(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】繊維束の開繊風洞機構
(51)【国際特許分類】
D02J 1/18 20060101AFI20240724BHJP
D01D 11/02 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
D02J1/18 Z
D01D11/02
(21)【出願番号】P 2020172225
(22)【出願日】2020-10-12
【審査請求日】2023-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】399126134
【氏名又は名称】株式会社ハーモニ産業
(74)【代理人】
【識別番号】110002804
【氏名又は名称】弁理士法人フェニックス特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新河戸 宏昭
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-200136(JP,A)
【文献】特開昭48-039767(JP,A)
【文献】特開2001-288639(JP,A)
【文献】特開2001-262443(JP,A)
【文献】特開2000-008261(JP,A)
【文献】特開平01-282362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02J 1/18
D01D 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続走行する繊維束に対し前記繊維束の走行方向と直交する方向から気流を通過させて前記繊維束を開繊する繊維束の開繊風洞機構であって、
前記気流を導く風洞筒体と、
前記風洞筒体の通気開口部において前記繊維束を支持する複数の支持部材と、
を備え、
前記支持部材が、前記風洞筒体内で駆動回転する回転体に周状に設けられており、
前記回転体を駆動回転させることによって、前記回転体に周状に設けられた複数の前記支持部材のうち前記風洞筒体の通気開口部に臨んで前記繊維束を支持する支持部材を移動させて他の支持部材と入れ替えることを特徴とした繊維束の開繊風洞機構。
【請求項2】
前記回転体が、前記繊維束の走行方向と直交する軸心回りに駆動回転可能に設けられていることを特徴とした請求項1に記載の繊維束の開繊風洞機構。
【請求項3】
前記回転体が、その軸心方向に間隔をあけて相対向する一対の円盤部材から成り、前記一対の円盤部材間に複数の前記支持部材が架設されていることを特徴とした請求項1または請求項2に記載の繊維束の開繊風洞機構。
【請求項4】
前記支持部材が、前記回転体の軸心と同心円状に設けられていることを特徴とした請求項1~請求項3の何れかに記載の繊維束の開繊風洞機構。
【請求項5】
前記風洞筒体内に、前記回転体に周状に設けられた複数の前記支持部材のうち前記風洞筒体の通気開口部に臨んで前記繊維束を支持する支持部材以外の支持部材を清掃する清掃手段が設けられていることを特徴とした請求項1~請求項4の何れかに記載の繊維束の開繊風洞機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維束の開繊風洞機構、より詳しくは、連続走行する繊維束に対し気流を通過させて開繊する繊維束の開繊風洞機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば繊維強化プラスチック(FRP)等の中間材料であるプリプレグシートを製造するために、炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維等の長繊維を多数本、引き揃えて成る繊維束を風洞装置の気流により幅広に開繊し、シート状に形成する開繊装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の開繊装置は、気流を導く風洞筒体の通気開口部に複数の支持部材を設け、通気開口部を走行する繊維束をこれら複数の支持部材により支えながら、繊維束の走行方向と直交する方向から気流を通過させて繊維束を開繊処理するものである。この開繊装置は、複数の支持部材により繊維束を一定の姿勢に保ちながら細かい間隔で段階を追って繊維束を開繊処理することができ、高品質な開繊シートを得ることが可能となった。
【0004】
ところが、この開繊装置は、通気開口部に設けた支持部材によって、より確実に開繊処理することができる反面、各支持部材が繊維束との接触により偏摩耗したり、繊維束のサイジング剤が付着し堆積する場合があり、繊維束の種類によっては、これら複数の支持部材の交換作業や清掃等のメンテナンス作業を頻繁に行う必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の繊維束の開繊装置に上記のような難点があったことに鑑みて為されたもので、風洞筒体の通気開口部で繊維束を支える支持部材の交換作業やメンテナンス作業を大幅に軽減化することができる繊維束の開繊風洞機構を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る繊維束の開繊風洞機構は、連続走行する繊維束に対し前記繊維束の走行方向と直交する方向から気流を通過させて前記繊維束を開繊する繊維束の開繊風洞機構であって、前記気流を導く風洞筒体と、前記風洞筒体の通気開口部において前記繊維束を支持する複数の支持部材と、を備え、
前記支持部材が、前記風洞筒体内で駆動回転する回転体に周状に設けられており、
前記回転体を駆動回転させることによって、前記回転体に周状に設けられた複数の前記支持部材のうち前記風洞筒体の通気開口部に臨んで前記繊維束を支持する支持部材を移動させて他の支持部材と入れ替えることを特徴としている。
【0008】
また、本発明に係る繊維束の開繊風洞機構は、前記回転体が、前記繊維束の走行方向と直交する軸心回りに駆動回転可能に設けられていることを特徴としている。
【0009】
また、本発明に係る繊維束の開繊風洞機構は、前記回転体が、その軸心方向に間隔をあけて相対向する一対の円盤部材から成り、前記一対の円盤部材間に複数の前記支持部材が架設されていることを特徴としている。
【0010】
また、本発明に係る繊維束の開繊風洞機構は、前記支持部材が、前記回転体の軸心と同心円状に設けられていることを特徴としている。
【0011】
また、本発明に係る繊維束の開繊風洞機構は、前記風洞筒体内に、前記回転体に周状に設けられた複数の前記支持部材のうち前記風洞筒体の通気開口部に臨んで前記繊維束を支持する支持部材以外の支持部材を清掃する清掃手段が設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る繊維束の開繊風洞機構によれば、回転体を駆動回転させるだけで、風洞筒体の通気開口部に臨んで繊維束を支持する支持部材を容易に入れ替えることができ、支持部材の摩耗やサイジング剤の付着等による支持部材の交換作業やメンテナンス作業を大幅に軽減化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態の繊維束の開繊風洞機構が配設された開繊装置の概略側面図である。
【
図2】本実施形態の繊維束の開繊風洞機構の一部断面側面図である。
【
図3】本実施形態の繊維束の開繊風洞機構の一部断面正面図である。
【
図4】本実施形態の繊維束の開繊風洞機構の要部拡大側面図である。
【
図5】本発明に係る繊維束の開繊風洞機構の他の実施形態の要部拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に示すように、本実施形態の繊維束の開繊風洞機構10は、給糸部Aから送出機構Bにより送り出されて連続走行する繊維束Fに対し、その走行方向と直交する方向から気流を通過させて繊維束Fを幅広に開繊し、シート状に形成するものである。本実施形態では、繊維束Fが巻回されたボビン等の給糸部Aから供給された繊維束Fを、計3台の送出機構Bにより順次送り出しながら、計3台の開繊風洞機構10によって繊維束Fを段階的に開繊し、開繊処理されたシート状の繊維束を巻取部Cで巻き取るようにしている。
【0015】
なお、各送出機構Bと各開繊風洞機構10との間にはそれぞれ、ダンサローラDが設けられており、各ダンサローラDの上下動位置を不図示の検出装置で検出し、その検出信号に基いて各送出機構Bによる繊維束の送出し量を調節することによって、各開繊風洞機構10における繊維束Fの適正な張力を維持するようにしている。また、本実施形態では、繊維束Fとして、直径7μmの炭素繊維を12000本、エポキシ樹脂系サイジング剤で互いに微着させて引き揃えた繊維束(国産炭素繊維12K)を使用している。
【0016】
図2及び
図3に示すように、本実施形態の繊維束の開繊風洞機構10は、繊維束Fを開繊するための気流AFを導く風洞筒体1と、風洞筒体1の通気開口部11において繊維束Fを支持する複数の支持部材2・2…と、これら複数の支持部材2を清掃するための清掃手段4と、を備えている。
【0017】
風洞筒体1は、その上下端が開口した角筒形状を成し、上端の開口縁部には、一対の支持プレート12・12が互いに所定間隔をあけて着脱自在に設けられており、これら一対の支持プレート12によって通気開口部11が形成されている。そして、風洞筒体1の下端の開口部には、流量調節バルブ13を介して吸気ポンプ14が接続されている。この吸気ポンプ14を作動させることによって、風洞筒体1の通気開口部11において所要流速の図面下向きの吸引気流AFを発生させ、一対の支持プレート12の上面に沿って水平方向に連続走行する繊維束Fに対し、繊維束Fの走行方向と直交する上方から気流AFを通過させる。
【0018】
支持部材2は、小径の丸棒形状を成しており、複数の支持部材2が、風洞筒体1内で駆動回転する回転体3に周状に設けられている。本実施形態の回転体3は、繊維束Fの走行方向と直交する水平軸心回りに回転可能に風洞筒体1に軸支されており、フレーム15に固定されたモータ16により駆動されて連続的または間欠的に回転する。また、本実施形態の回転体3は、その軸心方向に所定間隔をあけて相対向する一対の円盤部材31・31から成り、これら一対の円盤部材31の対向面間に各支持部材2が架設され、全体としてかご型に形成されている。本実施形態では、支持部材2として直径1mmのステンレス丸棒材を計72本、回転体3の軸心と同心円状に、互いに等間隔かつ平行に設けている。
【0019】
そして、この回転体3に周状に設けられた複数の支持部材2・2…のうち、回転体3の上部に位置する一部の支持部材2が風洞筒体1の通気開口部11に臨むように、回転体3が風洞筒体1内に配設されている。なお、
図3においては、図面の輻輳を避けるため、支持部材2の一部の図示を省略している。
【0020】
清掃手段4は、風洞筒体1に設けられたモータ41と、このモータ41により駆動されて回転する回転ブラシ42とから構成されている。回転ブラシ42は、回転体3に周状に設けられた複数の支持部材2・2…のうち、回転体3の下部に位置する一部の支持部材2と接触し、モータ41を作動させることによって、接触する支持部材2を清掃する。
【0021】
以上のように構成された本実施形態の繊維束の開繊風洞機構10は、
図4に示すように、風洞筒体1の通気開口部11を連続走行する繊維束Fを、通気開口部11に臨む複数の支持部材2によって支えながら、繊維束Fに対し下向きの気流AFを通過させ、これら複数の支持部材2間の細かい間隔で段階を追って繊維束Fを開繊処理することができ、高品質な開繊シートを得ることができる。
【0022】
そして、所定期間、繊維束Fの開繊処理を行った後、回転体3を所要の回転角度、駆動回転させれば、回転体3に周状に設けられた複数の支持部材2・2…のうち、それまで通気開口部11に臨んで繊維束Fを支持していた支持部材2を移動させて移動方向上流側の他の支持部材2と入れ替えることができ、この他の支持部材2によって引き続き、繊維束Fの開繊処理を行うことができる。そして、通気開口部11から移動した支持部材2を、回転体3の下部の位置で清掃手段4によって清掃することができる。
【0023】
このように、本実施形態の繊維束の開繊風洞機構10によれば、回転体3を駆動回転させるだけで、風洞筒体1の通気開口部11に臨んで繊維束Fを支持する支持部材2を容易に入れ替えることができるので、例えば、支持部材2の摩耗やサイジング剤の付着等による支持部材2の交換作業やメンテナンス作業を大幅に軽減化することができる。
【0024】
さらに、本実施形態の繊維束の開繊風洞機構10によれば、通気開口部11から移動させた支持部材2を清掃手段4により清掃することができるので、このことによっても、メンテナンス作業を大幅に軽減化することができる。
【0025】
また、本実施形態の繊維束の開繊風洞機構10は、回転体3が、繊維束Fの走行方向と直交する軸心回りに駆動回転可能に設けられているので、回転体3を風洞筒体1内にコンパクトに配設することができ、機構の大型化、複雑化を回避することができる。また、風洞筒体1の通気開口部11に臨んで繊維束Fを支持する支持部材2を繊維束Fの走行方向へ移動させることができるので、例えば、風洞筒体1の通気開口部11に繊維束Fを仕掛けた状態のまま、回転体3を回転させて支持部材2の入替え操作を行う場合であっても、繊維束Fの引き揃え状態等の品質を損なうこともない。
【0026】
また、本実施形態の繊維束の開繊風洞機構10は、回転体3が、相対向する一対の円盤部材31から成り、これら一対の円盤部材31間に複数の支持部材2が架設されているので、複数の支持部材2を風洞筒体1の通気開口部11に安定に臨ませることができ、繊維束Fを安定に支持しながら開繊処理することができる。また、風洞筒体1内において気流AFをスムーズに導くことができる。
【0027】
また、本実施形態の繊維束の開繊風洞機構10は、複数の支持部材2・2…が、回転体3の軸心と同心円状に設けられているので、全ての支持部材2の回転移動軌跡を同一にすることができ、支持部材2の入替え操作の前後における安定な繊維束Fの開繊処理を行うことができる。
【0028】
以上、本実施形態の繊維束の開繊風洞機構10について説明したが、本発明は他の実施形態でも実施することができる。
【0029】
例えば、上記実施形態では、風洞筒体1内に一つの回転体3を設けているが、本発明は決してこれに限定されるものではなく、
図5に示す繊維束の開繊風洞機構20のように、風洞筒体1内に複数の回転体3を設けるようにしてもよい。この繊維束の開繊風洞機構20では、複数の支持部材2が同心円状に周設された計3つの回転体3を風洞筒体1内に配設し、各回転体3の支持部材2をまとめて清掃する回転ブラシ42を備えた一つの清掃手段4を設けている。また、各回転体3の間には、上述した繊維束の開繊風洞機構10の支持プレート12に替えて、複数の支持ローラ17を設けている。このように、風洞筒体1内に複数の回転体3を設けることによって、回転体3による風洞筒体1内のデッドスペースを少なくすることができる。これら複数の回転体3及び回転ブラシ42の駆動については、例えばモータ等の回転駆動力をプーリやベルト等の各種伝達手段を介して行うなど、種々の設計変更が可能である。
【0030】
また、上記実施形態では、繊維束Fの開繊処理後に、回転体3を所要の回転角度、駆動回転させて支持部材2を入れ替えるようにしているが、本発明は、これに限定されるものでなく、繊維束Fの開繊処理中に回転体3を連続的または間欠的に駆動回転させるようにしてもよい。繊維束Fの開繊処理中に回転体3を連続回転させることによって、風洞筒体1の通気開口部11で複数の支持部材2を連続的に移動させながら繊維束Fを支持し、通気開口部11から移動した支持部材2を清掃手段4で連続的に清掃するようにすれば、通気開口部11において、常に清掃済みの清浄な支持部材2で開繊処理を行うことが可能となり、より高品質な開繊シートを得ることができる。また、このとき、通気開口部11での支持部材2の移動速度と繊維束Fの走行速度との差をゼロ或いは小さくすれば、繊維束Fとの接触による各支持部材2の摩耗自体を抑制することができる。回転体3の回転方向、回転角度、回転速度等は、繊維束Fの種類や性質、開繊巾等に応じて種々の変更が可能である。
【0031】
また、上記実施形態では、複数の支持部材2を回転体3の軸心と同心円状に設けているが、複数の支持部材2を回転体3の軸心と同心の正多角形状に周設してもよい。この正多角形状の一辺を成す複数の支持部材2を、風洞筒体1の通気開口部11において一平面状に並列させることができ、これら一平面状に並ぶ複数の支持部材2で繊維束Fを支持して開繊処理することができる。
【0032】
また、本実施形態の繊維束の開繊風洞機構10は、回転体3の駆動源として、モータを採用しているが、本発明は勿論これに限定されるものではなく、例えば流体圧シリンダ等の他の駆動源を採用してもよい。
【0033】
また、本実施形態の繊維束の開繊風洞機構10は、清掃手段4として、モータ41により駆動回転する回転ブラシ42を採用しているが、例えば、支持部材2と接触し合う可動或いは固定されたスポンジ等の他の清掃手段を採用してもよい。
【0034】
本発明は、その他、その趣旨を逸脱しない範囲内で、当業者の知識に基づいて種々の改良、修正、変形を加えた態様で実施し得るものである。また、同一の作用又は効果が生じる範囲内でいずれかの発明特定事項を他の技術に置換した形態で実施してもよく、また、一体に構成されている発明特定事項を複数の部材から構成したり、複数の部材から構成されている発明特定事項を一体に構成した形態で実施してもよい。
【符号の説明】
【0035】
10、20 繊維束の開繊風洞機構
1 風洞筒体
11 通気開口部
2 支持部材
3 回転体
31 円盤部材
4 清掃手段
F 繊維束
AF 気流