(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】絶縁ロープの絶縁性確認方法およびそれに用いる絶縁性確認装置
(51)【国際特許分類】
G01R 31/12 20200101AFI20240724BHJP
G01R 31/50 20200101ALI20240724BHJP
【FI】
G01R31/12 B
G01R31/50
(21)【出願番号】P 2021196593
(22)【出願日】2021-12-03
【審査請求日】2023-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】593126019
【氏名又は名称】高木綱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 敏光
(72)【発明者】
【氏名】森 利昭
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-020252(JP,A)
【文献】特開昭59-225364(JP,A)
【文献】特開2018-141769(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/12
G01R 31/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非導電性繊維を編組したロープ芯と該ロープ芯の外周を絶縁性樹脂で被覆した絶縁層を有する絶縁ロープの絶縁性確認方法であって
、
前記絶縁ロープ
の所定位置を加電位置とし、該加電位置から離れた位置を検出位置とし、
前記加電位置において、前記絶縁層に絶縁破壊を生じさせないレベルの検査用電圧を連続的に加電し
て前記検出位置に向けて電流を流し、
前記検出位置において、前記絶縁ロープの外面を流れる漏れ電流および絶縁ロープのロープ芯を流れる漏れ電流を計測し、
前記漏れ電流の計測値が、
(a)前記絶縁ロープの外面を流れる漏れ電流のみであったとき、前記絶縁ロープを絶縁性を満足する合格品と判断し、
(b)前記絶縁ロープの外面を流れる漏れ電流に加えロープ芯を流れる漏れ電流も含むとき、前記絶縁ロープを絶縁性を満足しない不合格品と判断する
ことを特徴とする絶縁ロープの絶縁性確認方法。
【請求項2】
前記絶縁ロープを、加電位置を経過して検査位置を通り抜けるように移動させながら、前記絶縁ロープの絶縁性を連続的に確認する
ことを特徴とする請求項1記載の絶縁ロープの絶縁性確認方法。
【請求項3】
前記漏れ電流の計測値が上昇し始めると、前記絶縁ロープの
ロープ芯に雨水が浸入している湿潤区間の始まりと判断し、同時に加電電圧を検査開始電圧からより低い検査継続電圧に低下させ、前記絶縁ロープの湿潤区間が終わったと判断できるまで、前記検査継続電圧を加電する
ことを特徴とする請求項
2記載の絶縁ロープの絶縁性確認方法。
【請求項4】
非導電性繊維を編組したロープ芯と該ロープ芯の外周を絶縁性樹脂で被覆した絶縁層を有する絶縁ロープの絶縁性確認方法に用いる絶縁ロープの絶縁性確認装置であって、
絶縁ロープ
を一対の加電ローラで挟み込んで、該一対の加電ローラから電圧を印加する加電電極と、
絶縁ロープ
を一対の検出ローラで挟み込んで該一対の検出ローラから該絶縁ロープを流れる漏れ電流を計測する検出電極と、
前記検出電極に流れる電流を計測する電流計と、
前記検出電極の周辺空間に設置され、かつアースの接続された静電シールドボックスとからなる
ことを特徴とする絶縁ロープの絶縁性確認装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁ロープの絶縁性能を確認して合否判定するための絶縁性確認方法およびそれに用いる絶縁性確認装置に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁ロープは、送電線の張替え工事において近接する電力線を活線状態に保ったままで張り替える電線を支持するために用いられる。
絶縁ロープは活線に接触したり、誘導電圧にさらされる可能性があるため、高い絶縁性が求められる。そのため、絶縁ロープは、非導電性または絶縁性の繊維を編組したロープ芯とそのロープ芯の外周を絶縁性樹脂で被覆した絶縁層から構成されている。絶縁層は、それ自体が絶縁性能をもつと共にロープ芯に雨水が浸入するのを防止する防水性能も有している。このため、絶縁ロープのロープ芯への雨水の浸入は抑止され、ロープ芯が湿潤することによって電気が流れることも防止される。このため、送電線の張替え工事をする際の絶縁ロープによる活線の支持が支障なく行われる。
【0003】
しかるに、絶縁ロープの絶縁層に傷などが付いていれば、そこからロープ芯へ雨水が浸入するので、絶縁性が無くなる。絶縁層の傷は、製造不良が原因のほか、製造後の使用中にも生ずる。
そこで、送電線張替え工事の安全を確保するために絶縁ロープの絶縁性を確認する必要があり、そのための信頼性の高い絶縁性確認試験が求められる。また、この絶縁性確認試験は、製造直後と、製造後における使用の都度の両方において必要とされる。
【0004】
ところで、絶縁ロープと同じ作業現場で使用される工具に絶縁棒がある。絶縁棒も安全確保の観点から絶縁性試験を行うことが法規により定められている。
その試験方法(以下、従来技術1という)は、所定の長さの絶縁棒の2点間に、活線にかかっている電圧の2倍の交流電圧をかけ、5分間耐えることを確認するものである。また、絶縁棒の全長に対して数10cmを区切り、その部分部分を順次に試験するものであった。
【0005】
そして、絶縁ロープの試験につき、上記従来技術1に準じて行われることがあった。
ところが、従来技術1に準じると試験が5分間加電した後で数10cm動かすという間欠方式となるので、極めて能率が悪く、全長にわたる試験も事実上不可能だった。
【0006】
上記従来技術1の試験が間欠的であって能率が悪い点については、連続的試験を可能とする技術が提案された(以下、従来技術2という。特許文献1参照)。
この従来技術2は、つぎのように構成されている。絶縁線条物の所定位置を一対の加電ローラ間に挟み込んでこの一対の加電ローラで電圧を印加する部位を加電部とし、この加電部の前後の少なくとも一方に所定距離離れた位置を一対の電流検出ローラ間に挟み込んでこの一対の電流検出ローラにおいて流れる電流を測定する部位を電流ピックアップ部としている。電流ピックアップ部には電流計が介装されており、加電部と電流ピックアップ部との間の絶縁線条物に流れる電流の大きさを測定するようになっている。
【0007】
この従来技術2では、絶縁線条物を移動させながら、交流電源からの交流電圧を加電ローラに印加し、絶縁線条物を伝わってくる微弱電流を電流検出ローラに接続された電流計で計測することで、耐電圧特性を試験できると記載されている。
【0008】
しかるに、上記従来技術2では、つぎの問題がある。
(1)特許文献1には、加電部に所定電圧を印加すること(段落0080)と、絶縁線条物内には微弱電流が流れる旨(段落0084)が記載されているが、それ以上の具体的技術情報は全く記載されていない。
そこで、絶縁線条物に微弱電流が流れるとの記載から推測すると、絶縁線条物の内部が湿潤していると電流が微弱でも流れるが、乾燥していると流れないであろうことを把えて耐電圧試験ができるとの認識のようである。しかし、実際には絶縁線条物の内部が湿潤していると絶縁性樹脂が電極と湿潤した芯材の間で肉厚方向に絶縁破壊して樹脂に孔が開き、導電性となった内部を通して短絡(ショート)し、けた違いに大きな電流が流れ、ロープが焼損する危険性がある。また、絶縁破壊してしまっては、加電部と電流ピックアップ部の間にある絶縁線条物に湿潤部分があることは分かっても、具体的かつ正確に湿潤部分の位置を特定することはできない。つまり、位置特定能力に欠けるという問題がある。
(2)さらに、従来技術2では、静電誘導電流による誤差を避けることができない、という問題がある。すなわち、電流ピックアップ部に加電部と電流ピックアップ部との間の空中の静電容量を通して流れる静電誘導電流は電流検出ローラを介して電流計に流れる。この静電誘導電流は印加電圧の大きさ比例して大きくなり、数10μA程度になることがある。この誘導電流が実際に測りたい絶縁ロープRを流れる電流に加算されると、その合計電流には合否判定に役立たない雑音(誘導電流分)が含まれるため、絶縁性の合否判定が正確にできなくなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑み、絶縁ロープにおける絶縁不良の区間を正確に判定できる絶縁性確認方法および絶縁性確認装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明の絶縁ロープの絶縁性確認方法は、非導電性繊維を編組したロープ芯と該ロープ芯の外周を絶縁性樹脂で被覆した絶縁層を有する絶縁ロープの絶縁性確認方法であって、前記絶縁ロープの所定位置を加電位置とし、該加電位置から離れた位置を検出位置とし、前記加電位置において、前記絶縁層に絶縁破壊を生じさせないレベルの検査用電圧を連続的に加電して前記検出位置に向けて電流を流し、前記検出位置において、前記絶縁ロープの外面を流れる漏れ電流および絶縁ロープのロープ芯を流れる漏れ電流を計測し、前記漏れ電流の計測値が、(a)前記絶縁ロープの外面を流れる漏れ電流のみであったとき、前記絶縁ロープを絶縁性を満足する合格品と判断し、(b)前記絶縁ロープの外面を流れる漏れ電流に加えロープ芯を流れる漏れ電流も含むとき、前記絶縁ロープを絶縁性を満足しない不合格品と判断することを特徴とする。
第2発明の絶縁ロープの絶縁性確認方法は、第1発明において、前記絶縁ロープを、加電位置を経過して検査位置を通り抜けるように移動させながら、前記絶縁ロープの絶縁性を連続的に確認することを特徴とする。
第3発明の絶縁ロープの絶縁性確認方法は、第2発明において、前記漏れ電流の計測値が上昇し始めると、前記絶縁ロープのロープ芯に雨水が浸入している湿潤区間の始まりと判断し、同時に加電電圧を検査開始電圧からより低い検査継続電圧に低下させ、前記絶縁ロープの湿潤区間が終わったと判断できるまで、前記検査継続電圧を加電することを特徴とする。
第4発明の絶縁ロープの絶縁性確認装置は、非導電性繊維を編組したロープ芯と該ロープ芯の外周を絶縁性樹脂で被覆した絶縁層を有する絶縁ロープの絶縁性確認方法に用いる絶縁ロープの絶縁性確認装置であって、絶縁ロープを一対の加電ローラで挟み込んで、該一対の加電ローラから電圧を印加する加電電極と、絶縁ロープを一対の検出ローラで挟み込んで該一対の検出ローラから該絶縁ロープを流れる漏れ電流を計測する検出電極と、前記検出電極に流れる電流を計測する電流計と、前記検出電極の周辺空間に設置され、かつアースの接続された静電シールドボックスとからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1発明によれば、つぎの効果を奏する。
i:絶縁性が良好なときに絶縁ロープの外面を流れる漏れ電流と絶縁性が不良なときに絶縁ロープのロープ芯を流れる漏れ電流とは、電流量に大きな違いがあるので、検出位置において漏れ電流を計測することで絶縁性の良否を正確に判断することができる。
ii:漏れ電流の電流量は急変するので、絶縁不良個所を正確に特定することができ、合格品と不合品の判定が正確に行える。
第2発明によれば、絶縁ロープを移動させながら、加電位置から検査位置へ電流を流すので、長尺の絶縁ロープの絶縁性を効率よく検査することができる。
第3発明によれば、検査開始電圧の加電下で絶縁性の検査中に絶縁ロープ内の湿潤が確認されると、検査開始電圧よりも電圧の低い検査継続電圧に切り換えるので、検査中に絶縁破壊が起る可能性がより低下する。このため、絶縁ロープを損傷することなく検査することができる。
第4発明によれば、絶縁性が良好なときに絶縁ロープの外面を流れる漏れ電流と絶縁性が不良なときに絶縁ロープのロープ芯を流れる漏れ電流とは、電流量に大きな違いがあるので、検出位置において漏れ電流を計測することで絶縁ロープの絶縁性の判断が正確に行える。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る絶縁性確認方法および絶縁性確認装置の説明図である。
【
図2】
図1に示す絶縁性確認装置の要部拡大図である。
【
図3】
図2に示す絶縁性確認装置の説明図であり、(A)は電極の構成図、(B)はシールドボックスの構成図である。
【
図4】(A)は本発明の絶縁性確認装置における漏れ電流と計測電流の説明図、(B)は従来技術における計測電流の説明図である。
【
図5】本発明の絶縁性確認方法における絶縁ロープの連続試験時の漏れ電流の説明図である。
【
図6】本発明の絶縁性確認方法における計測電流の説明図である。
【
図7】本発明における絶縁性確認方法の一例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明により絶縁性を試験できる対象は、非導電性繊維を編組したロープ芯とそのロープ芯の外周を絶縁性樹脂で被覆した絶縁層からなる絶縁ロープである。なお、本明細書で、非導電性繊維というときは、これに絶縁性繊維を含む意味で用いている。この構成を備えたロープであれば、ロープ芯の繊維の種類や編み方が種々であっても、また絶縁性樹脂の種類が種々であったり、付加的な絶縁物が用いられたとしても、本発明の適用が可能である。
【0015】
絶縁ロープのロープ芯は非導電性繊維を素材とするので、通常であれば導電性は無いが、雨水が浸入してロープ芯が湿潤すると導電性が急に高くなる。絶縁層はロープ芯の内部に雨水の浸入を妨げる働きをもつが、絶縁層が製造時に欠陥があったり、製造後の使用中に傷が付いたりすると、雨水の浸入を防止できなくなるので、絶縁ロープの絶縁性を損ねてしまう。また、製造時に充分にロープ芯が乾燥してない場合も、絶縁性が無くなってしまう。
【0016】
図1は本発明に係る絶縁性確認方法とそれに用いる絶縁性確認装置を示している。
絶縁ロープRは、巻出しロール1から巻き出され、巻取りロール2に巻き取られて、矢印a方向に移動する。
絶縁性確認装置Aを構成する一対の電極10,20は巻出しロール1と巻取りロール2との間に設置されている。この一対の電極10,20は、可搬式の架台に搭載されているが、可搬式とするか定置式とするかは任意である。
巻出しロール1と巻取りロール2の駆動、および電極10,20の駆動は運転台3から行われる。
【0017】
図2に示すように、一対の電極10,20のうち、一方の電極10は加電電極であり、他方の電極20は検出電極である。加電電極10は、電源4から電線5を経由して電圧を受け絶縁ロープRに加電するようになっている。検出電極20は絶縁ロープRに流れる電流を検出する電極であり、アース線31が接続され、アース線31には電流計32が介装されている。
【0018】
図2および
図3(A)に基づき、加電電極10の詳細を説明する。
加電電極10は、一対のローラ11,12を備え、絶縁ロープRを上下から挟めるように配置されている。下側のローラ11は固定フレーム13に軸支されている。上側のローラ12は可動フレーム14に軸支されている。ローラ12はスプリング15で下方に引き付けられ、一対のローラ11,12で絶縁ロープRの外周面にしっかり接触するようになっている。したがって、一対のローラ11,12に回転駆動力を与えて回転させれば、絶縁ロープRを矢印a方向に移動させることができる。また、可動フレーム14に加電すれば、ローラ12を介して移動中の絶縁ロープRに加電することができる。この加電電極10はユニットとして絶縁台35上に設置されている。絶縁台35は絶縁性材料で作られた台である。
【0019】
図2および
図3(B)に基づき検出電極20の詳細を説明する。
検出電極20は、一対のローラ21,22を備え、絶縁ロープRを上下から挟めるように配置されている。下側のローラ21は固定フレーム23に軸支されている。上側のローラ22は可動フレーム24に軸支されている。ローラ22はスプリング25で下方に引き付けられ、一対のローラ21,22で絶縁ロープRの外周面にしっかり接触する。したがって、一対のローラ21,22に回転駆動力を与えて回転させれば、絶縁ロープRを矢印a方向に移動させることができる。また、絶縁ロープRに流れてきた電流は、固定フレーム23に流される。
この検出電極20はユニットとして絶縁台35上に設置されている。
【0020】
検出電極20の固定フレーム23には、アース線31が接続されており、アース線31には電流計32が介装されている。固定フレーム23は絶縁台35によって、大地や後述するシールドボックス30と絶縁されている。
したがって、絶縁ロープRによって流れてきた電流は、全て電流計32によって計測することができる。
【0021】
検出電極20の周囲にはシールドボックス30が設置されている。このシールドボックス30は導体材料で製せられた直方体状の箱である。用いられる導体材料には、鉄やアルミニウムなどの金属、金属以外のカーボンファイバーなどを例示できるが、導体性さえあればとくに制限なくどのような材料でも用いることができる。シールドボックス30は平板で構成してもよく、平板に多孔加工した多孔板を用いてもよい。
【0022】
シールドボックス30は、検出電極20と絶縁台35とを囲む箱体であり、絶縁ロープRの入側と出側のみを開口し、他の部分は、平板あるいは多孔板で可能な限り多くの面を覆うように構成されている。
シールドボックス30には、アース線34が接続されている。
【0023】
図4(A)に示すように、本実施形態の装置では、主に加電電極10と検出電極20の周囲に設置したシールドボックス30との間の空中の静電容量を通して、静電誘導電流Icが流れる。静電誘導電流Icはシールドボックス30を通じてアース線34に流れるので、検出電極20は静電誘導を受けないようにできる。
したがって、検出電極20に接続された電流計32は、絶縁ロープRを伝わってきた漏れ電流ILの電流量のみを計測できる。
【0024】
対比のため特許文献1のようにシールドボックスを設けていない従来技術における静電誘導電流Icを、
図4(B)に基づき説明する。
従来技術では検出電極20にシールドボックス30を設けていないので、主に加電電極10と検出電極20との間の空中の静電容量を通して流れる静電誘導電流Icは検出電極20を通じて電流計32に流れる。この場合、加電電極10から検出電極20の方向に絶縁ロープRを伝わってきた漏れ電流ILも電流計32に流れる。そのため、電流計32で計測できる電流量は漏れ電流ILに静電誘導電流Icが加わったものとなり、絶縁ロープRの絶縁性を判断するために必要な漏れ電流ILを正確に計測することができないという問題がある。
【0025】
この従来技術の問題点と比べると、
図4(A)に示す本発明では計測上の雑音となる静電誘導電流Icを電流計32に流れないように除去できるので、絶縁ロープRの絶縁性を正確に判定することができるという効果を発揮する。
【0026】
つぎに、本発明の絶縁性確認装置の使用方法を説明する。
図1および
図2に示す絶縁性確認装置Aに絶縁ロープRをセットする。具体的には、巻出しロール1から繰り出した絶縁ロープRを加電電極10の一対のローラ11,12の間と、検出電極20の一対のローラ21,22の間に通し、さらに絶縁ロープRを巻取りロール2に巻き付かせた状態とする。そのうえで、巻取りロール2と巻出しロール1、および加電電極10と検出電極20とを駆動して、絶縁ロープRを矢印a方向に移動させる。こうすることで、連続検査の準備が整う。
【0027】
本発明による絶縁性確認方法は、以下のとおりである。
図1および
図2に示すように、絶縁ロープRを加電電極10と検出電極20との間で移動させながら、加電電極10には絶縁層に絶縁破壊を生じさせないレベルの検査用電圧を連続的に加電する。そして
図4(A)に示すように漏れ電流ILを計測する。ここでいう漏れ電流ILとは、JIS規格[T1011]に定義するように、「絶縁材料の表面や内部を通って流れる電流」のことをいう。
上記定義にいう「絶縁材料の表面を通って流れる電流」は本明細書の絶縁ロープRの外面を流れる漏れ電流IL
1に対応し、「絶縁材料の内部を通って流れる電流」は本発明の絶縁ロープRの内部、すなわちロープ芯Rcを流れる漏れ電流IL
2に対応する。
したがって、検出電極20では、
図5(A)に示す絶縁ロープRの外面を流れる漏れ電流IL
1および絶縁ロープRのロープ芯を流れる漏れ電流IL
2を計測することになる。
【0028】
図5(A)、(B)において、符号Rは、ロープ芯Rcとその外側の絶縁層Roからなる絶縁ロープを示している。
図5において、絶縁ロープRは断面で示しており、絶縁層Roは点線ハッチングを示している。同図に示すように、ロープ芯Rcの外周は周方向も長手方向も全面的に絶縁層Roで被覆されている。このため、絶縁層Roが正常である限りロープ芯Rcは乾燥しており、絶縁層Roに傷が付いているような不正常な場合は、傷口から雨水などが浸透し、ロープ芯Rcが湿潤することがある。本明細書では、ロープ芯Rcが湿潤している区間(絶縁ロープRの長手方向の区間)を湿潤区間という。
【0029】
図4(A)に示すように、絶縁ロープRの2カ所を加電電極10と検出電極20で挟み、交流電圧をかけると、本来なら流れないはずの場所や経路で漏れ電流ILが流れる。つまり、漏れ電流ILは、絶縁ロープRの絶縁層Roの外表面を流れる漏れ電流IL
1となったり、絶縁ロープRの非導電性のロープ芯Rc内部を流れる漏れ電流IL
2となって現れる。
【0030】
絶縁ロープRが乾燥している状態では、
図5(B)に示すように加電電極10および検出電極20で絶縁ロープRを挟んだ状態において漏れ電流IL
1のみが絶縁層Roの外表面を流れるが、
図6に示すように、乾燥時に流れる漏れ電流IL
1の電流量は加電電圧に比例するものの、ごくわずかである。
一方、絶縁ロープRのロープ芯Rcが湿潤した場合はロープ芯Rcが導電性となる。この場合、
図5(A)に示すように、加電電極10側では、絶縁層Roを加電電極10と導電性となったロープ芯Rcで挟むこととなり、ここにコンデンサーCが形成される。また、検出電極20側でも同様にコンデンサーCが形成されると考えられる。この2つのコンデンサーと湿潤により導電性となったロープ芯Rcが直列回路を構成して漏れ電流IL
2が流れる。
図6に示すように、湿潤時にはこのことにより、ごくわずかなIL
1にこの漏れ電流IL
2が加わって流れ、しかも印加電圧が増加すると電流量を顕著に増大する傾向がある。
【0031】
ここでいうコンデンサーCの形成現象は本発明者によって初めて発見されたものであり、後述する実験により、湿潤時のロープ芯Rcに流れる漏れ電流の値(IL
1+IL
2)と印加電圧に、
図6に示すように略々比例関係の成立することが認められたことが、理論的背景となっている。
【0032】
本発明の絶縁性確認方法の利点を
図5に基づき説明する。
加電電極10には、電源4から検査用電圧を加電する。すると、絶縁ロープRの絶縁層Roに裂けや孔などの欠陥がある場合は、ロープ芯Rcに雨水が浸入し湿潤し導電性となっているので、
図5(A)に示すように、漏れ電流IL
1に漏れ電流IL
2が加わった大きな電流が流れる。
一方、絶縁ロープRの絶縁層Roに欠陥がない場合は、ロープ芯Rcが乾燥しているので、
図5(B)に示すように、漏れ電流IL
1のみが流れる。
【0033】
漏れ電流IL
1、IL
2の合計電流量と漏れ電流IL
1のみの電流量は、
図6に示すように顕著な相違があるので、絶縁ロープRの絶縁性が満足されているか否かの合否判定は正確に行える。しかも、電流量の立ち上りは急峻なので、湿潤区間(つまり絶縁不良の区間)の開始位置も、たとえばcm単位で正確かつ具体的に特定することができる。また、湿潤区間が終点位置も電流量が急降下するので、cm単位で正確に特定することができる。
【0034】
本発明では、検査の主眼がロープ芯Rcの湿潤区間の有無、換言すれば絶縁性の良し悪しにあるので、印加する電圧は、ある程度低くてもよい。具体的には20kV程度でよい。また、固定した一点に長時間(たとえば数分程度)印加するのでなく、加電場所を連続的に変えながら印加し、電流の上昇を瞬時に遮断できる電流であれば50kV程度であってもよい。いずれにしても、絶縁ロープRの絶縁層Roに絶縁破壊を生じさせ損傷させないレベルの電圧を利用できる。本明細書では、このレベルの電圧を検査用電圧として利用する。
【実施例】
【0035】
つぎに、絶縁性確認試験を絶縁ロープRの全長にわたって連続的に行う際の要領を、
図7に示す実験例により説明する。実験には、
図1の装置を用いた。
図7において、下の横軸は絶縁ロープRの検査位置を示しており、上の横軸は検査対象の絶縁ロープRにおける損傷部位(つまり、ロープ芯Rcの湿潤区間)を黒塗りで示している。つまり、実験に供した絶縁ロープRは、
図7の上の横軸に示す150cm、220cmおよび240cmの位置に絶縁層Roを損傷させて24時間浸水させてロープ芯Rcに長さ5cm程度の湿潤区間を作ったものを用いた。
【0036】
図7の実験例では、検査用電圧として検査開始電圧と検査継続電圧の2種類を用いている。検査開始電圧は50kVとし、検査継続電圧は20kVとした。検査開始を50kVとして検査継続電圧より高くしたのは、電圧が高いと湿潤区間が近くなって漏れ電流量が多くなりはじめ、電流計上での電流量の立ち上りを明確かつ迅速に把握するためである。
また、検査継続電圧を20kVとして検査開始電圧より低くしたのは、長い時間電圧をかけても絶縁ロープRに絶縁破壊を起こさせないためである。
【0037】
実験は、以下のようにして行った。
始めに検査開始電圧50kVを加電電極10に加え、巻出しロール1、加電電極10のローラ11,12、検出電極20のローラ21,22、および巻取りロール2を回転駆動させて、絶縁ロープRを移動させた。このとき絶縁ロープRは、
図7の上の横軸に示す0cmのところ(上横軸左端)から350cmのところ(上横軸右端)に向けて移動していく。そして、絶縁ロープRの長手方向において絶縁性確認したい部位(以下、検査対象位置ということがある)が、加電電極10と検出電極20の間にくると、その区間で流れる漏れ電流ILを検出することができる。
実験開始後、絶縁ロープRの検査対象位置が100cm付近に至ると漏れ電流ILの計測値が上昇し始めた。この電流増加により絶縁ロープRの湿潤区間の始まりと判断できる。そこで、このままで加電すると絶縁破壊が生ずるため加電電圧を検査開始電圧50kVからより低い検査継続電圧20kVに低下させ検査を継続した。そして、絶縁ロープRの湿潤区間が終わったと判断できるまで、検査継続電圧を加電した。
【0038】
絶縁ロープRにおいて湿潤区間を作っておいた150cm、220cmおよび240cmの位置では電流計32で計測できる漏れ電流IL量が上昇した。この漏れ電流ILが増加したのは、絶縁層Roの外表面を流れる漏れ電流IL1に、ロープ芯Rcの内部を流れる漏れ電流IL2が加わったからである。しかも、漏れ電流ILの増加は急激に立ち上り比例的に増加する。また、漏れ電流量の減少も急激に減少する。
以上のように、漏れ電流ILの増減は瞬時に現われるので、湿潤区間の始まりと終わりを正確に特定できることを示している。
しかも、検査継続電圧20kVは検査開始電圧50kVより低い電圧なので、扱いやすく安全に行えることも分かる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の絶縁性確認方法および絶縁性確認装置は、製造直後の絶縁ロープの絶縁性能を確認するほか、使用中の絶縁ロープの絶縁性能の低下の有無の確認などに用いることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 巻出しロール
2 巻取りロール
10 加電電極
11 ローラ
12 ローラ
20 検出電極
21 ローラ
22 ローラ
30 シールドボックス
32 電流計
Ic 静電誘導電流
IL 漏れ電流
A 絶縁性確認装置