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特許7525967バリアフィルム及びこれを用いた太陽電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】バリアフィルム及びこれを用いた太陽電池
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/50 20230101AFI20240724BHJP
   H10K 30/88 20230101ALI20240724BHJP
   H01L 31/048 20140101ALI20240724BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/88
H01L31/04 560
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024067215
(22)【出願日】2024-04-18
【審査請求日】2024-04-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松木 克則
(72)【発明者】
【氏名】松本 健治
【審査官】丸橋 凌
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-135331(JP,A)
【文献】特開2011-249720(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0140545(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第116001368(CN,A)
【文献】特開2005-101404(JP,A)
【文献】特開平07-321365(JP,A)
【文献】特開2003-340231(JP,A)
【文献】特表2012-533152(JP,A)
【文献】国際公開第2014/156494(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/20
H10K 30/00-30/89
H10K 50/84-50/844
B32B 27/00-27/42
H05B 33/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池の受光側の保護層に使用される、合成樹脂フィルム層間に高水吸収層が挟持、固着されてなる透明なバリアフィルムであって、
前記高水吸収層は、繊維径がナノサイズの合成樹脂繊維よりなる繊維集合材に粉体からなるナノサイズの高水吸収性材が点在しており、
前記高水吸収性材は、前記保護層として用いられる状態で、前記合成樹脂繊維間に形成される空間に点在することを特徴とするバリアフィルム。
【請求項2】
請求項1において、
前記繊維集合材は3次元の網状とされることを特徴とするバリアフィルム。
【請求項3】
太陽光発電層を保護層間に挟み込んでなる積層体を有する太陽電池であって、
前記保護層の少なくとも一方は、請求項1または2のバリアフィルムで構成されていることを特徴とする太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池の受光側の保護層に使用されるバリアフィルム及びこれを用いた太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来には、太陽電池における、外部からの水分をバリアするための保護層として、ポリアクリル酸ナトリウムなどの高水吸収性材を不織布に含ませてなる高水吸収層(吸湿層)を含むものが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4194457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記吸湿層は基材が不織布であるため、透明性を必要とする太陽電池の受光側の保護層に用いることは適正とは言えない。
【0005】
また、太陽電池の保護層としては無機材料を蒸着によりコーティングしたフィルムも想定されるが、蒸着によれば嵩が大きくなる可能性があり、ペロブスカイト太陽電池などの薄膜状の太陽電池の保護層には適していない。また、蒸着法は手間がかかりコスト高となるおそれもある。
【0006】
本発明は、このような事情を考慮して提案されたもので、その目的は、太陽電池の受光側の保護層として用いるのに十分な透明性が得られ、水分のバリア性能が高く、嵩が大きくなりにくく、かつ簡易に形成できるバリアフィルム及びこれを用いた太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明のバリアフィルムは、太陽電池の受光側の保護層に使用される、合成樹脂フィルム層間に高水吸収層が挟持、固着されてなる透明なバリアフィルムであって、前記高水吸収層は、繊維径がナノサイズの合成樹脂繊維よりなる繊維集合材に粉体からなるナノサイズの高水吸収性材が点在しており、前記高水吸収性材は、前記保護層として用いられる状態で、前記合成樹脂繊維間に形成される空間に点在することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のバリアフィルムは前記の構成とされているため、太陽電池の受光側の保護層として用いるのに十分な透明性が得られ、水分のバリア性能が高く、嵩が大きくなりにくく、かつ簡易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係るバリアフィルムの模式的縦断面図及び一部拡大図である。
図2】同バリアフィルムを用いた太陽電池の模式的縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しながら説明する。
まず、実施形態に係るバリアフィルム10の基本構成を記述する。
【0011】
バリアフィルム10は、太陽電池20の受光側の保護層21に使用される、合成樹脂フィルム層間(保護フィルム11、基盤フィルム12間)に高水吸収層13が挟持、固着されてなる透明なフィルムである。高水吸収層13は、ナノサイズの合成樹脂繊維14aよりなる繊維集合材14にナノサイズの高水吸収性材15が点在してなる。
【0012】
つぎに、バリアフィルム10の詳細な構成について、図1を参照しながら以下に説明する。
【0013】
バリアフィルム10は、合成樹脂フィルム層よりなる基盤フィルム12の上に高水吸収層13を配し、その上に合成樹脂フィルム層よりなる保護フィルム11を配した、少なくとも3層を有してなるフィルムである。
【0014】
基盤フィルム12は、高水吸収層13を後述するエレクトロスピニング法で形成する場合には、高水吸収層13の密着性が良好な表面を有することが望まれる。なお、基盤フィルム12は複数層よりなるものであってもよく、その場合には上面に配される層が高水吸収層13の密着性が良好であればよい。
【0015】
保護フィルム11は、高水吸収層13を保護するためのフィルムであり、油、溶剤、水、物理的な外力などに強いものが望まれる。保護フィルム11についても、複数層よりなるものであってもよい。
【0016】
また、基盤フィルム12と保護フィルム11とは、水蒸気透過度が低く透明なものであればよく、さらに前記基盤フィルム12と保護フィルム11の前記各条件を満足する同一の合成樹脂材料が採用されることが望ましい。
【0017】
透明度の高い合成樹脂材料としては例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、無延伸ポリプロピレン(CPP)、延伸ポリプロピレン(OPP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、シクロオレフィンポリマー(COP)などが挙げられる。
【0018】
ナノサイズの合成樹脂繊維14aを集合させてなる繊維集合材14は、いわゆるナノファイバーの集合材とされる。合成樹脂繊維14aの素材としてはナイロン、ポリウレタン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアミド、ポリアクリロニトリルなどが挙げられる。
【0019】
後述するように、本バリアフィルム10はペロブスカイト太陽電池の受光側の保護層21に使用される(図2参照)。ペロブスカイト太陽電池は厚みが約0.1mm~1.0mm程度とされ、その厚さに対応可能なようにバリアフィルム10も薄膜状のものが必要とされる。そのような薄膜状の太陽電池20に用いられるバリアフィルム10の構成部である高水吸収層13や繊維集合材14は、当然にさらに薄いものが望まれる。
【0020】
このように高水吸収層13は超薄膜状のものであるが、繊維集合材14を構成する個々の合成樹脂繊維14aがナノサイズであるため、図1の拡大図に示すように厚さ方向においても複数の合成樹脂繊維14aが不規則に配されている。ようするに、繊維集合材14は複数の合成樹脂繊維14aによる3次元の網状に形成されている。
【0021】
このような繊維集合材14に、ナノサイズの高水吸収性材15を3次元的に点在させることで高水吸収層13が形成される。高水吸収性材15は、図1の拡大図に示すように、繊維集合材14の内部において厚さ方向の種々の深さ位置に点在している。このように、高水吸収性材15が厚さ方向においてもランダムに点在していることが、高水吸収層13の水吸収性能を高めるうえで望ましい。なお、高水吸収性材15が繊維集合材14の表面のみに付着してなる高水吸収層13であってもよい。
【0022】
ここで、ナノサイズの合成樹脂繊維14aの繊維径は100nm程度であることが望ましいが、透明性を担保するためには繊維径の上限値は1μmであればよい。また、高水吸収性材15を繊維集合材14の繊維間に効率よく点在させ、絡めやすくするために、繊維長が長い合成樹脂繊維14aを用いることが望ましい。
【0023】
高水吸収性材15としては、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリビニールアルコール(PVAL)、ポリアクリルアミドなどの高吸水性高分子(SAP)などが挙げられる。また、酸化アルミニウム(化学式:AlOx)、酸化ケイ素(化学式:SiOx)などの無機材料を高水吸収性材15として用いることもできる。
【0024】
高水吸収性材15は微粉状態であるが、水に溶けることがなく、水を内部(分子鎖の間)に取り込んで保持する性能を有する。高水吸収性材15には、素材によっては自重の数百倍の水を吸収するものもあり、圧力を加えても水を放出しない。
【0025】
このように、高水吸収性材15は水保持性を有しているため、水分を吸収するにしたがい体積も大きくなる。高水吸収性材15は繊維集合材14内の空間に配されるものであるから、水分を吸収して体積が大きくなったとしても、その空間内に収まる程度の径であることが望ましい。
【0026】
したがって、バリアフィルム10が製造された段階においては、水分や溶剤をほとんど含まない微粉状態、つまりナノサイズ(1μm以下)の高水吸収性材15とすることが望ましい。
【0027】
高水吸収層13は、主たる材料が透明な合成樹脂繊維14aであるため、太陽電池20の受光側の保護層21(図2参照)として用いることのできる程度に透明性は担保される。なお、合成樹脂繊維14aは光の乱反射によりそれ自体の透明度は損なわれるが、繊維間の空間が十分にあれば問題はない。
【0028】
また、高水吸収性材15については、それ自体が透明な材料であれば問題はないし、透明でないものでも含有量によっては透明度が損なわれるおそれはない。また、高水吸収性材15をナノサイズとすることで光の透過率を上げればよい。
【0029】
前記のような薄型の高水吸収層13は、例えばエレクトロスピニング法で形成することができる。エレクトロスピニング法とは電界紡糸法とも呼ばれ、シリンジに収容された樹脂溶液を高電圧を加えることで基材の上に噴出させ、それを乾燥させてナノファイバー(微細繊維)を生成する製法である。
【0030】
ここで、基材としては基盤フィルム(合成樹脂フィルム層)12をなす合成樹脂製のシートを用いればよい。樹脂溶液は、繊維集合材14のもととなる合成樹脂材料を溶剤に溶かした溶液である。
【0031】
また、樹脂溶液とは別に、高水吸収性材15を樹脂溶液の生成に用いた溶剤と同一または他の液体に溶かした溶液を生成して他のシリンジに準備すればよい。つまり、エレクトロスピニング法により、2つのシリンジを用いて2つのノズルより2種の溶液を基材の上に噴出させればよい。そして、基材上の溶液を乾燥させて溶剤を蒸発させればよい。
【0032】
なお、高吸収性材15はシリンジ内において溶剤と混合されるが、エレクトロスピニング法による溶液の噴出、乾燥を迅速に実施することで、溶剤をほとんど含まない高吸収性材15を繊維集合材14内に生成することができる。特に、乾燥により周囲の溶剤をすばやく飛ばして高吸収性材15が微粉状態を維持できるようにすればよい。このようにして微粉状態にある高水吸収性材15は、繊維集合材14に点在されることとなる。
【0033】
また、1つのシリンジに、繊維集合材14のもととなる合成樹脂材料と、高水吸収性材15とを混入させた溶液を準備し、1つのノズルから溶液を噴出させる方法であってもよい。
【0034】
このようにして、基盤フィルム12上に高水吸収層13を密着するように形成することができる。そして、その高水吸収層13の上に保護フィルム11を接着剤などを用いて固着することで、本バリアフィルム10を生成することができる。
【0035】
また、エレクトロスピニング法で基盤フィルム12の上に繊維集合材14を形成した後に、繊維集合材14の表面や内部に他の方法を用いて高水吸収性材15を点在させるようにしてもよい。乾燥後の繊維集合材14に微粉状の高水吸収性材15を点在させれば、水分や溶剤をほとんど含まない高水吸収性材15を含んだ高水吸収層13(バリアフィルム10)を形成することができる。
【0036】
このバリアフィルム10は、前述したように、ペロブスカイト太陽電池などの薄膜状の太陽電池20における受光側の保護層21(図2参照)に好適に使用される。
【0037】
ペロブスカイト太陽電池とは、ペロブスカイト構造という独特の結晶構造を有する有機物よりなるペロブスカイト層を発電層(不図示)として有する太陽電池20である。ペロブスカイト層自体がきわめて薄く、1μm程度である。
【0038】
太陽電池20は、図2に示すように、太陽光発電層23を保護層21、22間に挟み込んでなる積層体20Aを有する。積層体20Aは、太陽光発電層23の上下のそれぞれの面に密着するように受光側の保護層21と、ベース側の保護層22とが配され、保護層21、22間が接着剤で固着されている。
【0039】
太陽電池20の平面図は省略しているが、保護層21、22の平面形状、寸法は互いに同一であり、平面的なずれはない。これらの保護層21、22の平面形状がおおむね積層体20Aの平面形状をなしており、例えば略方形状とされる。
【0040】
太陽光発電層23は、その平面寸法が保護層21、22よりも小さく、平面視において保護層21、22の中央部の位置に配されている。この太陽光発電層23の少なくとも一方の面は光を受けるための受光面とされ、その面にバリアフィルム10よりなる受光側の保護層21が配されている。
【0041】
保護層21、22間における太陽光発電層23の全側方には、保護層21、22の周縁にいたるまで接着剤層24が形成されている。この接着剤層24は、保護層21、22間を相互に固着するために用いられた接着剤が硬化してなる充填層であり、保護層21、22間に配した太陽光発電層23の全周の側方空間に隙間なく配されている。
【0042】
この太陽電池20の受光側の保護層21には、図1に示したバリアフィルム10が用いられているが、図例のように、ベース側の保護層22にも同様のバリアフィルム10が用いられてもよい。
【0043】
なお、本実施形態に係るバリアフィルム10では基盤フィルム12と保護フィルム11とを同一の材料としているため、バリアフィルム10を天地反転して保護層21、22に用いることもできる。基盤フィルム12と保護フィルム11とが相異なる場合や、同じであっても繊維集合材14内での高水吸収性材15の厚さ方向における偏在の程度によっては、一方を外面側に配し、他方を内面側に配するように定めてもよい。
【0044】
また、積層体20Aは、その全周の端面20Aaに有機系の接着剤層24を含む層状面(複数層の断面)が表れるから、端面20Aaを水分のバリア性の高い被膜で覆うことが望ましい。例えば、ポリシラザンが転化してなるシリカガラスを被膜として形成してもよい。
【0045】
この種の太陽電池20によれば、保護層21、22として用いられているバリアフィルム10が高水吸収層13を有しているため、外部から入り込む水分を高水吸収層13内の高水吸収性材15内に封じ込めることができる。その結果、太陽電池20の水分のバリア性能を高めることができる。なお、高水吸収性材15は水分を含んでしだいに膨張するが、繊維集合材14内には合成樹脂繊維14a間の空間が多くあり、それらの空間に高水吸収性材15が点在しているので、ほとんど問題はない。
【0046】
また、高水吸収性材15がナノサイズであるため、高水吸収層13やバリアフィルム10、これを用いた太陽電池20の嵩が大きくなりすぎることを抑制できる。高水吸収性材15がナノサイズであるため、太陽電池20の受光側の保護層21の透明性も担保される。
【0047】
なお、バリアフィルム10が用いられる太陽電池20としてはペロブスカイト太陽電池に限られず、例えばアモルファスシリコン太陽電池、色素増感太陽電池、有機薄膜太陽電池などにも適用可能である。また太陽光発電層12としては、シリコン系、化合物系、有機系などであってもよく、特に限定されない。
【0048】
以上に説明した実施形態に係るバリアフィルム10の構成、形状は一例にすぎず、各図例以外の構成、形状に適宜変更が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0049】
10 バリアフィルム
11 保護フィルム(合成樹脂フィルム)
12 基盤フィルム(合成樹脂フィルム)
13 高水吸収層
14 繊維集合材
14a 合成樹脂繊維
15 高水吸収性材
20 太陽電池
20A 積層体
20Aa 端面
21 受光側の保護層
22 ベース側の保護層
23 太陽光発電層
24 接着剤層
25 端面被膜

【要約】
【課題】太陽電池の受光側の保護層として用いるのに十分な透明性が得られ、水分のバリア性能が高く、嵩が大きくなりにくく、かつ簡易に形成できるバリアフィルム及びこれを用いた太陽電池を提供する。
【解決手段】バリアフィルム10は、太陽電池20の受光側の保護層21に使用される、合成樹脂フィルム層間に高水吸収層13が挟持、固着されてなり、高水吸収層13は、ナノサイズの合成樹脂繊維14aよりなる繊維集合材14にナノサイズの高水吸収性材15が点在してなる。
【選択図】図1
図1
図2