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特許7525911プロバイオティクスを含む抗菌および再上皮化作用を有する組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】プロバイオティクスを含む抗菌および再上皮化作用を有する組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20240724BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20240724BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240724BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20240724BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240724BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20240724BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20240724BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20240724BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20240724BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240724BHJP
   A61L 15/36 20060101ALI20240724BHJP
   A61L 15/40 20060101ALI20240724BHJP
   A61L 15/18 20060101ALI20240724BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20240724BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20240724BHJP
【FI】
C12N1/20 A ZNA
A61K35/747
A61P31/04
A61P17/02
A61K9/14
A61K9/16
A61K9/20
A61K9/48
A61K47/46
A61K47/02
A61L15/36 100
A61L15/40 100
A61L15/18 100
A61P1/00
C12N15/11 Z
【請求項の数】 31
(21)【出願番号】P 2021576640
(86)(22)【出願日】2020-06-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-12
(86)【国際出願番号】 IB2020055689
(87)【国際公開番号】W WO2020261055
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-02-14
(31)【優先権主張番号】102019000009951
(32)【優先日】2019-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
【微生物の受託番号】NCIMB  NCIMB 43029
【微生物の受託番号】NCIMB  NCIMB 43030
(73)【特許権者】
【識別番号】500390331
【氏名又は名称】メンデス・ソシエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(74)【代理人】
【識別番号】100221534
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 志穂
(72)【発明者】
【氏名】サンティーニ,ジーノ
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-509932(JP,A)
【文献】K. Makarova, et al.,PNAS,2006年,Vol.103, No.42,p.15611-15616
【文献】A. A. Barzegari, et al.,Pharmaceutical and Biomedical Research,2017年,Vol.3(3),p.23-30
【文献】C. Caliceti, et al.,Functional Foods in Health and Disease,2017年,Vol.8(1),p.49-61
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号4の16S rRNAをコードする遺伝子の超可変領域V1-V3、配列番号5のgroEL遺伝子および配列番号6のpheS遺伝子を含む、2018年4月20日にNCIMB Ltd.保管センターに寄託されたアクセス番号43029を有するラクトバチルス・プランタルム株(ラクトバチルス・プランタルムNCIMB 43029)。
【請求項2】
配列番号1の16S rRNAをコードする遺伝子の超可変領域V1-V3、配列番号2のgroEL遺伝子および配列番号3のpheS遺伝子を含む、2018年4月20日にNCIMB Ltd.保管センターに寄託されたアクセス番号43030を有するラクトバチルス・アシドフィルス株(ラクトバチルス・アシドフィルスNCIMB 43030)。
【請求項3】
求項1に記載のラクトバチルス・プランタルム株NCIMB 43029または請求項2に記載のラクトバチルス・アシドフィルス株NCIMB 43030を含む、医薬
【請求項4】
求項1に記載のラクトバチルス・プランタルム株NCIMB 43029、または請求項2に記載のラクトバチルス・アシドフィルス株NCIMB 43030、または配列番号7の16S rRNAをコードする遺伝子の超可変領域V1-V2、配列番号8のrecA遺伝子および配列番号9のsecA遺伝子を含むストレプトコッカス・サーモフィルス株を含む、iNOS発現の活性化または誘導のための組成物
【請求項5】
求項1に記載のラクトバチルス・プランタルム株NCIMB 43029、または請求項2に記載のラクトバチルス・アシドフィルス株NCIMB 43030、または請求項4に記載のストレプトコッカス・サーモフィルス株を含む、創傷または損傷の抗菌性再上皮化のための組成物
【請求項6】
ラクトバチルス・プランタルムおよびラクトバチルス・アシドフィルスを含む、抗菌作用および再上皮化作用の両方を有する組成物であって、ラクトバチルス・プランタルムが、請求項1に記載のラクトバチルス・プランタルム株NCIMB 43029であり、ラクトバチルス・アシドフィルスが、請求項2に記載のラクトバチルス・アシドフィルス株NCIMB 43030である、組成物
【請求項7】
ストレプトコッカス・サーモフィルスおよび/またはバチルス・アミロリクエファシエンスをさらに含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
経口または局所使用のための、請求項6または7に記載の組成物。
【請求項9】
散剤、顆粒剤、歯肉錠剤または膣錠剤、またはカプセル剤、またはゲル剤の形態の、請求項6~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
ストレプトコッカス・サーモフィルスが、請求項4に記載の株である、請求項7~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
バチルス・アミロリクエファシエンスが、16S rRNAをコードする配列番号10により特徴付けられる公知の株である、請求項7~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
組成物中のラクトバチルス・プランタルムの重量%が、組成物の総重量に対して1~40重量%の範囲である、請求項6~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
組成物中のラクトバチルス・アシドフィルスの重量%が、組成物の総重量に対して1~40重量%の範囲である、請求項6~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
組成物中のストレプトコッカス・サーモフィルスの重量%が、組成物の総重量に対して0.5~20重量%の範囲である、請求項7~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
組成物中のバチルス・アミロリクエファシエンスの重量%が、組成物の総重量に対して0.1~10重量%の範囲である、請求項7~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
組成物の総重量に対して
10~90重量%のラクトバチルス・プランタルム、および
90~10重量%のラクトバチルス・アシドフィルス
を含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項17】
組成物の総重量に対して
20~80重量%のラクトバチルス・プランタルム、
40~10重量%のラクトバチルス・アシドフィルス、および
40~10重量%のストレプトコッカス・サーモフィルス
を含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項18】
組成物の総重量に対して
10~80重量%のラクトバチルス・プランタルム、
40~10重量%のラクトバチルス・アシドフィルス、
40~9重量%のストレプトコッカス・サーモフィルス、および
10~1重量%のバチルス・アミロリクエファシエンス
を含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項19】
ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・アシドフィルス、ストレプトコッカス・サーモフィルスおよび/またはバチルス・アミロリクエファシエンスが、生存細菌である、請求項6~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・アシドフィルス、ストレプトコッカス・サーモフィルスおよび/またはバチルス・アミロリクエファシエンスが、不生存細菌である、請求項6~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
藻類、蜂花粉、蜂蜜、通気性粘土およびゼオライトを含む群より選択される、少なくとも1つの医薬的に許容される添加剤を含む、請求項6~20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
求項6~21のいずれか一項に記載の組成物を含む、損傷または創傷の再上皮化プロセスにおける使用のための医薬
【請求項23】
再上皮化プロセスが、iNOS発現を活性化または誘導することによって生じる、請求項22に記載の医薬
【請求項24】
創傷が、開放創、慢性創傷、急性創傷、熱傷、術後創傷、外傷性創傷、皮膚剥離、潰瘍、例えば糖尿病性潰瘍、および褥瘡より選択される、請求項22に記載の医薬
【請求項25】
皮膚、口腔、膣もしくは直腸の粘膜または消化管粘膜への損傷または創傷の再上皮化プロセスにおける使用のための、請求項2224のいずれか一項に記載の医薬
【請求項26】
膚、口腔、膣もしくは直腸の粘膜、糖尿病性潰瘍または褥瘡への損傷または創傷の再上皮化プロセスにおける使用のためのものであって、顆粒剤または散剤、歯肉錠剤または膣錠剤の形態で局所使用される、請求項2225のいずれか一項に記載の医薬
【請求項27】
化管粘膜の損傷または創傷の再上皮化プロセスにおける使用のためのものであって、カプセル剤またはゲル剤の形態で経口使用される、請求項25に記載の医薬
【請求項28】
損傷または創傷が、グラム陰性細菌、例えばエンテロコッカス・フェカーリス、クレブシエラ・ニューモニエ、プロテウス・ミラビリスおよびカンジダ・アルビカンスから構成されるバイオフィルムを示す、請求項2227のいずれか一項に記載の医薬
【請求項29】
請求項6~21のいずれか一項に記載の組成物を含むバンデージ。
【請求項30】
傷または創傷の再上皮化プロセスにおける、医薬としての使用のための請求項29に記載のバンデージ。
【請求項31】
請求項6~21のいずれか一項に記載の組成物および対応する添付文書を含む、無菌圧縮性容器または単回もしくは複数回投与ポンプを含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)NCIMB 43029株、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)NCIMB 43030株、ラクトバチルス・プランタルムおよびラクトバチルス・アシドフィルスおよび所望によりストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)および/またはバチルス・アミロリクエファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)を含む、抗菌作用および再上皮化作用の両方を有する組成物、特に損傷または創傷の再上皮化プロセスにおける、医薬品としての使用のための該組成物、ならびに該組成物を含むバンデージまたはキットに関する。
【背景技術】
【0002】
損傷または創傷の治癒は、止血および凝固相から始まり、一時的な創傷マトリックスの形成、その後の炎症、再上皮化、再構成における組織のリモデリングの相を含む多くの相を含む極めて動的で複雑なプロセスであるため、皮膚再生の成功は大きな課題である。
【0003】
損傷または創傷が慢性化すると、損傷または創傷の治癒の困難さが増す。
【0004】
創傷治癒プロセスに最も一般的に関連する問題の1つは、創傷が感染する可能性によって代表される。開放創、特に慢性創傷は、病原体によるコロニー形成のリスクが高い。特に、創傷面は、血液循環の低下および低酸素状態などの許容条件の存在のために、創傷面にコロニーを形成して、バイオフィルムと定義される特定の構造によって表面に付着する多細胞凝集体を形成できる細菌の増殖に理想的な環境を提供する。バイオフィルムは、細胞外多糖マトリックスによって構成されており、該マトリックスに埋め込まれた微生物凝集体が形成されることを可能にする。該構造は、慢性損傷または創傷の60%および急性の6%に存在する。
【0005】
バイオフィルムは、微生物のコロニー形成因子であり、微生物を広範囲の生物および非生物表面に強力に付着させるだけでなく、微生物凝集体を包み込むことにより、後者を抗生物質および殺菌剤などの抗菌剤から保護し、さらに感染の拡大を促進する。これらの状態では、細菌感染を根絶することは困難であり、しばしば罹患組織の除去、または高用量の抗生物質および消毒剤などの殺菌剤の投与を必要とする。
【0006】
経口および局所使用のための抗生物質の投与が効率的な治療戦略であるとしても、それは、感染した損傷/創傷の処置に重大な問題を引き起こし、それ故にそれらの治癒を妨げる耐性現象の発症の主要な原因の1つである。局所消毒剤の使用に関して、多くの場合、これらの物質が適用される上皮領域の損傷に関連する高い攻撃性をしばしば示すことに留意すべきである。
【0007】
創傷治癒に作用することができるためには、プロセスの生化学的側面を理解する必要がある。
【0008】
知られているように、一酸化窒素(NO)は、損傷または創傷の治癒プロセス、特にそれらの再上皮化および瘢痕形成において重要な役割を果たす。一酸化窒素は、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)によって生成される。特に、一酸化窒素は、創傷治癒プロセスのすべての段階に影響を及ぼし、プロセスに関与するすべての細胞型に作用する生物学的メディエーターである。
【0009】
皮膚の変化の処置におけるプロバイオティクスの使用が研究されてきたが、得られた結果は、明確であるおよび/または十分に満足のいくものであるとは考えられない。
【0010】
特に、損傷または創傷を有する組織において、関連する抗菌効果および効果的な再上皮化効果(特にiNOSが介在するもの)の両方を発揮する、プロバイオティクスまたはプロバイオティクスを含む組成物の特定は、まだ達成されていない目標である。
【0011】
したがって、損傷または創傷の処置に使用するのに特に適しており、著しい抗菌効果および効果的な再上皮化効果の両方を有するプロバイオティクス、ならびに損傷または創傷の処置に使用するのに適しており、同時に副作用がなく、再上皮化を必要とする適用領域に低刺激であり、調整が容易であり、安価である組成物が、必要である。
【発明の概要】
【0012】
発明者らは、驚くべきことに、配列番号4の16S rRNAをコードする遺伝子の超可変領域V1-V3、配列番号5のgroEL遺伝子および配列番号6のpheS遺伝子を含むラクトバチルス・プランタルムNCIMB 43029株、配列番号1の16S rRNAをコードする遺伝子の超可変領域V1-V3、配列番号2のgroEL遺伝子および配列番号3のpheS遺伝子を含むラクトバチルス・アシドフィルスNCIMB 43030株、およびストレプトコッカス・サーモフィルスが、iNOSの発現と活性化、そしてそれによる一酸化窒素(NO)のレベルを著しく増加させ、損傷および創傷の再上皮化に高い正の効果をもたらすとともに、重要な抗菌活性も発揮することを見出した。
【0013】
また、本発明の発明者らは、先行技術の組成物のすべての欠点を克服することを可能にし、特に、効果的な抗菌および再上皮化作用を有するだけでなく、副作用がなく、適用領域に低刺激であり、調整が容易であり、安価であることが示された、抗菌および再上皮化作用の両方を示すプロバイオティクスを含む組成物を見出した。
【0014】
該組成物は、治癒が困難な損傷または創傷、特に、抗生物質に耐性を有する可能性のある病原性細菌のバイオフィルムが存在する創傷の処置に特に効果的である
【0015】
本発明の第1目的は、配列番号4の16S rRNAをコードする遺伝子の超可変領域V1-V3、配列番号5のgroEL遺伝子および配列番号6のpheS遺伝子を含む、2018年4月20日にNCIMB Ltd.保管センターに寄託されたアクセス番号43029を有するラクトバチルス・プランタルム株(以下、ラクトバチルス・プランタルムNCIMB 43029)である。
【0016】
本発明の第2目的は、配列番号1の16S rRNAをコードする遺伝子の超可変領域V1-V3、配列番号2のgroEL遺伝子および配列番号3のpheS遺伝子を含む、2018年4月20日にNCIMB Ltd.保管センターに寄託されたアクセス番号43030を有するラクトバチルス・アシドフィルス株(以下、ラクトバチルス・アシドフィルスNCIMB 43030)である。
【0017】
該プロバイオティクスは、先に述べたとおり、iNOSの発現を活性化または誘導する。したがって、本発明の更なる目的は、医薬としての使用のための、先に定義したラクトバチルス・プランタルムNCIMB 43029株および/またはラクトバチルス・アシドフィルスNCIMB 43030株である。
【0018】
本発明の目的はまた、iNOS発現の活性化または誘導における、先に定義したラクトバチルス・プランタルムNCIMB 43029株および/またはラクトバチルス・アシドフィルスNCIMB 43030株である。
【0019】
本発明の目的はさらに、損傷または創傷の再上皮化における使用のためのおよび/または抗菌剤としての使用のための、先に定義したラクトバチルス・プランタルムNCIMB 43029株および/またはラクトバチルス・アシドフィルスNCIMB 43030株である。
【0020】
驚くべきことに、ラクトバチルス・プランタルムおよびラクトバチルス・アシドフィルスを含む組成物は、抗菌作用と再上皮化作用を組み合わせて発揮し、損傷または創傷の処置に使用できることを見出した。
【0021】
したがって、本発明の更なる目的は、ラクトバチルス・プランタルムおよびラクトバチルス・アシドフィルスを含む、抗菌および再上皮化作用の両方を有する組成物である。
【0022】
本発明の一態様において、該組成物は、先に定義したラクトバチルス・プランタルムNCIMB 43029株および/または先に定義したラクトバチルス・アシドフィルスNCIMB 43030株を含む。
【0023】
本発明の更なる態様において、該組成物は、iNOSの発現と活性化、そしてそれによる一酸化窒素(NO)のレベルを著しく増加させることができるストレプトコッカス・サーモフィルス種の少なくとも1つの株、および/または抗真菌活性を発揮することができるバチルス・アミロリクエファシエンス種の少なくとも1つの株をさらに含む。
【0024】
好ましい実施形態において、ストレプトコッカス・サーモフィルスは、配列番号7の16S rRNAをコードする遺伝子の超可変領域V1-V2、配列番号8のrecA遺伝子および配列番号9のsecA遺伝子を含む。
【0025】
更なる好ましい実施形態において、バチルス・アミロリクエファシエンス株は、16S rRNAをコードする配列番号10により特徴付けられる公知の株である。
【0026】
本発明の更なる目的は、特に損傷または創傷の再上皮化プロセスにおける、医薬としての使用のための本発明による組成物である。
【0027】
本発明の好ましい態様は、iNOS発現の活性化または誘導による損傷または創傷の再上皮化プロセスにおける使用のための本発明による組成物である。
【0028】
本発明の更なる目的は、本発明による組成物を含むバンデージである。
【0029】
本発明の更なる目的は、特に損傷または創傷の再上皮化における、医薬としての使用のためのものである、本発明による組成物を含むバンデージである。
【0030】
本発明の更なる目的は、本発明による組成物および対応する添付文書を含む、無菌圧縮性容器または無菌単回もしくは複数回投与ポンプを含むキットである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】様々な時点でのヒトケラチノサイト細胞株HaCaTのスクラッチした単層の再上皮化に対する細菌抽出物の影響を示す。(A)20および28時間でのスクラッチした単層の創傷閉鎖率(対応するT0に対する%)に対する、50μg/mlの濃度の細菌抽出物の影響を示す。データを、二つ組で実施した3回の独立した実験の平均±SEMとして表す。データ群の比較分析には、二元配置分散分析(ANOVA)とそれに続くダネットの事後検定を用いた。コントロール(未処理)に対して*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001。(B)創傷生成後20および28時間での未処理(コントロール)または細菌抽出物(50μg/ml)で処理したHaCaT細胞の単層の再上皮化を表す画像(倍率10倍)を示す。
【0032】
図2】スクラッチしたケラチノサイト単層におけるiNOSレベルに対するプロバイオティクス抽出物の影響を示す。iNOSのイムノブロットアッセイを、50μg/mlのプロバイオティクス抽出物で28時間処理したスクラッチした単層に対して実施した。バンドのデンシトメトリー分析から得られた値を、βアクチンに関する値に対して正規化し、未処理コントロールと比較した。(A)iNOS/β-アクチンとして表したデンシトメトリーの結果(コントロールに対する倍数)を示す。データは、二つ組で実施した3回の独立した実験から得られたものであり、値を平均±SEMとして表す。一元配置分散分析(ANOVA)とそれに続くダネットの事後検定を用いて、データ群間の統計的有意差の存在を評価した。コントロール(未処理)に対して*P<0.05、***P<0.01、****P<0.0001。(B)iNOSのイムノブロットを表す画像を示す。
【0033】
図3】iNOS阻害剤であるアミノグアニジンAGの存在下または非存在下でのHaCaT細胞のスクラッチした単層の培養培地中の亜硝酸レベルを示す。HaCaT細胞のスクラッチした単層を、細菌抽出物で処理する前に、AGの有りまたは無しで20μMの濃度にて15分間インキュベートした。培養培地中の亜硝酸レベルを、28時間後にGriess試薬により分析した。示されるデータは、二つ組で実施した3回の独立した実験の平均±SEMとして表される。二元配置分散分析とそれに続くボンフェローニの事後検定を用いて、データ群間の統計的有意差の存在を評価した:コントロール(未処理)に対して*P<0.05、**P<0.01、****P<0.0001。AG無しの対応する各培養物に対して#P<0.05、##P<0.01、###P<0.001、####P<0.0001。
【0034】
図4】S.サーモフィルス、L.プランタルムおよびL.アシドフィルスが誘導したHaCaT細胞のスクラッチした単層の再上皮化に対するiNOS阻害剤AGの影響を示す。(A)50μg/mlの濃度にてプロバイオティクス抽出物で20時間処理したスクラッチした単層の相対閉鎖率に対する、20μMの濃度におけるAGによる15分間の前処理の影響を示す。データを、二つ組で実施した3回の独立した実験の平均±SEMとして表す。二元配置分散分析(ANOVA)とそれに続くボンフェローニの事後検定を用いて、統計的有意差を評価した。AG無しの対応する各培養物に対して#P<0.05、##P<0.01。(B)20μMの濃度でのAGによる前処理の有りまたは無しでのHaCaT細胞のスクラッチした単層、およびその後の50μg/mlの濃度でのS.サーモフィルス、L.プランタルムまたはL.アシドフィルスの抽出物への20時間の曝露を表す画像(倍率10倍)を示す。
【0035】
図5】20μg/mlの濃度でバチルス・アミロリクエファシエンス抽出物を20時間添加することにより誘発したHaCaT細胞のスクラッチした単層の再上皮化に対するiNOS阻害剤AGの影響を示す。(A)20μMの濃度でのB.アミロリクエファシエンス抽出物で20時間処理したスクラッチした単層の相対閉鎖率に対する、20μMの濃度でのAGによる15分間の前処理の影響を示す。データを、二つ組で実施した3回の実験の平均±SEMとして表す。二元配置分散分析(ANOVA)とそれに続くボンフェローニの事後検定を用いて、データ群間の統計的有意差を評価した。AG無しの対応する各培養物に対して#P<0.05、##P<0.01。コントロールに対して**P<0.01。(B)20μMのAGによる15分間で前処理したまたは前処理せず、その後20μg/mlにてB.アミロリクエファシエンス抽出物を20時間添加したHaCaT細胞のスクラッチした単層を表す画像(倍率10倍)を示す。
【0036】
図6】スクラッチの20時間後の、HaCaT細胞のスクラッチした単層の再上皮化に対する、示された濃度での細菌抽出物の様々な組み合わせの影響を示す。データを、未処理コントロールに対する再上皮化の平均増加(%)として表す。
【0037】
図7】パネルA:足趾を切断した後の糖尿病性潰瘍および術後創傷を有する患者の右足の写真(36日目)を示す。パネルB:図7Aの足の拡大写真を示す。
【0038】
図8】パネルA:側面から見た48日目の図7Aの足の写真を示す。パネルB:正面から見た図8Aの足の拡大写真を示す。
【0039】
図9】パネルA:正面から見た57日目の図7Aの足の写真を示す。パネルB:側面から見た図9Aの足の拡大写真を示す。
【0040】
図10】パネルA:正面から見た170日目の図7Aの足の写真を示す。パネルB:側面から見た図10Aの足の拡大写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明による上記で挙げたラクトバチルス・プランタルムNCIMB 43029株は、2018年4月20日にNCIMB Ltd.保管センター(Ferguson Building, Craibstone Estate, Bucksburn, Aberdeen AB21 9YA, Scotland, UK)に寄託され、NCIMBアクセス番号43029を有する。
【0042】
該ラクトバチルス・プランタルムNCIMB 43029は、Professor Claudio De Simone(51 Route des Chenolettes 1660, Chateau-d'OEx, Switzerland)によりNCIMB Ltd.に寄託された。
【0043】
Professor Claudio De Simoneは、本特許出願の所有者に、本願でラクトバチルス・プランタルムNCIMB 43029を参照することを許可し、R. 33 EPCの下でラクトバチルス・プランタルムNCIMB 43029を一般に利用可能にすることに同意した。
【0044】
先に定義したラクトバチルス・プランタルムNCIMB 43029が示す主な特徴は、iNOSの発現を活性化および誘導し、亜硝酸の量によって証明されるように、一酸化窒素レベルを著しく増加させ、それ故に、損傷または創傷の再上皮化に大きく作用する高い能力である。
【0045】
インビトロおよびインビボの証拠はまた、ラクトバチルス・プランタルムNCIMB 43029が高い抗菌作用を発揮することを示している。
【0046】
本発明によるラクトバチルス・アシドフィルスNCIMB 43030は、2018年4月20日にNCIMB Ltd.保管センター(Ferguson Building, Craibstone Estate, Bucksburn, Aberdeen AB21 9YA, Scotland, UK)に寄託され、アクセス番号NCIMB 43030を有する。
【0047】
該ラクトバチルス・アシドフィルスNCIMB 43030は、Professor Claudio De Simone(51 Route des Chenolettes 1660, Chateau-d'OEx, Switzerland)によりNCIMB Ltd.に寄託された。
【0048】
Professor Claudio De Simoneは、本特許出願の所有者に、本願でラクトバチルス・アシドフィルスNCIMB 43030を参照することを許可し、R. 33 EPCの下でラクトバチルス・アシドフィルスNCIMB 43030を一般に利用可能にすることに同意した。
【0049】
先に定義したラクトバチルス・アシドフィルスNCIMB 43030が示す主な特徴は、iNOSの発現を活性化および誘導し、亜硝酸の量によって証明されるように、一酸化窒素レベルを著しく増加させ、それ故に、損傷または創傷の再上皮化に大きく作用する高い能力である。
【0050】
インビトロおよびインビボの証拠はまた、ラクトバチルス・アシドフィルス NCIMB 43030が高い抗菌作用を発揮することを示している。
【0051】
すでに上で述べたように、当該プロバイオティクス株は新規であり、本発明の主題である。
【0052】
驚くべきことに、ラクトバチルス・プランタルムおよびラクトバチルス・アシドフィルスの組合せが、現在当技術分野で知られているプロバイオティクスを含む組成物では観察されなかった、増強された抗菌および再上皮化効果を示すことを見出した。
【0053】
したがって、本発明の目的は、抗菌および再上皮化作用の両方を有する、ラクトバチルス・プランタルムおよびラクトバチルス・アシドフィルスを含む組成物である。
【0054】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の組成物は、ストレプトコッカス・サーモフィルスおよび/またはバチルス・アミロリクエファシエンスをさらに含む。
【0055】
本発明の特に好ましい態様によれば、本発明の抗菌および再上皮化作用の両方を有する組成物は、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・アシドフィルスおよびストレプトコッカス・サーモフィルスを含む。
【0056】
本発明の別の特に好ましい態様によれば、抗菌、再上皮化および抗真菌作用を有する組成物は、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・アシドフィルス、ストレプトコッカス・サーモフィルスおよびバチルス・アミロリクエファシエンスを含む。
【0057】
典型的には、本発明による組成物は、好ましくは散剤、顆粒剤、歯肉錠剤または膣錠剤の形態での、局所使用のための、または好ましくはカプセル剤またはゲル剤の形態での、経口使用のための組成物である。
【0058】
本発明による組成物は、ラクトバチルス・プランタルムおよびラクトバチルス・アシドフィルスの組合せが、細菌由来の分子を還元する際に相乗効果を発揮できるので、増強された抗菌効果を発揮する。
【0059】
本発明による組成物は、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・アシドフィルスおよびストレプトコッカス・サーモフィルスがiNOSの発現と、これによる一酸化窒素の産生の活性化および誘導ができるので、再上皮化効果を発揮する。
【0060】
好ましくは、本発明による組成物中のラクトバチルス・プランタルムは、先に特定したNCIMB 43029株である。
【0061】
好ましくは、本発明による組成物中のラクトバチルス・アシドフィルスは、先に特定したNCIMB 43030株である。
【0062】
好ましくは、本発明による組成物中のストレプトコッカス・サーモフィルスは、配列番号7の16S rRNAをコードする遺伝子の超可変領域V1-V2、配列番号8のrecA遺伝子および配列番号9のsecA遺伝子を含む株である。
【0063】
好ましくは、本発明による組成物中のバチルス・アミロリクエファシエンスは、16S rRNAをコードする配列番号10により特徴付けられる公知の株である。
【0064】
組成物中のラクトバチルス・プランタルムの重量%は、組成物の総重量に対して1~40重量%の範囲である。
【0065】
組成物中のラクトバチルス・アシドフィルスの重量%は、組成物の総重量に対して1~40%の範囲である。
【0066】
組成物中のストレプトコッカス・サーモフィルスの重量%は、組成物の総重量に対して0.5~20%の範囲である。
【0067】
組成物中のバチルス・アミロリクエファシエンスの重量%は、組成物の総重量に対して0.1~10%の範囲である。
【0068】
本発明の好ましい態様は、組成物の総重量に対して:
10~90重量%のラクトバチルス・プランタルム、および
90~10重量%のラクトバチルス・アシドフィルス
を含む、抗菌および再上皮化作用の両方を有する組成物である。
【0069】
本発明の好ましい態様はまた、組成物の総重量に対して:
20~80重量%のラクトバチルス・プランタルム、
40~10重量%のラクトバチルス・アシドフィルス、および
40~10重量%のストレプトコッカス・サーモフィルス
を含む、抗菌および再上皮化作用の両方を有する組成物である。
【0070】
本発明の好ましい態様は、組成物の総重量に対して:
10~80重量%のラクトバチルス・プランタルム、
40~10重量%のラクトバチルス・アシドフィルス、
40~9重量%のストレプトコッカス・サーモフィルス、および
10~1重量%のバチルス・アミロリクエファシエンス
を含む、抗菌、再上皮化および抗真菌作用を有する組成物である。
【0071】
本発明の好ましい態様において、組成物中の細菌ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・アシドフィルス、ストレプトコッカス・サーモフィルス、および/またはバチルス・アミロリクエファシエンスは、生存細菌である。
【0072】
あるいは、組成物中の細菌ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・アシドフィルス、ストレプトコッカス・サーモフィルス、および/またはバチルス・アミロリクエファシエンスは、生育不能細菌であり、典型的には、照射または別の技術により生育不能とされる。
【0073】
好ましくは、本発明による組成物は、藻類、蜂花粉、蜂蜜、通気性粘土およびゼオライトを含む群より選択される、少なくとも1つの医薬的許容される添加剤を含む。
【0074】
本発明の別の目的は、医薬としての使用のための、特に損傷または創傷の再上皮化のための本発明による組成物である。好ましくは、該再上皮化プロセスは、iNOSの活性化または誘導により実施される。
【0075】
本発明によれば、用語「創傷」は、開放創、慢性創傷、急性創傷、熱傷、術後創傷、外傷性創傷、皮膚剥離、潰瘍、例えば糖尿病性潰瘍、褥瘡または消化管の潰瘍を意味する。
【0076】
本発明による組成物の好ましい態様は、開放創、慢性創傷、急性創傷、熱傷、術後創傷、外傷性創傷、皮膚剥離、潰瘍、例えば糖尿病性潰瘍、褥瘡を含む群より選択される、損傷または創傷の再上皮化手順における使用のためのものである。
【0077】
該損傷または創傷は、典型的には、皮膚または粘膜のいずれか、特に口腔、膣もしくは直腸の粘膜に影響を与え得るが、消化管損傷でもあり得る。
【0078】
したがって、本発明の好ましい態様は、皮膚、口腔、膣もしくは直腸の粘膜または消化管粘膜の損傷または創傷の再上皮化プロセスにおける使用のためのものである。
【0079】
好ましくは、該組成物が、皮膚、口腔、膣もしくは直腸の粘膜、潰瘍、例えば糖尿病性潰瘍または褥瘡の損傷または創傷の再上皮化プロセスにおける使用のためのものであるとき、該組成物は、顆粒剤または散剤、歯肉錠剤または膣錠剤の形態での局所使用のためのものである。
【0080】
好ましくは、該組成物が、消化管粘膜の損傷または創傷の再上皮化プロセスにおける使用のためのものであるとき、該組成物は、カプセル剤またはゲル剤の形態での経口使用のためのものである。
【0081】
該損傷または創傷は、本発明によれば、グラム陰性細菌、例えばエンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、カンジダ・アルビカンス(Candida Albicans)からなるバイオフィルムにより影響を受け得る。
【0082】
本発明の更なる目的は、先に定義した本発明による組成物を含むバンデージである。
【0083】
本発明の好ましい目的は、特に損傷または創傷の再上皮化手順における、医薬としての使用のための本発明による組成物を含む、バンデージである。
【0084】
本発明の更なる目的は、本発明による組成物および対応する添付文書を含む、無菌圧縮性容器または単回もしくは複数回投与ポンプを含むキットである。
【実施例
【0085】
(HaCaT細胞(ヒトケラチノサイト細胞株)のスクラッチした単層に生じた創傷の治癒に対する細菌株抽出物の影響)
本発明者らは、インビトロの人工創傷モデルを用いて、選択した細菌株から得られた抽出物が創傷の再上皮化に影響を与える能力を評価した。未処理細胞および50μg/mlの濃度の各細菌抽出物で処理した細胞におけるスクラッチした単層の閉鎖率を示し、創傷生成後の異なる時点における創傷縁間の領域の再増殖の観察により評価する。創傷領域の閉鎖に対する細菌抽出物の影響を定量分析するために、スクラッチ後0、20、28および45時間にて倒立位相差顕微鏡を使用して得られた画像を取得し、分析した総表面積に対する該細胞が占める面積率を評価するために、自動計算システムを使用して閉鎖率として表す。すべての実験において、コントロール細胞(未処理)のスクラッチした単層は、36~42時間後に完全に治癒した。細菌抽出物の存在下または非存在下での20および28時間での再上皮化率を、T0での対応する単層の創傷と比較した。相対的な再上皮化率として表す結果(二つ組で実施した3回の独立した実験からの平均±SEM)、およびスクラッチした単層の顕微鏡観察を表す画像を、それぞれ図1Aおよび1Bに示す。S.サーモフィルスまたはL.プランタルムの抽出物による処理は、創傷生成後20時間および28時間の両方で、未処置コントロールと比較して修復率を有意に加速させた。対照的に、B.ロンガム(B. longum)、B.インファンティス(B. infantis)およびB.ブレーベ(B. breve)の抽出物による処理は、未処理コントロールと比較して、単層の修復プロセスを有意に遅らせた。L.ブルガリカス(L. bulgaricus)の抽出物は、両方の観察時点で、コントロールと比較して創傷閉鎖率に有意な影響を与えなかったと考えられる。
【0086】
(iNOSの発現および亜硝酸レベル)
HaCaT細胞単層修復過程に対する細菌抽出物の上記の影響におけるiNOSの潜在的な関与を調べるために、本発明者らは、最初に、50μg/mlの濃度の細菌抽出物の非存在下または存在下でのスクラッチ生成の28時間後の単層におけるiNOSタンパク質レベルをウエスタンブロットにより分析した。iNOSバンドのデンシトメトリー分析により得られた値を、β-アクチンに関する値に対して正規化した。iNOSイムノブロットを表す画像と二つ組で実施した3回の独立した実験の平均±SEMとして表すデータを、それぞれ図2Aおよび2Bに示す。結果は、S.サーモフィルス、L.プランタルムおよびL.アシドフィルスの抽出物による処理が、単層(monostrate)の再上皮化を加速する能力に一致して、コントロール細胞で観察されたものと比較して、iNOSタンパク質発現の顕著な上方調節(over-regulation)をもたらしたことを示している。最適な効果は、L.アシドフィルスおよびL.プランタルムで観察できた。S.サーモフィルス抽出物は、程度は低いものの、iNOSタンパク質の発現レベルを有意に増加させることもできた。単層上に生成された創傷の治癒に有意な影響を及ぼさなかったL.ブルガリカスの抽出物は、コントロールとして用いた細胞単層で観察されたものと比較してiNOS発現を調節することもできなかった。一方、B.ロンガム、B.インファンティスおよびB.ブレーベの抽出物に曝露させたHaCaT細胞の単層は、すべての菌株が創傷閉鎖率を抑制できるため、未処理の状態と比較して有意に低いレベルのiNOSタンパク質を示した。
【0087】
細菌抽出物がiNOSを調節する能力を、選択的iNOS阻害剤であるAGで前処理したか、またはそのような阻害剤で処理していないHaCaT細胞のスクラッチした単層の上清中の亜硝酸レベルを測定することによりさらに分析した(T. P. Misko et al., Eur. J. Pharmacol, 1993, 233:119-125から公知)。
【0088】
図3に示すように、AGの前処理は、コントロール単層をスクラッチすることによって誘発されるiNOS活性を抑制する能力があるため、亜硝酸の生成の増加を有意に防止した。iNOS発現を調節できるS.サーモフィルス、L.アシドフィルスおよびL.プランタルムの抽出物による処理は、程度は異なるが、コントロール単層と比較して培養培地中の亜硝酸レベルの有意な増加を誘発した。特に、亜硝酸の生成に対するS.サーモフィルス、L.アシドフィルスおよびL.プランタルムの抽出物の刺激効果は、AGによる前処理によって完全にまたは部分的に防止され、これらのプロバイオティクスがiNOSの発現および活性を誘導する能力の証拠をさらに裏付けている。
【0089】
反対に、B.ロンガム、B.インファンティスおよびB.ブレーベの抽出物は、コントロールと比較して、亜硝酸レベルの有意な減少を誘発し、iNOS発現度に対するそれらの阻害効果を確認した。iNOS発現に関する実験の結果によれば、AGによる前処理は、細菌抽出物単独で処理した単層と比較して、B.ロンガム、B.インファンティスおよびB.ブレーベで処理した細胞培養物における亜硝酸レベルに有意な影響を及ぼさなかった。L.ブルガリカスの抽出物による処理は、未処理の培養物と比較して亜硝酸レベルに有意な影響を及ぼさなかったが、AG前処理は、阻害剤で処理していない対応する試料と比較して亜硝酸レベルを有意に減少させた。
【0090】
創傷閉鎖率に対するiNOS阻害剤であるAGの効果を、L.プランタルム、S.サーモフィルスおよびL.アシドフィルスの抽出物がインビトロでの創傷閉鎖プロセスを加速する能力に対しても評価した。重複した3回の実験の平均±SEMとして表される結果は、50μg/mlの濃度の細菌抽出物の存在下または非存在下での細胞単層においてT0にて生成したスクラッチした面積と比較して、20時間における再上皮化率に関する(図4A)。顕微鏡観察を表す画像も示す(図4B)。予想通り、創傷治癒におけるiNOS活性の役割に従って、AGによる前処理は、コントロール単層の生理学的修復に強い影響を及ぼし、そして、実験の開始時に生成したスクラッチした面積と比較した再上皮化の%として表される単層修復率について、これらすべての細菌抽出物の刺激効果を有意に防止した。
【0091】
まとめると、これらの結果は、iNOSの発現および活性の増加が、選択したプロバイオティクス抽出物によって促進される再上皮化プロセスにおいて重要な役割を果たすことを強く示唆している。
【0092】
20μg/mlの濃度のバチルス・アミロリクエファシエンス抽出物により処理した後、再上皮化プロセスを加速する能力も実証されている(図5)。また、この場合、iNOSの関与は、その特異的阻害剤であるアミノグアニジン(20μM)がB.アミロリクエファシエンスによる処理により誘発される刺激効果を遮断する能力によって実証された。図5Aは、B.アミロリクエファシエンスの抽出物により20時間処理した後、T0で生成したスクラッチした面積に対する再上皮化の%に関する平均±SDとして表した結果を示している。結果は、二つ組で実施した3回の独立した実験の代表である。#P<0.05および##P<0.01はAG無しの対応する試料に対してであり;**P<0.01未処理コントロールに対してである。
【0093】
スクラッチしたHaCaT細胞の再上皮化プロセスに対するプロバイオティクスの様々な組合せにより実施した処理の効果を評価するために、損傷の修復に有意な影響を及ぼさないことを示す個々の株(L.プランタルム、L.アシドフィルス、S.サーモフィルスおよびB.アミロリクエファシエンス)の濃度を用いた。実際、10μg/mlの濃度の個々の細菌抽出物によるスクラッチした単層の処理は、損傷から20時間後、未処理コントロールと比較して創傷閉鎖の%に有意な影響を与えなかった(再上皮化<10%)。一方、両方が10μg/mlの濃度のL.プランタルムおよびL.アシドフィルスによる組合せ処理は、損傷20時間後、約35%の創傷単層の修復率の増加をもたらした。L.プランタルム(10μg/ml)、L.アシドフィルス(10μg/ml)およびS.サーモフィルス(10μg/ml)の組合せは、処置の20時間後、創傷単層の修復率の有意な増加(約60%)をもたらした。同様に、L.プランタルム(10μg/ml)、L.アシドフィルス(10μg/ml)およびB.アミロリクエファシエンス(10μg/ml)による組合せ処理は、処理の20時間後、70%超の修復率の増加をもたらした。L.プランタルム(10μg/ml)、L.アシドフィルス(10μg/ml)、S.サーモフィルス(10μg/ml)およびB.アミロリクエファシエンス(10μg/ml)の組合せは、損傷単層の再上皮化の加速においてより効果的であり、20時間後、97~98%の創傷閉鎖率の増加をもたらした。
【0094】
(結論)
創傷が生じたときに表皮が果たす重要なバリア機能を考慮すると、再上皮化プロセスを支持することにより、組織の完全性を可能な限り迅速かつ効率的に回復させる必要がある。
【0095】
ケラチノサイトの増殖および遊走は、創傷治癒中の再上皮化プロセスにおける重要な段階である。
【0096】
本研究において、発明者らは、同じ実験条件下で、インビトロの創傷治癒モデルに対して7つの異なるプロバイオティクス株が発揮する影響を比較した。得られた結果は、L.プランタルム、L.アシドフィルス、S.サーモフィルスおよびB.アミロリクエファシエンスの対照的に、B.インファンティス、B.ブレーベおよびB.ロンガムの抽出物は、再上皮化プロセスを抑制し、一方、L.ブルガリカスの細菌抽出物はインビトロでの創傷修復に影響を及ぼさない。
【0097】
L.プランタルム、L.アシドフィルス、S.サーモフィルスおよびB.アミロリクエファシエンスによって誘発される再上皮化の増加の根底にあるメカニズムには、免疫ブロットデータ、亜硝酸レベルアッセイ、およびiNOS特異的阻害剤であるアミノグアニジンによる前処理の効果により示される、iNOSの発現および活性の増加が関与する。一方、B.インファンティス、B.ブレーベおよびB.ロンガムは、スクラッチしたHaCaT細胞単層におけるiNOSの発現および活性を有意に低下させる。これに関連して、L.ブルガリカスの細菌抽出物も効果を示さなかった。
【0098】
まとめると、これらの結果は、AGの存在下で実施した実験によっても裏付けられているように、治癒促進または抗治癒特性が、iNOSの発現および活性を増加または減少させるプロバイオティクスの能力に厳密に依存することを強く示唆している。発明者らが得たデータは、再上皮化プロセスに対するプロバイオティクスの効果の根底にあるメカニズムの範囲を拡張し、慢性創傷の処置におけるそれらの使用を正当化し得る。提供される証拠は、特に用量の標準化および有益な効果の詳細な特性評価の点で、プロバイオティクスの潜在的な治療的使用を調査するための更なる詳細な研究の対象となるべきである。また、プロバイオティクス製品に有害な違いをもたらし得る製造プロセスの変更は、安全性および/または有効性の観点から入念に監視されるべきである。
【0099】
以上のことから、プロバイオティクス菌株の選択もまた、これらの細菌の影響が極めて菌特異的であり得るため、極めて重要である。
【0100】
(細菌処理のための細菌試料の材料および製造方法)
L.プランタルム、L.アシドフィルスおよびS.サーモフィルスをDuPont Danisco(Wilmington、Delaware、USA)から購入した。L.ブルガリカスおよびB.ロンガムをBioprox(Noyant、France)から購入した。B.ブレーベおよびB.インファンティスをCentro Sperimentale del Latte S.r.l.(Zelo Buon Persico LO、Italy)から購入した。B.アミロリクエファシエンスをSanzyme Biologics Private Limited(Hyderabad、Telangana、India)から購入した。
【0101】
細菌抽出物の製造のために、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、Euro Clone、West York、UK)で再懸濁された各凍結乾燥細菌1gのストックを、8,600×gにて遠心分離し、2回洗浄し、10mlのPBSに再懸濁させ、Vibracellソニケーター(Sonic and Materials、Danbury、CT)を用いて超音波処理した(30分、10秒の超音波処理と10秒の休止を交互に行う)。
【0102】
細菌細胞の破壊を、各超音波処理工程の前後に、590nmにて試料の吸光度を測定することによって確認した(Eppendorf Hamburg、Germany)。その後、試料を17,949×gにて遠心分離し、0.22μm孔のフィルター(Corning Incorporated、Corning、NY、USA)を用いて上清をろ過し、残っている全細菌をいずれも除去した。総タンパク質含有量を、標準としてウシ血清アルブミン(BSA、Sigma Aldrich、Saint Louis、MO、USA)を用いるBioRad DCタンパク質アッセイ(BioRad、Hercules、CA)により決定した。インビトロ実験では、最終濃度としてμgタンパク質/mlとして表す様々な濃度を得るために、細菌調製物を、様々の量を用いて以下に特定するとおり様々な時間間隔に沿って細胞培養物に加えた。
【0103】
(細胞株および培養条件)
自然に不死化したヒトケラチノサイトのHaCaT細胞株を、Cell Lines Service GmbH(Eppelheim、Germany)から購入した。HaCaT細胞を、10%(v/v)ウシ胎児血清(FCS)、2mM L-グルタミン、100U/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシンを添加したDMEM(Euro Clone、West York、UK)中で培養した。培養条件は5%CO2の加湿雰囲気中37℃で一定に維持した。80%のコンフルエンシーに達した後、以下に特定するとおり、18,000細胞/cm2の濃度にて無菌細胞培養のための6または12ウェルプレート(Becton Dickinson、San Jose、CA)において細胞を播種した。非接着細胞を、リン酸緩衝液(PBS、pH=7.4)で穏やかに洗浄することにより除去した。12ウェルプレートで増殖した細胞を20、28、45時間にて収集し、トリパンブルー色素排除試験(Euro Clone、West York、UK)で生細胞をカウントした。細胞を様々な濃度の細菌抽出物と様々な時間間隔(20~48時間)でインキュベートした後、PBSで洗浄し、400×gにて10分間遠心分離し、ペレットを0.04%トリパンブルー溶液と5分間インキュベートして、総細胞数およびその生存率を分析した。未処理細胞も分析し、ネガティブコントロールとして用いた。細胞をBurker計数チャンバーに移し、顕微鏡Eclipse 50i(Nikon Corporation、Japan)下で計数した。μgタンパク質/mlとして表す細菌抽出物の適切な濃度を選択するために、HaCaTケラチノサイトの生存率を、トリパンブルー排除試験を用いて分析した。様々な濃度の細菌抽出物で20~48時間培養した後、未処理コントロール細胞と比較して、細胞の生存率または増殖レベルに有意な影響は検出されなかった(データは示していない)。一方、トリトンX界面活性剤(0.1%)による処理は、細胞生存率の有意な低下をもたらした(P≦0.01)(ポジティブコントロール)。ほとんどの実験では、10~50μg/mlの範囲の細菌溶解物の濃度を用いた。
【0104】
(インビトロの創傷治癒モデル)
インビトロの創傷治癒アッセイについて先に説明したとおり、HaCaT細胞を、上記の培養条件を用いて6ウェルマイクロプレート中で増殖し、続いて、約90%のコンフルエンスを達成するまで増殖させ、その後、DMEMをウェルから除去し、200μlのピペットの先端を用いて細胞の単層をスクラッチして、再現可能なサイズの均一な無細胞領域(創傷)を作製した。滅菌PBSで穏やかに洗浄することにより、細片を培養物から除去した。その後、細胞を、指定される最終濃度(10~50μgタンパク質/mlの範囲)の細菌抽出物の存在下または非存在下で、5%CO2の加湿雰囲気中、37℃で新鮮な培地とともにインキュベートした。指定されている場合、細胞を、iNOSの選択的阻害剤である20μMアミノグアニジン(AG)(Sigma Aldrich、St.Louis、MO、USA)で15分間、前処理した。倒立位相差顕微鏡EclipseTS 100(Nikon)を用いて細胞遊走をモニターし、実験開始時(T0)および損傷後45時間までの様々な時点で写真を撮った。実験を、各条件について評価した少なくとも3~6個の視野で二つ組で実施した。創傷閉鎖%を計算するために、取得した画像を、TScratchソフトウェアを用いて定量分析した。相対的な再上皮化の定量を、次の式を用いて実施した:
相対的再上皮化率=(T=0でのスクラッチ領域率-T=nでのスクラッチ領域率)/(T=0でのスクラッチ領域率)×100
式中、Tはスクラッチ後の特定の時点である。
【0105】
(iNOS発現のウエスタンブロット分析)
ウエスタンブロット分析では、未処理細胞および細菌抽出物で28時間処理した細胞のスクラッチした単層を収集し、PBSで洗浄し、プロテアーゼ阻害剤混合物(カルボキシペプチダーゼ阻害剤、5μg/mlトリプシン阻害剤、PMSF 1mM、10μg/mlロイペプチン、10μg/mlアプロチニン、10μg/mlペプスタチン)(Sigma Aldrich、St.Louis、MO、USA)を含有するRIPA緩衝液(RIPA Lysis Buffer、Merck KGaA、Darmstadt、Germany)に溶解させた。試料を、BSAを標準として用いるBioRad DCタンパク質アッセイ(BioRad、Hercules、CA)でタンパク質含有量について試験した。25μgのタンパク質を試料緩衝液と混合し、100℃にて5分間煮沸し、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、10%SDSにより分離した。Mini Trans-Blot Cell(BioRad、Hercules、CA)装置を用いて、タンパク質を0.45μmニトロセルロースメンブレンシート(BioRad、Hercules、CA)に4℃、70Vにて1時間転写した。膜を、5%の無脂肪乳を用いて室温にて1時間ブロックし、その後、1:500ポリクローナルウサギ抗iNOS抗体(Cell Signaling Technology、CA)または1:1000抗βアクチン抗体(Santa Cruz Biotechnology、Santa Cruz、CA)と4℃にて一晩インキュベートした。抗iNOS抗体についての推奨希釈率1:5000のホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)に結合した二次ヤギ抗ウサギIgG抗体、および抗β-アクチン抗体についての推奨希釈率1:5000のホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)に結合した二次ウサギ抗ヤギIgG抗体(Millipore EMD、Darmstadt、Germany)を用いた。免疫反応性バンドを、製造元の指示に従って、増強された化学発光(ECL、Amersham Pharmacia Biotech)により可視化した。相対バンド密度を、ALLIANCE化学発光検出システム(UVITEC、Cambridge UK)を用いて決定し、値を相対単位として表した。イムノブロットデータを、β-アクチンの対応するタンパク質レベルに対して正規化した。
【0106】
(亜硝酸レベルアッセイ)
NO生成を、硝酸レダクターゼを用いて亜硝酸レベルを測定することによるGriess法と、比色分析に基づくGriess反応を用いて間接的に評価した。要するに、未処理細胞および細菌抽出物で28時間処理した細胞のスクラッチした単層の上清(20μl)を、Hepes 50mM、FAD 5μM、NADPH 0.1mM、0.2U/ml硝酸レダクターゼ、1,500U/ml乳酸デヒドロゲナーゼ、100mMピルビン酸、そして最後にGriess試薬とともに96ウェルマイクロタイタープレートに加えた。マイクロプレートリーダー(Bio-Rad Hercules、California、USA)を用いて、550nmでの分光光度測定により吸光度を測定した。値を、KNO3の既知濃度による標準曲線で補間した。
【0107】
(統計分析)
データを、Prism 6.0ソフトウェア(GraphPad、San Diego、CA)を用いて分析した。結果を、二つ組で実施した3回の平均±SEMとして表す。P<0.05の場合、結果は統計的に有意であると見なした。群の比較には、ANOVA検定に続いて、ボンフェローニまたはダネットの事後検定を用いた。本明細書において、データの統計分析には、*または#はP<0.05、**または##はP<0.01、***または###はP<0.001、****または####はP<0.0001について用いた。
【0108】
インビボ評価に関して、発明者らは、抗菌効果と再上皮化効果をよりよく調査するために、バイオフィルムが抗生物質療法に耐性である、損傷または創傷、特に術後創傷および糖尿病潰瘍の処置のための、本発明のプロバイオティクス、特に本発明による組成物を試験した。
【0109】
本発明による組成物のインビボ創傷への適用に関する実施例および対応する結果を以下に提供する。
【0110】
実施例1 糖尿病による潰瘍に罹患し、足趾切断創を有する女性患者の足への粉末形態の本発明の組成物の適用
先に特定したラクトバチルス・プランタルムNCIMB 43029、先に特定したラクトバチルス・アシドフィルスNCIMB 43030、および先に特定した公知のストレプトコッカス・サーモフィルスを含む組成物の糖尿病性潰瘍および外科的創傷に対する有効性を調べた。
【0111】
特に、右脚の潰瘍性皮膚損傷が第2趾と第3趾まで伸びている重症虚血肢(CLI)に罹患した83歳の女性に注目した。女性の病歴は、II型真性糖尿病、体動脈高血圧、虚血性心疾患(以前の冠状動脈バイパス手術)および心房細動(AF)を示した。彼女はまた現役の喫煙者であった(20年間、20本/日)。臨床観察によると、両側大腿脈拍が存在したが、残りの末梢脈拍(膝窩動脈、後脛骨およびペピディア(pepidia))は存在しなかった。右足の潰瘍の存在は足趾まで広がり、脚の前面および後面に壊死性の発疹、および第2趾と第3趾に羊皮紙壊死があり、指圧痛があり、運動性は維持されていた。足関節上腕血圧指数(ABI)は両脚でモニターできなかった。
【0112】
入院時の血液検査では、次の結果が得られた。C反応性タンパク質(CRP)、101,000μg/l;赤血球沈降速度(ESR)、100mm/h;ヘモグロビン(HGB)、8.0g/dl;血小板、454,000μg/l;白血球(WBC)、12,800/μl;国際標準化比(INR)、1.87;部分トロンボプラスチン時間(PTT)、比率2.3。外科的処置は、浅大腿動脈(SFA)および右膝窩動脈の薬物送達バルーン(DEB)レンジャー(5×100mM)による再開通および経皮経管血管形成術(PTA)、それに続く前足の壊死性損傷の外科的掻爬(courettage)および右足の第2趾の切断から構成された。感染性疾患の専門家は、外科的介入の前に「炎症パラメータが著しく増加している。8時間毎のTAZOCIN(登録商標)(ピペラシリン+タゾバクタム)4.5gによる抗生物質治療を開始することをお勧めする」と報告した。
【0113】
8日後、炎症マーカーの改善と、infectivologistは15日間 MINOCIN(登録商標)(ミノサイクリン)100mg、1錠×2を15日間に抗生物質療法(infectivologist)に変え、そして患者は合計21日間の入院後に退院した。家庭では、患者は、処置部位を先に洗浄し、1パックの消毒液と共に週2回の創傷と切断の周縁部の局所外来ドレッシングを受け、高分子膜(PolyMem(登録商標)、Ferries Mfg.)が定期的に適用された。
【0114】
退院および在宅処置の36日後、主治医によって経験的に処方されたアモキシシリン(12時間毎に500mg経口)による4週間の抗生物質療法にもかかわらず、創傷滲出液の有意な増加を伴う悪化する臨床画像を考慮して、患者は我々の施設に来た。創傷は、豊富な分泌物で湿っていて、フィブリンで覆われていた。その後、創傷の局所スワブを直ちに実施し、クレブシエラ・ニューモニエ、エンテロコッカス・フェカーリスおよびプロテウス・ミラビリスの陽性を確認した。患者は発熱がなく、陰性であったが、3回の血液培養も行った。
【0115】
創傷に存在する微生物の多様性、および重度の疲弊(prostrate)であった患者の全身状態を考慮すると、それは局所使用のための10%ヨードポビドン皮膚溶液(POVIDERM(登録商標)、10%皮膚溶液)でドレッシングを実施することを決定した。30日後、改善が見られなかったため、全身抗生物質処置を中止した。患者に知らせ、彼女の同意を得る人道的配慮の上、乾燥粉末の形態のプロバイオティクス混合物を創傷に適用した。プロバイオティクス製剤は、ラクトバチルス・プランタルムNCIMB 43029、ラクトバチルス・アシドフィルスNCIMB 43030および公知のストレプトコッカス・サーモフィルス(配列番号7~9)を含む組成物であった。0.5gの組成物を1日1回適用した。
【0116】
プロバイオティクス処置の1週間後、創傷の状態は安定していた。2週間後、微生物学的分析の結果が修正され、その後の期間では、ゆっくりではあるが進行性の創傷治癒が明らかに観察された。創傷スワブは、48日目(プロバイオティクス適用開始後12日目)にエンテロコッカス・フェカーリスに対して陰性であり、57日目(局所プロバイオティクス適用後21日目)にクレブシエラ・ニューモニエおよびプロテウス・ミラビリスに対して陰性であった。プロバイオティクス製剤の使用を、処置の24日後の60日目に中止した。
【0117】
その後の90日間で、創傷は極めてゆっくりではあるが、PolyMemによる自宅での処置で治癒し、患者の快適さを改善し、再び歩き始め、日常業務を独立して行った。
【0118】
図7A/7Bは、退院後36日目の患者の右足の写真を示している。
【0119】
図8A/8Bは、退院後48日目の患者の右足の写真を示している。
【0120】
図9A/9Bは、退院後57日目の患者の右足の写真を示している。
【0121】
図10A/10Bは、退院後170日目の患者の右足の写真を示している。
【0122】
本発明の組成物で処置される前に、患者は、足潰瘍に存在する細菌性バイオフィルムを根絶するために抗生物質で処置されていたが、結果はほとんど出なかったことに留意すべきである。
【0123】
対照的に、本発明の組成物は、彼女の足に影響を与える潰瘍および創傷で得られた治癒結果にも極めて満足している患者によって十分に受け入れられた。
【0124】
したがって、本発明の組成物は、抗生物質に耐性のある細菌のバイオフィルムも存在する損傷または創傷に対する抗菌作用および再上皮化作用の両方に関して安全で極めて効果的であることが見出された。
本発明は、以下の態様および実施態様を含む。
[1] 配列番号4の16S rRNAをコードする遺伝子の超可変領域V1-V3、配列番号5のgroEL遺伝子および配列番号6のpheS遺伝子を含む、2018年4月20日にNCIMB Ltd.保管センターに寄託されたアクセス番号43029を有するラクトバチルス・プランタルム株(ラクトバチルス・プランタルムNCIMB 43029)。
[2] 配列番号1の16S rRNAをコードする遺伝子の超可変領域V1-V3、配列番号2のgroEL遺伝子および配列番号3のpheS遺伝子を含む、2018年4月20日にNCIMB Ltd.保管センターに寄託されたアクセス番号43030を有するラクトバチルス・アシドフィルス株(ラクトバチルス・アシドフィルスNCIMB 43030)。
[3] 医薬としての使用のための、[1]に記載のラクトバチルス・プランタルム株NCIMB 43029または[2]に記載のラクトバチルス・アシドフィルス株NCIMB 43030。
[4] iNOS発現の活性化または誘導における使用のための、[1]に記載のラクトバチルス・プランタルム株NCIMB 43029、または[2]に記載のラクトバチルス・アシドフィルス株NCIMB 43030、または配列番号7の16S rRNAをコードする遺伝子の超可変領域V1-V2、配列番号8のrecA遺伝子および配列番号9のsecA遺伝子を含むストレプトコッカス・サーモフィルス株。
[5] 創傷または損傷の抗菌性再上皮化薬としての使用のための、[1]に記載のラクトバチルス・プランタルム株NCIMB 43029、または[2]に記載のラクトバチルス・アシドフィルス株NCIMB 43030、または[4]に記載のストレプトコッカス・サーモフィルス株。
[6] ラクトバチルス・プランタルムおよびラクトバチルス・アシドフィルスを含む、抗菌作用および再上皮化作用の両方を有する組成物。
[7] ストレプトコッカス・サーモフィルスおよび/またはバチルス・アミロリクエファシエンスをさらに含む、[6]に記載の組成物。
[8] 経口または局所使用のための、[6]または[7]に記載の組成物。
[9] 散剤、顆粒剤、歯肉錠剤または膣錠剤、またはカプセル剤、またはゲル剤の形態の、[6]~[8]のいずれかに記載の組成物。
[10] ラクトバチルス・プランタルムが、[1]に定義するラクトバチルス・プランタルムNCIMB 43029株である、[6]~[9]のいずれかに記載の組成物。
[11] ラクトバチルス・アシドフィルスが、[2]に定義するラクトバチルス・アシドフィルスNCIMB 43030株である、[6]~[10]のいずれかに記載の組成物。
[12] ストレプトコッカス・サーモフィルスが、[4]に記載の株である、[7]~[11]のいずれかに記載の組成物。
[13] バチルス・アミロリクエファシエンスが、16S rRNAをコードする配列番号10により特徴付けられる公知の株である、[7]~[12]のいずれかに記載の組成物。
[14] 組成物中のラクトバチルス・プランタルムの重量%が、組成物の総重量に対して1~40重量%の範囲である、[6]~[13]のいずれかに記載の組成物。
[15] 組成物中のラクトバチルス・アシドフィルスの重量%が、組成物の総重量に対して1~40重量%の範囲である、[6]~[13]のいずれかに記載の組成物。
[16] 組成物中のストレプトコッカス・サーモフィルスの重量%が、組成物の総重量に対して0.5~20重量%の範囲である、[7]~[13]のいずれかに記載の組成物。
[17] 組成物中のバチルス・アミロリクエファシエンスの重量%が、組成物の総重量に対して0.1~10重量%の範囲である、[7]~[13]のいずれかに記載の組成物。
[18] 組成物の総重量に対して
10~90重量%のラクトバチルス・プランタルム、および
90~10重量%のラクトバチルス・アシドフィルス
を含む、[6]に記載の組成物。
[19] 組成物の総重量に対して
20~80重量%のラクトバチルス・プランタルム、
40~10重量%のラクトバチルス・アシドフィルス、および
40~10重量%のストレプトコッカス・サーモフィルス
を含む、[7]に記載の組成物。
[20] 組成物の総重量に対して
10~80重量%のラクトバチルス・プランタルム、
40~10重量%のラクトバチルス・アシドフィルス、
40~9重量%のストレプトコッカス・サーモフィルス、および
10~1重量%のバチルス・アミロリクエファシエンス
を含む、[7]に記載の組成物。
[21] ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・アシドフィルス、ストレプトコッカス・サーモフィルスおよび/またはバチルス・アミロリクエファシエンスが、生存細菌である、[6]~[20]のいずれかに記載の組成物。
[22] ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・アシドフィルス、ストレプトコッカス・サーモフィルスおよび/またはバチルス・アミロリクエファシエンスが、不生存細菌である、[6]~[20]のいずれかに記載の組成物。
[23] 藻類、蜂花粉、蜂蜜、通気性粘土およびゼオライトを含む群より選択される、少なくとも1つの医薬的許容される添加剤を含む、[6]~[22]のいずれかに記載の組成物。
[24] 特に損傷または創傷の再上皮化プロセスにおける、医薬としての使用のための[6]~[23]のいずれかに記載の組成物。
[25] 再上皮化プロセスが、iNOS発現を活性化または誘導することによって生じる、[24]に記載の組成物。
[26] 創傷が、開放創、慢性創傷、急性創傷、熱傷、術後創傷、外傷性創傷、皮膚剥離、潰瘍、例えば糖尿病性潰瘍、および褥瘡より選択される、[24]に記載の組成物。
[27] 皮膚、口腔、膣もしくは直腸の粘膜または消化管粘膜への損傷または創傷の再上皮化プロセスにおける使用のための、[24]~[26]のいずれかに記載の組成物。
[28] 該組成物が、皮膚、口腔、膣もしくは直腸の粘膜、糖尿病性潰瘍または褥瘡への損傷または創傷の再上皮化プロセスにおける使用のためのものであるとき、該組成物は、顆粒剤または散剤、歯肉錠剤または膣錠剤の形態での局所使用のためのものである、[24]~[27]のいずれかに記載の組成物。
[29] 該組成物が、消化管粘膜の損傷または創傷の再上皮化プロセスにおける使用のためのものであるとき、該組成物は、カプセル剤またはゲル剤の形態での経口使用のためのものである、[27]に記載の組成物。
[30] 損傷または創傷が、グラム陰性細菌、例えばエンテロコッカス・フェカーリス、クレブシエラ・ニューモニエ、プロテウス・ミラビリスおよびカンジダ・アルビカンスから構成されるバイオフィルムを示す、[24]~[29]のいずれかに記載の組成物。
[31] [6]~[23]のいずれかに記載の組成物を含むバンデージ。
[32] 特に損傷または創傷の再上皮化プロセスにおける、医薬としての使用のための[30]に記載のバンデージ。
[33] [6]~[23]のいずれかに記載の組成物および対応する添付文書を含む、無菌圧縮性容器または単回もしくは複数回投与ポンプを含むキット。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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