(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-23
(45)【発行日】2024-07-31
(54)【発明の名称】熱処理用治具
(51)【国際特許分類】
C21D 1/00 20060101AFI20240724BHJP
F27D 3/12 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
C21D1/00 F
F27D3/12 Z
(21)【出願番号】P 2020039016
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮代 雄治
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】実開昭55-048046(JP,U)
【文献】特開2008-038194(JP,A)
【文献】国際公開第2020/040207(WO,A1)
【文献】特開2009-041068(JP,A)
【文献】実開昭49-007105(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/00
F27D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理が行われる被処理部材を支持するための熱処理用治具であって、
前記被処理部材が挿通される略六角形の挿通部を複数有するハニカム構造の支持部を備え
、
前記熱処理用治具は、外縁に切欠き部を有する略矩形状に形成され、
前記切欠き部は、三つの前記挿通部の辺によって形成される、
ことを特徴とする熱処理用治具。
【請求項2】
熱処理が行われる被処理部材を支持するための熱処理用治具であって、
前記被処理部材が挿通される略六角形の挿通部を複数有するハニカム構造の支持部を備え、
前記挿通部は、略六角形を構成する六つの内面のうちの二つの内面を接続するように形成された接続部を備える、
ことを特徴とする熱処理用治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、縦桁と横桁とが格子状に組まれた金属体熱処理用装架台(熱処理用治具)の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された熱処理用治具では、熱処理後、被処理物を急冷すると、熱処理用治具も急冷される。そのため、例えば、治具の外縁を形成する縦桁及び横桁が中央部に向かって凹むように変形し、反りが発生するおそれがある。
【0005】
このようにして反りが発生すると、治具の寿命が短くなるおそれがある。さらに、治具が変形することによって、被処理部材同士が接触し、熱処理が確実に行われなくなるおそれがある。
【0006】
本発明はこのような技術的課題に鑑みてなされたもので、熱処理用治具の変形を緩和することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、熱処理が行われる被処理部材を支持するための熱処理用治具は、被処理部材が挿通される略六角形の挿通部を複数有するハニカム構造の支持部を備え、熱処理用治具は、外縁に切欠き部を有する略矩形状に形成され、切欠き部は、三つの挿通部の辺によって形成されることを特徴とする。
また、本発明の別の態様によれば、熱処理が行われる被処理部材を支持するための熱処理用治具は、被処理部材が挿通される略六角形の挿通部を複数有するハニカム構造の支持部を備え、挿通部は、略六角形を構成する六つの内面のうちの二つの内面を接続するように形成された接続部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この態様によれば、熱処理用治具の変形を緩和できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る熱処理用治具の一例を示す平面図である。
【
図2】比較例に係る熱処理用治具の一例を示す平面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る熱処理用治具の熱収縮による影響を説明するための図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る熱処理用治具の熱膨張による影響を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0011】
図1は、熱処理用治具1の平面図である。熱処理用治具1は、例えば、自動変速機の回転軸など、金属材料からなる被処理部材20に対して浸炭、焼き入れなどの熱処理を行う際に、炉内で複数の被処理部材20を互いに間隔をあけて支持するための部材である。
【0012】
熱処理用治具1は、例えば、炭素鋼鋳鋼などの耐熱金属材料によって形成される。また、
図1に示すように、熱処理用治具1は、外形が略矩形状に形成される。熱処理用治具1は、被処理部材20を支持する支持部11と、熱処理用治具1を支持するための支柱が挿入される複数の貫通孔12と、熱処理用治具1の外縁に形成された複数の切欠き部13,14と、を有する。
【0013】
支持部11は、被処理部材20が挿通される略六角形の挿通部11aを複数備える。本実施形態の熱処理用治具1では、支持部11は、複数の挿通部11aが隙間なく設けられたハニカム構造に形成される。
【0014】
図1、
図3及び
図4に示すように、挿通部11aには、六角形を構成する六つの内面のうちの二つの面を接続するように形成された接続部11bが設けられる。挿通部11aは、接続部11bによって、被処理部材20が挿入される空間S1と、被処理部材20が挿入されない空間S2と、に区画される。
【0015】
空間S1を形成する挿通部11aの内壁及び接続部11bの側壁には、被処理部材20を支持する突起部11cが設けられる。
【0016】
切欠き部13,14は、熱処理用治具1の外縁を形成する直線部分1a,1bから内側に窪むようにして設けられる。具体的には、切欠き部13は、熱処理用治具1の外縁に位置する互いに隣り合う三つの挿通部11aの辺によって形成される。切欠き部14は、熱処理用治具1の外縁に形成された肉抜き部15と肉抜き部15に隣接する二つの挿通部11aの辺によって形成される。なお、本実施形態では、肉抜き部15が設けられた場合を例にして説明しているが、肉抜き部15は設けられていなくてもよい。
【0017】
ここで、
図2を参照しながら、比較例としての熱処理用治具50について説明する。
【0018】
熱処理用治具50は、複数の横桁51と複数の縦桁52とによって格子状に形成され、被処理部材20を支持するための複数の挿通部53を備える。
【0019】
このような形状の熱処理用治具50では、例えば、被処理部材20の熱処理後、被処理部材20を熱処理用治具50によって保持したまま急冷すると、蓄熱量の低い外縁側から温度が下がるため、蓄熱量の高い中心側へ応力が作用する。この結果、
図2に矢印及び破線で示すように、横桁51及び縦桁52が中央部に向かって凹むように変形し、反りが発生することがある。
【0020】
このようにして熱処理用治具50に反りが発生すると、熱処理用治具50の寿命が短くなるおそれがある。さらに、熱処理用治具50が変形することによって、被処理部材20同士が接触し、その後の熱処理が確実に行われなくなるおそれがある。
【0021】
これに対し、本実施形態では、熱処理用治具1が複数の挿通部11aが隙間なく設けられたハニカム構造によって形成された支持部11を備えている。これにより、
図3に矢印で示すように、熱処理用治具1が急冷された場合に、中心部に向かう応力が分散されるので、熱処理用治具1の変形を緩和することができる。
【0022】
また、熱処理用治具1は、外縁に切欠き部13,14を有している。これにより、例えば、熱処理用治具1が加熱され、熱膨張した場合に、外縁部(直線部分1a,1b)の熱膨張分を切欠き部13,14によって形成された空間に逃がすことができる(
図4の矢印及び破線参照)。これにより、熱処理用治具1の変形を緩和することができる。
【0023】
さらに、挿通部11aには、六角形を構成する六つの内面のうちの二つの面を接続するように形成された接続部11bが設けられる。接続部11bによって形成された空間S2を備えることにより、放熱性が向上する。さらに、隣り合う被処理部材20同士が接触することを防止できるので、熱処理を確実に行うことができる。
【0024】
上記実施形態では、被処理部材20として、自動変速機の回転軸を例に説明したが、これに限らず、歯車など熱処理が必要な部材であればどのようなものであってもよい。また、被処理部材20の断面形状も円形の部材に限らず、多角形などであってもよい。
【0025】
接続部11bは、六角形を構成する六つの内面のうちの隣り合う二面、あるいは対抗する二面を接続するように形成してもよい。
【0026】
また、接続部11bは、各挿通部11aで同じ位置に設けられているが、接続部11bは、挿通部11aによって異なる位置に設けられるようにしてもよい。
【0027】
以上のように構成された本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0028】
熱処理用治具1は、被処理部材20が挿通される略六角形の挿通部11aを複数有するハニカム構造の支持部11を備える。
【0029】
この構成では、支持部11がハニカム構造によって形成されているので、例えば、熱処理用治具1を急冷したときに、外縁側から中心部に向かう応力が分散されるので、熱処理用治具1の変形を緩和することができる(請求項1に係る発明の効果)。
【0030】
熱処理用治具1は、外縁に切欠き部13を有する略矩形状に形成され、切欠き部13は、三つの挿通部11aの辺によって形成される。
【0031】
この構成では、熱処理用治具1が熱膨張した場合に、外縁部の熱膨張分を切欠き部13によって形成された空間に逃がすことができる(
図4の矢印及び点線参照)。これにより、熱処理用治具1の変形を緩和することができる(請求項2に係る発明の効果)。
【0032】
熱処理用治具1では、挿通部11aは、二つの内面を接続するように形成された接続部11bを備える。
【0033】
この構成では、接続部11bによって、挿通部11aを被処理部材20が挿入される空間S1と、被処理部材20が挿入されない空間S2と、に区画することができる。これにより、放熱性が向上するとともに、隣り合う被処理部材20同士が接触することを防止できるので、熱処理を確実に行うことができる(請求項3に係る発明の効果)。
【0034】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0035】
1 熱処理用治具
11 支持部
11a 挿通部
11b 接続部
13 切欠き部
14 切欠き部
20 被処理部材