(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】接着性幹細胞を含む細胞集団とその製造方法、及び医薬組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0775 20100101AFI20240724BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20240724BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240724BHJP
A61K 9/00 20060101ALI20240724BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALN20240724BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240724BHJP
【FI】
C12N5/0775 ZNA
A61K35/28
A61P37/02
A61K9/00
C12Q1/6851
C12N15/12
(21)【出願番号】P 2019562518
(86)(22)【出願日】2018-12-28
(86)【国際出願番号】 JP2018048539
(87)【国際公開番号】W WO2019132025
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2017253878
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 産学共同実用化開発事業 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲生 渓太
(72)【発明者】
【氏名】小林 千穂
(72)【発明者】
【氏名】山口 翔
(72)【発明者】
【氏名】梅田 伸好
【審査官】小田 浩代
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-061520(JP,A)
【文献】辻紘子,目で見る生殖と再生,HORMONE FRONTIER IN GYNECOLOGY,2011年,Vol.18, No.4,p.4-8
【文献】TONDREAU, Tatiana et al.,Gene expression pattern of functional neuronal cells derived from human bone marrow mesenchymal stromal cells,BMC Genomics,2008年,Vol.9, No.166,p.1-11
【文献】MAGUIRE, Colin T. et al.,Genome-wide analysis reveals the unique stem cell identity of human amniocytes,PLOS ONE,2013年,Vol.8, No.1,e53372:p.1-16
【文献】梅川孝 ほか,胎児付属物、特に羊膜を用いた再生医療の現状と展望,HORMONE FRONTIER IN GYNECOLOGY,2016年,Vol.23, No.2,p.21-25
【文献】NIMURA, Satomi et al.,Olanzapine promotes the accumulation of lipid droplets and the expression of multiple perilipins in human adipocytes,Biochemical and Biophysical Research Communications,2015年,Vol.467, No.4,p.906-912
【文献】CHEVALLIER N. et al.,Osteoblastic differentiation of human mesenchymal stem cells with platelet lysate,Biomaterials,2010年,Vol.31, No.2,p.270-278
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着性幹細胞を含む細胞集団であって、
前記接着性幹細胞が胎児付属物に由来するものであり、
CD90、CD73、CD105の陽性率がいずれも90%以上であり、CD45の陽性率が5%未満であり、
さらに、以下に示す(a)~(d)の細胞特性を有する細胞集団:
(a)前記細胞集団が、PLIN2遺伝子およびNEFM遺伝子の発現が陽性であり、
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が1.50以上であり、
(c)SDHA遺伝子の発現量に対するNEFM遺伝子の相対発現量が0.02未満であり、かつ
(d)NEFM遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が250以上である。
【請求項2】
請求項
1に記載の細胞集団と、製薬上許容し得る媒体とを含む、医薬組成物。
【請求項3】
請求項
1に記載の細胞集団と、投与可能な他の細胞とを含む、医薬組成物。
【請求項4】
ヒトへの接着性幹細胞の1回の用量が1×10
12個/kg体重以下である、請求項
2又は3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記医薬組成物が、注射用製剤である、請求項
2から4の何れか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記医薬組成物が、細胞塊又はシート状構造の移植用製剤である、請求項
2から4の何れか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
免疫関連疾患の治療剤である、請求項
2から6の何れか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系幹細胞などの接着性幹細胞を含む細胞集団の製造方法に関する。さらに本発明は、接着性幹細胞を含む細胞集団、並びに医薬組成物に関する。さらに本発明は、接着性幹細胞を含む細胞集団に関する指標を利用した、接着性幹細胞の免疫抑制作用及び/又は増殖性のモニタリング方法、ドナー及び/又はドナーから採取した生体試料の評価方法、並びに最適な酵素処理条件の判断及び/又は予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系間質細胞(Mesenchymal stromal cells)ともよばれる間葉系幹細胞などの接着細性幹細胞は、骨髄、脂肪組織、歯髄などに存在することが報告されている体性幹細胞であり、最近では、胎盤、臍帯、卵膜などの胎児付属物にも存在することが明らかになっている。
【0003】
前記接着性幹細胞は、免疫抑制能を有するため、間葉系幹細胞を含む細胞製剤を経静脈的に投与することにより急性移植片対宿主病(GVHD)及び炎症性腸疾患であるクローン病などの治療が可能であることが報告されている。
【0004】
特許文献1には、羊膜間葉系細胞組成物の製造方法及び凍結保存方法、並びに治療剤について記載されている。特に、ジメチルスルホキシドを5~10質量%含有し、ヒドロキシルエチルデンプンを5~10質量%又はデキストランを1~5質量%含有する溶液中に羊膜間葉系細胞を含む混合物を凍結保存することによって、凍結保存された羊膜間葉系細胞を移植に至適化した細胞製剤として製造できることが記載されている。
【0005】
特許文献2には、間葉系幹細胞を含む細胞集団の製造方法であって、増殖能が異なる間葉系幹細胞を含む細胞集団を物理的刺激又は化学的刺激により処理することによって、相対的に増殖能が高い間葉系幹細胞を選別する選別工程を含み、選別された相対的に増殖能が高い間葉系幹細胞が、CD106陰性であり、メタロチオネインファミリー遺伝子の発現量が前記物理的刺激又は化学的刺激による処理前よりも増加していることを特徴とする、前記細胞集団の製造方法が記載されている。
【0006】
特許文献3には、(D)哺乳動物の羊膜から間葉系細胞の細胞集団を採取するステップと、(E)前記採取された細胞集団を400~35000/cm2の細胞濃度において播種し、2~3日間初期培養するステップと、(F)前記初期培養の1/5000以上1/10未満の細胞濃度において播種し、1週間に2回の培地交換を行う継代培養を3~4回繰り返すステップと、(G)前記継代培養において紡錘状の形態を有する細胞のコロニーが形成されたとき、細胞がコンフルエントになるまで同一の培養皿で培養を維持するステップとを含む、羊膜間葉系幹細胞集団を調製する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-61520号公報
【文献】国際公開WO2017/073656号公報
【文献】国際公開WO2013/077428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、医療費が高騰する中で、バイオ医薬品に代表される高価な医薬品の医療経済性を重視する動きが活発化している。生きた細胞を有効成分とする細胞製剤の実現と普及のためには、細胞製剤の製造コストの削減が重要である。
【0009】
このような中、近年、接着性幹細胞集団は、分化能や増殖能、サイトカイン産生能が異なる様々な細胞を含むヘテロな細胞集団であることが分かってきた。細胞製剤の製造コストを削減するためには、高機能の接着性幹細胞、具体的には、高い治療効果や高い増殖性を示す接着性幹細胞集団を効率的に調製する必要がある。
【0010】
特許文献1には、羊膜間葉系細胞を含む混合物を、特定の凍結保存液にて凍結保存することにより、解凍後の羊膜間葉系細胞の生存率減少を抑制し、凍結保存された羊膜間葉系細胞を移植に至適化した細胞製剤として製造できることは記載されている。また、特許文献2には、物理的刺激又は化学的刺激により処理することによって、相対的に増殖能が高い間葉系幹細胞を調製できることは記載されている。しかしながら、特許文献1及び2には、間葉系幹細胞の中から特定の優れた特徴を有する間葉系幹細胞を選択的に調製すること、具体的には、高い免疫抑制作用及び増殖性を示す間葉系幹細胞を多く含む細胞集団を、間葉系幹細胞の特性を指標として選択的に調製することについて、記載も示唆もない。仮に特許文献1及び2に記載の製造方法を使用したとしても、得られる細胞は免疫抑制作用と比増殖速度が十分ではないため、細胞培養に要する時間と原材料費が余計にかかるだけでなく、有効成分である細胞を多量に含有させることでしか細胞製剤の薬効を高めることができないため、細胞製剤を低コストで製造することは困難である。
【0011】
特許文献3には、低密度で細胞を播種することによって、高い増殖能と分化能を有する間葉系幹細胞集団を調製しているものの、間葉系幹細胞集団に含まれる間葉系幹細胞の特性を指標として、高い免疫抑制作用及び増殖性を示す間葉系幹細胞を多く含む細胞集団を選択することについては記載も示唆もない。また、特許文献3に記載の間葉系幹細胞集団は、免疫抑制作用と比増殖速度が十分ではない。実際に、本発明者らが特許文献3に記載の調製方法を追試したところ、低密度で播種し継代培養を3~4回繰り返すステップに23日間もの時間を要するだけでなく、得られた間葉系幹細胞集団の比増殖速度は0.34(1/day)であり不十分であることを確認した。従って、特許文献3に記載の調製方法を使用しても、細胞培養期間を短縮することは不可能であり、細胞製剤を低コストで製造することは困難である。
【0012】
本発明は、細胞製剤の製造コストの削減に有用な、高い免疫抑制作用及び/又は増殖性を示す接着性幹細胞を含む細胞集団及びその製造方法、並びに上記細胞集団を含む医薬組成物を提供することを課題とする。さらに本発明は、接着性幹細胞を含む細胞集団に関する指標を利用した、接着性幹細胞の免疫抑制作用及び/又は増殖性のモニタリング方法、ドナー及び/又はドナーから採取した生体試料の評価方法、並びに最適な酵素処理条件の判断及び/又は予測方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、接着性幹細胞を含む細胞集団において、PLIN2遺伝子およびNEFM遺伝子の発現が陽性であり、かつSDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が1.50以上である接着性幹細胞が含まれていることを見出し、さらに、上記した細胞特性を有する接着性幹細胞を含む細胞集団は、高い免疫抑制作用を示すことを見出した。さらに本発明者らは、上記した細胞特性を有する接着性幹細胞を含む細胞集団は、比増殖速度が高いことを見出した。さらに本発明者らは、接着性幹細胞を含む細胞集団において、PLIN2遺伝子およびNEFM遺伝子の発現が陽性であり、かつSDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が1.50以上であることを指標として利用することによって、接着性幹細胞の免疫抑制作用及び/又は増殖性をモニタリングできることを見出した。さらに、高い免疫抑制作用及び/又は増殖性を示す接着性幹細胞を効率的に取得するという観点から、ドナー及び/又はドナーから採取した生体試料の品質を評価できることを見出した。さらに、高い増免疫抑制作用及び/又は増殖性を示す接着性幹細胞を効率的に取得するという観点から、ドナーから採取した生体試料の最適な酵素処理条件を判断及び/又は予測できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成したものである。
【0014】
すなわち、本明細書によれば、以下の発明が提供される。
[1] 接着性幹細胞を含む細胞集団の製造方法であって、以下に示す(a)および(b)の細胞特性を有する細胞集団を取得することを含む、製造方法:
(a)前記細胞集団が、PLIN2遺伝子およびNEFM遺伝子の発現が陽性であり、
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が1.50以上である。
[2] 前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するNEFM遺伝子の相対発現量が0.02未満である、[1]に記載の製造方法。
[3] 前記細胞集団が、NEFM遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が250以上である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4] 間葉系幹細胞を含む細胞集団の製造方法であって、以下に示す(a)及び(b)の細胞特性を有する細胞集団を取得することを含む、製造方法:
(a)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が0.30より大きく、かつ
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するNEFM遺伝子の相対発現量が1.50未満である。
[5] 接着性幹細胞を含む細胞集団であって、以下に示す(a)及び(b)の細胞特性を有する細胞集団:
(a)前記細胞集団が、PLIN2遺伝子およびNEFM遺伝子の発現が陽性であり、
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が1.50以上である。
[6] 前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するNEFM遺伝子の相対発現量が0.02未満である、[5]に記載の細胞集団。
[7] 前記細胞集団が、NEFM遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が250以上である、[5]又は[6]に記載の細胞集団。
[8] 間葉系幹細胞を含む細胞集団であって、以下に示す(a)及び(b)の細胞特性を有する細胞集団:
(a)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が0.30より大きく、かつ
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するNEFM遺伝子の相対発現量が1.50未満である。
[9] 前記接着性幹細胞が、胎児付属物に由来するものである、[5]から[8]の何れか一に載の細胞集団。
【0015】
[10] [5]から[9]の何れか一に記載の細胞集団と、製薬上許容し得る媒体とを含む、医薬組成物。
[11] [5]から[9]の何れか一に記載の細胞集団と、投与可能な他の細胞とを含む、医薬組成物。
[12] ヒトへの接着性幹細胞の1回の用量が1×1012個/kg体重以下である、[10]又は[11]に記載の医薬組成物。
[13] 前記医薬組成物が、注射用製剤である、[10]から[12]の何れか一に記載の医薬組成物。
[14] 前記医薬組成物が、細胞塊又はシート状構造の移植用製剤である、[10]から[12]の何れか一に記載の医薬組成物。
[15] 免疫関連疾患の治療剤である、[10]から[14]の何れか一に記載の医薬組成物。
【0016】
[16] 比増殖速度が0.40(1/day)以上である、[5]から[9]の何れか一に記載の細胞集団。
[17] 前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するTNFAIP6遺伝子の相対発現量が0.5以上である、[5]から[9]の何れか一に記載の細胞集団。
[18] [1]から[4]の何れか一に記載の製造方法により得られる、細胞集団。
[18-2] 前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するTNFAIP6遺伝子の相対発現量が0.5以上である、[1]から[4]に記載の製造方法。
【0017】
[19] 医薬組成物の製造のための、[5]から[9]の何れか一に記載の細胞集団の使用。
[20] 前記医薬組成物が、ヒトへの接着性幹細胞の1回の用量が1×1012個/kg体重以下である医薬組成物である、[19]に記載の使用。
[21] 前記医薬組成物が、注射用製剤である、[19]又は[20]に記載の使用。
[22] 前記医薬組成物が、細胞塊又はシート状構造の移植用製剤である、[19]又は[20]に記載の使用。
[23] 前記医薬組成物が、免疫関連疾患の治療剤である、[19]から[22]の何れか一に記載の使用。
【0018】
[24] 疾患の治療において使用するための、[5]から[9]の何れか一に記載の細胞集団。
[25] ヒトへの接着性幹細胞の1回の用量が1×1012個/kg体重以下である、[24]に記載の細胞集団。
[26] 注射用製剤である、[24]又は[25]に記載の細胞集団。
[27] 細胞塊又はシート状構造の移植用製剤である、[24]又は[25]に記載の細胞集団。
[28] 疾患が、免疫関連疾患である、[24]から[27]の何れか一に記載の細胞集団。
【0019】
[29] [5]から[9]の何れか一に記載の細胞集団を、治療を必要とする患者又は被験者に投与することを含む、疾患の治療方法。
[30] ヒトへの接着性幹細胞の1回の用量が1×1012個/kg体重以下である、[29]に記載の疾患の治療方法。
[31] 注射用製剤である、[29]又は[30]に記載の疾患の治療方法。
[32] 細胞塊又はシート状構造の移植用製剤である、[29]又は[30]に記載の疾患の治療方法。
[33] 疾患が、免疫関連疾患である、[29]から[32]の何れか一に記載の疾患の治療方法。
【0020】
[34] [5]から[9]の何れか一に記載の細胞集団と、媒体とを含む、組成物。
[35] 接着性幹細胞を含む細胞集団において、PLIN2遺伝子およびNEFM遺伝子の発現の有無、並びにSDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量を測定し、以下に示す(a)及び(b)の細胞特性を指標として接着性幹細胞の免疫抑制作用及び/又は増殖性をモニタリングする方法:
(a)前記細胞集団が、PLIN2遺伝子およびNEFM遺伝子の発現が陽性であり、
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が1.50以上である。
[36] 間葉系幹細胞を含む細胞集団において、
SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量、及びSDHA遺伝子の発現量に対するNEFM遺伝子の相対発現量を測定し、以下に示す(a)及び(b)の細胞特性を指標として間葉系幹細胞の増殖性及び/又は免疫抑制作用をモニタリングする方法。
(a)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が0.30より大きく、かつ
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するNEFM遺伝子の相対発現量が1.50未満である。
[37] ドナーから接着性幹細胞を含む細胞集団を採取し、PLIN2遺伝子およびNEFM遺伝子の発現の有無、並びにSDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量を測定し、以下に示す(a)及び(b)の細胞特性を指標として評価する、ドナー及び/又はドナーから採取した生体試料の評価方法:
(a)前記細胞集団が、PLIN2遺伝子およびNEFM遺伝子の発現が陽性であり、
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が1.50以上である。
[38] ドナーから間葉系幹細胞を含む細胞集団を採取し、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量、及びSDHA遺伝子の発現量に対するNEFM遺伝子の相対発現量を測定し、以下に示す(a)及び(b)の細胞特性を指標として評価する、ドナー及び/又はドナーから採取した生体試料の評価方法。
(a)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が0.30より大きく、かつ
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するNEFM遺伝子の相対発現量が1.50未満である。
[39] ドナーから採取した生体試料を酵素処理して得られた細胞集団に対して、PLIN2遺伝子およびNEFM遺伝子の発現の有無、並びにSDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量を測定し、以下に示す(a)及び(b)の細胞特性を指標として評価する、前記生体試料の最適な酵素処理条件を判断及び/又は予測する方法:
(a)前記細胞集団が、PLIN2遺伝子およびNEFM遺伝子の発現が陽性であり、
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が1.50以上である。
[40] ドナーから採取した生体試料を酵素処理して得られた細胞集団に対して、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量、及びSDHA遺伝子の発現量に対するNEFM遺伝子の相対発現量を測定し、以下に示す(a)及び(b)の細胞特性を指標として評価する、前記生体試料の最適な酵素処理条件を判断及び/又は予測する方法。
(a)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が0.30より大きく、かつ
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するNEFM遺伝子の相対発現量が1.50未満である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高い免疫抑制作用を示す接着性幹細胞を含む細胞集団を取得することができる。また、本発明によれば、高い増殖性を示す接着性幹細胞を含む細胞集団を取得することができる。また、本発明によれば、接着性幹細胞を含む細胞集団において、高い免疫抑制作用及び/又は増殖性を経時的にモニタリングする手段を提供することができる。さらに、本発明によれば、高い免疫抑制作用及び/又は増殖性を示す接着性幹細胞を含む細胞集団形成の指標として、各種遺伝子のハウスキーピング遺伝子に対する相対発現量を使用することができ、これにより、細胞製剤(医薬組成物)を低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、実施例2の生存率についての結果を示す。
【
図2】
図2は、実施例7の生存率についての結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明するが、下記の説明は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が下記の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【0024】
[1]用語の説明
本明細書における「胎児付属物」は、卵膜、胎盤、臍帯、及び羊水を指す。さらに「卵膜」は、胎児の羊水を含む胎嚢であり、内側から羊膜、絨毛膜、及び脱落膜からなる。このうち、羊膜と絨毛膜は胎児を起源とする。「羊膜」は、卵膜の最内層にある血管に乏しい透明薄膜を指す。羊膜の内層(上皮細胞層ともよばれる)は分泌機能のある一層の上皮細胞で覆われ羊水を分泌し、羊膜の外層(細胞外基質層ともよばれ、間質に相当する)は接着性幹細胞を含む。
【0025】
本明細書における「接着性幹細胞」は、下記の定義を満たす幹細胞を指し、「間葉系間質細胞(Mesenchymal stromal cells)」や「間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cells)」も接着性幹細胞に含まれる。本明細書において、「間葉系幹細胞」は「MSC」と記載されることがある。
【0026】
「接着性幹細胞」としては、各種組織および器官から採取することができる体性幹細胞(組織幹細胞)のうち、下記の定義を満たす細胞を使用することができる。体性幹細胞(組織幹細胞)としては、骨髄由来間葉系幹細胞、造血幹細胞、臍帯血中の幹細胞、臍帯由来幹細胞、羊膜由来幹細胞、羊水幹細胞、胎盤絨毛細胞由来間葉系幹細胞、神経幹細胞、脂肪組織由来幹細胞、膵幹細胞、滑膜間葉幹細胞、歯髄幹細胞、脱落乳歯由来歯髄由来幹細胞、精子幹細胞(GS細胞)、精巣多能性幹細胞(mGS細胞)、角膜上皮幹細胞、角膜実質幹細胞、色素幹細胞、臓器における組織幹細胞等を挙げることができるが、特に限定されない。
【0027】
接着性幹細胞の定義
i)標準培地での培養条件で、プラスチックに接着性を示す。
ii)表面抗原CD73、CD90が陽性であり、CD326が陰性。
本明細書における「接着性幹細胞集団」は、接着性幹細胞を含む細胞集団を意味し、その形態は特に限定されず、例えば、細胞ペレット、細胞シート、細胞凝集塊、細胞浮遊液又は細胞懸濁液などが挙げられる。
【0028】
前記「接着性幹細胞」は上記の定義を満たしていればよく、骨、軟骨、脂肪等への分化能の有無については特に限定されない。例えば、本明細書における「接着性幹細胞」には、間葉系幹細胞のように、骨、軟骨、及び脂肪への分化能を有している細胞も含まれる。また、前記「接着性幹細胞」には、上記の定義を満たしているものの、骨、軟骨、脂肪等への分化能を有していない細胞も含まれる。また、前記「接着性幹細胞」には、上記の定義を満たしているものの、骨、軟骨、脂肪のうちいずれか1つ、又は2つにのみ分化する細胞も含まれる。
【0029】
本明細書における「羊膜接着性幹細胞」は、羊膜に由来する接着性幹細胞を指し、「羊膜間葉系間質細胞」と区別なく用いられる。本明細書において、「羊膜間葉系幹細胞」は「羊膜MSC」と記載されることがある。
【0030】
本明細書における「表面抗原が陽性を呈する接着性幹細胞の比率」とは、後記する実施例に記載の通り、フローサイトメトリーによって解析した表面抗原について陽性である細胞の比率を示す。本明細書において、「表面抗原が陽性を呈する接着性幹細胞の比率」は「陽性率」と記載されることがある。
本明細書における「表面抗原が陰性を呈する接着性幹細胞の比率」とは、後記する実施例に記載の通り、フローサイトメトリーによって解析した表面抗原について陰性である細胞の比率を示す。本明細書において、「表面抗原が陰性を呈する接着性幹細胞の比率」は「陰性率」と記載されることがある。
【0031】
本明細書における「増殖能」とは、細胞が細胞分裂を行うことにより、細胞数が増加する能力のことをいう。本明細書において、「増殖能が高い」は「増殖性が高い」と区別無く用いることができる。接着性幹細胞集団の増殖能は、培養1バッチあたりの取得細胞数、比増殖速度、倍加回数、倍加時間、及び/又は継代回数を用いて評価することができる。比増殖速度の測定方法は、本明細書中後記の通りである。
【0032】
本明細書における「培養1バッチあたりの取得細胞数」は、1回の培養における、培養容器の単位表面積あたり、単位培養日数あたりの得られる細胞数を意味する。したがって、「培養1バッチあたりの取得細胞数」の単位は、(個/cm2/day)である。
【0033】
本明細書における「免疫抑制作用」とは、生体の免疫応答を抑制する作用のことをいう。本明細書において、「免疫抑制作用」は「免疫抑制能」と区別無く用いることができる。接着性幹細胞集団の免疫抑制作用は、TNFAIP6(Tumor necrosis factor,alpha-induced protein 6)遺伝子の発現量、混合リンパ球反応試験(MLR試験)におけるヒト末梢血単核細胞(hPBMC)の増殖抑制率や動物実験を用いて評価することができる。免疫抑制作用の評価方法は、本明細書中後記の通りである。
【0034】
[2]接着性幹細胞を含む細胞集団
本発明により提供される接着性幹細胞を含む細胞集団は、
(a)前記細胞集団が、PLIN2遺伝子およびNEFM遺伝子の発現が陽性であり、
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が1.50以上である、
ことを特徴とする。
【0035】
本発明により提供される接着性幹細胞を含む細胞集団は、(a)前記細胞集団が、PLIN2遺伝子およびNEFM遺伝子の発現が陽性であり、(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が1.50以上である、という条件を満たすと、高い免疫抑制作用及び/又は増殖性を示す接着性幹細胞を含む細胞集団を形成する。そのため、本発明においては、前記条件を、高い免疫抑制作用及び/又は増殖性を示す細胞集団形成の指標とすることができる。また、前記指標を経時的に測定することで、接着性幹細胞の免疫抑制作用及び/又は増殖性の変化を迅速に把握し、予測することができる。さらに本発明によれば、前記の指標を利用することによって、ドナー自体及び/又はドナーから採取した生体試料の品質を評価することができる。さらに本発明によれば、前記指標を使用することによって、ドナーから採取した生体試料を酵素処理する際の酵素処理方法が、適切かどうかを判断及び/又は予測することができる。
【0036】
PLIN2は、Perilipin 2を意味する。PLIN2遺伝子の配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースにID:123として登録されている。PLIN2は、配列番号1に示す塩基配列からなる遺伝子、或いは配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子である。
【0037】
NEFMは、Neurofilament, medium polypeptideを意味する。NEFM遺伝子の配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースにID:4741として登録されている。NEFMは、配列番号3に示す塩基配列からなる遺伝子、或いは配列番号4に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子である。
【0038】
SDHAは、ハウスキーピング遺伝子の一種であり、Succinate dehydrogenase complex,subunit Aを意味する。SDHA遺伝子の配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースにID:6389として登録されている。SDHAは、配列番号5に示す塩基配列からなる遺伝子、或いは配列番号6に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子である。
【0039】
SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量の上限は、例えば20.0以下、19.0以下、18.0以下、17.0以下、16.0以下、15.0以下、14.0以下、13.0以下、12.0以下、11.0以下、10.0以下、9.0以下、8.9以下、8.8以下、8.7以下、8.6以下、8.5以下、8.4以下、8.3以下、8.2以下、8.1以下、8.0以下、7.99以下、7.98以下、7.97以下、7.96以下、7.95以下、7.94以下、7.8以下、7.7以下、7.6以下、7.5以下、7.4以下、7.3以下、7.2以下、7.1以下、7.0以下、6.9以下、6.8以下、6.7以下、6.6以下、6.5以下、6.4以下、6.3以下、6.2以下、6.1以下、6.0以下、5.9以下、5.8以下、5.7以下、5.6以下、5.5以下、5.4以下、5.3以下、5.2以下、5.1以下、又は5.0以下でもよい。
SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量の下限は、例えば1.51以上、1.52以上、1.53以上、1.54以上、1.55以上、1.56以上、1.57以上、1.58以上、1.59以上、1.60以上、1.61以上、1.62以上、1.63以上、1.64以上、1.65以上、1.66以上、1.67以上、1.68以上、1.69以上、1.70以上、1.71以上、1.72以上、1.73以上、1.74以上、1.75以上、1.76以上、1.77以上、1.78以上、1.79以上、1.80以上、1.81以上、1.82以上、1.83以上、1.84以上、1.85以上、1.86以上、1.87以上、1.88以上、1.89以上、1.90以上、1.91以上、1.92以上、1.93以上、1.94以上、2.0以上、2.1以上、2.2以上、2.3以上、2.4以上、2.5以上、2.6以上、2.7以上、2.8以上、2.9以上、3.0以上、3.1以上、3.2以上、3.3以上、3.4以上、3.5以上、3.6以上、3.7以上、3.8以上、3.9以上、4.0以上、4.1以上、4.2以上、4.3以上、4.4以上、4.5以上、4.6以上、4.7以上、4.8以上、4.9以上、又は5.0以上でもよい。
【0040】
SDHA遺伝子の発現量に対するNEFM遺伝子の相対発現量の上限は、例えば0.020未満、0.019以下、0.018以下、0.017以下、0.016以下、0.015以下、0.014以下、0.013以下、0.012以下、0.011以下、0.010以下、0.009以下、又は0.008以下でもよい。
SDHA遺伝子の発現量に対するNEFM遺伝子の相対発現量の下限は、例えば0.0001以上、0.0002以上、0.0003以上、0.0004以上、0.0005以上、0.0006以上、0.0007以上、0.0008以上、0.0009以上、0.001以上、0.002以上、0.003以上、0.004以上、0.005以上、0.006以上、0.007以上、0.008以上でもよい。
【0041】
NEFM遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量の上限は、例えば40000以下、45000以下、30000以下、25000以下、20000以下、15000以下、10000以下、9000以下、8000以下、7000以下、6000以下、5000以下、4900以下、4800以下、4700以下、4600以下、4500以下、4400以下、4300以下、4200以下、4100以下、4000以下、3900以下、3800以下、3700以下、3600以下、3500以下、3400以下、3300以下、3200以下、3100以下、3090以下、3080以下、3070以下、3060以下、3050以下、3040以下、3030以下、3020以下、3010以下、3000以下、2900以下、2800以下、2700以下、2600以下、2500以下、2400以下、2300以下、2200以下、2100以下、2000以下、1900以下、1800以下、1700以下、1600以下、1500以下、1400以下、1300以下、1200以下、1100以下、又は1000以下もよい。
【0042】
NEFM遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量の下限は、例えば250以上、260以上、270以上、280以上、290以上、300以上、310以上、320以上、330以上、340以上、350以上、360以上、370以上、380以上、390以上、400以上、410以上、420以上、430以上、440以上、450以上、460以上、470以上、480以上、490以上、500以上、600以上、700以上、800以上、900以上、又は1000以上でもよい。
【0043】
各遺伝子の検出及び/又はその発現量の測定は、例えば、マイクロアレイ、RT-PCR、定量RT-PCR又はノーザンブロットハイブリダーゼーションにより行うことができるが、これらに限定されない。
SDHA遺伝子の発現量に対する各遺伝子の相対発現量、及びNEFM遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量の測定方法としては、マイクロアレイを使用することができる。マイクロアレイは、具体的には、以下の手順(1)~(5)にて行うことができる。なお、以下の手順(3)~(5)は、株式会社理研ジェネシスに委託して実施することができる。
(1)凍結保存した細胞集団を解凍し、遠心分離により回収する。回収した細胞集団をリン酸バッファー(PBS)にて洗浄し、遠心分離により回収する。
(2)RNA抽出キット(RNeasy Plus Miniキット(QIAGEN社製))を用いて、細胞集団からトータルRNAを抽出、精製する。
(3)精製したトータルRNAを鋳型として用いて逆転写反応によりcDNAを合成し、さらに合成されたcDNAからin vitro transcriptionによりcRNAに転写してビオチン標識を行う。
(4)ビオチン標識cRNAをハイブリダイゼーションバッファーに加え、Human GeneGenome U133A 2.0 Array(Affymetrix社製)上で16時間のハイブリダイゼーションを行う。GeneChip Fluidics Station 450(Affymetrix社製)にて洗浄し、フィコエリスリン染色後、GeneChip Scanner 3000 7G(Affymetrix社製)にてスキャンを行い、AGCC(Affymetrix GeneChip Command Console Software)(Affymetrix社製)にて画像解析し、Affymetrix Expression Console(Affymetrix社製)を用いて数値化する。
(5)数値データファイルを、解析ソフトGeneSpring GX(アジレント・テクノロジー社製)を用いて比較解析する。各細胞集団におけるSDHA遺伝子又はNEFM遺伝子の発現量に対する各遺伝子の相対発現量を算出する。
【0044】
また、SDHA遺伝子の発現量に対する各遺伝子の相対発現量及びNEFM遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量の測定方法としては、定量RT-PCRを使用することができる。定量RT-PCRは、具体的には、以下の手順A(比較Ct法)又は手順B(検量線法)にて行うことができる。
(手順A:比較Ct法)
(1)凍結保存した細胞集団を解凍し、遠心分離により回収する。回収した細胞集団をリン酸バッファー(PBS)にて洗浄し、遠心分離により回収する。
(2)RNA抽出キット(RNeasy Plus Miniキット(QIAGEN社製))を用いて、細胞集団からトータルRNAを抽出、精製する。
(3)精製したトータルRNAを鋳型として、ReverTra Ace qPCR RT Master Mix with gDNA Remover(東洋紡社製)を用いて逆転写反応によりcDNAを合成する。
(4)合成したcDNAを鋳型として、KOD SYBR qPCR Mix(東洋紡社製)を用いてPCR反応を行う。反応液の液量は20μLとする。PCR反応条件は、StepOnePlus Real-Time PCR System(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、98℃2分ホールド、(98℃10秒、60℃10秒、68℃30秒)40サイクルとする。
(5)比較対象の遺伝子に対する測定対象の遺伝子の相対発現量(X)は、X=2{-(Y-Z)}により算出する。ここで、Yは測定対象の遺伝子のCt値、Zは比較対象の遺伝子のCt値である。
(手順B:検量線法)
(1)凍結保存した細胞集団を解凍し、遠心分離により回収する。回収した細胞集団をリン酸バッファー(PBS)にて洗浄し、遠心分離により回収する。
(2)RNA抽出キット(RNeasy Plus Miniキット(QIAGEN社製))を用いて、細胞集団からトータルRNAを抽出、精製する。
(3)精製したトータルRNAを鋳型として、ReverTra Ace qPCR RT Master Mix with gDNA Remover(東洋紡社製)を用いて逆転写反応によりcDNAを合成する。
(4)合成したcDNAを鋳型として、KOD SYBR qPCR Mix(東洋紡社製)を用いてPCR反応を行う。反応液の液量は20μLとする。PCR反応条件は、StepOnePlus Real-Time PCR System(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、98℃2分ホールド、(98℃10秒、60℃10秒、68℃30秒)40サイクルとする。なお、検量線作成用のサンプルとして、合成したcDNAを等倍で1~5段階希釈したものを使用する。
(5)StepOnePlus Real-Time PCR System(Thermo Fisher Scientific社製)が表示する、比較対象の遺伝子及び測定対象の遺伝子の発現量を記録する。
(6)比較対象の遺伝子に対する測定対象の相対発現量(W)は、W=α/βにより算出する。ここで、αは測定対象の遺伝子の発現量、βは比較対象の遺伝子の発現量である。
【0045】
上記の定量RT-PCRでは、以下のプライマー配列を使用することができる。
PLIN2-f:5-GCTGAGCACATTGAGTCACG-3(配列番号7)
PLIN2-r:5-TGGTACACCTTGGATGTTGG-3(配列番号8)
NEFM-f:5-TAGAAATCGCTGCGTACAGAAAAC-3(配列番号9)
NEFM-r:5-TGCTTCCTGCAAATGTGCTAA-3(配列番号10)
SDHA-f:5-TGGGAACAAGAGGGCATCTG-3(配列番号11)
SDHA-r:5-CCACCACTGCATCAAATTCATG-3(配列番号12)
【0046】
上記した遺伝子発現量を測定するタイミングは、特に限定されないが、例えば、生体試料から細胞を分離した直後、培養工程の途中、培養工程における純化後、n回継代した直後(nは1以上の整数を示す)、維持培養の途中、凍結保存前、解凍後、又は医薬組成物として製剤化する前などが挙げられる。
【0047】
本発明の一態様によれば、本発明により提供される接着性幹細胞を含む細胞集団は、CD105、CD73、及び/又はCD90が陽性を呈する接着性幹細胞の比率が90%以上であることを満たしていてもよい。
CD105は、分化クラスター105を意味し、Endoglinとしても知られているタンパク質である。
CD73は、分化クラスター73を意味し、5-Nucleotidase、或いはEcto-5’-nucleotidaseとしても知られているタンパク質である。
CD90は、分化クラスター90を意味し、Thy-1としても知られているタンパク質である。
【0048】
細胞集団においてCD105が陽性を呈する接着性幹細胞の比率は、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%でもよい。
細胞集団においてCD73が陽性を呈する接着性幹細胞の比率は、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%でもよい。
細胞集団においてCD90が陽性を呈する接着性幹細胞の比率は、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%でもよい。
【0049】
本発明の一態様によれば、本発明により提供される接着性幹細胞を含む細胞集団は、CD166が陽性を呈する接着性幹細胞の比率が30%以上であることを満たしていてもよい。
CD166は、分化クラスター166を意味し、Activaed leukocyte cell adhesion molecule(ALCAM)としても知られているタンパク質である。
【0050】
細胞集団においてCD166が陽性を呈する接着性幹細胞の比率は、31%以上、32%以上、33%以上、34%以上、35%以上、36%以上、37%以上、38%以上、39%以上、40%以上、41%以上、42%以上、43%以上、44%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%でもよい。
【0051】
本発明の一態様によれば、本発明により提供される接着性幹細胞を含む細胞集団は、CD45、CD34、CD11b、CD79alpha、CD19、及び/又はHLA-DRが陰性を呈する接着性幹細胞の比率が95%以上であることを満たしていてもよい。
CD45は、分化クラスター45を意味し、PTPRC(Protein tyrosine phosphatase,receptor type,C)、或いはLCA(Leukocyte common antigen)としても知られているタンパク質である。
CD34は、分化クラスター34を意味し、Hematopoietic progenitor cell antigen CD34としても知られているタンパク質である。
CD11bは、分化クラスター11bを意味し、ITGAM(Integrin,alpha M)としても知られているタンパク質である。
CD79alphaは、分化クラスター79alphaを意味し、B-cell antigen receptor complex-associated protein alpha chain、或いはMB-1 membrane glycoproteinとしても知られているタンパク質である。
CD19は、分化クラスター19を意味し、B-lymphocyte antigen CD19としても知られているタンパク質である。
HLA-DRは、Human leukocyte antigen-antigen D relatedを意味し、MHC class II cell surface receptorとしても知られているタンパク質である。
【0052】
細胞集団においてCD45が陰性を呈する接着性幹細胞の比率は、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%でもよい。
細胞集団においてCD34が陰性を呈する接着性幹細胞の比率は、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%でもよい。
細胞集団においてCD11bが陰性を呈する接着性幹細胞の比率は、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%でもよい。
細胞集団においてCD79alphaが陰性を呈する接着性幹細胞の比率は、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%でもよい。
細胞集団においてCD19が陰性を呈する接着性幹細胞の比率は、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%でもよい。
細胞集団においてHLA-DRが陰性を呈する接着性幹細胞の比率は、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%でもよい。
【0053】
本発明の一態様によれば、本発明により提供される接着性幹細胞を含む細胞集団は、CD324及び/又はCD326が陰性を呈する接着性幹細胞の比率が95%以上であることを満たしていてもよい。
CD324は、分化クラスター324を意味し、CDH1遺伝子によってコードされるCadherin 1、或いはE-cadherinとしても知られているタンパク質である。
CD326は、分化クラスター326を意味し、EPCAM遺伝子によってコードされるEpithelial cell adhesion moleculeとしても知られているタンパク質である。
細胞集団においてCD324が陰性を呈する接着性幹細胞の比率は、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%でもよい。
細胞集団においてCD326が陰性を呈する接着性幹細胞の比率は、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%でもよい。
【0054】
各表面抗原の測定は、例えば、フローサイトメトリー、又は細胞染色により行うことができるが、これらに限定されない。蛍光標識抗体を用いるフローサイトメトリーにおいて、ネガティブコントロール(アイソタイプコントロール)と比較してより強い蛍光を発する細胞が検出された場合、当該細胞は当該表面抗原について「陽性」と判定される。蛍光標識抗体は、任意の抗体を使用することができ、例えば、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)、フィコエリスリン(PE)、アロフィコシアニン(APC)等により標識された抗体が挙げられるが、これらに限定されない。細胞染色において、着色するか若しくは蛍光を発する細胞が顕微鏡下にて観察された場合、当該細胞は当該表面抗原について「陽性」と判定される。細胞染色は、抗体を使用する免疫細胞染色であってもよく、抗体を使用しない非免疫細胞染色であってもよい。
【0055】
各表面抗原に対して陽性である細胞の比率(陽性率)は、具体的には、フローサイトメトリーのドットプロット展開解析を用いて、以下の手順(1)~(8)にて測定することができる。
(1)凍結保存した細胞集団を解凍し、遠心分離により回収する。回収した細胞集団をリン酸バッファー(PBS)にて洗浄し、遠心分離により回収する。
(2)4%パラホルムアルデヒドを用いて細胞集団を固定した後、リン酸バッファー(PBS)にて洗浄し、2%BSA/PBSにて1.0×106個/mLとなるように細胞懸濁液を調製する。前記細胞懸濁液を100μLずつ分注する。
(3)分注した細胞懸濁液を遠心分離し、得られた細胞ペレットに0.5%BSA/PBSを100μLずつ添加する。次いで、各表面抗原に対応する抗体、又はそのアイソタイプコントロール用抗体を添加する。各反応液を混和した後、4℃にて20分間静置する。
(4)0.5%BSA/PBSを添加し、遠心分離により細胞集団を洗浄した後、0.5%BSA/PBSにて懸濁し、セルストレーナー(35μmナイロンメッシュフィルター)(コーニング社製/品番:352235)にてフィルターろ過する。
(5)フィルターろ過により得られた細胞懸濁液を、BD AccuriTM C6 Flow Cytometer(ベクトン・ディッキンソン社製)にてALL Event 10000で解析する。
(6)測定結果を、縦軸にSSC(側方散乱光)(数値範囲:0以上16777215以下)、横軸を抗体に標識された色素の蛍光強度(数値範囲:101以上107.2以下)としたドットプロットで展開する。
(7)ドットプロット展開図において、アイソタイプコントロール用抗体で測定した総細胞のうち、より蛍光強度が強い細胞集団が1.0%以下となる全ての領域(ゲート)を選択する。
(8)各表面抗原に対応する抗体で測定した総細胞のうち、(7)で選択したゲート内に含まれる細胞の割合を算出する。
【0056】
なお、各表面抗原に対して陰性である細胞の比率(陰性率)は、以下の式により算出する。
陰性率(%)=100-陽性率
上記した表面抗原を検出するタイミングは、特に限定されないが、例えば、生体試料から細胞を分離した直後、培養工程の途中、培養工程における純化後、n回継代した直後(nは1以上の整数を示す)、維持培養の途中、凍結保存前、解凍後、又は医薬組成物として製剤化する前などが挙げられる。
【0057】
本発明により提供される接着性幹細胞を含む細胞集団の増殖能は、比増殖速度により評価することができる。比増殖速度は、単位時間あたりの細胞数の増加として定義され、比増殖速度:μ=ln(mt2/mt1)/(t2-t1) で表される。ここで、t1及びt2は培養日数、mt1 はt1日目における細胞数、mt2はt2日目における細胞数である(ただし、t2>t1)。したがって、比増殖速度の単位は、(個/個/day)=(1/day)である。
【0058】
本発明における接着性幹細胞を含む細胞集団の比増殖速度は、医薬組成物の製造に必要となる細胞数を低コストかつ短期間で取得する観点から、好ましくは0.40(1/day)以上であり、より好ましくは0.41(1/day)以上であり、さらに好ましくは0.42(1/day)以上であり、さらに好ましくは0.43(1/day)以上であり、さらに好ましくは0.44(1/day)以上であり、さらに好ましくは0.45(1/day)以上であり、さらに好ましくは0.46(1/day)以上であり、さらに好ましくは0.48(1/day)以上であり、さらに好ましくは0.50(1/day)以上であり、さらに好ましくは0.52(1/day)以上であり、さらに好ましくは0.54(1/day)以上であり、さらに好ましくは0.55(1/day)以上であり、さらに好ましくは0.56(1/day)以上であり、さらに好ましくは0.58(1/day)以上であり、さらに好ましくは0.60(1/day)以上であり、さらに好ましくは0.62(1/day)以上であり、さらに好ましくは0.64(1/day)以上であり、さらに好ましくは0.66(1/day)以上であり、さらに好ましくは0.68(1/day)以上であり、さらに好ましくは0.70(1/day)以上であり、さらに好ましくは0.72(1/day)以上であり、さらに好ましくは0.74(1/day)以上であり、さらに好ましくは0.76(1/day)以上であり、さらに好ましくは0.78(1/day)以上であり、さらに好ましくは0.80(1/day)以上であり、さらに好ましくは0.82(1/day)以上であり、さらに好ましくは0.84(1/day)以上であり、さらに好ましくは0.86(1/day)以上であり、特に好ましくは0.87(1/day)以上である。また、本発明における接着性幹細胞を含む細胞集団の比増殖速度の上限は、特に限定されないが、例えば、1.0(1/day)以下、又は0.90(1/day)以下である。
【0059】
本発明の細胞集団においては、接着性幹細胞は、生体外での培養開始後、好ましくは20日以降まで、さらに好ましくは25日以降まで、30日以降まで、35日以降まで、40日以降まで、45日以降まで、50日以降まで、55日以降まで、60日以降まで、65日以降まで、70日以降まで、75日以降まで、80日以降まで、85日以降まで、90日以降まで、95日以降まで、100日以降まで、105日以降まで、又は110日以降まで、培養することが可能である。
【0060】
本発明により提供される接着性幹細胞を含む細胞集団の継代可能回数は、1回以上、好ましくは2回以上、より好ましくは3回以上、さらに好ましくは4回以上、さらに好ましくは5回以上、さらに好ましくは6回以上、さらに好ましくは8回以上、さらに好ましくは10回以上、さらに好ましくは12回以上、さらに好ましくは14回以上、さらに好ましくは16回以上、さらに好ましくは18回以上、さらに好ましくは20回以上、さらに好ましくは22回以上、さらに好ましくは24回以上、さらに好ましくは25回以上である。また、継代可能回数の上限は、特に限定されないが、例えば、50回以下、45回以下、40回以下、35回以下又は30回以下である。
【0061】
本発明により提供される接着性幹細胞を含む細胞集団は、継代されていてもよい。継代回数の下限は、好ましくは1回以上、さらに好ましくは2回以上、さらに好ましくは3回以上、さらに好ましくは4回以上、さらに好ましくは5回以上である。また、継代回数の上限は、好ましくは25回以下、さらに好ましくは20回以下、さらに好ましくは15回以下、さらに好ましくは10回以下である。
【0062】
本発明により提供される接着性幹細胞を含む細胞集団は、好ましくは10回以上、さらに好ましくは20回以上、30回以上、40回以上、50回以上、又は60回以上、集団倍加することが可能である。また、本発明により提供される接着性幹細胞を含む細胞集団は、例えば、100回以下、90回以下、80回以下又は70回以下、集団倍加することが可能であるが、これらに限定されない。
【0063】
本発明により提供される接着性幹細胞を含む細胞集団は、集団倍加されていてもよい。集団倍加回数の下限は、好ましくは5回以上、さらに好ましくは10回以上、さらに好ましくは15回以上、さらに好ましくは20回以上、さらに好ましくは25回以上、さらに好ましくは30回以上である。また、集団倍加回数の上限は、好ましくは60回以下、さらに好ましくは55回以下、さらに好ましくは50回以下である。
【0064】
集団倍加回数とは、ある一定の培養期間において細胞集団が分裂した回数であり、[log10(培養終了時の細胞数)-log10(培養開始時の細胞数)]/log10(2)の計算式にて算出される。継代培養を行った場合は、継代毎の集団倍加回数を上記の式で計算した後、累積することによって、総集団倍加回数が算出される。
【0065】
本発明により提供される接着性幹細胞を含む細胞集団の免疫抑制作用は、TNFAIP6(Tumor necrosis factor,alpha-induced protein 6)遺伝子の発現量、混合リンパ球反応試験(MLR試験)におけるヒト末梢血単核細胞(hPBMC)の増殖抑制率、及び/又は動物実験により評価することができる。
TNFAIP6(Tumor necrosis factor,alpha-induced protein 6)遺伝子の配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースにID:7130として登録されている。TNFAIP6は、配列番号13に示す塩基配列からなる遺伝子、或いは配列番号14に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子である。
【0066】
TNFAIP6遺伝子の発現量は、例えば、マイクロアレイ、RT-PCR、定量RT-PCR又はノーザンブロットハイブリダーゼーションによりの評価することができるが、これらに限定されない。
SDHA遺伝子の発現量に対するTNFAIP6遺伝子の相対発現量の測定方法としては、マイクロアレイを使用することができる。マイクロアレイは、上述の手順により行うことができる。
SDHA遺伝子の発現量に対するTNFAIP6遺伝子の相対発現量の下限は、0.5以上、0.6以上、0.7以上、0.8以上、0.9以上、1.0以上、1.1以上、1.2以上、1.3以上、1.4以上、1.5以上、1.6以上、1.7以上、1.8以上、、1.9以上又は2.0以上でもよい。また、SDHA遺伝子の発現量に対するTNFAIP6遺伝子の相対発現量の上限は、特に限定されないが、例えば、4.0以下、3.0以下、又は2.0以下である。
【0067】
混合リンパ球反応試験(MLR試験)におけるヒト末梢血単核細胞(hPBMC)の増殖抑制率は、以下の手順(1)~(6)により評価することができる。
(1)対象となる細胞集団を、接着培養用96ウェルプレートに2×104個/ウェルとなるよう播種し、終濃度にして10%のウシ胎児血清(FBS)(非働化済み)を含むαMEMで24時間接着培養する。
(2)24時間接着培養した細胞集団に、終濃度にして10μg/mLのマイトマイシンCを添加し、37℃で2時間インキュベートする。
(3)共培養群として、マイトマイシンCを添加した細胞集団に、2×105個/ウェルのhPBMCを播種する。単独培養群(対照群)として、細胞集団を含まないウェルに2×105個/ウェルのhPBMCを播種する。各々の群(共培養群、単独培養群)に対して、終濃度にして2.5μg/mLのフィトヘマグルチニン(PHA)を添加し、37℃で96時間培養する。
(4)96時間培養した後、hPBMCを含む上清を回収し、自動セルカウンターNucleoCounter(ChemoMetec社製)を用いてhPBMCの総細胞数及び死細胞数を計測する。
(5)以下の式により、hPBMCの生細胞数を算出する。
hPBMCの生細胞数=hPBMCの総細胞数-hPBMCの死細胞数
(6)以下の式により、hPBMCの増殖抑制率を算出する。
hPBMCの増殖抑制率(%)=100-(共培養群におけるhPBMCの生細胞数/単独培養群におけるhPBMCの生細胞数)×100
【0068】
上記した免疫抑制作用を評価するタイミングは、特に限定されないが、例えば、生体試料から細胞を分離した直後、培養工程の途中、培養工程における純化後、n回継代した直後(nは1以上の整数を示す)、維持培養の途中、凍結保存前、解凍後、又は医薬組成物として製剤化する前などが挙げられる。
本発明により提供される接着性幹細胞を含む細胞集団の細胞生存率は、例えば、トリパンブルー染色、MTT(3-(4,5-Dimethyl-2-thiazolyl)-2,5-diphenyltetrazolium Bromide)アッセイ等により測定することができるが、これらに限定されない。
本発明により提供される接着性幹細胞を含む細胞集団の細胞生存率は、好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上、、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%である。
【0069】
接着性幹細胞の由来は特に限定されないが、例えば、胎児付属物、骨髄、脂肪、又は歯髄に由来する接着性幹細胞を使用することができる。接着性幹細胞は、好ましくは、胎児付属物に由来する接着性幹細胞であり、より好ましくは、羊膜に由来する接着性幹細胞である。接着性幹細胞は、自己、同種異系又は異種の生体試料から単離された接着性幹細胞であり、好ましくは、同種異系の生体試料から単離された接着性幹細胞である。
接着性幹細胞は、遺伝子組み換えされた又は遺伝子組み換えされていない接着性幹細胞であり、好ましくは、遺伝子組み換えされていない接着性幹細胞である。
【0070】
本発明の細胞集団は、任意の数の接着性幹細胞を含むことができる。本発明の細胞集団は、例えば、1.0×101個、1.0×102個、1.0×103個、1.0×104個、1.0×105個、1.0×106個、1.0×107個、1.0×108個、1.0×109個、1.0×1010個、1.0×1011個、1.0×1012個、1.0×1013個以上又は以下の接着性幹細胞を含むことができるが、これらに限定されない。
本発明の細胞集団は、接着性幹細胞以外に、任意の成分を含んでもよい。上記の成分としては、例えば、塩類、多糖類(例えば、ヒドロキシルエチルデンプン(HES)、デキストランなど)、タンパク質(例えば、アルブミンなど)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アミノ酸、培地成分(例えば、RPMI1640培地に含まれる成分など)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0071】
本発明の細胞集団は、使用直前まで凍結状態にて保存することができる。上記の細胞集団は、接着性幹細胞以外に、凍結保存液を含んでもよい。上記の凍結保存液としては、市販の凍結保存液を用いてもよい。例えば、CP-1(登録商標)(極東製薬工業社製)、BAMBANKER(リンフォテック社製)、STEM-CELLBANKER(日本全薬工業社製)、ReproCryo RM(リプロセル社製)、CryoNovo(Akron Biotechnology社製)、MSC Freezing Solution(Biological Industries社製)、CryoStor(HemaCare社製)などが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の細胞集団は、媒体と組み合わせた組成物として提供してもよい。媒体としては、好ましくは液体媒体(例えば、培地、ジメチルスルホキシド(DMSO)、凍結保存液、又は後記する製薬上許容し得る媒体など)を使用することができる。
【0072】
本発明の細胞集団と媒体とを含む組成物は、任意の細胞濃度とすることができる。本発明の細胞集団と媒体とを含む組成物の細胞濃度は、例えば、1.0×101個/mL、1.0×102個/mL、1.0×103個/mL、1.0×104個/mL、1.0×105個/mL、1.0×106個/mL、1.0×107個/mL、1.0×108個/mL、1.0×109個/mL、1.0×1010個/mL以上又は以下の細胞濃度とすることができるが、これらに限定されない。
【0073】
[3]接着性幹細胞を含む細胞集団の製造方法
本発明による接着性幹細胞を含む細胞集団の製造方法は、以下に示す(a)及び(b)の細胞特性を有する細胞集団を取得することを含む方法である。
(a)前記細胞集団が、PLIN2遺伝子およびNEFM遺伝子の発現が陽性であり、(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が1.50以上である。
即ち、本発明による接着性幹細胞を含む細胞集団の製造方法は、接着性幹細胞を含む細胞集団を、上記(a)及び(b)の細胞特性を維持する条件下で調製する工程を含む方法である。上記の(a)及び(b)の条件は、高い免疫抑制作用及び/又は増殖性を示す接着性幹細胞を含む細胞集団形成の指標であり、本発明の製造方法は、前記指標を満たせば特に制限されない。
【0074】
本発明の製造方法は、接着性幹細胞を含む生体試料(例えば、羊膜などの胎児付属物など)を酵素処理することにより、接着性幹細胞を含む細胞集団を取得する細胞集団取得工程を含むものでもよい。上記の細胞集団取得工程は、羊膜を帝王切開により得る工程を含む工程でもよい。上記の細胞集団取得工程は、接着性幹細胞を含む生体試料を洗浄する工程を含むものでもよい。
【0075】
羊膜は、上皮細胞層と細胞外基質層からなり、後者には羊膜接着性幹細胞が含まれている。羊膜上皮細胞は、他の上皮細胞同様、特徴として上皮接着因子(EpCAM:CD326)を発現しているのに対し、羊膜接着性幹細胞はCD326の上皮特異的表面抗原を発現しておらず、フローサイトメトリーで容易に区別可能である。
本発明における接着性幹細胞を含む細胞集団は、好ましくは胎児付属物から採取した上皮細胞層と細胞外基質層とを含む試料を少なくともコラゲナーゼで処理して得た細胞集団である。
【0076】
胎児付属物から採取した試料(好ましくは上皮細胞層と細胞外基質層とを含む試料)の酵素処理は、好ましくは、胎児付属物の細胞外基質層に含まれる接着性幹細胞を遊離することができ、かつ上皮細胞層を分解しない酵素(又はその組み合わせ)による処理である。上記の酵素としては、特に限定されないが、例えば、コラゲナーゼ及び/又は金属プロテイナーゼを挙げることができる。金属プロテイナーゼとしては、非極性アミノ酸のN末端側を切断する金属プロテイナーゼであるサーモリシン及び/又はディスパーゼを挙げることができるが、特に限定されない。
【0077】
コラゲナーゼの活性濃度は、好ましくは50PU/ml以上、より好ましくは100PU/ml以上、さらに好ましくは200PU/ml以上である。また、コラゲナーゼの活性濃度は、特に限定されないが、例えば、1000PU/ml以下、900PU/ml以下、800PU/ml以下、700PU/ml以下、600PU/ml以下、500PU/ml以下である。ここで、PU(Protease Unit)とは、pH7.5、30℃において、FITC-collagen 1ugを1分間で分解する酵素量と定義する。
【0078】
金属プロテイナーゼ(例えば、サーモリシン及び/又はディスパーゼ)の活性濃度は、好ましくは50PU/ml以上、より好ましくは100PU/ml以上、さらに好ましくは200PU/ml以上である。また、金属プロテイナーゼの活性濃度は、好ましくは1000PU/ml以下、より好ましくは900PU/ml以下、さらに好ましくは800PU/ml以下、さらに好ましくは700PU/ml以下、さらに好ましくは600PU/ml以下、さらに好ましくは500PU/ml以下である。ここで、金属プロテイナーゼとしてディスパーゼを用いた態様において、PU(Protease Unit)とは、pH7.5、30℃において、乳酸カゼインから1分間に1ugのチロシンに相当するアミノ酸を遊離する酵素量と定義される。上記の酵素濃度の範囲において、胎児付属物の上皮細胞層に含まれる上皮細胞の混入を防止しながら、細胞外基質層に含まれる接着性幹細胞を効率よく遊離させることができる。コラゲナーゼ及び/又は金属プロテイナーゼの好ましい濃度の組み合わせは、酵素処理後の胎児付属物の顕微鏡観察や、取得した細胞のフローサイトメトリーにより決定することができる。
【0079】
生細胞を効率的に回収する観点から、コラゲナーゼ及び金属プロテイナーゼを組み合わせて胎児付属物を同時一括に処理することが好ましい。この場合の金属プロテイナーゼとしては、サーモリシン及び/又はディスパーゼを使用することができるが、これらに限定されない。コラゲナーゼ及び金属プロテイナーゼを含有する酵素液を用いて胎児付属物を一回のみ処理することにより、接着性幹細胞を簡便に取得することができる。また、同時一括に処理することにより、細菌やウィルス等のコンタミネーションのリスクを低減することができる。
【0080】
胎児付属物の酵素処理は、生理食塩液やハンクス平衡塩溶液等の洗浄液を用いて洗浄した羊膜を酵素液に浸漬し、撹拌手段によって撹拌しながら処理することが好ましい。上記の撹拌手段としては、胎児付属物の細胞外基質層に含まれる接着性幹細胞を効率よく遊離させる観点から、例えば、スターラー又はシェーカーを使用することができるが、これらに限定されない。撹拌速度は、特に限定されないが、スターラー又はシェーカーを用いた場合、例えば、10rpm以上、30rpm以上、又は50rpm以上である。また、撹拌速度は、特に限定されないが、スターラー又はシェーカーを用いた場合、例えば、100rpm以下、80rpm以下、又は60rpm以下である。酵素処理時間は、特に限定されないが、例えば、10分以上、30分以上、50分以上、70分以上、又は90分以上である。また、酵素処理時間は、特に限定されないが、例えば、6時間以下、4時間以下、2時間以下、100分以下である。酵素処理温度は、特に限定されないが、例えば、16℃以上、20℃以上、24℃以上、28℃以上、32℃以上、又は36℃以上である。また、酵素処理温度は、特に限定されないが、例えば、40℃以下、39℃以下、又は38℃以下である。
【0081】
本発明の製造方法において、所望により、遊離した接着性幹細胞を含む酵素溶液からフィルター、遠心分離や中空糸分離膜、セルソーター等の公知の方法により遊離した接着性幹細胞を分離及び/又は回収することができる。好ましくは、フィルターによって遊離した接着性幹細胞を含む酵素溶液を濾過する。前記酵素溶液をフィルターによって濾過する態様においては、遊離した細胞のみがフィルターを通過し、分解されなかった上皮細胞層はフィルターを通過できずにフィルター上に残るため、遊離した接着性幹細胞を容易に分離及び/又は回収することができるだけでなく、細菌やウィルス等のコンタミネーションのリスクも低減することができる。フィルターとしては、特に限定されないが、例えば、メッシュフィルターを挙げることができる。メッシュフィルターのポアサイズ(メッシュの大きさ)は、特に限定されないが、例えば、40μm以上、60μm以上、80μm以上、又は90μm以上である。また、メッシュフィルターのポアサイズは、特に限定されないが、例えば、200μm以下、180μm以下、160μm以下、140μm以下、120μm以下、又は100μm以下である。濾過速度に関しては特に限定されないが、メッシュフィルターのポアサイズを上記の範囲とすることにより、接着性幹細胞を含む酵素溶液を自然落下により濾過することができ、これにより細胞生存率の低下を防止することができる。
【0082】
メッシュフィルターの材質としては、ナイロンが好ましく用いられる。研究用として汎用されるFalconセルストレーナーなどの40μm、70μm、95μm、又は100μmのナイロンメッシュフィルターを含有するチューブが利用可能である。また、血液透析などで使用されている医療用メッシュクロス(ナイロン及びポリエステル)が利用できる。さらに、体外循環時に使用される動脈フィルター(ポリエステルメッシュフィルター、ポアサイズ:40μm以上120μm以下)も利用可能である。他の材質、例えば、ステンレスメッシュフィルター等も用いることが可能である。
【0083】
接着性幹細胞をフィルター通過させる場合、自然落下(自由落下)が好ましい。ポンプ等を用いた吸引など強制的なフィルター通過も可能であるが、細胞に損傷を与えることを避けるため、できるだけ弱い圧力とすることが望ましい。
フィルターを通した接着性幹細胞は、倍量又はそれ以上の培地又は平衡塩緩衝液で濾液を希釈した後、遠心分離により回収することができる。平衡塩緩衝液としては、生理食塩液、ダルベッコリン酸バッファー(DPBS)、アール平衡塩溶液(EBSS)、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)、リン酸バッファー(PBS)等を用いることができるが、これらに限定されない。
【0084】
上記の細胞集団取得工程で得られた細胞集団は、(a)前記細胞集団が、PLIN2遺伝子およびNEFM遺伝子の発現が陽性であり、(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が1.50以上である、という条件下において調製する。前記条件は、高い免疫抑制作用及び/又は増殖性を示す接着性幹細胞を含む細胞集団を取得する際の指標として有用である。調製方法としては、前記指標を満たすものであれば、特に限定されない。そのような方法としては、例えば、セルソーターにて上記(a)を満たす細胞集団を分取し、次いで、得られた細胞集団について、上記(b)を満たす細胞集団を選択することや、上記(b)を満たす細胞集団を選択し、次いで、得られた細胞集団について、セルソーターにて上記(a)を満たす細胞集団を分取することが挙げられる。また、前記指標を満たす他の調製方法としては、細胞集団を、上記(a)及び(b)を満たす条件下において培養することが挙げられる。
【0085】
前記指標を満たす培養方法としては、例えば、細胞集団を、コーティングしていないプラスチック製培養容器に100~20000個/cm2の密度で播種し、培養することを複数回繰り返す工程を挙げることができる。細胞集団を播種する際の密度の下限は、さらに好ましくは200個/cm2以上であり、さらに好ましくは400個/cm2以上であり、さらに好ましくは600個/cm2以上であり、さらに好ましくは800個/cm2以上であり、さらに好ましくは1000個/cm2以上であり、さらに好ましくは1200個/cm2以上であり、さらに好ましくは1400個/cm2以上であり、さらに好ましくは1600個/cm2以上であり、さらに好ましくは1800個/cm2以上であり、さらに好ましくは2000個/cm2以上である。細胞集団を播種する際の密度の上限は、さらに好ましくは18000個/cm2以下であり、さらに好ましくは16000個/cm2以下であり、さらに好ましくは14000個/cm2以下であり、さらに好ましくは12000個/cm2以下であり、さらに好ましくは10000個/cm2以下であり、さらに好ましくは8000個/cm2以下である。
【0086】
前記指標を満たす他の培養方法としては、例えば、細胞集団を、コーティング剤によりコーティングしたプラスチック製培養容器に100~20000個/cm2の密度で播種し、培養することを複数回繰り返す工程を挙げることができる。細胞集団を播種する際の密度の好ましい条件は、上記した条件と同様である。
【0087】
コーティング剤としては、例えば、細胞外基質、フィブロネクチン、ビトロネクチン、オステオポンチン、ラミニン、エンタクチン、コラーゲンI、コラーゲンII、コラーゲンIII、コラーゲンIV、コラーゲンV、コラーゲンVI、ゼラチン、ポリ-L-オルニチン、ポリ-D-リジン、マトリゲル(登録商標)マトリックスを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0088】
上記の培養に用いる培地は、任意の動物細胞培養用液体培地を基礎培地とし、必要に応じて他の成分(アルブミン、血清、血清代替試薬、増殖因子、ヒト血小板溶解物など)を適宜添加することにより調製することができる。
【0089】
基礎培地としては、BME培地、BGJb培地、CMRL1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)培地、DMEM培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)、ハムF10培地、ハムF12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、及びこれらの混合培地(例えば、DMEM/F12培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium/Nutrient Mixture F-12 Ham))等の培地を使用することができるが、特に限定されない。
【0090】
また、上記の培養に用いる培地は、市販の無血清培地を用いてもよい。例えば、STK1やSTK2(DSファーマバイオメディカル社製)、EXPREP MSC Medium(バイオミメティクスシンパシーズ社製)、Corning stemgro ヒト接着性幹細胞培地(コーニング社製)などが挙げられるが、特に限定されない。
前記基礎培地に対して添加する他の成分としては、例えば、アルブミン、血清、血清代替試薬、増殖因子、又はヒト血小板溶解物などが挙げられる。前記基礎培地にアルブミンを添加する態様においては、アルブミンの濃度は0.05%より多く5%以下が好ましい。また、前記基礎培地に血清を添加する態様においては、血清の濃度は5%以上が好ましい。増殖因子を添加する態様においては、増殖因子を培地中で安定化させるための試薬(ヘパリンなどのタンパク、ゲル、多糖類など)を、増殖因子に加えてさらに添加してもよいし、あらかじめ安定化させた増殖因子を前記基礎培地に対して添加してもよい。増殖因子は例えば、線維芽細胞増殖因子(FGF)、上皮細胞増殖因子(EGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、及びそれらのファミリーを使用することができるが、特に限定されない。
【0091】
前記指標を満たすさらに他の培養方法としては、例えば、培養に用いる基礎培地に、ヒト血小板溶解物(hPL)を添加して培養することが挙げられる。ヒト血小板溶解物は、細菌やウィルスの不活性化及び/又は滅菌処理がされていることが好ましい。上記のヒト血小板溶解物としては、市販のヒト血小板溶解物を用いてもよい。例えば、Stemulate(Cook Regentec社製)、PLTMax(Mill Creek Life Science社製)、UltraGRO(AventaCell BioMedial社製)、PLUS(Compass Biomedical社製)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0092】
培地中におけるヒト血小板溶解物の終濃度は、好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは2%以上であり、さらに好ましくは3%以上であり、さらに好ましくは4%以上であり、さらに好ましくは5%以上である。培地中における血小板溶解物の終濃度は、好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは18%以下であり、さらに好ましくは16%以下であり、さらに好ましくは14%以下であり、さらに好ましくは12%以下であり、さらに好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは9%以下であり、さらに好ましくは8%以下であり、さらに好ましくは7%以下であり、さらに好ましくは6%以下である。
【0093】
ヒト血小板溶解物を添加するタイミングは、特に限定されないが、例えば、培養工程の最初、培養工程の途中、培養工程における純化後、n回継代した直後(nは1以上の整数を示す)、維持培養の途中、凍結保存前、又は解凍後などが挙げられる。
【0094】
接着性幹細胞の培養は、例えば、以下のような工程にて行うことができる。まず、細胞懸濁液を遠心分離し、上清を除去し、得られた細胞ペレットを培地にて懸濁する。次に、プラスチック製培養容器に細胞を播種し、3%以上5%以下のCO2濃度、37℃環境にて、培地を用いてコンフルエント率95%以下となるように培養する。上記の培地としては、例えば、αMEM、M199、或いはこれらを基礎とする培地を挙げることができるが、これらに限定されない。上記のような培養により取得した細胞は、1回培養した細胞である。
【0095】
上記の1回の培養の培養期間としては、例えば2から15日間を挙げることができ、より具体的には、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、8日間、10日間、12日間、14日間、又は15日間を挙げることができる。
【0096】
上記の1回培養した細胞は、例えば、以下のようにさらに継代し、培養することができる。まず、1回培養した細胞を、細胞剥離手段にて処理してプラスチック製培養容器から剥離させる。次に、得られた細胞懸濁液を遠心分離し、上清を除去し、得られた細胞ペレットを培地にて懸濁する。最後に、プラスチック製培養容器に細胞を播種し、3%以上、5%以下のCO2濃度、37℃環境にて、培地を用いてコンフルエント率95%以下となるように培養する。上記の培地としては、例えば、αMEM、M199、或いはこれらを基礎とする培地を挙げることができるが、これらに限定されない。上記のような継代及び培養により取得した細胞は、1回継代した細胞である。同様の継代及び培養を行うことにより、n回継代した細胞を取得することができる(nは1以上の整数を示す)。継代回数nの下限は、細胞を大量に製造する観点から、例えば、1回以上、好ましくは2回以上、より好ましくは3回以上、さらに好ましくは4回以上、さらに好ましくは5回以上である。また、継代回数nの上限は、細胞の老化を抑える観点から、例えば、25回以下、20回以下、15回以下、10回以下であることが好ましい。
【0097】
上記の細胞剥離手段として、例えば、細胞剥離剤を使用してもよい。細胞剥離剤としては、トリプシン、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等を使用することができるが、特に限定されない。細胞剥離剤として、市販の細胞剥離剤を用いてもよい。例えば、トリプシン-EDTA溶液(Thermo Fisher Scientific社製)、TrypLE Select(Thermo Fisher Scientific社製)、Accutase(Stemcell Technologies社製)、Accumax(Stemcell Technologies社製)などが挙げられるが、これらに限定されない。また、細胞剥離手段として、物理的な細胞剥離手段を使用してもよく、例えば、セルスクレーパー(コーニング社製)を使用することができるが、これに限定されない。細胞剥離手段は、単独で使用してもよく、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0098】
本発明の製造方法によれば、高い免疫抑制作用及び/又は増殖性を示す接着性幹細胞を含む細胞集団を得ることができる。培養1バッチあたりの取得細胞数(単位表面積あたり、単位培養日数あたりの得られる細胞数)の下限は、播種細胞数、播種密度等によって異なるが、例えば、5.0×103(個/cm2/day)以上、6.0×103(個/cm2/day)以上、8.0×103(個/cm2/day)以上、1.0×104(個/cm2/day)以上、1.1×104(個/cm2/day)以上、又は1.2×104(個/cm2/day)以上である。また、培養1バッチあたりの取得細胞数の上限は、特に限定されないが、例えば、1.0×105(個/cm2/day)以下、8.0×104(個/cm2/day)以下、6.0×104(個/cm2/day)以下、4.0×104(個/cm2/day)以下、又は2.0×104(個/cm2/day)以下である。
【0099】
本発明の製造方法によれば、高い免疫抑制作用及び/又は増殖性を示す接着性幹細胞を含む細胞集団を得ることができる。これにより、本発明の製造方法によって得られる接着性幹細胞は、生体外での培養開始後、好ましくは20日以降まで、さらに好ましくは30日以降まで、40日以降まで、50日以降まで、60日以降まで、70日以降まで、80日以降まで、90日以降まで、100日以降まで、又は110日以降まで、培養することが可能である。
また、本発明の製造方法によって得られる接着性幹細胞を含む細胞集団は、生体外での培養開始後、集団倍加回数が好ましくは10回以上、20回以上、30回以上、40回以上、50回以上、又は60回以上になるまで培養することが可能である。
【0100】
本発明の製造方法は、(a)前記細胞集団が、PLIN2遺伝子およびNEFM遺伝子の発現が陽性であり、(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が1.50以上である、という条件を指標として、高い免疫抑制作用及び/又は増殖性を示す接着性幹細胞を含む細胞集団を識別する識別工程を含むものでもよい。
【0101】
前記接着性幹細胞を含む細胞集団を識別するための手段は、好ましくは、マイクロアレイ及び/又は定量RT-PCRである。
SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子及び/又はNEFM遺伝子の相対発現量は、マイクロアレイを用いて、上述の手順に従って測定することができる。
上記した識別を行うタイミングは、特に限定されないが、例えば、生体試料から細胞を分離した直後、培養工程の途中、培養工程における純化後、n回継代した直後(nは1以上の整数を示す)、維持培養の途中、凍結保存前、解凍後、又は医薬組成物として製剤化する前などが挙げられる。
【0102】
また、本発明の製造方法は、上記(a)及び(b)を指標として前記接着性幹細胞を含む細胞集団を識別した後に、識別した細胞集団を選択的に分離する工程を含むことができる。前記識別した細胞集団を選択的に分離するための手段は、特に限定されないが、例えば、セルソーターによる細胞集団の分取、培養による細胞集団の純化などが挙げられる。
また、本発明の製造方法は、前記接着性幹細胞を含む細胞集団を凍結保存する工程を含むことができる。前記細胞集団を凍結保存する工程を含む態様においては、前記細胞集団を解凍後、必要に応じて前記細胞集団を識別、分離、回収、及び/又は培養してもよい。また、前記細胞集団を解凍後、そのまま使用してもよい。
【0103】
前記接着性幹細胞を含む細胞集団を凍結保存するための手段は、特に限定されないが、例えば、プログラムフリーザー、ディープフリーザー、液体窒素への浸漬などが挙げられる。プログラムフリーザーを用いた場合、凍結する際の温度は、好ましくは-30℃以下、-40℃以下、-50℃以下、-80℃以下、-90℃以下、-100℃以下、-150℃以下、-180℃以下、又は-196℃(液体窒素温度)以下である。プログラムフリーザーを用いた場合、凍結する際の好ましい凍結速度は、例えば、-1℃/分、-2℃/分、-5℃/分、-9℃/分、-10℃/分、-11℃/分、又は-15℃/分である。上記の凍結手段としてプログラムフリーザーを用いた場合、例えば、-2℃/分以上-1℃/分以下の凍結速度で-50℃以上-30℃以下の間の温度(例えば、-40℃)まで温度を下げ、さらに-11℃/分以上-9℃/分以下(例えば、-10℃/分)の凍結速度で-100℃以上-80℃以下の温度(例えば、-90℃)まで温度を下げることができる。また、上記の凍結手段として液体窒素への浸漬を用いた場合、例えば、-196℃まで急速に温度を下げて凍結させた後、液体窒素(気相)中で凍結保存することができる。
【0104】
上記の凍結手段により凍結する際、上記の細胞集団は、任意の保存容器に入った状態で凍結されてよい。上記の保存容器としては、例えば、クライオチューブ、クライオバイアル、凍結用バッグ、輸注バッグなどが挙げられるが、これらに限定されない。
上記の凍結手段により凍結する際、上記の細胞集団は、任意の凍結保存液中で凍結されてもよい。上記の凍結保存液としては、市販の凍結保存液を用いてもよい。例えば、CP-1(登録商標)(極東製薬工業社製)、BAMBANKER(リンフォテック社製)、STEM-CELLBANKER(日本全薬工業社製)、ReproCryo RM(リプロセル社製)、CryoNovo(Akron Biotechnology社製)、MSC Freezing Solution(Biological Industries社製)、CryoStor(HemaCare社製)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0105】
上記の凍結保存液は、所定濃度の多糖類を含有することができる。多糖類の好ましい濃度は、例えば、1質量%以上、2質量%以上、4質量%以上、又は6質量%以上である。また、多糖類の好ましい濃度は、例えば、20質量%以下、18質量%以下、16質量%以下、14質量%以下、又は13質量%以下である。多糖類としては、例えば、ヒドロキシルエチルデンプン(HES)又はデキストラン(Dextran40など)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
上記の凍結保存液は、所定濃度のジメチルスルホキシド(DMSO)を含有することができる。DMSOの好ましい濃度は、例えば、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、又は5質量%以上である。また、DMSOの好ましい濃度は、例えば、20質量%以下、18質量%以下、16質量%以下、14質量%以下、12質量%以下、又は10質量%以下である。
【0106】
上記の凍結保存液は、0質量%より多い所定濃度のアルブミンを含有するものでもよい。アルブミンの好ましい濃度は、例えば、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、又は4質量%以上である。また、アルブミンの好ましい濃度は、例えば、30質量%以下、20質量%以下、10質量%以下、又は9質量%以下である。アルブミンとしては、例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)、マウスアルブミン、ヒトアルブミン等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0107】
本発明の製造方法は、前記接着性幹細胞を含む細胞集団を洗浄する工程を含むことができる。上記の接着性幹細胞を含む細胞集団を洗浄する工程において使用される洗浄液としては、例えば、生理食塩液、ダルベッコリン酸バッファー(DPBS)、アール平衡塩溶液(EBSS)、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)、リン酸バッファー(PBS)等を挙げることができるが、これらに限定されない。細胞集団を洗浄することにより、アレルゲン、エンドトキシン等を低減又は除去することができる。上記のアレルゲンとしては、例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)、ブタトリプシン、ブタヘパリンなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0108】
本発明の製造方法は、前記接着性幹細胞を含む細胞集団から必要に応じて望まれない細胞凝集塊を除去する工程を含むことができる。上記の接着性幹細胞を含む細胞集団から望まれない細胞凝集塊を除去する工程は、接着性幹細胞を含む細胞集団(細胞懸濁液)をフィルター濾過する工程を含む工程でもよい。
本発明の製造方法は、前記接着性幹細胞を含む細胞集団を保存容器に充填する工程を含むことができる。上記の保存容器としては、例えば、クライオチューブ、クライオバイアル、凍結用バッグ、輸注バッグなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0109】
[4]接着性幹細胞の免疫抑制作用及び/又は増殖性をモニタリングする方法、ドナー及び/又はドナーから採取した生体試料の評価方法、並びに最適な酵素処理条件の判断及び/又は予測方法
本発明においては、接着性幹細胞を含む細胞集団において、(a)前記細胞集団が、PLIN2遺伝子およびNEFM遺伝子の発現が陽性であり、(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が1.50以上である、という条件を指標として測定することによって(好ましくは経時的に測定することによって)、接着性幹細胞の免疫抑制作用及び/又は増殖性をモニタリングすることができる。前記モニタリングが必要な工程としては、例えば、培養する工程、凍結保存する工程、及び/又は製剤化する工程である。
【0110】
培養する工程においては、指標を経時的に測定することで、接着性幹細胞の免疫抑制作用及び/又は増殖性の変化を迅速かつ簡便に把握且つ予測することができる。上記指標を満たす接着性幹細胞を含む細胞集団においては、接着性幹細胞が高い免疫抑制作用及び/又は増殖性を維持することが分かる。一方、上記指標から値が逸脱した培養状態が継続している場合には、接着性幹細胞の免疫抑制作用及び/又は増殖性が低下しつつあることが予測できる。免疫抑制作用及び/又は増殖性が低下しつつあることを指標から読み取った場合には、培養条件(播種密度、培地、増殖因子、血清の変更など)を必要に応じて適切に変更することによって、接着性幹細胞の免疫抑制作用及び/又は増殖性の低下を抑制することができる。また、上記指標を満たさない場合には、例えばセルソーティング技術を利用することによって、上記指標を満たす接着性幹細胞を含む細胞集団を分取し、前記細胞集団における接着性幹細胞を再度播種して継代培養することによって、接着性幹細胞の免疫抑制作用及び/又は増殖性の低下を抑制することができる。培養初期段階においては、その工程の最終段階において前記指標を満たすように培養条件(播種密度、培地、増殖因子、血清の変更など)を設計して、少なくとも最終段階においては、上記指標を満たすことができればよい。
【0111】
本発明においては、ドナーから接着性幹細胞を含む細胞集団を取得し、PLIN2遺伝子およびNEFM遺伝子の発現の有無、並びにSDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量を測定し、PLIN2遺伝子およびNEFM遺伝子の発現が陽性であり、(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が1.50以上である、という条件を指標として測定することによって、ドナー自体及び/又はドナーから採取した生体試料の品質を評価することができる。上記指標を満たす接着性幹細胞を含む細胞集団が得られる場合(好ましくは容易に得られる場合)には、ドナー及び/又はドナーから採取した生体試料の品質が高い免疫抑制能及び/又は高い増殖能を有するという観点から良好であることを確認できる。一方、前記接着性幹細胞を含む細胞集団における上記相対発現量が、上記指標から逸脱している場合には、ドナーから採取した生体試料の品質が不良であるため、培養条件(播種密度、培地、増殖因子、血清の変更など)を適切に変更することによって、接着性幹細胞の免疫抑制作用及び/又は増殖性の低下を抑制することができる。また、前記接着性幹細胞を含む細胞集団における上記相対発現量が、上記指標から逸脱している場合には、例えばセルソーティング技術を利用することによって、上記指標を満たす接着性幹細胞を含む細胞集団を分取し、前記細胞集団における接着性幹細胞を播種して培養することによって、接着性幹細胞の免疫抑制作用及び/又は増殖性の低下を抑制することができる。培養初期段階においては、その工程の最終段階において前記指標を満たすように培養条件(播種密度、培地、増殖因子、血清の変更など)を設計して、少なくとも最終段階においては、上記指標を満たすことができればよい。なお、ドナーから採取した生体試料の品質を確認する場合については、生体試料の調製及び処理方法、細胞集団の培養方法は特に限定されず、任意の方法を採用することができる。
【0112】
本発明においては、ドナーから採取した生体試料を酵素処理して得られた細胞集団に対して、PLIN2遺伝子およびNEFM遺伝子の発現の有無、並びにSDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量を測定し、PLIN2遺伝子およびNEFM遺伝子の発現が陽性であり、(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が1.50以上である、という条件を指標として評価することで、前記生体試料の最適な酵素処理条件を判断及び/又は予測することができる。上記指標を満たす接着性幹細胞を含む細胞集団が得られる場合(好ましくは容易に得られる場合)には、ドナーから採取した生体試料の酵素処理方法が適切であることを判断及び/又は予測することができる。一方、上記指標から値が逸脱した培養状態が継続している場合には、ドナーから採取した生体試料の酵素処理方法が不適切であると判断及び/又は予測することができる。なお、最適な酵素処理方法を判断及び/又は予測する場合については、生体試料の調製及び処理方法、細胞集団の培養方法は特に限定されず、任意の方法を採用することができる。
【0113】
上記の指標は必要なタイミングで測定すればよく、特に限定されないが、生体試料から細胞を分離した直後、培養工程の途中、培養工程における純化後、n回継代した直後(nは1以上の整数を示す)、維持培養の途中、凍結保存前、解凍後、又は医薬組成物として製剤化する前などが挙げられる。
【0114】
[5]医薬組成物
本発明による接着性幹細胞を含む細胞集団は、医薬組成物として使用することができる。即ち、本発明によれば、本発明による細胞集団と、製薬上許容し得る媒体とを含む、医薬組成物が提供される。本発明によればさらに、本発明による接着性幹細胞を含む細胞集団と、投与可能な他の細胞とを含む、医薬組成物が提供される。
本発明の医薬組成物は、細胞治療剤、例えば、難治性疾患治療剤として使用することができる。
本発明の医薬組成物は、免疫関連疾患の治療剤として使用することができる。本発明の医薬組成物を治療部位に効果が計測できる量投与することで、上記の免疫関連疾患を治療することができる。
【0115】
本発明によれば、医薬組成物のために使用される、本発明による接着性幹細胞を含む細胞集団が提供される。
本発明によれば、細胞治療剤のために使用される、本発明による接着性幹細胞を含む細胞集団が提供される。
本発明によれば、免疫関連疾患の治療のために使用される、本発明による接着性幹細胞を含む細胞集団が提供される。
本発明によれば、患者又は被験者に投与して、免疫応答の抑制のために使用される、本発明による接着性幹細胞を含む細胞集団が提供される。
【0116】
本発明によれば、患者又は被験者に、本発明による接着性幹細胞を含む細胞集団の治療有効量を投与する工程を含む、患者又は被験者に細胞を移植する方法、並びに患者又は被験者の疾患の治療方法が提供される。
本発明によれば、医薬組成物の製造のための、本発明による接着性幹細胞を含む細胞集団の使用が提供される。
本発明によれば、細胞治療剤の製造のための、本発明による接着性幹細胞を含む細胞集団の使用が提供される。
本発明によれば、免疫関連疾患の治療剤の製造のための、本発明による接着性幹細胞を含む細胞集団の使用が提供される。
本発明によれば、患者又は被験者に投与して、免疫応答の抑制に必要な治療剤の製造のための、本発明による接着性幹細胞を含む細胞集団の使用が提供される。
【0117】
本発明の医薬組成物は、接着性幹細胞を含む細胞集団を、製薬上許容し得る媒体により希釈したものでもよい。上記の製薬上許容し得る媒体は、患者又は被験者に投与し得る溶液であれば特に限定されない。製薬上許容し得る媒体は、輸液製剤であってもよく、例えば、注射用水、生理食塩液、5%ブドウ糖液、リンゲル液、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液、アミノ酸液、開始液(1号液)、脱水補給液(2号液)、維持輸液(3号液)、術後回復液(4号液)、Plasma-Lyte A(登録商標)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
本明細書における「患者又は被験者」とは、典型的にはヒトであるが、他の動物であってもよい。他の動物としては、例えば、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、サル(カニクイザル、アカゲザル、コモンマーモセット、ニホンザル)、フェレット、ウサギ、げっ歯類(マウス、ラット、スナネズミ、モルモット、ハムスター)等の哺乳動物、ニワトリ、ウズラ等の鳥類が挙げられるが、これらに限定されない。
【0118】
本明細書における「免疫関連疾患」としては、患者又は被験者の免疫応答が関わる疾患であれば特に限定されないが、例えば、移植片対宿主病(GVHD)、炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、潰瘍性大腸炎、放射線腸炎、糖尿病、全身性エリテマトーデス、膠原病、菌状息肉症、多発性硬化症、乾癬、自己免疫性水疱症、関節リウマチ等を挙げることができる。
本明細書における「治療」としては、例えば、患者又は被験者の生命予後、機能予後、生存率、体重減少、貧血、下痢、下血、腹痛、発熱、食欲低下、栄養失調、嘔吐、疲労、発疹、炎症、潰瘍、びらん、瘻孔、狭窄、腸閉塞、内出血、直腸出血、痙攣、疼痛、肝機能低下、又は血液検査項目のうち、少なくとも1つを有意に改善することが挙げられるが、これらに限定されない。
【0119】
本発明の医薬組成物は、患者又は被験者の治療の際に用いられる任意の成分を含んでもよい。上記の成分としては、例えば、塩類(例えば、生理食塩水、リンゲル液、ビカネイト輸液)、多糖類(例えば、ヒドロキシルエチルデンプン(HES)、デキストランなど)、タンパク質(例えば、アルブミンなど)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アミノ酸、培地成分(例えば、RPMI1640培地に含まれる成分など)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
本発明の医薬組成物は、保存安定性、等張性、吸収性、及び/又は粘性を増加するための種々の添加剤、例えば、乳化剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、湿潤剤、抗酸化剤、キレート剤、増粘剤、ゲル化剤、pH調整剤等を含んでもよい。前記増粘剤としては、例えば、HES、デキストラン、メチルセルロース、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられるが、これらに限定されない。増粘剤の濃度は、選択される増粘剤によるが、患者又は被験者に投与した場合に安全であり、かつ所望の粘性を達成する濃度の範囲で、任意に設定することができる。
【0120】
本発明の医薬組成物は、接着性幹細胞以外に、1つ又は複数の他の医薬を含んでもよい。上記の他の医薬としては、例えば、抗生物質、アルブミン製剤、ビタミン製剤、抗炎症剤等が挙げることができるが、これらに限定されない。上記の抗炎症剤としては、5-アミノサリチル酸製剤、ステロイド製剤、免疫抑制剤、生物学的製剤等が挙げられるが、これらに限定されない。上記の5-アミノサリチル酸製剤としては、例えば、サラゾスルファピリジン、メサラジンなどを挙げることができるが、これらに限定されない。上記のステロイド製剤としては、例えば、コルチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロンなどを挙げることができるが、これらに限定されない。上記の免疫抑制剤としては、例えば、タクロリムス、シクロスポリン、メトトレキサート、アザチプリン、6-メルカプトプリンなどを挙げることができるが、上記の生物学的製剤としては、例えば、インフリキシマブ、アダリムマブ、ウステキヌマブ、セクキヌマブ、イキセキズマブ、ブロダルマブ、トシリズマブ、ベドリズマブ、フィルゴチニブ、ゴリムマブ、セルトリズマブペゴル、アバタセプト、エタネルセプトなどを挙げることができるが、これらに限定されない。また、上記の他の医薬は、他の型の細胞であってもよい。
【0121】
また、上記の他の医薬は、投与可能な他の細胞であってもよい。投与可能な他の細胞としては、血液由来細胞(白血球、赤血球、単核球等)、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、血管壁細胞、周皮細胞、線維芽細胞、骨格筋芽細胞、上皮細胞、間質細胞、成熟脂肪細胞、臓器の実質細胞(肝実質細胞、心筋細胞等)、神経細胞等が挙げられるが、特に限定されない。
【0122】
本発明の医薬組成物のpHは、中性付近のpH、例えば、pH5.5以上、pH6.0以上、pH6.5以上又はpH7.0以上とすることができ、またpH10.5以下、pH9.5以下、pH8.5以下又はpH8.0以下とすることができるが、これらに限定されない。
本発明の医薬組成物の細胞濃度としては、患者又は被験者に投与した場合に、投与していない患者又は被験者と比較して疾患に対して治療効果を得ることができるような細胞の濃度である。具体的な細胞濃度は、投与形態、投与方法、使用目的、及び患者又は被験者の年齢、体重及び症状等によって適宜決定することができる。本発明の医薬組成物の細胞濃度の下限は、特に限定されないが、例えば、1.0×105個/mL以上、1.0×106個/mL以上、1.2×106個/mL以上、1.4×106個/mL以上、1.6×106個/mL以上、1.8×106個/mL以上、2.0×106個/mL以上、3.0×106個/mL以上、4.0×106個/mL以上、5.0×106個/mL以上、6.0×106個/mL以上、7.0×106個/mL以上、8.0×106個/mL以上、9.0×106個/mL以上、9.5×106個/mL以上、又は1.0×107個/mL以上である。本発明の医薬組成物の細胞濃度の上限は、特に限定されないが、例えば、1.0×1010個/mL以下、1.0×109個/mL以下、8.0×108個/mL以下、6.0×108個/mL以下、4.0×108個/mL以下、2.0×108個/mL以下、又は1.0×108個/mL以下である。
【0123】
本発明の医薬組成物は、好ましくは液剤であり、より好ましくは注射用液剤である。注射用液剤としては、例えば、国際公開WO2011/043136号公報、特開2013-256510号公報などにおいて、注射に適した液体調製物が知られている。本発明の医薬組成物も、上記文献に記載されている注射用液剤とすることができる。
また、上記液剤は細胞の懸濁液でもよく、細胞が液剤中に分散した液体調製物でもよい。さらに前記液剤に含まれる細胞の形態は特に限定されないが、例えばシングルセルでもよいし、細胞凝集塊でもよい。
【0124】
本発明の医薬組成物が注射用液剤である場合、注射用液剤の細胞濃度の下限は、疾患に対する治療効果を高める観点から、1.0×106個/mL以上、1.2×106個/mL以上、1.4×106個/mL以上、1.6×106個/mL以上、1.8×106個/mL以上、2.0×106個/mL以上、3.0×106個/mL以上、4.0×106個/mL以上、5.0×106個/mL以上、6.0×106個/mL以上、7.0×106個/mL以上、8.0×106個/mL以上、9.0×106個/mL以上、9.5×106個/mL以上、又は1.0×107個/mL以上であることが好ましい。また、注射用液剤の細胞濃度の上限は、注射用液剤の調製と投与を容易にする観点から、1.0×109個/mL以下、8.0×108個/mL以下、6.0×108個/mL以下、4.0×108個/mL以下、2.0×108個/mL以下、又は1.0×108個/mL以下であることが好ましい。
【0125】
また、本発明の一態様によれば、本発明の医薬組成物は、細胞塊又はシート状構造の移植用製剤であってもよい。細胞塊状構造の移植用製剤としては、例えば、国際公開WO2017/126549号公報において、分離された細胞を接着剤(例えば、フィブリノーゲン)により接着させることにより得られる細胞集塊を含む移植用製剤が知られている。また、シート状構造の移植用製剤としては、例えば、国際公開WO2006/080434号公報、特開2016-52272号公報などにおいて、温度応答性培養皿(例えば、UpCell(登録商標)(セルシード社製))を用いて培養することにより得られる細胞シートや、シート状細胞培養物とフィブリンゲルとの積層体、細胞懸濁液をシート状の基材に塗布した細胞塗布シートなどが知られている。本発明の医薬組成物も、例えば上記文献に記載されている方法を用いることにより、各種の細胞塊又はシート状構造の移植用製剤とすることができる。
【0126】
また、本発明の一態様によれば、本発明の医薬組成物は、細胞と任意のゲルと混合したゲル製剤であってもよい。ゲル製剤としては、例えば、特表2017-529362号公報において、接着性幹細胞-ヒドロゲル組成物を有効成分として含有する細胞治療剤が知られている。本発明の医薬組成物も、上記文献に記載されているゲル製剤とすることができる。
本発明の医薬組成物の投与方法は、特に限定されないが、例えば、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射、リンパ節内注射、静脈内注射、動脈内注射、腹腔内注射、胸腔内注射、局所への直接注射、直接貼付、又は局所に直接移植することなどが挙げられる。本発明の一態様によれば、注射用液剤を注射器に充填して、注射針やカテーテルを通じて静脈内、動脈内、心筋内、間節腔内、肝動脈内、筋肉内、硬膜外、歯肉、脳室内、皮下、皮内、腹腔内、門脈内に投与することができるが、これらに限定されない。医薬組成物の投与方法については、例えば、特開2015-61520号公報、Onken JE,t al.American College of Gastroenterology Conference 2006Las Vegas,NV, Abstract 121.、Garcia-Olmo D,et al.Dis Colon Rectum 2005;48:1416-23.などにおいて、静脈内注射、点滴静脈注射、局所への直接注射、局所への直接移植などが知られている。本発明の医薬組成物も、上記文献に記載されている各種方法により投与することができる。
【0127】
本発明の医薬組成物の用量としては、患者又は被験者に投与した場合に、投与していない患者又は被験者と比較して疾患に対して治療効果を得ることができるような細胞の量である。具体的な用量は、投与形態、投与方法、使用目的、及び患者又は被験者の年齢、体重、及び症状等によって適宜決定することができる。ヒトへの接着性幹細胞の1回の用量は、特に限定されないが、例えば、1×104個/kg体重以上、1×105個/kg体重以上、5×105個/kg体重以上、1×106個/kg体重以上、2×106個/kg体重以上、4×106個/kg体重以上、6×106個/kg体重以上、又は8×106個/kg体重以上である。また、ヒトへの接着性幹細胞の1回の用量は、特に限定されないが、例えば、1×1012個/kg体重以下、1×1011個/kg体重以下、1×1010個/kg体重以下、1×109個/kg体重以下、5×108個/kg体重以下、1×108個/kg体重以下、8×107個/kg体重以下、6×107個/kg体重以下、4×107個/kg体重以下、又は2×107個/kg体重以下である。
【0128】
本発明の医薬組成物が注射用液剤である場合、注射用液剤のヒトへの接着性幹細胞の1回の用量は、疾患に対する治療効果を高める観点から、1×105個/kg体重以上、5×105個/kg体重以上、1×106個/kg体重以上、2×106個/kg体重以上、4×106個/kg体重以上、6×106個/kg体重以上、又は8×106個/kg体重以上であることが好ましい。また、注射用液剤のヒトへの接着性幹細胞の1回の用量は、注射用液剤の調製と投与を容易にする観点から、1×109個/kg体重以下、5×108個/kg体重以下、1×108個/kg体重以下、8×107個/kg体重以下、6×107個/kg体重以下、4×107個/kg体重以下、又は2×107個/kg体重以下であることが好ましい。
【0129】
本発明の医薬組成物の投与頻度は、患者又は被験者に投与した場合に、疾患に対して治療効果を得ることができるような頻度である。具体的な投与頻度は、投与形態、投与方法、使用目的、及び患者又は被験者の年齢、体重、及び症状等によって適宜決定することができるが、例えば、4週間に1回、3週間に1回、2週間に1回、1週間に1回、1週間に2回、1週間に3回、1週間に4回、1週間に5回、1週間に6回、又は1週間に7回である。
【0130】
本発明の医薬組成物の投与期間は、患者又は被験者に投与した場合に、疾患に対して治療効果を得ることができるような期間である。具体的な投与期間は、投与形態、投与方法、使用目的、及び患者又は被験者の年齢、体重、及び症状等によって適宜決定することができるが、例えば、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、又は8週間である。
【0131】
本発明の医薬組成物を患者又は被験者に投与するタイミングは、特に限定されないが、例えば、発症直後、発症からn日以内(nは1以上の整数を示す)、診断直後、診断からn日以内(nは1以上の整数を示す)、寛解の前、寛解の間、寛解の後、再燃の前、再燃の間、再燃の後などが挙げられる。
本発明の医薬組成物は、使用直前まで凍結状態にて保存することができる。凍結保存の温度は、好ましくは-30℃以下、-40℃以下、-50℃以下、-80℃以下、-90℃以下、-100℃以下、-150℃以下、-180℃以下、又は-196℃(液体窒素温度)以下である。本発明の医薬組成物を患者又は被験者に投与する際には、37℃で急速に解凍して使用することができる。
以下の実施例にて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0132】
<比較例1:指標の検討>
以下に示す比較例1及び実施例1では、高い免疫抑制作用及び/又は増殖性を示す接着性幹細胞を含む細胞集団を取得するための指標を検討した。
(工程1:羊膜の採取)
インフォームドコンセントを得た待機的帝王切開症例の妊婦(ドナーA)から、胎児付属物である卵膜及び胎盤を無菌的に採取した。得られた卵膜及び胎盤を生理食塩水が入った滅菌バットに収容し、卵膜の断端から羊膜を用手的に剥離した。羊膜をハンクス平衡塩溶液(Ca・Mg不含有)にて洗浄し、付着した血液及び血餅を除去した。
【0133】
(工程2:羊膜の酵素処理及び羊膜MSCの回収)
ドナーAから取得した羊膜を、240PU/mLコラゲナーゼと200PU/mLディスパーゼIとを含有するハンクス平衡塩溶液(Ca・Mg含有)に浸し、37℃にて90分間、50rpmの条件にて振盪攪拌することにより羊膜を酵素処理した。酵素処理後の溶液を目開き95μmのナイロンメッシュでろ過することにより羊膜の未消化物を取り除き、羊膜MSCを含む細胞懸濁液を回収した。
得られた細胞懸濁液に関し、フローサイトメーターを用いて、MSCの代表的な陽性マーカーとして知られている表面抗原の一つであるCD90の発現が陽性である細胞の比率を解析し、高純度で羊膜から羊膜MSCを分離できていることを確認した。
表面抗原解析は、ベクトン・ディッキンソン(BD)社のBD AccuriTM C6 Flow Cytometerを用い、解析細胞数:10,000cells、流速設定:Slow(14μL/min)にて実施した。本測定では、アイソタイプコントロール用抗体として、FITC Mouse IgG1, κ Isotype Control(BD社製/型番:550616)を使用し、CD90抗原に対する抗体としてFITC Mouse Anti-Human CD90(BD社製/型番:555595)を使用した。
【0134】
(工程3:羊膜MSCの培養)
上述の「工程2:羊膜の酵素処理及び羊膜MSCの回収」で得られた羊膜MSCを含む細胞集団の一部を、培養容器のCellSTACK(登録商標)(コーニング社製)に6000個/cm2の密度で播種し、終濃度にして10%のウシ胎児血清(FBS)(非働化済み)及び10ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含むαMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)にてサブコンフルエントになるまで接着培養した。この接着培養した細胞を、0継代目の細胞集団と呼ぶ。
TrypLE Select(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて0継代目の細胞集団を剥離し、1/5量の細胞集団をCellSTACK(登録商標)に播種することにより、継代培養を行った。この継代培養した細胞集団を、1継代目の細胞集団と呼ぶ。
サブコンフルエントに達した時点でTrypLE Selectを用いて1継代目の細胞集団を剥離し、培地を用いて希釈し、遠心分離により回収した。回収した細胞集団をRPMI1640にて懸濁した。これに等量のCP-1(登録商標)溶液(CP-1(登録商標):25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)(極東製薬工業社製)を加え、-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で凍結保存した。その後、解凍して15000~18000個/cm2の密度でCellSTACK(登録商標)に播種し、サブコンフルエントになるまで継代培養した。この継代培養した細胞集団を、2継代目の細胞集団と呼ぶ。
【0135】
TrypLE Selectを用いて2継代目の細胞集団を剥離し、1/5量の細胞集団をCellSTACK(登録商標)に播種することにより、継代培養を行った。この継代培養した細胞集団を、3継代目の細胞集団と呼ぶ。
サブコンフルエントに達した時点でTrypLE Selectを用いて3継代目の細胞集団を剥離し、培地を用いて希釈し、遠心分離により回収した。回収した細胞集団をRPMI1640にて懸濁した。これに等量のCP-1(登録商標)溶液を加え、-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で凍結保存した。その後、解凍して6000個/cm2の密度でCellSTACK(登録商標)に播種し、サブコンフルエントになるまで継代培養した。この継代培養した細胞集団を、4継代目の細胞集団と呼ぶ。
TrypLE Selectを用いて4継代目の細胞集団を剥離し、1/5量の細胞集団をCellSTACK(登録商標)に播種することにより、継代培養を行った。この継代培養した細胞集団を、5継代目の細胞集団と呼ぶ。
サブコンフルエントに達した時点でTrypLE Selectを用いて5継代目の細胞集団を剥離し、培地を用いて希釈し、遠心分離により回収した。回収した細胞集団をRPMI1640にて懸濁した。これに等量のCP-1(登録商標)溶液を加え、-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で凍結保存した。
【0136】
(工程4:表面抗原解析)
比較例1の5継代目の細胞集団に関し、フローサイトメーターを用いて各表面抗原(CD73の陽性率、CD90の陽性率、CD105の陽性率、CD45の陽性率及び陰性率)を測定した。
表面抗原解析は、ベクトン・ディッキンソン(BD)社のBD AccuriTM C6 Flow Cytometerを用い、解析細胞数:10,000cells、流速設定:Slow(14μL/min)にて実施した。本測定では、アイソタイプコントロール用抗体として、FITC Mouse IgG1, κ Isotype Control(BD社製/型番:550616)を使用し、CD73抗原に対する抗体としてFITC Mouse Anti-Human CD73(BD社製/型番:561254)を、CD90抗原に対する抗体としてFITC Mouse Anti-Human CD90(BD社製/型番:555595)を、CD105抗原に対する抗体としてAnti-Human Antibodies FITC Conjugate(BioLegend社製/型番:323203)を、CD45抗原に対する抗体としてFITC Mouse Anti-Human CD45(BD社製/型番:555482)を使用した。
表面抗原解析の結果、比較例1の5継代目の細胞集団では、CD73、CD90、及びCD105の陽性率はいずれも90%以上であり(具体的にはCD73:100%、CD90:100%、CD105:98%)、CD45の陽性率は5%未満(陰性率は95%以上)であった(具体的にはCD45の陽性率:0%(陰性率:100%))。以上の結果から、比較例1の5継代目の細胞集団は、接着性幹細胞を含む細胞集団であることが確認された。
【0137】
(工程5:遺伝子発現解析)
比較例1の5継代目の細胞集団に関し、定量RT-PCRを用いてPLIN2遺伝子、NEFM遺伝子、及びSDHA遺伝子の発現を解析した。定量RT-PCRは、具体的には、以下の手順A(比較Ct法)にて行った。
(手順A:比較Ct法)
(1)凍結保存した細胞集団を解凍し、遠心分離により回収した。回収した細胞集団をリン酸バッファー(PBS)にて洗浄し、遠心分離により回収した。
(2)RNA抽出キット(RNeasy Plus Miniキット(QIAGEN社製))を用いて、細胞集団からトータルRNAを抽出、精製した。
(3)精製したトータルRNAを鋳型として、ReverTra Ace qPCR RT Master Mix with gDNA Remover(東洋紡社製)を用いて逆転写反応によりcDNAを合成した。
(4)合成したcDNAを鋳型として、KOD SYBR qPCR Mix(東洋紡社製)を用いてPCR反応を行った。反応液の液量は20μLとした。PCR反応条件は、StepOnePlus Real-Time PCR System(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、98℃2分ホールド、(98℃10秒、60℃10秒、68℃30秒)40サイクルとした。
(5)比較対象の遺伝子に対する測定対象の遺伝子の相対発現量(X)は、X=2{-(Y-Z)}により算出した。ここで、Yは測定対象の遺伝子のCt値、Zは比較対象の遺伝子のCt値である。
その結果、比較例1の5継代目の細胞集団は、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が1.11、SDHA遺伝子の発現量に対するNEFM遺伝子の相対発現量が0.04であった。以上より、比較例1の5継代目の細胞集団は、以下に示す(b)の条件を満たさないことが分かった。
(b)SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が1.50以上である。
【0138】
なお、比較例1の5継代目の細胞集団に関し、以下の手順B(検量線法)にて定量RT-PCRを行った場合は、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が0.27、SDHA遺伝子の発現量に対するNEFM遺伝子の相対発現量が1.51であった。
(手順B:検量線法)
(1)凍結保存した細胞集団を解凍し、遠心分離により回収した。回収した細胞集団をリン酸バッファー(PBS)にて洗浄し、遠心分離により回収した。
(2)RNA抽出キット(RNeasy Plus Miniキット(QIAGEN社製))を用いて、細胞集団からトータルRNAを抽出、精製した。
(3)精製したトータルRNAを鋳型として、ReverTra Ace qPCR RT Master Mix with gDNA Remover(東洋紡社製)を用いて逆転写反応によりcDNAを合成した。
(4)合成したcDNAを鋳型として、Power SYBR Green PCR Master Mix(Thermo Fisher Scientific社製)を用いてPCR反応を行った。反応液の液量は20μLとした。PCR反応条件は、StepOnePlus Real-Time PCR System(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、50℃2分ホールド、95℃2分ホールド、(95℃3秒、60℃30秒)60サイクルとした。なお、検量線作成用のサンプルとして、合成したcDNAを等倍で1~5段階希釈したものを使用した。
(5)StepOnePlus Real-Time PCR System(Thermo Fisher Scientific社製)が表示した、比較対象の遺伝子及び測定対象の遺伝子の発現量を記録した。
(6)比較対象の遺伝子に対する測定対象の相対発現量(W)は、W=α/βにより算出した。ここで、αは測定対象の遺伝子の発現量、βは比較対象の遺伝子の発現量である。
【0139】
(工程6:TNFAIP6遺伝子の発現量の評価)
比較例1の5継代目の細胞集団のTNFAIP6遺伝子の発現量を、マイクロアレイを用いて評価した。その結果、比較例1の5継代目の細胞集団は、SDHA遺伝子の発現量に対するTNFAIP6遺伝子の相対発現量が0.41であった。
【0140】
(工程7:hPBMCの増殖抑制率の評価)
比較例1の5継代目の細胞集団の免疫抑制作用を、混合リンパ球反応試験(MLR試験)により評価した。その結果、比較例1の5継代目の細胞集団は、hPBMCの増殖抑制率が42.0%であった。
【0141】
(工程8:比増殖速度の評価)
比較例1及び実施例1の5継代目の細胞集団の比増殖速度を評価した。その結果、比較例1の細胞集団の比増殖速度は0.24(1/day)であった。
【0142】
<実施例1:指標の検討>
(工程1:羊膜の採取)
比較例1におけるドナーと同じドナー(ドナーA)及び比較例1におけるドナーとは異なるドナー(ドナーB)から、胎児付属物である卵膜及び胎盤を無菌的に採取した以外は、比較例1の工程1と同様の手法にて羊膜を取得した。
【0143】
(工程2:羊膜の酵素処理及び羊膜MSCの回収)
比較例1の工程2と同様の手法にて羊膜MSCを含む細胞懸濁液を回収した。得られた細胞懸濁液に関し、比較例1と同様にしてCD90の発現が陽性である細胞の比率を解析し、高純度で羊膜から羊膜MSCを分離できていることを確認した。
【0144】
(工程3:羊膜MSCの培養)
10%のFBS及び10ng/mLのbFGFを含むαMEMの代わりに、5%のヒト血小板溶解物(hPL)を含むαMEMを用いた以外は、比較例1の工程3と同様の手法にて、5継代目の細胞集団を取得した。
【0145】
(工程4:表面抗原解析)
比較例1の工程4と同様の手法にて、実施例1の5継代目の細胞集団の表面抗原解析を行った。その結果、実施例1のドナーAに由来する5継代目の細胞集団では、CD73、90、105の陽性率はいずれも90%以上であり(具体的にはCD73:98%、CD90:100%、CD105:100%)、CD45の陽性率は5%未満(陰性率は95%以上)であった(具体的にはCD45の陽性率:0%(陰性率:100%))。また、実施例1のドナーBに由来するの5継代目の細胞集団では、CD73、90、105の陽性率はいずれも90%以上であり(具体的にはCD73:100%、CD90:99%、CD105:98%)、CD45の陽性率は5%未満(陰性率は95%以上)であった(具体的にはCD45の陽性率:0%(陰性率:100%))。以上の結果から、実施例1の5継代目の細胞集団は、接着性幹細胞を含む細胞集団であることが確認された。
【0146】
(工程5:遺伝子発現解析)
比較例1の工程5に記載された手順A(比較Ct法)にて、実施例1の5継代目の細胞集団の遺伝子発現解析を行った。各遺伝子の相対発現量を表1に示す。
【0147】
【0148】
表1に示すように、実施例1のドナーAに由来する5継代目の細胞集団は、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が1.95、SDHA遺伝子の発現量に対するNEFM遺伝子の相対発現量が0.0006、NEFM遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が3051であった。また、実施例1のドナーBに由来する5継代目の細胞集団は、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が5.32、SDHA遺伝子の発現量に対するNEFM遺伝子の相対発現量が0.017、NEFM遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が315であった。
よって、実施例1の5継代目の細胞集団は、以下に示す(a)及び(b)の条件を満たすことが分かった。
(a)前記細胞集団が、PLIN2遺伝子およびNEFM遺伝子の発現が陽性であり、
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が1.50以上である。
【0149】
なお、比較例1の工程5に記載された手順B(検量線法)にて遺伝子発現解析を行った場合、実施例1の5継代目の細胞集団の各遺伝子の相対発現量は表2のようになった。
【0150】
【0151】
(工程6:TNFAIP6遺伝子の発現量の評価)
比較例1の工程6と同様の手法にて、実施例1のドナーAに由来する5継代目の細胞集団のTNFAIP6遺伝子の発現量を評価した。その結果、実施例1のドナーAに由来する5継代目の細胞集団は、SDHA遺伝子の発現量に対するTNFAIP6遺伝子の相対発現量が1.96であった。以上より、実施例1のドナーAに由来する5継代目の細胞集団は、免疫抑制関連サイトカインをコードする遺伝子であるTNFAIP6遺伝子を高発現し、高い免疫抑制作用を示すことが示唆された。
【0152】
(工程7:hPBMCの増殖抑制率の評価)
比較例1の工程7と同様の手法にて、実施例1のドナーAに由来する5継代目の細胞集団の免疫抑制作用を評価した。その結果、実施例1のドナーAに由来する5継代目の細胞集団は、hPBMCの増殖抑制率が54.4%であった。以上より、実施例1のドナーAに由来する5継代目の細胞集団は、PHAの刺激により活性化されたhPBMCの増殖を顕著に抑制し、高い免疫抑制作用を示すことが分かった。
よって、上記(a)及び(b)の細胞特性を有する細胞集団は、高い免疫抑制作用を示すことが分かった。また、高い免疫抑制作用を示す接着性幹細胞を含む細胞集団を取得するための指標として、上記(a)及び(b)の条件が有効であることが示唆された。
【0153】
(工程8:比増殖速度の評価)
比較例1の工程8と同様の手法にて、実施例1の5継代目の細胞集団の比増殖速度を評価した。比増殖速度の測定結果を表3に示す。
【0154】
【0155】
表3に示すように、実施例1のドナーAに由来する細胞集団の比増殖速度は0.55(1/day)、実施例1のドナーBに由来する細胞集団の比増殖速度は0.87(1/day)であった。以上より、実施例1の5継代目の細胞集団は、高い増殖性を示すことが分かった。
よって、上記(a)及び(b)の細胞特性を有する細胞集団は、高い増殖性を示すことが分かった。また、高い増殖性を示す接着性幹細胞を含む細胞集団を取得するための指標として、上記(a)及び(b)の条件が有効であることが示唆された。
【0156】
以上の結果より、上記(a)及び(b)の細胞特性を有する細胞集団は、高い免疫抑制作用を示すことに加えて、高い増殖性を示すことが分かった。また、高い免疫抑制作用及び/又は増殖性を示す接着性幹細胞を含む細胞集団を取得するための指標として、上記(a)及び(b)の条件が有効であることが示唆された。つまり、本発明によれば、上記(a)及び(b)の条件を指標とすることによって、高い免疫抑制作用及び/又は増殖性を示す接着性幹細胞を含む細胞集団を取得することができ、これにより、細胞培養期間を短縮することが可能となり、製造コストを下げることができる。
【0157】
<実施例2:hPBMC誘発GVHDマウスを用いた免疫抑制作用の検討>
以下に示す実施例2では、下記(a)及び(b)の細胞特性を有する細胞集団が、動物実験において免疫抑制作用を示すか検討した。
(a)前記細胞集団が、PLIN2遺伝子およびNEFM遺伝子の発現が陽性であり、
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が1.50以上である。
【0158】
(工程1:羊膜の採取)
比較例1及び実施例1におけるドナーとは異なるドナー(ドナーE)から、胎児付属物である卵膜及び胎盤を無菌的に採取した以外は、比較例1の工程1と同様の手法にて羊膜を取得した。
(工程2:羊膜の酵素処理及び羊膜MSCの回収)
比較例1の工程2と同様の手法にて羊膜MSCを含む細胞懸濁液を回収した。
(工程3:羊膜MSCの培養)
実施例1の工程3と同様の手法にて細胞集団を取得した。
【0159】
(工程4:遺伝子発現解析)
比較例1の工程5と同様の手順A(比較Ct法)にて、ドナーEに由来する5継代目の細胞集団の遺伝子発現解析を行った。各遺伝子の相対発現量を表4に示す。
【0160】
【0161】
表4に示すように、ドナーEに由来する5継代目の細胞集団は、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が7.94、SDHA遺伝子の発現量に対するNEFM遺伝子の相対発現量が0.0004、NEFM遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が20343であった。
よって、ドナーEに由来する5継代目の細胞集団は、以下に示す(a)及び(b)の条件を満たすことが分かった。
(a)前記細胞集団が、PLIN2遺伝子およびNEFM遺伝子の発現が陽性であり、
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が1.50以上である。
【0162】
また、表4に示すように、ドナーEに由来する5継代目の細胞集団は、SDHA遺伝子に対するNEFM遺伝子の相対発現量が0.02未満であった。
【0163】
さらに、表4に示すように、ドナーEに由来する5継代目の細胞集団は、NEFM遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が250以上であった。
【0164】
(工程5:hPBMCの増殖抑制率の評価)
ドナーEに由来する5継代目の細胞集団の免疫抑制作用を、混合リンパ球反応試験(MLR試験)により評価した。その結果、上記の細胞集団は、hPBMCの増殖抑制率が53.2%であった。以上より、実施例1のドナーAに由来する5継代目の細胞集団は、PHAの刺激により活性化されたhPBMCの増殖を抑制し、免疫抑制作用を示すことが分かった。
【0165】
(工程6:hPBMC誘発GVHDマウスを用いた免疫抑制作用の評価)
ヒト末梢血単核細胞(hPBMC)により移植片対宿主病(GVHD)を誘発させたマウス(hPBMC誘発GVHDマウス)において、ドナーEに由来する5継代目の細胞集団の免疫抑制作用を評価した。
hPBMC誘発GVHDマウスの作製は、Ito et al.Transplantation 2009,87:1654-1658.、Ito et al.Am J Transplant.2017 May;17(5):1216-1228.の記載を参考に実施した。具体的には、NOD/Shi-scid,IL-2RγKO(NOG)系統の7-8週齡の雄マウスに対して、3.0×106個/0.2mL/HeadのhPBMCを1.2mL/分の速度で尾静脈内に投与した。hPBMCを投与した日をDay0とした。
凍結保存したドナーEに由来する5継代目の細胞集団を解凍し、生理食塩水を用いて希釈し、遠心分離した。上清の一部を除去し、1.6×106個/mLとなるよう調製し、細胞集団を再懸濁した。上記のhPBMCを用いて作製されたhPBMC誘発GVHDマウスに対して、上記の細胞集団を1.2mL/分の速度で尾静脈内に投与した。投与量は8.0×106個/5mL/kg体重とした。投与回数は3回とし、前期投与群ではDay7、14、21に、後期投与群ではDay21、28、35に投与した。なお、対照群は、上記の細胞集団を投与していないhPBMC誘発GVHDマウスとした。
上記の各群について、生存率について評価した。生存率の評価については、生存時間解析(Log-RANK検定)を行った。また、生存率の評価については危険率5%未満(p<0.05)の場合を有意差ありと判定した。
【0166】
生存率についての結果を
図1に示す。
その結果、前期投与群では、対照群に対してhPBMC誘発GVHDマウスの生存率が有意に改善された。後期投与群では、対照群に対してhPBMC誘発GVHDマウスの生存率が改善傾向を示した。また、前期投与群では、対照群に対してhPBMC誘発GVHDマウスの体重減少が抑制傾向を示した。以上より、ドナーEに由来する5継代目の細胞集団は、hPBMC誘発GVHDマウスにおけるGVHDを改善することが示唆された。
よって、上記(a)及び(b)の細胞特性を有する細胞集団は、混合リンパ球反応試験(MLR試験)だけでなくhPBMC誘発GVHDマウスにおいても免疫抑制作用を示すことが明らかになった。また、高い免疫抑制作用を示す接着性幹細胞を含む細胞集団を取得するための指標として、上記(a)及び(b)の条件が有効であることが示唆された。
【0167】
(工程7:比増殖速度の評価)
ドナーEに由来する5継代目の細胞集団の比増殖速度を評価した。その結果、ドナーEに由来する5継代目の細胞集団の比増殖速度は0.44(1/day)であった。
よって、上記(a)及び(b)の細胞特性を有する細胞集団は、高い増殖性を示すことが分かった。また、高い増殖性を示す接着性幹細胞を含む細胞集団を取得するための指標として、上記(a)及び(b)の条件が有効であることが示唆された。
【0168】
以上の実施例2の結果を総括すると、表5のようになる。
【表5】
【0169】
表5より、上記(a)及び(b)の細胞特性を有する細胞集団は、混合リンパ球反応試験(MLR試験)及びhPBMC誘発GVHDマウスにおいて高い免疫抑制作用を示すことに加えて、高い増殖性を示すことが分かった。また、高い免疫抑制作用及び/又は増殖性を示す接着性幹細胞を含む細胞集団を取得するための指標として、上記(a)及び(b)の条件が有効であることが示唆された。つまり、本発明によれば、上記(a)及び(b)の条件を指標とすることによって、高い免疫抑制作用及び/又は増殖性を示す接着性幹細胞を含む細胞集団を取得することができ、これにより、細胞培養期間を短縮することが可能となり、製造コストを下げることができる。
【0170】
<実施例3:医薬組成物の製造>
実施例1の5継代目の細胞集団の一部を医薬組成物の調製に供する。2.0×108個の接着性幹細胞、6.8mLのCP-1(登録商標)溶液、3.2mLの25%ヒト血清アルブミン溶液、及び10mLのRPMI1640培地を含有する医薬組成物(細胞製剤)を調製する。当該医薬組成物を凍結用バッグに封入し、凍結状態で保存する。尚、使用時に医薬組成物を解凍し、患者又は被験者に供することができる。
【0171】
<実施例4:羊膜由来接着性幹細胞の調製>
比較例1、実施例1及び実施例2におけるドナーとは異なるドナー2名(ドナーF、G)から卵膜を採取した以外は、実施例1の工程1~3と同様の手法にて、2継代目の細胞集団を取得した。
【0172】
<比較例2:骨髄由来接着性幹細胞の調製>
市販の骨髄液(AllCells社/品番:ABM003)全量を播種し、終濃度にして10%のウシ胎児血清(FBS)(非働化済み)を含むαMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)にて初代培養した。得られた骨髄由来接着性幹細胞を含む0継代目の細胞集団の一部を、CellSTACK(登録商標)(コーニング社製)に6000個/cm2の密度で播種し、終濃度にして10%FBS(非働化済み)を含むαMEMにて継代培養した。得られた骨髄由来接着性幹細胞を含む細胞集団を、CP-1(登録商標)溶液を含む細胞保存液にて凍結保存した。
【0173】
<実施例5:表面抗原解析>
(表面抗原解析)
上記実施例4、比較例1及び比較例2で得られた細胞集団に関し、フローサイトメトリーのドットプロット展開解析を用いて各表面抗原(CD73、CD90、CD105、CD45、CD326)解析を行った。フローサイトメトリーのドットプロット展開解析方法は、上記した手順(1)~(8)の通りである。
各表面抗原に対して陽性となる細胞の比率を表6に示す。
【0174】
【0175】
表6に示すように、各細胞集団において、CD73、CD90、及びCD105の陽性率はいずれも90%以上であり、CD45、CD326の陽性率は5%未満(陰性率は95%以上)であった。
【0176】
<実施例6:遺伝子の発現量の評価>
比較例1の工程5に記載された手順A(比較Ct法)にて、上記実施例4、比較例1及び比較例2で得られた細胞集団の遺伝子発現解析を行った。各遺伝子の相対発現量を表7に示す。
【0177】
【0178】
表7に示すように、羊膜細胞集団-F、G、A及び骨髄細胞集団は、PLIN2遺伝子およびNEFM遺伝子の発現が陽性であった。また、羊膜細胞集団-F及びGにおけるSDHA遺伝子に対するPLIN2遺伝子の相対発現量はいずれの細胞集団においても1.50以上であった(羊膜細胞集団-F:2.02、羊膜細胞集団-G:2.12)。一方、羊膜細胞集団-Aおよび骨髄細胞集団におけるSDHA遺伝子に対するPLIN2遺伝子の相対発現量は1.50未満であった(羊膜細胞集団-A:1.11、骨髄細胞集団:1.31)。以上より、羊膜細胞集団-F、Gは、以下に示す(a)及び(b)の条件を満たすことが分かった。一方、羊膜細胞集団-A及び骨髄細胞集団は、上記(b)の条件を満たさないことが分かった。
(a)前記細胞集団が、PLIN2遺伝子およびNEFM遺伝子の発現が陽性であり、
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が1.50以上である。
【0179】
また、表7に示すように、羊膜細胞集団-F、G及び骨髄細胞集団は、SDHA遺伝子に対するNEFM遺伝子の相対発現量が0.02未満であった。羊膜細胞集団-Aは、SDHA遺伝子に対するNEFM遺伝子の相対発現量が0.02以上であった。
【0180】
さらに、表7に示すように、羊膜細胞集団-F、Gは、NEFM遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が250以上であった。羊膜細胞集団-Aおよび骨髄細胞集団は、NEFM遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が250未満であった。
【0181】
<実施例7:hPBMC誘発GVHDマウスを用いた免疫抑制作用の評価>
ヒト末梢血単核細胞(hPBMC)により移植片対宿主病(GVHD)を誘発させたマウス(hPBMC誘発GVHDマウス)において、上記実施例4、比較例1及び比較例2で得られた細胞集団(羊膜細胞集団-F、A及び骨髄細胞集団)の免疫抑制作用を評価した。
【0182】
投与回数を3回から4回(Day7、14、21及び28に投与)に変更したこと以外は、実施例2の工程6と同様の手法にて動物実験を実施した。なお、対照群は、上記の細胞集団を投与していないhPBMC誘発GVHDマウスとした。
【0183】
上記の各群について、生存率の推移について評価した。生存率の評価については、生存時間解析(Log-RANK検定)を行った。また、生存率の推移については危険率5%未満(p<0.05)の場合を有意差ありと判定した。
【0184】
生存率について結果を
図2に示す。
図2に示すように、羊膜細胞集団-F投与群では、対照群に対してhPBMC誘発GVHDマウスの生存率が有意に改善された。羊膜細胞集団-A投与群、及び骨髄細胞集団投与群では、対照群に対してhPBMC誘発GVHDマウスの生存率が改善傾向を示した。また、羊膜細胞集団-F投与群では、対照群に対してhPBMC誘発GVHDマウスの体重減少が抑制傾向を示した。以上より、羊膜細胞集団-Fは、他の細胞集団(羊膜細胞集団-A、骨髄細胞集団)と比較して、hPBMC誘発GVHDマウスにおけるGVHDを改善する効果が高いことが明らかとなった。つまり、上記羊膜細胞集団-Fは他の細胞集団と比較して高い免疫作用を示している。したがって、上記(a)及び(b)の条件を満たす細胞集団は、高い免疫抑制作用を示すことが示唆された。これにより、上記(a)及び(b)の条件は、高い免疫抑制作用を示す接着性幹細胞を含む細胞集団を取得するための指標として有効であるといえる。
【0185】
<実施例8:異なるドナーから採取した生体試料の品質評価>
以下に示す実施例8では、下記(a)及び(b)の条件を指標とすることによって、ドナー自体及びドナーから採取した生体試料の品質を評価することができるか検討した。
(a)前記細胞集団が、PLIN2遺伝子およびNEFM遺伝子の発現が陽性であり、
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が1.50以上である。
【0186】
(工程1:羊膜の採取)
比較例1、実施例1、実施例2及び実施例4におけるドナーとは異なるドナー2名(ドナーC、D)から、胎児付属物である卵膜及び胎盤を無菌的に採取した以外は、比較例1の工程1と同様の手法にて羊膜を取得した。
【0187】
(工程2:羊膜の酵素処理及び羊膜MSCの回収)
実施例1の工程2と同様の手法にて羊膜MSCを含む細胞懸濁液を回収した。
(工程3:羊膜MSCの培養)
実施例1の工程3と同様の手法にて、0継代目の細胞集団を取得した。
(工程4:遺伝子発現解析)
比較例1の工程5に記載された手順A(比較Ct法)にて、各ドナー(ドナーC、D)に由来する0継代目の細胞集団の遺伝子発現解析を行った。その結果、ドナーCに由来する0継代目の細胞集団は、上記(a)及び(b)の条件を満たさなかった。一方、ドナーDに由来する0継代目の細胞集団は、上記(a)及び(b)の条件を満たした。
【0188】
(工程5:比増殖速度の評価)
各ドナー(ドナーC、D)に由来する0継代目の細胞集団の比増殖速度を評価した。比増殖速度の測定結果を表8に示す。
【0189】
【0190】
表8に示すように、ドナーCに由来する0継代目の細胞集団の比増殖速度は0.18(1/day)、ドナーDに由来する0継代目の細胞集団の比増殖速度は0.46(1/day)であった。以上より、ドナーDに由来する0継代目の細胞集団は、高い増殖性を示すことが分かった。
以上の結果から、羊膜から同一の方法で羊膜MSCを採取・培養しても、ドナーの相違によって取得した細胞集団の増殖性に大きく差が出ることが示され、上記(a)及び(b)の条件を調べれば、ドナー自体及びドナーから採取した生体試料の品質を評価できることが示唆された。つまり、本発明によれば、上記(a)及び(b)の条件を指標とすることによって、ドナー自体及びドナーから採取した生体試料の品質を評価することができ、増殖性の高い接着性幹細胞の含有量が高い生体試料を予め選定(ドナースクリーニング)することができる。これにより、不要な細胞培養を省くことが可能となり、或いは細胞培養期間を短縮することが可能となり、製造コストを下げることができる。
【0191】
<実施例9:培養工程におけるモニタリング>
以下に示す実施例9では、培養工程において下記(a)及び(b)の条件を指標とすることによって、接着性幹細胞の免疫抑制作用及び/又は増殖性をモニタリングすることができるか検討した。
(a)前記細胞集団が、PLIN2遺伝子およびNEFM遺伝子の発現が陽性であり、
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するPLIN2遺伝子の相対発現量が1.50以上である。
【0192】
(工程3:羊膜MSCの培養)
実施例8の工程3にて取得したドナーDに由来する0継代目の細胞集団は、上記(a)及び(b)の条件を満たしたため、以降の継代培養を行うこととした。上記の細胞集団を、実施例1の工程3と同様の手法にて継代培養し、1~5継代目の細胞集団を取得した。継代培養を行うごとに、上記(a)及び(b)の条件を満たすか確認した。また、実施例8の工程3にて取得したドナーCに由来する0継代目の細胞集団は、上記(a)及び(b)の条件を満たさなかったため、以降の継代培養を行わないこととした。
(工程4:遺伝子発現解析)
比較例1の工程5に記載された手順A(比較Ct法)にて、ドナーDに由来する1、2、3、4、5継代目の細胞集団の遺伝子発現解析を行った。その結果、各々の細胞集団は、上記(a)及び(b)の条件を満たした。
【0193】
(工程5:比増殖速度の評価)
ドナーDに由来する1、2、3、4、5継代目の細胞集団の比増殖速度を評価した。各々の細胞集団の比増殖速度の測定結果を表9に示す。
【0194】
【0195】
表9に示すように、ドナーDに由来する1、2、3、4、5継代目の細胞集団の比増殖速度は、それぞれ、0.64(1/day)、0.68(1/day)、0.41(1/day)、0.56(1/day)、0.40(1/day)であった。以上より、各々の細胞集団は、いずれも継代培養の後も高い増殖性を示すことが分かった。
【0196】
(工程6:TNFAIP6遺伝子の発現量の評価)
ドナーDに由来する1、2、3、4、5継代目の細胞集団のTNFAIP6遺伝子の発現量を評価することができる。各々の細胞集団は、TNFAIP6遺伝子を発現し、免疫抑制作用を有する。
以上より、培養工程において上記(a)及び(b)の条件を指標とすることによって、接着性幹細胞の免疫抑制作用及び/又は増殖性をモニタリングすることができる。つまり、本発明によれば、前記指標を測定することによって(好ましくは経時的に測定することによって)、接着性幹細胞の免疫抑制作用及び/又は増殖性の変化を迅速に把握し、予測することができる。これにより、細胞培養期間を短縮することが可能となり、製造コストを下げることができる。
【配列表】