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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】合意形成支援システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/0631 20230101AFI20240724BHJP
【FI】
G06Q10/0631
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022575003
(86)(22)【出願日】2021-01-15
(86)【国際出願番号】 JP2021001335
(87)【国際公開番号】W WO2022153498
(87)【国際公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000198
【氏名又は名称】弁理士法人湘洋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 猛
(72)【発明者】
【氏名】宮越 美沙
(72)【発明者】
【氏名】朝 康博
(72)【発明者】
【氏名】工藤 泰幸
(72)【発明者】
【氏名】宮越 純一
【審査官】田上 隆一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-280190(JP,A)
【文献】特開2007-041652(JP,A)
【文献】特開2020-086853(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三元の価値X,Y,Zに対する選択肢に基づいて三元グラフとしての正三角形:x+y+z=1(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)を作成するグラフ生成部と、
前記選択肢に対する個人の意見、及び複数の個人の意見の集約である集団の意見の少なくとも一方を表す変数i ,i ,i を取得する取得部と、
前記三元の価値の各価値に対する前記個人の意見または前記集団の意見を表す前記変数i ,i ,i それぞれ対応する3本の線分から成る三角形を前記三元グラフ上に表示する表示部と、を備え
前記表示部は、
前記正三角形と平面x=i との交線と、
前記正三角形と平面y=i との交線と、
前記正三角形と平面z=i との交線と、の3つの交点を頂点とする前記三角形を前記正三角形上に投影する
ことを特徴とする合意形成支援システム。
【請求項2】
請求項1に記載の合意形成支援システムであって、
前記グラフ生成部は、多元の価値に対する前記選択肢を前記三元の価値X,Y,Zに対する選択肢に簡約化して前記三元グラフを作成する
ことを特徴とする合意形成支援システム。
【請求項3】
請求項1に記載の合意形成支援システムであって、
前記表示部は、前記三元グラフ上の前記三角形の重心の位置を特定し、前記個人の意見の集約点及び前記集団の意見の集約点である集団の合意可能点の少なくとも一方として表示する
ことを特徴とする合意形成支援システム。
【請求項4】
請求項1に記載の合意形成支援システムであって、
前記表示部は、前記三元の価値の各価値に対する重み付けを、前記三角形を成す前記線分の相対的な太さまたは色彩で表示する
ことを特徴とする合意形成支援システム。
【請求項5】
請求項1に記載の合意形成支援システムであって、
前記表示部は、前記三角形の重心の位置に対応する、前記三元グラフ上の前記選択肢の密度を表示する
ことを特徴とする合意形成支援システム。
【請求項6】
請求項1に記載の合意形成支援システムであって、
前記表示部は、前記個人の意見を表す前記三角形及びその重心、並びに、前記集団の意見を表す前記三角形及びその重心を同時に表示する
ことを特徴とする合意形成支援システム。
【請求項7】
請求項1に記載の合意形成支援システムであって、
前記表示部は、前記集団の意見から抽出した少数派の個人の意見を表す前記三角形及びその重心、並びに、前記集団の意見を表す前記三角形及びその重心を同時に表示する
ことを特徴とする合意形成支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合意形成支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
様々な国、地域、コミュニティにおいて、富の格差や処遇の不平等、環境汚染や文化崩壊等が社会問題となっている。これらの社会問題を扱うためには、経済価値だけでなく人間や社会、環境や文化等に関する多元の価値を考慮する必要がある。そして、社会問題を解決するためには、多様な価値観を持つステークホルダの合意形成を図りながら社会的選択を行う必要がある。
【0003】
一般的に、合意形成プロセスでは、事前のアセスメント、中途の状況把握、最終的な合意確認のためにアンケートや投票による意見調査が行われ、それらに基づいて合意形成を支援するためのファシリテーションが行われる。ファシリテーションでは、ステークホルダに調査結果を分かり易く提示することが、ステークホルダ間の相互理解を深め、合意の達成に向けた相互の歩み寄りを促すことになる。
【0004】
従来、アンケートシステムや合意形成支援システムとして、2種類の質問に対する回答を二次元平面に表示する技術や、2種類の評価軸に対する配点を三次元棒グラフや二次元平面上のバブルチャートに表示する技術等が知られている。そして、例えば、特許文献1には、個人の意見を三次元ベクトルで表示する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-41652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の二次元平面、三次元棒グラフ、バブルチャートによる表示方法では、2種類を超える質問や評価軸がある場合には、関連性の深い2種類のものを選択して二次元平面上の点や棒グラフやバブルで表示することになる。しかしながら、表示したものと表示されなかったものとの間に相互干渉やトレードオフがある場合が考慮されていない。
【0007】
特許文献1に記載の技術では、三つの評価基準に対する個人や手段の意見が三次元ベクトルによって表示される。しかしながら、三次元グラフ上に多数の意見が三次元ベクトルにより表示される場合、視認性がよいとは言えず、どこが集団の合意可能点になりそうかというファシリテーションに関してはなんら配慮されていない。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、多元の価値を視認性よく合意形成プロセスに提供することによって合意形成を支援できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願は、上記課題の少なくとも一部を解決する手段を複数含んでいるが、その例を挙げるならば、以下の通りである。
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る合意形成支援システムは、三元の価値に対する選択肢に基づいて三元グラフを作成するグラフ生成部と、前記選択肢に対する個人の意見、及び複数の個人の意見の集約である集団の意見の少なくとも一方を取得する取得部と、前記三元の価値の各価値に対する前記個人の意見または前記集団の意見をそれぞれ1本の線分で表すことにより、前記三元の価値に対する前記個人の意見または前記集団の意見を表す3本の線分から成る三角形を前記三元グラフ上に表示する表示部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、多元の価値に対する個人または集団の意見を視認性良く合意形成プロセスに提供できる。これにより、最終的な合意の形成、すなわち社会的選択を支援することが可能となる。
【0012】
上記した以外の課題、構成、及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の原理を説明するための二元の価値と二次元平面を示す図である。
図2図2は、三元グラフを説明する図である。
図3図3は、本発明の原理を説明するための三元の価値と三元グラフを示す図である。
図4図4は、三元の価値のうちの二者間比較に基づく三元グラフを示す図である。
図5図5は、本発明の一実施形態に係る合意形成支援システムの構成例を示す図である。
図6図6は、個人の意見を表す三元グラフの表示例を示す図である。
図7図7は、合意形成支援システムにおけるサーバの構成例を示す図である。
図8図8は、集団の意見を表す三元グラフの表示例を示す図である。
図9図9は、個人または集団に対するユーザI/Fの表示例を示す図である。
図10図10は、IoHデバイスに表示されるユーザI/F画面の表示例を示す図である。
図11図11は、サーバに表示されるユーザI/F画面の表示例を示す図である。
図12図12は、合意形成支援システムを採用し得る合議の場の複数の例を示す図である。
図13図13は、三元の価値に関する選択肢の計算シミュレーション結果をマッピングした三元グラフの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本実施形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合及び原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、「Aからなる」、「Aより成る」、「Aを有する」、「Aを含む」と言うときは、特にその要素のみである旨明示した場合等を除き、それ以外の要素を排除するものでないことは言うまでもない。同様に、以下の実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合及び原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似又は類似するもの等を含むものとする。
【0015】
<本発明の原理>
はじめに、本発明の原理を理解するために、多元の価値のうちの最も簡単な一例である二元の価値について説明する。図1は、二元の価値を二次元平面に投影した一例を示している。
【0016】
二元の価値X,Yに関する基数的な選択肢を二つの変数v,vで表すことにする。はじめに、変数v,vを、次式(1)に従い、それぞれの最大値及び最小値を用いて正規化してv’,v’に変換する。
【0017】
【数1】
【0018】
次に、正規化した二つの変数のセット(v’,v’)を、次式(2)に示すように、係数κを用いて二次元平面上の直線L1:x+y=1(0≦x≦1,0≦y≦1)の上の点(κv’,κv’)に投影する。こうして、二元の価値に関する様々な選択肢が、一次元の直線の上に表されることになる。
【0019】
【数2】
【0020】
こうして、直線L1:x+y=1の上には基数的な選択肢の分布が表されることになる。選択肢が離散的または連続的な場合があるが、一次元直線上で選択肢の相対的な密度分布を考えることができる。
【0021】
ここで、留意しておくことは、例えば(v’,v’)として(1,1)と(0.1,0.1)の両方が、多重的に直線L1上の同じ点(0.5,0.5)に投影されるということである。ただし、直線L1上の同じ点(1,1)に投影されるように両者が同時に大きな値を取り得るのであれば(そもそも両者が独立なのであれば)、二元の価値を個別に扱えばよい。
【0022】
また、直線L1上の点(0.1,0.1)に投影されるようにv’とv’の双方が小さい値しか取り得ないのであれば、そもそも正規化する際の値域の取り方を変えるべきである。
【0023】
したがって、ここでは、二元の価値X,Yにトレードオフやジレンマがあり、(v’,v’)の値域が適切に設定されている場合を主な対象とすることになる。なお、個人または集団の選択と、多重的な投影(κv’,κv’)の中の選択肢を対応付ける場合、例えばv’とv’の値が大きい方が望ましい選択肢であれば、多重的な投影のうちのv’とv’の値が最も大きい選択肢を対応付ければよい。
【0024】
次に、二元の価値X,Y(正規化したv’,v’)に対する個人の選択、すなわち意見が二つの変数i,iで表されるとする。正規化していないv,vに対する意見であれば、v’,v’と同様に正規化すればよい。
【0025】
変数i,iを、図1に示した直線L1上の点P11(i,1-i)、点P12(1-i,i)に対応付ける。また点P10(i,i)を、次式(3)に示すように、係数kを用いて直線L1の上の点P13(ki,ki)に投影する。点P14は、X軸上の点(i,0)とY軸上の点(0,i)を結ぶ線分の中点かつ重心である。
【0026】
【数3】
【0027】
点P10と点P13と点P14の関係が示すように、点P13は、iとiが作る重心であり、個人の意見集約点を直線L1上に投影したものと言える。そして、点P11は、価値Xに対する意見i、点P12は価値Yに対する意見iを表わすことになる。
【0028】
さらに、個人の意見を収集することにより、個人の意見の分布から集団の意見(平均値または中央値等)を求めれば、個人の意見の場合と同様に、集団としての意見集約点、すなわち合意可能点と、価値Xに対する集団の意見、価値Yに対する集団の意見を表わすことができる。
【0029】
二元の価値X,Yのそれぞれに対する個人または集団の意見に重みがある場合には、それぞれの重みをm,mとして、次式(4)に示すように、式(3)のiをmに、iをmに置換すればよい。
【0030】
【数4】
【0031】
この場合には、重み付け重心の位置が、重みm,mに応じて点P11と点P12の線分の間で動くことになる。重みm,mとしては、例えば累積投票における投票数やスコア投票におけるボルダカウント等を用いることができる。また、例えば一つの価値に関する集団の意見が総数nの正規分布N(μ,σ)で近似される場合には、その価値に関する意見としてμ、重みとして総数nまたは意見の集約度を勘案したn/σを用いることができる。
【0032】
以上により、二元の価値X,Yが、一次元の線分の上に表された選択肢と、個人の意見集約点または集団の合意可能点とに対応付けられたことになる。上述したように、選択肢が多重化されている場合には、最も望ましい選択肢を対応付ければよい。
【0033】
ここまで、二元の価値X,Yを簡約化して一次元の線分で扱う手段について述べた。ただし、二元の価値は、そもそも二次元平面上で表示すればよいのであって、ここまで二元の価値について説明した理由は多元の価値の簡約化の原理を理解するためである。
【0034】
<三元の価値X,Y,Zへの拡張方法>
次に、三元の価値X,Y,Zへの拡張方法について説明する。三元の価値を簡約化して扱うためには、三元グラフを用いる。図2は三元グラフの一例を示している。
【0035】
図2に示されるように、二次元平面で表される三元グラフは、もともと三次元空間においてx+y+z=1(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)で表される正三角形T20に由来している。正三角形T20の上の点P21(X,Y,Z)は、点線で示した三角形の中点、すなわち重心G22(x/3,y/3,z/3)を正三角形T20の上に投影したものである。これは、図1の中点すなわち重心である点P14と直線L1上の点P13との関係と同様である。
【0036】
二元の価値の場合と同様に、三元の価値X,Y,Zに関する基数的な選択肢が三つの変数v,v,vで表されるとする。そして、これらの変数v,v,vを、次式(5)に従い、それぞれの最大値及び最小値を用いて正規化してv’,v’,v’に変換する。
【0037】
【数5】
【0038】
そして、正規化した変数のセット(v’,v’,v’)を、次式(6)に示すように、係数κを用いて三次元平面上の正三角形T20の上の点(κv’,κv’,κv’)に投影する。
【0039】
【数6】
【0040】
一例として、三元の価値X,Y,Zに関する選択肢の計算シミュレーション結果を三元グラフに投影したものを図13に示す。詳細は後述するが、Xが経済価値(エネルギーコスト比)、Yが環境価値(自然エネルギー使用率)、Zが社会価値(地域活性化率)である。図13では、図の見易さのため強調して描かれているが、三元グラフの中心部の選択肢の密度が高く、周辺(それぞれの軸の最大値付近)では選択肢があまり存在しないことが分かる。
【0041】
このようすれば、三元の価値X,Y,Zに関するトレードオフやトリレンマを、二次元平面上の三元グラフの上で扱うことが可能になる。三元グラフの上には、基数的な選択肢が投影されることで選択肢の分布が現れる。この分布の相対的な密度分布を考えると、密度が高いところは選択肢が見つかり易く、低いところは見つかりにくいことになる。
【0042】
ここで、三元の価値X,Y,Z(正規化したv’,v’,vz’)に対する個人の意見が三つの変数i,i,iで表されるとする。そして、次式(7)に示すように、点(i,i,i)を、係数kを用いて変換し、正三角形T20に投影する。
【0043】
【数7】
【0044】
図3は、点(i,i,i)を、係数kを用いて(ki,ki,ki)に変換し、正三角形T20の上の点P34に投影したものである。
【0045】
変数i,i,iは、正三角形T30と平面x=i,y=i,z=iとの交線L31,L32,L33に対応付けられる。点P34は、三つの交線L31,L32,L33が作る正三角形T35の中点、かつ重心である(正三角形であることは、正三角形30の三辺と交線L31,L32,L33が平行であることから自明である)。
【0046】
こうして、二元の価値X,Yと同様に三元の価値X,Y,Zについても、個人の意見集約点または集団の合意可能点である点P34を正三角形T30:x+y+z=1、すなわち二次元平面である三元グラフの上に簡約化して表し、正三角形の上に表された選択肢(κv’,κv’,κv’)と対応付けることができる。
【0047】
また、三元の価値X,Y,Zのそれぞれに対する個人または集団の意見に重みm,m,mがある場合には、次式(8)に示すように、重み付け重心を求めればよい。重み付け重心の位置は、正三角形T35の中で点P34の位置から動くことになる。
【0048】
【数8】
【0049】
重みが等しい場合を含めて重み付け重心の位置は、三元グラフの上の基数的な選択肢の密度分布と対応付けられる。したがって、点P34を求めることにより、個人意見や集団意見がどのくらい実現可能であるのかを知ることができる。
【0050】
また、三元の価値X,Y,Zのうちの二者間の比を個人または集団の意見として収集することもできる。
【0051】
図4は、三元の価値のうちの二者間比較に基づく三元グラフを示している。ここで、i:i=a:(1-a)、i:i=b:(1-b)、i:i=c:(1-c)で表されるとすると、図4に示されるように、それぞれの比は正三角形T40:x+y+z=1の上の直線L41,L42,L43に対応付けられる。そして、次式(9)に示されるように、直線L41,L42,L43が作る三角形T45の中点かつ重心である点P44が求まる。個人または集団の意見に重みがある場合も、上述した重み付け重心の計算方法に倣って求めればよい。
【0052】
【数9】
【0053】
なお、三元を超える多元の価値を多次元空間として扱う場合、これまで説明してきたような選択肢の二次元平面への簡約化、個人または集団の意見の二次元平面への投影、個人の意見集約度や集団の合意可能点の重心による表現、そして重心と選択肢との対応付けを行うことが原理的に不可能である。例えば、多元の価値に対する意見をレーダーチャートの上に表示することは可能だが、様々な選択肢はレーダーチャート上の複数の多角形で表現されることになり、レーダーチャートでは重心を表現することができないため、単に個人や集団の意見の表示に留まることになる。
【0054】
したがって、三元を超える多元の価値を扱う場合には、多元の価値を三元の価値に縮約することが望ましい。
【0055】
また、多元の価値を扱う場合、従来のように二元の価値だけを取り出すことは価値の間のトレードオフを見逃す恐れがあり、四元以上の価値を同時に考えることは認知負荷が大きくなりすぎることからも、多元の価値を三元の価値に縮約することが望ましい。
【0056】
例えば、多元の価値を何らかの方法によって社会価値、環境価値、経済価値という3種類の代表的な価値に縮約し、それぞれの価値において複数の価値指標から一つの合成指標を作成することができる。その場合、従来のように、3種類の価値を三次元ベクトルで表示するのではなく、後述する本実施形態のように、三次元の情報を二次元平面に投影した方が、視認性と認知負荷に対して配慮したものとなる。
【0057】
以上で本発明の原理の説明を終了する。
【0058】
<本発明の一実施形態に係る合意形成支援システム100>
次に、図5は、本発明の一実施形態に係る合意形成支援システム100の構成例を示している。
【0059】
合意形成支援システム100は、ネットワーク170を介して接続された複数のIoH(Internet of Human)デバイス110~110から構成される。以下、IoHデバイス110~110を個々に区別する必要がない場合、単にIoHデバイス110と称する。また、必要に応じ、個人iが使用しているIoHデバイス110をIoHデバイス110と称する。
【0060】
IoHデバイス110は、スマートフォン、タブレット型コンピュータ等に代表される電子機器の他、時計、眼鏡、衣服等の様々な形態のウェアラブル電子機器あるいは製品にネットワーク通信機能を付与したものである。
【0061】
IoHデバイス110は、CPU(Central Processing Unit)等から成るプロセッサ120、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等から成るメモリ130、HDD(Hard Disc Drive)やSSD(Solid State Drive)等から成るストレージ140、タッチパネル、ディスプレイ等から成るユーザI/F(インターフェース)150、及び、通信モジュール等から成るネットワークI/F160を備える。IoHデバイス110は、ネットワークI/F160によりネットワーク170を介してサーバ210及びデータベース270に接続される。
【0062】
IoHデバイス110においては、ストレージ140に格納された三元価値簡約化プログラム131、個人意見取得プログラム132、個人意見表示プログラム133、及び個人意見集約点表示プログラム134がメモリ130に読み出され、プロセッサ120によって実行されることにより、三元価値簡約化処理S1、個人意見取得処理S2、個人意見表示処理S3、及び個人意見集約点表示処理S4が順次実行され、これらの処理結果がユーザI/F150に表示される。
【0063】
三元価値簡約化処理S1を実行するプロセッサ120は、本発明のグラフ生成部に相当する。個人意見取得処理S2を実行するプロセッサ120は、本発明の取得部に相当する。個人意見表示処理S3、及び個人意見集約点表示処理S4を実行するプロセッサ120は、本発明の表示部に相当する。
【0064】
次に、図6は、合意形成支援システム100におけるIoHデバイス110のユーザI/F150に表示される個人の意見を表す三元グラフの3種類の表示例を示している。
【0065】
はじめに、三元価値簡約化処理S1により、三元の価値X,Y,Zが簡約化されて正三角形(三元グラフ)T50に投影される。次に、個人意見取得処理S2により、三元の価値X,Y,Zに対する個人の意見i,i,iが取得される。個人の意見は、例えばユーザI/F150に表示されるユーザI/F画面70(図10)を介して入力される。
【0066】
次に、個人意見表示処理S3により、個人の意見i,i,iに対応する線分L51,L52,L53から成る正三角形T55が三元グラフ(正三角形T50)の上に表示される(これらの線分L51,L52,L53、及び正三角形T55は、それぞれ図3の交線L31,L32,L33、及び正三角形T35に対応する)。なお、線分L51,L52,L53の太さ相対的な違いは、個人の意見i,i,iの重みを表している。
【0067】
次に、個人意見集約点表示処理S4により、正三角形T55の重心であるP54が表示される(この重心は、図3の正三角形T35の重心であるP34に対応する)。点P54は、式(8)に示した重み付け重心である。点P54の位置は、基数的な選択肢の密度分布、すなわち個人意見の実現可能性と対応付けられる。
【0068】
三元の価値X,Y,Zに対して個人の意見i,i,iの重みが等しい場合は、線分L51,L52,L53の太さが互いに等しくなり、重心を表す点P54の位置が正三角形T55の中点と一致することになる。
【0069】
また、三元の価値X,Y,Zに対する個人の意見i,i,iに応じて、正三角形T55が正立する場合(図6の左側)、正三角形T55が倒立する場合(図6の中央)、正三角形T55が正三角形T50からはみ出す場合(図6の右側)等が生じる。参考までに、個人の意見i,i,iが作り得る最大の正三角形T55は、個人の意見i,i,iがそれぞれ最大値を取るため、その各辺が正三角形50の頂点を通る倒立した正三角形(不図示)になる。
【0070】
以上に説明したように、合意形成支援システム100によれば、個人が視認性の良い三元グラフ(正三角形T50)の上で自身の意見の位置付け(線分L51,L52,L53)と意見集約点(点P54)を確認し、さらに三元グラフに簡約化された三元の価値X,Y,Zに関する選択肢の中から意見集約点54に対応する選択肢を参照することが可能になる。
【0071】
なお、本実施形態では、線分L51,L52,L53の相対的な太さの違いによって個人の意見i,i,iの重みを表したが、線の太さの代わりに、線の色や濃淡等の色彩(色相、明度、彩度)を変更して個人の意見の重みを表すようにしてもよい。
【0072】
また、IoHデバイス110にて三元価値簡約化処理S1、個人意見取得処理S2、個人意見表示処理S3、及び個人意見集約点表示処理S4を実行する代わりに、サーバ210にてこれらの処理を実行し、その処理結果をIoHデバイス110が受信して表示するようにしてもよい。
【0073】
次に、図7は、合意形成支援システム100におけるサーバ210の構成例を示している。
【0074】
サーバ210は、図5に示されたIoHデバイス110の構成例と同様、CPU等から成るプロセッサ220、DRAM等から成るメモリ230、HDDやSSD等から成るストレージ240、タッチパネル、ディスプレイ等から成るユーザI/F250、及び、通信モジュール等から成るネットワークI/F260を備える。サーバ210は、ネットワークI/F260により、ネットワーク170を介してIoHデバイス110及びデータベース270に接続し、各種のデータを通信する。
【0075】
サーバ210においては、ストレージ240に格納された三元価値簡約化プログラム231、個人意見収集プログラム232、集団意見表示プログラム233、及び集団合意可能点表示プログラム234がメモリ230に読み出され、プロセッサ220によって実行されることにより、三元価値簡約化処理S11、個人意見収集処理S12、集団意見表示処理S13、及び集団合意可能点表示処理S14が順次実行され、これらの処理結果がユーザI/F250に表示される。また、これらの処理結果が必要に応じてデータベース270に格納される。
【0076】
三元価値簡約化処理S11を実行するプロセッサ220は、本発明のグラフ生成部に相当する。個人意見収集処理S12を実行するプロセッサ220は、本発明の取得部に相当する。集団意見表示処理S13、及び集団合意可能点表示処理S14を実行するプロセッサ220は、本発明の表示部に相当する。
【0077】
次に、図8は、合意形成支援システム100におけるサーバ210のユーザI/F250に表示される集団の意見を表す三元グラフの3種類の表示例を示している。
【0078】
はじめに、三元価値簡約化処理S11により、三元の価値X,Y,Zが正三角形(三元グラフ)T60に投影される。次に、個人意見収集処理S12により、個人i(i=1~n)の意見i,i,iが収集される。各個人の意見は、例えばIoHデバイス110で入力され、ネットワーク170を通じてサーバ210に送信され、ネットワークI/F260で受信される。次に、集団意見表示処理S13により、集団の意見μ,μ,μに対応する線分L61,L62,L63から成る正三角形T65が三元グラフ60の上に表示される。次に、集団合意可能点表示処理S14により、正三角形T65の重心である点P64が表示される。
【0079】
なお、線分L61,L62,L63の相対的な太さの違いは、集団の意見μ,μ,μの重みを表している。線の太さの代わりに、線の色や濃淡等の色彩(色相、明度、彩度)を変更して集団の意見の重みを表すようにしてもよい。正三角形T65の重心である点P64は、重み付け重心である。点P64の位置は、基数的な選択肢の密度分布に対応付けられ、集団合意可能点がどのくらい実現可能であるのかを表している。
【0080】
ここで、集団の意見μ,μ,μとは、n人の個人の意見i,i,iの集計結果である。例えば、三元の価値X,Y,Zのそれぞれに対して正規分布N(n,μ,σ ),N(n,μ,σ ),N(n,μ,σ )が得られたとすると、平均μ,μ,μが集団の意見を代表することになる。ここで、n,n,nは分布の総度数であり、分散σ ,σ ,σ が意見の集約度を表わす。
【0081】
例えば、三元の価値X,Y,Zのそれぞれに対して個人n人が一人一票を投票した場合、n=n=n=nである。三元の価値X,Y,Zに対して重みを付けた累積投票やスコア投票等を行う場合や、さらに少数意見を尊重するための重み付け集計を行う場合等は、通常、n≠n≠n≠nとなる。集団の意見μ,μ,μの重みm,m,mとしては、それぞれn,n,n、またはn/σ,n/σ,n/σ等を用いることができる。
【0082】
サーバ210によれば、ファシリテータが視認性の良い三元グラフ60の上で集団の意見μ,μ,μの位置付けを表す線分L61,L62,L63と集団合意可能点を表す点P64を確認し、さらに三元グラフ60に簡約化された三元の価値X,Y,Zに関する選択肢の中から集団合意可能点である点P64に対応する選択肢を参照することが可能になる。
【0083】
ここで、集団の意見μ,μ,μが成す正三角形T65の大きさの意味について説明する。三元の価値X,Y,Zの間にトレードオフやトリレンマがある場合には、大きなサイズの(例えば全ての価値X,Y,Zで最大値に近い値をとるような)正三角形T65に対応する選択肢v’,v’,v’はほとんど存在しない。
【0084】
したがって、正三角形T65のサイズが小さい方が合意可能な選択肢が見つかり易く、合意達成に向けたファシリテーションを行い易くなる。すなわち、正三角形T65のサイズにより、合意形成のための情報を与えることが可能であると言える。
【0085】
同様に、図3に示された個人の意見i,i,iが成す正三角形T55に関しても、そのサイズが小さい方が選択肢に対応させ易く、言い換えれば、個人にとってまとまりのある意見を意味する。すなわち、正三角形T55のサイズにより、個人が意見を選択する際の目安となる情報を与えることが可能であると言える。
【0086】
次に、図9は、個人の意見と集団の意見を同時に表した三元グラフの3種類の表示例を示している。この三元グラフは、合意形成支援システム100におけるIoHデバイス110のユーザI/F150、またはサーバ210のユーザI/F250に表示させることができる。
【0087】
個人それぞれのIoHデバイス110は、サーバ210による集団の意見μ,μ,μの集計終了に応じ、サーバ210のストレージ240またはデータベース270からネットワーク170を介して集計情報を読み出し、個人意見表示処理S3及び個人意見集約点表示処理S4により、各自の意見i,i,iを表す正三角形T55、及びその重心である点P54とともに、集団の意見μ,μ,μを表す正三角形T65、及びその重心を表す点P64をユーザI/F150に表示する。
【0088】
IoHデバイス110のユーザI/F150によれば、個人が自身の意見i,i,iと集団の意見μ,μ,μを比較することにより、集団における自身の位置付けを認識することができる。例えば、図9の左側の3元グラフが表示された場合には、自身の意見が集団の意見に比較的近いことを認識できる。また、図9の中央の3元グラフが表示された場合には、集団の意見では価値Y,Zを重視しているのに対し、自身は価値Xを重視していることを認識できる。さらに、図9の右側の3元グラフが表示された場合には、自身の意見が集団の意見とかなり乖離していることを認識できる。
【0089】
個人の意見と集団の意見との乖離に関する目安として、例えば、個人の意見を表す正三角形T55の重心である点P54と、集団の意見を表す正三角形T65の重心である点P64の距離、正三角形T65の面積に対する正三角形T55の重なりの面積の比、正三角形T65の各辺と正三角形T55の各辺の間の距離の二乗和平方根等を用いてもよい。
【0090】
このように、個人が自身の意見と集団の意見との相違を認識することにより、例えば、反省や意見の修正に向けたきっかけとし、少数派としての自身の立場を踏まえた議論のための足場にすることができる。
【0091】
一方、サーバ210でも、個人が用いるIoHデバイス110と同様に、集団の意見μ,μ,μの集計終了に応じ、その基となった或る個人の意見i,i,iとストレージ240またはデータベース270から読み出し、集団意見表示処理S13、及び集団合意可能点表示処理S14により、集団の意見を表す正三角形T65、及びその重心である点P64と、或る個人の意見を表す正三角形T55、及びその重心を表す点P54とをユーザI/F250に重ねて表示する。
【0092】
サーバ210のユーザI/F250によれば、合意形成プロセスに関わる運営者、ファシリテータ、アドバイザ、アセスメンタ、ステークホルダ等が、集団の意見μ,μ,μと或る個人の意見i,i,iを比較することにより、合意達成に向けた課題の抽出、個人と集団の選択の実現可能性、少数派の存在の認知、選択肢の変更も含めたコーディネーション等に役立てることが可能になる。
【0093】
図9の左側の3元グラフが表示された場合には、該或る個人が合意達成に近いことを踏まえてより具体的な議論を進めることができる。また、図9の右側の3元グラフが表示された場合には、集団の意見からの乖離が大きい少数派の意見を聞く機会を設けること等を行うきっかけを得ることができる。
【0094】
なお、サーバ210において、どのような個人の意見i,i,iを取り上げるかに関しては、例えば、正規分布であれば裾野にいる個人、分布から特異的に逸脱している個人、分布を歪ませている少数派、累積投票であれば特定の価値に集中的に投票している少数派等を取り上げることが考えられる。また、上述した意見の乖離の目安を用いて、集団からの乖離が大きい個人を抽出するようにしてもよい。
【0095】
<IoHデバイス110に表示されるユーザI/F画面70の表示例>
次に、図10は、個人が用いるIoHデバイス110のユーザI/F150に表示されるユーザI/F画面70の表示例を示している。
【0096】
IoHデバイス110には、入力欄71,71,71が設けられている。ユーザは、入力欄71,71,71を用い、三元の価値(社会価値、環境価値、経済価値)を対象として累積投票を行うことができる。
【0097】
例えば、入力欄71の文字列「社会価値:・・・」をクリックすることで社会価値に関する詳しい説明がポップアップ表示される。社会価値に対する基数的な選択と累積投票を行うには、目盛72の上でスライダ73を動かして正規化された投票値を選択し、投票ポイントメータ74の上下にある+ボタンと-ボタンを使って投票ポイント(重み付け)を付与することができる。
【0098】
同様に、ユーザは、入力欄71,71を用い、環境価値、及び経済価値についての投票値を選択し、投票ポイントを付与することができる。
【0099】
図10の場合、社会価値については、投票値として0.63が選択され、投票ポイントとして44が付与されている状態を示している。環境価値については、投票値として0.52が選択され、投票ポイントとして31が付与されている状態を示している。経済価値については、投票値として0.38が選択され、投票ポイントとして14が付与されている状態を示している。
【0100】
残ポイントメータ75には、三元の価値に付与可能な残ポイント数が表示される。図10の場合、残ポイント数は11であることを示している。三元グラフ76には、個人が三元の価値に対して投票した結果、すなわち、個人の意見を表す正三角形T77、及びその重み付き重心を表す点P78が表示される。
【0101】
選択肢密度メータ79には、正三角形T77の重み付き重心を表す点P78の位置に対応する選択肢の相対的な密度が表示される。図10の場合、選択肢の相対的な密度は0.61であること示しており、ユーザは現状の投票内容が比較的実現可能な選択であることを把握できる。
【0102】
個人としてのユーザは、三元の価値それぞれに対する投票値を変化させることにより三元グラフ76における正三角形T77がどのように変化するか、それらに対する重み付け(ポイント)によって重心を表す点P78がどのように動くか、そして選択がどの程度実現可能であるかを、スライダ73や投票ポイントメータ74のボタンを操作しながら、直感的に把握することができる。
【0103】
なお、累積投票において、投票ポイントがそのまま投票数となる場合、二次投票のようにポイントの二乗平方根が投票数になる場合、少数派に重み付けをして集計される場合等がある。これらは、具体的な価値の内容によって使い分けられる。
【0104】
例えば、社会価値としては生活満足度、QoL(Quality of Life)、社会関係資本等があるが、人種、ジェンダ、障害者等を扱う場合には少数派へ配慮した投票方法が選ばれることになる。同様に、環境価値としては自然エネルギー、CO2排出、景観等があるが、文化、宗教等に関しては特定のステークホルダへの配慮が必要である。経済価値に関しても貧困、富や所得の格差、地域格差等を扱う場合は同様である。
【0105】
<サーバ210に表示されるユーザI/F画面80の表示例>
次に、図11は、サーバ210のユーザI/F250に表示されるユーザI/F画面80の表示例を示している。
【0106】
ユーザI/F画面80には、図9と同様に、三元の価値(社会価値、環境価値、経済価値)を対象とする三元グラフT81の上に、集団意見を示す正三角形T82、及び合意可能点である重み付き重心を表す点P83、並びに、少数派(個人)の意見を示す正三角形T84、及びその重み付き重心を表す点P85が表示される。
【0107】
また、ユーザI/F画面80には、三元の価値の分布を示す表示領域91,92,93が設けられている。表示領域91~93には、社会価値、環境価値、及び経済価値の分布が表示される。ユーザは、表示領域91~93のカーソル94,95,96の位置や幅を変更することができ、カーソル94,95,96の範囲内に存在する分布の内容が三元グラフT81に反映される。なお、カーソル94~96は独立して変更することができるが、連動して変更することもできる。
【0108】
また、ユーザI/F画面80には、合意形成に向けた目安を表示する表示領域97が設けられている。表示領域97には、合意形成に向けた目安として、集団意見面積比、選択肢密度、及び少数派検出数が表示される。
【0109】
集団意見面積比は、三元グラフT81の面積に対する集団の意見を表す正三角形T82の面積の比率である。この値が小さいことが、特に、三元の価値にトレードオフやトリレンマがある場合に、合意可能点が実現し易いことの一つの目安となる。図11の場合、集団意見面積比は0.21であり、比較的実現性が高いことを表している。
【0110】
選択肢密度は、合意可能な点P83の位置における実現可能な選択肢の相対的な密度である。この値が大きいことが、合意可能点の位置に選択肢が多くあることを意味する。図11の場合、選択肢密度は0.38であり、最大密度には及ばないものの、実現可能な選択肢がそれなりに存在することを表している。
【0111】
少数派検出数は、表示領域91~93に表示される分布の歪みや、累積投票と一人一票換算との比較等に基づいて算出される。図11の場合、少数派検出数は1であり、これが表示領域93に示された経済価値分布の歪みに対応し、表示領域93のカーソル96の位置と範囲が少数派の個人の意見を示す正三角形T84とその重み付き重心を表す点P85に反映されている。
【0112】
図11の例では、正三角形T82から、集団の意見として、相対的に高い社会価値が選択されて最も重視されており、次に高めの環境価値が重視され、経済価値はあまり重視されていないことが分かる。また、正三角形T84から、カーソル96で選ばれた経済価値に関する少数派の意見では、高い経済価値が最も重視され、次いで社会価値が重視され、環境価値が比較的軽視されていることが分かる。
【0113】
このような結果が得られた場合には、ファシリテータ等が、なぜ少数派の意見が集団の意見から乖離しているのかをヒアリングや議論の中で明らかにし、合意形成に向けたファシリテーションとして相互理解やコーディネーションを促進することが望ましい。
【0114】
なお、図11に示されたユーザI/F画面80を、個人が使用するIoHデバイス110に表示できるようにしてもよい。
【0115】
<合意形成支援システムを採用し得る合議の場>
次に、図12は、合意形成支援システム100を採用し得る合議の場の複数の例を示している。
【0116】
合議の場300では、様々なステークホルダ320(i=1,2,…)の代表者、議事進行役330、アドバイザ340等が合意形成支援システム100によって互いにつながっている。
【0117】
ステークホルダ320には、スマートフォン、タブレット端末、ノートPC,デスクトップPC等のIoHデバイス110、議事進行役330にはサーバ210が備えられ、場合によってはアドバイザ340にもサーバ210が共有される。
【0118】
ステークホルダ320としては、議事に応じて利害に関与する人々が招集される。例えば、住民や市民の代表者、居住区域、所得、年齢、性別、人種、障害等に関する代表者、NGO、NPO、市民団体等の代表者、農林水産業者、商工業者、地元企業、域外企業、それらの団体や協同組合等の代表者、自治体、学校、警察、消防、交通、医療等の公共機関の代表者、銀行、機関投資家等の金融機関の代表者等である。
【0119】
議事進行役330には、議長、司会者、ファシリテータ、補佐的に記録者等が当てはまる。アドバイザ340には、中立的な専門家、アナリスト、アセスメント実施者等が当てはまる。
【0120】
合議の場300における合意形成プロセスでは、合意形成支援システム100によって、ステークホルダ320それぞれの意見が取得され、その意見がステークホルダ320のIoHデバイス110に表示されるとともに、議事進行役330にステークホルダ320の意見を収集した集団意見が提示される。議事進行役330は、集団意見合意可能点や少数派の意見を考慮しながら、場合によってアドバイザ340の意見も仰ぎつつ合意形成を進めることができる。
【0121】
合議の場300では、合意形成支援システム100のヘテラルキーで円環状の仮想ネットワークの上でステークホルダ320の立場が互いに平等に扱われるため、多数派や有力者からの同意の強制ではなく、少なくとも拒絶や異議が生じることのない全員の合意を目指すことに役立てることができる。したがって、例えば、類縁グループの代表者から成る直接民主主義的なスポーク会議や、いわゆる車座談義に用いることができる。
【0122】
以上説明したように、本実施形態は、様々な合意形成プロセスにおいて適用することができ、適用先が幅広いためその全ての適用先を挙げることはできない。ここで、実社会における一つの適用例を挙げると、地域コミュニティにおける社会価値(地域経済循環率、すなわち地域活性化率)と環境価値(自然エネルギー使用率)と経済価値(エネルギーコスト比)という代表的な三元の価値に関する運用施策の選択がある。
【0123】
次に、図13は、これらの価値に関する選択肢の計算シミュレーション結果をマッピングした三元グラフを示している。
【0124】
合意形成プロセスでは、三元の価値に対する個人の意見を収集し、経済価値を重視するのか、環境価値を重視するのか、それとも社会価値とのバランスを取っていくのか等について、集団の意見をまとめていくことになる。
【0125】
もう一つ適用先を挙げれば、相互扶助コミュニティにおける社会価値(子孫および他者への推譲)と環境価値(自然資源の分配)と経済価値(利益の分配)に関する運営仕法の選択が挙げられる。この運営仕法は、自然からの恵みを持続的に循環させる思想に倣ったものであり、言わば自然と経済と道徳を三立させるための社会的選択である。
【0126】
上述した二つの適用例は、いずれも多元的な価値に対する基数的な選択肢から社会的選択を行うようなケースである。情報技術の実社会への浸透に伴って、多元的かつ基数的な選択肢に対する合意形成が必要とされる場面が増えると考えられる。
【0127】
以上、本発明に係る実施形態及び変形例の説明を行ってきたが、本発明は、上記した実施形態の一例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態の一例は、本発明を分かり易くするために詳細に説明したものであり、本発明は、ここで説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、ある実施形態の一例の構成の一部を他の一例の構成に置き換えることが可能である。また、ある実施形態の一例の構成に他の一例の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の一例の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることもできる。また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、図中の制御線や情報線は、説明上必要と考えられるものを示しており、全てを示しているとは限らない。ほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【0128】
また、上記の合意形成支援システム100の構成は、処理内容に応じて、さらに多くの構成要素に分類することもできる。また、一つの構成要素がさらに多くの処理を実行するように分類することもできる。
【符号の説明】
【0129】
70・・・ユーザI/F画面、71~71・・・入力欄、712・・・入力欄、713・・・入力欄、72・・・目盛、73・・・スライダ、74・・・投票ポイントメータ、75・・・残ポイントメータ、76・・・三元グラフ、79・・・選択肢密度メータ、80・・・ユーザI/F画面、91・・・表示領域、92・・・表示領域、93・・・表示領域、94~96・・・カーソル、97・・・表示領域、100・・・合意形成支援システム、110・・・IoHデバイス、120・・・プロセッサ、130・・・メモリ、131・・・三元価値簡約化プログラム、132・・・個人意見取得プログラム、133・・・個人意見表示プログラム、134・・・個人意見集約点表示プログラム、140・・・ストレージ、150・・・ユーザI/F、160・・・ネットワークI/F、170・・・ネットワーク、210・・・サーバ、220・・・プロセッサ、230・・・メモリ、231・・・三元価値簡約化プログラム、232・・・個人意見収集プログラム、233・・・集団意見表示プログラム、234・・・集団合意可能点表示プログラム、240・・・ストレージ、250・・・ユーザI/F、260・・・ネットワークI/F、270・・・データベース、300・・・合議の場、320i・・・ステークホルダ、330・・・議事進行役、340・・・アドバイザ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
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図10
図11
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図13