(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】除染装置
(51)【国際特許分類】
A61L 2/20 20060101AFI20240724BHJP
【FI】
A61L2/20
(21)【出願番号】P 2019200445
(22)【出願日】2019-11-05
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】茂田 誠
(72)【発明者】
【氏名】池田 卓司
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-114202(JP,A)
【文献】特開2016-221078(JP,A)
【文献】特開2016-147007(JP,A)
【文献】特許第6285060(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/00-12/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象空間を過酢酸によって除染するように構成された除染装置であって、
第1除染剤に起因する第1ガスを放出するように構成された第1放出部と、
第2除染剤に起因する第2ガスを放出するように構成された第2放出部と、
前記第1放出部及び前記第2放出部を制御するように構成された制御部と、を備え、
前記第2除染剤における過酢酸の濃度は、前記第1除染剤における過酢酸の濃度よりも高く、
前記制御部は、
以下の条件が成立するまでは前記第1ガスを放出するように前記第1放出部を制御する一方、前記
以下の条件が成立した後は、前記第2ガスを間欠的に放出するように前記第2放出部を制御
し、
前記以下の条件は、前記対象空間における相対湿度が結露が生じる可能性が高い湿度よりも低い湿度に達する時間である第1所定時間が経過すること、または、前記対象空間における相対湿度が結露が生じる可能性が高い湿度よりも低い所定値に達することである
除染装置。
【請求項2】
前記第1ガス及び前記第2ガスの各々の発生方式は、霧化式又は気化式である、請求項1に記載の除染装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記対象空間における相対湿度が
前記所定値に達するまでは前記第1ガスを放出するように前記第1放出部を制御する一方、前記相対湿度が前記所定値に達した後は前記第2ガスを間欠的に放出するように前記第2放出部を制御する、請求項1又は請求項2に記載の除染装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除染装置に関し、特に、対象空間を除染するように構成された除染装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第6285060号公報(特許文献1)は、無菌製造施設等を除染する除染装置を開示する。この除染装置は、過酢酸を含むドライフォグを用いることによって、除染対象空間の除染(バイオ除染)を行なう。この除染装置においては、除染時にガス回収機(除湿器)を用いることによって、除染対象空間内の相対湿度がコントロールされる。したがって、この除染装置によれば、除染対象空間における相対湿度が過剰に上昇しないため、除染対象空間内の機器等が結露に起因して故障又は腐食する事態を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
過酢酸を用いた除染の効果を高めるためには、除染対象空間(以下、単に「対象空間」とも称する。)における相対湿度をある程度高く保つ必要がある。一方、対象空間における相対湿度が過剰に高くなると、対象空間内の機器等が結露に起因して故障又は腐食する可能性が高くなる。
【0005】
上記特許文献1に開示されている除染装置においては、除染時にガス回収機(除湿器)を用いることによって、対象空間内の相対湿度がコントロールされる。しかしながら、この場合には、除湿器が用いられるため、除染装置のサイズが大きくなる。また、除湿器によって過酢酸を含むドライフォグ(以下、「過酢酸ガス」とも称する。)も回収されるため、対象空間における過酢酸の濃度が低下し、除染効果が低下する。さらに、除湿器が過酢酸ガスを回収するため、過酢酸の付着によって除湿器が早期に故障する可能性もある。
【0006】
また、たとえば、対象空間内の相対湿度をコントロールするために、除染時に排気を行なうことが考えられる。しかしながら、除染時に排気が行なわれる場合には、排気ガスが人及び外部環境に悪影響を与える。また、過酢酸ガスも排気されるため、対象空間における過酢酸の濃度が低下し、除染効果が低下する。
【0007】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであって、その目的は、対象空間の除染時に、除湿又は排気を行なうことなく、対象空間における過酢酸の濃度及び相対湿度を適切な範囲内に維持することが可能な除染装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に従う除染装置は、対象空間を過酢酸によって除染するように構成されている。除染装置は、第1放出部と、第2放出部とを備える。第1放出部は、第1除染剤に起因する第1ガスを放出するように構成されている。第2放出部は、第2除染剤に起因する第2ガスを放出するように構成されている。第2除染剤における過酢酸の濃度は、第1除染剤における過酢酸の濃度よりも高い。第1放出部及び第2放出部の各々は、対象空間の壁面を濡らさないように作動する。
【0009】
この除染装置においては、各々の過酢酸の濃度が異なる第1除染剤及び第2除染剤が用いられる。したがって、この除染装置によれば、第1除染剤及び第2除染剤を適切に使い分けることによって、除湿又は排気を行なうことなく、対象空間における過酢酸の濃度及び相対湿度を適切な範囲内に維持し、対象空間の壁面を濡らさないようにすることができる。
【0010】
上記除染装置において、第1ガス及び第2ガスの各々の発生方式は、霧化式又は気化式であってもよい。
【0011】
上記除染装置は、第1放出部及び第2放出部を制御するように構成された制御部をさらに備え、制御部は、対象空間における相対湿度が所定値に達するまでは第1ガスを放出するように第1放出部を制御する一方、相対湿度が所定値に達した後は第2ガスを間欠的に放出するように第2放出部を制御してもよい。
【0012】
この除染装置が使用された場合には、第1ガスが放出されることによって対象空間における相対湿度がまず所定値(過酢酸による除染の効果が十分に生じる相対湿度)まで上げられ、その後、第2ガスが間欠的に放出されることによって相対湿度の上昇が抑制されるとともに過酢酸の濃度の低下が抑制される。したがって、この除染装置によれば、除湿又は排気を行なうことなく、対象空間における相対湿度が過剰に上昇することによる結露の発生を抑制することができるとともに、対象空間における除染を効果的に行なうことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、対象空間の除染時に、除湿又は排気を行なうことなく、対象空間における過酢酸の濃度及び相対湿度を適切な範囲内に維持することが可能な除染装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図5】除染装置の動作手順を示すフローチャートである。
【
図6】対象空間内における相対湿度及び過酢酸濃度の各々の推移を示す図である。
【
図7】実施例における、除染対象空間内の温度、湿度及び過酢酸濃度の推移を示す図である。
【
図8】比較例における、除染対象空間内の温度、湿度及び過酢酸濃度の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0016】
[1.概要]
図1は、本実施の形態に従う除染装置100の概要を説明するための図である。
図1に示されるように、除染装置100は、空間200内で使用される。
【0017】
空間200は、除染対象の空間(対象空間)であり、たとえば、無菌製造施設、無菌検査室、再生医療製品の製造施設、無菌実験動物飼育室、手術室、食品製造施設又は病原微生物取扱管理施設(以下、単に「施設等」とも称する。)内の空間である。また、空間200は、たとえば、施設等内に設置されている装置の内部空間であってもよい。すなわち、空間200は、たとえば、バイオハザードを抑制するための箱状の実験設備である安全キャビネット内の空間であってもよい。
【0018】
除染装置100は、空間200を除染(バイオ除染)するための装置である。除染装置100は、空間200に過酢酸ガスを放出することによって、空間200を除染するように構成されている。
【0019】
過酢酸を用いた除染の効果を高めるためには、空間200における相対湿度をある程度高く保つ必要がある。一方、空間200における相対湿度が過剰に高くなると、空間200内の機器等が結露に起因して故障又は腐食する可能性が高くなる。
【0020】
空間200内の相対湿度をコントロールするために、除染装置に除湿器を搭載させ、除染時に除湿器を用いることが考えられる。しかしながら、この場合には、除染装置に除湿器が搭載されるため、除染装置のサイズが大きくなる。また、除湿器によって過酢酸ガスも回収されるため、空間200における過酢酸の濃度が低下し、除染効果が低下する。さらに、除湿器が過酢酸ガスを回収するため、過酢酸の付着によって除湿器が早期に故障する可能性もある。
【0021】
また、たとえば、空間200内の相対湿度をコントロールするために、除染時に排気を行なうことが考えられる。しかしながら、除染時に排気が行なわれる場合には、排気ガスが人及び外部環境に悪影響を与える。また、過酢酸ガスも排気されるため、対象空間における過酢酸の濃度が低下し、除染効果が低下する。
【0022】
本実施の形態に従う除染装置100を用いた空間200の除染においては、除染時に除湿又は排気を行なうことなく、空間200における過酢酸の濃度及び相対湿度が適切な範囲内に維持される。以下、除染装置100の構成及び動作について詳細に説明する。
【0023】
[2.除染装置の構成]
図2は、除染装置100の概略構成を示す図である。
図2に示されるように、除染装置100は、第1放出部110と、第2放出部120と、制御部130とを含んでいる。なお、たとえば、空間200における湿度及び過酢酸濃度に基づいて第1放出部110及び第2放出部120を制御するために、制御部130は、湿度センサー機能及び過酢酸濃度センサー機能を有していてもよい。
【0024】
図3は、第1放出部110の概略構成を示す図である。第1放出部110は、第1除染剤112に起因する第1ガス(過酢酸ガス)を第1放出部110の外部に放出するように構成されている。
図3に示されるように、第1放出部110は、容器111と、第1除染剤112と、蓋113と、ファン114,115とを含んでいる。
【0025】
容器111は、金属又は樹脂等の除染剤により腐食しない材質で構成されており、第1除染剤112を収容するように構成されている。第1除染剤112は、過酢酸を含む水溶液である。蓋113は、容器111の上端に取り付けられる。蓋113には開口部O1,O2が形成されており、開口部O1,O2にはそれぞれファン114,115が取り付けられている。
【0026】
ファン114は、回転することによって、第1放出部110の外部から内部に向かう気流を生じさせるように構成されている。一方、ファン115は、回転することによって、第1放出部110の内部から外部に向かう気流を生じさせるように構成されている。ファン114,115が回転することによって、第1除染剤112が蒸発して生じた過酢酸ガス(第1ガス)が第1放出部110の外部に放出される。すなわち、第1放出部110における過酢酸ガスの発生方式は、気化式である。
【0027】
図4は、第2放出部120の概略構成を示す図である。第2放出部120は、第2除染剤122に起因する第2ガス(過酢酸ガス)を第2放出部120の外部に放出するように構成されている。
図4に示されるように、第2放出部120は、第1放出部110と比較して容器111に収容される除染剤のみが異なる。第2放出部120においては、容器111に第2除染剤122が収容される。第2除染剤122は、過酢酸を含む水溶液である。第2除染剤122における過酢酸の濃度は、第1除染剤112における過酢酸の濃度よりも高い。たとえば、第2除染剤122における過酢酸の濃度は、第1除染剤112における過酢酸の2倍以上であってもよい。
【0028】
第2放出部120において、ファン114,115が回転することによって、第2除染剤122が蒸発して生じた過酢酸ガス(第2ガス)が第2放出部120の外部に放出される。すなわち、第2放出部120における過酢酸ガスの発生方式は、気化式である。
【0029】
制御部130は、第1放出部110及び第2放出部120を制御するように構成されている。より具体的には、制御部130は、第1放出部110及び第2放出部120の各々に含まれるファン114,115を制御するように構成されている。制御部130は、ハードウェアプロセッサであるCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)等を含み、プログラム及び各種データに基づいて情報処理を実行するように構成されている。
【0030】
[3.除染装置の動作]
図5は、除染装置100の動作手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示される処理は、たとえば、除染装置100を使用する作業者が除染装置100を動作させるための操作を行なうことによって開始する。
【0031】
図6は、空間200内における相対湿度及び過酢酸濃度の各々の推移を示す図である。
図6において、横軸は時間を示し、縦軸は相対湿度又は過酢酸濃度を示す。また、実線L1は相対湿度の推移を示し、実線L2は過酢酸濃度の推移を示す。
【0032】
図5及び
図6を参照して、制御部130は、第1ガスの放出を開始するように第1放出部110を制御する(ステップS100)。より具体的には、制御部130は、回転を開始するように、第1放出部110に含まれるファン114,115を制御する。第1ガス(過酢酸ガス)の放出中は、空間200における相対湿度及び過酢酸濃度の各々が上昇する。
【0033】
制御部130は、第1ガスの放出を開始してから第1所定時間(t1)が経過したか否かを判定する(ステップS110)。第1所定時間(t1)は、たとえば、空間200における相対湿度がH2(結露が生じる可能性が高い湿度)よりも低いH1に達する時間であり、かつ、空間200における過酢酸濃度が除染を効果的に行なえるC1よりも高い濃度に達する時間である。相対湿度H1は除染開始から終了までの時間t6が経過した時点で相対湿度がH2を越えない値として予め定められ、第1所定時間(t1)は空間200における相対湿度がH1に達する時間として予め定められる。
【0034】
第1所定時間が経過していないと判定されると(ステップS110においてNO)、制御部130は、第1ガスの放出を継続するように第1放出部110を制御する。一方、第1所定時間が経過したと判定されると(ステップS110においてYES)、制御部130は、第1ガスの放出を停止するように第1放出部110を制御する(ステップS120)。第1所定時間(t1)に達した時点で、空間200における相対湿度は、たとえば、H1に達し、空間200における過酢酸濃度は、たとえば、C1以上の値に達する。
【0035】
制御部130は、さらに、空間200における除染の終了タイミングであるか否かを判定する(ステップS130)。すなわち、制御部130は、空間200における除染の開始から時間t6が経過したか否かを判定する。時間t6は、空間200における除染が完了する時間として予め定められる。終了タイミングであると判定されると(ステップS130においてYES)、除染装置100による除染動作は終了する。
【0036】
一方、未だに終了タイミングではないと判定されると(ステップS130においてNO)、制御部130は、過酢酸ガスの放出を停止してから第2所定時間が経過したか否かを判定する(ステップS140)。第2所定時間は、たとえば、過酢酸の分解によって空間200における過酢酸濃度がC1まで低下する時間であり、予め定められている。第2所定時間が経過していないと判定されると(ステップS140においてNO)、制御部130は、第1放出部110及び第2放出部120の停止状態を維持する。
【0037】
一方、第2所定時間が経過したと判定されると(ステップS140においてYES)、制御部130は、第2ガスの放出を開始するように第2放出部120を制御する(ステップS150)。より具体的には、制御部130は、回転を開始するように第2放出部120に含まれるファン114,115を制御する。第2ガス(過酢酸ガス)の放出中は、空間200における相対湿度及び過酢酸濃度の各々が再び上昇する。第2ガスの過酢酸濃度は第1ガスよりも高いため、第2ガスの放出中は第1ガスの放出中と比較して、過酢酸濃度が急激に上昇する一方、相対湿度が緩やかに上昇する。
【0038】
その後、制御部130は、第2ガスの放出が開始してから第3所定時間が経過したか否かを判定する(ステップS160)。第3所定時間は、空間200における過酢酸濃度が十分に上昇する時間であり、予め定められている。第3所定時間が経過していないと判定されると(ステップS160においてNO)、制御部130は、第2ガスの放出を継続するように第2放出部120を制御する。
【0039】
一方、第3所定時間が経過したと判定されると(ステップS160においてYES)、制御部130は、第2ガスの放出を停止するように第2放出部120を制御する(ステップS170)。その後、処理はステップS130に移行する。
【0040】
このように、除染装置100においては、除染の終了タイミングが到来するまで、第2放出部120による第2ガスの放出が間欠的に行なわれる。除染装置100によれば、第1放出部110(第1除染剤112)及び第2放出部120(第2除染剤122)を適切に使い分けることによって、除湿又は排気を行なうことなく、空間200における過酢酸の濃度及び相対湿度を適切な範囲内に維持することができる。
【0041】
なお、第1所定時間(t1)、第2所定時間、第3所定時間、時間t6、並びに、第1除染剤112及び第2除染剤122の各々における過酢酸濃度は、除染対象空間の容積や初期の湿度などの条件により適宜最適なものに変更することができる。
【0042】
また、本実施の形態においては、第1ガス及び第2ガス放出の開始及び停止が経過時間に基づいて制御された。しかしながら、第1ガス及び第2ガス放出の開始及び停止は、必ずしも経過時間に基づいて制御される必要はない。たとえば、第1ガス放出の停止が空間200における相対湿度に基づいて制御されてもよいし、第2ガス放出の開始及び停止が対象空間における過酢酸ガス濃度に基づいて制御されてもよい。たとえば、制御部130は、制御部130に含まれる湿度センサーが空間200における相対湿度がH1に達したことを検出した場合に第1ガスの放出を停止するように第1放出部110を制御し、制御部130に含まれる過酢酸濃度センサーが空間200における過酢酸濃度がC1まで低下したことを検出した場合に第2ガスの放出を開始するように第2放出部120を制御し、制御部130に含まれる過酢酸濃度センサーが空間200における過酢酸濃度が予め定められた十分に高い値に達したことを検出した場合に第2ガスの放出を停止するように第2放出部120を制御してもよい。
【0043】
[4.特徴]
以上のように、除染装置100においては、各々の過酢酸の濃度が異なる第1除染剤112及び第2除染剤122が用いられる。したがって、除染装置100によれば、第1除染剤112及び第2除染剤122を適切に使い分けることによって、除湿又は排気を行なうことなく、空間200における過酢酸の濃度及び相対湿度を適切な範囲内に維持し、空間200の壁面を濡らさないようにすることができる。
【0044】
また、除染装置100が使用された場合には、第1ガスが放出されることによって空間200における相対湿度がまず所定値(過酢酸による除染の効果が十分に生じる相対湿度)まで上げられ、その後、第2ガスが間欠的に放出されることによって相対湿度の上昇が抑制されるとともに過酢酸の濃度の低下が抑制される。したがって、除染装置100によれば、除湿又は排気を行なうことなく、空間200における相対湿度が過剰に上昇することによる結露の発生を抑制することができるとともに、空間200における除染を効果的に行なうことができる。
【0045】
[5.変形例]
以上、実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。以下、変形例について説明する。
【0046】
(5-1)
上記実施の形態においては、第1ガス及び第2ガスの発生方式が気化式であった。しかしながら、第1ガス及び第2ガスの発生方式はこれに限定されない。たとえば、第1ガス及び第2ガスの発生方式は霧化式(超音波式、エアー噴霧式)であってもよい。各噴霧方式は、空間200の腐食を防ぐために、空間200の壁面を濡らさないことが好ましい。壁面を濡らさないために、第1放出部110及び第2放出部120の各々から放出されるものは、気体又は粒径15μm以下の液滴の微粒子であることが好ましい。
【0047】
(5-2)
また、上記実施の形態においては、除染装置100は、過酢酸ガスを放出することによって空間200を除染することとした。しかしながら、除染装置100は、必ずしも過酢酸ガスを放出しなくてもよい。たとえば、除染装置100は、ミスト状の過酢酸を放出するように構成されていてもよい。
【0048】
(5-3)
また、上記実施の形態においては、第1放出部110と第2放出部120とが構造的に同一であるとされた。しかしながら、第1放出部110と第2放出部120とは必ずしも構造的に同一である必要はない。
【0049】
(5-4)
また、上記実施の形態においては、第1除染剤112が過酢酸を含む水溶液であるとされた。しかしながら、第1除染剤112は、必ずしも過酢酸を含む水溶液でなくてもよい。第1除染剤112は、たとえば、単なる水であってもよい。
【0050】
[6.実施例等]
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0051】
(各種装置等)
実施例及び比較例においては、以下の装置等を準備した。除染対象の空間としては、クラスII安全キャビネット(日立産機システム社製のSCV-1308-EC II A2)を準備した。温湿度計としては、日置電機株式会社製のLR5001を準備した。過酢酸濃度計としては、過酢酸濃度計本体であるATI社製のF12/D-3-6-1-1、及び、センサモジュールであるATI社製の00-1705を準備した。
【0052】
第1ガス発生装置(気化式)としては、底面(内寸)が約45cm×31cm、高さが約26cmの箱の天面に入・出の120mmサイズの2個のファンを取り付けたものを準備した。第2ガス発生装置(気化式)としては、底面(内寸)が約37cm×28cm、高さが約15cmの箱の天面に入・出の60mmサイズの2個のファンを取り付けたものを準備した。また、除染確認のためのバイオロジカルインジケーター(106)として、MesaLabs社製のHMV-091を準備した。なお、バイオロジカルインジケーターは、各実験において3個設置された。
【0053】
実施例及び比較例のいずれにおいても、安全キャビネットの作業空間及び排気HEPA二次側は養生を実施し、外気とのリークを可能な限り防いだ状態で除染を行なった。また、温湿度計、過酢酸濃度計、ガス発生装置及びバイオロジカルインジケーターはすべて作業空間内に設置した。各ガス発生装置は作業空間の中心付近に設置し、その他の計測器及びバイオロジカルインジケーターは風の流れを邪魔しないように適度に壁や他の機材と離して設置した。バイオロジカルインジケーターはクリップでつかみ直立する姿勢で設置した。
【0054】
(実施例)
実施例においては、第1ガス発生装置に、過酢酸濃度0.06%の溶液を1000ml入れた。また、第2ガス発生装置に、500mlの過酢酸濃度0.45%の溶液を入れた。
【0055】
実施例においては、除染対象空間内の湿度が85%になるまで第1ガス発生装置を稼働させた。湿度が85%になって以降は、第2ガス発生装置を稼働させた。第2ガス発生装置の最初の稼働後は、第2ガス発生装置の停止及び稼働を以下のルールで繰り返した。
【0056】
(1)除染対象空間内の過酢酸濃度が15ppmまで低下したら第2ガス発生装置を稼働させる。(2)除染対象空間内の過酢酸濃度が20ppmまで上昇したら第2ガス発生装置を停止させる。なお、本実施例においては、第2ガス発生装置の稼働及び停止を手動で切り替えたため、上記ルールから外れている場合もある。
【0057】
第1ガス放出を開始してから約3時間後に除染を終了し、バイオロジカルインジケーターの回収及び培養を行なった。実施例においては、設置されたすべて(3個)のバイオロジカルインジケーターが陰性(死滅)であった。
【0058】
なお、
図7は、実施例における、除染対象空間内の温度、湿度及び過酢酸濃度の推移を示す図である。
図7に示されるように、実施例においては、除染対象空間内の相対湿度及び過酢酸濃度が適切な範囲内に制御された。
【0059】
(比較例)
比較例においては、第1ガス発生装置に、過酢酸濃度0.06%の溶液を1000ml入れた。比較例においては、除染対象空間内の湿度が85%になるまで第1ガス発生装置を稼働させた。湿度が85%になって以降は、第1ガス発生装置の停止及び稼働を以下のルールで繰り返した。
【0060】
(1)除染対象空間内の過酢酸濃度が15ppmまで低下したら第1ガス発生装置を稼働させる。(2)除染対象空間内の過酢酸濃度が20ppmまで上昇したら第1ガス発生装置を停止させる。
【0061】
約2時間後、除染対象空間内の相対湿度が90%を超えた。装置内で結露が生じ、結露が原因で装置が腐食する恐れがあるため、除染を中止し、バイオロジカルインジケーターの回収及び培養を行なった。比較例においては、2個のバイオロジカルインジケーターが陰性であったが、1個のバイオロジカルインジケーターが陽性であった。
【0062】
なお、
図8は、比較例における、除染対象空間内の温度、湿度及び過酢酸濃度の推移を示す図である。
図8に示されるように、比較例においては、除染対象空間内の相対湿度が過剰に上昇した。
【符号の説明】
【0063】
100 除染装置、110 第1放出部、111 容器、112 第1除染剤、113 蓋、114,115 ファン、120 第2放出部、122 第2除染剤、130 制御部、200 空間、L1,L2 実線、O1,O2 開口部。