(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】DCポンプの制御装置、制御プログラムおよび制御方法
(51)【国際特許分類】
F04B 49/06 20060101AFI20240724BHJP
H02K 33/02 20060101ALI20240724BHJP
H02P 29/024 20160101ALI20240724BHJP
【FI】
F04B49/06 321Z
H02K33/02 A
H02P29/024
(21)【出願番号】P 2021149610
(22)【出願日】2021-09-14
【審査請求日】2023-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000114891
【氏名又は名称】ヤマト科学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 大臣
(72)【発明者】
【氏名】王 化剛
(72)【発明者】
【氏名】松澤 宏哉
(72)【発明者】
【氏名】梶原 哲男
【審査官】山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/026661(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 49/06
H02K 33/02
H02P 29/024
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送液を行うDCポンプが備えるアクチュエータの駆動を制御するDCポンプの制御装置であって、
前記DCポンプの
通常使用時における流量を保持するために、所定のPWM信号から成る第1制御信号を用いて前記アクチュエータの駆動をPWM制御するアクチュエータ制御手段と、
前記DCポンプの動作の不安定状態を検出する不安定状態検出手段と、
前記不安定状態検出手段によって前記不安定状態が検出された場合に、前記第1制御信号について
所定の範囲内で周期変化させるPWM制御を行って第2制御信号を生成する制御信号生成手段と、
前記不安定状態が検出された状態において、前記制御信号生成手段で生成された
前記第2制御信号を前記アクチュエータ制御手段に入力して前記DCポンプを周期的にオン、オフさせて精密な送液を行う精密送液手段と、
を備えることを特徴とするDCポンプの制御装置。
【請求項2】
前記アクチュエータは、送液を行うダイヤフラム機構を駆動するDCモータを含むことを特徴とする請求項1に記載のDCポンプの制御装置。
【請求項3】
前記制御信号生成手段は、前記第2制御信号の1パルスが、前記DCポンプが安定的に動作する範囲内の最低出力となるように前記第2制御信号を生成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のDCポンプの制御装置。
【請求項4】
前記第2制御信号は、デューティ比が異なる複数種のPWM制御波形を含むことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載のDCポンプの制御装置。
【請求項5】
前記不安定状態検出手段で検出される前記不安定状態は、前記DCポンプによる送液の脈動状態が所定の基準値を超えた状態、或いは前記DCポンプによる送液が停止した状態を含むことを特徴とする請求項1から請求項4の何れか1項に記載のDCポンプの制御装置。
【請求項6】
送液を行うDCポンプが備えるアクチュエータの駆動を制御するDCポンプの制御プログラムであって、
前記DCポンプの
通常使用時における流量を保持するために、所定のPWM信号から成る第1制御信号を用いて前記アクチュエータの駆動をPWM制御するアクチュエータ制御ステップと、
前記DCポンプの動作の不安定状態を検出する不安定状態検出ステップと、
前記不安定状態検出ステップで前記不安定状態が検出された場合に、前記第1制御信号について
所定の範囲内で周期変化させるPWM制御を行って第2制御信号を生成する制御信号生成ステップと、
前記不安定状態が検出された状態において、前記制御信号生成ステップで生成された
前記第2制御信号を入力して前記DCポンプを周期的にオン、オフさせて精密な送液を行う精密送液ステップと、
を有し、前記DCポンプの制御部が備えるコンピュータで実行されることを特徴とするDCポンプの制御プログラム。
【請求項7】
送液を行うDCポンプが備えるアクチュエータの駆動を制御するDCポンプの制御方法であって、
前記DCポンプの
通常使用時における流量を保持するために、所定のPWM信号から成る第1制御信号を用いて前記アクチュエータの駆動をPWM制御するアクチュエータ制御過程と、
前記DCポンプの動作の不安定状態を検出する不安定状態検出過程と、
前記不安定状態が検出された場合に、前記第1制御信号について
所定の範囲内で周期変化させるPWM制御を行って第2制御信号を生成する制御信号生成過程と、
前記不安定状態が検出された状態において、前記制御信号生成過程で生成された
前記第2制御信号を入力して前記DCポンプを周期的にオン、オフさせて精密な送液を行う精密送液過程と、
を有することを特徴とするDCポンプの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば純水製造装置、純水採水装置等に搭載されるDCポンプの制御装置、制御プログラムおよび制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
研究機関などにおいて、ダイヤフラム式等のDCポンプ(直流式液体ポンプなどとも呼称される)が搭載された純水製造装置などが用いられている。
【0003】
このような純水製造装置および制御方法に関する技術は種々提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のような純水製造装置などには、精密な実験等を行うために、採水流量を滴下レベルまで低下させ、必要量の精密な採水を行うことができる機能が求められる。
【0006】
ここで、純水製造装置等に搭載されているDCポンプ(ダイヤフラム式)を一般的なPWM(パルス幅変調)制御で駆動した際に、所定の出力を下回るとDCポンプの脈動によって、送液が途切れるようになる。そして、さらに出力を下げると、DCポンプに電圧を印加しているにも関わらずDCポンプ自体が動作しなくなるという問題を生じることが分かった。
【0007】
なお、脈動自体はDCポンプの二次側に減圧弁を設置するなどの措置で抑制可能であるが、通常使用時(ポンプ最大出力時など)における流量まで低下してしまうという不都合を生じる。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、通常使用時における流量を保持すると共に、低出力時の脈動を抑制し、必要量の精密な送液を行うことができるDCポンプの制御装置、制御プログラムおよび制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の実施形態に係るDCポンプの制御装置は、送液を行うDCポンプが備えるアクチュエータの駆動を制御するDCポンプの制御装置であって、前記DCポンプの通常使用時における流量を保持するために、所定のPWM信号から成る第1制御信号を用いて前記アクチュエータの駆動をPWM制御するアクチュエータ制御手段と、前記DCポンプの動作の不安定状態を検出する不安定状態検出手段と、前記不安定状態検出手段によって前記不安定状態が検出された場合に、前記第1制御信号について所定の範囲内で周期変化させるPWM制御を行って第2制御信号を生成する制御信号生成手段と、前記不安定状態が検出された状態において、前記制御信号生成手段で生成された前記第2制御信号を前記アクチュエータ制御手段に入力して前記DCポンプを周期的にオン、オフさせて精密な送液を行う精密送液手段と、を備えることを要旨とする。
【0010】
これにより、通常使用時における流量を保持すると共に、低出力時の脈動を抑制し、必要量の精密な送液を行うことができる。したがって、実験等において滴下状態の微量の採水が可能となり利便性が向上する。
【0011】
また、前記アクチュエータは、送液を行うダイヤフラム機構を駆動するDCモータを含むようにできる。
【0012】
これにより、一般的な構成のDCポンプにおいて低出力時の脈動を抑制し、必要量の精密な送液を行うことができる。
【0013】
また、前記制御信号生成手段は、前記第2制御信号の1パルスが、前記DCポンプが安定的に動作する範囲内の最低出力となるように前記第2制御信号を生成するようにできる。
【0014】
これにより、必要量のより精密な送液を行うことが可能となる。
【0015】
また、前記第2制御信号は、デューティ比が異なる複数種のPWM制御波形を含むようにしてもよい。
【0016】
これにより、比較的容易な手法によって、通常使用時における流量を保持すると共に、低出力時の脈動を抑制し、必要量の精密な送液を実現することができる。
【0017】
また、前記不安定状態検出手段で検出される前記不安定状態は、前記DCポンプによる送液の脈動状態が所定の基準値を超えた状態、或いは前記DCポンプによる送液が停止した状態を含むようにできる。
【0018】
これにより、比較的容易な手法によって、不安定状態を検出することができる。
【0019】
本発明の他の実施形態に係る制御プログラムは、送液を行うDCポンプが備えるアクチュエータの駆動を制御するDCポンプの制御プログラムであって、前記DCポンプの通常使用時における流量を保持するために、所定のPWM信号から成る第1制御信号を用いて前記アクチュエータの駆動をPWM制御するアクチュエータ制御ステップと、前記DCポンプの動作の不安定状態を検出する不安定状態検出ステップと、前記不安定状態検出ステップで前記不安定状態が検出された場合に、前記第1制御信号について所定の範囲内で周期変化させるPWM制御を行って第2制御信号を生成する制御信号生成ステップと、前記不安定状態が検出された状態において、前記制御信号生成ステップで生成された前記第2制御信号を入力して前記DCポンプを周期的にオン、オフさせて精密な送液を行う精密送液ステップと、を有し、前記DCポンプの制御部が備えるコンピュータで実行されることを要旨とする。
【0020】
これにより、通常使用時における流量を保持すると共に、低出力時の脈動を抑制し、必要量の精密な送液を行うことができる。したがって、実験等において滴下状態の微量の採水が可能となり利便性が向上する。
【0021】
また、本発明の他の実施形態に係る制御方法は、送液を行うDCポンプが備えるアクチュエータの駆動を制御するDCポンプの制御方法であって、前記DCポンプの通常使用時における流量を保持するために、所定のPWM信号から成る第1制御信号を用いて前記アクチュエータの駆動をPWM制御するアクチュエータ制御過程と、前記DCポンプの動作の不安定状態を検出する不安定状態検出過程と、前記不安定状態が検出された場合に、前記第1制御信号について所定の範囲内で周期変化させるPWM制御を行って第2制御信号を生成する制御信号生成過程と、前記不安定状態が検出された状態において、前記制御信号生成過程で生成された前記第2制御信号を入力して前記DCポンプを周期的にオン、オフさせて精密な送液を行う精密送液過程と、を有することを要旨とする。
【0022】
これにより、通常使用時における流量を保持すると共に、低出力時の脈動を抑制し、必要量の精密な送液を行うことができる。したがって、実験等において滴下状態の微量の採水が可能となり利便性が向上する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、通常使用時における流量を保持すると共に、低出力時の脈動を抑制し、必要量の精密な送液を行うことができるDCポンプの制御装置、制御プログラムおよび制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施の形態に係るDCポンプの制御装置を備える純水採水装置の全体構成を示す概略構成図である。
【
図2】ダイヤフラム式のDCポンプの構成例を示す概略構成図である。
【
図3】実施の形態に係るDCポンプの制御装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
【
図4】DCポンプの通常採水運転時の第1制御信号に相当するPWM波形を示す波形図(a)と、DCポンプの精密採水運転時の第2制御信号に相当するPWM波形を示す波形図(b)である。
【
図5】実施の形態に係るDCポンプの制御装置で実行されるDCポンプの制御処理の処理手順を示すフローチャートである。
【
図6】実施の形態に係るDCポンプの制御装置で実行可能な第1の精密送液処理の処理手順を示すフローチャートである。
【
図7】実施の形態に係るDCポンプの制御装置で実行可能な第2の精密送液処理の処理手順を示すフローチャートである。
【
図8】DCポンプの流速制御出力を示すグラフである。
【
図9】DCポンプの安定動作域および不安定動作域での制御信号の切り替えの例を示す説明図(a)~(d)である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1から
図9を参照して、本発明の実施の形態に係るDCポンプの制御装置等について説明する。
【0026】
(純水採水装置の構成例)
まず、本実施の形態に係るDCポンプの制御装置200の詳細な説明を行うに先立って、この制御装置200を適用可能な純水採水装置M1の構成例について
図1を参照して説明する。なお、純水採水装置M1は、図示しない純水製造装置等に接続することができる。
【0027】
ここで、
図1は、本実施の形態に係るDCポンプの制御装置200を備える純水採水装置M1の全体構成を示す概略構成図である。
【0028】
図1に示す純水採水装置M1は、図示しない純水製造装置等で製造された純水Wを実験等で使用するビーカー、メスシリンダー等の容器に供給して必要量の純水Wを採水するための装置である。
【0029】
図1に示すように、純水採水装置M1は、純水Wを貯留する純水タンク101を備える。
【0030】
純水タンク101にはダイヤフラム式などのDCポンプ500が接続されている。DCポンプ500は、後述する電磁石用のコイル301等を有するアクチュエータ300を備える。
【0031】
DCポンプ500の排出側には、純水Wの流量を検出する流量センサSN1が配置されている。また、流量センサSN1の下流には純水Wの流量を調節する電磁弁102が設けられている。電磁弁102の下流には純水Wを排出する採水口103が設けられている。
【0032】
また、DCポンプ500には、アクチュエータ300の駆動を制御してポンプ出力を1~100%の範囲で制御可能な制御装置200が接続されている。
【0033】
制御装置200は、例えばマイクロコンピュータ等で構成され、流量センサSN1からの検出信号がフィードバック入力されるように構成されている。
【0034】
なお、制御装置200は、DCポンプ500への出力の監視機能を有しており、設定に応じて出力を調整できるように構成されている。この監視機能により、DCポンプ500の過負荷、過電流などの異常検知を実現している。
【0035】
また、流量センサSN1は、測定レンジを変更可能なセンサを用いてもよい。また、測定レンジの異なる複数の流量センサを用いるようにしてもよい。
【0036】
制御装置200には、所定出力のDC電源(直流電源)250が接続されている。また、制御装置200には、タッチパネル等で構成される表示操作パネル260が接続され、採水流量を1~100%の範囲で設定することができるように構成されている。
【0037】
なお、純水採水装置M1によって実際に送液を行う際は、制御装置200からDCポンプ500に駆動信号(第1制御信号P1または第2制御信号P2)を出力すると共に、電磁弁102にも所定の駆動信号を出力して、配管経路を開放する。
【0038】
この際に、配管内部に圧力が加わるのを回避するために、DCポンプ500と電磁弁102のそれぞれの駆動信号の出力に時間差を設けるようにしてもよい。
【0039】
このような構成の純水採水装置M1は、制御装置200の制御により、採水口103から排出される純水Wの流量(流速)を1~100%の範囲でコントロールすることが可能となっている。
【0040】
なお、制御装置200の適用範囲は、純水採水装置M1には限定されず、各種液体の精密な送液を必要とするデバイスであれば適用可能である。
【0041】
また、制御装置200による具体的な制御内容等は後述の記載により明らかとなる。
【0042】
(ダイヤフラム式のDCポンプの構成例)
図2を参照して、本実施形態に係るDCポンプの制御装置200で制御可能なダイヤフラム式のDCポンプ500の構成例について説明する。
【0043】
ここで、
図2はDCポンプ500の構成例を示す概略構成図である。
【0044】
DCポンプ500は、ポンプ本体400とアクチュエータ300とから構成されている。
【0045】
アクチュエータ300は、制御装置200に接続されて、後述する第1制御信号P1または第2制御信号P2を構成するパルス電流が供給される電磁石用のコイル301と、コイル301を図上左右方向に進退可能なコア部302と、コア部302から図上右側に延伸されるプランジャ305と、コア部302を図上右側に付勢するスプリング304とを備える。
【0046】
このような構成により、アクチュエータ300のプランジャ305は、コイル301に供給される第1制御信号P1または第2制御信号P2を構成するパルス電流によって図上左右方向に所定周期の往復運動を行う。
【0047】
ポンプ本体400は、アクチュエータ300のプランジャ305に接続されて図上の左右方向に往復運動されるダイヤフラム450を備える。また、ダイヤフラム450の往復運動に伴うポンプ室内の容積変化により、純水W等の液体は、吸込口401、バルブ402を介して図上の上方に吸い上げられる。吸い上げられた純水W等の液体は、図上、上方に位置するバルブ405および吐出口404を介して排出されるように構成されている。
【0048】
ここで、このような構成のダイヤフラム式のDCポンプ500は、その機構の性質上、送液時に脈動が発生する。尤も高出力時はポンプ回転数が早いために脈動はある程度平滑化されるが、低出力時になるとポンプ回転数が遅くなり脈動は顕著になるという不都合があった。
【0049】
そのため、DCポンプ500を第1制御信号P1により、通常のPWM制御で駆動し続けた場合には、ある一定の出力を下回るとDCポンプ500の脈動によって、送液が途切れるようになり、さらに出力を下げた場合には、電圧を印加しているのにも関わらずDCポンプ500が動作しなくなり、送液できない事態となる。
【0050】
このような不都合を解消するため本発明では、後述するように第1制御信号P1または第2制御信号P2を所定のタイミングで切り替えることにより、通常使用時における流量を保持すると共に、低出力時の脈動を抑制し、必要量の精密な送液を行うようにDCポンプ500を制御することができる。
【0051】
なお、本実施の形態に係る制御装置200で制御可能なDCポンプは、
図2に示すような構成のダイヤフラム式のDCポンプ500に限定されず、ベローズ式DCポンプ、チューブ式DCポンプ、DCモータ等を用いたギアポンプ、ロータリーポンプ、スクリューポンプなどに広く適用可能である。
【0052】
(DCポンプの制御装置の機能構成例)
図3を参照して、本実施の形態に係るDCポンプの制御装置の機能構成の例について説明する。
【0053】
ここで、
図3は、実施の形態に係るDCポンプ500等の制御装置200の機能構成を示す機能ブロック図である。
【0054】
DCポンプ500等の制御装置200は、純水W等の送液を行うDCポンプ500等が備えるアクチュエータ300の駆動を制御するマイクロコンピュータ等で構成される。
【0055】
図3に示すように、制御装置200は、DCポンプ500の通常運転状態において所定のPWM信号から成る第1制御信号P1を用いてアクチュエータ300の駆動をPWM制御するアクチュエータ制御手段201を備える。
【0056】
また、制御装置200は、DCポンプ500の動作の不安定状態を検出する不安定状態検出手段202を備える。
【0057】
また、制御装置200は、不安定状態検出手段202によって不安定状態が検出された場合に、第1制御信号P1について所定の可変周期によるPWM制御を行って第2制御信号P2を生成する制御信号生成手段203を備える。
【0058】
さらに、不安定状態が検出された状態において、制御信号生成手段203で生成された第2制御信号P2をアクチュエータ制御手段201に入力してDCポンプ500を周期的にオン、オフさせて精密な送液を行う精密送液手段204を備える。
【0059】
このような構成の制御装置200によれば、DCポンプ500等について、通常使用時における流量を保持すると共に、低出力時の脈動を抑制し、必要量の精密な送液を行うことが可能となる。したがって、実験等において滴下状態(例えば、10ml/min以下)の微量の採水が可能となり利便性が向上する。
【0060】
また、アクチュエータ300は、例えば
図2で示したように、純水W等の送液を行うダイヤフラム機構などを駆動する電磁石装置やDCモータを含むようにできる。これにより、一般的な構成のDCポンプ500等において低出力時の脈動を抑制し、必要量の精密な送液を行うことができる。
【0061】
また、制御信号生成手段203は、第2制御信号P2の1パルスが、DCポンプ500等が安定的に動作する範囲内の最低出力となるように第2制御信号P2を生成するようにするとよい。これにより、必要量のより精密な送液を行うことが可能となる。
【0062】
また、第2制御信号P2は、デューティ比が異なる複数種のPWM制御波形を含むようにできる。これにより、比較的容易な手法によって、通常使用時における流量を保持すると共に、低出力時の脈動を抑制し、必要量の精密な送液を実現することができる。
【0063】
また、不安定状態検出手段202で検出される不安定状態は、DCポンプ500等による送液の脈動状態が所定の基準値を超えた状態、或いはDCポンプ500等による送液が停止した状態を含むようにできる。
【0064】
即ち、DCポンプ500等のポンプ出力を変化させていく中で、ポンプ動作が不安定(脈動が顕著な状態、駆動していない状態など)になったことをフィードバッグ信号により検出し、不安定になる出力域においては、通常のPWM制御している第1制御を可変周期でPWM制御して、DCポンプ500等を周期的にオン、オフさせるようにできる。この際に、入力する第2制御信号P2の1パルスはDCポンプ500等が安定的に動作する範囲での最低出力とする。
【0065】
これにより、比較的容易な手法によって、不安定状態を検出することができる。
【0066】
なお、より具体的な制御方法等については後述する。
【0067】
(第1制御信号と第2制御信号の例)
図4を参照して、DCポンプ500等の制御に用いられる第1制御信号P1と第2制御信号P2の例について説明する。
【0068】
図4(a)は、DCポンプ500等の通常採水運転時の第1制御信号P1に相当するPWM波形を示す波形図、
図4(b)は、DCポンプ500等の精密採水運転時の第2制御信号P2に相当するPWM波形を示す波形図である。
【0069】
まず、PWM制御は、入力信号の大きさをある一定の周期Tに対してのデューティ比(ON:OFF比)に置き換えて行われる制御である。目的とする入力信号の大きさXとデューティ比は例えば下記のように等しくなる。
【0070】
入力信号X=100% デューティ比(100:0)
入力信号X= 50% デューティ比(50:50)
入力信号X= 0% デューティ比(0:100)
ここで、
図4(a)に示すように、DCポンプ500等の通常採水運転時の第1制御信号(ポンプPWM出力信号)P1として、例えばパルスP1a、P1b間の周期を20kHzとする場合を想定する。
【0071】
この場合に、第1制御信号P1を用いた通常のPWM制御において出力を低下させるほど、DCポンプ500等の脈動は顕著になる。そして、さらに出力を低下させると、純水W等の送液が途切れるようになり、最終的にはDCポンプ500等を駆動するのに必要な時間分の信号が印加されなくなり、DCポンプ500等が動作しない事態となる。したがって、第1制御信号P1のみを用いるPWM制御では、滴下レベルの精密な採水を行うことができなかった。
【0072】
そこで、本発明では、DCポンプ500等が所定以上に脈動したり、駆動しなかったりする低出力時においては、第1制御信号(ポンプPWM出力信号)P1とは異なる第2制御信号(ポンプPWM出力信号)P2を用いた制御を行う。
【0073】
即ち、
図4(b)に示す例では、例えばパルスP2a、P2b間の周期が20kHzの場合において、パルスP2a、P2b、P2c…のPWM設定値を第1制御信号P1の場合の15%としている。
【0074】
また、
図4(b)に示す例において、第2制御信号(ポンプPWM出力信号)P2のポンプ出力時間は、ポンプ出力値(%)/15(%)×ポンプ出力N%周期(ms)で算出される。なお、ポンプ出力N%周期の設定範囲は、5~2000msとすることができる。
【0075】
ここで、第2制御信号(ポンプPWM出力信号)P2の汎用化の例について説明する。
【0076】
例えば、第2制御信号P2において、周期がTである波形をAとする。そして、波形Aのデューティ比はDCポンプ500等が安定的に動作する範囲での出力値Yとする。
【0077】
次いで、波形Aについて波形Aの周期とは異なる周期T’(T<<T’)でさらにPWM制御を行い、それを波形Bとする。
【0078】
この制御における入力信号の大きさXは、波形Aのデューティ比ではなく、波形Bのデューティ比となる。
【0079】
そして、周期T及び周期T’を可変のパラメータとし、入力信号の大きさに合わせて周期Tや周期T’を調整することにより、第1制御信号P1を用いた通常時のPWM制御では駆動できないような低出力時においても安定的なポンプ動作が可能となる。
【0080】
また大きな周期で断続的にDCポンプ500等を駆動することで、滴下レベルの送液を実現でき、精密な量の送液が可能となる。
【0081】
このように、第1制御信号P1を用いた通常のPWM制御ではポンプ出力は13%程度が下限値となり、流量も150mL/min程度が性能限界となっていた。これに対して、第2制御信号P2を適宜用いた制御では、滴下レベル(採水流量10mL/min以下)の送液が可能となった。
【0082】
(DCポンプの制御処理について)
図5のフローチャートを参照して、DCポンプの制御装置200で実行されるDCポンプの制御処理の処理手順について説明する。
【0083】
なお、本処理は、制御装置200が備えるOS(オペレーティングシステム)と所定のアプリケーションプログラムとの協働により実現することができる。但し、各種機能の一部または全部をハードウェアで実現するようにしてもよい。
【0084】
本処理が開始されると、まずステップS10で、第1制御信号(ポンプPWM出力信号)P1を用いてアクチュエータ300を駆動して、DCポンプ500等について通常時の運転を行う。
【0085】
次いで、ステップS11では、DCポンプ500等の不安定状態(所定以上の脈動の発生状態や、アクチュエータ300の停止状態など)を検出したか否かが判定される。
【0086】
なお、検出したか否かの判定は、例えば後述のポンプ出力α%を閾値として行うことができる。
【0087】
判定結果が「No」の場合にはステップS10に戻って通常運転を継続し、「Yes」の場合にはステップS12に移行する。
【0088】
ステップS12では、上述のような手法によって第2制御信号(ポンプPWM出力信号)P2を生成してステップS13に移行する。
【0089】
ステップS13では、第2制御信号(ポンプPWM出力信号)P2を用いて滴下レベル等の精密な送液を行って処理を終了する。
【0090】
なお、DCポンプ500等は、ポンプの安定動作域(100%~α%)の連続出力(10kHz~30kHzのPWM出力)が可能である。
【0091】
このような処理により、DCポンプ500等の脈動現象が発生する不安定動作域(1%~α%)の制御、出力設定値に応じて、ポンプ出力周期を自動的に制御することが可能である。
【0092】
なお、ステップS11におけるDCポンプ500等の不安定状態の判定閾値については、使用ポンプの特性により調整が必要である。
【0093】
また、判定方法には主に次の2種類が考えられる。
【0094】
a)微小流量を計測できる高精度の流量センサを用いて自動判別し、チューニングする方法
b)安価で精度の低い流量センサを用いる場合は、微小流量制御領域の出力テーブルを手動設定する方法
各判定方法に基づく送液処理について、後述の第1の精密送液処理および第2の精密送液処理として後述する。
【0095】
(第1の精密送液処理について)
上記判定方法a)に基づく第1の精密送液処理の処理手順について、
図6のフローチャートを参照して説明する。
【0096】
なお、第1の精密送液処理は、制御装置(マイクロコンピュータ等)200が備えるCPU等への1msごと割り込み処理として実行することができる。
【0097】
ステップS20では、流量測定結果≦不安定動作流量か否かが判定され、「Yes」の場合にはステップS21に移行する。
【0098】
ステップS21では、ポンプ出力時間を計算してステップS22に移行する。ステップS22では、1msカウンタを「1」インクリメントしてステップS23に移行する。
【0099】
ステップS23では、1msカウンタ≧ポンプ出力周期か判定される。
【0100】
判定結果が「No」の場合にはステップS25に移行し、「Yes」の場合にはステップS24に移行する。
【0101】
ステップS24では、1msカウンタを「0」にリセットしてステップS25に移行する。
【0102】
ステップS25では、1msカウンタ≧ポンプ出力時間か判定される。判定結果が「Yes」の場合にはステップS26でPWM設定値を「0」に設定してステップS27に移行する。
【0103】
また、判定結果が「No」の場合にはステップS28に移行して、PWM設定値を「α%」に設定してステップS27に移行する。
【0104】
ステップS27では、PWM設定値、PWM出力設定を行って処理を終了する。
【0105】
一方、ステップS20で「No」と判定された場合にはステップS29に移行する。ステップS29では、PWM設定値=ポンプ出力値としてステップS30に移行する。
【0106】
ステップS30では、ポンプ出力α%について、α>PWM設定値であるかが判定される。
【0107】
判定決定が「No」の場合にはステップS27に移行し、「Yes」の場合にはステップS31に移行する。
【0108】
ステップS31では、α=PWM設定値としてステップS27に移行する。
【0109】
この処理により、微小流量を計測できる高精度の流量センサを用いた構成において、より精密な送液を行うことが可能となる。
【0110】
なお、例えば以下の場合も上記判定方法a)に当てはまるものとなる。
【0111】
イ)一定時間当たりの流量の変動幅が一定の範囲を超えたとき。例えば、1secあたりに流量が±10%の変動がみられる場合などが該当する。
【0112】
ロ)出力0%以外において流量0ml/minを一定時間以上検出したとき。例えば、出力15%において流量0ml/minを0.5秒確認した場合などが該当する。
【0113】
また、
図6に示す処理では、上記判定方法a)により、不安定出力域を自動判断できるため「α」の値は自動、手動の何れでも設定可能である。
【0114】
(第2の精密送液処理について)
上記判定方法b)に基づく第2の精密送液処理の処理手順について、
図7のフローチャートを参照して説明する。
【0115】
なお、第2の精密送液処理は、制御装置(マイクロコンピュータ等)200が備えるCPU等への1msごと割り込み処理として実行することができる。
【0116】
まず、ステップS40では、1%<ポンプ出力値<α%であるかが判定される。そして、判定結果が「Yes」の場合にはステップS41に移行する。
【0117】
ステップS41では、ポンプ出力時間を計算してステップS42に移行する。
【0118】
ステップS42では、1msカウンタを「1」インクリメントしてステップS43に移行する。
【0119】
ステップS43では、1msカウンタ≧ポンプ出力周期か判定される。判定結果が「No」の場合にはステップS45に移行し、「Yes」の場合にはステップS44に移行する。
【0120】
ステップS44では、1msカウンタを「0」にリセットしてステップS45に移行する。
【0121】
ステップS45では、1msカウンタ≧ポンプ出力時間か判定される。判定結果が「Yes」の場合にはステップS46でPWM設定値を「0」に設定してステップS47に移行する。
【0122】
また、判定結果が「No」の場合にはステップS48に移行して、PWM設定値を「α%」に設定してステップS47に移行する。
【0123】
ステップS47では、PWM設定値、PWM出力設定を行って処理を終了する。
【0124】
一方、ステップS40で「No」と判定された場合にはステップS49に移行する。ステップS49では、PWM設定値=ポンプ出力値としてステップS47に移行する。
【0125】
この処理により、安価で精度の低い流量センサを用いる構成において、より精密な送液を行うことが可能となる。
【0126】
なお、
図7に示す処理では、上記判定方法b)により、出力テーブルを手動調整する必要があるため、「α」の値は手動でのみ設定可能である。
【0127】
なお、
図8は、上述のような精密送液処理を行った場合のDCポンプ500等の流速制御出力を示すグラフである。このグラフは、設定入力(0~100%)とポンプ出力電圧(V)の関係を示している。
【0128】
図8のグラフを見ると分かるように、設定入力(0~100%)において流速制御結果は略フラットな線形を示し、設定の全域において滑らかな採水が可能である。
【0129】
(安定動作域から不安定動作域でのポンプ信号の切り替えについて)
図9(a)~(d)は、DCポンプの安定動作域および不安定動作域での制御信号の切り替えの例を示す説明図である。
【0130】
図9(a)~(d)は、安定動作域~不安定動作域に移行する部分の段階的な波形を示す。
【0131】
図9(a)は、安定動作域においての最小出力値αが15%であるとした場合において、ポンプ出力16%時(=安定域)のポンプ制御信号P10(P10a、P10b…)を例示し、第1制御信号P1の出力16%時の波形に相当する。
【0132】
図9(b)は、安定動作域においての最小出力値αが15%であるとした場合において、ポンプ出力15%時(=安定域)のポンプ制御信号P11(P11a、P11b…)を例示し、第1制御信号P1の出力15%時の波形に相当する。
【0133】
図9(c)は、安定動作域においての最小出力値αが15%であるとした場合において、ポンプ出力14%時(=安定域)のポンプ制御信号P12(P12a、P12b…)を例示し、第2制御信号P2の出力14%時の波形に相当する。
【0134】
図9(d)は、安定動作域においての最小出力値αが15%であるとした場合において、ポンプ出力13%時(=安定域)のポンプ制御信号P13(P13a、P13b…)を例示し、第2制御信号P2の出力13%時の波形に相当する。
【0135】
以上、本発明のDCポンプの制御装置等を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置き換えることができる。
【符号の説明】
【0136】
M1 純水採水装置
200 制御装置
201 アクチュエータ制御手段
202 不安定状態検出手段
203 制御信号生成手段
204 精密送液手段
300 アクチュエータ
500 DCポンプ
P1 第1制御信号
P2 第2制御信号
SN1 流量センサ