(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】マイクロマニピュレータ 並びにマイクロマニピュレータによる観察・操作方法
(51)【国際特許分類】
G02B 21/32 20060101AFI20240724BHJP
B25J 7/00 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
G02B21/32
B25J7/00
(21)【出願番号】P 2020095498
(22)【出願日】2020-06-01
【審査請求日】2023-03-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年3月2日に、「ミリングスコープMS-1」を掲載した総合カタログの頒布、および、郵送の受付けを開始した。
(73)【特許権者】
【識別番号】506321908
【氏名又は名称】株式会社マイクロサポート
(74)【代理人】
【識別番号】100086438
【氏名又は名称】東山 喬彦
(74)【代理人】
【識別番号】100217168
【氏名又は名称】東山 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】松本 泰治
(72)【発明者】
【氏名】浜野 光太
【審査官】殿岡 雅仁
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-115667(JP,A)
【文献】特開2012-015028(JP,A)
【文献】特開2008-052232(JP,A)
【文献】特開2013-072996(JP,A)
【文献】登録実用新案第3145830(JP,U)
【文献】特表2016-538581(JP,A)
【文献】特開2007-233248(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第04039581(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 21/00 - 21/36
B25J 1/00 - 21/02
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステージ上に載置された対象物たる試料を拡大視する顕微鏡本体と、
この試料に微細な操作を施すためのアクセスツールを有したマニピュレータ本体とを具えて成るマイクロマニピュレータであって、
前記顕微鏡本体とマニピュレータ本体とは、同一の支持機構によって台座部の上方に取り付けられて成り、
且つこの支持機構による顕微鏡本体とマニピュレータ本体との支持は、顕微鏡本体の中心線に対して、所定の角度でマニピュレータ本体を取り付けて成る支持構造であり、
更に前記支持機構は、顕微鏡本体とマニピュレータ本体とを全体的に適宜の角度回動させて、マニピュレータ本体が試料にアクセスする操作姿勢を、顕微鏡本体で試料を観察する観察姿勢に変更する構成であ
り、
更に前記顕微鏡本体の観察姿勢と、マニピュレータ本体の操作姿勢との各姿勢は、各々ロックされるものであり、
且つ前記マニピュレータ本体の操作姿勢を、試料の真上方向に位置させた垂直姿勢とした際、試料の真上方向でない傾斜姿勢をとった顕微鏡本体によって試料が観察できるように、
前記顕微鏡本体とマニピュレータ本体との取付角度の中心位置は、顕微鏡本体の実用焦点範囲に設定されることを特徴とするマイクロマニピュレータ。
【請求項2】
前記支持機構は、顕微鏡本体とマニピュレータ本体とを全体的に回動させる際の持ち手となる操作部材を具えることを特徴とする請求項
1記載のマイクロマニピュレータ。
【請求項3】
顕微鏡本体の中心線に対してマニピュレータ本体が所定の角度で取り付けられ、試料を載置するステージに対し、顕微鏡本体とマニピュレータ本体とが全体的に回動自在に構成されたマイクロマニピュレータによる観察・操作方法であって、
前記ステージ上の試料を顕微鏡本体で観察する観察姿勢は、顕微鏡本体を試料の真上方向に位置させる垂直姿勢であり、その後、マニピュレータ本体によって当該試料にアクセスするには、前記顕微鏡本体と前記マニピュレータ本体とを全体的に適宜の角度回動させて、マニピュレータ本体を、前記ステージ上の試料に対し真上方向からアクセスする垂直姿勢に姿勢変更するものであり、また当該姿勢変更に伴い傾斜姿勢となった前記顕微鏡本体により試料を観察しながら、垂直姿勢の前記マニピュレータ本体のアクセスツールによって試料への操作を行うことを特徴とする、マイクロマニピュレータによる観察・操作方法。
【請求項4】
前記傾斜姿勢となった顕微鏡本体による試料の観察は、当該顕微鏡本体からの出力により表示されるモニター画面で前記ステージ上の試料を映し出して観察することを特徴とする請求項3記載の、マイクロマニピュレータによる観察・操作方法。
【請求項5】
前記マニピュレータ本体のアクセスツールは圧子であり、この圧子を試料に押し込んで、試料の硬さを計測することを特徴とする請求項3または4記載の、マイクロマニピュレータによる観察・操作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステージ上に載置された対象物たる試料を拡大視する顕微鏡本体と、当該試料に微細な作業を行うマニピュレータ本体とを具え、例えばマイクロマシン、微細加工、細胞操作等のバイオニクス技術、半導体等の微小部品の組み立てへの利用に適したマイクロマニピュレータ並びにマイクロマニピュレータによる観察・操作方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、ステージ上に載置された対象物たる試料から極小サイズの異物を採取する等、微細な作業を試料に施すにあたり、顕微鏡(顕微鏡本体)とマニピュレータ(マニピュレータ本体)とを具えたマイクロマニピュレータが知られている。
このマイクロマニピュレータの基本的な構造は、ステージに載置された試料の真上方向に顕微鏡が保持される一方、当該顕微鏡に対しマニピュレータを傾斜状態に配置する構造が多い。
【0003】
このようなマニピュレータにあっては、試料に微細な作業を施す実操作において、顕微鏡でステージ上に載置された試料を真上から覗くように観察しながら、この試料に対し斜め上方からマニピュレータに取り付けられたアクセスツールによって、試料にアクセスすることがあった。この場合、顕微鏡による観察時には試料の真上方向から覗く平面視状態であり(これを観察姿勢とする)、一方、試料へのアクセス時にはマニピュレータによって試料の斜め上方からアクセスする状態となり(これを操作姿勢とする)、これら観察姿勢と操作姿勢とが異なるものであった(例えば特許文献1・2参照)。
なお、顕微鏡を垂直姿勢とし、試料を真上から観察する理由は、以下のような理由が挙げられる。すなわち、例えば試料中の異物を採取する場合、その位置が明確に測定でき、また試料の外形や中心位置も真上からの観察により正確に割り出すことができるものである。更に、試料の奥行き寸法も真上から観察した方が正確に計測することができるものである。
【0004】
しかしながら、顕微鏡による観察姿勢と、マニピュレータによる操作姿勢とが異なると、試料に対し微細な操作を目的とするマイクロマニピュレータにおいては、姿勢の相違に起因する微妙なズレが生じ、マニピュレータによるアクセス時、試料の所望位置に正確にアクセスすることが極めて難しく、これが問題となっていた。換言すれば、マイクロマニピュレータ関連技術では、このような姿勢の相違に起因する微妙なズレも無視できないほど、微細且つ精密な作業が要求されてきており、これを根本的に且つシンプルな構造で解決することが大きな課題となっていた。
【0005】
もちろんステージ上に載置された試料にアクセスするにあたっては、試料の真上方向にマニピュレータを位置させた垂直姿勢(鉛直姿勢)として、試料の真上方向からアクセスしなければならない作業もある。具体的には、例えば試料に対し真っ直ぐな孔を開ける場合や、圧子(針)を試料に接触させて、硬さ(軟らかさ)を計測するような場合等が挙げられる。
このような場合、垂直姿勢とした顕微鏡で試料を観察した際に、つまり試料を真上方向から観察した際に、その後に操作するアクセスツールの位置や移動量・加工量等を事前に記憶しておき、そのデータに基づいて垂直姿勢としたマニピュレータで試料にアクセスすることも行われている。
しかしながら、このような手法でマニピュレータにより試料にアクセスする際には、その様子を画像で確認できないため、精度的な問題、心理的な心配、難しい操作となること等が問題であり、試料を観察しながら、操作を行いたいという要望があった。
【0006】
また、試料の観察と、試料へのアクセス(操作)とは、一回ずつ行ったらサンプリング等の全体作業が終了するということはほとんどなく、実際には、例えばこれらを交互に複数回、繰り返すことが求められる。具体的には、サンプリングでは、サンプリング数が一つではなく、その後の検査の正確性を期すために何回か繰り返してサンプリングするのが一般的である。このような場合、試料の観察と、試料へのアクセスとの切り替えが、ピント合わせも含めてスムーズに行えないと、トータルの作業時間が過大となってしまい、極めて煩わしい作業となってしまう。そのため、このような観察とアクセスとの切り替えが、簡易な構造で且つスムーズに行えるマイクロマニピュレータの開発も極めて大きな要望としてあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平11-10564号公報
【文献】特開2008-52232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような背景を認識してなされたものであって、シンプルな構造でマニピュレータによる操作姿勢を、顕微鏡による観察姿勢、例えば垂直姿勢に合致させ得るようにして、マニピュレータによって試料にアクセスする際には、観察状態とズレが生じないようにし、且つ顕微鏡による観察を行いながらマニピュレータによって試料にアクセスすることができ、更にはマニピュレータの操作姿勢または顕微鏡の観察姿勢への切り替えが簡易に行えるようにした新規なマイクロマニピュレータ並びにマイクロマニピュレータによる観察・操作方法の開発を技術課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
まず請求項1記載のマイクロマニピュレータは、
ステージ上に載置された対象物たる試料を拡大視する顕微鏡本体と、
この試料に微細な操作を施すためのアクセスツールを有したマニピュレータ本体とを具えて成るマイクロマニピュレータであって、
前記顕微鏡本体とマニピュレータ本体とは、同一の支持機構によって台座部の上方に取り付けられて成り、
且つこの支持機構による顕微鏡本体とマニピュレータ本体との支持は、顕微鏡本体の中心線に対して、所定の角度でマニピュレータ本体を取り付けて成る支持構造であり、
更に前記支持機構は、顕微鏡本体とマニピュレータ本体とを全体的に適宜の角度回動させて、マニピュレータ本体が試料にアクセスする操作姿勢を、顕微鏡本体で試料を観察する観察姿勢に変更する構成であり、
更に前記顕微鏡本体の観察姿勢と、マニピュレータ本体の操作姿勢との各姿勢は、各々ロックされるものであり、
且つ前記マニピュレータ本体の操作姿勢を、試料の真上方向に位置させた垂直姿勢とした際、試料の真上方向でない傾斜姿勢をとった顕微鏡本体によって試料が観察できるように、
前記顕微鏡本体とマニピュレータ本体との取付角度の中心位置は、顕微鏡本体の実用焦点範囲に設定されることを特徴として成るものである。
【0010】
また請求項2記載のマイクロマニピュレータは、請求項1記載の要件に加え、
前記支持機構は、顕微鏡本体とマニピュレータ本体とを全体的に回動させる際の持ち手となる操作部材を具えることを特徴として成るものである。
【0011】
また請求項3記載のマイクロマニピュレータによる観察・操作方法は、
顕微鏡本体の中心線に対してマニピュレータ本体が所定の角度で取り付けられ、試料を載置するステージに対し、顕微鏡本体とマニピュレータ本体とが全体的に回動自在に構成されたマイクロマニピュレータによる観察・操作方法であって、
前記ステージ上の試料を顕微鏡本体で観察する観察姿勢は、顕微鏡本体を試料の真上方向に位置させる垂直姿勢であり、その後、マニピュレータ本体によって当該試料にアクセスするには、前記顕微鏡本体と前記マニピュレータ本体とを全体的に適宜の角度回動させて、マニピュレータ本体を、前記ステージ上の試料に対し真上方向からアクセスする垂直姿勢に姿勢変更するものであり、また当該姿勢変更に伴い傾斜姿勢となった前記顕微鏡本体により試料を観察しながら、垂直姿勢の前記マニピュレータ本体のアクセスツールによって試料への操作を行うことを特徴として成るものである。
【0012】
また請求項4記載のマイクロマニピュレータによる観察・操作方法は、請求項3記載の要件に加え、
前記傾斜姿勢となった顕微鏡本体による試料の観察は、当該顕微鏡本体からの出力により表示されるモニター画面で前記ステージ上の試料を映し出して観察することを特徴として成るものである。
【0013】
また請求項5記載のマイクロマニピュレータによる観察・操作方法は、請求項3または4記載の要件に加え、
前記マニピュレータ本体のアクセスツールは圧子であり、この圧子を試料に押し込んで、試料の硬さを計測することを特徴として成るものである。
【発明の効果】
【0014】
これら各請求項記載の発明の構成を手段として前記課題の解決が図られる。
まず請求項1記載の発明によれば、顕微鏡本体とマニピュレータ本体とが、同一の支持機構に一体状態で取り付けられ、またこの支持機構を適宜の角度、回動させることによって、マニピュレータ本体の操作姿勢を、顕微鏡本体の観察姿勢に姿勢変更させるものであるから、極めてシンプルな構造の下に姿勢の切り替えが行える。また顕微鏡本体によって試料を観察した姿勢で、マニピュレータ本体による試料へのアクセス操作が行え、操作姿勢を観察姿勢と一致させることができるため、試料にアクセスする際、観察状態とのズレがなく、正確に試料にアクセスすることができる。
また本発明によれば、顕微鏡本体とマニピュレータ本体との取付角度の中心位置が、顕微鏡本体の実用焦点範囲に設定されるため、例えば試料の真上方向でない傾斜姿勢をとった顕微鏡本体によって試料を観察しながら、垂直姿勢をとったマニピュレータ本体によって真上方向から試料にアクセスすることができる。より詳細には、例えば試料の軟らかさ(硬さ)を接触式の圧子(針)で計測する場合には、圧子が試料に接触したときの微妙な抵抗変化を数値だけで判断することは難しく、そのためこのような場合には顕微鏡本体で試料を観察しながら、圧子による接触時点を判別する必要があり、このような作業、すなわち試料を観察しながら同時に真上方向から試料にアクセスする作業が極めて行い易くなる。
また顕微鏡本体とマニピュレータ本体とを、ともに回動させている間は、顕微鏡本体の焦点位置は実用焦点範囲に維持されるため、例えばマニピュレータ本体による操作終了後、顕微鏡本体を観察姿勢に切り替えて再度、試料を観察する際にも、作業者の手動操作による微調整だけで焦点を合わせることができ、より一層、使い勝手の良いマイクロマニピュレータを提供し得る。
【0015】
また請求項2記載の発明によれば、顕微鏡本体とマニピュレータ本体とを全体的に回動させるために、レバー等の操作部材を具えるから、正確に且つ確実にこれら二つの本体を一緒に回動させることができ、回動作業が極めて行い易くなる。
【0016】
また請求項3または5記載の発明によれば、試料の真上方向でない傾斜姿勢をとった顕微鏡本体によって試料を観察しながら、垂直姿勢をとったマニピュレータ本体によって真上方向から試料にアクセスすることができる。より詳細には、例えば試料の軟らかさ(硬さ)を接触式の圧子(針)で計測する場合には、圧子が試料に接触したときの微妙な抵抗変化を数値だけで判断することは難しく、そのためこのような場合には顕微鏡本体で試料を観察しながら、圧子による接触時点を判別する必要があり、このような作業、すなわち試料を観察しながら同時に真上方向から試料にアクセスする作業が極めて行い易くなる。
【0017】
また請求項4記載の発明によれば、垂直姿勢とは異なる画像にはなるものの、試料をモニター画像で明確に観察しながら、マニピュレータ本体による操作を確認することができ、アクセスツールによる操作の進行や完了の確認・観察が同時に且つ確実に行える。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】顕微鏡本体をステージ上に載置された試料の真上方向に位置させた垂直姿勢(観察姿勢)で示す本発明のマイクロマニピュレータの斜視図(a)、並びに顕微鏡本体とマニピュレータ本体とを全体的に回動させて、観察姿勢(顕微鏡本体の観察姿勢)または操作姿勢(マニピュレータ本体の操作姿勢)に変更するようにした様子を示す説明図(b)である。
【
図2】顕微鏡本体を、試料の真上方向から観る垂直姿勢(観察姿勢)に設定したマイクロマニピュレータを示す右側面図(a)、並びに左側面図(b)である。
【
図3】マニピュレータ本体を垂直姿勢(操作姿勢)に設定したマイクロマニピュレータを示す右側面図(a)、並びに左側面図(b)である。
【
図4】マニピュレータ本体を垂直姿勢(操作姿勢)に設定したマイクロマニピュレータを示す斜視図である。
【
図5】一基の顕微鏡本体と、二基のマニピュレータ本体とを設けたマイクロマニピュレータの改変例を示す右側面図である。
【
図6】顕微鏡本体とマニピュレータ本体とを全体的に回動させるにあたり、円弧状のレールを適用するようにしたマイクロマニピュレータの改変例を示す斜視図である。
【
図7】顕微鏡本体とマニピュレータ本体との姿勢切り替えをレボルバータイプの旋回方式としたマイクロマニピュレータの
参考例
(本発明に関連する参考例)を示す説明図(a)・(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態は、以下の実施例に述べるものをその一つとするとともに、更にその技術思想内において改良し得る種々の手法をも含むものである。
【実施例】
【0020】
本発明のマイクロマニピュレータ1は、一例として
図1~
図4に示すように、顕微鏡本体20(顕微鏡2)とマニピュレータ本体30(マニピュレータ3)とを、架台(顕微鏡での鏡台)となる台座部4に設けて成るものである。ここで「顕微鏡」や「マニピュレータ」について「本体」と称したのは、例えば顕微鏡であれば、通常、鏡筒部分などの鏡基のみならず、鏡台部分までをも含めた全体を指すが、本発明では、顕微鏡2とマニピュレータ3の台座部4が共通となっており、そのため台座部4を除いた顕微鏡部位を顕微鏡本体20と称したものである。また同様に、台座部4を除いたマニピュレータ部位をマニピュレータ本体30と称したものである。
また本明細書に記載する「マニピュレータ(マイクロマニピュレータ)」とは、例えば試料Wにドリル(ミリングドリル)によって微細な孔を開ける作業、試料Wから微細な分析片や異物を採取する(取り出す)サンプリング作業、試料Wに圧子を接触させて硬さ(軟らかさ)を計測する作業など、試料Wに微細な操作を施す作業を行う装置を指すが、幾らか離れた位置から試料Wにレーザーを照射して微細なマーキングを施す作業、試料Wの一部に超音波などを照射する作業など、試料Wに直接接触しない微細な作業も行い得る装置も想定され得る。
【0021】
また顕微鏡本体20とマニピュレータ本体30とは、同一の支持機構5によって台座部4の上方に保持されている。この支持機構5による各本体の支持は、顕微鏡本体20の中心線L2に対して、所定の角度でマニピュレータ本体30を取り付けるようにした支持形態を採る。
更に当該支持機構5は、顕微鏡本体20とマニピュレータ本体30とを、一体状態で適宜の角度回動させて、マニピュレータ本体30が試料Wにアクセスする操作姿勢を、顕微鏡本体20が試料Wを観察する観察姿勢、特に本実施例では試料Wの真上方向に位置する垂直姿勢に変更し、両姿勢を一致させるように構成している。
【0022】
以下、顕微鏡本体20について説明する。
顕微鏡本体20は、台座部4のステージ42上に載置された試料Wを拡大視するものであり、鏡筒を主な構成部材として成る。ここで図中符号「L2」は、上述したように顕微鏡本体20の中心線(光軸)である。また図中符号「F」は、顕微鏡本体20の焦点である。
なお、通常、顕微鏡に関する技術分野で「焦点(が合う)」と言えば、観察した顕微鏡画像がぼやけることなく明確に見え、画像のピントが厳密に合うことを指すが(極めて狭い範囲)、本発明においては、ここまでの厳密な意味での焦点Fではなく、実用上、支障がない程度にピントを合わせることができ、最終的にピントを厳密に合わせるには、作業者の手動操作による微調整によって容易にピント合わせができることを指しており、これを「実用焦点範囲」と称している。特に、ここでは顕微鏡本体20とマニピュレータ本体30とを一体で回動させており、回動後も顕微鏡本体20の焦点Fが実用焦点範囲に収まるように構成されている。
【0023】
次に、マニピュレータ本体30について説明する。
マニピュレータ本体30は、台座部4のステージ42上に載置された試料Wに、上述したような微細な操作(作業)を施すものであり、実際には本体先端部に具えたアクセスツール31によって試料Wに微細な操作を施すものである。
ここでマニピュレータ本体30が試料Wに施す微細な操作としては、上述したように必ずしもアクセスツール31が試料Wに直接接触する操作に限定されるものではなく、試料Wに対し幾らか離れた位置から、超音波、紫外線、赤外線等を照射するような非接触式の操作も含まれる。
また、このようなことから、アクセスツール31についても、試料Wに直接接触するドリルや、試料Wに触れてマーキングや硬度を計測する圧子の他、非接触式の計測器や上記のような照射機器も含まれる。
なお、図中符号「L3」は、マニピュレータ本体30の中心線である。
【0024】
次に、台座部4について説明する。
台座部4は、上述したように顕微鏡本体20やマニピュレータ本体30の取り付けベースとなる架台であり、本実施例では、ほぼ直方体状に形成され、ここを台座部本体41とする。
台座部本体41は、顕微鏡本体20による観察や、マニピュレータ本体30による微細な操作が安定して行えるように、丈夫で且つ優れた耐久性・耐震性を有するように、また相応の重量を有するように形成される。また、台座部本体41には、光源装置や電源ユニットも内蔵される。
そして、この台座部本体41の上部に、試料Wを載置するためのステージ42が設けられており、本実施例ではステージ42が台座部本体41から上方に突出した円柱状に形成される。なお、このステージ42自体は、台座部本体41に対して上下昇降自在に形成される。
【0025】
次に、支持機構5について説明する。
支持機構5は、上述したように顕微鏡本体20とマニピュレータ本体30とを一体状態で取り付け、これらを台座部4のステージ42上に保持する機構である。
支持機構5は、一例として上記
図1~
図4に示すように、台座部本体41の外周端縁から固定状態に立ち上げられた保持ステー51と、例えば概ね扇形の板状を成す回動自在の取付体52とを具えて成り、この取付体52に対し、顕微鏡本体20とマニピュレータ本体30とが固定される。
各本体の固定状況について更に説明すると、顕微鏡本体20の中心線L2に対して、マニピュレータ本体30を所定の角度で取り付け(一例として35度前後)、この所定の角度を確保するために、前記取付体52が略扇形状に形成されている。
また、本実施例では、顕微鏡本体20とマニピュレータ本体30との取付角度の中心位置は、顕微鏡本体20の焦点Fに設定されている。なお、この焦点Fとは、上述したように顕微鏡本体20の実用焦点範囲を指す。
【0026】
更に、当該支持機構5は、顕微鏡本体20とマニピュレータ本体30とを一体で適宜の角度(前記取付体52に固定された取付角度)回動させる姿勢変更構造6を具えるものであり、これによりマニピュレータ本体30が試料Wにアクセスする操作姿勢を、顕微鏡本体20の観察姿勢、特に本実施例では垂直姿勢に変更し、合致させるように構成される。
すなわち、姿勢変更構造6は、台座部本体41から立ち上げられた保持ステー51に対し、支持機構5を構成する取付体52を全体的に回動自在として構成される。ここで本実施例では、マニピュレータ本体30の操作姿勢及び顕微鏡本体20の観察姿勢は、上述したように、ともに試料Wを真上方向から観る垂直姿勢としている。このため観察時にはステージ42上に載置された試料Wの真上方向に顕微鏡本体20が位置し、これが観察姿勢となる。因みに、このときマニピュレータ本体30は、適宜の角度、傾斜した姿勢をとる。
一方、ステージ42上の試料Wにマニピュレータ本体30がアクセスする、ツール使用時には、支持機構5すなわち顕微鏡本体20とマニピュレータ本体30とを一体で適宜の角度回動させて、マニピュレータ本体30をステージ42の真上方向に位置する垂直姿勢に位置させるように姿勢変更するものであり、これがマニピュレータ本体30の操作姿勢となる。因みに、このとき顕微鏡本体20が、適宜の角度、傾斜した姿勢をとる。
【0027】
次に、姿勢変更構造6において、顕微鏡本体20の観察姿勢やマニピュレータ本体30の操作姿勢で各本体の姿勢をロックするための一構成例について説明する。
まず図中符号53は、取付体52の回動中心となる回動軸であり(
図2(b)・
図3(b)参照)、台座部4に固定された保持ステー51から略扇形状の取付体52に達するように設けられる。
この回動軸53には、外方端部に適宜の距離、引き出すことができるノブ54が設けられており、ノブ54の奥側には、図示は省略するが、前記回動軸53に噛み合い、このものの回転を止めるクラッチが設けられている(いわゆるクラッチ機構)。
これによりノブ54を奥側、つまり回動軸53側に押し込むと、クラッチ機構が噛み合って、回動軸53が回転しないようにロックされる。一方、ノブ54を外側に引き出すと、前記噛み合い状態のクラッチ機構を解除することができ、回動軸53が回転自在となるものである。
【0028】
また、図中符号55は、支持機構5に設けられた操作部材たるレバーであり、この操作部材55は、作業者が顕微鏡本体20とマニピュレータ本体30とを一体で回動させる際の持ち手となる。すなわち、顕微鏡本体20またはマニピュレータ本体30の姿勢を変更する場合、作業者は、上記レバーなどの操作部材55を握った後、回動軸53を中心として取付体52を全体的に回動させることで、顕微鏡本体20とマニピュレータ本体30とを、ともに適宜の角度、回動させることができる。もちろん回動時には、上記クラッチ機構は、ノブ54を引き出すことで解除しておくものである。
なお、本実施例では操作部材55として、持ち手の片側のみが支持された、いわゆる片持ちタイプのレバーが図示されているが、操作部材55は、必ずしもこれに限定されるものではなく、いわゆる両支持タイプのバー状のものでも構わない。要は操作部材55として、作業者がホールドし易いものであればよく、種々の形状・形態が採り得る。
因みに、姿勢変更構造6を構成する部材としては、上述した取付体52、回動軸53、ノブ54、操作部材55が挙げられる。
【0029】
またマイクロマニピュレータ1は、既に述べたように対象物となる試料Wに微細な操作を施すことを目的としており、これに因み、図示は省略するものの、モニターを具えたコンピュータ装置と接続されており、実作業においては顕微鏡本体20で観察した画像をモニター上に拡大状態で映し出し、観察されるのが一般的である。
また、マニピュレータ本体30のアクセスツール31によって試料Wにアクセスする際にも、アクセスツール31を試料Wに接触させる指令やその移動量等は、モニター画面上に表示されるマウスポインタや、コンピュータ装置のキーボード操作等によって制御し得るように構成されている。
【0030】
本発明のマイクロマニピュレータ1は、以上のような基本構造を有するものであり、以下、このマイクロマニピュレータ1によって試料Wに微細な操作を行う際の作動態様について説明する。なお、以下の説明においては、一例として
図1(a)・
図2に示すように、当初、顕微鏡本体20が観察姿勢、すなわちステージ42上に載置された試料Wを真上方向から観る垂直姿勢に設定されているものとする。もちろん、この状態では、マニピュレータ本体30は、斜めになった傾斜姿勢(例えば鉛直方向から35度前後傾いた姿勢)をとることになる。
(1)試料のセッティング
まず、ステージ42上に対象物となる試料Wを載置し、セッティングを行う。
【0031】
(2)顕微鏡本体による観察
ステージ42上に試料Wをセッティングしたら、ここでは上述したように、あらかじめ顕微鏡本体20が観察姿勢つまり垂直姿勢に設定されているため、ステージ42を上昇(または下降)させ、試料Wの高さ位置を、顕微鏡本体20の焦点Fつまり実用焦点範囲に設定する。
なお、本実施例では保持ステー51が、台座部本体41から固定状態に立ち上げられているため、ステージ42を上下動させるように説明したが、保持ステー51が上下動できるように構成されている場合には、この保持ステー51を上昇または下降させることも可能である。
もちろん、マニピュレータ本体30による試料Wへの操作内容によっては、ステージ42と保持ステー51との双方を上下動自在に構成することもある。具体的には、アクセスツール31として圧子の押し込みによって試料Wの硬さを計測する場合等には、圧子を試料Wに接触させた段階で0点を設定しておいてから、その圧子を試料Wに適宜の距離押し込むようにする。従って、このような場合には0点設定時にステージ42を上昇させ、その後、圧子を押し込む際に保持ステー51を下降させるために、ステージ42と保持ステー51との双方を上下動自在に構成する。
因みに、顕微鏡本体20で観察している試料Wの画像は、上述したように例えばコンピュータ装置のモニター画面に拡大状態で表示される。
その後、例えばマニピュレータ本体30による操作に備え、操作のためのアクセス量、すなわちアクセスツール31の移動量を算出・決定する。ここで試料Wは、顕微鏡本体20の観察姿勢において焦点Fに位置しているため、この焦点距離を基準としてアクセスツール31の移動量を容易に且つ正確に算出・決定することができる。
【0032】
(3)操作姿勢に姿勢変更
次いで、マニピュレータ本体30を、一例として
図1(b)に示すように操作姿勢、すなわちステージ42上に載置された試料Wに対し真上方向からアクセスする垂直姿勢に姿勢変更する。
これには、まず回動軸53に噛み合っているノブ54を外側に引き出すように引っ張り、クラッチ機構を解除する。その後、顕微鏡本体20とマニピュレータ本体30とが一体状態で取り付けられている取付体52を、全体的に適宜の角度回動させて(本実施例では35度前後のスイング回動)、
図3・
図4に示すようにマニピュレータ本体30を垂直姿勢に設定する。もちろん、この状態では、今度は顕微鏡本体20が、斜めになった傾斜姿勢を呈することになる。なお、この際の顕微鏡本体20の傾斜姿勢は、鉛直方向から35度前後傾いた姿勢であるが、当初のマニピュレータ本体30の傾斜姿勢とは反対側に傾いた傾斜姿勢となる(
図1(b)参照)。
このようにして姿勢変更が終了したら、ノブ54を回動軸53側に押し込み、クラッチ機構によるロックを行い、取付体52が回転しないようにする。これによりマニピュレータ本体30の操作姿勢が、顕微鏡本体20の観察姿勢、特に本実施例では垂直姿勢に維持される。
【0033】
(4)試料への操作
このようにしてマニピュレータ本体30を、顕微鏡本体20の観察姿勢に変更した後、マニピュレータ本体30のアクセスツール31によって試料Wにアクセスする。
ここで本発明では、顕微鏡本体20によって試料Wを観察した観察姿勢、特に本実施例では垂直姿勢で、マニピュレータ本体30による操作を行うものである。すなわちツール使用時のマニピュレータ本体30の操作姿勢を、試料観察時と同じ姿勢(顕微鏡本体20の観察姿勢)で行うものであり、このため試料Wを操作する際に、観察状態とのズレが生じることがなく、正確に且つ確実に試料Wにアクセスすることができる。
また、このとき傾斜姿勢となった顕微鏡本体20は、焦点Fが実用焦点範囲に維持されるため、適宜、作業者が手動でピント合わせの微調整を行うことにより、垂直姿勢とは異なる画像にはなるものの、試料Wをモニター画像で明確に観察しながら、マニピュレータ本体30による操作を確認することができる。つまり、傾斜姿勢となった顕微鏡本体20によって、アクセスツール31による操作の進行や完了の確認・観察が同時に且つ確実に行えるものである。
【0034】
(5)操作の確認
その後、例えば再度、取付体52を全体的に回動させ、顕微鏡本体20を当初の観察姿勢である垂直姿勢に戻し、マニピュレータ本体30による操作が間違いなく行われたことを確認する。
もちろん、ここでも取付体52の回動中、顕微鏡本体20の焦点Fの位置が実用焦点範囲に維持されるため、適宜、作業者が手動でピント合わせの微調整を行うことにより、最終的なピント合わせが容易に且つ確実に行え、スムーズにピント合わせを行うことができる。
その後、更にマニピュレータ本体30による操作が必要であれば、再度、次の操作に備えてマニピュレータ本体30のアクセス量、すなわちアクセスツール31の移動量を算出・決定する。その後、マニピュレータ本体30を、操作姿勢である垂直姿勢に姿勢変更し、試料Wにアクセスするという作業を繰り返し行う。すなわち一般的には、顕微鏡本体20による観察、姿勢切り替え、マニピュレータ本体30による操作、姿勢切り替え、・・・という操作を繰り返し行うものであり、顕微鏡本体20の焦点Fが実用焦点範囲に維持されている本実施例のマイクロマニピュレータ1にあっては、姿勢切り替えに伴う、ピント合わせが容易に且つ短時間で行え、一連の作業をスムーズに行うことができる。
【0035】
〔他の実施例〕
本発明は以上述べた実施例を一つの基本的な技術思想とするものであるが、更に次のような改変が考えられる。
まず、上述した基本の実施例では、顕微鏡本体20とマニピュレータ本体30とが一体に取り付けられた取付体52の回動角度は35度前後であった。また、この取付体52において、顕微鏡本体20とマニピュレータ本体30との成す角度(離開角度)も35度前後であった。しかしながら、これらの角度そのものは適宜変更可能である。もちろん、取付体52の回動角度と上記離開角度とは、一致させることが望ましい。
【0036】
また、上述した基本の実施例では、マニピュレータ本体30(アクセスツール31)を一基のみ設けたが、例えば
図5に示すように、マニピュレータ本体30は、二基以上の複数基、設けることが可能である。具体的には、例えば径寸法の異なる複数のドリル(ミリングドリル)をアクセスツール31として装着しておくこと等が想定される。
【0037】
また、上述した基本の実施例では、台座部4から固定状態に立ち上げた保持ステー51に対し、顕微鏡本体20とマニピュレータ本体30とを取り付けた取付体52を回動自在に設置して、顕微鏡本体20とマニピュレータ本体30とを全体的に回動させる構成とした。また、このような構成上、取付体52を概ね扇形の板状に形成した。
しかしながら、取付体52の形状・形態や、取付体52を回動させるにあたっては、必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば
図6に示すように、保持ステー51の上部に円弧状のレール57を形成しておくとともに、取付体52を、この円弧状のレール57に沿って摺動するようなブロック状に形成しておくことも可能である。すなわち、
図6に示す改変例は、円弧状のレール57を、ブロック状に形成された取付体52を回動させるためのガイドウェイとして利用するものであり、このような形態でも取付体52を適宜の角度、回動させることができる。
【0038】
また、先に述べた実施例では、顕微鏡本体20の観察姿勢と、マニピュレータ本体30の操作姿勢との切り替えは、台座部本体41から立設された取付体52の垂直平面上において、顕微鏡本体20とマニピュレータ本体30とを回動させる形態であったが、
上記切り替えにおいては、他の形態も考えられる。具体的には、例えば
図7に示すように、側面から視て顕微鏡本体20とマニピュレータ本体30との取り付け角度の中心線を回転軸(旋回軸)L5として、顕微鏡本体20とマニピュレータ本体30とを回転自在とする、いわゆるレボルバー式の回動形態
が考えられるが、これ
は本発明に
関連する参考例である。なお、図中符号59は、顕微鏡本体20とマニピュレータ本体30とを一体で取り付けて成る取付体52を、保持ステー51に対し回転軸L5を中心として旋回自在とするための軸受である。
【符号の説明】
【0039】
1 マイクロマニピュレータ
2 顕微鏡
3 マニピュレータ
4 台座部
5 支持機構
6 姿勢変更構造
20 顕微鏡本体
L2 中心線
F 焦点(実用焦点範囲)
30 マニピュレータ本体
31 アクセスツール
L3 中心線
41 台座部本体
42 ステージ
51 保持ステー
52 取付体
53 回動軸
54 ノブ
55 操作部材
57 レール
59 軸受
W 試料
L5 回転軸(旋回軸)