試料3および試料7と8では、1233zd(Z)と244faの組成比は同一である。
【0076】
【表3】
【0077】
表3に示されるように、試料7と8は、いずれも標準試料3の標準沸点よりも低い標準沸点を示すことが観察された。このことは、試料7と8の各々が三成分共沸様組成物を形成することを示唆している。
【0078】
4.実施例4
99.97質量%の1233zd(Z)と0.03質量%の244faを混合して調製した標準試料4の標準沸点を実施例1と同様の方法により求めたところ、39.24℃であった。この標準試料4に所定量の水を加えて調製した試料9と10について、上記方法によりそれぞれ標準沸点を求めた。結果を表4に示す。標準試料4および試料9と10では、1233zd(Z)と244faの組成比は同一である。
【0079】
【表4】
【0080】
表4に示されるように、試料9と10は、いずれも標準試料4の標準沸点よりも低い標準沸点を示すことが観察された。このことは、試料9と10の各々が三成分共沸様組成物を形成することを示唆している。
【0081】
5.実施例5
99.9631質量%の1233zd(Z)、0.0044質量%の244fa、および0.0325質量%の1214xbからなる標準試料5を50mL3つ口丸底フラスコに投入し、その標準沸点を実施例1と同様の方法により求めたところ、39.07℃であった。この標準試料5に所定量の水を加えて調製した試料11について、上記方法により標準沸点を求めた。結果を表5に示す。標準試料5と試料11では、1233zd(Z)、244fa、1214xbの組成比は同一である。
【0082】
【表5】
【0083】
表5に示されるように、試料11は、標準試料5の標準沸点よりも低い標準沸点を示すことが観察された。このことは、試料11が四成分共沸様組成物を形成することを示唆している。
【0084】
6.実施例6
99.99389質量%の1233zd(Z)、0.00610質量%の244fa、および0.00001質量%の1214xbを混合して調製した標準試料6の標準沸点を実施例5と同様の方法により求めたところ、39.07℃であった。この標準試料6に所定量の水を加えて調製した試料12と13について、上記方法によりそれぞれ標準沸点を求めた。結果を表6に示す。標準試料6および試料12と13では、1233zd(Z)、244fa、1214xbの組成比は同一である。
【0085】
【表6】
【0086】
表6に示されるように、試料12と13は、いずれも標準試料6の標準沸点よりも低い標準沸点を示すことが観察された。このことは、試料12と13の各々が四成分共沸様組成物を形成することを示唆している。
【0087】
7.実施例7
99.9971質量%の1233zd(Z)、0.0026質量%の244fa、および0.0001質量%の1214xbを混合して調製した標準試料7の標準沸点を実施例5と同様の方法により求めたところ、39.05℃であった。この標準試料7に所定量の水を加えて調製した試料14と15について、上記方法によりそれぞれ標準沸点を求めた。結果を表7に示す。標準試料7および試料14と15では、1233zd(Z)、244fa、1214xbの組成比は同一である。
【0088】
【表7】
【0089】
表7に示されるように、試料14と15は、いずれも標準試料7の標準沸点よりも低い標準沸点を示すことが観察された。このことは、試料14と15の各々が四成分共沸様組成物を形成することを示唆している。
【0090】
8.実施例8
87.66質量%の1233zd(Z)、9.34質量%の244fa、および3.00質量%の1214xbを混合して調製した標準試料8の標準沸点を実施例5と同様の方法により求めたところ、39.14℃であった。この標準試料8に所定量の水を加えて調製した試料16と17について、上記方法によりそれぞれ標準沸点を求めた。結果を表8に示す。標準試料8および試料16と17では、1233zd(Z)、244fa、1214xbの組成比は同一である。
【0091】
【表8】
【0092】
表8に示されるように、試料16と17は、いずれも標準試料8の標準沸点よりも低い標準沸点を示すことが観察された。このことは、試料16と17の各々が四成分共沸様組成物を形成することを示唆している。
【0093】
9.実施例9
94.40質量%の1233zd(Z)、0.78質量%の244fa、および4.82質量%の1214xbを混合して調製した標準試料9の標準沸点を実施例5と同様の方法により求めたところ、39.03℃であった。この標準試料9に所定量の水を加えて調製した試料18と19について、上記方法によりそれぞれ標準沸点を求めた。結果を表9に示す。標準試料9および試料18と19では、1233zd(Z)、244fa、1214xbの組成比は同一である。
【0094】
【表9】
【0095】
表9に示されるように、試料18と19は、いずれも標準試料9の標準沸点よりも低い標準沸点を示すことが観察された。このことは、試料18と19の各々が四成分共沸様組成物を形成することを示唆している。
【0096】
10.実施例10
98.98質量%の1233zd(Z)、0.03質量%の244fa、および0.99質量%の水を混合して三成分組成物を調整した。同様に、99.93293質量%の1233zd(Z)、0.00610質量%の244fa、0.00001質量%の1214xb、および0.06096質量%の水を混合して四成分組成物を調整した。
【0097】
幅15mm、長さ30mm、厚さ2mmのSUS316製試験片に水溶性加工油ユニソルブルEM(JX日鉱日石エネルギー製)5質量%水溶液を付着させた。この試験片を上記三成分組成物に浸漬し、超音波発振器(Alex Corporation社製 ネオソニック、出力100W、周波数28kHz。以下同じ。)を用いて25℃で2分間超音波洗浄した。試験片を取出し、80℃にて5分間乾燥した後、試験片の表面を目視観察した。その結果、汚れも水滴点も確認されず、この三成分組成物が良好な洗浄性および水切り性を示すことが分かった。上記四成分組成物を用いて同様の実験を行ったところ、同様の結果が得られ、汚れも水滴点も確認されず、この四成分組成物が良好な洗浄性および水切り性を示すことが確認された。
【0098】
汚染物質としてオイルを用い、同様の実験を行った。すなわち、ガラス棒(直径7.2mm、長さ4cm)の乾燥質量を測定した後、表10に示すオイルに2分間浸漬した。この後、オイルから取り出されたガラス棒の質量を測定し、ガラス棒表面に付着したオイルの量を算出した。洗浄は、ガラス棒を三成分組成物または四成分組成物に浸漬し、超音波発振器を用いて25℃で2分間超音波照射することで行った。洗浄後のガラス棒を乾燥した後、拡大鏡で目視観察するとともに質量を測定し、乾燥質量との差からガラス棒上に残存したオイルの質量を求めた。油除去率は、以下の式に基づいて算出した。
油除去率(%)=
(残存オイルの質量/ガラス棒表面に付着したオイルの量)×100
【0099】
【表10】
【0100】
その結果、表10に記載の全てのオイルにおいて油除去率がほぼ100%であり、拡大鏡観察結果においては、油分の残存が認められなかった。このことは、本発明の実施形態の一つに係る多成分組成物が洗浄剤として良好な特性を示すことを表している。