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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】転動体ねじ装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/22 20060101AFI20240724BHJP
【FI】
F16H25/22 M
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021536991
(86)(22)【出願日】2020-07-22
(86)【国際出願番号】 JP2020028380
(87)【国際公開番号】W WO2021020263
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2019141986
(32)【優先日】2019-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】社本 英二
(72)【発明者】
【氏名】中村 隆
(72)【発明者】
【氏名】高橋 徹
(72)【発明者】
【氏名】濱田 喜大
(72)【発明者】
【氏名】岸 弘幸
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/010553(WO,A1)
【文献】米国特許第05535638(US,A)
【文献】特開2004-138214(JP,A)
【文献】特開2003-194177(JP,A)
【文献】実開昭61-054541(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面に螺旋状のねじ山を有し、前記ねじ山の側面にねじ軸軌道面が形成されるねじ軸と、
内面に螺旋状のナットねじ山を有し、前記ナットねじ山の側面に前記ねじ軸軌道面に対向するナット軌道面が形成されるナットと、
前記ねじ軸軌道面と前記ナット軌道面との間に転がり可能に介在する複数の転動体と、を備え、
前記ねじ軸の前記ねじ山の外径が前記ナットの前記ナットねじ山の内径よりも大きく、
前記ねじ軸の前記ねじ山の一対の側面それぞれに第1ねじ軸軌道面と第2ねじ軸軌道面それぞれが形成され、
前記ナットは、前記ねじ軸の前記第1ねじ軸軌道面に対向する第1ナット軌道面が形成される第1ナット部と、前記ねじ軸の前記第2ねじ軸軌道面に対向する第2ナット軌道面が形成される第2ナット部と、を備え、
前記第1ナット部における第1転動体が前記ねじ軸の前記第1ねじ軸軌道面側にのみ存在し、
前記第2ナット部における第2転動体が前記ねじ軸の前記第2ねじ軸軌道面側にのみ存在することを特徴とする転動体ねじ装置。
【請求項2】
前記第1ナット部と前記第2ナット部との間には、前記第1転動体と前記第2転動体に予圧を付与するための間座が存在することを特徴とする請求項に記載の転動体ねじ装置。
【請求項3】
前記ナットは、前記第1ナット部と前記第2ナット部を有するシングルナットであることを特徴とする請求項又はに記載の転動体ねじ装置。
【請求項4】
前記ねじ軸の前記ねじ山の前記側面及び/又は前記ナットの前記ナットねじ山の前記側面が前記ねじ軸の軸線と直交する線に対して傾斜することを特徴とする請求項1ないしのいずれか一項に記載の転動体ねじ装置。
【請求項5】
前記ねじ軸の前記ねじ山及び/又は前記ナットの前記ナットねじ山の根元部が頂部よりも太いことを特徴とする請求項に記載の転動体ねじ装置。
【請求項6】
前記ねじ軸軌道面と前記ナット軌道面の形状がサーキュラーアーク溝であることを特徴とする請求項1ないしのいずれか一項に記載の転動体ねじ装置。
【請求項7】
接触角が90°±30°の範囲に設定されることを特徴とする請求項1ないしのいずれか一項に記載の転動体ねじ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ軸とナットとの間に転がり運動可能に転動体を介在させたボールねじ等の転動体ねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械等の産業用機械は、内部に送り駆動機構を持っている。送り駆動機構には、ボールねじが多用されている。ボールねじは、送り駆動機構を通して産業用機械の性能を支配する重要な機械要素になっている。
【0003】
ボールねじは、ねじ機構を転がり化したものである。すなわち、ボールねじは、ねじ軸と、ナットと、ねじ軸とナットとの間に転がり運動可能に介在する複数のボールと、を備える。ねじ軸の外面には、螺旋状の軌道面が形成される。ナットの内面には、ねじ軸の軌道面に対向する螺旋状の軌道面が形成される。ねじ軸の軌道面とナットの軌道面との間には、ボールが介在される。
【0004】
従来のボールねじにおいて、ねじ軸の軌道面とナットの軌道面の形状は、いずれもゴシックアーチ溝である。そして、接触角は40~50度に設定される(特許文献1参照)。ナットの往路も復路も荷重を受けられるようにするためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-108400号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】宮口和男、二宮瑞穂、渡辺靖巳、新井覚、浜村実、垣野義昭著、「ボールねじ運動方向反転時の摩擦トルク変動に関する研究(第1報)」精密工学会誌、Vol.68,No.6,2002、p.833~p.837」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ボールねじは、基本的に軸方向の荷重を受けるものである。しかし、従来のボールねじにおいては、接触角が40~50度に設定されるので、ボールねじに軸方向の荷重が働くと、ボールねじの内部に軸方向と軸直角方向(半径方向)の荷重が発生する。後者の半径方向の荷重は、軸方向の荷重を受けるのに何の役にも立っていないので、従来のボールねじには、軸方向の定格荷重が小さいという課題がある。さらに、ねじがボールに接する半径位置は、ナットがボールに接する半径位置に比べて小さいため、軌道面が伸びる方向に見ると凸側の曲率を持つ。この凸側の曲率によって弾性接触の面積が減少し、大きな接触荷重を受けることができない。すなわち、従来のボールねじには、さらに定格荷重が小さくなるという課題がある。
【0008】
また、従来のボールねじにおいては、ボールはねじ軸及びナットのゴシックアーチ溝とそれぞれ1点、合計2点で接触して荷重を受ける。しかし、ねじがナットに対して回転している状態では、回転の正又は逆に依存して第3の接触点を伴う(非特許文献1参照)。この第3の接触点では転がりではなく滑りを生じるため、摩擦損失が増大し発熱が大きいという課題もある。ボールねじが発熱すると、ねじ軸やナットが金属膨張を起こすので、送り精度の変化、悪化を招く。
【0009】
さらに、従来のボールねじにおいては、ボールの転がり方向反転時に、ボールと軌道面との接触状態が3点接触状態→2点接触状態→3点接触状態に変化するので、2点接触状態に起因して摩擦トルクが低下する所謂フリーゾーンが発生するという課題もある。このフリーゾーンは、運動反転時の軌跡制御誤差の補正を複雑・困難にしている。
【0010】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであり、軸方向の定格荷重が大きく、発熱が少なく、転がり方向反転時のフリーゾーンによる摩擦トルクの変動も抑制できる転動体ねじ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、外面に螺旋状のねじ山を有し、前記ねじ山の側面にねじ軸軌道面が形成されるねじ軸と、内面に螺旋状のナットねじ山を有し、前記ナットねじ山の側面に前記ねじ軸軌道面に対向するナット軌道面が形成されるナットと、前記ねじ軸軌道面と前記ナット軌道面との間に転がり可能に介在する複数の転動体と、を備え、前記ねじ軸の前記ねじ山の外径が前記ナットの前記ナットねじ山の内径よりも大きい転動体ねじ装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、軸方向の定格荷重が大きく、発熱が少なく、転がり方向反転時のフリーゾーンによる摩擦トルクの変動も抑制できる転動体ねじ装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1の実施形態の転動体ねじ装置の軸線に沿った断面図である。
図2図1のII部拡大図である。
図3】第1の実施形態の転動体ねじ装置の循環構造を示す図である(図3(a)は転動体ねじ装置の平面図、図3(b)はナットの上側半分のみを示す転動体ねじ装置の側面図、図3(c)は図3(b)のc矢視図)。
図4】ねじ山の側面の傾き砥石の傾きの関係を示す概念図である。
図5】本発明の第2の実施形態の転動体ねじ装置の軸線に沿った断面図である。
図6】本発明の第3の実施形態の転動体ねじ装置の軸線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施形態の転動体ねじ装置を説明する。ただし、本発明の転動体ねじ装置は種々の形態で具体化することができ、本明細書に記載される実施形態に限定されるものではない。本実施形態は、明細書の開示を十分にすることによって、当業者が発明の範囲を十分に理解できるようにする意図をもって提供されるものである。
(第1の実施形態)
【0015】
図1は、本発明の第1の実施形態の転動体ねじ装置としてのボールねじ1の軸線に沿った断面図である。図2は、図1のII部拡大図である。2はねじ軸、2aはねじ軸の軸線、3はナット、5a,5bは転動体としてのボールである。
【0016】
図1に示すように、ねじ軸2の外面には、螺旋状のねじ山10が設けられる。ねじ軸2のねじ山10は、左右一対の側面10b,10cと、山頂10aと、を有する(図2参照)。ねじ山10の一方の側面10c(図1のねじ山10の右側の側面)には、第1ねじ軸軌道面11が形成される。ねじ山10の他方の側面10b(図1のねじ山10の左側の側面)には、第2ねじ軸軌道面12が形成される。ねじ軸2のねじ山10の外径、すなわちねじ山10の山頂10aに接する仮想的な円筒の直径はD1である。
【0017】
ナット3は、軸方向に連結される第1ナット部3aと第2ナット部3bを備える。第1ナット部3aには、ねじ軸2が挿入される穴8aが設けられる。穴8aの内面には、螺旋状のナットねじ山6aが形成される。ナットねじ山6aは、ねじ山10と同様に、左右一対の側面7b,7cと、山頂7aと、を有する(図2参照)。ナットねじ山6aの一対の側面7b,7cのうち一方の(図1の左側の)側面7bには、ねじ軸2の第1ねじ軸軌道面11に対向する第1ナット軌道面21が形成される。第1ナット軌道面21は、ナットねじ山6aの一方の側面7bのみに形成される(図2参照)。なお、ナットねじ山6aの左右一対の側面7b,7cのそれぞれに1ナット軌道面21を形成してもよい。
【0018】
第2ナット部3bには、ねじ軸2が挿入される穴8bが設けられる。第2ナット部3bの穴8bの内面には、第1ナット部3aと同様に、螺旋状のナットねじ山6bが形成される。ナットねじ山6bは、左右一対の側面と、山頂と、を有する。ナットねじ山6bの一対の側面のうち他方の(図1の右側の)側面には、ねじ軸2の第2ねじ軸軌道面12に対向する第2ナット軌道面22が形成される。第2ナット軌道面22は、ナットねじ山6bの他方の(図1の右側の)側面のみに形成される。なお、ナットねじ山6bの一対の側面のそれぞれに第2ナット軌道面22を形成してもよい。
【0019】
ナットねじ山6a,6bの内径、すなわちナットねじ山6a,6bの山頂7aに接する仮想的な円筒の直径は、いずれもD2である。ねじ軸2のねじ山10の外径D1は、ナット3のナットねじ山6a,6bの内径D2よりも大きい。ナットねじ山6a,6bは、ねじ軸2の隣接するねじ山10に入り込む。
【0020】
ねじ軸2の第1ねじ軸軌道面11と第1ナット部3aの第1ナット軌道面21との間には、第1ボール5aが介在する。第1ボール5aは、ねじ軸2のねじ山10の第1ねじ軸軌道面11側にのみ存在していて、第2ねじ軸軌道面12側に存在していない。第1ボール5aには、第1ナット部3aに働く一方向(図1の矢印(1)方向)のみの荷重が負荷される。
【0021】
ねじ軸2の第2ねじ軸軌道面12とナット3の第2ナット軌道面22との間には、第2ボール5bが介在する。第2ボール5bは、ねじ軸2のねじ山10の第2ねじ軸軌道面12側にのみ存在していて、第1ねじ軸軌道面11側に存在していない。第2ボール5bには、第2ナット部3bに働く他方向(図1の矢印(2)方向)のみの荷重が負荷される。
【0022】
図2に示すように、ねじ軸2のねじ山10に形成される第1ねじ軸軌道面11の形状は、単一円弧のサーキュラーアーク溝に形成される。このサーキュラーアーク溝の半径は、第1ボール5aの半径よりも僅かに大きい。第1ねじ軸軌道面11と第1ボール5aとは、溝底の点P1で接触する。ねじ山10はリード角を持つので、正確にいえば、ねじ山10の直角断面視において、第1ねじ軸軌道面11の形状がサーキュラーアーク溝に形成される。なお、第1ねじ軸軌道面11の形状を第1ボール5aと2点で接触するゴシックアーチ溝にしてもよい。
【0023】
ねじ軸2のねじ山10の側面10c(図2のねじ山10の根元部10-1の側面と頂部10-2の側面を結んだ線)は、ねじ軸2の軸線2a(図2には図1のねじ軸2の軸線2aと平行な軸線2aを示す)と直交する線2bに対して傾斜する。ねじ軸2のねじ山10の根元部10-1の幅は、頂部10-2の幅よりも太い。側面10cが傾斜していても、第1ねじ軸軌道面11は、その溝底の点P1で第1ボール5aと点接触する。すなわち、後述する接触角αは90°近傍に保たれる。このため、第1ねじ軸軌道面11の、点P1から根元部10-1側(図2の下側)の溝端N1までの弧長が、第1ねじ軸軌道面11の、点P1から頂部10-2側(図2の上側)の溝端N2までの弧長よりも長い。
【0024】
ねじ軸2の第1ねじ軸軌道面11の溝幅(図2の中心角θ1で表される領域)は、第1ボール5aと第1ねじ軸軌道面11との接点P1に許容面圧4200MPaが働いたときに、当該溝幅から接触長軸半径(図2の中心角θ2で表される領域)が外れないように設定されるのが望ましい。
【0025】
ねじ軸2のねじ山10の側面10bは、側面10cと反対方向に傾斜する。ねじ山10の側面10bには、第2ねじ軸軌道面12が形成される。第2ねじ軸軌道面12の形状は、第1ねじ軸軌道面11と同様に、単一円弧のサーキュラーアーク溝に形成される。ねじ山10の直角断面視において、ねじ山10は左右対称に形成される。
【0026】
第1ナット部3aのナットねじ山6aに形成される第1ナット軌道面21の形状も、単一円弧のサーキュラーアーク溝に形成される。このサーキュラーアーク溝の半径は、第1ねじ軸軌道面11と同様に、第1ボール5aの半径よりも僅かに大きい。第1ナット軌道面21と第1ボール5aとは、溝底の点P2で接触する。ナットねじ山6aはリード角を持つので、正確にいえば、ナットねじ山6aの直角断面視において、第1ナット軌道面21の形状がサーキュラーアーク溝に形成される。なお、第1ナット軌道面21の形状を第1ボール5aと2点で接触するゴシックアーチ溝にしてもよい。
【0027】
第1ナット部3aの第1ナット軌道面21の溝幅も、第1ねじ軸軌道面11と同様に、第1ボール5aと第1ナット軌道面21との接点P2に許容面圧4200MPaが働いたときに、当該溝幅から接触長軸半径が外れないように設定されるのが望ましい。
【0028】
第1ナット部3aのナットねじ山6aの側面7bも、ねじ軸2の軸線2aと直交する線2bに対して傾斜する。ナットねじ山6aの根元部6-1の幅は、頂部6-2の幅よりも太い。側面7bが傾斜していても、第1ナット軌道面21は、その溝底の点P2で第1ボール5aと点接触する。すなわち、後述する接触角αは90°近傍に保たれる。このため、第1ナット軌道面21の、点P2から根元部6-1側(図2の上側)の溝端M1までの弧長が、第1ナット軌道面21の、点P2から頂部6-2側(図2の下側)の溝端M2までの弧長よりも長い。
【0029】
第1ナット部3aのナットねじ山6aの側面7cは、側面7bと反対方向に傾斜する。ナットねじ山6aの側面7cには、第1ナット軌道面21は形成されていない。
【0030】
接点P1と接点P2を結んだ線とねじ軸2の軸線2aに直交する線2bとのなす角度α、すなわち接触角αは、90°±30°の範囲、望ましくは90°±20°の範囲、さらに望ましくは90°±10°の範囲に設定される。なお、第1ねじ軸軌道面11と第1ナット軌道面21の形状をゴシックアーチ溝にした場合、接触角αを便宜的にゴシックアーチ溝の底を結んだ線とする。
【0031】
図1に示すように、第2ナット部3bのナットねじ山6bは、第1ナット部3aのナットねじ山6aと左右対称に形成される。
【0032】
第1ナット部3aと第2ナット部3bとの間には、第1ボール5aと第2ボール5bに予圧を付与するための予圧付与手段としての間座4が存在する。間座4は、第1ナット部3aを一方向(図1の矢印(1)方向)に押し、第1ナット部3aとねじ軸2との間で第1転動体を圧縮させる。また、間座4は、第2ナット部3bを他方向(図1の矢印(2)方向)に押し、第2ナット部3bとねじ軸2との間で第2転動体を圧縮させる。なお、予圧付与手段として、間座4の替わりにばねを用いてもよい。
【0033】
ナット3を第1ナット部3a、第2ナット部3bを一体にしたシングルナットにしてもよい。シングルナットの中央部で第1ナット部3aのナットねじ山6aと第2ナット部3bのナットねじ山6bをシフトさせれば、第1ボール5aと第2ボール5bに予圧を付与することができる。
【0034】
また、第1ナット部3aと第2ナット部3bを図1に示す状態から左右反対に配置し、すなわち、第1ナット部3aを右側に、第2ナット部3bを左側に配置し、第1ナット部3aと第2ナット部3bとが互いに引っ張り合うように、第1ボール5aと第2ボール5bに予圧を付与してもよい。
【0035】
図3は、本実施形態のボールねじ1の循環構造を示す。図3(a)はボールねじ1の平面図、図3(b)はナット3の上側半分のみを示すボールねじ1の側面図、図3(c)は図3(b)のc矢視図である。
【0036】
第1ナット部3aには、例えば2.5巻きの循環路が2列設けられる。第1ナット部3aには、循環路の一端と他端に接続される2つのリターンパイプ23が設けられる。リターンパイプ23は、循環路の一端まで転がる第1ボール5aを掬い上げ、循環路の他端に戻す。第2ナット部3bには、例えば2.5巻きの循環路が2列設けられる。第2ナット部3bにも、循環路の一端と他端に接続される2つのリターンパイプ25が設けられる。24は、第1ナット部3aと第2ナット部3bを回り止めするためのキーである。
【0037】
なお、循環路の巻き数、列数は一例であり、定格荷重に合わせて適宜設定される。また、循環方式として、リターンパイプ方式の替わりに、こま式、エンドキャップ式、エンドデフレクタ式、リターンプレート式等の循環方式を採用してもよい。
【0038】
以上に本実施形態のボールねじ1の構成を説明した。本実施形態のボールねじ1によれば、以下の効果を奏する。
【0039】
接触角αを軸方向の荷重を受けるのに有利な角度に設定できるし、ボール5a,5bとねじ軸2との接触面積が大きいので、軸方向の定格荷重を大きくすることができる。従来のボールねじでは、ねじ軸とボールの接触面積が小さい代わりに、ナットとボールの接触面積が大きい。そのため、定格荷重は小さい方のねじ軸側で決まる。一方、本実施形態状では、両者の接触面積の差が減少・消失するため、定格荷重が大きくなる。
【0040】
ねじ軸2とボール5a,5bの接点位置の半径(ねじ軸を中心とする半径)とナット3とボール5a,5bの接点位置の半径とが略一致するので、ボール5a,5bが転動しても、ゴシックアーチ溝の場合には第3の接触点を生じず、本実施形態のサーキュラーアーク溝においても2つの接触点P1,P2とボール中心Oを結ぶ2つの線の成す角度がほぼ180度となる。このため、滑り(摩擦)を少なくすることができ、摩擦に起因するボールねじの発熱を抑制することができる。
【0041】
転がり方向反転時にボール5a,5bの接触状態が2点接触状態のままなので、フリーゾーンによる摩擦トルクの変動を抑制できる。
【0042】
ねじ軸2のねじ山10の一対の側面10b,10cそれぞれに第1ねじ軸軌道面11と第2ねじ軸軌道面12それぞれを形成し、第1ナット部3aの第1ボール5aをねじ軸2の第1ねじ軸軌道面11側にのみ設け、第2ナット部3bの第2ボール5bをねじ軸2の第2ねじ軸軌道面12側にのみ設けるので、ねじ軸2のリード角を小さくすることができる。また、第1ボール5a、第2ボール5bに予圧を付与することができる。
【0043】
第1ナット部3aと第2ナット部3bとの間に間座4を設けるので、第1ナット部3aと第2ナット部3bに予圧を付与することができる。
【0044】
ねじ軸2のねじ山10の側面10b,10cが、ねじ軸2の軸線2aと直交する線2bに対して傾斜しているので、ねじ山10の側面10b,10cにねじ軸軌道面11,12を加工するのが容易である。図4に示すように、ねじ軸2のねじ山10の側面10b,10cを図中実線から破線に示すように傾斜させることで、第1ねじ軸軌道面11を研削する砥石Tを実線から破線に示すように傾斜させることができ、砥石Tの周面T1で第1ねじ軸軌道面11を研削できるようになる。
【0045】
ねじ軸2のねじ山10の根元部10-1が頂部10-2よりも太いので、ねじ軸2のねじ山10の強度を向上させることができる。同様に、ナット3のナットねじ山6a,6bの強度を向上させることができる。
(第2の実施形態)
【0046】
図5は、本発明の第2の実施形態の転動体ねじ装置としてのボールねじ31の断面図である。2はねじ軸、2aはねじ軸の軸線、3はナット、3aは第1ナット部、3bは第2ナット部、5aは第1ボール、5bは第2ボール、4は間座である。第2の実施形態のボールねじ31の基本構成は、第1の実施形態のボールねじ1と同様なので、同一の符号を附してその説明を省略する。
【0047】
第1の実施形態のボールねじ1では、ねじ軸2のねじ山10の側面10b,10cがねじ軸2の軸線2aと直交する線2bに対して傾斜しているのに対し、第2の実施形態のボールねじ31では、ねじ軸2のねじ山10の側面10b,10cがねじ軸2の軸線2aと直交する線2bに対して平行である。同様に、第1の実施形態のボールねじ1では、ナット3のナットねじ山6a,6bの側面7b,7cがねじ軸2の軸線2aと直交する線2bに対して傾斜しているのに対し、第2の実施形態のボールねじ31では、ナット3のナットねじ山6a,6bの側面7b,7cがねじ軸2の軸線2aと直交する線2bに対して平行である。
【0048】
第2の実施形態のボールねじ31においては、ねじ山10の側面10b,10cとナットねじ山6a,6bの側面7b,7cが傾斜していないので、ねじ軸軌道面11,12とナット軌道面21,22を加工しにくいという欠点があるが、この点を除いて、第1の実施形態のボールねじ1と同様な効果を奏する。
(第3の実施形態)
【0049】
図6は、本発明の第3の実施形態の転動体ねじ装置としてのボールねじ40の断面図である。41はねじ軸、41aはねじ軸の軸線、42はナット、43はボールである。第1の実施形態のボールねじ1と第2の実施形態のボールねじ31では、ボールねじ1,31が往路と復路の二方向の荷重を受けられるように構成されているが、第3の実施形態のボールねじ40では、ボールねじ40が一方向(図6の矢印(3)で示すZ軸下方向)の荷重を受けられるように構成される。
【0050】
ねじ軸41はZ軸方向に配置される。そして、ナット42に取り付けられる図示しない可動体の重力によって、がたつきが発生するのを防止する。
【0051】
第3の実施形態のボールねじ40においても、ねじ軸41の螺旋状のねじ山44の側面には、ねじ軸軌道面45が形成される。ナット42の螺旋状のナットねじ山46の側面には、ねじ軸軌道面45に対向するナット軌道面47が形成される。ねじ軸軌道面45とナット軌道面47との間には、転がり可能に複数のボール43が介在する。ねじ軸41のねじ山44の外径は、ナット42のナットねじ山46の内径よりも大きく、接触角は90°±30°の範囲に設定される。
【0052】
第3の実施形態のボールねじ40によれば、第1の実施形態のボールねじ1と第2の実施形態のボールねじ31と同様に、軸方向の定格荷重が大きく、発熱が少なく、転がり方向反転時のフリーゾーンによる摩擦トルクの変動も抑制できる。
【0053】
なお、本発明は、上記実施形態に具現化されるのに限られることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲で他の実施形態に具現化できる。
【0054】
例えば上記実施形態では、転動体としてボールを使用しているが、転動体としてローラを使用してもよい。
【0055】
本明細書は、2019年8月1日出願の特願2019-141986に基づく。この内容はすべてここに含めておく。
【符号の説明】
【0056】
1,31,40…ボールねじ(転動体ねじ装置)、2…ねじ軸、3a…第1ナット部(ナット)、3b…第2ナット部(ナット)、4…間座、5a…第1ボール(転動体)、5b…第2ボール(転動体)、6a,6b…ナットねじ山、6-1…ナットねじ山の根元部、6-2…ナットねじ山の頂部、7b,7c…ナットねじ山の側面、10…ねじ山、10-1…ねじ山の根元部、10-2…ねじ山の頂部、10b,10c…ねじ山の側面、11…第1ねじ軸軌道面(ねじ軸軌道面)、12…第2ねじ軸軌道面(ねじ軸軌道面)、21…第1ナット軌道面(ナット軌道面)、22…第2ナット軌道面(ナット軌道面)、41…ねじ軸、43…ボール(転動体)、44…ねじ山、45…ねじ軸軌道面、46…ナットねじ山、47…ナット軌道面、D1…ねじ山の外径、D2…ナットねじ山の内径、α…接触角
図1
図2
図3
図4
図5
図6