(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】積載形トラッククレーン
(51)【国際特許分類】
B60P 1/54 20060101AFI20240724BHJP
B66C 23/90 20060101ALI20240724BHJP
B60G 11/04 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
B60P1/54 Z
B66C23/90 Q
B60G11/04
(21)【出願番号】P 2021049807
(22)【出願日】2021-03-24
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 克彰
【審査官】山本 賢明
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-42051(JP,A)
【文献】特開2015-214177(JP,A)
【文献】特開2006-182076(JP,A)
【文献】米国特許第8874329(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60P 1/54
B66C 23/90
B60G 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
後輪に二段式サスペンションが設けられている積載形トラッククレーンであって、
該積載形トラッククレーンには、運転室と荷台との間に設けられたクレーン装置と、
該クレーン装置の動作を制御する制御装置と、
該制御装置に接続されている警報器と、
が備えられ、
該制御装置は、前記クレーン装置を構成するブームが前方領域に位置している場合に、前記二段式サスペンションのばね定数があらかじめ定められた値よりも小さくなった際に、少なくとも前記クレーン装置の動作を規制する機能、または前記警報器を作動させる機能のいずれかを働かせる、
ことを特徴とする積載形トラッククレーン。
【請求項2】
前記二段式サスペンションのばね定数が、
前記積載形トラッククレーンの車体の傾斜角度を測定する傾斜角度検出器から検出された傾斜角度により算出されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の積載形トラッククレーン。
【請求項3】
前記ばね定数が、
kr=Mu/(L
2×sinθ)
(kr:前記ばね定数、Mu:前記クレーン装置の旋回部および前記クレーン装置により吊り下げられている吊荷の合計重量によるモーメント、L:積載形トラッククレーン10に備えられたアウトリガ装置の前後中心と、前記後輪の前後中心と、の平面視での距離、θ:側面から見た際の車体の傾斜角)
で表されている、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の積載形トラッククレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積載形トラッククレーンに関する。さらに詳しくは、ブームの旋回位置により、クレーン装置の定格が決定される積載形トラッククレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
積載形トラッククレーンは、荷台を備えたトラックにクレーン装置を搭載した車両である。クレーン装置は、運転室と荷台との間に搭載されている。クレーン装置は、走行用の原動機から動力を取り出して動作させられる。積載形トラッククレーンでは、クレーン作業時にクレーン装置の基礎部分を中心として、クレーン装置のブームを旋回させるとともに、ブームを起伏伸縮させる。この動作により貨物を吊り上げ、この貨物を運搬する。
【0003】
この積載形トラッククレーンの多くでは、空車時と最大積載時の乗り心地を両立させるため、後輪のサスペンションとして二段式リーフサスペンションが採用されている。二段式リーフサスペンションが採用されていると、荷台に所定の荷重の貨物がない場合には一段目のみのサスペンションを働かせ、荷台に所定の荷重の貨物がある場合には、一段目に加えて二段目のサスペンションを働かせることが可能となり、荷台の状況に応じて振動を適切に遮断することが可能となる。
【0004】
一般的に、積載形トラッククレーンの定格荷重は、荷台に積載物がない状態で、かつ、側方領域内で最も安定度が悪い旋回位置での能力(空車時安定性能)と、クレーンの構造物の強度から決定される能力(クレーン強度性能)から算出される。特許文献1の
図3のグラフは、このように算出された定格荷重の一例であり、特許文献1には、この定格荷重に対する吊上荷重の割合により警報が発せられたり、作動が停止させられたりする構成が開示されている。この特許文献1に記載の積載形トラッククレーンの前方領域では、定格荷重は、その構造を考慮して、クレーン装置の定格荷重の25%としている。
【0005】
上記のように前方領域での定格荷重を、クレーン装置の定格荷重の25%としているのは、積載形トラッククレーンは、構造上クレーン装置の後ろ側に荷台が設置される構造となるが、上記定格荷重はこの荷台に積荷が載置されていない状態を前提としているためである。
【0006】
これに対し、特許文献2では、リアアウトリガ装置が設けられている積載形トラッククレーンにおいて、クレーン装置の動作を規制する機能等を、リアジャッキの接地反力信号を用いて働かせるものが開示されている。これは、荷台に積荷がある場合は、前側のアウトリガ装置よりも後ろ側に荷重があるため、積載形トラッククレーンの安定性が増し、クレーン強度性能に近くなるように、前方領域での制限が緩和されるべきという考えに基づくものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-86873号公報
【文献】特開2019-156579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかるに、特許文献1の
図3のグラフでの定格荷重は、側方領域内で最も安定度が悪い旋回位置での能力を考慮して事前に算出されたものであるため、安全側への余裕代が非常に大きくなっている。さらに、積載形トラッククレーンの前方領域では、その構造を考慮してクレーン装置の定格荷重の25%としている。そうすると、積載形トラッククレーン
の定格荷重は、前方領域では特に過度に制限されているという問題がある。
【0009】
また、特許文献2ではリアアウトリガ装置のリアジャッキの接地反力信号を用いているが、この構成はリアアウトリガ装置が用いられている機種でのみ採用できる構成であり、汎用性に劣るという問題がある。
【0010】
本発明は上記事情に鑑み、前方領域での作業能力の制限が過重にならず、作業の安全性を確保しながら、クレーン装置の能力を最大限に引き出すことができ、さらに二段式サスペンションが採用される機種での機能を充実させることが可能な積載形トラッククレーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明の積載形トラッククレーンは、後輪に二段式サスペンションが設けられている積載形トラッククレーンであって、該積載形トラッククレーンには、運転室と荷台との間に設けられたクレーン装置と、該クレーン装置の動作を制御する制御装置と、該制御装置に接続されている警報器と、が備えられ、該制御装置は、前記クレーン装置を構成するブームが前方領域に位置している場合に、前記二段式サスペンションのばね定数があらかじめ定められた値よりも小さくなった際に、少なくとも前記クレーン装置の動作を規制する機能、または前記警報器を作動させる機能のいずれかを働かせることを特徴とする。
第2発明の積載形トラッククレーンは、第1発明において、前記二段式サスペンションのばね定数が、前記積載形トラッククレーンの車体の傾斜角度を測定する傾斜角度検出器から検出された傾斜角度により算出されていることを特徴とする。
第3発明の積載形トラッククレーンは、第1発明または第2発明において、前記ばね定数が、kr=Mu/(L2×sinθ)(kr:前記ばね定数、Mu:前記クレーン装置の旋回部および前記クレーン装置により吊り下げられている吊荷の合計重量によるモーメント、L:積載形トラッククレーン10に備えられたアウトリガ装置の前後中心と、前記後輪の前後中心と、の平面視での距離、θ:側面から見た際の車体の傾斜角)で表されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1発明によれば、二段式サスペンションのばね定数の変化により、前方領域にブームが位置している場合の動作規制等が行われることにより、二段式サスペンションを有する積載形トラッククレーンにおいて、シンプルな構成で積載形トラッククレーンの機能を充実させることができる。
第2発明によれば、ばね定数が、傾斜角度検出器から検出された傾斜角度により算出されていることにより、傾斜角度検出器はクレーン装置の任意の部位に設置が可能であるので、積載形トラッククレーンの最終組み立て時の作業工程を削減できる。
第3発明によれば、ばね定数が、所定の計算式を用いて算出されていることにより、二段式サスペンションのいずれのばね定数となっているかの判断が、より確実に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る積載形トラッククレーンの側面図、および後輪部分の部分拡大図である。
【
図2】
図1の積載形トラッククレーンの後輪部分の部分拡大図である。(A)は二段リーフサスペンションのメインリーフのみが作用している場合の説明図、(B)は二段リーフサスペンションのメインリーフおよびサブリーフの両方が作用している場合の説明図である。
【
図3】
図1の積載形トラッククレーンの油圧回路図である。
【
図4】
図1の積載形トラッククレーンの制御回路図である。
【
図5】
図1の積載形トラッククレーンの作業領域の説明図である。
【
図6】
図1の積載形トラッククレーンの制御方法の説明図である。
【
図7】
図1の積載形トラッククレーンの動作フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための積載形トラッククレーンを例示するものであって、本発明は積載形トラッククレーンを以下のものに特定しない。なお、各図面が示す部材の大きさまたは位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。また本明細書においては、特記した場合を除き、前後左右の記載は、車体の運転室に積載形トラッククレーンの使用者が搭乗した状態での使用者を基準として前後左右とする。
【0015】
<第1実施形態>
(積載形トラッククレーン10)
図1には本発明の第1実施形態に係る積載形トラッククレーン10の側面図を示す。
図1に示すように、積載形トラッククレーン10は、汎用トラック20の運転室27と荷台28との間の車両フレーム29にクレーン装置21が搭載されたものである。汎用トラック20には、左右対称に前輪22が設けられている。さらに汎用トラック20には、左右対称に後輪23が設けられている。なお、積載形トラッククレーン10の「車体」とは、汎用トラック20を意味する。
【0016】
図1に示すように、クレーン装置21は、車両フレーム29上に固定されたベース30と、ベース30に対して旋回可能に設けられたポスト31と、ポスト31の上端部に起伏可能に設けられたブーム32と、ベース30に設けられ、ベース30から左右外側へ張出すアウトリガ装置33と、を備えている。すなわちアウトリガ装置33は、側面方向から見て運転室27と荷台28との間に位置している。アウトリガ装置33の左右先端には、油圧のジャッキ38がそれぞれ設けられている(
図6参照)。
【0017】
ポスト31にはウインチが内蔵されている。このウインチからワイヤロープをブーム32の先端部に導いて、ブーム32先端部の滑車を介してフック34に掛け回すことにより、フック34をブーム32の先端部から吊り下げている。
【0018】
クレーン装置21は油圧回路40により油圧駆動される。この油圧回路40を操作するためのレバー群35がベース30の左右両側に設けられている。また、油圧回路40を電気的に制御し、作業車両を制御する制御装置12がベース30に設けられている。
【0019】
本実施形態に係る積載形トラッククレーン10では、
図1の図面の下部に示したように、左右それぞれの後輪23に、二段式リーフサスペンション50が採用されている。二段式リーフサスペンション50は、アクスル53に接続され、アクスル53からの振動の伝播を抑制する。二段式リーフサスペンション50は、複数の板バネから構成されているメインリーフ51と、複数の板バネから構成されているサブリーフ52と、を含んで構成されている。
【0020】
図2には、本実施形態に係る積載形トラッククレーン10の後輪部分の部分拡大図を示す。
図2(A)は、サブリーフ52に負荷がかかっておらず、メインリーフ51のみが作用している場合を示し、
図2(B)は、メインリーフ51およびサブリーフ52の両方に負荷がかかり、その両方が作用している場合を示している。
図2に示すように、メインリーフ51の前側端部は、第1サポート51aに接続されている。また、メインリーフ51の後側端部は、第2サポート51bに接続されている。第2サポート51bは、メインリーフ51に荷重が付加された際に、メインリーフ51の後側端部を後方へ移動させる機能を有している。
【0021】
サブリーフ52は、例えば積載形トラッククレーン10の荷台28に所定の荷重が付加された際に、サブリーフ52の両端が第3サポート52aに接触することでサスペンションとして作用する。
【0022】
本実施形態に係る積載形トラッククレーン10は、例えば荷台28に付加される荷重が、あらかじめ定められた荷重よりも小さい場合は、
図2(A)のようにメインリーフ51のみがサスペンションとして作用し、荷台28に付加される荷重があらかじめ定められた荷重以上の場合は、
図2(B)のように、メインリーフ51とサブリーフ52の両方がサスペンションとして作用する。すなわち本実施形態に係る積載形トラッククレーン10は、荷台28に付加される荷重等により、後輪23において2種類のばね定数を有する。
【0023】
(油圧回路40)
図3には、本実施形態に係る積載形トラッククレーン10の油圧回路図を示す。
図3に示すように、クレーン装置21の油圧回路40は、主に、油圧バルブユニット41と、油圧バルブユニット41にタンク42内の作動油を供給する油圧ポンプ43と、油圧ポンプ43と油圧バルブユニット41とを接続する主油路44と、油圧バルブユニット41とタンク42とを接続する戻油路45と、クレーン装置21の起伏動作またはブーム32の伸縮動作、ブーム32の旋回動作、ウインチの巻上げ巻下げなどを行うための、複数のクレーン装置用アクチュエータ46、および2つのジャッキ38を含んで構成されている。クレーン装置用アクチュエータ46およびジャッキ38は、油圧バルブユニット41に接続している。
【0024】
油圧ポンプ43はPTO(パワーテイクオフ)装置を介して汎用トラック20のエンジン36に接続されており、エンジン36により駆動される。
【0025】
油圧バルブユニット41には、ブーム伸縮用制御弁47a、ウインチ用制御弁47b、ブーム起伏用制御弁47c、ブーム旋回用制御弁47d、右側ジャッキ制御弁48a、左側ジャッキ制御弁48bが設けられている。ブーム伸縮用制御弁47aはブーム伸縮用アクチュエータ46aに、ウインチ用制御弁47bはウインチ用油圧モータ46bに、ブーム起伏用制御弁47cはブーム起伏用アクチュエータ46cに、ブーム旋回用制御弁47dはブーム旋回用アクチュエータ46dにそれぞれ接続されている。また、右側ジャッキ制御弁48aは右側に位置するジャッキ38に、左側ジャッキ制御弁48bは左側に位置するジャッキ38に、それぞれ接続されている。
【0026】
これらの切換制御弁には、それぞれレバーが取り付けられており、そのレバーを手動操作することにより、油圧ポンプ43から供給される作動油の方向および流量を切り換えることができるようになっている。制御弁に取り付けられたレバーは、レバー群35としてベース30の左右両側に設けられている(
図1参照)。
【0027】
また、制御装置12は、エンジン36のECU(エンジンコントロールユニット)にも接続されており、少なくともエンジン36の回転数を制御できるよう構成されている。制御装置12は、エンジン36の回転数を制御することで油圧ポンプ43の回転数を制御でき、油圧ポンプ43の吐出量を調整できる。
【0028】
(制御回路)
図4には、本実施形態に係る積載形トラッククレーン10の制御回路図を示す。制御装置12の入力側には、傾斜角度検出器13と、ブーム長検出器15と、ブーム旋回角度検出器16と、ブーム起伏角度検出器17と、起伏支持力検出器18と、が電気的に接続されている。また、制御装置12の出力側には警報器14と、ブーム旋回用制御弁47a、ブーム伸縮用制御弁47b、ブーム起伏用制御弁47c、右側ジャッキ制御弁48a、左側ジャッキ制御弁48bが電気的に接続されている。
【0029】
傾斜角度検出器13は、積載形トラッククレーン10の傾斜角を検出するための1軸または2軸の傾斜センサである。本実施形態では、傾斜角度検出器13は、クレーン装置21のベース30に固定されている。傾斜角度検出器13は、気泡または振り子を利用した機械的なものであってもよいし、ポテンショメータまたは磁気を利用したものであってもよい。傾斜角度検出器13としては、特に、デジタル処理しやすいように、MEMS技術を利用した傾斜センサ(ACS)または電解液の傾きを利用した傾斜センサ(AGS)を使用することが好ましい。傾斜角度検出器13として、1軸のものを使用した場合には車両前後方向の傾斜角度を計測するように方向づけられる。傾斜角度検出器13として、2軸のものを使用した場合には1つ使用するだけでよく、車両前後方向及び車両左右方向の傾斜角度を計測するように方向づけられる。
【0030】
傾斜角度検出器13は、クレーン装置21のベース30に固定されることが好ましいが、他の部分に固定されることもある。例えば、傾斜角度検出器13は、制御装置12の筐体内のようなクレーン装置21の任意の場所に固定されたり、積載型トラッククレーン10の車両フレーム29に固定されたりすることで設置可能である。
【0031】
ブーム長検出器15は、ブーム32の長さを検出するためのものであり、例えばコード繰出長さ検出器である。コード繰出長さ検出器は測長用コードの繰り出し長さをコード巻取器の回転変位量を検出することで検出する。
【0032】
ブーム旋回角度検出器16は、ブーム32の旋回角度を検出するためのものであり、ポスト31の根元側に配置されている。例えばブーム旋回角度検出器16はポテンショメータである。このポテンショメータの代わりにロータリエンコーダが用いられることもある。
【0033】
ブーム起伏角度検出器17は、ブーム32の起伏角度を検出するためのものであり、ブーム32の根元側に配置されている。例えばブーム起伏角度検出器17はポテンショメータである。このポテンショメータの代わりにロータリエンコーダが用いられることもある。
【0034】
警報器14は、例えば定格荷重を超えた吊り荷重となった場合など、あらかじめ定められた状態になった場合に、積載形トラッククレーン10の使用者にその状態を覚知させるためのものである。本実施形態では、警報器14は、運転室27の外側に設けられている。
【0035】
起伏支持力検出器18は、フック34に吊られた荷重を検出するために設けられている。本実施形態では、起伏支持力検出器18はブーム起伏用のシリンダに設けられた差圧計である。起伏支持力検出器18で検出された差圧は、制御装置12へ出力される。
【0036】
(作業領域)
図5は、本実施形態に係る積載形トラッククレーン10の作業領域の説明図である。
図5では、積載形トラッククレーン10を平面視で示している。本実施形態では、積載形トラッククレーン10には、アウトリガ装置33がクレーン装置21近傍、すなわち運転室27と荷台28との間に備えられている。積載形トラッククレーン10の使用者は、このアウトリガ装置33を外側に十分張出した状態で積荷の上げ下ろしの作業を行う。
【0037】
積載形トラッククレーン10は、構造上クレーン装置21を構成するブーム32の水平面内の角度、すなわち旋回角度により、安全に積みおろしできる吊荷の重量が異なる。一般的に積載形トラッククレーン10の定格荷重は、以下の後方領域、側方領域および前方領域の3つの領域ごとに設定されている。後方領域は、平面図においてブーム32の回転中心と、左右に二つずつある後輪23のそれぞれの左右中心(以下「右後輪中心CR」および「左後輪中心CL」と称することがある。)と、を結んだ線分の間の領域(2本の線分から構成される角度が小さい側)である。
【0038】
側方領域は、ブーム32の回転中心と右後輪中心CRとを結んだ線分、およびブーム32の回転中心と右側のジャッキ38とを結んだ線分の間の領域(2本の線分から構成される角度が小さい側)、またはブーム32の回転中心と左後輪中心CLとを結んだ線分、およびブーム32の回転中心と左側のジャッキ38とを結んだ線分の間の領域(2本の線分から構成される角度が小さい側)である。
【0039】
前方領域は、ブーム32の回転中心と左右のジャッキ38とを結んだ線分の間の領域(2本の線分から構成される角度が小さい側)である。なお本実施形態では3つの領域は上記のように定義されているが、この領域の定義は積載形トラッククレーン10の構成により異なることがある。また、それぞれの領域の境界はブーム旋回角度検出器16からの信号により判断するため、上記定義による位置と、厳密には異なっている場合がある。
【0040】
(ばね定数krを用いた制御方法)
図6には、本実施形態における積載形トラッククレーン10の制御方法の説明図を示す。
図6は、積載形トラッククレーン10を側面方向から見た模式図である。本実施形態に係る積載形トラッククレーン10の後輪23部分の反力をFrとすると、Frは以下の式で表される。
【0041】
(数1)
Fr=Fw+Fu+Ff
【0042】
Fr:後輪23の後軸の反力
Fw:荷台28上の積載物による反力
Fu:クレーン装置21の旋回部(ポスト31から先端に向けての部材全て)と、クレーン装置21で吊り下げられている吊荷との合計重量による反力
Ff:クレーン装置21のベース30と、シャシの合計重量による反力
【0043】
ここでFuは、以下の式で表される。
(数2)
Fu=Mu/L
【0044】
Mu:クレーン装置21の旋回部と、クレーン装置21で吊り下げられている吊荷との合計重量によるモーメント、
L:積載形トラッククレーン10に備えられたアウトリガ装置33の前後中心と、後輪23の前後中心と、の平面視での距離、
【0045】
またFuはフックの法則から以下の式でも表される。
(数3)
Fu=kr×L×sinθ
【0046】
kr:後輪23部分のばね定数
θ:側面から見た際の車体の傾斜角
【0047】
上記の数2、数3からkrは、以下の式で表される。
(数4)
kr=Mu/(L2×sinθ)
【0048】
ここで、本実施形態に係る積載形トラッククレーン10では、
図2(A)のようにメインリーフ51が作用している場合と、
図2(B)のようにメインリーフ51とサブリーフ52の両方が作用している場合と、があり、それぞれの場合で後輪23部分のばね定数krが異なる。
図2(A)の場合のばね定数をkr1、
図2(B)の場合のばね定数をkr2とする。本実施形態では、θは傾斜角度検出器13より検出された検出値である。また本実施形態では、Muはブーム旋回角度検出器16により測定された角度、起伏支持力検出器18により検出された支持力などを用いて計算される算出値である。
【0049】
Lは定数なので、算出されたMuと検出されたθとによりばね定数krが求められる。この式より求められるkrがkr2である場合、荷台28の上に十分な荷重があると判断し、制御装置12は、例えばクレーン強度性能まではクレーン装置21の動作を規制することも、警報器14を作動させることもない。そして、krがkr1である場合は、制御装置12は、クレーン装置21に過重に負荷が付加されているので、クレーン装置21の動作を規制する機能、または警報器14を作動させる機能のいずれかを働かせる。
【0050】
なお、数2で求められるkrについては、kr1およびkr2のいずれかと全く同じ数値である必要はない。本実施形態ではkr1とkr2の中央値からkr1に近い値にkrがなった場合に、制御装置12は、krがkr1であると判断し、中央値からkr2に近い値にkrがなった場合に、制御装置12はkrがkr2であると判断する。
【0051】
(動作フロー)
図7には、本実施形態に係る積載形トラッククレーン10の動作フロー図を示す。積載形トラッククレーン10の制御装置12は、まずステップ01(以下S01のように記載する)で、ブーム旋回角度検出器16からのブーム32の旋回角度αの情報を取得する。
【0052】
S02で、制御装置12は、ブーム32が前方領域に位置しているか否かを判断する。制御装置12が前方領域に位置していないと判断した場合、ブーム32は側方領域または後方領域に位置するので、制御装置12は、側方領域または後方領域での通常の動作を行う。
【0053】
S02で、制御装置12が前方領域に位置していると判断した場合、ブーム32は前方領域に位置するので、制御装置12は、S03に進む。
【0054】
S03で、制御装置12は、傾斜角度検出器13から傾斜角θの数値、および起伏支持力検出器18から荷重の数値を取得する。S04で、制御装置12が、傾斜角θおよび算出値Muの数値を利用して、後輪23部分のばね定数krを算出し、このばね定数krの数値があらかじめ定められた閾値以下であると判断した場合、制御装置12はS05に進む。
【0055】
S05で制御装置12はブーム旋回用制御弁47aなどで、前方領域でのクレーン装置21の動作規制を行う。具体的にはブーム32の起伏動作を停止したり、ブーム32の旋回動作を停止したりする。また、制御装置12は、これらの動作速度を遅くさせる動作規制を行うこともある。この動作規制と合わせて、制御装置12は、警報器14を作動させ、積載形トラッククレーン10の使用者に、前方領域で動作規制が働いたことを覚知させる。また、警報器14のみを作動させることもある。
【0056】
S04で、制御装置12が、ばね定数krの数値があらかじめ定められた閾値よりも大きいと判断した場合、S05で制御装置12は、前方領域でのクレーン装置21の動作規制を行わない。
【0057】
二段式サスペンションのばね定数の変化により、前方領域にブーム32が位置する際の動作規制等が行われることにより、二段式サスペンションを有する積載形トラッククレーンにおいて、シンプルな構成で積載形トラッククレーンの機能を充実させることができる。
【0058】
また、ばね定数が、傾斜角度検出器13から検出された傾斜角度により算出されていることにより、傾斜角度検出器13は設置場所としてクレーン装置21に設置が可能であるので、積載形トラッククレーン10の最終組み立て時の作業工程を削減できる。
【0059】
また、ばね定数が、所定の計算式を用いて算出されていることにより、二段式サスペンションのいずれのばね定数となっているかの判断が、より確実に行われる。
【0060】
(その他の実施例)
第1実施形態では、傾斜角度検出器13を用いてばね定数を算出したが、他の方式でもばね定数を算出することは可能である。例えば、アクスル53と車両フレーム29との間の距離を測定する計測器を用いることも可能である。
【0061】
また第1実施形態では、二段式リーフサスペンション50が設けられていたが、これに限定されず、他の構成の二段式のサスペンションを採用することも可能である。例えば他の実施形態として、コイルバネを用いた二段式サスペンションが採用される場合もある。
【符号の説明】
【0062】
10 積載形トラッククレーン
12 制御装置
13 傾斜角度検出器
14 警報器
21 クレーン装置
23 後輪
27 運転室
28 荷台
32 ブーム
33 アウトリガ装置
50 二段式リーフサスペンション