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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20240724BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240724BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240724BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M10/0562
H01M10/052
H01B1/06 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020071103
(22)【出願日】2020-04-10
(65)【公開番号】P2021168256
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-02-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、文部科学省・科学技術試験研究委託事業「実験と理論計算科学のインタープレイによる触媒・電池の元素戦略研究拠点」に係る産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】泉 博章
(72)【発明者】
【氏名】南 浩成
(72)【発明者】
【氏名】猪石 篤
(72)【発明者】
【氏名】岡田 重人
(72)【発明者】
【氏名】坂本 遼
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寛基
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0089016(US,A1)
【文献】特開2019-071164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/00 -10/0587
H01M 4/00 - 4/62
H01G 11/00 -11/86
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層と、負極層と、前記正極層と前記負極層との間に配置された固体電解質層とを備える全固体電池であって、前記負極層がM(BHで表される化合物(Mは、Mg、Ca、Mn及びZnから成る群から選ばれた一以上の元素)を含む全固体リチウムイオン電池。
【請求項2】
前記固体電解質層が水素化物系固体電解質を含む請求項1に記載の全固体リチウムイオン電池。
【請求項3】
前記水素化物系固体電解質がLiBHを含む請求項2に記載の全固体リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、他の二次電池と比較して高エネルギー密度を有し、携帯機器やモビリティなどの幅広い分野で使用されている。今後、携帯機器の長時間の使用や高い消費電力、モビリティの航続距離の増加への要望が高まっている。そのため、二次電池の高エネルギー密度化及び安全性への両立が求められており、リチウムイオン電池に替わる次世代電池に期待が高まっている。
【0003】
次世代電池の中でも全固体電池は、リチウムイオン電池が液体の有機電解液を電解質として用いるのに対して、無機材料の固体電解質を用いた電池である。全固体電池は、不燃性で化学的に安定な無機セラミックスを電解質に使うので安全性が高く、有機電解液を使用しないため、高温まで使用可能であり、高電位で動作させることができ、エネルギー密度を高めることができる。
【0004】
全固体電池に用いる負極に関し、負極内のリチウムイオンの伝導性パスの構築のため、リチウムイオン伝導性をもつ固体電解質を含有させる方法が知られている。また、負極内に固体電解質を含有させずに、リチウムイオンの伝導性パスを構築する構成として、負極にイオン伝導性樹脂を含有させる構成が知られている(例えば、特許文献1)。いずれも予めイオン伝導性物質を混合して、負極を作製する必要がある点では共通している。しかしながら、負極活物質と固体電解質との間に良質な界面の形成が十分に得られず、界面抵抗を低減することが難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-186212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上記の問題点に鑑み、負極活物質と固体電解質との間の界面抵抗を低減することができる全固体電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、正極層と、負極層と、前記正極層と前記負極層との間に配置された固体電解質層とを備える全固体電池であって、前記負極層は、M(BHで表される化合物(Mは、Mg、Ca、Mn及びZnから成る群から選ばれた一以上の元素)を含むものである。
【発明の効果】
【0008】
このように、本発明に係る全固体電池によれば、その負極層に含まれるM(BHで表される化合物(Mは、Mg、Ca、Mn及びZnから成る群から選ばれた一以上の元素)が、放電過程でイオン伝導性物質を自己生成するため、負極活物質と固体電解質間の粒子の隙間が埋まり、密着性が向上して界面抵抗を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る全固体電池の一実施の形態を示す模式図である。
図2】本発明に係る全固体電池の別の実施の形態を示す模式図である。
図3】実施例に用いた電池特性評価用セルの構成を示す模式図である。
図4】実施例1の充放電試験結果を示すグラフである。
図5】実施例2の充放電試験結果を示すグラフである。
図6】実施例1、2の1~15サイクルの可逆容量を示すグラフである。
図7】実施例1の放電前後の負極層の回析パターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る全固体電池の実施の形態について説明する。
【0011】
第1の実施形態の全固体電池10は、図1に示すように、正極層11と、負極層13と、正極層11と負極層13との間に位置する固体電解質層12とを備える。
【0012】
正極層11は、正極活物質を含む層である。正極活物質としては、例えば、LiCoO、LiNiCo1-x(0<x<1)、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiMnO、異種元素置換Li-Mnスピネル(LiMn1.5Ni0.5、LiMn1.5Al0.5、LiMn1.5Mg0.5、LiMn1.5Co0.5、LiMn1.5Fe0.5、LiMn1.5Zn0.5)、リン酸遷移金属リチウム(LiFePO、LiMnPO、LiCoPO、LiNiPO)などのリチウム系材料が挙げられる。
【0013】
また、正極層11は、正極活物質の他に、例えば、導電助剤や、バインダー、固体電解質を含んでもよい。導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック等の高導電性カーボンブラック、黒鉛、コークスや、Ni粉末、Cu粉末、Ag粉末等の金属粉末などが挙げられる。バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系バインダーや、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム系バインダーが挙げられる。正極層11中の正極活物質の含有率については、例えば、70重量%から95重量%の範囲が好ましい。また、正極層11の厚さは、例えば、2μmから100μmの範囲が好ましい。
【0014】
固体電解質層12は、固体電解質の粒子1を含む層である。固体電解質としては、例えば、水素化物系固体電解質や、硫化物系固体電解質材料、酸化物系固体電解質材料などが挙げられ、これらのうち、水素化物系固体電解質が特に好ましい。詳しくは後述する負極層13において放電過程で生成するイオン伝導性物質と同じ水素化物系の固体電解質を用いることで、負極活物質と固体電解質との間の界面抵抗をより低減することができる。水素化物系固体電解質としては、LiBH(水素化ホウ酸リチウム)や、Li1212、Li(BHI、Li1212などが挙げられ、これらのうち、LiBHが特に好ましい。詳しくは後述する負極層13において放電過程で生成するイオン伝導性物質と同じ化合物のLiBHを用いることで、負極活物質と固体電解質との間の界面抵抗をより一層低減することができる。硫化物系固体電解質材料としては、例えば、Li9.54Si1.741.4411.7Cl0.3、Li10GePS12などが挙げられ、酸化物系固体電解質材料としては、例えば、Li1+xAlTi2-x(PO、Li1.5Al0.5Ge1.5(POなどが挙げられる。
【0015】
固体電解質層12における固体電解質の粒子1の平均粒子径は、例えば、50μmから100μmの範囲が好ましい。なお、本明細書では「平均粒子径」とは、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定される体積基準の粒度分布におけるメディアン径(50%粒子径)をいう。また、固体電解質層12の厚さは、例えば、300μmから500μmの範囲が好ましい。
【0016】
負極層13は、負極活物質として、M(BHで表される化合物(Mは、Mg、Ca、Mn及びZnから成る群から選ばれた一以上の元素)の粒子2を含む層である。負極活物質としてM(BHで表される化合物を用いることで、以下の反応式1に示すように、放電過程で負極層13にイオン伝導性物質を自己生成することができるため、負極活物質の粒子2と固体電解質の粒子1との間の隙間を埋め、密着性が向上して界面抵抗を低減することができる。なお、以下の反応式は、正極活物質としてリチウム系材料を用いた場合である。
M(BH+2Li+2e→M+2LiBH・・・・(反応式1)
【0017】
また、このように放電過程で負極層13にLiBHといったイオン伝導性物質が自己生成するため、あらかじめ負極層13にイオン伝導性物質として固体電解質の粒子1を含有させる必要が無い。後述する図2に示す全固体電池20のように、負極層23に予め固体電解質層22と同様の固体電解質の粒子1をイオン伝導性物質として混合する手法では、負極層23中に本来必要なイオン伝導性物質の量より多くの量の固体電解質の粒子1を混合することから、相対的に負極活物質の粒子2の量が少なくなり、実質的な負極容量を減らすおそれがあった。よって、負極層13では固体電解質の粒子1を含有しない分、相対的に負極活物質の粒子2を多く保有することができ、実質的な負極容量を増やすことができる。
【0018】
負極層13は、M(BHで表される化合物の粒子2に加えて、必要により、導電助剤の粒子3を含んでもよい。導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック等の高導電性カーボンブラック、黒鉛、コークスや、Ni粉末、Cu粉末、Ag粉末等の金属粉末などが挙げられる。負極層13中のM(BHで表される化合物の含有率については、例えば、40重量%以上が好ましく、60重量%以上がより好ましく、70重量%以上が更に好ましい。負極層13中のM(BHで表される化合物の含有率の上限は、特に限定されないが、例えば、85重量%以下が好ましく、70重量%以下がより好ましい。負極層13中の導電助剤の含有率については、例えば、15重量%から40重量%の範囲が好ましく、25重量%から35重量%の範囲がより好ましい。なお、負極層13は、固体電解質の粒子1を一切含まない。
【0019】
負極層13におけるM(BHで表される化合物の粒子2の平均粒子径は、例えば、5μmから30μmの範囲が好ましく、5μmから20μmの範囲がより好ましい。負極層13における導電助剤の粒子3の平均粒子径は、例えば、1μmから10μmの範囲が好ましく、1μmから5μmの範囲がより好ましい。また、負極層13の厚さは、例えば、2μmから100μmの範囲が好ましい。
【0020】
全固体電池10は、必要により、正極層11に正極集電体(図示省略)や負極層13に負極集電体(図示省略)を備えてもよい。正極集電体および負極集電体の材料としては、例えば、プラチナ、銅、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、アルミニウムなどを用いることができる。
【0021】
また、第2の実施形態の全固体電池20は、図2に示すように、正極層21と、負極層23と、正極層21と負極層23との間に位置する固体電解質層22とを備える。この全固体電池20は、負極層23の構成を除いて、第1の実施形態の全固体電池10と同様の構成を有する。負極層23は、図2に示すように、M(BHで表される化合物(Mは、Mg、Ca、Mn及びZnから成る群から選ばれた一以上の元素)の粒子2と、導電助剤の粒子3に加えて、固体電解質の粒子1を含む。これら粒子1~3については第1の実施の形態と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0022】
負極層23中のM(BHで表される化合物の含有率については、例えば、30重量%から70重量%の範囲が好ましく、35重量%から60重量%の範囲がより好ましい。負極層23中の導電助剤の含有率については、例えば、15重量%から40重量%の範囲が好ましく、25重量%から35重量%の範囲がより好ましい。負極層23中の固体電解質の含有率については、例えば、15重量%から40重量%の範囲が好ましく、25重量%から35重量%の範囲がより好ましい。
【0023】
このように負極層23は、固体電解質層22と同様の固体電解質の粒子1をイオン伝導性物質として予め含む。但し、充放電の際に負極層23中の全ての固体電解質の粒子1が電極反応に寄与しているわけではなく、電極反応に寄与していない固体電解質の粒子1も負極層23中に点在することから、負極層23中に本来必要なイオン伝導性物質の量より多くの量の固体電解質の粒子1を混合することとなる。よって、第1の実施の形態の全固体電池10の負極層13よりも相対的に負極活物質の粒子2の量が少なくなり、実質的な負極容量が減るものの、本発明は、負極層23に固体電解質の粒子1を予め含む実施の形態を完全に排除するものではない。
【実施例
【0024】
[1.電池特性評価用セルの作製]
図3に示す電池特性評価用セル30を作製した。電池特性評価用セル30は、対極層31、負極層33、対極層と負極層との間に配置された固体電解質層32とを備える。この電池特性評価用セル30は、ステンレス鋼製の拘束枠34で積層方向に一定の圧力によって拘束した。拘束枠34の上枠板34eと下枠板34bの両端は、それぞれ縦枠材34b、34cを介して接続した。これら拘束枠の各部材34b~34eはそれぞれOリング35を介して接続した。そして、拘束枠34内に位置し、上枠板34eにバネ36を介して設けられた調整板34aと下枠板34bとの間で、電池特性評価用セル30を挟んだ。
【0025】
対極層31としては、リチウム金属(Li)箔(直径10mm、厚さ150μm)を用いた。固体電解質層32の材料としては、LiBH粒子(Sigma-aldrich社製、平均粒子径300μm)を30mg用いた。負極層33の材料としては、Mg(BH粒子(Sigma-aldrich社製、平均粒子径30μm)とアセチレンブラック(AB)粒子(デンカ社製、一次粒子径36nm)を7:3の重量比で合計6mg用い、400rpm、2時間のボールミル混合を行った。そして、固体電解質層32は、上記材料を20kNの荷重で一軸加圧してペレット状に成形した。また、負極層33は、上記混合材料を30kNの荷重で一軸加圧してペレット状に成形した。これら作業は、グローブボックス中のプレス機で行った。これら二層のペレットに上記Li箔を張り付けて、電池特性評価用セルを作製した(実施例1)。
【0026】
[2.充放電測定]
充放電試験装置(ナガノ社製、品番:BTS2004H)を用いて、温度120℃、電流密度0.5mA/cm-2、電圧範囲0.3V-1.5Vvs.Li/Liの条件で、上記にて作製した電池特性評価用セル30の充放電試験を行った。その結果を図4に示す。また、結果の検証のため、負極層33の材料として、LiBH粒子を更に加え、Mg(BH:LiBH:ABを4:3:3の重量比で混合したことを除いて実施例1と同様に作製した電池特性評価用セル(実施例2)についても同様に充放電試験を行った。その結果を図5に示す。
【0027】
図4図5に示すように、実施例1、実施例2のいずれも0.5mAcm-2の大電流で約0.9Vのフラットな放電プラトーが得られた。また、実施例1では、負極層にイオン伝導性物質を混合しなくても実施例2と同様に放電反応が進行した。また、図6に実施例1、2の1~15サイクルまでの可逆容量を示した。負極層中にLiBHが入っていなくても充放電が進行し、3サイクル目までと12サイクル目以降はむしろLiBHが入っていない方が可逆容量は大きかった。

この結果から、上記の反応式1に示すように、放電によってイオン伝導性物質としてLiBHが負極層側で自己生成していることが推測される。
【0028】
また、実施例1の放電前後の負極層側について、X線回折測定装置(Rigaku社製、品番:MiniFlex 600)を用いてそれらの回析パターンを得た結果を図7に示す。放電後にLiBHとMgのピークが観測されることから、上記の結果を確認することができた。
【0029】
なお、上記の実施例では負極活物質としてMg(BHを用いたが、類似する構成であり、反応も同様と考えられることから、負極活物質としてCa(BH、Mn(BH、Zn(BHを用いても同様にイオン伝導性物質としてLiBHを自己生成すると推測される。
【符号の説明】
【0030】
10 全固体電池
20 全固体電池(比較例)
30 電池特性評価用セル
11、21 正極層
12、22、32 固体電解質層
13、23、33 負極層
31 対極層
34 拘束枠
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7