(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】フラックストランスフォーマー設計支援方法、フラックストランスフォーマー設計支援装置、フラックストランスフォーマー設計支援プログラム、およびセンサーモジュール
(51)【国際特許分類】
H01F 41/00 20060101AFI20240724BHJP
G01R 33/02 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
H01F41/00 D
G01R33/02 Z
(21)【出願番号】P 2020187051
(22)【出願日】2020-11-10
【審査請求日】2023-06-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム委託事業、「超スマート社会実現のカギを握る革新的半導体技術を基盤としたエネルギーイノベーションの創出に関する国立大学法人京都大学による研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000107804
【氏名又は名称】スミダコーポレーション株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114971
【氏名又は名称】青木 修
(72)【発明者】
【氏名】浜田 真吾
(72)【発明者】
【氏名】大塚 努
(72)【発明者】
【氏名】芳井 義治
(72)【発明者】
【氏名】水落 憲和
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-75834(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0104567(US,A1)
【文献】国際公開第2011/148291(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/00
G01R 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラーセンターを利用したセンシング部材用のフラックストランスフォーマーの設計を支援するフラックストランスフォーマー設計支援方法であって、
前記フラックストランスフォーマーの設計パラメーターの値を指定するパラメーター値指定ステップと、
所定の計算式に従って、前記設計パラメーターの値に対応する伝送効率を計算する伝送効率計算ステップとを備え、
前記伝送効率計算ステップにおいて、(a)前記フラックストランスフォーマーの1次側コイルの巻回ごとのコイル径を個別的に考慮した前記1次側コイルの起電力、および(b)前記フラックストランスフォーマーの2次側コイルの巻回層ごとのコイル径を個別的に考慮した前記2次側コイルの誘起磁場に基づいて、前記伝送効率を計算すること、
を特徴とするフラックストランスフォーマー設計支援方法。
【請求項2】
前記伝送効率計算ステップにおいて、前記1次側コイルおよび前記2次側コイルについて非巻線部の長さを考慮した抵抗値に基づいて、前記伝送効率を計算することを特徴とする請求項1記載のフラックストランスフォーマー設計支援方法。
【請求項3】
前記伝送効率計算ステップにおいて、前記1次側コイルおよび前記2次側コイルについて巻線の表皮効果を考慮した抵抗値に基づいて、前記伝送効率を計算することを特徴とする請求項1または請求項2記載のフラックストランスフォーマー設計支援方法。
【請求項4】
前記1次側コイルおよび前記2次側コイルは、円筒ソレノイドコイルであり、
前記伝送効率計算ステップにおいて、前記1次側コイルおよび前記2次側コイルについて、長岡係数を考慮したインダクタンス値に基づいて、前記伝送効率を計算すること、
を特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載のフラックストランスフォーマー設計支援方法。
【請求項5】
前記1次側コイルは、有芯コイルであり、
前記伝送効率計算ステップにおいて、前記1次側コイルについて、実効比透磁率を考慮したインダクタンス値に基づいて、前記伝送効率を計算すること、
を特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか1項記載のフラックストランスフォーマー設計支援方法。
【請求項6】
前記計算式は、前記伝送効率をBR、前記2次側コイルの前記誘起磁場をB
2、前記1次側コイルの印加磁場をB
0、前記印加磁場の周波数をf、真空の透磁率をμ
0、前記1次側コイルの巻数をN
1、前記1次側コイルにおける第i巻きのコイル径をr
1(i)、前記1次側コイルの磁性体コアの実効磁心断面積をS
a、前記1次側コイルの前記磁性体コアの実効比透磁率をμ
a、前記2次側コイルの層数をM
2、前記2次側コイルにおける第j層の巻数をn
2(j)、前記2次側コイルにおける第j層のコイル長さをl
2(j)、前記2次側コイルにおける第j層のコイル径をr
2(j)、前記1次側コイルのインピーダンスをZ
1、前記2次側コイルのインピーダンスをZ
2とした次式で示されることを特徴とする請求項1記載のフラックストランスフォーマー設計支援方法。
【数1】
【請求項7】
請求項1から請求項6のうちのいずれか1項記載のフラックストランスフォーマー設計支援方法を実行することを特徴とするフラックストランスフォーマー設計支援装置。
【請求項8】
コンピューターに、請求項1から請求項6のうちのいずれか1項記載のフラックストランスフォーマー設計支援方法を実行させることを特徴とするフラックストランスフォーマー設計支援プログラム。
【請求項9】
センシング部材と、
所定の測定位置で被測定磁場を感受し、前記測定位置で感受した前記被測定磁場に対応する印加磁場を前記センシング部材に印加する、請求項1記載のフラックストランスフォーマー設計支援方法、請求項7記載のフラックストランスフォーマー設計支援装置、および請求項8記載のフラックストランスフォーマー設計支援プログラムのいずれかを使用して得られたフラックストランスフォーマーと、
前記センシング部材から、前記印加磁場に対応する物理的事象を検出する検出装置と、
前記検出装置により検出された前記物理的事象の検出値を特定する測定制御部と、
前記検出値に基づいて前記測定位置での前記被測定磁場を演算する演算部と、
を備えることを特徴とするセンサーモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックストランスフォーマー設計支援方法、フラックストランスフォーマー設計支援装置、フラックストランスフォーマー設計支援プログラム、およびセンサーモジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ある磁気センサー製造方法では、超伝導量子干渉計 (SQUID:Superconducting Quantum Interference Device)用の磁束トランス(フラックストランスフォーマー)のインプットコイル(2次側コイル)の巻数を、有効磁束捕獲面積が85%以上になるように選択している(例えば特許文献1参照)。
【0003】
他方、ある磁場測定装置は、窒素と格子欠陥(NVC:Nitrogen Vacancy Center)を有するダイヤモンド構造などといったセンシング部材の電子スピン共鳴を利用した光検出磁気共鳴(ODMR:Optically Detected Magnetic Resonance)で磁気計測を行っている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-75834号公報
【文献】特開2020-8298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、測定対象の磁場の周波数が低い場合、フラックストランスフォーマーの磁場伝送効率は低くなる。そのため、NVCなどといったカラーセンターを利用したセンシング部材を使用した低周波数磁場測定に使用するフラックストランスフォーマーを簡単に設計することは困難である。例えば、実験などで、コイル巻数などを変化させて実測することで、良好な伝送効率となるフラックストランスフォーマーの構成を探すことになり、多くの手間と長い時間がかかってしまう。
【0006】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、カラーセンターを利用したセンシング部材用のフラックストランスフォーマーの効率的な設計を実行可能にするフラックストランスフォーマー設計支援方法、フラックストランスフォーマー設計支援装置、フラックストランスフォーマー設計支援プログラム、およびセンサーモジュールを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るフラックストランスフォーマー設計支援方法は、カラーセンターを利用したセンシング部材用のフラックストランスフォーマーの設計を支援するフラックストランスフォーマー設計支援方法であって、フラックストランスフォーマーの設計パラメーターの値を指定するパラメーター値指定ステップと、所定の計算式に従って、その設計パラメーターの値に対応する伝送効率を計算する伝送効率計算ステップとを備える。そして、その伝送効率計算ステップにおいて、(a)フラックストランスフォーマーの1次側コイルの巻回ごとのコイル径を個別的に考慮した1次側コイルの起電力、および(b)フラックストランスフォーマーの2次側コイルの巻回層ごとのコイル径を個別的に考慮した2次側コイルの誘起磁場に基づいて、伝送効率を計算する。
【0008】
本発明に係るフラックストランスフォーマー設計支援装置は、上述のフラックストランスフォーマー設計支援方法を実行する。
【0009】
本発明に係るフラックストランスフォーマープログラムは、コンピューターに、上述のフラックストランスフォーマー設計支援方法を実行させる。
【0010】
本発明に係るセンサーモジュールは、センシング部材と、所定の測定位置で被測定磁場を感受し、その測定位置で感受した被測定磁場に対応する印加磁場をセンシング部材に印加する、上記フラックストランスフォーマー設計支援方法、上記フラックストランスフォーマー設計支援装置、および上記フラックストランスフォーマープログラムのいずれかを使用して得られたフラックストランスフォーマーと、そのセンシング部材から、印加磁場に対応する物理的事象を検出する検出装置と、検出装置により検出された物理的事象の検出値を特定する測定制御部と、その検出値に基づいて測定位置での被測定磁場を演算する演算部とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カラーセンターを利用したセンシング部材用のフラックストランスフォーマーの効率的な設計を実行可能にするフラックストランスフォーマー設計支援方法、フラックストランスフォーマー設計支援装置、フラックストランスフォーマー設計支援プログラム、およびセンサーモジュールが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態1にフラックストランスフォーマー設計支援装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すフラックストランスフォーマー設計支援装置における設計対象としてのフラックストランスフォーマーについて説明するブロック図である。
【
図3】
図3は、
図2における1次側コイル111または2次側コイル112の構成について説明する断面図である。
【
図4】
図4は、
図1における伝送効率評価部22で使用される計算式を説明する図である(1/5)。
【
図5】
図5は、
図1における伝送効率評価部22で使用される計算式を説明する図である(2/5)。
【
図6】
図6は、
図1における伝送効率評価部22で使用される計算式を説明する図である(3/5)。
【
図7】
図7は、
図1における伝送効率評価部22で使用される計算式を説明する図である(4/5)。
【
図8】
図8は、
図1における伝送効率評価部22で使用される計算式を説明する図である(5/5)。
【
図9】
図9は、
図1に示すフラックストランスフォーマー設計支援装置の動作について説明するフローチャートである。
【
図10】
図10は、伝送効率BRの計算結果の例を示す図である。
【
図11】
図11は、
図10に示す伝送効率BRの計算に使用したパラメーター値を示す図である。
【
図12】
図12は、伝送効率BRの計算結果の別の例を示す図である。
【
図13】
図13は、
図12に示す伝送効率BRの計算に使用したパラメーター値を示す図である。
【
図14】
図14は、伝送効率BRの周波数特性を説明する図である。
【
図15】
図15は、
図14に示す伝送効率BRの計算に使用したパラメーター値を示す図である。
【
図16】
図16は、本発明の実施の形態2に係るセンサーモジュールの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
実施の形態1.
【0015】
図1は、本発明の実施の形態1にフラックストランスフォーマー設計支援装置の構成を示すブロック図である。
図1に示すフラックストランスフォーマー設計支援装置は、NVCなどのカラーセンターを利用したセンシング部材用のフラックストランスフォーマーの設計を支援する装置である。
【0016】
図2は、
図1に示すフラックストランスフォーマー設計支援装置における設計対象としてのフラックストランスフォーマーについて説明するブロック図である。
【0017】
図2に示すように、フラックストランスフォーマー101は、測定対象102の交流磁場をセンシング装置103に伝送 (伝達)するものであって、1次側コイル111、2次側コイル112、および導電部113を備える。また、設計対象のフラックストランスフォーマー101は、カラーセンターを利用したセンシング部材用のフラックストランスフォーマーであり、常温で使用されるものである。
【0018】
1次側コイル111は、測定対象102の交流磁場を検出し、検出した交流磁場に対応する電圧を誘起するコイルである。この実施の形態では、1次側コイル111は、棒状(例えば円柱状)の磁性体コアを備える円筒状の有限長ソレノイドコイルである。
【0019】
2次側コイル112は、1次側コイル111に誘起した電圧で導電部113を介して流れる電流に応じた磁場を発生し、センシング装置103のセンシング部材に印加するコイルである。この実施の形態では、2次側コイル112は、磁性体コアを備えない円筒状の有限長ソレノイドコイルである。なお、センシング装置103のセンシング部材は、2次側コイル112の中空部に配置されていてもよい。
【0020】
図3は、
図2における1次側コイル111または2次側コイル112の構成について説明する断面図である。
【0021】
この実施の形態では、1次側コイル111または2次側コイル112は円筒状の有限長ソレノイドコイルであり、例えば
図3に示すように、コイルの径方向に沿った複数層(層数M
1,M
2)となるように導線が単一方向に巻回されている。
【0022】
導電部113は、リッツ線や同軸ケーブルなどの一対の電線(ここでは銅線)で、1次側コイル111と2次側コイル112とで閉回路を形成するように、1次側コイル111と2次側コイル112とを互いに電気的に接続する。なお、導電部113は、電線の他、カップリングコンデンサーなどの受動素子を備えていてもよい。
【0023】
このように、フラックストランスフォーマー101により測定対象102の交流磁場がセンシング装置103に伝送されるため、センシング装置103は、測定対象102から離間して配置されるようにしてもよい。また、センシング装置103および2次側コイル112は固定しておき、1次側コイル111が所定の領域において走査されるようにしてもよい。
【0024】
そして、
図1に示すフラックストランスフォーマー設計支援装置は、記憶装置1、通信装置2、演算処理装置3、表示装置4および入力装置5を備える。
【0025】
記憶装置1は、フラッシュメモリー、ハードディスクなどの不揮発性の記憶装置であって、各種データやプログラムを格納する。記憶装置1には、フラックストランスフォーマー設計支援プログラム11が記憶されている。フラックストランスフォーマー設計支援プログラム11は、可搬性のある非一時的な記録媒体に記録されていてもよく、そのような記録媒体から読み出され記憶装置1にインストールされるようにしてもよい。
【0026】
通信装置2は、ネットワークインターフェイス、周辺機器インターフェイス、モデムなどのデータ通信可能な装置であって、必要に応じて、他の装置とデータ通信を行う。
【0027】
演算処理装置3は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを備えるコンピューターであって、プログラムを、ROM、記憶装置1などからRAMにロードしCPUで実行することで、各種処理部として動作する。ここでは、演算処理装置3は、フラックストランスフォーマー設計支援プログラム11を実行することで、パラメーター調整部21および伝送効率評価部22として動作する。
【0028】
パラメーター調整部21は、フラックストランスフォーマーの設計パラメーターの値を指定する。
【0029】
設計パラメーターは、1次側コイル111および2次側コイル112の、平均コイル径(ここでは半径)r1av,r2av、非巻線部導線長さlex,1,lex,2、巻数N1,N2、導線線径φ1,φ2、および導線電気抵抗率ρを含む。
【0030】
また、設計パラメーターは、1次側コイル111の磁性体コアについての、磁心断面積Sm、磁心比透磁率μr、磁心長さ(コイル軸方向の長さ)lm、実質磁心半径rmなどを含む。なお、コイル長l1は、1次側コイル111の巻線部分の軸方向長さよりlmのほうが長い場合には、lmと同値とされる。
【0031】
また、設計パラメーターは、1次側コイル111の磁性体コアについての、各巻きi(1≦i≦N1)についてのコイル径r1(i)を含む。
【0032】
さらに、設計パラメーターは、2次側コイル112の磁性体コアについて、各層j(1≦j≦M2)における、巻数n2(j)、コイル長さ(コイル軸方向の長さ)l2(j)、およびコイル径r2(j)、並びに、層数M2(ここではM2>1)を含む。
【0033】
さらに、設計パラメーターは、測定対象の交流磁場の周波数fを含む。
【0034】
設計パラメーターの値は、入力装置5に対するユーザー操作、通信装置2を介した外部からのデータ通信などで指定されてもよいし、所定のアルゴリズムで自動的に指定されてもよい。例えばパラメーター調整部21は、指定された一部の設計パラメーターの値を固定とし、残りの設計パラメーターの値を、伝送効率の計算回ごとに所定範囲内で自動的に変動させるようにしてもよい。
【0035】
伝送効率評価部22は、所定の計算式に従って、上述の設計パラメーターの値に対応する伝送効率BRを計算する。
【0036】
図4~
図8は、
図1における伝送効率評価部22で使用される計算式を説明する図である。
【0037】
具体的には、上述の所定の計算式に従って、伝送効率評価部22は、(a)フラックストランスフォーマー101の1次側コイル111の巻回iごとのコイル径r1(i)を個別的に考慮した1次側コイル111の起電力V、および(b)フラックストランスフォーマー101の2次側コイル112の巻回層jごとのコイル径r2(j)を個別的に考慮した2次側コイル112の誘起磁場B2に基づいて、伝送効率BRを計算する。
【0038】
具体的には、伝送効率BRは、
図4の式(1)に示すように、誘起磁場(磁束密度)B
2と1次側コイル111への印加磁場(磁束密度)B
0との比として定義される。なお、印加磁場B
0は、磁性体コアを含む1次側コイル111に一様に印加されるものとする。また、誘起磁場B
2は、1次側コイル111および2次側コイル112に導通する電流Iに対して、
図4の式(2)に示すように導出される。そして、電流Iは、
図4の式(3)に示すように、1次側コイル111の起電力Vに基づき導通し、1次側コイル111の起電力Vは、
図4の式(4)に示すように導出される。
【0039】
なお、式(1)~(4)において、μ0は真空の透磁率であり、Z1,Z2は、1次側コイル111および2次側コイル112のインピーダンスである。
【0040】
具体的には、式(1)~(3)に示すように、伝送効率BRの計算に使用される1次側コイル111および2次側コイル112のインピーダンスZ
1,Z
2が、
図5の式(5),(6)に示すように導出される。
【0041】
そして、インピーダンスZ1,Z2は、1次側コイル111および2次側コイル112の抵抗R1,R2およびインダクタンスL1,L2から導出され、抵抗R1,R2およびインダクタンスL1は、以下の事項を考慮して導出される。
【0042】
上述の所定の計算式では、
図5の式(7),(8)に示すように、1次側コイル111および2次側コイル112について非巻線部(導電部113を構成する引出線部分など、巻回されていない電線部分)の長さl
ex,1,l
ex,2を考慮した抵抗R
1,R
2の値に基づいて、伝送効率BRが計算される。
【0043】
さらに、上述の所定の計算式では、
図5の式(7),(8)に示すように、1次側コイル111および2次側コイル112について巻線の表皮効果(つまり、表皮深さδ)を考慮した抵抗R
1,R
2の値に基づいて、伝送効率BRが計算される。ここで、表皮深さδは、
図6の式(11)に示すように導出される。
【0044】
さらに、上述の所定の計算式では、
図5の式(9),(10)に示すように、1次側コイル111および2次側コイル112について、長岡係数A
1,A
2を考慮したインダクタンスL
1,L
2の値に基づいて、伝送効率BRが計算される。ここで、長岡係数A
1,A
2は、
図6の式(12)~(15)に示すように導出される。なお、式(12),(13)におけるE
1(k
1),E
1(k
2),E
2(k
1),E
2(k
2)は、k
1,k
2の第一種完全楕円積分および第二種完全楕円積分である。
【0045】
さらに、上述の所定の計算式では、
図5の式(9),(10)に示すように、1次側コイル111について、磁性体コアの実効比透磁率μ
aを考慮したインダクタンスL
1の値に基づいて、伝送効率BRが計算される。ここで、実効比透磁率μ
aは、
図7の式(16)~(19)に示すように導出される。なお、式(16)におけるN
0は、磁性体コアの中心の反磁界係数であり、N
avは、磁性体コアの平均反磁界係数である。
【0046】
また、上述の所定の計算式では、
図1の式(1),(4)に示すように、1次側コイル111について、磁性体コアの実効比透磁率μ
aを考慮した起電力Vに基づいて、伝送効率BRが計算される。
【0047】
さらに、上述の所定の計算式では、
図1の式(1),(4)に示すように、1次側コイル111について、磁性体コアの実効磁心断面積S
aを考慮した起電力Vに基づいて、伝送効率BRが計算される。ここで、実効磁心断面積S
aは、
図8の式(20)~(22)に示すように、磁性体コアの表皮効果(磁心の表皮深さs)を考慮して導出される。また、磁性体コアが棒コアなので、その比透磁率はある程度の大きさ(例えば1000)以上になると、反磁界係数の影響で実効透磁率はほぼ同等となる。なお、式(21),(22)におけるε
0は真空の誘電率であり、κ
mは、磁性体コアの比誘電率であり、ρ
mは、磁性体コアの電気抵抗率である。
【0048】
次に、上記フラックストランスフォーマー設計支援装置の動作(つまり、フラックストランスフォーマー設計支援方法の一例)について説明する。
図9は、
図1に示すフラックストランスフォーマー設計支援装置の動作について説明するフローチャートである。
【0049】
まず、パラメーター調整部21は、ユーザー操作などで指定された上述の設計パラメーターの値(具体的には、所定の複数の設計パラメーターの値セット)を特定する(ステップS1)。
【0050】
次に、伝送効率評価部22は、特定された設計パラメーターの値を使用して、上述の計算式に従って伝送効率BRを計算する(ステップS2)。
【0051】
伝送効率評価部22は、パラメーター調整の終了条件が成立したか否かを判定する(ステップS3)。この終了条件は、予め設定され、例えば、(a)伝送効率BRが所定閾値を超えていること、(b)予め指定された設計パラメーターの複数の値セットについての伝送効率BRの計算がすべて終わっていること、(c)伝送効率BRの計算結果をユーザーに通知した後の、終了のためのユーザー操作が検出されたこと、などとされる。
【0052】
パラメーター調整の終了条件が成立した場合、伝送効率評価部22は、伝送効率BRの計算結果(つまり、互いに関連付けられた、伝送効率BRの値および対応する設計パラメーターの値セット)を、表示装置4に表示したり、データファイルとして記憶装置1に記憶したり、通信装置2で外部へ送信したりして出力する(ステップS4)。
【0053】
このようにして、設計パラメーターの値セットを調整して繰り返し伝送効率BRの値を計算することで、伝送効率BRの値が良好となる設計パラメーターの値セットが得られる。
【0054】
以上のように、上記実施の形態1によれば、パラメーター調整部21は、フラックストランスフォーマーの設計パラメーターの値を指定し、伝送効率評価部22は、所定の計算式に従って、その設計パラメーターの値に対応する伝送効率BRを計算する。特に、伝送効率評価部22は、(a)フラックストランスフォーマーの1次側コイルの巻回ごとのコイル径を個別的に考慮した1次側コイルの起電力、および(b)フラックストランスフォーマーの2次側コイルの巻回層ごとのコイル径を個別的に考慮した2次側コイルの誘起磁場に基づいて、伝送効率BRを計算する。
【0055】
これにより、実験による実測を行うことなく計算によって、カラーセンターを利用したセンシング部材用のフラックストランスフォーマーの効率的な設計(つまり、設計パラメーターの好適な値セットの導出)が実行可能となる。
【0056】
図10は、伝送効率BRの計算結果の例を示す図であり、
図11は、
図10に示す伝送効率BRの計算に使用したパラメーター値を示す図である。
図12は、伝送効率BRの計算結果の別の例を示す図であり、
図13は、
図12に示す伝送効率BRの計算に使用したパラメーター値を示す図である。
図10は、周波数fが200Hzであり、1次側コイルのコイル径が10mmであり、2次側コイルのコイル径が5mmである場合の、各巻数N
1,N
2についての計算結果を示している。
図10に示す計算においては、
図11に示すパラメーター値が使用されている。
図12は、周波数fが200Hzであり、1次側コイルのコイル径が5mmであり、2次側コイルのコイル径が2.5mmである場合の、各巻数N
1,N
2についての計算結果を示している。
図12に示す計算においては、
図13に示すパラメーター値が使用されている。
【0057】
図14は、伝送効率BRの周波数特性を説明する図であり、
図15は、
図14に示す伝送効率BRの計算に使用したパラメーター値を示す図である。例えば
図15に示す条件においては
図14に示すように、1次側コイルが有芯コイルである場合、無芯コイルより伝送効率BRが高くなるが、有芯コイルの場合でも、低周波磁場については、伝送効率BRが低くなるため、フラックストランスフォーマーの設計において、高い伝送効率BRでODMRなどのカラーセンターを有するセンシング部材への磁場の伝送について有効に使用可能な1次側および2次側コイルの構成(寸法などの設計パラメーターの値セット)を得ることが重要である。上述のフラックストランスフォーマー設計支援方法を使用すれば、ユーザーは、各設計パラメーターの値セットについて、実験などで伝送効率BRを測定する必要がなく、フラックストランスフォーマーの設計の手間および期間を軽減することができる。
【0058】
実施の形態2.
【0059】
図16は、本発明の実施の形態2に係るセンサーモジュールの構成を示すブロック図である。
図16に示すセンサーモジュールは、磁気センサ部210と、演算処理装置211と、高周波電源212とを備える。
【0060】
磁気センサ部210は、所定の位置(例えば、検査対象物体の表面上または表面上方)において、被測定磁場(例えば強度、向きなど)を検出する。なお、被測定磁場は、単一周波数の交流磁場でもよいし、複数の周波数成分を有する所定周期の交流磁場でもよい。
【0061】
この実施の形態では、磁気センサ部210は、磁気共鳴部材201、高周波磁場発生器202、静磁場発生部213、およびフラックストランスフォーマー214を備える。
【0062】
磁気共鳴部材201は、上述のセンシング部材であって、ここでは、結晶構造を有し、結晶格子における欠陥および不純物の配列方向に応じて異なる周波数のマイクロ波で(ラビ振動に基づく)電子スピン量子操作の可能な部材である。この実施の形態では、磁気共鳴部材201は、複数(つまり、アンサンブル)の特定カラーセンターを有する光検出磁気共鳴部材である。この特定カラーセンターは、ゼーマン分裂可能なエネルギー準位を有し、かつ、ゼーマン分裂時のエネルギー準位のシフト幅が互いに異なる複数の向き(つまり、上述の配列方向)を取り得る。ここでは、磁気共鳴部材201は、単一種別の特定カラーセンターとして複数のNV(Nitrogen Vacancy)センターを含むダイヤモンドなどの板材であって、支持部材201aに固定されている。
【0063】
高周波磁場発生器202は、後述のマイクロ波を磁気共鳴部材201に印加する。ここでは、高周波電源212は、そのマイクロ波の電流を生成して高周波磁場発生器202に導通させる。高周波磁場発生器2は例えばコイルや、LC共振装置や、スリットアンテナや、棒状アンテナなどの一種であるか、それらの複数の装置を組み合わせたものである。
【0064】
また、静磁場発生部213は、磁気共鳴部材1内の複数の特定カラーセンター(ここでは、複数のNVセンタ)のエネルギー準位をゼーマン分裂させる静磁場(直流磁場)を印加する。
【0065】
フラックストランスフォーマー214は、実施の形態1におけるフラックストランスフォーマー設計支援方法、フラックストランスフォーマー設計支援装置、およびフラックストランスフォーマープログラムのいずれかを使用して得られたフラックストランスフォーマーものであり、測定位置で被測定磁場を感受し、その測定位置で感受した被測定磁場に対応する印加磁場を磁気共鳴部材201に印加する。
【0066】
この実施の形態では、磁気センサ部210は、磁気共鳴部材201から、上述の印加磁場に対応する物理的事象(ここでは蛍光)を検出する検出装置として、照射装置205および受光装置206を備える。照射装置205は、光検出磁気共鳴部材としての磁気共鳴部材201に光(所定波長の励起光と所定波長の測定光)を照射する。受光装置206は、測定光の照射時において磁気共鳴部材1から発せられる蛍光を検出する。なお、この物理的事象は、ここでは光学的に検出されるが、電気特性の変化(磁気共鳴部材1の抵抗値の変化など)であってもよく、電気的に検出されてもよい。
【0067】
演算処理装置211は、例えばコンピューターを備え、プログラムをコンピューターで実行して、各種処理部として動作する。この実施の形態では、演算処理装置211は、検出された光学的あるいは電気的な信号データを図示せぬ記憶装置(メモリーなど)に保存し、測定制御部221および演算部222として制御および演算動作を行う。
【0068】
測定制御部221は、高周波電源212を制御し、上述の検出装置(ここでは、照射装置205および受光装置206)により検出された、上述の複数の測定位置に対応する物理的事象(ここでは蛍光の強度)の検出値を特定する。この実施の形態では、測定制御部221は、ODMRに基づき、所定の測定シーケンスに従って高周波電源212および照射装置205を制御し、受光装置206により検出された蛍光の検出光量を特定する。
【0069】
演算部222は、測定制御部221によって得られ、記憶装置に保存されていた検出値に基づいて上述の複数の測定位置での被測定磁場を演算する。
【0070】
以上のように、上記実施の形態2に係るセンサーモジュールでは、実施の形態1のようにして設計されたフラックストランスフォーマー214が使用される。
【0071】
なお、上述の実施の形態に対する様々な変更および修正については、当業者には明らかである。そのような変更および修正は、その主題の趣旨および範囲から離れることなく、かつ、意図された利点を弱めることなく行われてもよい。つまり、そのような変更および修正が請求の範囲に含まれることを意図している。
【0072】
例えば、上記実施の形態では、上述の計算式は、センシング部材が2次側コイル103の中空部の中心に配置されている場合の計算式であり、センシング部材が別の位置(2次側コイル103の外側など)に配置される場合には、センシング部材の位置に応じた計算式(具体的にはB2の導出式)を使用すればよい。これにより、上述した場合と同様に、伝送効率の計算および評価を行うことができる。
【0073】
また、上記実施の形態1において、抵抗R1,R2の値を、温度tを考慮した抵抗率ρ(t)を使用して計算するようにしてもよい。その場合、フラックストランスフォーマー101(あるいはその環境)の温度tも上述の設計パラメーターとされる。
【0074】
また、上記実施の形態1において、フラックストランスフォーマー101の1次側コイル111は、差分コイルとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、例えば、低周波磁場の測定に適用可能である。
【符号の説明】
【0076】
3 演算処理装置(コンピューターの一例)
11 フラックストランスフォーマー設計支援プログラム
201 磁気共鳴部材(センシング部材の一例)
214 フラックストランスフォーマー
205 照射装置(検出装置の一例の一部)
206 受光装置(検出装置の一例の一部)
221 測定制御部
222 演算部