(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】鉄筋コンクリート造りの建物の建築方法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/14 20060101AFI20240724BHJP
E02D 27/00 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
E04G21/14
E02D27/00 E
(21)【出願番号】P 2020174974
(22)【出願日】2020-10-16
【審査請求日】2023-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2019192602
(32)【優先日】2019-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519379592
【氏名又は名称】佐田 政一
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】佐田 政一
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-033630(JP,A)
【文献】特開平11-013072(JP,A)
【文献】特開2000-087365(JP,A)
【文献】特公昭48-023389(JP,B1)
【文献】特開2016-098531(JP,A)
【文献】特開2009-281133(JP,A)
【文献】特開2011-102510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/14-21/22
E02D 27/00-27/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築予定の建物の配置領域の境界が侵入制限領域の領域外にて同侵入制限領域の境界の近傍に設定された鉄筋コンクリート造りの建物の建築方法であって、
配筋されたプレキャストコンクリートよりなるスラブPC体を前記建物の配置領域内に同配置領域の境界に沿って水平に配置し、
配置されたスラブPC体と、同スラブPC体の配置位置の地面上に予め形成していた捨てコンクリートとの間の空隙に無収縮モルタルを充填して固化させ、
前記建物の高さと略同じ高さまで上方へ伸延する縦壁部と水平方向へ伸延する底壁部とを備える側面視L字状であって配筋されたプレキャストコンクリートよりなる長身L字PC体を前記建物の配置領域の境界に前記底壁部の前記縦壁部立設側端面を沿わせた状態で前記スラブPC体の上面上に所定の締結構造を介し連結させて配置し、この長身L字PC体の前記縦壁部を構造壁として前記配置領域内に前記建物を構築することを特徴とする鉄筋コンクリート造りの建物の建築方法。
【請求項2】
道路に面して順に隣接する第1~第3の3つの土地のうち、前記侵入制限領域である第1及び第3の土地を左右両隣とする第2の土地にて、前記建物の配置領域の境界を前記侵入制限領域の境界の近傍に設定することを特徴とする請求項1に記載の鉄筋コンクリート造りの建物の建築方法。
【請求項3】
前記建物の配置領域の境界の左右一側辺側に配された長身L字PC体と、左右他側辺側の対向位置に配された長身L字PC体とよりなる対向壁構造体を、前記配置領域内の前記第2の土地の奥行き方向へ所定間隔を隔てて複数構築すると共に、
対向壁構造体の間には、前記長身L字PC体よりも高さが低い縦壁部と水平方向へ伸延する底壁部とを備える側面視L字状であって配筋されたプレキャストコンクリートよりなる短身L字PC体を前記長身L字PC体と同様に前記建物の配置領域の境界に沿わせて配置し、更に前記長身L字PC体の縦壁部の側面と前記短身L字PC体の縦壁部の上面とをL字状の連結金具で接続したことを特徴とする請求項2に記載の鉄筋コンクリート造りの建物の建築方法。
【請求項4】
前記短身L字PC体は、同短身L字PC体の配置位置の地面上に予め形成していた捨てコンクリート上に、同捨てコンクリートと前記短身L字PC体の底壁部との間の空隙に形成した無収縮モルタルの充填固化体を介して水平に配置することを特徴とする請求項3に記載の鉄筋コンクリート造りの建物の建築方法。
【請求項5】
前記建物の配置領域の奥行方向に間欠配置した長身L字PC体の縦壁部間の間口を壁で閉塞すべく外壁構成体を配設するにあたり、前記縦壁部の内面であって前記間口に沿って縁部に形成された段差よりなる取着枠に対して前記間口よりも広幅の外壁構成体の周縁を固定することで前記間口を閉塞する壁を建物の内側から構築可能としたことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の建物の建築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート造りの建物の建築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、住居や店舗などの建物を建てるに際し、鉄筋コンクリート造りが広く採用されている。
【0003】
鉄筋コンクリート造りの建物は耐火性や耐久性等に優れるという長所を備える反面、重量が大きいため、地盤が軟弱などの理由がなく通常程度の地盤の場合であっても基礎杭や地中梁を形成し、地盤改良や十分な基礎作りを行うのが一般的である(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、鉄筋コンクリート造りの建物の基礎工事は、コンクリートを現場打ちするための木枠を構築したり、また、配筋作業なども必要となるため、予定されている建物が占める領域(建築予定の建物の配置領域)よりも広いスペースが要求される場合が多い。
【0006】
しかしながら、両隣に建物があったり隣地へ侵入が許されないなど、侵入が制限される領域が直近に存在する場合、この基礎工事がネックとなり、隣地境界ギリギリに鉄筋コンクリート造りの建物を建てるのが困難な場合があった。
【0007】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、隣に建物があったり、隣地へ侵入が許されない場合であっても、この侵入が制限された領域の境界にできるだけ近づけて鉄筋コンクリート造りの建物を建てることが可能な建築方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記従来の課題を解決するために、本発明に係る鉄筋コンクリート造りの建物の建築方法では、(1)建築予定の建物の配置領域の境界が侵入制限領域の領域外にて同侵入制限領域の境界の近傍に設定された鉄筋コンクリート造りの建物の建築方法であって、配筋されたプレキャストコンクリートよりなるスラブPC体を前記建物の配置領域内に同配置領域の境界に沿って水平に配置し、配置されたスラブPC体と、同スラブPC体の配置位置の地面上に予め形成していた捨てコンクリートとの間の空隙に無収縮モルタルを充填して固化させ、前記建物の高さと略同じ高さまで上方へ伸延する縦壁部と水平方向へ伸延する底壁部とを備える側面視L字状であって配筋されたプレキャストコンクリートよりなる長身L字PC体を前記建物の配置領域の境界に前記底壁部の前記縦壁部立設側端面を沿わせた状態で前記スラブPC体の上面上に所定の締結構造を介し連結させて配置し、この長身L字PC体の前記縦壁部を構造壁として前記配置領域内に前記建物を構築することとした。
【0009】
また、本発明に係る鉄筋コンクリート造りの建物の建築方法では、以下の点にも特徴を有する。
(2)道路に面して順に隣接する第1~第3の3つの土地のうち、前記侵入制限領域である第1及び第3の土地を左右両隣とする第2の土地にて、前記建物の配置領域の境界を前記侵入制限領域の境界の近傍に設定すること。
(3)前記建物の配置領域の境界の左右一側辺側に配された長身L字PC体と、左右他側辺側の対向位置に配された長身L字PC体とよりなる対向壁構造体を、前記配置領域内の前記第2の土地の奥行き方向へ所定間隔を隔てて複数構築すると共に、対向壁構造体の間には、前記長身L字PC体よりも高さが低い縦壁部と水平方向へ伸延する底壁部とを備える側面視L字状であって配筋されたプレキャストコンクリートよりなる短身L字PC体を前記長身L字PC体と同様に前記建物の配置領域の境界に沿わせて配置し、更に前記長身L字PC体の縦壁部の側面と前記短身L字PC体の縦壁部の上面とをL字状の連結金具で接続したこと。
(4)前記短身L字PC体は、同短身L字PC体の配置位置の地面上に予め形成していた捨てコンクリート上に、同捨てコンクリートと前記短身L字PC体の底壁部との間の空隙に形成した無収縮モルタルの充填固化体を介して水平に配置すること。
(5)奥行方向に間欠配置した長身L字PC体の縦壁部間の間口を壁で閉塞すべく外壁構成体を配設するにあたり、前記縦壁部の内面であって前記間口に沿って縁部に形成された段差よりなる取着枠に対して前記間口よりも広幅の外壁構成体の周縁を固定することで前記間口を閉塞する壁を建物の内側から構築可能としたこと。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る鉄筋コンクリート造りの建物の建築方法によれば、建築予定の建物の配置領域の境界が侵入制限領域の領域外にて同侵入制限領域の境界の近傍に設定された鉄筋コンクリート造りの建物の建築方法であって、配筋されたプレキャストコンクリートよりなるスラブPC体を前記建物の配置領域内に同配置領域の境界に沿って水平に配置し、配置されたスラブPC体と、同スラブPC体の配置位置の地面上に予め形成していた捨てコンクリートとの間の空隙に無収縮モルタルを充填して固化させ、前記建物の高さと略同じ高さまで上方へ伸延する縦壁部と水平方向へ伸延する底壁部とを備える側面視L字状であって配筋されたプレキャストコンクリートよりなる長身L字PC体を前記建物の配置領域の境界に前記底壁部の前記縦壁部立設側端面を沿わせた状態で前記スラブPC体の上面上に所定の締結構造を介し連結させて配置し、この長身L字PC体の前記縦壁部を構造壁として前記配置領域内に前記建物を構築することとしたため、基礎工事が簡略化され建物自体の重量が大幅に軽減されることとなり、両隣に建物があったり、隣地へ侵入が許されない場合であっても、この侵入が制限された領域の境界にできるだけ近づけて鉄筋コンクリート造りの建物を建てることが可能な建築方法を提供することができる。
【0011】
また、道路に面して順に隣接する第1~第3の3つの土地のうち、前記侵入制限領域である第1及び第3の土地を左右両隣とする第2の土地にて、前記建物の配置領域の境界を前記侵入制限領域の境界の近傍に設定することとすれば、左右両隣の土地(第1又は第3の土地)に既に敷地一杯に建物が建てられていたり、侵入が許されない場合であっても、道路側よりアプローチを行いながら、できるだけ広い間口の建物を建てることができる。
【0012】
また、前記建物の配置領域の境界の左右一側辺側に配された長身L字PC体と、左右他側辺側の対向位置に配された長身L字PC体とよりなる対向壁構造体を、前記配置領域内の前記第2の土地の奥行き方向へ所定間隔を隔てて複数構築すると共に、対向壁構造体の間には、前記長身L字PC体よりも高さが低い縦壁部と水平方向へ伸延する底壁部とを備える側面視L字状であって配筋されたプレキャストコンクリートよりなる短身L字PC体を前記長身L字PC体と同様に前記建物の配置領域の境界に沿わせて配置し、更に前記長身L字PC体の縦壁部の側面と前記短身L字PC体の縦壁部の上面とをL字状の連結金具で接続すれば、長身L字PC体や構築した対向壁構造体が、第2の土地の手前-奥行方向へ傾いたり、倒れることを防止することができる。
【0013】
また、前記短身L字PC体は、同短身L字PC体の配置位置の地面上に予め形成していた捨てコンクリート上に、同捨てコンクリートと前記短身L字PC体の底壁部との間の空隙に形成した無収縮モルタルの充填固化体を介して水平に配置することとすれば、長身L字PC体と短身L字PC体を更に安定して配置することができる。
【0014】
また、奥行方向に間欠配置した長身L字PC体の縦壁部間の間口を壁で閉塞すべく外壁構成体を配設するにあたり、前記縦壁部の内面であって前記間口に沿って縁部に形成された段差よりなる取着枠に対して前記間口よりも広幅の外壁構成体の周縁を固定することで前記間口を閉塞する壁を建物の内側から構築可能とすれば、建物外の浸入制限領域に入ることなく壁を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】侵入制限領域の境界と建築予定の建物の配置領域の境界との関係の一例を概念的に示した説明図である。
【
図2】配置領域の境界に沿ったスラブPC体の配置の例を示した説明図である。
【
図3】長身L字PC体の構成を示した説明図である。
【
図4】第1~第3の土地の状況を示す説明図である。
【
図5】長身L字PC体及び短身L字PC体の配置例を示した説明図である。
【
図6】本実施例に係る建築土地区画の状況を示した説明図である。
【
図7】建築土地区画の平面視における説明図である。
【
図9】調整モルタルの充填過程を示す説明図である。
【
図10】建築土地区画の平面視における説明図である。
【
図17】長身L字PC体の構成を示した説明図である。
【
図18】短身L字PC体の構成を示した説明図である。
【
図20】取着枠への外壁構成体の固定過程を示した説明図である。
【
図21】間口に外壁構成体が取り付けられた状態を示す説明図である。
【
図22】他の実施例の作業過程を示した説明図である。
【
図23】他の実施例の作業過程を示した説明図である。
【
図24】他の実施例の作業過程を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、建築予定の建物の配置領域の境界が侵入制限領域の領域外にて同侵入制限領域の境界の近傍に設定された鉄筋コンクリート造りの建物の建築方法に関するものであり、両隣に建物があったり、隣地へ侵入が許されない場合であっても、この侵入が制限された領域の境界にできるだけ近づけて鉄筋コンクリート造りの建物を建てることが可能な建築方法を提供するものである。
【0017】
通常、鉄筋コンクリート造りの建物を建てる際は、ベースや柱型を構築するために地面を深く掘るため土留めが必要となったり、また地中に埋まった文化財が発掘された際にこれを掘り出す作業が発生することとなる。この点、本願方法によれば、100kN/m2以下、更には50kN/m2以下のような地盤であったとしても建築可能であり、20kN/m2~30kN/m2を下回るような軟弱な地盤でない限り深く掘る必要はないため(浅くてすむため)、これらの問題を回避することもできる。
【0018】
ここで侵入制限領域とは、既に建物があって入れなかったり、他人の土地だから入れない、危ないから入れない、墓があるなど宗教的な理由で入れない、入りたくないなど理由を問わず侵入が制限される領域を意味している。
【0019】
また侵入制限領域は、(a)建物の建築はできないが、例えば現状復旧を条件に施工することや立ち入ることは可能な領域(建築不可・施工立入可能領域)や、(b)建物の建築や施工はできないが立ち入りはできる領域(建築施工不可・立入可能領域)、(c)建物の建築や施工は勿論のこと立ち入りもできない領域(建築施工立入不可領域)のうちいずれの状況であっても良いが、本実施形態に係る鉄筋コンクリート造りの建物の建築方法は特に、(b)建築施工不可・立ち入り可能領域や、(c)建築施工立入不可領域の場合、更には(c)建築施工立入不可領域の場合に有用である。なお、出願人が本発明を権利化するにあたり、発明の構成や課題に関し、侵入制限領域への侵入が制限される理由について所定の状況に限定したり、進入制限領域について上記(a)~(c)のいずれか1つ又は2つ以上に限定する場合がある。
【0020】
図1は、侵入制限領域の境界と建築予定の建物の配置領域の境界との関係の一例を概念的に示した説明図である。
【0021】
斜線網掛けで示す建築予定の建物の配置領域P1は、侵入制限領域Aの領域外である建物の建築対象の土地区画P内に設定されており、配置領域P1の境界P1X(実線で示す)は、その一部が建築土地区画Pの侵入制限領域Aとの境界PX(一点鎖線で示す)の近傍に設定されている。なお、ここでは建築土地区画Pの四方が侵入制限領域Aで囲まれている状態であるが、このような場合も建築土地区画P(配置領域P1)は侵入制限領域の領域外である。
【0022】
侵入制限領域Aの境界PXと配置領域P1の境界P1Xは、具体的にはこの矩形状の土地の場合、配置領域P1の左境界線P1Lが侵入制限領域Aの左境界線PLの近傍に、配置領域P1の右境界線P1Rが侵入制限領域Aの右境界線PRの近傍に、配置領域P1の前境界線P1Fが侵入制限領域Aの前境界線PFの近傍にそれぞれ設定されている。配置領域P1の後境界線P1Bは、侵入制限領域Aの後境界線PBからは離隔して設定されており、近傍には設定されていない。
【0023】
ここで、侵入制限領域の境界PXの近傍とは、安全などを加味した上で建築可能な限り侵入制限領域の境界PXに接近した位置であり、実際上は侵入制限領域の境界PXから建築土地区画P側に2cm~5cm程度内寄りの位置である。例えば
図1では、PLとP1L、PRとP1R、PFとP1Fの間は概ね20~30cmである。
【0024】
本実施形態に係る鉄筋コンクリート造りの建物の建築方法(以下、本建築方法ともいう。)では、建築予定の鉄筋コンクリート造りの建物の配置領域の境界が侵入制限領域の領域外にて同侵入制限領域の境界の近傍に設定された状態(以下、制限域近傍建築状態ともいう。)について、上述した
図1に示す態様を含むほか、PLとP1L、PRとP1R、PFとP1F、PBとP1Bのうちいずれか1つ以上が、全体的又は部分的に近傍に設定された状態も含んでいる。
【0025】
また更に言及するならば、
図1の概念説明図では矩形状の土地を一例として説明したが、土地の形状は矩形状に限られない(不定形状)。すなわち、建築土地区画P内に設定された配置領域P1の境界P1Xの一部が、侵入制限領域Aとの境界でもある境界PXの近傍に設定されていれば、本実施形態における制限域近傍建築状態のケースに含まれる。このとき、侵入制限領域Aが(b)建築施工不可・立入可能領域の場合は、侵入制限領域A内への立入と施工ができないと建築が困難なケースが、(c)建築施工立入不可領域の場合は、侵入制限領域A内への立入ができないと建築が困難なケースが、本建築方法の効果がより顕著に発揮されるケースである。
【0026】
このような制限域近傍建築状態において、本建築方法の特徴としては、スラブPC(プレキャストコンクリート)体を配置する工程や無収縮モルタルを充填・固化する工程、長身L字PC(プレキャストコンクリート)体をスラブPC体の上面上に配置し、これを構造壁として建物を構築する工程を経る点が挙げられる。
【0027】
スラブPC体を配置する工程では、建物の配置領域内にスラブPC体を配置する。このスラブPC体は、配筋されたプレキャストコンクリートよりなるスラブ体であり、その大きさや形は土地の形状や建物の設計等に応じて適宜決定することが可能であるが、ある一つの長身又は短身L字PC体(後述)が、一つのスラブPC体上に載置される場合(2以上のスラブPC体上に跨がっての載置ではない場合)は、スラブPC体は、L字PC体の底壁部の底面積よりも接地面積を広くすべきである。仮にスラブPC体の接地面積がL字PC体の底壁部の底面積よりも狭い場合、スラブPC体による建物重量の拡散効果が発揮できないからである。
【0028】
またスラブPC体は、配置領域の境界に沿って水平に配置される。当然であるが、建物を垂直に建てるためであり、また、建物の重量を地盤へ可及的均等に分散させるためである。
【0029】
水平な配置を行うためには、捨てコンクリートを形成するのが好ましく、更には捨てコンクリートの形成前に、必要に応じて地盤をならしたり砕石を敷いたりしても良い。特に捨てコンクリートには直上に配置されるスラブPC体を水平に配置するためのスペーサ金具を埋め込んでおき、後述の無収縮モルタルを充填するためのスペースを確保しつつ、金具により調整しながらスラブPC体を水平に配置できるようにしても良い。
【0030】
配置領域の境界に沿った配置領域内でのスラブPC体の配置は、後述の長身L字PC体が配置される場所には少なくとも配置しておくべきであり、後述の短身L字PC体が配置される場所には配置しておくのが望ましく、長身又は短身L字PC体のいずれも配置されない場所は必須ではないが配置されていても良い。
【0031】
また、スラブPC体の配置は、配置領域内であって配置領域の境界に沿った位置以外の位置に配置することや、侵入制限領域の境界の近傍でない配置領域の境界よりも配置領域内方寄りやはみ出して配置することを妨げるものではない。
【0032】
図2は、
図1にて示した配置領域P1内にて、同配置領域の境界に沿ったスラブPC体の配置の例を示した説明図である。
【0033】
例えば
図2(a)の上図に示す例では、配置領域P1の左右全幅の長さと同じ長辺長さを有する矩形状のスラブPC体10を、建築土地区画P内に規定された配置領域P1の前方、中央、後方に間欠的に配置している。
【0034】
より具体的には、配置領域P1の前方に配置したスラブPC体10aは、侵入制限領域Aの境界の近傍に設定された配置領域の境界(以下、制限域近傍配置境界という。)である左境界線P1Lと右境界線P1Rに短辺を沿わせ、同じく制限域近傍配置境界である前境界線P1Fに長辺を沿わせて配置し、配置領域P1の前後方向略中央に配置したスラブPC体10bは、制限域近傍配置境界である左境界線P1Lと右境界線P1Rに短辺を沿わせて配置し、配置領域P1の後方に配置したスラブPC体10cは、制限域近傍配置境界である左境界線P1Lと右境界線P1Rに短辺を沿わせ、制限域近傍配置境界ではない後境界線P1Bに長辺を沿わせて配置している。
【0035】
このように、
図2(a)の上図に示す例では、前境界線P1Fに関してはスラブPC体10aの長辺との関係において左右幅方向の全域に亘り境界に沿って配置された状態となっているが、左境界線P1Lや右境界線P1RとスラブPC体10a~10cの短辺との関係の如く間欠的に配置されている場合も、境界に沿った配置である。
【0036】
次に、
図2(b)にスラブPC体の別の配置例を示す。
図2(b)の上図にて示す例では、短辺の長さは同じであるが、長辺が相対的に長いスラブPC体11と、長辺が相対的に短いスラブPC体12との2種のスラブPC体を用い、配置領域P1の境界P1Xの内回りに沿って配置している。
【0037】
より具体的には、制限域近傍配置境界である左境界線P1LにはスラブPC体11aの長辺とスラブPC体12aの長辺とを配置し、制限域近傍配置境界でない後境界線P1BにはスラブPC体12aの短辺とスラブPC体12bの長辺とスラブPC体11bの短辺とを配置し、制限域近傍配置境界である右境界線P1RにはスラブPC体11bの長辺とスラブPC体12cの長辺とを配置し、制限域近傍配置境界である前境界線P1FにはスラブPC体12cの短辺とスラブPC体12dの長辺とスラブPC体11aの短辺とを配置している。
【0038】
また、配置したこれらスラブPC体11,12の内方は、同スラブPC体11,12が配置されていないスラブPC体非配置領域としている。このような
図2(b)の上図に示す配置もまた、境界に沿った配置である。
【0039】
また
図2(c)にスラブPC体の更なる配置例を示す。
図2(c)の上図に示す例は、
図2(b)の上図に示した例と概ね同様の配置構成であるが、前述のスラブPC体非配置領域にもスラブPC体を配置している点で構成を異にしている。
【0040】
図2(b)に示した例と同様の構成については説明を割愛するが、
図2(c)の例では、スラブPC体11a,12a,12b,11b,12c,12dで囲まれる内方のスラブPC体非配置領域に、スラブPC体11c,11dを配置して、配置領域P1の全域にスラブPC体を配置している。このような場合も、境界に沿った配置である。
【0041】
スラブPC体を配置する工程の次に、本建築方法では、無収縮モルタルを充填・固化する工程が行われる。本工程では、配置されたスラブPC体と、同スラブPC体の配置位置の地面上に予め形成していた捨てコンクリートとの間の空隙に無収縮モルタルを充填して固化させる。これにより、捨てコンクリートとスラブPC体とが無収縮モルタルを介して一体となり、建物の荷重の略均一な地面への分散が実現される。
【0042】
無収縮モルタルを充填・固化する工程の次に、本建築方法では、長身L字PC体をスラブPC体の上面上に配置し、これを構造壁として建物を構築する工程が行われる。
【0043】
図3は本建築方法にて採用される長身L字PC体の例を示した説明図である。例えば
図3(a)に示す長身L字PC体15は、長身L字PC体の典型的な例であり、建物の高さと略同じ高さまで上方へ伸延する縦壁部15aと水平方向へ伸延する底壁部15bとを備える側面視L字状であって、配筋されたプレキャストコンクリートよりなる。
【0044】
また
図3(b)に示す長身L字PC体16は、建物の隅部に配される長身L字PC体であり、底壁部16cの隣り合う二側辺部分に、建物の高さと略同じ高さまで上方へ伸延する第1の縦壁部16aと第2の縦壁部16bとが立設されている。このような形状のものもまた、本建築方法において長身L字PC体に含まれる。
【0045】
また
図3(c)に示す長身L字PC体17は、
図3(b)に示した長身L字PC体16と概ね同様の構成、すなわち、第1縦壁部17aや第2縦壁部17b、底壁部17dを備えているが、第2縦壁部17bの上下方向中途に窓枠形成用の切欠部17cが設けられている。このように、必要に応じて縦壁部に適宜切欠部等を形成した場合であっても、本建築方法における長身L字PC体に含まれる。
【0046】
また、これら長身L字PC体15~17は、それぞれの底壁部15b,16c,17dに複数の締結穴18が穿設されている。また締結穴18の内部には、底壁部15bを構成するコンクリートの内部に一部が埋め込まれた状態で締結金具が突出している。この締結金具は、スラブPC体の上面に突出させた締結金具と対応する位置に配設されており、両締結金具をボルト等で締結することにより、長身L字PC体15~17をスラブPC体上に連結固定可能としている。
【0047】
これらのような長身L字PC体15~17のスラブPC体の上面上での配置は、底壁部の縦壁部立設側端面を建物の配置領域の境界に沿わせた状態で行われる。
【0048】
先に示した
図2(a)~(c)の下図は、各上図にて配されたスラブPC板上での長身L字PC体の配置の例を示している。まず
図2(a)の上図にて示す左境界線P1L及び右境界線P1Rに沿って間欠的にスラブPC体10を配置した場合は、例えば
図2(a)の下図に示すように、スラブPC体10aの左右端部にそれぞれ長身L字PC体15,15を配置すると共に、左端に配置した長身L字PC体15はスラブPC体10aの左側短辺と同様に縦壁部15aを左境界線P1Lに沿わせて配置し、右端に配置した長身L字PC体15はスラブPC体10aの右側短辺と同様に縦壁部15aを右境界線P1Rに沿わせて配置する。
【0049】
スラブPC体10bやスラブPC体10cについても同様に、左右端部に配置した長身L字PC体15,15の縦壁部15aを、それぞれ左境界線P1Lや右境界線P1Rに沿わせて配置する。
【0050】
図2(a)の上図の如く配されたスラブPC体の上面上での長身L字PC体15の配置に際しては、上述の如く下図に示すように行うことで、底壁部の縦壁部立設側端面を建物の配置領域の境界に沿わせた状態での配置を実現することも可能である。
【0051】
また
図2(b)の上図にて示すように、スラブPC体11及びスラブPC体12の2種のスラブPC体を用い、配置領域P1の境界P1Xの内回りに沿って配置した場合は、例えば
図2(b)の下図に示すように、スラブPC体11aの前後端部とスラブPC体12aの後端部との3カ所にそれぞれ長身L字PC体15,15,15を配置すると共に、スラブPC体11aやスラブPC体12aの長辺と同様に縦壁部15aを左境界線P1Lに沿わせた状態とする。また、右辺側も同様に、スラブPC体11bの前後端部とスラブPC体12cの前端部との3カ所にそれぞれ長身L字PC体15,15,15を配置すると共に、縦壁部15aを右境界線P1Rに沿わせた状態とする。
【0052】
図2(b)の上図の如く配されたスラブPC体の上面上での長身L字PC体15の配置に際しては、上述の如く配置することができる。
【0053】
また
図2(c)では、下図において長身L字PC体17を利用している点で構成を異にしている。すなわち、スラブPC体11aの前端とスラブPC体12aの後端にそれぞれ長身L字PC体17を配置すると共に、第1縦壁部17aを左境界線P1Lに沿わせた状態とする。また右辺側も同様に、スラブPC体11bの後端とスラブPC体12cの前端にそれぞれ長身L字PC体17を配置すると共に、第1縦壁部17aを右境界線P1Rに沿わせた状態とする。
【0054】
図2(b)や
図2(c)の上図の如く配されたスラブPC体の上面上での長身L字PC体15や長身L字PC体17の配置に際しては、上述の如く配置することができる。
【0055】
このように配置された長身L字PC体は、同長身L字PC体が載置されているスラブPC体と所定の締結構造、例えば前述の締結穴18内の締結金具を利用して互いに連結される。
【0056】
そしてその後は、縦壁部を構造壁としながら配置領域P1内に建物の構築が行われることとなる。この構築は、公知の方法により行うことができる。
【0057】
そして、本件建築方法では、このような構成を備えることにより、両隣に建物があったり、隣地へ侵入が許されない場合であっても、基礎工事等を行うべく侵入制限領域内に立ち入ったり施工を施す必要がないため、侵入が制限された領域の境界にできるだけ近づけて鉄筋コンクリート造りの建物を建てることができる。
【0058】
また本建築方法では、道路に面して順に隣接する第1~第3の3つの土地のうち、前記侵入制限領域である第1及び第3の土地を左右両隣とする第2の土地にて、前記建物の配置領域の境界を前記侵入制限領域の境界の近傍に設定することにも特徴を有している。
【0059】
図4は、このようなケースを示した平面図である。すなわち、
図4に示すように、道路Sに面して第1の土地Q1と第2の土地Q2と第3の土地Q3が順に隣接して存在している。
【0060】
ここで、第1の土地Q1と第3の土地Q3は、それぞれ侵入制限領域A1,A2であり、第2の土地Q2は建物の建築が行われる建築土地区画Pである場合において、配置領域P1の境界P1Xである左境界線P1Lや右境界線P1Rを、侵入制限領域A1との境界である左境界線PLや侵入制限領域A2との境界である右境界線PRの近傍にそれぞれ設定することとしている。
【0061】
そして、このような構成を備えることとすれば、左右両隣の土地(第1の土地Q1又は第3の土地Q3)に既に敷地一杯に建物が建てられていたり、侵入が許されない場合であっても、道路S側よりアプローチを行いながら、できるだけ広い間口の建物を建てることができる。
【0062】
また、本建築方法では、前記建物の配置領域の境界の左右一側辺側に配された長身L字PC体と、左右他側辺側の対向位置に配された長身L字PC体とよりなる対向壁構造体を、前記配置領域内の前記第2の土地の奥行き方向へ所定間隔を隔てて複数構築すると共に、対向壁構造体の間には、前記長身L字PC体よりも高さが低い縦壁部と水平方向へ伸延する底壁部とを備える側面視L字状であって配筋されたプレキャストコンクリートよりなる短身L字PC体を前記長身L字PC体と同様に前記建物の配置領域の境界に沿わせて配置し、更に前記長身L字PC体の縦壁部の側面と前記短身L字PC体の縦壁部の上面とをL字状の連結金具で接続したことにも特徴を有している。
【0063】
図5(a)は、
図2(a)の下図にて示した長身L字PC体15の配置例をベースに、更に短身L字PC体20を配置した状態を示した説明図である。
図2(a)の下図にて示した例では、建物の配置領域P1の境界P1Xの左右一側辺側(左境界線P1L,右境界線P1R)に配された一の長身L字PC体と、左右他側辺側(右境界線P1R,左境界線P1L)の対向位置に配された一の長身L字PC体とよりなる対向壁構造体21(
図5(a)参照)が、配置領域P1内の第2の土地Q2の奥行き方向へ所定間隔を隔てて複数構築した状態が示されてる。
【0064】
このような状態において本建築方法では、
図5(a)に示すように、対向壁構造体21の間に短身L字PC体20を建物の配置領域P1の境界P1X、ここでは左境界線P1L又は右境界線P1Rに沿わせて配置し、更に
図5(b)に示すように、長身L字PC体15の縦壁部15aの側面と短身L字PC体20の縦壁部20aの上面とをL字状の連結金具22で接続している。
【0065】
ここで短身L字PC体20は、長身L字PC体15よりも高さが低い縦壁部20aと水平方向へ伸延する底壁部20bとを備える側面視L字状であって配筋されたプレキャストコンクリートよりなるものである。
【0066】
そして、このような構成を備えることにより、長身L字PC体15,16,17や構築した対向壁構造体21が、第2の土地Q2の手前-奥行方向へ傾いたり、倒れることを防止することができる。
【0067】
また、短身L字PC体20の縦壁部20aの上方であって、両隣に配置された長身L字PC体15の縦壁部15aの間の空間は、例えば窓枠を装着するなどして窓を設けることができる。
【0068】
なお、
図5(b)に示す構造では、長身L字PC体15の底壁部15bにのみスラブPC体と連結するための締結構造を設けている。また、短身L字PC体20は、先のスラブPC体10の配置構造と同様、短身L字PC体20の配置位置の地面上に予め形成していた捨てコンクリート上に、同捨てコンクリートと短身L字PC体20の底壁部20bとの間の空隙に形成した無収縮モルタルの充填固化体20cを介して水平に配置している。短身L字PC体20の配置構造をこのような構造とすることで、長身L字PC体15や短身L字PC体20を更に安定化させることができる。なお、短身L字PC体20を配置する場所にも予めスラブPC体を配置しておき、締結構造を介して相互に連結するように構成しても良い。
【0069】
以下、本実施形態に係る鉄筋コンクリート造りの建物の建築方法に関し、建築手順を追いながら更に詳細に説明する。
【0070】
図6は、本実施形態に係る鉄筋コンクリート造りの建物の建築方法により建物が建てられる土地の状況を示した説明図である。建物が建てられる土地Q5は、道路S1に面した建築土地区画Pであり、前述の第2の土地Q2に相当する土地である。また土地Q5を中央に、向かって左隣には土地Q4が、右隣には土地Q6が存在している。
【0071】
土地Q4は、土地Q5と横並びに道路S1に面した土地であり、敷地の左右幅一杯に建物T1が既に建てられているため侵入制限領域A3となっている。土地Q4は、前述の第1の土地Q1に相当する土地である。
【0072】
土地Q6もまた土地Q4と同様に、土地Q5と横並びに道路S1に面した土地であり、敷地の左右幅一杯に建物T2が既に建てられているため侵入制限領域A4となっている。
土地Q6は、前述の第3の土地Q3に相当する土地である。
【0073】
建物が建てられる土地Q5(建築土地区画P)には、配置領域P1が設定されている。
配置領域P1の境界P1Xのうち、右境界線P1Rは土地区画Pの隣地境界でもある境界PXの右境界線PRの近傍に設定されており、左境界線P1Lは、土地区画Pの境界PXの左境界線PLの近傍に設定されている(図示省略)。
【0074】
このような土地区画Pの配置領域P1に鉄筋コンクリート造りの建物を建てるにあたっては、まず、建築土地区画Pの整地を行い、次いで配置領域P1の掘削を行う。掘削深さは、地盤の強度や建てる建物の高さによるが、3階建て程度であれば、1000~2000mmほど掘削する。
【0075】
次に、配置領域P1の地盤がやや弱い場合には、必要に応じ120~150mm程度の厚さで砕石を敷く。なお、地盤に十分な強度がある場合には、砕石を敷くことなく、次工程の捨てコンクリートを打っても良い。
【0076】
次に、転圧された地盤、又は砕石上に捨てコンクリートを打つ。捨てコンクリートの厚みは必要に応じて適宜調整することが可能であるが、例えば25~100mm、より具体的には50mm程度の厚さとすることができる。
【0077】
また、捨てコンクリートには、後の工程にて捨てコンクリート上に配置するスラブPC体や短身L字PC体の水平調整用の埋込金具(スペーサー)を予め配置・埋入しておく。
【0078】
次に、形成した捨てコンクリート上にスラブPC体を配置する。
図7は、建物が建てられる土地Q5(建築土地区画P)を示した平面図であり、先の
図2(a)の上図にて示した如く、既にスラブPC体10が配置された状態を示している。
【0079】
より具体的に説明すると、配置領域P1の前方に配置したスラブPC体10aは、制限域近傍配置境界である左境界線P1Lと右境界線P1Rに短辺を沿わせ、同じく制限域近傍配置境界である前境界線P1Fに長辺を沿わせて配置し、配置領域P1の前後方向略中央に配置したスラブPC体10bは、制限域近傍配置境界である左境界線P1Lと右境界線P1Rに短辺を沿わせて配置し、配置領域P1の後方に配置したスラブPC体10cは、制限域近傍配置境界である左境界線P1Lと右境界線P1Rに短辺を沿わせ、制限域近傍配置境界ではない後境界線P1Bに長辺を沿わせて配置している。スラブPC体10の厚さは特に限定されるものではないが、本実施形態では230~270mm、例えば250mm程度の厚さのものを使用している。
【0080】
また、このスラブPC体10を配置する際に、捨てコンクリートに予め埋設した埋込金具(スペーサー)を調整し、捨てコンクリートとスラブPC体10との間に所定の間隔を保持しつつ、スラブPC体10が水平となるようにする。なお、
図7においてスラブPC体10の左右両端部近傍に示す符号25は、スラブPC体10の上面に後述のL字側連結部材26と対応させて突設したスラブ側連結部材25である。
【0081】
次に、
図8に示すように、前後方向へ間欠的に配置したスラブPC体10の、スラブPC体10aとスラブPC体10bとの間、及びスラブPC体10bとスラブPC体10cとの間に、短身L字PC体30~33をそれぞれ配置領域P1の左境界線P1L又は右境界線P1Rに沿わせて配置する。なお、
図8では、配置領域P1の掘削により形成された周辺との高低差は、図示の便宜上省略している。また後に示す
図13や
図14も同様である。
【0082】
具体的には、スラブPC体10aとスラブPC体10bとの間には、左境界線P1Lに沿わせた短身L字PC体30と右境界線P1Rに沿わせた短身L字PC体33とを配置し、スラブPC体10bとスラブPC体10cとの間には、左境界線P1Lに沿わせた短身L字PC体31と右境界線P1Rに沿わせた短身L字PC体32とを配置する。
【0083】
また、この短身L字PC体30~33を配置する際に、捨てコンクリートに予め埋設した埋込金具(スペーサー)を調整し、捨てコンクリートと短身L字PC体30~33の底壁部30b~33bとの間に所定の間隔を保持しつつ、短身L字PC体30~33の底壁部30b~33bが水平(縦壁部30a~33aが垂直)となるようにする。すなわち、前述した無収縮モルタルの充填固化体を介して各短身L字PC体が水平に配置される。
【0084】
短身L字PC体は、配置領域P1の形状や建物の構造等に応じて適宜寸法や比率を変更することが可能である。本実施形態では、底板の厚みは250mm程度、底板正面からL字上部までの高さは1000~1200mm程度のものを一例として使用している。なお、このようなサイズの短身L字PC体を使用した場合、配置領域P1内を例えば1000mmほど掘削していたならば、掘削された配置領域P1の底部からスラブPC体や短身L字PC体の底壁部上面までの高さは、砕石厚を120mmとし、捨てコンクリート厚を80mm、スラブPC体又は短身L字PC体の底壁部厚を250mmとした場合、450mm程度となる。また、短身L字PC体の縦壁部は、800mm程度が掘削穴内となり、200~400mm程度が掘削穴外に突出することとなる。
【0085】
また、短身L字PC体はL字型で安定してしっかり立つのであれば、長身L字PC体との関係を前提として、その垂直方向と水平方向への寸法比率などに制限はない。この短身L字PC体は所謂構造体ではなく、長身L字PC体の安定性を確保したり、建物外回りの立ち上がり基礎を兼ねる役割を有するものである。それに対し、スラブPC体や長身L字PC体は、構造体として機能する部材である。
【0086】
次に、本実施形態に係る鉄筋コンクリート造りの建物の建築方法では、配置したスラブPC体や短身L字PC体について、捨てコンクリートとの間の空間に調整モルタル(無収縮モルタル)の注入を行って無収縮モルタル層の形成を行う。
【0087】
スラブPC体や短身L字PC体の底壁部には、
図9(a)に示すように表面から裏面(上面から下面)へ貫通するモルタル充填孔35が予め穿設されており、スラブPC体や短身L字PC体の底壁裏面と捨てコンクリート36の表面との間のモルタル充填空間37に通じている。なお、
図9中において符号38は、捨てコンクリートに配置された高さ調整のための埋込金具38である。また、
図9では説明の便宜上、捨てコンクリートや無収縮モルタル層、スラブPC体や長身L字PC体の底壁部の厚みは適宜誇張して示している。
【0088】
次いで、
図9(b)に示すように、モルタル充填孔35にモルタル供給装置のノズル40を装着し、モルタル充填空間37に対して調整モルタル41を送給しつつ充填する。
【0089】
そして、建物からの荷重が均等に分布するよう隙間無く充填し、例えば一晩程度静置して固化させることで、
図9(c)に示すように、無収縮モルタル層42を形成させる。
【0090】
無収縮モルタル層42の形成が完了すると、次に、スラブPC体の上面上に長身L字PC体の配置を行う。長身L字PC体の配置にあたっては、例えば、建築土地区画Pの間口の正面の道路S1上にクレーン車を横付けし、建築土地区画Pの奥行き方向から長身L字PC体を吊り下げたクレーンを伸延させるなどして行うことができる。
【0091】
図10は、スラブPC体10上に長身L字PC体が配置された状態を示す平面図である。長身L字PC体50~55は、底壁部50b~55bの縦壁部50a~55a立設側端面を配置領域P1の境界に沿わせた状態で配置されている。
【0092】
また、各長身L字PC体50~55は、スラブPC体の上面に突出させたスラブ側連結部材25が、底壁部50b~55bに形成した締結穴18に挿入されるよう配置している。
【0093】
図11及び
図12は、スラブ側連結部材25及びL字側連結部材26からなるスラブ-長身L字締結構造の構成を示した説明図である。
図11(a)に示すように、スラブPC体10には、L字状のスラブ側連結部材25が配設されている。
【0094】
スラブ側連結部材25は、水平部25aと垂直部25bとを備えている。水平部25aから垂直部25bの中途まではスラブPC体10を構成するコンクリート内に埋設されており、垂直部25bの略上半部がスラブPC体10の上面から突出した状態となっている。また、突出状態とした垂直部25bの略上半部には、杆体挿通孔25cが穿設されている。
【0095】
一方、長身L字PC体50~55、例えば、長身L字PC体50には、
図11(a)や
図12に示すように、L字側連結部材26が配設されている。
【0096】
L字側連結部材26は、
図12に示すように水平方向にL字状に折曲する水平折曲部26aと、同水平折曲部の端部より垂直方向へ伸延する垂直部26bとを備えている。
【0097】
水平折曲部26aは長身L字PC体50を構成するコンクリート内に埋設されている。一方、垂直部26bは、底壁部50bに穿設された各締結穴18からそれぞれ露出させて配置している。また垂直部26bには杆体挿通孔26cが穿設されている。
【0098】
そして、
図11(a)に示すように、スラブPC体10の上面に突出させたスラブ側連結部材25の垂直部25bが、長身L字PC体50の底壁部50bに形成した締結穴18に挿入されるよう配置すると、
図11(b)に示すように、スラブ側連結部材25の垂直部25bとL字側連結部材26の垂直部26bとが重なり合い、各締結穴18内において杆体挿通孔25cと杆体挿通孔26cが同軸位置(後述の貫通軸線F1の位置)に配される。
【0099】
このようにスラブPC体10上に各長身L字PC体50~55を配置した後、本実施形態に係る鉄筋コンクリート造りの建物の建築方法では、スラブPC体10と長身L字PC体50~55を連結させる。
【0100】
すなわち、
図12に示すように、長身L字PC体50の底壁部50bの内部には、締結穴18同士、例えば本実施形態では平面視における縦壁部50aの長手方向に沿って3つ配された締結穴18を連通する連通孔57が、スラブ側連結部材25の杆体挿通孔25c及びL字側連結部材26の杆体挿通孔26cの軸線方向へ同軸状に設けられている。
【0101】
ここで、長身L字PC体50の底壁部50bに設けられた各締結穴18のうち側部開口18aを有する締結穴58より、スラブ側連結部材25の杆体挿通孔25cやL字側連結部材26の杆体挿通孔26c、連通孔57を通る貫通軸線F1に沿って締結杆体59を挿入する。
【0102】
また、締結杆体59の両端には雄ネジ部59aが形成されており、同雄ネジ部59aにナット59bを装着することで抜け止めとし、スラブ側連結部材25やL字側連結部材26、締結杆体59などによりスラブ-長身L字締結構造を構築することでスラブPC体10と長身L字PC体50~55を連結させる。また、締結穴18は防水モルタル等を充填し締結部を固定すると共に閉蓋する。
【0103】
次に、長身L字PC体50~55と短身L字PC体30~33の接続を行う。具体的には、長身L字PC体50の縦壁部50aの側面と短身L字PC体30の縦壁部30aの上面、長身L字PC体51の縦壁部51aの側面と短身L字PC体30の縦壁部30aの上面、長身L字PC体51の縦壁部51aの側面と短身L字PC体31の縦壁部31aの上面、長身L字PC体52の縦壁部52aの側面と短身L字PC体31の縦壁部31aの上面、長身L字PC体53の縦壁部53aの側面と短身L字PC体32の縦壁部32aの上面、長身L字PC体54の縦壁部54aの側面と短身L字PC体32の縦壁部32aの上面、長身L字PC体54の縦壁部54aの側面と短身L字PC体33の縦壁部33aの上面、及び長身L字PC体55の縦壁部55aの側面と短身L字PC体33の縦壁部33aの上面との間に、
図5(b)にて示した如くL字状の連結金具22の取付を行い、
図13に示すような中間構築体G1が構築される。このような中間構築体G1を構築することで、長身L字PC体50~55と短身L字PC体30~33とを接続し長身L字PC体50~55や対向壁構造体60~62の倒伏、特に建築土地区画Pの手前-奥行方向への倒伏を防止できる。なお、倒伏のおそれがない場合や、倒伏を防止する手段を別途講じている場合には、この連結金具22による長身L字PC体と短身L字PC体の接続は必ずしも必要ではない。
【0104】
次に、中間構築体G1に対し一階床面、上階床、天井等の構築を行う。
図14は中間構築体G1に対し上階床スラブ65及び天井スラブ66が構築された状態である中間構築体G2を示した説明図である。なお、構造の理解のために天井スラブ66の一部は省略している。
【0105】
上階床スラブ65や天井スラブ66の構築にあたり、まず、各対向壁構造体60~62を構成する一対の対向配置された長身L字PC体の間に梁部材67を掛け渡す。
【0106】
梁部材67は特に限定されるものではないが、本実施形態ではH鋼を使用している。また、長身L字PC体への梁部材67の取付手段や方法は特に限定されるものではないが、
図14におけるK-K部分の断面図として
図15に示すように、本実施形態では各長身L字PC体50,55の縦壁部50a,55aであって各階の床や天井を構築すべき高さ位置に予め梁部材固定用のアンカーボルト68を埋設しており、これを利用して対向壁構造体60を構成する長身L字PC体50,55間に梁部材67を架設するようにしている。
また、対向壁構造体61,62についても同様としている。
【0107】
各対向壁構造体60~62に梁部材67が配設されると、次にこれを足がかりとしてコンクリートスラブを形成することでそれぞれ上階床スラブ65や天井スラブ66の構築が行われる。コンクリートスラブの形成は、現場打ちで行っても良いし、プレキャストコンクリートを採用することもできる。
【0108】
このようにして
図14に示すような中間構築体G2の構築を終えると、本実施形態に係る鉄筋コンクリート造りの建物の建築方法におけるいくつかの主要部分のうちの一つは概ね施工を完了したこととなる。この後は、前境界線P1Fや後境界線P1Bに沿って前方壁や後方壁を構築したり、短身L字PC体の縦壁部20a上に外壁を形成する。これら壁体は木や鉄骨等で構築することができ、必要に応じて扉や窓を設けることも可能である。また、1階部分や2階部分にそれぞれ間仕切りを設けるなど必用な施工等を行うことで、長身L字PC体の縦壁部を構造壁として配置領域内に建物が構築される。
【0109】
ここでは引き続き、短身L字PC体の縦壁部の上、換言すれば、土地Q5の奥行方向に間欠配置した長身L字PC体の縦壁部間に形成される間口を壁で閉塞すべく外壁構成体を配設して外壁を形成する過程について説明する。本実施形態に係る外壁の形成過程は、侵入制限領域内に入ることなく外壁を構築できる点で特徴的である。なおここで、間口を壁で閉塞とは、ドアや窓を形成するための開口のない壁を間口に配設することは勿論のこと、ドアや窓を形成するための開口が形成された壁を配設することも含んでいる。
【0110】
図16は、
図14にて示した中間構築体G2と略同様の中間構築体G2aを示している。但し、
図16では説明の便宜上、
図14と比較して、紙面手前側の長身L字PC体の縦壁部や、上階床スラブ65、天井スラブ66、梁部材67等は図示を省略している。
【0111】
また、
図16に示す中間構築体G2aは、
図14の中間構築体G2と比較して、侵入制限領域内に入らない外壁の構築に対応可能な長身L字PC体や短身L字PC体を使用して中間構築体G2aが構成されている点で構造を異にしている。詳細は追って説明するが、長身L字PC体や短身L字PC体には縦壁部の内側面(建物の内側を臨む面)の縁部に段差が形成されており、建物の内方より当該段差部からなる取着枠101に対して外壁構成体を当てはめて固定することで外壁を構築可能としている。
【0112】
まず
図17に、本実施形態に係る外壁の構築方法にて使用される長身L字PC体156の構成を示す。
図17(a)に示すように長身L字PC体156は、縦壁部156aと底壁部156bとを備える点で
図3を参照しつつ説明した長身L字PC体15と同様の構成であるが、縦壁部156aの内側面102の高さ方向の縁部に、
図17(b)に示す如く縦壁部156aの厚み方向に切り欠いた縦枠段差部103を形成している。
【0113】
また、この縦枠段差部103は側方に面を向けた側向段差面104と、建物内方へ面を向けた内向段差面105とにより形成した段差であり、取着枠101の高さ方向の枠、すなわち縦枠101Vとしての役割を果たす。
【0114】
また、縦枠段差部103の内向段差面105には、
図17(c)に示すように、高さ方向へ伸延する凹溝107aに弾性材107bを充填して形成した受側止水構造体107を形成している。この受側止水構造体107は、後述する外壁構成体160を取着枠101に取り付けた際に、同外壁構成体160に設けられた当接側止水構造体167の止水心材167cと当接して止水部172を形成する。
【0115】
次に、本実施形態に係る外壁の構築方法にて使用される短身L字PC体134について、
図18を参照しつつ説明する。
図18(a)に示すように短身L字PC体134は縦壁部134aと底壁部134bとを備え、
図8に示した短身L字PC体と略同様の構成を備えているが、縦壁部134aの内側面112の上端縁部に、
図18(b)に示す如く縦壁部134aの厚みが薄くなる横枠段差部113を形成している。
【0116】
また、横枠段差部113は上方に面を向けた上向段差面114と、建物内方へ面を向けた内向段差面115とにより形成した段差であり、取着枠101の水平方向の枠、すなわち横枠101Hとしての役割を果たす。なお、縦枠段差部103と横枠段差部113は隅部を介して直角に折れつつも連続するように形成されており、内向段差面105と内向段差面115は面一となるよう構成している。
【0117】
また、横枠段差部113の内向段差面115には、同内向段差面115の長手方向へ伸延する凹溝117aに弾性材117bを充填して形成した止水体当接部117を形成している。この止水体当接部117もまた前述の受側止水構造体107と同様に、後述する外壁構成体160を取着枠101に取り付けた際に、同外壁構成体160に設けられた当接側止水構造体167の止水心材167cと当接して止水部172を形成する。
【0118】
このように中間構築体G2aは、前述した縦枠段差部103を備える長身L字PC体156や横枠段差部113を備える短身L字PC体134にて構築することで、奥行方向に間欠配置された長身L字PC体156の縦壁部間の間口M1~M4部分に、縦壁部の内面であって間口に沿って縁部に形成された段差よりなる取着枠101、付言すれば、縦枠段差部103よりなる縦枠101Vと横枠段差部113よりなる横枠101Hとを備えた取着枠101が形成される。
【0119】
図19(a)は、
図16にて示した中間構築体G2aの長身L字PC体154と長身L字PC体155との間の間口M4部分を中間構築体G2aの内側から臨んだ状態を示した説明図であり、
図19(b)及び
図19(c)は、2種類の外壁構成体を示している。
【0120】
図19(a)に示すように、長身L字PC体154と長身L字PC体155との間には、右境界線PRに沿った長身L字PC体154と短身L字PC体133と長身L字PC体155とにより間口M4が形成されている。
【0121】
また、長身L字PC体154の縦壁部154aと短身L字PC体133の縦壁部133aと長身L字PC体155の縦壁部155aの内側面102,112には、間口M4の境に沿って縁部に形成された縦枠段差部103や横枠段差部113がそれぞれ縦枠101Vや横枠101Hとして機能することで、図中にて破線で囲う取着枠101が実現される。
【0122】
この取着枠101に対しては、中間構築体G2aの内側から外壁構成体160の取付を行うことで、侵入制限領域を侵すことなく外壁の構築を行うことが可能である。
【0123】
図19(b)は外壁構成体160の一例であり、通常の外壁面を形成するための外壁構築材161である。また、
図19(c)は別の外壁構成体160の一例である窓枠付外壁構築材162を示した説明図である。窓枠付外壁構築材162は、2つの外壁構成体分割片162a,162bにより構成される点や略中央に矩形状の窓用孔部162cが形成されている点で特徴的である。
【0124】
外壁構築材161や窓枠付外壁構築材162等の外壁構成体160を取着枠101に取り付けることで、外壁や、窓付きの外壁の構築が行われる。
【0125】
図20は、外壁構成体160の取着枠101に対する取付過程を示した断面視による説明図である。各外壁構成体160は、間口M4の間口幅よりも広く、取着枠101の枠内には収まる幅、すなわち、一側の側向段差面104から他側の側向段差面104までの長さよりも短い幅を有しており、外壁構成体160の外周縁が取着枠101に当接できるよう構成している。
【0126】
また取着枠101と当接する外壁構成体160の外周縁には、縦枠101Vに当接する縦向段差部165Vと横枠101Hに当接する横向段差部165H(
図21参照)とよりなる係合段差部165が形成されており、取着枠101に係合段差部165を当接させた状態で固定することにより、外壁構成体160にて間口M4を閉塞できるようにしている。なお間口の閉塞は完全に塞がれた状態のみならず、窓形成用の孔が形成されている状態も含む。
【0127】
ここで、取着枠101に対する外壁構成体160の取付に関し、縦枠101Vへの窓枠付外壁構築材162の外壁構成体分割片162bの取付けを例に
図20を参照しつつ説明すると、縦枠101Vと対向する外壁構成体分割片162bの縦方向の縁部には縦向段差部165Vが形成されている。
【0128】
この縦向段差部165Vは、先述の長身L字PC体156の縦壁部156aのように、側向段差面165aと外向段差面165bより構成された段差である。また外向段差面165bには、縦枠101Vに縦向段差部165Vを突き合わせた際に受側止水構造体107と対向する位置に形成された上下方向へ伸延する凹溝167aが備えられ、凹溝167aには弾性材167bが充填されると共に、凹溝に沿った帯板状の止水心材167cが凹溝167aの幅方向略中央に沿って配設され、当接側止水構造体167を構成している。
【0129】
また、外向段差面165bにはボルト孔170が穿設されている。このボルト孔170は、後述のボルト171を挿通させて内向段差面105の雌ネジ部173に螺入することで、外壁構成体分割片162b自体を長身L字PC体155の縦壁部155aに固定可能とするためのものである。
【0130】
また、縦壁部155aの内面側には、縦枠101Vと近い位置にも雌ネジ部173が形成されている。この雌ネジ部173もまた、外壁構成体分割片162bの固定に使用される。
【0131】
図20(b)は、縦枠101Vに縦向段差部165Vを突き合わせ、ボルト171を締結して外壁構成体分割片162bを長身L字PC体155の縦壁部155aに固定した状態を示した断面図である。
【0132】
取着枠101への外向段差面165bの取付けにあたり、縦向段差部165Vを縦枠101Vに突き合わせると、当接側止水構造体167が受側止水構造体107に対向して当接する。
【0133】
またこの際、止水心材167cが受側止水構造体107の弾性材107bに食い込んで堅実な水密性を実現し、止水部172が形成される。この止水部172は、取着枠101と係合段差部165との全体において形成されるため、屋外側から屋内への雨水等の浸入を堅実に防止することができる。
【0134】
またこの状態において外向段差面165bの側面175と縦枠101Vの側向段差面104との間には隙間部176が形成されることとなるが、ここには防水モルタルを充填することで、防水モルタル充填部177が形成され、更なる水密性や気密性が確保されることとなる。
【0135】
そして、予めボルト171を挿通可能とした押さえプレート174をボルト孔170に合わせて配置し、ボルト171を螺入させつつナット178を締めることで、固定が行われる。
【0136】
また、
図21に示すように、これらの作業を横枠101Hに対して行ったり、外壁構成体分割片162aや外壁構築材161などの外壁構成体160の取付けにおいても行うことで、間口M4を外壁により閉塞することができる。
【0137】
しかもこのとき、中間構築体G2aの外側からの取付作業等がなく、中間構築体G2aの外側に足を踏み入れる必要がないため、侵入制限領域を侵すことなく、外壁の構築を行うことが可能となる。
【0138】
このようにして、本実施形態に係る鉄筋コンクリート造りの建物の建築方法では、隣に建物があったり、隣地へ侵入が許されない場合であっても、この侵入が制限された領域の境界にできるだけ近づけて鉄筋コンクリート造りの建物を建てることできる。
【0139】
次に、本実施形態に係る鉄筋コンクリート造りの建物の建築方法の他の実施例について説明する。本他の実施例は、前述の実施例にて説明した建築方法と概ね同じであるが、建築のはじめに行われる配置領域P1の掘削を先の例よりも深く行うことで、地下室を備えた建物の建築が行われる。なお、本他の実施例に係るコンクリート造りの建物の建築方法は、掘削に際し土留め壁の構築を行わないため、地山が自立する場合、すなわち、岩盤であったり、標準貫入試験値(N値)が8以上の粘土質地盤で掘削深さを5m以内とする場合などに適用可能である。
【0140】
図22は、本他の実施例に係るコンクリート造りの建物の建築方法により、地下室付きの建物の建築が開始された状態示す説明図である。
【0141】
図22に示すように、本他の実施例において建築土地区画Pである土地Q8は、先の例と同様に左右両隣がいずれも侵入制限領域A5,侵入制限領域A6である土地Q7,Q9となっており、建築土地区画Pの前方側は道路S2に面している。
【0142】
建物が建てられる土地Q8(建築土地区画P)には、配置領域P1が設定されている。配置領域P1の境界P1Xのうち、右境界線P1Rは土地区画Pの隣地境界でもある境界PXの右境界線PRの近傍に設定されており、左境界線P1Lは、土地区画Pの境界PXの左境界線PLの近傍に設定されている(図示省略)。
【0143】
このような土地区画Pの配置領域P1に地下室を備えた鉄筋コンクリート造りの建物を建てるにあたっては、まず、建築土地区画Pの整地を行い、次いで
図22に示すように配置領域P1の掘削を行う。掘削は、支持力などの地質性状や目的とする地下室の深さ等を勘案し、土留めを構築することなく地山が自立する深さで行う。本他の実施例では、例えば2000~4000mmの掘削としている。
【0144】
次に、先の例と同様に、必要に応じて砕石等を敷いた後、水平調整用の埋込金具を予め配置しつつ、配置領域P1の全域に亘り捨てコンクリートを打つ。なお先の例では
図2(a)や
図2(b)に示したように、配置領域P1の一部についてスラブPC体を配置せず、地面を露出させたまま(スラブPC体非配置領域としたまま)建物を建築する方法を一例として挙げたが、地下室を構築する本他の実施例では、構築した地下室内への水の滲入を防止するために、配置領域P1の全体にスラブPC体の配置が行われるため、捨てコンクリートも配置領域P1の全域に形成する。
【0145】
次に、形成した捨てコンクリート上にて、埋込金具を調整しつつスラブPC体を水平に配置する。
図23(a)は、建物が建てられる土地Q8(建築土地区画P)を示した平面図である。
【0146】
具体的に説明すると、配置領域P1の前方に配置したスラブPC体72aは、制限域近傍配置境界である左境界線P1Lと右境界線P1Rに短辺を沿わせ、同じく制限域近傍配置境界である前境界線P1Fに長辺を沿わせて配置し、配置領域P1の前後方向略中央左端に配置したスラブPC体72bは、制限域近傍配置境界である左境界線P1Lに長辺を沿わせて配置し、配置領域P1の後方に配置したスラブPC体72cは、制限域近傍配置境界である左境界線P1Lと右境界線P1Rに短辺を沿わせ、制限域近傍配置境界ではない後境界線P1Bに長辺を沿わせて配置し、配置領域P1の前後方向略中央右端に配置したスラブPC体72dは、制限域近傍配置境界である右境界線P1Rに長辺を沿わせて配置している。また、スラブPC体72a~72dで囲まれる内方の領域は、スラブPC体非配置領域とせず、スラブPC体72e,72fを配置して、配置領域P1の全域に亘りスラブPC体72を配置している。各スラブPC体72の厚さは特に限定されるものではないが、本実施形態では230~270mm、例えば250mm程度の厚さのものを使用しており、また、各スラブPC体72の目地からの滲水を防止するために十分な防水加工が施されている。なお、後に長身L字PC体が配置されるスラブPC体72a~72dの上面には、長身L字PC体との締結構造の一側を成すスラブ側連結部材25が予め設けられている。
【0147】
その後、スラブPC体と捨てコンクリートとの間の空隙に無収縮モルタルを充填して固化させ、次いで
図23(b)に示すように、長身L字PC体74,75をスラブPC体の上面上に配置する。
【0148】
具体的には、前境界線P1Fに長身L字PC体74F1~74F3の底壁部の縦壁部立設側端面を沿わせ、左境界線P1Lに長身L字PC体74L1~74L4の底壁部の縦壁部立設側端面を沿わせ、後境界線P1Bに長身L字PC体74B1~74B3の底壁部の縦壁部立設側端面を沿わせ、右境界線P1Rに長身L字PC体74R1~74R4の底壁部の縦壁部立設側端面を沿わせると共に、
図3(b)に示すような隅部配置用の長身L字PC体75を使用し、左前方隅部において左境界線P1Lと前境界線P1Fに長身L字PC体75LFの底壁部の縦壁部立設側端面を沿わせ、左後方隅部において左境界線P1Lと後境界線P1Bに長身L字PC体75LBの底壁部の縦壁部立設側端面を沿わせ、右後方隅部において右境界線P1Rと後境界線P1Bに長身L字PC体75RBの底壁部の縦壁部立設側端面を沿わせ、右前方隅部において右境界線P1Rと前境界線P1Fに長身L字PC体75RFの底壁部の縦壁部立設側端面を沿わせた状態で、スラブPC体の上面上に前述のスラブ側連結部材25と図示しないL字側連結部材26とによる締結構造を介し連結させて配置する。
【0149】
そして、このようにして構築された中間構築体G3に対し、その後は先述の例と同様、
図24において破線で示すように、各長身L字PC体に埋め込まれたアンカーボルト(図示せず)等を足がかりに一階床面、上階床、天井等の構築や、上物(地上階)、外壁や間仕切りなど必用な施工等を行うことで、長身L字PC体の縦壁部を構造壁として配置領域内に建物が構築される。
【0150】
このようにして、本他の実施例に係る鉄筋コンクリート造りの建物の建築方法では、隣に建物があったり、隣地へ侵入が許されない場合であっても、この侵入が制限された領域の境界にできるだけ近づけて、地下室を備えた鉄筋コンクリート造りの建物を建てることできる。
【0151】
上述してきたように、本実施形態に係る鉄筋コンクリート造りの建物の建築方法によれば、建築予定の建物の配置領域の境界が侵入制限領域の領域外にて同侵入制限領域の境界の近傍に設定された鉄筋コンクリート造りの建物の建築方法であって、配筋されたプレキャストコンクリートよりなるスラブPC体を前記建物の配置領域内に同配置領域の境界に沿って水平に配置し、配置されたスラブPC体と、同スラブPC体の配置位置の地面上に予め形成していた捨てコンクリートとの間の空隙に無収縮モルタルを充填して固化させ、前記建物の高さと略同じ高さまで上方へ伸延する縦壁部と水平方向へ伸延する底壁部とを備える側面視L字状であって配筋されたプレキャストコンクリートよりなる長身L字PC体を前記建物の配置領域の境界に前記底壁部の前記縦壁部立設側端面を沿わせた状態で前記スラブPC体の上面上に所定の締結構造を介し連結させて配置し、この長身L字PC体の前記縦壁部を構造壁として前記配置領域内に前記建物を構築することしたため、基礎工事が簡略化され建物自体の重量が大幅に軽減されることとなり、両隣に建物があったり、隣地へ侵入が許されない場合であっても、この侵入が制限された領域の境界にできるだけ近づけて鉄筋コンクリート造りの建物を建てることが可能な建築方法を提供することができる。
【0152】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0153】
10 スラブPC体
15 長身L字PC体
15a 縦壁部
15b 底壁部
20 短身L字PC体
20a 縦壁部
20b 底壁部
21 対向壁構造体
22 連結金具
25 スラブ側連結部材
26 L字側連結部材
59 締結杆体
A 侵入制限領域
P 建築土地区画
P1 配置領域
P1X 境界
PX 境界
Q1 第1の土地
Q2 第2の土地
Q3 第3の土地
S 道路
T1 建物