(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】ダイヤモンド粒子被覆スピーカー振動板、スピーカー振動板の製法及びスピーカーシステム
(51)【国際特許分類】
H04R 7/02 20060101AFI20240724BHJP
H04R 7/12 20060101ALI20240724BHJP
H04R 1/02 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
H04R7/02 Z
H04R7/12 K
H04R1/02 101A
(21)【出願番号】P 2022010105
(22)【出願日】2022-01-26
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000147811
【氏名又は名称】トーメイダイヤ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520060818
【氏名又は名称】荒木 正任
(72)【発明者】
【氏名】荒木 正任
【審査官】大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-057092(JP,U)
【文献】実開昭58-186696(JP,U)
【文献】特開昭64-024600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 7/02
H04R 7/12
H04R 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響機器の一要素として基材で構成され電気信号に応じて振動されるコーン状スピーカー振動板であって、該振動板の基材面上にダイヤモンド粒子層
が固着被覆され、該ダイヤモンド粒子層は全体に対する体積比において20%以下の結合材を含有し、隣接ダイヤモンド粒子同士は互いに密接し、全体として面状に連なって基材前面を被覆してなるスピー カー振動板。
【請求項2】
前記ダイヤモンド粒子層が、微細単結晶質ダイヤモンド粒子を結合材で一体化し、一様な厚さに形成されている請求項
1に記載のスピーカー振動板。
【請求項3】
前記ダイヤモンド粒子がD
50平均粒子径において1~ 50μmである、請求項1
又は2に記載のスピーカー振動板。
【請求項4】
前記ダイヤモンド粒子層の厚さが1~500μmである、請求項1
又は2に記載のいずれか1項に記載のスピーカー振動板。
【請求項5】
前記基材が紙、木材、竹、金属、合成樹脂から選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項1に記載のスピーカー振動板。
【請求項6】
前記結合材が酢酸ビニール、塩化ビニール、ポリエチレン、ナイロン、アクリル、ポリスチレン、エポキシ、アルキルベンゼンスルホン酸、ポリブチレン、ポリプロピレン、フェノール樹脂から選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項1に記載のスピーカー振動板。
【請求項7】
円錐台状乃至擬円錐台状に形成され、円錐台形の小径側端部において、電気信号に応じて駆動される要素に接合されてなる、請求項1に記載のスピーカー振動板。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のスピーカー振動板を剛性の枠に固定したスピーカーユニットとし、該ユニットをさらに、振動板の周囲を包囲する壁面を有する筐体に収納・固定してなるスピーカーシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音再現性の向上した、音響機器としてのスピーカーシステムに関する。本発明は特にコーン(擬円錐乃至円錐台)状振動板(以下簡略の為に「コーン」と称する)を備えたスピーカーシステムにおいて振動板表面の音伝播特性の向上、並びに筐体(スピーカーボックス、エンクロージャー)構成の最適化による逆位相波の抑制により、以て歪の少ない音の再現を可能にしたスピーカーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
スピーカーにおける音響発生機構は一般に浅い円錐台状に形成したコーンを、円錐頂部に近接配置したコイル・磁石系で駆動し、コーンの振動によって空気の粗密波を発生させることによって行われる。コーンの振動においてはコーン全体を電磁石の起振によって同時に振動させることが理想であるが、現実のコーンでは頂部から周縁部に振動が到着するのに有限の時間を要し、その時間差が本来の音響を歪める結果となる。
【0003】
前記時間差が発生する主な原因はコーン材料内の音の伝播速度(音速)の不足と考えられる。音速は物質によって異なるが、コーンの素材としては典型的な紙の外、木材、竹、プラスチック、シート状金属なども知られている(特許文献1、2、3)。コーン素材内での音速は金属については例えば銅が5.010×103m/s(縦波、以下同じ)、プラスチックではポリエチレンが1.950×103m/sであることが知られている(非特許文献1)。
【0004】
紙については資料がないが、紙の空隙に存在する空気は0℃、1気圧の下で331.45m/sであるから、その値とプラスチックの値との間にあると推定される。一方ダイヤモンドの音速は、1.8×104m/sと紹介されており(非特許文献2)、伝播速度が格段に大きいことが理解できる。
なお気相合成(CVD)法によりダイヤモンドをSi或いは熱伝導率の小さな基体上に生成し基体から分離してスピーカー振動板を形成することは公知である(特許文献2及び3)。
【0005】
更に円錐形のコーンが前方に振動すると空気の圧縮波が発生するが、コーンの背面にはこの圧縮波と逆位相の引張波が発生し、一方前面で引張波が発生するとコーンの背面には逆位相の圧縮波が生じる。これら逆位相の引張波又は圧縮波(逆位相波)が、コーンの縁を回って前方に伝わると、前方で形成された(正位相の)圧縮波又は引張波(以下、正位相波)を歪め、原音の正確な再現が困難になる。
【0006】
逆位相波を前面で発生する正位相波から分離し無害化すると共に防振等の効果によって音質を高めたり安定な設置を可能とするため、コーンとその駆動系とからなるスピーカーユニットは筐体に収容かつ固定されるのが一般である。筐体は一般に箱型構成でその材料は各種木材から選ばれることが多いが、他にも金属やプラスチック、或いは石質材料で構成することも公知で、実施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-266695号公報
【文献】特開昭59-143498号公報
【文献】特開昭60-141697号公報
【文献】特開平06-094453号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】東京天文台、理科年表「音 種々の物質中における音速度」(2021)446~449頁
【文献】「図解 気相合成ダイヤモンド」吉川昌範、オーム社(1995)3頁
【0009】
振動板は多くの場合筐体に収容されて使用されるので、筐体でコーンの背面を覆って逆位相波を閉じ込めて前記の逆位相波の干渉による正位相波の歪みを回避したり、前方に発生する波を歪ませないようにするため、筐体自体を金属その他の材料で構成する例も見受けられる。しかし軽便性、入手や加工の容易さ等から、より一般的には木材が筐体材として使用されてきた。
【0010】
本発明者は音響機器各要素の特性および全体の構成を詳細に検討し考察した結果、スピーカー、特に円錐台形状の振動板において、表面の音伝播速度を増大させることにより、再生される音響の再現性を格段に向上でき、このような効果は特に音の伝播速度が他の物質に比べて優れているダイヤモンド粒子の効果的な利用によって実現できるとの知見を得た。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は第一に、振動板コーンの振動がその材料によってコーンの電磁石近接部と周縁部とで時間差を生じ、それに起因する音響歪みを低減することにある。
併せて第二に、振動板コーンの背面で発生する逆位相波の前面への回り込みによる前面で発生する正位相波への干渉の低減による、正確な音響の再生を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要旨とするところは第一に、音響機器の一要素として基材で構成され電気信号に応じて振動されるコーン状スピーカー振動板であって、該振動板の基材面上にダイヤモンド粒子層を固着被覆して成るスピーカー振動板に存する。
【0013】
本発明のスピーカー振動板は典型的には柔軟材製のサスペンション等を介して剛性の枠に固定したスピーカーユニットとして利用される。本発明の振動板は特に、逆位相波の透過性の低い材料からなる筐体に収容して利用されるのが好ましい。
即ち本発明の要旨は第二に、このスピーカーコーン乃至ユニットを、振動板の周囲を包囲する壁面を有する、上記材料からなる筐体に収容したスピーカーシステムに存する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、(1)表面をダイヤモンド粒子層で被覆したコーン状振動板を使用することにより、表面伝播音響の歪みが最低限に抑えられる効果と、(2)セラミック質物質、ガラス、石質材料及びそれらの物質の粒子を体積率で30%以下の合成樹脂、金属等の結合材で成形した音響遮断性に優れる筐体の採用によって、スピーカー正面から発生する音波(正位相波)を歪める逆位相波を閉じ込める効果との組み合わせにより、前者或いは後者のみを採用した場合よりも更に高度の、音響歪み抑制効果が達成できるスピーカーシステムが提供される。
【0015】
本発明におけるスピーカーコーン(振動板)は、振動のための必要な物性、特に動特性を確保するための従来の材料からなる基材層と、その表面に形成され音の高速伝達材の層として機能するダイヤモンド結晶を配置したダイヤモンド粒子層との二層構成を有する。
【0016】
本発明においてはダイヤモンド粒子層による音速増大によって、磁石に近接しコーンが起動する中心部と周縁部との時間差に伴う位相の反転が生じなくなり、逆位相波の干渉による再生音の歪が回避される。
【0017】
また音声コイルからコーンへ連続的に音の情報が入力される場合、先行情報による振動は持続することなく速やかに減衰することが求められるところ、本発明においてはダイヤモンド層の振動は下層の従来材(紙等)によって効率的に吸収されて減衰し、雑音成分とならず、結果、忠実度が高い音響再生が得られる。
【0018】
本発明における筐体材として使用する石質材、特に焼成した陶質物質、ガラス、及びそれらの物質の粒子を体積率で30%以下の合成樹脂、金属等の結合材で成形した材料は、衝撃への耐性、軽量性、加工の容易さについては木材に劣るが、逆位相波を遮断する性能については大きく優れている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は本発明によるダイヤモンド粒子層を形成したスピーカーコーンの一例を示す概略断面説明図。
【
図2】
図2は本発明によるスピーカーコーンを筐体に収容保持した状態を示す概略断面説明図。
【
図3】
図3は本発明のスピーカーコーンを収容したスピーカーユニット全体の外観を示す概略説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者はスピーカー振動板、特にコーン状振動板の振動による音の再現性にはコーン全体の音伝播能力が深く関わるところ、コーンの材料として一般に利用されている材料の音速は必ずしも十分でないので、このことが音響、特に楽音の再現性に影響していると推測した。そしてこの観点から本発明者は、コーン表面に音伝播速度の高いダイヤモンドの粒子層を形成することによって、コーン材全体としての音の伝播速度(音速)が格段に向上することを知見した。
【0021】
コーン材として最も一般的なものは紙や合成樹脂(プラスチック)である。個々の材料の音伝播速度についてみると、データが得られないものもあって直接の比較は困難であるが、合成樹脂はポリエチレン(PET)データが利用可能で1.950×103m/sとなっている。より一般的な材料である紙の場合は組織に空隙を含むため正確な値の決定は困難であるが、ポリエチレンよりかなり低いと推定される。
【0022】
紙以外の材料としては木材,竹、プラスチック、シート状金属等が利用可能であり、これらの物質は本発明においてもスピーカー振動板を構成する基体材として利用可能である。
【0023】
ダイヤモンド粒子層の形成は特に、基材としての従来材からなる既成のコーンの表面にダイヤモンド粒子を、典型的には合成樹脂系の接着剤で固着接合することによって実施する。例えば溶剤で希釈した樹脂を筆・刷毛などでコーン表面全体に塗布し、樹脂層上に整粒されたダイヤモンド粒子を散布することも有効である。或いは台所用ラップフィルムPVDC製、厚さ約12μm)等の薄い樹脂フィルムの片面に同様に溶剤で希釈した樹脂を筆・刷毛などで全体に塗布し、その上に整粒されたダイヤモンド粒子を散布、樹脂が固化する前に全体をコーン上に貼り付けて完成させる。
【0024】
本発明において従来材料のコーン表面に例えば体積比でダイヤモンド70%+結合材30%のダイヤモンド層を形成する場合、ダイヤモンドの音速を1.8×104m/s(非特許文献2)とし、結合材の音速としてポリエチレンの音速1.950×103m/sを適用しまた音波の伝播経路の30%を結合材が占めると仮定すると、総合音速は5.188×103m/sと見積もられる。
【0025】
この値は上記ポリエチレンで代表される合成樹脂製コーンに比して十分に大きく、紙製コーンの場合に比してさらに大きい値であることから、これらの材料で形成されたコーンの表面をダイヤモンド層で覆うことによって、再生音の原音からの歪み軽減が期待できる。
【0026】
本発明のダイヤモンド層は最少量の結合材を用い、隣接ダイヤモンド粒子同士を互いに接触配置する場合、最大の音速増加効果が得られるが、結合材の比率を増してより低いダイヤモンド含有率とすることも可能である。好適な結合材の使用量は20%以下で、10%とした場合得られる音速は9.873×103m/sと概算される。
結合材としては酢酸ビニール、塩化ビニール、ポリエチレン、ナイロン、アクリル、ポリスチレン、エポキシ、アルキルベンゼンスルホン酸、ポリブチレン、ポリプロピレン、フェノール等の樹脂が好適で、これらを単独或いは組み合わせて使用することができる。
【0027】
使用するダイヤモンド粒子はD50平均粒子径が1~50μmの整粒された結晶粒子が適切である。形成されるダイヤモンド粒子層の厚さはダイヤモンド粒子の連続性が確保されていれば薄いほど好ましく、概ね1~500μmが好適な範囲である。
【0028】
本発明のコーンにおいて上記の音速値を適用し音響の起動源である電磁石直近から周縁まで音響が伝わる時間を求めると、上記二点間の距離が5cmの場合、伝播に要する時間は5.06μsとなる。これに対し、従来の合成樹脂のコーンの場合、樹脂の音速としてポリエチレンの値を適用すると伝播時間は25.6μsとなる。紙の場合はより大きくなることが見込まれる。
【0029】
この伝播時間の短縮がもたらす歪除去効果は次のようにして推測できる。例として104Hzの音波の場合を考えると、この周波数では、一つの波が立ち上がり1サイクル経過するまでの時間は100μs、従って立ち上がってから立ち下がりに転じるまでの時間はその1/4の25μsである。
【0030】
従来材のコーンの場合、ポリエチレンの音速値を適用しても、電磁石直近位置で立ち上がった104Hzの音響が25.6μsで周縁に達した時には電磁石直近では既に立ち下がりに転じており、即ち電磁石直近と周縁とでは逆位相の音響を再生することになり、音響が歪む原因となる。
【0031】
これに対し本発明のコーンの場合、ダイヤモンド粒子層が10体積%の結合材とダイヤモンド粒子とで構成され、ダイヤモンドが経路の90%を占めている場合、上記周波数の音響を仮定すると、電磁石直近位置で立ち上がった音響が周縁位置に伝わる時間は5.06μsなので音響はまだ立ち上がりの途上であり、上掲のような音響の立ち上がりが立ち下がりを打ち消すような状況には遠く、従って音響を歪ませる作用は限定的である。
【0032】
本発明一つの実施形態においてはさらに、スピーカーボックスの構成を最適化し、以てコーンの前面で発生した(正位相の)波が発生する時に背面で発生する逆位相波が、コーン前面に到達して正位相波を歪ませるのを高い効率で遮断、以て逆位相波の干渉を回避することによって音響波の歪みが局限される。
【0033】
従来スピーカーボックスの構成に一般に利用されている木材は、加工の容易さ、衝撃に対して抵抗性があり、比較的軽量であることから良好な筐体材料として多用されている。しかし音響遮断性は必ずしも十分でなく、背面で発生した逆位相波のコーン前面への伝播を許し音響の歪が避けられない。
【0034】
従って本発明においては、音響遮断性のより高い石質材を筐体構成素材として利用し、逆位相波の干渉による歪発生を抑制する。好適な材料としては、焼成した陶質材料やガラス、又はこれらの粒子を樹脂や金属質結合材で成型した複合材が利用できる。複合材の場合、石質材粒子の配合は体積率で70%以上が好ましい。このような材料は耐衝撃性、軽量性、加工の容易さについては木材に劣るが、逆位相波の遮断性では大きく優れている。
【0035】
本発明ではスピーカーコーンの振動に伴い発生する逆位相波は石質材料で構成される筐体の使用により効果的に伝播を阻止される。その機構と効果を計算式により以下に示す。
【0036】
筐体の壁による音響遮断性能は、音響の強度、周波数、壁材の種類に大きく依存するが概ね質量則に従い、即ち音響遮断性の逆である音響透過性は透過する壁の質量に逆比例するとされ、また壁の材料に起因する音響インピーダンスに依存する。
【0037】
質量則の観点から筐体構成に有用な各材料を見ると、木材については一般に密度は1×103kg/m3以下であり、本発明による焼成したセラミック系材、ガラス、及びこれらの材料を粒子として体積率で30%以下の合成樹脂や金属の結合材で成型したものの密度は、特別な例を除いて2.5×103kg/m3から3.5×103kg/m3の範囲に収まる。
【0038】
物質の音響インピーダンスZは以下の計算で求めることができる。音響を伝える媒質の密度をρ、音圧をPとし、媒質中を伝わる音速をC、媒質の粒子速度をV、受圧面積をSとすると、
Z=P/SV ・・・・ 1)
の関係がある。ここで、簡略のため、
P=ρCV ・・・・ 2)
とし、更に面積Sにつき無関係とすると式1)は、
Z = P/SV =ρCV/SV =ρC ・・・・ 3)
と置くことができる。この値Zは音響伝播に関わるインピーダンスとして、音響の伝わりやすさ(透過性)、或いはその逆概念の音響遮断性を判断の手がかりとして利用でき、この値が高いほど音響遮断性が高いと判断することができる。
【0039】
[従来材料のスピーカー筐体の音響遮断性の推測]
従来の材料である木材で構成したスピーカーボックスについて、密度(ρ)を一般的木材の最高値を適用し、音速(C)についてはデータがないので前記ポリエチレンの音速で代用して、数式3)によりスピーカー内部の空気(媒質1)及びスピーカーボックス材(媒質2) それぞれのインピーダンス(Z)の概算値を求めると、
媒質1(ρ:1.293kg/m3 C:331.45m/s)
Z1=1.293kg/m3×331.45m/s=428.56kg/m2s
媒質2(ρ:1×103kg/m3 C:1.95×103m/s)
Z2=1×103kg/m3×1.95×103m/s=1.95×106kg/m2s
が得られ、媒質2のインピーダンスは媒質1のインピーダンスの5×103倍近い値であることがわかる。
【0040】
[本発明のスピーカー筐体の音響遮断性の推測]
本発明のスピーカー筐体は焼成した陶磁器系(セラミック)材料、ガラス、及びそれらの物質の粒子の上掲成形体で構成される。かかる材料による音響遮断性を、音速データ値が利用可能な(非特許文献1)大理石の場合を例として上記同様に数式3)によりスピーカーボックス材(媒質3)のインピーダンス(Z)の概算値を求めると
媒質3(ρ:2.65×103kg/m3 C:6.1×103m/s)
Z3=2.65×103kg/m3×6.1×103m/s=16.165×106kg/m2
となり、従来一般材料の約8倍の音響遮断性を有することが理解される。
【0041】
スピーカーボックスを大理石で製作する場合、大理石の密度は前記の様に高密度の木材と比較しても約2.6倍と高いことから、スピーカーボックスの質量が同一であれば厚さは1/2.6に減少できることに加え、3倍以上の音響遮断性が達成可能である。
【0042】
また木材では組織内に含まれている空気が音響を伝えやすく、遮断性に関してはマイナスに作用する。この点を考慮すると、本発明による石質材料製のスピーカーボックスにおける逆位相波の透過(漏洩)は従来材料の場合の約1/3であると推測される。
【0043】
コーン背面で発生しスピーカーボックス内に閉じ込められた逆位相波は、ボックス内に設置された吸音材で減衰されたり、或いは後述のバスレフ型スピーカーの場合、コーン背面の空間で位相が反転した音響が、設置された孔から正位相波として放出される。
【0044】
スピーカーコーンの振動は空気を経由して聴取者に達するが、コーン材と空気との間でもインピーダンス関係が成り立つ。音響振動がコーンから空気に伝達される際、よりインピーダンスの高い材料のコーンからの方がより高い音響を伝えることが出来るが、本発明においては従来材のコーン表面にダイヤモンド粒子層を設けることにより、発生する音響の歪みの局限に加えて、さらにインピーダンスの増加による高音質の音響の放出が可能になる。
【0045】
本発明のダイヤモンド粒子層を有するスピーカーコーンのインピーダンスは音速と密度との積として次のように算出することができる。
結合材の音速としてデータが既知のポリエチレンの値を適用し含有量を体積率で10%とした場合については上記において総合音速として9.873×103m/sを得ている。またポリエチレンの密度を900 kg/m3とすると、体積率90%のダイヤモンドとの総合密度は3.258×103kg/m3である。従って上記構成のコーン材について本発明で規定のインピーダンス値Zoは、
Zo=3.258×103kg/m3×9.873×103m/s=32.2×106kg/m2s
となり、既に求めた空気のインピーダンスZ1=428.56kg/m2sの約7.5×104倍となる。
【0046】
比較の為にコーン材として一般的な紙材のインピーダンスZcを推測する。紙の密度と音速Cについてのデータが得られないので、ここでも物性が近いと考えられるポリエチレンについて上で求めた値ρ=900kg/m3及びC=1.950×103m/sを適用する。ただしポリエチレンでは内部に空隙がなく密であるため、空隙を有する紙については密度、音速共にポリエチレンより十分に低いと考えてよい。よって次の値が得られる。
Zc=900 kg/m3×1.950×103m/s=1.755×106kg/m2s
【0047】
この値は、ダイヤモンド粒子層を有する紙コーン材の値である32.2×106kg/m2sの約1/18であり、音響伝播能力が著しく低い、即ち本発明による顕著なインピーダンスの増加が理解できる。
【0048】
稀な例としてスピーカーコーンの構成材として金属のアルミニウムについてインピーダンスを考える。アルミニウムの密度ρは2.69×103kg/m3、音速Cは6.420m/sであるから、アルミニウムのインピーダンスZaは、
Za=2.690×103kg/m3×6.420×103m/s=17.27×106kg/m2s
となり、これはダイヤモンド粒子層の値32.2×106kg/m2sの約1/1.9であり、音響伝達能力において劣ることが理解できる。
【0049】
本発明においてはダイヤモンド粒子層で被覆することによりスピーカーコーン上で逆位相波の発生が抑制されるが、本発明ではスピーカーコーンを包囲する筐体の構成を最適化することによりコーン背面で発生する逆位相波を効果的に処理することにより、逆位相波の干渉に起因する歪の無いさらに良質の音響が達成可能となる。
【0050】
本発明においてスピーカーユニットを収容する筐体(スピーカーボックス)は密閉型として、コーン背面で発生する逆位相波を完全に閉じ込める構成、又はバスレフ型として逆位相波の低周波部分を筐体内部後面で反射させて正位相波とし、設けた開口部から正面に投射する構成として設計することも可能である。
以下、本発明を添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0051】
図1はコーン形状ダイナミックスピーカーユニットの一例について概略構造を示す断面図である。一般的なダイナミック(可動コイル型)スピーカーユニット1においてはコーン(擬似円錐面)状振動板2は、内側円錐面が本発明によるダイヤモンド粒子層3で被覆され、小径側の端部において駆動系の音声コイル4に接続される。
【0052】
駆動系5は典型的にはT字型鋼材から成るヨーク6、その上に配置されたリング状の磁石7、磁石上面にリング状鋼製の天板8が配置される。磁石の中心には軸上にヨークと一体又は別体の磁極9が配置され、周囲の天板との間に磁界が形成される。
【0053】
磁極9周囲には天板8との間に、中空円筒形のボビン10に導線を巻いた音声コイル4を自由可動・共軸的に配置し、ボビン10の上端は上記のようにコーン2の小径端部に接続される。コーン2は図示した構成では金属製のフレーム11で支持され、コーン2周縁とフレーム11との間はサラウンド12と呼ばれる柔軟な材料で接続され、一方コーンの小径端部付近はダンパー(緩衝材)13で支持される。
【0054】
かかる構成で配線経由でコイル4に電流を通じるとフレミングの左手の法則により、コイルは上下方向にピストン運動を起こす。電流を音響信号で変調することによってコイル10及び接続されたコーン2をそして空気を振動させ、音響を発生させる原理である。
【0055】
本発明のダイヤモンド粒子層による被覆は、各種の既成スピーカーコーンに適用可能である。被覆形成には様々な手法が可能であるが、一例を挙げると、次のように実行可能である。
【0056】
まずコーンと接合されている音声コイルを、磁石を含む他の部品から取り外す。一方20vol%のメタクリル酸メチル液と80vol%のダイヤモンド微粉(IRM3-8:平均粒子径4.1μm、トーメイダイヤ(株)製)との混合物をよく撹拌し、重合開始剤として過酸化ベンゾイルを添加して塗布液とする。コーンを大径側を上に、水平な作業台の上に置き、絵画用の筆(ブラシ)でコーン表面全体に均等に塗布する。これを空気中で一昼夜70℃に保って重合させ、固化を待ってスピーカーユニットの他の部品と一体化する。
【0057】
本発明によるスピーカーユニットは筐体に収容しての利用を意図するものであるが、特定構造の筐体に限定されない。
【0058】
筐体はコーンを保持すると同時に、コーンの背面で生じる逆位相の音を処理する機能を有し、いくつかの手法及び各手法に適した構造が確立されている。本発明のスピーカーはどのような構造の筐体にも適用可能である。
【0059】
図2に適用例としてバスレフ型筐体の場合を示す。バスレフ型はコーン背面で発生した逆位相波を閉鎖された筐体内で反転させ、また前面に通じるダクトでの共鳴を利用して低音域を増強するデザインである。この例ではスピーカーシステム筐体20内に、全音域(フルレンジ)対応のコーン形状振動板スピーカーユニット21が取り付けられ、音響信号入力のための配線22が端子盤23へ延びている。
【0060】
筐体内部には特に低音域の逆位相の音を反転させてダクト24を設けて共鳴、前面のポート25から放出するいわゆるバスレフ型の構成となっている。筐体はまた内容積を大きくとってコーンの振動抵抗を軽減したり、吸音材の使用により音の質を高めることも行われる。
【0061】
筐体の構造はその他にもバックロードスピーカーなど多くの種類があるが、コーン形状振動板に基づくスピーカーであれば、本発明のダイヤモンド粒子層を適用し、従来の木製の外、陶磁器(セラミック質)や石膏ボード等石質材料からなるスピーカーボックスと組み合わせて利用することが出来る。
【0062】
スピーカーボックスの製造工程は本発明に関係なく、また構造もコーン背面で発生した音を逆位相のまま正面に出さない構造のものであれば、様々なデザインのものが利用可能である。
【0063】
また現在多用されているスピーカーシステムには高・中・低の全音域を単一のスピーカーユニットで再生するフルレンジ型、各音域をツイーター、スコーカー、ウーハーと称する専用のスピーカーで、或いは2個のスピーカーで再生するマルチウェイ型が使用されているが、どのタイプにも適用できる。
【実施例】
【0064】
本発明の要素ごとの、即ちコーン状紙質振動板のダイヤモンド粒子層被覆の有無及び石質筐体使用の音響再生における効果を、複数(5人)のリスナーによる実際の聴き比べの結果によって以下に表示する。
【0065】
[石質材及び木製筐体の用意] 陶製の筐体を用いて
図1~3に示すスピーカーシステムを構成した。筐体は密度3.3g/cm
3の焼成陶製で厚さ5mm、前面幅・高さ12cm×20cm、奥行き12.5cm(いずれも内寸)の(単純) 密閉型で、スピーカーユニット取付用の正面中央、底面から11cmの高さに設けたφ10cmの開口以外は閉鎖し、背面には配線引き出し用の孔を設けた。(筐体1)
【0066】
同様に、比較用の筐体を厚さ2cmの木材を用い筐体1と同じ内寸の筐体を作成した(筐体2)。筐体1及び2の質量はそれぞれ2.066kg及び2.133kgであった。
【0067】
[スピーカーユニットの用意] スピーカーユニットとして、市販のYAMAHA AST-S1を用いた。
本発明のコーン状振動板は、紙製スピーカーコーンの表面に、平均粒径3μmのダイヤモンド粒子を8(vol.)%の酢酸ビニールで固着してなる平均厚さ0.5mmの層で覆い、スピーカーユニット1とした。
対照スピーカーユニットとして、上記と同型スピーカーユニットをダイヤモンド粒子層を設けることなく市販状態のままで使用した(スピーカーユニット2)。
【0068】
本発明及び比較用のスピーカーユニット1及び2を石質及び木製の各筐体の背面から配線を延出して前面開口に、サラウンドを介して取り付けて4種類の聴き比べ用スピーカーシステム1~4を用意した。
【0069】
音響再生用スピーカーに於いては、周波数の再生範囲で平坦であることが推奨されるが、実際は再生周波数範囲での平坦さよりも、声楽、オーケストラ、独奏楽器、ハードメタルロックといった五つのジャンルの音響の再生に於いて、体感的に心地よい音響であることが好まれ、かつ要求される。
【0070】
その観点から、本発明の効果の評価については、複数(5人)の官能検査者による効果の判定を評点として数値化し、特にスピーカーユニット1、2、と筐体(スピーカーボックス)1、2の組み合わせ方によってどのような差異があるかについて調べた。結果を表1~10に示す。
【0071】
表1及び2~表9及び10はそれぞれ、スピーカーユニット1及び2とスピーカーボックス1と2との組み合わせについて、5人の官能検査者による上記五ジャンルの音楽における評点(10点満点)である。官能評価者は女性25歳、38歳、49歳と男性19歳、52歳からなり、楽曲はハードメタルロックを除いて全てクラシック音楽である。また、スピーカーユニットとスピーカーボックスは全て目隠し状態での、聴覚のみによる客観判定である。
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
表1~10の結果をスピーカーユニット1とスピーカーボックス2の組み合わせについて纏めた総平均を表11に示す。
【0083】
【0084】
表9及び10では本発明によるスピーカーユニットと木製筐体との組み合わせ、及び従来の紙製スピーカーユニットと陶器製筐体との組み合わせが、従来構成のスピーカーユニットと木製筐体との組み合わせよりもやや優れた聴感を示しているが、一方、本発明のスピーカーユニットと、焼成陶製筐体を組み合わせたスピーカーでは格段に優れた聴感が得られることが分かる。
【符号の説明】
【0085】
1 スピーカーユニット
2 コーン(擬似円錐面)状振動板
3 ダイヤモンド粒子層
4 音声コイル
5 駆動系
6 ヨーク
7 磁石
8 天板
9 磁極
10 ボビン
11 フレーム
12 サラウンド
13 ダンパー(緩衝材)
20 スピーカーシステム筐体
21 スピーカーユニット
22 配線
23 端子盤
24 ダクト
25 ポート