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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】ボイラーチューブの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/342 20140101AFI20240724BHJP
   B23K 9/04 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
B23K26/342
B23K9/04 Q
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020179359
(22)【出願日】2020-10-27
(65)【公開番号】P2022070340
(43)【公開日】2022-05-13
【審査請求日】2023-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】390001801
【氏名又は名称】大阪富士工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(72)【発明者】
【氏名】米山 三樹男
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 佳宏
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 康喜
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-156582(JP,A)
【文献】特開2011-127714(JP,A)
【文献】特開2012-110943(JP,A)
【文献】特開平04-297566(JP,A)
【文献】特開2014-172057(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0131728(KR,A)
【文献】特開平04-341576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/342
B23K 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管部材の表面に対して、ニッケル基合金及び高融点金属を含む肉盛用材料で肉盛層を形成することで、前記管部材の表面の少なくとも一部を覆う外表面を形成する外表面形成工程を含み、
前記高融点金属が単一金属であることを特徴とするボイラーチューブの製造方法。
【請求項2】
前記管部材及び他の前記管部材の端部を接合する接合工程をさらに含むことを特徴とする請求項1記載のボイラーチューブの製造方法。
【請求項3】
前記管部材及び他の前記管部材の端部が接合された後に、前記端部同士が接合されている接合部に対して、前記肉盛層を形成することで、前記接合部を覆う被覆面を形成する接合部被覆工程をさらに含むことを特徴とする請求項2に記載のボイラーチューブの製造方法。
【請求項4】
前記外表面形成工程では、前記ニッケル基合金の粉末及び前記高融点金属の粉末を含む前記肉盛用材料を溶材として前記管部材の表面に向けて噴射しつつ、前記管部材の表面に向けてレーザビームを照射し、前記溶材を溶融させて前記管部材の表面に固着させる肉盛溶接により、前記肉盛層を形成することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のボイラーチューブの製造方法。
【請求項5】
前記外表面形成工程では、前記管部材の表面に向けてアークを放射させつつ、前記ニッケル基合金の粉末及び前記高融点金属の粉末を含む前記肉盛用材料を溶材として前記アークに向けて噴射し、前記溶材を溶融させて前記管部材の表面に固着させる肉盛溶接により、前記肉盛層を形成することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のボイラーチューブの製造方法。
【請求項6】
前記外表面形成工程では、前記管部材の表面に向けてアークを放射させつつ、前記ニッケル基合金及び前記高融点金属を含む前記肉盛用材料を溶材として前記アークにより生じる溶接池に投入し、前記溶材を溶融させて前記管部材の表面に固着させる肉盛溶接により、前記肉盛層を形成することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のボイラーチューブの製造方法。
【請求項7】
前記外表面形成工程では、前記肉盛層を形成するとき、前記肉盛層を形成するための層形成装置及び前記管部材を相対的に移動させることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のボイラーチューブの製造方法。
【請求項8】
前記肉盛用材料の熱伝導度が、前記管部材の熱伝導度と一致することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のボイラーチューブの製造方法。
【請求項9】
前記単一金属は、モリブデン、タングステン、又は、バナジウムのいずれかであることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のボイラーチューブの製造方法。
【請求項10】
前記単一金属の融点が、鉄の融点よりも高いことを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のボイラーチューブの製造方法。
【請求項11】
前記単一金属の融点が、2000℃以上であることを特徴とする請求項10に記載のボイラーチューブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラーチューブの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流動材に起因する摩耗への対応として、ボイラーチューブに使用される管の表面には、肉盛層が形成される場合がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-050003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
管の表面に形成される肉盛層は、耐摩耗性の観点から、管の表面に形成される下盛層及びその下盛層を介して管の表面に形成される上盛層を含む場合がある。
【0005】
上盛層としては、管の耐摩耗性を向上させるために高クロム鋳鉄の肉盛層が使用される。また、高クロム鋳鉄におけるカーボンの含有量は、2.0wt%程度である。高クロム鋳鉄は、カーボンの含有率が高いゆえに、耐摩耗性が高い。ただし、高クロム鋳鉄の肉盛層が形成されるとき、白銑化及び残留応力に起因して肉盛層に亀裂が生じることが多々ある。また、高クロム鋳鉄の肉盛層の亀裂に対して、流動材が接触すると、その亀裂が広がってしまう虞がある。
【0006】
それゆえに、従来では、高い靱性を有する金属であるステンレス鋼の肉盛層を下盛層とし、上盛層で生じた亀裂が管部材にまで広がるのを抑制する。しかしながら、この場合、2種類の肉盛層を順次、管の表面に形成する必要があり、手間である。
【0007】
本発明の目的は、高い耐摩耗性を確保しつつ、下盛りの形成を省略可能とするボイラーチューブの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)第1の発明は、管部材の表面に対して、ニッケル基合金及び高融点金属を含む肉盛用材料で肉盛層を形成することで、管部材の表面の少なくとも一部を覆う外表面を形成する外表面形成工程を含むことを特徴とするボイラーチューブの製造方法である。
【0009】
第1の発明によれば、管部材の表面に、肉盛用材料に対応する肉盛層の外表面を形成することができる。これにより、管部材の表面に、肉盛用材料と同じ特性の外表面が形成される。したがって、高い耐摩耗性を確保しつつ、下盛りの形成を省略することができる。
【0010】
(2)第2の発明は、第1の発明に従属し、管部材及び他の管部材の端部を接合する接合工程をさらに含むことを特徴とするボイラーチューブの製造方法である。
【0011】
第2の発明によれば、管部材及び他の管部材の端部を接合することができる。
【0012】
(3)第3の発明は、第2の発明に従属し、管部材及び他の管部材の端部が接合された後に、端部同士が接合されている接合部に対して、肉盛層を形成することで、接合部を覆う被覆面を形成する接合部被覆工程をさらに含むことを特徴とするボイラーチューブの製造方法である。
【0013】
第3の発明によれば、接合部に肉盛用材料に対応する肉盛層の被覆面を形成することができる。これにより、接合部に、肉盛用材料と同じ特性の被覆面が形成される。したがって、接合部における耐摩耗性を効率よく向上させることができる。
【0014】
(4)第4の発明は、第1から第3のいずれかの発明に従属し、外表面形成工程では、ニッケル基合金の粉末及び高融点金属の粉末を含む肉盛用材料を溶材として表面に向けて噴射しつつ、管部材の表面に向けてレーザビームを照射し、溶材を溶融させて管部材の表面に固着させる肉盛溶接により、肉盛層を形成することを特徴とするボイラーチューブの製造方法である。
【0015】
第4の発明によれば、管部材の表面での溶融を抑制することができる。
【0016】
(5)第5の発明は、第1から第3のいずれかの発明に従属し、外表面形成工程では、管部材の表面に向けてアークを放射させつつ、ニッケル基合金の粉末及び高融点金属の粉末を含む肉盛用材料を溶材としてアークに向けて噴射し、溶材を溶融させて管部材の表面に固着させる肉盛溶接により、肉盛層を形成することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のボイラーチューブの製造方法。
【0017】
(6)第6の発明は、第1から第3のいずれかの発明に従属し、外表面形成工程では、管部材の表面に向けてアークを放射させつつ、ニッケル基合金及び高融点金属を含む肉盛用材料を溶材としてアークにより生じる溶接池に投入し、溶材を溶融させて管部材の表面に固着させる肉盛溶接により、肉盛層を形成することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のボイラーチューブの製造方法。
【0018】
(7)第7の発明は、第1から第6のいずれかの発明に従属し、外表面形成工程では、肉盛層を形成するとき、肉盛層を形成するための層形成装置及び管部材を相対的に移動させることを特徴とするボイラーチューブの製造方法である。
【0019】
第7の発明によれば、管部材の表面に隙間なく連続する肉盛層を形成することができる。
【0020】
(8)第8の発明は、第1から第7のいずれかの発明に従属し、肉盛用材料の熱伝導度が、管部材の熱伝導度と略一致することを特徴とするボイラーチューブの製造方法である。
【0021】
第8の発明によれば、肉盛層及び管部材の熱伝導度の差に起因する熱交換性の低下を抑制することができる。
【0022】
(9)第9の発明は、第1から第8のいずれかの発明に従属し、高融点金属は、モリブデン、タングステン、及び、バナジウムのうち、少なくとも1つを含むことを特徴とするボイラーチューブの製造方法である。
【0023】
第9の発明によれば、肉盛用材料に対応する肉盛層において、高い耐摩耗性を確保することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、高い耐摩耗性を有するボイラーチューブを効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は管部材の表面上に肉盛層を形成している様子の一例を概略的に示す図である。
図2図2は各ニッケル基合金での各成分の含有率の違いを示す表である。
図3図3は各材料のビッカース硬さ及び熱伝導度の違いを示す表である。
図4図4は各材料の減肉体積及びエロージョン率の違いを示す表である。
図5図5は肉盛層での高融点金属の粒子の様子の一例を概略的に示す図である。
図6図6は肉盛層での高融点金属の粒子の様子の他の例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
1.ボイラーチューブの製造方法
先ず、図1に示すような管部材1及び層形成装置3を用意する。本実施形態における管部材1は鉄系材料により形成されている管である。さらに、管部材1は、表面1aにおける付着物(スケール)が予め除去されているものとする。
【0027】
また、層形成装置3は、肉盛溶接に対応する溶接装置である。また、肉盛溶接とは、ガス溶接、レーザ溶接及びアーク溶接等の周知の溶接方法を利用して、金属製の母材(本実施形態では、管部材1)の表面上に金属を肉盛する溶接方法である。
【0028】
また、ガス溶接とは、可燃性ガスを燃焼する際の熱を利用して金属同士の接合を行う溶接である。アーク溶接とは、空気中でのアーク放電を利用して、金属同士の接合を行う溶接である。レーザ溶接とは、レーザビームのエネルギーを利用して、金属同士の接合を行う溶接である。
【0029】
肉盛溶接に対応する溶接装置としては、たとえば、LMD(Laser Metal Deposition)方式(レーザクラッティング方式)に対応する溶接装置、PTA(Plasma Transferred Arc)方式に対応する溶接装置、及び、TIG(Tungsten Inert Gas)方式に対応する溶接装置等が挙げられる。なお、本実施例では、管部材1の溶融を抑制するために、レーザクラッティング方式に対応する溶接装置を用いる。
【0030】
次に、外表面形成工程を実施する。外表面形成工程とは、管部材1の表面1aに肉盛層13を形成することで、その表面1aの少なくとも一部を覆う外表面を形成する工程を指す。
【0031】
また、肉盛層13とは、表面1a上に肉盛される金属から成る層である。以下、図1を参照して、外表面形成工程における一連の動作を説明する。図1は、管部材1の表面1a上に肉盛層13を形成している様子の一例を概略的に示す図である。
【0032】
先ず、層形成装置3に備えられたノズル5から、表面1aにむけて、粉末状の金属からなる溶材7がガスとともに噴射される。なお、溶材7は、表面1aと直交する方向でその表面1aに向けて噴射される。
【0033】
また、溶材7及びガスの噴射に伴って、複数の方向から表面1aに向けて、レーザビーム9が連続的に照射される。図1に示す例では、2つの方向からレーザビーム9が照射されているが、3つ以上の方向からレーザビーム9が照射されてもよい。なお、各レーザビーム9は、溶材7の噴射方向に対して外側から、その噴射方向に徐々に近づくように斜めに照射され、各レーザビーム9は、同一の照射位置11で集光する。照明位置11は、表面1a上、または、表面1aから離間した位置である。
【0034】
これらのことから、表面1aの溶融を抑制しつつ、溶材7が溶融され、自然冷却に起因して、溶材7が表面1aに固着される。すなわち、溶材7に対応する金属が表面1a上で肉盛される。
【0035】
また、上述したように表面1a上に肉盛層13が形成されるとき、層形成装置3及び管部材1が相対的に移動する。なお、この場合、層形成装置3及び管部材1間の距離が一定に保たれた状態で、層形成装置3及び管部材1が相対的に移動する。
【0036】
たとえば、図1に示すように、管部材1が回転しながら、層形成装置3がその管部材1の軸線方向に沿って移動する。これにより、表面1a上に隙間なく連続する肉盛層13が形成される。なお、図1における表面1aは、具体的には、管部材1の側面である。
【0037】
また、層形成装置3及び管部材1の相対的な移動は、繰り返し行われてもよい。この場合、表面1a上に複数の層が積層される。したがって、層形成装置3及び管部材1の相対的な移動が繰り返し行われる場合、肉盛層13は、複数の層を含む。
【0038】
また、層形成装置3の位置が固定され、管部材1が回転しながら、軸線方向に沿って移動してもよい。
【0039】
さらに、管部材1が固定され、層形成装置3が管部材1の中心軸を中心とする螺旋状の軌道に沿って管部材1の周囲を移動してもよい。ただし、この場合、レーザビーム9等の照射方向は、管部材1の表面1aの方向を向く。
【0040】
なお、本実施形態では、表面1a上に、略均一な厚みの肉盛層13を形成するために、層形成装置3及び管部材1が一定の速度で相対的に移動する。
【0041】
また、層形成装置3として、PTA方式に対応する溶接装置が使用される場合、レーザビーム9のように管部材1の表面1aにアークが放射される。また、この場合、溶材7がアークに向けて噴射される。アークに向けて噴射される溶材7は、そのアークにより溶融され、管部材1の表面1aに肉盛層13として固着される。
【0042】
さらに、層形成装置3として、TIG方式に対応する溶接装置が使用される場合は、上述したように、管部材1の表面1aにアークが放射される。また、この場合、アークによって管部材1の表面1aに生じる溶融池に溶材7と同様の材料を含む溶加棒(溶接棒)が投入される。したがって、管部材1の表面1aに肉盛層13が固着される。さらに、層形成装置3として、TIG方式に対応する溶接装置が使用される場合、その溶接装置には、溶加棒を投入するための装置も含まれる。
【0043】
本実施形態では、外表面形成工程の後に、管部材1及びその他の管部材1の端部同士を接合する工程(接合工程)が実施されてもよい。
【0044】
接合工程では、上述したようなガス溶接、アーク溶接、及び、レーザ溶接等の溶接方法に対応する溶接装置で、管部材1及びその他の管部材1の端部同士を接合する。
【0045】
接合工程では、たとえば、TIG方式に対応する溶接装置が使用される。なお、接合工程の際には、管部材1と同じ材料を溶材として使用する。
【0046】
また、接合工程が実施される場合、その接合工程の後に、接合部被覆工程が実施されてもよい。接合部被覆工程とは、接合部に対して、肉盛層13を形成することで、少なくともその接合部の全体を覆う被覆面を形成する工程である。
【0047】
接合部被覆工程においては、上述したように、層形成装置3及び管部材1が相対的に移動することで接合部を覆うように肉盛層13が形成される。また、予め、管部材1及びその他の管部材1の端部同士が接合されている場合は、外表面形成工程の後、接合工程を行わずに接合部被覆工程が実施される。
【0048】
また、管部材1の表面1aのスケールを除去する必要がある場合は、スケールを除去するための工程(スケール除去工程)がボイラーチューブの製造方法に含まれてもよい。ただし、この場合、スケール除去工程は、外表面形成工程及び接合部被覆工程よりも先に実施される。
【0049】
2.溶材
本実施形態における溶材7は、ニッケル基合金及び高融点金属を含む材料(肉盛用材料)に対応する。したがって、溶材7は、粉末状のニッケル基合金及び粉末状の高融点金属を含み、表面1a上には、肉盛用材料により肉盛層13が形成される。
【0050】
ニッケル基合金は、ニッケルを主成分とする合金であって、たとえば、靱性が高い金属である。本実施形態では、室温(たとえば25℃)での硬度が高クロム鋳鉄よりも低く、かつ、温度の変化に伴う、硬度の変化量が高クロム鋳鉄よりも少ないニッケル基合金を使用する。
【0051】
なお、硬度は、靱性及び耐摩耗性の指標である。また、靱性及び耐摩耗性はトレードオフの関係である。たとえば、物体Aの硬度が物体Bの硬度よりも高い場合、物体Aの耐摩耗性は、物体Bの耐摩耗性よりも優れているといえる。一方で、この場合、物体Aの靭性は、物体Bの靱性よりも劣っているといえる。
【0052】
ニッケル基合金としては、たとえば、ハステロイ(商標登録)C、Udimet520、バナジウム含有ハステロイ合金、及び、硬質ニッケル基合金等が挙げられる。
【0053】
図2に示すように、ニッケル基合金は、たとえば、クロム(Cr)を含む。クロムの含有量は、たとえば、3wt%以上であり、好ましくは、10wt%以上、より好ましくは、15wt%以上である。なお、図2は、各ニッケル基合金での各成分の含有率の違いを示す表である。
【0054】
また、ニッケル基合金には、カーボン(C)、モリブデン(Mo)、アルミニウム(Al)、バナジウム(V)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、及び、タングステン(W)のうち、少なくとも1つ以上が含まれても良い。なお、ニッケル基合金にカーボンが含まれる場合、カーボンの含有量は、0.04wt%以下であることが好ましい。また、ニッケル基合金にカーボンが含まれる場合、カーボンの含有量は、0.02wt%以下がより好ましく、0.01wt%以下がさらにより好ましい。
【0055】
本実施形態における、高融点金属は、融点が鉄の融点よりも高い金属である。また、高融点金属としては、融点が2000℃以上の金属が好ましい。さらに、高融点金属としては、融点が2500℃以上の金属がより好ましい。さらにまた、高融点金属としては、融点が3000℃以上の金属がさらに好ましい。
【0056】
また、高融点金属としては、単一で高い耐摩耗性を有する金属(単一金属)が用いられる。具体的に、高融点金属としては、モリブデン、タングステン、及び、バナジウム等が用いられる。また、高融点金属としては、複数の単一金属から成る金属(複数金属)が用いられても良い。
【0057】
図3は、各材料のビッカース硬さ及び熱伝導度の違いを示す表である。図3に示すように、室温における肉盛用材料のビッカース硬さは380HVである。高温(たとえば800℃)における肉盛用材料のビッカース硬さは200HVである。肉盛用材料の熱伝導度は、0.1Cal/cm・S・℃である。
【0058】
また、室温におけるインコネル625のビッカース硬さは200HVである。高温におけるインコネル625のビッカース硬さは150HVである。インコネル625の熱伝導度は、0.02Cal/cm・S・℃である。なお、インコネル625は、従来、肉盛用材料として使用されている。また、インコネル625は、高温において、硬度が高クロム鋳鉄よりも高い。
【0059】
さらに、室温における管部材1を形成する材料(管材料)のビッカース硬さは180HVである。高温における管部材1のビッカース硬さは20HVである。管材料の熱伝導度は、0.1Cal/cm・S・℃である。
【0060】
図3に示すように、本実施形態の肉盛用材料は、高温において、硬度がインコネル625等よりも高い。したがって、本実施形態に従って製造されるボイラーチューブが高温の環境下で使用される場合、従来よりも高い耐摩耗性を確保することができる。
【0061】
また、熱伝導度の観点では、肉盛用材料の熱伝導度は、高クロム鋳鉄の熱伝導度(0.055Cal/cm・S・℃)及び図3が示す各種材料の熱伝導度より優れる。すなわち、本実施形態に従って製造されるボイラーチューブは、従来よりも熱交換性に優れるといえる。また、従来よりも、肉盛層13の形成に伴う熱交換性の低下を抑制できるともいえる。
【0062】
さらに、ニッケル基合金におけるカーボンの含有率が高クロム鋳鉄よりも低いことから、本実施形態での肉盛用材料のカーボンの含有率は、高クロム鋳鉄よりも低い。したがって、肉盛層13を形成する際に亀裂の発生を抑制することができる。
【0063】
本実施形態では、肉盛用材料に上述した特性を持たせるために、ニッケル基合金及び高融点金属の構成比率が設定される。たとえば、肉盛用材料における高融点金属の構成比率が30vol%以上、かつ、70vol%以下になるように設定される。このことは、ニッケル基合金も同様である。なお、ニッケル基合金及び高融点金属の構成比率は、トレードオフの関係である。したがって、高融点金属の構成比率が30vol%に設定される場合は、ニッケル基合金の構成比率は、70vol%に設定される。
【0064】
さらに、肉盛用材料に上述した特性を持たせるために、高融点金属として使用する金属、及び、ニッケル基合金として使用する金属も適宜に設定される。
【0065】
したがって、高温における肉盛用材料のビッカース硬さについては、150HVより高くなるように、肉盛用材料のニッケル基合金及び高融点金属の構成比率等が設定されることが好ましい。
【0066】
また、肉盛用材料の熱伝導度が管材料の熱伝導度と略一致するように、肉盛用材料のニッケル基合金及び高融点金属等が設定されるのが好ましい。具体的には、管材料及び肉盛用材料での熱伝導度の差が、0.3Cal/cm・S・℃以下であることが好ましく、0.2Cal/cm・S・℃以下であればより好ましく、0.1Cal/cm・S・℃以下であればさらに好ましい。
【0067】
図4は、MSE(Micro Slurry-jet Erosion)試験での各材料の減肉体積及びエロージョン率の違いを示す表である。なお、肉盛用材料Aは、ハステロイC及び高融点金属から成る。肉盛用材料Bは、Udimet520及び高融点金属から成る。肉盛用材料Cは、バナジウム含有ハステロイ合金及び高融点金属から成る。肉盛用材料Dは、硬質ニッケル基合金及び高融点金属から成る。また、肉盛用材料A~Dにおける高融点金属の種類は同じである。さらに、肉盛用材料A~Dにおけるニッケル基合金、及び、高融点金属の構成比率も同じである。
【0068】
また、図4に示す減肉体積は、微細な金属の粒子を肉盛層の表面に投射し、粒子の接触に起因して削れた肉盛層の体積である。また、エロージョン率は、単位投射粒子量当りのエロージョン深さである。さらに、エロージョン深さとは、エロージョン摩耗に起因して、肉盛層で形成されたクレータの深さである。このMSE試験では、肉盛層の表面に対する角度が45度とされる位置から、粒子径の平均が0.3μmとされる多角アルミナを45秒かけて1g投射する。
【0069】
図4に示すように、肉盛用合金Aの減肉体積は、2.39×10-3mmである。肉盛用合金Aのエロージョン率は、0.052μm/gである。
【0070】
また、肉盛用合金Bの減肉体積は、1.08×10-3mmである。肉盛用合金Bのエロージョン率は、0.017μm/gである。
【0071】
さらに、肉盛用合金Cの減肉体積は、1.87×10-3mmである。肉盛用合金Cのエロージョン率は、0.031μm/gである。
【0072】
さらにまた、肉盛用合金Dの減肉体積は、1.22×10-3mmである。肉盛用合金Dのエロージョン率は、0.034μm/gである。
【0073】
これらに対して、管材料の減肉体積は、6.09×10-3mmである。管材料のエロージョン率は、0.102μm/gである。
【0074】
図4に示すように、管部材1の表面1aに肉盛層13を形成した場合、減肉体積を大幅に減らすことができる。具体的には、管部材1の表面1aに肉盛層13を形成した場合、減肉体積を、管材料に対応する減肉体積の2分の1以下まで減らせることができる。
【0075】
また、エロージョン率についても、大幅に減らすことができる。具体的には、管部材1の表面1aに肉盛層13を形成した場合、エロージョン率を、管材料に対応するエロージョン率の2分の1以下まで減らせることができる。
【0076】
また、本実施形態では、図5及び図6に示すように、肉盛層13において粒子状の高融点金属が未融解のまま残存する。図5は、肉盛層13での高融点金属の粒子の様子の一例を概略的に示す図である。図6は、肉盛層13での高融点金属の粒子の様子の他の例を概略的に示す図である。
【0077】
図5に示すように、高融点金属の各粒子の粒径が同様の場合、各粒子間にある程度の隙間が生じる。一方で、図6に示すように、高融点金属の各粒子の粒径が分散していると、各粒子の粒径の差に起因して各粒子間の隙間が小さくなり、肉盛層13の硬度が向上する。したがって、高融点金属の粒子の粒径については、予め定められる粒径の範囲(粒径範囲)内で分散する方が好ましい。
【0078】
具体的に、高融点金属の粒径範囲は、100μm以下であることが好ましい。また、高融点金属の粒径範囲は、25μm以上、100μm以下であることがより好ましい。たとえば、高融点金属の粒子の粒径が50μm以下の粒子と、50~100μmの粒子を含む場合、高融点金属の粒子の構成比率は、50~100μmの粒子の方が高いことが好ましい。例えば、粒径が50μm以下の粒子の構成比率が30%、粒径が50~100μmの粒子の構成比率が70%に設定される。なお、ニッケル基合金の粒径範囲は、50~150μmであることが好ましい。
【符号の説明】
【0079】
1 管部材
1a 表面
1b 端部
3 層形成装置
5 ノズル
7 溶材
9 レーザビーム
11 照射位置
13 肉盛層
図1
図2
図3
図4
図5
図6