(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】ハンドル
(51)【国際特許分類】
B29C 33/42 20060101AFI20240724BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20240724BHJP
B60J 5/04 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
B29C33/42
B29C45/26
B60J5/04 H
(21)【出願番号】P 2022540292
(86)(22)【出願日】2021-07-26
(86)【国際出願番号】 JP2021027542
(87)【国際公開番号】W WO2022024992
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2020126676
(32)【優先日】2020-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】596028103
【氏名又は名称】株式会社鳴海合金製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 正彦
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-196160(JP,A)
【文献】実開平07-023163(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-33/76
B29C 39/26-39/36
B29C 41/38-41/44
B29C 43/36-43/42
B29C 43/50
B29C 45/00-45/84
B29C 49/48-49/56
B29C 49/70
B29C 51/30-51/40
B29C 51/44
B60J 5/00-5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光輝材を含む樹脂材料を用いて形成され、予め定められた意匠面と前記意匠面以外の非意匠面とを含むハンドル(1)において、
当該ハンドルを取付対象に取り付ける為の取付部(2)と、
当該ハンドルの使用者に把持される把持部(3)と、
前記非意匠面に設けられ、前記樹脂材料が注入された痕を示すゲート痕(6)と、
を備え、
前記意匠面は、少なくとも前記把持部の主面に形成されており、
前記把持部は、前記意匠面が形成された意匠部位(4)と前記意匠部位に対向する非意匠部位(5)とを有し、前記意匠部位と前記非意匠部位との間に中空領域(31)が形成されており、
前記中空領域は、前記把持部から前記取付部の内空間(23)へと連通するように構成された
ハンドル。
【請求項2】
請求項1に記載のハンドルであって、
前記ゲート痕は、
前記取付部における前記非意匠面に形成されており、
前記意匠面から予め定められたゲート距離以上離れた位置に設けられている
ハンドル。
【請求項3】
請求項2に記載のハンドルであって、
前記ゲート距離は5mm以上であるように構成された
ハンドル。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載のハンドルであって、
前記ゲート痕は、断面積が10mm
2以上であって、且つ、ゲート高さが2mmを上回
るように構成された
ハンドル。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のハンドルであって、
前記把持部では、少なくとも一部において、前記意匠部位が備える前記意匠面と、前記非意匠部位が備える前記非意匠面とが連結した状態で、前記中空領域が形成されている
ハンドル。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のハンドルであって、
前記中空領域において前記把持部から前記取付部の内空間へと連通する穴を連通穴(33)として、前記連通穴は、前記意匠部位における前記中空領域側の面が平滑となるように形成されている
ハンドル。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のハンドルであって、
前記中空領域において前記把持部から前記取付部の内空間へと連通する穴を連通穴として、
前記連通穴における前記非意匠面側の端部(331)は、前記非意匠部位における前記中空領域側の面から起立する補強壁(52)の端部(53)によって規定されている
ハンドル。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のハンドルであって、
前記意匠面には、2μm以上3μm以下の深さの凹凸加工が施されている
ハンドル。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本国際出願は、2020年7月27日に日本国特許庁に出願された日本国特許出願第2020-126676号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願第2020-126676号の全内容を本国際出願に参照により援用する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、光輝材を含む樹脂材料を用いて形成されるハンドルに関する。
【背景技術】
【0003】
アルミニウム粉末、マイカ粉末などの光輝材を含む樹脂材料を用いて、金属調色(すなわち、メタリック感)を有する樹脂成形品が製作されている。例えば、下記特許文献1には、光輝材を含む樹脂材料を用いて、射出成形によって、車両内にて用いられるインサイドハンドルを形成する、という技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のインサイドハンドルを含む一般的なハンドルでは、ハンドルを取り付けるための取付部は、軽量化等の為に、内空間を有することがあり得る。また、把持部は、軽量化等の為に、中空領域を有することがあり得る。このようなハンドルでは、内空間及び中空領域を設けたことによる強度の減少を補うために、取付部の内空間と中空領域との間に壁(以下、隔壁)を備えるように構成されることがある。
【0006】
しかしながら、光輝材を含む樹脂材料を用いる場合、上述のような隔壁が設けられている部位では外観において色むらが生じ易い為、色むらによってハンドルの意匠面ひいてはハンドルの美観が損なわれる、という課題が見出された。
【0007】
本開示の1つの局面は、光輝材を含む樹脂材料を用いて形成されたハンドルにおいて、美観が損なわれることを抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の1つの局面は、光輝材を含む樹脂材料を用いて形成され、予め定められた意匠面と意匠面以外の非意匠面とを含むハンドルである。ハンドルは、取付部と、把持部と、ゲート痕と、を備える。取付部は、当該ハンドルを取付対象に取り付ける為のものである。把持部は、当該ハンドルの使用者に把持されるものである。ゲート痕は、非意匠面に設けられ、樹脂材料が注入された痕を示す。意匠面は、少なくとも把持部の主面に形成されている。把持部は、意匠面が形成された意匠部位と意匠部位に対向する非意匠部位とを有し、意匠部位と非意匠部位との間に中空領域が形成されている。中空領域は、把持部から取付部の内空間へと連通するように構成される。
【0009】
本開示のハンドルでは、中空領域は把持部から取付部の内空間へと連通している。つまり、内空間と中空領域との間にこれらの連通を塞ぐ隔壁を備えないので、内空間と中空領域との間(すなわち、内空間と中空領域とが接続する部位)において色むらが生じることが抑制される。結果として、光輝材を含む樹脂材料を用いて形成されたハンドルにおいて、色むらを抑制することができ、美観が損なわれることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】車両に取り付けられたときの車両後方側から見たハンドルを示す説明図。
【
図3】車両に取り付けられたときの下側から見たハンドルを示す説明図。
【
図4】車両に取り付けられたときの下側から見たハンドルの斜視図。
【
図7】比較例としてのハンドルにおいて、内空間と中空領域とを完全に遮る隔壁を示す説明図(比較例において
図5に対応する図)。
【
図8】比較例としてのハンドルにおいて、内空間と中空領域とを完全に遮る隔壁を示す説明図(比較例において
図6に対応する図)。
【符号の説明】
【0011】
1…ハンドル、2…取付部、3…把持部、4…意匠部位、5…非意匠部位、6…ゲート痕、23…内空間、31…中空領域、41…意匠面、51…非意匠面。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、光輝材を含む樹脂材料を用いて樹脂成形により成形されたハンドルを対象とする。ハンドルとは、取付対象に取り付けられる部材であって、使用者によって把持され、使用者が取付対象の開閉を行うための部材である。取付対象としては、種々のドアが挙げられる。本開示では、車両のドアの車室内側に設けられるインサイドハンドル(以下、ハンドル)を対象とする例を説明する。
【0013】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を説明する。なお、以下でいう「平滑」とは、厳密な意味での平滑に限るものではなく、同様の効果を奏するのであれば厳密に平滑でなくてもよい。「垂直」についても同様である。
【0014】
[1.構成]
<全体構成>
図1に示すハンドル1において、X軸はドアの前後方向を示し、Y軸はドアの内外方向を示し、Z軸はドアの上下方向を示す。なお、X軸において、ドアの後方側をRとし、Rと反対側をドアの前方側とする。Y軸において、ドアの内側をIとし、Iと反対側を外側とする。Z軸方向において、ドアの上側をUとし、Uと反対方向をドアの下側とする。ドアを車両と読み替えてもよい。この場合、車両の内側を車室側、車両の外側を室外側と称することもできる。
【0015】
ハンドル1は、外観が金属調(すなわち、メタリック調)であり、光輝材を含む樹脂材料を用いて射出成形工法によって形成されている。ハンドル1は、意匠面41と、非意匠面とを含む。意匠面41は、ハンドル1が備える面のうち、予め定められた面であって、使用者から見えやすい面である。非意匠面は、ハンドル1が備える面のうち、意匠面41以外の面であって、使用者から見えにくい面である。
【0016】
ハンドル1は、取付部2と、ゲート痕6と、把持部3と、を備える。意匠面41は、少なくとも把持部3の主面(具体的には、把持部3の主面のうちの使用者から見えやすい面)に形成される。主面とは、露呈される面のうちの主たる面をいう。本実施形態では、意匠面41は、把持部3の主面であって使用者から見えやすい面から取付部2にわたって形成されている。把持部3の主面のうちの使用者から見えやすい面とは、ハンドル1がドアに取り付けられたときの車室の内外方向(すなわち、Y軸)に垂直な面であって最も車室内側の面、をいう。
【0017】
把持部3の主面であって使用者から見えにくい面には、例えば、ハンドル1がドアに取り付けられたときの車室の内外方向に垂直な面であって最も車室外側の面、が含まれる。つまり、
図1に符号51で示す面は非意匠面(以下、非意匠面51)である。以下において、非意匠面のうち特定の非意匠面を示す場合には、非意匠面51というように符号を付して記載する。
【0018】
意匠面41及び非意匠面51は、平面を含んでいてもよいし、曲面を含んでいてもよいし、平面及び曲面の両方を含んでいてもよい。また、意匠面41及び非意匠面51は、傾斜していてもよい。
【0019】
<取付部>
取付部2は、ハンドル1を取付対象であるドアに取り付ける為の部位である。取付部2は、内部に空間(以下、内空間23)を有する。具体的には、取付部2は、意匠面41の長手方向(すなわち、車両の前後方向)における端部のうち使用者によって把持される端部から遠い側(すなわち、車両の後方側)の端部において、該意匠面41の外縁から立設した2つの側壁を備える。2つの側壁は、互いに略平行に、ハンドル1が取り付けられたときの車室外方向に立設している。2つの側壁のうち、ハンドル1が取り付けられたときの上側に位置する側壁を上取付壁部21とし、下側に位置する側壁を下取付壁部22とする。取付部2は、
図2に示すように、上取付壁部21と下取付壁部22との間に内空間23を有する。
【0020】
また、取付部2は、軸穴25と、ロック穴26と、を備える。具体的には、軸穴25が上取付壁部21及び下取付壁部22に形成され、ロック穴26が下取付壁部22に形成される。上取付壁部21及び下取付壁部22に形成された軸穴25には、ハンドル1をドアに回動可能に取り付けるための取付軸が挿入される。取付軸は、ドアの室外側(すなわち、車室内であってドアにおける室外側)に取り付けられる。つまり、取付部2ひいてはハンドル1は、ドアの取付軸を中心として回動可能にドアの室外側に取り付けられる。ロック穴26は、軸又はワイヤー等によってドアのロック機構と連結される。
【0021】
<ゲート痕>
ゲート痕6は、取付部2における非意匠面に形成されている。ゲート痕6は、ハンドル1の射出成形の際に、射出成形用型の内部に形成される空間(以下、キャビティ)内に溶融樹脂を注入するための注入ゲート内で固化したゲート部分を除去した後に残る切断痕である。つまり、ゲート痕6は、樹脂材料が注入された痕であり、取付部2の表面に形成されるともいえる。
【0022】
本実施形態では、サイドゲート式の射出成形機が用いられる。ハンドル1では、射出成形の際に、注入ゲートを通じてキャビティ内に射出された溶融樹脂が、キャビティ内を、取付部2を形成するためのキャビティ側から把持部3を形成するためのキャビティ側へ向かって流動し、キャビティ内に充填されて固化する。これによりハンドル1が形成される。
【0023】
研究の結果、光輝材を含む樹脂材料を用いる樹脂成形品であるハンドル1において、ゲート痕6の近辺(すなわち、樹脂成形時の注入ゲートと樹脂成形用型のキャビティとの連結部分の近辺)に、シルバーストリークが生じ得ることが明らかになった。換言すれば、ゲート痕6から離れた位置において、シルバーストリークが生じ難いことが明らかになった。
【0024】
本実施形態では、ハンドル1において、取付部2は、意匠面41から予め定められた距離であるゲート距離D以上離れた位置にゲート痕6を有するように形成されている。ここでいうゲート距離Dとは、ゲート痕6の上辺61から、ゲート痕6に最も近い意匠面41の端辺(すなわち、意匠面41の端部を表す辺)411迄、樹脂成形の際に溶融樹脂が流れる距離をいう。また、意匠面41から離れるとは、意匠面41から、ハンドル1がドアに取り付けられたときの室外側へ離れることをいう。
【0025】
なお、意匠面41の端辺411が傾斜している場合あるいは曲線である場合は、
図2のように記述される2次元平面(つまり、Y-Z平面)において、意匠面41の端辺411を構成する点群のうちいずれかの点を含んでゲート痕6の上辺に平行な線412を特定する。そして、ゲート痕6の上辺61から、上述のゲート痕6の上辺に平行な線412迄、樹脂成形の際に溶融樹脂が流れる距離が最小となる距離を、ゲート距離Dとして規定することができる。
【0026】
また、研究の結果、シルバーストリークを生じ難くするためには、ゲート距離Dが5mm以上であることが明らかになった。本実施形態においても、ハンドル1は、ゲート距離Dが5mm以上となるように、形成されている。つまり、射出成形用型は、ゲート距離Dが上述の距離となるように形成されている。
【0027】
また、光輝材を含む樹脂材料を用いる樹脂成形品であるハンドル1において、ゲート痕6の断面積が所定の面積以上であり、且つ、ゲート痕6の高さ(以下、ゲート高さH)が所定の高さ以上である場合に、シルバーストリークが生じ難いことが明らかになった。ここでいうゲート高さHとは、ハンドル1がドアに取り付けられたときの車室の内外方向における高さをいう。
【0028】
すなわち、
図2のように記述される2次元平面(つまり、Y-Z平面)において、ゲート痕6における下辺62と上辺61との距離を、ゲート高さHとして規定することができる。
【0029】
また、研究の結果、ハンドル1は、ゲート痕6が、断面積が10mm2以上であって、且つ、ゲート高さHが2mmを上回る、という条件を満たすように形成されることが好適であること、が明らかになった。本実施形態においても、ハンドル1は、ゲート痕6の断面積及びゲート高さHが上述の条件を満たすように形成されている。つまり、射出成形用型は、樹脂成形時の注入ゲートとキャビティとの連結部分の断面積及びゲート高さHが上述の条件を満たすように形成されている。
【0030】
<把持部>
把持部3は、車両のドアの開閉のために、ハンドル1の使用者(すなわち、本実施形態では車両の乗員)によって把持される部位である。把持部3は、
図3に示すように、意匠部位4と非意匠部位5とを備える。意匠部位4は、ハンドル1がドアに取り付けられたときの車室の内外方向を法線方向とする平板状に形成された部位であって室内に最も近い側に設けられた部位である。意匠部位4は、把持部3において、意匠面41が形成されている部位である。非意匠部位5は、意匠部位4と対向するように設けられている。
【0031】
非意匠部位5は、ハンドル1がドアに取り付けられたときの車室の内外方向を法線方向とする平板状に形成された部位であって室外に最も近い側に設けられた部位である。非意匠部位5は非意匠面51を備える。
【0032】
つまり、把持部3における主面であって、ハンドル1がドアに取り付けられたときの車室の内外方向に略垂直な2つの主面のうち、一方(すなわち、最も室内に近い側)は意匠面41であり、他方(すなわち、最も室外に近い側)は非意匠面51である。
【0033】
意匠部位4と非意匠部位5との間には中空領域31が形成されている。中空領域31とは、中空の空間である。具体的には、把持部3には、
図3に示すように、少なくとも一部において意匠面41と非意匠面51とが連結した状態で、中空領域31が形成されている。
【0034】
本実施形態では、把持部3における取付部2とは反対側の端部を連結部32として、連結部32にて意匠面41と非意匠面51とが連結しており、中空領域31が形成されている。把持部3における取付部2とは反対側の端部とは、ハンドル1がドアに取り付けられたときの車室前方側の端部である。
【0035】
また、本実施形態では、上取付壁部21から連結部32に延設された上面部38を介しても意匠面41と非意匠面51とが連結しており、中空領域31が形成されている。把持部3は、前後方向(すなわち、X軸)に垂直な面における断面がU字状に形成されており、U字において凹んでいる領域が中空領域31に相当する。
図3、
図4に示すように、中空領域31は、把持部3から、すなわち連結部32から、取付部2の内空間23へと延びるように形成されている。
【0036】
このように、本実施形態では、把持部3は、連結部32及び上面部38の両方において、意匠面41と非意匠面51とが連結しており、中空領域31が形成されている。これにより、樹脂成形の際、注入ゲートを通じてキャビティ内に射出された溶融樹脂は、樹脂成形用型のキャビティ内を、意匠面41を形成するためのキャビティ側から非意匠面51を形成するためのキャビティ側へ向かって流動する。
【0037】
つまり、溶融樹脂が意匠面41を形成するためのキャビティへ先に流動していくため、意匠面41における溶融樹脂の流動の乱れが抑制され、意匠面41におけるウェルドラインが抑制される。また、本実施形態では、意匠面41を備える意匠部位4は、略均一な肉厚に形成されている。これにより、意匠面41におけるヒケ等の成形不良が抑制される。なお、意匠部位4の肉厚は、非意匠面51を備える非意匠部位5の肉厚よりも厚く形成されている。ここでいう肉厚とは、ハンドル1がドアに取り付けられたときの車室の内外方向における厚み(すなわち、距離)をいう。
【0038】
ハンドル1は、取付対象に取り付けられた際に、意匠面41が使用者に露呈するようになっている。つまり、ハンドル1は、上述のように取付部2の軸穴25に軸部材が挿通されドアの室内側の面に取り付けられた際に、意匠面41が室内側に露呈するようになっている。意匠面41は、使用者に視認されやすい位置に設けられるため、優れた(すなわち、美麗な)外観を必要とする。
【0039】
光輝材を含む樹脂材料を用いた樹脂成形品では、所謂色むらが生じて外観不良となり得る為、意匠面41においては、外観不良の要因となる色むらを抑制する必要がある。
【0040】
色むらとは、色が変化して見えることをいう。例えば、光輝材の濃度等の違いによる光の反射具合の変化により色が変化して見え得る。また例えば、光輝材を含む溶融樹脂の密度の具合により色が変化して見え得る。ここでいう色むらには、シルバーストリーク、ウェルドライン等も含む。
【0041】
色むらは、樹脂成形の際に、射出成形用型のキャビティに注入される溶融樹脂が、キャビティの形状に応じて流動した結果として生じる。溶融樹脂に光輝材が含まれる場合は、溶融樹脂に光輝材が含まれない場合よりも、色むらがより顕著に生じ得る。また、キャビティが突起形状部を形成するように形作られている場合、光輝材が含まれる溶融樹脂がその突起形状部付近において滞留し、その突起形状部付近では外観において色むらが生じ得る。突起形状部には、分岐や突起や壁等が含まれる。
【0042】
そこで、本実施形態では、
図4、
図5、
図6に示すように、ハンドル1は、把持部3から取付部2の内空間23側へ延びるように形成されている上述の中空領域31が、把持部3から取付部2の内空間23へと連通するように形成されている。
【0043】
ここで比較の為、中空領域31が把持部3から取付部2の内空間23へと連通していない比較例としてのハンドル9における、本開示の
図5に対応する図を
図7に示し、本開示の
図6に対応する図を
図8に示す。つまり、比較例のハンドル9は中空領域31と内空間23とを完全に遮る隔壁99を備えている。
【0044】
本開示のハンドル1は、このような比較例のハンドル9とは異なり、中空領域31と内空間23とを完全に遮る隔壁99を備えない。つまり、樹脂成形の際に射出成形用型のキャビティにおいて、内空間23と中空領域31とが接続する部位に形成される突起形状部が欠落している。これにより、意匠部位4における中空領域31側の面では、内空間23と中空領域31とが接続する部位において、溶融樹脂に含まれる光輝材の滞留が抑制される。光輝材が滞留することが抑制されるので、意匠面41に色むらが生じることが抑制される。
【0045】
更に、連通穴33は、
図5、
図6に示すように、意匠部位4における中空領域31側の面42が平滑となるように形成されている。連通穴33とは、中空領域31において把持部3から取付部2の内空間23へ連通する空間をいう。把持部3において意匠面41を主面とする部位を意匠部位4という。つまり、樹脂成形用型のキャビティにおいて意匠部位4における中空領域31側の面を形成する部位は、平滑となるように形成されている。
【0046】
平滑に形成されるとは、意匠部位4における中空領域31側の面42を形成する部位に、突起形状部が形成されておらず、且つ、表面が滑らかであることをいう。表面が滑らかとは、表面に凹凸が無いことをいう。なお、表面に凹凸が無いとは、厳密な意味での表面に凹凸が無いことに限るものではなく、同様の効果を奏するのであれば厳密に表面に凹凸が無いものでなくてもよい。
【0047】
これにより、意匠部位4における中空領域31側の面では、内空間23と中空領域31とが接続する部位において、溶融樹脂に含まれる光輝材の滞留がさらに抑制される。光輝材が滞留することが抑制されるので、意匠面41に色むらが生じることがさらに抑制される。
【0048】
また、本実施形態では、意匠面41に、シボ加工と呼ばれる、凹凸加工が施されている。凹凸加工の深さの範囲は、2μm以上3μm以下である。つまり、樹脂成形用型のキャビティにおいて意匠面41を形成する部位には、微細な凹凸模様が刻まれている。樹脂成形用型において、このような微細な凹凸模様を刻む方法(すなわち、シボ加工の方法)としては、エッチングによるシボ加工やブラストによるシボ加工等といった方法が採用され得る。
【0049】
また、本実施形態では、
図5、
図6に示すように、ハンドル1は、連通穴33の非意匠面51側(すなわち、意匠面41とは反対側)の端部331が、非意匠部位5における中空領域31側の面から起立する補強壁52の端部53によって規定されている。把持部3において非意匠面51を主面とする部位を非意匠部位5という。
【0050】
連通穴33の非意匠面51側の端部331とは、ハンドル1がドアに取り付けられたときの室外側の端部であって、
図5、
図6の紙面における下端部をいう。補強壁52の端部53とは、ハンドル1がドアに取り付けられたときの室内側の端部であって、
図5、
図6の紙面における上端部をいう。つまり、
図5、
図6に示すように、連通穴33の非意匠面51側の端部331は、補強壁52の端部53であると言い換えることができる。
【0051】
ハンドル1は、連通穴33において、意匠面41が位置する方向とは反対の方向に補強壁52を備えるので、上述のように射出成形時における意匠面41の美観が維持されるとともに、連通穴33の周囲における強度が補われる。
【0052】
[2.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0053】
(2a)意匠面41は、少なくとも把持部3の主面に形成されている。把持部3は、意匠面41が形成された意匠部位4と、意匠部位4に対向する非意匠部位5とを有する。意匠部位4と非意匠部位5との間に中空領域31が形成されており、中空領域31は把持部3から取付部2の内空間23へと連通している。
【0054】
つまり、ハンドル1では、樹脂成形の際に、射出成形用型のキャビティ内において、内空間23と中空領域31とが接続する部位に形成される突起形状部が欠落している。これにより、樹脂成形の際、意匠部位4を形成するキャビティ内において、意匠部位4における中空領域31側の面では、内空間23と中空領域31とが接続する部位において、溶融樹脂に含まれる光輝材の滞留が抑制される。この結果、意匠面41に色むらが生じることが抑制される。
【0055】
結果として、光輝材を含む樹脂材料を用いて形成されたハンドル1において、美観が損なわれることを抑制することができる。なお、ハンドル1では、樹脂成形の際に、射出成形用型のキャビティ内において、内空間23と中空領域31とが接続する部位に形成される突起形状部が欠落しているので、色むらに加えて、ひけを抑制することもできる。
【0056】
(2b)ゲート痕6は、取付部2における非意匠面に形成されている。また、ゲート痕6は、意匠面41からゲート距離D以上離れた位置に設けられている。これにより、ゲート距離Dを適宜定めることにより、意匠面41におけるシルバーストリークを抑制することができる。
【0057】
(2c)ハンドル1は、ゲート距離Dが5mm以上であるように構成されている。これにより、意匠面41におけるシルバーストリークを抑制することができる。
【0058】
(2d)ハンドル1は、ゲート痕6が、断面積が10mm2以上であって、且つ、ゲート高さHが2mmを上回るように構成されている。これにより、樹脂成形の際、光輝材を含む溶融樹脂が流動しやすくなる。つまり、光輝材が滞留することが抑制されるので、結果として、色むらを抑制することができる。
【0059】
(2e)把持部3では、少なくとも一部において、意匠部位4が備える意匠面41と、非意匠部位5が備える非意匠面51とが連結した状態で、中空領域31が形成されている。このため、樹脂成形の際、ゲート痕6が形成される位置から注入ゲートを通じてキャビティ内に射出された溶融樹脂が、非意匠面51よりも先に意匠面41を形成するためのキャビティへ流動していく。これにより、意匠面41における溶融樹脂の流動の乱れが抑制され、意匠面41におけるウェルドラインが抑制される。
【0060】
(2f)連通穴33は、意匠部位4における中空領域31側の面42が平滑となるように形成されている。これにより、意匠部位4における中空領域31側の面では、内空間23と中空領域31とが接続する部位において、突起形状部が無いので、色むらが生じることをより抑制することができる。
【0061】
(2g)連通穴33の非意匠面51側の端部331は、非意匠部位5における中空領域31側の面から起立する補強壁52の端部53によって規定されている。ハンドル1は、連通穴33において、意匠面41が位置する方向とは反対の方向に補強壁52を備えるので、意匠面41の美観を維持するとともに、連通穴33の周囲における強度を維持することができる。
【0062】
なお、中空領域31がない(つまり、肉抜きがない)と仮定した構成において、ハンドル1にて露呈される、対向して延びる二つの主面のうち、一方を意匠面41、他方を非意匠面51と定義することができる。この場合、意匠部位4における中空領域31側の面や、非意匠部位5における中空領域31側の面や、上面部38ならびに連結部32の各面は、意匠面41及び非意匠面51のいずれからも定義上外れるということができる。
【0063】
(2h)意匠面41には、2μm以上3μm以下の深さの凹凸加工が施されている。上述のように、本実施形態のハンドル1の意匠面41は色むらが生じることが抑制されているので、このような意匠面41に微細な凹凸加工を施すことによって、微細な凹凸加工が映え美しい外観を得ることができる。
【0064】
なお、上述の実施形態において、ハンドル(インサイドハンドル)1がハンドルに相当し、車両のドアが取付け対象に相当する。
【0065】
[3.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0066】
(3a)上述の実施形態では、連通穴33は
図5に示すように矩形状に形成されているが、連通穴33の形状はこれに限定されるものではなく、任意の形状であり得る。なお、ハンドル1において、連通穴33を形成するための部位(すなわち、連通穴33の周囲の部位)は、意匠面41に対して均一な厚みとなっていることがより望ましい。また、連通穴33は、意匠面41に沿う方向に、なるべく大きく開口していることが望ましい。意匠面41に沿う方向とは、ハンドル1の厚み方向、すなわち、ハンドル1が取り付けられたときの上下方向をいう。
【0067】
(3b)ハンドル1は補強壁52を備えていなくてもよい。
【0068】
(3c)連結部32の位置は、把持部3における取付部2とは反対側の端部等に限定されるものではなく、把持部3における取付部2とは反対側の端部から内空間23に至るまでの間の任意の位置であってよい。つまり、把持部3における取付部2とは反対側の端部から連結部32までは意匠面41と非意匠面51とが連結しており、連結部32から内空間23に至るまでの間が中空領域31として形成されていてもよい。
【0069】
(3d)例えば、把持部3は、連結部32及び上面部38の少なくとも一方において、意匠面41と非意匠面51とが連結しており、中空領域31が形成されていてもよい。つまり、把持部3は、連結部32のみにおいて、意匠面41と非意匠面51とが連結しており、中空領域31が形成されていてもよいし、上面部38のみにおいて、意匠面41と非意匠面51とが連結しており、中空領域31が形成されていてもよい。
【0070】
(3e)把持部3は、意匠面41と非意匠面51とは、少なくともこれらの一部において、意匠面41と非意匠面51とが連結した状態で、中空領域31が形成されていたが、意匠面41と非意匠面51とは、連結されていなくてもよい。例えば、ハンドル1は、図示しないが、連結部32及び上面部38を備えなくてもよい。つまり、ハンドル1は、意匠部位4が取付部2に接続され、且つ、非意匠部位5が意匠部位4と略平行に、取付部2に接続されていてもよい。この場合、意匠部位4と非意匠部位5との隙間が中空領域31に相当する。
【0071】
(3f)ゲート痕6は、意匠面41からゲート距離D離れた位置であれば、取付部2における非意匠面おいて、
図2等に示す位置以外の、任意の位置に形成されてもよい。また、ゲート痕6は、意匠面41からゲート距離D離れた位置であれば、取付部2以外の非意匠面において、任意の位置に形成されてもよい。例えば、ゲート痕6は、意匠面41からゲート距離D離れた位置であれば、非意匠部位5や上面部38の、任意の位置に形成されてもよい。
【0072】
(3g)取付部2は、軸穴25を備えていなくてもよい。つまり、ハンドル1は、取付部2において、回動しないように取付対象に取り付けられてもよい。また、取付部2は、ロック穴26を備えていなくてもよい。
【0073】
(3h)ハンドル1が取り付けられる対象物は、車両に用いられるものに限定されるものではない。取付対象には、例えば住宅設備、建築設備、日常品及びその他といった、あらゆる分野のドアが含まれる。また、ハンドル1が取り付けられる取付対象はドアに限定されるものではない。取付対象には、開閉又は移動等のために使用者によって把持される、ハンドル1を取付け可能な、あらゆる物体が含まれる。
【0074】
(3i)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。