(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】化学混和剤の前処理方法およびコンクリートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 24/26 20060101AFI20240724BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20240724BHJP
B28C 7/04 20060101ALI20240724BHJP
E04G 21/02 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
C04B24/26 D
C04B28/02
B28C7/04
E04G21/02 101
(21)【出願番号】P 2020074199
(22)【出願日】2020-04-17
【審査請求日】2023-04-10
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(73)【特許権者】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】藤倉 裕介
(72)【発明者】
【氏名】伊達 重之
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-066927(JP,A)
【文献】特開平11-156840(JP,A)
【文献】特開平07-195329(JP,A)
【文献】特開昭51-105316(JP,A)
【文献】特開昭56-140057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
B28C 1/00- 9/04
E04G 21/00-21/10
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学混和剤を50℃~80℃に加熱する加熱工程と、前記加熱工程の後に前記化学混和剤の分子構造を安定化させる安定化工程とを有し、
前記安定化工程は、
静置状態で、前記化学混和剤の温度を0℃~10℃に低下させてから当該温度を1分間~24時間維持することで冷却を行う工程であることを特徴とする化学混和剤の前処理方法。
【請求項2】
前記化学混和剤が、高性能減水剤または流動化剤であることを特徴とする請求項1に記載の化学混和剤の前処理方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の化学混和剤の前処理方法により得られた化学混和剤を、すでに練り混ぜられたコンクリートに後添加し、前記コンクリートの流動性を増加させることを特徴とするコンクリートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学混和剤の前処理方法およびコンクリートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
よく知られているように、建物や橋梁など、種々の構造体の施工に用いられるコンクリートは、目的とする品質に応じた添加比率でセメントと水、粗骨材、細骨材などの骨材を混合し、これに少量の減水剤などの化学混和剤を添加し、ミキサー等で混練することによって製造される(例えば下記の特許文献1参照)。
【0003】
ここで、減水剤などの化学混和剤は、その分子がセメント粒子の界面に吸着し、静電気的な反発力を持たせることによってセメント粒子を分散させる界面活性剤として作用するものであり、このためコンクリートの流動性を高めて、型枠等へのコンクリート打設の際の施工性を向上させることができる。また、コンクリートの強度は水セメント比(セメントに対する水の量)の値が高いほど流動性が高まる反面、コンクリート強度が低下するが、減水剤の添加によって流動性を確保することで、水セメント比の値を低くすることができるので(減水効果)、コンクリートの強度を確保することができる。
【0004】
また、下記特許文献2には、セメントと水に化学混和剤を添加してコンクリートを混練する際に、あらかじめ前記化学混和剤を加温することを特徴とするコンクリートの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-100190号公報
【文献】特開2016-159586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コンクリート製造工場などでコンクリートを製造する際に添加する減水剤は、一般に、所定の減水効果を得るための添加量として単位セメントに対する割合で管理される。また、コンクリートの流動性を高めるために、現場でコンクリートに流動化剤と呼ばれる化学混和剤を後添加する場合があるが、後添加する化学混和剤の量は増加させたいスランプ値と単位セメント量から一律で決められるものである。したがって、コンクリート製造時の外気温度や湿度といった外部環境により変化する化学混和剤の状態を詳細に把握した上で使用されているとはいえない。
【0007】
具体的には、例えばコンクリートの練り上がり温度は外気温度により変動するため、同じ添加のコンクリートを製造していても、朝晩のコンクリートのフレッシュ性状(スランプや空気量)と昼間のコンクリートのフレッシュ性状は異なることがある。また、セメントの水和反応が進むことによりフレッシュ性状が変化してスランプロス(スランプの低下現象)やワーカビリティの低下を生じるが、この現象も外気温度や湿度といった外部環境の影響を大きく受ける。
【0008】
さらに、打設時のコンクリートの流動性を高めるために、現場でコンクリートに流動化剤と呼ばれる化学混和剤を後添加する場合があるが、後添加する化学混和剤の量は増加さ
せたいスランプ値と単位セメント量から一律で決められるため、所定の混和剤量を添加しても、外気温度などの環境によっては希望通りのスランプ値が得られない場合もある。
この問題点を解決するために、上記特許文献2ではセメントと水に化学混和剤を添加してコンクリートを混練する際に、あらかじめ前記化学混和剤を加温することを特徴とするコンクリートの製造方法が提案されている。
【0009】
しかし、当業界では化学混和剤を含むコンクリートの更なる流動性の向上が求められている。本発明は、当該問題点の解決を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記の通りである。
1.化学混和剤を加熱する工程(1)と、前記工程(1)の後、前記化学混和剤の温度を低下させる工程(2)とを有することを特徴とする化学混和剤の前処理方法。
2.前記工程(1)において、前記化学混和剤の加温温度が、50℃~80℃であることを特徴とする前記1に記載の化学混和剤の前処理方法。
3.前記化学混和剤が、高性能減水剤または流動化剤であることを特徴とする前記1または2に記載の化学混和剤の前処理方法。
4.前記1~3のいずれかに記載の化学混和剤の前処理方法により得られた化学混和剤を、すでに練り混ぜられたコンクリートに後添加し、前記コンクリートの流動性を増加させることを特徴とするコンクリートの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の化学混和剤の前処理方法は、化学混和剤を加熱する工程(1)と、前記工程(1)の後、前記化学混和剤の温度を低下させる工程(2)とを有することを特徴としている。上記加熱する工程(1)において化学混和剤の分子構造がほぐれ、コンクリートの流動性の向上に良好な影響を及ぼすが、本発明では、さらに前記化学混和剤の温度を低下させる工程(2)を行うことにより、ほぐれた分子構造が安定となり、さらなる該流動性の向上を達成することができた。
ここで、流動性の向上とは、所定のコンクリートのスランプ値や流動性が、再現性良く得られることである。
【0012】
さらに本発明によれば、安定したコンクリートの性状を得ることができ、製造コストを大幅に低減することができる。しかも、コンクリートの性状が安定することによって、建設現場でのコンクリート打設時において発生する充填不足や美観の低下を未然に防ぐことができる。このため、コンクリート打設によるコンクリート構造物の不具合を低減することができ、品質及び耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】セメント粒子と水を混合した状態を示す模式図である。
【
図2】セメント粒子と水の混合物に、混和剤を混合した状態を示す模式図である。
【
図3】セメント粒子と水の混合物に、加温しない混和剤を混合した場合の作用を示す模式図である。
【
図4】セメント粒子と水の混合物に、あらかじめ加温した混和剤を混合した場合の作用を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
まず、前記化学混和剤を加熱する工程(1)について説明する。
該工程(1)では、あらかじめ、混練の際に添加する化学混和剤を30~80℃、好ましくは50~80℃の温度に加温しておく。適用される化学混和剤は、例えばアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤に分類される界面活性剤であり、成分としてはカルボン酸塩、エステル塩、アミン塩、アミノ酸型、ポリエチレングリコール、多価アルコールからなるものである。商品の一般名称としてはAE剤、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤と呼ばれ市販されているものから選択される。本発明では、高性能減水剤、流動化剤が好ましい。
化学混和剤の加熱温度の好適な下限を30℃とする理由は、30℃未満では化学混和剤の分子鎖がほぐれにくいからであり、また、化学混和剤の加熱温度の好適な上限を80℃とする理由は、80℃超では分子鎖が分解してしまい、また化学混和剤中の水分が蒸発して濃度が変化する可能性が高くなる恐れがあるからである。
【0015】
図1に示すように、たとえばセメント粒子1と水2だけを混合した場合は、水中ではセメント粒子1,1間に凝集力が作用するため、撹拌してもセメント粒子1は水中に一様に分散しにくく、多数のセメント粒子1が互いに凝集した状態となって、流動性が低いものとなる。
【0016】
これに対し、セメント粒子1と水2の混合物に化学混和剤を加えた場合は、その界面活性作用によって、
図2に示すように、化学混和剤の分子3がセメント粒子1の表面に付着して負電荷の帯電による静電気的な反発力を持たせることができる。セメントペースト、モルタルやコンクリートの流動性は、加える水の量により決まるものであるが、上述のように、化学混和剤の添加によってセメント粒子1が水中で分散することで、流動性を高めることができる。すなわち、所要のコンクリートの流動性すなわちスランプ値を得るための水の量を減らすことができる(減水効果)。
【0017】
しかしながら、化学混和剤は、その製造において、運搬時の体積を減らす目的で材料を濃縮あるいは凝集させる工程が行われるため、架橋された鎖状高分子が複雑に絡み合って凝集した状態にある。したがって、化学混和剤をそのままセメント粒子1と水2の混合物に添加した場合は、
図3に示すように、化学混和剤の分子3が互いに凝集した状態でセメント粒子1の表面に付着するため、静電気的な反発力による分散力が小さい。
【0018】
これに対し、化学混和剤をあらかじめ30~80℃、好ましくは50~80℃に加温すると、凝縮した鎖状高分子がほぐれ、
図4に示すように、化学混和剤の分子3が互いに分散した状態でセメント粒子1の表面に付着し、静電気的な反発力を生じる面積が大きくなるため、高い分散効果が得られ、流動性を向上させて高い減水効果を得ることができる。
【0019】
しかしながら、上述のように当業界では化学混和剤を含むコンクリートの更なる流動性の向上が求められている。そこで本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、さらに前記化学混和剤の温度を低下させる工程(2)を行うことにより、ほぐれた分子構造が安定となり、さらなる該流動性の向上を達成できることを見出した。
【0020】
前記工程(2)において、化学混和剤の冷却温度は、例えば0℃~20℃、好ましくは0℃~15℃、さらに好ましくは0℃~10℃、より好ましくは4℃~10℃であり、通常、環境雰囲気温度よりも例えば5℃以上低い温度に、好ましくは10℃以上低い温度に化学混和剤の温度を低下させるのがよい。
また冷却時間は、例えば1分間~24時間、好ましくは1分間~1時間、より好ましくは1分間~30分間、さらに好ましくは5分間~30分間、とくに好ましくは5分間~15分間である。なお、ここで言う冷却時間とは、化学混和剤の温度が所定の温度に到達した時点からカウントされる。
【0021】
なお、一般的にコンクリート中の化学混和剤の添加量は、1m3あたり数kg~十数kg程度であり、セメントと水及び骨材など他のコンクリート構成材料と比べると非常に少ないため、化学混和剤をコンクリート混練時に添加すると、他のコンクリート構成材料との混合によってその温度はすぐに低下してしまう。しかしながら、本発明における前記工程(2)は、このような混練時における化学混和剤の冷却とは区別される。すなわち、混練時にかかる化学混和剤に対する負荷によって、上記のほぐれた分子構造の安定化が阻害されてしまう。これに対し、本発明における前記工程(2)では、このような負荷は化学混和剤にかけられず(好ましくは前記工程(2)は静置状態で行われる)、上記のほぐれた分子構造の安定化が達成される。
【0022】
例として、コンクリートを施工現場で製造する場合は、セメントと、水と、砂、砂利、砕石等の骨材とをそれぞれ計量してコンクリートミキサーで混練した後、これに本発明の前処理方法で処理された化学混和剤の適量を後添加する。このようにすれば、コンクリートをコンクリートポンプで圧送して型枠内などへ打設する際にコンクリートの流動性が従来技術よりも向上し、施工が容易になる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例によりさらに説明する。
なお、以下はモルタルでの基本的な確認実験であるが、この実験結果はコンクリートに対しても適用可能であることは当業者に自明である。
この実験では、モルタルの配合は、水264kg/m3、セメント(普通ポルトランドセメント)528kg/m3、山砂1483kg/m3、化学混和剤としてポリカルボン酸系の高性能減水剤をセメント量×1.0%使用した。各材料は20℃の恒温室にあらかじめ置いておき、一定の温度にした。
上述のように、本発明の前処理方法は、化学混和剤を加熱する工程(1)と、前記工程(1)の後、前記化学混和剤の温度を低下させる工程(2)とを有する。
前記工程(1)として、ポリカルボン酸系の高性能減水剤を容器に入れ、これを40℃、50℃、または60℃の温水に漬け、該高性能減水剤の温度をそれぞれ40℃、50℃、または60℃に安定させた。
続いて、前記工程(2)として、40℃、50℃、または60℃に加温された該高性能減水剤入り容器を、冷却された水に漬け、該高性能減水剤の温度を4℃に安定させた。この安定化時間を10分間維持した。
次に、前記モルタル用材料をホバート型ミキサーによって混練した後、前記工程(2)で得られた該高性能減水剤を上記所定量加え混練し、モルタルを得た。
【0024】
前記工程(2)を行わずに得られた比較例の高性能減水剤を使用した場合、練り混ぜたモルタルのモルタルフロー試験を行ったところ、フロー値は210mmであった。これに対し、前記工程(1)と(2)を行い(前記工程(1)の加熱温度=50℃)、得られた実施例の高性能減水剤を使用した場合、該フロー値は、比較例に比べて15%増加した。また、同様の実験を3回行ったが、同様の結果が得られた。また前記実験において、前記工程(1)の加熱温度を40℃にした場合、前記フロー値は、比較例に比べて10%の増加を示し、前記工程(1)の加熱温度を60℃にした場合、前記フロー値は、比較例に比べて20~25%の増加を示した。この場合も同様に実験を3回行ったが、同様の結果が得られた。また前記実験において前記工程(1)の40℃、50℃、または60℃の温水浸漬時間を24時間に変更した場合、前記フロー値は、前記工程(2)を行わない比較例に比べて、40℃の場合は20%、50℃の場合は30%、60℃の場合は50%の増加を示した。
なお、上記実施例では、ポリカルボン酸系の高性能減水剤を使用した例について説明したが、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤に分類される、上記の界面活性剤や、AE剤、減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤と呼ばれ市販されているものについても上記実施例と同様の結果が得られた。
【符号の説明】
【0025】
1 セメント粒子
2 水
3 化学混和剤の分子